(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061917
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】粘性水系組成物および皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
C08B 15/02 20060101AFI20220412BHJP
C08B 15/04 20060101ALI20220412BHJP
C08B 11/12 20060101ALI20220412BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20220412BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220412BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220412BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220412BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220412BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20220412BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220412BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C08B15/02
C08B15/04
C08B11/12
A61K8/41
A61K8/73
A61K47/18
A61K47/38
A61K9/10
A61K8/06
A61Q19/00
A61P17/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170184
(22)【出願日】2020-10-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】久保田 紋代
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA17
4C076BB31
4C076CC18
4C076DD49
4C076DD50
4C076EE31
4C076EE31G
4C076FF17
4C083AB081
4C083AB082
4C083AC521
4C083AC522
4C083AC531
4C083AC532
4C083AC541
4C083AC542
4C083AD261
4C083AD262
4C083AD271
4C083AD272
4C083CC02
4C083DD01
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083EE01
4C083EE03
4C083EE05
4C090AA02
4C090AA08
4C090BA29
4C090BA34
4C090BB92
4C090BB97
4C090BD07
4C090BD08
4C090CA33
4C090CA46
4C090DA03
4C090DA22
4C090DA26
(57)【要約】
【課題】透明性と増粘性に優れるとともに、油性原料に対する優れた乳化能を持ち、あるいはまた水混和性有機溶媒を配合したときの粘度保持効果に優れる粘性水系組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係る粘性水系組成物は、(a)モノアミンとの塩となっているアニオン性基を含み、前記モノアミンとして有機概念図における有機性値が200以上のモノアミン(A)と有機性値が200未満のモノアミン(B)とを含む、アニオン変性セルロース繊維、および、(b)水、を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)成分および(b)成分を含有する粘性水系組成物。
(a)モノアミンとの塩となっているアニオン性基を含み、前記モノアミンとして有機概念図における有機性値が200以上のモノアミン(A)と有機性値が200未満のモノアミン(B)とを含む、アニオン変性セルロース繊維。
(b)水。
【請求項2】
前記モノアミン(A)と前記モノアミン(B)とのモル比A/Bが0.1/99.9~80/20である、請求項1に記載の粘性水系組成物。
【請求項3】
前記モノアミン(A)の有機性値が240以上であり、前記モノアミン(B)の有機性値が180以下である、請求項1または2に記載の粘性水系組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の粘性水系組成物、および油性原料を含む、乳化組成物。
【請求項5】
皮膚外用剤である請求項4に記載の乳化組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の粘性水系組成物に水混和性有機溶媒を混和させてなり、前記水混和性有機溶媒の含有量が10~95質量%である、溶媒配合粘性組成物。
【請求項7】
皮膚外用剤である請求項6に記載の溶媒配合粘性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性水系組成物、およびそれを用いた乳化組成物、溶媒配合粘性組成物、および皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーム状、ゲル状、乳液状あるいは液体状の剤型を有する製品は、化粧品や医薬品などの皮膚外用剤をはじめとする様々な用途で用いられている。それらの製品には、水やアルコールなどの分散媒体に高分子材料などを配合した組成物が用いられており、高分子材料は増粘性や分散安定性を付与するために使用されている。
【0003】
近年、天然に多量に存在するバイオマスの有効利用の観点から、セルロース繊維の利用が種々検討されており、セルロース繊維を配合した粘性水系組成物が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、アニオン性基としてのカルボキシ基が有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとの塩となっているアニオン変性セルロース繊維と水を含有する粘性水系組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、アニオン性基が有機概念図における有機性値が450以下である有機化合物と塩となっているアニオン変性セルロース繊維、水、および水混和性有機溶媒を含有する粘性水系組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、アニオン性基としてのカルボキシ基がアルカリ金属との塩となっているアニオン変性セルロース繊維と、炭素原子と窒素原子を有し化合物1分子あたりのその比率(炭素原子数/窒素原子数)が3以上45以下である化合物とを含有する粘性水系組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-126786号公報
