(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061548
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】長時間ライブセルイメージングを可能にするナノ粒子添加剤
(51)【国際特許分類】
C08F 8/30 20060101AFI20220412BHJP
C08G 81/02 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C08F8/30
C08G81/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169515
(22)【出願日】2020-10-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業」「幹細胞の品質保持培養のためのメカノバイオマテリアルの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長崎 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 豊
(72)【発明者】
【氏名】木戸秋 悟
(72)【発明者】
【氏名】久保木 タッサニーヤー
【テーマコード(参考)】
4J031
4J100
【Fターム(参考)】
4J031AA13
4J031AA19
4J031AA53
4J031AB01
4J031AC03
4J031AC07
4J031AD01
4J031AE15
4J031AE19
4J031CD14
4J031CD24
4J100AB02P
4J100AK32Q
4J100BA08H
4J100BA35H
4J100BC65H
4J100BD10H
4J100CA04
4J100CA31
4J100HA11
4J100HC61
4J100HC63
4J100HC83
4J100HG12
4J100HG20
4J100JA53
(57)【要約】
【課題】ライブセルイメージングにおける光刺激による細胞のダメージの抑制若しくは蛍光の退色の抑制又は前記両抑制剤の提供。
【解決手段】ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)共重合体の無水マレイン酸単位を介してポリ(エチレングリコール)鎖及び環状ニトロキシドラジカルを導入した共重合体を有効成分とする、ライブセルイメージングにおける観察時間の延長剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される各反復単位を含んでなる共重合体を有効成分とする、ライブセルイメージングにおける観察時間の延長剤。
【化1】
式中、
x+yは5~1400の整数であり、nは5~1400の整数であり、x+y:nは1:1~5の比率にあり、x:yは1~60:1の比率にある。
(1)下付き記号yの付された反復単位において、L-PEG-A中、
Lは、O又はNHであり、PEGは次式で表され、
【化2】
ここで、pは1~6の整数であり、qは5~500の整数であり、
Aは下付きpの付されたα末端に共有結合しており、
A1:非置換若しくは置換C
1-C
12アルコキシ基を表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R
aR
bCH-(ここで、R
a及びR
bは独立して、C
1-C
4アルコキシまたはR
1とR
2は一緒になって-OCH
2CH
2O-、-O(CH
2)
3O-もしくは-O(CH
2)
4O-を表す。)の基、又は
A2:次式
【化3】
で表される基を表し、当該反復単位は式(I)で表される共重合体の総単位の2%~15%を占める。
(2)下付き記号xの付された反復単位において、R
1又はR
2のいずれか一方は、次式
【化4】
で表され、他方はOHであり、各反復単位はランダムに存在し、かつ、前者の式で表され
る残基はxの総数の15%~60%を占め、ここで、
TEMPOは、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル-4-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル-3-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリン-1-オキシル-3-イル、2,4,4-トリメチル-1,3-オキサゾリジン-3-オキシル-2-イル、2,4,4-トリメチル-1,3-チアゾリジン-3-オキシル-2-イル及び2,4,4-トリメチル-イミダゾリンジン-3-オキシル-2-イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基である。
