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特開2022-61608クラスプ設計方法、局部床義歯作製方法、及びゲージ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061608
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】クラスプ設計方法、局部床義歯作製方法、及びゲージ
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/267 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
A61C13/267
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169644
(22)【出願日】2020-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】599066676
【氏名又は名称】学校法人東京歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】山下 秀一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 光雄
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159JJ02
4C159JJ15
(57)【要約】
【課題】局部床義歯の着脱の際、支台歯への着脱方向とは異なる方向への応力の発生が低減されたクラスプの設計方法、当該クラスプ設計方法に基づく局部床義歯作製方法、及び当該クラスプ設計方法に用いられるゲージを提供すること。
【解決手段】支台歯2の一方側を走行し、第1の鉤尖11aを有する第1の鉤腕11と、支台歯2の他方側を走行し、第2の鉤尖12aを有する第2の鉤腕12と、を備えるクラスプ10を設計するクラスプ設計方法である。クラスプ10が支台歯2から脱着された状態から支台歯2に装着される際に、第1の鉤尖11aの第2の高さ位置、及び第2の鉤尖12aの第2の高さ位置が、略同じ高さ位置(Ho)となるように、第1の鉤尖11aの位置及び第2の鉤尖12aの位置を決定する鉤尖位置決定工程、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支台歯の一方側を走行し、第1の鉤尖を有する第1の鉤腕と、前記支台歯の他方側を走行し、第2の鉤尖を有する第2の鉤腕と、を備えるクラスプを設計するクラスプ設計方法であって、
前記クラスプの着脱方向における前記第1の鉤尖の第1の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯根側であり、かつ、所定のアンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するアンダーカットハイト決定工程と、
前記クラスプの前記着脱方向における前記第2の鉤尖の第1の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第1の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するアンダーカットハイト記録工程と、
前記クラスプの前記着脱方向における前記第1の鉤尖の第2の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯冠側であり、かつ、前記アンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するオーバーバルジカットハイト決定工程と、
前記クラスプの前記着脱方向における前記第2の鉤尖の第2の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するオーバーバルジカットハイト記録工程と、
前記クラスプが前記支台歯から脱着された状態から前記支台歯に装着される際に、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置、及び前記第2の鉤尖の第2の高さ位置が、略同じ高さ位置となるように、前記第1の鉤尖の位置及び前記第2の鉤尖の位置を決定する鉤尖位置決定工程と、を含む、クラスプ設計方法。
【請求項2】
前記支台歯の豊隆部を削除して前記着脱方向に平行な平面を形成するために、前記豊隆部のうち、前記アンダーカットハイト記録工程、又は前記オーバーバルジカットハイト記録工程において記録された前記第2の鉤尖の位置よりも前記支台歯の前記他方側に突出する部分を、削除する部分として決定する削除部分決定工程を更に含む、請求項1に記載のクラスプ設計方法。
【請求項3】
支台歯の一方側を走行し、第1の鉤尖を有する第1の鉤腕と、前記支台歯の他方側を走行し、第2の鉤尖を有する第2の鉤腕と、を備えるクラスプを設計することを含む局部床義歯作製方法であって、
前記クラスプの着脱方向における前記第1の鉤尖の第1の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯根側であり、かつ、所定のアンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するアンダーカットハイト決定工程と、
前記クラスプの前記着脱方向における前記第2の鉤尖の第1の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第1の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するアンダーカットハイト記録工程と、
前記クラスプの前記着脱方向における前記第1の鉤尖の第2の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯冠側であり、かつ、前記アンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するオーバーバルジカットハイト決定工程と、
前記クラスプの前記着脱方向における前記第2の鉤尖の第2の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するオーバーバルジカットハイト記録工程と、
前記クラスプが前記支台歯から脱着された状態から前記支台歯に装着される際に、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置、及び前記第2の鉤尖の第2の高さ位置が、略同じ高さ位置となるように、前記第1の鉤尖の位置及び前記第2の鉤尖の位置を決定する鉤尖位置決定工程と、を含む局部床義歯作製方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のクラスプ設計方法において用いられ、
一方の端部である先端部から後端部まで延び、前記先端部と前記後端部との間に前記支台歯と当接する部位である接触部を有する棒状部と、
