IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人慶應義塾の特許一覧

<>
  • 特開-通信装置、通信方法、及びプログラム 図1
  • 特開-通信装置、通信方法、及びプログラム 図2
  • 特開-通信装置、通信方法、及びプログラム 図3
  • 特開-通信装置、通信方法、及びプログラム 図4
  • 特開-通信装置、通信方法、及びプログラム 図5A
  • 特開-通信装置、通信方法、及びプログラム 図5B
  • 特開-通信装置、通信方法、及びプログラム 図6
  • 特開-通信装置、通信方法、及びプログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061359
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】通信装置、通信方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 40/24 20090101AFI20220411BHJP
   H04W 40/12 20090101ALI20220411BHJP
【FI】
H04W40/24
H04W40/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169320
(22)【出願日】2020-10-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】岸 啓補
(72)【発明者】
【氏名】小幡 光一
(72)【発明者】
【氏名】若元 友輔
(72)【発明者】
【氏名】南澤 孝太
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 美奈
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067EE02
5K067EE10
(57)【要約】
【課題】親親機から複数の子機に情報をマルチキャスト送信する場合に、子機と安定的に通信可能な通信経路を構築することができる通信装置、通信方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】親機及び複数の子機からなる各機器が複数の階層からなる木構造のネットワークを構成して情報を伝送するのに用いられる通信装置において、前記各機器間の通信の安定度の指標となる安定度指標を取得する安定度指標取得部と、前記各機器間の安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する分類部と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親機及び複数の子機からなる各機器が複数の階層からなる木構造のネットワークを構成して情報を伝送するのに用いられる通信装置において、
前記各機器間の通信の安定度の指標となる安定度指標を取得する安定度指標取得部と、
前記各機器間の安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する分類部と、
を備える通信装置。
【請求項2】
前記分類部は、通信信号の電界強度情報から算出された安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記分類部は、音声情報の送受信の遅延時間から算出された安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記分類部は、振動情報の強度から算出された安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項5】
前記分類部は、振動情報の強度と、音声情報の送受信の遅延時間と、振動情報の強度とから算出された安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項6】
親機及び複数の子機からなる各機器が複数の階層からなる木構造のネットワークを構成して情報を伝送する通信方法において、
安定度指標取得部が、前記各機器間の通信の安定度の指標となる安定度指標を取得し、
分類部が、前記各機器間の安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する、
通信方法。
【請求項7】
親機及び複数の子機からなる各機器が複数の階層からなる木構造のネットワークを構成して情報を伝送するのに用いられる通信装置のコンピュータを、
前記各機器間の通信の安定度の指標となる安定度指標を取得する安定度指標取得手段、
前記各機器間の安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する分類手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置、通信方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
