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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061478
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】重ね合わせることができる容器の製法
(51)【国際特許分類】
   B21D 51/26 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
B21D51/26 X
B21D51/26 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151817
(22)【出願日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2020169130
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520388767
【氏名又は名称】小林機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095522
【弁理士】
【氏名又は名称】高良 尚志
(72)【発明者】
【氏名】水野 貴文
(72)【発明者】
【氏名】恩田 篤志
(57)【要約】
【課題】 飲料用食器等として用いられるアルミニウム又はアルミニウム合金製の有底円筒状の重ね合わせることができる容器を効率良く製造することができる製法の提供。
【解決手段】 有底円筒体20のうち、下端から、加工後の容器の高さの5分の2以下の所定高さ位置までの部分である、再絞り対象部20aに対し、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行うこと、及び、前記有底円筒体20のうち、前記再絞り対象部20aを除く部分の全部又は上端から前記再絞り対象部20aよりも上方の一定高さ位置までの部分である、拡径対象部60に対し、拡径処理を行うことを含み、前記拡径処理は、前記拡径対象部60のうち、少なくとも高さ方向の所定範囲部分を、内径及び外径が下方に向かって縮径するテーパー状に形成する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも深絞り加工を経て、底部の外周よりも内側にドーム部を有するように一体成形され、所要の高さとするために開口側が切除処理された、アルミニウム又はアルミニウム合金製の有底円筒体に、所定の加工を施すことにより、重ね合わせることができる容器を製造する方法であって、
前記有底円筒体のうち、下端から、加工後の容器の高さの5分の2以下の所定高さ位置までの部分である、再絞り対象部に対し、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行うこと、及び、
前記有底円筒体のうち、前記再絞り対象部を除く部分の全部又は上端から前記再絞り対象部よりも上方の一定高さ位置までの部分である、拡径対象部に対し、拡径処理を行うことを含み、
前記拡径処理は、前記拡径対象部のうち、少なくとも高さ方向の所定範囲部分を、内径及び外径が下方に向かって縮径するテーパー状に形成するものであることを特徴とする重ね合わせることができる容器の製法。
【請求項2】
上記有底円筒体の上端の開口部に、外方への折り返し加工を施すことを含む請求項1記載の製法。
【請求項3】
上記再絞り処理を、上記拡径処理及び折り返し加工を行った後に行う請求項2記載の製法。
【請求項4】
上記拡径処理及び折り返し加工を行った後の再絞り処理は、
前記拡径処理及び折り返し加工の後、上記拡径対象部について更に拡径処理を行った上で行うものであり、
前記更に行う拡径処理は、折り返し加工部以外の前記拡径対象部について、当該処理前の最大外径(D4)から当該処理後の最大外径(D5)への増加寸法と当該処理前の最大外径(D4)の比率の百分率[(D5-D4)/D4]×100が4%以下である請求項3記載の製法。
【請求項5】
上記再絞り対象部に対し、加工前の外径(D1)から加工後の外径(D6)への減少寸法と加工後の外径(D6)の比率の百分率[(D1-D6)/D6]×100である再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行った上で、
上記拡径処理及び折り返し加工を行い、その後、上記再絞り処理を行う請求項3又は4記載の製法。
【請求項6】
上記再絞り対象部に対し、加工前の外径(D1)から加工後の外径(D6)への減少寸法と加工後の外径(D6)の比率の百分率[(D1-D6)/D6]×100である再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行いつつ、上記拡径対象部に対し拡径処理を行った後、
上記拡径対象部に対する更なる拡径処理及び上記折り返し加工を行い、
その後、上記再絞り処理を行う請求項3又は4記載の製法。
【請求項7】
上記再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で行う再絞り処理において上記再絞り対象部を縮径するために用いた治工具を、
引き続き、その後の拡径処理及び折り返し加工において加工対象である有底円筒体における上記再絞り対象部を保持するために用いる請求項5又は6記載の製法。
【請求項8】
容器の胴部であって再絞り処理又は拡径処理が行われた部分のうち最も薄い部分の肉厚が0.12mm以上0.18mm以下である重ね合わせることができる容器を製造するものである請求項1乃至7の何れか1項に記載の製法。
【請求項9】
1以上の再絞り処理及び1以上の拡径処理のうち、少なくとも何れか1以上の処理において、用いる治工具の1つを、加工対象の被加工部に接触してから加工処理終了に至る前までの間に、1回以上離反させるものである請求項1乃至8の何れか1項に記載の製法。
【請求項10】
上記再絞り対象部が、上記有底円筒体のうち、下端から、加工後の容器の高さの4分の1以下の所定高さ位置までの部分である請求項1乃至9の何れか1項に記載の製法。
【請求項11】
上記所定の加工を施す有底円筒体が、実質上一定外径である請求項1乃至10の何れか1項に記載の製法。
【請求項12】
上記一定高さ位置が、加工後の容器の高さの3分の2の高さ以下の位置である請求項1乃至11の何れか1項に記載の製法。
