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特開2022-61334次亜塩素酸イオン濃度の測定方法および次亜塩素酸イオン濃度計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061334
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】次亜塩素酸イオン濃度の測定方法および次亜塩素酸イオン濃度計
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/33 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
G01N21/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169272
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】518095493
【氏名又は名称】株式会社サイエンス・イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】平野 輝美
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 満
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】桑原 克己
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059CC02
2G059DD12
2G059DD20
2G059EE01
2G059GG02
2G059GG07
2G059HH03
2G059HH06
2G059KK01
2G059KK09
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM12
2G059MM14
2G059NN02
(57)【要約】
【課題】 連続的に高い精度で次亜塩素酸濃度を測定することができる次亜塩素酸イオンの測定方法を提供する。
【解決手段】
次亜塩素酸イオンの濃度をいわゆる吸光光度法により得る測定方法を対象にする。すなわち、波長270~330nmを一部でも含む紫外線を測定対象溶液に入射して透過光を検出し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得る測定方法である。そして本発明は、紫外線はLED素子(11)により出力させる。そしてLED素子(11)には温度センサ(12)を接触させてLED温度を測定する。本発明ではLED温度制御手段によりLED温度が所定の温度範囲になるように制御する。あるいは入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得るとき、LED温度に基づいて濃度を補正する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を測定対象溶液に入射して透過光を検出し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得る測定方法であって、
前記紫外線はLED素子により発光させ、該LED素子には温度センサを接触させてLED温度を測定し、LED温度制御手段により前記LED温度が所定の温度範囲になるように制御して前記LED素子を発光させることを特徴とする次亜塩素酸イオン濃度の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測定方法において、前記LED温度制御手段は前記LED素子を所定の周期でON/OFFしONの割合であるデューティ比を調整する手段であることを特徴とする次亜塩素酸イオン濃度の測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の測定方法において、前記LED温度制御手段は前記LED素子に隣接して設けたペルチエ素子であり、該ペルチエ素子によって前記LED素子を冷却することによって前記LED温度を制御することを特徴とする次亜塩素酸イオン濃度の測定方法。
【請求項4】
波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を測定対象溶液に入射して透過光を検出し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオン濃度を得る測定方法であって、
前記紫外線はLED素子により発光させ、該LED素子には温度センサを接触させてLED温度を測定し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得るとき、前記LED温度に基づいて濃度を補正することを特徴とする次亜塩素酸イオン濃度の測定方法。
【請求項5】
測定対象溶液に対して波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を入射する光源と、前記測定対象溶液を透過した透過光を検出するフォトダイオードと、これらと接続されているコントローラとからなり、該コントローラにおいて入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度が得られるようになっている次亜塩素酸イオンの濃度計であって、
