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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061950
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】黒色石英ガラスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/083 20060101AFI20220412BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C03C3/083
C03B20/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146784
(22)【出願日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2020169478
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390005083
【氏名又は名称】東ソ-・エスジ-エム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】国吉 実
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 学
【テーマコード(参考)】
4G014
4G062
【Fターム(参考)】
4G014AH23
4G062AA01
4G062BB02
4G062DA06
4G062DB04
4G062DC01
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA10
4G062EB01
4G062EC01
4G062ED01
4G062EE01
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
4G062FB04
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM23
4G062NN05
4G062NN29
(57)【要約】
【課題】優れた遮光性を有し、使用される工程において汚染を引き起こすおそれがなく、大型化した際に色の均一性が十分であり、大型のインゴットが作成可能な黒色石英ガラス、この黒色石英ガラスを、大型のインゴットであっても、優れた生産性で製造できる方法、およびこの黒色石英ガラスを用いた黒色石英ガラス製品を提供する。
【解決手段】SiO2が63~65質量%、TiO2が18~24質量%、およびAl23が12~17質量%の組成(SiO2、TiO2およびAl23の合計は100質量%)からなる黒色石英ガラス。SiO2粉末63~65質量%、TiO2粉末18~24質量%およびAl23粉末12~17質量%を混合し、混合粉末を型に充填した後、無酸素雰囲気で最高温度1700~1900℃にて溶融し、室温まで冷却して上記黒色石英ガラスを得ることを含む、黒色石英ガラスの製造方法。上記黒色石英ガラスを用いた黒色石英ガラス部材を含む製品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2が63~65質量%、TiO2が18~24質量%、およびAl23が12~17質量%の組成(但し、SiO2、TiO2およびAl23の合計は100質量%)からなる黒色石英ガラス。
【請求項2】
波長350nm~750nmにおけるSCE反射率が8%以下である、請求項1に記載の黒色石英ガラス。
【請求項3】
***表示系の明度L*が20以下、彩度a*の絶対値が2以下およびb*の絶対値が9以下である、請求項1または2に記載の黒色石英ガラス。
【請求項4】
Si、Ti、Al以外の金属不純物の含量が各々1ppm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
【請求項5】
密度が2.3g/cm3以上、2.8g/cm3以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
【請求項6】
黒色石英ガラスは、以下の腐蝕曝露試験により得られる腐食速度が同じ腐蝕曝露試験により得られる溶融石英ガラスの腐食速度と比較して1/5以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
腐蝕曝露試験:(1)20mm×20mm×2mm厚のガラスサンプルを調製し、その表面に光学鏡面を形成した後、7mm×7mm部分をマスクする。(2)反応性イオンエッチング装置を用い、CF4ガス、O2ガス及びArを同時に流しながら、装置内圧力を14Paとして、マスクを施したガラス表面全体を、200Wで4時間エッチングする。(3)ガラス表面からマスクを取り除き、マスク部と腐蝕を受けた非マスク部との段差量を測定する。(4)腐食速度を段差量/エッチング時間で算出する。