【請求項13】
上記所定範囲部分が、上記拡径対象部の高さ方向における下方側の4分の1以上の範囲である請求項1乃至12の何れか1項に記載の製法。
【請求項14】
上記所定の加工を施す有底円筒体が、アルミニウム合金シートに対し、少なくとも深絞り加工を行うと共に、底部の外周よりも内側にドーム部を設けて、有底円筒状に一体成形し、更にその開口側について少なくとも外径を縮小させる加工を行うことによりボトル状缶としたものについて、開口側の縮径部よりも下方側の所要高さ位置で開口側を切除処理することにより得られたものである請求項1乃至13の何れか1項に記載の製法。
【請求項15】
上記所定の加工を施す有底円筒体が、有底円筒体に対し脱脂洗浄を行った後、乾燥させ、その後、外面装飾及び塗装、底部塗装、並びに内面塗装を施して得られたものである請求項1乃至13の何れか1項に記載の製法。
【請求項16】
上記所定の加工を施す有底円筒体が、アルミニウム合金シートとして表面に樹脂被覆されたものを用いて得られた有底円筒体に対し、被覆樹脂に生じた歪を除去して被覆樹脂をアルミニウムに再密着させる加熱処理を行った後、外面装飾及び塗装を施して得られたものである請求項1乃至13の何れか1項に記載の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用食器等として用いられるアルミニウム又はアルミニウム合金製の有底円筒状の重ね合わせることができる容器の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミシート材を、深絞り及びしごき加工したシームレス缶体の開口端を、縮径加工及び折り返し加工(カーリング加工)することにより飲み口が形成された、飲料用容器としてのボトル型アルミ缶は、世界中で1年間に凡そ30億本製造されている。
【0003】
ボトル型アルミ缶は、胴体よりやや小ぶりな蓋体と胴体を二重巻締された、いわゆる2ピースアルミ缶に比べて開口部の縮径量が多く、それにより生じる素材の歪に起因して、先端の折り返し加工時に割れが生じることがある。
【0004】
また素材となるアルミシート材表面の圧延油起因の汚れや、絞りしごき加工で生じたアルミ摩耗分が缶体表面に圧着された汚れについても、2ピースアルミ缶ではほとんど目立たないような軽微な欠陥が、縮径加工を多く施すことによって、金属組織が凝縮され、黒く目立ったものになる。
【0005】
このような欠陥等は、特許第5698608号公報に記載のボトル缶のねじ部検査装置等を用いて検出され、そのボトル型アルミ缶はスクラップ・アルミとして、新地金よりも安い価格で回収される。
【0006】
そのため製造者は、この僅かな不具合を改善するために、様々な改良手段を投入するが、ゼロには至っていない。
【0007】
特表2017-526591号公報の段落0046によれば、特殊なアルミニウム素材を用いることにより生産中の不良品発生率が低下したとされているが、それにもかかわらず、先端の折り返し加工による欠陥率は3%であると記載されており、大量生産品としては良好な数値とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5698608号公報
【特許文献2】特表2017-526591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、飲料用食器等として用いられるアルミニウム又はアルミニウム合金製の有底円筒状の重ね合わせることができる容器を、リサイクル又は廃棄するボトル状アルミ缶或いはその他のものを用いて、効率良く製造することができる製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の重ね合わせることができる容器の製法は、例えば次のように表すことができる。
【0011】
(1) 少なくとも深絞り加工を経て、底部の外周よりも内側にドーム部を有するように一体成形され、所要の高さとするために開口側が切除処理された、アルミニウム又はアルミニウム合金製の有底円筒体に、所定の加工を施すことにより、重ね合わせることができる容器を製造する方法であって、
前記有底円筒体のうち、下端から、加工後の容器の高さの5分の2以下の所定高さ位置までの部分である、再絞り対象部に対し、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行うこと、及び、
前記有底円筒体のうち、前記再絞り対象部を除く部分の全部又は上端から前記再絞り対象部よりも上方の一定高さ位置までの部分である、拡径対象部に対し、拡径処理を行うことを含み、
前記拡径処理は、前記拡径対象部のうち、少なくとも高さ方向の所定範囲部分を、内径及び外径が下方に向かって縮径するテーパー状に形成するものであることを特徴とする重ね合わせることができる容器の製法。
【0012】
少なくとも深絞り加工を経て、底部の外周よりも内側にドーム部を有するように一体成形され、所要の高さとするために開口側が切除処理された、アルミニウム又はアルミニウム合金製の有底円筒体のうち、下端から、加工後の容器の高さの5分の2以下の所定高さ位置までの部分である、再絞り対象部に対し、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行うと共に、前記有底円筒体のうち、前記再絞り対象部を除く部分の全部又は上端から前記再絞り対象部よりも上方の一定高さ位置までの部分である、拡径対象部に対し、拡径処理を行い、前記拡径処理は、前記拡径対象部のうち、少なくとも高さ方向の所定範囲部分を、内径及び外径が下方に向かって縮径するテーパー状に形成するものであることにより、安定的に重ね合わせることができる有底円筒状のアルミニウム又はアルミニウム合金製の容器を効率良く製造することができる。
【0013】
(2) 上記有底円筒体の上端の開口部に、外方への折り返し加工を施すことを含む上記(1)記載の製法。
【0014】
(3) 上記再絞り処理を、上記拡径処理及び折り返し加工を行った後に行う上記(2)記載の製法。
【0015】
(4) 上記拡径処理及び折り返し加工を行った後の再絞り処理は、
前記拡径処理及び折り返し加工の後、上記拡径対象部について更に拡径処理を行った上で行うものであり、