【特許文献2】特開2017-110085号公報
【特許文献3】特開2016-183329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の粘性水系組成物では、セルロース繊維の解繊が不十分で透明度や増粘性に劣ることがあった。また、透明性や増粘性に優れる場合であっても、例えば油性原料とともに配合して乳化組成物を得ようとしたときに、油性原料に対する乳化能が不十分であり、セルロース繊維の十分な解繊による微細化と乳化能との両立が困難であった。また、例えばアルコールなどの水混和性有機溶媒を加えたときに、粘度低下が大きく、十分な増粘性を付与することが困難であった。
【0009】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、透明性と増粘性に優れるとともに、油性原料に対する優れた乳化能を持ち、あるいはまた水混和性有機溶媒を配合したときの粘度保持効果に優れる粘性水系組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 下記の(a)成分および(b)成分を含有する粘性水系組成物。
(a)モノアミンとの塩となっているアニオン性基を含み、前記モノアミンとして有機概念図における有機性値が200以上のモノアミン(A)と有機性値が200未満のモノアミン(B)とを含む、アニオン変性セルロース繊維。
(b)水。
[2] 前記モノアミン(A)と前記モノアミン(B)とのモル比A/Bが0.1/99.9~80/20である、[1]に記載の粘性水系組成物。
[3] 前記モノアミン(A)の有機性値が240以上であり、前記モノアミン(B)の有機性値が180以下である、[1]または[2]に記載の粘性水系組成物。
[4] [1]~[3]のいずれか1項に記載の粘性水系組成物、および油性原料を含む、乳化組成物。
[5] 皮膚外用剤である[4]に記載の乳化組成物。
[6] [1]~[3]のいずれか1項に記載の粘性水系組成物に水混和性有機溶媒を混和させてなり、前記水混和性有機溶媒の含有量が10~95質量%である、溶媒配合粘性組成物。
[7] 皮膚外用剤である[6]に記載の溶媒配合粘性組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、透明性と増粘性に優れるとともに、油性原料に対する優れた乳化能を持ち、あるいはまた水混和性有機溶媒を配合したときの粘度保持効果に優れる粘性水系組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る粘性水系組成物は、(a)成分として特定のアニオン変性セルロース繊維と、(b)成分として水を含むものである。
【0013】
[(a)アニオン変性セルロース繊維]
アニオン変性セルロース繊維は、セルロース分子の構成単位であるグルコースユニットがアニオン性基を有するとともに、該アニオン性基がモノアミンとの塩となっているセルロース繊維である。
【0014】
アニオン性基は、セルロース分子を構成するすべてのグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよく、あるいは、セルロース分子を構成する一部のグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよい。
【0015】
アニオン性基とは、アニオン性を示す置換基のことをいう。アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、硫酸基、スルホン酸基等を挙げることができ、これらのいずれか1種又は2種以上とすることができる。これらのアニオン性基は、グルコースユニットに直接結合してもよく、間接的に結合してもよい。間接的に結合する場合、グルコースユニットとアニオン性基との間には、例えば、炭素数1~4のアルキレン基が存在してもよい。アニオン性基は、モノアミンを対イオンとする塩型(例えばカルボキシ基の場合は-COOX。ここでXはカルボン酸と塩を形成するモノアミン)のものを含んでいれば、酸型(例えばカルボキシ基の場合は-COOH)のものを含んでもよく、モノアミン以外のカチオンを対イオンとする塩型のものを含んでもよい。
【0016】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の含有量は特に限定されない。例えば、アニオン変性セルロース繊維の乾燥質量あたり、0.05~3.0mmol/gでもよく、0.5~2.8mmol/gでもよく、0.6~2.5mmol/gでもよい。なお、本明細書において「乾燥質量」とは、一分間当たりの質量変化率が0.05%以下になるまで140℃で乾燥させた後の質量のことである。
【0017】
アニオン性基の含有量の測定は、例えば、カルボキシ基の場合、0.5~1質量%の濃度に調製したアニオン変性セルロース繊維含有スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン性基についても公知の方法で測定すればよい。
アニオン性基含有量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/アニオン変性セルロース繊維質量(g)〕
【0018】
本実施形態に係るアニオン変性セルロース繊維では、アニオン性基がモノアミンにより中和され、塩となっている。モノアミンとしては、第1級アミンでもよく、第2級アミンでもよく、第3級アミンでもよく、第4級アンモニウムでもよく、アンモニアでもよい。好ましくは、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、およびアンモニアからなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくは第1級アミン、第2級アミン、および第3級アミンからなる群から選択される少なくとも1種である。なお、本実施形態におけるアミンは、アルカノールアミンも包含する広義のアミンである。
【0019】
本実施形態では、上記モノアミンとして、有機概念図における有機性値が200以上のモノアミン(A)と、有機性値が200未満のモノアミン(B)とを併用することを特徴とする。すなわち、アニオン変性セルロース繊維は、有機性値が200以上のモノアミン(A)との塩となっているアニオン性基と、有機性値が200未満のモノアミン(B)との塩となっているアニオン性基とを有する。このようにモノアミン(A)とモノアミン(B)を併用することにより、セルロース繊維の解繊性を向上して粘性水系組成物の透明性と増粘性を向上することができる。また、油性原料に対する乳化能を向上することができ、さらに水混和性有機溶媒配合時における粘度低下を抑制することができる。