【請求項7】
30℃から600℃の範囲における熱膨張率が20×10-7/℃以上、30×10-7/℃以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
【請求項8】
波長200nm~3000nmにおける光透過率が厚さ1mmで0.1%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
【請求項9】
SiO2粉末63~65質量%、TiO2粉末18~24質量%およびAl23粉末12~17質量%を混合し、混合粉末を型に充填した後、無酸素雰囲気で最高温度1700~1900℃にて溶融し、室温まで冷却して請求項1~8のいずれか1項に記載の黒色石英ガラスを得ることを含む、黒色石英ガラスの製造方法。
【請求項10】
無酸素雰囲気は、100Pa以下の減圧、N2雰囲気、Ar雰囲気、He雰囲気またはこれらの組み合わせである、請求項9に記載の黒色石英ガラスの製造方法。
【請求項11】
混合粉末を充填する型の形状を機械加工後形状の相似形とし、かつ体積を機械加工後形状の1.01以上とする、請求項9または10に記載の黒色石英ガラスの製造方法。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の黒色石英ガラスを用いた黒色石英ガラス部材を含む製品。
【請求項13】
黒色石英ガラス部材が、光学部品、遮光部材または赤外線熱吸収/蓄熱部材である請求項12に記載の製品。
【請求項14】
光学部品が、分光セル、プロジェクターのリフレクター、または光ファイバーのコネクターであり、遮光部材が、半導体製造装置または赤外線加熱装置の遮光部材である、請求項13に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色石英ガラスとその製造方法並びに黒色石英ガラス製品に関する。より詳細には、本発明は、光学分析用の石英ガラスセル、プロジェクターのリフレクター、光ファイバーのコネクター、半導体製造装置や赤外線加熱装置の遮光部材、赤外線熱吸収/蓄熱部材などに使用することができる黒色石英ガラス、この黒色石英ガラスを効率よく得る製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスは、その紫外域から赤外域にわたる良好な光透過性や低熱膨張性、耐薬品性を生かして照明機器、光学機器部品、半導体工業用部材、理化学機器等の様々な用途に用いられている。その中で、石英ガラスに微量の遷移金属酸化物を添加した黒色ガラスは局所的な遮光が必要な部位に用いられ、光学分析用の石英ガラスセル等、光学機器部品に利用されている。しかしながら近年、部品の微細化/薄型化が進んでおり従来の黒色ガラスでは遮光性が不足する場合が生じており、より遮光性が高い黒色石英ガラスが求められている。
【0003】
また、プロジェクター用途においては投影画面をより明るくするためのバルブの高輝度化に伴いプロジェクター内部の光学系への悪影響を防止する為にリフレクターからの漏洩光を効率的に遮光できる黒色石英ガラスが求められている。
【0004】
光ファイバー用途においては、光ファイバーを接続するコネクターにおいて、漏洩光による乱反射を防止する必要があるが、光伝送密度の増加に伴い、より遮光性が高い黒色石英ガラスが求められている。
【0005】
更に、石英ガラスは高耐熱性、化学的高純度等の特長も有し、半導体製造用の治具などにも多く用いられている。しかしながら近年、半導体製造プロセスの熱処理工程において、加熱ロスが問題となっており、赤外光を用いた加熱プロセスにおいて、加熱対象物以外の赤外線照射からの遮蔽部材や加熱対象物への効率的な加熱の為の赤外線熱吸収/蓄熱部材が必要になっている。このことから、赤外線を効果的に遮蔽し、赤外線熱吸収/蓄熱性に優れ、かつ大型部材の製造が可能で、しかも工程汚染の原因となる金属不純物を含有しない黒色石英ガラスの開発が求められている。
【0006】
従来、シリカを主成分とする黒色石英ガラスとして以下のようなものが知られている。
【0007】
例えば、特許文献1では、石英ガラス粉末と五塩化ニオブを混合し、五塩化ニオブを五酸化ニオブに変換した後に1800℃以上に加熱して還元溶融することによる黒色石英ガラスの製造方法が提案されている。
【0008】
特許文献2では、シリカ多孔質ガラスに炭素源となりうる揮発性有機珪素化合物を気相反応させた後、1200℃以上2000℃以下の温度で加熱焼成して有機珪素化合物由来の炭素を含有する黒色石英ガラスを製造することが提案されている。
【0009】
