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特開2022-61335分散性に優れた油脂加工澱粉、その製造方法およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061335
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】分散性に優れた油脂加工澱粉、その製造方法およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/212 20160101AFI20220411BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20220411BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20220411BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20220411BHJP
【FI】
A23L29/212
A23L7/157
A23L17/00 102
A23L5/10 E
A23L17/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169273
(22)【出願日】2020-10-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 和樹
(72)【発明者】
【氏名】有本 美沙
(72)【発明者】
【氏名】井出 千景
【テーマコード(参考)】
4B025
4B034
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B025LB07
4B025LB25
4B025LD03
4B025LD04
4B025LG14
4B025LG28
4B025LP01
4B025LP10
4B025LP15
4B034LB03
4B034LC05
4B034LE01
4B034LE16
4B034LK10X
4B034LK17X
4B034LP01
4B034LP02
4B034LP11
4B034LP20
4B035LC03
4B035LE01
4B035LG12
4B035LG20
4B035LG21
4B035LK15
4B035LP07
4B042AC05
4B042AD18
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK06
4B042AK09
4B042AP05
(57)【要約】
【課題】油脂加工澱粉としての性能と分散性や固結性を両立した油脂加工澱粉、その製造方法およびその用途を提供する。
【解決手段】ヨウ素価が120以上の油脂およびヨウ素価が119以下の油脂を含む油脂加工澱粉からなる。この油脂加工澱粉は、ヨウ素価が120以上の油脂およびヨウ素が119以下の油脂を澱粉に添加し、その後熟成処理を施す工程によって得られる。この油脂加工澱粉は、揚げ物用衣材、肉加工食品用添加材として好ましく用いられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価が120以上の油脂およびヨウ素価が119以下の油脂を含むことを特徴とする油脂加工澱粉。
【請求項2】
前記ヨウ素価が120以上の油脂と前記ヨウ素価が119以下の油脂とのヨウ素価の差が10~170である、請求項1記載の油脂加工澱粉。
【請求項3】
ヨウ素価が120以上の油脂とヨウ素価が119以下の油脂との質量比が15:1~1:8である、請求項1又は2に記載の油脂加工澱粉。
【請求項4】
下記水分散性試験による分散時間が15分以内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂加工澱粉。
[水分散性試験]
200mL容ビーカーに25℃の水100mLを量り入れ、前記ビーカーにスターラーバー(幅5mm×高さ5mm×全長45mm)を投入し、前記水を400rpmの速度で撹拌させつつ、水中に澱粉試料10gを添加したとき、その澱粉試料が水中に均一に分散するのに要する時間を測定する。
【請求項5】
下記スラリー粘度測定法によるスラリー粘度が100mPa・s以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂加工澱粉。
[スラリー粘度測定]
乾燥物重量で90gの澱粉試料をミキサーで氷冷した水中に均一に分散させ、総量300gの30%濃度スラリーを調製する。調製したスラリーの粘度をB型粘度計で測定する。測定条件はローター回転数60rpmで15秒間回転させた後の値とする。
【請求項6】
ヨウ素価が120以上の油脂およびヨウ素が119以下の油脂を澱粉に添加し、その後熟成処理を施す工程を有することを特徴とする油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項7】
前記ヨウ素価が120以上の油脂と前記ヨウ素価が119以下の油脂とのヨウ素価の差が10~170である、請求項6に記載の油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項8】
ヨウ素価が120以上の油脂とヨウ素価が119以下の油脂とを15:1~1:8の質量比で澱粉に添加する、請求項6又は7に記載の油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の油脂加工澱粉を含む揚げ物用衣材。
