(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061728
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】加振装置及び加振システム
(51)【国際特許分類】
G10F 1/16 20060101AFI20220412BHJP
G10D 3/00 20200101ALI20220412BHJP
【FI】
G10F1/16
G10D3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169850
(22)【出願日】2020-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100206391
【弁理士】
【氏名又は名称】柏野 由布子
(72)【発明者】
【氏名】柘植 秀幸
【テーマコード(参考)】
5D002
【Fターム(参考)】
5D002CC55
(57)【要約】
【課題】加振装置の加振により弦楽器において発音する音量の向上を図ることができ、かつ、演奏者が弦楽器を演奏する際の弦楽器の音響特性に近づけることができるようにする。
【解決手段】弦101を直接加振し、弦101の振動を介して弦楽器を加振する加振装置2を提供する。また、本体23及び本体23に対して所定の振動方向に振動する振動体24を有する加振器21と、振動体24から延びるように設けられ、弦楽器の弦101に接触して振動体24の振動を弦101に伝達する振動伝達部22と、を備える加振装置2を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器の弦を直接加振し、弦の振動を介して弦楽器を加振する加振装置。
【請求項2】
本体及び前記本体に対して所定の振動方向に振動する振動体を有する加振器と、
前記振動体から延びるように設けられ、弦楽器の弦に接触して前記振動体の振動を前記弦に伝達する振動伝達部と、
を備える加振装置。
【請求項3】
前記振動伝達部は、前記弦のうち当該弦の振動の腹となり得る位置に接触する請求項2に記載の加振装置。
【請求項4】
前記弦を当該弦の軸方向に対して交差する方向に加振する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の加振装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の加振装置と、前記弦楽器の胴部を直接加振する胴部加振装置と、を備える加振システム。
【請求項6】
前記加振装置による加振の周波数特性と、前記胴部加振装置による加振の周波数特性とが、互いに異なる請求項5に記載の加振システム。
【請求項7】
本体及び加振信号を受けて前記本体に対して所定の振動方向に振動する振動体を有する加振器と、
前記振動体から延びるように設けられ、被駆動体に接触して前記振動体の振動を前記被駆動体に伝達する振動伝達部と、を備え、
前記振動伝達部が、前記被駆動体の少なくとも一部を挟む挟持部を含む加振装置。
【請求項8】
前記挟持部は、前記被駆動体の両側に配置される2つの板部と、
2つの前記板部を互いに近づける方向に力を付与する力付与部と、を備える請求項7に記載の加振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加振装置及び加振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、弦楽器の弦に支持されてブリッジを直接加振することで発音させる(加振器を備えた)弦楽器用の加振装置が開示されている。
特許文献2には、弦楽器の弦に支持されて駒を直接加振することで発音させる弦楽器用の加振装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5849172号公報
【特許文献2】特許第6503135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、弦楽器の駒やブリッジは、その材質が弦楽器の弦や胴部と比較して硬い。また、駒やブリッジは、その一部が胴部に固定されるとともに弦を支持する構造となる。このため、特許文献1,2のように加振装置で駒やブリッジを直接加振しても、駒やブリッジは振動しにくく、加振装置の振動(振幅)の大きさに対して弦楽器の胴部や弦の振動(振幅)が小さくなってしまう。これにより、加振装置による振動に応じて弦楽器において発音する音量が不足してしまう、という問題がある。