【請求項2】
請求項1に記載の延長剤であって、当該延長が、当該ライブセルイメージングにおける光刺激による細胞のダメージの抑制若しくは蛍光の退色の抑制又は前記両抑制に基づく、延長剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の延長剤であって、式(I)で表される共重合体がナノ粒子の形態にある、延長剤。
【請求項4】
請求項3に記載の延長剤であって、前記共重合体が第四級アンモニウム化合物とのポリイオンコンプレックスを形成している、延長剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生細胞の長時間イメージングを可能にするための特定のブロック共重合体の用途に関し、より具体的には、ポリ(エチレングリコール)セグメントをペンダントとして、かつ、環状ニトロキシドラジカルを側鎖に有するポリマーセグメントを含む共重合体の用途又は使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、細胞や組織、動物が生きている状態で細胞内の分子等の動態を観察できる蛍光ライブセルイメージングにおいて、細胞は蛍光色素分子それ自体又は蛍光色素分子を励起するための低波長及び高波長の光刺激のいずれによってもダメージを受けるため、長時間の観察は困難であった。このようなダメージには、蛍光色素分子の退色や細胞の不健全化又は蛍光色素分子それ自体の退色が含まれる。退色については退色防止剤の使用、蛍光色素の改変が試みられ、また他方で、観察に用いられる蛍光顕微鏡の光路の最適化や露光時間の短縮化等が試みられている。しかし、例えば、退色防止剤の使用では、観察時間の延長効果の時間スケールは蛍光色素の濃度にも依存することから、およそ数十秒から数分内にとどまるものであり、数十時間にも及ぶ長時間の生細胞のイメージングは不可能であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、市販されている広範なライブセルイメージングの観察系が効果的に使用可能であり、特に、前記ダメージを抑制でき、生細胞の長時間イメージングを可能にするために使用することのできる添加剤を提供することにある。本発明者等は、このような目的を達成できる添加剤について検討してきたところ、本発明者らの一部が、先に、各種炎症性疾患等を効果的に抑制または治療できる材料として提案してきた、環状ニトロキシドラジカル、例えば、3,3,6,6-テトラメチルピペリジン-1 オオキシル(TEMPO)等を高分子化した共重合体の中、特に、ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)共重合体の側鎖にTEMPOを含む特定の共重合体(特開2019‐123773号公報参照。)が、当該目的を達成するために、効果的に使用できることを見出した。
【0004】
したがって、次の態様の発明が提供される。
[態様1]
下記式(I)で表される各反復単位を含んでなる共重合体を有効成分とする、ライブセルイメージングにおける観察時間の延長剤。
【化1】
式中、
x+yは5~1400の整数であり、nは5~1400の整数であり、x+y:nは1:1~5の比率にあり、x:yは1~60:1の比率にある。
(1)下付き記号yの付された反復単位において、L-PEG-A中、
Lは、O又はNHであり、PEGは次式で表され、
【化2】
ここで、pは1~6の整数であり、qは5~500の整数であり、
Aは下付きpの付されたα末端に共有結合しており、
A1:非置換若しくは置換C
1-C
12アルコキシ基を表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R
aR
bCH-(ここで、R
a及びR
bは独立して、C
1-C
4アルコキシまたはR
1とR
2は一緒になって-OCH
2CH
2O-、-O(CH
2)
3O-もしくは-O(CH
2)
4O-を表す。)の基、又は
A2:次式
【化3】
で表される基を表し、当該反復単位は式(I)で表される共重合体の総単位の2%~15%を占める。
(2)下付き記号xの付された反復単位において、R
1又はR
2のいずれか一方は、次式