特許文献3では、溶融石英ガラスを粉末化したヒューズドシリカ粉末とケイ素含有粉末を湿式混合した後、鋳込み法で成形して乾燥し、得られた成形体をケイ素の溶融温度未満の焼結温度、1350~1435℃、で加熱することにより、元素形態のSiの領域が埋め込まれたヒューズドシリカのマトリックスを有する複合材料としての黒色石英ガラスを製造することが提案されている。
【0010】
特許文献4には、ガラス焼結体のマトリックス中に体積割合で0.1%~30%の着色粒子としてカーボンを分散させた着色ガラス焼結体が提案されている。
【0011】
特許文献5には、TiO2含有シリカガラスを開示する。このシリカガラスの製造方法として、ガス化可能なSi前駆体およびTi前駆体を火炎加水分解して得られるスートを堆積させて得た多孔質TiO2-SiO2ガラス体にフッ素を含有させた後、最後にガラス化温度まで昇温して、黒色石英ガラスを得る方法が提案されている。
【0012】
特許文献6には、着色アルミナ質焼結体が開示されている。この焼結体は、Al23とTiO2とCr23および焼結助剤成分としてCaOとSiO2とMgOを混合し、還元性雰囲気中で焼成して得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2014-94864号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2013-1628号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2020-73440号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2003-146676号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2005-194118号公報(特許請求の範囲および発明を実 施するための最良の形態)
【特許文献6】特開2000-327405号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら特許文献1に記載の黒色石英ガラスは大型化した際に色の均一性が十分でない場合があり、生産性に課題があった。また含有するニオブ化合物が使用される工程において汚染を引き起こすおそれがあることから半導体製造分野に適用することは困難が伴った。
【0015】
特許文献2に記載の黒色石英ガラスも色の均一性に課題があり、大型化が困難であった。
また含有する炭素がパーティクルとして使用する工程において発生し汚染を引き起こすおそれがあることから半導体製造分野に適用することは困難が伴った。
【0016】
特許文献3に記載の種の黒色石英ガラスも大型化した際に色の均一性が十分でない場合があった。更に、鋳込み成形の制限から大型化に関して課題があった。又、鋳込み成形・乾燥の操作が煩雑で製造に長時間を必要とし、生産性に課題があった。
【0017】
特許文献4に記載の種の黒色石英ガラスも大型化した際に色の均一性が十分でない場合があり、更に、大型化した場合、成形体を焼結する際の破損リスクが大きくなり、大型の黒色石英ガラスが得られないという課題があった。加えてカーボンがパーティクルとして使用する工程において発生し汚染を引き起こすおそれがあることから半導体製造分野に適用することは困難が伴った。
【0018】
特許文献5に記載のTiO2含有シリカガラスは、スートを堆積させる工程が必要であり、製造が複雑で煩雑な操作が必要となり生産性に課題があった。さらに、大型化も困難であり、かつ大型化できたとしても色の均一性が十分でない場合があった。
【0019】
特許文献6に記載の着色アルミナ質焼結体は、粒界を持つことから使用する工程において減肉時に粒子脱落を起こして製品の歩留まりを低下させる等の問題があり、また製造用原料の一部は高純度粉末の入手が容易ではなく、さらに半導体製造プロセスでの忌避元素であるMg,Caが必須であることから、半導体製造プロセスに適用することは困難であるという課題もあった。
【0020】
上記従来の方法で得られる黒色石英ガラス等は、大型化した際の色の均一性の問題および汚染の問題があり、黒色石英ガラスの製造方法は、大型化が難しく、生産性に課題があるものであった。一方、着色アルミナ質焼結体は粒界に起因する歩留まり低下および、一部原料の入手困難性および半導体製造プロセスでの忌避元素を必須とするという課題があった。
【0021】
本発明が解決しようとする課題は、優れた遮光性を有し、使用される工程において汚染を引き起こすおそれがなく、大型化した際に色の均一性が十分であり、大型のインゴットが作成可能な黒色石英ガラスを提供することである。
【0022】
本発明が解決しようとする別の課題は、上記課題を解決する黒色石英ガラスを、大型のインゴットであっても、優れた生産性で製造できる方法を提供することである。
