(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061832
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】ダイレータ、及び、カテーテルシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 25/06 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
A61M25/06 556
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170026
(22)【出願日】2020-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 将志
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA09
4C267AA16
4C267BB02
4C267BB11
4C267BB15
4C267BB25
4C267BB38
4C267CC04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】体内への医療デバイスの挿入を補助するダイレータにおいて、挿入抵抗の低減と、安全性の向上を図る。
【解決手段】ダイレータ1は、内側にルーメン1Lを有する中空管形状の中空シャフト10と、中空シャフトの先端部を取り囲んで配置された展開部30であって、先端側が中空シャフトと固定されると共に、基端側が中空シャフトの外側面から離間した展開部と、長尺状の外形を有し、展開部よりも基端側に設けられた摺動部20であって、中空シャフトの長手方向に沿って摺動可能な摺動部とを備え、摺動部の先端が展開部と中空シャフトの隙間に移動した際に、展開部の内側を押圧することによって、摺動部が展開部を中空シャフトの径方向外側に向かって移動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイレータであって、
内側にルーメンを有する中空管形状の中空シャフトと、
前記中空シャフトの先端部を取り囲んで配置された展開部であって、先端側が前記中空シャフトと固定されると共に、基端側が前記中空シャフトの外側面から離間した展開部と、
長尺状の外形を有し、展開部よりも基端側に設けられた摺動部であって、前記中空シャフトの長手方向に沿って摺動可能な摺動部と、
を備え、
前記摺動部は、前記摺動部の先端が、前記展開部と前記中空シャフトの隙間に移動した際に、前記展開部の内側を押圧することによって、前記展開部を前記中空シャフトの径方向外側に向かって移動させる、ダイレータ。
【請求項2】
請求項1に記載のダイレータであって、
前記摺動部の先端面は、前記中空シャフトに近い側が、外側よりも先端側となるように傾斜している、ダイレータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のダイレータであって、
前記展開部と前記中空シャフトの隙間は、基端側から先端側に向かって徐々に狭くなっている、ダイレータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のダイレータであって、
前記摺動部は、中空管形状を有すると共に、前記中空シャフトの外側面を覆っており、
前記摺動部の内側面と、前記中空シャフトの外側面と、のそれぞれには凹凸係合構造が形成されていることにより、前記摺動部が前記中空シャフトの長手方向に移動することを可能とする一方で、前記摺動部が前記中空シャフトの周方向に移動することを規制する、ダイレータ。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のダイレータであって、
前記中空シャフトは、前記ルーメンとは異なるサブルーメンであって、前記中空シャフトの先端から基端までを貫通するサブルーメンをさらに有しており、
前記摺動部は、前記サブルーメンに収容されて、前記サブルーメン内を移動する長尺状の部材である、ダイレータ。
【請求項6】
請求項5に記載のダイレータであって、
前記中空シャフトは、
内側に前記ルーメンを有する中空管形状の第1中空シャフトと、
前記第1中空シャフトを覆う中空管形状の第2中空シャフトと、を有しており、
前記サブルーメンは、前記第1中空シャフトと、前記第2中空シャフトとの間に形成されている、ダイレータ。
【請求項7】
請求項6に記載のダイレータであって、
前記摺動部は、長尺状の板状部材であって、前記第1中空シャフトの外側面に沿った円弧状の横断面を有している、ダイレータ。
【請求項8】
ダイレータであって、
内側にルーメンを有する中空管形状の中空シャフトと、
前記中空シャフトの先端部を取り囲んで配置された展開部であって、先端側が前記中空シャフトと固定されると共に、基端側が前記中空シャフトの外側面から離間した展開部と、
前記展開部と前記中空シャフトとの隙間に設けられたバルーンと、
を備え、
前記バルーンは、前記バルーンが拡張した際に、前記展開部の内側を押圧することによって、前記展開部を前記中空シャフトの径方向外側に向かって移動させる、ダイレータ。
【請求項9】
カテーテルシステムであって、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のダイレータと、
カテーテルと、
を備え、
前記展開部が開く前の前記展開部の基端の外径は、前記カテーテルの内径以下である、カテーテルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイレータ、及び、カテーテルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
体内へのカテーテルの挿入を補助するデバイスとして、ダイレータが知られている。このダイレータは、略円錐形状の先端部を有している。カテーテルの挿入時には、カテーテルにダイレータを挿通し、カテーテルの先端側開口からダイレータの先端部(略円錐形状の部分)を露出させることにより、体内への挿入抵抗を低減する。しかし、従来のダイレータでは、ダイレータの外周面とカテーテルの先端部との間に段差が生じるため、この段差において依然として挿入抵抗を受けるため、カテーテルが挿入しづらい。