椅子に搭載した振動トランスデューサを用いて本や映像に合わせた振動を提示することによって臨場感や印象の定着度を向上するシステムが実現されている。このシステムを用いて絵本を教室などで複数人の幼児に読み聞かせるために、振動情報をワイヤレスシステムで伝送している。
【0003】
このようなシステムでは、読み手側の機器から幼児が座っているそれぞれの機器に適切なタイミングで振動情報が送信される。幼児が座っているそれぞれの機器は、この振動情報を一斉に受信して、椅子を振動させる。この読み聞かせと振動のタイミングがずれてしまうと効果が減少するために、遅延が少ない振動情報の伝達が必要である。
【0004】
振動情報を伝送するには波形信号を音声として送受信することが一般的である。複数の端末に音声信号を送信する手段として、FMトランスミッターなどを用いたアナログ信号の送信、ワイヤレスマイクに使用されるデジタル信号、無線ルータを用いたマルチキャストによる音声信号のパケットデータの伝送が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2018-519707号公報
【特許文献2】特開2015-12427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、音声信号の伝送は可聴帯域に最適化されている。このため、振動情報を音声信号として伝送すると、低周波帯域である振動情報が劣化する。また、振動情報は各端末の形態や着座状態などから動的な最適化処理を行う必要がある。その際には、振動情報は編集可能なデジタルデータとして伝送されることが望ましい。しかしながら、パケットによる音声信号の伝送においては、1台の親機ではネットワークトラフィックの上限によって子機の数に制限ができる。また親機を多数設置することによって子機の上限数を増やすことが可能であるが、配線や機器設置などの設営を必要とするために事前準備が煩雑になるという欠点を持つ。更に、絵本の読み聞かせのようなシステムでは、幼児が座る椅子の位置や数が頻繁に変更されるため、ネットワーク経路の変更が容易に行える必要がある。
【0007】
メッシュネットワークと呼ばれる、親機と子機との両機能を持つ無線デバイスがデータを中継することでデイジーチェーン式に伝送する方法がある。例えば、特許文献1に挙げられる手法では信号品質によって通信経路が動的に設定される。メッシュネットワークのシステムにおいて、一時的に接続が切れても他の通信経路が再設定されることが一般的である。しかしながら、振動情報のようなリアルタイム性が求められるシステムにおいては、動的に通信経路が変化するネットワーク接続でなく、一連の通信において通信経路を変化させない安定したネットワーク構成が必要である。
【0008】
特許文献2では無線の電界強度によって経路を設定することで、ネットワーク接続の安定化を図っている。電界強度はマルチパスや、親機と子機との間に遮蔽物が入るなどの外部環境の影響を大きく受けるために、ネットワーク接続の安定度合を測るには不十分である。
【0009】
上述の課題を鑑み、本発明は、親機から複数の子機に情報をマルチキャスト送信する場合に、子機と安定的に通信可能な通信経路を構築することができる通信装置、通信方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る通信装置は、親機及び複数の子機からなる各機器が複数の階層からなる木構造のネットワークを構成して情報を伝送するのに用いられる通信装置において、前記各機器間の通信の安定度の指標となる安定度指標を取得する安定度指標取得部と、前記各機器間の安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する分類部と、を備える。
【0011】
本発明の一態様に係る通信方法は、親機及び複数の子機からなる各機器が複数の階層からなる木構造のネットワークを構成して情報を伝送する通信方法において、安定度指標取得部が、前記各機器間の通信の安定度の指標となる安定度指標を取得し、分類部が、前記各機器間の安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する。
【0012】