【化4】
で表され、他方はOHであり、各反復単位はランダムに存在し、かつ、前者の式で表される残基はxの総数の15%~60%を占め、ここで、
TEMPOは、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル-4-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル-3-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリン-1-オキシル-3-イル、2,4,4-トリメチル-1,3-オキサゾリジン-3-オキシル-2-イル、2,4,4-トリメチル-1,3-チアゾリジン-3-オキシル-2-イル及び2,4,4-トリメチル-イミダゾリンジン-3-オキシル-2-イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基である。
[態様2]
態様1に記載の延長剤であって、当該延長が、当該ライブセルイメージングにおける光刺激による細胞のダメージの抑制若しくは蛍光の退色の抑制又は前記両抑制に基づく、延長剤。
[態様3]
態様1又は2に記載の延長剤であって、式(I)で表される共重合体がナノ粒子の形態にある、延長剤。
[態様4]
態様3に記載の延長剤であって、前記共重合体が第四級アンモニウム化合物とのポリイオ
ンコンプレックスを形成している、延長剤。
【発明の効果】
【0005】
ライブセルイメージング(生細胞イメージング)における、光刺激による細胞のダメージの抑制若しくは蛍光の退色の抑制又は前記両抑制に基づき、観察時間を延長できるので、例えば、ライブセルイメージングを用いる創薬スクリーニングを効果的に実施するための試薬又は添加剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】タイムラプス1日間のイメージング後の3T3s-SEGFPビデオ撮影動画の典型的な1コマの記録写真
【
図2】タイムラプス24時間後時点からの観察のビデオ撮影動画の典型的な1コマの記録写真
【
図3】タイムラプス24時間後時点からの観察による細胞接着面積の経時変化におけるRNPの濃度依存性について示すグラフ表示
【
図4】タイムラプス24時間後時点からの観察による細胞輪郭長の経時変化におけるRNPの濃度依存性について示すグラフ表示
【
図5】タイムラプス24時間後時点からの観察による蛍光強度の経時変化におけるRNPの濃度依存性について示すグラフ表示
【
図6】蛍光タイムラプス観察時の細胞面積、細胞輪郭長、蛍光強度の経時変化におけるRNPの濃度依存性について示すグラフ表示
【
図7】蛍光タイムラプス観察時の蛍光強度の経時的変化からみた細胞の健常状態の維持時間のRNP濃度依存性について示すグラフ表示
【
図8】蛍光連続照射観察時の蛍光強度の経時変化:RNP添加タイミングの効果を示すグラフ
【
図9】蛍光連続照射観察時の蛍光強度の経時変化:公知試薬とRNPとの比較を示すグラフ表示
【発明の詳細な説明】
【0007】
本明細書で用いる技術用語は、特に、言及しない限り、当該技術分野で常用されている意味、内容を有するものと理解されるものである。
【0008】
式(I)で表される共重合体は、上記の特開2019‐123773号公報に開示されており、当該公報はここに引用することにより、その全内容は本明細書の内容となる。
【0009】
限定されるものでないが、本発明で用いる式(I)で表される共重合体について以下説明する。
【0010】
式(I)の共重合体において、x+y及びnは、限定されるものでないが、無水マレイン酸及びスチレンのラジカル共重合によって得られるランダム共重合体、好ましくは交互共重合体、それぞれの反復単位を構成する単位数に由来することができる。ここで、x+yは5~1400の整数であることができ、nは5~1400の整数であることができ、x+y:nは1:1~5、好ましくは1:1~3、より好ましくは1:2の比率にあることができる。かようなx+yにいうx:yは、1~60:1、好ましくは1~40:1、より好ましくは1~20:1の比率にあることができる。さらに、yは、前記LがOであるとき2以上であり、NHであるとき1以上であることができる。
【0011】
式(I)の共重合体において、下付き記号yの付された反復単位におけるL-PEG-A中のPEGは、式
【化5】
