(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061344
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】真空排気システム
(51)【国際特許分類】
F04B 37/16 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
F04B37/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169296
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】野中 学
【テーマコード(参考)】
3H076
【Fターム(参考)】
3H076AA21
3H076BB21
3H076BB33
3H076BB34
3H076CC44
3H076CC82
3H076CC91
(57)【要約】
【課題】ポンプ、バルブの小型化及び配管径を細くできると共に、高真空から大流量域に至るまでポンプの排気特性を活かした高効率な排気ができる真空排気システムを提供する。
【解決手段】真空チャンバ5内で使用済みとなったプロセスガスは調整弁7を通り分岐配管29に到る。分岐配管29の図中Aで示す側の流路は、第2のポンプの吸気口に接続されている。一方、分岐配管29の図中Bで示す側の流路には、バイパス用バルブ23が配設されている。そして、第2のポンプの排気口の下流とバイパス用バルブ23の下流には分岐配管27を介して第1のポンプが接続されている。低中真空領域(大流量排気時)ではバイパス用バルブ23を開く。このとき、第2のポンプを通した流路Aと流路Bの両方でガスを排気する。そして、それよりも低い中高真空条件の排気を行う場合はバイパス用バルブ23を閉じて流路Aで排気する。これにより、流路Bの配管は細くできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧から中真空域の真空排気を行う第1のポンプと、
該第1のポンプに対し直列に接続され、前記第1のポンプよりも到達圧力が低い第2のポンプと、
該第2のポンプの吸気口と排気口に連通する配管を介して前記第2のポンプと並列に配設されたバイパス用バルブと、を備えた真空排気システムにおいて、
前記第2のポンプの流路と前記バイパス用バルブの流路の双方を介して、真空チャンバからの排ガスを排気することを特徴とする真空排気システム。
【請求項2】
低中真空領域では前記第1のポンプと前記第2のポンプを運転しつつ前記バイパス用バルブを開し、中高真空領域では前記第1のポンプと前記第2のポンプを運転しつつ前記バイパス用バルブを閉じることを特徴とする請求項1記載の真空排気システム。
【請求項3】
前記真空チャンバを流れる前記排ガスの流量を計測する流量計測手段と、
該流量計測手段で計測された流量の大きさに基づき前記バイパス用バルブを開若しくは閉させる開閉制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空排気システム。
【請求項4】
前記バイパス用バルブの開度を制御する開度制御手段を備え、
該開度制御手段により前記開度が前記真空チャンバを流れる前記排ガスの流量及び排気系内の圧力の少なくともいずれか一つに応じて制御されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空排気システム。
【請求項5】
前記第1のポンプが中真空域での排気速度が大きい容積移送型真空ポンプで構成されたことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の真空排気システム。
【請求項6】
前記第2のポンプが高真空領域での排気速度が高く、到達圧力が高真空ないしそれよりも低い圧力に達する運動量移送型真空ポンプで構成されたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の真空排気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空排気システムに係わり、特にポンプ、バルブの小型化及び配管径を細くできると共に、高真空から大流量域に至るまでポンプの排気特性を活かした高効率な排気ができる真空排気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。これらの半導体は、極めて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、半導体基板上に微細な回路パターンを形成し、これを積層するなどして製造される。
そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態の真空チャンバ内で行われる必要がある。この真空チャンバの排気には、一般に容積移送型真空ポンプや運動量移送型真空ポンプで構成されるポンプ装置を適用した真空排気システムが用いられている。
【0003】
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、真空排気システムは真空チャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスを真空チャンバ内から排気するのにも使用される(例えば特許文献1を参照)。更に、真空排気システムは、電子顕微鏡等の設備において、粉塵等の存在による電子ビームの屈折等を防止するため、電子顕微鏡等の真空チャンバ内の環境を高度の真空状態とするのにも用いられている。この従来の真空排気システムの構成図を
図3に示す。
【0004】
図3において、ガスシリンダ1から供給されたプロセスガスはガス流量コントローラ3で流量を調整された後、真空チャンバ5に投入される。その後、真空チャンバ5内で使用済みとなったプロセスガスは真空チャンバ5から吐出され、ガス流量を調整する調整弁7を通り分岐配管9に到る。分岐配管9の図中Aで示す側の流路は、流路切替用バルブ11を介して第2のポンプの図示しない吸気口に接続されている。一方、分岐配管9の図中Bで示す側の流路には、流路切替用バルブ13が配設されている。
【0005】
そして、第2のポンプの図示しない排気口には流路切替用バルブ15が配設され、この流路切替用バルブ15の下流と流路切替用バルブ13の下流には分岐配管17を介して第1のポンプが接続されている。
【0006】
かかる構成において、真空チャンバ5で行われるプロセスの条件として、ガス流量の多い低中真空域のプロセスと、それよりも低い圧力条件が必要な中高真空域のプロセスの両方の条件が必要な場合について説明する。
【0007】
この場合、従来、ガス流量の多い低中真空域のプロセスでは、流路切替用バルブ11及び流路切替用バルブ15を閉止し、流路切替用バルブ13を開いて流路Bを介して排気を行っていた。一方、それよりも低い圧力条件が必要な中高真空域のプロセスでは、流路切替用バルブ13を閉止し、流路切替用バルブ11及び流路切替用バルブ15が開くように切り替え、流路Aを介して排気を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、この真空排気システムにおいて、大流量排気時に真空チャンバ5の圧力を下げるためには流路Bの配管や流路切替用バルブ13の口径を大きくする必要がある。このため、真空排気システムが大型化して設置スペースの確保が困難になったりコストが高くなるおそれがあった。
【0010】
また、真空チャンバ5から流すプロセスガスが大流量の場合には
図4に示すように真空チャンバ5に対し直接バイパス配管21を接続することもあるが、前述と同様に真空排気システムが大型化して設置スペースの確保が困難になったりコストが高くなるおそれがあった。なお、
図4において、
図3と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する(以下、同旨)。
【0011】
更に、
図5には、第2のポンプが中真空域でも運転可能な場合で、この第2のポンプが第1のポンプと直列に接続された例を示す。
しかしながら、この場合には第2のポンプの排気効率が中真空領域では低下してシステムの排気性能が低下するおそれがあった。この第2のポンプの排気特性がこの中真空領域で低下するときの様子を
図6に示す。即ち、第2のポンプは、0.1[Pa]よりも圧力が高い中真空領域では、圧力が高くなるに連れて次第に実効排気速度が低下していることが分かる。
【0012】
それを補うためには、第2のポンプを大型化したり、配管やバルブをサイズアップする必要があり、真空排気システムが大型化する。このため、前述と同様に設置スペースの確保が困難になったりコストが高くなるおそれがあった。
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、ポンプ、バルブの小型化及び配管径を細くできると共に、高真空から大流量域に至るまでポンプの排気特性を活かした高効率な排気ができる真空排気システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため本発明(請求項1)は、大気圧から中真空域の真空排気を行う第1のポンプと、該第1のポンプに対し直列に接続され、前記第1のポンプよりも到達圧力が低い第2のポンプと、該第2のポンプの吸気口と排気口に連通する配管を介して前記第2のポンプと並列に配設されたバイパス用バルブと、を備えた真空排気システムにおいて、前記第2のポンプの流路と前記バイパス用バルブの流路の双方を介して、真空チャンバからの排ガスを排気することを特徴とする。
