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  • 特開-歯科用ファイル 図1
  • 特開-歯科用ファイル 図2
  • 特開-歯科用ファイル 図3
  • 特開-歯科用ファイル 図4
  • 特開-歯科用ファイル 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061401
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】歯科用ファイル
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/42 20170101AFI20220411BHJP
【FI】
A61C5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169388
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小幡 健二
(72)【発明者】
【氏名】黒子 勝一
(72)【発明者】
【氏名】堀井 真理
(72)【発明者】
【氏名】岡田 智弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大介
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA16
4C052DD02
(57)【要約】
【課題】 切削力と柔軟性の双方に優れ、切削時の高い安全性を有し、ニッケルチタン製エンジンファイルとして有用な歯科用ファイルの提供を目的を提供する。
【解決手段】 螺旋刃12の横断面を円弧状ランドLとオフセットされた一つの浮遊頂点Pとで構成する。円弧状ランドLは、螺旋刃12の外形を構成する仮想円E上に配置され、浮遊頂点PはランドLの対角上に配置される。このように、ランドの対角に鋭角状の頂点を配置することで切削力を上げつつ、この頂点を一つとすることで柔軟性を維持し、さらには、仮想円の内側から後退させた浮遊頂点とすることで、食い込みや破断が好適に回避される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋刃を備えた歯科用ファイルであって、
前記螺旋刃の横断面は、
前記螺旋刃の外形を構成する仮想円と、
前記仮想円上に配置された円弧状のランドと、
前記仮想円の中心より突出して配置され前記螺旋刃の刃先を構成する鋭角状の頂点とを備え、
前記鋭角状の頂点は、
前記ランドの対角線上であって、前記仮想円の内側に配置された浮遊頂点であり、
前記浮遊頂点が前記横断面内に一つのみ設けられることを特徴とする歯科用ファイル。
【請求項2】
前記ランドが一つである場合の前記対角線は、該ランド上の1点と前記仮想円の中心とを通る直線であり、
前記ランドが二以上である場合の前記対角線は、該各ランド上の1点と前記仮想円の中心とを通る各線の合成ベクトルが示す方向に伸びた直線であることを特徴とする請求項1記載の歯科用ファイル。
【請求項3】
前記浮遊頂点が前記仮想円から内側に後退するオフセット量は、前記仮想円の直径に対して、0.5%~5%の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の歯科用ファイル。
【請求項4】
前記ファイルは、ニッケルチタン製のエンジンファイルであることを特徴とする請求項1記載の歯科用ファイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療において根管の形成や拡大に用いられる歯科用ファイルに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用根管切削具としては、回転や軸方向の押し引きにより根管内を切削するファイルが知られており、近年は、湾曲した根管であっても、その複雑な形状に追従可能な柔軟性の高いニッケルチタン製のファイルが注目されている。
【0003】
また、治療速度や医師の疲労軽減の観点から、手動式だけでなく、ハンドピースに接続して用いられる電動式のエンジンファイルも注目されている。
【0004】
このようなニッケルチタン製のエンジンファイルとして有用な構成としては、特許文献1の歯科用ファイルが見られる。同文献のファイルは、横断面が仮想円上に配置された円弧状のランドと、該仮想円の内側に配置された2つの浮遊頂点とで構成され、根管形状に対する追従性の高い構成となっている。
【0005】
しかしながら、この特許文献1の構成では、根管形成の仕上げ工程側においては、非常に有用であるものの、下穴の形成や根管の拡大を重視する根管治療の前工程側では切削能力が不足する。
【0006】
この切削力を向上させるべく、2つの浮遊頂点を仮想円側に近づけた配置で構成すると、柔軟性が低下し、根管形状に対する追従性が悪くなることによって、意図しない方向への切削が生じる原因となる。
【0007】
他方、切削力を重視したファイルとしては、特許文献2、3、4のように、横断面が仮想円上に配置された円弧状のランドと、該仮想円上に配置された一つの外接頂点とで構成されたファイルも見られるが、この場合、ランド対角にある一つの外接頂点に切削抵抗が集中し、切削中の食い込みによるロックや破断等の問題が顕著化する。
【0008】
切削抵抗の集中は、刃角が鋭利である程顕著となるため、切削力の向上と対立する要因となる。切削抵抗を分散させる方法としては、特許文献1のように、2つの頂点とする構成も有効ではあるが、この構成では前述のように柔軟性が低下する。
