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特開2022-61619燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061619
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20220412BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
F02D45/00 369
F02D41/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169664
(22)【出願日】2020-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敬之
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301JB09
3G301KA28
3G301NB05
3G301PB08Z
3G384BA16
3G384CA23
3G384DA42
3G384EC08
3G384ED04
3G384FA15B
(57)【要約】
【課題】燃料噴射制御装置において、レール圧センサの診断の頻度を上げる。
【解決手段】燃料噴射弁と、コモンレールと、高圧ポンプと、コモンレール内の燃料の圧力を測定するレール圧センサと、電子制御ユニットと、を備えた燃料噴射制御装置において、電子制御ユニットは、レール圧センサの出力値を取得するレール圧取得部と、内燃機関の停止後における単位時間当たりのレール圧低下量の推定値を、予め取得されたデータに基づき繰り返し算出するレール圧低下量算出部と、繰り返し算出される単位時間当たりのレール圧低下量の推定値の積算値を算出する積算部と、積算値が、内燃機関の停止時のレール圧以上となるまでの時間であるレール圧低下時間を推定するレール圧低下時間推定部と、内燃機関の始動時に、前回停止時からの経過時間がレール圧低下時間以上である場合、レール圧センサの診断を実行する診断部と、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、
加圧した燃料を前記コモンレールに圧送する高圧ポンプと、
前記コモンレール内の燃料の圧力であるレール圧を測定するレール圧センサと、
電子制御ユニットと、
を備えた燃料噴射制御装置において、
前記電子制御ユニットは、
前記レール圧センサの出力値を取得するレール圧取得部と、
前記内燃機関の停止後における単位時間当たりのレール圧低下量の推定値を、予め取得されたデータに基づき繰り返し算出するレール圧低下量算出部と、
繰り返し算出される前記単位時間当たりのレール圧低下量の推定値の積算値を算出する積算部と、
前記積算値が、前記内燃機関の停止時のレール圧以上となるまでの時間であるレール圧低下時間を推定するレール圧低下時間推定部と、
前記内燃機関の始動時に、前回停止時からの経過時間が前記レール圧低下時間以上である場合、前記レール圧センサの診断を実行する診断部と、
を含む、燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記電子制御ユニットは、
前記高圧ポンプによって加圧された高圧燃料が満たされる領域である高圧領域の容積を記憶する記憶部と、
前記内燃機関の停止後における、前記高圧燃料の単位時間当たりの減少量であるリーク量を算出するリーク量算出部と、
燃料の体積弾性係数を算出する体積弾性係数算出部と、
を含み、
前記レール圧低下量算出部は、前記高圧領域の容積と、前記リーク量と、前記体積弾性係数と、に基づき、前記単位時間当たりのレール圧低下量の推定値を算出する、
請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記電子制御ユニットは、
燃料温度を取得する燃料温度取得部と、
前記内燃機関の停止直後に前記レール圧センサにより測定された実測レール圧から前記積算値を減算することによりレール圧推定値を算出するレール圧推定部と、
を含み、
前記レール圧低下量算出部が前記単位時間当たりのレール圧低下量の推定値を繰り返し算出する際に、前記リーク量算出部は、レール圧と前記燃料温度とに基づき前記リーク量を算出するものであり、
該レール圧は、1回目のリーク量の算出においては前記実測レール圧であり、2回目以降のリーク量の算出においては、直近に算出された前記レール圧推定値である、
請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記レール圧低下量算出部が前記単位時間当たりのレール圧低下量の推定値を繰り返し算出する際に、前記体積弾性係数算出部は、レール圧と前記燃料温度とに基づき前記体積弾性係数を算出するものであり、