また、駒やブリッジでは、特に加振装置による低い周波数帯の振動が減衰しやすい。このため、加振装置によって弦を振動させたときの弦楽器の音響特性が、演奏者が弦楽器を演奏したときの弦楽器の音響特性と大きく異なってしまう、という問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、音量の向上を図ることができ、かつ、演奏者が弦楽器を演奏する際の弦楽器の音響特性に近づけることが可能な加振装置及び加振システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、弦楽器の弦を直接加振し、弦の振動を介して弦楽器を加振する加振装置である。
【0007】
本発明の第二の態様は、本体及び前記本体に対して所定の振動方向に振動する振動体を有する加振器と、前記振動体から延びるように設けられ、弦楽器の弦に接触して前記振動体の振動を前記弦に伝達する振動伝達部と、を備える加振装置である。
【0008】
本発明の第三の態様は、前記加振装置と、前記弦楽器の胴部を直接加振する胴部加振装置と、を備える加振システムである。
【0009】
本発明の第四の態様は、本体及び加振信号を受けて前記本体に対して所定の振動方向に振動する振動体を有する加振器と、前記振動体から延びるように設けられ、被駆動体に接触して前記振動体の振動を前記被駆動体に伝達する振動伝達部と、を備え、前記振動伝達部が、前記被駆動体の少なくとも一部を挟む挟持部を含む加振装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被駆動体として弦楽器の弦を加振装置によって直接加振することで、弦楽器において発音する音量の向上を図ることができ、かつ、演奏者が弦楽器を演奏する際の弦楽器の音響特性に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る加振システムを適用したコントラバスを示す正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る加振システムを適用したコントラバスを示す側面図である。
【
図3】
図1,2の加振装置を弦の軸方向から見た図である。
【
図4】第一例の押付具によって胴部加振装置を胴部の外面に押し付けた状態を示すコントラバスの背面図である。
【
図5】第一例の押付具によって胴部加振装置を胴部の外面に押し付けた状態を示すコントラバスの側面図である。
【
図6】第二例の押付具によって胴部加振装置を胴部の外面に押し付けた状態を示すコントラバスの背面図である。
【
図7】第二例の押付具によって胴部加振装置を胴部の外面に押し付けた状態を示すコントラバスの側面図である。
【
図8】第三例の押付具によって胴部加振装置を胴部の外面に押し付けた状態を示すコントラバスの背面図である。
【
図9】第三例の押付具によって胴部加振装置を胴部の外面に押し付けた状態を示すコントラバスの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1~3を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1,2に示すように、本実施形態に係る加振装置2及び加振システム1は、弦101と、内部に空洞を有する胴部102と、弦101の振動を胴部102に伝達する駒103(あるいはブリッジ)と、を有する弦楽器に適用される。以下では、加振装置2及び加振システム1を弦楽器の一種であるコントラバス100に適用した例について説明する。ただし、加振装置2及び加振システム1は、バイオリン、チェロ、アコースティックギター、ウクレレなどの他の弦楽器に適用されてよい。
【0013】
本実施形態の加振システム1は、加振装置2と、胴部加振装置3と、を備える。
図1、3に示すように、加振装置2は、コントラバス100の弦101を直接加振する装置であり、加振器21と、振動伝達部22と、を備える。加振器21は、本体23と、本体23に対して所定の振動方向(
図1,3において左右方向)に振動する振動体24と、を有する。加振器21は、図示しない出力装置に接続される。具体的には、加振器21の入力端子が出力装置と有線で接続されてもよいし、あるいは、加振器21に設けられたWiFi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の無線ユニットが出力装置からの信号を受信するように出力装置と無線で接続されてもよい。出力装置は、楽曲データや音響・音声のデータを記憶しており、それらのデータに基づく加振信号(電気信号)を出力する。出力装置が加振信号を出力し、加振器21が当該加振信号を受けることで、加振信号に基づき振動体24が本体23に対して振動する。加振器21は、例えばボイスコイル型のアクチュエータであってよい。この場合、本体23が磁性体部を有し、振動体24がボイスコイルを有してよい。振動伝達部22は、振動体24から延びるように設けられる。
図3において、振動伝達部22は、振動体24から当該振動体24の振動方向に延びているが、例えば振動方向に対して傾斜する方向に延びてもよい。
