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特開2022-6156羽根車の構造、羽根車の製造方法、羽根車の製造装置。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022006156
(43)【公開日】2022-01-12
(54)【発明の名称】羽根車の構造、羽根車の製造方法、羽根車の製造装置。
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/32 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
F04D29/32 E
F04D29/32 K
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2020215390
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】510042301
【氏名又は名称】株式会社田中製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】田中 道男
(72)【発明者】
【氏名】林 良平
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA12
3H130AB26
3H130AB40
3H130AB52
3H130AC01
3H130AC25
3H130AC30
3H130BA95C
3H130BA97C
3H130BA98C
3H130CB01
3H130CB17
3H130EA01C
3H130EA07C
3H130EB01C
3H130EB04C
3H130EC12C
3H130ED01C
(57)【要約】
【課題】生産性が高く、流体制動に適した、羽根車の製造方法、羽根車の構造を提供する。
【解決手段】板材によりプレス成形され、円環状に配置される複数のブレードを含んで構成された羽根車の構造に関し、前記ブレードの断面形状は、少なくとも一部の領域で、前記羽根車の円周方向または半径方向の断面形状において、一方の端部から他方の端部に向けて、該ブレードの肉厚が連続して変化するように構成される羽根車の構造を提供する。羽根車はプレス加工のみで成形されるため生産性が高く、また肉厚変化領域により流体制動に好適となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材によりプレス成形され、円環状に配置される複数のブレードを含んで構成された羽根車の構造に関し、前記ブレードの断面形状は、少なくとも一部の領域で、前記羽根車の円周方向または半径方向の断面形状において、一方の端部から他方の端部に向けて、該ブレードの肉厚が連続して変化するように構成される、
ことを特徴とする羽根車の構造。
【請求項2】
円環状に配置される複数のブレードを含んで構成された羽根車の構造に関し、前記ブレードは、少なくとも一部の領域で、他領域よりも薄肉で、かつ他領域よりも相対的に高硬度、かつ表面が平滑に構成される薄肉部を含む、
ことを特徴とする羽根車の構造。
【請求項3】
前記ブレードの内周側に配置され、前記ブレードの内周側端部と直接にまたは間接に接続される内周環と、
前記ブレードの外周側に配置され、前記ブレードの外周側端部と直接にまたは間接に接続される外周環との、
両方またはどちらか一方を備え、
前記ブレードは、少なくとも一部の領域で、前記内周環または前記外周環に対する傾きが変化するように構成される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の羽根車の構造。
【請求項4】
前記ブレードは、前記ブレードの端部領域に、前記端部に向かい肉厚が薄肉となり、他の領域よりも相対的に高硬度、かつ表面が平滑に構成されるエッジ部を備える、
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項5】
前記ブレードの構成面は全て、プレス加工による被プレス加工面である、
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項6】
前記ブレードを構成する表面および裏面の、片面または両面には、複数の凹凸形状が成形されている、
ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項7】
前記板材は、異なる材料を層状に組み合わせた金属などの材料を利用した複合材である、
ことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項8】
前記羽根車は、同形に複数個に分割された形態である分割羽根車を含む、
ことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項9】
一枚の板材により成形され、円環状に配置される複数のブレードを含んで構成される羽根車の製造方法であって、
前記板材をプレス加工により打ち抜いて前記ブレードを成形する打ち抜き工程と、
前記打ち抜き工程で成形されたブレードの少なくとも一部の領域をプレス加工により圧縮することで、前記ブレードの少なくとも一部の領域の肉厚を変化させる圧縮成形工程と、
前記ブレードの少なくとも一部の領域を、プレス加工による曲げ加工を行うことで、上方向または下方向に突出させて、前記ブレードに所望の傾斜を持たせる曲げ工程と、
を備えることを特徴とする羽根車の製造方法。
【請求項10】
プレス加工によって、前記ブレードの表面に複数の凹凸形状を成形する、凹凸成形工程を備える、
ことを特徴とする請求項8に記載の羽根車の製造方法。
【請求項11】
板状の被加工部材をプレス加工可能な製造装置であって、
少なくとも、前記打ち抜き工程を実施可能な第1の加工台と、前記圧縮成形工程を実施可能な第2の加工台と、前記曲げ工程を実施可能な第3の加工台とを備える、
ことを特徴とする羽根車の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車の構造、羽根車の製造方法、羽根車の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
羽根車(インペラー)は、大型風力発電装置から、各種タービン、圧力関連機器、電力伝達機器、扇風機や排気ファンに至るまで、流体の制御が必要となる多くの産業機器で使用されている。
【0003】
羽根車の構成材料としては、アルミ、鋼鉄、樹脂、ゴムなどが用いられ、また、製造方法には、鋳造、鍛造、プレス加工、切削加工、3Dプリンターによる造形等が用いられる。要求される諸条件に合致した構成材料と製造方法により羽根車は生産されている。
【0004】
ここで、羽根車の形状は、回転効率を上げるために、一般的に三次元的形状となる。流体による抵抗を極力減らすために、表面の滑らかさも必要である。要求される構成材料としても、高真空を要求される圧力関連機器に用いられる場合、羽根車からの蒸発や揮発成分のないことが必要条件となり、主に金属材が構成材料となる。動力伝達や圧力制御機器に用いられる場合、軽量性、高強度、さらに高温でも剛性の低下があまりないことが必要条件となっている。
