(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061598
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】防音室
(51)【国際特許分類】
E04H 1/12 20060101AFI20220412BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20220412BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20220412BHJP
F24F 13/02 20060101ALI20220412BHJP
F24F 7/007 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
E04H1/12 302C
E04B1/76 200A
E04B1/82 R
F24F13/02 H
F24F7/007 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169628
(22)【出願日】2020-10-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 販売日:令和2年9月21日 販売した場所:東日本旅客鉄道株式会社(東京都渋谷区代々木二丁目2番2号)
(71)【出願人】
【識別番号】519207974
【氏名又は名称】テレキューブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】間下 浩之
【テーマコード(参考)】
2E001
3L080
【Fターム(参考)】
2E001DB02
2E001DD04
2E001DF01
2E001FA41
2E001NA01
2E001ND05
3L080AC05
3L080AE02
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で優れた空調機能を発揮可能な防音室を提供する。
【解決手段】防音室11は、内部にユーザを収容可能な筐体12を備え、筐体12の内部には、空気調和機29が設置されており、空気調和機29の背面からは排気管35及び吸気管36が延びており、筐体12の背面には、貫通孔である排気管挿通孔19と、排気管挿通孔19の下側に位置する貫通孔である吸気管挿通孔20とが設けられ、排気管35は、排気管挿通孔19に挿通されて、挿通された一部が筐体の外側に所定の長さ突出した突出部35aを形成しており、排気管35の突出部35aには、管の上部を広く開口させる切欠き35bが設けられ、吸気管36は、吸気管挿通孔20に挿通されて、挿通された一部が筐体の外側に所定の長さ突出した突出部を形成しており、吸気管36の突出部36aには、管の下部を広く開口させる切欠き36bが設けられている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にユーザを収容可能な空間を有し、正面にユーザの出入りを可能にする扉が取り付けられた筐体と、該筐体を移動可能に支持する複数のキャスターとを備える防音室であって、
前記筐体の内部には、冷房用の冷凍サイクルを有する空気調和機が設置されており、前記空気調和機の前面には、冷風を送出可能な送風口が設けられ、前記空気調和機の背面からは、排気管及び吸気管が延びており、
前記筐体の壁面には、貫通孔である排気管挿通孔と、該排気管挿通孔の下側に位置した貫通孔である吸気管挿通孔とが設けられ、
前記排気管は、前記排気管挿通孔に挿通されて、挿通された一部が前記筐体の外側に所定の長さ突出した突出部を形成しており、該排気管の突出部には、管の上部を広く開口させる切欠きが設けられ、
前記吸気管は、前記吸気管挿通孔に挿通されて、挿通された一部が前記筐体の外側に所定の長さ突出した突出部を形成しており、該吸気管の突出部には、管の下部を広く開口させる切欠きが設けられていることを特徴とする防音室。
【請求項2】
前記筐体の内部の空間には、座席と、前記筐体の内壁に取り付けられ、該座席に着座した状態で使用可能なテーブルとが設けられ、
前記空気調和機は、前記テーブルの下方のスペースで、前記送風口から送出される風が前記座席に阻害されない位置に配置され、