前記更に行う拡径処理は、折り返し加工部以外の前記拡径対象部について、当該処理前の最大外径(D4)から当該処理後の最大外径(D5)への増加寸法と当該処理前の最大外径(D4)の比率の百分率[(D5-D4)/D4]×100が4%以下である上記(3)記載の製法。
【0016】
(5) 上記再絞り対象部に対し、加工前の外径(D1)から加工後の外径(D6)への減少寸法と加工後の外径(D6)の比率の百分率[(D1-D6)/D6]×100である再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行った上で、
上記拡径処理及び折り返し加工を行い、その後、上記再絞り処理を行う上記(3)又は(4)記載の製法。
【0017】
(6) 上記再絞り対象部に対し、加工前の外径(D1)から加工後の外径(D6)への減少寸法と加工後の外径(D6)の比率の百分率[(D1-D6)/D6]×100である再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行いつつ、上記拡径対象部に対し拡径処理を行った後、
上記拡径対象部に対する更なる拡径処理及び上記折り返し加工を行い、
その後、上記再絞り処理を行う上記(3)又は(4)記載の製法。
【0018】
(7) 上記再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で行う再絞り処理において上記再絞り対象部を縮径するために用いた治工具を、
引き続き、その後の拡径処理及び折り返し加工において加工対象である有底円筒体における上記再絞り対象部を保持するために用いる上記(5)又は(6)記載の製法。
【0019】
(8) 容器の胴部であって再絞り処理又は拡径処理が行われた部分のうち最も薄い部分の肉厚が0.12mm以上0.18mm以下である重ね合わせることができる容器を製造するものである上記(1)乃至(7)の何れか1項に記載の製法。
【0020】
(9) 1以上の再絞り処理及び1以上の拡径処理のうち、少なくとも何れか1以上の処理において、用いる治工具の1つを、加工対象の被加工部に接触してから加工処理終了に至る前までの間に、1回以上離反させるものである上記(1)乃至(8)の何れか1項に記載の製法。
【0021】
(10) 上記再絞り対象部が、上記有底円筒体のうち、下端から、加工後の容器の高さの4分の1以下の所定高さ位置までの部分である上記(1)乃至(9)の何れか1項に記載の製法。
【0022】
(11) 上記所定の加工を施す有底円筒体が、実質上一定外径である上記(1)乃至(10)の何れか1項に記載の製法。
【0023】
(12) 上記一定高さ位置が、加工後の容器の高さの3分の2の高さ以下の位置である上記(1)乃至(11)の何れか1項に記載の製法。
【0024】
(13) 上記所定範囲部分が、上記拡径対象部の高さ方向における下方側の4分の1以上の範囲である上記(1)乃至(12)の何れか1項に記載の製法。
【0025】
(14) 上記所定の加工を施す有底円筒体が、アルミニウム合金シートに対し、少なくとも深絞り加工を行うと共に、底部の外周よりも内側にドーム部を設けて、有底円筒状に一体成形し、更にその開口側について少なくとも外径を縮小させる加工を行うことによりボトル状缶としたものについて、開口側の縮径部よりも下方側の所要高さ位置で開口側を切除処理することにより得られたものである上記(1)乃至(13)の何れか1項に記載の製法。
【0026】
(15) 上記所定の加工を施す有底円筒体が、有底円筒体に対し脱脂洗浄を行った後、乾燥させ、その後、外面装飾及び塗装、底部塗装、並びに内面塗装を施して得られたものである上記(1)乃至(13)の何れか1項に記載の製法。
【0027】
(16) 上記所定の加工を施す有底円筒体が、アルミニウム合金シートとして表面に樹脂被覆されたものを用いて得られた有底円筒体に対し、被覆樹脂に生じた歪を除去して被覆樹脂をアルミニウムに再密着させる加熱処理を行った後、外面装飾及び塗装を施して得られたものである上記(1)乃至(13)の何れか1項に記載の製法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金製の有底円筒体を利用して、安定的に重ね合わせることができる有底円筒状のアルミニウム又はアルミニウム合金製の容器を、リサイクル又は廃棄するボトル状アルミ缶或いはその他のものを用いて、効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】アルミニウム合金製のボトル状缶の正面図である。
図2図1のボトル状缶の肩部の下方において上部を切除した有底円筒体の正面図である。
図3図2の有底円筒体の下部に再絞り処理を施したものの断面図である。
図4図2の有底円筒体に対する再絞り処理の工程図である。
図5図2の有底円筒体に対する再絞り処理の工程図である。
図6図2の有底円筒体に対する再絞り処理の工程図である。
図7図3の有底円筒体に拡径処理を施したものの断面図である。
図8図3の有底円筒体に対する拡径処理の工程図である。
図9図3の有底円筒体に対する拡径処理の工程図である。
図10図3の有底円筒体に対する拡径処理の工程図である。
図11図3の有底円筒体に対する拡径処理の工程図である。
図12】ボトル状缶の肩部の下方において上部を切除した有底円筒体の断面図である。
図13図12の有底円筒体に拡径処理を施したものの断面図である。
図14図13の有底円筒体に折り返し加工を施したものの断面図である。
図15図14の有底円筒体に再拡径処理を施したものの断面図である。
図16図15の有底円筒体に再絞り処理を施したものの断面図である。
図17図12の有底円筒体に再絞り処理を施したものの断面図である。
図18図17の有底円筒体に拡径処理を施したものの断面図である。
図19図18の有底円筒体に折り返し加工を施したものの断面図である。
図20図19の有底円筒体に再拡径処理を施したものの断面図である。
図21図12の有底円筒体に再絞り処理を施しつつ拡径処理を施した状態の断面図である。
図22図12の有底円筒体に再絞り処理を施すために用いた縮径ダイスを引き続き有底円筒体を保持するために用いた状態の断面図である。
図23】治工具の離反モーションの例を示すグラフである。
図24図12の有底円筒体に対し図23に対応するよう治工具を離反させて再絞り処理を施す状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[1] 本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
