(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062044
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】積層膜ロールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20220412BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20220412BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20220412BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20220412BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20220412BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20220412BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20220412BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20220412BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20220412BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20220412BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/443 M
H01M50/451
H01M50/457
H01M50/403 F
H01M50/403 Z
H01M50/403 D
H01M50/434
B32B5/18
H01G11/52
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003303
(22)【出願日】2022-01-12
(62)【分割の表示】P 2017130574の分割
【原出願日】2017-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】519079636
【氏名又は名称】宇部マクセル京都株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲司
(72)【発明者】
【氏名】大西 郷平
(72)【発明者】
【氏名】仁後 昭夫
(57)【要約】
【課題】ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機粒子層が形成された積層膜であって、これをセパレータとして用い、正極および負極と積層して電極体を形成した場合における積層ずれを抑制でき、歩留まりよく電気化学素子を製造できる積層膜が巻き付けられた積層膜ロールおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】円筒形状のコア1と、コア1に巻き付けられた積層膜2とからなり、幅方向の最大外径D
1と最小外径D
2との差△R
1が、0.05~1.5mmであり、積層膜2が、ポリオレフィン微多孔フィルムと、その表面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有する積層膜ロール10とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のコアと、前記コアに巻き付けられた積層膜とからなり、
幅方向の最大外径と最小外径との差△R1が、0.05~1.5mmであり、
前記積層膜が、ポリオレフィン微多孔フィルムと、その表面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有し、
前記ポリオレフィン微多孔フィルムは、圧縮弾性率が95MPa以上150MPa以下であることを特徴とする積層膜ロール。
【請求項2】
前記ポリオレフィン微多孔フィルムは、ポリエチレン層を中間層とし、ポリプロピレン層を外層とした三層構造である請求項1に記載の積層膜ロール。
【請求項3】
前記ポリオレフィン微多孔フィルムは、重量平均分子量が50万以上のポリプロピレンを含む請求項1または請求項2に記載の積層膜ロール。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の積層膜ロールの製造方法であって、
円筒形状のコアと、前記コアに巻き付けられた圧縮弾性率が95MPa以上150MPa以下であるポリオレフィン微多孔フィルムとからなり、幅方向の最大外径と最小外径との差△R2が、0.05~1.2mmである微多孔フィルムロールから、前記ポリオレフィン微多孔フィルムを巻き出す工程と、
前記ポリオレフィン微多孔フィルム上に、無機粒子を含有し、粘度が5~80mPa・sである塗液を塗布し、乾燥させて無機粒子層を形成することにより、積層膜を形成する工程と、
前記積層膜を円筒形状のコアに巻き取る工程とを有することを特徴とする積層膜ロールの製造方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン微多孔フィルムは、ポリエチレン層を中間層とし、ポリプロピレン層を外層とした三層構造である請求項4に記載の積層膜ロールの製造方法。
【請求項6】
前記ポリオレフィン微多孔フィルムは、重量平均分子量が50万以上のポリプロピレンを含む請求項4または請求項5に記載の積層膜ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層膜ロールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池やポリマーリチウム電池、電気二重層キャパシタなどの電気化学素子がある。電気化学素子の正極と負極とを隔離するためのセパレータとしては、一般的に、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂多孔質膜が用いられている。特に、ポリオレフィンを主成分とする樹脂多孔質膜からなるセパレータは、リチウムイオン電池などの過酷な酸化還元雰囲気に対して安定であり、かつ構成樹脂の融点付近で空孔が閉塞し、いわゆるシャットダウン特性を確保できるため、広く用いられている。
【0003】
しかしながら、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂多孔質膜からなるセパレータは、熱可塑性樹脂の融点以上の温度では膜を維持する能力が不足しているため、破膜が起こりやすい。電気化学素子内でセパレータの破膜が発生すると、正極と負極とが直接接触する短絡現象が生じる虞がある。
このため、セパレータとして、樹脂多孔質膜と、その表面に形成された無機粒子などの耐熱性の高い材料を含む耐熱層とを有する積層膜が用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、樹脂多孔質膜の表面に、耐熱性微粒子を70体積%以上含有する耐熱多孔質層を有するセパレータが記載されている。
特許文献2には、ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面の濡れ指数(樹脂多孔質膜の表面張力)が40mN/m以上であり、当該面に無機フィラーと樹脂製バインダからなる多孔層を備えたセパレータが記載されている。
特許文献3には、濡れ性が40mN/m以上である表面が耐熱層に被覆されたセパレータが記載されている。
特許文献4には、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムに、フィラーと樹脂バインダとを含む被覆層を積層した積層多孔フィルムの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-123996号公報
【特許文献2】特開2008-186722号公報
【特許文献3】特開2010-21033号公報
【特許文献4】特開2013-116966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂多孔質膜と耐熱層とを有する従来の積層膜を、電気化学素子のセパレータとして用いた場合、電極体を形成する工程においてセパレータと正極と負極とを精度よく積層できず、積層ずれが生じやすかった。特に、セパレータを正極および負極とともに巻回して巻回体を作成する場合、巻ずれに起因する巻回不良が生じやすかった。このため、電極体を形成する工程における積層ずれを抑制して、電気化学素子の歩留まりを向上させることが要求されていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機粒子層が形成された積層膜であって、これをセパレータとして用い、正極および負極と積層して電極体を形成した場合における積層ずれを抑制でき、歩留まりよく電気化学素子を製造できる積層膜が巻き付けられた積層膜ロールおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機粒子層が形成された積層膜からなるセパレータと、正極および負極とを積層して電極体を形成する場合に発生する積層ずれに着目し、鋭意研究を重ねた。