【請求項10】
請求項9に記載の揚げ物用衣材を含む揚げ物。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載の油脂加工澱粉を含む肉加工食品用添加材。
【請求項12】
請求項11に記載の肉加工食品用添加材を含む肉加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物用衣材等として好適な性能を有しかつ分散性に優れた新規な油脂加工澱粉、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂加工澱粉は、澱粉類に油脂を添加混合し熟成処理を施すことで得られる加工澱粉である。油脂加工澱粉は、揚げ物用衣材として使用した場合に衣に好ましい食感や結着性を付与できることから、揚げ物のバッター液や打ち粉用の素材として広く用いられている。また、油脂加工澱粉は、歩留まりや食感の向上を目的にソーセージ、ハンバーグ、ハムなどの食肉加工食品や、魚肉ソーセージ、カマボコ、ちくわ等の水産練り食品にも用いられている。
【0003】
油脂加工澱粉を製造する際は、その性能を高めるために通常ヨウ素価の高い油脂が用いられる。例えば、特許文献1には、ヨウ素価130以上の油脂を用いた油脂加工澱粉の製造方法が記載されている。特許文献2には、特定のスラリー粘度および溶解度を有する油脂加工澱粉が記載されており、ヨウ素価130以上の油脂を用いるのが好ましいことが記載されている。特許文献3には、特定の溶解度および乳化能を有する油脂加工澱粉が記載されており、ヨウ素価100以上の油脂を用いるのが好ましいことが記載されている。特許文献4には、ヨウ素価が125~170の油脂および一定量のポリフェノールを含む油脂加工澱粉が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54-11247号公報
【特許文献2】特開2005-073506号公報
【特許文献3】WO2012/164801号
【特許文献4】特開2018-139565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ヨウ素価の高い油脂を用いて調製した油脂加工澱粉は、澱粉が固結し易い点および水への分散性が悪い点で欠点を有している。また、水への分散性の改善を目的に油脂加工澱粉に乳化剤を配合する技術があるが、油脂加工澱粉の性能(衣の結着性など)が低下することや、食品添加物フリーの要求には応えられなくなるといった問題がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、油脂加工澱粉としての性能と分散性や固結性を両立した油脂加工澱粉、その製造方法およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ヨウ素価が一定以上の油脂と共にヨウ素価が一定以下の油脂を用いることでその性能と分散性や固結性を両立した油脂加工澱粉が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の油脂加工澱粉は、ヨウ素価が120以上の油脂およびヨウ素価が119以下の油脂を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の油脂加工澱粉においては、前記ヨウ素価が120以上の油脂と前記ヨウ素価が119以下の油脂とのヨウ素価の差が10~170であることが好ましい。
【0010】
また、ヨウ素価が120以上の油脂とヨウ素価が119以下の油脂との質量比が15:1~1:8であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の油脂加工澱粉は、下記水分散性試験による分散時間が15分以内であることが好ましい。
【0012】
[水分散性試験]
200mL容ビーカーに25℃の水100mLを量り入れ、前記ビーカーにスターラーバー(幅5mm×高さ5mm×全長45mm)を投入し、前記水を400rpmの速度で撹拌させつつ、水中に澱粉試料10gを添加したとき、その澱粉試料が水中に均一に分散するのに要する時間を測定する。
【0013】
更に、本発明の油脂加工澱粉は、下記スラリー粘度測定法によるスラリー粘度が100mPa・s以上であることが好ましい。
【0014】
[スラリー粘度測定]
乾燥物重量で90gの澱粉試料をミキサーで氷冷した水中に均一に分散させ、総量300gの30%濃度スラリーを調製する。調製したスラリーの粘度をB型粘度計で測定する。測定条件はローター回転数60rpmで15秒間回転させた後の値とする。使用するローターは、測定粘度に応じて機器が要求する適切なものを選択する。
【0015】
本発明の油脂加工澱粉の製造方法は、ヨウ素価が120以上の油脂およびヨウ素が119以下の油脂を澱粉に添加し、その後熟成処理を施す工程を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の油脂加工澱粉の製造方法においては、前記ヨウ素価が120以上の油脂と前記ヨウ素価が119以下の油脂とのヨウ素価の差が10~170であることが好ましい。
【0017】
また、ヨウ素価が120以上の油脂とヨウ素価が119以下の油脂とを15:1~1:8の質量比で澱粉に添加することが好ましい。
【0018】
本発明の揚げ物用衣材は、上記油脂加工澱粉を含むものである。