【0014】
第1のポンプの吸引に加え、第2のポンプの流路とバイパス用バルブの流路の双方を介して、真空チャンバからの排ガスを排気する。これにより、第2のポンプの流路とバイパス用バルブの流路とを切り替えて吸引した場合や、第1のポンプと第2のポンプを直列に接続して吸引した場合に比べ、この真空排気系では、第2のポンプのサイズを拡大することなく、第2のポンプと第1のポンプの両方の排気特性を活かした真空排気が可能となる。バイパス用バルブや配管径も小さく構成できる。
【0015】
また、本発明(請求項2)は、低中真空領域では前記第1のポンプと前記第2のポンプを運転しつつ前記バイパス用バルブを開し、中高真空領域では前記第1のポンプと前記第2のポンプを運転しつつ前記バイパス用バルブを閉じることを特徴とする。
【0016】
これにより、第2のポンプ、バイパス用バルブ及び配管径の小型化が図れるとともに、高真空から大流量域に至るまで、第1のポンプ及び第2のポンプの排気特性を活かした高効率な排気が可能となる。
【0017】
更に、本発明(請求項3)は、前記真空チャンバを流れる前記排ガスの流量を計測する流量計測手段と、該流量計測手段で計測された流量の大きさに基づき前記バイパス用バルブを開若しくは閉させる開閉制御手段を備えて構成した。
【0018】
流量計測手段で計測された流量の大きさに基づきバイパス用バルブを開若しくは閉させる。これにより、真空チャンバを流れる排ガスの流量が大流量のときと真空チャンバで高真空が必要な小流量(若しくはガス流量ゼロ)のときとを切り替えて効率よく制御ができる。
【0019】
更に、本発明(請求項4)は、前記バイパス用バルブの開度を制御する開度制御手段を備え、該開度制御手段により前記開度が前記真空チャンバを流れる前記排ガスの流量及び排気系内の圧力の少なくともいずれか一つに応じて制御されることを特徴とする。
【0020】
バイパス用バルブの開度を制御することにより、ポンプにかかる圧力負荷を低減させてポンプを安定して運転できるようになる。また、排気の脈動によりプロセス条件が変動したり、真空チャンバ内の加工対象の、圧力変動や振動による位置ずれを防止することができる。
【0021】
更に、本発明(請求項5)は、前記第1のポンプが中真空域での排気速度が大きい容積移送型真空ポンプで構成されたことを特徴とする。
【0022】
更に、本発明(請求項6)は、前記第2のポンプが高真空領域での排気速度が高く、到達圧力が高真空ないしそれよりも低い圧力に達する運動量移送型真空ポンプで構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、第1のポンプの吸引に加え、第2のポンプの流路とバイパス用バルブの流路の双方を介して、真空チャンバからの排ガスを排気するように構成したので、この真空排気系では、第2のポンプのサイズを拡大することなく、第2のポンプと第1のポンプの両方の排気特性を活かした真空排気が可能となる。バイパス用バルブや配管径も小さく構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態である真空排気システムの構成図
【
図2】
図1の構成における真空排気システムの排気特性図
【
図6】第2のポンプの排気特性が中真空領域で低下するときの様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態である真空排気システムの構成図を
図1に示す。
図1において、真空チャンバ5内で使用済みとなったプロセスガスは調整弁7を通り分岐配管29に到る。分岐配管29の図中Aで示す側の流路は、第2のポンプの図示しない吸気口に接続されている。一方、分岐配管29の図中Bで示す側の流路には、バイパス用バルブ23が配設されている。
【0026】
そして、第2のポンプの図示しない排気口の下流とバイパス用バルブ23の下流には分岐配管27を介して第1のポンプが接続されている。
かかる構成において、第1のポンプとして、例えばルーツ式、スクリュー式、クロー式等の容積移送型真空ポンプを用いる。第1のポンプの特性としては中真空域の排気速度が大きく、大流量のガスの排気に適したポンプが望ましい。そして、より高い排気速度を得るためにはこれらを多段化しても良い。第1のポンプはポンプサイズが大きくなるため、クリンルームの外に設置されても良い。
【0027】