該レール圧は、1回目の体積弾性係数の算出においては前記実測レール圧であり、2回目以降の体積弾性係数の算出においては、直近に算出された前記レール圧推定値である、
請求項3に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、
加圧した燃料を前記コモンレールに圧送する高圧ポンプと、
前記コモンレール内の燃料の圧力であるレール圧を測定するレール圧センサと、
電子制御ユニットと、
を備えた燃料噴射制御装置の制御方法であって、
レール圧取得部が、前記レール圧センサの出力値を取得するレール圧取得ステップと、
レール圧低下量算出部が、前記内燃機関の停止後における単位時間当たりのレール圧低下量の推定値を、予め取得されたデータに基づき繰り返し算出するレール圧低下量算出ステップと、
積算部が、繰り返し算出される前記単位時間当たりのレール圧低下量の推定値の積算値を算出する積算値算出ステップと、
レール圧低下時間推定部が、前記積算値が前記内燃機関の停止時のレール圧以上となるまでの時間であるレール圧低下時間を推定するレール圧低下時間推定ステップと、
診断部が、前記内燃機関の始動時に、前回停止時からの経過時間が前記レール圧低下時間以上である場合、前記レール圧センサの診断を実行する診断ステップと、
を含む、燃料噴射制御装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の気筒内に燃料噴射を行うための燃料噴射制御装置及び燃料噴射制御装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関に燃料を供給する装置として、蓄圧式燃料噴射制御装置が知られている。蓄圧式燃料噴射制御装置は、低圧ポンプ、高圧ポンプ、コモンレール、燃料噴射弁、電子制御ユニット(ECU)等を主たる要素として備えている。蓄圧式燃料噴射制御装置においては、燃料タンク内の燃料が低圧ポンプによって高圧ポンプに送られるとともに高圧ポンプによって加圧されてコモンレールに圧送され、コモンレールから燃料噴射弁に高圧燃料が供給される。そして、この状態で燃料噴射弁への通電制御を行うことにより、内燃機関に燃料が供給される。
【0003】
蓄圧式燃料噴射制御装置は、コモンレール内の燃料の圧力(レール圧)を測定するためのレール圧センサを備える。蓄圧式燃料噴射制御装置においては、実レール圧が目標レール圧となる様、フィードバック制御が行われている。本フィードバック制御により、燃料噴射弁から内燃機関の燃焼室へ噴射される燃料の圧力を高精度に制御することが可能となる。従って、レール圧のフィードバック制御を実行するにあたり、レール圧センサが不可欠である。
【0004】
蓄圧式燃料噴射制御装置においては、レール圧センサの特性ずれの有無を診断することが行われている。具体的には、内燃機関が停止した後、所定時間経過後にレール圧を測定し、当該測定値と大気圧とを比較することにより、出力特性のずれの有無を診断する技術が公知である(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-222045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明は、レール圧センサの出力値が実際の圧力よりも上側、あるいは、下側へずれる、いわゆるオフセットずれに対する診断(以下、オフセット診断と称する)として有効である。しかしながら、蓄圧式燃料噴射制御装置においては、内燃機関の停止後、高圧ポンプや燃料噴射弁の摺動部において、高圧燃料が低圧側へ移動することにより、レール圧が徐々に低下してゆく。従って、内燃機関の停止後、レール圧が大気圧まで低下するまでの間はレール圧センサのオフセット診断ができない。
【0007】
レール圧センサのオフセット診断にあたっては、製品あるいは環境条件のばらつきを考慮し、内燃機関の停止後、レール圧が大気圧となるまで最も時間がかかるケースを想定し、さらに所定の余裕分を加えた時間を、レール圧センサのオフセット診断を禁止する期間とする必要がある。そのため、実際には既にレール圧が大気圧となっているにも関わらず、オフセット診断が実行できないケースが生じていた。その結果、内燃機関の停止後、当該診断禁止期間中に内燃機関の再始動が行われると、実際にはオフセット診断が実行できる条件であったにも関わらず、オフセット診断が実行されないこととなり、オフセット診断の機会を逸してしまうことがあった。
【0008】
