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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061931
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】足場ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20220412BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220412BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20220412BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220412BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220412BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220412BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220412BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220412BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/63 Z
C07K14/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12M1/00 A
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206671
(22)【出願日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020169730
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業」、「高性能中分子医薬のスマートデザイン基盤技術開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】門之園 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 科江
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA08
4B029GB10
4B065AA19X
4B065AA26X
4B065AA50X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA18
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA34
4H045EA50
4H045EA65
4H045FA20
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】短鎖ペプチドを安定化できるスキャホルドを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列における第1~第3の特定の提示領域に、それぞれ4個、3個および7個のアミノ酸からなるペプチドが提示されている足場ペプチドによる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列における4~7番の第1提示領域への4個のアミノ酸からなるペプチドの提示、9~11番の第2提示領域への3個のアミノ酸からなるペプチドの提示、及び13~19番の第3提示領域への7個のアミノ酸からなるペプチドの提示からなる群から選択される1つ以上の提示を有する足場ペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載の足場ペプチドを含む足場ペプチドであって、
前記第1提示領域、第2提示領域、及び第3提示領域からなる群から選択される1つ以上の提示領域のアミノ酸の平均根平均二乗揺らぎ値が1.5Å以下である、足場ペプチド。
【請求項3】
配列番号1で表されるアミノ酸配列における、1番のチロシン、2番のアラニン、12番のフェニルアラニン、20番のアルギニン、22番のイソロイシン、23番のアルギニン、及び24番のイソロイシンの1つ以上が他のアミノ酸に置換されており、且つ前記第1提示領域、第2提示領域、及び第3提示領域からなる群から選択される1つ以上の提示領域のアミノ酸の平均根平均二乗揺らぎ値が1.5Å以下である、請求項1又は2に記載の足場ペプチド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の足場ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターを含む宿主。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足場ペプチドに関する。本発明によれば、標的結合ペプチドの構造を安定化することができる。
【背景技術】
【0002】