【0020】
有機概念図の詳細は、例えば「有機概念図-基礎と応用-」(甲田善生著、三共出版、1984)等に記載されている。「有機概念図」とは、すべての有機化合物に対し、その炭素領域の共有結合連鎖に起因する「有機性」と、置換基(官能基)に存在する静電性の影響による「無機性」との2因子とを、所定の規定により数値化し、その有機性値をX軸、無機性値をY軸にとった図上にプロットしていくものである。上記文献には、有機概念図における有機性値の大小は、その有機化合物の分子内のメチレン基を代表とする炭素原子の数で測ることができる旨が記載されており、さらに「基本となる炭素原子1個の有機性値は、その有機化合物の炭素数5~10付近での炭素1個加わることによる沸点上昇の平均値20℃をとり、20と定める。」と規定されている。このことから、有機概念図における有機性値が200以上のモノアミン(A)とは、炭素数が10以上のモノアミンとほぼ同じ意味であり、有機性値が200未満のモノアミン(B)とは、炭素数が10未満のモノアミンとほぼ同じ意味である。
【0021】
モノアミン(A)の有機性値は240以上であることが好ましく、より好ましくは280以上である。モノアミン(A)の有機性値の上限は、特に限定されないが、2000以下であることが好ましく、より好ましくは1000以下であり、500以下でもよい。
【0022】
モノアミン(B)の有機性値は180以下であることが好ましい。モノアミン(B)の有機性値は0以上であることが好ましく、より好ましくは20以上であり、更に好ましくは60以上である。
【0023】
有機性値が200以上のモノアミン(A)としては、炭素数が10以上、より好ましくは炭素数が10以上100以下の長鎖アルキルアミンが挙げられ、例えば、1-アミノへプタデカン、ステアリルアミン、ノナデシルアミン、3-ラウリルオキシプロピルアミンなどの第1級アミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、N-メチルオクタデシルアミンなどの第2級アミン、N-ラウリルジエタノールアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、N,N-ジメチル-n-オクチルアミン、トリラウリルアミン、ステアリルジエタノールアミン、N-メチルジオクタデシルアミンなどの第3級アミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシドなどの第4級アンモニウムなどが挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上併せて用いることができる。これらの中でも、油性原料配合時における乳化安定性の向上や肌への刺激性の観点から、N-ラウリルジエタノールアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、N,N-ジメチル-n-オクチルアミン、およびトリラウリルアミンからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく用いられる。
【0024】
有機性値が200未満のモノアミン(B)としては、炭素数が0以上10未満の低分子量アミンが挙げられ、例えば、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、モノオクチルアミンなどの第1級アミン、ジエタノールアミンなどの第2級アミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルベンジルアミン、トリイソプロパノールアミンなどの第3級アミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどの第4級アンモニウム、アンモニアなどが挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上併せて用いることができる。これらの中でも、油性原料配合時における乳化安定性の向上や解繊効率の向上、肌への刺激性の観点からトリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、およびアンモニアからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく用いられる。
【0025】
アニオン変性セルロース繊維におけるモノアミン(A)とモノアミン(B)の含有量は、特に限定されず、両者の合計量で0.05~3.0mmol/gでもよく、0.5~2.8mmol/gでもよく、0.6~2.5mmol/gでもよい。
【0026】
モノアミン(A)とモノアミン(B)とのモル比A/Bは、特に限定されないが、0.1/99.9~80/20であることが好ましい。モル比A/Bが0.1/99.9以上であることにより、油性原料に対する親和性を向上して乳化安定性の向上効果を高めることができる。また、モル比A/Bが80/20以下であることにより、解繊効率を向上して透明性と増粘性の向上効果を高めることができる。モル比A/Bは、0.5/99.5以上であることが好ましく、より好ましくは1/99以上である。また、モル比A/Bは、50/50以下であることが好ましく、より好ましくは30/70以下であり、更に好ましくは20/80以下である。
【0027】
本実施形態で用いるアニオン変性セルロース繊維は、酸型のアニオン性基を持つアニオン変性セルロース繊維をモノアミン(A)およびモノアミン(B)によりpH5~10の範囲で中和することにより得られたものであることが好ましい。上記pHは6~8の範囲であることがより好ましい。ここで、上記pHは25℃でのpHである。
【0028】
本実施形態で用いるアニオン変性セルロース繊維は、ナノメートルレベルの繊維径を有するアニオン変性セルロースナノファイバーであることが好ましい。詳細には、アニオン変性セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有し、数平均繊維径が0.6~200nmであり、平均アスペクト比が10~1000であることが好ましい。
【0029】
セルロースI型結晶構造は天然セルロースの結晶形のことである。セルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0030】
アニオン変性セルロース繊維の結晶化度は、特に限定されないが、X線回折装置を用いてSegal法で算出した結晶化度が、例えば60%以上95%以下であることが好ましい。結晶化度は、より好ましくは70%以上である。結晶化度の上限は特に限定されないが、例えば、92%以下でもよく、90%以下でもよい。
