(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061315
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】排水処理方法及び排水処理装置
(51)【国際特許分類】
B01D 21/30 20060101AFI20220411BHJP
B01D 21/06 20060101ALI20220411BHJP
B01D 21/08 20060101ALI20220411BHJP
B01D 21/24 20060101ALI20220411BHJP
C02F 1/56 20060101ALI20220411BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
B01D21/30 A
B01D21/06 A
B01D21/08 C
B01D21/08 F
B01D21/24 R
C02F1/56 E
C02F1/56 B
B01D21/01 102
B01D21/01 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169241
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】矢出 乃大
【テーマコード(参考)】
4D015
【Fターム(参考)】
4D015BA22
4D015BB09
4D015BB12
4D015CA01
4D015CA02
4D015CA11
4D015CA20
4D015DA04
4D015DA05
4D015DA13
4D015DA16
4D015DB01
4D015DC02
4D015EA03
4D015EA17
4D015EA32
4D015FA02
4D015FA03
4D015FA11
4D015FA15
4D015FA22
(57)【要約】
【課題】凝集剤の使用量を低く抑えながら、効率良く安定的に排水処理を行うことが可能な排水処理方法及び排水処理装置を提供する。
【解決手段】懸濁物質を含む原水に無機凝集剤を混合し、原水中の懸濁物質を凝結させる凝結処理S1と、無機凝集剤を含む原水に対して高分子凝集剤の存在下で凝集フロックを形成させる凝集処理S21、及び、凝集フロックを固液分離し、凝集沈殿汚泥を得る凝集沈殿処理S2と、凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として凝集処理へ返送する返送処理S3と、凝集処理へ返送される分離汚泥の汚泥重量と予め設定した高分子凝集剤添加率とに基づいて、分離汚泥に高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加処理S4とを有する排水処理方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁物質を含む原水に無機凝集剤を混合し、前記原水中の前記懸濁物質を凝結させる凝結処理と、
前記無機凝集剤を含む前記原水に対して高分子凝集剤の存在下で凝集フロックを形成させる凝集処理、及び、前記凝集フロックを固液分離し、凝集沈殿汚泥を得る凝集沈殿処理と、
前記凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として前記凝集処理へ返送する返送処理と、
前記凝集処理へ返送される前記分離汚泥の汚泥重量と予め設定した高分子凝集剤添加率とに基づいて、前記分離汚泥に前記高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加処理と、
を有することを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
前記凝集沈殿処理が、前記無機凝集剤を含む前記原水に前記高分子凝集剤を添加した分離汚泥を混合し、上向流で通水し、前記凝集フロックを固液分離する上向流式凝集沈殿処理を有することを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記凝集沈殿処理が、前記無機凝集剤を含む前記原水に前記高分子凝集剤を添加した分離汚泥を混合し、上向流で通水し、前記凝集フロックに外圧を与えながら前記凝集フロックを圧密化して造粒してブランケット層を形成する上向流式造粒沈殿処理を有することを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項4】
懸濁物質を含む原水に無機凝集剤を混合し、前記原水中の前記懸濁物質を凝結させる凝結手段と、
前記無機凝集剤を含む前記原水に対して高分子凝集剤の下で凝集フロックを形成させ、前記凝集フロックを固液分離し、凝集沈殿汚泥を得る凝集沈殿手段と、
前記凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として引き抜き、該分離汚泥を前記凝集沈殿手段へ返送する返送手段と、
前記分離汚泥に対して前記高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加手段と、
前記分離汚泥の汚泥重量と、予め設定した高分子凝集剤添加率とに基づいて、前記高分子凝集剤の添加量を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水や埋立地浸出水、民間事業所等の各種工場排水や、生物処理水、活性炭吸着装置又はろ過装置の水処理装置で発生する洗浄排水を含む排水処理方法及び排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水、し尿、浄化槽汚泥、民間事業所等の各種工場排水、埋立地浸出水などの排水、民間事業所等の生物処理設備から排出される生物処理水、活性炭吸着装置又はろ過装置の水処理装置で発生する洗浄排水等を含む無機系又は有機系の排水を原水とし、凝集沈殿処理によって原水中の懸濁物質(以下、「SS」という)、化学的酸素要求量(以下、COD)、濁度、色度、溶解性の重金属イオン等の不純物の除去等を行う技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、無機イオン含有排水に不溶化物生成剤を返送汚泥に添加して不溶化物を析出させ、次いで固液分離処理して不溶化物を含む汚泥を処理水から分離し、分離した汚泥の一部を返送汚泥とし、この返送汚泥に不溶化物生成剤を添加して無機イオン含有排水に添加し、汚泥の残部を引き抜き汚泥として排出する無機イオン含有排水の処理方法の例が記載されている。