(1) 第1の例
【0032】
図1乃至図11は何れも本発明の実施の形態の第1の例としての重ね合わせることができる容器の製法に関するものである。
【0033】
(1-1) 所定の加工を施す有底円筒体
【0034】
図1に示すボトル状缶10は、3104系アルミニウム合金シートに対し、深絞り、再絞り及びしごき加工等を行って、底部の外周よりも内側にドーム部12を設けて、胴部14を0.3mm厚未満に薄肉化した有底円筒状に一体成形し、脱脂及び乾燥工程を経て、エポキシ系塗料で外面装飾及び塗装並びに内面塗装を行った後、更にその開口側について外径を縮小させてネック成形並びにねじ加工及び先端折り返し加工等を行うことによりボトル状缶10としたものである。
【0035】
底部の外周部、すなわちドーム部12の外周側部分は、径方向断面がU字状の円環状をなす円環状外周部16である。
【0036】
このボトル状缶10のうち、開口側へ向かう縮径が開始する位置及びそれよりも上方位置に欠陥を有するものについて、開口側の縮径部よりも下方側(肩部18よりも下方側)の所要高さ位置Cで開口側(すなわち上方側)を切除処理することにより、図2に示す、胴部14が0.3mm厚未満であり、胴部14の外径が一定である3104系アルミニウム合金製のワンピースの有底円筒体20が得られる。
【0037】
(1-2) 再絞り処理
【0038】
得られた有底円筒体20の再絞り対象部20aに対し、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理(再絞り加工)を行う。図3は、再絞り処理後の有底円筒体20を示すものであり、後の折り返し加工(カーリング)による折り返し部20bを含めて表されている。
【0039】
再絞り対象部20aは、有底円筒体20の下端から、上端開口部20cの折り返し加工を含む所定の加工後の容器の高さ(HF)の約5分の1の高さ(HL)の位置(所定高さ位置)までの部分である。所定高さ位置は、ドーム部12の上端位置よりも高い位置である。
【0040】
再絞りは、内径が下方に向かって縮径する部分とその下側の縮径した一定内径部分を有する縮径ダイス30を用いて行われる。すなわち、図4乃至図6に示されるように、有底円筒体20の下端の円環状外周部16が円板状受止体40により上向きに受止されると共に、その有底円筒体20の円形の上端開口部20cが、円環状板状部50aの内側に下向きに縮径するよう形成された(エア供給孔50cを有する)円錐台状凸部50bを有する押圧体50における円錐台状凸部50bが下向きに内嵌されて下向きに押圧された状態で、有底円筒体20の下部が、縮径ダイス30内に挿入されることにより、その有底円筒体20の再絞り対象部20aがしわ押え治工具を用いないで再絞り処理される。
【0041】
再絞り対象部20aについての加工前の外径(D1)から加工後の最小外径(D2)への減少寸法と加工後の最小外径(D2)の比率の百分率[(D1-D2)/D2]×100は、約3%である[但し、ドーム部12が設けられている容器下端の、径方向断面がU字状をなす円環状外周部16(HB部分)の外径を除く]。
【0042】
(1-3) 拡径処理
【0043】
再絞り処理を経た有底円筒体20の拡径対象部60に対し、拡径処理(拡径加工)を行う。図7は、拡径処理後の有底円筒体20を示すものであり、後の折り返し加工による折り返し部20bを含めて表されている。
【0044】
拡径対象部60は、有底円筒体20の上端から、上端開口部20cの折り返し加工を含む所定の加工後の容器の高さ(HF)の約10分の3の高さ位置(再絞り対象部20aよりも上方の一定高さ位置)までの部分である。
【0045】
この例における拡径処理は、3回行われる。
【0046】
1回目の拡径処理は、外径が下方に向かって縮径する部分を上下軸方向の中間位置に有し、下側に縮径した一定外径部分を有する拡径治具70を用いて行われる。すなわち、図8乃至図11に示されるように、有底円筒体20の下端の円環状外周部16が円板状受止体40により上向きに受止されると共に、その有底円筒体20の円形の上端開口部20cから、拡径治具70が(加工時の座屈防止並びに加工後の離型に用いるエア供給通路72を有する状態で)下向きに挿入されることにより、その有底円筒体20の拡径対象部60のうちほぼ上半部が拡径処理される。
【0047】
次いで、それぞれ別の拡径治具を用いて2回目及び3回目の拡径処理が行われることにより、図7に示されるように、拡径対象部60全部の内径及び外径が拡径処理される。その拡径対象部60のうち、高さ方向における下方側の約9分の8の範囲の部分(所定範囲部分)が、内径及び外径が下方に向かって縮径するテーパー状に形成される。
【0048】
拡径対象部60についての加工前の外径(D1)から拡径処理後の最大外径(D3)への増加寸法と加工前の外径(D1)の比率の百分率[(D3-D1)/D1]×100は、約9%である
【0049】
(1-4) 折り返し加工
【0050】
拡径処理の後、有底円筒体20の上端の開口部に、外方への折り返し加工が施され、折り返し部20bが設けられる。
【0051】
(1-5) このようにして製造された、3104系アルミニウム合金薄板製の重ね合わせることができ、タンブラー又はその他の飲料用食器等として用いられる有底円筒状の容器は、実質上、上下方向の軸心線を中心とする回転体であり、胴部14の肉厚は、0.3mm厚未満の薄肉である。
【0052】
(2) 第2の例
【0053】
図12乃至図16は、何れも本発明の実施の形態の第2の例としての重ね合わせることができる容器の製法に関するものである。
【0054】
図12乃至図16中、図1乃至図11と同一の符号は、第1の例における対応する物又は部分等を示す。
【0055】
(2-1) 所定の加工を施す有底円筒体
【0056】
図12には、第1の例と同様にして得られた3104系アルミニウム合金製のワンピースの有底円筒体20が示されている。但し、その胴部14は、より薄肉化され、最も薄い部分の肉厚は0.12mm以上0.18mm以下である。
【0057】
(2-2) 拡径処理
【0058】
図12に示される有底円筒体20の拡径対象部に対し、拡径処理(拡径加工)を2回以上行うことにより、図13に示される拡径処理後の有底円筒体20を得る。