また、蓄圧式燃料噴射制御装置の中には、コモンレールに電磁弁(以下、圧力制御弁とも称する)を備え、当該電磁弁を開弁し、コモンレール内の高圧燃料を低圧側へ排出することにより、レール圧制御の高い応答性を実現したタイプがある。この様なタイプにおいては、内燃機関の停止後、圧力制御弁を開弁することにより、レール圧を迅速に大気圧まで低下させることが可能であるため、上述したような診断頻度の低下を防ぐことができる。しかしながら、圧力制御弁を備えることはコスト上昇となるため、圧力制御弁を備える蓄圧式燃料噴射制御装置は、一部の車種やグレードに限られる。
【0009】
本発明は、この様な状況に鑑みなされたものであり、圧力制御弁を備えない蓄圧式燃料噴射制御装置において、レール圧センサのオフセット診断の頻度を上げることを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、
内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、
加圧した燃料を前記コモンレールに圧送する高圧ポンプと、
前記コモンレール内の燃料の圧力であるレール圧を測定するレール圧センサと、
電子制御ユニットと、
を備えた燃料噴射制御装置において、
前記電子制御ユニットは、
前記レール圧センサの出力値を取得するレール圧取得部と、
前記内燃機関の停止後における単位時間当たりのレール圧低下量の推定値を、予め取得されたデータに基づき繰り返し算出するレール圧低下量算出部と、
繰り返し算出される前記単位時間当たりのレール圧低下量の推定値の積算値を算出する積算部と、
前記積算値が、前記内燃機関の停止時のレール圧以上となるまでの時間であるレール圧低下時間を推定するレール圧低下時間推定部と、
前記内燃機関の始動時に、前回停止時からの経過時間が前記レール圧低下時間以上である場合、前記レール圧センサの診断を実行する診断部と、
を含む、燃料噴射制御装置が提供される。
【0011】
また、上記課題を解決するために、
内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、
加圧した燃料を前記コモンレールに圧送する高圧ポンプと、
前記コモンレール内の燃料の圧力であるレール圧を測定するレール圧センサと、
電子制御ユニットと、
を備えた燃料噴射制御装置の制御方法であって、
レール圧取得部が、前記レール圧センサの出力値を取得するレール圧取得ステップと、
レール圧低下量算出部が、前記内燃機関の停止後における単位時間当たりのレール圧低下量の推定値を、予め取得されたデータに基づき繰り返し算出するレール圧低下量算出ステップと、
積算部が、繰り返し算出される前記単位時間当たりのレール圧低下量の推定値の積算値を算出する積算値算出ステップと、
レール圧低下時間推定部が、前記積算値が前記内燃機関の停止時のレール圧以上となるまでの時間であるレール圧低下時間を推定するレール圧低下時間推定ステップと、
診断部が、前記内燃機関の始動時に、前回停止時からの経過時間が前記レール圧低下時間以上である場合、前記レール圧センサの診断を実行する診断ステップと、
を含む、燃料噴射制御装置の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧力制御弁を備えない蓄圧式燃料噴射制御装置において、新たな装置を追加することなく、レール圧センサのオフセット診断の頻度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る、燃料噴射制御装置の構成例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る、燃料噴射制御装置を構成する電子制御ユニットのうち、本発明の実施に係る部分の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施の形態に係る、内燃機関の停止後における、レール圧と、高圧燃料の漏れ量と、燃料温度と、の関係を説明するための線図である。
図4】本発明の実施の形態に係る、内燃機関の停止後における、レール圧と、燃料の体積弾性係数と、燃料温度と、の関係を説明するための線図である。
図5】本発明の実施の形態に係る、内燃機関の停止後において、電子制御ユニットが実行する処理を示すサブルーチンフローチャートである。
図6】本発明の実施の形態に係る、内燃機関の始動時において、電子制御ユニットが実行するレール圧センサの診断処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しつつ説明する。尚、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。また、それぞれの図中、同じ符号が付されているものは同一の要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0015】