前記光源はLED素子からなり、前記LED素子にはLED温度を検出する温度センサが接触しており、所定のLED温度制御手段によって前記LED温度が所定の温度範囲になるように前記コントローラによって制御されるようになっていることを特徴とする次亜塩素酸イオンの濃度計。
【請求項6】
請求項5に記載の濃度計において、前記LED温度制御手段は前記LED素子を所定の周期でON/OFFさせONの割合であるデューティ比を調整する手段であることを特徴とする次亜塩素酸イオンの濃度計。
【請求項7】
請求項5に記載の濃度計において、前記LED温度制御手段は前記LED素子の近傍に設けられたペルチエ素子であり、前記ペルチエ素子による冷却により前記LED温度が制御されることを特徴とする次亜塩素酸イオンの濃度計。
【請求項8】
測定対象溶液に対して波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を入射する光源と、前記測定対象溶液を透過した透過光を検出するフォトダイオードと、これらと接続されているコントローラとからなり、該コントローラにおいて入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度が得られるようになっている次亜塩素酸イオンの濃度計であって、
前記光源はLED素子からなり、前記LED素子にはLED温度を検出する温度センサが接触しており、前記コントローラにおいて入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得るとき、前記濃度が前記LED温度により補正されるようになっていることを特徴とする次亜塩素酸イオンの濃度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸光光度法により測定対象の溶液中の次亜塩素酸イオン濃度を測定する次亜塩素酸イオン濃度の測定方法および次亜塩素酸イオン濃度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸水は、殺菌力が高く比較的安全に取り扱えるので、上水における殺菌、下水、排水の殺菌・消毒等に利用されている。特に電気分解によって生成される電解次亜塩素酸水は、ナトリウム、塩素等が残留しないの食品の殺菌に利用でき安全性が高い。近年、カット野菜等の洗浄において使用されるケースが増えている。
【0003】
このように次亜塩素酸水の応用分野は広いが、必要な殺菌力を得るためには使用する対象に応じて適切な濃度に管理する必要があり、次亜塩素酸の濃度を適切に測定する必要がある。次亜塩素酸の濃度を測定する方法は色々あり、代表的な方法として次亜塩素酸水に試薬を点滴してその色によって濃度を測定する比色法が周知であり、o-トリジン比色法、ジエチル-p-フェニレンジアミン比色法等がある。しかしながら比色法は測定が煩雑であるし、試薬を使用した手分析による測定方法であって連続的に測定できないので、例えば次亜塩素酸濃度をフィードバック制御により一定に制御したいような場合には利用できない。
【0004】
これに対して、次亜塩素酸水に浸漬した一対の電極間に電圧を印加し、測定される電流から次亜塩素酸濃度を得るポーラログラフ法も周知であり、これは連続的に次亜塩素酸濃度を測定できる。しかしながらポーラログラフ法は、電気伝導率の影響を受けやすいので次亜塩素酸水に他の電解質やイオンが溶けていると正しく濃度を測定できない。また電極の汚れによる影響を受けやすいので定期的に電極の研磨が必要になるという問題もある。
【0005】
特許文献1、2等に記載されているが、次亜塩素酸濃度の測定方法としていわゆる吸光光度法も周知である。吸光光度法は、水溶液に光を照射するとき溶解している物質の種類によって吸収される波長が異なること、そして吸収の度合いが濃度に比例することを利用した測定方法である。具体的には、所定の波長の光を水溶液に入射して透過させて透過した光をフォトダイオードによって電圧として検出する。入射時の光の強度と透過した光の強度の比を対数にとったもの、すなわち吸光度に基づいて濃度を測定するようにする。イオン状態の次亜塩素酸(ClO)であれば波長297nmを含む光を、そして非イオン状態の次亜塩素酸(HClO)であれば波長236nmを含む光をそれぞれ照射して吸光度を測定するようにする。吸光光度法は次亜塩素酸濃度を連続的にかつ高い精度で測定することができるので優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-32503号公報
【特許文献2】特開2017-120246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
吸光光度法は、高い精度でかつ連続的に次亜塩素酸濃度を測定できるので優れており、例えばフィードバック制御等により次亜塩素酸を所望の濃度に制御する場合に利用することができる。しかしながら吸光光度法による次亜塩素酸濃度の測定方法には解決すべき課題も見受けられる。具体的には吸光光度法に使用する光源に関する問題である。イオン状態の次亜塩素酸や非イオン状態の次亜塩素酸の濃度を測定するには短い波長の紫外線を照射しなければならないが、このような紫外線を出力する紫外線ランプは高価であるし所望の波長の紫外線を得るために分光手段が必要で大型になる。そうすると次亜塩素酸の濃度計が大型になると共に高価になってしまう。近年、300nm以下の短い波長の紫外線を照射するLEDが開発されており、このような紫外線LEDを使用することも考えられる。そうすると次亜塩素酸の濃度計を比較的安価にかつ小型にすることができる。