(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062126
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】インフルエンザ受動免疫に有用な抗体ならびにその使用のための組成物、組合せおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220412BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220412BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220412BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220412BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220412BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220412BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220412BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20220412BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220412BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20220412BHJP
A61K 31/351 20060101ALI20220412BHJP
A61K 31/4965 20060101ALI20220412BHJP
A61K 31/215 20060101ALI20220412BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20220412BHJP
A61K 31/13 20060101ALI20220412BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/15
C12P21/08
C07K16/10
A61K39/395 S
A61K38/19
A61K31/351
A61K31/4965
A61K31/215
A61K31/196
A61K31/13
A61K31/137
【審査請求】有
【請求項の数】31
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022011479
(22)【出願日】2022-01-28
(62)【分割の表示】P 2020019359の分割
【原出願日】2015-02-04
(31)【優先権主張番号】62/051,630
(32)【優先日】2014-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/935,746
(32)【優先日】2014-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514284475
【氏名又は名称】コントラフェクト コーポレイション
(71)【出願人】
【識別番号】516235510
【氏名又は名称】トレリス バイオサイエンス リミテッド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エステルズ,アンヘレス
(72)【発明者】
【氏名】カウバー,ローレンス,エム.
(72)【発明者】
【氏名】ビジル,アダム
(72)【発明者】
【氏名】ウィッテキンド,マイケル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】インフルエンザウイルスの治療および予防のための抗体または抗原結合フラグメント、及び該抗体または抗原結合フラグメントを含む組成物を提供する。
【解決手段】インフルエンザ赤血球凝集素AのHA0成熟切断部位コンセンサス配列付近に結合する抗体および抗原結合フラグメントが提供される。このほか、インフルエンザAおよびインフルエンザB株に効果を示す受動免疫のための抗体組成物、組合せおよび方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードそれぞ
れの1つまたは複数の株に対して10nMまたはこれより強い結合親和性(KD)を示す
、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードそれぞ
れの1つまたは複数の株に対して3nMまたはこれより強い結合親和性(KD)を示す、
請求項1に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項3】
改変された単一特異性抗体および多重特異性ヒトモノクローナル抗体からなる群より選
択される、請求項1に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項4】
インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードの1つ
または複数の株による細胞の感染を中和する、請求項1に記載の抗体または抗原結合フラ
グメント。
【請求項5】
(a)重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、(b)重鎖相補性決定領域2(HCDR
2)および(c)重鎖相補性決定領域3(HCDR3)または1つもしくは複数のCDR
ドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、HCD
R1/HCDR2/HCDR3が、配列番号31/32/33;41/42/43;51
/52/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/
93;101/102/103;111/112/113;121/122/123;1
31/132/133;141/142/143;151/152/153;161/1
62/163;171/172/173;181/182/183;191/192/1
93;201/202/203;211/212/213;221/222/223;2
31/232/233;241/242/243;251/252/253;261/2
62/263;271/272/273および281/282/283からなる群より選
択され、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結
合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体もしくはその抗原結合フラグメ
ント。
【請求項6】
(a)軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、(b)軽鎖相補性決定領域2(LCDR2
);および(c)軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)または1つもしくは複数のCDR
ドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体をさらに含み、
LCDR1/LCDR2/LCDR3が、配列番号34/35/36;44/45/46
;54/55/56;64/65/66;74/75/76;84/85/86;104
/105/106;114/115/16;124/125/126;134/135/
136;144/145/146;154/155/156;164/165/166;
174/175/176;184/185/186;194/195/196;204/
205/206;214/215/216;224/225/226;234/235/
236;244/245/246;254/255/256;264/265/266;
274/275/276;および284/285/286からなる群より選択され、前記
変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/
または阻害する特性を有する、請求項5に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項7】
前記重鎖および軽鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/L
CDR2/LCDR3が、配列番号31/32/33/34/35/36;41/42/
43/44/45/46;51/52/53/54/55/56;61/62/63/6
4/65/66;71/72/73/74/75/76;81/82/83/84/85
/86;91/92/93/94/95/96;101/102/103/104/10
5/106;111/112/113/114/115/116;121/122/12
3/124/125/126;131/132/133/134/135/136;14
1/142/143/144/145/146;151/152/153/154/15
5/156;161/162/163/164/165/166;171/172/17
3/174/175/176;181/182/183/184/185/186;19
1/192/193/194/195/196;201/202/203/204/20
