(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061881
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】ヒトの遺骨を用いた透明物,ならびにこれの製造方法。
(51)【国際特許分類】
A47G 33/00 20060101AFI20220412BHJP
E04H 13/00 20060101ALI20220412BHJP
A61G 17/08 20060101ALI20220412BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20220412BHJP
A61L 2/23 20060101ALI20220412BHJP
A61L 101/06 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
A47G33/00 Z
E04H13/00 Z
A61G17/08 Z
A61L2/18
A61L2/23
A61L101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170118
(22)【出願日】2020-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】520390807
【氏名又は名称】一般社団法人日本葬送倫理協会
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】石橋 宏典
(72)【発明者】
【氏名】坂本 眞奈美
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA30
4C058BB07
4C058CC06
4C058JJ02
4C058JJ07
4C058JJ21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】遺骨を安全かつ安定的に,加えて,自然な形で身近における技術を提供する。
【解決手段】人の遺骨を滅菌する滅菌工程と,遺骨を粉骨処理する粉骨工程と,滅菌・粉骨処理後の遺骨粉末の有害金属検査を行う検査工程と,有害金属が検出された場合,有害金属を処理する金属処理工程と,遺骨粉末を,透明物に封入する封入工程と,からなることを特徴とする遺骨透明物の製造方法。これら一連の工程により,遺骨を,安全かつ衛生的な状態で,透明物に封入することが可能となるとともに,優れた外観とすることができる。これにより,遺骨を透明物として,生活空間などの身近においても,装飾品として違和感のない態様とすることができる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の遺骨を滅菌する滅菌工程と,
遺骨を粉骨処理する粉骨工程と,
滅菌・粉骨処理後の遺骨粉末の有害金属検査を行う検査工程と,
有害金属が検出された場合,有害金属を処理する金属処理工程と,
遺骨粉末を,透明物に封入する封入工程と,
からなることを特徴とする遺骨透明物の製造方法。
【請求項2】
前記滅菌工程において,
遺骨の火葬処理を行う火葬工程を含む請求項1に記載の遺骨透明体の製造方法。
【請求項3】
前記滅菌工程において,
次亜塩素酸ナトリウム液を用いて洗浄を行う洗浄工程を含む請求項1又は2に記載の遺骨透明体の製造方法。
【請求項4】
前記滅菌工程において,
二酸化塩素による滅菌処理を行う二酸化塩素処理工程を含む請求項1から3のいずれかに記載の遺骨透明体の製造方法。
【請求項5】
有害金属が,六価クロムである請求項1から4のいずれかに記載の遺骨透明体の製造方法。
【請求項6】
六価クロムを還元させることにより,有害金属の処理を行う請求項5に記載の遺骨透明体の製造方法。
【請求項7】
六価クロムの還元が,アスコルビン酸により行われる請求項6に記載の遺骨透明体の製造方法。
【請求項8】
封入工程において,
封入物として紫外線硬化樹脂を用いて封入が行われる請求項1から7のいずれかに記載の遺骨透明物の製造方法。
【請求項9】
封入工程において,
遺骨粉末と合わせて色素成分を含有させ,色付け処理が行われる請求項1から8のいずれかに記載の遺骨透明物の製造方法。
【請求項10】
遺骨透明物が,球状に形成される請求項1から9のいずれかに記載の遺骨透明物の製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の遺骨透明物の製造方法により製造された遺骨透明物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ヒトの遺骨を用いた透明物,ならびにこれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本において,人は死んだ後,火葬される。加えて,人が生まれた地域に先祖代々引き継がれたお墓があり,火葬後の遺骨は,そのお墓に納められることが多い。