図1は、本実施形態に係る蓄圧式燃料噴射制御装置10の全体構成を示している。蓄圧式燃料噴射制御装置10は、車両に搭載された図示されない内燃機関の気筒内に燃料を噴射するための装置であって、燃料タンク1と、低圧ポンプ11と、燃料フィルタ12と、高圧ポンプ13と、流量制御弁19と、コモンレール15と、安全弁23と、レール圧センサ25と、燃料噴射弁17と、電子制御ユニット50(ECU)等を主たる要素として備えている。
【0016】
低圧ポンプ11と高圧ポンプ13とは低圧燃料通路31で接続され、高圧ポンプ13とコモンレール15、及びコモンレール15と燃料噴射弁17はそれぞれ高圧燃料通路33、35で接続されている。また、高圧ポンプ13、燃料噴射弁17には、燃料噴射弁17から噴射されない余剰燃料を燃料タンク1へ戻すためのリターン通路37、39がそれぞれ接続されている。さらに、コモンレール15には、安全弁23が備えられ、安全弁23が開弁した時に、コモンレール15内の燃料を燃料タンク1内へ戻すためのリターン通路38が接続されている。
【0017】
低圧ポンプ11は、燃料タンク1内の燃料を吸い上げて圧送し、低圧燃料通路31を介して高圧ポンプ13に燃料を供給する。この低圧ポンプ11は燃料タンク1内に備えられたインタンク式の電動ポンプであって、バッテリから供給される電流によって作動する。ただし、低圧ポンプ11は、燃料タンク1の外部に設けられるものであってもよく、また、高圧ポンプ13と一体に設けられるものであってもよい。
【0018】
高圧ポンプ13における、低圧燃料の入り口部分には、高圧ポンプの吐出量を調節するための流量制御弁19が備えられている。流量制御弁19には、例えば供給電流値によって弁部材のストローク量が可変とされ、燃料通過路の面積が調節可能な電磁比例式の制御弁が用いられる。
【0019】
高圧ポンプ13は、低圧ポンプ11によって、流量制御弁19を介して導入される燃料を加圧し、高圧燃料通路33を介してコモンレール15に圧送する。
【0020】
コモンレール15は、高圧ポンプ13によって加圧された高圧状態の燃料を蓄積し、高圧燃料通路35を介して接続された各燃料噴射弁17に燃料を供給する。このコモンレール15には、レール圧センサ25、安全弁23が取り付けられている。
【0021】
レール圧センサ25は、コモンレール15内の圧力(レール圧)を検出する。レール圧センサ25のセンサ信号は電子制御ユニット50へ送られる。
【0022】
安全弁23は、弁体がスプリングによりシート部に押圧されることで、通常は閉弁している。安全弁23は、何等かの異常により、コモンレール15内の圧力が開弁圧を上回った時に開弁し、燃料を排出することで、コモンレール15内の燃料圧力を下げる。
【0023】
燃料噴射弁17は、噴射孔が設けられたノズルボディと、進退移動により噴射孔を開閉するノズルニードルとを備えている。燃料噴射弁17は、ノズルニードルの後端側に背圧を負荷することで噴射孔が閉じられる一方、負荷された背圧が逃されることで噴射孔が開かれる。燃料噴射弁17の背圧制御手段としては、ピエゾ素子が備えられた電歪型のアクチュエータや、電磁ソレノイド式のアクチュエータが用いられる。
【0024】
電子制御ユニット50は、公知の構成のマイクロコンピュータを中心に、RAMやROM等の記憶素子を有し、燃料噴射弁17を駆動するための駆動回路や、流量制御弁19への通電を行うための通電回路を備える。また、電子制御ユニット50には、レール圧センサ25の検出信号が入力される他、内燃機関の回転数やアクセル開度、冷却水温などの各種の検出信号が、内燃機関の動作制御や燃料噴射制御に供するために入力されるようになっている。また、電子制御ユニット50は、図2に示す、本発明の実施に係る各種制御部を備える。
【0025】
図2は、本発明に係る蓄圧式燃料噴射制御装置10を構成する電子制御ユニット50のうち、本発明の実施に係る部分の構成を示すブロック図である。電子制御ユニット50は、タイマ部501と、レール圧取得部502と、燃料温度取得部503と、記憶部504と、リーク量算出部505と、体積弾性係数算出部506と、レール圧低下量算出部507と、積算部508と、レール圧推定部509と、レール圧低下時間推定部510と、診断部511と、を備える。
【0026】
タイマ部501は、内燃機関が停止した後の経過時間を計測する。タイマ部501により計測された時間は、本実施形態におけるレール圧センサのオフセット診断の実行可否判断に使用される(詳細は後述)。
【0027】
レール圧取得部502は、レール圧センサ25が検出したレール圧を取得する。
【0028】