しかしながら紫外線LEDを使用する場合は問題がある。発熱の問題である。LEDは通電すると発熱により高温になるので、素子を保護するためにヒートシンクに接続する等の対応が必要になる。しかしながらヒートシンクに接続する場合、ヒートシンクを設ける必要があるので必然的に次亜塩素酸の濃度計が大型化してしまう。さらにはヒートシンクに接続して放熱したとしても、発熱により温度が上昇することは避けられない。LEDは温度が高くなると光の強度が低下する特性がある。そうすると、フォトダイオードで検出される透過光の強度が必然的に小さくなって見かけ上の次亜塩素酸濃度が上昇する問題がある。またLEDは温度が高くなるとピーク波長が長くなる現象もある。波長が変化すると本来吸光されるべき光が適切に吸光されずにフォトダイオードに到達してしまう。この場合には検出される光の強度が大きくなる。さらにはフォトダイオードの種類によっては、波長が長い光の方が強く反応する特性を備えたものもある。そうすると、フォトダイオードで検出される電圧が大きくなって見かけ上の次亜塩素酸の濃度が小さくなる。いずれにしても、LEDの発熱により紫外線の波長や強度が変化して、安定的に精度良く次亜塩素酸濃度を測定できないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記したような問題点を解決した、次亜塩素酸イオン濃度の測定方法および次亜塩素酸イオン濃度計を提供することを目的としている。具体的には、小型で安価な装置によって、連続的に高い精度で次亜塩素酸イオン濃度を測定することができる次亜塩素酸イオン濃度の測定方法、およびそのような測定方法を実施する次亜塩素酸イオン濃度計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、次亜塩素酸イオンの濃度をいわゆる吸光光度法により得る測定方法を対象にする。すなわち、波長270~330nmの範囲一部でもを含む紫外線を測定対象溶液に入射して透過光を検出し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得る測定方法である。そして本発明は、紫外線はLED素子により出力させる。そしてLED素子には温度センサを接触させてLED温度を測定する。本発明ではLED温度制御手段によりLED温度が所定の温度範囲になるように制御するように構成する。あるいは入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得るとき、LED温度に基づいて濃度を補正するように構成する。
【0010】
すなわち請求項1に記載の発明は、波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を測定対象溶液に入射して透過光を検出し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得る測定方法であって、前記紫外線はLED素子により発光させ、該LED素子には温度センサを接触させてLED温度を測定し、LED温度制御手段により前記LED温度が所定の温度範囲になるように制御して前記LED素子を発光させることを特徴とする次亜塩素酸イオン濃度の測定方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の測定方法において、前記LED温度制御手段は前記LED素子を所定の周期でON/OFFしONの割合であるデューティ比を調整する手段であることを特徴とする次亜塩素酸イオン濃度の測定方法として構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の測定方法において、前記LED温度制御手段は前記LED素子に隣接して設けたペルチエ素子であり、該ペルチエ素子によって前記LED素子を冷却することによって前記LED温度を制御することを特徴とする次亜塩素酸イオン濃度の測定方法として構成される。
請求項4に記載の発明は、波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を測定対象溶液に入射して透過光を検出し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオン濃度を得る測定方法であって、前記紫外線はLED素子により発光させ、該LED素子には温度センサを接触させてLED温度を測定し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得るとき、前記LED温度に基づいて濃度を補正することを特徴とする次亜塩素酸イオン濃度の測定方法として構成される。
請求項5に記載の発明は、測定対象溶液に対して波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を入射する光源と、前記測定対象溶液を透過した透過光を検出するフォトダイオードと、これらと接続されているコントローラとからなり、該コントローラにおいて入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度が得られるようになっている次亜塩素酸イオンの濃度計であって、前記光源はLED素子からなり、前記LED素子にはLED温度を検出する温度センサが接触しており、所定のLED温度制御手段によって前記LED温度が所定の温度範囲になるように前記コントローラによって制御されるようになっていることを特徴とする次亜塩素酸イオンの濃度計として構成される。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の濃度計において、前記LED温度制御手段は前記LED素子を所定の周期でON/OFFさせONの割合であるデューティ比を調整する手段であることを特徴とする次亜塩素酸イオンの濃度計として構成される。