【0023】
本発明さらなる課題は、前記黒色石英ガラスを用いて作製した分光セルなどの光学部品、半導体製造装置や赤外線加熱装置の遮光部材や赤外線熱吸収/蓄熱部材などの黒色石英ガラス製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、SiO2を主成分とし、TiO2およびAl23が所定の範囲で含まれる石英ガラスが優れた遮光性を有する黒色石英ガラスであること、この黒色石英ガラスが、SiO2粉末、TiO2粉末およびAl23粉末を所定組成で混合し溶融させることにより、均一でガラス中にクラックや気泡が無い状態で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
本発明は、以下の通りである。
[1]
SiO2が63~65質量%、TiO2が18~24質量%、およびAl23が12~17質量%の組成(但し、SiO2、TiO2およびAl23の合計は100質量%)からなる黒色石英ガラス。
[2]
波長350nm~750nmにおけるSCE反射率が8%以下である、[1]に記載の黒色石英ガラス。
[3]
***表示系の明度L*が20以下、彩度a*の絶対値が2以下およびb*の絶対値が9以下である、[1]または[2]に記載の黒色石英ガラス。
[4]
Si、Ti、Al以外の金属不純物の含量が各々1ppm以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
[5]
密度が2.3g/cm3以上、2.8g/cm3以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
[6]
黒色石英ガラスは、以下の腐蝕曝露試験により得られる腐食速度が同じ腐蝕曝露試験により得られる溶融石英ガラスの腐食速度と比較して1/5以下である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
腐蝕曝露試験:(1)20mm×20mm×2mm厚のガラスサンプルを調製し、その表面に光学鏡面を形成した後、7mm×7mm部分をマスクする。(2)反応性イオンエッチング装置を用い、CF4ガス、O2ガス及びArを同時に流しながら、装置内圧力を14Paとして、マスクを施したガラス表面全体を、200Wで4時間エッチングする。(3)ガラス表面からマスクを取り除き、マスク部と腐蝕を受けた非マスク部との段差量を測定する。(4)腐食速度を段差量/エッチング時間で算出する。
[7]
30℃から600℃の範囲における熱膨張率が20×10-7/℃以上、30×10-7/℃以下である[1]~[6]のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
[8]
波長200nm~3000nmにおける光透過率が厚さ1mmで0.1%以下である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の黒色石英ガラス。
[9]
SiO2粉末63~65質量%、TiO2粉末18~24質量%およびAl23粉末12~17質量%を混合し、混合粉末を型に充填した後、無酸素雰囲気で最高温度1700~1900℃にて溶融し、室温まで冷却して[1]~[8]のいずれか1項に記載の黒色石英ガラスを得ることを含む、黒色石英ガラスの製造方法。
[10]
無酸素雰囲気は、100Pa以下の減圧、N2雰囲気、Ar雰囲気、He雰囲気またはこれらの組み合わせである、[9]に記載の黒色石英ガラスの製造方法。
[11]
混合粉末を充填する型の形状を機械加工後形状の相似形とし、かつ体積を機械加工後形状の1.01以上とする、[9]または[10]に記載の黒色石英ガラスの製造方法。
[12]
[1]~[8]のいずれか1項に記載の黒色石英ガラスを用いた黒色石英ガラス部材を含む製品。
[13]
黒色石英ガラス部材が、光学部品、遮光部材または赤外線熱吸収/蓄熱部材である[12]に記載の製品。
[14]
光学部品が、分光セル、プロジェクターのリフレクター、または光ファイバーのコネクターであり、遮光部材が、半導体製造装置または赤外線加熱装置の遮光部材である、[13]に記載の製品。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、均一でガラス中にクラックや気泡が無く、高遮光性を有する黒色石英ガラスを提供することができる。この黒色石英ガラスは、透明石英ガラスの持つ良好な加工性、低発塵性を失うことなく、均一で遮光性に優れる。そのため、光学分析用の石英ガラスセル、プロジェクターのリフレクター、光ファイバーのコネクター、半導体製造装置や赤外線加熱装置の遮光部材、赤外線熱吸収/蓄熱部材等に好適に利用できる。また本発明の製造方法によれば、高純度でかつ透明石英ガラスの持つ良好な加工性、低発塵性を失うことなく、黒色石英ガラスを容易に生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<黒色石英ガラス>