その結果、セパレータとして使用する積層膜の巻き付けられた積層膜ロールとして、幅方向の最大外径と最小外径との差△R1が小さいものを用いるほど、電極体を形成する工程における積層ずれが抑制されることを見出した。これは、積層膜ロールの△R1を小さくすることで、積層膜ロールから積層膜を巻き出す際に積層膜に付与される張力が均一になり、巻き出されることに起因する積層膜の歪みが小さくなるため、高精度でセパレータを位置決めできることによるものと推定される。
【0009】
さらに、発明者らは検討を重ね、積層膜ロールの△R1を0.05~1.5mmの範囲とすることで、積層膜ロールから巻き出した積層膜をセパレータとして用いて電極体を形成する場合の積層ずれを十分に防止できることを確認し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
【0010】
(1)円筒形状のコアと、前記コアに巻き付けられた積層膜とからなり、
幅方向の最大外径と最小外径との差△R1が、0.05~1.5mmであり、
前記積層膜が、ポリオレフィン微多孔フィルムと、その表面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有することを特徴とする積層膜ロール。
【0011】
(2)前記無機粒子層は、幅方向の厚みのばらつきが0.8μm以下であることを特徴とする(1)に記載の積層膜ロール。
(3)前記無機粒子層の目付けのばらつきが、0.6g/m2以下であることを特徴とする(1)に記載の積層膜ロール。
【0012】
(4)前記無機粒子層は、無機粒子を含有する塗液を乾燥させることにより形成されたものであり、前記塗液の表面張力が、35mN/m以下であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の積層膜ロール。
(5)前記ポリオレフィン微多孔フィルムの濡れ指数が、35mN/m以下であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の積層膜ロール。
【0013】
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の積層膜ロールの製造方法であって、
円筒形状のコアと、前記コアに巻き付けられたポリオレフィン微多孔フィルムとからなり、幅方向の最大外径と最小外径との差△R2が、0.05~1.2mmである微多孔フィルムロールから、前記ポリオレフィン微多孔フィルムを巻き出す工程と、
前記ポリオレフィン微多孔フィルム上に、無機粒子を含有し、粘度が5~80mPa・sである塗液を塗布し、乾燥させて無機粒子層を形成することにより、積層膜を形成する工程と、
前記積層膜を円筒形状のコアに巻き取る工程とを有することを特徴とする積層膜ロールの製造方法。
【0014】
(7)前記塗液の表面張力が、前記ポリオレフィン微多孔フィルムの濡れ指数以下であることを特徴とする(6)に記載の積層膜ロールの製造方法。
(8)前記塗液の表面張力が、35mN/m以下であることを特徴とする(6)または(7)に記載の積層膜ロールの製造方法。
(9)前記ポリオレフィン微多孔フィルムの濡れ指数が、35mN/m以下であることを特徴とする(6)~(8)のいずれかに記載の積層膜ロールの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層膜ロールは、ポリオレフィン微多孔フィルムと、その表面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有する積層膜がコアに巻き付けられたものであり、幅方向の最大外径と最小外径との差△R1が、0.05~1.5mmである。このため、積層膜ロールから巻き出した積層膜をセパレータとして用い、正極および負極と積層して電極体を形成する場合、積層膜を巻き出す際のたるみ量が小さく、積層膜に付与される張力が均一になる。よって、セパレータの位置決めを正確に行うことができる。その結果、正極および負極とセパレータ(積層膜)との積層ずれが抑制された電極体が得られる。特に、本発明の積層膜ロールから巻き出した積層膜をセパレータとして用い、正極および負極とともに巻回して巻回体を作成した場合に、セパレータと正極と負極とを高精度で巻回しでき、巻ずれを抑制できる。よって、巻ずれに起因する巻回体の巻回不良を十分に防止でき、歩留まりよく巻回体を作成できる。
【0016】
本発明の積層膜ロールに巻き付けられた積層膜は、ポリオレフィン微多孔フィルムの表面に、無機粒子を含有する無機粒子層を有する。このため、耐熱性が良好であり、電気化学素子のセパレータとして好適である。具体的には、本発明の積層膜ロールから巻き出した積層膜をセパレータとして用いた電気化学素子は、高温下における安全性が優れたものとなる。
【0017】
本発明の積層膜ロールの製造方法によれば、幅方向の最大外径と最小外径との差△R1が、0.05~1.5mmである本発明の積層膜ロールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の積層膜ロールを説明するための模式図である。
【
図2】
図1に示す積層膜ロール10を構成する積層膜2の一例を説明するための断面模式図である。
【
図3】積層膜ロールの製造装置の一例を示した概略図である。
【
図4】ロールの幅方向の外形変化を測定する測定器の一例を示した概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の積層膜ロールおよび積層膜ロールの製造方法を、例を挙げて詳細に説明する。
「積層膜ロール」
図1は、本実施形態の積層膜ロールを説明するための模式図である。
図1に示す積層膜ロール10は、円筒形状のコア1と、コア1に巻き付けられた積層膜2とからなる。積層膜2は、電気化学素子のセパレータとして用いられるものである。具体的には、積層膜ロール10から巻き出される積層膜2は、リチウム二次電池のセパレータとして好適に用いることができる。
【0020】
図1に示す積層膜ロール10は、幅方向の最大外径D
1と最小外径D
2との差△R
1が、0.05~1.5mmである。△R
1が、1.5mmを超えると、積層膜ロール10から積層膜2を巻き出す際に、積層膜2に付与される張力が不均一になる。このため、積層膜2を巻き出すことに起因する積層膜2の歪みが大きくなり、積層膜ロール10から巻き出した積層膜2のたるみ量が大きくなる。その結果、積層膜2をセパレータとして用いた場合、電極体を形成する工程においてセパレータと正極と負極とを精度よく積層できず、積層ずれが生じやすくなる。したがって、△R
1は1.5mm以下とし、1.2mm以下とすることが好ましい。
【0021】
一方、△R1が0.05mm未満である積層膜ロール10を得るには、積層膜2をコア1に巻き付ける際に用いる製造設備の精度を大幅に向上させる必要があるし、コストアップの要因となる。したがって、△R1は0.05mm以上とし、さらに0.1mm以上とすることが好ましい。
【0022】
積層膜ロール10の幅は、300~5000mmであることが好ましい。積層膜ロール10の幅が狭いほど、△R1の小さい積層膜ロール10が得られやすい。積層膜ロール10の幅が2000mm以下であると、△R1が1.5mm以下の積層膜ロール10が容易に得られる。
【0023】
コア1に巻き付けられた積層膜2の長さ(巻き取り長さ)は、100~20000mであることが好ましい。積層膜2の巻き取り長さが長くなるほど、積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用する場合に、1本の積層膜ロール10を用いて生産できる電気化学素子の個数が増える。したがって、積層膜ロール10の入れ替えの手間が省け、電気化学素子の生産性が向上する。このことから、積層膜2の巻き取り長さは、100m以上とすることが好ましく、2000m以上とすることがより好ましく、5000m以上とすることが特に好ましい。
【0024】
一方、積層膜2の巻き取り長さが長くなりすぎると、積層膜2のコア1に対する巻回精度が低下しやすくなり、積層膜ロール10の幅方向の最大外径D1と最小外径D2との差△R1を、前記範囲に調整し難くなる。このため、積層膜2の巻き取り長さは、20000m以下とすることが好ましく、15000m以下とすることがより好ましく、10000m以下とすることが特に好ましい。
【0025】
図2は、
図1に示す積層膜ロール10を構成する積層膜2の一例を説明するための断面模式図である。
図2に示すように、積層膜2は、ポリオレフィン微多孔フィルム20と、ポリオレフィン微多孔フィルム20の表面に形成された無機粒子層3とを有している。
無機粒子層3は、
図2に示す積層膜2のように、ポリオレフィン微多孔フィルム20の一方の面(
図2では上面)に1層のみ形成されていてもよいし、一方の面に複数層形成されていてもよいし、ポリオレフィン微多孔フィルムの両面それぞれに1層または複数層形成されていてもよい。
【0026】