で表され、ここで、pは1~6、好ましくは2~4、特に2の整数であり、qは5~500、好ましくは10~300、より好ましくは20~150の整数であることができる。なお、本明細書における式又は部分若しくは基は、特記しない限り、表示した方向性を持つものとして記載している。
【0012】
一方、Aは、A1に定義されるとおり、非置換若しくは置換C
1-C
12アルコキシ基を表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R
aR
bCH-(ここで、R
a及びR
bは独立して、C
1-C
4アルコキシまたはR
1とR
2は一緒になって-OCH
2CH
2O-、-O(CH
2)
3O-もしくは-O(CH
2)
4O-を表す。)の基であるか、又は
A2に定義される式
【化6】
で表される特定の基であることができる。
【0013】
A1に定義される保護されたホルミル基やA2に定義される特定の保護されたホルミル基がPEGのα末端に存在する場合には、当該基を介して標的指向性リガンド等がPEG鎖末端に導入されていてもよい。
【0014】
式(I)の共重合体は、前記R
1又はR
2のいずれか一方は、次式
【化7】
で表され、他方はOHである場合(後者はカルボキシル基を形成する)、カルボキシル基の対イオン化合物である第四級アンモニュウム又はアミン化合物と一緒になってポリイオンコンプレックス(PIC)を形成することができる。このようなPICは水性媒体中で安定なPICミセルとして存在できる。限定されるものでないが、第四級アンモニュウム化合物としては、ベンザルコニウム、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(クロリド)、1,2-ジオレイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(クロリド)、1,2-ジオレイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(メチルサルフェート)、キトサン、ポリ(メタクリル酸 2-トリエチルアミノエチルクロリド)等を挙げることができる。
【0015】
前記のTEMPOは、より好ましくは、次式
【化8】
上式中、R’はメチル基である、
で表される場合がある。
【0016】
当該共重合体それ自体のミセル又はPICミセルは、グラフトされるPEG鎖の数の含有量等により、ミセル水溶液について動的光散乱(DLS)の測定を行った場合の平均粒径が約10nm~約600nm、好ましくは約15nm~約150nmのミセル粒子として提供できる。かようなミセルは、遠心等の分離手段により分離でき、また、凍結乾燥することにより、乾燥組成物として保存でき、必要に応じて、水性媒体中で再構成できる。このような乾燥組成物は、必要により、生理学的に許容され得る希釈剤または賦形剤を含む当該共重合体それ自体のミセル又はPICミセルの水溶液として提供できる。このような希釈剤は、滅菌水、生理食塩水、生理学的に許容される緩衝剤を含む溶液等であることができ、賦形剤としては、例えば、ソルビトール、デキストリン、ブドウ糖、マンニトール、アミノ酸(例えば、グリシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、グルタミン酸等)等であることができる。
【0017】
式(I)で表される共重合体それ自体若しくはそのミセル又はPICミセルは、必要に応じて、前述の溶液として、例えば、ライブセルイメージングにおいて観察する対象の細胞培養物に適量添加することができる。かような適量は、培養又はインキュベーション条件、用いる蛍光色素種類等により最適量が変動するので限定することができないが、当業者であれば、必要により、後述する実験例等を参照に、小実験を行うことによって決定することができる。
【0018】
ライブセルイメージング技術は、本明細書では、光を用いて細胞を生きた状態で、個々又は集団の細胞の動態又は形態若しくは活動の変化を観察する手法を意味する。このような観察が長時間安定維持できると、限定されるものではないが、例えば、各発生期のダイナミックな細胞の動き、細胞分裂、各種細胞の遊走、神経細胞の神経突起の伸展等、透明画像での経時的な観察により、様々な生命現象を確認することが可能となる場合がある。また、蛍光色素染色やタンパック質染色を用いた遺伝子やタンパク質の発現過程の観察や、これらをマーカーとする細胞の経時的変化の確認、さらに細胞輸送の研究などに利用することを可能にする場合がある。
【0019】