【0005】
上記の過酷な使用条件を考慮すると、羽根車の材料は金属に限定され、製造方法としては、鋳造、鍛造、切削加工、ダイキャストに絞られる。しかしながら、ダイキャストは、製造原理上、小さなボイドと呼ばれる空スキが発生するため、数万RPMなどの高速回転機器や真空回転機器には、アウトガスの問題から選択できない。鋳造では湯だれの問題から、肉厚を一定以下にすることができず、重量が増す。また、全てを切削加工のみで行うには、加工時間がかかりすぎる上に、表面に切削加工目が残るため、流体の抵抗を減らすために後処理として研磨加工が必要となる。鍛造では、細やかな形状と表面の仕上げに切削加工と研磨加工が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-145917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、いずれの加工方法であっても、生産コストは高く、生産性が低い、という問題がある。
【0008】
加えて、例えば特許文献1の羽根車では、ブレードの肉厚は一定であり、制動する流体に対して乱流を発生させる恐れがある。ブレードは制動性能も高いことが望まれる。
【0009】
生産性が高く、流体制動に適した、羽根車の製造方法、羽根車の構造、および羽根車の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本開示の羽根車においては、板材によりプレス成形され、円環状に配置される複数のブレードを含んで構成された羽根車の構造に関し、前記ブレードの断面形状は、少なくとも一部の領域で、前記羽根車の円周方向または半径方向の断面形状において、一方の端部から他方の端部に向けて、該ブレードの肉厚が連続して変化するように構成した。
【0011】
この態様によれば、プレス成形により、少なくともブレードの一領域に厚みの変化する部分を設けられる。プレス成形により肉厚変化領域を自在に設定でき、また該領域はプレス加工により表面が硬化かつ平滑化され、流体の制動に好適となる。またプレス加工であるため、加工が容易で生産性が高い。
【0012】
また、ある態様では、円環状に配置される複数のブレードを含んで構成された羽根車の構造に関し、前記ブレードは、少なくとも一部の領域で、他領域よりも薄肉で、かつ他領域よりも相対的に高硬度、かつ表面が平滑に構成される薄肉部を含むように構成した。この態様によれば、ブレードの少なくとも一部に薄肉で平滑な領域が設けられる。このように構成されることで、流体の制動に好適となる。
【0013】
また、ある態様では、前記ブレードの内周側に配置され、前記ブレードの内周側端部と直接にまたは間接に接続される内周環と、前記ブレードの外周側に配置され、前記ブレードの外周側端部と直接にまたは間接に接続される外周環との、両方またはどちらか一方を備え、前記ブレードは、少なくとも一部の領域で、前記内周環または前記外周環に対する傾きが変化するように構成した。
【0014】
この態様によれば、連結される内周環または外周環に対して、ブレードが傾きを持ち、流体の制動に好適となる。プレス成形のみで傾きも成形されるため、生産性が高い。
【0015】
また、ある態様では、前記ブレードは、前記ブレードの端部領域に、前記端部に向かい肉厚が薄肉となり、他の領域よりも相対的に高硬度、かつ表面が平滑に構成されるエッジ部を備えるように構成した。この態様によれば、エッジ部により、ブレードは流体の制動に好適となる。
【0016】
また、ある態様では、前記ブレードの構成面は全て、プレス加工による被プレス加工面であるように構成した。全てのブレード加工がプレス加工で行われるため、生産性が高い。
【0017】
また、ある態様では、前記ブレードを構成する表面および裏面の、片面または両面には、複数の凹凸形状が成形されているように構成した。目的に合わせてた凹凸形状を成形することで、流体の制動に好適とした。
【0018】
また、ある態様では、前記板材は、異なる材料を層状に組み合わせた金属などの材料を利用した複合材であるように構成した。目的に合わせてこのような複合材を用いることで、流体制動に好適な形態にできる。
【0019】
また、ある態様では、前記羽根車は、同形に複数個に分割された形態である分割羽根車を含むように構成した。分割羽根車でも本開示の構成は適用できる。
【0020】
また、本開示の構成を適用した羽根車の製造方法として、一枚の板材により成形され、円環状に配置される複数のブレードを含んで構成される羽根車の製造方法であって、前記板材をプレス加工により打ち抜いて前記ブレードを成形する打ち抜き工程と、前記打ち抜き工程で成形されたブレードの少なくとも一部の領域をプレス加工により圧縮することで、前記ブレードの少なくとも一部の領域の肉厚を変化させる圧縮成形工程と、前記ブレードの少なくとも一部の領域を、プレス加工による曲げ加工を行うことで、上方向または下方向に突出させて、前記ブレードに所望の傾斜を持たせる曲げ工程とを備えるように構成した。プレス加工のみで、上記ブレードを成形でき、生産性が高い。
【0021】
また、ある態様では、プレス加工によって、前記ブレードの表面に複数の凹凸形状を成形する、凹凸成形工程を備えるように構成した。プレス加工で表面凹凸を成形でき、生産性も高く、羽根車の流体制動性能も向上する。
【0022】
また、本開示の構成を適用した製造装置として、ある態様では、板状の被加工部材をプレス加工可能な製造装置であって、少なくとも、前記打ち抜き工程を実施可能な第1の加工台と、前記圧縮成形工程を実施可能な第2の加工台と、前記曲げ工程を実施可能な第3の加工台とを備えるように構成した。装置として一連の工程を実施でき、生産性が高い。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、生産性が高く、流体制動に適した、羽根車の製造方法、羽根車の構造、および羽根車の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る羽根車である。図1(A)が平面図、図1(B)が斜視図、図1(C)が正面図である。
図2】1つのブレードに着目した同羽根車の部分拡大図であり、図2(A)が平面図、図2(B)が側面図、図2(C)が斜視図である。
図3】ブレード単体を示し、図3(A)が図2(A)のA方向(内周側)から見た図であり、(B)が図2のB方向(外周側)から見た図である。図(C)が図2(A)III(C)-III(C)線に沿った端面図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る羽根車の製造方法のフローである。
図5】羽根車の製造装置の概要構成を示す説明図である。
図6】第2の実施の形態に係る羽根車である。図6(A)が平面図、図6(B)が斜視図、図6(C)が正面図である。