本発明の一態様に係るプログラムは、親機及び複数の子機からなる各機器が複数の階層からなる木構造のネットワークを構成して情報を伝送するのに用いられる通信装置のコンピュータを、前記各機器間の通信の安定度の指標となる安定度指標を取得する安定度指標取得手段、前記各機器間の安定度指標に基づいて、前記複数の子機のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する分類手段、として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、親機から複数の子機に情報をマルチキャスト送信する場合に、子機と安定的に通信可能な通信経路を構築することができる。したがって、多数の子機のそれぞれの配置位置が変更されるような状況であっても、振動情報のようなリアルタイム性が求められる情報を安定的に送信することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る通信システムの概要の説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る通信システムにおける親機の内部構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る通信システムにおける子機の内部構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態における安定度指標の算出の説明図である。
図5A】木構造のネットワークの説明図である。
図5B】木構造のネットワークの説明図である。
図6】本発明の実施形態に係る通信システムにおける木構造のネットワーク経路を生成する際の処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態に係る通信システムにおける各機器間の安定度指標の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る通信システム1の概要の説明図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る通信システム1は、親機10と、複数の子機20-1、20-2、…、20-N(Nは任意の整数)とから構成される。なお、以下の説明では、特に子機20-1~20-Nを区別しないときには、単に子機20と呼ぶ場合がある。通信システム1は「通信装置」の一例である。
【0016】
親機10は、無線通信により、情報をマルチキャスト送信する。子機20-1~20-Nは、親機10からの情報を一斉に受信する。ここでは、通信システム1は、本の読み聞かせを行うシステムであり、親機10から子機20-1~20-Nにマルチキャスト送信される情報は振動情報である。
【0017】
読み手40は、親機10を持って、本の朗読を行う。子機20-1~20-Nは、椅子30-1~30-Nの内部に実装されている。子供50-1~50-Nは、子機20-1~20-Nが実装された椅子30-1~30-N上に座って、読み手40が読み上げる本を聞いている。
【0018】
ここで、読み手40は、所望のタイミングで親機10に振動情報を入力する。親機10に振動情報を入力すると、この振動情報が子機20-1~20-Nに送られる。子機20-1~20-Nは、親機10からの振動情報を受信すると、これに応じて椅子30-1~30-Nを振動させ、子供50-1~50-Nに振動を伝える。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係る通信システム1における親機10の内部構成を示すブロック図である。図2に示すように、親機10は、インターフェース部11と、スピーカー12と、通信部13と、制御部14とを備える。
【0020】
インターフェース部11は、制御部14に対して、各種の情報の入出力を行う。インターフェース部11としては、ディスプレイ、タッチパネル、キーボード、ポインティングデバイス等を含む。読み手40は、インターフェース部11を操作して、子機20-1~20-Nに振動情報をマルチキャスト送信することができる。スピーカー12は、制御部14の制御の下に、電気信号を音声信号に変換する。通信部13は、他の機器と無線通信を行う。通信部13としては、無線LAN(IEEE802.11)やBlueTooth(IEEE802.15)等を用いることができる。制御部14は、親機10の全体の制御を行う。なお、親機10としては、スマートフォンやタブレット端末等の汎用の携帯端末を用いることができる。
【0021】
親機10から子機20-1~20-Nに振動情報を音声伝送規格で送信する場合、親機10は、振動情報を音声パケットで送信できるように、振動情報の周波数帯域を周波数シフトしている。ここでの音声伝送規格とは、BlueToothにおけるAAC(Advanced Audio Coding)や、aptXなどのコーデック(音声圧縮形式)の規格である。すなわち、振動情報の周波数帯域は音声情報の周波数帯域より低域側にあり、音声伝送規格による周波数制限を受けるため、そのまま伝送することは難しい。そこで、親機10は、例えば振動情報を時間軸圧縮することで、周波数帯域を高域にシフトし、音声パケットに振動情報を挿入して、通信部13からマルチキャスト送信を行っている。なお、振動情報を高域側にシフトする方法は、時間軸圧縮する方法に限らず、他の方法で行っても良い。
【0022】
図3は、本発明の実施形態に係る通信システム1における子機20の内部構成を示すブロック図である。図3に示すように、子機20は、振動発生部21と、音声マイク22と、ピックアップマイク23と、通信部24と、制御部25とを備える。
【0023】