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の濃度計において、前記LED温度制御手段は前記LED素子の近傍に設けられたペルチエ素子であり、前記ペルチエ素子による冷却により前記LED温度が制御されることを特徴とする次亜塩素酸イオンの濃度計として構成される。
請求項8に記載の発明は、測定対象溶液に対して波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を入射する光源と、前記測定対象溶液を透過した透過光を検出するフォトダイオードと、これらと接続されているコントローラとからなり、該コントローラにおいて入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度が得られるようになっている次亜塩素酸イオンの濃度計であって、前記光源はLED素子からなり、前記LED素子にはLED温度を検出する温度センサが接触しており、前記コントローラにおいて入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得るとき、前記濃度が前記LED温度により補正されるようになっていることを特徴とする次亜塩素酸イオンの濃度計として構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明は、波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を測定対象溶液に入射して透過光を検出し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得る測定方法を対象としている。つまり吸光光度法により濃度を得るようにしている。従って、連続的に測定が可能である。本発明によると、紫外線はLED素子により出力させ、該LED素子には温度センサを接触させてLED温度を測定し、LED温度制御手段によりLED温度が所定の温度範囲になるように制御する。LED素子により紫外線を出力するので、安価に実施することができるという効果が得られる。そしてLED素子は温度が所定の温度範囲に維持されるので、入射光の強度、および波長が変化しないことが保証される。このことにより、入射光と透過光の強度から得られる次亜塩素酸イオンの濃度は、高い精度で得られることが保証される。他の発明によると、波長270~330nmの範囲を一部でも含む紫外線を測定対象溶液に入射して透過光を検出し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオン濃度を得る測定方法であって、紫外線はLED素子により出力させ、該LED素子には温度センサを接触させてLED温度を測定し、入射光と透過光の強度から次亜塩素酸イオンの濃度を得るとき、LED温度に基づいて濃度を補正するように構成されている。LED素子はLED温度によって入射光の強度が変化し、そして波長も変化するので、吸光光度法により得られる見かけ上の次亜塩素酸イオンの濃度は本来の濃度の値からずれてしまうが、LED温度によってこれを補正するので正確な濃度が得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計を示す図で、その(A)は本実施の第1の形態に係る濃度計の一部を示す斜視図、その(B)は第2の実施の形態に係る濃度計の一部を示す斜視図、その(C)は濃度計の回路を示す回路図である。
図2】その(A)は異なるpHにおける次亜塩素酸について、波長に応じて変化する吸光度を示すグラフである。その(B)は一定濃度の次亜塩素酸溶液についてpHを変化させたとき、波長292nmの光に対する吸光度の変化を示すグラフである。
図3】本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計を使用して、LED温度が25℃に制御している状態でLEDを発光させて色々な次亜塩素酸イオン濃度からなる測定対象溶液に透過させてフォトダイオードで検出させたときの、フォトダイオードで検出される出力電圧と、次亜塩素酸イオン濃度の関係とを示すグラフである。
図4】本実施の第1の形態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法を説明する図で、その(A)はLED素子のON/OFFの時間変化を示すグラフであり、その(B)はLED温度を一定に制御する制御方法を示すブロック図である。
図5】本実施の第2の形態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法を模式的に説明する図である。