【0059】
拡径対象部60は、図16に示されるように、有底円筒体20の上端から、上端開口部20cの折り返し加工を含む所定の加工後の容器の高さ(HF)のうち、再絞り対象部20aの上端である所定高さ(HL)位置よりもやや上方の一定高さ位置までの部分である。
【0060】
(2-3) 折り返し加工
【0061】
拡径処理の後、有底円筒体20の上端の開口部に、外方への折り返し加工(カーリング)が施され、図14に示されるように折り返し部20bが設けられる。
【0062】
(2-4) 再拡径処理
【0063】
折り返し加工の後、拡径対象部60に対し、再度の拡径処理を1回行うことにより、図15に示される再拡径処理後の有底円筒体20を得る。
【0064】
この再拡径処理は、折り返し加工部以外の前記拡径対象部について、当該処理前の最大外径(D4)から当該処理後の最大外径(D5)への増加寸法と当該処理前の最大外径(D4)の比率の百分率[(D5-D4)/D4]×100が4%以下であるものである。
【0065】
(2-5) 再絞り処理
【0066】
再拡径処理後の有底円筒体20の再絞り対象部20aに対し、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行うことにより、図16に示される容器を得る。
【0067】
再絞り対象部20aは、有底円筒体20の下端から、上端開口部20cの折り返し加工を含む所定の加工後の容器の高さ(HF)の約3分の1の高さ(HL)の位置(所定高さ位置)までの部分である。所定高さ位置は、ドーム部12の上端位置よりも高い位置である。
【0068】
(2-6) このようにして製造された、3104系アルミニウム合金薄板製の、重ね合わせることができ、タンブラー又はその他の飲料用食器等として用いられる有底円筒状の容器は、実質上、上下方向の軸心線を中心とする回転体であり、胴部14の最も薄い部分の肉厚は、0.12mm以上0.18mm以下の薄肉である。
【0069】
その拡径対象部60のうち、高さ方向における下方側の9割に近い範囲の部分(所定範囲部分)が、内径及び外径が下方に向かって縮径するテーパー状に形成される。
【0070】
拡径対象部60についての、加工前の外径(D1)から拡径処理後の折り返し加工部以外の最大外径(D3)への増加寸法と、加工前の外径(D1)の比率の百分率[(D3-D1)/D1]×100は、約12%である
【0071】
再絞り対象部20aについての、加工前の外径(D1)から加工後の最小外径(D2)への減少寸法と加工後の最小外径(D2)の比率の百分率[(D1-D2)/D2]×100は、約7%である[但し、ドーム部12が設けられている容器下端の、径方向断面がU字状をなす円環状外周部16(HB部分)の外径を除く]。
【0072】
(3) 第3の例
【0073】
図12図17乃至図20、及び図16は、何れも本発明の実施の形態の第3の例としての重ね合わせることができる容器の製法に関するものである。
【0074】
図12図17乃至図20、及び図16中、図1乃至図11と同一の符号は、第1の例における対応する物又は部分等を示す。
【0075】
第3の例は、一部の工程以外は、上記(2)における第2の例に準じる。
【0076】
第3の例が第2の例と相違する工程は、上記(2-2)の拡径処理の前に、図12に示される有底円筒体20の再絞り対象部20aに対し、加工前の外径(D1)から加工後の最小外径(D6)への減少寸法と加工後の最小外径(D6)の比率の百分率[(D1-D6)/D6]×100である再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を1回行う点である。
【0077】
それにより得られた、図17に示される再絞り処理された有底円筒体20に対し、上記(2-2)の拡径処理を施すことにより、図18に示される拡径処理後の有底円筒体20を得、
次いで上記(2-3)の折り返し加工を施すことにより、図19に示される折り返し部20bが設けられ、
続いて上記(2-4)の再拡径処理を施すことにより、図20に示される再拡径処理後の有底円筒体20を得、
更に上記(2-5)の再絞り処理を行うことにより、図16に示されるような、上記(2-6)の記載に準じた有底円筒状の容器を製造することができる。
【0078】
(4) 第4の例
【0079】
図21は、本発明の実施の形態の第4の例としての重ね合わせることができる容器の製法に関するものである。図21中、図1乃至図11と同一の符号は、第1の例における対応する物又は部分等を示す。
【0080】
第4の例は、一部の工程以外は、上記(3)における第3の例に準じる。
【0081】
第4の例が上記(3)における第3の例と相違する工程は、
図12に示される有底円筒体20の再絞り対象部20aに対し、図21に示されるように、加工前の外径(D1)から加工後の最小外径(D6)への減少寸法と加工後の最小外径(D6)の比率の百分率[(D1-D6)/D6]×100である再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を1回行いつつ、同じ有底円筒体20の拡径対象部60に対する拡径処理を1回行い、次いで、拡径対象部60に対する更なる拡径処理を行う点である。なお、D1及びD6の位置は図17に準じる。
【0082】
このように再絞り処理及び拡径処理がなされた有底円筒体20に対し、上記(2-3)のような折り返し加工により図19に示されるような折り返し部20bが設けられ、
続いて上記(2-4)のような再拡径処理により図20に示されるような再拡径処理後の有底円筒体20を得、
更に上記(2-5)のような再絞り処理を行うことにより、図16に示されるような、上記(2-6)の記載に準じた有底円筒状の容器を製造することができる。
【0083】
(5) 第5の例
【0084】
図22は、本発明の実施の形態の第5の例としての重ね合わせることができる容器の製法に関するものである。図22中、図1乃至図11と同一の符号は、第1の例における対応する物又は部分等を示す。
【0085】
第5の例は、上記(3)の第3の例又は上記(4)の第4の例において、再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で行う再絞り処理で再絞り対象部20aを縮径するために用いた縮径ダイス30(治工具)を、引き続き、その後の拡径処理及び折り返し加工において、図22に示すように加工対象である有底円筒体20の再絞り対象部20aを保持するために用いるものである。