前記先端部において前記棒状部の伸長方向に直交する方向に突出するアンダーカットハイト突出部、及び、前記棒状部の前記接触部と前記後端部の間において前記棒状部の伸長方向に直交する方向に突出するオーバーバルジカットハイト突出部のうち、少なくとも一方の突出部と、を有するゲージ。
【請求項5】
前記アンダーカットハイト突出部は、前記アンダーカット量だけ突出するアンダーカットハイト計測部、及び、前記アンダーカットハイト計測部と異なる方向であり、前記棒状部の伸長方向に直交する方向に前記アンダーカットハイト計測部よりも大きく突出するアンダーカットハイト記録部を有し、
前記オーバーバルジカットハイト突出部は、前記アンダーカット量だけ突出するオーバーバルジカットハイト計測部、及び、前記オーバーバルジカットハイト計測部と異なる方向であり、前記棒状部の伸長方向に直交する方向に前記オーバーバルジカットハイト計測部よりも大きく突出するオーバーバルジカットハイト記録部を有する、請求項4に記載のゲージ。
【請求項6】
前記アンダーカットハイト計測部、及び/又は、前記オーバーバルジカットハイト計測部が、前記アンダーカット量が異なり、それぞれが異なる方向に突出する複数の計測部を有する、請求項5に記載のゲージ。
【請求項7】
前記ゲージが前記アンダーカットハイト突出部と前記オーバーバルジカットハイト突出部の両方を有する場合に、
前記アンダーカットハイト記録部と、前記オーバーバルジカットハイト記録部と、が異なる方向に突出する、請求項5又は請求項6に記載のゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスプ設計方法、当該クラスプ設計方法に基づく局部床義歯作製方法、及び当該クラスプ設計方法に用いられるゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
局部床義歯の設計、作製には、歯科技工用機器としてサベイヤーが用いられる。すなわち、患者から採取した歯列模型上で、残存歯(支台歯)の最大豊隆部やアンダーカット部等を、サベイヤーを用いて計測、決定、記録することにより、局部床義歯のクラスプ等の設計が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-159263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、クラスプの設計には、鉤尖の位置を最大豊隆部から所定のアンダーカット量だけ凹んだ位置に配置し、局部床義歯の維持力を発生させることが検討されている。しかしながら、局部床義歯を着脱する際に、クラスプの鉤腕による付勢が着脱方向に直交する方向において不均一であった場合、残存歯(支台歯)に着脱方向とは異なる方向に応力が生じる場合がある。局部床義歯を必要とする患者にとって残存歯(支台歯)は、長期にわたり、局部床義歯を装着する支台としての機能性を持続させなくてはならない貴重な歯であり、着脱の際、着脱方向と異なる方向への応力の発生は極力低減させる局部床義歯の設計が求められている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、
局部床義歯の着脱の際、支台歯への着脱方向とは異なる方向への応力の発生が低減されたクラスプの設計方法、当該クラスプ設計方法に基づく局部床義歯作製方法、及び当該クラスプ設計方法に用いられるゲージを提供すること
を例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(1)支台歯の一方側を走行し、第1の鉤尖を有する第1の鉤腕と、前記支台歯の他方側を走行し、第2の鉤尖を有する第2の鉤腕と、を備えるクラスプを設計するクラスプ設計方法であって、
前記クラスプの着脱方向における前記第1の鉤尖の第1の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯根側であり、かつ、所定のアンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するアンダーカットハイト決定工程と、
前記クラスプの着脱方向における前記第2の鉤尖の第1の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第1の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するアンダーカットハイト記録工程と、
前記クラスプの前記着脱方向における前記第1の鉤尖の第2の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯冠側であり、かつ、前記アンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するオーバーバルジカットハイト決定工程と、
前記クラスプの着脱方向における前記第2の鉤尖の第2の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するオーバーバルジカットハイト記録工程と、
前記クラスプが前記支台歯から脱着された状態から前記支台歯に装着される際に、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置、及び前記第2の鉤尖の第2の高さ位置が、略同じ高さ位置となるように、前記第1の鉤尖の位置及び前記第2の鉤尖の位置を決定する鉤尖位置決定工程と、を含む、クラスプ設計方法。
【0007】
(2)支台歯の一方側を走行し、第1の鉤尖を有する第1の鉤腕と、前記支台歯の他方側を走行し、第2の鉤尖を有する第2の鉤腕と、を備えるクラスプを設計することを含む局部床義歯作製方法であって、
前記クラスプの着脱方向における前記第1の鉤尖の第1の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯根側であり、かつ、所定のアンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するアンダーカットハイト決定工程と、
前記クラスプの着脱方向における前記第2の鉤尖の第1の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第1の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するアンダーカットハイト記録工程と、
前記クラスプの前記着脱方向における前記第1の鉤尖の第2の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯冠側であり、かつ、前記アンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するオーバーバルジカットハイト決定工程と、
前記クラスプの着脱方向における前記第2の鉤尖の第2の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するオーバーバルジカットハイト記録工程と、
前記クラスプが前記支台歯から脱着された状態から前記支台歯に装着される際に、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置、及び前記第2の鉤尖の第2の高さ位置が、略同じ高さ位置となるように、前記第1の鉤尖の位置及び前記第2の鉤尖の位置を決定する鉤尖位置決定工程と、を含む局部床義歯作製方法。