【0003】
この点、特許文献1に記載のダイレータは、先端部において、径方向に開閉自在に構成された傘部を備える。特許文献1に記載のダイレータでは、傘部の内側にリングが設けられており、リングに接続されたワイヤーを用いてリングを先端側に移動させることにより、傘部に径方向外方に向かう力を付与して傘部を径方向外方に開くことができる。また、ワイヤーを用いてリングを基端側に移動させることにより、傘部に径方向内方に向かう力を付与して傘部を径方向内方に閉じることができる。すなわち、特許文献1に記載のダイレータでは、開いた傘部でカテーテルの先端部(段差)を覆うことができるため、挿入抵抗を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術では、傘部の内側に、傘部開閉のためのリングとワイヤーとを設ける必要があるため、ダイレータの構造が複雑化するという課題があった。また、リングは、傘部とワイヤーに対して、接着により固定されているのみであるため、接着が外れた場合に小さなリングが脱落する虞があり、安全性において向上の余地があった。なお、このような課題は、血管系、リンパ腺系、胆道系、尿路系、気道系、消化器官系、分泌腺及び生殖器官といった生体管腔内に対して、カテーテルや内視鏡等の医療デバイスを挿入するために使用されるダイレータ(医療用挿入具)の全般に共通する。
【0006】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、体内への医療デバイスの挿入を補助するダイレータにおいて、挿入抵抗の低減と、安全性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、ダイレータが提供される。このダイレータは、内側にルーメンを有する中空管形状の中空シャフトと、前記中空シャフトの先端部を取り囲んで配置された展開部であって、先端側が前記中空シャフトと固定されると共に、基端側が前記中空シャフトの外側面から離間した展開部と、長尺状の外形を有し、展開部よりも基端側に設けられた摺動部であって、前記中空シャフトの長手方向に沿って摺動可能な摺動部と、を備え、前記摺動部は、前記摺動部の先端が、前記展開部と前記中空シャフトの隙間に移動した際に、前記展開部の内側を押圧することによって、前記展開部を前記中空シャフトの径方向外側に向かって移動させる。
【0009】
この構成によれば、ダイレータは、中空シャフトの先端部を取り囲んで配置された展開部を備えており、展開部は、摺動部の先端による押圧を受けて中空シャフトの径方向外側に向かって移動することで開状態となる。このため、開状態とされた展開部によって、カテーテルの先端部との段差を減らす(段差をなくすことを含む)、または、カテーテルの先端部を覆うことができるため、カテーテルを体内に挿入する際の挿入抵抗を低減できる。また、展開部を開状態とするための摺動部は、長尺状の外形を有しており、中空シャフトの長手方向に沿って摺動可能な構成である。このため、例えば、展開部(傘部)開閉のためのリングのような、脱落の虞のある小径の部材を使用することなく、展開部を開状態とできる。これらの結果、本構成のダイレータによれば、挿入抵抗の低減と、安全性の向上を図ることができる。
【0010】
(2)上記形態のダイレータにおいて、前記摺動部の先端面は、前記中空シャフトに近い側が、外側よりも先端側となるように傾斜していてもよい。
この構成によれば、摺動部の先端面は、中空シャフトに近い側が、外側よりも先端側となるように傾斜している。このため、摺動部の先端が、展開部の基端部に引っかかることを抑制でき、摺動部の先端を、展開部と中空シャフトの隙間へとスムーズに進入させることができる。
【0011】
(3)上記形態のダイレータにおいて、前記展開部と前記中空シャフトの隙間は、基端側から先端側に向かって徐々に狭くなっていてもよい。
この構成によれば、展開部と中空シャフトの隙間は、基端側から先端側に向かって徐々に狭くなっている。このため、摺動部の先端を、展開部と中空シャフトの隙間へとスムーズに進入させることができると共に、開状態となった展開部の外径を、隙間が一定である場合と比較して大きくできる。
【0012】
(4)上記形態のダイレータにおいて、前記摺動部は、中空管形状を有すると共に、前記中空シャフトの外側面を覆っており、前記摺動部の内側面と、前記中空シャフトの外側面と、のそれぞれには凹凸係合構造が形成されていることにより、前記摺動部が前記中空シャフトの長手方向に移動することを可能とする一方で、前記摺動部が前記中空シャフトの周方向に移動することを規制してもよい。
この構成によれば、摺動部を、中空シャフトの外側面を覆う中空管形状のアウターシャフトとして構成できる。また、摺動部の内側面と、中空シャフトの外側面と、のそれぞれには凹凸係合構造が形成されているため、摺動部が中空シャフトの長手方向に移動することを可能とする一方で、摺動部が中空シャフトの周方向に移動することを規制できる。
【0013】
(5)上記形態のダイレータにおいて、前記中空シャフトは、前記ルーメンとは異なるサブルーメンであって、前記中空シャフトの先端から基端までを貫通するサブルーメンをさらに有しており、前記摺動部は、前記サブルーメンに収容されて、前記サブルーメン内を移動する長尺状の部材であってもよい。
この構成によれば、摺動部を、サブルーメン内を移動する長尺状の部材として構成できる。また、摺動部は、サブルーメン内に収容されており、外部に露出していないため、安全性をより一層向上できる。
【0014】
(6)上記形態のダイレータにおいて、前記中空シャフトは、内側に前記ルーメンを有する中空管形状の第1中空シャフトと、前記第1中空シャフトを覆う中空管形状の第2中空シャフトと、を有しており、前記サブルーメンは、前記第1中空シャフトと、前記第2中空シャフトとの間に形成されていてもよい。
この構成によれば、第1中空シャフトと第2中空シャフトとを用いて、サブルーメンを有する中空シャフトを構成できる。
【0015】