【0019】
本発明の揚げ物は、上記揚げ物用衣材を含むものである。
【0020】
本発明の肉加工食品用添加材は、上記油脂加工澱粉を含むものである。
【0021】
本発明の肉加工食品は、上記肉加工食品用添加材を含むものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、食品に対する添加効果と、水への分散性向上や固結性改善とを両立した油脂加工澱粉を得ることができる。具体的には、当該油脂加工澱粉を用いることで、作業効率を損なうことなく、結着性の高い揚げ物用衣や、優れた食感の肉加工食品を製造することができる。さらに、本発明の油脂加工澱粉は、固結し難いため、紙袋等での保存にも適している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明における油脂加工澱粉とは、澱粉粒子表面の少なくとも一部に油脂が付着されたもので、表面物性を変化させたものである。油脂加工澱粉は、澱粉に油脂を添加混合し、常温以上の温度で熟成処理することによって得られる。これにより、単に油脂を澱粉に添加混合しただけのものとは異なる特性を有する加工澱粉が得られる。つまり、澱粉粒子表面の少なくとも一部に前記油脂を付着させることで、澱粉の表面を疎水化することができ、例えば蛋白質との親和性を高めることができる。
【0024】
油脂加工澱粉の性能に関わる澱粉の疎水化度合については、澱粉スラリーの粘度で測定することが可能である。疎水化度合が高いと、澱粉スラリーがホイップ性を有することでスラリー粘度が高くなる。スラリー粘度の高い油脂加工澱粉は、優れた性能を有しており、当該性能を有する油脂加工澱粉を使用することで結着性の高い揚げ物用衣や優れた食感の肉加工食品が得られることがよく知られている。本発明の油脂加工澱粉は、性能の点から、澱粉濃度30質量%のスラリーの粘度が100mPa・s以上のものが好ましい。
【0025】
本発明の油脂加工澱粉の原料となる澱粉としては、食用として利用可能な澱粉であればよく、特に制限はない。例えば、コーンスターチ、タピオカ、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、片栗澱粉、葛澱粉、蕨澱粉、サゴ澱粉等が挙げられる。この中でも、コスト及び効果の点からタピオカ及び/又はコーンスターチが好ましく、特にタピオカが好ましい。また、いずれの澱粉においても通常の澱粉に加え、ウルチ種、ワキシー種、ハイアミロース種のように、育種学的手法もしくは遺伝子工学的手法において改良されたものを用いてもよい。
【0026】
更に、本発明においては、原料となる澱粉として、未加工の生澱粉に加え各種加工処理を施した加工澱粉を使用することも可能である。すなわち、澱粉に、酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理といった化学修飾処理や、α化処理、造粒処理、湿熱処理、ボールミル処理、微粉砕処理、加熱処理、温水処理、漂白処理、殺菌処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理といった加工処理、あるいはそれらの2種以上の処理を施した澱粉を使用してもよい。これらの加工澱粉の中でも、揚げ物の衣材として利用する場合には、架橋澱粉であることが好ましく、リン酸架橋澱粉であることが特に好ましい。
【0027】
本発明の油脂加工澱粉は、ヨウ素価が120以上の油脂およびヨウ素価が119以下の油脂とヨウ素価の異なる油脂を併用することで得られる。ヨウ素価が120以上の油脂としては、ヨウ素価が上記範囲で食用として用いることができる油脂、調製油(例えば油脂を混合したものや、油脂に添加物を配合したものなど)、それらの混合物等が挙げられ、例えば、アマニ油、エゴマ油、シソ油、ハイリノールサフラワー油、ハイリノールひまわり油、コーン油、グレープシード油、大豆油、魚油、藻類油等が挙げられる。同様にヨウ素価が119以下の油脂としては、ヨウ素価が上記範囲で食用として用いることができる油脂、調製油、それらの混合物等が挙げられ、例えば、キャノーラ油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油、パーム油、やし油、ヨウ素価が119以下となるように水添硬化させた硬化油等が挙げられる。油脂加工澱粉の性能の点から、ヨウ素価が120以上の油脂は、そのヨウ素価を120~200とすることができ、130~200とすることが好ましく、140~200とすることがより好ましい。同様にその性能の点から、ヨウ素価が119以下の油脂は、そのヨウ素価を115以下とするのが好ましく、110以下とするのがより好ましく、100以下とすることが特に好ましい。ヨウ素価119以下の油脂は、そのヨウ素価の下限は必要ないが、その性能の点から、30以上とすることができ、40以上とするのが好ましく、70以上とするのがより好ましい。ヨウ素価が120以上の油脂は、1種類の油脂を用いてもよく、複数の油脂を併用してもよい。同様に、ヨウ素価が119以下の油脂は、1種類の油脂を用いてもよく、複数の油脂を併用してもよい。また、澱粉との混合性や作業効率を考慮すると、本発明に用いる油脂は液状油脂であることが好ましい。
【0028】
なお、ヨウ素価が120以上の油脂と、ヨウ素価が119以下の油脂との組合せにおいて、両者のヨウ素価の差(3つ以上の組合せの場合は、ヨウ素価の最大のものと最小のものとの差)は、10~170が好ましく、20~160がより好ましく、30~150が特に好ましい。ヨウ素価の差を上記範囲とすることにより、本発明の効果を高めることができる。