5/206;211/212/213/214/215/216;221/222/22
3/224/225/226;231/232/233/234/235/236;24
1/242/243/244/245/246;251/252/253/254/25
5/256;261/262/263/264/265/266;271/272/27
3/274/275/276;および281/282/283/284/285/286
または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高
度に相同な変異体からなる群より選択され、前記変異体および前記抗体またはフラグメン
トが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、請求項6
に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項8】
インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレード両方の
それぞれの1つまたは複数の株と特異的に結合し、配列番号39、49、59、69、7
9、89、99、109、119、129、139、149、159、169、179、
189、199、209、219、229、239、249、259、269、279お
よび289からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)また
は前記HCVRと少なくとも80%の配列同一性を有するその相同変異体を含み、前記変
異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/ま
たは阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
配列番号40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、1
40、150、160、170、180、190、200、210、220、230、2
40、250、260、270、280および290からなる群より選択されるアミノ酸
配列を含む軽鎖可変配列(LCVR)または前記LCVRと少なくとも80%の配列同一
性を有するその相同変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、イ
ンフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、請求項8に記載の
抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項10】
39/40、49/50、59/60、69/70、79/80、89/90、99/
100、109/110、119/120、129/130、139/140、149/
150、159/160、169/170、179/180、189/190、199/
200、209/210、219/220、229/230、239/240、249/
250、259/260、269/270、279/280および289/290からな
る群より選択されるHCVR/LCVR配列対あるいは前記HCVRおよび/またはLC
VRを少なくとも80%の配列同一性を有するその相同変異体を含み、前記変異体および
前記抗体が、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、請
求項9に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項11】
配列番号79/80、129/130、219/220、229/230、239/2
40、249/250および269/270からなる群より選択されるHCVR/LCV
R対あるいは前記HCVRおよび/またはLCVRと少なくとも80%の配列同一性を有
するその相同変異体を含み、前記変異体および前記抗体が、インフルエンザウイルスと結
合し、かつ/または阻害する特性を有する、請求項10に記載の抗体または抗原結合フラ
グメント。
【請求項12】
配列番号307、308、309、310、311、312および313からなる群よ
り選択される1つまたは複数のエピトープまたはその不連続エピトープと結合する、請求
項1に記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項13】
インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードそれぞ
れの1つまたは複数の株との結合に関して、100倍未満過剰に存在する場合に請求項1
~11のいずれか1項に記載の抗体またはフラグメントとしてその少なくとも50%と置
き換わることにより競合する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項14】
請求項5~13のいずれか1項に記載の抗体をコードする、単離コドン最適化核酸分子
。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項16】
請求項15に記載の発現ベクターを含む、組換えポリペプチドを発現させるための宿主
細胞。
【請求項17】
抗インフルエンザB抗体またはその抗原結合フラグメントを作製する方法であって、前
記抗体またはそのフラグメントの産生が可能な条件下で請求項16に記載の宿主細胞を増
殖させることと、そのようにして産生された前記抗体またはそのフラグメントを回収する
こととを含む、方法。
【請求項18】
請求項1に記載の抗体または抗原結合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含
む、医薬組成物。
【請求項19】
請求項5に記載の抗体または抗原結合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含
み、前記抗体またはフラグメントのPBS中で測定した第一の融解温度(Tm1)は55
℃以上である、医薬組成物。
【請求項20】
インフルエンザAの少なくとも1つの株に対する結合特異性を有する1つまたは複数の
ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントをさらに含む、請求項19に記載の医薬組成物
。
【請求項21】
インフルエンザAに対する特異性を有する前記抗体または抗原結合フラグメントが、第
1群および第2群両方の1つまたは複数の株に対する特異性を含む、請求項20に記載の
医薬組成物。
【請求項22】
(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可
変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14、15、16のLCDR
1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列ま
たは1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度
に相同な変異体を含み、前記変異体が、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または
阻害することが可能である、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと、
(b)配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可
変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRド
メイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む
軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸
置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体が、インフルエンザウイルスと結
合し、かつ/または阻害することが可能である、第二の抗体またはその抗原結合フラグメ
ントと、
(c)第三の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、それぞれ
(i)配列番号71、72、73および配列番号74、75、76;
(ii)配列番号91、92、93および配列番号94、95、96;
(iii)配列番号101、102、103および配列番号104、105、106
;
(iv)配列番号121、122、123および配列番号124、125、126;
(v)配列番号181、182、183および配列番号184、185、186;
(vi)配列番号191、192、193および配列番号194、195、196;
(vii)配列番号201、202、203および配列番号204、205、206
;
(viii)配列番号211、212、213および配列番号214、215、21
6;
(ix)配列番号221、222、223および配列番号224、225、226;
(x)配列番号231、232、233および配列番号234、235、236;
(xi)配列番号241、242、243および配列番号244、245、246;
(xii)配列番号261;262、263および配列番号264、265、266
;もしくは
(xiii)配列番号271、272、273および配列番号274、275、27