前記筐体の天井には、前記筐体の内部に上昇気流を発生させるファンが設けられていることを特徴とする請求項1記載の防音室。
【請求項3】
前記排気管挿通孔と前記吸気管挿通孔との間には、前記排気管の突出部と前記吸気管の突出部との間を遮る仕切りが設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の防音室。
【請求項4】
前記筐体は、前記扉が施錠可能に形成されるとともに、ユーザの操作を受け付ける操作受付部と、該操作受付部と通信可能で、前記扉の施錠及び解錠を制御可能な制御部とを備え、
前記操作受付部がユーザの操作によって所定の使用手続きを受け付けると、前記操作受付部から前記制御部に前記防音室を使用可能にする旨の指示が送られ、該指示を受け取った前記制御部は、前記扉を解錠することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の防音室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音室に関し、詳しくは、屋内や屋外に設置して使用可能な可搬式の防音室に関する。
【背景技術】
【0002】
室内を静粛に保つための遮音性を有した防音室は、従来、家庭や企業など様々な場所に設置され、種々の目的に使用されてきた。近年では、各企業におけるテレワークへの関心の高まりを受けて、テレワーカを対象とする防音室が検討されている。
【0003】
これには、機密情報に対する第三者のアクセス防止の観点から、不特定多数の人が通る場所に設置されるテレワーカ向けの防音室において、室内に入れる人を制限可能な防犯機能を備えた防音室が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、そのような防音室を不特定多数の人が通る場所に設置する場合、機密保持を確実なものとすることに加え、室内で作業や活動を行う利用者に快適な環境を提供することが不可欠であるので、室内の温度をユーザの快適な状態に整える空調設備(エアコン)を設けることが考えられる。
【0006】
しかし、キャスターで支持された可搬式の防音室の空調設備には、その機動性を確保する観点から、室外機を備えた大掛かりな構成は適していない。だからといって、空調設備を単にユニット式のものとすれば、冷房運転をする際に、防音室内で吸排気する関係上、排熱の影響を受けない程度に高出力で運転せざるを得ず、不経済である。
【0007】
しかも、防音室の空間は容積が小さいために外気からの影響も大きく、室内の温度を均一に制御することが難しいという不都合もある。特に、防音室を駅構内などの公共施設に設置することを考えると、夏期においては、外気温度に比べて高温となることも想定される。
【0008】
このため、防音室には、通常の使用状態において、ユーザに熱的な不快感を与えることなく、快適な空気環境を簡易に実現できる構成が求められている。
【0009】
そこで本発明は、簡単な構成で優れた空調機能を発揮可能な防音室を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の防音室は、内部にユーザを収容可能な空間を有し、正面にユーザの出入りを可能にする扉が取り付けられた筐体と、該筐体を移動可能に支持する複数のキャスターとを備える防音室であって、前記筐体の内部には、冷房用の冷凍サイクルを有する空気調和機が設置されており、前記空気調和機の前面には、冷風を送出可能な送風口が設けられ、前記空気調和機の背面からは、排気管及び吸気管が延びており、前記筐体の壁面には、貫通孔である排気管挿通孔と、該排気管挿通孔の下側に位置した貫通孔である吸気管挿通孔とが設けられ、前記排気管は、前記排気管挿通孔に挿通されて、挿通された一部が前記筐体の外側に所定の長さ突出した突出部を形成しており、該排気管の突出部には、管の上部を広く開口させる切欠きが設けられ、前記吸気管は、前記吸気管挿通孔に挿通されて、挿通された一部が前記筐体の外側に所定の長さ突出した突出部を形成しており、該吸気管の突出部には、管の下部を広く開口させる切欠きが設けられていることを特徴としている。
【0011】
また、前記筐体の内部の空間には、座席と、前記筐体の内壁に取り付けられ、該座席に着座した状態で使用可能なテーブルとが設けられ、前記空気調和機は、前記テーブルの下方のスペースで、前記送風口から送出される風が前記座席に阻害されない位置に配置され、前記筐体の天井には、前記筐体の内部に上昇気流を発生させるファンが設けられていることを特徴としている。