図7】1つのブレードに着目した同羽根車の拡大図である。図7(A)が平面図、図7(B)が図7(A)のC方向から見た図、図7(C)が斜視図である。
図8】一つのブレードに着目した同羽根車の拡大図である。図8(A)が図7(A)のD方向(内周側)から見た図であり、図8(B)が図7(A)に示すVIII(B)-VIII(B)線に沿った端面図である。
図9】第2の実施の形態にかかる羽根車の製造方法のフローである。
図10】変形例(表面形状)を示す。
図11】変形例(断面形状)を示す。
図12】変形例(羽根車の形態)を示す。
図13】変形例(被加工部材)を示す。
図14】変形例(傾斜角度)を示す。
図15】変形例(分割羽根車)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0026】
(実施形態に係る羽根車)
図1は、第1の実施形態に係る羽根車1を示す。図1(A)が平面図、図1(B)が斜視図、図1(C)正面図である。
【0027】
羽根車1は、真空ポンプに配設される静翼である。本開示の構成は、これに限らず、真空ポンプの動翼はもちろん、タービン、圧力関連機器、電力伝達機器、扇風機や排気装置等、各種機器に使用される流体制御のための羽根車に適用できる。
【0028】
羽根車1は、中心を一致して配置される円形リングである外周リング2,内周リング3、および外周リング2と内周リング3の間に、円環状に等間隔で配置された複数のブレード10とを含んで構成される。ブレード10は外周リング2,内周リング3の中心である羽根車1の原点Oを中心として放射状に、かつスリット7により互いに離間して配置される。
【0029】
図2は、1つのブレード10に着目した拡大図である。図2(A)が平面図、図2(B)が側面図、図2(C)が斜視図である。軸αは原点Oを通過する水平軸であり、本実施形態においてはブレード10の中心軸である。
【0030】
図2に示すように、ブレード10は、平面視して開角度の小さな略扇型であり、内周側の幅は外周側の幅よりも幅広い形状となっている。
【0031】
ブレード10は、内周側端部を内周桟5により内周リング3に連結され、外周側端部を外周桟4により外周リング2に連結されている。詳しくは後述するが、羽根車1は一枚の金属製の平板をプレス加工することにより成形されるため、羽根車1を構成するブレード10、内周リング3、外周リング2、内周桟5、および外周桟4は全て連続的かつ一体的に構成されている。原点Oを中心に放射状に配置される複数のブレード10と、これらを連結させる連結体(本実施形態においては外周リング2と内周リング3、および内周桟5と外周桟4)とが一体的に構成されており、ブレードが溶接や圧接で連結される従来の羽根車と比べて、羽根車1は剛性が高く、加えて、薄く軽いため取り扱いしやすい。
【0032】
ブレード10は、内周リング3および外周リング2に対して傾斜して設けられ、上下に突出している。
【0033】
図3はブレード10を示し、図3(A)が図2(A)の矢印A方向から見た図、図3(B)が図2(A)の矢印B方向から見た図である。ブレード10のみを示し、その他は省略している。図3(C)は図2(A)のIII(C)-III(C)線に沿った端面図である。
【0034】
図2および図3に示すように、上下に突出するブレード10は、端面として、内周端面15、外周端面14、および内周端面15と外周端面14を結ぶ径端面13,13、を備える。
【0035】
さらに、ブレード10は、厚み方向に対して斜めに構成されるエッジ面11を備える。エッジ面11は径端面13に向かってブレード10の肉厚が薄肉となるように傾斜が構成されており、エッジ面11により、径端面13に向かい先鋭するエッジ部12,12が構成される。
【0036】
即ち、ブレード10は、表面18および裏面19、内周端面15、外周端面14、径端面13,13、およびエッジ面11,11から構成される。そして、平板状のブレード10を構成する全ての端面、即ち、表面18および裏面19を除いた構成面である、内周端面15,外周端面14,径端面13,13、およびエッジ面11は、全てプレス加工により成形された被プレス加工面である。被プレス加工面は、面粗度が良く、微細な凹凸が平滑化された滑らかな面となっており、流体に対する抵抗が低い。また隣接する面と滑らかにつながっており、鋳造のように小さなボイドの発生や、研磨加工のように加工跡もなく、流体の制動に適した形態となっている。
【0037】
表面18および裏面19も圧延された金属製の板材の表面および裏面であることから、同様に滑らかな表面であり、ブレード10は全体が平滑で流体に対する抵抗が低い。
【0038】
上下に突出するブレード10の傾斜角度は一定ではなく、図3に示すように、内周側の傾き角度β1は、外周側の傾き角度β2よりも大きく、内周側高さH1と外周側高さH2が略同一となるように設定されている。ブレード10の傾斜角度は、内周側から外周側に向かって、角度β1から角度β2に連続的に変化していく構成となっている。ブレード10の傾きが一様ではないため、ブレード10は三次元的にひねられた形態となっている。また、ブレード10は軸αに対して回転対称形状である。
【0039】
この複雑なひねり形状のブレード10の上面および下面となるエッジ面11,11は、略水平でお互いが略平行となるように、構成されている。(図3参照)。
【0040】
また、ブレード10は、径端面13に向かって先細りの形態であるが、僅かに先端厚みとなる径端面13を残した形態となっている。図3(C)に示すように、ブレード10の肉厚Tは、一方の端部からもう一方の端部に向けて、肉厚t1から徐々に肉厚が厚くなり、一定肉厚t2となってから、また徐々に肉厚を薄くしていき、最後に肉厚t1に戻る構成となっている。流体制動では、鋭角部は乱流を発生させてしまうことがあるため、エッジ部12は径端面13を残して乱流の発生を抑制した。
【0041】
エッジ面11はプレス加工により圧縮された被圧縮面であり(詳しくは後述)、加工硬化によりエッジ部12は他部位よりも硬度が高く、かつ滑らかである。エッジ部12は制動する流体に最初に当接する部位であり、先細りの形態であるため、制動する流体に対する抵抗が低く、周囲の流体は滑らかに制動される。
【0042】
さらに、羽根車1は内周側高さH1と外周側高さH2と略同一とし、なおかつ上下面を略水平であることから、流体の回り込みがなく制動効率が良い。さらに全体の高さを低くし、省スペースに配置できる。タービンなどの並置翼として使用された場合には、隣り合う翼との隙を小さくでき、流体の逆流を抑制する効果を得ることができる。
【0043】
(羽根車1の製造方法)
次に、上述の羽根車1の製法方法について図4を用いて説明する。図4は、第1の実施形態に係る羽根車1の製造方法の加工フロー図である。なお、羽根車1は同ブレード10が等角度で円環状に並んでいるため、製造時も図4に示すピースが円環状に連続しているが、図4では1つのピースに注目して、他を省略する。
【0044】
図4に示すように、羽根車1は、被加工部材である一枚の金属製の平板を、ステップS101~ステップS103の各工程で加工することにより成形される。