【0029】
また、ヨウ素価が120以上の油脂と、ヨウ素価が119以下の油脂との質量比は、15:1~1:8であることが好ましく、12:1~1:8であることがより好ましく、8:1~1:7であることが特に好ましい。上記質量比とすることにより、本発明の効果を高めることができる。
【0030】
油脂のヨウ素価は、脂肪酸中に存在する不飽和二重結合の総数の指標であり、日本油化学会編基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-2013ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に従って測定する。
【0031】
本発明の油脂加工澱粉を得る際の油脂の澱粉への添加量は、澱粉100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.03~2質量部がより好ましい。0.01質量部未満では、澱粉粒子の表面に油脂が十分に付着されず、澱粉の特性改善効果が弱められる傾向がある。一方、油脂の澱粉への添加量が澱粉100質量部に対して5質量部を超えると、澱粉の粉体流動性が悪くなり作業性が悪くなる傾向や、油脂自体の臭い等が強くなり食品の風味に悪影響を及ぼす傾向がある。油脂の澱粉への添加方法は、澱粉に油脂を分散可能な方法であれば特に制限は無く、例えば、通常の撹拌混合、気流混合、スプレー噴霧等の常法で行うことができる。ヨウ素価が120以上の油脂およびヨウ素価が119以下の油脂をそれぞれ個別に澱粉に添加してもよく、両油脂を予め混合した上で澱粉に添加してもよい。油脂を澱粉に添加する際の澱粉の温度については特に制限は無く、例えば、常温の澱粉や予め加温された澱粉に油脂を添加しても良い。同様に、予め加温した油脂を澱粉に添加してもよい。
【0032】
また、本発明の油脂加工澱粉を得る際に油脂と共に乳化剤を澱粉へ加えても良い。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。また、これらの組み合せでもよい。乳化剤を添加する場合、その添加量は、油脂100質量部に対して、10~1000質量部であることが好ましく、20~500質量部であることがより好ましい。ただし、本発明の趣旨を考慮すると、本発明の油脂加工澱粉は乳化剤を含まないものであることが好ましい。
【0033】
さらに、本発明の油脂加工澱粉を得る際に油脂と共に大豆粉、大豆蛋白質、エンドウ蛋白質などの食用蛋白質素材(例えば植物性蛋白質素材)を加えてもよい。食用蛋白質素材を添加することでその性能や分散性を高めることができる場合がある。
【0034】
また、特許文献4に記載されているように油脂加工澱粉を得る際に油脂と共にポリフェノールを添加してもよい。ポリフェノールを添加することでその性能や分散性を高めることができる場合がある。ただし、そのコストや風味を損なう場合があることから、本発明自体で十分に分散性を向上できる点などを考慮すると、本発明の油脂加工澱粉はポリフェノールが添加されていない油脂加工澱粉であることが好ましい。
【0035】
熟成処理は、澱粉と油脂と必要により乳化剤等の他の原料とを混合したものを、例えば、各種リアクター、エクストルーダー、ドライヤー、タンク、容器、包材等に入れた状態で、常温(例えば10℃、好ましくは15℃)以上の温度において、一定期間処理することにより行うことができる。常温以上の温度であれば当該処理は進み、高温であれば熟成に要する時間は短くなる。すなわち、常温以上の温度条件下に静置することで熟成処理を施すこともでき、加熱することでより高温下で短い時間で熟成処理(加熱熟成処理)を施すこともできる。熟成処理においては、原料澱粉に過度の分解が起こらないように条件を設定する必要がある。このような熟成温度としては、30~180℃が好ましく、50~160℃がより好ましい。また、熟成時間は、温度が高いほど短時間でよいが、30分~2ヶ月が好ましく、1時間~1ヶ月がより好ましい。また、熟成処理は、澱粉に油脂を添加混合した後に行ってもよく、加温状態で澱粉へ油脂を添加混合することで油脂の添加と熟成処理を同一行程で行ってもよい。
【0036】
本発明の油脂加工澱粉は、各種食品に配合して用いることができる。食品の種類に特に制限はないが、例えば、揚げ物用衣材の原料として用いることができ、具体的にはバッターや打ち粉といった衣材の原料として用いることができる。バッターとして使用する際は水などに油脂加工澱粉を混ぜる必要があり、油脂加工澱粉の分散性が悪いと調整に時間を要し、またダマができバッターが不均一になるため好ましくない。本発明の油脂加工澱粉は、分散性に優れるという特徴を有しており、この点で有利である。また、打ち粉として使用する際には、分散性が悪い油脂加工澱粉は水馴染みが悪いことに起因して打ち粉を付けた後の具材にバッター液が付着し難く、結果として衣が剥がれてしまうため好ましくない。本発明の油脂加工澱粉は、水馴染みが良い特徴を有しており、この点で有利である。
【0037】
本発明の油脂加工澱粉の食品への添加量は、食品の種類に応じて適宜設定すればよいが、揚げ物用衣材の場合、揚げ物用衣材中に、油脂加工澱粉を0.1~100質量%配合することができ、1~100質量%配合することが好ましく、20~100質量%配合することがより好ましい。配合量をこの範囲とすることで、衣の結着性を十分に高めることが可能である。
【0038】