【0003】
しかるに,人の流動性が増加した現代において,人が出生地を離れて一生を終えることも多く,出生地が納骨されるお墓から離れた地域であることも少なくない。加えて,都会においては,お墓そのものを見つけること自体が,お墓の数や維持コストの点などから,必ずしも容易とはいえない状況となってきている。
これらの事情から,遺骨をお墓に納める以外の手法で身近に置いておきたいという需要が存在する(特許文献1)。また,一旦,火葬して納骨された遺骨を,身近に置いておきたいという需要も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には,遺骨収納体に関する発明が記載されている。当該収納体は,空洞部に遺骨を納め,通気路を備えることにより,カビなどの増殖を防止する点において優れている。
しかるに,当該収納体に納めた後であっても遺骨が空気に触れる構成となっており,腐食などが懸念される点において課題を有すると考えられる。加えて,美観の点において,必ずしも好ましいとは言えない。
特に,現代社会においては,マンションなど,仏壇がなく,収納スペースも限られた住居形態も多い。このことから,遺骨を違和感ない形で身近に置くことが必要と考えられる。
【0006】
加えて,遺骨を,安易にそのまま用いることは危険である。
すなわち,火葬直後の遺骨は,通常,適切な温度で処理されていることから,衛生的かつ安全なことが多い。
しかるに,適切に火葬された遺骨であっても,時間が経過すると,遺骨に残存ないし付着した金属が酸化されたり,時には,放射性金属を含んでいることもあり,危険性を有することが懸念される。また,焼死体などに典型的であるが,過度に熱された遺骨は骨そのものが炭化し(炭化骨),粉塵爆発や火災の原因となる可能性がある。加えて,土葬された骨などは,骨そのものが腐敗しており,菌やウイルスが付着していることがあり,衛生的とは言えない。
このように,遺骨は,必ずしも衛生的かつ安全なものではなく,遺骨をそのまま用いることが,適切とは言えないものである。
【0007】
上記事情を背景として本発明では,遺骨を安全かつ安定的に,加えて,自然な形で身近における技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは,鋭意研究の結果,火葬直後の遺骨や,納骨後,一定期間経過した遺骨を安全に処理し,身近に置くことが可能な透明装飾体の製造方法の発明を完成させたものである。
本発明は,以下の構成からなる。
[1]人の遺骨を滅菌する滅菌工程と,
遺骨を粉骨処理する粉骨工程と,
滅菌・粉骨処理後の遺骨粉末の有害金属検査を行う検査工程と,
有害金属が検出された場合,有害金属を処理する金属処理工程と,
遺骨粉末を,透明物に封入する封入工程と,
からなることを特徴とする遺骨透明物の製造方法。
【0009】
[2]前記滅菌工程において,
遺骨の火葬処理を行う火葬工程を含む[1]に記載の遺骨透明体の製造方法。
[3]前記滅菌工程において,
次亜塩素酸ナトリウム液を用いて洗浄を行う洗浄工程を含む[1]又は[2]に記載の遺骨透明体の製造方法。
[4]前記滅菌工程において,
二酸化塩素による滅菌処理を行う二酸化塩素処理工程を含む[1]から[3]のいずれかに記載の遺骨透明体の製造方法。
【0010】
[5]有害金属が,六価クロムである[1]から[4]のいずれかに記載の遺骨透明体の製造方法。
[6]六価クロムを還元させることにより,有害金属の処理を行う[5]に記載の遺骨透明体の製造方法。
[7]六価クロムの還元が,アスコルビン酸により行われる[6]に記載の遺骨透明体の製造方法。
【0011】
[8]封入工程において,
封入物として紫外線硬化樹脂を用いて封入が行われる[1]から[7]のいずれかに記載の遺骨透明物の製造方法。
[9]封入工程において,
遺骨粉末と合わせて色素成分を含有させ,色付け処理が行われる[1]から[8]のいずれかに記載の遺骨透明物の製造方法。
【0012】
[10]遺骨透明物が,球状に形成される[1]から[9]のいずれかに記載の遺骨透明物の製造方法。
[11][1]から[10]のいずれかに記載の遺骨透明物の製造方法により製造された遺骨透明物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により,遺骨を安全かつ安定的に,加えて,自然な形で身近における技術の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の遺骨透明物の製造方法のフローを示した図。
【
図2】本発明の遺骨透明物の製造方法のフローを示した図。
【
図3】本発明の遺骨透明物の製造方法のフローを示した図。
【
図5】滅菌・洗浄処理前後の遺骨の様子を示した図。
【
図6】滅菌・粉骨処理を行っている様子を示した図。
【
図7】六価クロム検査を行っている様子を示した図。
【