【0045】
ステップS101~ステップS103の工程は、全てプレス加工によって行われる。プレス加工とは、上金型と下金型を用いて、その間に被加工部材を配置し、下金型を固定して、上金型を上下方向に昇降させて被加工部材をプレスする加工方法である。上金型と下金型にセットさせる器具(パンチ、ダイなど)の種類や形状によりプレス加工の種類は異なり、例として、打ち抜き加工、穴あけ加工、圧縮成形加工、曲げ加工、反り修正加工(塑性変形)加工、トリミング加工、パンチング加工、絞り加工などがプレス加工に含まれる。プレス加工された加工面、即ち、圧縮面、打ち抜き面などは、被プレス加工面となる。
【0046】
まずステップS101で、打ち抜き工程として、羽根車1の構成部材である金属製の平板が、被加工部材としてプレス加工により打ち抜かれ、中心を同じくする内周リング3と外周リング2、この二つのリングの間で円環状に並ぶ複数のブレード10、およびブレード10の内周側端部と内周リング3とを連結する内周桟5、ブレード10の外周側端部と外周リング2とを連結する外周桟4が成形される。また、別の視点から見ると、プレス加工により被加工部材からブランク材が打ち抜かれてスリット7が成形され、打ち抜かれた被プレス加工面として、径端面13,13、外周端面14、内周端面15が成形される。打ち抜き後の形状は、軸αを中心として左右対称となっている。
【0047】
次に、ステップS102に移行し、圧縮成形工程として、ブレード10の少なくとも一部の領域がプレス加工により圧縮され、ブレード10の少なくとも一部の領域で厚さなどの形態に変化が与えられる。
【0048】
本実施形態では、一方の径端面13にかかる表面18の所定領域を、径端面13に向かう程に深く圧縮する。圧縮領域は、径端面13に係るブレード10の縁部に帯状に構成される。略扇形であるブレード10は、外周側の幅の方が内周側の幅よりも広く、これに合わせて圧縮領域も、外周側の幅の方が内周側の幅よりも広い略扇形となっている。
【0049】
圧縮領域がエッジ面11として成形され、ブレード10にエッジ部12が成形される。径端面13へ向かう程に深く圧縮するため、エッジ部12は、径端面13へ向かう程に先細りの形態となる。
【0050】
同様にして、他方の径端面13にかかる裏面19の所定領域についても、径端面13に向かう程に深く圧縮する。径端面13で圧縮量は最大であり、エッジ部12は両径端面13,13へ向かって先細り形態となる。この最大圧縮量は、外周側でも内周側でも同一であり、加工後の径端面13の肉厚は一定である。このため、圧縮成形後のエッジ面11は、外周側へ向かう程ゆるやかな傾斜面であり、内周面へ向かう程傾斜面の角度が大きくなる。即ち、エッジ面11は表面18に対して三次元的に傾斜した面となっている。
【0051】
ステップS102におけるブレード10の圧縮量と圧縮領域は、次工程である曲げ工程後には、被加工面であるエッジ面11が水平となるように、調整されている。即ち、ステップS102後、ステップS103でブレード10が曲げられるが、この曲げの傾斜角度は一様ではなく、内周側から外周側へ向かって変化する複雑な曲げであり、この曲げ加工後にエッジ面11が水平面となるように、ステップS102の段階でのブレード10の圧縮量と圧縮領域が、連続的に変化するように設計されている。
【0052】
このように、ステップS102で成形されるエッジ面11は、次工程の加工を考慮して勾配と領域が決定されている。
【0053】
エッジ面11は、被プレス加工面(被圧縮面)である。本工程により、エッジ面11が成形される。エッジ面11を含むエッジ部12は、本加工後に加工硬化する。エッジ部12は、制動する流体に対向する部位、即ち、流体に最初に触れる部位であり、流体からの抵抗を負荷として受けるため、加工硬化により、剛性が増すことにより、ブレード10の耐久性が向上する。
【0054】
これに限らず、プレス加工(圧縮成形加工)によりブレード10の少なくとも一部の厚みを変化させることで、ブレードの所望の領域に被圧縮面として滑らかな表面をもつ、剛性の高い、流体制動に有利な部分を作ることができる。
【0055】
次工程の曲げ工程後の形状を、より高精度なものとするために、本工程においては、圧縮加工による領域外への伸び率や、加工硬化による圧縮率を考慮すると、好ましい。
【0056】
本実施形態では、エッジ面11自体は平面であるが、これを曲面として、エッジ部12の厚みが直線的ではなく曲線的に変化する、例えば、先端側が丸くなるように構成してもよい。
【0057】
次にステップS103に移行し、曲げ工程として、軸αを中心にブレード10を回転させるようにして、主として内周桟5および外周桟4を変形させる曲げ加工を実施する。曲げ加工は、プレス加工の一種であり、プレス加工を行う上金具と下金具に、所望の形状の加工面を備える器具を、加工面同士が対向するようにセットし、この対向する加工面同士の間に被加工部材を配置する。そして上金具を昇降させて、加工面同士で被加工部材を挟み込むことで、被加工部材を所望の形状となるように塑性変形させる。
【0058】
本実施形態では、プレス加工に用いられる上金具と下金具にセットされる器具(パンチとダイ)は、対向する加工面として、傾斜態様を同じくする傾斜面を備えており、ブレード10はこの傾斜面(加工面)に挟まれることで、軸αを中心として、一方の径端面13が上方向へ、他方の径端面13が下方へ向けて回転して、上下に突出する。このとき、回転変形の主として塑性変形するのはブレード10を連結している内周桟5および外周桟4である。ブレード10は主として形状を保ちつつ、軸αを中心としてねじられるように所定の形状に塑性変形する。外周リング2および内周リング3は、本加工時には押えが施されており、ほとんど変形しない。
【0059】
具体的には、水平状態であったブレード10は、エッジ面11,11が水平となり、内周側高さH1と外周側高さH2が等しくなるように、軸αを中心として、回転する。この回転は、軸αを基準として、外周側では、回転角度=角度β2、内周側では、回転角度θ=角度β1となるように構成されており、その間は回転角度が連続して変化する三次元的な回転となっている(図3参照)。内周桟5、外周桟4が塑性変形してねじられて、ブレード10を回転させるとともに、ブレード10自体もこの形態に合わせて、上下金具にセットされた器具の加工面に挟まれて三次元的にねじり変形される。
【0060】
上記の上金具と下金具には、上記の形態の三次元的傾斜面を加工面とした器具が、加工面同士を対向して配置されており、上下から加工面でブレード10を挟持することで、押さえや加工面の配置されない、細く剛性の弱い外周桟4と内周桟5とが主として塑性変形してブレード10を回転させ、なおかつブレード10を加工面に挟持して塑性変形させる。
【0061】
以上のように、ステップS101~ステップS103により羽根車1が成形される。
【0062】
なお、本実施形態においては、ステップS101~ステップS103は上記順番で実施されたが、羽根車1の加工においては、ステップS101,S102,S103が含まれていれば、加工の順序は限定されない。例えば、打ち抜き工程後に、曲げ工程が実施され、その後圧縮成形工程が実施されてもよい。