揚げ物用衣材は、本発明の油脂加工澱粉をそのまま用いてもよく、例えば、小麦粉、コーンフラワー、大豆粉等の穀粉、澱粉、膨張剤、全卵、卵白等の卵又はその加工物、乳化剤、増粘剤、食塩、糖類、香辛料等といった他の素材を配合したものでもよい。
【0039】
本発明の揚げ物の製造方法は、上記揚げ物用衣材を具材に付着させた後、油ちょう処理を行うことを特徴とする。
【0040】
このような揚げ物用衣材を用いて得られる揚げ物としては、から揚げ、天ぷら、竜田揚げ、フライドチキン、チキンカツ、豚カツ、牛カツ、メンチカツ、コロッケ、エビフライ、イカリング、フリッター等を挙げることができる。
【0041】
なお、本発明における揚げ物は、通常通り油ちょうされたものに限らず、フライパン、電子レンジ、オーブン、オーブンレンジ、コンベクションオーブン等による加熱調理法を利用した、所謂ノンフライ食品であっても良い。
【0042】
また、本発明の油脂加工澱粉は、肉加工食品の添加材として用いることができる。本発明における肉加工食品とは、畜肉や家禽肉などを加工した食品である、いわゆる食肉加工食品に加え、魚介肉を加工した食品である魚介肉加工食品も含むものである。
【0043】
肉加工食品において、本発明の添加材は、肉加工食品の原料として畜肉や魚介肉などに直接配合して用いたり、調味液、浸漬液、ピックル液などの液状添加材の原料として用いることができる。
【0044】
一般に液状添加材として使用する際は、水などに油脂加工澱粉を混ぜる必要があり、油脂加工澱粉の分散性が悪いと調整に時間を要し、またダマができ、得られる肉加工食品が不均一になるという問題がある。同様に、挽肉やすり身、調味料、野菜などの他の原料に油脂加工澱粉を直接配合し混合する際も、作業効率や均一性の点から油脂加工澱粉の分散性は重要である。本発明の油脂加工澱粉は、分散性に優れるという特徴を有しており、この点で有利である。
【0045】
本発明の油脂加工澱粉の肉加工食品への添加量は、加熱前の総原材料のうち、0.1~15質量%配合することができ、1~13質量%配合することが好ましい。配合量をこの範囲とすることで、加熱調理後の歩留まりを高めつつ、食感に優れた肉加工食品を得ることができる。
【0046】
本発明の肉加工食品は、食肉や魚介肉および本発明の油脂加工澱粉の他に、例えば、野菜、卵、植物性タンパク、調味料、穀粉類、澱粉類、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料等を配合してもよい。
【0047】
本発明の肉加工食品は、食肉や魚介肉を含む原料中に、少なくとも本発明の油脂加工澱粉を配合し、必要に応じて成形し、加熱処理することにより得ることができる。肉加工食品の態様の1つである食肉加工食品の種類に特に制限はなく、ハム、プレスハム、ベーコン、焼豚、カツレツ、から揚げ、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、メンチカツ、フライドチキン、チキンナゲット、ロールキャベツ、餃子、シュウマイ、中華まん、ミートローフ、ステーキ、焼肉、ローストビーフ、成形肉等が例示される。同様に、肉加工食品の態様の1つである魚介肉加工食品として、かまぼこ、カニカマ、エビカマ、ちくわ、さつま揚げ、はんぺん、魚肉ソーセージ、だて巻き、なると巻き、つみれ、冷凍すり身、エビフライ、焼き魚等が例示される。
【0048】
食肉や魚介肉の処理方法、原料及び副原料の配合組成、原料の添加方法、生地の成形方法、加熱等の調理方法は、肉加工食品の種類に応じて、従来から知られている方法に準じて行えばよく、特に制限されるものではない。原料の食肉としては、例えば、牛、豚、羊、山羊、馬等の家畜や、鶏、アヒル、鴨、ガチョウ、ウズラ等の家禽の、ブロック肉や、肝臓などの内臓、これを細切したミンチ・挽肉などを利用することができるが、特に制限されるものではない。原料の魚介肉としては、例えば、スケソウダラ、グチ、サメ、タチウオ、ヒラメ、サケ、ホッケ、イワシ、アジ、エビ、イカ、貝等の肉身や、それを加工したすり身などを利用することができるが、特に制限されるものではない。また、食肉や魚介肉の一部または全部を大豆蛋白質などの非動物性素材で代替した代替肉(植物肉)や代替肉を使用した加工食品も本発明における肉加工食品に含む。
【0049】
本発明の油脂加工澱粉は、上記の通り、揚げ物や肉加工食品の性能や製造作業効率に寄与するだけでなく、固結し難いという特徴を有するため荷重のかかる状態で保存しても塊が生じにくく、紙袋等での保存にも適している。
【0050】
本発明の油脂加工澱粉は、その性能の点から以下の実施例に記載した水分散性試験における分散時間が15分以内のものであることが好ましい。なお、本発明の水分散性試験においては、後述の実施例のとおり、澱粉試料を水に投入してからその粉塊が消失するまでの時間を分散時間として測定する。
【実施例0051】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
試験例1
[油脂加工澱粉の調製]
(澱粉試料1)
ハイリノールサフラワー油(ヨウ素価140)とハイオレイックサフラワー油(ヨウ素価90)を1:1の質量比で混合し、油脂組成物を調製した。リン酸架橋タピオカ(Asia Modified Starch Co., Ltd.製)100質量部に対して、調製した油脂組成物0.3質量部を加えて、ミキサーで均一に撹拌混合し、混合物を得た。この混合物を送風型乾燥機にて、130℃で3時間加熱し、油脂加工澱粉を得た。