(7)上記形態のダイレータにおいて、前記摺動部は、長尺状の板状部材であって、前記第1中空シャフトの外側面に沿った円弧状の横断面を有していてもよい。
この構成によれば、摺動部は、長尺状の板状部材であって、第1中空シャフトの外側面に沿った円弧状の横断面を有している。このため、摺動部を例えば棒状とする場合と比較して、摺動部の先端が展開部の内側に接触する面積を増やすことができ、展開部を、中空シャフトの径方向に均一に開くことができる。
【0016】
(8)本発明の一形態によれば、ダイレータが提供される。このダイレータは、内側にルーメンを有する中空管形状の中空シャフトと、前記中空シャフトの先端部を取り囲んで配置された展開部であって、先端側が前記中空シャフトと固定されると共に、基端側が前記中空シャフトの外側面から離間した展開部と、前記展開部と前記中空シャフトとの隙間に設けられたバルーンと、を備え、前記バルーンは、前記バルーンが拡張した際に、前記展開部の内側を押圧することによって、前記展開部を前記中空シャフトの径方向外側に向かって移動させる。
この構成によれば、ダイレータは、中空シャフトの先端部を取り囲んで配置された展開部を備えており、展開部は、拡張したバルーンによる押圧を受けて中空シャフトの径方向外側に向かって移動することで開状態となる。このため、開状態とされた展開部によって、カテーテルの先端部との段差を減らす(段差をなくすことを含む)、または、カテーテルの先端部を覆うことができるため、カテーテルを体内に挿入する際の挿入抵抗を低減できる。また、展開部を開状態とするためにバルーンが用いられるため、例えば、展開部(傘部)開閉のためのリングのような、脱落の虞のある小径の部材を使用することなく、展開部を開状態とできる。これらの結果、本構成のダイレータによれば、挿入抵抗の低減と、安全性の向上を図ることができる。
【0017】
(9)本発明の一形態によれば、カテーテルシステムが提供される。このカテーテルシステムは、上記形態のダイレータと、カテーテルと、を備え、前記展開部が開く前の前記展開部の基端の外径は、前記カテーテルの内径以下である。
この構成によれば、展開部が開く前の展開部の基端の外径は、カテーテルの内径以下であるため、カテーテル内にダイレータをスムーズに挿入できる。
【0018】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、医療用挿入具、医療用挿入具とカテーテルや内視鏡等の医療デバイスを備える医療システム、これらの製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ダイレータの外観構成を例示した説明図である。
【
図2】ダイレータの先端側の一部分A(
図1:二点鎖線枠)の拡大断面図である。
【
図3】
図2のB-B線における横断面構成を例示した説明図である。
【
図6】比較例のダイレータの構成を例示した説明図である。
【
図7】第2実施形態のダイレータの構成を例示した説明図である。
【
図8】
図7のC-C線における横断面構成を例示した説明図である。
【
図9】第2実施形態のダイレータの使用方法の説明図である。
【
図10】第3実施形態のダイレータの横断面構成を例示した説明図である。
【
図11】第4実施形態のダイレータの構成を例示した説明図である。
【
図12】
図11のD-D線における横断面構成を例示した説明図である。
【
図13】第4実施形態のダイレータの使用方法の説明図である。
【
図14】第5実施形態のダイレータの構成を例示した説明図である。
【
図15】第6実施形態のダイレータの構成を例示した説明図である。
【
図16】第7実施形態のダイレータの横断面構成を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1は、ダイレータ1の外観構成を例示した説明図である。ダイレータ1は、皮膚、皮下組織、及び血管壁を拡張することで、カテーテルの血管内への挿入を補助する器具である。ダイレータ1は、長尺管形状であり、先端側が略円錐形状、かつ、基端側が略円筒形状の外側形状を有している。このため、まず、血管内にガイドワイヤを挿通し、ガイドワイヤを通してダイレータ1を血管内に挿通する。その後、ダイレータ1を通してカテーテルを血管内に挿通することで、カテーテルを体内に挿入する際の、皮膚等の生体組織による挿入抵抗を低減できる。なお、ダイレータ1は、血管系のほか、リンパ腺系、胆道系、尿路系、気道系、消化器官系、分泌腺及び生殖器官といった生体管腔内に対して、カテーテルや内視鏡等の医療デバイスを挿入するために使用可能である。
【0021】
図1では、ダイレータ1の中心を通る軸を軸線O(一点鎖線)で表す。以降、挿通状態のガイドワイヤ、ダイレータ1、及びカテーテルの各中心は、軸線Oに一致するものとして説明するが、挿通状態における各中心はそれぞれ相違してもよい。また、
図1には、相互に直交するXYZ軸を図示する。X軸はダイレータ1の長手方向に対応し、Y軸はダイレータ1の高さ方向に対応し、Z軸はダイレータ1の幅方向に対応する。
図1の左側(-X軸方向)をダイレータ1及び各構成部材の「先端側」と呼び、
図1の右側(+X軸方向)をダイレータ1及び各構成部材の「基端側」と呼ぶ。また、ダイレータ1及び各構成部材の長手方向(X軸方向)における両端のうち、先端側に位置する一端を「先端」と呼び、基端側に位置する他端を「基端」と呼ぶ。また、先端及びその近傍を「先端部」と呼び、基端及びその近傍を「基端部」と呼ぶ。先端側は生体内部へ挿入され、基端側は医師等の術者により操作される。これらの点は、
図1以降においても共通する。
【0022】
図2は、ダイレータ1の先端側の一部分A(
図1:二点鎖線枠)の拡大断面図である。
図2下段には、ダイレータ1の一部分Aの拡大断面図を示し、
図2上段(破線枠内)には、ダイレータ1の展開部30近傍の拡大断面図を示す。ダイレータ1は、中空シャフト10と、摺動部20と、展開部30と、動作部90(
図1)と、を備えている。
【0023】
中空シャフト10は、軸線Oに沿って延びる長尺状の部材である。中空シャフト10は、内側に、軸線Oに沿って延びるルーメン1Lを有する中空管形状である。
図2に示すように、ルーメン1Lの内径Φ1Lは、基端から中央部分までは略一定の径を有し、中央部分から先端までは徐々に小さくなっている。