本発明の黒色石英ガラスについて説明する。本発明の黒色石英ガラスは、SiO2が63~65質量%で主成分であり、TiO2が18~24質量%、およびAl23が12~17質量%の組成を有し、SiO2、TiO2およびAl23の合計は100質量%である。この組成範囲にあることで、均一でクラックや気泡が無く黒色の石英ガラスを特異的に得られる。この組成範囲を外れると、色むらや気泡の含有等が発生し、均一なガラス相にならず、透明石英ガラスの持つ良好な加工性、低発塵性を失う。本発明の黒色石英ガラスの組成範囲は、好ましくはSiO2が63.5~65.0質量%、TiO2が18.5~23.5質量%、およびAl23が12.5~17.0質量%の範囲である。
【0028】
本発明の黒色石英ガラスは、波長350nm~750nmにおけるSCE反射率が8%以下であることが好ましい。波長350nm~750nmにおけるSCE反射率は、JIS Z 8722に準拠して測定される。SCE反射率が8%以下であることで優れた遮光性を示す。SCE反射率は遮光性に優れるという観点からは低いことが好ましく、好ましくは7%以下であり、より好ましくは5%以下である。SCE反射率の下限値には特に制限はないが、1%であることができる。
【0029】
本発明の黒色石英ガラスは、L***表示系の明度L*が20以下であることが好ましく、彩度a*の絶対値が2以下およびb*の絶対値が9以下であることが好ましい。明度L*が20以下であることで、色むらが発生しないばかりか、光の透過、迷光、散乱を発生させない十分な黒系色を呈することができる。また、彩度a*の絶対値が2以下およびb*の絶対値が9以下であることで、ガラス体の色調がより黒色になり、低いSCE反射率を有する黒色石英ガラスが得られる。明度L*は、好ましくは18以下であり、彩度a*の絶対値が1.8以下およびb*の絶対値が8.5以下であることが、色調がより黒色になり好ましい。
【0030】
本発明の黒色石英ガラスは、Si、Ti、Al以外の金属不純物の含量は各々1ppm以下であることが好ましい。金属不純物含量が1ppm以下であることで、半導体の製造等における行程汚染の発生を抑制できる。又、光学分析用等の分野における蛍光発生等による精度への悪影響を抑制することもできる。Si元素以外の金属不純物の含量は、例えば、原子吸光分析等の方法で分析することができる。
【0031】
本発明の黒色石英ガラスは、密度が2.3g/cm3以上2.8g/cm3以下の範囲であることができる。密度は透明石英ガラスにTiO2およびAl23を溶融ガラス化した理論密度とほぼ一致する。密度は、好ましくは2.4g/cm3以上2.7g/cm3以下の範囲である。
【0032】
本発明の黒色石英ガラスは、反応性イオンエッチング装置(200W)を用い、CF4ガス、O2ガス及びArを同時に流す腐食環境下において、腐食速度が溶融石英ガラスの腐食速度の1/5以下であることができる。対照として用いる溶融石英ガラスは、天然水晶粉を酸水素バーナーで加熱溶融して作製したものである。このような耐食性に優れた黒色石英ガラスは、半導体製造用部材、液晶製造用部材、MEMS製造用部材等として用いることで、腐蝕環境でもパーティクル発生やスリップを大幅に低減可能になる。
【0033】
本発明の黒色石英ガラスは、熱膨張率が20×10-7/℃以上、25×10-7/℃以下であることができる。アルミナセラミックスの熱膨張係数が80×10-7/℃、チタニアセラミックスの熱膨張係数が70~100×10-7/℃であることと比較して1/3から1/4程、膨張率が小さい。その為、プロジェクターの光学系等の高温で寸法精度を要求される環境下で好適に用いることができる。
【0034】
本発明の黒色石英ガラスは、波長200nm~3000nmにおける光透過率が厚さ1mmで0.1%以下であることが好ましい。波長200nm~3000nmにおける光透過率は、分光光度計で測定される。光透過率が0.1%以下であることで優れた遮光性を示す。光透過率は遮光性に優れるという観点からは低いことが好ましく、好ましくは0.07%以下であり、より好ましくは0.05%以下である。光透過率の下限値には特に制限はないが、0.01%であることができる。
【0035】
<黒色石英ガラスの製造方法に>
本発明の黒色石英ガラスの製造方法について説明する。
本発明の黒色石英ガラスの製造方法は、SiO2粉末63~65質量%、TiO2粉末18~24質量%およびAl23粉末12~17質量%を混合し、混合粉末を型に充填した後、無酸素雰囲気で最高温度1700~1900℃にて溶融し、室温まで冷却して本発明の黒色石英ガラスを得ることを含む。