燃料温度取得部503は、コモンレール内の燃料温度を取得する。燃料温度センサがコモンレール15に装着されている場合、燃料温度取得部503は、当該燃料温度センサの出力値を取得する。燃料温度センサがコモンレール15以外の箇所に装着されている場合、当該箇所の燃料温度と、コモンレール15内の燃料温度との相関を予め把握しておくことにより、燃料温度取得部503は、燃料温度センサの出力値からコモンレール15内の燃料温度を推定する。また、蓄圧式燃料噴射制御装置10が燃料温度センサを備えていない場合、内燃機関の冷却水温と、コモンレール15内の燃料温度との相関を予め把握しておくことにより、燃料温度取得部503は、当該冷却水温からコモンレール15内の燃料温度を推定する。内燃機関の冷却水温は、電子制御ユニット50が実行する様々な制御に利用されているため、燃料温度取得部503は、電子制御ユニット50が把握している冷却水温を流用することができる。
【0029】
記憶部504は、蓄圧式燃料噴射制御装置10における、高圧ポンプ13により加圧された高圧燃料の体積を記憶する。高圧燃料の体積とは、具体的には、コモンレール15の内部と、高圧ポンプ13における、燃料を圧送するプランジャよりも下流側と、燃料噴射弁17における高圧部分と、高圧ポンプ13とコモンレール15とを接続する高圧燃料通路33と、コモンレール15と燃料噴射弁17とを接続する高圧燃料通路35と、の容積の和として計算される。当該容積は、蓄圧式燃料噴射制御装置10の開発段階において、各部品の寸法等から予め算出され、記憶部504に保存される。
【0030】
リーク量算出部505は、内燃機関の停止後における、蓄圧式燃料噴射制御装置10からの単位時間当たりの高圧燃料の漏れ量(減少量)であるリーク量を算出する。リーク量算出部505は、図3の関係を用いて、燃料温度とレール圧とから漏れ量を算出する。図3は、レール圧(MPa)と、漏れ量(mm3/s)と、燃料温度(deg)と、の関係を模式的に示す図である。図3において、T1、T2、T3は燃料温度を示し、T1が1番高く、T2、T3の順で徐々に低下する。同一のレール圧において、燃料温度が高い程漏れ量が多くなる理由は、燃料温度が高くなると、燃料の粘性が低下するため、高圧ポンプ13や燃料噴射弁17の摺動部を燃料が通過しやすくなるためである。図3の線図は、蓄圧式燃料噴射制御装置10の開発段階において予め取得され、電子制御ユニット50の適宜の領域に保存されている。リーク量算出部505は、T1、T2、T3以外の燃料温度に対しては、補間計算により漏れ量を算出する。また、図3においては、燃料温度がT1、T2、T3の3段階とされているが、予め取得される燃料温度の数はこれに限られるものではない。
【0031】
体積弾性係数算出部506は、内燃機関の停止後における高圧燃料の体積弾性係数を、燃料温度とレール圧とから算出する。図4は、レール圧(MPa)と、高圧燃料の体積弾性係数(Pa)と、燃料温度(deg)との関係を模式的に示す図である。当該データは、電子制御ユニット50の適宜の領域に予め保存されている。
【0032】
レール圧低下量算出部507は、内燃機関の停止後における、単位時間当たりのレール圧低下量の推定値ΔPを、フックの法則により算出する。具体的には、レール圧低下量算出部507は、記憶部504が記憶している高圧燃料の体積と、リーク量算出部505が算出する単位時間当たりの高圧燃料の漏れ量(減少量)であるリーク量と、体積弾性係数算出部506が算出する高圧燃料の体積弾性係数とから、単位時間当たりのレール圧低下量の推定値を算出する。ここで、高圧燃料の体積をV、単位時間当たりの高圧燃料の漏れ量をΔV、高圧燃料の体積弾性係数をE、とすると、単位時間当たりのレール圧低下量の推定値ΔPは、Eに対し、ΔVをVで除した値を乗算することにより得られる。すなわち、レール圧低下量算出部507は、内燃機関の停止後における、単位時間当たりのレール圧低下量の推定値ΔPを、ΔP=E×(ΔV/V)の式により算出する。レール圧低下量算出部507は、内燃機関の停止後、ΔPを繰り返し算出する。尚、以下の説明において、n回目に算出されるΔPを、ΔPnとする。
【0033】
積算部508は、レール圧低下量算出部507が繰り返し算出する単位時間当たりのレール圧低下量の推定値ΔPに対し積分処理を行うことにより、積算値Pnを算出する。尚、以下の説明において、n回目に算出された積算値をPnとする。
【0034】
尚、レール圧低下量算出部507がΔPを繰り返し算出する際のレール圧としては、(換言すれば、リーク量算出部505及び体積弾性係数算出部506が処理を実行する際のレール圧としては、)以下の値が用いられる。すなわち、1回目の算出においては、内燃機関の停止直後におけるレール圧センサ25の検出値であるP0が用いられる。また、2回目以降の算出においては、後述するレール圧推定部509において算出されるレール圧推定値が用いられる。