積層膜2の厚み(総厚み)は、セパレータとして要求される機能(正極と負極とを隔離する機能)を確保するために、6μm以上であることが好ましい。また、積層膜2の厚みは、積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、電気化学素子のエネルギー密度の低下を抑える観点から、50μm以下であることが好ましい。
【0027】
積層膜2を形成しているポリオレフィン微多孔フィルム20の厚みをTa(μm)、無機粒子層3の厚みをTb(μm)としたとき、TaとTbとの比率Ta/Tbは、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。また、上記の比率Ta/Tbは、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。上記の比率Ta/Tbが1~5であると、積層膜2全体の熱収縮が効果的に抑制される。したがって、上記の比率Ta/Tbが1~5である積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合、積層膜2(セパレータ)の熱収縮による短絡の発生を高度に抑制できる。
なお、無機粒子層3がポリオレフィン微多孔フィルム20の両面に存在する場合など、積層膜2に無機粒子層3が複数層形成されている場合、厚みTbは無機粒子層3の総厚み(合計の厚み)である。
【0028】
積層膜2全体の空孔率は、積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にする観点から、乾燥した状態で30%以上であることが好ましい。一方、積層膜2の強度の確保とセパレータとして使用した場合の内部短絡防止の観点から、積層膜2の空孔率は、乾燥した状態で70%以下であることが好ましい。
積層膜2の空孔率を30~70%とするために、ポリオレフィン微多孔フィルム20の空孔率は30~70%であることが好ましく、無機粒子層3の空孔率は20~60%であることが好ましい。
【0029】
積層膜2におけるポリオレフィン微多孔フィルム20と無機粒子層3との180°での剥離強度は、0.5N/cm以上であることが好ましく、1.0N/cm以上であることがより好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20と無機粒子層3との剥離強度が前記の値を満たす場合、無機粒子層3による積層膜2全体の熱収縮を抑制する作用がより良好となり、積層膜2をセパレータとして用いた電気化学素子の安全性が更に向上する。ポリオレフィン微多孔フィルム20と無機粒子層3との180°での剥離強度の上限値は、通常、5N/cm程度である。
【0030】
積層膜2におけるポリオレフィン微多孔フィルム20と無機粒子層3との180°での剥離強度は、以下の方法により測定される値である。
先ず、積層膜2から長さ5cm×幅2cmのサイズの試験片を切り出す。次いで、試験片の無機粒子層3の表面における片端から2cm×2cmの領域に、粘着テープを貼り付ける。粘着テープのサイズは、幅2cm、長さ5cm程度とし、粘着テープの片端と試験片の片端とが揃うように、粘着テープを貼り付ける。その後、引張試験機を用いて、粘着テープを貼り付けた試験片の粘着テープを貼り付けた端側とは反対の端側と、粘着テープの試験片に貼り付けた端側とは反対の端側とを把持して、引張速度10mm/minで引っ張り、無機粒子層3が剥離したときの強度を測定する。
【0031】
積層膜2におけるポリオレフィン微多孔フィルム20と無機粒子層3との180°での剥離強度は、無機粒子層3に含まれる後述するバインダの種類の選定、バインダの含有量の調整、無機粒子層3を形成する際に用いる塗液の表面張力の調整などにより、適宜調整できる。
【0032】
(ポリオレフィン微多孔フィルム)
ポリオレフィン微多孔フィルム20は、積層膜2の基材である。ポリオレフィン微多孔フィルム20は、例えば、積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用する際に、正極と負極とを隔離する役割を果たす。
積層膜2を形成しているポリオレフィン微多孔フィルム20としては、電気化学素子のセパレータに適用される汎用のポリオレフィン微多孔フィルムなどを用いることができる。
【0033】
ポリオレフィン微多孔フィルム20の厚みは、5~30μmであることが好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20が薄すぎると、積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、シャットダウン特性が弱くなる虞がある。ポリオレフィン微多孔フィルム20が厚すぎると、積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、電気化学素子のエネルギー密度の低下を引き起こす虞がある。また、ポリオレフィン微多孔フィルム20が厚すぎると、ポリオレフィン微多孔フィルム20の熱収縮が大きくなり、無機粒子層3による積層膜2全体の熱収縮を抑える効果が不足する虞がある。
【0034】
ポリオレフィン微多孔フィルム20は、圧縮弾性率が95MPa以上150MPa以下であることが好ましく、100~140MPaであることがより好ましく、105~130MPaであることが特に好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20の圧縮弾性率が95MPa以上150MPa以下である場合、積層膜2をコア1に巻き付けて積層膜ロール10を形成し、その後に積層膜ロール10から巻出しても、積層膜2の形状が損なわれにくい。したがって、積層膜2をセパレータとして用い、正極および負極と積層して電極体を形成した場合の積層ずれをより効果的に抑制できる。
【0035】
また、ポリオレフィン微多孔フィルム20の圧縮弾性率が上記範囲である場合、積層膜ロール10を製造する際に、ポリオレフィン微多孔フィルム20の巻き付けられた微多孔フィルムロールから巻き出されるポリオレフィン微多孔フィルム20のたるみ量が、小さいものとなる。このため、積層膜ロール10が、幅方向の最大外径D1と最小外径D2との差△R1の小さいものとなり、好ましい。
【0036】
ポリオレフィン微多孔フィルム20は、ポリプロピレンとポリエチレンのうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20がポリエチレンを含む場合には、その融点(およそ135℃)付近で溶融することにより、およそ140℃以下の温度において、空孔を塞いで電池の反応を停止させるシャットダウン効果を生じさせることが可能となる。一方、ポリオレフィン微多孔フィルム20がポリプロピレンを含む場合には、その融点(およそ170℃)が、電池の通常使用温度範囲(およそ120℃以下)よりも充分に高いことから、前記温度範囲における熱収縮の小さい微多孔フィルムを構成しやすくなる。
ポリオレフィン微多孔フィルム20は、積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、電気化学素子にシャットダウン特性を付与する点から、少なくともポリエチレンを含むことが好ましい。
【0037】
ポリオレフィン微多孔フィルム20がポリプロピレンを含む場合、重量平均分子量が50万以上のポリプロピレンを含むことが好ましい。この場合、積層膜ロール10の材料として用いるポリオレフィン微多孔フィルム20の巻き付けられた微多孔フィルムロールが、幅方向の最大外径と最小外径との差△R2の小さいものとなりやすい。このため、積層膜ロール10が、幅方向の最大外径D1と最小外径D2との差△R1の小さいものとなりやすく、好ましい。
【0038】
ポリオレフィン微多孔フィルム20がポリエチレンを含む場合、重量平均分子量が35万以上のポリエチレンを含むことが好ましい。この場合、積層膜ロール10の材料として用いるポリオレフィン微多孔フィルム20の巻き付けられた微多孔フィルムロールが、幅方向の最大外径と最小外径との差△R2の小さいものとなりやすい。このため、積層膜ロール10が、幅方向の最大外径D1と最小外径D2との差△R1の小さいものとなりやすく、好ましい。
【0039】
ポリオレフィン微多孔フィルム20は、単層のポリエチレン微多孔フィルムであってもよいし、単層のポリプロピレン微多孔フィルムであってもよいし、ポリプロピレン層とポリエチレン層とを含む多層構造であってもよい。
多層構造のポリオレフィン微多孔フィルム20は、
図2に示すように、ポリエチレン層21を中間層とし、ポリプロピレン層22、22を外層とした三層構造であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20が
図2に示す三層構造の積層微多孔フィルムである場合、耐熱性および機械的強度に優れる。さらに、
図2に示すポリオレフィン微多孔膜20は、シャットダウン温度における熱収縮が比較的小さいので、積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、安全性および信頼性のより高い電気化学素子が得られる。
【0040】
(無機粒子層)