【0004】
特許文献2には、高分子凝集剤を注入して原水中の懸濁物質を凝集させる凝集工程と、沈殿槽内で凝集した懸濁物質を含む汚泥を沈殿させて処理水と分離する固液分離工程と、分離した汚泥を凝集工程に返送するか、または分離した汚泥に酸又はアルカリを添加して汚泥を再生処理した後に、再生処理した汚泥を凝集工程に返送する汚泥返送工程とを備え、凝集工程では、固液分離工程で分離した沈殿槽内の汚泥濃度が予め設定された第1基準濃度以上の時、高分子凝集剤の添加量を低減させる凝集沈殿処理方法の例が記載されている。
【0005】
特許文献3では、原水に無機凝集剤を注入するとともに、高分子凝集剤を含む返送汚泥を添加して凝集反応を行わせる凝集工程と、凝集工程で生成した凝集フロックを固液分離する固液分離工程と、固液分離から得られる処理水を脱塩する脱塩工程と、固液分離工程から排出される凝集汚泥の一部を凝集工程に返送する汚泥返送工程と、凝集工程に返送される凝集汚泥に高分子凝集剤を注入する工程を有する純水製造方法の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-66546号公報
【特許文献2】特開2012-45494号公報
【特許文献3】特開平11-104696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された発明では、排水処理における原水の性状或いはその性状変動によっては、凝集フロックと原水との固液分離を十分に行えない場合がある。
【0008】
例えば、特許文献1及び2に記載された発明では、原水の不純物濃度が低すぎる場合には、原水と混合させる凝集フロック(造粒物)の生成が不十分となり、処理水の不純物濃度の低減効果が十分に得られず、処理水と分離汚泥の固液分離性能が低下する場合がある。逆に原水の不純物濃度が高すぎる場合には、原水に対して凝集剤が過剰に供給されることにより凝集沈殿槽内が高濃度化し、凝集沈殿槽内の汚泥の引き抜き時に大きな負荷がかかる問題等もある。
【0009】
特許文献1及び2に記載された発明において原水の不純物濃度が低い場合には、凝集沈殿処理の前段に濃縮槽を設けることで処理を円滑に進めることができる。しかしながら、濃縮槽を設けることによって装置が大型化するとともに処理時間が長くなるため、処理効率面から必ずしも良好な対策とはいえない。
【0010】
特許文献3に記載された発明では、排水処理における凝集工程に返送される凝集汚泥に高分子凝集剤を注入しているが、返送汚泥への高分子凝集剤の注入率を、原水量に対して設定しているため、高分子凝集剤の添加量に過不足が生じ、最適な処理が行えない場合がある。
【0011】
本発明は上記従来の課題を鑑み、本発明は、凝集剤の使用量を低く抑えながら、効率良く安定的に排水処理を行うことが可能な排水処理方法及び排水処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、懸濁物質を含む排水の凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として凝集処理に返送する際に、凝集処理に返送される分離汚泥の汚泥重量に基づいて、予め設定された高分子凝集剤添加率から高分子凝集剤の添加量を制御することが有効であることを見出した。
【0013】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態は一側面において、懸濁物質を含む原水に無機凝集剤を混合し、原水中の懸濁物質を凝結させる凝結処理と、無機凝集剤を含む原水に対して高分子凝集剤の存在下で凝集フロックを形成させる凝集処理、及び、凝集フロックを固液分離し、凝集沈殿汚泥を得る凝集沈殿処理と、凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として凝集処理へ返送する返送処理と、凝集処理へ返送される分離汚泥の汚泥重量と予め設定した高分子凝集剤添加率とに基づいて、分離汚泥に高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加処理とを有する排水処理方法である。
【0014】
ここで、本発明の分離汚泥の汚泥重量とは、分離汚泥流量と分離汚泥濃度との積から求められる分離汚泥の固形物の重量を示す。分離汚泥の固形物とは分離汚泥の水分以外の固形物(全蒸発残留物、TS)または分離汚泥の水分や溶解塩類以外の固形物(例えば、SS)である。
【0015】
本発明の実施の形態に係る排水処理方法は一実施態様において、凝集沈殿処理が、無機凝集剤を含む原水に高分子凝集剤を添加した分離汚泥を混合し、上向流で通水し、凝集フロックを固液分離する上向流式凝集沈殿処理を有する。
【0016】
本発明の実施の形態に係る排水処理方法は別の一実施態様において、凝集沈殿処理が、無機凝集剤を含む原水に高分子凝集剤を添加した分離汚泥を混合し、上向流で通水し、凝集フロックに外圧を与えながら凝集フロックが圧密化して造粒してブランケット層を形成する上向流式造粒沈殿処理を有する。
【0017】
本発明の実施の形態は別の一側面において、懸濁物質を含む原水に無機凝集剤を混合し、原水中の懸濁物質を凝結させる凝結手段と、無機凝集剤を含む原水に対して高分子凝集剤の下で凝集フロックを形成させ、凝集フロックを固液分離し、凝集沈殿汚泥を得る凝集沈殿手段と、凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として引き抜き、該分離汚泥を凝集沈殿手段へ返送する返送手段と、分離汚泥に対して高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加手段と、分離汚泥の汚泥重量と、予め設定した高分子凝集剤添加率とに基づいて、高分子凝集剤の添加量を制御する制御手段とを備える排水処理装置である。