【0009】
また、ニッケルチタン製ファイルは、その材料特性から破断の問題が生じやすく、さらに、電動式のエンジンファイルにあっては、エンジン駆動によりファイルに加わる荷重が大きくなるため、特許文献2、3、4の構成では、ニッケルチタン製エンジンファイルとしての安全性に課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2019/198777号
【特許文献2】中国実用新案公開第203724240号明細書
【特許文献3】米国特許第5713736号明細書
【特許文献4】米国特許第6702579号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、切削力と柔軟性の双方に優れ、切削時の高い安全性を有し、ニッケルチタン製エンジンファイルとして有用な歯科用ファイルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、螺旋刃を備えた歯科用ファイルであって、前記螺旋刃の横断面は、前記螺旋刃の外形を構成する仮想円と、前記仮想円上に配置された円弧状のランドと、前記仮想円の中心より突出して配置され前記螺旋刃の刃先を構成する鋭角状の頂点とを備え、前記鋭角状の頂点は、前記ランドの対角線上であって、前記仮想円の内側に配置された浮遊頂点であり、前記浮遊頂点が前記横断面内に一つのみ設けられることを特徴とする。
【0013】
このように、ランドの対角に鋭角状の頂点を配置することで切削力を上げつつ、この頂点を一つとすることで頂点が二つ存在する特許文献1に比べて根管壁に触れる頻度が少なくより安全となり、さらには、螺旋刃の外径包絡線を構成する仮想円の内側から後退させた浮遊頂点とすることで、食い込みや破断が好適に回避される。
【0014】
浮遊頂点の配置をランドの対角としたのは、円弧状ランドが根管壁に触れた追従状態で刃先を安定して後退させるためである。
【0015】
この仮想円から後退した浮遊頂点は、根管切削時にアクティブに働き切削効率を高めるとともに、根管進入時や引き上げ時等の非切削時には、円弧状ランドのみが接触し、この円弧状ランド端部の鈍角部分のみの削作用になることで、過剰な切削を抑えつつ操作性を高めることができる。
【0016】
さらに、切削時に引き込まれが生じた際の引き上げ時においても、浮遊頂点により構成された刃先は、根管壁への接触が回避されるため、引き上げやすくなる。
【0017】
他方、横断面に円弧状ランドがなく、単に頂点をオフセットしただけの構成では、引き上げ時に側方に力がかかると、形成した根管が削られるリスクがあるが、円弧状ランドの対角に浮遊頂点を配置した構成では、切削力の低いランドが根管壁に沿って案内される構造となるため、浮遊頂点は後退した位置に留まり、過剰な切削は生じない。
【0018】
ここで、この浮遊頂点の角度、即ち刃角は、切削力向上の観点から鋭角とし、より望ましくは、延性などの強度確保の観点から50度~70度の鋭角刃とすることが望ましい。このような鋭利な頂点であっても、仮想円から後退させることで安全性は確保され、60度付近の鋭角刃とすることで、最大外径が1mm以下の極細ファイルであっても、伸びや破断に対する強度を確保することができる。
【0019】
尚、本発明の特徴となる上述の横断面は、螺旋刃の軸方向全域にわたって適用することが望ましいが、部分的であっても前述の効果が得られる程度の比率で適用されていれば良く、また、本発明に係る横断面が適用された螺旋刃と、他の横断面を有する螺旋刃を組み合わせた混成螺旋刃としても良い。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ランドが一つである場合の前記対角線は、該ランド上の1点と前記仮想円の中心とを通る直線であり、前記ランドが二以上である場合の前記対角線は、該各ランド上の1点と前記仮想円の中心とを通る各線の合成ベクトルが示す方向に伸びた直線であることを特徴とする。
【0021】
このように、ランドが一つの場合は、ランド上の任意の1点から仮想円の中心を通る対角線上に浮遊頂点を配置することで、ランドが根管壁に触れた状態で浮遊頂点が安定して後退する。
【0022】
また、ランドが二つ以上の場合は、各々のランドからの合成ベクトル上に浮遊頂点を配置することで、ランドが複数の場合であっても、一つの浮遊頂点を安定して後退させることができる。
【0023】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記浮遊頂点が前記仮想円から内側に後退するオフセット量は、前記仮想円の直径に対して、0.5%~5%の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の歯科用ファイル。
【0024】
このように、オフセット量を最適化することにより、切削性と安全性の両立がより好適に提供される。即ち、オフセットが大き過ぎると、切削力が低下するとともに、金属部分の断面積が小さくなることで捩り破断が生じやすくなる。他方、オフセットが小さ過ぎると、食い込み等の問題が生じるため、使用環境や重視する性能に応じてオフセット量を最適化することが望ましい。前述の範囲は、ニッケルチタン製のエンジンファイルを想定した場合の有用範囲である。
【0025】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ファイルは、ニッケルチタン製のエンジンファイルであることを特徴とする。