図1に示すように、ルーメン1L(
図1:破線)は、先端において先端側開口1aを介して外部に連通し、基端において基端側開口1bを介して外部に連通している。ルーメン1Lは、ダイレータ1に対してガイドワイヤを挿通させるためのガイドワイヤルーメンとして機能する。中空シャフト10の外側面には、摺動部20を摺動させるための凹凸係合構造が形成されている。詳細は
図3で説明する。中空シャフト10の外径、内径、及び長さは任意に決定できる。
【0024】
展開部30は、中空シャフト10の先端部において、中空シャフト10の外周全体を取り囲んで配置されている。
図2に示すように、展開部30は、先端側が中空シャフト10と固定されており、基端側が中空シャフト10の外側面(外周面)から離間している。図示の例では、展開部30は中空シャフト10と一体的に形成されているが、展開部30と中空シャフト10とは別体として構成され、展開部30の先端側が中空シャフト10の外側面に接合されていてもよい。展開部30の基端側には、展開部30の内側面と、中空シャフト10の外側面との間に、隙間50が形成されている。
図2上段に示すように、任意の断面における隙間50の大きさL50は、基端側から先端側に向かって徐々に狭く(小さく)されている。また、
図2上段に示すように、展開部30の基端側の面(以降「基端面31」とも呼ぶ)は、外側31aが、中空シャフト10に近い側31bよりも基端側となるように傾斜している。
【0025】
摺動部20は、展開部30よりも基端側に設けられた、長尺状の外形を有する部材である。本実施形態の摺動部20は、中空管形状を有しており、中空シャフト10の周囲を覆う(取り囲む)ように配置されている。展開部30が開く前の状態(閉状態:
図4で後述する)において、摺動部20の先端部は、展開部30よりも基端側に位置している。摺動部20の基端部は、回転運動を直線運動に変換する周知の機構を介して、動作部90に接続されている。
図2上段に示すように、摺動部20の先端側の面(以降「先端面21」とも呼ぶ)は、中空シャフト10に近い側21bが、外側21aよりも先端側となるように傾斜している。摺動部20の内側面には、摺動部20を摺動させるための凹凸係合構造が形成されている。詳細は
図3で説明する。摺動部20の内径は、中空シャフト10の外径より小さい限りにおいて任意に決定できる。摺動部20の内径及び長さは任意に決定できる。
【0026】
図3は、
図2のB-B線における横断面構成を例示した説明図である。摺動部20の内側面と、中空シャフト10の外側面と、のそれぞれには、凹凸係合構造が形成されている。具体的には、
図3に示す本実施形態では、摺動部20の内側面には、4つの凹部25が形成されている。各凹部25は、それぞれ、X軸方向に直線状に延びる溝である。また、中空シャフト10の外側面には、4つの凸部15が形成されている。各凸部15は、それぞれ、X軸方向に直線状に延びる係合部である。凸部15及び凹部25は、中空シャフト10及び摺動部20の周方向に、等間隔に形成されている。図示のように、凸部15が凹部25に係合することによって、摺動部20が中空シャフト10の長手方向(X軸方向)に移動することを可能とする一方で、摺動部20が中空シャフト10の周方向に移動する(回転する)ことを規制している。なお、図示の例では、摺動部20に凹部を形成し、中空シャフト10に凸部を形成する場合を例示したが、これらは逆でもよい。すなわち、摺動部20に凸部を形成し、中空シャフト10に凹部を形成してもよい。また、凸部は、凹部に係合すれば足りるため、X軸方向に直線状に延びる構成でなくてもよい。
【0027】
動作部90は、回転運動を直線運動に変換する周知の機構を介して、摺動部20の基端部に接続されている。これにより、術者が動作部90を所定方向に回転させる(
図1:太線矢印)ことで、摺動部20が、中空シャフト10の外側面を基端側から先端側へ移動する。同様に、術者が動作部90を逆方向に回転させることで、摺動部20が、中空シャフト10の外周面を先端側から基端側へ移動する。なお、動作部90は、摺動部20へと直線運動をそのまま伝達する機構(X軸方向にスライドさせるレバー)等であってもよい。また、動作部90は省略してもよい。動作部90が省略された場合、術者は、摺動部20の基端部を把持して、直接、先端側に向かって押し出せばよい。
【0028】
中空シャフト10及び摺動部20は、生体適合性を有することが好ましく、樹脂材料や金属材料で形成することができる。樹脂材料としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等を採用できる。金属材料としては、例えば、SUS304等のステンレス鋼、ニッケルチタン合金、コバルトクロム合金、タングステン鋼等を採用できる。また、中空シャフト10及び摺動部20は、上述した材料を複数組み合わせた接合構造体とすることもできる。展開部30は、柔軟性を有することが好ましく、例えば、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー等の樹脂材料により形成できる。動作部90は、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルサルフォン等の樹脂材料で形成することができる。
【0029】
図4及び
図5は、ダイレータ1の使用方法の説明図である。
図4では、展開部30が開く前の状態(以降「閉状態」とも呼ぶ)のダイレータ1を図示している。ダイレータ1の使用にあたっては、まず、生体組織9を切開して、血管内にガイドワイヤ3を挿通させる。次に、ガイドワイヤ3の基端側を、ダイレータ1の先端側開口1a(
図1)からルーメン1Lへと挿入し、基端側開口1b(
図1)から外部へ引き出す。次に、ダイレータ1を生体組織9から血管内へと挿入する。次に、ダイレータ1の基端側を、カテーテル2の先端チップ201の先端側開口からカテーテルのルーメンへと挿入する。その後、カテーテル2の先端チップ201が、ダイレータ1の展開部30よりもやや基端側となる位置まで、カテーテル2をデリバリする。
図4は、以上の手順を経た状態のダイレータ1、カテーテル2、及びガイドワイヤ3の様子を示している。