6
から選択される、HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)
を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖CDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCD
R3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数の
CDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、
前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、か
つ/または阻害することが可能である、第三の抗体またはその抗原結合フラグメントと
を含む、医薬組成物。
【請求項23】
前記第一の抗体またはフラグメントが、配列番号19/20のHCVR/LCVR対ま
たはHCVRもしくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配
列同一性を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグ
メントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、請求
項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記第二の抗体またはフラグメントが、配列番号29/30のHCVR/LCVR対ま
たはHCVRもしくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配
列同一性を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグ
メントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、請求
項22に記載の組成物。
【請求項25】
前記第三の抗体またはフラグメントが、配列番号79/80、99/100、109/
110、129/130、189/190、199/200、209/210、219/
220、229/230、239/240、249/250、269/270および27
9/280からなる群より選択されるHCVR/LCVR対またはHCVRもしくはLC
VRドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配列同一性を含みその高度に
相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザ
ウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
前記第三の抗体またはフラグメントが、配列番号79/80、129/130、219
/220、229/230、239/240、249/250および269/270から
なる群より選択されるHCVR/LCVR対またはHCVRもしくはLCVRドメイン配
列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体を
含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合
し、かつ/または阻害する特性を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項27】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントがそれぞれ、いずれ
も2ポイントの範囲内に収まる等電点(pI)を示す、請求項22に記載の組成物。
【請求項28】
前記第一の抗体が、配列番号17/18のHC/LCアミノ酸配列を含むTRL053
/Mab53であり、前記第二の抗体が、配列番号27/28のHC/LCアミノ酸配列
を含む抗体TRL579/Mab579であり、前記第三の抗体が、それぞれ227/2
28、207/208、247/248、237/238、217/218、267/2
68、77/78および127/128からなる群より選択されるHC/LCアミノ酸配
列を含むTRL847、TRL845、TRL849、TRL848、TRL846、T
RL854、TRL809およびTRL832またはHCもしくはLCドメイン配列の一
方もしくは両方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体からなる
群より選択され、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイ
ルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項29】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントがそれぞれ、必要と
する対象のインフルエンザAおよびインフルエンザBによる感染症または疾患の治療また
は予防に有効な量で単回用量に製剤化されている、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントが、それぞれ1用量
当たり100mg/kg以下の量で前記組成物中に存在する、請求項29に記載の組成物
。
【請求項31】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントが、それぞれ1用量
当たり10mg/kg以下の量で前記組成物中に存在する、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントが、それぞれ1用量
当たり1mg/kg以下の量で前記組成物中に存在する、請求項29に記載の組成物。
【請求項33】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントがそれぞれ、抗体ま
たは抗体フラグメント全体で1用量当たり10mg/kg以下の量で前記組成物中に存在
する、請求項29に記載の組成物。
【請求項34】
前記担体が、経鼻送達または肺送達用の希釈剤および/または補形剤を含む、請求項2
9に記載の組成物。
【請求項35】
抗ウイルス治療薬、ウイルス複製阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、
赤血球凝集素阻害剤、気管支拡張薬または吸入副腎皮質ステロイド剤のうちの1つまたは
複数をさらに含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項36】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントの1つまたは複数が、11/12/13、2
1/22/23、71/72/73、74/75/76、91/92/93、101/1
02/103、121/122/123、181/182/183、191/192/1
93、201/202/203、211/212/213、221/222/223、2
31/232/233、241/242/243、261/262/263および271
/272/273からなる群より選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ
酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含む
その高度に相同な変異体を含むFab、Fab’およびF(ab’)2、scFv、dA
bまたは多重特異性抗体から選択される、抗体フラグメントであり、前記変異体および前
記抗体が、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、請求
項22に記載の組成物。
【請求項37】
対象のインフルエンザ感染症を治療または予防する方法であって、対象に
(a)第一の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、配列番号11、12、1
3のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖ア
ミノ酸配列および配列番号14、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含
む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRド
メイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異
体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/また
は阻害することが可能である、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと、
(b)第二の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、配列番号21、22、2
3のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖ア
ミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR
2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもし
くは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異
体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと
結合し、かつ/または阻害することが可能である、第二の抗体またはその抗原結合フラグ
メントと、
(c)第三の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、それぞれ
(i)配列番号71、72、73および配列番号74、75、76;
(ii)配列番号91、92、93および配列番号94、95、96;
(iii)配列番号101、102、103および配列番号104、105、106
;
(iv)配列番号121、122、123および配列番号124、125、126;
(v)配列番号181、182、183および配列番号184、185、186;
(vi)配列番号191、192、193および配列番号194、195、196;
(vii)配列番号201、202、203および配列番号204、205、206
;
(viii)配列番号211、212、213および配列番号214、215、21
6;
(ix)配列番号221、222、223および配列番号224、225、226;
(x)配列番号231、232、233および配列番号234、235、236;
(xi)配列番号241、242、243および配列番号244、245、246;
(xii)配列番号261;262、263および配列番号264、265、266
;もしくは
(xiii)配列番号271、272、273および配列番号274、275、27
6
から選択される、HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)
を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖CDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCD
R3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数の
CDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、
前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し阻害
することが可能である、第三の抗体またはその抗原結合フラグメントと
を投与することを含む、方法。
【請求項38】
詳細なウイルス株判定を必要とせずに前記対象のインフルエンザ感染症の状態を判定す
る、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記対象が、インフルエンザによる感染症または疾患から防御される、請求項37に記
載の方法。
【請求項40】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントをそれぞれ、同時に
、または逐次的に投与する、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記免疫調節薬がインターフェロンベータ1aである、請求項35に記載の組成物。
【請求項42】
前記抗ウイルス治療薬が、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびラニナミビ
ルからなる群より選択されるノイラミニダーゼ阻害剤である、請求項35に記載の組成物
。
【請求項43】
前記抗ウイルス治療薬が、ファビピラビル(T-705)およびVX787からなる群
より選択されるRNAポリメラーゼ阻害剤である、請求項35に記載の組成物。
【請求項44】
前記抗ウイルス治療薬が、Fludase(Das181)およびAB-103(p2
TA)からなる群より選択される宿主細胞標的化治療剤である、請求項35に記載の組成
物。
【請求項45】
前記抗ウイルス治療薬が、ラマンタジンおよびアマンタジンからなる群より選択される
イオンチャネル阻害剤である、請求項35に記載の組成物。
【請求項46】
前記気管支拡張薬が、アルブテロール、レバルブテロールまたはサルメテロールである
、請求項35に記載の組成物。
【請求項47】
組換え抗体またはそのフラグメントである、請求項1~13のいずれか1項に記載の単
離抗体またはフラグメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2015年2月4日にPCT国際出願として出願され、2014年2月4日に
出願された米国特許仮出願第61/935,746号および2014年9月17日に出願
された米国特許仮出願第62/051,630号に対する優先権の利益を主張するもので
あり、上記の仮出願はそれぞれ、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
EFS-WEBにより提出される配列表への言及
MPEP1730II.B.2(a)(C)に認可および記載されるUSPTO-EF
S-WEBサーバを介して電子提出された以下の配列表は、その内容全体があらゆる目的
において参照により本明細書に組み込まれる。配列表は、電子出願されたテキストファイ
ルで以下の通りに認識される:
【表1】
【0003】
インフルエンザウイルスの治療および予防のための抗体、組成物および方法が提供され
る。インフルエンザ赤血球凝集素AのHA0成熟切断部位コンセンサス配列付近に結合す
る抗体および抗原結合フラグメントが提供される。このほか、インフルエンザA株および
B株に効果を示す受動免疫のための抗体組成物、組合せおよび方法が提供される。
【背景技術】
【0004】
インフルエンザは死亡および疾患の原因の上位を占めており、上気道および下気道を冒
す。インフルエンザウイルスにはインフルエンザA、BおよびCの3種類がある。ヒトイ
ンフルエンザAおよびBウイルスは季節的流行を引き起こす。C型インフルエンザ感染症
は軽度の呼吸器疾患を引き起こすものであり、流行を引き起こすことはないと考えられて
いる。インフルエンザAウイルスは、ウイルス表面の2種類のタンパク質、赤血球凝集素
(H)およびノイラミニダーゼ(N)に基づいていくつかの亜型に分けられる。赤血球凝
集素には17の異なる亜型があり、ノイラミニダーゼには10の異なる亜型がある。イン
フルエンザAウイルスはさらに、いくつかの異なる株に分類することができる。現在、ヒ
トによくみられるインフルエンザAウイルスの亜型にはインフルエンザA(H1N1)ウ
イルスおよびインフルエンザA(H3N2)ウイルスがある。インフルエンザBウイルス
は亜型には分けられないが、B/ビクトリア/2/87様およびB/ヤマガタ/16/8
8様の2つの異なる系統に分類される。インフルエンザA(例えば、H1N1)、A(例
えば、H3N2)およびインフルエンザBウイルスは、インフルエンザワクチンに毎年含
まれている。
【0005】
現在、異なる頻度でヒト集団で流行している臨床的に重要なインフルエンザウイルスは
5種類あり、このうち3種類がインフルエンザAであり、2種類がインフルエンザBであ
る。A型インフルエンザウイルスは異なる2つの系統群、1および2に分けられる。第1
群には、赤血球凝集素亜型H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H13および
H16が含まれる。第2群には、H3、H4、H7、H10、H15およびH14が含ま
れる。第1群のインフルエンザAウイルスのうち現時点で重要な流行ウイルスは、ヒト起
源のものとブタ起源のものとにさらに分けられる亜型H1に属するものであり、第2群の
重要な流行ウイルスは、現時点で亜型H3に属するものである。季節病の大部分はインフ
ルエンザAウイルスに起因するものであり、米国では、過去12回のインフルエンザの季
節のうち8回はH3ウイルスが優位を占めている(CDC季節性インフルエンザ;米国サ
ーベイランスデータ)。1968年、H3ウイルスの1つが20世紀の3つの主要なイン
フルエンザ大流行のうちの1つを引き起こし、そのとき以来、H3ウイルスがヒト疾患の
重要な病原体として存在し続けている。H3インフルエンザウイルスはヒトに加えて、ト
リ、ブタおよびウマにもよく感染する。インフルエンザBウイルスは100年以上の間、
ヒトで流行しており、現時点での株はヤマガタ系統およびビクトリア系統の2つの系統に
分けられる。最近、三価インフルエンザワクチンは、両系統のインフルエンザBのほかに
もH1ウイルスおよびH3ウイルスをカバーする四価抗原含有ワクチンに発展した。
【0006】
現在実施されているインフルエンザの予防および治療は十分なものではなく、効果がみ
られないこともある。ワクチン接種が普及しているものの、インフルエンザに感染しやす
いことに変わりはない。易感染性に寄与する因子としては、(1)広範囲にわたってワク
チンが不足した2009年のH1N1大流行時のように、ワクチン接種によるカバーが不
十分であったこと、(2)2008年のように、ワクチン製剤が流行株に十分に対応して
いない年があること、(3)平均有効率が65歳で40~50%、70歳超ではわずか1
5~30%であるように、高齢者に対するワクチンの効果が低いこと、(4)特に懸念さ
れるH5N1のような季節性ワクチンが対応していない流行株の出現が挙げられる。さら
に、現在インフルエンザの治療に用いることができる抗ウイルス治療薬に対する薬物耐性
が深刻な問題となっている。M2タンパク質に作用しウイルス融合を阻害する薬物である