典型的には、蛍光色素が用いられるが、これらには、本発明の目的に沿うものであれば、既に、当該技術分野で使用されているものに限定されることなく、その改変物のいずれであってもよく、蛍光有機化合物、蛍光タンパク質、量子ドット、希土類蛍光錯体が包含され、また、色素は緑色蛍光、赤色蛍光、黄色蛍光の一種又はそれらの組み合わせであることができる。したがって、本発明にいう光刺激にいう「光」は、一般的に、これらの色素を励起し、蛍光の励起に用いられる光(レーザー光)を意味するが、それらに限定されない。光刺激による細胞のダメージ又は不健全な状態は、前述した細胞のダイナミックな動き等の変化の経時的な観察により確認できる場合があり、限定されるものではないが、観察を行っている間の、培養容器からの細胞の剥離、細胞膜の小胞形成若しくは大きな空砲の形成、ミトコンドリアの肥大化、又は蛍光タンパク質の凝集等であることができる。
【実施例0020】
以下、具体例を参照しながら本発明をさらに説明するが、本発明の範囲をこれらの例に限定することを意図するものでない。
【0021】
製造例1:SMAPo(n=2)の合成(N557)(2本のPEGをPSMAにエステ
ルで結合したもの)
【化9】
【0022】
市販のポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)共重合体(PSMA、分子量7,500、スチレン:無水マレイン酸ユニット比=2:1)(PSMAと略記)38gを無水テトラヒドロフラン(THF)100mLに溶解させた。市販の片末端メトキシ、他末端ヒドロキシ ポリ(エチレングリコール)(MW=5,000,MeO-PEG-OHと略記)50gを200mLナス型フラスコに計り取り、80℃で1日間減圧乾燥させた後、乾燥THF200mLに溶解させ、市販ブチルリチウム(ヘキサン溶液、1.6M)6.5mL加え、PEG末端をアルコラートにした。この溶液を先のPSMAのTHF溶液に加え、室温で1日反応させた。反応溶液を1Lのイソプロピルアルコールに投入し、遠心(9,000rpm、2分間)により沈殿物を得た。上澄みを捨て、沈殿物をヘキサンに分散し、遠心で沈殿物を精製した(2回)。その後減圧乾燥によりポリマーを回収した(76g)。上記で得られたポリマーのサイズ分画クロマトグラフィー(SEC)の測定、1H-NMRスペクトルの測定により目的物が得られたことを確認した。それぞれの測定結果は、前述した特開2019‐123773公報の製造例1を参照。
【0023】
同様に、SMAPo(n=5)(N6051)(5本の合成(N60511)(10本のPEGをPSMAにエステルで結合したもの)を得た(それぞれ、前記公報の製造例2,3を参照。)。
【0024】
製造例2:SMAPo
TN(n=2,N564)の合成(2本のPEGをPSMAにエス
テルで結合し残りの無水マレイン酸環にNH
2-TEMPOを導入したもの)
【化10】
【0025】
製造例1で合成したSMAPo 20gを無水THF150mLに溶解した。NH2-TEMPO5gを15mLの無水THFに溶解し、上記溶液に加え室温で2時間攪拌する。反応溶液を1Lのエーテルに投入し、減圧ろ過にて沈殿を回収し、減圧乾燥を行い、目的物を得た(収量25g)。上記で得られたポリマーのSECの測定結果から、TEMPO導入量は16個/鎖、カルボキシル基25個/鎖であることを確認した。
【0026】
同様に、SMAPoTN(n=2,N607)(2本のPEGをPSMAにエステルで結合し残りの無水マレイン酸環にNH2-TEMPOを導入したもの)(ESRより1本あたりのTEMPO導入量は16.5であった。)得た(それぞれ、前記公報の製造例9,10を参照。))。
【0027】
製造例3:SMAPo
TN(N564)のナノ粒子の調製
製造例2で合成したSMAPo
TN(N564)の50mgを10mLのDMFに溶解し、分画分子量3.6KDaの透析膜を用いて2Lの水に対して透析を行った。12時間ごとに透析水を2度交換したのち、遠心エバポレータで濃縮して10mg/mLとした。その溶液の動的光散乱及びゼータ電位を測定した。それぞれの測定結果は、前記公報の
図20及び
図21を参照のこと。
【0028】
製造例4:SMAPo
TN(N564)とBKClとの複合体調製
塩化ベンザルコニウム(BKCl)(10%水溶液)を0.28gとミリQ水3.7mLとを混合させた(溶液A)。SMAPo
TN(N564)70mgをミリQ水2mLと0.1M NaOH一滴加え混合した(溶液B)。溶液A、Bを下記の表1に示すように混合し、複合体を調製した。
【表1】
【0029】
複合体の粒径、ゼータ電位及び散乱強度(カウントレート)の測定結果は、それぞれ、前記公報の