【0031】
アニオン変性セルロース繊維は、数平均繊維径が200nm以下であることにより、透明性と増粘性を高めることができ、皮膚外用剤として使用したときの使用感を高めることができる。数平均繊維径は、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは30nm以下であり、更に好ましくは10nm以下であり、更に好ましくは5nm以下である。また、数平均繊維径の下限は1nm以上でもよく、1.5nm以上でもよい。
【0032】
アニオン変性セルロース繊維の平均アスペクト比は、より好ましくは50以上であり、更に好ましくは100以上であり、200以上でもよい。平均アスペクト比は、より好ましくは700以下であり、500以下でもよい。ここで、平均アスペクト比は、アニオン変性セルロース繊維の数平均繊維径(nm)に対する数平均繊維長(nm)の比(数平均繊維長/数平均繊維径)である。
【0033】
本実施形態に係るアニオン変性セルロース繊維の製造方法は特に限定されない。例えば、公知の方法に従いアニオン性基を有するアニオン変性セルロース繊維を製造した後、該アニオン変性セルロース繊維をモノアミン(A)およびモノアミン(B)を用いて中和処理することにより、アニオン性基がモノアミン(A)およびモノアミン(B)との塩となっているアニオン変性セルロース繊維を得ることができる。
【0034】
一実施形態において、アニオン変性セルロースナノファイバーを得る場合、公知の方法に従いセルロース原料にアニオン性基を導入した後、得られたアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基をモノアミン(A)およびモノアミン(B)で中和処理し、次いで微細化(解繊)処理を行うことにより、モノアミン(A)およびモノアミン(B)を対イオンとして有するアニオン変性セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0035】
一実施形態において、アニオン性基としてカルボキシ基を有するアニオン変性セルロース繊維としては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロース繊維や、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロース繊維が挙げられる。
【0036】
酸化セルロース繊維としては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性されたものが挙げられる。酸化セルロース繊維は、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、微細化処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。酸化セルロース繊維の製造方法において、微細化処理前にカルボキシ基をモノアミン(A)およびモノアミン(B)で中和処理することが好ましい。
【0037】
微細化処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー等を用いて、アニオン変性セルロース繊維の分散液を処理することにより行うことができる。
【0038】
[粘性水系組成物]
本実施形態に係る粘性水系組成物は、上記特定のアニオン変性セルロース繊維と水を含むものである。アニオン変性セルロース繊維の含有量は、特に限定されないが、0.01~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05~5.0質量%であり、0.1~3.0質量%でもよい。水の含有量は、特に限定されず、例えば30質量%以上でもよく、50質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよく、95質量%以上でよく、また99.99質量%以下でもよく、99.95質量%以下でもよい。
【0039】
粘性水系組成物の粘度は、濃度や用途等により異なるため特に限定されないが、液温25℃での粘度が1000mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは3000mPa・s以上である。該粘度の上限は特に限定されないが、例えば80000mPa・s以下でもよく、50000mPa・s以下でもよく、30000mPa・s以下でもよい。一実施形態において、粘性水系組成物は、アニオン変性セルロース繊維の含有量を0.2質量%としたときの液温25℃での粘度が、上記数値範囲であること、即ち、下限が1000mPa・s以上、または3000mPa・s以上であり、上限が80000mPa・s以下、50000mPa・s以下、または30000mPa・s以下であることが好ましい。ここで、粘度は、BM型粘度計において、ローターの回転速度0.6rpmで測定した値である。
【0040】
粘性水系組成物には、上記特定のアニオン変性セルロース繊維(a成分)および水(b成分)とともに、他の成分が配合されてもよい。他の成分としては、特に限定されず、例えば、無機塩類、有機塩類、油性原料、界面活性剤、保湿剤、防腐剤、有機微粒子、無機微粒子、消臭剤、香料、有機溶媒などが挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0041】
[乳化組成物]
一実施形態に係る乳化組成物は、上記の粘性水系組成物、および油性原料を含むものである。上記の粘性水系組成物は、油性原料に対する乳化能を持つため、乳化剤として用いることができる。従って、一実施形態に係る乳化組成物は、上記の粘性水系組成物を用いて油性原料を乳化してなるものであり、上記特定のアニオン変性セルロース繊維(a成分)と、水(b成分)と、油性原料(c成分)を含む。該乳化組成物は、上記粘性水系組成物と同等の粘度を持つ粘性組成物でもよく、粘度が水と同程度の液状組成物でもよい。
【0042】
該乳化組成物は、油滴が水に分散する水中油滴(O/W型)エマルションでもよく、水滴が油に分散する油中水滴(W/O型)エマルションでもよいが、好ましくは、油性原料が水中に乳化してなる水中油型乳化組成物である。
【0043】
乳化組成物における上記アニオン変性セルロース繊維の含有量は、特に限定されない。乳化組成物における水相中に含まれるアニオン変性セルロース繊維の濃度(即ち、乳化組成物を調製する際に油性原料と混合する水分散液におけるアニオン変性セルロース繊維の濃度)として、例えば0.0001~5質量%でもよく、0.001~3質量%でもよく、0.01~1質量%でもよい。
【0044】