【0036】
SiO2粉末、TiO2粉末およびAl23粉末は、不純物含有量が少ない黒色石英ガラスが得られるという観点から、高純度粉末であることが好ましい。SiO2粉末、TiO2粉末およびAl23粉末の高純度粉末は、市販品として容易に入手できる。高純度粉末は、Si、Ti、Al以外の金属不純物の含量が各々1ppm以下であることが好ましい。原料粉末の粒径や形状等には特に制限はないが、3成分が均一に混合分散されるように各原料の粒径や形状を適宜選ぶことが好ましい。また、混合粉末の溶融が容易であるという観点からは、比較的粒径は小さいことが好ましく、例えば、平均粒径が0.1~300μmの範囲であることができる。
【0037】
原料を乾燥粉末の状態で混合して原料粉末を得る。SiO2粉末とTiO2粉末およびAl23粉末の割合は黒色石英ガラスの組成に応じて、それぞれ63~65質量%、18~24質量%、および12~17質量%の範囲から選択する。通常、SiO2、TiO2およびAl23の溶融物は分相やクラックおよび目視レベルの気泡が多量に発生し、得られたガラスは実用に耐えうるものではない。しかしながら、本発明の組成範囲においては驚くべきことに均一でガラス中に分相やクラック、気泡が無く、黒色を呈する石英ガラスが得られることが本発明者らの検討で判明した。さらに、得られた石英ガラスは、良好な加工性、低発塵性を失うことがない高遮蔽性の黒色石英ガラスであった。原料粉末の混合は、例えば、撹拌型混合機、ボールミル、ロッキングミキサー、クロスミキサー、V型混合機などの一般的な混合装置を用い達成できる。
【0038】
混合により得られた原料粉末を所望の形状の型に充填する。型の形状は特に制限はないが、機械加工後の形状の相似形で体積を1.01倍以上とすることが、機械加工後の製品形状に近く効率よく製品を得られるという観点から望ましい。型は、特に制限はないが、例えば、炭素製の型であることができる。
【0039】
原料粉末の溶融は、型に充填した粉末原料を、無酸素雰囲気で最高温度を1700~1900℃、好ましくは1750~1850℃で加熱して行う。最高温度が1700℃より低いとガラス化が不十分となる。1900℃を超えるとSiO2の気化が始まり好ましくない。無酸素雰囲気とは、例えば、100Pa以下の減圧、N2雰囲気、Ar雰囲気、He雰囲気、またはこれらの組み合わせである。例えば、100Pa以下の減圧にした後にN2、ArまたはHe雰囲気とすることや、さらにその後に減圧して、減圧のN2、ArまたはHe雰囲気とすることもできる。無酸素雰囲気で加熱溶融してガラス化することで、黒色の石英ガラスが得られる。酸素含有雰囲気で加熱溶融してガラス化しても、黒色化しにくいか、または黒色化した石英ガラスが得られない。加熱溶融時間には特に制限はないが、例えば、0.1~10時間である。但し、この範囲に限定される意図ではない。溶融後に室温まで冷却し、型から取り外すことにより本発明の黒色石英ガラスのインゴットが得られる。
【0040】
上述の工程を経て、得られる黒色石英ガラスのインゴットを、石英部材を製造する際に使用されるバンドソー、ワイヤーソー、コアドリル等の加工機により加工し黒色石英ガラスの製品を得ることができる。
【0041】
このようにして得られた黒色石英ガラスは、色むらがなく、光の透過、迷光、散乱を発生させない十分な黒系色を呈しており、光学分野全般において有用である。
【0042】
<黒色石英ガラス部材を含む製品>
本発明は、上記本発明の黒色石英ガラスを用いた黒色石英ガラス部材を含む製品を包含する。黒色石英ガラス部材は、例えば、光学部品、遮光部材または赤外線熱吸収/蓄熱部材であることができる。光学部品は、例えば、分光セル、プロジェクターのリフレクター、または光ファイバーのコネクターであり、遮光部材は、例えば、半導体製造装置または赤外線加熱装置の遮光部材である。但し、これらの部材に限定する意図ではない。
【0043】
本発明の黒色石英ガラスは半導体製造プロセスでの忌避元素を含有せず、半導体製造に用いる熱処理装置の部材に好適である。例えば、ウェハー熱処理装置において、加熱用の赤外線を透過させる面以外の部分を本発明の黒色石英ガラスで構成することにより炉外に放射される熱を効率的に遮蔽し、エネルギー効率の向上と炉内温度分布の均一化が可能となる。
【実施例0044】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるも
のではない。
【0045】
試料特性は以下のように測定した。
(1)試料の密度はアルキメデス法により測定した。
(2)SCE反射率は、試料を厚さ7mmに加工し、分光測色計を用いてJIS Z 8722に準拠して測定した。360~740nmの波長域で最も高い数値を記載した。