【0053】
(澱粉試料2)
ハイリノールサフラワー油の代わりにエゴマ油(ヨウ素価200)を用いた以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0054】
(澱粉試料3)
ハイリノールサフラワー油の代わりにハイリノールひまわり油(ヨウ素価120)を用いた以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0055】
(澱粉試料4)
ハイオレイックサフラワー油の代わりにキャノーラ油(ヨウ素価110)を用いた以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0056】
(澱粉試料5)
ハイオレイックサフラワー油の代わりに精製パーム油(ヨウ素価50)を用いた以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0057】
(澱粉試料6)
油脂組成物をハイリノールサフラワー油のみとした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0058】
(澱粉試料7)
油脂組成物をエゴマ油のみとした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0059】
(澱粉試料8)
油脂組成物をハイリノールひまわり油のみとした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0060】
(澱粉試料9)
油脂組成物をキャノーラ油のみとした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0061】
(澱粉試料10)
油脂組成物をハイオレイックサフラワー油のみとした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0062】
(澱粉試料11)
エゴマ油とハイリノールひまわり油を1:1の質量比で混合し、油脂組成物を調製した以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0063】
[水分散性試験]
200mL容ビーカーに25℃の水100mLを量り入れ、前記ビーカーに市販のスターラーバー(幅5mm×高さ5mm×全長45mm)を投入し、前記水を400rpmの速度で撹拌させつつ、水中に澱粉試料10gを添加したとき、その澱粉試料が水中に均一に分散するのに要する時間を測定した。より具体的には、疎水化された澱粉は、水面に粉塊として存在するが、時間の経過に伴い、水になじんで、水中にも移行し、その後スターラーバーの撹拌によって、水中に均一に分散するようになるので、それまでの時間(粉塊が消失するまでの時間)を測定した。
【0064】
上記手法で測定した分散時間が15分以内の油脂加工澱粉を望ましい水分散性を有しているものと判断した。
【0065】
[スラリー粘度測定]
乾燥物重量で90gの澱粉をミキサーで氷冷した水中に均一に分散させ、総量300gの30%濃度スラリーを調製した。調製したスラリーの粘度をB型粘度計(TVB10M、東機産業株式会社)で測定した。測定条件はローター回転数60rpmで15秒間回転させた後の値とした。
【0066】
既に述べたとおりスラリー粘度は、澱粉試料の疎水化度合、すなわち澱粉の油脂加工度合(油脂加工澱粉の性能)を示すパラメータであり、スラリー粘度が100mPa・s以上の油脂加工澱粉を望ましい性能を有しているものと判断した。
【0067】
各澱粉試料の水分散性(分散時間)およびスラリー粘度の測定結果を表1に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1より、ヨウ素価120以上の油脂とヨウ素価119以下の油脂を含む油脂加工澱粉(澱粉試料1~澱粉試料5)は、スラリー粘度が100mPa・s以上であり、油脂加工澱粉としての性能が優れていると考えられる。さらに、当該油脂加工澱粉は、水分散性が15分以内であったことから、高いスラリー粘度と水分散性を両立することが可能であった。一方、ヨウ素価120以上の油脂のみを混合した澱粉試料6~8および澱粉試料11は水分散性が悪く、15分以上の時間を要した。また、ヨウ素価119以下の油脂のみを混合した澱粉試料9および澱粉試料10は、スラリー粘度が100mPa・s未満となり、油脂加工澱粉としての性能が不十分であった。
【0070】
試験例2
[油脂加工澱粉の調製]
(澱粉試料12)
ハイリノールサフラワー油とハイオレイックサフラワー油の混合比を1:5の質量比とした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0071】
(澱粉試料13)
ハイリノールサフラワー油とハイオレイックサフラワー油の混合比を1:7の質量比とした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0072】
(澱粉試料14)
ハイリノールサフラワー油とハイオレイックサフラワー油の混合比を5:1の質量比とした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0073】
(澱粉試料15)
ハイリノールサフラワー油とハイオレイックサフラワー油の混合比を7:1の質量比とした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0074】