【0018】
本発明の実施の形態は別の一側面において、懸濁物質を含む原水に無機凝集剤を混合し、原水中の懸濁物質を凝結させる凝結手段と、無機凝集剤を含む原水に対して高分子凝集剤の下で凝集フロックを形成させる凝集処理手段と、凝集フロックを固液分離し、凝集沈殿汚泥を得る固液分離手段と、凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として引き抜き、分離汚泥を凝集処理手段へ返送する返送手段と、分離汚泥に対して高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加手段と、分離汚泥の汚泥重量と、予め設定した高分子凝集剤添加率とに基づいて、高分子凝集剤の添加量を制御する制御手段とを備えることを特徴とする排水処理装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、凝集剤の使用量を低く抑えながら、効率良く安定的に排水処理を行うことが可能な排水処理方法及び排水処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る排水処理装置の一例であり、上向流式凝集沈殿装置及び高速造粒沈殿装置の両方を説明する概略図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る排水処理装置の一例であり、上向流式凝集沈殿装置を説明する概略図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係る排水処理装置の一例であり、高速造粒沈殿装置を説明する概略図である。
【
図4】
図3の高速造粒沈殿装置の従来の高分子凝集剤添加場所を示す説明図である。
【
図5】本発明の第3の実施の形態に係る排水処理装置の固液分離部を別置きにした場合の高速造粒沈殿装置の例を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下において同一又は類似の部材については同一又は類似の符号を付している。
【0022】
(排水処理方法)
本発明の実施の形態に係る排水処理方法は、
図1に示すように、SSを含む原水に無機凝集剤を混合する凝結処理S1と、高分子凝集剤の存在下で、無機凝集剤を含む原水の凝集処理S21及び固液分離処理S22を行う凝集沈殿処理S2と、凝集沈殿処理S2で得られる分離汚泥を返送する返送処理S3と、返送処理S3で返送される分離汚泥に高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加処理S4とを有する。
【0023】
本実施形態に係る原水としては、下水、し尿、浄化槽汚泥、民間事業所等の各種工場排水、埋立地浸出水などの排水や、民間事業所等の生物処理設備から排出される生物処理水、活性炭吸着装置又はろ過装置の水処理装置で発生する洗浄排水等を含む無機系又は有機系の排水があげられる。以下に制限されるものではないが、典型的には、SSが1~2000mg/L、より典型的にはSSが1~1000mg/L、更に典型的にはSSが1~100mg/L、より更に典型的にはSSが1~50mg/Lの排水が用いられる。
【0024】
凝結処理S1では、原水量に対して予め定められた所定の注入率で無機凝集剤が注入される。凝集処理S21では、凝結処理S1で注入された無機凝集剤を含む原水に対して、高分子凝集剤の存在下で凝集処理を行うことにより、沈降性の良好な凝集フロックを形成させる。凝集処理S21に続く固液分離処理S22では、凝集処理S21で得られた凝集フロックを固液分離し、凝集沈殿汚泥を得る。返送処理S3では、凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として凝集処理S21へ返送する。
【0025】
ここで、返送処理S3で返送される分離汚泥は、凝結処理S1の後、凝結処理S1と凝集沈殿処理S2との間、又は凝集沈殿処理S2に対して直接、返送してもよく、例えば凝結処理S1と凝集処理S21との間の配管などに返送してもよい。高分子凝集剤の添加場所は、分離汚泥を返送先に返送するまでの配管や引抜ポンプや返送ポンプの吸込部や吐出部である。
【0026】
本実施形態において、固液分離処理S22で得られる「凝集沈殿汚泥」とは、固液分離処理S22により発生する凝集沈殿汚泥で装置の系外へと引き抜かれる汚泥を指す。そして、凝集沈殿汚泥の少なくとも一部の汚泥に対して高分子凝集剤添加処理S4により、高分子凝集剤が添加され、凝集処理S21へと返送される。この返送汚泥を「分離汚泥」という。
【0027】
即ち、本実施形態において、「分離汚泥」の返送処理S3とは、凝集沈殿処理S2の固液分離処理S22から系外に引き抜かれた凝集沈殿汚泥の少なくとも一部に対して高分子凝集剤を添加した分離汚泥が、返送手段5(
図2参照)を経由して凝集処理S21に返送されることを意味する。
【0028】
返送処理S3における分離汚泥の汚泥流量制御に際しては、例えば、原水のSS重量及び無機凝集剤の注入率に基づいて、凝結処理S1により、原水から発生する原水中のSS重量又は無機凝集剤由来の発生汚泥重量を推定する。そして、凝集処理S21の設定汚泥濃度及び原水の流量に基づいて、凝集処理S21に必要な必要汚泥重量を決定し、この必要汚泥重量と発生汚泥重量とに基づいて、凝集処理S21へ返送する分離汚泥の汚泥重量を決定し、この汚泥重量に基づいて、凝集処理へ返送する分離汚泥の汚泥流量を制御するように構成される。
【0029】
本発明の実施の形態に係る排水処理方法によれば、凝集処理S21に返送される分離汚泥の汚泥重量を基準として、予め設定された高分子凝集剤添加率で分離汚泥に添加する高分子凝集剤の添加量が決定される。分離汚泥の汚泥濃度は、原水に含まれるSS重量又は無機凝集剤由来の発生汚泥濃度と比べて高濃度となるため、凝集処理S21における汚泥濃度は、原水に含まれる汚泥の濃度に比べ、凝集処理S21に返送される分離汚泥の汚泥濃度の方が支配的となる。
【0030】