振動発生部21は振動トランスデューサであり、制御部25の制御の下に、電気信号を機械的な振動に変換する。音声マイク22は、入力した音声を電気信号に変換して、制御部25に取り込む。ピックアップマイク23は、入力した機械的な振動を電気信号に変換して、制御部25に取り込む。通信部24は、他の機器と無線通信を行う。また、通信部24は、データの中継を行うことができる。通信部24としては、無線LAN(IEEE802.11)やBlueTooth(IEEE802.15)等を用いることができる。制御部25は、子機20の全体の制御を行う。
【0024】
前述したように、親機10から子機20には、振動情報がマルチキャスト送信されてくる。この振動情報は、高域側に周波数シフトされ、音声パケットで送信されてくる。子機20は、振動情報を含む音声パケットを受信すると、振動情報の周波数帯域を元の周波数帯域に戻し、振動発生部21を駆動する。
【0025】
また、後に説明するように、本実施形態では、振動情報と、音声情報と、電界強度情報とから通信の安定度の指標となる安定度指標を算出している。そして、この安定度指標を基に、親機10をルートノードとする木構造の階層的なネットワークを構成するようにしている。親機10側の制御部14及び子機20側の制御部25は、このような木構造の階層的なネットワークを構成する機能を備える。より具体的には、制御部14及び制御部25は、各機器間の通信の安定度の指標となる安定度指標を取得する安定度指標取得部の機能を有する。また、制御部14及び制御部25は、取得された安定度指標に基づいて、複数の子機20のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類する分類部の機能を有する。
【0026】
次に、本発明の実施形態に係る通信システム1におけるネットワーク構成について説明する。
【0027】
本発明の実施形態に係る通信システム1では、親機10から全ての子機20-1~20-Nに振動情報がマルチキャスト送信される。この振動情報は、全ての子機20-1~20-Nに遅延なく送信されることが望まれる。また、親機10から全ての子機20-1~20-Nに振動情報をマルチキャスト送信する場合、1台の親機10では、ネットワークトラフィックの上限によって、情報を伝送できる子機20-1~20-Nの数に制限ができる。そこで、本実施形態では、子機20-1~20-Nを中継機として機能させ、ネットワーク構成として、振動情報を転送していくようにしている。
【0028】
子機20-1~20-Nを中継機として機能させる場合、情報転送を行う相手側の子機をどの機器に選定するかが重要になる。そのためには、機器間の通信の安定度の指標となる安定度指標の算出が必要になる。機器間の安定度指標として電界強度を用いることが考えられるが、電界強度はマルチパスや、機器間に遮蔽物が入るなどの外部環境の影響を大きく受けるために、ネットワーク接続の安定度合を測るには不十分である。そこで、本実施形態では、以下のようにして、機器間の安定度指標を算出している。
【0029】
図4は、本実施形態における安定度指標の算出の説明図である。ここでは、任意の位置に配置された2台の子機20-Kと子機20-L(K、Lは任意の整数)間で、通信の安定度を評価するとする。本実施形態では、以下の3種類の指標を用いて通信の安定度を評価している。
【0030】
(a)振動情報
図4に示すように、2台の子機20-Kと子機20-Lとを同一の床面60に並べ、一方の子機20-Kの振動発生部21-Kを起動させるとする。この場合、子機20-Kの振動情報は、床面60を伝わり、子機20-Lのピックアップマイク23-Lで検出される。振動情報は床面60を振動媒体として伝送されるので、子機20-Lのピックアップマイク23-Lで所定レベル以上の振動情報が検出されれば、子機20-Kと子機20-Lとは同一の床面60上にあると判断できる。子機20-Kや子機20-Lの通信部24K及び24Lの通信に用いるアンテナでは、一般的に、水平方向には無指向性であっても、垂直方向には指向性があり、鉛直方向の信号強度が弱くなる。このため、子機20-Kと子機20-Lとが同一の床面に無いと、通信の安定度は低下すると考えられる。よって、振動情報の強度の検出結果は、アンテナによる通信の安定度を評価する指標となる。
【0031】
(b)音声情報
前述したように、子機20-Kの振動発生部21-Kを起動させると、子機20-Kの振動は、床面60を伝わっていくとともに、空気を媒体として音声情報となり、子機20-Lの音声マイク22-Lで収音される。このとき、子機20-Kの振動発生部21-Kを起動させてから、子機20-Lの音声マイク22-Lで音声情報を検出するまでの遅延時間を計測することにより、子機20-Kと子機20-Lとの間の距離を推定することができる。子機20-Kと子機20-Lとの間の距離が短ければ、子機20-Kと子機20-Lとの間の通信の安定度は向上する。よって、音声情報の遅延時間を検出することは、子機20-Kと子機20-Lとの間の距離による通信の安定度を評価する指標となる。