アダマンタン(アマンチジンおよびリマンタジン)に対する耐性率は、2004年の時点
で1.9%であったものが、2004~2005年のインフルエンザの季節の最初の6か
月の間に14.5%まで増加し、現時点では90%を超えている(Sheu,T.G.ら
(2011)J Infect Dis 203:13-17)。インフルエンザノイラ
ミニダーゼタンパク質を阻害する抗ウイルス薬であるオセルタミビルリン酸塩(Tami
flu(登録商標))の耐性率は、2006~2007年のインフルエンザの季節にH1
N1ウイルスで1~2%であったものが、2007~2008年までに12%まで急激に
増加し、2009年には季節性H1N1ウイルスで99%を上回った。幸いなことに、2
009年に大流行したH1N1株はTamifluに感受性であり、これにより死亡者数
が比較的少なく済んだものと思われる。このため、新規なインフルエンザの予防法/治療
法が圧倒的に必要とされる。
【0007】
ただ、インフルエンザ株を判定する診断には通常、12~24時間の作業時間を要する
ため、しかるべき治療法の選択に株の判定が必要な場合、治療に不利な遅れが生じる。こ
のため、複数のクレードと結合し、それとの強い親和性を示す抗体が依然として必要とさ
れている。特に、抗体または抗体混合物を投与する前に感染ウイルスを詳細に特徴付ける
必要を回避するためには、インフルエンザAおよびインフルエンザBの両方に対して効果
を示す抗体を含み、複数の株に広域免疫反応性を示す受動ワクチンが望ましい。インフル
エンザAおよびB両方の全株に効果のある広域反応性を示す抗体および組成物は、特に治
療前に株の事前診断を必要としないという理由から、望ましい。さらに、薬剤の製造およ
び投与の両方を容易にするため、効力の高いものが望ましい。
【発明の概要】
【0008】
いくつかの実施形態では、主要なインフルエンザB系統であるヤマガタクレードおよび
ビクトリアクレードの両方に反応性を示す組換えヒト抗体またはその抗原結合フラグメン
トが提供される。
【0009】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBの典型的な三量体と高い親和性で結合する
モノクローナル抗体が提供される。
【0010】
いくつかの実施形態では、例えば、これまでに同定されていないインフルエンザB株ま
たは約2~3年に1度実際に流行し季節性ワクチンに含まれていないため予防できない株
による感染が起こった場合に受動免疫を付与することが可能な抗体が提供される:Mon
to,A.A.ら,Vaccine(2009)27:5043-5053。
【0011】
いくつかの実施形態では、多数の株にわたって結合し、必須部位を標的とすることを示
す、したがって、これまでに遭遇したことのない株でも結合する可能性のある抗体が提供
される。このような抗体はほかにも、ワクチンを接種しても十分な防御応答が得られない
対象または慢性閉塞性肺疾患患者のように根底に気管支機能の低下がみられるか、免疫系
が脆弱である(例えば、幼少者、高齢者、移植患者および癌またはHIVの化学療法を受
けている患者)ためリスクが高い対象において感染を改善または予防するか、その毒性を
減弱させるのに有用である。
【0012】
いくつかの実施形態では、広域受動免疫を付与するmAbの混合物を含む、組成物が提
供される。
【0013】
いくつかの実施形態では、(1)両方の主要なインフルエンザB系統に反応性を示す1
つまたは複数の結合部分、モノクローナル抗体またはその免疫反応性フラグメントと、(
2)グループ間の交差反応性を示すものを含め、型の標本としてH1、H2、H5、H6
、H8、H9、H11、H13、H16を含む第1群および/またはH3およびH7を含
む第2群のインフルエンザAウイルスに反応性を示す1つまたは複数の結合部分、モノク
ローナル抗体またはその免疫反応性フラグメントとを含む、組成物が提供される。いくつ
かの実施形態では、本明細書に提供される抗体は、HA0タンパク質に含まれるエピトー
プと特異的に結合し、天然の三量体型のHAおよびタンパク質分解により活性化された型
のHAを認識する。
【0014】
別の実施形態では、特異的に結合することができるウイルスの型およびクレードの範囲
を拡大することが可能な二重特異性抗体、多重特異性抗体およびそのフラグメントから選
択される結合部分ならびにインフルエンザAおよびインフルエンザBの両方に特徴的な複
数の株と反応する2つ以上の結合部分を含む組成物が提供される。
【0015】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザB
ビクトリアクレードそれぞれの1つまたは複数の株に対して10nMもしくはこれより強
い結合親和性(KD)または3nMもしくはこれより強い結合親和性KDを示す、単離ヒ
ト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。いくつかの実施形態では、フラグ
メントの抗体は組換え抗体またはそのフラグメントである。
【0016】
いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合フラグメントは、改変された単一特異性
抗体または多重特異性ヒトモノクローナル抗体である。
【0017】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザB
ビクトリアクレードの1つまたは複数の株による細胞の感染を中和する抗体または抗原結
合フラグメントが提供される。
【0018】
いくつかの実施形態では、(a)重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、(b)重鎖相
補性決定領域2(HCDR2)および(c)重鎖相補性決定領域3(HCDR3)のアミ
ノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含
むその高度に相同な変異体を含み、HCDR1/HCDR2/HCDR3が、配列番号3
1/32/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72
/73;81/82/83;91/92/93;101/102/103;111/11
2/113;121/122/123;131/132/133;141/142/14
3;151/152/153;161/162/163;171/172/173;18
1/182/183;191/192/193;201/202/203;211/21
2/213;221/222/223;231/232/233;241/242/24
3;251/252/253;261/262/263;271/272/273および
281/282/283からなる群より選択され、前記変異体および前記抗体またはフラ
グメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単
離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0019】
いくつかの実施形態では、(a)軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、(b)軽鎖相
補性決定領域2(LCDR2);および(c)軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)また
は1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に
相同な変異体を含み、LCDR1/LCDR2/LCDR3が、配列番号34/35/3
6;44/45/46;54/55/56;64/65/66;74/75/76;84
/85/86;104/105/106;114/115/16;124/125/12
6;134/135/136;144/145/146;154/155/156;16
4/165/166;174/175/176;184/185/186;194/19
5/196;204/205/206;214/215/216;224/225/22
6;234/235/236;244/245/246;254/255/256;26
4/265/266;274/275/276;および284/285/286からなる
群より選択され、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイ
ルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フ
ラグメントが提供される。
【0020】
いくつかの実施形態では、重鎖および軽鎖CDR配列または1つもしくは複数のCDR
ドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、HCD
R1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3が、配列番号31
/32/33/34/35/36;41/42/43/44/45/46;51/52/
53/54/55/56;61/62/63/64/65/66;71/72/73/7
4/75/76;81/82/83/84/85/86;91/92/93/94/95
/96;101/102/103/104/105/106;111/112/113/
114/115/116;121/122/123/124/125/126;131/
132/133/134/135/136;141/142/143/144/145/