無機粒子層3は、無機粒子を含有するものであり、積層膜2の耐熱性を高める。無機粒子層3は、
図2に示すように1層の無機粒子層で形成されていてもよいし、無機粒子層が複数積層された積層体であってもよい。
【0041】
無機粒子層3の厚み(積層膜2に無機粒子層3が複数積層されている場合には、複数の無機粒子層の合計厚み)は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが特に好ましい。無機粒子層3の厚みが薄すぎると、積層膜2全体の熱収縮を抑制する効果が十分に得られず、積層膜2の耐熱性が不足する虞がある。
また、上記の無機粒子層3の厚みは、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが特に好ましい。無機粒子層3の厚みが厚すぎると、積層膜2全体の厚みの増大を引き起こしてしまう。
【0042】
無機粒子層3は、積層膜ロール10の幅方向での厚みのばらつきが0.8μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることが特に好ましい。無機粒子層3の幅方向の厚みのばらつきが小さいほど、△R1を目的とする範囲に調整しやすくなる。
無機粒子層3は、目付けのばらつきが、0.6g/m2以下であることが好ましく、0.4g/m2以下であることがより好ましい。無機粒子層3の目付けのばらつきが小さいほど、△R1を目的とする範囲に調整しやすくなる。
【0043】
積層膜ロール10の幅方向での無機粒子層3の厚みのばらつきは、以下の方法により測定できる。
積層膜ロール10から積層膜2を長手方向に約50cm切り出し、試験片を得る。次いで、試験片を長手方向と直交する方向に折り目が生じるように折り重ね、積層膜2が10枚分の厚みで折り重ねられた状態とする。次に、折り重ねた状態の試験片の厚みを、厚み測定器を用いて、幅方向(折り目に沿う方向)に均等な間隔で測定し、各測定点での厚み(X1、X2、X3‥Xm:mは測定点の数である)をそれぞれ求める。ここで、測定点の数:mは、25程度の値とすればよい。
【0044】
また、積層膜2の材料として使用する無機粒子層3を形成する前のポリオレフィン微多孔フィルム20について、積層膜ロール10から切り出した積層膜2と同様にして、以下に示す方法により厚みを測定する。
すなわち、微多孔フィルムロールからポリオレフィン微多孔フィルム20を長手方向に約50cm切り出し、ポリオレフィン微多孔フィルム20からなる試験片を得る。次いで、ポリオレフィン微多孔フィルム20からなる試験片を、積層膜2の厚みを測定した場合と同様にして折り重ね、ポリオレフィン微多孔フィルム20が10枚分の厚みで折り重ねられた状態とする。次に、折り重ねた状態の試験片の厚みを、積層膜2の厚みを測定した場合と同様にして測定し、各測定点での厚み(Y1、Y2、Y3‥Ym:mは測定点の数である)をそれぞれ求める。ここで、測定点の数:mは、積層膜2の厚みを測定した場合と同じとする。
【0045】
折り重ねた状態の積層膜2の試験片と、折り重ねた状態のポリオレフィン微多孔フィルム20の試験片とにおける対応している各測定点の位置について、以下に示す式により、10枚分の積層膜2の厚み(Xm)と10枚分のポリオレフィン微多孔フィルム20の試験片の厚み(Ym)とから、各測定点での無機粒子層3の厚みを算出する。
各測定点での無機粒子層3の厚み=(Xm-Ym)/10
そして、各測定点での無機粒子層3の厚みの算出結果における最大値と最小値の差を求め、無機粒子層3の幅方向の厚みのばらつきとする。
【0046】
積層膜ロール10の幅方向での無機粒子層3の目付けのばらつきは、以下の方法により測定できる。
積層膜ロール10から積層膜2を長手方向に約50cm切り出し、断片を得る。次いで、断片から、長手方向の長さが10cm、幅方向の長さが5cmの矩形の試験片を、幅方向に等間隔で5~10枚程度切り出す。得られた各試験片の重量(S1、S2、S3‥Sn:nは各試験片の位置に対応した値である)を測定する。
【0047】
また、積層膜2の材料として使用する無機粒子層3を形成する前のポリオレフィン微多孔フィルム20について、積層膜ロール10から切り出した積層膜2と同様にして、試験片を切り出し、重量を測定する。
すなわち、微多孔フィルムロールからポリオレフィン微多孔フィルム20を長手方向に約50cm切り出し、ポリオレフィン微多孔フィルム20からなる断片を得る。次いで、ポリオレフィン微多孔フィルム20からなる断片から、積層膜2の断片から切り出した試験片と対応する位置および数の試験片を切り出す。その後、ポリオレフィン微多孔フィルム20からなる各試験片の重量(T1、T2、T3‥Tn:nは各試験片の位置に対応した値である)を測定する。
【0048】
断片から切り出した位置が対応している積層膜2の試験片とポリオレフィン微多孔フィルム20の試験片とを用い、積層膜2の試験片の重量(Sn)とポリオレフィン微多孔フィルム20の試験片の重量(Tn)との差(Sn-Tn)を算出し、各試験片の位置での無機粒子層3の目付けを算出する。
そして、各試験片の位置での無機粒子層3の目付けの算出結果における最大値と最小値の差を求め、無機粒子層3の幅方向の目付けのばらつきとする。
【0049】
無機粒子層3は、電気絶縁性を有する無機粒子を含むことが好ましい。
無機粒子層3に含まれる無機粒子としては、例えば、酸化鉄、シリカ、アルミナ、TiO2、BaTiO3、MgOなどの酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結合性粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性粒子;モンモリロナイトなどの粘土粒子;などが挙げられる。また、無機粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物であってもよい。無機粒子は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。無機粒子層3に含まれる無機粒子としては、上記の中でも特に、アルミナ、シリカ、ベーマイトから選ばれるいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
【0050】
無機粒子の平均粒径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。また、無機粒子の平均粒径は、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
無機粒子の平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA-920」)を用い、無機粒子を溶解しない媒体に分散させて測定した数平均粒子径として規定できる。
【0051】
無機粒子の形態としては、例えば、球状に近い形状を有していてもよく、板状の形状を有していてもよい。短絡防止の点から無機粒子の形態は、板状の粒子、または一次粒子が凝集した二次粒子であることが好ましい。板状の粒子の代表的なものとしては、板状のアルミナ、板状のベーマイトなどが挙げられる。二次粒子の代表的なものとしては、二次粒子状のアルミナ、二次粒子状のベーマイトなどが挙げられる。
【0052】
板状粒子のアスペクト比(板状粒子中の最大長さと板状粒子の厚みの比)は、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが特に好ましい。また、板状粒子のアスペクト比は、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。
板状粒子のアスペクト比は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することにより求めることができる。
【0053】
無機粒子層3中の無機粒子の割合は、70体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることが特に好ましい。無機粒子層3中の無機粒子の割合が70体積%以上であると、ポリオレフィン微多孔フィルム20の表面に無機粒子層3が形成されていることによる積層膜2の熱収縮抑制効果が顕著となる。
【0054】
無機粒子層3は、バインダを含有していてもよい。無機粒子層3中のバインダは、無機粒子層3に含まれる無機粒子同士の接着、無機粒子と他の成分との接着、無機粒子層3とポリオレフィン微多孔フィルム20との接着に寄与する。
無機粒子層3に含まれるバインダとしては、従来公知のものを用いることができ、電気化学素子の内部での電気化学的な安定性が良好で、電気化学素子の電解液に対する安定性が良好なものを用いることが好ましい。
【0055】
無機粒子層3に含まれるバインダとしては、具体的には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20~35モル%のもの)、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリル酸共重合体、フッ素樹脂[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など]、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN-ビニルアセトアミド、アクリル樹脂、ポリウレタン、ナイロン、ポリエステル、ポリビニルアセタール、エポキシ樹脂などの有機バインダが好ましく用いられる。バインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用しても構わない。