高分子凝集剤の添加率は汚泥重量に対するもので、その汚泥重量は返送される単位時間当たりの分離汚泥重量でも、凝集処理S21の単位時間当たりの汚泥重量でもよい。分離汚泥濃度で凝集処理S21の汚泥濃度が支配されるので、返送する分離汚泥重量と凝集処理S21の汚泥重量が等しくなる。したがって、両者の高分子凝集剤の添加量は同量になる。高分子凝集剤の添加場所は分離汚泥のみである。
【0031】
分離汚泥重量の代わりに凝集処理S21の汚泥重量に対しても予め設定された高分子凝集剤添加率で高分子凝集剤の添加量を決定、制御することができ、その添加量を分離汚泥に添加し、その分離汚泥は凝集処理S21に返送することができる。
【0032】
このように、分離汚泥の汚泥重量を基準として高分子凝集剤の添加量を決定することにより、従来の原水の流量を基準とした高分子凝集剤の注入率設定方法に比べて、原水の性状及び原水の排水処理状況に関わらず、常に最適な添加量で高分子凝集剤を添加することが可能となる。これにより、高分子凝集剤の使用量を最適化して効率的な処理を行いながら、高い凝集沈殿処理効果を安定して継続的に得ることが可能となる。
【0033】
図1に示す凝集沈殿処理S2は、凝集処理S21と固液分離処理S22とを別々の処理槽を用いて順々に処理しても良いし、凝集処理S21と固液分離処理S22とを同一の処理槽で構成される凝集沈殿手段2を用いて連続的に処理してもよい。特に、凝集沈殿手段2として、凝集処理S21と固液分離処理S22を同一槽にて同時に処理を行う場合、後述する高速造粒沈殿装置を利用することで、処理の高速化及び装置の小型化が図れる。
【0034】
以下に示す第1の実施の形態では、凝集沈殿手段2として、凝集処理S21と固液分離処理S22とを、別々の処理槽を用いて処理する上向流式凝集沈殿処理方式を用いた例を説明する。第2の実施の形態では、凝集沈殿手段2として、凝集処理S21と固液分離処理S22とを同一処理槽を用いて連続的に処理する第1の高速造粒沈殿処理方式を用いた例を示す。第3の実施の形態では、凝集沈殿手段2として、凝集処理S21と固液分離処理S22とを造粒部と沈殿部を別々の処理槽を用いて連続的に処理する第2の高速造粒沈殿処理方式を用いた例を説明する。
【0035】
図1において凝集沈殿処理S2により得られた処理水は、消毒して河川等の公共水域に放流されるか、或いはその処理水を、ろ過処理するか、又は活性炭吸着処理して、脱水機等の洗浄排水等に回収再利用される。一方、固液分離処理S22から引き抜かれる凝集沈殿汚泥の一部は、分離汚泥として凝集処理S21に返送され、残りの凝集沈殿汚泥は濃縮して脱水するか、又は直接脱水される。
【0036】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る排水処理装置は、
図2に示すように、原水に無機凝集剤を注入し、原水中のSSを凝結させる凝結手段1と、無機凝集剤を含む原水に対して高分子凝集剤の下で凝集フロックを形成させ、凝集フロックを固液分離し、少なくとも凝集沈殿汚泥を得る凝集沈殿手段2と、凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として引き抜き、引き抜かれた凝集沈殿汚泥の少なくとも一部の汚泥を、分離汚泥として凝集沈殿手段2に返送する返送手段5と分離汚泥に対して高分子凝集剤を添加する高分子凝集剤添加手段4と、その分離汚泥の汚泥重量と、予め設定した高分子凝集剤添加率とに基づいて、高分子凝集剤の添加量を制御する制御手段7とを備える。
【0037】
図2に示すように、凝結手段1は、原水を収容する混合槽10と、混合槽10内の原水に無機凝集剤を注入する無機凝集剤注入手段6とを備える。混合槽10は、原水に無機凝集剤を添加して混合することにより原水中に凝集フロックを形成させる反応槽であり、原水を撹拌するための撹拌手段(不図示)を内部に備えることができる。混合槽10には、無機凝集剤注入手段6が接続されており、原水量に対して過去の経験的な注入率やジャーテスト結果による注入率で無機凝集剤が注入される。
【0038】
無機凝集剤としては、例えば、アルミニウム系凝集剤又は鉄系凝集剤が使用できる。アルミニウム系凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸アルミニウム(硫酸バンド)が利用できる。鉄系凝集剤としては、SS除去以外にCODや色度除去に優れる硫酸第二鉄(ポリ鉄)や塩化第二鉄が利用できる。
【0039】
無機凝集剤は酸性であるため、原水に無機凝集剤を添加すると、混合槽10内の最適凝集pH範囲を外れる場合がある。そのような場合は、アルカリ剤である消石灰や苛性ソーダで、混合槽10内を最適凝集pHに調整することが好ましい。無機凝集剤の添加率は、ジャーテスト等により、原水の供給流量及びSSの濃度に応じて最適な添加率となるように調整されることが望ましい。例えば、混合槽内のpHを6~7となるようにアルカリ剤を添加することが好ましい。
【0040】
凝集沈殿手段2は、凝集処理手段として機能する凝集槽20と固液分離手段として機能する固液分離槽30とを備えることができる。高分子凝集剤添加手段4は、図示しないポンプ及び配管を備えており、固液分離槽30から引き抜かれた凝集沈殿汚泥の少なくとも一部の分離汚泥に高分子凝集剤を添加する。高分子凝集剤が添加された分離汚泥を凝集槽20に返送する。固液分離槽30から引き抜かれた比較的SS濃度の高い分離汚泥に対して高分子凝集剤を添加することによって、高分子凝集剤の添加率を小さく抑えながら、固液分離槽30内で生成される凝集フロックの沈降性を高めて固液分離性能を向上し、原水の性状変動にかかわらず、安定した水質の処理水を得ることができる。
【0041】
特に、SS濃度が1~50mg/Lの低SS濃度の原水や、SS濃度が1~50mg/Lの範囲で変動する原水に対しては、無機凝集剤の添加によっても適切な粒径の凝集フロックが有意に生成されず、無機凝集剤を添加しても凝集フロックが粗大化せず、十分に固液分離できずに凝集沈殿処理水とともに流出する場合があるため、SS濃度が比較的低濃度の原水に対する処理には特に好適である。高分子凝集剤は水などの溶媒に溶解させて高分子凝集剤溶液として供給することができる。高分子凝集剤添加手段4は、必要に応じて凝集槽20に接続され、凝集槽20内へ更に高分子凝集剤を添加してもよい。