図22、
図23及び
図24を参照のこと。
【0030】
製造例5:TEMPO・PEG導入SMAP(SMAP
n1
TN)(1本のPEGをPS
MAにアミノ結合させ、残りの無水マレイン酸にTEMPOを導入したもの)
の合成
【化11】
【0031】
市販のポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)共重合体(PSMA、分子量7,500、スチレン:無水マレイン酸ユニット比=2:1)(PSMAと略記)373mgとNH
2-PEGをPSMAに対してモル比で1:1(246mg)の割合で無水DMF5mLに溶解させたこと以外、製造例9と同様の方法を実施してSMAP
n1
TNを合成した(732mg)。得られたポリマーの電子スピン共鳴(ESR)スペクトル測定によりTEMPO導入率は1ポリマーあたり17個であった。得られたポリマーの
1H-NMRスペクトルを
図48に示す。
【0032】
製造例6:TEMPO・PEG導入SMAP(SMAP
n3
TN)(3本のPEGをPS
MAにアミノ結合させ、残りの無水マレイン酸にTEMPOを導入したもの)
の合成
市販のポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)共重合体(PSMA、分子量7,500、スチレン:無水マレイン酸ユニット比=2:1)(PSMAと略記)200mgとNH
2-PEGをPSMAに対してモル比で1:3(399mg)の割合で無水DMF5mLに溶解させたこと以外、製造例9と同様の方法を実施してSMAP
n3
TNを合成した(536mg)。得られたポリマーの電子スピン共鳴(ESR)スペクトル測定によりTEMPO導入率は1ポリマーあたり16個であった。得られたポリマーの
1H-NMRスペクトルの測定結果は、前記公報の
図49を参照。
【0033】
同様に、TEMPO・PEG導入SMAP(SMAPn1.5
TN)(1.5本のPEGをPSMAにアミノ結合させ、残りの無水マレイン酸にTEMPOを導入したもの)を得た。前記公報の製造例28参照。
【0034】
1.実験方法:
以下の実験方法では、上記の製造例3のSMAPoTN(N564)のナノ粒子の調製によって得られたナノ粒子(RNPs)を用いた。
【0035】
(1)RNPsの存在下及び非存在下でのSEGFPを安定に発現する3T3のライブセルイメージング
SEGFP(スーパーエンハンスドグリーン蛍光タンパク質:大阪大学永井健治教授より提供)を安定に発現する遺伝子組替え3T3線維芽細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)と100単位/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシンと250μg/mLのG418が補充されたダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。3T3s-SEGFPをトリプシン処理して、12ウエルプレートに1cm2当たり1,000細胞の密度で播種した。8時間後、NucBlue(登録商標)Live Ready Probe(Thermo Fisher Scientific)を用いて15分間細胞核を染色した。細胞をCO2インデペンデントLeibovitz L-15培地で2度洗浄し、培養液をRNP不含の新鮮な培地で交換し、それぞれ、240、120、60、30μg/mLのRNP及び35μMのTEMPOLを追加した。20Xの対物レンズを備えたオールインワン蛍光顕微鏡(BZ-X700、キーエンス社製)を用いてライブセルイメージングを行った。GFT及びNucBlueを可視化するため、標準GFPフィルターとDAPIフィルターのセット用いる金属ハロゲン化物ランプで蛍光体を励起した。細胞の光毒性を誘発するために、照度を最大100%に設定した。16~18分間隔で48時間にわたり蛍光と位相コントラストの動画を撮影した(10μm間隔の5Z スタッキング画像)。
【0036】
(2)RNPsの存在下及び非存在下での3T3s-Venus-パキシリンのフォトブリーチング
フォーカルアドヒージョンタンパク質(focal adhesion protein)パキシリン(paxillin)とフレーム内で融合された黄色蛍光タンパク質Venus(大阪大学永井健治教授より提供)(Venus-Paxillin)を安定に発現する3T3線維芽細胞を、それぞれ、3μg/mLのRNPの存在下と非存在下でガラスベース皿上に播種し、一夜培養した。観察の3時間以上前に、細胞に3及び1.5μg/mL濃度でRNPを加えた。サンプルを次のとおり選定した。