【0008】
(3)(1)のクラスプ設計方法において用いられ、
一方の端部である先端部から後端部まで延び、前記先端部と前記後端部との間に前記支台歯と当接する部位である接触部を有する棒状部と、
前記先端部において前記棒状部の伸長方向に直交する方向に突出するアンダーカットハイト突出部、及び、前記棒状部の前記接触部と前記後端部の間において前記棒状部の伸長方向に直交する方向に突出するオーバーバルジカットハイト突出部のうち、少なくとも一方の突出部と、を有するゲージ。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、
局部床義歯の着脱の際、支台歯への着脱方向とは異なる方向への応力の発生が低減されたクラスプの設計方法、当該クラスプ設計方法に基づく局部床義歯作製方法、及び当該クラスプ設計方法に用いられるゲージを提供すること
ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】クラスプの装着状況を示す模式図
図2】クラスプ装着の際の鉤尖の動きを示す模式図
図3】実施形態1に係るクラスプ設計方法の手順の流れを示す模式図
図4】実施形態2に係るクラスプ設計方法に基づく設計を示す断面図
図5】実施形態3に係るクラスプ設計方法に基づく設計を示す断面図
図6】実施形態4に係るクラスプ設計方法に基づく設計を示す断面図
図7】ゲージの例を示す模式図
図8】実施形態7に係るゲージを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態1]
実施形態1に係るクラスプ設計方法は、支台歯の一方側を走行する第1の鉤腕と、支台歯の他方側を走行する第2の鉤腕と、を備えるクラスプを設計する方法である。クラスプ設計方法は、アンダーカットハイト決定工程と、アンダーカットハイト記録工程と、オーバーバルジカットハイト決定工程と、オーバーバルジカットハイト記録工程と、鉤尖位置決定工程と、を含む。以下、実施形態1に係るクラスプ設計方法について、図面を参照しながら順に説明する。まずは、実施形態1に係るクラスプ設計方法に基づいて作製されるクラスプ10の作用について説明する。
【0013】
図1は、クラスプの装着状況を示す模式図である。図1(a)では、支台歯2に局部床義歯1のクラスプ10が装着され、第1の鉤腕11が支台歯2の一方側を走行している状態を示している。図1(a)では描かれていないが、支台歯2の他方側には第2の鉤腕12が支台歯2の他方側を走行している。図1(b)では、クラスプ10が支台歯2から脱着された状態から支台歯2に装着される途中の状態を示している。
【0014】
図1(b)では、第1の鉤腕11の鉤尖11a(第1の鉤尖11a)及び第2の鉤腕12の鉤尖12a(第2の鉤尖12a)は、支台歯2と接触した状態を示している。このとき、鉤尖11a、12aは、支台歯2と、最大豊隆部25よりも歯冠21側で接触していることが好ましい。
【0015】
ここで、支台歯2の一方側とは、例えば、支台歯2の舌側、又は頬側とすることができ、支台歯2の他方側は、それぞれ、舌側の反対側である頬側、又は頬側の反対側である舌側とすることができる。支台歯2の一方側は、舌側であっても、頬側であってもよく、局部床義歯1の着脱のし易さ、着用感等に応じて適宜決定することができる。
【0016】
クラスプ10の着脱方向Dは、局部床義歯の設計上の概念であり、支台歯2への応力発生の低減、局部床義歯の着脱のし易さ等の観点から適宜決定することができる。着脱方向Dは、例えば、支台歯2の歯軸と平行な方向、歯冠21部分の重心と歯根23部分の重心とを結ぶ直線と平行な方向等とすることができる。
【0017】
図2は、クラスプ装着の際の鉤尖の動きを示す模式図である。図2では、第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aを通る面における断面を示しており、支台歯2は、その断面が描かれている。なお、第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aの位置は、着脱方向Dにおける高さ位置を除き、クラスプ10による局部床義歯1の維持機能を発揮させるために、従来公知の設計手法に基づき、適宜決定することができる。すなわち、第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aの位置は、後述する各工程によって決定される着脱方向Dにおける高さ位置を決定することにより、一義的に決定することができる。
【0018】
図2(a)では、図1(b)に相当する状態、すなわち、第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aが支台歯2と接触した状態を示している。図2(a)において、第1の鉤尖11aは、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置であり、支台歯2の最大豊隆部25よりもアンダーカット量Cだけ支台歯2が細くなった位置において支台歯2と接触している。図2(a)において、第2の鉤尖12aは、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置において支台歯2と接触している。このとき、支台歯2はクラスプ10、すなわち、第1の鉤腕11及び第2の鉤腕12により、クラスプ10の着脱方向Dと異なる方向における付勢を受けていないことが好ましい。ここで、オーバーバルジカットハイトHoとは、クラスプ10が支台歯2から脱着された状態から支台歯2に装着される際に、第1の鉤尖11aが支台歯2に対して付勢を開始する高さ位置(第2の高さ位置)である。
【0019】
図2(b)では、局部床義歯1が装着されていき、クラスプ10が着脱方向Dにおける歯根23側へと押し込まれるのに伴って、支台歯2の豊隆部分によって第1の鉤腕11及び第2の鉤腕12が着脱方向Dと略直交する方向に押し広げられている状態を示している。このとき、支台歯2は、第1の鉤腕11及び第2の鉤腕12により、着脱方向Dと略直交する方向に付勢されている。しかしながら、第1の鉤腕11と第2の鉤腕12による付勢は、互いに極力打ち消し合うように設計されており、支台歯2における着脱方向Dと異なる方向における応力発生が低減されている。特に、第1の鉤腕11及び/又は第2の鉤腕12による付勢が開始される部分において、第1の鉤腕11による付勢と第2の鉤腕12による付勢とが、互いに極力打ち消し合うように設計することにより、支台歯2における応力発生を効果的に低減し、局部床義歯1の着脱の際の支台歯2への負荷を低減させることができる。
【0020】
図2(c)では、局部床義歯1が装着された状態を示している。図2(c)において、第1の鉤尖11aは、アンダーカットハイトHuの高さ位置であり、支台歯2の最大豊隆部25よりもアンダーカット量Cだけ支台歯2が細くなった位置において支台歯2と接触している。図2(c)において、第2の鉤尖12aは、アンダーカットハイトHuの高さ位置において、支台歯2と接触している。このとき、第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aは支台歯2と接触しているが、支台歯2は、第1の鉤腕11及び第2の鉤腕12により、付勢されていない。ここで、アンダーカットハイトHuとは、クラスプ10が支台歯2に装着された状態における第1の鉤尖11aの高さ位置(第1の高さ位置)である。