【0056】
バインダとしては、(メタ)アクリル酸エステル類をモノマーの主成分とし、これを重合した構造を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体が好ましく用いられる。本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の少なくとも一方を意味している。
【0057】
バインダとしては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の中でも、ガラス転移温度(Tg)が-20℃以下のものが更に好ましい。上記Tgが-20℃以下の(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、側鎖エステル基の末端が、炭素数2以上10以下のアルキル基であるものが好ましく、より具体的には、側鎖エステル基の末端の主体が、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、n-ヘキシル基である上記共重合体がより好ましい。側鎖エステル基の末端アルキル基の炭素数が少なすぎると、バインダのTgがより高くなって柔軟性が低下してしまう。また、側鎖エステル基の末端アルキル基の炭素数が多すぎると、側鎖同士が結晶化して、バインダの柔軟性が却って低下してしまう。
【0058】
バインダとしては、150℃以上の耐熱温度を有する耐熱樹脂を用いてもよい。150℃以上の耐熱温度を有する耐熱樹脂としては、エチレン-アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高い樹脂を用いることが好ましい。150℃以上の耐熱温度を有する耐熱樹脂の具体例としては、三井デュポンポリケミカル社製のEVA「エバフレックスシリーズ(商品名)」、日本ユニカー社製のEVA、三井デュポンポリケミカル社製のエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)「エバフレックス-EEAシリーズ(商品名)」、日本ユニカー社製のEEA、ダイキン工業社製のフッ素ゴム「ダイエルラテックスシリーズ(商品名)」、JSR社製のSBR「TRD-2001(商品名)」、日本ゼオン社製のSBR「BM-400B(商品名)」などが挙げられる。
【0059】
無機粒子層3中のバインダの含有量は、バインダの使用による作用をより有効に発揮させる観点から、無機粒子100重量部に対し、0.5重量部以上であることが好ましく、1重量部以上であることがより好ましく、2重量部以上であることが特に好ましい。また、無機粒子層3中のバインダの含有量が多すぎると、無機粒子層3の空孔がバインダによって埋められてイオンの透過性が低下し、電気化学素子の特性に悪影響が出る虞がある。
このことから、無機粒子層3中のバインダの含有量は、無機粒子100重量部に対し、10重量部以下であることが好ましく、7重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることが特に好ましい。
【0060】
(コア)
積層膜ロール10を形成しているコア1は、円筒形状を有する。コア1の材質は、特に限定されるものではないが、寸法変化を抑制するために、高い剛性を有する材料で形成されていることが好ましい。具体的には、コア1として、樹脂および/または紙などで成型されたものを用いることができる。
【0061】
コア1の外径(直径)は、100mm以上であることが好ましく、150mm以上であることがより好ましく、200mm以上であることが特に好ましい。コア1の外径を大きくすることにより、積層膜2の長さが同じである場合にコア1上に巻き重ねられる積層膜2の数(以降、「巻数」という場合がある。)を減らすことができる。その結果、積層膜ロール10の外径が均一になりやすく、幅方向の最大外径D1と最小外径D2との差△R1が上記範囲に調整されやすくなる。
【0062】
一方、コア1の外径が大きすぎると、積層膜ロール10から巻き出した積層膜2をセパレータとして用いて巻回体を作成する際の取り扱いが難くなり、生産性を低下させる虞が生じる。このため、コア1の外径は、500mm以下であることが好ましく、450mm以下であることがより好ましく、400mm以下であることが特に好ましい。
【0063】
また、積層膜ロール10における△R1を上記範囲に調整しやすくするために、コア1として側面の円筒度が小さいものを用いることが好ましい。具体的には、コア1の側面の円筒度は、0.2mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがより好ましい。
【0064】
「積層膜ロールの製造方法」
次に、積層膜ロールの製造方法の一例として、
図1に示す積層膜ロール10の製造方法を例に挙げて説明する。
積層膜ロール10を製造するには、まず、ポリオレフィン微多孔フィルム20の巻き付けられた微多孔フィルムロールを用意する。そして、微多孔フィルムロールから、ポリオレフィン微多孔フィルム20を巻き出す。
次に、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に、無機粒子層3を形成することにより、積層膜2を形成する。その後、得られた積層膜2を円筒形状のコア1に巻き取る。このことにより、積層膜ロール10が得られる。
【0065】
積層膜ロール10を製造するに際して、積層膜2の材料として使用する微多孔フィルムロールは、円筒形状のコアと、コアに巻き付けられたポリオレフィン微多孔フィルム20とからなる。本実施形態では、微多孔フィルムロールとして、幅方向の最大外径と最小外径との差△R2が0.05~1.2mmであるものを用いる。このことにより、巻き出したポリオレフィン微多孔フィルム20上に無機粒子層3を形成して得た積層膜2を、円筒形状のコアに巻き取った積層膜ロール10の外径が、均一になりやすくなる。
【0066】
本発明者らが鋭意検討した結果、円筒形状のコアと、コアに巻き付けられたポリオレフィン微多孔フィルム20とからなる微多孔フィルムロールの平坦性は、ロットによりばらつきがあることが分かった。具体的には、微多孔フィルムロールには、幅方向の最大外径と最小外径との差△R2が0.05~1.2mmの範囲である平坦性のよいものと、上記の△R2が1.2mmを超える外径の平坦性が不十分であるものとが存在することが分かった。
【0067】
そこで本発明者らは、積層膜ロール10の材料として使用する微多孔フィルムロールの△R2と、これを用いて製造された積層膜ロール10の△R1との関係に着目し、さらに検討を進めた。その結果、△R2が0.05~1.2mmである微多孔フィルムロールを用いた場合、△R2が1.2mmを超える微多孔フィルムロールを用いた場合と比較して、製造された積層膜ロール10の△R1が小さくなることが判明した。
【0068】
これは、微多孔フィルムロールの△R2が1.2mm以下であると、微多孔フィルムロールからポリオレフィン微多孔フィルム20を巻き出す際に、ポリオレフィン微多孔フィルム20に付与される張力が均一になり、巻き出すことに起因するポリオレフィン微多孔フィルム20のたるみ量が小さくなるためであると推定される。すなわち、ポリオレフィン微多孔フィルム20のたるみ量が小さいと、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に無機粒子を含有する塗液を、均一に塗布しやすくなり、厚みの均一な無機粒子層3が得られる。また、ポリオレフィン微多孔フィルム20のたるみ量が小さいと、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に無機粒子層3を形成して得た積層膜2を高精度で巻き取ることができる。
【0069】
さらに、本発明者らは検討を重ね、幅方向の最大外径D1と最小外径D2との差△R1が0.05~1.5mmである積層膜ロール10を製造するには、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に平坦性の良好な無機粒子層3を形成する必要があることが分かった。
無機粒子層3は、微多孔フィルムロールから巻き出したポリオレフィン微多孔フィルム20上に、無機粒子を含有する塗液を塗布し、乾燥させて形成する。本発明者らは鋭意検討し、△R1が0.05~1.5mmである積層膜ロール10を製造するには、積層膜ロール10の材料として△R2が1.2mm以下である微多孔フィルムロールを用いるとともに、ポリオレフィン微多孔フィルム20の濡れ指数よりも小さい表面張力を有する塗液を用いて平坦性の良好な無機粒子層3を形成すればよいことを見出した。この場合、平坦性の良好な無機粒子層3を有し、歪みが少なく高精度で巻き取りできる積層膜2が形成される。よって、積層膜2を巻き取ることにより、△R1が0.05~1.5mmである積層膜ロール10が得られる。