最近、ペプチドを用いたペプチド医薬が開発され、それらの活性物質と、標的分子の結合が、種々の分析を駆使して解析されている。しかし、ペプチドは体内ではプロテアーゼによる分解を受けやすく、容易に結合力を失ってしまう。そのため、プロテアーゼ分解への耐性を高めるために、種々の化学修飾法や安定化技術の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2014/175305号明細書
【特許文献2】国際公開2017/115828号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ペプチドは全体の構造が簡単に変わる針金のような構造をしており、構造が変化してプロテアーゼの基質ポケットに入った場合にペプチド結合が加水分解される。従って、プロテアーゼ分解を防ぐためには、基質ポケットに入らないように、構造を一定に保持する土台(scaffold)が有用である。本発明者らは、このようなscaffoldの開発を行ってきた(特許文献1及び2)。しかしながら、さらに効率的なscaffoldの開発が期待されている。
従って、本発明の目的は、短鎖ペプチドを安定化できるスキャホルドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、短鎖ペプチドを安定化できるスキャホルドについて、鋭意研究した結果、驚くべきことに、25アミノ酸からなるペプチドに短鎖ペプチドを安定化できる3カ所の特定の領域が存在することを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]配列番号1で表されるアミノ酸配列における4~7番の第1提示領域への4個のアミノ酸からなるペプチドの提示、9~11番の第2提示領域への3個のアミノ酸からなるペプチドの提示、及び13~19番の第3提示領域への7個のアミノ酸からなるペプチドの提示からなる群から選択される1つ以上の提示を有する足場ペプチド、
[2][1]に記載の足場ペプチドを含む足場ペプチドであって、前記第1提示領域、第2提示領域、及び第3提示領域からなる群から選択される1つ以上の提示領域のアミノ酸の平均根平均二乗揺らぎ値が1.5Å以下である、足場ペプチド、
[3]配列番号1で表されるアミノ酸配列における、1番のチロシン、2番のアラニン、12番のフェニルアラニン、20番のアルギニン、22番のイソロイシン、23番のアルギニン、及び24番のイソロイシンの1つ以上が他のアミノ酸に置換されており、且つ前記第1提示領域、第2提示領域、及び第3提示領域からなる群から選択される1つ以上の提示領域のアミノ酸の平均根平均二乗揺らぎ値が1.5Å以下である、[1]又は[2]に記載の足場ペプチド、
[4][1]~[3]のいずれかに記載の足場ペプチドをコードするポリヌクレオチド、
[5][4]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター、及び
[6][5]に記載のベクターを含む宿主、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の足場ペプチドによれば、短鎖ペプチドの構造を安定化することができる。本発明の足場ペプチドは、分子サイズが小さいため、容易に化学合成できる。また、短鎖ペプチドの挿入部位を3カ所有し、複数のペプチドを導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の足場ペプチドの亜鉛の結合を示した図である。
図2】ZnFペプチドの安定な構造を示すアミノ酸鎖長を検討したグラフである。
図3】本発明の足場ペプチドにおける短鎖ペプチドと置換可能な領域を検討したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の足場ペプチドの1つの実施態様は、配列番号1で表されるアミノ酸配列における4~7番の第1提示領域への4個のアミノ酸からなるペプチドの提示、9~11番の第2提示領域への3個のアミノ酸からなるペプチドの提示、及び13~19番の第3提示領域への7個のアミノ酸からなるペプチドの提示からなる群から選択される1つ以上のペプチドの提示を有する(第1実施態様と称することがある)。具体的には、
YACXCXFX1011121314RHIRIH
で表されるアミノ酸配列からなる足場ペプチドであり、「X」が第1提示領域であり、「X」が第2提示領域であり、「X1011121314」が第3提示領域である。
すなわち、本発明の足場ペプチドの1つの実施態様は、配列番号1で表されるアミノ酸配列における、1~3番のYAC、8番のC、12番のF、及び20~25番のRHIRIHを含み、4~7番の提示領域への4個のアミノ酸からなるペプチドの提示、9~11番の提示領域への3個のアミノ酸からなるペプチドの提示、及び13~19番の提示領域の7個のアミノ酸からなるペプチドの提示の1つ、又は2つ以上を含む。
前記ペプチドの提示は、好ましくは2つの提示領域へのペプチド提示であり、最も好ましくは3つの提示領域へのペプチド提示である。前記Xに提示されるペプチドはオリジナルのPVESでもよく、前記XのペプチドはオリジナルのDRRでもよく、前記にX1011121314のペプチドはオリジナルのSRSDELTでもよい。オリジナルのペプチドがいずれか2つの提示領域に提示されている場合、1つの提示領域に提示ペプチドが提示されていることを意味し、オリジナルのペプチドがいずれか1つの提示領域に提示されている場合、2つの提示領域に提示ペプチドが提示されていることを意味する。