乳化組成物における水相は、上記の粘性水系組成物のみからなるものでもよいが、該粘性水系組成物を水などの水性溶媒で希釈したものでもよい。乳化組成物における水相には、上記特定のアニオン変性セルロース繊維および水とともに、例えば、エタノール等の一価アルコール、プロピレングリコールやブチレングリコールなどの多価アルコール、単糖やオリゴ糖などの糖類、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、(NH4)2SO4、Na2CO3など無機塩類、有機塩類などの各種水溶性成分が含まれてもよい。
【0045】
乳化組成物における油性原料の含有量は、特に限定されない。例えば、油性原料からなる油相とアニオン変性セルロース繊維を含む水相との体積比(油相/水相)で、1/100~10/1でもよく、1/20~7/1でもよく、1/10~1/1でもよい。
【0046】
乳化組成物において油相を構成する油性原料としては、水と分離する種々の液体が挙げられ、例えば、シリコーンオイル、植物油脂、動物油脂、ロウ類、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、芳香族アルコール等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0047】
シリコーンオイルとしては、例えば、メチルポリシロキサン(別名:ジメチコン)、架橋型メチルポリシロキサン、環状シリコーン(例えばシクロペンタシロキサンなどの環状ポリシロキサン)、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン、アクリルシリコーン、フェニル変性シリコーン等が挙げられる。
【0048】
植物油脂としては、例えば、アボカド油、アーモンド油、オリーブ油、ククイナッツ油、グレープシード油、ゴマ油、小麦胚芽油、コメ胚芽油、コメヌカ油、サフラワー油、シアバター、大豆油、茶油(茶実油、茶種子油)、月見草油、ツバキ油、トウモロコシ胚芽油、ナタネ油、パーシック油、ハトムギ油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、ヒマワリ油、へ一ゼルナッツ油、マカデミアナッツ油、メドウホーム油、綿実油、モクロウ、ヤシ油、落花生油、ローズヒップ油等が挙げられる。
【0049】
動物油脂としては、例えば、魚油、牛脂、タートル油、ミンク油、卵黄油等が挙げられる。
【0050】
ロウ類としては、例えば、カルナウバロウ、鯨ロウ、セラック、ホホバ油、ミツロウ、サラシミツロウ、モンタンワックス、ラノリン、ラノリン誘導体、還元ラノリン、硬質ラノリン、吸着精製ラノリン等が挙げられる。
【0051】
炭化水素としては、例えば、α-オレフィンオリゴマー、スクワラン、スクワレン、セレシン、固形パラフィン、プリスタン、ポリエチレン末、マイクロクリスタリンワックス、流動パラフィン、ワセリン、ミネラルオイル、炭素数8~30の直鎖アルカン(例えばヘキサデカン)等が挙げられる。
【0052】
高級脂肪酸としては、例えば、アラキドン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0053】
高級アルコールとしては、例えば、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、キミルアルコール、コレステロール、シトステロール、ステアリルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール、デシルテトラデカノール、バチルアルコール、フィトステロール、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール等が挙げられる。
【0054】
エステル油としては、例えば、酢酸ラノリン、イソステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル、エチルヘキサン酸セチル、エチルヘキサン酸セトステアリル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸コレステリル、デカン酸メチルなどの脂肪酸エステル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、リンゴ酸ジイソステアリルなどのヒドロキシ酸エステル、トリミリスチン酸グリセリン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルなどのトリグリセリド、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルなどのメトキシケイヒ酸エステル等が挙げられる。
【0055】
芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。
【0056】
これらのなかでも油性原料としては、I/O値が1.00以下のものを用いることが好ましく、より好ましくはI/O値が0.45以下のものを用いることである。I/O値とは、化合物が示す親疎水性の尺度を表す指標となるパラメーターであり、無機性値(I)を有機性値(O)で除することにより得られる。I/O値が大きいほど極性(親水性、無機性)が大きいことを示し、I/O値が小さいほど非極性(疎水性、有機性)が大きいことを示す。I/O値については、「有機概念図-基礎と応用-」(甲田善生著、三共出版、1984)に記載されている。
【0057】
乳化組成物には、上記成分の他、必要に応じて、例えば、水相及び油相に溶解しない粉体(例えば、タルク、カオリン、雲母などの無機粉体、ポリアミド樹脂粉末など有機粉体)や、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、香料、潤滑剤、可塑剤、貯蔵安定剤といった添加剤を適宜配合することができる。
【0058】
乳化組成物を調製する際の乳化方法としては特に限定されず、公知の強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法等のいずれの方法でも構わず、使用機器は、例えば、攪拌羽、ディスパー、ホモジナイザー等による単独攪拌、およびこれらを組み合わせた複合攪拌など、種々使用可能である。
【0059】
乳化組成物の用途としては、特に限定されず、例えば、クリーム状、ゲル状、乳液状あるいは液体状の剤型を有する各種製品(化粧品、外用医薬品、医薬部外品、農薬、トイレタリー用品、スプレー製品、塗料等)に用いることができる。具体的には、化粧水、乳液、コールドクリーム、バニシングクリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、クレンジングクリーム、美容液、パック、ファンデーション、サンスクリーン化粧料、サンタン化粧料、モイスチャークリーム、ハンドクリーム、美白乳液、各種ローション等の皮膚用化粧料、シャンプー、リンス、ヘアコンディショナー、リンスインシャンプー、ヘアスタイリング剤(ヘアフォーム,ジェル状整髪料等)、ヘアトリートメント剤(ヘアクリーム,トリートメントローション等)、染毛剤やローションタイプの育毛剤あるいは養毛剤等の毛髪用化粧料、さらにはハンドクリーナーのような洗浄剤、プレシェーブローション、アフターシェーブローション、自動車用や室内用の芳香剤、脱臭剤、歯磨剤、軟膏、貼布剤、農薬、スプレー製品、塗料等の用途に用いることができる。これらの中でも、好ましくは、化粧品、外用医薬品、医薬部外品などの皮膚外用剤として用いることである。