【0030】
ここで、展開部30が
図4に示す閉状態の場合、展開部30の基端の外径Φ30aは、摺動部20の外径Φ20と同一である。なお「同一」とは、ほぼ同じことを意味し、製造誤差等に起因した相違を許容する。また、外径Φ30a及び外径Φ20は、カテーテル2のルーメンの内径Φ2a以下である。
【0031】
図5では、展開部30が開いた後の状態(以降「開状態」とも呼ぶ)のダイレータ1を図示している。
図4の手順の後、動作部90を所定方向に回転させる(
図1:太線矢印)。これにより、摺動部20は、中空シャフト10の外側面を、基端側から先端側へと移動する(
図5:白抜き矢印)。そして、
図5に示すように、摺動部20の先端が、展開部30と中空シャフト10の隙間50に移動した際に、摺動部20の先端が、展開部30の内側を押圧する。内側からの押圧を受けた展開部30は、中空シャフト10の径方向外側(YZ軸方向)に向かって移動する。この結果、展開部30が開状態となる。なお、動作部90を逆方向に回転させることにより、摺動部20による押圧が解除され、展開部30は元の閉状態へと戻る。
【0032】
ここで、展開部30が
図5に示す開状態の場合、展開部30の基端の外径Φ30bは、カテーテル2の先端(具体的には、先端チップ201の先端)の外径Φ2bと同一となってもよい。ここで「同一」とは、ほぼ同じことを意味し、製造誤差等に起因した相違を許容する。そうすれば、展開部30の外側面と、先端チップ201の外側面とが滑らかに繋がった表面S(破線丸枠)を実現でき、ダイレータ1とカテーテル2の先端部との段差をなくすことができる。また、開状態の展開部30の基端の外径Φ30bは、カテーテル2の先端の外径Φ2bより小さくてもよい。この場合でも、展開部30の外側面と、先端チップ201の外側面とを近づけることができるため、ダイレータ1とカテーテル2の先端部との段差を、展開部30がない場合と比較して減らす(小さくする)ことができる。さらに、開状態の展開部30の基端の外径Φ30bは、カテーテル2の先端の外径Φ2bより大きくてもよい。この場合、展開部30によって、先端チップ201の先端部(角部201e)を覆うことができる。
【0033】
以上のように、第1実施形態のダイレータ1は、中空シャフト10の先端部を取り囲んで配置された展開部30を備えており、展開部30は、摺動部20の先端による押圧を受けて中空シャフト10の径方向外側に向かって移動することで開状態となる(
図5)。このため、開状態とされた展開部30によって、カテーテル2の先端部との段差を減らす(段差をなくすことを含む)、または、カテーテル2の先端部を覆うことができるため、カテーテル2を体内(生体組織9内)に挿入する際の挿入抵抗を低減できる。また、展開部30を開状態とするための摺動部20は、長尺状の外形を有しており、中空シャフト10の長手方向に沿って摺動可能な構成である。このため、例えば、展開部30(傘部)開閉のためのリングのような、脱落の虞のある小径の部材を使用することなく、展開部30を開状態とできる。これらの結果、第1実施形態のダイレータ1によれば、挿入抵抗の低減と、安全性の向上を図ることができる。
【0034】
また、第1実施形態のダイレータ1において、摺動部20の先端面21は、中空シャフトに近い側21bが、外側21aよりも先端側となるように傾斜している(
図2上段)。このため、摺動部20の先端が、展開部30の基端部に引っかかることを抑制でき、摺動部20の先端を、展開部30と中空シャフト10の隙間50へとスムーズに進入させることができる。また、展開部30と中空シャフト10の隙間50は、基端側から先端側に向かって徐々に狭くなっている(
図2上段:L50)。このため、摺動部20の先端を、展開部30と中空シャフト10の隙間50へとスムーズに進入させることができると共に、開状態となった展開部30の外径Φ30b(
図5)を、隙間50が一定である場合と比較して大きくできる。
【0035】
さらに、第1実施形態のダイレータ1によれば、摺動部20を、中空シャフト10の外側面を覆う中空管形状のアウターシャフトとして構成できる。また、摺動部20の内側面と、中空シャフト10の外側面と、のそれぞれには凹凸係合構造が形成されているため(
図3)、摺動部20が中空シャフト10の長手方向に移動することを可能とする一方で、摺動部20が中空シャフト10の周方向に移動することを規制できる。
【0036】
さらに、第1実施形態のダイレータ1によれば、展開部30が開く前(閉状態)の展開部30の基端の外径Φ30aは、カテーテル2の内径Φ2a以下であるため、カテーテル2のルーメン内にダイレータ1をスムーズに挿入できる(
図4)。また、展開部30が開いた後(開状態)の展開部30の基端の外径Φ30bは、カテーテル2の先端の外径Φ2b以上であるため、開状態とされた展開部30によって、カテーテル2の先端部との段差を減らす(段差をなくすことを含む)、または、カテーテル2の先端部を覆うことができる(
図5)。
【0037】
図6は、比較例のダイレータ1xの構成を例示した説明図である。比較例のダイレータ1xは、摺動部20、展開部30、及び動作部90を備えない従来の構成である。ダイレータ1xは、開状態となる展開部30を有していないため、ダイレータ1xとカテーテル2の先端部との間で段差Sx(
図6:破線丸枠)が生じる。この結果、ダイレータ1xを用いた場合であっても、特に段差Sxの部分において、生体組織9(特に皮膚)から挿入抵抗を受けるため、カテーテル2が挿入しづらいことがわかる。
【0038】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態のダイレータ1Aの構成を例示した説明図である。
図8は、
図7のC-C線における横断面構成を例示した説明図である。第2実施形態では、摺動部20Aの構造が異なる例を挙げる。第2実施形態のダイレータ1Aは、第1実施形態で説明した構成において、摺動部20に代えて摺動部20Aを備え、さらに第2中空シャフト40を備える。以降の説明では、便宜上、第1実施形態で説明した中空シャフト10を「第1中空シャフト10」と呼ぶ。第2実施形態では、第1中空シャフト10と第2中空シャフト40とが「中空シャフト」に相当する。
【0039】