【0035】
レール圧推定部509は、内燃機関の停止直後にレール圧取得部502において取得されたレール圧P0から、積算部508において算出された積算値Pnを減算することにより、レール圧の推定値を算出する。
【0036】
レール圧低下時間推定部510は、積算値Pnと内燃機関の停止直後のレール圧P0とを比較する。PnがP0よりも小さい場合、上述した、単位時間当たりのレール圧低下量の推定値ΔPn及び積算値Pnの算出を繰り返す。一方、PnがP0以上となった場合、レール圧低下時間推定部510は、内燃機関の停止から、レール圧が大気圧まで低下するまでの時間の推定値である、レール圧低下時間tnを算出する処理を行う。具体的には、レール圧低下時間推定部510は、レール圧低下量算出部507がΔPを算出する時に使用した単位時間に、繰り返し回数のカウント値nを乗算することにより、レール圧低下時間tnを算出する。当該単位時間は、特に限定されるものではないが、例えば単位時間が1秒であった場合、レール圧低下時間tnは、単位時間1秒とカウント値nとの積から、「n秒」と算出される。また、レール圧低下時間推定部510は、当該レール圧低下時間tnを、後述する診断部511へ通知する。尚、電子制御ユニット50の処理能力にもよるが、レール圧低下時間tnは、内燃機関の停止後、短時間(例えば1秒、あるいはそれ未満)で算出される。
【0037】
診断部511は、内燃機関の始動時に、前回の内燃機関停止時から今回始動時までの時間t0を、タイマ部501から受信する。そして診断部511は、前回の内燃機関停止後にレール圧低下時間推定部510から通知を受けたレール圧低下時間tnとt0とを比較する。診断部511は、t0がtn以上であった時に、レール圧が大気圧まで低下したと判断し、レール圧センサのオフセット診断を行う。具体的には、診断部511は、レール圧センサの出力値が大気圧を中心とする所定の範囲内にあるか否かの診断を行う。
【0038】
図5は、本実施形態における、内燃機関停止後に電子制御ユニット50が実行する処理を示すサブルーチンフローチャートである。電子制御ユニット50は、図5に示される処理により、内燃機関停止後、レール圧が大気圧まで低下するまでの時間を推定する。以下、同図を参照しつつ、電子制御ユニット50の処理について説明する。
【0039】
電子制御ユニット50による処理が開始されると、ステップS102において、内燃機関が停止されたか否かが判定される。具体的には、電子制御ユニット50は、ドライバーがイグニッションキーをオフとしたか否かを判定する。ステップS102においてNOと判定された場合、レール圧センサ25の診断を実行する状況にはないと判定され、図示されないメインルーチンへ一旦戻る。一方、ステップS102においてYESと判定された場合、ステップS104の処理へ進む。
【0040】
ステップS104においては、タイマ部501がタイマをスタートさせることにより、内燃機関停止後の時間を計測する。
【0041】
次いで、ステップS106において、レール圧取得部502が、レール圧センサ25により検出されたレール圧P0を取得する。
【0042】
次いで、ステップS108において、燃料温度取得部503が、先に説明した手法により、コモンレール内の燃料温度を取得する。
【0043】
次いで、ステップS110において、リーク量算出部505が、先に説明した手法により、単位時間当たりの高圧燃料の漏れ量を算出する。尚、本フローチャートの開始後、最初にステップS110に到達した場合は、本ステップにおいて使用されるレール圧はステップS104において検出されたレール圧P0である。
【0044】
次いで、ステップS112において、体積弾性係数算出部506が、先に説明した手法により、高圧燃料の体積弾性係数を算出する。尚、本フローチャートの開始後、最初にステップS112に到達した場合は、本ステップにおいて使用されるレール圧はステップS104において検出されたレール圧P0である。
【0045】
次いで、ステップS114において、レール圧低下量算出部507が、先に説明した手法により、単位時間当たりのレール圧の低下量の推定値ΔPnを算出する。尚、本フローチャートの開始後、最初にステップS114に到達した場合は、本ステップにおいて算出される値はΔP1となる。
【0046】
次いで、ステップS116において、積算部508が、内燃機関の停止後、レール圧低下量算出部507が算出した単位時間当たりのレール圧低下量の推定値ΔPの積算値Pnを算出する。尚、本フローチャートの開始後、最初にステップS116に到達した場合は、本ステップにおいて算出される値はP1であり、当該P1は、ステップS114において算出されたΔP1とされる。
【0047】