【0063】
(作用効果)
以上の通り、ステップS101~ステップS103に示す加工方法は、全てプレス加工であり、本形態の製造方法によれば、羽根車1をプレス加工により製造できる。羽根車1の製造をプレス加工のみで行うことができるため、従来の製造工程に比べて、製造コストを大きく減らすことができる。また、プレス加工のみで羽根車1を製造することができるため、生産性が高い。
【0064】
従来の製造方法、例えば切削加工によって羽根車を成形すると、切削加工面に工具痕が残ってしまい、流体の制動に悪影響となる。本形態の製造方法の被加工部材は、ローラー圧延製法で制作される金属製の平板であるため、面粗度が良く、これから成る表面18および裏面19も滑らかな面となっている。表面粗さやバリを取り除くためには研磨工程が必要となるが、本製造方法では、研磨工程は不要であるため、製造コストを低く抑えることができる。
【0065】
ブレード10の全端面は、上記の各種プレス加工を経て成形される被プレス加工面である。内周端面15,外周端面14,径端面13はステップS102の打ち抜き加工で成形され、エッジ面11はステップS102の圧縮加工で成形される。即ち、羽根車1のブレード10は構成面が全て滑らかで、流体制動性能が高い。
【0066】
径端面13は圧縮成形加工により僅かに圧延されて滑らかに伸びる。これにより、エッジ面11、表面18、裏面19との稜線をなめらかにしてつながる。圧縮加工にて肉厚が変化した箇所は、隣接する面との稜線(接合部)がなめらかで、流体の滑らかな移動を阻害せず、流体制動性能が向上する。
【0067】
エッジ面11が圧縮成形加工により成形されているため、被圧縮面である表面がより滑らかになることに加え、加工硬化によりエッジ部12の強度が増す。エッジ部12は、制動する流体に最初に当接する部位である。エッジ部12が、硬度が高くかつ滑らかな表面と流体制動に適した形状であるため、周囲の流体は滑らかに制動される。エッジ部12の硬度強化により、羽根車1の製品寿命が延長される。
【0068】
また、一枚の金属製の平板より成形されており、構成部位同士が連続して一体化しているため、表面が滑らかで、かつ薄肉であっても強度が高い。均一な厚みの平板の肉厚が変化した部位は、相対的にプレスされない肉厚一定の部位よりも加工硬化により硬度が高く、かつ表面凹凸が平滑化されるために滑らかになる。このため、流体の制動に好適な形態となっている。
【0069】
ブレード10の傾斜は、平板をプレス加工により軸αで回転させるようにして上下方向に突出させており、内周桟5,外周桟4とブレード10との連結の連続性が高く、ブレード10の滑らかな表面がそのまま保たれる。
【0070】
ステップS101の打ち抜き工程により、ブレード10の外形が成形されため、所望の形状を打ち抜くことで、ブレード10の外形を自在に構成できる。また、ステップS102の圧縮成形工程により、ブレード10の肉厚に変化をもたらされるため、所望の領域に所望の圧縮深さでプレス成形することで、自在にブレード10の肉厚を調整することができる。さらに、ステップS103の曲げ工程により、ブレード10に、水平に対する傾きを与え、さらにブレード10自身に三次元的傾きの変化を与えることができるため、ブレード10にひねりやなどの形態変化ももたらすことができる。
【0071】
プレス工程のみで複雑形状である羽根車1を成形でき、なおかつ、ブレード10の形状や厚み、傾きなども自在に設定することができる。このため、本開示の形態に限らず、様々な形態の羽根車にも広く適用できる。設計の自由度が高く、生産性および性能面に優れた羽根車を提供することができる。
【0072】
(羽根車製造装置)
次に、図1図3に示した羽根車1を成形するための、ステップS101~ステップS103を実現するための羽根車製造装置100について説明する。
【0073】
図5は、羽根車製造装置100のイメージ図である。羽根車製造装置100は、加工台ST1,ST2,…STnを備える。加工台ST1~STnは、それぞれ被加工部材W1,W2,…Wnをプレス加工することが可能となっている。羽根車製造装置100は、1のプレス加工機が、複数のプレス加工台を備えている場合と、1の加工台を有するプレス加工機が複数ある場合との、両方を含むものとする。
【0074】
加工台ST1~加工台STnでは、各ステップS101~S103が実装される。
【0075】
即ち、まず「打ち抜き加工台」では、ステップS101の打ち抜き加工が実施され、被加工部材からブランク材が打ち抜かれる。
【0076】
次に、圧縮成形加工台では、ステップS102における圧縮成形加工が実施される。圧縮成形加工により、被加工部材の肉厚の一部が変化する。例えば、肉厚が薄くなる、凹部や溝が成形されるなどである。
【0077】
次に、曲げ加工台では、ステップS103の曲げ加工が実施される。被加工部材の少なくとも一部が塑性変形して、少なくとも一部の被加工部材の傾きや形状が変化して上または下に突出する。
【0078】
羽根車製造装置100では、上記の「打ち抜き加工台」「圧縮成形加工台」「曲げ加工台」が、加工台ST1~STnのいずれかにおいて行われ、最終的に羽根車1が成形される。
【0079】
以上の通り、本実施形態の羽根車製造装置100によれば、羽根車1をプレス加工にて製造することができるため、生産性を上げることができる。また、単一のプレス加工を行う加工台を複数備えることで、一貫生産されて、製品の品質も安定する。
【0080】
次に、上述した羽根車の形態とその製造方法に関する、好ましい他の実施形態と変形例を述べる。
【0081】
(第2の実施形態)
図6は第2の実施形態に係る羽根車101を示す。図6(A)が平面図、図6(B)が斜視図、図6(C)が正面図である。
【0082】
羽根車101は、外周リング102と、内周リング103と、両リングの間に、円環状に等間隔で配置された複数のブレード110とを含んで構成される。ブレード110は、内周リング103の中心である羽根車101の原点Oを中心として放射状に配置され、スリット107により互いに離れて配置される。
【0083】
図7および図8は1のブレード110に注目した部分拡大図である。図7(A)が平面図、図7(B)が図7(A)の矢印C方向から見た図、図7(E)が斜視図である。図8(A)が図7(A)の矢印D方向から見た図、図8(B)は図7(A)のVIII(B)-VIII(B)線に沿った端面図である。VIII(B)-VIII(B)線は、軸α2に直交する。図に示す軸α2は、原点Oを通過する水平軸である。本実施形態では、軸α2はブレード110の一辺に沿う。
【0084】
図7および図8に示すように、ブレード110は平面視して開角度の小さな略扇形状となっており、内周側の幅の方が外周側の幅よりも狭い。ブレード110の外周には平面視して略C字型に伸びるスリット107が成形されており、ブレード110は内周側でも外周側でも外周リング102,内周リング103とは連結されていない。代わりに、スリット107の無い一辺で、ブレード110は連結部106と連結されている。