【0009】
前記提示されるペプチドを構成するアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、又はヒスチジンの生体内のタンパク質を構成する20種のα-アミノ酸が挙げられる。生体内のタンパク質を構成するα-アミノ酸は基本的にL型であるが、本発明のX~X14のアミノ酸は、D型アミノ酸を含んでもよい。
【0010】
また、限定されるものではないが、前記提示されるペプチドを構成するアミノ酸としては、2,3-ジアミノプロピオン酸、α-アミノイソ酪酸、ε-アミノヘキサン酸、δ-アミノ吉草酸、N-メチルグリシンまたはサルコシン、オルニチン、シトルリン、t-ブチルアラニン、t-ブチルグリシン、N-メチルイソロイシン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、ノルロイシン、ナフチルアラニン、2-クロロフェニルアラニン、3-クロロフェニルアラニン、4-クロロフェニルアラニン、2-フルオロフェニルアラニン、3-フルオロフェニルアラニン、4-フルオロフェニルアラニン、2-ブロモフェニルアラニン、3-ブロモフェニルアラニン、4-ブロモフェニルアラニン、2-メチルフェニルアラニン、3-メチルフェニルアラニン、4-メチルフェニルアラニン、2-ニトロフェニルアラニン、3-ニトロフェニルアラニン、4-ニトロフェニルアラニン、2-シアノフェニルアラニン、3-シアノフェニルアラニン、4-シアノフェニルアラニン、2-トリフルオロメチルフェニルアラニン、3-トリフルオロメチルフェニルアラニン、4-トリフルオロメチルフェニルアラニン、4-アミノフェニルアラニン、4-ヨードフェニルアラニン、4-アミノメチルフェニルアラニン、2,4-ジクロロフェニルアラニン、3,4-ジクロロフェニルアラニン、2,4-ジフルオロフェニルアラニン、3,4-ジフルオロフェニルアラニン、ピリド-2-イルアラニン、ピリド-3-イルアラニン、ピリド-4-イルアラニン、ナフト-1-イルアラニン、ナフト-2-イルアラニン、チアゾリルアラニン、ベンゾチエニルアラニン、チエニルアラニン、フリルアラニン、ホモフェニルアラニン、ホモチロシン、ホモトリプトファン、ペンタフルオロフェニルアラニン、スチリルアラニン、アウトリルアラニン、3,3-ジフェニルアラニン、3-アミノ-5-フェニルペンタン酸、ペニシラミン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸、β-2-チエニルアラニン、メチオニンスルホキシド、N(w)-ニトロアルギニン、ホモリジン、ホスホノメチルフェニルアラニン、ホスホセリン、ホスホトレオニン、ホモアスパラギン酸、ホモグルタミン酸、1-アミノシクロペンタ-(2または3)-エン-4カルボン酸;ピペコリン酸、アゼチジン-3-カルボン酸、1-アミノシクロペンタン-3-カルボン酸;アリルグリシン、プロパルギルグリシン、ホモアラニン、ノルバリン、ホモロイシン、ホモバリン、ホモイソロイシン、ホモアルギニン、N-アセチルリジン、2,4-ジアミノ酪酸、2,3-ジアミノ酪酸、N-メチルバリン、ホモシステイン、ホモセリン、ヒドロキシプロリン、およびホモプロリンが挙げられる。前記アミノ酸は、好ましくはαアミノ酸である。αアミノ酸が、その構造から、本発明の足場ペプチドの構造を安定させることができるからである。しかしながら、βアミノ酸が数個(例えば4個以下、3個以下、2個以下、又は1個)含まれていても、本発明の足場ペプチドの構造は安定である。
【0011】
本発明の足場ペプチドの骨格となるペプチドは、下記アミノ酸配列:
ERPYACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIHTGQKP(配列番号2)
で表されるEGR1/ZIF268タンパク質の335~367番のジンクフィンガー(ZnF)ペプチド(以下、ZnFペプチドと称することがある)から、N末端の3アミノ酸及びC末端の5アミノ酸を除いた下記アミノ酸配列:
YACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIH(配列番号3)
で表される338~362番目の25アミノ酸からなるペプチド(以下、骨格ペプチドと称することがある)である。
【0012】
図1Aに示すように、前記ZnFペプチドは、N末端およびC末端以外のアミノ酸残基は、全て根平均二乗揺らぎ値(RMSF値)が1.5Å以下であり、安定な構造を示す。
また、図1B及び図1Cに示すように、骨格ペプチドであるYACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIHの25アミノ酸を含むペプチドは、骨格ペプチドの領域で安定な構造を示す。しかし、図1Dに示すように、例えばN末端のチロシン(Y)を除去すると、残りの24アミノ酸の構造が不安定になり、RMSF値が1.5Åを超えるアミノ酸が増加する。従って、前記25アミノ酸の骨格ペプチドが、安定な足場ペプチドのための必要最小限の鎖長であると考えられる。
【0013】
なお、根平均二乗揺らぎ値(RMSF値)は、分子動力学計算によって求めることができる。具体的には、足場ペプチドを、Amber14プログラムパッケージでそれぞれのペプチドのRMSF値を計算する。Amber ff14SB force field、GB/SA implicit solvent modelを使い、スーパーコンピューターTSUBAME3.0において10 nsの計算を行うことによって、RMSF値を得ることができる。