【0060】
[溶媒配合粘性組成物]
一実施形態に係る溶媒配合粘性組成物は、上記の粘性水系組成物に水混和性有機溶媒を混和させてなり、水混和性有機溶媒の含有量が10~95質量%である粘性組成物である。上記の粘性水系組成物は、アルコール等の水混和性有機溶媒を配合した場合でも粘度低下を抑えることができるため、そのような溶媒配合製剤の増粘剤として用いることができる。従って、一実施形態に係る溶媒配合粘性組成物は、上記の粘性水系組成物に水混和性有機溶媒を混和してなるものであり、上記特定のアニオン変性セルロース繊維(a成分)と、水(b成分)と、水混和性有機溶媒(d成分)を含む。溶媒配合粘性組成物は、水混和性有機溶媒を水と分離することなく含むことが好ましい。
【0061】
溶媒配合粘性組成物における水混和性有機溶媒の含有量は10質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上である。水混和性有機溶媒の含有量の上限は、優れた粘度保持効果を維持するために95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以下である。
【0062】
溶媒配合粘性組成物における上記アニオン変性セルロース繊維の含有量は、特に限定されず、例えば0.01~10質量%でもよく、0.05~5.0質量%でもよく、0.1~1.0質量%でもよい。水の含有量は、特に限定されず、例えば4.9~89.9質量%でもよく、9.9~59.9質量%でもよく、19.9~59.9質量%でもよい。
【0063】
溶媒配合粘性組成物の粘度は、濃度や用途等により異なるため特に限定されないが、液温25℃での粘度が5mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以上であり、さらに好ましくは1000mPa・s以上である。該粘度の上限は特に限定されないが、例えば30000mPa・s以下でもよく、20000mPa・s以下でもよい。ここで、粘度は、BM型粘度計において、ローターの回転速度6rpmで測定した値である。
【0064】
水混和性有機溶媒とは、25℃のイオン交換水1Lに112g以上溶解する有機溶媒をいい、特に制限されないが具体的には、アルコール、アミン、その他の極性溶媒が挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの一価アルコール; エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メトキシ-1,2-プロパンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、3,6-ジチア-1,8-オクタンジオールなどの二価アルコール; グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパンなどの三価以上の多価アルコール; エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルなどのグリセロール誘導体が挙げられる。アミンとしては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン等が挙げられる。その他の極性溶媒としては、例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、3-メチルスルホラン、3-スルホレン、ビス(2-ヒドロキシエチル)スルホン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、2-ピロリドン-5-カルボン酸、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン、ジアセトンアルコール、4-ピコリン、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらはいずれか1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0065】
これらの中でも水混和性有機溶媒としてはアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メトキシ-1,2-プロパンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、およびグリセリンからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0066】
溶媒含有粘性組成物には、上記成分の他、必要に応じて、例えば、油性原料、無機塩類、有機塩類、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、香料、防腐剤、有機粉体、無機粉体、消臭剤といった添加剤を適宜配合することができる。
【0067】
溶媒含有粘性組成物の用途としては、特に限定されず、例えば、クリーム状やゲル状などの剤型を有する各種製品(化粧品、外用医薬品、医薬部外品、農薬、トイレタリー用品、スプレー製品、塗料等)に用いることができる。具体的には、コールドクリーム、バニシングクリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、クレンジングクリーム、パック、ファンデーション、サンスクリーン化粧料、サンタン化粧料、モイスチャークリーム、ハンドクリーム等の皮膚用化粧料、シャンプー、リンス、ヘアコンディショナー、リンスインシャンプー、ヘアスタイリング剤(ヘアフォーム,ジェル状整髪料等)、ヘアトリートメント剤(ヘアクリーム,トリートメントローション等)、染毛剤や育毛剤、養毛剤等の毛髪用化粧料、さらにはハンドクリーナーのような洗浄剤、自動車用や室内用の芳香剤、脱臭剤、歯磨剤、軟膏、貼布剤、農薬、塗料等の用途に用いることができる。これらの中でも、好ましくは、化粧品、外用医薬品、医薬部外品などの皮膚外用剤として用いることである。
【実施例0068】
以下に実施例について比較例と合わせて詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
[アニオン変性セルロース繊維の調製]
(製造例1)