【0085】
連結部106は、内周リング103と外周リング102との間で、これに連結されて等角度で放射状に設けられている。羽根車101も一枚の金属製の平板をプレス加工することにより成形されるため、羽根車1を構成するブレード110、内周リング103、外周リング102、および連結部106は、全て連続的かつ一体的に構成されている。
【0086】
ブレード110は、連結部106との境界部129で屈曲して、上方に突出している。ブレード110と連結部106との傾斜角度は、境界部129のどの位置においても角度β3で一定となっており、ブレード110は曲面ではなく平面に構成されている。ブレード110は外周側が幅広の略扇形状であるため、ブレード110の上方突出量(高さ)は、外周側から内周側に向かって減少する構成となっている。
【0087】
ブレード110は、内周端面115,外周端面114を備える。さらに、ブレード110は、内周端面115から外周端面114に向かって帯状に成形される、厚みに対して斜めに構成されるエッジ面111を備える。エッジ面111により、ブレード110は端部に向かって先鋭している。この先鋭部分をエッジ部112と称する。スリット107にかかる表面の縁部に帯状に延びるエッジ面111の幅は一定であり、エッジ面111の形状は、平面視して矩形となっている。
【0088】
エッジ部112はエッジ面111と裏面119でのみ構成され、エッジ部112の肉厚は先端に向けて直線的に減少する。
【0089】
さらに、ブレード110の表面118には、多数の凹部140が成形されている。本実施形態では表面118にのみ凹部140が成形されているが、裏面119にも同形状の凹部または異なる形状の凹部や溝が成形されていても良い。
【0090】
流体に配置された物体は、物体の後方で乱流を発生させるが、物体の表面に凹部がある場合、乱流の発生が抑制される。ブレード110の表面に凹部140を成形することで、流体に配置されるブレード110によって乱流が発生することを抑制している。
【0091】
ブレード110は、表面118および裏面119、内周端面115、外周端面114、径端面113、エッジ面111、および凹面141から構成される。そして、表面118および裏面119を除いた構成面、即ち、内周端面115、外周端面114、径端面113、エッジ面111、および凹面141は、全てプレス加工により成形された被プレス加工面である。このため、表面が滑らかで、流体制動性能が高い。また、羽根車101は、一枚の平板から構成され、被プレス面でのみ構成されるため、生産コストが低く、生産性が高い。
【0092】
図8(B)に示すように、軸α2に直交する断面形状において、ブレード110の厚みTTは、一方の端部からもう一方の端部に向けて、エッジ部112では徐々に厚みが増して一定になったのち、凹部140の設けられているところでは、厚みが減少して再び増加し、最後はまた一定となる構成となっている。肉厚を変化させている凹面141はプレス加工(圧縮成形)によって成形される被圧縮面であり、加工硬化により硬度が増し、かつ滑らかで、隣接する面と滑らかにつながる。
【0093】
また、図8に示すように、エッジ面111はブレード110の上面となる。エッジ面111自体は内周側が低い傾斜面であるが、屈曲部である境界部129に直交する断面においては、エッジ面111は水平に構成される(図8(B)参照)。
エッジ面111もプレス加工(圧縮成形)によって成形される被圧縮面であり、エッジ部112は、流体に最初に触れる部位であり、表面が滑らか、かつ圧縮硬化により硬度が高く、これにより耐久性も向上する。後流も凹部140により、乱流が抑制される。
【0094】
(羽根車101の製造方法)
次に、上述の羽根車101の製法方法について図9を用いて説明する。図9は、第2の実施形態に係る羽根車101の製造方法の加工フロー図である。
【0095】
図9に示すように、羽根車101は、被加工部材である一枚の金属製の平板を、ステップS201~ステップS204の各工程で加工することにより成形される。本実施形態では、図4に示した3つの工程に、さらに凹凸成形加工が追加されている。凹凸成形工程もプレス加工の一種であり、第1の実施形態同様、ステップS201~ステップS204の工程は、全てプレス加工によって行われる。
【0096】
ますステップS201で、打ち抜き工程として、羽根車101の構成部材である金属製の平板を被加工部材として、略C字型のブランク材が打ち抜かれ、内周リング103と外周リング102、この二つのリングに連結される連結部106、および二つのリングの間に挟まれて配置されるブレード110が成形される。ブレード110は、連結部106とは一体的に連続している。また、別の視点からは、被加工部材が打ち抜かれてスリット7が成形されることにより、打ち抜き面として、径端面113、外周端面114、内周端面115が成形される。
【0097】
次に、ステップS202に移行し、プレス加工の一種であるパンチによる工程である凹凸成形工程が実施される。ブレード110の上方に、昇降可能にパンチ(図示せず)を配置し、かかるパンチにより表面118をパンチングすることによって、凹部140が成形される。
【0098】
本実施形態では、ブレード110の配置はそのままに、パンチが1度昇降するごとに配置を移動する。パンチが下降、上昇、移動を繰り返すことで、表面118には多数の凹部140が成形される。
【0099】
本実施形態では、パンチの当たり面は、僅かに突出した曲面となっており、凹部140は円形で、中心に向かって深くなるすり鉢状に成形されたが、成形される凹部の形状や深さなどの形態はこれに限られない。凹凸成形工程により成形される凹部は、パンチの当たり面により成形されるため、当たり面の形状を変更することで、所望の形状の凹部を成形できる。表面118に凹部が成形されることで、相対的に凹部が成形されなかった部分が凸部となる。
【0100】
次に、ステップS203に移行して、圧縮成形工程が実施される。これは、第1実施形態のステップS101の圧縮成形工程と同等である。本実施形態の圧縮領域は、径端面113にかかるブレード110の縁部である。第1実施形態同様、次工程の曲げ工程後のエッジ面111の形態が考慮される。具体的には、エッジ面111に接触する上下金具にセットされる器具(パンチ、ダイ)の加工面の傾斜角度は、角度β3となっている。
【0101】
ここで、圧縮深さは、先端に向かう程に深くなる構成であるが、エッジ部112は圧縮成形加工により成形されるため、先端部は圧延されてのびて先鋭して成形され、刃物のような鋭い先端ではなく、僅かに丸く構成される。このため、エッジ部112は自然に流体制動に適した構成となる。
【0102】