【0014】
本発明の足場ペプチドは、前記骨格ペプチドの3~7番目(ペプチド1領域)の「PVES」、9~11番目(ペプチド2領域)の「DRR」、及び/又は13~19番目(ペプチド3領域)の「SRSDELT」のアミノ酸を任意のアミノ酸に置換しても、安定な構造を示すことができる。
図3では、前記ペプチド1領域、ペプチド2領域、及びペプチド3領域のペプチドをアラニン(A)に置換しているが、いずれの置換ペプチドも、RMSF値がほぼ1.5Å以下であり、安定な構造を示す。しかしながら、ペプチド3領域のC末側のアルギニン(R)をアラニン(A)に置換すると、多くのアミノ酸のRMSF値が1.5Åを超え、不安定な構造となる。また、骨格ペプチドの22~24番の「IRI」を「AAA」に置換したペプチドも、多くのアミノ酸のRMSF値が1.5Åを超え、不安定な構造となる。
【0015】
更に、表1には、ペプチド1領域、ペプチド2領域、及びペプチド3領域の少なくとも2領域以上のアミノ酸を、骨格ペプチドのオリジナルのアミノ酸、又はアラニン以外のアミノ酸に置換した足場ペプチドの平均RMSF値を示している。いずれの平均RMSF値も1.5Å以下であり、安定な構造を示している。
【0016】
本発明の足場ペプチドにおいては、前記Xのアミノ酸(ペプチド1領域)、Xのアミノ酸(ペプチド2領域)、及び/又はX1011121314のアミノ酸(ペプチド3領域)の根平均二乗揺らぎ値が1.5Å以下である。
ペプチド1領域、ペプチド2領域、及び/又はペプチド3領域のアミノ酸が、骨格ペプチドと異なる短鎖ペプチドの場合の、根平均二乗揺らぎ値(RMSF値)も、分子動力学計算によって求めることができる。具体的には、足場ペプチドの置換領域を、連続アラニンペプチド又は他の置換ペプチドに置換した分子モデルを構築し、同様にAmber14プログラムパッケージでそれぞれのペプチドのRMSF値を計算する。Amber ff14SB force field、GB/SA implicit solvent modelを使い、スーパーコンピューターTSUBAME3.0において10 nsの計算を行う。
【0017】
本発明の足場ペプチドの第2の実施態様は、前記第1実施態様の足場ペプチドを含む足場ペプチド(以下、付加足場ペプチドと称することがある)である。すなわち、前記YACXCXFX1011121314RHIRIHのペプチドのN末端及び/又はC末端に任意のペプチド(タンパク質)が付加されたペプチド(タンパク質)である。実際に、図2Aの付加足場ペプチドは、前記25アミノ酸のN末に「ERP」のアミノ酸が結合し、C末に「TGQKP」の5つのアミノ酸が結合しているが、25アミノ酸の足場ペプチドのアミノ酸は、RMSF値が1.5Å以下であり、安定な構造を示す。また、図2Bの付加足場ペプチドは、前記25アミノ酸のN末に「ERP」のアミノ酸が結合しているが、同様に25アミノ酸の足場ペプチドのアミノ酸は、RMSF値が1.5Å以下であり、安定な構造を示す。
すなわち、前記25アミノ酸の足場ペプチドのN末端側、又はC末端側にペプチドやタンパク質が付加された場合でも、25アミノ酸の足場ペプチドの安定化作用は維持される。
【0018】
本発明の付加足場ペプチドにおいては、前記Xのアミノ酸(ペプチド1領域)、Xのアミノ酸(ペプチド2領域)、及び/又はX1011121314のアミノ酸(ペプチド3領域)の根平均二乗揺らぎ値が1.5Å以下である。
前記付加足場ペプチドにおいても、根平均二乗揺らぎ値(RMSF値)は、分子動力学計算によって求めることができる。具体的には、足場ペプチドの置換領域を、他の置換ペプチドに置換し、N末又はC末に付加されたペプチド(タンパク質)の分子モデルを構築し、同様にAmber14プログラムパッケージでそれぞれのペプチドのRMSF値を計算する。Amber ff14SB force field、GB/SA implicit solvent modelを使い、スーパーコンピューターTSUBAME3.0において10 nsの計算を行う。仮に、前記第1実施態様の足場ペプチドのN末端及び/又はC末端に任意のペプチドが付加された場合に、足場ペプチドの構造が不安定になることがあっても、前記第1提示領域、第2提示領域、及び/又は第3提示領域のアミノ酸の平均根平均二乗揺らぎ値は本明細書の記載から容易に計算できる。従って、前記第1提示領域、第2提示領域、及び/又は第3提示領域のアミノ酸の平均根平均二乗揺らぎ値が1.5Åを超える足場ペプチドを特定することができる。
【0019】
本発明の足場ペプチド(付加足場ペプチド)において、ペプチド1領域、ペプチド2領域、及び/又はペプチド3領域が任意のアミノ酸であっても、安定な構造を示すメカニズムは完全に解析されたわけではないが、以下のように推定することができる。しかしながら、本発明は以下の説明によって限定されるものではない。
本発明の足場ペプチドの骨格ペプチドは、図1に示すように亜鉛イオンに結合する亜鉛結合ペプチドである。亜鉛の結合には、3番目のシステイン、8番目のシステイン、21番目のヒスチジン、及び25番目のヒスチジンが重要な働きをしていると推定される。更に25アミノ酸の構造を維持するために、1番目のチロシン、12番目のフェニルアラニンも構造安定性に寄与していると考えられる。(しかしながら、1番目のチロシン、12番目のフェニルアラニンは別の特定のアミノ酸に置換されても、一定の構造安定性は維持される。)すなわち、亜鉛イオンに結合するための4つのアミノ酸、及び1番目のチロシン、12番目のフェニルアラニンを有することにより、本発明の足場ペプチドは、ペプチド1領域、ペプチド2領域、及び/又はペプチド3領域が任意のアミノ酸残基に置換されても、構造の変化が起こらないものと考えられる。