【0086】
(6) 第6の例
【0087】
図23及び図24は、本発明の実施の形態の第6の例としての重ね合わせることができる容器の製法に関するものである。
【0088】
治工具の離反モーションの例を示すグラフである図23において、横軸はカム曲線[度]、縦軸は治工具の位置[mm]をそれぞれ示す。
【0089】
図24中、図1乃至図11と同一の符号は、第1の例における対応する物又は部分等を示す。
【0090】
第6の例は、上記第1乃至第5の例のそれぞれにおいて、1以上の再絞り処理及び1以上の拡径処理のうち、少なくとも何れか1以上の処理(例えば全ての処理、又は、何れか1若しくは2以外の処理)において、用いる治工具の1つを、加工対象である有底円筒体20の被加工部に接触してから加工処理終了に至る前までの間に、1回以上離反させるものである。
【0091】
図23における加工開始点及び加工終了点と、図24における加工開始点及び加工終了点は、それぞれ対応する。
【0092】
図23の例では、図24に示されるように縮径ダイス30(治工具)を加工開始点に上昇させ、更に縮径ダイス30をやや上昇させて加工を進めた後、縮径ダイス30を加工開始点の位置まで離反(下降)させ、再び縮径ダイス30を上昇させて加工終了点に至るものであり、縮径ダイス30が有底円筒体20の被加工部に接触してから加工処理終了に至る前までの間の離反は1回である。
【0093】
[2] 本発明の実施の形態を、上記以外の形態を含めて更に説明する。
【0094】
本発明の製法は、アルミニウム又はアルミニウム合金製の有底円筒体に、再絞り処理及び拡径処理を含む所定の加工を施すことにより、重ね合わせることができ、タンブラー又はその他の飲料用食器等として用いられる有底円筒状の容器を製造する方法である。前記所定の加工を施す有底円筒体の例としては、リサイクル品又は廃棄品から得た有底円筒体や、新たに製造して得た有底円筒体を挙げることができるが、これらに限るものではない。
【0095】
(1) 有底円筒体
【0096】
本発明の製法において所定の加工を施す有底円筒体は、アルミニウム又は(好ましくは3004系又は3104系の)アルミニウム合金製であり、アルミニウム又はアルミニウム合金薄板からなるものとすることができる。
【0097】
前記有底円筒体の内面及び外面の両方又は一方或いは内面及び外面を含む全表面の全部又は部分は、例えばエポキシ系、アクリル系、ポリエステル系又はその他の合成樹脂被覆が、塗装、押し出しラミネート又はその他の手段により施されたものであることが好ましいが、必ずしもこれに限るものではない。
【0098】
この所定の加工を施す有底円筒体は、実質上一定外径(例えば下端を除き一定外径)であるものとすることができ、また、複数の同一物を重ね合わせることができないものであるものとすることができる。この有底円筒体は、実質上、上下方向の軸心線を中心とする回転体であることが好ましい。
【0099】
有底円筒体の外径は、例えば57.0乃至66.5mmとすることができるが、これに限るものではない。
【0100】
(1-1) 例えば、アルミニウム合金シートに対し、少なくとも深絞り加工(一般的には、少なくとも、深絞り、再絞り及びしごき加工)を行うと共に、底部の外周よりも内側にドーム部を設け、所要の高さとするために開口側を切除処理することにより、アルミニウム合金製のワンピース(シームレス)の有底円筒体、すなわち本発明の製法において所定の加工を施す有底円筒体(好ましくは胴部が[例えば0.3mm厚未満に]薄肉化されたもの。胴部のうち最も薄い部分の肉厚は、例えば0.12mm以上0.18mm以下であるものとすることができる。)を一体成形で得ることができる。前記所要の高さは、下端からの軸線方向の寸法であり、好ましくは開口部の全周にわたり一定である。
【0101】
なお、本発明の製法においては、次の(a)又は(b)のような処理を経た有底円筒体に対し前記所定の加工を施すものとすることが好ましい。
【0102】
(a) 前記のようにして得られた有底円筒体に対し、脱脂洗浄を行った後、(必要に応じてZr化成処理を行った上で、)乾燥させ、その後、外面装飾及び塗装、底部塗装、並びに内面塗装を施して得られた有底円筒体。
【0103】
(b) 前記アルミニウム合金シートとして表面に樹脂被覆されたものを用いること以外は前記と同様にして得られた有底円筒体に対し、被覆樹脂に生じた歪を除去して被覆樹脂をアルミニウムに再密着させる加熱処理を行った後、外面装飾及び塗装、底部塗装、並びに内面塗装を施して得られた有底円筒体。
【0104】
(1-2) また例えば、アルミニウム合金シート(好ましくは表面に塗装による又はその他の樹脂被覆を施したもの)に対し、少なくとも深絞り加工(一般的には、少なくとも、深絞り、再絞り及びしごき加工)を行うと共に、底部の外周よりも内側にドーム部を設けて、有底円筒状に一体成形し、更にその開口側について少なくとも外径を縮小させる加工(及び、必要に応じ、フランジ加工、ねじ加工、先端折り返し加工等)を行うことによりボトル状缶としたもの(或いは更に外面装飾及び塗装、底部塗装等を行ったもの)について、開口側の縮径部よりも下方側(肩部よりも下方側)の所要の高さ位置で開口側(すなわち上方側)を切除処理することにより、アルミニウム合金製のワンピース(シームレス)の有底円筒体、すなわち本発明の製法において所定の加工を施す有底円筒体(好ましくは胴部が[例えば0.3mm厚未満に]薄肉化されたもの。胴部のうち最も薄い部分の肉厚は、例えば0.12mm以上0.18mm以下であるものとすることができる。)を一体成形で得ることができる。
【0105】
このような処理の対象とするボトル状缶としては、開口部先端の折り返し加工による欠陥等の、開口側へ向かう縮径が開始する位置及びそれよりも上方位置に欠陥を有するという理由により使用されずにリサイクル又は廃棄されるべきものが望ましい。
【0106】
なお、有底円筒状の缶体に上蓋等が捲き締め等により接合されたものについても、所要高さよりも上方位置に欠陥を有するという理由により使用されずにリサイクル又は廃棄されるべきもの等について、同様に上方側を切除処理することにより、同様に本発明の製法において所定の加工を施す有底円筒体を得ることができる。
【0107】
(2) 再絞り処理