【0021】
次に、実施形態1に係るクラスプ設計方法の各工程について、図面を参照しながら順に説明する。図3は、実施形態1に係るクラスプ設計方法の手順の流れを示す模式図である。図3においては、図2と同様、第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aを通る面における断面を示しており、支台歯2は、その断面が描かれている。なお、図3において、患者から採取した歯列模型上で、サベイヤー(図示せず)を用いて、アンダーカットハイトHu、オーバーバルジカットハイトHoを計測、記録することを想定している。図3において、ゲージ5、6は、その棒状部51、61の伸長方向が、局部床義歯1の着脱方向Dと平行となるようサベイヤーに装着されている。なお、棒状部51、61(図7参照)等、ゲージ5、6の詳細については、後述する。
【0022】
<アンダーカットハイト決定工程M1>
アンダーカットハイト決定工程M1においては、クラスプ10が支台歯2に装着された状態における第1の鉤尖11aの高さ位置(第1の高さ位置)であるアンダーカットハイトHuを決定する。
【0023】
図3(a)は、ゲージ5を、その接触部53において支台歯2の最大豊隆部25と当接させた状態を示している。ゲージ5は、その先端部52において、棒状部51の伸長方向に直交する方向に突出するアンダーカットハイト突出部を有する。アンダーカットハイト突出部は、アンダーカット量Cだけ突出するアンダーカットハイト計測部55と、アンダーカットハイト計測部55と異なる方向であり、棒状部51の伸長方向に直交する方向に突出するアンダーカットハイト記録部56とを有する(図7参照)。ゲージ5の詳細については後述する。ゲージ5は、サベイヤーの機能により、支台歯2の最大豊隆部25に当接させた状態で、着脱方向Dと平行に移動させることができる。
【0024】
図3(b)は、図3(a)の状態から、ゲージ5を着脱方向Dと平行に移動させることにより、ゲージ5のアンダーカットハイト計測部55が支台歯2と接触した状態を示している。ここで、ゲージ5のアンダーカットハイト計測部55は、ゲージ5の棒状部51の伸長方向に直交する方向に、所定のアンダーカット量Cだけ突出している。これにより、支台歯2の一方側における最大豊隆部25よりも歯根23側であり、かつ、所定のアンダーカット量Cだけ着脱方向Dと直交する方向における支台歯2の幅が細くなった位置を特定することができる。当該位置の高さ位置を、アンダーカットハイトHuとする。
【0025】
<アンダーカットハイト記録工程M2>
アンダーカットハイト記録工程M2においては、第2の鉤尖12aの高さ位置として、アンダーカットハイトHuの高さ位置を、支台歯2の他方側に記録する。
【0026】
図3(c)は、図3(b)の状態から、ゲージ5の棒状部51の伸長方向を着脱方向Dと平行に維持し、かつ、ゲージ5のアンダーカットハイト計測部55の高さ位置を維持したまま、ゲージ5を支台歯2の他方側へ移動させた状態を示している。ゲージ5の、アンダーカットハイト記録部56を、支台歯2に当接させることにより、アンダーカットハイトHuを支台歯2の他方側に記録することができる。
【0027】
アンダーカットハイトHuを支台歯2に記録する方法としては、特に制限されないが、アンダーカットハイト記録部56にインク等の記録材を付着させた状態で、支台歯2に当接させる方法、アンダーカットハイト記録部56と支台歯2との間にカーボン紙等を挟んだ状態でアンダーカットハイト記録部56を支台歯2に当接させてカーボン紙の成分を支台歯2に付着させる方法等を挙げることができる。
【0028】
<オーバーバルジカットハイト決定工程M3>
オーバーバルジカットハイト決定工程M3においては、クラスプ10が支台歯2から脱着された状態から支台歯2に装着される際に、第1の鉤尖11aが支台歯2に対して付勢を開始する高さ位置(第2の高さ位置)であるオーバーバルジカットハイトHoを決定する。
【0029】
図3(d)は、ゲージ6を、その接触部63において支台歯2の最大豊隆部25と当接させた状態を示している。ゲージ6は、棒状部61の接触部63と後端部64の間において、棒状部61の伸長方向に直交する方向に突出するオーバーバルジカットハイト突出部を有する。オーバーバルジカットハイト突出部は、アンダーカット量Cだけ突出するオーバーバルジカットハイト計測部67と、オーバーバルジカットハイト計測部67と異なる方向であり、棒状部61の伸長方向に直交する方向に突出するオーバーバルジカットハイト記録部68とを有する(図7参照)。ゲージ6の詳細については後述する。ゲージ6は、サベイヤーの機能により、支台歯2の最大豊隆部25に当接させた状態で、着脱方向Dと平行に移動させることができる。
【0030】
図3(e)は、図3(d)の状態から、ゲージ6を着脱方向Dと平行に移動させることにより、ゲージ6のオーバーバルジカットハイト計測部67が支台歯2と接触した状態を示している。ここで、ゲージ6のオーバーバルジカットハイト計測部67は、ゲージ6の棒状部61の伸長方向に直交する方向に、所定のアンダーカット量Cだけ突出している。これにより、支台歯2の一方側における最大豊隆部25よりも歯冠21側であり、かつ、所定のアンダーカット量Cだけ着脱方向Dと直交する方向における支台歯2の幅が細くなった位置を特定することができる。当該位置の高さ位置を、オーバーバルジカットハイトHoとする。
【0031】
<オーバーバルジカットハイト記録工程M4>
オーバーバルジカットハイト記録工程M4においては、第2の鉤尖12aの高さ位置として、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置を、支台歯2の他方側に記録する。
【0032】
図3(f)は、図3(e)の状態から、ゲージ6の棒状部61の伸長方向を着脱方向Dと平行に維持し、かつ、ゲージ6のオーバーバルジカットハイト計測部67の高さ位置を維持したまま、ゲージ6を支台歯2の他方側へ移動させた状態を示している。ゲージ6の、オーバーバルジカットハイト計測部67と異なる方向であり、棒状部61の伸長方向に直交する方向に突出するオーバーバルジカットハイト記録部68を、支台歯2に当接させることにより、オーバーバルジカットハイトHoを支台歯2の他方側に記録することができる。
【0033】
オーバーバルジカットハイトHoを支台歯2に記録する方法としては、特に制限されないが、アンダーカットハイトHuを支台歯2に記録する方法と同様の方法等を挙げることができる。
【0034】
<鉤尖位置決定工程M5>
鉤尖位置決定工程M5においては、クラスプ10が支台歯2から脱着された状態から、支台歯2に装着される際に、第1の鉤尖11aの第2の高さ位置、及び第2の鉤尖12aの第2の高さ位置が、オーバーバルジカットハイトHoと略同じ高さ位置となるように、第1の鉤尖11aの位置及び第2の鉤尖12aの位置を決定する。鉤尖位置決定工程M5においては、クラスプ10が支台歯2に装着された状態における、第1の鉤尖11aの第1の高さ位置、及び第2の鉤尖12aの第1の高さ位置が、アンダーカットハイトHuと略同じ高さ位置となるように、第1の鉤尖11aの位置及び第2の鉤尖12aの位置を決定することもできる。