(澱粉試料16)
ハイリノールサフラワー油とハイオレイックサフラワー油の混合比を10:1の質量比とした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0075】
(澱粉試料17)
ハイリノールサフラワー油とハイオレイックサフラワー油の混合比を1:10の質量比とした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0076】
(澱粉試料18)
ハイリノールサフラワー油とハイオレイックサフラワー油の混合比を20:1の質量比とした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0077】
各澱粉試料の水分散性(分散時間)およびスラリー粘度を試験例1と同様に測定し、その結果を表2に示した。
【0078】
【表2】
【0079】
表2より、2つの油脂の混合比率が極端に偏ると、本発明の効果が得られにくいことが示唆された。
【0080】
試験例3
[油脂加工澱粉の調製]
(澱粉試料19)
油脂組成物を予め調製せず、ハイリノールサフラワー油とハイオレイックサフラワー油を澱粉100質量部に対して、それぞれ0.15質量部ずつ添加し混合した以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0081】
(澱粉試料20)
リン酸架橋タピオカを未加工タピオカとした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0082】
(澱粉試料21)
リン酸架橋タピオカをコーンスターチとした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0083】
(澱粉試料22)
リン酸架橋タピオカを未加工タピオカとし、油脂組成物をハイリノールサフラワー油のみとした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0084】
(澱粉試料23)
リン酸架橋タピオカをコーンスターチとし、油脂組成物をハイリノールサフラワー油のみとした以外は、澱粉試料1と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0085】
各澱粉試料の水分散性(分散時間)およびスラリー粘度を試験例1と同様に測定し、その結果を表3に示した。
【0086】
【表3】
【0087】
澱粉試料19より、2種の油脂を予め混合し油脂組成物を調製することは必須でなく、澱粉添加後に混合することでも、発明の効果を得ることが可能であることが示された。また、澱粉試料20および澱粉試料21より、油脂加工澱粉の原料となる澱粉の種類に関係なく本発明の効果が発揮されることが示された。
【0088】
試験例4
[油脂加工澱粉の調製]
(澱粉試料24)
ハイリノールサフラワー油(ヨウ素価140)とハイオレイックサフラワー油(ヨウ素価90)を1:1の質量比で混合し、油脂組成物を調製した。リン酸架橋タピオカ100質量部に対して、調製した油脂組成物0.3質量部を加えて、ミキサーで均一に撹拌混合し、混合物を得た。この混合物100kgを20kgずつ紙袋に充填し、70℃の倉庫で5日間保管し油脂加工澱粉を得た。保管時は、他の紙袋を上に乗せることで試料100kgに対し、2000kgの荷重を加えた。
【0089】
(澱粉試料25)
油脂組成物をハイリノールサフラワー油のみとした以外は澱粉試料24と同様の手法で油脂加工澱粉を得た。
【0090】
[固結の確認]
調製した油脂加工澱粉の紙袋を2袋解体し、固結物の量を目視で評価した。また、得られた固結塊の硬さを手で破壊することで評価した。
【0091】
結果を表4に示した。
【0092】
【表4】
【0093】
表4より、2種の油脂を併用した澱粉試料24は、澱粉試料25と比較して固結物の量が少なかった。また、固結塊も柔らかく崩れやすいもので、取り扱いし易い品質となることが確認された。
【0094】
応用例1
[豚ロース肉を用いたトンカツ衣の結着性試験]
上記試験例にて調製した油脂加工澱粉(澱粉試料1,12,6,10,17)を用いて衣の結着性試験を実施した。揚げ物の具材として豚ロース肉を用いた。脂をトリミングした豚ロース肉を10mm厚にスライスし、予め凍結しておき、使用する直前に表面部分のみを温風にて解凍した。バッターは、澱粉100質量部に対し、増粘多糖類0.4質量部と氷冷水180質量部を加えて攪拌混合することで調製した。豚ロース肉にバッターを対肉30質量%となるように付着させ、パン粉付けして凍結した。冷凍保存後、大豆白絞油を用いて、175℃で5分間フライし、トンカツを調製した。トンカツはフライの3分間後にカットし、120分間後に目視による肉と衣の結着性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
1:完全に剥がれている、2:ほとんど剥がれている、3:半分程度剥がれている
4:ほとんど結着している、5:完全に結着している
評価は5名の熟練したパネラーで実施し、評価結果は平均点( 小数点第2位以下は四捨五入)で表示した。結果を表5に示した。
【0095】
【表5】
【0096】