一方、第2のポンプとして、例えばターボ分子ポンプ、分子ポンプ(ねじ溝式、シーグバーン式、ゲーデ式等のドラッグポンプ)等の運動量移送型真空ポンプを用いる。第2のポンプの特性としては高真空領域の排気速度が高く、到達圧力は高真空ないしそれよりも低い圧力に達するポンプが望ましい。運動量移送型真空ポンプは、一般に気体分子に効果的に運動量を付与できるように高回転数で運転されるので、中真空域の大流量のガスの排気には発熱や大きな電力を必要とするため適していない。また、排気原理により中真空領域では排気速度が低下する。
なお、第2のポンプは高真空性能を得るために真空チャンバ5の近傍に設置されることが望ましい。
【0028】
次に、本発明の実施形態の作用について説明する。
図1において、低中真空領域(大流量排気時)ではバイパス用バルブ23を開く。このとき、第2のポンプを通した流路Aと流路Bの両方でガスを排気する。そして、それよりも低い中高真空条件の排気を行う場合はバイパス用バルブ23を閉じて流路Aで排気する。
【0029】
図2にはこの
図1の構成における真空排気システムの排気特性図を示す。
図1の流路Bは
図3~
図5の場合に比べて細い配管で構成されている。このため、
図2に実線で示すように
図6の第1ポンプの山形の特性に比べて流路Bの排気特性の山形の高さは低い。しかしながら、流路Aと流路Bの両方でガスを排気するため、流路Aと流路Bの合流点である
図1中のC点での排気速度はおおむね流路Aと流路Bの排気速度の合計になる。従って、C点における低中真空領域の排気特性としては、
図2中に点線の山形で示すように、
図3~
図4の構成のときに流路切替用バルブ13を流れる排気特性と同じ高さを有する形状になる。
【0030】
このように流路Aと流路Bの両方でガスを排気するため、システムの排気特性としては低中真空領域での
図2中に点線で示す山形状の排気特性と、流路A側の低中真空領域では実効排気速度が減衰する一方で高真空域ではフラットとなる排気特性とが、
図2中に「イ」で示す連続遷移部分のように合成される。
【0031】
そして、
図2中の「ロ」の位置で低中真空領域の運転から中高真空の運転へと移行するために、バイパス用バルブ23は開から閉に切り替えられる。これにより、第2のポンプの吸排気口につながっているバイパス用バルブ23が遮断されて、第2のポンプが持っている高真空での圧縮性能が得られる。
仮に、高真空領域において、第1の真空ポンプの到達圧力が高真空に達しない場合、バイパス用バルブ23を開いていると流路Bを通じて逆流が発生するのでバイパス用バルブ23は閉じることが望ましい。その後は、この第2のポンプにより一定な実効排気速度で遷移し高真空状態に達する。
【0032】
なお、バイパス用バルブ23とガス流量コントローラ3を連動させ、大流量時にバイパス用バルブ23が開き、高真空が必要な小流量(若しくはガス流量ゼロ)のときにバイパス用バルブ23を閉じるようにすると望ましい。このバイパス用バルブ23を開若しくは閉する制御は開閉制御手段に相当する。
以上により、この真空排気系では、第2のポンプのサイズを拡大することなく、第2のポンプと第1のポンプの両方の排気特性を活かした真空排気が可能となる。
【0033】
なお、バイパス用バルブ23を開閉のみのバルブとして説明したが、このバイパス用バルブ23を開度制御可能なバルブとして、ガスの流量や排気系内の圧力に応じて開度を調整して、切り替えを滑らかに行うようにしても良い。このバイパス用バルブ23の開度を調整する制御は開度制御手段に相当する。ここに、流量は例えばガス流量コントローラ3から抽出し、圧力は真空チャンバ5から抽出する。
【0034】
この構成では、ポンプにかかる圧力負荷を低減してポンプを安定して運転できるようになるとともに、排気の脈動によりプロセス条件が変動したり、真空チャンバ5内の加工対象の、圧力変動や振動による位置ずれを防止することができる。
以上により、第2のポンプ、バイパス用バルブ23及び配管径の小型化が図れるとともに、高真空から大流量域に至るまで、第1及び第2のポンプの排気特性を活かした高効率な排気が可能となる。
【0035】
なお、本真空排気システムでは、第1のポンプでまず真空排気を行い、第2のポンプはその内部の圧力が動作可能な条件になったのちに起動する。図示はしないが、第2のポンプの吸排気口部にメンテナンス用のバルブを設けても良い。また、図示はしないが、真空チャンバ5を大気から所定の圧力に粗引きする排気経路及びバルブを設置しても良い。
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、上述した実施形態及び各変形例は、種々組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ガスシリンダ
3 ガス流量コントローラ
5 真空チャンバ
7 調整弁
9、17、27、29 分岐配管
11、13、15 流路切替用バルブ
23 バイパス用バルブ