【0108】
上記のようにして得ることができる所定の加工を施す有底円筒体のうち、下端から、加工後の容器の高さの5分の2以下の所定高さ位置までの部分(すなわち、再絞り対象部)に対し、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理(再絞り加工)を行う。
【0109】
加工後の容器の高さというのは、容器の高さにそれ以上の変更が実質上加えられない状態の容器の高さを言い、例えば、上端の開口部に折り返し加工が施される場合は、その折り返し加工後の容器の高さである。
【0110】
再絞り対象部は、前記有底円筒体の下端から、加工後の容器の高さの5分の2以下の所定高さ位置までの部分(諸条件によっては、加工後の容器の高さの4分の1以下の所定高さ位置までの部分)である。前記所定高さ位置としては、加工後の容器の高さの5分の2の高さ位置や、加工後の容器の高さの4分の1の高さ位置や、加工後の容器の高さの6分の1の高さ位置を、例として挙げることができる。所定高さ位置は、ドーム部の上端位置よりも高い位置とすることが、容器同士の重ね合わせを十分になし得るものとする等の上で好ましいが、必ずしもこれに限るものではない。
【0111】
再絞り対象部に対する再絞りは、しわ押え治工具を用いないで、1回又は2回以上行うものとすることができる。
【0112】
再絞り対象部についての加工前の外径(D1)から加工後の外径(D2)への減少寸法と加工後の外径(D2)の比率の百分率[(D1-D2)/D2]×100は、例えば1%以上6%以下であるものとすることができるが、これに限るものではない(但し、ドーム部が設けられている容器下端の、径方向断面がU字状をなす円環状外周部の外径[再絞り対象部の他の部分よりも縮径した部分の外径]を除く)。
【0113】
(3) 拡径処理
【0114】
(3-1) 上記のようにして得ることができる所定の加工を施す有底円筒体のうち、上記再絞り対象部を除く部分(すなわち再絞り対象部よりも上方の部分)の全部又は前記有底円筒体の上端から前記再絞り対象部よりも上方の一定高さ位置までの部分(すなわち、拡径対象部)に対し、拡径処理(拡径加工)を行う。
【0115】
拡径対象部は、前記有底円筒体のうち再絞り対象部よりも上方の部分の全部、又は、有底円筒体のうち上端から再絞り対象部よりも上方の一定高さ位置までの部分である。
【0116】
前記一定高さ位置は、例えば加工後の容器の高さの3分の2の高さ以下の位置とすることができる。容器同士の重ね合わせを十分になし得るものとする等の上で、好ましくは加工後の容器の高さの2分の1の高さ以下の位置である。再絞り対象部の高さによっては、5分の2の高さ以下の位置又は3分の1の高さ以下の位置とすることができる。
【0117】
拡径対象部に対する拡径処理は、2回又は3回以上行うことが望ましい。また、拡径処理は、上記再絞り処理の前に行うことができる他、後に行うこともできる。
【0118】
(3-2) 前記拡径処理は、前記拡径対象部のうち、少なくとも高さ方向の所定範囲部分を、内径及び外径が下方に向かって縮径するテーパー状(テーパー角度が上下方向の位置によって変化するものであってもよい。)に形成するものである。
【0119】
所定範囲部分は、例えば、拡径対象部の全部、又は、拡径対象部の高さ方向における下方側の4分の1以上の範囲、好ましくは3分の1以上の範囲、より好ましくは2分の1以上の範囲、更に好ましくは3分の2以上の範囲である。
【0120】
拡径対象部についての加工前の外径(D1)から拡径処理後の最大外径(D3)への増加寸法と加工前の外径(D1)の比率の百分率[(D3-D1)/D1]×100は、例えば4%以上10%以下であるものとすることができるが、これに限るものではない。
【0121】
また、前記拡径処理を経た所定の加工後の拡径対象部は、上方に向かって内径が縮小する部分を有しないことが望ましい。
【0122】
(4) 折り返し加工
【0123】
上記のようにして得ることができる所定の加工を施す有底円筒体の上端の開口部には、外方への折り返し加工(カーリング)を施すことが望ましい。なお、一般的には、折り返し加工は拡径処理後に行う。
【0124】
(5) 好適な製法例
【0125】
(5-1) 本発明の製法において、上記再絞り対象部に対する再絞り処理は、上記拡径処理及び折り返し加工を行った後に行うものとすることが好ましい。
【0126】
再絞り処理において、前記有底円筒体の胴部にシワが発生することが効果的に抑えられ、不良品発生率を低下させることができるからである。
【0127】
また、この点により、前記有底円筒体のうち、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行うことができる下端からの高さの範囲が広がる(再絞り対象部を、前記有底円筒体のうち、例えば、下端より、加工後の容器の高さの4分の1以下の所定高さ位置までの部分から、加工後の容器の高さの5分の2以下の所定高さ位置までの部分へ、範囲を広げることができる)。前記有底円筒体に対し再絞り処理を行う下端からの高さの範囲が広がると、製造される容器を複数重ね合わせた場合の高さの低減(従って保管や輸送等に要するスペースの削減)に繋がる。
【0128】
更に、製造される容器を、再絞り処理又は拡径処理が行われた部分の肉厚が、最も薄い部分において例えば0.12mm以上0.18mm以下の薄肉であるものとすることも可能となる。
【0129】
前記拡径処理は、2回以上行うことが好ましく、前記折り返し加工は、1回以上行うものとすることができる。なお、一般的には、折り返し加工は拡径処理後に行う。
【0130】
また、前記再絞り処理は、2回以上行うことが好ましい。
【0131】
拡径対象部についての加工前の外径(D1)から拡径処理後の最大外径(D3)への増加寸法と加工前の外径(D1)の比率の百分率[(D3-D1)/D1]×100は、例えば4%以上14%以下であるものとすることができるが、これに限るものではない。
【0132】
再絞り対象部についての加工前の外径(D1)から加工後の外径(D2)への減少寸法と加工後の外径(D2)の比率の百分率[(D1-D2)/D2]×100は、例えば1%以上11%以下であるものとすることができるが、これに限るものではない(但し、ドーム部が設けられている容器下端の、径方向断面がU字状をなす円環状外周部の外径[再絞り対象部の他の部分よりも縮径した部分の外径]を除く)。