【0012】
また、前記排気管挿通孔と前記吸気管挿通孔との間には、前記排気管の突出部と前記吸気管の突出部との間を遮る仕切りが設けられていることを特徴としている。
【0013】
また、前記筐体は、前記扉が施錠可能に形成されるとともに、ユーザの操作を受け付ける操作受付部と、該操作受付部と通信可能で、前記扉の施錠及び解錠を制御可能な制御部とを備え、前記操作受付部がユーザの操作によって所定の使用手続きを受け付けると、前記操作受付部から前記制御部に前記防音室を使用可能にする旨の指示が送られ、該指示を受け取った前記制御部は、前記扉を解錠することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防音室によれば、防音室内に設置された空気調和機の排気管の突出部及び吸気管の突出部が、それぞれ、防音室の壁に設けられた排気管挿通孔及び吸気管挿通孔を通じて防音室外に突き出ることで、空気調和機の吸排気が室外で可能になるので、冷凍サイクルの排熱を室内に拡散させずに冷風と分離させることが可能となり、エネルギーロスを減らして、快適な空気環境を容易に実現することができる。
【0015】
また、排気管挿通孔の下側に吸気管挿通孔を設け、排気管の突出部の上部を切欠きで広く開口させるとともに、吸気管の突出部の下部を切欠きで広く開口させることによって、吸排気する箇所をコンパクトにまとめつつも、熱のこもった排気が再び吸気される、いわゆるショートサーキットの発生を抑制して、空気調和機の冷凍サイクルのバランスを維持できることから、簡単な構成で優れた空調機能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1形態例を示す防音室の正面図である。
【
図7】
図1の防音室の電気系統を示すブロック図である。
【
図8】空気調和機の運転時における筐体背面の空気の流れを示した模式図である。
【
図9】筐体背面に壁が隣接した場合の、空気調和機の運転時における筐体背面の空気の流れを示した模式図である。
【
図10】本発明の第2形態例である防音室の筐体背面に壁が隣接した場合の、空気調和機の運転時における筐体背面の空気の流れを示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1乃至
図7は、本発明の第1形態例である防音室11及びその空調設備を示すものであり、防音室11は、人が入ることができる空間を有し、例えば、駅構内、空港、商業施設、展示場、屋外の広場、店舗の内部、ホテル、共同住宅、又はオフィス内のように、さまざまな人が通行する場所に設置される。
【0018】
図1乃至
図7に示すように、防音室11は、金属、木材又は樹脂などの部材によって全体として高さ寸法の大きい直方体に形成された、内部にユーザを収容可能な空間を有する筐体12と、筐体12の正面を開閉自在にして筐体12へのユーザの出入りを可能にする扉13とを備えている。
【0019】
扉13は、把持可能なハンドル13aが設けられており、ハンドル13aを操作することにより、筐体12に連結された一端を軸にして開閉可能に構成されている。また、扉13には、扉ガラス13bが設けられており、外部から防音室11の内部を視認可能に形成されている。
【0020】
扉13には、筐体12との間に錠(図示せず)が設けられており、筐体12の内側からの操作か、筐体12に組み込まれた制御部14(
図7参照)の制御により、扉13を開くことができる解錠状態と、扉13を開くことができない施錠状態とを切り替え可能に構成されている。
【0021】
また、筐体12には、外部電源(図示せず)と接続し、外部電源から供給される電力を筐体12内の電気機器に供給可能な電源部15(
図7参照)が設けられている。
【0022】
筐体12正面の、扉13の脇の壁面には、ユーザの操作を受け付ける操作受付部16が設けられている。操作受付部16は、例えば、タッチパネル付きのディスプレイであり、制御部14と通信し、ユーザの操作によって、扉13を施錠された防音室11を解錠して使用可能にする所定の使用手続きが行えるように構成されている。
【0023】
なお、使用手続きの際には、ユーザに対し、使用予定時間として、30分、60分、90分のいずれか一つの時間を指定させ、使用予定時間に応じて設定された使用料金の支払いを求めるように設定されている。