摺動部20Aは、展開部30よりも基端側に設けられた、長尺状の外形を有する部材である。本実施形態の摺動部20Aは、
図7及び
図8に示すように、略矩形形状の横断面を有する4本の棒状部材である。摺動部20Aを構成する各棒状部材は、中空シャフト(第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40)内に形成された、4つのサブルーメン40L内にそれぞれ収容されている。各棒状部材の先端面21Aは、第1実施形態の先端面21と同様に、第1中空シャフト10に近い側が、外側よりも先端側となるように傾斜している。各棒状部材の基端部は、回転運動を直線運動に変換する周知の機構を介して、動作部90(
図1)に接続されている。各棒状部材は、第1実施形態で説明した樹脂材料や金属材料で形成できるが、サブルーメンに収容されるという性質上、生体適合性よりも剛性を重視し、金属材料で形成されることが好ましい。各棒状部材は、金属性の素線を網目織りにしたメッシュ形状であってもよい。
【0040】
第2中空シャフト40は、中空管形状を有しており、第1中空シャフト10の周囲を覆うように配置されている。
図8に示すように、第2中空シャフト40の内側面には、4つの第1凹部45と、4つの第2凹部46とが形成されている。各第1凹部45と、各第2凹部46とは、それぞれ、X軸方向に直線状に延びる溝である。各第1凹部45には、第1中空シャフト10の各凸部15が嵌合されて、固定されている。第1凹部45と凸部15との間には、エポキシ系接着剤などの任意の接合剤が塗布されていてもよい。各第2凹部46の内側と、第1中空シャフト10との間には、摺動部20Aを構成する各棒状部材を収容するためのサブルーメン40Lが形成されている。サブルーメン40Lは、第2中空シャフト40の先端から基端までを貫通している。
【0041】
図9は、第2実施形態のダイレータ1Aの使用方法の説明図である。
図9では、展開部30が開状態のダイレータ1Aを図示している。第1実施形態の
図4までの手順の後、動作部90を所定方向に回転させる(
図1:太線矢印)。これにより、摺動部20Aは、サブルーメン40L内を、基端側から先端側へと移動する(
図9:白抜き矢印)。そして、
図9に示すように、摺動部20Aの先端面21Aが、展開部30と第1中空シャフト10との隙間50に移動した際に、摺動部20Aの先端が、展開部30の内側を押圧し、展開部30を中空シャフト(第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40)の径方向外側に向かって移動させ、展開部30を開状態とする。開状態の展開部30の外径Φ30bは、第1実施形態と同様に、カテーテル2の先端の外径Φ2b(
図5)以上である。
【0042】
このように、ダイレータ1Aの構成は種々の変更が可能であり、中空シャフト(第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40)のサブルーメン40Lに、摺動部20Aを収容してもよい。摺動部20Aの形状は、略矩形形状の横断面を有する棒状としたが、略円形状、略矩形形状等、任意の形状の横断面を有する棒状とできる。摺動部20Aを構成する棒状部材の本数は、任意に決定でき、例えば、1本でもよく10本でもよい。以上のような第2実施形態のダイレータ1Aによっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第2実施形態のダイレータ1Aによれば、摺動部20Aを、サブルーメン40L内を移動する長尺状の部材として構成できる。また、摺動部20Aは、サブルーメン40L内に収容されており、外部に露出していないため、安全性をより一層向上できる。さらに、第1中空シャフト10と第2中空シャフト40とを用いて、サブルーメン40Lを有する中空シャフトを容易に構成できる。
【0043】
<第3実施形態>
図10は、第3実施形態のダイレータ1Bの横断面構成を例示した説明図である。第3実施形態では、摺動部20Bの構成が異なる例を挙げる。第3実施形態のダイレータ1Bは、第1実施形態で説明した構成において、摺動部20に代えて摺動部20Bを備え、さらに第2中空シャフト40Bを備える。以降の説明では、第1実施形態で説明した中空シャフト10を「第1中空シャフト10」と呼ぶ。第3実施形態では、第1中空シャフト10と第2中空シャフト40Bとが「中空シャフト」に相当する。
【0044】
摺動部20Bは、展開部30よりも基端側に設けられた、長尺状の外形を有する部材である。本実施形態の摺動部20Bは、
図10に示すように、第1中空シャフト10の外側面に沿った円弧状の横断面を有する4枚の板状部材である。摺動部20Bを構成する各板状部材は、中空シャフト(第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40B)内に形成された、4つのサブルーメン40LB内にそれぞれ収容されている。各板状部材の先端面は、第1実施形態の先端面21と同様に、第1中空シャフト10に近い側が、外側よりも先端側となるように傾斜している。各板状部材の基端部は、回転運動を直線運動に変換する周知の機構を介して、動作部90(
図1)に接続されている。各板状部材は、第1実施形態で説明した樹脂材料や金属材料で形成できるが、サブルーメンに収容されるという性質上、生体適合性よりも剛性を重視し、金属材料で形成されることが好ましい。各板状部材は、金属性の素線を網目織りにしたメッシュ形状であってもよい。
【0045】
第2中空シャフト40Bは、中空管形状を有しており、第1中空シャフト10の周囲を覆うように配置されている。第2中空シャフト40Bの内側面と、第1中空シャフト10の各凸部15とは、エポキシ系接着剤などの任意の接合剤により接合され、固定されている。第2中空シャフト40Bの内側面と、第1中空シャフト10の外側面(凸部15がない部分)との間が、摺動部20Bを構成する各板状部材を収容するためのサブルーメン40LBとなる。サブルーメン40LBは、第2中空シャフト40Bの先端から基端までを貫通している。ダイレータ1Bの使用方法、及び、ダイレータ1Bの動作は、
図9で説明した第2実施形態と同様である。