次にステップS204に移行し、曲げ工程として、連結部106とブレード110との境界である境界部129を軸として、ブレード110が立ち上がるように塑性変形させる曲げ加工が実施される。この曲げ角度は角度β3である。これは、第1実施形態の曲げ加工と同様であり、上下から、所定の加工面を備えた器具を、上下金型に加工面同士が対向するようにセットして、被加工部材を加工面の間に配置する。そして上金具を下降させることで、被加工部材を上下から加工面で挟持して所望の形状に塑性変形させる。連結部106には押えが施されており、連結部106は変形せず、主としてブレード110と連結部106の境界部129が塑性変形してブレード110を上方へ立ち上げる。
【0103】
以上のように、ステップS201~ステップS204により羽根車101が成形される。全てプレス加工により実施されるため、生産コストが低い。
【0104】
なお、打ち抜き工程と、圧縮成形工程と、曲げ工程は必須であり、少なくともこの三つの工程を製造方法は含んで実施される。凹凸成形加工は必須工程ではなく、追加によると好適な工程である。工程の順序は、上記実施形態に限られず、例えば、凹凸成形加工は、圧縮成形工程後に実施されても良い。
【0105】
本実施形態のように、ブレード110を切り起こして上下方向に突出させる形態であっても、曲げ工程により連結部106から滑らかに連続しており、流体制動に適した形態となっている。
【0106】
また、凹部140の表面は、加工硬化により、硬度が増し、表面も滑らかとなり、流体の制動に好適な形態となる。
【0107】
(変形例)
本発明の形態は、上記実施形態に限定されない。前述の通り、本開示の方法を用いることで、羽根車のブレードの形状、傾き、肉厚、表面形状等を自在に構成することができる。図10図15に好ましい変形例を示す。
【0108】
(変形例1:表面形状)
図10(A)~(D)は、ブレードの表面形状に係る変形例を示す。第1実施形態のブレード10に凹凸成形工程を追加して成形したブレード10A~10C、およびその特徴を示す概略断面図である。
【0109】
凹凸成形工程では、パンチング加工を被加工部材に施すが、パンチの当たり面や、加工速度、下金具に取付けられる器具(下押え)の有無や形態等により、多様な形態の凹凸や孔をブレードに成形できる。
【0110】
例えば、図10(A)のブレード10Aでは、プレス加工に使用するパンチ下に押えを設けず、パンチを打ち下ろして、被加工部材を打ち抜き、ブレード10Aに孔42を成形している。
【0111】
図10(B)では、同様にパンチ下に押えを設けず、さらにパンチングの速度を調整して、ブレード10Bの表面に凹部43、その対向裏面に凸部44を成形している。
【0112】
図10(C)では、線形に伸びる三角柱状のパンチを使用することで、ブレード10Cの表面に溝45を成形している。溝45は羽根車の回転方向(流体の制動方向)に伸びる。
【0113】
また図10(D)では、図10(C)同様に、ブレード10C´の表面には、溝45´が成形されてる。溝45´は、ブレード10Cの溝45とは直交する方向に伸びている。
【0114】
例えば、真空におかれる静翼では、ブレード10C´のように溝45´を設けることで、流体に対する粘性抵抗を増加させて気体分子を表面にまとわり付かせて層流を崩すことができるため、ガス分子の排気性能を向上させることができる。
【0115】
このように、目的に合わせてブレードの表面に溝や凹凸を成形できる。また、溝や凹凸については、その形状のみならず、個数、方向、配置、なども自在に設定できる。
【0116】
これらの加工は、複数個の凹凸が一度のパンチにより成形されても良く、また何度かに分けて成形されても良い。
【0117】
(変形例2:断面形状)
図11は、ブレード10の変形例であるブレード10D,10Eであり、特徴を示す概略断面形状である。図3(C)に対応する。
【0118】
圧縮成形加工を行う上下金具にセットする器具(パンチ、ダイなど)の圧縮面および受け側の保持面の形状により、ブレードの表面やエッジ部の形状、ブレードの断面形状は決定される。このため、圧縮面/保持面の形状に様々な形状を用いることで、様々な形態のブレードを成形できる。
【0119】
例えば、端面側に向かって落ち込む曲面を圧縮面、対向する受け側の保持面には平面を用いて、被加工部材の端部を圧縮成形加工することで、角部にフィレットを施すことができる。保持面と圧縮面を逆の形態とすることで、反対面に同様の加工を施すこともできる。図11(A)に示すブレード10Dの両端部には上記加工が施されており、エッジ面11Bが曲率半径の大きな曲面として構成されている。
【0120】
また、例えば、圧縮面にも保持面にも端部に向かって落ち込む曲面を用いて、端面側に向かって圧縮量が大きくなるように構成することで、表面および裏面の両方を圧縮成形して、被加工部材を所望の形状に成形することができる。図11(B)のブレード10Eは、その径端部の表面18Eと裏面19Eの両面から同曲率半径の曲面で構成される圧縮面と保持面で挟持され、圧縮成形されている。これにより、表面と裏面の両方に、曲面で構成されるエッジ面11Eが成形され、先端に向かって丸くなるエッジ部12Eが成形される。
【0121】
(変形例3:羽根車の形態)
図12は、羽根車の形態の変形例である羽根車1F~1Jを示す。本開示の構成は、ブレードの形状、ブレードの傾斜状態、ブレードの配置、ブレードの連結形態等を変更しても、同様に適用できる。
【0122】
図12(A)に示す羽根車1Fでは、ブレードの形状を扇形ではなく矩形としている。ブレードは、第2実施形態同様に、折り曲げられるようにして立ち上がる構成であり、ブレードの傾斜角度は一定となっている。
【0123】
図12(B1)および図12(B2)に示す羽根車1Gでは、連結部の延伸方向が、リングの中心点(羽根車の原点)を通過しておらず、内周リングから所定角度傾斜した偏心型の形態となっている。
【0124】
図12(C)に示す羽根車1Hでは、連結体は放射状に成形されているが、連結体を挟んで両側に一対のブレードが設けられており、連結体とブレードの境界で一方のブレードが下方へ、他方のブレードが下方へ、同角度に屈曲した形態となっている。
【0125】
図12(D)に示す羽根車1Iでは、ブレードは平面視して略扇形であるが、内周側の幅の方が、外周側の幅よりも広い形態となっている。
【0126】
図12(E)に示す羽根車1Jでは、ブレードの外形がくの字型に湾曲した形状となっている。エッジ面は、矩形ではなく、ブレード中央付近の湾曲部の先端の一部領域となっている。このように、エッジ面もブレードの所望の領域に、所望の形状で成形することができる。
【0127】
(変形例4:クラッド材)
図13は、羽根車の構成部材(原材料としての被加工部材)についての変形例であり、ブレードの概略断面図である。羽根車は、被加工部材として金属製の平板をプレス加工することにより成形されるが、例えば、図13(A)に示すように、被加工部材に二種以上の金属層(M1,M2,M3)を積層して圧延することで接合させたクラッド材を用いても好ましい。
【0128】
例えば、図13(B)に示すように、表面を構成する第1層の金属層M4、中間層である第2層の金属層M5、裏面を構成する第3層の金属層M6からなるクラッド材において、第1層の金属層M4と第3層の金属層M6に、第2層の金属層M5よりも硬度の高い金属を使用することで、露出面に流体制動に必要な剛性を持たせつつ、相対的に柔らかい第2層により、加工を容易とすることができる。