図6】本実施の第3の実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計を示す図で、その(A)は濃度計の一部を示す斜視図、その(B)は濃度計において実施されるLED温度制御を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態を説明する。本実施の形態に係る濃度計は、いわゆる吸光光度法により測定対象溶液における次亜塩素酸イオンの濃度を測定する濃度計である。第1、2の実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’について、その一部が図1の(A)、(B)に示されている。本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’も、従来の吸光光度法により溶液の濃度を測定する装置と同様に、所定の波長の光を測定対象溶液に入射する光源3と、測定対象溶液を透過した光を受光する受光部4と、光源3と受光部4とに接続されているコントローラ5とから構成されている。第1の実施の形態においては、光源3と受光部4はそれぞれ液密的に密封された透明なケース7、8に入れられており、測定対象溶液はこれらケース7、8の間を流れるようになっている。一方第2の実施の形態においては光源3と受光部4の間に透明な管路9が設けられ、測定対象溶液はこの管路9を流れるようになっている。
【0014】
本実施の第1、2の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’は、いずれも光源3がLED素子11から構成されている点に第1の特徴がある。本実施の形態に係る濃度計1、1’に採用されるLED素子11は、次亜塩素酸イオンに吸収される所定の範囲の波長を有していることが条件になる。ところで次亜塩素酸における吸光度はpHにより、そして波長により図2の(A)のグラフのように変化することが知られている。波長292nm近傍の紫外線、つまり波長270~330nmの範囲の紫外線を吸収しているのは次亜塩素酸イオン(ClO)であり、波長236nm近傍の紫外線を吸収しているのは非イオン状態の次亜塩素酸(HClO)である。溶液中における非イオン状態の次亜塩素酸と次亜塩素酸の比率はpHにより変化するので、次亜塩素酸全体の濃度が一定でも、次亜塩素酸イオン濃度はpHによって変化して、このようなグラフになっている。なお、波長292nm近傍の紫外線に対する吸光度の変化のみをグラフにすると図2の(B)のようになる。さて、本実施の形態に係る濃度計1、1’によって検出したい濃度は次亜塩素酸イオンの濃度である。そうすると、採用するLED素子11は、波長270~330nmの範囲を一部でも含んでいる紫外線を照射できることが条件になる。さらに好ましくは波長292nmの紫外線を照射できることである。このような観点で、本実施の形態においてはLED素子11としてピーク波長が約290nmのLED素子が採用されている。
【0015】
本実施の形態においてLED素子11には熱電対からなる温度センサ12が接触しているが、これが第2の特徴である。温度センサ12もコントローラ5に接続され、LED素子11の温度、すなわちLED温度が正確にかつリアルタイムで測定できるようになっている。受光部4はフォトダイオード13から構成され、透過光の強度を電圧で検出できるようになっている。
【0016】
本実施の第1、2の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’を構成する回路として、比較的シンプルな構成が図1の(C)に示されているが、LED素子11を駆動する回路は、直流電圧を供給する直流電源16、スイッチとしてのトランジスタ17、抵抗18からなり、制御部20からの信号によってトランジスタ17がON/OFFされてLED素子11がON/OFFされる。一方、フォトダイオード13において電圧を検出する回路は、電圧を増幅するオペアンプ22とオペアンプ22に接続されている負帰還用の抵抗23とから構成され、フォトダイオード13で透過光を受光したとき透過光の強度に応じた出力電圧Vが制御部20で検出されるようになっている。なお、次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’を構成する回路は、この回路に限定される色々な構成を採ることができる。
【0017】
吸光光度法により次亜塩素酸イオンの濃度Cを求めるには、濃度Cと、光が測定対象溶液中を透過する透過長さlと、次亜塩素酸イオンに固有の定数であるmol比吸光度E(0.158)との積が、入射光に対する透過光の強度の比の常用対数に等しいとするランバートベールの法則を使って計算することはできる。しかしながら、計算で次亜塩素酸イオンの濃度Cを得るには入射光に対する透過光の強度の比が正確に得られることが必要になる。本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’で検出されるのはフォトダイオード13の電圧であり、これを元に透過光の強度の比を得なければならない。また透過長さlを精度良く計測する必要もある。これらは技術的に全て可能ではあるが比較的困難でもある。
【0018】
そこで本実施の形態においては、次のような実践的な方法を採用している。まず、次亜塩素酸イオンの濃度が異なり、かつ濃度が正確に分かっている溶液を校正用溶液として複数用意する。これら校正用溶液を順次本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’に与え、フォトダイオード13から検出される出力電圧Vを測定する。ただし、LED素子11は所定の温度、例えば25℃で発光させるよう発光間隔を調整しながら発光させる。あるいは所定の冷却手段によって冷却してLED温度を25℃に維持する。このようにして、それぞれの校正用溶液に対して出力電圧Vを測定する。次いで、次亜塩素酸イオンの濃度と出力電圧Vとを片対数グラフにプロットし、図3のグラフを得る。グラフから、次亜塩素酸イオンの濃度を出力電圧Vを1変数とする多項式で近似する。あるいは他の式で近似する。以下、このようにLED温度25℃における次亜塩素酸イオンの濃度を1変数の出力電圧Vで表す式を25℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式と呼ぶ。次亜塩素酸イオンの濃度が不明な測定対象溶液について、出力電圧Vを測定し、これを25℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式に入力すれば濃度を得ることができる。