【0042】
固液分離槽30へ返送される分離汚泥以外の凝集沈殿汚泥は、汚泥処理工程へ送られる。高分子凝集剤添加手段4は、制御手段7に接続されており、制御手段7によって、分離汚泥に対する高分子凝集剤の添加量が制御される。
【0043】
予め設定された分離汚泥に対する高分子凝集剤の添加率は、以下に限定されるものではないが、分離汚泥の汚泥重量に対してSS重量ベースで0.005~3.0wt%対SSとすることができ、0.01~2.0wt%対SS、更には0.01~1.0wt%対SSとすることがより好ましい。例えば、高分子凝集剤の添加率0.005wt%対SSとは、分離汚泥の固形物量であるSS重量に対して高分子凝集剤を0.005wt%添加することを意味する。
【0044】
分離汚泥に添加される高分子凝集剤の添加量は、上述したように、凝集処理S21における汚泥濃度が、原水に含まれる汚泥の濃度に比べ、凝集処理S21に返送される分離汚泥の汚泥濃度の方が支配的となるので、予め設定された分離汚泥重量に対する高分子凝集剤の添加率から決定される。一方、分離汚泥が凝集槽20に返送されて、分離汚泥を含む凝集槽20の汚泥重量を基に、予め設定された汚泥重量に対する高分子凝集剤の添加率から高分子凝集剤の添加量が決定されて、凝集槽20に返送される分離汚泥に高分子凝集剤が添加される。
【0045】
汚泥重量に対する高分子凝集剤の添加率は分離汚泥や凝集槽20の汚泥重量に対するSS重量ベースの数値になり、その数値は同一の値になる。また、凝集槽20の汚泥濃度は分離汚泥の汚泥濃度の方が支配的なので、返送する分離汚泥重量は分離汚泥を含む凝集槽20の汚泥重量と同じ数値である。したがって、分離汚泥に添加する高分子凝集剤の添加量はいずれの場合も同じ数値になる。
【0046】
本発明では、分離汚泥の流量や汚泥濃度が測定しやすいことや、汚泥濃度の変動が少ないことから、分離汚泥の汚泥重量に対して高分子凝集剤の添加量を決定することが望ましい。
【0047】
高分子凝集剤の添加率が0.005wt%対SS未満では、高分子凝集剤が不足し、凝集効果が得られない場合がある。高分子凝集剤の添加率が3.0wt%対SSを超えると、分離汚泥に対して高分子凝集剤が過剰で、粘性の高い凝集フロックが生成されるため、凝集槽20で凝集フロックの分散性が悪くなり、原水等に由来するSS等が取り込めずに、凝集沈殿処理効果が得られない場合がある。
【0048】
高分子凝集剤の添加率は、凝集槽20へ返送される分離汚泥のSSに代えて全蒸発残留物(TS)ベースで定めても良い。例えば、分離汚泥の汚泥重量に対して0.005~3.0wt%対TSとすることができ、0.01~2.0wt%対TSにすることが好ましく、更には0.01~1.0wt%対TSとすることがより好ましい。
【0049】
返送手段5は、分離汚泥の汚泥濃度を検出する汚泥濃度検出手段25及び分離汚泥の返送流量を検出する汚泥流量検出手段26を備えることができる。汚泥濃度検出手段25としては、近赤外光式汚泥濃度計、レーザー光式汚泥濃度計、マイクロ波汚泥濃度計などの市販の汚泥濃度計が使用できる。
【0050】
汚泥流量検出手段26としては、市販の電磁流量計、超音波流量計等が使用できる。返送手段5の分離汚泥の返送には市販のポンプが使用できる。中でも汚泥を定量的に移送できるポンプ、例えば、ギアポンプ又は回転容積式一軸偏心ねじポンプ(モーノポンプ)などを使用し、回転数制御で設定流量を調整してもよい。その場合、ポンプの回転数等の流量に関する信号は、制御手段7に出力される。
【0051】
制御手段7は、凝集槽20へ返送される分離汚泥の汚泥重量に基づいて、予め設定した高分子凝集剤添加率から高分子凝集剤の添加量を制御する。例えば、制御手段7は、分離汚泥の汚泥濃度及び汚泥流量を検出する。そして、分離汚泥の汚泥濃度と汚泥流量とを乗算して分離汚泥の汚泥重量を算出する。この汚泥重量の算出結果に基づいて、予め設定した高分子凝集剤添加率から高分子凝集剤の添加量を決定することができる。
【0052】
図2に示す排水処理装置は、原水の流量を検出する原水流量検出手段36及び原水のSSを検出可能な原水濃度検出手段35を更に備えていてもよく、原水流量検出手段36及び原水濃度検出手段35の検出結果が制御手段7へ出力されるように構成されていてもよい。原水濃度検出手段35及び原水流量検出手段36を備えることにより、原水のSS及び流量を常時測定することができ、これにより、原水の性状変動に由来する発生汚泥重量を考慮にいれることができ、より好適な排水処理が行える。
【0053】
図2に示す水処理装置を用いて第1の実施の形態に係る水処理方法を実施することができる。即ち、第1の実施の形態に係る水処理方法は、混合槽10において原水に無機凝集剤を注入し、原水中のSSを凝結させた後、凝集槽20内において無機凝集剤を含む原水に対して高分子凝集剤の存在下で凝集処理を行うことにより凝集フロックを形成させる凝集処理を行い、固液分離槽30において凝集フロックを固液分離し、凝集沈殿汚泥を得る。そして、固液分離槽30で得られた凝集沈殿汚泥の少なくとも一部を分離汚泥として高分子凝集剤を添加した後に凝集槽20内に返送することを含む。
【0054】
図3は、
図2の固液分離槽30として上向流式凝集沈殿装置30Aを用いた場合の上向流式凝集沈殿処理の例を表す。
図3に示すように、原水に対して、混合槽10で無機凝集剤を添加して混合し、凝集槽20で高分子凝集剤を添加した分離汚泥を添加して凝集フロックを生成させる。凝集槽20で生成させた凝集フロックを上向流式凝集沈殿装置30Aの中央部に位置するセンターウエル31に導き、センターウエル31を介して凝集フロックを下向きに流出させた後、凝集フロックを含む処理水が装置液面に向かって上向流で通水される。その過程で、上向流式凝集沈殿装置30Aで凝集フロックが固液分離され、凝集フロックが上向流式凝集沈殿装置30Aの底部に凝集沈殿汚泥として沈殿する。上向流式凝集沈殿装置30Aの固液分離部は、凝集沈殿汚泥と処理水との境で、その範囲はセンターウエル31の下部から装置底部までである。固液分離された凝集沈殿汚泥が自身の重量で圧密化し、凝集沈殿汚泥の汚泥濃度が高まり、濃縮が進み、装置底部に近いほど凝集沈殿汚泥の汚泥濃度が高まる。装置内部で濃縮された凝集フロックは、上向流式凝集沈殿装置30Aの外部へ引き抜かれて、凝集沈殿汚泥として図示しない汚泥処理工程に移送されて、脱水されるか、その少なくとも一部が分離汚泥として凝集槽20へ返送される。処理水は、上向流式凝集沈殿装置30Aの上部から排出され、放流されるか、ろ過処理等の次の処理工程に送られる。