【0070】
無機粒子層3を形成する際に用いる無機粒子を含有する塗液の表面張力が、ポリオレフィン微多孔フィルム20の濡れ指数と同程度であるか、それよりも小さい場合、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に均一に塗液を塗布できるため、平坦性の良好な無機粒子層3が得られる。
具体的には、無機粒子を含有する塗液の表面張力は、35mN/m以下であることが好ましく、33mN/m以下であることがより好ましく、31mN/m以下であることが特に好ましい。通常、コロナ放電処理などの親水化処理を行っていないポリオレフィン微多孔フィルム20の表面張力(濡れ指数)は、31~34mN/m程度であり、35mN/m以下である。塗液の表面張力が31mN/m以下であると、塗液の表面張力がポリオレフィン微多孔フィルム20の濡れ指数以下の値となり、塗液の塗布性がより向上するので好ましい。
【0071】
無機粒子を含有する塗液の表面張力が低すぎると、塗液がポリオレフィン微多孔フィルム20の空孔内に入り込み、空孔を塞いだり、ポリオレフィン微多孔フィルム20の反対側に抜け出たりするおそれが生じる。このため、無機粒子を含有する塗液の表面張力は、15mN/m以上であることが好ましく、20mN/m以上であることがより好ましい。
【0072】
例えば、水を70質量%以上含有する分散媒に無機粒子を分散させた塗液(水系の塗液)は、表面張力が35mN/mを超え、ポリオレフィン微多孔フィルムの表面張力(濡れ指数)との差が大きくなる。この場合、塗液をポリオレフィン微多孔フィルムに塗布すると、塗液がポリオレフィン微多孔フィルムにはじかれてしまう。このため、塗液を均一にポリオレフィン微多孔フィルムに塗布しにくく、乾燥して形成された無機粒子層は、平坦性が不十分なものとなる。
【0073】
なお、ポリオレフィン微多孔フィルム20に塗液がはじかれないようにする方法として、ポリオレフィン微多孔フィルム20に表面処理を施す方法も考えられる。例えば、特許文献2および特許文献3には、ポリオレフィン微多孔フィルムの表面にコロナ放電処理やプラズマ処理などを行って、ポリオレフィン微多孔フィルム表面の濡れ性を40mN/m以上とする技術が記載されている。
【0074】
しかし、ポリオレフィン微多孔フィルム20に過度に表面処理を施すと、表面処理に伴う熱などによってポリオレフィン微多孔フィルム20がダメージを受ける。過度の表面処理により大きなダメージを受けたポリオレフィン微多孔フィルムは、力学的な強度が低下している可能性があることから、塗液の表面張力に応じて適正量の表面処理を行うことが好ましい。
【0075】
本発明において用いるポリオレフィン微多孔フィルム20の表面張力(濡れ指数(mN/m))は、日本工業規格(JIS)K-6768に準拠する方法により測定できる。
塗液の表面張力は、プレート法、ペンダントドロップ法、最大泡圧法など、従来公知の測定方法により測定できる。
【0076】
塗液の表面張力は、例えば、塗液中の分散媒の種類、含有量などを変化させる方法、塗液中に必要に応じて含有される界面活性剤の種類、含有量などを変化させる方法などにより調整できる。
【0077】
無機粒子層3を形成する際に用いる無機粒子を含有する塗液の粘度は、5~80mPa・sであり、10~50mPa・sであることが好ましい。塗液の粘度が80mPa・s以下であると、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に無機粒子を含有する塗液を均一に塗布しやすくなる。このため、塗液を塗布することにより平坦性の良好な塗膜が得られ、これを乾燥させることで平坦性の良好な無機粒子層3が形成される。よって、積層膜2を円筒形状のコアに巻き取った積層膜ロール10の外径が、均一になりやすくなる。一方、塗液の粘度が5mPa・s以上であると、必要とされる厚みの無機粒子層3となる塗膜を容易に形成できる。
【0078】
塗液の粘度は、例えば、塗液中の無機粒子の種類、形状、含有量などを変化させる方法、塗液中の分散媒の種類、含有量などを変化させる方法、必要に応じて含有されるバインダおよび/または増粘剤の種類、含有量などを変化させる方法などにより調整できる。
【0079】
ポリオレフィン微多孔フィルム20上に塗布する塗液は、上記の無機粒子を含有している。塗液としては、例えば、無機粒子を水系あるいは有機溶媒系の媒体(分散媒)に分散または溶解させたものを用いることができる。
塗液は、上記のバインダ、増粘剤、分散剤、界面活性剤などを、必要に応じて含有していてもよい。
【0080】
(分散媒)
分散媒としては、水、有機溶媒(トルエンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフランなどのフラン類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;など)、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。分散媒は、水を70質量%以上含有していることが好ましく、90質量%以上含有していることがより好ましく、実質的に水のみであることが特に好ましい。
【0081】
(増粘剤)
増粘剤としては、塗液に使用する媒体(分散媒)に対して良好に溶解または分散し得るものが好ましく用いられる。また、増粘剤としては、少量の含有量で高い増粘作用を有するものを用いることが好ましい。
【0082】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナンなどの天然多糖類;デキストリン、アルファー化でんぷんなどのでんぷん類;ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリN-ビニルアセトアミド、ビニルメチルエーテル-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらの増粘剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0083】
上記の増粘剤の中でも、特に、セルロース誘導体、天然多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびポリN-ビニルアセトアミドから選ばれる1種または2種以上が好ましく用いられる。これらの増粘剤は、水に対する溶解性が高く、少量で高い増粘効果が得られるため、好ましい。
上記の増粘剤のうち、バインダとしての機能も有する化合物については、増粘剤を兼ねるバインダとして用いることができる。
【0084】
塗液中の増粘剤の含有量は、設定しようとする塗液の粘度に応じて決定する。例えば、増粘剤の含有量は、無機粒子100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。
また、塗液中に増粘剤を含有させることにより、充分な増粘効果を発揮させるためには、増粘剤の含有量は、0.1質量部以上とすることが好ましい。
【0085】
(分散剤)
分散剤は、無機粒子を分散媒中に分散させるために用いられる。分散剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の各種界面活性剤;ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩などの高分子系分散剤;などを用いることができる。分散剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0086】
上記の分散剤の中でも、無機粒子を分散媒中に分散させる作用が強いことから、イオン解離性の酸基(カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ酸基、マレイン酸基など)またはイオン解離性の酸塩基(カルボン酸塩基、スルホン酸塩基、マレイン酸塩基など)を複数含有するものが好ましく、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩がより好ましい。また、前記の高分子系分散剤が塩の場合(酸塩基を有する場合)、アンモニウム塩であることが好ましい。
【0087】
具体的には、分散剤として、ADEKA社製の「アデカトール(商品名)シリーズ」、「アデカノール(商品名)シリーズ」、サンノプコ社製の「SNディスパーサント(商品名)シリーズ」、ライオン社製の「ポリティ(商品名)シリーズ」、「アーミン(商品名)シリーズ」、「デュオミン(商品名)シリーズ」、花王社製の「ホモゲノール(商品名)シリーズ」、「レオドール(商品名)シリーズ」、「アミート(商品名)シリーズ」、日油社製の「ファルバック(商品名)シリーズ」、「セラミゾール(商品名)シリーズ」、「ポリスター(商品名)シリーズ」、味の素ファインテクノ社製の「アジスパー(商品名)シリーズ」、東亞合成社製の「アロン分散剤(商品名)シリーズ」などを用いることができる。
【0088】