【0024】
また、操作受付部16は、防音室11の外部に設けられた、サーバなどの電子機器からなる管理装置Sとネットワーク上で通信可能に構成されている。管理装置Sは、例えばスマートフォンなどの通信機能を有する情報端末から、ユーザによる日時を指定した防音室11の予約を受け付けるとともに、ユーザの識別情報を管理して予約ユーザを認証可能に構成されている。
【0025】
予約があった場合の使用手続きは、次のようになる。ユーザが、予約した時間に防音室11の操作受付部16をタッチすると、操作受付部16は、ディスプレイに認証用コード(例えば、QRコード(登録商標))を表示する。ユーザが表示された認証用コードを情報端末で読み取ると、管理装置Sにネットワークを介してアクセスが行われる。
【0026】
管理装置Sは、情報端末から認証用コードを経由したアクセスを受けると、情報端末からユーザの識別情報を受け取って、予約ユーザからのアクセスか否かを判定し、予約ユーザからのアクセスと判定した場合には、ネットワークを介して操作受付部16に予約ユーザであるとの認証を送る。
【0027】
こうして、操作受付部16において、ユーザが使用手続きを行い、使用料金の決済が行われるか、又は、予約ユーザの認証を受け取るかすると、操作受付部16から制御部14に防音室11を使用可能にする旨の指示が送られる。
【0028】
その旨の指示を受け取った制御部14は、防音室11を解錠して入室可能な状態にすると、決済が完了してから使用予定時間が経過するまでの間、防音室11内部の電子機器を動作可能にする制御を行う。
【0029】
筐体12の底面には、筐体12を容易に移動可能にするキャスター17が四隅に設けられるとともに、各キャスター17の近傍に、筐体12の底面と床面との距離を調節可能で、防音室11を定位置に固定できるアジャスター18が設けられている。
【0030】
筐体12の背面には、下側の隅寄りの位置に、貫通孔である排気管挿通孔19及び吸気管挿通孔20がそれぞれ設けられている。ここで、吸気管挿通孔20は、排気管挿通孔19の下側に位置している。
【0031】
後述するが、防音室11内には空気調和機が設けられている。排気管挿通孔19には、この空気調和機から延びた排気管35が挿通されており、吸気管挿通孔20には、この空気調和機から延びた吸気管36が挿通されている。
【0032】
排気管35の、排気管挿通孔19に挿通された一部は、筐体12の外側に所定の長さ(例えば50~100mm)突出した突出部35aを形成しており、突出部35aの上半分には、管の上部を広く開口させる切欠き35bが設けられている。
【0033】
また、吸気管36の、吸気管挿通孔20に挿通された一部は、筐体12の外側に所定の長さ(例えば50~100mm)突出した突出部36aを形成しており、突出部36aの下半分には、管の下部を広く開口させる切欠き36bが設けられている。
【0034】
防音室11の内側の壁面には、吸音材12aが設けられており、防音室11の内部でユーザが発した声、及び、外部機器を使用する他のユーザが発した声が防音室11の外部に漏れにくいように構成されている。
【0035】
また、防音室11の床材12bは、出入りする人や設置される設備などの支持に必要な強度が確保できるように、枠組みされた基材の内側に梁が複数介在されることによって上下床板の間に床下空間が形成された二重床の構造となっており、床面にはタイル材12cが敷き詰められている。
【0036】
なお、防災上の観点から、防音室11の内壁面を構成する吸音材12aやタイル材12cには、不燃性の素材が使用されている。
【0037】
防音室11内の空間は、一組の座席21及びテーブル22が配置された状態で、ユーザの出入りを妨げず、かつ、作業や活動を行うユーザの利便性を損なわない程度の大きさで、高さ、幅及び奥行きの各寸法が設定されている。
【0038】
座席21は、座面の向きを変更可能な回転椅子であって、テーブル22は、筐体12の背面側の内壁に片持ち状に取り付けられ、ユーザが座席21に着座した状態で使用可能な高さに配置されている。
【0039】
また、防音室11内には、テレビ会議用設備23、照明24、監視カメラ25、スピーカ26及び空調設備が設置され、それぞれ、電源部15からの電力供給を受けて稼働するように構成されている。テレビ会議用設備23は、モニターを含み、テーブル22上の筐体12壁面に取り付けられており、照明24、監視カメラ25、スピーカ26は、それぞれ、筐体12の天井12dに取り付けられている。