146;151/152/153/154/155/156;161/162/163/
164/165/166;171/172/173/174/175/176;181/
182/183/184/185/186;191/192/193/194/195/
196;201/202/203/204/205/206;211/212/213/
214/215/216;221/222/223/224/225/226;231/
232/233/234/235/236;241/242/243/244/245/
246;251/252/253/254/255/256;261/262/263/
264/265/266;271/272/273/274/275/276;および2
81/282/283/284/285/286からなる群より選択され;前記変異体お
よび前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻
害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0021】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザB
ビクトリアクレード両方のそれぞれの1つまたは複数の株と特異的に結合し、配列番号3
9、49、59、69、79、89、99、109、119、129、139、149、
159、169、179、189、199、209、219、229、239、249、
259、269、279および289からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖
可変領域(HCVR)または前記HCVRと少なくとも80%の配列同一性を有するその
相同変異体を含み;前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウ
イルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合
フラグメントが提供される。
【0022】
いくつかの実施形態では、配列番号40、50、60、70、80、90、100、1
10、120、130、140、150、160、170、180、190、200、2
10、220、230、240、250、260、270、280および290からなる
群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変配列(LCVR)または前記LCVRと少
なくとも80%の配列同一性を有するその相同変異体を含み、前記変異体および前記抗体
またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を
有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0023】
いくつかの実施形態では、39/40、49/50、59/60、69/70、79/
80、89/90、99/100、109/110、119/120、129/130、
139/140、149/150、159/160、169/170、179/180、
189/190、199/200、209/210、219/220、229/230、
239/240、249/250、259/260、269/270、279/280お
よび289/290からなる群より選択されるHCVR/LCVR配列対あるいは前記H
CVRおよび/またはLCVRと少なくとも80%の配列同一性を有するその相同変異体
を含み;前記変異体および前記抗体が、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または
阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0024】
いくつかの実施形態では、配列番号79/80、129/130、219/220、2
29/230、239/240、249/250および269/270からなる群より選
択されるHCVR/LCVR対あるいは前記HCVRおよび/またはLCVRと少なくと
も80%の配列同一性を有するその相同変異体含み;前記変異体および前記抗体が、イン
フルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体または
その抗原結合フラグメントが提供される。
【0025】
いくつかの実施形態では、配列番号307、308、309、310、311、312
および313からなる群より選択される1つまたは複数のエピトープまたはその不連続エ
ピトープと結合する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0026】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザB
ビクトリアクレードそれぞれの1つまたは複数の株との結合に関して、100倍未満過剰
に存在する場合に本開示の抗体またはフラグメントとしてその少なくとも50%と置き換
わることにより競合する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0027】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメントをコードする単離コドン最
適化核酸分子が提供される。いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメント
をコードする核酸分子を含む発現ベクターが提供される。
【0028】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメントをコードする核酸分子を含
む発現ベクターを含む、組換えポリペプチドを発現させるための宿主細胞が提供される。
【0029】
いくつかの実施形態では、抗インフルエンザB抗体またはその抗原結合フラグメントを
作製する方法であって、抗体またはそのフラグメントの産生が可能な条件下で宿主細胞を
増殖させることと、そのようにして産生された抗体またはそのフラグメントを回収するこ
ととを含む、方法が提供される。
【0030】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザB
ビクトリアクレードのそれぞれの1つまたは複数の株に対して10nMもしくはこれより
強い結合親和性(KD)または3nMもしくはこれより強いKDを示す抗体または抗原結
合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物が提供される。
【0031】
いくつかの実施形態では、配列番号31/32/33;41/42/43;51/52
/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/93;
101/102/103;111/112/113;121/122/123;131/
132/133;141/142/143;151/152/153;161/162/
163;171/172/173;181/182/183;191/192/193;
201/202/203;211/212/213;221/222/223;231/
232/233;241/242/243;251/252/253;261/262/
263;271/272/273および281/282/283から選択されるHCDR
1/HCDR2/HCDR3のアミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配
列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記抗体またはフ
ラグメンが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、抗
体または抗原結合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物であって
、前記抗体またはフラグメントのPBS中で測定した第一の融解温度(Tm1)は55℃
以上である、医薬組成物が提供される。
【0032】
いくつかの実施形態では、インフルエンザAの少なくとも1つの株に対する結合特異性
を有する1つまたは複数のヒト抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、組成物が提
供される。いくつかの態様では、インフルエンザAに対する特異性を有する抗体または抗
原結合フラグメントは、第1群および第2群両方の1つまたは複数の株に対する特異性を
含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2
/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号1
4、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)
を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のア
ミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体が、インフルエンザウイル
スと結合し、かつ/または阻害することが可能である、第一の抗体またはその抗原結合フ
ラグメントと;(b)配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3