【0019】
前記したようにこの方法においては、LED素子11から発光する紫外線が、LED温度によって強度が変化したり波長が変化する点が問題になる。そこで本実施の第1の形態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法では、LED素子11の温度、つまりLED温度が所定の目標温度になるように制御し、その上で測定対象溶液の次亜塩素酸イオンの濃度を測定する。具体的には、LED素子11を発光させるとき、図4の(A)で示されているように、LED素子11を所定の周期t1でON/OFFさせる。ON時間t2の割合、つまりデューティ比t2/t1を調整してLED温度を制御する。次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’のコントローラ5の制御部20に、図4の(B)に示されているフィードバック制御の処理が設けられており、LED温度として目標温度25℃を与え、温度センサ12から検出されるLED温度との偏差を得、偏差がなくなるようにPID制御によりデューティ比を調整する。これにより、LED温度は目標温度25℃に維持される。LED素子11がONされるタイミングでフォトダイオード13からの出力電圧Vを得、25℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式により濃度を計算する。なお、目標温度として他の温度、例えば30℃、40℃等のようにしてもよい。もし、目標温度を30℃とする場合には、予め図3のグラフを得るときにLED温度が30℃になるように維持し、30℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式を得ておけばよい。
【0020】
次に本実施の第2の形態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法を説明する。第2の実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法も、本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’を使用する。この測定方法ではLED温度を一定に制御しない。制御しないのでLED温度は変化することになる。このように変化するLED温度を測定し、測定したLED温度に基づいて、次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式から得られた次亜塩素酸イオンの濃度を補正するようにする。例えば次のように実施することができる。事前に準備を実施する。予め異なる色々なLED温度に対して次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式を得る。具体的には、LED温度が5℃のとき、10℃のとき、15℃のとき、…40℃のとき、…のそれぞれについて、複数の校正用溶液を使って検査し、5℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式、10℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式、…40℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式、…を得る。この様子が図5に示されている。これらの複数の関係式をコントローラ5に記憶させる。準備を完了する。
【0021】
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1、1’において測定対象溶液を与え、出力電圧Vを測定すると共にLED温度を得る。記憶された関係式の中から、得られたLED温度に近い2個の関係式を選択し、これらに出力電圧Vを入力して次亜塩素酸イオンの濃度を2個得る。例えば、LED温度が7℃のとき、5℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式と、10℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式を選択し、2個の次亜塩素酸イオンの濃度を得る。次いで、線形補間等の周知の処理方法によって、2個の次亜塩素酸イオンの濃度からLED温度が7℃における次亜塩素酸イオンの濃度を得る。なお、LED温度による補正は線形補間に限らず、他の方法により補正してもよい。
【0022】
次に本実施の第3の形態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法を説明する。この測定方法は、第1の実施の形