次いで、ステップS118において、レール圧低下時間推定部510が、ステップS116において算出された積算値Pnが、ステップS106において取得された、内燃機関の停止直後のレール圧P0以上となるか否かを判定する。ステップS118においてNOと判定された場合、ステップ120の処理へ進む。
【0048】
ステップS120においては、レール圧推定部509が、ステップS106において取得された、内燃機関の停止直後のレール圧P0から、ステップS116において算出された積算値Pnを減算する処理を行い、カウント値nを1だけカウントアップする。ステップS120における、P0からPnを減算する処理は、ステップS120時点におけるレール圧推定値を算出する処理である。
【0049】
その後、ステップS118においてYESと判定されるまで、ステップS110からステップS120の処理を繰り返す。尚、2回目以降のステップS110及びステップS112の処理においては、直近のステップS120において算出された、レール圧の推定値が用いられる。ステップS118においてYESと判定された場合、ステップS122の処理へ進む。
【0050】
ステップS122においては、レール圧低下時間推定部510が、ステップS118においてYESと判定された時のレール圧低下時間tnを診断部511へ通知する。レール圧低下時間tnを推定する手法については、先に述べた通りである。診断部511は、レール圧低下時間推定部510からレール圧低下時間tnの通知を受けた場合、当該レール圧低下時間tnを所定の領域に保存する。
【0051】
尚、本実施形態において、電子制御ユニット50が実行する、内燃機関停止後の一連の処理はステップS122をもって終了となるが、タイマ部501による時間の計測は、この後も継続され、その計測値は、後述する内燃機関の始動時の処理に使用される。
【0052】
図6は、本実施形態における、内燃機関始動時に電子制御ユニット50が実行する、レール圧センサ25の診断処理を示すサブルーチンフローチャートである。以下、同図を参照しつつ、レール圧センサ25の診断処理について説明する。
【0053】
まず、ステップS202において、電子制御ユニット50は、ドライバーがイグニッションキーをオンとしたことを認識する。
【0054】
次いで、ステップS204において、診断部511が、t0がtn以上となっているか否かを判定する。ここで、t0とは、前回の内燃機関停止時から、ステップS202におけるキーオンまでの時間であり、タイマ部501により計測される。また、tnは、内燃機関の前回停止後にステップS122において診断部511が受信したレール圧低下時間である。ステップS204において、YESと判定された場合、ステップS206の処理へ進む。尚、ばらつき等を考慮し、ステップS204におけるレール圧低下時間tnを、tnよりも所定量大きな値であるtn+αとしてもよい。
【0055】
ステップS206においては、診断部511がレール圧センサ25のオフセット診断を実行する。具体的には、診断部511は、レール圧センサの出力値が大気圧を中心とする所定の範囲内にあるか否かの診断を行う。また、診断部511は、レール圧センサ25の診断後、tn及びt0をリセット(消去)する。
【0056】
ステップS206におけるレール圧センサ25のオフセット診断後、ステップS208へ進み、電子制御ユニット50は内燃機関を始動させる。
【0057】
一方、ステップS204において、NOと判定された場合、レール圧センサ25のオフセット診断を実行する状況にはないとして、オフセット診断を実行することなく、ステップS208の処理へ進み、内燃機関が始動される。
【0058】
尚、ステップS206の処理において、レール圧センサ25の異常が検出された場合、予め定められた、レール圧センサ異常時に対応した処理が電子制御ユニット50により実行される。
【0059】
以上、説明したように、本発明によれば、内燃機関の停止後、毎回レール圧低下時間tnを算出するため、次回の内燃機関の始動時に、毎回、状況に応じたレール圧センサ25の診断可否判断を行うことが可能となり、レール圧センサのオフセット診断の頻度を上げることができる。また、新たな装置等を追加する必要もない。
【符号の説明】
【0060】
13:高圧ポンプ、15:コモンレール、17:燃料噴射弁、25:レール圧センサ、50:電子制御ユニット、501:タイマ部、502:レール圧取得部、503:燃料温度取得部、504:記憶部、505:リーク量算出部、506:体積弾性係数算出部、507:レール圧低下量算出部、508:積算部、509:レール圧推定部、510:レール圧低下時間推定部、511:診断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6