塗液中の分散剤の含有量は、分散剤の作用を有効に発揮させる観点から、無機粒子100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることが特に好ましい。塗液が無機粒子100質量部に対して、0.05質量部以上の分散剤を含む場合、塗液中で個々の無機粒子が充分に分離して分散された状態になるとともに、無機粒子の良好な分散状態が長時間維持される。このため、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に、無機粒子を含有する塗液を塗布する工程中に、塗液の状態が変化することがなく、より均質で平坦性の良好な無機粒子層3が得られる。
【0089】
一方、塗液中の分散剤の含有量が多すぎると、その効果が飽和するのみならず、塗液を塗布して形成した無機粒子層3中に残存し、無機粒子層3中で水分を吸着する。無機粒子層3中の水分は、積層膜2を電気化学素子のセパレータとして使用することにより電池内に持ち込まれ、電池特性を低下させる要因となる。このため、分散剤の含有量は、無機粒子100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.8質量部以下であることが特に好ましい。
【0090】
(界面活性剤)
界面活性剤は、塗液の表面張力を調整するために用いられる。界面活性剤としては、炭化水素系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。
界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0091】
炭化水素系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、コール酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;テトラアルキルアンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤;分子内にアニオン性部位とカチオン性部位の両者を有する両性界面活性剤;アルキルグルコシドなどのノニオン性界面活性剤;などが挙げられる。
【0092】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、疎水基に直鎖アルキル基、パーフルオロアルケニル基などを配したもの(パーフルオロオクタンスルフォン酸、パーフルオロカルボン酸など)などが挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサンなどが挙げられる。
【0093】
塗液中の界面活性剤の含有量は、塗液の表面張力がポリオレフィン微多孔フィルム20の表面張力(濡れ指数)と同程度か、それよりも小さくなる含有量であることが好ましい。具体的には、界面活性剤の含有量は、媒体100質量部に対して、0.05質量部以上とすることが好ましく、0.07質量部以上とすることがより好ましく、0.1質量部以上とすることが特に好ましい。
【0094】
塗液中の界面活性剤の含有量が多すぎると、積層膜2におけるポリオレフィン微多孔フィルム20と無機粒子層3との密着性が低下して、例えば、180°での剥離強度が好適値になりにくくなる。ポリオレフィン微多孔フィルム20と無機粒子層3との密着性が低下すると、無機粒子層3による積層膜2の熱収縮を抑制する作用が不十分となる虞がある。また、塗液中の界面活性剤の含有量が多すぎると、塗液および/または媒体がポリオレフィン微多孔フィルム20の空孔を通って無機粒子層3を形成する側と反対側の面に抜ける裏抜けが起こりやすくなる。裏抜けが生じると、塗液および/または分散媒が、塗液を塗布する装置のバックアップロールなどを濡らして、ポリオレフィン微多孔フィルム20のハンドリングが低下し、塗液が均一に塗布されにくくなる。よって、塗液中の界面活性剤の含有量は、媒体100質量部に対して、1.5質量部以下とすることが好ましく、1質量部以下とすることがより好ましく、0.5質量部以下とすることが更に好ましい。
【0095】
無機粒子層3を形成する際に用いる無機粒子を含有する塗液は、公知の方法を用いて、無機粒子と、必要に応じて含有されるバインダ、増粘剤、分散剤、界面活性剤などとを、分散媒に分散または溶解させることにより得られる。
【0096】
無機粒子層3は、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に、無機粒子を含有する塗液を塗布し、乾燥させることに形成する。このことにより、積層膜2が形成される。
ポリオレフィン微多孔フィルム20上に塗液を塗布する方法としては、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、ダイコーターなどの塗工装置を用いる方法が挙げられる。
【0097】
塗布した塗液を乾燥させる乾燥条件は、ポリオレフィン微多孔フィルム20の樹脂を形成しているポリオレフィンの融点よりも低い温度であればよい。例えば、乾燥温度は、乾燥時のポリオレフィン微多孔フィルム20の収縮を防ぐために、150℃以下とすることが好ましく、145℃以下とすることがより好ましい。一方、乾燥温度は、乾燥効率を高め、乾燥時間を短くするために、60℃以上とすることが好ましく、80℃以上とすることがより好ましい。
【0098】
次に、積層膜ロール10の製造装置について、図面を用いて説明する。
図3は、積層膜ロールの製造装置の一例を示した概略図である。
図3に示す製造装置は、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に塗液を塗布する塗布装置41と、塗液を塗布したポリオレフィン微多孔フィルム20を乾燥させる乾燥装置42と、乾燥後に得られた積層膜2を円筒形状のコア1に巻き取る巻取装置とを有する。
【0099】
図3に示す製造装置を用いて積層膜2を形成するには、先ず、微多孔フィルムロール25から、ポリオレフィン微多孔フィルム20を巻き出す。次に、塗布装置41としてのコータにより、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に、無機粒子を含有する塗液を塗布する。
その後、塗液の塗布されたポリオレフィン微多孔フィルム20を乾燥装置42の乾燥ゾーンに搬送し、所定の温度の乾燥空気を用いて乾燥させて無機粒子層3を形成することにより、積層膜2が形成される。
【0100】
次に、形成した積層膜2を巻取装置により円筒形状のコア1に巻き取る。積層膜2をコア1に巻き付ける方法は、特に限定されず、幅方向の最大外径D1と最小外径D2との差△R1が0.05~1.5mmとなるように、巻き取りの速度や張力などの巻き取り条件を適宜制御して、従来公知の方法により巻き取ることができる。
以上の工程により、本実施形態の積層膜ロール10が得られる。
【0101】
本実施形態の積層膜ロール10から巻き出した積層膜2は、例えば、電気化学素子のセパレータとして用いることができる。積層膜2を適用可能な電気化学素子としては、特に制限はない。例えば、積層膜2を適用可能な電気化学素子として、非水電解液を有する各種電気化学素子が挙げられる。具体的には、リチウムイオン電池(一次電池および二次電池)、ポリマーリチウム電池、電気二重層キャパシタなどが挙げられる。これらの中でも、特に、積層膜2は、高温での安全性が要求される用途に適用される電気化学素子のセパレータとして好適である。
【0102】
本実施形態の積層膜ロール10は、ポリオレフィン微多孔フィルム20と、その表面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層3とを有する積層膜2がコア1に巻き付けられたものであり、幅方向の最大外径D1と最小外径D2との差△R1が、0.05~1.5mmである。このため、例えば、積層膜ロール10から巻き出した積層膜2をセパレータとして用い、正極および負極と積層して電極体を形成する場合、積層膜2を巻き出す際のたるみ量が小さく、積層膜2に付与される張力が均一になる。よって、セパレータの位置決めを正確に行うことができる。その結果、正極および負極とセパレータ(積層膜2)との積層ずれが抑制された電極体が得られる。特に、積層膜ロール10から巻き出した積層膜2をセパレータとして用い、正極および負極とともに巻回して巻回体を作成した場合に、セパレータと正極と負極とを高精度で巻回しでき、巻ずれを抑制できる。よって、巻ずれに起因する巻回体の巻回不良を十分に防止でき、歩留まりよく巻回体を作成できる。
【0103】
本実施形態の積層膜ロール10に巻き付けられた積層膜2は、ポリオレフィン微多孔フィルム20の表面に、無機粒子を含有する無機粒子層3を有する。このため、耐熱性が良好であり、電気化学素子のセパレータとして好適である。具体的には、電気化学素子の内部が、ポリオレフィン微多孔フィルム20を形成しているポリオレフィン樹脂の融点以上の温度となった場合、無機粒子層3によって、積層膜2の熱収縮が抑制されるとともに、正極と負極とが直接接触することによる短絡が防止される。よって、本実施形態の積層膜ロール10から巻き出した積層膜2をセパレータとして用いた電気化学素子は、高温下における安全性が優れたものとなる。
【0104】