態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法と類似しており、LED温度を目標温度になるように維持して、測定対象溶液の次亜塩素酸イオンの濃度を測定する。この測定方法は、図6の(A)に示されている、第3の実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1’’によって実施される。この濃度計1’’には、LED素子11にペルチエ素子25が設けられている。ペルチエ素子25には裏面側に放熱板26が設けられており、所定方向の電流を流すとLED素子11から熱を奪って放熱板26に放出するようになっている。この実施の形態では、コントローラ5内において、図6の(B)に示されているようなフィードバック制御が実施される。すなわち、LED温度の目標温度として例えば25℃が与えられ、温度センサ12から測定されるLED温度との偏差が計算され、偏差がなくなるようにPID制御によってペルチエ素子への通電が制御される。この状態で測定対象溶液を検査してフォトダイオード13からの出力電圧Vを得、25℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式により濃度を計算する。
【0023】
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法は色々な変形が可能である。例えば、本実施の第1の形態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法を変形することができる。この測定方法ではLED温度として目標温度として25℃を与え、この目標温度になるようにLED素子11への通電のデューティ比を制御している。しかしながら、LED素子11によって、紫外線の波長や強度がほとんど変化しない温度範囲もある。本実施の形態において採用されているLED素子11も25~35℃の範囲において変化は少ない。このような場合には、LED温度は温度範囲25~35℃になるように制御すればよい。さらにはこのように所定の温度範囲になるように制御すれば済む場合には、デューティ比を制御する等の厳密な制御をせずに、シンプルな温度制御方法も可能である。すなわち、LED素子11に通電してLED温度がこの温度範囲を超えそうになったらOFFするような制御方法である。このようなシンプルな温度制御方法を採用する場合には、LED温度が急激に上昇しないように、LED素子11を流れる電流を抑制してもよいし、LED素子11にヒートシンクを取り付けてもよい。
【実施例0024】
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1を使用して本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの測定方法を実施するときの、測定精度を評価するための実験を行った。
○事前準備
8ppm、20ppm、40ppm、60ppm、100ppm、140ppm、200ppmの濃度の次亜塩素酸水をそれぞれ用意して校正用溶液とした。ただし校正用溶液はpH10.5として、実質的にほぼ100%の次亜塩素酸がイオン状態になるようにした。これらの校正用溶液について本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1を使用して、25℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式を得た。具体的には、次亜塩素酸イオン濃度を、出力電圧の二次多項式として表現するす関係式を作成した。
○実験方法
15ppm、30ppm、80ppm、120ppm、160ppmの濃度の次亜塩素酸水を調製し、これらを試験用溶液とした。試験用溶液はいずれもpH10.5とした。これら試験用溶液について、本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1を使用して、LED温度が25℃になるようにして紫外線を透過させそれぞれ出力電圧を得た。25℃:次亜塩素酸イオン濃度-出力電圧の関係式と、得られた出力電圧から次亜塩素酸イオン濃度を計算した。得られた次亜塩素酸イオンの濃度と、正しい濃度とを比較したところ、いずれも3%以内の誤差になっていた。
○考察
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度計1による本実施の形態に係る次亜塩素酸イオンの濃度測定方法は、誤差が3%以内という高い精度で次亜塩素酸イオン濃度が測定できることを確認した。
【0025】
本発明においては、波長292nmを含む紫外線を照射するLED素子11を使用して次亜塩素酸イオンの濃度を測定するようになっている。現在市販はされていないが、波長236nmを含む紫外線を照射するLED素子が存在すれば、当然に非イオン状態の次亜塩素酸の濃度を測定することができる。ただしこのようなLED素子であっても、LED温度によって光の強度や波長が変化する問題は避けられないはずである。そこで本発明と同様の構成を採ればよい。すなわちLED素子に温度センサを接触させてLED温度を測定し、LED温度を一定に制御するようにする。あるいは温度センサから得られたLED温度に基づいて、測定された次亜塩素酸の濃度を補正するようにすればよい。
【符号の説明】
【0026】
1 次亜塩素酸イオンの濃度計 3 光源
4 受光部 5 コントローラ
7 ケース 8 ケース
9 管路 11 LED素子
12 温度センサ 13 フォトダイオード
16 直流電源 17 トランジスタ
18 抵抗 20 制御部
22 オペアンプ 23 抵抗
25 ペルチエ素子 26 放熱板
図1
図2
図3
図4
図5
図6