【0046】
このように、ダイレータ1Bの構成は種々の変更が可能であり、中空シャフト(第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40B)のサブルーメン40LBに、摺動部20Bを収容してもよい。摺動部20Bの形状は、円弧状の横断面を有する板状としたが、波状、直線状等、任意の形状の横断面を有する板状とできる。摺動部20Bを構成する板状部材の枚数は、任意に決定でき、例えば、1枚でもよく8枚でもよい。以上のような第3実施形態のダイレータ1Bによっても、第1及び第2実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第3実施形態のダイレータ1Bによれば、摺動部20Bは、長尺状の板状部材であって、第1中空シャフト10の外側面に沿った円弧状の横断面を有している。このため、摺動部20Bを例えば棒状とする場合と比較して、摺動部20Bの先端が展開部30の内側に接触する面積を増やすことができ、展開部30を、中空シャフト(第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40B)の径方向に均一に開くことができる。
【0047】
<第4実施形態>
図11は、第4実施形態のダイレータ1Cの構成を例示した説明図である。
図12は、
図11のD-D線における横断面構成を例示した説明図である。第4実施形態では、第1実施形態とは異なる構成で展開部30を開状態とする例を挙げる。第4実施形態のダイレータ1Cは、摺動部20に代えて拡縮部20Cを備え、さらに第2中空シャフト40Cを備える。以降の説明では、便宜上、第1実施形態で説明した中空シャフト10を「第1中空シャフト10」と呼ぶ。第4実施形態では、第1中空シャフト10と第2中空シャフト40Cとが「中空シャフト」に相当する。
【0048】
拡縮部20Cは、バルーン28と、流路形成部材29とを備えている。バルーン28は、展開部30と第1中空シャフト10との隙間50において、第1中空シャフト10の外周全体を取り囲んで配置されている。バルーン28は、YZ軸方向(
図11)に拡縮可能であり、かつ、基端側の端部が開放したチューブ状の部材である。バルーン28は、内部に流体を供給することによって面外変形して、YZ軸方向に拡張(拡径)する。また、バルーン28は、内部の流体を排出することによって、YZ軸方向に収縮(縮径)する。換言すれば、バルーン28は、内部への流体の供給/排出によって、自在に拡張/収縮できる。バルーン28の拡張圧は任意に決定できる。バルーン28は、内圧の変化に伴って拡張/収縮可能であり、かつ、展開部30を押し上げる硬さを備える材料により形成されている。例えば、バルーン28は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリ塩化ビニル、エチレンー酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレンー酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンなどの熱可塑性樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等により形成できる。
【0049】
流路形成部材29は、バルーン28の内部に流体を供給するための流路を形成する。流路形成部材29は、中空管形状を有しており、中空シャフト(第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40C)内に形成されたサブルーメン40LC内に収容されている。流路形成部材29の先端部は、流路形成部材29の内側の流路と、バルーン28の内腔を連通させた状態で、バルーン28に接合されている。流路形成部材29の基端部は、図示しないコネクタ等に接続され、流体が供給可能に構成されている。流路形成部材29は、任意の樹脂材料により形成できる。
【0050】
第2中空シャフト40Cは、中空管形状を有しており、第1中空シャフト10の周囲を覆うように配置されている。
図12に示すように、第2中空シャフト40Cの内側面には、4つの第1凹部45と、1つの第2凹部46が形成されている。各第1凹部45と、第2凹部46とは、それぞれ、X軸方向に直線状に延びる溝である。各第1凹部45には、第1中空シャフト10の各凸部15が嵌合されて、固定されている。第2凹部46の内側と、第1中空シャフト10との間には、流路形成部材29を収容するためのサブルーメン40LCが形成されている。サブルーメン40LCは、第2中空シャフト40Cの先端から基端までを貫通している。
【0051】
図13は、第4実施形態のダイレータ1Cの使用方法の説明図である。
図13では、展開部30が開状態のダイレータ1Cを図示している。第1実施形態の
図4までの手順の後、流路形成部材29を介してバルーン28に流体FLを供給する。これにより、バルーン28がYZ軸方向に拡張して、
図13に示すように、拡張したバルーン28が展開部30の内側を押圧する。この結果、展開部30が中空シャフト(第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40C)の径方向外側に向かって移動し、展開部30が開状態となる。開状態の展開部30の外径Φ30bは、第1実施形態と同様に、カテーテル2の先端の外径Φ2b(
図5)以上である。なお、流路形成部材29を介してバルーン28から流体FLを除去(排出)することにより、バルーン28が収縮し、流路形成部材29による押圧が解除され、展開部30は元の閉状態へと戻る。
【0052】
このように、ダイレータ1Cの構成は種々の変更が可能であり、拡縮部20Cを用いて、展開部30を開閉させてもよい。以上のような第4実施形態のダイレータ1Cは、第1中空シャフト10の先端部を取り囲んで配置された展開部30を備えており、展開部30は、拡張したバルーン28による押圧を受けて中空シャフト(第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40C)の径方向外側に向かって移動することで開状態となる。このため、開状態とされた展開部30によって、カテーテル2の先端部との段差を減らす(段差をなくすことを含む)、または、カテーテル2の先端部を覆うことができるため、カテーテル2を体内に挿入する際の挿入抵抗を低減できる。また、展開部30を開状態とするためにバルーン28が用いられるため、例えば、展開部30(傘部)開閉のためのリングのような、脱落の虞のある小径の部材を使用することなく、展開部30を開状態とできる。これらの結果、第4実施形態のダイレータ1Cによれば、挿入抵抗の低減と、安全性の向上を図ることができる。