【0035】
鉤尖位置決定工程M5により第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aの位置を決定することで、クラスプ10が装着された状態(図1(a)の状態)及びクラスプ10が支台歯2から脱着された状態から支台歯2に装着される際に、第1の鉤尖11aが支台歯2に対して付勢を開始しようとする状態(図1(b)の状態)の両状態において、第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aの高さ位置を、アンダーカットハイトHu、オーバーバルジカットハイトHoと、それぞれ略同じ高さとすることができる。これにより、クラスプ10の維持機能を保持しつつ、局部床義歯1を装着する際に、支台歯2に着脱方向Dと異なる方向の応力発生を低減させることができる。
【0036】
[実施形態2]
実施形態2に係るクラスプ設計方法は、実施形態1に係るクラスプ設計方法の各工程に加えて、支台歯2の豊隆部26を削除して着脱方向Dに平行な平面を形成するための削除部分決定工程M6を更に含む。以下、実施形態2に係るクラスプ設計方法の説明において、実施形態1に係るクラスプ設計方法と共通する構成については、説明を省略すると共に、符号も共通のものを用いる。
【0037】
<削除部分決定工程M6(実施形態2)>
実施形態2における削除部分決定工程M6においては、豊隆部26のうち、アンダーカットハイト記録工程M2において記録された第2の鉤尖12aの位置よりも支台歯2の他方側に突出する部分を削除する部分として決定する。
【0038】
図4は、実施形態2に係るクラスプ設計方法に基づく設計を示す断面図である。図4では、削除部分決定工程M6において削除する部分と決定された部分を破線で示している。図4において、豊隆部26のうち、アンダーカットハイト記録工程M2において記録されたアンダーカットハイトHuの位置よりも、支台歯2の他方側に突出する部分が削除する部分として示されている。
【0039】
図4(a)は、第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aが支台歯2と接触した状態を示している。図4(a)において、第1の鉤尖11aは、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置であり、支台歯2の最大豊隆部25よりもアンダーカット量Cだけ支台歯2が細くなった位置において支台歯2と接触している。図4(a)において、第2の鉤尖12aは、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置において支台歯2と接触している。このとき、支台歯2はクラスプ10、すなわち、第1の鉤腕11及び第2の鉤腕12により、クラスプ10の着脱方向Dと異なる方向における付勢を受けていない。これは、アンダーカットハイトHuの高さ位置における第2の鉤尖12aの位置よりも、支台歯2の他方側へ突出する豊隆部26を削除することにより、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置においても第2の鉤腕12が支台歯2を付勢しない状態とすることができることによるものである。
【0040】
図4(b)では、局部床義歯1が装着された状態を示している。図4(b)において、第1の鉤尖11aは、アンダーカットハイトHuの高さ位置であり、支台歯2の最大豊隆部25よりもアンダーカット量Cだけ支台歯2が細くなった位置において支台歯2と接触している。図4(b)において、第2の鉤尖12aは、アンダーカットハイトHuの高さ位置において、支台歯2と接触している。このとき、第1の鉤尖11a及び第2の鉤尖12aは支台歯2と接触しているが、支台歯2は、第1の鉤腕11及び第2の鉤腕12により、付勢されていない。
【0041】
[実施形態3]
実施形態3に係るクラスプ設計方法は、実施形態1に係るクラスプ設計方法の各工程に加えて、支台歯2の豊隆部26を削除して着脱方向Dに平行な平面を形成するための削除部分決定工程M7を更に含む。実施形態3に係るクラスプ設計方法においては、第2の鉤腕が削除部分決定工程M7によって形成される平面の延長方向と平行に形成されたプレート13として設計される(図5参照)。プレート13は、少なくとも、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置において、第1の鉤尖11aと共に支台歯2と接触可能に形成されている。以下、実施形態3に係るクラスプ設計方法の説明において、実施形態1に係るクラスプ設計方法と共通する構成については、説明を省略すると共に、符号も共通のものを用いる。
【0042】
<削除部分決定工程M7(実施形態3)>
実施形態3における削除部分決定工程M7においては、豊隆部26のうち、オーバーバルジカットハイト記録工程M4において記録された第2の鉤尖12aの位置よりも支台歯2の他方側に突出する部分を削除する部分として決定する。
【0043】
図5は、実施形態3に係るクラスプ設計方法に基づく設計を示す断面図である。図5では、削除部分決定工程M7において削除する部分と決定された部分を破線で示している。図5において、豊隆部26のうち、オーバーバルジカットハイト記録工程M4において記録されたオーバーバルジカットハイトHoの位置よりも、支台歯2の他方側に突出する部分が削除する部分として示されている。
【0044】
図5(a)は、第1の鉤尖11a及び第2の鉤腕としてのプレート13が支台歯2と接触した状態を示している。図5(a)において、第1の鉤尖11aは、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置であり、支台歯2の最大豊隆部25よりもアンダーカット量Cだけ支台歯2が細くなった位置において支台歯2と接触している。図5(a)において、プレート13は、削除部分決定工程M7によって形成される平面において、支台歯2と接触している。このとき、支台歯2はクラスプ10、すなわち、第1の鉤腕11及びプレート13により、クラスプ10の着脱方向Dと異なる方向における付勢を受けていない。
【0045】
図5(b)では、局部床義歯1が装着された状態を示している。図5(b)において、第1の鉤尖11aは、アンダーカットハイトHuの高さ位置であり、支台歯2の最大豊隆部25よりもアンダーカット量Cだけ支台歯2が細くなった位置において支台歯2と接触している。図5(b)において、プレート13は、削除部分決定工程M7によって形成される平面において、支台歯2と接触している。このとき、第1の鉤尖11a及びプレート13は支台歯2と接触しているが、支台歯2は、第1の鉤腕11及びプレート13により、付勢されていない。
【0046】
[実施形態4]