【0055】
目標とする凝集沈殿処理水質等にもよるが、一般には水面積負荷がおおむね30~50mm/分で設計及び運転されている。水面積負荷は処理水量を沈殿槽の分離面積(断面積)で割った数値で、水面積負荷の値が大きいほど、分離面積の小さい沈殿槽が適用でき、既設沈澱槽では、より多くの処理水量で凝集沈殿処理できることになる。
【0056】
本発明の第1の実施の形態に係る水処理装置及び水処理方法によれば、固液分離槽30から凝集槽20へ返送される分離汚泥の汚泥重量に基づいて、高分子凝集剤の添加量を決定することにより、原水の急激な性状変動が生じた場合においても、高分子凝集剤の過剰な添加を抑制しながら、効率良く安定的な水処理効果を得ることが可能となる。
【0057】
(第2の実施の形態)
図4に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る排水処理装置は、
図2の凝集沈殿手段2として、無機凝集剤を含む原水を上向流で通水し、凝集フロックに外圧を与えながら凝集フロックを圧密化して造粒する上向流式造粒沈殿処理を行う高速造粒沈殿装置20Aを備える点が、第1の実施の形態に係る排水処理装置と異なる。他の構成は第1の実施の形態に係る排水処理装置と実質的に同等であるので重複した記載を省略する。
【0058】
図4の例では、混合槽10として、鉛直方向に複数の段を備え、混合槽10の上部に接続された無機凝集剤注入手段6を介して無機凝集剤が注入され、原水を下方から抜き出す混合槽10が利用可能である。無機凝集剤の注入量はポンプP1を介して調整される。無機凝集剤の添加により、原水中のSS等の微粒子が無機凝集剤により凝結処理される。凝結処理された原水は混合槽10の下部から流出し、高速造粒沈殿装置20Aの底部から槽内へ供給される。
図4に示す混合槽10によれば、無機凝集剤を注入して撹拌するための動力を必要としないため動力を削減して経済的な処理を行うことができる。
【0059】
高速造粒沈殿装置20Aの底部には、装置の中心に設けられた中心軸を中心に回転して汚泥を掻き出すスクレーパ21を備える。スクレーパ21を介して外圧が与えられることにより、凝集フロックが圧密化して造粒され、ペレット化される。凝集フロックが造粒してペレット化した凝集沈殿汚泥は、原水の上向流の水流に均衡する状態で緻密化されてブランケット層22を形成する。また、このブランケット層22内を原水が通過することで、原水中の微細なフロックがブランケット層22に捕捉されて、清澄な処理水が得られる。ブランケット層22の上部の上澄層23を通って、装置上部から処理水が排出される。
【0060】
高分子凝集剤添加手段4は、ポンプP2及び配管24を介して、高速造粒沈殿装置20Aから引き抜かれて返送手段5を介して返送された分離汚泥の汚泥重量に基づいて、高分子凝集剤を添加する。高分子凝集剤を添加した分離汚泥は、混合槽10の下部に接続された原水配管27の任意の位置から高速造粒沈殿装置20Aの底部までの原水配管27の任意の位置に返送される。
図5に示すように、スクレーパ21は高速造粒沈殿装置20Aの任意の高さまで可動である。
図4には図示していないが、高分子凝集剤を添加した分離汚泥の返送先は、原水配管27以外にも、高速造粒沈殿装置20Aの凝集部として機能するスクレーパ21の可動範囲域に返送することもできる。
【0061】
これにより、高分子凝集剤を添加した分離汚泥を、混合槽10の下部から高速造粒沈殿装置20Aの底部までの原水配管27の任意の位置に返送しても、原水配管内部での流速が速く、原水と分離汚泥が高分子凝集剤で凝集できない場合があったとしても、凝集や凝集フロックの生成及び造粒は、高速造粒沈殿装置20Aのスクレーパ21の可動範囲で行うことができる。上述の通り、分離汚泥の返送先は、基本的には原水配管27とすることができ、これが凝集処理の入り口と考えることができる。結果的に分離汚泥は、凝集処理に添加されることになる。
【0062】
なお、高速造粒沈殿装置20Aから引き抜く凝集沈殿汚泥の汚泥濃度が5000mg/L未満の場合には、
図4の高速造粒沈殿装置20Aのブランケット層22内で造粒圧密されペレット化した凝集沈殿汚泥の濃度を高めるための濃縮機構を、高速造粒沈殿装置20Aの横又は底部に設置してもよい。その場合、濃縮機構は、動力費がかからない重力濃縮が良い。図示していないが、濃縮機構から引き抜かれる濃縮汚泥の一部に、高分子凝集剤を添加して、分離汚泥と同様に、原水配管部へ返送することもできる。
【0063】
図4に示すように、原水に無機凝集剤を添加し、必要に応じて、pH6.5~7.0に酸剤やアルカリ剤で調整した原水を、原水配管27で高速造粒沈殿装置20Aの下部に導く。例えば原水配管27の途中に高分子凝集剤を添加して、スクレーパ21で高分子凝集剤を含む原水を撹拌することで、造粒してペレット化した凝集沈殿汚泥が形成される。このスクレーパ21の可動範囲が凝集部であり、その上部のブランケット層22が固液分離部として機能する。固液分離部から凝集沈殿汚泥を引き抜き、その引き抜いた凝集沈殿汚泥の一部に、高分子凝集剤を添加した分離汚泥を、高速造粒沈殿装置20Aの下部に接続された原水配管27に返送する。高速造粒沈殿装置20Aの水面積負荷はおおむね100~300mm/分で運転される。
【0064】
本発明の第2の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法によれば、無機凝集剤注入手段6による無機凝集剤の添加により原水中の凝集フロックの生成が不十分であったとしても、高速造粒沈殿装置20Aから引き抜かれて返送される分離汚泥により凝集部の汚泥濃度が調整でき、分離汚泥に、高分子凝集剤添加手段4による高分子凝集剤を添加して補うことができる。これにより、高分子凝集剤の添加量を最適化しながら、短時間のうちに強固で緻密な凝集フロックを生成させて安定的な水処理を行うことができる。