図8】六価クロム還元処理を行っている様子を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の遺骨透明物の製造方法は,人の遺骨を滅菌する滅菌工程と,遺骨を粉骨処理する粉骨工程と,滅菌・粉骨処理後の遺骨粉末の有害金属検査を行う検査工程と,有害金属が検出された場合,有害金属を処理する金属処理工程と,遺骨粉末を,透明物に封入する封入工程と,からなることを特徴とする。
これら一連の工程により,遺骨を,安全かつ衛生的な状態で,透明物に封入することが可能となるとともに,優れた外観とすることができる。これにより,遺骨を透明物として,生活空間などの身近においても,装飾品として違和感のない態様とすることができる。
図1に本発明の遺骨透明物の製造方法を示す。また,
図2ならびに
図3は,本発明の遺骨透明物の製造方法の変形例であり,実務的な観点を踏まえた製造方法である。
【0016】
滅菌工程は,人の遺骨を滅菌する工程である。すなわち,遺骨そのものを滅菌処理することにより,菌やウイルスなどを処理し,衛生的な状態とするものである。滅菌工程は,遺骨の滅菌が可能である限り特に限定する必要はなく,熱処理,薬剤処理,放射線処理など種々の手法で行うことができる。また,遺骨は,滅菌の際,もしくはこれに先立って,洗浄などを行ってもよい(洗浄工程)。
【0017】
滅菌工程において,火葬処理を行うことが好ましい。これにより,土葬などがされ,一定期間経過した遺骨を,火葬処理を行うことで衛生的かつ安全な状態とすることができる。なお,火葬からそれほど時間の経過しない遺骨を用いる場合は,当該滅菌工程がなされたと同視することができる。
【0018】
滅菌工程において,薬液処理をおこなうことが好ましい。これにより,遺骨の効率的な滅菌処理が可能となるとともに,遺骨の洗浄を合わせて行うことができ,遺骨の状態を衛生的かつ良好な状態とすることができる効果を有する。
薬液処理については,菌やウイルスなどの衛生的処理が可能であり,かつ,遺骨を損傷しない限り特に限定する必要はなく,種々の滅菌用薬液を用いることができる。典型的には,次亜塩素酸ナトリウム液を用いればよい。
【0019】
滅菌工程において,二酸化塩素による滅菌処理を行う二酸化塩素処理工程を含むことが好ましい。これにより,遺骨の効率的な滅菌処理ができるともに,消臭や防腐を合わせて行うことが可能となる効果を有する。
加えて,粉状の二酸化塩素を用いることにより,後述する,粉骨工程と合わせて行うことができ,遺骨を粉状としながら,二酸化塩素粒子が接触することにより,より効果的な滅菌と,消臭ならびに防腐効果を発揮することが可能となる。
【0020】
粉骨工程は,遺骨を,一定程度の粒子状ないし粉状に砕く工程である。粉骨工程は,遺骨の粉骨処理が可能である限り特に限定する必要はなく,種々の手法を用いることができる。
【0021】
検査工程は,滅菌・粉骨処理後の遺骨粉末の有害金属の有無の検査を行う工程である。すなわち,遺骨には,酸化された金属や放射性金属など,人体に影響を及ぼしうる金属が含まれる場合があり,これを除去ないし無害化する必要がある。
検査工程は,これら有害金属の有無の検査が可能である限り特に限定する必要はなく,種々の有害金属に対し,種々の手法で行うことができる。
【0022】
有害金属として,六価クロムの検査を行うことが好ましい。すなわち,六価クロムは,火葬後の遺骨に含まれている可能性が高いとともに,酸化力を有することから,これの検出を行うとともに,還元処理により無毒化するものである。
【0023】
検査工程後,さらに,有害金属が検出された場合,有害金属を処理する金属処理工程を備えることが好ましい。これにより,検出された有害金属を,除去ないし無毒化し,遺骨を安全な状態とできる効果を有する。
一例をあげると,六価クロムのような酸化金属であれば,還元剤の処理により無毒化(酸化力の低下)を行うなどである。還元剤については,遺骨への損傷がなく,かつ,検出された酸化金属の種類に応じて適宜変更することができるが,典型的には,アスコルビン酸などを用いればよい。
【0024】
封入工程は,遺骨粉末を透明物に封入する工程である。透明物としては,透明樹脂やガラス,水晶など,種々のものを用いればよい。
透明物として,少なくとも紫外線硬化樹脂を用いることが好ましい。これにより,遺骨透明物の作製を効率的に行うことが可能となるとともに,紫外線に対する遺骨の劣化を防止することが可能となり,遺骨透明物の外観が保たれやすくなる効果を有する。
さらに,遺骨粉末と合わせて色素成分を含有させ,色付け処理が行われることが好ましい。これにより,遺骨透明物の外観を,種々の色で調整することが可能となり,美観を優れたものにできるという効果を有する。
遺骨透明物の形状については,特に限定する必要はなく,種々の形状とすることができるが,典型的には,球状,多角形状など均等の取れた形状とすることができ,最も好ましくは球状とすることができる。
【実施例0025】
本発明の遺骨透明物の製造方法について,図面を例にとり用いて説明を行う。
【0026】
1.