実施形態4に係るクラスプ設計方法は、実施形態1に係るクラスプ設計方法の各工程に加えて、支台歯2の豊隆部26を削除して着脱方向Dに平行な平面を形成するための削除部分決定工程M8を更に含む。実施形態4に係るクラスプ設計方法においては、第2の鉤腕が削除部分決定工程M8によって形成される平面の延長方向と平行に形成されたプレート14として設計される。プレート14は、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置及びアンダーカットハイトHuの高さ位置の両高さ位置において、第1の鉤尖11aと共に支台歯2と接触可能に形成されている。以下、実施形態4に係るクラスプ設計方法の説明において、実施形態1に係るクラスプ設計方法と共通する構成については、説明を省略すると共に、符号も共通のものを用いる。
【0047】
<削除部分決定工程M8(実施形態4)>
実施形態4における削除部分決定工程M8においては、豊隆部26のうち、アンダーカットハイト記録工程M2及びオーバーバルジカットハイト記録工程M4において記録された第2の鉤尖12aの位置よりも支台歯2の他方側に突出する部分に加えて、支台歯2の当該他方側から更に所定長さだけ一方側に及ぶ部分を、削除する部分として決定する。また、当該削除する部分の歯根23側には、着脱方向Dと略直交するレスト27を設けてもよい。
【0048】
図6は、実施形態4に係るクラスプ設計方法に基づく設計を示す断面図である。図6では、削除部分決定工程M8において削除する部分と決定された部分を破線で示している。図6において、豊隆部26のうち、アンダーカットハイト記録工程M2及びオーバーバルジカットハイト記録工程M4において記録された第2の鉤尖12aの位置よりも支台歯2の他方側に突出する部分に加えて、支台歯2の当該他方側から更に所定長さだけ一方側に及ぶ部分が削除する部分として示されている。
【0049】
図6(a)は、第1の鉤尖11a及び第2の鉤腕としてのプレート14が支台歯2と接触した状態を示している。図6(a)において、第1の鉤尖11aは、オーバーバルジカットハイトHoの高さ位置であり、支台歯2の最大豊隆部25よりもアンダーカット量Cだけ支台歯2が細くなった位置において支台歯2と接触している。図6(a)において、プレート14は、削除部分決定工程M8によって形成される平面において、支台歯2と接触している。このとき、支台歯2はクラスプ10、すなわち、第1の鉤腕11及びプレート14により、クラスプ10の着脱方向Dと異なる方向における付勢を受けていない。
【0050】
図6(b)では、局部床義歯1が装着された状態を示している。図6(b)において、第1の鉤尖11aは、アンダーカットハイトHuの高さ位置であり、支台歯2の最大豊隆部25よりもアンダーカット量Cだけ支台歯2が細くなった位置において支台歯2と接触している。図6(b)において、プレート14は、削除部分決定工程M8によって形成される平面において、支台歯2と接触している。このとき、第1の鉤尖11a及びプレート14は支台歯2と接触しているが、支台歯2は、第1の鉤腕11及びプレート14により、付勢されていない。
【0051】
[実施形態5]
実施形態5に係る局部床義歯作製方法は、実施形態1に係るクラスプ設計方法の各工程を含む。すなわち、実施形態5に係る局部床義歯作製方法は、実施形態1のアンダーカットハイト決定工程M1、アンダーカットハイト記録工程M2、オーバーバルジカットハイト決定工程M3、オーバーバルジカットハイト記録工程M4、鉤尖位置決定工程M5の各工程を含み、これら各工程を含むクラスプ設計方法に基づき局部床義歯1を作製する方法である。
【0052】
[実施形態6]
実施形態6に係るゲージは、実施形態1に係るクラスプ設計方法において用いられるゲージである。以下、実施形態6に係るゲージについて、図面を参照しながら説明する。実施形態6に係るゲージの説明において、実施形態1に係るクラスプ設計方法と共通する部分については、説明を省略すると共に、符号も共通のものを用いる。
【0053】
図7は、ゲージの例を示す模式図である。図7(a)において、ゲージ5の例を、図7(b)において、ゲージ6の例を示す。ゲージ5は、一方の端部である先端部52から後端部54まで延び、先端部52と後端部54との間に支台歯2と当接する部位である接触部53を有する棒状部51と、先端部52において棒状部51の伸長方向に直交する方向に突出するアンダーカットハイト突出部と、を有する。アンダーカットハイト突出部は、アンダーカット量Cだけ突出するアンダーカットハイト計測部55、及び、アンダーカットハイト計測部55と異なる方向であり、棒状部51の伸長方向に直交する方向にアンダーカットハイト計測部55よりも大きく突出するアンダーカットハイト記録部56を有する。図7中、棒状部51は、その伸長方向において一部省略して図示しており、実際には、図示されている形状よりも伸長方向に長い。当該省略部分は、図7中波線で示している。なお、当該省略部分の表示は、各ゲージの図示において同様である。
【0054】
ゲージ6は、一方の端部である先端部62から後端部64まで延び、先端部62と後端部64との間に支台歯2と当接する部位である接触部63を有する棒状部61と、棒状部61の接触部63と後端部64との間において棒状部61の伸長方向に直交する方向に突出するオーバーバルジカットハイト突出部と、を有する。オーバーバルジカットハイト突出部は、アンダーカット量Cだけ突出するオーバーバルジカットハイト計測部67、及び、オーバーバルジカットハイト計測部67と異なる方向であり、棒状部61の伸長方向に直交する方向にオーバーバルジカットハイト計測部67よりも大きく突出するオーバーバルジカットハイト記録部68を有する。
【0055】
アンダーカットハイト計測部55及びオーバーバルジカットハイト計測部67は、アンダーカット量Cだけ棒状部51、61から突出しており、支台歯2において、最大豊隆部25よりもアンダーカット量Cだけ細くなった位置を計測することができる。アンダーカットハイト記録部56及びオーバーバルジカットハイト記録部68は、アンダーカットハイト計測部55及びオーバーバルジカットハイト計測部67のそれぞれよりも大きく突出しているため、支台歯2の一方側の豊隆部よりも他方側の豊隆部の方が大きく突出していた場合であっても、アンダーカットハイトHu又はオーバーバルジカットハイトHoを記録することができる場合がある。ここで、アンダーカット量Cは、アンダーカットハイト計測部55及びオーバーバルジカットハイト計測部67において一定であれば特に制限されないが、例えば、0.25mm(0.010インチ)、0.50mm(0.020インチ)等とすることができる。
【0056】
オーバーバルジカットハイト計測部67及びオーバーバルジカットハイト記録部68の先端部62からの距離は、特に制限されないが、一般的な支台歯2の最大豊隆部25から歯冠21までの長さよりも長いことが好ましい。また、図7(c)に示すように、オーバーバルジカットハイト計測部77及びオーバーバルジカットハイト記録部78の先端部72からの距離がゲージ6よりも長いゲージ7のように、先端部からオーバーバルジカットハイト突出部までの距離が異なる複数のゲージを使い分けてもよい。また、先端部からオーバーバルジカットハイト突出部までの距離が可変であるゲージとしてもよい。
【0057】