・共培養-/I- = 播種中もイメージング中もRNPを含まない対照細胞
・共培養-/I3μg/mL = 播種中にはRNPを含まないが、イメージング中に3μg/mLを追加した細胞
・共培養-3μg/mL/I- = 一夜RNP 3μg/mLと共培養し、次いでイメージング中にRNP洗い流した細胞
・共培養-3μg/mL/I1.5μg/mL =一夜RNP 3μg/mLと共培養し、次いでイメージング中にRNP 1.5μg/mLを追加した細胞
・共培養-3μg/mL/I3μg/mL =一夜RNP 3μg/mLと共培養し、次いでイメージング中にRNP
3μg/mLを追加した細胞
【0037】
当該フォトブリーチング法は、63Xのオイル浸漬対物レンズを備えたBZ-X700のビデオ記録モードを用いて行った。各試験では、約5~10個の細胞を含有する全領域の観察視野をフォトブリーチングのために選択した。画像は、100%の強度の連続照射で露光時間を4秒に設定することにより細胞の単一平面を横切って撮影した。時系列(経時的)画像は、時間間隔なしで130秒間記録した。
【0038】
(3)RNP及び退色防止剤の存在下及び非存在下での3T3s-Venus-paxillinのフォトブリーチング
このフォトブリーチング実験では、対照群と比較するために3μg/mL濃度のRNPを用いた。市販の2種の退色防止剤:Trolox (VectaCell(登録商標))及びProlong(登録商標)Live (Thermo Fisher Scientific)を製造業者の推奨する濃度を用いて比較した。3T3s-Venus-paxillinをガラスベース皿上に播種し、一夜培養した。観察の3時間より前に培地を、それぞれ、3μg/mLのRNP、Trolox(L-15で100倍及び1000倍希釈)、並びにProlong Live (L-15で50倍及び100倍希釈)の補足L-15培地に交換した。蛍光シグナルの低下を記載されるように記録した。
【0039】
2.画像解析
3T3s-SEGFPタイムラプス動画の定量化では、タイムラプス24時間後時点からの観察からの生の蛍光画像を用いて画像解析を行った。imageJソフトウエア―を用いることで、蛍光画像をグレースケールに変換し、蛍光細胞の興味の対象領域(ROI)を生成させた。選択した各時点での細胞面積、細胞輪郭長及び生の統合蛍光強度を、閾値を用いるROIから測定し、タイムラプス動画の最初のタイムフレームに対する相対的減少率として計算した。
【0040】
フォトブリーチング実験では、フォーカルアドヒージョン領域を含む細胞内の領域をランダムに選択してROIを生成した。 細胞の外側のバックグランド領域のROIは、4つの領域についてランダムに選択した。バックグラウンド強度の平均値を使用して、細胞からの統合された蛍光強度から減算した。 映画の最初のフレームに対する時系列の蛍光シグナルの
減少率を計算することにより、フォトブリーチングを定量化した。
【0041】
3.統計分析
ノンパラメトリック(non-parametric)検定とそれに続くダン(Dunn)の多重比較検定を使用して統計分析を行った。
【0042】
4.結果と考察
(1)RNPの存在下と非存在下での3T3s-SEGFPの長期タイムラプス観察
タイムラプス1日間のイメージング後の3T3s-SEGFPビデオ撮影動画の典型的な1コマの記録写真を
図1(MOV1)に示す。 この時点では、試験群と対照群の両方で顕著な光毒性は観察できなかった。 タイムラプス24時間後時点からの観察のビデオ撮影動画の典型的な1コマの記録写真を
図2(MOV2)に示す。MOV2から、RNPのない対照群は、240 μg / mLのRNPと比較して、明らかな光毒性を示す。このため、細胞特性の動的変化の定量分析を観察の2日目に行った。なお、必要がビデオ撮影動画それ自体を提出する用意がある。
【0043】
蛍光タイムラプス24時間後時点からの観察による細胞接着面積の経時変化におけるRNPの濃度依存性を
図3に、蛍光タイムラプス24時間後時点からの観察による細胞輪郭長の経時変化におけるRNPの濃度依存性を
図4に、蛍光タイムラプス24時間後時点からの観察による蛍光強度の経時変化におけるRNPの濃度依存性を
図5に、それぞれ示す。また、蛍光タイムラプス24時間後時点からの観察による観察時の細胞面積、細胞輪郭、蛍光強度の経時変化におけるRNPの濃度依存性の計測値比較を行った結果を