図3は,本発明の変形例であり,実務的な観点を反映させた製造方法である。
2.
図4は,遺骨の状況の例を示した写真である。遺骨の状況により,その後の処理が変わることから,遺骨の状況の確認を行うものである。
(1)
図4aは,正常な遺骨の例であり,正常に火葬された遺骨である。この遺骨は,火葬から時間もそれほど立っていないことから,炭化やウイルス等の危険性もない。この場合,滅菌が既に終わっているものとして取り扱い,その後の処理を行う。
(2)
図4bは,正常ではない遺骨の例であり,炭化骨の例である。遺骨のうちの一部が黒く変色しており,炭化している状態である。この場合,正常な火葬がなされていない可能性が高いことから,再火葬を行い,正常な遺骨を選別したうえで,その後の処理を行う。
(3)
図4cは,正常ではない遺骨の例であり,土葬骨の例である。この場合,遺骨そのものが腐敗していたり,ウイルス等が付着していたりする可能性がある。そのため,再火葬を行い,正常な遺骨としたうえで,その後の処理を行う。
【0027】
3.
図5は,殺菌・洗浄処理を行った前後の遺骨の様子を示す。
(1)
図5dは,殺菌・洗浄処理を行う前の遺骨の様子である。遺骨の表面が粒のように黒くなっており,カビの付着が確認される。
(2)
図5eは,殺菌・洗浄処理を行った後の遺骨の様子である。殺菌液として次亜塩素酸ナトリウム液を用いて洗浄を行った結果,遺骨表面に付着したカビが除去されている様子が分かる。
【0028】
4.
図6は,滅菌・粉骨処理を行っている様子を示す。
(1)
図6fは,ミキサーに加えられた遺骨に,粉状の二酸化塩素を加えている様子を示す。
(2)
図6gは,ミキサーにより,遺骨が粉砕されながら,粉状の二酸化塩素に接触している様子を示している。これにより,遺骨が,滅菌されながら,粒子状となっていく。
【0029】
5.
図7は,六価クロムの検査を行っている様子を示す。
(1)
図7hは,遺骨粒子が入っている蓋付きチューブ,試験用カプセル,注射器を示す。チューブには遺骨の一部(0.5g程度)をいれ,これに精製水を加えて,十分に攪拌する。これの上清を注射器で採取し,試験用カプセルにさして,注入する。カプセルを十分に振った後,静置し,これの呈色を確認する。
(2)
図7iでは,呈色の様子を示す。左側が遺骨のサンプルであり,右側がネガティブコントロールである。図のとおり,若干の呈色が確認できることから,後述する,六価クロム処理を行う。
【0030】
6.
図8は,六価クロムの処理を行っている様子を示す。
(1)
図8jは,不織布製の袋に,遺骨粒子を入れている様子を示す。
(2)
図8kは,遺骨粒子の入った袋を,還元水に浸している様子を示す。還元水は,アスコルビン酸を溶解させた精製水として作製している。
(3)
図8lは,浸した後の袋を,自然乾燥している様子を示す。
(4)
図8mは,
図7と同様の六価クロム検査を,還元処理後の遺骨で行った結果を示す。処理後の遺骨では,呈色を示しておらず,六価クロムが還元処理により,酸化力を失っており,安全となっていることが確認できる。
【0031】
7.
図9は,遺骨を封入している様子を示す。
(1)
図9nは,シリコンカップに入った遺骨粒子に,紫外線硬化樹脂を加えている様子を示す。
(2)
図9oは,シリコンカップに,さらに色素顔料を加えている様子を示す。
(3)
図9pは,遺骨粒子,紫外線硬化樹脂,色素顔料,これらを混ぜ合わせている様子を示す(以下,「遺骨液体」)。
(4)
図9qは,混ぜ合わせたものを,球状のガラス体に入れた後の様子を示す。ガラス体には,穴が開いており,その穴から遺骨液体を入れている。
(5)
図9rは,ガラス体の穴を,金属製のキャップでとじた後の様子を示す。この状態で,UVライトを当てて,ガラス体内部の紫外線硬化樹脂を硬化させる。
(6)
図9sは,金糸ならびに銀糸を巻いた後の様子を示す。これらの糸を巻くことで,入射光を拡散させ,入射光による劣化を遅らせている。
8.また,
図10に異なる色彩のものを示す。添加する顔料により,色彩を変更できることが確認できる(sがピンク,tが灰色)。