針葉樹クラフトパルプ2.0gに水150mL、臭化ナトリウム0.25g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)0.025gを加え、十分撹拌させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が12mmol/gとなるように加え、反応を開始した。さらに反応中のpHが10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、120分間反応させた。反応後、0.1N塩酸を加えてpH=2.0とし、脱水を行った。これに純水を加えてセルロース繊維濃度を2質量%に希釈し、中和工程として、酸化セルロース繊維のカルボキシル基量に対し、50モル%量になるよう10質量%水酸化ナトリウム(中和塩B種)を添加した後、N-ラウリルジエタノールアミン(中和塩A種)を添加してpH7に調整した。その後、微細化処理工程としてマイクロフルイタイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことで、アニオン変性セルロースナノファイバーの2質量%水分散液であるセルロース繊維a1を得た。
【0070】
(製造例2~11)
中和工程において、中和塩A種としてN-ラウリルジエタノールアミン(LDEA)の代わりに、N,N-ジメチルステアリルアミン(DMSA)、ジ(2-エチルヘキシル)アミン(DEHA)、又はトリラウリルアミン(TLA)を用い、中和塩B種として10質量%水酸化ナトリウム(Na)の代わりに、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、トリエタノールアミン(TEA)、28質量%アンモニア水(NH4)を用い、酸化セルロース繊維のカルボキシル基量に対し、下記表1に記載のA/Bの比率になるよう添加した以外は、製造例1と同様の製法でセルロース繊維a2~11を得た。
【0071】
(製造例12)
中和工程において、10質量%水酸化ナトリウム及びN-ラウリルジエタノールアミンの代わりに2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)のみを用いて中和した以外は、製造例1と同様の製法でセルロース繊維a12を得た。
【0072】
(製造例13)
中和工程において、10質量%水酸化ナトリウムの代わりにN-ラウリルジエタノールアミン(LDEA)のみを用いて中和した以外は、製造例1と同様の製法でセルロース繊維a13の調製を試みた。しかし、セルロース繊維a13はLDEA単独での中和により疎水的になったため、水中で凝集し解繊できなかった。
【0073】
(有機性値)
上記製造例において中和塩として用いたモノアミンの有機性値は以下のとおりである。
「中和塩A種」
・N-ラウリルジエタノールアミン(LDEA):320
・トリラウリルアミン(TLA):720
・N,N-ジメチルステアリルアミン(DMSA):400
・ジ(2-エチルヘキシル)アミン(DEHA):300
「中和塩B種」
・トリエタノールアミン(TEA):120
・2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP):80
・トリイソプロパノールアミン(TIPA):180
・アンモニア(NH4):0
【0074】
(評価)
製造例1~12により得られたセルロース繊維a1~12について、結晶化度、数平均繊維径、平均アスペクト比、アニオン性基含有量を測定した。セルロース繊維a1~12は、アニオン変性セルロース繊維と水を含有する粘性水系組成物であり、該粘性水系組成物の透明度と粘度を測定した。アニオン性基(カルボキシ基)含有量の測定方法は上述したとおりであり、結晶化度、数平均繊維径、平均アスペクト比、透明度、および粘度の測定方法は以下のとおりである。結果を下記表1に示す。
【0075】
(1)結晶化度(%)
セルロース繊維のX線回折強度をX線回折法にて測定し、その測定結果からSegal法を用いて下記式(1)より算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6―I18.5)/I22.6〕×100 …(1)
式(1)中、I22.6は、X線回折における格子面(200)面(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。また、サンプルのX線回折強度の測定は、株式会社リガク製の「RINT2200」を用いて以下の条件にて実施した。
X線源:Cu/Kα―radiation
管電圧:40Kv
管電流:30mA
測定範囲:回折角2θ=5~35°
X線のスキャンスピード:10°/min
【0076】
(2)数平均繊維径および平均アスペクト比
原子間力顕微鏡(AFM)による画像観察において無作為に選択した50本のセルロース繊維について繊維径及び繊維長をそれぞれ相加平均して数平均繊維径(nm)及び数平均繊維長(nm)を算出した。数平均繊維径に対する数平均繊維長比(数平均繊維長/数平均繊維径)を算出して平均アスペクト比を求めた。
【0077】
(3)透明度
製造例1~12により得られた2質量%のセルロース繊維水分散液を10g取り、水190.0mLを加え、プライミクス社製のホモミキサーMARKII2.5型により8,000rpmで10分間撹拌した後、脱気することにより、セルロース繊維濃度が0.1質量%の希釈液を調製した。得られた希釈液を室温下で一晩静置した後、光路長10mmのポリスチレン製のディスポセルに移し、紫外可視分光光度計を用いて波長660nm時の透過率を測定した。
【0078】
(4) 粘度
製造例1~12により得られた2質量%のセルロース繊維水分散液を20g取り、水180.0mLを加え、プライミクス社製のホモミキサーMARKII2.5型により8,000rpmで10分間撹拌することにより、セルロース繊維濃度が0.2質量%の希釈液を調製した。得られた希釈液を脱気し、100mLのサンプル瓶に移し、室温下で一晩静置した後、BM型粘度計(0.6rpm、25℃、3min)を用いて粘度を測定した。
【0079】
【0080】
表1に示すように、中和塩としてA種にLDEAを用いたもののB種にナトリウムを用いた比較例に係る製造例1では、他の製造例に比べて数平均繊維径が大きく、そのため、透明度が低く、粘度も低かった。また、中和塩としてA種のLDEAのみを用いた比較例に係る製造例13では、セルロース繊維が水中で凝集し解繊できなかった。
【0081】
[乳化液の調製]
次に、上記製造方法により得られたセルロース繊維a1~12を用いて乳化液(乳化組成物)を調製した。
【0082】
(実施例1)
製造例2により得られたセルロース繊維a2(2質量%水分散液)を5.0g量り取り、水195.0mLを加え、プライミクス社製のホモミキサーMARKII2.5型により8,000rpmで10分間撹拌した後、脱気することにより、セルロース繊維濃度が0.05質量%の希釈液を調製した。セルロース繊維濃度0.05質量%の希釈液を20mL量り取り、ジメチコン(I/O値=0.30)を5mL加え、ソニックス社製の超音波ホモジナイザー VC505を用いて1分間超音波照射を行うことで水中油型乳化液を調製した。