加振器21の本体23の重量は、振動体24及びこれに設けられた振動伝達部22を足し合わせた重量と比較して十分に重い。これにより、振動体24及び振動伝達部22を本体23に対して振動させることができる。
【0014】
振動伝達部22は、コントラバス100の弦101(被駆動体)に接触することで振動体24の振動を弦101に伝達する。振動伝達部22は、コントラバス100の弦101を挟む挟持部25を含む。
挟持部25は、弦101の両側に配置される2つの板部26,27と、2つの板部26,27を互いに近づける方向に力を付与する力付与部28と、を有する。2つの板部26,27は、それぞれ平らな帯板状に形成され、板厚方向(
図3において上下方向)に並ぶ。2つの板部26,27は、それぞれの長手方向が振動体24の振動方向に沿うように配置されている。本実施形態では、2つの板部26,27のうち第一板部26が振動体24に固定されている。2つの板部26,27のうち第二板部27は、第一板部26に取り付けられている。
図3においては、長手方向における第二板部27の長さが第一板部26の長さよりも短いが、これに限ることはない。
【0015】
本実施形態における力付与部28はネジ28Aである。ネジ28Aは、2つの板部26,27に取り付けられることで、2つの板部26,27を連結する。ネジ28Aを回転させることで、2つの板部26,27を互いに近づけたり離したりすることができる。2つの板部26,27の間に弦101を配した状態で、ネジ28Aを回転させて2つの板部26,27を互いに近づけることで、2つの板部26,27の間に弦101を挟むことができる。本実施形態では、2つの板部26,27の間に2本の弦101を挟むことによって、2本の弦101が加振装置2を支持する構造となる。すなわち、加振装置2がコントラバス100に取り付けられた状態において、加振装置2は弦101以外にコントラバス100に対して触れないため、加振装置2がコントラバス100の振動を妨げたり、コントラバス100の振動特性を変えたりすることがない。
【0016】
本実施形態において、ネジ28Aは、長手方向における2つの板部26,27の中途部に取り付けられている。これにより、板部26,27の長手方向におけるネジ28Aの両側の領域において、2つの板部26,27の間に弦101を挟むことができる。なお、ネジ28Aは、長手方向における2つの板部26,27の端部に取り付けられてもよい。
【0017】
以上のように構成される本実施形態の加振装置2は、2つの板部26,27(振動伝達部22)が弦101に接触するようにコントラバス100に取り付けられる。具体的には、ネジ28A(力付与部28)を利用して2つの板部26,27の間に2本の弦101を挟むことで、振動伝達部22が弦101に接触した状態に保持される。
図1においては、加振装置2がコントラバス100の4本の弦101のうち低音側の2本の弦101L(被駆動体の一部)に取り付けられているが、例えば高音側の2本の弦101H(被駆動体の一部)に取り付けられてもよい。また、加振装置2は、例えば4本の弦101全て(被駆動体の全体)に取り付けられてもよい。
【0018】
加振装置2をコントラバス100の弦101に取り付けた状態においては、2つの板部26,27の長手方向が弦101の軸方向(
図1において上下方向)に対して交差している。これにより、振動体24の振動方向が弦101の軸方向に対して交差するため、加振装置2は弦101を当該弦101の軸方向に対して交差する方向に加振する。
図1においては、2つの板部26,27の長手方向(
図1において左右方向)が弦101の軸方向に対して直交しているが、例えば弦101の軸方向に対して傾斜してもよい。
【0019】
加振装置2をコントラバス100に取り付けた状態においては、振動伝達部22が弦101のうち当該弦101の振動の腹となり得る位置に接触することがより好ましい。振動の腹となり得る弦101の位置は、最も大きく振動する弦101の位置に限らず、弦101のうち振動の節とならない位置であればよい。弦101の振動の節となる位置は、例えば弦101が駒103や指板104のナット141によって支持される位置である。このため、弦101が駒103やナット141で支持される位置から弦101の軸方向にずらした位置は、弦101の振動の腹となり得る位置となる。このことから、弦101の振動の腹となり得る弦101の位置は、
図1に例示するようにコントラバス100の駒103に隣り合う位置であってよい。また、弦101の振動の腹となり得る弦101の位置は、例えばナット141に隣り合う位置であってもよい。
【0020】
図1においては、加振装置2の振動伝達部22が、弦101のうち駒103と指板104との間の部位(主に弓で擦弦したり、指で弾いたりする部位)に接触しているが、これに限ることはない。振動伝達部22は、弦101のうち駒103とテールピース105との間の部位に接触してもよいし、弦101のうちナット141とヘッド106に設けられたペグ161との間の部位に接触してもよい。