【0040】
テレビ会議用設備23の下方には、照明24をオンオフ可能な照明スイッチ24aが設けられるとともに、ユーザが持ち込んだコンピュータ又は携帯端末等の電子機器に給電可能な接続ポート27(コンセント27a及びUSBコネクタ27b)が設けられている。
【0041】
ここで、テレビ会議用設備23は、インターネットなどのネットワークと接続可能で、接続したネットワークを介して外部機器との間でデータを送受信可能に構成されており、例えば、テレビ会議機能を有する外部機器を利用する他のユーザとの間でテレビ会議をできるように構成されている。
【0042】
また、空調設備は、防音室11内の空気を吸引して換気するファン28と、冷暖房エアコンであって、防音室11内の温度を調整する空気調和機29とを含んでいる。ファン28は、筐体12の天井12dに、座席21の真上に位置するように設置されている。
【0043】
空気調和機29は、空気調和機本体29aと、操作パネル29bとを備えている。
【0044】
空気調和機本体29aは、矩形箱状でテーブル22の下方のスペースに収まる高さ寸法に形成されて、テーブル22の下方のスペースに配置されており、送風が座席21に阻害されないように壁際に位置されている。また、内部に冷房用の冷凍サイクルと暖房用の発熱体であるPTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータとを備えている。
【0045】
空気調和機本体29aの前面には、冷風又は温風を送り出す送風口29cが設けられ、空気調和機本体29aの背面からは、排気管35が延びて運転時に生じる排気を流すように構成されるとともに、吸気管36が延びて運転時に必要となる空気を引き込むように構成されている。
【0046】
操作パネル29bは、所定の距離、例えば1mの範囲内で空気調和機本体29aと無線通信可能に構成され、ユーザの操作を受け付けて、空気調和機本体29aの運転のオンオフや、運転モード(冷房又は暖房)の選択、設定温度、送風量の入力が可能になっている。
【0047】
操作パネル29bは、空気調和機本体29aの天面に設置できるほか、ユーザが操作しやすいように、テーブル22上や、筐体12の内壁に設置しておくこともできる。
【0048】
空気調和機本体29aの送風口29cから室内に送出された冷風又は温風は、ファン28の吸引力と相俟って、緩やかに上昇気流を形成し、天井12dのスリットから外部に放出される。
【0049】
防音室11の天井12dには、防災設備の一つとして、自動消火装置30が設けられている。自動消火装置30は、電源を必要としない下方放出型の消火装置(スプリンクラー)であって、消火剤が充填された消火剤容器31と、消火剤容器31の下端中央に設けられ、火災による高熱を受けることで消火剤を室内に放出可能な放出ノズル32とを一体的に備えている。
【0050】
具体的には、放出ノズル32は、下端に、消火剤容器31との接続部を封じる密閉栓を備えるとともに、低融点金属からなり密閉栓を保持する集熱板を備えており、火災が発生すると、集熱板が火災による高熱を受けて融けることで、消火剤容器31内の加圧されたガスが密閉栓及び集熱板を吹き飛ばし、消火剤の放出が始まるように形成されている。
【0051】
また、自動消火装置30は、防音室11の機能性を失わないように、照明24や、スピーカ26、ファン28、天井12dのカバー部材33などの設置位置を考慮して配置されている。特に、放出ノズル32の位置は、ファン28によって生じた上昇気流で、火災源からの熱を受けやすいように、ファン28と横並びになっている。
【0052】
図8及び
図9は、空気調和機29の運転時における、筐体12背面の空気の流れを示した模式図である。
【0053】
図8に示すように、空気調和機29の運転時には吸排気が行われるので、排気管35からは防音室11外に排気が放出され、吸気管36からは防音室11外の空気が吸い込まれる。
【0054】
排気管35から放出される排気は、排気管35の突出部35aが、切欠き35bによって上部を広く開口していることにより、排気管35が突き出ている方向のみならず、上方にも放出される。
【0055】