を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、2
6のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LC
VR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3
個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体が、インフルエンザ
ウイルスと結合し、かつ/または阻害することが可能である、第二の抗体またはその抗原
結合フラグメントと;(c)第三の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、それ
ぞれ:
(i)配列番号71、72、73および配列番号74、75、76;
(ii)配列番号91、92、93および配列番号94、95、96;
(iii)配列番号101、102、103および配列番号104、105、106;
(iv)配列番号121、122、123および配列番号124、125、126;
(v)配列番号181、182、183および配列番号184、185、186;
(vi)配列番号191、192、193および配列番号194、195、196;
(vii)配列番号201、202、203および配列番号204、205、206;
(viii)配列番号211、212、213および配列番号214、215、216;
(ix)配列番号221、222、223および配列番号224、225、226;
(x)配列番号231、232、233および配列番号234、235、236;
(xi)配列番号241、242、243および配列番号244、245、246;
(xii)配列番号261;262、263および配列番号264、265、266;も
しくは
(xiii)配列番号271、272、273および配列番号274、275、276
から選択される、HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)
を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖CDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCD
R3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数の
CDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、
前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、か
つ/または阻害することが可能である、第三の抗体またはその抗原結合フラグメントとを
含む、医薬組成物が提供される。
【0034】
いくつかの実施形態では、前記第一の抗体またはフラグメントは、配列番号19/20
のHCVR/LCVR対またはHCVRもしくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両
方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体を含み;前記変異体お
よび前記抗体またはフラグメントは、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻
害する特性を有する。
【0035】
いくつかの実施形態では、前記第二の抗体またはフラグメントは、配列番号29/30
のHCVR/LCVR対またはHCVRもしくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両
方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体を含み;前記変異体お
よび前記抗体またはフラグメントは、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻
害する特性を有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記第三の抗体またはフラグメントは、配列番号79/80
、99/100、109/110、129/130、189/190、199/200、
209/210、219/220、229/230、239/240、249/250、
269/270および279/280からなる群より選択されるHCVR/LCVR対ま
たはHCVRもしくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配
列同一性を含むその高度に相同な変異体を含み;前記変異体および前記抗体またはフラグ
メントは、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記第三の抗体またはフラグメントは、配列番号79/80
、129/130、219/220、229/230、239/240、249/250
および269/270からなる群より選択されるHCVR/LCVR対またはHCVRも
しくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配列同一性を含む
その高度に相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントは、イン
フルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する。いくつかの実施形態
では、いずれも等電点(pI)が2ポイントの範囲内に収まる前記第一、第二および第三
の抗体またはフラグメントを含む、組成物が提供される。
【0038】
特定の実施形態では、配列番号17/18のHC/LCアミノ酸配列を含むTRL05
3/Mab53である第一の抗体と、配列番号27/28のHC/LCアミノ酸配列を含
む抗体TRL579/Mab579である第二の抗体と、それぞれ227/228、20
7/208、247/248、237/238、217/218、267/268、77
/78および127/128からなる群より選択されるHC/LCアミノ酸配列を含むT
RL847、TRL845、TRL849、TRL848、TRL846、TRL854
、TRL809およびTRL832またはHCもしくはLCドメイン配列の一方もしくは
両方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体からなる群より選択
される、第三の抗体を含み;前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフル
エンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、組成物が提供される。
【0039】
特定の実施形態では、必要とする対象のインフルエンザAおよびインフルエンザBによ
る感染症または疾患の治療または予防に有効な量で単回用量に製剤化された本開示の前記
第一、第二および第三の抗体またはフラグメントをそれぞれ含む、組成物が提供される。
【0040】
特定の実施形態では、本開示の第一、第二および第三の抗体またはフラグメントを含み
、前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントをそれぞれ1用量当たり100m
g/kg以下の量;前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントをそれぞれ1用
量当たり10mg/kg以下の量;あるいは前記第一、第二および第三の抗体またはフラ
グメントをそれぞれ1用量当たり1mg/kg以下の量で含む、組成物が提供される。い
くつかの実施形態では、前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントはそれぞれ
、抗体または抗体フラグメント全体で1用量当たり10mg/kg以下の量で存在する。
【0041】
特定の実施形態では、経鼻または肺送達用の担体、希釈剤および/または補形剤を含む
組成物が提供される。
【0042】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメントを含み、さらに抗ウイルス
治療薬、ウイルス複製阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、赤血球凝集素
阻害剤、気管支拡張薬または吸入副腎皮質ステロイド剤のうちの1つまたは複数を含む、
組成物が提供される。いくつかの実施形態では、免疫調節薬はインターフェロンベータ1
aであり;抗ウイルス治療薬は、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびラニナ
ミビルからなる群より選択されるノイラミニダーゼ阻害剤であり;抗ウイルス治療薬は、
ファビピラビル(T-705)およびVX787からなる群より選択されるRNAポリメ
ラーゼ阻害剤であり;抗ウイルス治療薬は、Fludase(Das181)およびAB
-103(p2TA)からなる群より選択される宿主細胞標的化治療薬であり;抗ウイル
ス治療薬は、ラマンタジンおよびアマンタジンからなる群より選択されるイオンチャネル
阻害剤であり;気管支拡張薬は、アルブテロール、レバルブテロールまたはサルメテロー
ルから選択される。
【0043】