【0026】
このように、本発明の横断面をニッケルチタン製のエンジンファイルに適用することで、切削性と安全性の優位性がより顕著に現れる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、切削力と柔軟性の双方に優れ、切削時の高い安全性を有し、ニッケルチタン製エンジンファイルとして有用な歯科用ファイルの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の形態に係る歯科用ファイルの構造を示す側面図および断面図である。
図2図1に示した第1の形態に係る横断面の変形例を示す断面図である。
図3】本発明の第2の形態に係る歯科用ファイルの構造を示す横断面図である。
図4】本発明の第3の形態に係る歯科用ファイルの構造を示す横断面図である。
図5】本発明の第4の形態に係る歯科用ファイルの構造を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、本発明の第1の形態に係る歯科用ファイルの構造を示す側面図および断面図である。同図(a)の側面図に示すように、この第1の形態のファイル10は、先端側から螺旋刃12、移行部14、シャフト16から構成され、螺旋刃12が切削機能を提供し、移行部14を介してシャフト16に結合される。これらの要素は、ニッケルチタン線材から研削、捻じり、熱処理などの工程を経て一体的に形成され、シャフト16を介して図示しない電動式のハンドピースに接続される。
【0031】
図1(b)は、図1(a)中に点線で示した符号Ib部分の拡大図であり、同図に示すように、螺旋刃12は、ランドLと浮遊頂点Pが軸方向に交互に現れる捻じれ構造を有し、その包絡線となる仮想円Eが先端に向かって小さくなるテーパ構造として形成される。
【0032】
図1(c)は、図1(b)中のIc-Icから見た縦断面図であり、同図に示すように、ランドLは仮想円E上に配置され、浮遊頂点Pは仮想円Eより内側の後退した位置に配置される。
【0033】
図1(d)は、図1(b)中のId-Idから見た横断面図であり、同図に示すように、ランドLは円弧状に形成され、仮想円Eの円周と重なる位置に配置される。また、浮遊頂点Pは仮想円Eより内側にオフセット量xだけ後退した位置であって、同図中に黒ドットで示したランドL上の1点から仮想円Eの中心Oを通る対角線D上に配置される。浮遊頂点Pは、60度の鋭角構成とされる。
【0034】
ここで、オフセット量xは、仮想円Eの直径dに対する割合で定義され、この直径dに対して、0.5%~5%の範囲内に設定され、螺旋刃のテーパを考慮した最大外径は1mm以下で設定される。 また、横断面の形状は、対角線Dを中心に左右対称、即ち、線対称とすることが望ましいが、後述の例で説明するように、完全な線対称ではなく、浮遊頂点Pが仮想円Eの中心線から左右にずれて配置された非対称形状としても良い。
【0035】
図2は、図1に示した第1の形態に係る横断面の変形例を示す断面図である。同図(a)は、ランドL上に黒ドットで示す左寄りの点から対角線Dを取った例であり、同図(b)は、右寄りの点から対角線Dを取った例である。同各図に示すように、対角線Dの始点を左右に振り、浮遊頂点Pを中心からずらして配置した非対称形状の横断面としても良い。但し、製造性や刃先の安定性の観点からは、図1(d)に示したような対角線Dに対して線対称となる横断面とすることが望ましい。
【0036】
図3は、本発明の第2の形態に係る歯科用ファイルの構造を示す横断面図である。同図に示す第2の形態では、第1の形態よりもランドLの長さを短くし、略菱形状の断面とした場合の例である。
【0037】
この例が示すように、浮遊頂点Pの位置を決める対角線Dの取り方としては、同図(a)に示すように、ランドL左端を始点しても良く、同図(b)に示すように、ランドL中央を始点としても良く、同図(c)に示すように、ランドL右端を始点としても良いが、同図(b)のような対角線Dに対して線対称となる形状とすることが望ましい。
【0038】
図4は、本発明の第3の形態に係る歯科用ファイルの構造を示す横断面図である。同図に示す第3の形態では、ランドLの長さを第1の形態よりは短く、第2の形態よりは長くした場合の例である。
【0039】
対角線Dの始点は、図3と同様に、同図(a)がランドL左端、同図(b)が中央、同図(c)が右端であり、どの構成とするかは、重視する特性に応じて適宜選択可能である。
【0040】
図5は、本発明の第4の形態に係る歯科用ファイルの構造を示す横断面図である。同図に示す第4の形態では、円弧状のランドをL1とL2の2つ設けた場合の例である。このようにランドを複数設ける場合には、各ランドL1、L2から仮想円Eの中心Oを通る対角線D1、D2を取り、これら対角線の合成ベクトルとして対角線Dを設定する。
【0041】
ここで、合成ベクトルの成分を決める対角線D1、D2の取り方としては、同図(a)に示すように、ランドL1、L2それぞれの中央の1点から仮想円Eの中心Oを通る直線としても良く、同図(b)に示すように、ランドL1左端の1点およびランドL2右端の1点のそれぞれから仮想円Eの中心Oを通る直線としても良く、同図(c)に示すように、ランドL1側は中央寄りの1点、ランドL2側は右端の1点からそれぞれ仮想円Eの中心Oを通る直線としても良い。
【符号の説明】
【0042】
10…ファイル
12…螺旋刃
14…移行部
16…シャフト
E…仮想円
L…ランド
P…浮遊頂点
D…対角線
x…オフセット量
図1
図2
図3
図4
図5