【0021】
上記したようにコントラバス100に取り付けられた加振装置2は、コントラバス100の弦101を直接加振する。加振装置2によって加振された弦101の振動が駒103を介して胴部102に伝わることで、胴部102が振動する。また、弦101の振動がネック107やヘッド106などのコントラバス100の他の部分にも伝わることで、コントラバス100の他の部分が振動する。すなわち、加振装置2は、弦101の振動を介してコントラバス100全体を加振する。これにより、コントラバス100が発音する。
【0022】
図1,2に示すように、胴部加振装置3は、コントラバス100の胴部102を直接加振する。図示しないが、胴部加振装置3は、前述した加振装置2の加振器21と同様の本体及び振動体を備える。胴部加振装置3では、不図示の出力装置から加振信号(電気信号)を受けることで、振動体が本体に対して振動する。
【0023】
胴部加振装置3は、その振動体が胴部102の外面に接触するようにコントラバス100の胴部102に取り付けられる。胴部加振装置3は、当該胴部加振装置3による加振に対して胴部102が効率よく振動するコントラバス100の部位(振動しやすい部位)に取り付けられることがより好ましい。
図2において、胴部加振装置3は胴部102の裏板121に取り付けられているが、例えば胴部102の表板122に取り付けられてもよい。また、
図1において、胴部加振装置3は幅方向(
図1において左右方向)におけるコントラバス100の中央から左側にオフセットした位置に取り付けられているが、これに限ることはない。胴部加振装置3は、例えば幅方向におけるコントラバス100の中央に取り付けられてもよい(例えば
図4,6,8参照)。
【0024】
胴部加振装置3は、例えば
図1,2に示すように、胴部102に対して剥離可能な両面テープ(不図示)を利用して胴部102の外面に貼り付けられてよい。また、胴部加振装置3は、例えば
図4~9に示すように、押付具4によって胴部102の外面に押し付けられてもよい。
図4~9に例示する3つの押付具4(4C,4D,4E)は、いずれも胴部加振装置3を支持して胴部102の外面との間に挟む支持部41と、当該支持部41を胴部102に取り付けるための取付部42と、を有する。
【0025】
図4,5に例示する第一例の押付具4Cにおいて、支持部41は胴部102の外面に沿って延びる帯板状に形成されている。胴部加振装置3は支持部41の長手方向の第一端部に支持される。取付部42は、支持部41の長手方向の第二端部からエンドピン108に向けて延びる帯板状に形成され、当該エンドピン108を利用して胴部102に固定される。例えば、エンドピン108が胴部102に対してネジ止めされる場合、取付部42はエンドピン108によって胴部102に共締めされることで胴部102に固定される。取付部42が胴部102に固定されることで、支持部41が胴部102に取り付けられる。
【0026】
図6,7に例示する第二例の押付具4Dにおいて、支持部41は胴部102の外面に沿って延びる帯状に形成されている。支持部41は、その長手方向の中途部に胴部加振装置3を支持する支持部位43を有する。取付部42は、支持部41の長手方向の両端部から胴部102側に向けて突出している。支持部41の両端に設けられた一対の取付部42の間に胴部102を挟むことで、支持部41が胴部102に取り付けられる。支持部41は、例えば一対の取付部42同士の間隔が変化するように、当該支持部41の長手方向に弾性的に伸縮したり、弾性的に撓み変形したりしてよい。この場合には、支持部41の弾性力を利用して一対の取付部42の間に胴部102を挟むことができる。
【0027】
第二例の押付具4Dは、
図6,7に例示するように1つで胴部加振装置3を胴部102の外面に押し付けてもよいが、例えば複数で胴部加振装置3を胴部102の外面に押し付けてもよい。第二例の押付具4Dを複数用いる場合には、例えば、複数の押付具4Dの支持部位43が互いに重なるように、かつ、複数の押付具4Dの支持部41の長手方向が互いに交差するように、複数の押付具4Dを胴部102に対して取り付ければよい。
【0028】
図8,9に例示する第三例の押付具4Eにおいて、支持部41は胴部加振装置3を支持する支持部位43から胴部102の外面に沿って互いに異なる方向に放射状に延びる4つの脚部44を有する。取付部42は、各脚部44の延長方向の先端から胴部102側に向けて突出している。これら4つの取付部42の間に胴部102を挟むことで、支持部41が胴部102に取り付けられる。支持部41は、例えば4つの取付部42同士の間隔が変化するように、脚部44の長手方向に弾性的に伸縮したり、弾性的に撓み変形したりしてよい。この場合には、支持部41の弾性力を利用して複数の取付部42の間に胴部102を挟むことができる。なお、支持部41を構成する脚部44の数及びこれに対応する取付部42の数は少なくとも3つ以上であればよい。