表4より、水分散性とスラリー粘度を両立した澱粉試料1及び澱粉試料12を用いた衣は高い結着性を示した。一方、スラリー粘度は高いが水分散性が悪い澱粉試料6を用いた衣は、上記衣に比べ結着性が劣っていた。また、スラリー粘度が低い澱粉試料10及び澱粉試料17を用いた衣はさらに結着性が低かった。以上の結果より、スラリー粘度が一定以上の油脂加工澱粉は高い性能(結着性)を有していること、油脂加工澱粉の性能(結着性)にはスラリー粘度だけでなく水分散性も影響する可能性が示された。
【0097】
応用例2
[肉加工食品による評価]
上記試験例にて調製した油脂加工澱粉(澱粉試料1,12,6,10)を用いて肉加工食品(魚介肉加工食品)による評価を実施した。冷凍スケソウダラのすり身50質量部を解凍した後に、出口径4.8mmのプレートを取り付けたミートチョッパーでチョッピングし、更にフードカッターで粗ずりを行った。これに、食塩2質量部と氷水18質量部を添加しカッティングした後、油脂加工澱粉12質量部と氷水18質量部を添加し、カッティングした。得られた生地を直径45mmの筒状の塩化ビニリデン製フィルムに充填し、85℃の湯の中でボイルし、カマボコを得た。
(カマボコの硬さ評価)
得られたカマボコについて、魚介肉加工食品において重要な評価項目である硬さ( ゲル強度)について食感を評価した。評価基準は以下の通りである。
1:とても柔らかい、2:柔らかい、3:やや柔らかい、4:やや硬い、5:硬い
評価は5名の熟練したパネラーで実施し、評価結果は平均点( 小数点第2位以下は四捨五入)で表示した。
(弾力)
得られたカマボコについて、魚肉練製品において重要な評価項目である弾力について食感を評価した。評価基準は以下の通りである。
1:とても脆い、2:脆い、3:やや脆い、4:やや弾力がある、5:弾力がある
評価は5名の熟練したパネラーで実施し、評価結果は平均点(小数点第2位以下は四捨五入)で表示した。
(破断荷重測定)
得られたカマボコについて、破断荷重測定を実施した。カマボコを直方体(10mm×10mm×20mm)に切断し、レオメーター(RE2-33005B、山電社製)を用い、以下の条件でサンプルの長辺中央を垂直にせん断した際の破断荷重(gf)を測定した。
・プランジャー:くさび形
・破断歪率:98%
・ロードセル:2039.4gf(20N)
・せん断速度:1mm/秒
表6に魚介肉加工食品による評価結果を示した。
【0098】
【表6】
【0099】
表6より、水分散性とスラリー粘度を両立した澱粉試料1及び澱粉試料12を用いたカマボコは高いゲル強度を示し、官能評価点も高かった。一方、水分散性が悪い澱粉試料6やスラリー粘度が低い澱粉試料10を用いてカマボコは、ゲル強度及び官能評価点が低かった。以上の結果より、スラリー粘度が一定以上の油脂加工澱粉は高い性能(食感改良効果)を有していること、油脂加工澱粉の性能(食感改良効果)にはスラリー粘度だけでなく水分散性も影響する可能性が示された。なお、本結果は魚肉の蛋白質と油脂加工澱粉の相互作用によるものであるため、畜肉を用いた食肉加工食品においても本応用例と同様の効果が発揮される。
【手続補正書】
【提出日】2021-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価が120以上の食用油脂およびヨウ素が119以下の食用油脂を澱粉に添加し、その後熟成処理を施す工程を有することを特徴とする油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項2】
前記ヨウ素価が120以上の食用油脂と前記ヨウ素価が119以下の食用油脂とのヨウ素価の差が10~170である、請求項1に記載の油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項3】
ヨウ素価が120以上の食用油脂とヨウ素価が119以下の食用油脂とを15:1~1:8の質量比で澱粉に添加する、請求項1又は2に記載の油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項4】
得られる油脂加工澱粉の下記水分散性試験による分散時間が15分以内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂加工澱粉の製造方法。
[水分散性試験]
200mL容ビーカーに25℃の水100mLを量り入れ、前記ビーカーにスターラーバー(幅5mm×高さ5mm×全長45mm)を投入し、前記水を400rpmの速度で撹拌させつつ、水中に澱粉試料10gを添加したとき、その澱粉試料が水中に均一に分散するのに要する時間を測定する。
【請求項5】
得られる油脂加工澱粉の下記スラリー粘度測定法によるスラリー粘度が100mPa・s以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂加工澱粉の製造方法。
[スラリー粘度測定]
乾燥物重量で90gの澱粉試料をミキサーで氷冷した水中に均一に分散させ、総量300gの30%濃度スラリーを調製する。調製したスラリーの粘度をB型粘度計で測定する。測定条件はローター回転数60rpmで15秒間回転させた後の値とする。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法で得られた油脂加工澱粉を含有させることを特徴とする揚げ物用衣材の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で得られた揚げ物用衣材を用いることを特徴とする揚げ物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の油脂加工澱粉を含有させることを特徴とする肉加工食品の製造方法。