【0032】
(c)電界強度情報
子機20-Kの通信部24-Kからの電波は、子機20-Lの通信部24-Lで受信される。このときの電界強度は、周囲の環境の影響を受ける。すなわち、子機20-Kと子機20-Lとの間に遮蔽物が存在したり、マルチパスが発生したりすれば、電波の受信強度は低下する。よって、電界強度を検出することは、子機20-Kと子機20-Lとの間の遮蔽物の影響による通信の安定度を評価する指標となる。
【0033】
以上のように、振動情報の強度を検出することで、アンテナによる通信の安定度の評価値が得られる。このアンテナによる安定性の評価値をAとする。また、音声情報の遅延時間を検出することで、機器間の距離による通信の安定度の評価値が得られる。この距離による安定性の評価値をDとする。また、電界強度を検出することで、機器間の遮蔽物の影響による通信の安定度の評価値が得られる。この遮蔽物による安定性の評価値をOとする。これらの評価値から、機器間の安定度指標Sは、以下のように求めることができる。
【0034】
【数1】
【0035】
なお、親機10と子機20(20-1~20-N)との間の安定度指標については、電界強度による評価値とともに、音声情報による評価値を用いて、安定度指標Sを求めることができる。もちろん、親機10に振動発生部やピックアップマイクを設ければ、親機10と子機20(20-1~20-N)との間で、振動情報を検出して評価値を求めることができる。
【0036】
次に、親機10からの情報を子機20-1~20-Nで受信する場合のネットワーク構成について説明する。
【0037】
1台の親機10に対して多数の子機20-1~20-Nを接続する場合、ネットワーク構成によっては、データの伝送が間に合わずに送受信を待つために途切れることがある。このため、図5A及び図5Bのような木構造とすることが望ましい。ただし、階層が増えることにより、浅い階層と深い階層でタイムラグが発生するため、読み聞かせシステムのようなリアルタイム性が求められる場合には、子機20の接続数と階層数のバランスをとる必要がある。
【0038】
なお、図5A及び図5Bは、木構造のネットワーク構成の説明図である。図5Aは、1つの親ノードに2つの子ノードを接続して木構造のネットワークを構成した例を示している。図5Bは、1つの親ノードに3つの子ノードを接続して木構造のネットワークを構成した例を示している。図5A及び図5Bにおいて、ルートノードはRNで示されている。また、第1階層のノードはL1で示され、第2階層のノードはL2で示されている。
【0039】
また、本の読み聞かせを行う場合、図1に示したように、子機20-1~20-Nは椅子30-1~30-Nに実装されている。この椅子30-1~30-Nは、適宜、並べ替えられる。したがって、子機20-1~20-Nの配置に応じて、ネットワークの経路を適宜生成することが望まれる。
【0040】
本実施形態に係る通信システムで木構造のネットワークを構成した場合、ルートノードRNが親機10になり、他のノードに、子機20-1~20-Nが適宜配置される。木構造となるようなネットワークでは、1つの親ノードと繋がる子ノードの数をCとし、階層数をDepthとすると、ノードの総数は、以下のようになる。
【0041】
【数2】
【0042】
したがって、任意の階層数を決定すると、システムで使用する子機20-1~20-Nの総数から、1つの親ノードと繋がる子ノードの最大数を求めることができる。階層数と親ノードと繋がる子ノードの数が決定したら、以下のようにして、ネットワークの経路が自律的に生成される。
【0043】
図6は、本発明の実施形態に係る通信システム1における木構造のネットワーク経路を生成する際の処理を示すフローチャートである。
【0044】
(ステップST1)親機10は、各機器間の安定度指標の計測指示を子機20-1~20-Lに送る。
【0045】
(ステップST2)親機10及び各子機20-1~20-Lは、各機器間の安定度指標を算出する。各子機20-1~20-L間の安定度指標は、前述したように、振動情報と、音声情報と、電界強度情報とを用いて求めることができる。また、親機10と子機20-1~20-Lとの間の安定度指標は、音声情報と電界強度情報とを用いて求めることができる。
【0046】
(ステップST3)親機10及び各子機20-1~20-Lは、各機器で求められた各機器間の安定度指標を受信する。
【0047】
(ステップST4)親機10及び各子機20-1~20-Lは、各機器間の安定度指標から、図7に示すような表を作成する。図7は、本発明の実施形態に係る通信システムにおける各機器間の安定度指標の説明図である。この表は、親機10及び子機20-1~20-Nの各機器間の安定度指標をまとめたものである。例えば、S01は親機10と子機20-1との間の安定度指標であり、S02は親機10と子機20-2との間の安定度指標であり、S0Nは親機10と子機20-Nとの間の安定度指標である。S12は子機20-1と子機20-2との間の安定度指標であり、S13は子機20-1と子機20-3との安定度指標であり、S1Nは子機20-1と子機20-Nとの間の安定度指標である。なお、「*」は、相手が同じ組み合わせとなる安定度指標があるので、省略していることを意味する。例えば、親機10と子機20-2との間の安定度指標S02は、子機20-2と親機10との間の安定度指標S20と同じになるため、「*」で示されている。また、この表は、親機10及び各子機20-1~20-Lの中の1つの機器で作成して、各機器で共有しても良い。