実施形態6に係るゲージとしては、図7(d)に示すゲージ8ように、アンダーカットハイト突出部及びオーバーバルジカットハイト突出部の両方を有していてもよい。ゲージ8においては、アンダーカットハイト突出部及びオーバーバルジカットハイト突出部として、それぞれ棒状部81の伸長方向における中心軸に対して中心が偏心しただ円形の突出部が形成されている。ゲージ8においては、棒状部81から最も突出した部分がアンダーカットハイト記録部86又はオーバーバルジカットハイト記録部88であり、これら記録部の棒状部81を挟んだ反対側の部分が、アンダーカット量Cだけ突出した計測部(アンダーカットハイト計測部85及びオーバーバルジカットハイト計測部87)である。ゲージ8においては、アンダーカットハイト記録部86と、オーバーバルジカットハイト記録部88とが異なる方向に突出している。
【0058】
実施形態6に係るゲージとしては、図7(e)に示すゲージ9のように、アンダーカットハイト計測部、及び/又は、オーバーバルジカットハイト計測部が、アンダーカット量が異なり、それぞれが異なる方向に突出する複数の計測部を有するものであってもよい。ゲージ9においては、4つの異なる計測部(アンダーカットハイト計測部95及びオーバーバルジカットハイト計測部97)が形成されている。
【0059】
[実施形態7]
実施形態7に係るゲージは、実施形態6に係るゲージと同様、実施形態1に係るクラスプ設計方法において用いられるゲージである。以下、実施形態7に係るゲージについて、図面を参照しながら説明する。実施形態7に係るゲージの説明において、実施形態1に係るクラスプ設計方法や実施形態6に係るゲージと共通する部分については、説明を省略すると共に、符号も共通のものを用いる。
【0060】
図8は、実施形態7に係るゲージを示す模式図である。図8(a)、図8(b)は、実施形態7に係るゲージ15を、それぞれ正面から見た図、右側から見た図である。図8(c)、図8(d)は、実施形態7に係るゲージ16を、それぞれ正面から見た図、右側から見た図である。図8(a)に示すように、ゲージ15は、所定ピッチのねじ山を有する棒状のアンダーカットハイト計測部155を備えている。また、図8(c)に示すように、ゲージ16は、所定ピッチのねじ山を有する棒状のオーバーバルジカットハイト計測部167を備えている。図8(a)及び図8(c)において、アンダーカットハイト計測部155及びオーバーバルジカットハイト計測部167が、それぞれ棒状部151、161を貫通する様子を破線で示している。
【0061】
ゲージ15及びゲージ16においては、それぞれアンダーカットハイト計測部155及びオーバーバルジカットハイト計測部167が有する所定ピッチのねじ山に合わせて、棒状部151、161に所定ピッチの溝を有する貫通孔が形成されており、当該貫通孔にアンダーカットハイト計測部155及びオーバーバルジカットハイト計測部167がそれぞれ挿入されている。この構成により、アンダーカットハイト計測部155又はオーバーバルジカットハイト計測部167を回転させることで、アンダーカットハイト計測部155又はオーバーバルジカットハイト計測部167を、それぞれの伸長方向に移動させることができる。
【0062】
アンダーカットハイト計測部155及びオーバーバルジカットハイト計測部167は、それぞれに接続されたアンダーカット量調節器156、166を、図8(b)、図8(d)に示す矢印の方向(回転方向)に回転させることで、それぞれの伸長方向に移動させることができる。たとえば、ゲージ15のアンダーカット量調節器156を図8(b)における回転方向の時計回りに回転させた場合、アンダーカット量調節器156と少なくとも回転方向において固定されたアンダーカットハイト計測部155も時計回りに回転する。この回転により、アンダーカットハイト計測部155は、棒状部151に対して相対的に、アンダーカットハイト計測部155の伸長方向(図8(a)に示す矢印の方向)の左向きに移動する。すなわち、アンダーカット量調節器156の回転方向における回転量を調節することにより、アンダーカットハイト計測部155の伸長方向における移動量を調節することができる。この構成は、ゲージ16のオーバーバルジカットハイト計測部167についても同様である。
【0063】
ゲージ15及びゲージ16は、アンダーカットハイト記録部及びオーバーバルジカットハイト記録部を有さないが、その機能は、アンダーカットハイト計測部155及びオーバーバルジカットハイト計測部167が担うことができる。すなわち、アンダーカットハイト計測部155及びオーバーバルジカットハイト計測部167は、アンダーカット量Cを計測した後、当該高さ位置をアンダーカットハイト計測部155又はオーバーバルジカットハイト計測部167を用いて指示、記録することができる。なお、アンダーカットハイト計測部155又はオーバーバルジカットハイト計測部167の突出量が少なく、支台歯2に高さ位置を記録することができない場合は、アンダーカット量調節器156、166により、突出量を調節すれば良い。
【0064】
ゲージ15及びゲージ16においては、接触部153、163が、それぞれの棒状部151、161から突出した板状部として形成されている。ここで、接触部153、163は、アンダーカットハイト計測部155又はオーバーバルジカットハイト計測部167の伸長方向に沿って、棒状部151、161に対してアンダーカット量調節器156、166と反対側に突出している。すなわち、ゲージ15及びゲージ16を使用する場合、支台歯2と当接するのは、棒状部151、161から突出した接触部153、163である。
【0065】
アンダーカットハイト計測部155及びオーバーバルジカットハイト計測部167は、それぞれの伸長方向における移動量を調節することにより、接触部153、163に対してアンダーカットハイト計測部155、オーバーバルジカットハイト計測部167の先端がどの程度突出するかを調節することができる。すなわち、アンダーカットハイト計測部155が接触部153に対して、アンダーカットハイト計測部155の伸長方向に突出した量によりアンダーカット量Cを計測することができる。また、オーバーバルジカットハイト計測部167が接触部163に対して、オーバーバルジカットハイト計測部167の伸長方向に突出した量によりアンダーカット量Cを計測することができる。
【0066】
アンダーカット量調節器156、166は、それぞれアンダーカットハイト計測部155、オーバーバルジカットハイト計測部167に対して、少なくとも回転方向に固定的に接続されていれば良く、その形状は特に制限されない。たとえば、図8に示すように、アンダーカット量調節器156、166は、円板形状とすることができる。また、図8(b)、図8(d)に示すように、アンダーカット量調節器156、166の円板面に目盛りを付し、アンダーカットハイト計測部155、オーバーバルジカットハイト計測部167の突出量を把握しやすくすることができる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。例えば、本発明は以下の趣旨を含むものとする。
【0068】