【0029】
上記した第一例~第三例の押付具4(4C,4D,4E)のいずれかを用いて胴部加振装置3を胴部102に押し付ける場合、胴部102と取付部42との間にはフェルト等の緩衝材が挟まれてもよい。この場合、胴部102が取付部42によって傷つくことを抑制又は防止できる。
【0030】
上記のように胴部102に取り付けられた胴部加振装置3が胴部102を直接加振すると、胴部102が振動する。また、胴部102の振動が弦101やネック107やヘッド106などのコントラバス100の他の部分にも伝わることで、コントラバス100の他の部分が振動する。すなわち、胴部加振装置3は、加振装置2と同様にコントラバス100を加振する。これにより、コントラバス100が発音する。
【0031】
本実施形態の加振システム1では、加振装置2及び胴部加振装置3が、所定の演奏音(楽曲データや音響・音声のデータなど)に対応する加振信号を受けることで、コントラバス100の弦101及び胴部102を加振する。これにより、コントラバス100が加振信号に応じた演奏音を発する。
【0032】
胴部加振装置3による加振の周波数特性は、加振装置2による加振の周波数特性と同じであってもよいが、加振装置2による加振の周波数特性と異なってもよい。例えば、コントラバス100においては、加振装置2によって弦101を直接加振すると低音域の音が比較的出やすい。また、胴部加振装置3によって胴部102を直接加振すると中音域や高音域の音が比較的出やすい。これを考慮して、加振装置2による加振の周波数特性を、低音域が比較的大きい周波数特性とし、胴部加振装置3による加振の周波数特性を、中音域や高音域が大きい周波数特性としてもよい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の加振装置2は、駒103と比較して弾性的に変形しやすい弦101を直接加振し、弦101の振動を介してコントラバス100等の弦楽器を加振する。このため、加振装置2の振動が弦101に伝わる段階で当該振動が減衰することを抑制することができる。これにより、弦101を効率よく振動させることができる。したがって、加振装置2による振動に応じて弦楽器において発音する音量の向上を図ることができる。また、加振装置2によって弦101を振動させたときの弦楽器の音響特性を、演奏者が弦楽器を演奏したときの弦楽器の音響特性に近づけることもできる。
【0034】
また、本実施形態の加振装置2は弦101を直接加振するため、加振装置2をコントラバス100に限らず様々な弦楽器に適用することができる。以下、この点について説明する。
加振装置2が駒103(あるいはブリッジ)を直接加振する手法では、加振装置2による加振に対する駒103の耐久性が要求される。このため、駒103を直接加振する手法は、駒103がある程度大きく丈夫な弦楽器にしか適用できない。これに対して、本実施形態のように、加振装置2が弦101を直接加振する手法では、駒103が直接加振されないため、駒103の耐久性は要求されない。このため、弦101を直接加振する手法は、駒103の大きさや丈夫さに関わらず、様々な弦楽器に適用することができる。当該手法は、例えば、駒103のサイズが小さく薄いバイオリン等の弦楽器にも適用することができる。
【0035】
また、本実施形態の加振装置2は、本体23及び本体23に対して振動する振動体24を有する振動体24と、振動体24から延びるように設けられ、弦101に接触して振動体24の振動を弦101に伝達する振動伝達部22と、を備える。これにより、加振器21に入力された加振信号に応じた振動体24の振動を、振動伝達部22を介して弦101に伝えることができる。
【0036】
また、本実施形態の加振装置2によれば、振動伝達部22は弦101のうち弦101の振動の腹となり得る位置に接触する。これにより、加振装置2による弦101の加振に応じて、弦101を高い効率で振動させることができる。
【0037】
また、本実施形態の加振装置2は、弦101を弦101の軸方向に対して交差する方向に加振する。これにより、弦101をその軸方向に交差する方向に振動させることができる。このような弦101の振動態様は、演奏者がコントラバス100等の弦楽器を演奏する際の弦101の振動態様に近い。このため、加振装置2によって弦101を振動させたときの弦楽器の音響特性を、演奏者が弦楽器を演奏したときの弦楽器の音響特性により近づけることができる。
【0038】