【0129】
図13(C)に示すように、表面を構成する第1層の金属層M7、中間層である第2層の金属層M8、裏面を構成する第3層の金属層M9からなるクラッド材において、中間層には硬度の高い金属を使用して剛性を確保し、露出面である第1層の金属層M7と第3層の金属層M9に、耐食性や耐熱性に優れた金属を用いることで、使用環境に合わせてブレードの耐久性を向上させることができる。
【0130】
(変形例5:傾斜角度)
図14は、ブレードの傾斜/湾曲状態についての変形例である。ブレードの傾斜角度や、ブレードの湾曲の形態は、曲げ工程にて被加工部材を挟持する加工面により決定され、ブレードを自在に成形することができる。
【0131】
例えば、図14(A)に示すブレード10Kは、平面状であり、水平面に対しての傾きは一定となっている。図14(B)に示すブレード10Lは、一定角度で傾きつつ、中央で僅かに湾曲した形態となっている。図14(C)に示すブレード10Mは、より湾曲した形態となっている。
【0132】
このように、ブレード10の傾斜や湾曲の形態は、曲げ加工における上下金具の加工面により自在に成形することができる。
【0133】
(変形例6:分割羽根車)
本開示の構成は、円形の羽根車だけでなく、同形の複数個に分割された形態である分割羽根車についても適用できる。例えば、図15(A)に示す分割羽根車1Pは、円形リングを二分割した半リング形状のであり、もう一つ同形の羽根車と共に一対で使用される。半円の両端が向かい合うように、もう一つの分割羽根車とともに円形状に配置して使用される。図15(B)に示す分割羽根車1Qは、四半円形態となっている。4つの同形の分割羽根車1Qを円形状に配置して用いる。分割羽根車は、特に静翼に好適である。
【0134】
以上、本発明の好ましい実施形態について述べたが、上記の実施形態は本発明の一例であり、これらを当業者の知識に基づいて組み合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0135】
1 :羽根車
2 :外周リング
3 :内周リング
10 :ブレード
12 :エッジ部
13 :径端面
18 :表面
19 :裏面
43 :凹部
44 :凸部
100 :羽根車製造装置
S101~S103、S201~S204 :ステップ
ST1、ST2…STn :加工台
T :肉厚
W1、W2 :被加工部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2021-04-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一枚の金属製の板材からプレス加工のみで成形された成形体であって、円環状に配置される複数のブレードを含んで構成された羽根車の構造に関し、前記ブレードの断面形状は、少なくとも一部の領域で、前記羽根車の円周方向または半径方向の断面形状において、一方の端部から他方の端部に向けて、該ブレードの肉厚が連続して変化するように構成される、
ことを特徴とする羽根車の構造。
【請求項2】
単一の金属部材のみからなり、全体が一体的に構成され、円環状に配置される複数のブレードを含んで構成された羽根車の構造に関し、前記ブレードは、少なくとも一部の領域で、他領域よりも薄肉で、かつ他領域よりも相対的に高硬度、かつ表面が平滑に構成される薄肉部を含む、
ことを特徴とする羽根車の構造。
【請求項3】
前記ブレードの内周側に配置され、前記ブレードの内周側端部と直接にまたは間接に接続される内周環と、
前記ブレードの外周側に配置され、前記ブレードの外周側端部と直接にまたは間接に接続される外周環との、
両方またはどちらか一方を備え、
前記ブレードは、少なくとも一部の領域で、前記内周環または前記外周環に対する傾きが変化するように構成される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の羽根車の構造。
【請求項4】
前記ブレードは、前記ブレードの端部領域に、前記端部に向かい肉厚が薄肉となり、他の領域よりも相対的に高硬度、かつ表面が平滑に構成されるエッジ部を備える、
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項5】
前記ブレードの構成面は全て、プレス加工による被プレス加工面である、
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項6】
前記ブレードを構成する表面および裏面の、片面または両面には、複数の凹凸形状が成形されている、
ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項7】
前記羽根車は、同形に複数個に分割された形態である分割羽根車を含む、
ことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項8】
一枚の金属製の板材のみから成形された成形体であって、円環状に配置される複数のブレードを含んで構成される羽根車を、金型を用いてプレス加工のみで製造する製造方法であって、
前記板材をプレス加工により打ち抜いて前記ブレードを成形する打ち抜き工程と、
前記打ち抜き工程で成形されたブレードの少なくとも一部の領域をプレス加工により圧縮することで、前記ブレードの少なくとも一部の領域の肉厚を変化させる圧縮成形工程と、
前記ブレードの少なくとも一部の領域を、プレス加工による曲げ加工を行うことで、上方向または下方向に突出させて、前記ブレードに所望の傾斜を持たせる曲げ工程と、
を備えることを特徴とする羽根車の製造方法。
【請求項9】
プレス加工によって、前記ブレードの表面に複数の凹凸形状を成形する、凹凸成形工程を備える、
ことを特徴とする請求項8に記載の羽根車の製造方法。
【請求項10】
一枚の金属製の板状の被加工部材から、プレス加工のみにより羽根車を製造する製造装置であって、
少なくとも、前記打ち抜き工程を実施可能な第1の加工台と、前記圧縮成形工程を実施可能な第2の加工台と、前記曲げ工程を実施可能な第3の加工台とを備える、
ことを特徴とする羽根車の製造装置。
【請求項11】
前記ブレードは、周方向に対向する端部領域に、肉厚が薄肉となり、他の領域よりも相対的に高硬度、かつ表面が平滑に構成されるエッジ部をそれぞれ備え、
2つの端部領域に設けられた前記エッジ部は、構成面の一面同士が、上下方向で略平行となるように構成される、
ことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれかの請求項に記載の羽根車の構造。
【請求項12】
前記プレス加工は、接離可能な上金型と下金型を用いて、前記上金型と前記下金型の間に被加工部材を配置し、前記上金型と前記下金型で被加工部材をプレスして所望の形状とする加工方法である、
ことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の羽根車の製造方法。