【0065】
上述の第1の実施の形態では、凝集フロックの沈降速度はおおむね30~50mm/分となるが、凝集フロックが造粒してペレット化し、緻密化されたた凝集沈殿汚泥が生成する第2の実施の形態では、ペレット化した造粒物の沈降速度はおおむね100~300mm/分と第1の実施の形態に比べて速い。生成する凝集フロックの沈降速度や造粒物の沈降速度は水面積負荷を決定する重要な指標となり、装置設計上、水面積負荷は沈降速度の数値と同じか、安全を考慮してやや低く設定する。
【0066】
本発明の第2の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法によれば、第1の実施の形態(上向流式凝集沈殿処理方式)に比べて、水面積負荷を高く取れるので、装置のコンパクト化ができる。例えば、水面積負荷と沈降速度の数値は等しいとすると、水面積負荷より第2の実施の形態の設置面積は第1の実施の形態の約1/2~1/10と小さくなる。
【0067】
更に、本発明の第2の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法によれば、高速造粒沈殿装置20Aの装置の一部が凝集部として機能するため、凝集フロックが第1の実施の形態のように別の水槽に移動することがない。そのため、凝集フロックが壊れる可能性が少なく、装置内部で沈降しやすい造粒物が生成するため、固液分離性が良好になる。
【0068】
(第3の実施の形態)
図5に示すように、本発明の第3の実施の形態に係る排水処理装置は、
図2の凝集沈殿手段2として、無機凝集剤を含む原水を上向流で通水し、凝集フロックに外圧を与えながら凝集フロックを圧密化して造粒する上向流式造粒沈殿処理を行う高速造粒沈殿装置20Bを備え、高速造粒沈殿装置20Bが、造粒槽200Aと沈殿槽200Bとを備える沈殿槽別置き型高速造粒沈殿装置である点が、第2の実施の形態に係る排水処理装置と異なる。即ち、
図4に示す高速造粒沈殿装置20Aは、一槽で構成されることで装置のコンパクト化が図れている一方で、
図5に示す高速造粒沈殿装置20Bでは、造粒槽200Aと沈殿槽200Bとを備える。
【0069】
第2の実施の形態では水の流れが完全な上向流であり、処理水量の変動などによる処理水質や凝集沈殿汚泥濃度の影響が大きい。一方、第3の実施の形態に係る処理及び装置(沈殿槽別置き)は、第2の実施の形態のように処理水量の変動などに影響されずに、汚泥の沈降性に優れ、別置きの沈殿槽のために凝集沈殿汚泥の圧密化が進み、高濃度な凝集沈殿汚泥が安定して得られ、凝集沈殿汚泥の一部である分離汚泥の汚泥濃度も高まる。高濃度の分離汚泥が返送できるため、凝集処理への返送量の削減や安定性が達成できる。また、沈殿槽からの排泥の凝集沈殿汚泥濃度が高くなり、脱水機運転時間の低減などで脱水処理に有利である。
【0070】
また、第3の実施の形態では、第1の実施の形態と比べて、第2の実施の形態と同様に凝集フロックが沈降性の良い造粒物のために、その沈降性が良好であり、沈殿槽の水面積負荷を高く取れるので、沈殿槽のコンパクト化が図れる。第3の実施の形態では、造粒槽200Aと沈殿槽200Bの2槽が必要になり、第2の実施の形態より設置面積が多くなるが、造粒槽200Aと沈殿槽200Bが別々に設置されるため、それぞれ最適な運転条件で凝集沈殿処理できる。これにより、第1の実施の形態や第2の実施の形態よりも処理水量の変動などに対して、処理の安定性が向上する。なお、第3の実施の形態では、おおむねペレット化した造粒物の沈降速度が200~300mm/分であり、土やシルトを含むトンネル掘削排水処理など、水面積負荷が高くとれる排水に適用されるケースが多い。
【0071】
造粒槽200Aは、装置中央部に配置された撹拌機の軸とスクレーパ21を備える。造粒槽200Aと沈殿槽200Bとの間には連結管201があり、造粒槽200Aでペレット化した造粒物は沈殿槽200Bに移送される。
図5においては、スクレーパ21の稼働領域が凝集部として機能し、沈殿槽200Bの底面から汚泥界面までが固液分離部として機能する。沈殿槽200Bには凝集沈殿汚泥をかき寄せるためのレーキを備える掻寄機に接続されている。
【0072】
沈殿槽200Bでは、ペレット化した造粒物が槽の底部に沈降して濃縮し、処理水は沈殿槽200B上部から排出される。濃縮された凝集沈殿汚泥は沈殿槽200B底部から引き抜かれる。そして、沈殿槽200Bから引き抜かれた凝集沈殿汚泥の一部に、高分子凝集剤を添加した分離汚泥を原水配管27の途中に添加する。これにより、凝結処理された原水と、高分子凝集剤を含む分離汚泥が、造粒槽200A内のスクレーパの可動で、造粒してペレット化される。
【0073】
この様にして、ペレット化した造粒物は、連結管201を介して沈殿槽200Bで固液分離され、処理水と凝集沈殿汚泥に分離される。図示していないが、沈殿槽200B引き抜かれた分離汚泥の返送にはポンプや返送配管等の使用が有効である。高分子凝集剤の添加場所は、分離汚泥を返送先に返送するまでの配管や引抜ポンプや返送ポンプの吸込部や吐出部である。
【0074】
本発明の第3の実施の形態に係る排水処理装置及び排水処理方法によれば、沈殿槽別置き型の高速造粒沈殿装置20Bを利用することにより、凝集沈殿処理を効率化することができるとともに、高分子凝集剤の添加量を最適化することができる。
【実施例0075】
(実施例1)
河川水を原水とする浄水施設で急速ろ過設備の急速ろ過池から排出される砂ろ過洗浄排水(pH6.8、SS300mg/L、M-アルカリ度30mg/L)を原水として、
図3に示すような、混合槽と、凝集槽と、上向流式凝集沈殿装置とを備える排水処理装置で排水処理試験を行った。各装置の仕様及び試験条件を表1に示す。
【0076】
【0077】