【0048】
(ステップST5)親機10は、図7の表から、親機10に対して安定度指標が高い子機を第1階層L1に分類して、親機10と第1階層L1の子機との接続を確立する。すなわち、図7の表から、親機10と各子機20-1、20-2、…、20-Nとの間の安定度指標S01、S02、…、S0Nを比較し、これらの安定度指標S01、S02、…、S0Nの中で安定度指標が高いものに対応する子機を、第1階層L1の子機として分類して接続を確立する。
【0049】
(ステップST6)親機10及び各子機20-1~20-Lは、最終階層まで分類されたか否かを判定する。最終階層でなければ(ステップST6:No)、処理をステップST7に進め、最終階層なら(ステップST6:No)、処理をステップST8に進める。
【0050】
(ステップST7)第K階層(Kは任意の数)の子機20は、親機10との安定度指標が高い順に、当該子機20との安定度指標を比較し、当該子機20に対して安定度指標が高い子機(但し、既に配置の決まっている子機は除く)を次の階層の子機に分類して接続を確立して、ステップST6に処理を戻す。例えば、第1階層L1に子機20-2が分類されている場合、子機20-2は、当該子機20-2と各子機20-1、20-3、…、20-Nとの間の安定度指標S12、S23、…、S2Nを比較し、これらの安定度指標S12、S23、…、S2Nの中で安定度指標が高いものに対応する子機を第2階層L2のノードの子機として分類して接続を確立する。
【0051】
ステップST6とステップST7とを繰り返していくことにより、各階層に各子機20が分類されていき、各階層の各子機20との接続が確立されていく。
【0052】
(ステップST8)最終階層の各子機20においては、残った組み合わせにおいて極端に安定度指標が低い組み合わせが無いようにするため、この子機20と繋がる上位の子機20との安定度指標の値が低い順に接続を確立する。
【0053】
なお、上述の説明では、各階層の子機20が当該子機20との間の安定度指標を比較して、当該子機20に対して安定度指標が高い子機を次の階層の子機に分類して接続を確立していくことで、自律的に経路を設定しているが、親機10が各機器間の安定度指標を集計し、この親機10が各階層の経路を設定しても良い。また、安定度指標の集計や経路を設定のための端末を別途用意しても良い。
【0054】
また、上述の説明では、階層数を予め決定して、各階層に属する子機を分類する場合を例に説明した。しかしながらこれに限定されない。同じ階層に属する複数の子機のそれぞれの安定度指標に極端な差異がある場合、通信が不安定となる可能性がある。この対策として、例えば、一旦最終階層に分類した子機20群を、それぞれの安定度指標の分布状況に応じて、安定度指標の高いグループと低いグループとで複数の階層に分類するようにしてもよい。或いは、最終階層の各子機20において、安定度指標が高いもの順に上位の子機に接続させていくようにしてもよい。残った子機20(上位の子機との安定度指標が低いもの)については、上位の子機との安定指標と、最終階層の子機20との安定度指標とを比較して、安定指標がより高い子機20に接続させるようにしてもよい。
【0055】
以上説明したように、本実施形態では、振動情報と、音声情報と、電界強度情報とに基づいて、安定度指標が算出される。そして、各機器間の安定度指標の計測値を取得し、この安定度指標に基づいて、複数の機器のそれぞれを予め定められた数の階層の各層に分類している。これにより、親機から複数の子機に情報をマルチキャスト送信する場合に、多数の子機がその配置位置が変化するような状況であっても、経路を自動的に生成して、子機と安定的に通信することができる。また、本実施形態では、階層毎に安定度の高い子機を指定してネットワークが構成できる。
【0056】
上述した実施形態における通信システム1の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0057】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0058】
10…親機、11…インターフェース部、12…スピーカー、13…通信部、14…制御部(安定度指標取得部)(分類部)、20…子機、21…振動発生部、22…音声マイク、23…ピックアップマイク、24…通信部、25…制御部(安定度指標取得部)(分類部)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7