特に、冷房運転時においては、排気が温風になっているので、膨張・拡散して上昇気流となりやすく、突出部35aの下側に沿って真っ直ぐに放出された排気は、熱によりやがて上昇し、突出部35aの上側に沿って切欠き35bから放出された排気はより上方に向けて流される。
【0056】
このとき、排気管35の突出部35aと吸気管36の突出部36aとの中間に位置する空気は、突出部35aから放出される排気とともにわずかに上昇する。
【0057】
また、吸気管挿通孔20が排気管挿通孔19の下方に位置しており、かつ、吸気管挿通孔20に通された吸気管36の突出部36aが切欠き36bによって下部を広く開口していることにより、吸気管36からは、突出部36aの延びている方向及び下方の空気が吸い込まれる。
【0058】
したがって、冷房運転時に吸気管36から吸い込まれる空気には、排気管35から排出される温風が混じりにくい。
【0059】
ただし、
図9に示すように、防音室11の設置場所によっては、防音室11の背面に何らかの壁が隣接すると、排気管35から排出される温風の一部が、隣接した壁に沿って下方に流れることで、吸気管36に吸い込まれやすくなる場合があるので、防音室11は、背面が壁に隣接しないように、背面から所定距離(例えば150mm)隔離して設置することが望ましい。
【0060】
このように、本発明の防音室11によれば、防音室11内に設置された空気調和機29の排気管35の突出部35a及び吸気管36の突出部36aが、それぞれ、防音室11の壁に設けられた排気管挿通孔19及び吸気管挿通孔20を通じて防音室11外に突き出ることで、空気調和機29の吸排気が室外で可能になるので、冷凍サイクルの排熱を室内に拡散させずに冷風と分離させることが可能となり、エネルギーロスを減らして、快適な空気環境を容易に実現することができる。
【0061】
また、排気管挿通孔19の下側に吸気管挿通孔20を設け、排気管35の突出部35aの上部を切欠き35bで広く開口させるとともに、吸気管36の突出部36aの下部を切欠き36bで広く開口させることによって、吸排気する箇所をコンパクトにまとめつつも、熱のこもった排気が再び吸気される、いわゆるショートサーキットの発生を抑制して、空気調和機29の冷凍サイクルのバランスを維持できることから、簡単な構成で優れた空調機能を発揮できる。
【0062】
また、筐体12の内壁に吸音材12aが取り付けられていることから、防音室11が不特定多数の人が通る場所に設置されている場合であっても、ユーザは、防音室11内において機密性の高い内容を安心して話すことができる。
【0063】
また、筐体12の天井12dに設けられたファン28によって防音室11内に上昇気流が発生するので、空気調和機29からの冷風の上昇が促進され、室内全体の空気を吸い上げて空調することが可能となり、複雑な制御を伴わずに室内温度を均一に調整することができる。
【0064】
また、筐体12の天井12dに、熱に反応して消化剤を放出する自動消火装置30を設けているので、人の操作に依存せずに迅速に消火を開始することができる。しかも、天井12dに設けられたファン28によって室内に上昇気流を発生させることで、火災源からの熱気の上昇が促進されて、自動消火装置30の熱への反応が早まるので、初期火災を素早く鎮圧することが可能となる。
【0065】
しかも、操作受付部16が外部の管理装置Sとネットワーク上で通信し、ユーザの予約を受け付けるとともに、予約ユーザの認証を行い、制御部14が、予約ユーザの認証により、防音室11を使用可能にするように構成されているので、防音室11が一度に一人しか利用できずとも、他のユーザが使用を終えるまで待つ必要がなくなり、利便性が高い。
【0066】
さらには、空気調和機29が、座席21の脇に向けて送風するように配置されるとともに、ファン28が座席21の真上に配置されているので、空気調和機29の送風口29cから送出された風が、筐体12内で最適な風速と広がりとをもって緩やかに上昇気流を発生させるので、肌に直接風が当たる不快感を与えない快適な室内空間を実現できる。
【0067】
また、空気調和機29が、テーブル22の下方のスペースに、座席21の横側に位置するように配置されていることから、着座したユーザの足元空間を最大限に確保できるとともに、ユーザの視界から隠れるので、室内の空間デザインを美的にも空間的にも邪魔することがない。
【0068】