【0083】
(実施例2~23)
製造例2~11により得られたセルロース繊維a2~11と油を用いて、下記表2に示すセルロース繊維濃度になるよう希釈し、それらを用いて表2に記載の配合割合となるよう配合した以外は、実施例1と同様の操作で乳化液を調製した。
【0084】
(比較例1~2)
下記表3に示す通り、製造例1、12により得られたセルロースa1,a12を用いて、セルロース繊維濃度が0.05質量%になるよう希釈し、得られた希釈液を用いた以外は実施例1と同様の操作で乳化液を調製した。
【0085】
(評価)
実施例1~23及び比較例1~2について乳化能及び使用感を評価した。評価方法は以下のとおりである。結果を表2及び表3に示す。
【0086】
(乳化能)
乳化液を容量25mLの試験官に移し、1週間静置した。その後、乳化状態を目視で観察し、乳化能を評価した。
〇:油相がほとんどなく、乳化相が形成される
△:一部油相が残存しているが、乳化相が形成される
×:乳化相が形成されない
【0087】
(使用感)
乳化液を上腕部に塗布し乾燥させた後の感触を以下の基準で官能評価した。使用感の結果は、社内のモニター3名の平均値で示した。
3点:伸びが良くつっぱらない
1点:伸びが悪い又はつっぱる
0点:伸びが悪くつっぱる
【0088】
【0089】
【0090】
表2,3中のc1~c7は以下のとおりである。
・c1:ジメチコン
・c2:スクワラン
・c3:ミネラルオイル
・c4:メトキシケイヒ酸エチルへキシル
・c5:シクロペンタシロキサン
・c6:トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル
・c7:ベンジルアルコール
【0091】
表3に示すように、比較例1は、モノアミン(B)である低分子量アミンAMPのみで中和したセルロース繊維a12であるため、油に対する親和性が低く、乳化能が低かった。比較例2は、モノアミン(A)である長鎖アルキルアミンLDEAとナトリウムを併用して中和したセルロース繊維a1であるため、モノアミン(A)とモノアミン(B)を併用した場合よりも解繊しにくくなったため繊維径が太くなり、使用感が悪かった。
【0092】
これに対し、表2に示すように、本実施形態に係るモノアミン(A)とモノアミン(B)を併用して中和したセルロース繊維a2~11を用いて乳化した乳化液であると、比較例1に比べて乳化能が高く、特にセルロース繊維濃度が0.001質量%以上、油/セルロース分散液の体積比が7以下、油のI/O値が1.00以下において優れた乳化能を有していた。モノアミン(B)である低分子量アミンとともに、モノアミン(A)である長鎖アルキルアミンを併用することで、油に対する親和性も増加したためと推察される。また低分子量アミンを用いることで、水中で解繊しやすくなり、繊維がシングルナノファイバーまで解繊され、比較例2に対して使用感が良くなった。
【0093】
[アルコール配合製剤の調製]
次に、上記製造方法により得られたセルロース繊維a1~12を用いてアルコール配合製剤(溶媒配合粘性組成物)を調製した。
【0094】
(実施例24)
製造例2により得られたセルロース繊維a2(2質量%水分散液)を40g量り取り、水40gとエタノール120gを加え、プライミクス社製のホモミキサーMARKII2.5型により8,000rpmで10分間撹拌した後、脱気することにより、セルロース繊維濃度が0.4質量%、エタノールが60%のアルコール配合製剤を調製した。
【0095】
また、セルロース繊維a2を40g量り取り、水160gを加え、プライミクス社製のホモミキサーMARKII2.5型により8,000rpmで10分間撹拌した後、脱気し、アルコール無添加製剤を調製した。これらそれぞれの分散液を100mLスクリュー管に移し、1日静置後にBM型粘度計を用いて6rpmで3分間測定し粘度を求めた。
【0096】
得られたアルコール配合製剤の粘度とアルコール無添加製剤の粘度から下記式(2)を用いて粘度保持率を求めた。
粘度保持率[%]=(アルコール配合製剤の粘度)/(アルコール無添加製剤の粘度)×100 …(2)
【0097】
(実施例25~43)
製造例2~11により得られたセルロース繊維a2~11とアルコールを用いて、下記表4に示すセルロース濃度及び配合割合となるよう配合した以外は、実施例24と同様の操作でアルコール配合製剤とアルコール無添加製剤を調製し、粘度保持率を求めた。
【0098】
(比較例3~4)
下記表5に示す通り、製造例1、12により得られたセルロース繊維a1、a12を用いて、セルロース濃度が0.4質量%になるよう希釈し、得られた希釈液を用いた以外は実施例24と同様の操作でアルコール配合製剤とアルコール無添加製剤を調製し、粘度保持率を求めた。
【0099】
(比較例5)
下記表5に示す通り、セルロース繊維を用いずに水とアルコールを配合し、実施例24と同様に粘度を測定した。
【0100】
【0101】
【0102】
表4,5中のd1~d8は以下のとおりである。
・d1:エタノール
・d2:メタノール
・d3:イソプロパノール
・d4:1-プロパノール
・d5:ペンチレングリコール
・d6:1,3-ブチレングリコール
・d7:グリセリン
【0103】
表5に示すように、比較例3では、モノアミン(B)である低分子量アミンAMPのみで中和したため、立体斥力がなく繊維が凝集し、粘度保持率が低かった。比較例4では、モノアミン(A)である長鎖アルキルアミンLDEAとナトリウムを併用して中和したセルロース繊維であるため、ナトリウムのアルコールに対する親和性の低さから、繊維が凝集し、粘度保持率が低かった。比較例5では、セルロース繊維を含まないため増粘効果が得られなかった。
【0104】
これに対し、表4に示すように、本実施形態に係るモノアミン(A)とモノアミン(B)を併用して中和したセルロース繊維を用いて調製したアルコール配合製剤は、比較例3,4に比べて粘度保持率が高く、特にセルロース繊維濃度が0.05質量%以上、アルコール濃度が90質量%以下において優れた粘度保持率を有していた。モノアミン(A)である長鎖アルキルアミンとモノアミン(B)である低分子量アミンとを併用することで、セルロース繊維が疎水的になり、また立体斥力により凝集が抑制されたため、アルコール中での分散性が向上したからだと推察される。
【0105】
以上のように、本実施形態に係る粘性水系組成物は、油性原料を乳化させる乳化剤やアルコール配合製剤の増粘剤として好適に用いることができる。また安全性にも優れることから、これらの性能が求められる化粧品、医薬品、医薬部外品などの皮膚外用剤の分野に好適に用いることができる。
【0106】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。