更に、付加足場ペプチドは、25アミノ酸の足場ペプチドのN末側及びC末側に任意のペプチド(タンパク質)が付加されているが、前記25アミノ酸の足場ペプチドが、前記のとおり、強固な構造を有しているため、N末側及びC末側に任意のペプチドが結合していても、25アミノ酸の足場ペプチドの部分の構造は、それらの影響を受けにくいと考えられる。
【0020】
本発明の足場ペプチドの第3の実施態様は、配列番号1で表されるアミノ酸配列における、1番のチロシン、2番のアラニン、12番のフェニルアラニン、20番のアルギニン、22番のイソロイシン、23番のアルギニン、及び24番のイソロイシンの1つ以上が他のアミノ酸に置換されており、且つ前記第1提示領域、第2提示領域、及び/又は第3提示領域のアミノ酸の平均根平均二乗揺らぎ値が1.5Å以下である。
前記のとおり、3番目のシステイン、8番目のシステイン、21番目のヒスチジン、及び25番目のヒスチジンが亜鉛と結合しており、本発明の足場ペプチドの構造の安定性に重要である。これ4つのアミノ酸以外の1番のチロシン、2番のアラニン、12番のフェニルアラニン、20番のアルギニン、22番のイソロイシン、23番のアルギニン、及び24番のイソロイシンも構造の安定に重要であるが、他のアミノ酸に置き換えても本発明の効果を得ることができる。本発明のアミノ酸の置換数は、最大7つであり、好ましくは6つであり、更に好ましくは5つであり、更に好ましくは4つであり、更に好ましくは3つであり、更に好ましくは2つであり、更に好ましくは1つである。このようにアミノ酸が置換されても、ペプチドの効果が得られる置換を保存的置換と称する。
【0021】
例えば、1番のチロシンは、限定されるものではないが、システイン(C)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、イソロイシン(I)、リシン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、トレオニン(T)、又はバリン(V)に置換しても安定な構造を示す。2番目のアラニン(A)は、限定されるものではないが、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、セリン(S)、又はバリン(V)へ置換しても安定な構造を示す。12番のフェニルアラニン(F)は、限定されるものではないが、メチオニン(M)、又はチロシン(Y)に置換しても安定な構造を示す。20番のアルギニン(R)は、限定されるものではないが、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスタミン(H)、ロイシン(L)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、セリン(S)、又はトレオニン(Tに置換しても安定な構造を示す。22番のイソロイシン(I)は、限定されるものではないが、アラニン(A)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、アルギニン(R)、又はトロプトファン(W)に置換しても安定な構造を示す。23番のアルギニン(R)は、限定されるものではないが、アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、リジン(K)、ロイシン(L)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)、又はトリプトファン(W)に置換しても安定な構造を示す。24番のイソロイシン(I)は、限定されるものではないが、システイン(C)、グルタミン酸(E)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、グルタミン(Q)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)、トロプトファン(W)、又はチロシン(Y)に置換しても安定な構造を示す。
【0022】
本明細書において「保存的置換」とは、アミノ酸を置換しても、そのペプチドの作用が維持される置換を意味する。例えば、限定されるものではないが、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことでできる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。非極性(疎水性)アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、例えば、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。また、化学的に類似していない場合でも、アミノ酸の構造が類似したアミノ酸残基で置き換えてもよい。例えばアスパラギン酸(D)からアラニン(A)への置換、アスパラギン(E)からアラニン(A)への置換、チロシン(Y)からフェニルアラニン(F)への置換などを挙げることができる。