図10は、本発明の第2形態例である防音室の筐体背面に壁が隣接した場合の、空気調和機29の運転時における筐体12背面の空気の流れを示した模式図である。
【0069】
第2形態例の防音室11は、第1形態例の防音室11と各構成要素及びその符号が同じであり、
図10に示すように、筐体12の背面にある排気管35の突出部35aと吸気管36の突出部36aとの間に仕切り34が設けられている点のみが異なっている。
【0070】
ここで、
図9と同様に、防音室11の背面に何らかの壁が隣接している場合であっても、仕切り34によって排気管35の突出部35aと吸気管36の突出部36aと間が遮られているので、排気管35の突出部35aから放出されて壁にぶつかった排気が下方へ流れにくくなって吸気管36の突出部36aに吸い込まれることが防止される。
【0071】
このように、排気管35の突出部35aと吸気管36の突出部36aとの間に仕切り34が設けられていることによって、防音室11の背面を何らかの壁が隣接して設置しなくてはならない状況であっても、熱のこもった排気が再び吸気される、いわゆるショートサーキットの発生を抑制して、空気調和機29の冷凍サイクルのバランスを維持できることから、簡単な構成で優れた空調機能を発揮できる。
【0072】
なお、本発明は、以上の形態例に限定されることなく、発明の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、本形態例では、防音室には空調設備、防災設備、テレビ会議用設備などが設けられているが、これらに限られず、必要に応じて他の設備を設けてもよい。
【0073】
また、防音室の設置場所は、所定の敷地や施設に限られず、鉄道車両、バス、タクシー又は飛行機などの移動体の内部であってもよい。
【0074】
また、筐体の形状は、高さの比率が大きい直方体に限られず、人が入ることができて可搬性が損なわれない大きさであれば、幅や奥行きの比率が大きい直方体、円柱、その他の形状の立体であってもよく、一人だけでなく二人以上の収容が可能な空間を有するように形成してもよい。この場合、室内の機材や空調設備の構成は、ユーザが不快感を覚えず、作業や活動を快適に行える範囲で適宜変更することができる。
【0075】
また、排気管挿通孔及び吸気管挿通孔は、筐体背面の隅寄りの位置に設けているが、必ずしも背面や隅寄りの位置に設ける必要はなく、設置場所の都合に合わせて、筐体の背面の他の位置、あるいは側面などのいずれかの壁面に設けてもよい。
【0076】
また、筐体の天井には、ファンを設けて室内に上昇気流を発生させているが、ファンの設置位置はこれに限られず、防音室内において十分な空調効果を奏し、火災発生時にも天井に設けた自動消火装置が迅速に消火を開始可能な程度の上昇気流を生み出せればよく、例えば、筐体の側面上部にファンを設けてもよい。
【0077】
さらに、自動消火装置は、放出ノズルを塞ぐ集熱板が火災熱によって溶融することで自動的に消化剤を放出する構成であるが、これに限られず、熱に反応して自動的に消化剤を放出できればよく、集熱板の代わりに熱感知部を備え、熱感知部が感知した火災熱の情報を受けて放出ノズルを解放し消化剤を放出する構成としてもよい。
【0078】
また、本形態例のうち、第2形態例では、防音室の背面の、排気管挿通孔と吸気管挿通孔との間に仕切りを設けているが、排気管と吸気管との間の空間を仕切ることができればよく、防音室の背面に隣接した壁側に、排気管挿通孔と吸気管挿通孔との間に位置するように仕切りを取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0079】
11…防音室、12…筐体、12a…吸音材、12b…床材、12c…タイル材、12d…天井、13…扉、13a…ハンドル、13b…扉ガラス、14…制御部、15…電源部、16…操作受付部、17…キャスター、18…アジャスター、19…排気管挿通孔、20…吸気管挿通孔、21…座席、22…テーブル、23…テレビ会議用設備、24…照明、24a…照明スイッチ、25…監視カメラ、26…スピーカ、27…接続ポート、27a…コンセント、27b…コネクタ、28…ファン、29…空気調和機、29a…空気調和機本体、29b…操作パネル、29c…送風口、30…自動消火装置、31…消火剤容器、32…放出ノズル、33…カバー部材、34…仕切り、35…排気管、35a…突出部、35b…切欠き、36…吸気管、36a…突出部、36b…切欠き、S…管理装置