本実施形態の積層膜ロール10の製造方法では、微多孔フィルムロールとして幅方向の最大外径と最小外径との差△R2が0.05~1.2mmであるものを用い、ポリオレフィン微多孔フィルム20の濡れ指数よりも小さい表面張力を有する塗液を用いて無機粒子層3を形成する。このため、平坦性の良好な無機粒子層3を有し、歪みが少なく高精度で巻き取りできる積層膜2が形成される。よって、得られた積層膜2を巻き取ることにより、△R1が0.05~1.5mmである積層膜ロール10が得られる。
【0105】
本実施形態の積層膜ロール10の製造方法において、無機粒子層3を形成する際に、粘度が5~80mPa・sである塗液を用いた場合、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に、より一層均一に塗液を塗布しやすくなる。このため、より均一な外径を有する積層膜ロール10が得られる。
【0106】
本発明の積層膜ロールは、上述した実施形態の積層膜ロール10に限定されるものではない。例えば、積層膜ロール10から巻き出した積層膜2は、そのまま電極体の作製に用いてもよいが、積層膜2をスリットして電極体の作成に適した幅としてから、電極体の作成に使用してもよい。この場合、電極体の作成に適した幅とされた積層体2は、一旦巻き取って新たな積層膜ロールとしてから使用してもよい。
なお、積層膜ロール10の△R1が0.05~1.5mmであるため、スリットして電極体の作成に適した幅とされた積層体2は、歪みが少なく高精度で巻き取りできる。したがって、電極体の作成に適した幅とされた積層体2を巻き取った新たな積層膜ロールは、外径が均一になりやすく、幅方向の最大外径と最小外径との差△R3が1.5mm以下となるよう調整しやすい。本発明の積層膜ロールは、前記のように再度巻き取られた新たな積層膜ロールも包含するものである。
【実施例0107】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0108】
(実施例1)
円筒形状のコアに、以下に示す三層構造のポリオレフィン微多孔フィルムが巻き付けられた微多孔フィルムロールを用意した。用意した微多孔フィルムロールの幅方向の最大外径と最小外径との差△R2は、0.8mmであった。なお、微多孔フィルムロールにおける幅方向の最大外径と最小外径との差△R2は、以下に示す方法により測定した。
【0109】
「三層構造のポリオレフィン微多孔フィルム」
重量平均分子量が約39万で厚みが7.0μmのポリエチレンよりなる中間層と、中間層の両側に積層された、重量平均分子量が約65万(分子量分布:11)で厚みが5.5μmのポリプロピレンよりなる外層とからなる。
(総厚み18.0μm、圧縮弾性率:122.4MPa)
【0110】
「△R
2の測定方法」
△R
2は、
図4に示す測定器50を用いて求めた。
図4は、ロールの幅方向の外形変化を測定する測定器50の一例を示した概略斜視図である。
図4に示す測定器50は、2つの接触式形状センサ(Mitsutoyo製リニアゲージ)52a、52bと、移動手段54a、54bと、ガイド51とを備える。
接触式形状センサ52a、52bは、ロール53の中心を挟んでロール53の外面に接して対向配置されている。移動手段54a、54bは、2つの接触式形状センサ52a、52bをそれぞれ支持し、各接触式形状センサ52a、52bをロール53の外形に沿って幅方向一端53aから他端53bへ移動させる。ガイド51は、ロール53の幅方向にロール53の外面に沿って設けられ、移動手段54a、54bをロール53の幅方向に移動可能に支持している。
【0111】
△R
2は、具体的には、
図4に示す測定器50を用いて、以下に示す方法により求めた。移動手段54a、54bによって、接触式形状センサ52a、52bをロール53の外形に沿って幅方向一端53aから他端53bへ移動させて、ロール53の幅方向の外径変化を全幅に亘って連続して測定した。測定結果から幅方向の最大外径と最小外径を求め、最大外径と最小外径との差である△R
2を算出した。
【0112】
また、以下に示す割合で、以下に示す無機粒子とバインダと増粘剤と界面活性剤を、以下に示す分散媒に分散または溶解させることにより、無機粒子を含有する塗液を得た。
得られた無機粒子を含有する塗液は、25℃における粘度が20mPa・s、表面張力が30mN/mであった。
粘度は、A&D社製の音叉型振動式粘度計(SV-10)を用いて測定した。表面張力は、協和界面化学社製の自動動的表面張力計(DP-D)用いて測定した。
【0113】
「無機粒子」ベーマイト粉末(板状、平均粒径1μm、アスペクト比10)、100質量部
「バインダ」アクリル酸ブチル-アクリル酸共重合体(Tg:-30℃)、無機粒子100重量部に対して3質量部
「増粘剤」カルボキシメチルセルロース、無機粒子100重量部に対して1質量部「界面活性剤」パーフルオロオクタンスルフォン酸、水100質量部に対して0.1質量部
「分散媒」水
【0114】
上記の微多孔フィルムロールから、三層構造のポリオレフィン微多孔フィルムを巻き出し、
図3に示す製造装置の塗布装置41により、ポリオレフィン微多孔フィルムの片面に、上記の無機粒子を含有する塗液を塗布し、乾燥装置42により130℃で乾燥させて、厚みが5μmの無機粒子層を形成し、積層膜を得た。
引き続き、形成された積層膜を、
図3に示す製造装置の巻取装置により外径が200mmである樹脂製の円筒形状のコアに巻き取り、幅850mmの積層膜ロールを得た。積層膜ロールにおける積層膜の巻き取り長さは、6800mとした。
【0115】
(実施例2)
実施例1と同じ微多孔フィルムロールを用意した。
また、以下に示す割合で、以下に示す無機粒子と増粘剤と界面活性剤を、以下に示す分散媒に分散または溶解させることにより、無機粒子を含有する塗液を得た。
得られた無機粒子を含有する塗液について、実施例1と同様の方法により粘度および表面張力を測定した。その結果、25℃における粘度が30mPa・s、表面張力が30mN/mであった。
【0116】
「無機粒子」ベーマイト粉末(板状、平均粒径1μm、アスペクト比10)、100質量部
「増粘剤」ポリN-ビニルアセトアミド、無機粒子100重量部に対して1質量部「増粘剤」ポリビニルピロリドン、無機粒子100重量部に対して4質量部「界面活性剤」パーフルオロオクタンスルフォン酸、水100質量部に対して0.1質量部
「分散媒」水
【0117】
上記の無機粒子を含有する塗液と、実施例1と同じ微多孔フィルムロールとを用いて、実施例1と同様にして、積層膜を得た。
その後、形成された積層膜を、
図3に示す製造装置の巻取装置により実施例1と同じコアに巻き取り、幅680mmの積層膜ロールを得た。積層膜ロールにおける積層膜の巻き取り長さは、6000mとした。
【0118】
(比較例1)
幅方向の最大外径と最小外径との差△R2が1.5mmである微多孔フィルムロールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層膜ロールを得た。
(比較例2)
無機粒子を含有する塗液に含まれるカルボキシメチルセルロースの含有量を、無機粒子100重量部に対して5質量部とし、無機粒子を含有する塗液として粘度が90mPa・s、表面張力が30mN/mのものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層膜ロールを得た。
【0119】
作製した実施例1~2および比較例1~2の積層膜ロールについて、微多孔フィルムロールの△R2と同様の方法により、幅方向の最大外径D1と最小外径D2との差△R1を測定した。その結果を表1に示す。
また、上述した方法により、実施例1~2および比較例1~2の積層膜ロールについて、幅方向での無機粒子層の厚みのばらつきと、幅方向での無機粒子層の目付けのばらつきとを測定した。その結果を表1に示す。
【0120】
【0121】
作製した実施例1~2および比較例1~2の積層膜ロールを用いて、以下のようにしてリチウムイオン二次電池を作製した。
積層膜ロールから積層膜を巻き出し、スリットして幅60mmとした。そして、幅60mmの積層膜を、リチウムイオン二次電池用の正極(幅57mm、長さ680mm)および負極(幅58mm、長さ700mm)と共に巻回芯に巻き付けて、円筒型電池(サイズ:直径18mm、長さ65.0mm(18650型))用の巻回体を作製した。積層膜の巻回長さは790mmとした。
【0122】
実施例1~2および比較例1~2のそれぞれについて、1000個ずつ巻回体を作製し、円筒型の電池缶に挿入してリチウムイオン二次電池を組み立て、組み立て不良となった電池の個数を調べた。その結果を表1に示す。
なお、電池の組み立て時に巻回体の挿入不良を生じたものと、組み立て後の電池で微短絡を生じたものを、組み立て不良と判断した。
【0123】
表1に示すように、△R1が1.5mm以下である実施例1~2では、組み立て不良がなく、△R1が1.5mmを超える比較例1~2と比較して、電池の組み立て不良を抑制できた。
比較例1~2における組み立て不良の発生は、△R1が1.5mmを超える積層膜ロールから積層膜を巻き出したため、積層膜のたるみ量が大きくなり、これをスリットする工程および、スリットされた積層膜をセパレータとして正極および負極とともに巻回芯に巻き付ける工程において、精度を充分に確保できなかったことに起因すると思われる。