【0023】
(ポリヌクレオチド)
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の足場ペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、足場ポリヌクレオチドと称することがある)。足場ポリヌクレオチドは、リンカーポリペプチドをコードするヌクレオチドを含んでもよい。
【0024】
(ベクター)
本発明のポリヌクレオチドは、限定されるものではないが、ベクターに組み込むことによって、容易に増幅させることができる。また、足場ペプチドとして、容易に発現させることができる。
前記ポリヌクレオチドを組込むベクターとしては、宿主細胞において複製可能である限り、プラスミド、ファージ、又はウイルス等のいかなるベクターも用いることができる。例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pKC30、pCFM536等の大腸菌プラスミド、pUB110等の枯草菌プラスミド、pG-1、YEp13、YCp50等の酵母プラスミド、λgt110、λZAPII等のファージのDNA等が挙げられ、哺乳類細胞用のベクターとしては、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等のウイルスDNA、SV40とその誘導体等が挙げられる。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモーターを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
【0025】
(宿主)
本明細書において「宿主」とは、前記ベクターが組込まれ、足場ペプチドを発現できる限りにおいて、限定されるものでない。例えば、ファージベクターの宿主としては、M13ファージ、fdファージ、又はT7ファージを挙げることができる。
また、細菌のベクターの宿主としては、大腸菌、ストレプトミセス、又は枯草菌を挙げることができる。更に、酵母ベクターの宿主としては、パン酵母、又はメタノール資化性酵母を挙げることができる。昆虫細胞ベクターの宿主としては、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9を挙げることができる。更に、動物細胞ベクターの宿主としては、CHO、COS、BHK、3T3、C127を挙げることができる。
【実施例0026】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】
《実施例1》
本実施例では、本発明に用いる骨格ペプチドの領域を検討した。
EGR1/ZIF268タンパク質の構造を、PDBより取得し(PDB ID: 4R2D)、下記のアミノ酸番号335~367のジンクフィンガー(ZnF)ペプチドの分子モデルを作成した。
ERPYACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIHTGQKP(配列番号2)
ジンクフィンガー(ZnF)ペプチドの根平均二乗揺らぎ(RMSF)値は、Amber16プログラムパッケージを用いた分子動力学計算によって求めた。Amber ff14SB force field、GB/SA implicit solvent modelを使い、スーパーコンピューターTSUBAME3.0において10 nsの計算を行った。
N末端およびC末端以外の残基は全てRMSF値が1.5Å以下であり、安定な構造を示した(図1A)。
【0028】
次に、前記ZnFペプチドのC末の「TGQKP」の5アミノ酸を欠如したペプチド:
(1)ERPYACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIH(配列番号4)
ZnFペプチドのN末のN末の「ERP」及びC末の「TGQKP」の5アミノ酸を欠如したペプチド:
(2)YACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIH(配列番号3)、及び
ZnFペプチドのN末のN末の「ERPY」及びC末の「TGQKP」の5アミノ酸を欠如したペプチド:
(3)ACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIH(配列番号5)
について、RMSF値を計算した。
図1に示すように、前記(1)のペプチドは、N末端のEを除き、RMSF値が1.5Å以下であり、安定な構造を示した(図1B)。また、(2)のペプチドは、すべてのアミノ酸残基のRMSF値が1.5Å以下であり、安定な構造を示した(図1C)。これに対して、前記(3)のペプチドは、8つのアミノ酸残基のRMSF値が1.5Åを超え、不安定な構造となった。
従って、ZnFのペプチドの安定的な構造を示すためにアミノ酸は、(2)YACPVESCDRRFSRSDELTRHIRIH(配列番号3)であると考えられた。
【0029】
《実施例2》
本実施例では、前記骨格ペプチドにおいて、任意の短鎖ペプチドに置換できる領域を検討した。
実施例1の(1)のペプチドに対して、下記のSZnF変異体1~9を作成し、実施例1と同じように、RMSF値を計算した。
SZnF変異体1:YACAAAACDRRFSRSDELTRHIRIH(配列番号6)