(趣旨1)クラスプ設計方法は、支台歯の一方側を走行し、第1の鉤尖を有する第1の鉤腕と、前記支台歯の他方側を走行し、第2の鉤尖を有する第2の鉤腕と、を備えるクラスプを設計するクラスプ設計方法であって、前記クラスプの着脱方向における前記第1の鉤尖の第1の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯根側であり、かつ、所定のアンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するアンダーカットハイト決定工程と、前記クラスプの着脱方向における前記第2の鉤尖の第1の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第1の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するアンダーカットハイト記録工程と、前記クラスプの前記着脱方向における前記第1の鉤尖の第2の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯冠側であり、かつ、前記アンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するオーバーバルジカットハイト決定工程と、前記クラスプの着脱方向における前記第2の鉤尖の第2の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するオーバーバルジカットハイト記録工程と、前記クラスプが前記支台歯から脱着された状態から前記支台歯に装着される際に、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置、及び前記第2の鉤尖の第2の高さ位置が、略同じ高さ位置となるように、前記第1の鉤尖の位置及び前記第2の鉤尖の位置を決定する鉤尖位置決定工程と、を含むことを趣旨とする。
【0069】
これによれば、局部床義歯の着脱の際、支台歯への着脱方向とは異なる方向への応力の発生が低減されたクラスプの設計方法、当該クラスプ設計方法に基づく局部床義歯作製方法、及び当該クラスプ設計方法に用いられるゲージを提供することができる。
【0070】
(趣旨2)クラスプ設計方法は、前記支台歯の豊隆部を削除して前記着脱方向に平行な平面を形成するために、前記豊隆部のうち、前記アンダーカットハイト記録工程、又は前記オーバーバルジカットハイト記録工程において記録された前記第2の鉤尖の位置よりも前記支台歯の前記他方側に突出する部分を、削除する部分として決定する削除部分決定工程を更に含むものであってもよい。
【0071】
(趣旨3)局部床義歯作製方法は、支台歯の一方側を走行し、第1の鉤尖を有する第1の鉤腕と、前記支台歯の他方側を走行し、第2の鉤尖を有する第2の鉤腕と、を備えるクラスプを設計することを含む局部床義歯作製方法であって、
前記クラスプの着脱方向における前記第1の鉤尖の第1の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯根側であり、かつ、所定のアンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するアンダーカットハイト決定工程と、
前記クラスプの着脱方向における前記第2の鉤尖の第1の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第1の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するアンダーカットハイト記録工程と、
前記クラスプの前記着脱方向における前記第1の鉤尖の第2の高さ位置を、前記支台歯の前記一方側における最大豊隆部よりも歯冠側であり、かつ、前記アンダーカット量だけ前記着脱方向と直交する方向における前記支台歯の幅が細くなった位置の高さ位置として決定するオーバーバルジカットハイト決定工程と、
前記クラスプの着脱方向における前記第2の鉤尖の第2の高さ位置として、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置と同じ高さ位置を、前記支台歯の前記他方側に記録するオーバーバルジカットハイト記録工程と、
前記クラスプが前記支台歯から脱着された状態から前記支台歯に装着される際に、前記第1の鉤尖の第2の高さ位置、及び前記第2の鉤尖の第2の高さ位置が、略同じ高さ位置となるように、前記第1の鉤尖の位置及び前記第2の鉤尖の位置を決定する鉤尖位置決定工程と、を含むことを趣旨とする。
【0072】
(趣旨4)ゲージは、クラスプ設計方法において用いられ、一方の端部である先端部から後端部まで延び、前記先端部と前記後端部との間に前記支台歯と当接する部位である接触部を有する棒状部と、前記先端部において前記棒状部の伸長方向に直交する方向に突出するアンダーカットハイト突出部、及び、前記棒状部の前記接触部と前記後端部の間において前記棒状部の伸長方向に直交する方向に突出するオーバーバルジカットハイト突出部のうち、少なくとも一方の突出部と、を有することを趣旨とする。
【0073】
(趣旨5)ゲージは、前記アンダーカットハイト突出部は、前記アンダーカット量だけ突出するアンダーカットハイト計測部、及び、前記アンダーカットハイト計測部と異なる方向であり、前記棒状部の伸長方向に直交する方向に前記アンダーカットハイト計測部よりも大きく突出するアンダーカットハイト記録部を有し、前記オーバーバルジカットハイト突出部は、前記アンダーカット量だけ突出するオーバーバルジカットハイト計測部、及び、前記オーバーバルジカットハイト計測部と異なる方向であり、前記棒状部の伸長方向に直交する方向に前記オーバーバルジカットハイト計測部よりも大きく突出するオーバーバルジカットハイト記録部を有するものであってもよい。
【0074】
(趣旨6)ゲージは、前記アンダーカットハイト計測部、及び/又は、前記オーバーバルジカットハイト計測部が、前記アンダーカット量が異なり、それぞれが異なる方向に突出する複数の計測部を有するものであってもよい。
【0075】
(趣旨7)ゲージは、前記ゲージが前記アンダーカットハイト突出部と前記オーバーバルジカットハイト突出部の両方を有する場合に、
前記アンダーカットハイト記録部と、前記オーバーバルジカットハイト記録部と、が異なる方向に突出するものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1:局部床義歯 10:クラスプ
11:第1の鉤腕 11a:第1の鉤尖
12:第2の鉤腕 12a:第2の鉤尖
13,14:プレート
2:支台歯 21:歯冠 23:歯根
25:最大豊隆部 26:豊隆部 27:レスト
5,6,7,8,9,15,16:ゲージ
51,61,71,81,91,151,161:棒状部
52,62,72,82,92,152,162:先端部
53,63,73,83,93,153,163:接触部
54,64,74,84,94,154,164:後端部
55,85,95,155:アンダーカットハイト計測部
56,86,96:アンダーカットハイト記録部
67,77,87,97,167:オーバーバルジカットハイト計測部
68,78,88,98:オーバーバルジカットハイト記録部
156,166:アンダーカット量調節器
C:アンダーカット量 D:着脱方向
Hu:アンダーカットハイト Ho:オーバーバルジカットハイト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8