【0133】
(5-2) 上記(5-1)における、上記拡径処理及び折り返し加工を行った後の再絞り処理は、
前記拡径処理及び折り返し加工の後、上記拡径対象部について更に拡径処理を行った上で行うものであり、
前記更に行う拡径処理は、折り返し加工部以外の前記拡径対象部について、当該処理前の最大外径(D4)から当該処理後の最大外径(D5)への増加寸法と当該処理前の最大外径(D4)の比率の百分率[(D5-D4)/D4]×100が4%以下であるものとすることが好ましい。
【0134】
この場合、上記有底円筒体の素材が割れる率を効果的に低減させることができる。
【0135】
なお、前記比率の百分率が4%以下である当該処理は、1回の拡径処理によるものであることが好ましいが、複数回の拡径処理によるものとすることもできる。
【0136】
(5-3) 上記(5-1)又は(5-2)における再絞り対象部に対し、加工前の外径(D1)から加工後の外径(D6)への減少寸法と加工後の外径(D6)の比率の百分率[(D1-D6)/D6]×100である再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を(好ましくは1回の処理により)行った上で、
上記拡径処理及び折り返し加工を行い、その後、上記再絞り処理を行うものとすることが好ましい。
【0137】
この場合、前記拡径処理及び折り返し加工の前後にそれぞれ行う再絞り処理において、前記有底円筒体の胴部にシワが発生することが効果的に抑えられ、不良品発生率を低下させることができる。
【0138】
また、この点により、前記有底円筒体のうち、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行うことができる下端からの高さの範囲が広がる。前記有底円筒体に対し再絞り処理を行う下端からの高さの範囲が広がると、製造される容器を複数重ね合わせた場合の高さの低減に繋がる。
【0139】
更に、製造される容器を、再絞り処理又は拡径処理が行われた部分の肉厚が、最も薄い部分において例えば0.12mm以上0.18mm以下の薄肉であるものとすることができる。
【0140】
(5-4) 上記(5-1)又は(5-2)における再絞り対象部に対し、加工前の外径(D1)から加工後の外径(D6)への減少寸法と加工後の外径(D6)の比率の百分率[(D1-D6)/D6]×100である再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で、しわ押え治工具を用いないで再絞り処理を行いつつ、上記拡径対象部に対し拡径処理を行った後、
上記拡径対象部に対する更なる拡径処理及び上記折り返し加工を行い、
その後、上記再絞り処理を行うものとすることができる。
【0141】
この場合、前記更なる拡径処理及び前記折り返し加工の前後にそれぞれ行う再絞り処理において、前記有底円筒体の胴部にシワが発生することが効果的に抑えられ、不良品発生率を低下させることができる。他の点も上記(5-3)に準じる。
【0142】
(5-5) 上記(5-3)又は(5-4)における、再絞り率が1.0%以上1.5%以下の範囲で行う再絞り処理において上記再絞り対象部を縮径するために用いた治工具を、
引き続き、その後の拡径処理及び折り返し加工において加工対象である有底円筒体における上記再絞り対象部を保持するために用いるものとすることが好ましい。
【0143】
この場合、加工対象の前記有底円筒体の肉厚がより薄いものであっても、拡径処理又は折り返し加工における座屈の発生を効果的に防止することができる。
【0144】
(5-6) 本発明の製法は、上記1以上の再絞り処理及び1以上の拡径処理のうち、少なくとも何れか1以上の処理(例えば全ての処理、又は、何れか1若しくは2以外の処理)において、用いる治工具の1つを、加工対象の被加工部に接触してから加工処理終了に至る前までの間に、1回以上離反させるものとすることが好ましい。
【0145】
各処理において用いる治工具の1つを、加工対象の被加工部に接触してから加工処理終了に至る前までの間に、1回以上離反させることにより、離反後に再接触する加工対象の前記有底円筒体と当該治工具の中心位置(又は中心軸線)を揃える(例えば、より精度よく一致させる)ことができ、前記有底円筒体に割れやしわが発生する率を効果的に低減させることができる。
【0146】
(6) 本発明により製造される、重ね合わせることができ、タンブラー又はその他の飲料用食器等として用いられる有底円筒状の容器は、実質上、上下方向の軸心線を中心とする回転体である容器であることが好ましく、また、容器の胴部の肉厚は、例えば0.3mm厚未満の薄肉とすることができ、例えば容器の胴部のうち最も薄い部分の肉厚は0.12mm以上0.18mm以下とすることができる。また、本発明により製造される有底円筒状の容器は、底部の外周よりも内側に、底部に少なくとも容器としての実用上の剛性を確保することを目的の一つとして、ドーム部を有するものとすることができる。ドーム部の形状の例としては、上向きに凸の曲面状をなす下方開口の凹形状;下部外周は円筒若しくは円錐台の外周面形状をなし、その上側は上向きに凸の曲面状をなす、下方開口の凹形状;略円錐状又は略円錐台状をなす下方開口の凹形状などの下方開口の凹形状を挙げることができるが、これらに限るものではない。なお、ドーム部は、底部の剛性向上の他、製造工程において(例えばコンベア搬送時に)、例えば、底部の接触面積を減らして底部に擦り傷やその他の損傷が生じることを極力防ぐ上で効果を奏し得る。
【符号の説明】
【0147】
10 ボトル状缶
12 ドーム部
14 胴部
16 円環状外周部
18 肩部
20 有底円筒体
20a 再絞り対象部
20b 折り返し部
20c 上端開口部
30 縮径ダイス
40 円板状受止体
50 押圧体
50a 円環状板状部
50b 円錐台状凸部
50c エア供給孔
60 拡径対象部
70 拡径治具
72 エア供給通路
C 所要の高さ位置
D1 加工前の外径
D2 加工後の外径
D3 拡径処理後の最大外径
D4 再拡径処理前の最大外径
D5 再拡径処理後の最大外径
D6 拡径処理前の再絞り処理による最小外径
HF 所定の加工後の容器の高さ
HL 所定高さ
HB 円環状外周部の高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24