原水に無機凝集剤として硫酸バンド(純度8%、酸化アルミナ換算)注入率150mg/Lを添加して、混合槽内でpH6.5~7.0となるように水酸化ナトリウムで調整した後、この無機凝集剤を含む原水を凝集槽に供給した後、上向流式凝集沈殿装置へ供給して、水面積負荷30~50mm/分で凝集沈殿処理した。上向流式凝集沈殿装置から引き抜いた凝集沈殿汚泥のうち、凝集槽へ返送する分離汚泥に対して高分子凝集剤(アニオン性、水ing(株)製 エバグロースA151)を分離汚泥の汚泥重量に対して0.05~0.4%対SSとなるように分離汚泥に添加し、凝集槽のSS濃度を360~1200mg/Lに調整した。結果を表2に示す。また、凝集槽に分離汚泥を返送せずに、直接、凝集槽に高分子凝集剤を添加した試験結果(No.1~No.3)を表2に併記する。
【0078】
【0079】
表2記載の「凝集槽のSS」の濃度は、原水由来のSSと無機凝集剤由来のSSと沈殿槽から凝集沈殿汚泥を引き抜いてその一部を返送した分離汚泥由来のSSの合計値を示す。実施例1において、原水SSは300mg/Lで、硫酸バンド注入率が150mg/Lであるので、無機凝集剤由来のSSは150×8/100=12mg/Lであるので、凝集槽のSS濃度は、310mg/Lである。凝集槽のSS濃度を360mg/Lに設定する場合には、上向流式凝集沈殿装置から凝集槽に返送する分離汚泥のSS濃度は360-(300+12)=48mg/Lであるので、原水量と分離汚泥のSS濃度から、凝集槽に返送する分離汚泥のSS重量を求めて、返送する分離汚泥の返送流量を決定した。
【0080】
表2に示すように、水面積負荷30mm/分で、凝集槽のSSを360mg/Lとし、分離汚泥のSS重量に対する高分子凝集剤添加率0.3%対SSとした場合、処理水SSは2.4mg/Lであった。凝集槽のSSを450mg/Lとし、分離汚泥のSS重量に対する高分子凝集剤添加率0.2%対SSとした場合、処理水SSは1.5mg/Lであった。凝集槽のSSを600mg/L、分離汚泥のSS重量に対する高分子凝集剤添加率0.15%対SSとした場合、処理水SSは1.4mg/Lであり、いずれも良好な結果が得られた。また、水面積負荷50mm/分で、凝集槽のSSを600mg/Lとし、分離汚泥のSS重量に対する高分子凝集剤添加率0.2%対SSとした場合、処理水SSは6.7mg/Lであり、水面積負荷30mm/分の同条件より、処理水SSが5.4mg/L高くなった。
【0081】
また、水面積負荷30mm/分で、分離汚泥を返送せずに、凝集槽に高分子凝集剤添加率0.5mg/L添加して凝集沈殿処理すると、処理水のSSは4.3mg/Lであった。高分子凝集剤を1.0mg/Lにすると、処理水SSが3.3mg/L、さらに高分子凝集剤を1.5mg/Lにすると、処理水SSが4.1mg/Lと増加した(No.1~No.3の結果)。水面積負荷30mm/分で分離汚泥を凝集槽に返送する場合、高分子凝集剤添加率は、0.1~0.4wt%対SS、また、凝集槽のSS/原水SS比は1.2~2.5の範囲で処理水SS濃度が低かった。
【0082】
(実施例2)
実施例1と同様の洗浄排水(pH6.8、SS300mg/L、M-アルカリ度30mg/L)を原水として、
図4に示す混合槽と高速造粒沈殿装置とを備える排水処理装置で水処理を行った。
図4に示す混合槽及び高速造粒沈殿装置の仕様及び試験条件を表3に示す。尚、小規模試験では試験条件が設定しやすい完全混合型の混合槽を使用した。
【0083】
【0084】
原水に無機凝集剤として硫酸バンド(純度8%)注入率150mg/Lで添加し、混合槽内でpH6.5~7.0となるように水酸化ナトリウムで調整した後、高速造粒沈殿装置内から引き抜いた分離汚泥に高分子凝集剤(アニオン性、水ing(株)製 エバグロースA151)を添加し、その凝集沈殿汚泥と、この無機凝集剤を含む原水を
図4に示す高速造粒沈殿装置底部から供給し、水面積負荷100~200mm/分で凝集沈殿処理した。高分子凝集剤添加率は汚泥のSS重量を基準として、0.1~0.5wt%対SSとした。結果を表4に示す。また、分離汚泥を返送せずに、高速造粒沈殿装置の原水配管に高分子凝集剤を添加した試験結果を表4に併記する(No.1~No.3)。
【0085】
【0086】
表4記載の「凝集部流入原水のSS」の濃度は、原水SSと無機凝集剤由来のSSと高速造粒沈殿装置内から凝集沈殿汚泥を引き抜いてその一部を返送した分離汚泥由来のSSの合計を計算した値である。なお、凝集部とは高速造粒沈殿装置の凝集部で、スクレーパの可動範囲を指す。なお、高分子凝集剤を含む分離汚泥は原水と原水配管で混合されて、装置の凝集部で凝集、ペレット化するが、凝集部の汚泥濃度、SSが実測できないため、計算値を用いている。
【0087】
原水由来のSSは300mg/Lで、硫酸バンド注入率が150mg/Lであるので、無機凝集剤由来のSSは150×8/100=12mg/Lである。凝集部流入原水のSS濃度を360mg/Lに設定する場合には、高速造粒沈殿装置の原水配管に返送する分離汚泥分のSS濃度は360-(300+12)=48mg/Lとする。原水量と高速造粒沈殿装置の原水配管に返送する分離汚泥のSS濃度(48mg/L)から、返送する分離汚泥のSS重量を求めて、返送する分離汚泥の返送流量を決定した。
【0088】
その結果、水面積負荷100mm/分、凝集部流入原水のSS360mg/L、高分子凝集剤添加率0.3%対SSで、処理水SSは8.1mg/Lであった。凝集部流入原水のSS450mg/L、高分子凝集剤添加率0.2%対SSで、処理水SSは3.4mg/Lであった。凝集部流入原水のSS600mg/L、高分子凝集剤添加率0.2%対SSで、処理水SSは2.2mg/Lであり、いずれも良好な結果が得られた。
【0089】
また、水面積負荷100mm/分で分離汚泥を返送せずに、高速造粒沈殿装置の原水配管に高分子凝集剤添加率1.0mg/L添加して凝集沈殿処理すると、処理水のSSは16mg/Lであった。高分子凝集剤添加率を2.0mg/Lにすると、処理水SSが10mg/L、さらに高分子凝集剤添加率を3.0mg/Lにすると、処理水SSが18mg/Lと増加した(No.1~No.3の結果)。
【0090】
水面積負荷100mm/分で分離汚泥を返送する場合、高分子凝集剤添加率は、0.1~0.5wt%対SS、また、凝集部流入原水のSS/原水SS比は1.2~2.5とすることで処理水SS濃度を低く抑えることができた。