(3)L***表示系の明度L*および彩度a*、b*は分光測色計を用いてJIS Z 8722に準拠して測定した。
(4)熱膨張率は、試料を3×4×20mmLに加工し、30~600℃の条件で、熱機械分析法(TMA法)により測定した。
(5)光透過率は、試料を厚さ1mmに加工し、分光光度計を用いて200~3000nmの範囲で測定した。
【0046】
(6)腐食速度測定のための腐蝕曝露試験:
(1)20mm×20mm×2mm厚のガラスサンプルを調製し、その表面に光学鏡面を形成した後、7mm×7mm部分をマスクする。(2)反応性イオンエッチング装置を用い、CF4ガス、O2ガス及びArを同時に流しながら、装置内圧力を14Paとして、マスクを施したガラス表面全体を、200Wで4時間エッチングする。(3)ガラス表面からマスクを取り除き、マスク部と腐蝕を受けた非マスク部との段差量を測定する。(4)腐食速度を段差量/エッチング時間で算出する。対照として用いる溶融石英ガラスは、天然水晶粉を酸水素バーナーで加熱溶融して作製したものである。
【0047】
(実施例1)
Si以外の金属不純物の含量が各々1ppm以下であるSiO2粉末、Ti以外の金属不純物の含量が各々1ppm以下であるTiO2粉末、及びAl以外の金属不純物の含量が各々1ppm以下であるAl23粉末を用意した。SiO2粉末64.5質量%とTiO2粉末18.6質量%およびAl23粉末16.9質量%を、溶媒を用いずボールミルで混合した。得られた原料粉末を型に充填し、窒素雰囲気中で最高温度1800℃にて20分加熱して溶融した。溶融後、室温まで冷却し黒色石英ガラスを得た。得られた黒色石英ガラスの物性は以下のとおりであった。密度は2.6g/cm3、SCE反射率は3.3%以下、光透過率は200~3000nmの範囲で0.05%以下、熱膨張率は25×10-7/℃、L***表示系の明度L*は8.9、彩度a*は1.1、b*は-6.8であった。腐蝕曝露試験における腐食速度は9.55nm/分であり、溶融石英ガラスの51.79nm/分と比較して1/5.4であった。得られた黒色石英ガラスは、光の透過、迷光、散乱を発生させない十分な黒系色を呈しており、気泡、クラック、色むらなく、美観上も優れていることを目視で確認した。
【0048】
(実施例2)
実施例1と同様のSiO2粉末、TiO2粉末、及びAl23粉末を用い、SiO2粉末63.9質量%とTiO2粉末23.2質量%およびAl23粉末12.9質量%を、溶媒を用いずボールミルで混合した。得られた原料粉末を型に充填し、窒素雰囲気中で最高温度1800℃にて20分加熱して溶融した。溶融後、室温まで冷却し黒色石英ガラスを得た。得られた黒色石英ガラスの物性は以下のとおりであった。密度は2.6g/cm3、SCE反射率は4.1%以下、光透過率は200~3000nmの範囲で0.06%以下、熱膨張率は28×10-7/℃、L***表示系の明度L*は13.1、彩度a*は0.6、b*は-7.1であった。腐蝕曝露試験における腐食速度は9.92nm/分であり、溶融石英ガラスの51.79nm/分と比較して1/5.2であった。得られた黒色石英ガラスは、光の透過、迷光、散乱を発生させない十分な黒系色を呈しており、気泡、クラック、色むらなく、美観上も優れていることを目視で確認した。
【0049】
(比較例1)
実施例1と同様のSiO2粉末、TiO2粉末、及びAl23粉末を用い、SiO2粉末85.4質量%とTiO2粉末11.2質量%およびAl23粉末3.4質量%を、溶媒を用いずボールミルで混合した。得られた原料粉末を型に充填し、窒素雰囲気中で最高温度1800℃にて20分加熱して溶融した。溶融後、室温まで冷却した。得られた溶融体には色むら、気泡、クラックが発生していることを目視で確認した。
【0050】
(比較例2)
実施例1と同様のSiO2粉末、TiO2粉末、及びAl23粉末を用い、SiO2粉末51.0質量%とTiO2粉末24.0質量%およびAl23粉末25.0質量%を、溶媒を用いずボールミルで混合した。得られた原料粉末を型に充填し、窒素雰囲気中で最高温度1800℃にて20分加熱して溶融した。溶融後、室温まで冷却した。得られた溶融体には色むら、気泡、クラックが発生していることを目視で確認した。
【0051】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、黒色石英ガラスの使用および製造に関連する分野に有用である。本発明の黒色石英ガラスの製造方法によれば、透明石英ガラスの持つ良好な加工性、低発塵性を失うことなく、均一で遮光性に優れた大型の黒色石英ガラスを経済的で効率よく製造することができる。本発明の黒色石英ガラスは、光学分析用の石英ガラスセル、プロジェクターのリフレクター、光ファイバーのコネクターなどの光学部品、半導体製造装置や赤外線加熱装置の遮光部材、赤外線熱吸収/蓄熱部材に好適に用いることができる。