また、本実施形態の加振装置2によれば、振動伝達部22は、弦101(被駆動体)を挟む挟持部25を含む。これにより、加振装置2(特に加振器21)を弦101に支持させることができる。加振装置2を弦101に支持させる場合には、加振装置2を胴部102に支持させる場合と比較して胴部102の振動を阻害しない。このため、加振装置2による弦101の加振によって発音するコントラバス100等の弦楽器の音響特性を、演奏者が弦楽器を演奏したときの弦楽器の音響特性により近づけることができる。
また、本実施形態の加振装置2によれば、挟持部25が複数の弦101を挟むため、挟持部25が1本の弦101だけを挟む場合と比較して、加振装置2を弦101に安定に支持させることができる。
【0039】
また、本実施形態の加振装置2によれば、挟持部25は、弦101(被駆動体)の両側に配置される2つの板部26,27と、2つの板部26,27を互いに近づける方向に力を付与する力付与部28と、を備える。これにより、加振装置2を弦101に確実に支持させることができる。
【0040】
また、本実施形態の加振装置2では、力付与部28であるネジ28Aが長手方向における2つの板部26,27の中途部に取り付けられている。これにより、板部26,27の長手方向におけるネジ28A(力付与部28)の両側の領域において、弦101を均等な力で挟むことができる。
【0041】
また、本実施形態の加振装置2では、振動伝達部22を、弦101のうち駒103と指板104との間の部位(主に弓で擦弦したり、指で弾いたりする部位)を除く他の部位に接触させることができる。このため、コントラバス100等の弦楽器の演奏者は、弦楽器に取り付けた加振装置2によって阻害されずに、弦楽器を演奏することができる。すなわち、演奏者は、加振装置2を利用して弦楽器において演奏音を発音しながら、弦楽器を演奏することができる。また、演奏者は、加振装置2を利用して弦楽器において発音するお手本の演奏音を聞いたり、お手本の演奏音に伴う弦楽器の振動を体感したりすることで、お手本の演奏と演奏者自身の演奏とを音と振動の両方で容易に比較することができる。これにより、演奏者は、弦楽器の演奏方法を効率よく理解したり学習したりすることができる。
【0042】
本実施形態の加振システム1は、弦101を直接加振する加振装置2と、胴部102を直接加振する胴部加振装置3と、を備える。このため、加振装置2によって弦101を振動させる周波数特性と、胴部加振装置3によって胴部102を振動させる周波数特性とを、別々に調整することができる。これにより、弦101だけを振動させたり、胴部102だけを振動させたりする場合と比較して、コントラバス100等の弦楽器の音響特性の調整を容易に行うことができる。
【0043】
また、本実施形態の加振システム1では、弦101の振動の周波数特性と胴部102の振動の周波数特性とが異なっている場合に、加振装置2による加振の周波数特性と、胴部加振装置3による加振の周波数特性とを互いに異ならせることで、加振システム1によるコントラバス100等の弦楽器の音響特性の調整を簡単に行うことができる。
【0044】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
本発明の加振装置において、挟持部25の力付与部28は、例えばバネなどの弾性体であってもよい。すなわち、弾性体の弾性力によって2つの板部26,27を互いに近づけてもよい。
【0046】
本発明の加振装置は、例えば弦楽器に複数取り付けられてもよい。例えば、一つの加振装置2を複数の弦101の一部(例えば低音側の2本の弦101L)に取り付け、別の加振装置2を複数の弦101の残部(例えば高音側の2本の弦101H)に取り付けてもよい。この場合、加振装置2が受ける加振信号の周波数特性は、複数の加振装置2の間で共通であってもよいが、異なってもよい。加振信号の周波数特性は、例えば、高音側の弦101Hに取り付けた加振装置2と低音側の弦101Lに取り付けた加振装置2との間で異なってもよい。
【0047】
本発明の加振装置は、例えば弦楽器の複数の弦101に対して一つずつ取り付けられてもよい。この場合、各加振装置2は、各弦101の周波数帯に対応する周波数で各弦101を加振することができる。例えば、低音側の弦101Lに取り付けた加振装置2は、低音側の弦101Lの低い周波数帯に対応する低い周波数で低音側の弦101Lを加振することができる。これにより、演奏者が弦楽器を演奏したときの弦楽器の音響特性にさらに近づけることができる。
【0048】
本発明の加振装置において、振動伝達部22の挟持部25は、弦楽器の弦101を挟むことに限らず、任意の被駆動体(加振対象)を挟んでよい。すなわち、本発明の加振装置は、弦楽器に適用されることに限定されない。
【符号の説明】
【0049】
1…加振システム、2…加振装置、3…胴部加振装置、21…加振器、22…振動伝達部、23…本体、24…振動体、25…挟持部、26…第一板部、27…第二板部、28…力付与部、100…コントラバス(弦楽器)、101…弦(被駆動体)、102…胴部、103…駒