図6に、蛍光タイムラプス24時間後時点からの観察による観察時の蛍光強度の経時変化からみた細胞の健康状態の維持時間のRNP濃度依存性を
図7に示す。
【0044】
タイムラプス中にRNPを含まない対照細胞では、細胞面積の大幅な減少と細胞死の増加を観察することができた(
図3参照)。 RNPの存在下では、その濃度(240、120、60、および30μg/mL)に関係なくの細胞面積と生存率はタイムラプス分析の終了まで維持できた。
【0045】
細胞面積が減少し、多数の細胞死を観察することができたことから遊離のTEMPOL対照は、RNPを含まない対照細胞との違いをもたらさなかった。細胞輪郭長(
図4参照)と蛍光強度(
図5参照)のダイナミックな変化は、対照のRNPを含まない対照と遊離TEMPOL群の細胞が著しく減少した面積と蛍光強度を示す一方で、 RNPの存在下では、それらの特性のすべてが維持されている。これらのデータは、細胞面積、細胞輪郭長及び蛍光強度が持続し、細胞死が対照群よりも少ないことから、RNPが光毒性を低減できることを示している。
【0046】
統計データを取得するために、各イメージング条件のタイムラプス動画の最後のフレームから、各細胞の細胞面積、細胞輪郭長及び蛍光強度を選択して、開始時点(TO)との比較によるパーセンテージ変化として比較した 。 結果を
図6に示す。この結果は、RNPを含まない群とRNPの添加を伴う群の間の細胞特性に有意差があることを示している。なお、RNPを含まない群と遊離のTEMPOL群の間には有意差は何ら観察されなかった。一方、蛍光タイムラプス観察時の蛍光強度の経時変化からみた細胞の健康状態の維持時間のRNP濃度依存性について
図7に示す。
図7の寿命の比較では、観察の終わりまで大多数の細胞が生存し続けたため、細胞生存率を維持するRNPの効力も強調される。これまでのところ、RNPの各濃度間の差の影響の明確な傾向は観察できず、低濃度のRNPも長期タイムラプス観察で光毒性を軽減できる場合があることを示す。したがって、イメージング媒体にRNPを補充することは光毒性の低減と長期タイムラプス観察を維持する。
【0047】
(2)RNPと退色防止剤の存在下及び非存在下での3T3s-Venus-paxillin のフォトブリーチング
フォトブリーチング実験は、通常、短時間で実施される。したがって、細胞へのRNPの取り込みに必要な時間は、ナノ粒子の捕捉力に影響を与える場合がある。 この実験では、3時間を超え一夜インキュベーションまでの期間にRNPを細胞に組み込むことができた。
この実験では、次の条件下での蛍光連続照射観察時の蛍光強度の変化:RNP添加タイミングの効果について検討する。
・観察時RNPなし、事前添加インキュベーションなし
・観察時RNPなし、事前添加3μg/ mLインキュベーション3時間
・観察時RNP添加3mg/mL、事前添加インキュベーションなし
・観察時RNP添加3mg/mL、事前添加1.5μg/ mLインキュベーション3時間
・観察時RNP添加3mg/mL、事前添加3μg/ mLインキュベーション3時間
【0048】
結果を
図8に示す。この図から、イメージング中のRNP補充が、対照と比較してフォトブリーチングを抑制できることを示している。一夜RNPと共培養した細胞とタイムラプス観察の約3時間前にRNP補充した細胞とに顕著な差はなかった。このデータは、RNPがすでに3時間で細胞に完全に組み込まれていることを示す。そのため、コインキベーションステップは必要ない。 3μg/ mLのRNPと一晩共培養し、その後イメージング中に洗い流した対照グループでは、RNPを使用しない場合と比べて、培養とイメージングの両方でわずかにフォトブリーチングが観察された。データは、フォトブリーチングを抑制することができる最適な条件は、イメージング中に3μg/ mLのRNPを補足することにあることを示唆する。
【0049】
(2)RNPと退色防止試薬の存在下及び非存在下での3T3s-Venus-paxillin のフォトブリーチング
RNPと退色防止試薬の存在下と非存在下での細胞のフォトブリーチングの結果を
図9に示す。 データは、RNPがTroloxやProlong Liveよりも優れた退色抑制効果を与えることを示している。
【0050】
結論として、光退色を抑制するための最適な条件は、イメージング中の3μg / mL RNPの補充である。RNPのこの状態は、市販の退色防止試薬であるTrofoxとProlong Liveより優れた退色抑制効果をもたらしている。