SZnF変異体2:YACAAAACAAAFSRSDELTRHIRIH(配列番号7)
SZnF変異体3:YACAAAACAAAFAAADELTRHIRIH(配列番号8)
SZnF変異体4:YACAAAACAAAFAAAAELTRHIRIH(配列番号9)
SZnF変異体5:YACAAAACAAAFAAAAALTRHIRIH(配列番号10)
SZnF変異体6:YACAAAACAAAFAAAAAATRHIRIH(配列番号11)
SZnF変異体7:YACAAAACAAAFAAAAAAARHIRIH(配列番号12)
SZnF変異体8:YACAAAACAAAFAAAAAAAAHIRIH(配列番号13)
SZnF変異体9:YACAAAACAAAFAAAAAAARHAAAH(配列番号14)
図3に示すように、骨格ペプチドの4~7のアミノ酸、9~11のアミノ酸、及び13~19のアミノ酸の一部又は全部をアラニンに置換したSZnF変異体1~7のペプチドは、RMSF値がほぼ1.5Å以下であり、安定な構造を示した。一方、20番目のアルギニン(R)をアラニン(A)に置換したSZnF変異体8及び22~24のアミノ酸を「AAA」に置換したSZnF変異体9は、RMSF値が1.5Åを超えるアミノ酸があった。
従って、任意のアミノ酸に置換できる領域は、骨格ペプチドの3~7番目(ペプチド1領域)、9~11番目(ペプチド2領域)、及び13~19番目(ペプチド3領域)であることが分かった。
【0030】
《実施例3》
本実施例では、前記ペプチド1領域、ペプチド2領域、及びペプチド3領域のアミノ酸を任意のアミノ酸に置換して、RMSF値を計算した。
置換したアミノ酸配列は、表1に示す。9つのペプチドで、ペプチド1領域、ペプチド2領域、及びペプチド3領域の平均RMSF値は、1.5Å以下であり、安定な構造を示した。
【0031】
【表1】
【0032】
《実施例4》
本実施例では、前記足場ペプチドの1番目のチロシン(Y)、2番目のアラニン(A)、12番のフェニルアラニン(F)、20番のアルギニン(R)、22番のイソロイシン(I)、23番のアルギニン(R)、及び24番のイソロイシン(I)をそれぞれ、別のアミノ酸に置換して、前記ペプチド1領域、ペプチド2領域、及びペプチド3領域の平均RMSF値を計算した。
表2に1番目のチロシン(Y)を他の19種のアミノ酸に置換した場合の、ペプチド1領域、ペプチド2領域、及びペプチド3領域の平均RMSF値を示す。チロシンを、システイン(C)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、イソロイシン(I)、リシン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、トレオニン(T)、バリン(V)に置換した場合、ペプチド1領域、ペプチド2領域、及びペプチド3領域の平均RMSF値は、1.5Å以下であり、安定な構造を示した。
【0033】
【表2】
【0034】
2番目のアラニン(A)、12番のフェニルアラニン(F)、20番のアルギニン(R)、22番のイソロイシン(I)、23番のアルギニン(R)、及び24番のイソロイシン(I)についても同様の計算を行い、ペプチド1領域、ペプチド2領域、及びペプチド3領域の平均RMSF値が1.5Å以下であり、安定な構造を示すアミノ酸の置換を表3にまとめた。2番目のアラニン(A)は、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、セリン(S)、又はバリン(V)への置換は安定な構造を示した。12番のフェニルアラニン(F)は、メチオニン(M)、又はチロシン(Y)への置換は安定な構造を示した。20番のアルギニン(R)は、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスタミン(H)、ロイシン(L)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、セリン(S)、又はトレオニン(T)への置換は安定な構造を示した。22番のイソロイシン(I)は、アラニン(A)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、アルギニン(R)、又はトロプトファン(W)への置換は安定な構造を示した。23番のアルギニン(R)は、アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、リジン(K)、ロイシン(L)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)、又はトリプトファン(W)への置換は安定な構造を示した。24番のイソロイシン(I)は、システイン(C)、グルタミン酸(E)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、グルタミン(Q)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)、トロプトファン(W)、又はチロシン(Y)への置換は安定な構造を示した。
【0035】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の足場ペプチドは、ペプチド医薬品として用いることができる。
図1
図2
図3
【配列表】
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