【0053】
<第5実施形態>
図14は、第5実施形態のダイレータ1Dの構成を例示した説明図である。第5実施形態のダイレータ1Dは、第1実施形態で説明した構成において、展開部30に代えて展開部30Dを備える。展開部30Dは、中空シャフト10と一体的に形成されていない、別の部材である。展開部30Dの先端側は、中空シャフト10の外側面に接合されている。接合には、任意の接合剤、例えば、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Ag合金、Au-Sn合金等の金属はんだや、エポキシ系接着剤などの接着剤を使用できる。展開部30Dの基端側には、展開部30の内側面と、中空シャフト10の外側面との間に、隙間50が形成されている。このように、展開部30Dの構成は種々の変更が可能であり、中空シャフト10と一体的に形成されていなくてもよい。展開部30Dの長さは任意に定めることができる。以上のような第5実施形態のダイレータ1Dによっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0054】
<第6実施形態>
図15は、第6実施形態のダイレータ1Eの構成を例示した説明図である。第6実施形態のダイレータ1Eは、第1実施形態で説明した構成において、摺動部20に代えて摺動部20Eを備える。摺動部20Eは、先端面21Eが軸線Oに垂直であり、傾斜していない。このように、ダイレータ1Eの構成は種々の変更が可能であり、摺動部20Eの先端面21Eは、軸線Oに垂直であってもよく、第1実施形態とは逆方向に傾斜していてもよい。同様に、展開部30の基端面31は、軸線Oに垂直であってもよく、第1実施形態とは逆方向に傾斜していてもよい。以上のような第6実施形態のダイレータ1Eによっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0055】
<第7実施形態>
図16は、第7実施形態のダイレータ1Fの横断面構成を例示した説明図である。
図16は、
図7のC-C線における横断面構成を例示している。第7実施形態のダイレータ1Fは、第2実施形態で説明した構成において、第1中空シャフト10及び第2中空シャフト40に代えて、中空シャフト10Fを備える。中空シャフト10Fは、ルーメン1Lよりも外側の肉厚部に、4つのサブルーメン10Lが形成されている。サブルーメン10Lの先端側は、展開部30(
図7)よりも基端側において、外部に連通している。サブルーメン10L内には、第2実施形態で説明した摺動部20Aを構成する棒状部材が、それぞれ収容されている。このように、ダイレータ1Fの構成は種々の変更が可能であり、摺動部20Aを収容するサブルーメンを、中空シャフト10Fの肉厚部に形成してもよい。以上のような第7実施形態のダイレータ1Fによっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第7実施形態のダイレータ1Fによれば、ダイレータ1Fを構成する部品の点数を削減できる。
【0056】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0057】
[変形例1]
上記第1~7実施形態では、ダイレータ1,1A~1Fの構成の一例を示した。しかし、ダイレータ1の構成は種々の変更が可能である。例えば、第1,5,6実施形態のダイレータ1において、さらに、摺動部20の周囲を覆う中空管形状の外側シャフトを設けてもよい。そうすれば、摺動部20が外部に露出することを抑制できるため、安全性をさらに向上できる。外側シャフトを設ける場合、摺動部20は、金属性の素線を網目織りにしたメッシュ形状の中空管としてもよい。そうすれば、ダイレータ1の剛性を向上できる。
【0058】
[変形例2]
上記第1~7実施形態では、摺動部20,20A,20B,20Eの構成の一例を示した。しかし、摺動部20の構成は種々の変更が可能である。例えば、第2,3,7実施形態のダイレータ1において、摺動部20の先端側に突起部を設けてもよい。突起部は、例えば、先端側から基端側に向かって広がる矢じり状など、任意の突出形状とできる。摺動部20の先端側に突起部を設ければ、摺動部20を先端側から基端側に向かって移動させた際に、突起部が第2中空シャフト40の先端面に引っかかることで、摺動部20の抜けを抑制できる。
【0059】
[変形例3]
第1~7実施形態のダイレータ1,1A~1Fの構成、及び上記変形例1,2のダイレータ1,1A~1Fの構成は、適宜組み合わせてもよい。例えば、第3実施形態の摺動部20を、第7実施形態のサブルーメン10Lを有する中空シャフト10に収容してダイレータ1を構成してもよい。例えば、第5実施形態で説明した展開部30を、第2~4実施形態、第6実施形態、第7実施形態のダイレータ1において採用してもよい。例えば、第6実施形態で説明した先端面21の形状を、第2~5実施形態、第7実施形態のダイレータ1において採用してもよい。
【0060】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0061】
1,1A~1F…ダイレータ
1a…先端側開口
1b…基端側開口
1x…ダイレータ(比較例)
2…カテーテル
3…ガイドワイヤ
9…生体組織
10,10F…中空シャフト、第1中空シャフト
15…凸部
20,20A,20B,20E…摺動部
20C…拡縮部
21,21A,21E…先端面
25…凹部
28…バルーン
29…流路形成部材
30,30D…展開部
31…基端面
40,40B,40C…第2中空シャフト
45…第1凹部
46…第2凹部
50…隙間
90…動作部
201…先端チップ