いくつかの実施形態では、本開示の前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメン
トをそれぞれ、必要とする患者のインフルエンザAおよびインフルエンザBによる感染症
または疾患の治療または予防に効果のある量で含み、前記抗体またはその抗原結合フラグ
メントのうちの1つまたは複数が、11/12/13、21/22/23、71/72/
73、74/75/76、91/92/93、101/102/103、121/122
/123、181/182/183、191/192/193、201/202/203
、211/212/213、221/222/223、231/232/233、241
/242/243、261/262/263および271/272/273からなる群よ
り選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数
のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む
、Fab、Fab’およびF(ab’)2、scFv、dAbまたは多重特異性抗体から
選択される抗体フラグメントであり、前記変異体および前記抗体が、インフルエンザウイ
ルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、組成物が提供される。
【0044】
いくつかの実施形態では、対象のインフルエンザ感染症を治療または予防する方法であ
って、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重
鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14、15、16のLC
DR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配
列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその
高度に相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフル
エンザウイルスと結合し、かつ/または阻害することが可能である、第一の抗体またはそ
の抗原結合フラグメントと;(b)配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2
/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号2
4、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可
変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配
列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体および
前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害す
ることが可能である、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)それぞれ:
(i)配列番号71、72、73および配列番号74、75、76;(ii)配列番号9
1、92、93および配列番号94、95、96;(iii)配列番号101、102、
103および配列番号104、105、106;(iv)配列番号121、122、12
3および配列番号124、125、126;(v)配列番号181、182、183およ
び配列番号184、185、186;(vi)配列番号191、192、193および配
列番号194、195、196;(vii)配列番号201、202、203および配列
番号204、205、206;(viii)配列番号211、212、213および配列
番号214、215、216;(ix)配列番号221、222、223および配列番号
224、225、226;(x)配列番号231、232、233および配列番号234
、235、236;(xi)配列番号241、242、243および配列番号244、2
45、246;(xii)配列番号261;262、263および配列番号264、26
5、266;もしくは(xiii)配列番号271、272、273および配列番号27
4、275、276から選択される、HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可
変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖CDRドメイン配列LCDR1/
LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または
1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相
同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウ
イルスと結合し阻害することが可能である、第三の抗体またはその抗原結合フラグメント
とを対象に投与することを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、第一、第
二および第三の抗体またはフラグメントを同時に、または逐次的に投与する。
【0045】
いくつかの実施形態では、本開示の抗インフルエンザ組成物を対象に投与し、ここでは
、詳細なウイルス株判定を必要とせずに前記対象のインフルエンザ感染症の状態を判定す
る。
【0046】
いくつかの実施形態では、本開示の抗インフルエンザ組成物を対象に投与し、ここでは
、対象がインフルエンザによる感染症または疾患から防御される。
【0047】
当該技術分野で十分に理解されているように、フィブロネクチン、トランスフェリンま
たはリポカリンをベースとする結合物質を含めた非免疫グロブリンベースのタンパク質は
、抗体と同じようなエピトープ認識特性を有し得るものであり、同じく適切な実施形態を
提供し得る。ほかにも、アプタマーなどの核酸ベースの部分が上記の特性を有する。
【0048】
他の実施形態では、本発明は、本発明の結合部分を含む医薬組成物および製剤、特に、
血液から肺への分配が促進されるように結合部分が赤血球と共有結合または非共有結合す
る医薬組成物および製剤、本発明の結合部分を、正常集団もしくは既にウイルスに曝露し
た可能性のある対象の予防薬または既に感染した対象の治療薬として、対象のウイルス感
染症を受動的に抑制するために使用する方法に関する。本発明はこのほか、抗体またはフ
ラグメントを作製するための組換え材料および方法、例えば対象内に抗体またはフラグメ
ントをin situで生じさせるためのこれらの使用などに関する。
【0049】
いくつかの実施形態では、結合分子の組合せ、特に、インフルエンザウイルスと結合し
、同ウイルスに対して効果を示すヒトモノクローナル抗体またはそのフラグメントが提供
され、ここでは、組合せは第1群インフルエンザAウイルス、第2群インフルエンザAウ
イルスおよびインフルエンザBウイルスに対して効果を示す。抗体の組合せは、インフル
エンザAおよびインフルエンザBウイルスに対する治療および予防に効果があり、したが
って、重要な流行しているインフルエンザウイルスすべてに対して効果のある薬剤を単一
の組成物または用量で提供する。
【0050】
いくつかの実施形態では、それぞれが低nMまたはサブnMの親和性でインフルエンザ
と結合するモノクローナル抗体を含む、組合せ組成物が提供される。特に第1群インフル
エンザAウイルスに対する抗体または結合フラグメントと、特に第2群インフルエンザA
ウイルスに対する抗体または結合フラグメントと、特にヤマガタBおよびビクトリアBの
両系統を含めたインフルエンザBウイルスに対する抗体または結合フラグメントとを含む
、組合せ組成物が提供される。
【0051】
いくつかの実施形態では、第1群インフルエンザA、より具体的な実施形態では特に少
なくともH1インフルエンザウイルスに対する第一の抗体と、第2群インフルエンザA、
より具体的な実施形態では特に少なくともH3インフルエンザウイルスに対する第二の抗
体と、インフルエンザBウイルス、より具体的な実施形態では特にヤマガタおよびビクト
リアの両系統に対する第三の抗体とを含む、抗体の組合せが提供される。
【0052】
いくつかの実施形態では、インフルエンザAおよびインフルエンザBの治療または予防
に併用して効果のあるインフルエンザモノクローナル抗体またはそのフラグメントの組合
せを含むか、これよりなる、組成物が提供される。
【0053】
一実施形態では、本発明は、配列番号39、49、59、69、79、89、99、1
09、119、129、139、149、159、169、179、189、199、2
09、219、229、239、249、259、269、279および289からなる
群より選択される重鎖可変領域(HCVR)または少なくとも80%、少なくとも90%
、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する
その相同な配列を含む、抗体または抗体の抗原結合フラグメントを含む。別の実施形態で
は、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号79、99、109、129、1
89、199、209、219、229、239、249、269および279からなる
群より選択されるアミノ酸配列を有する、HCVRを含む。さらに別の実施形態では、抗
体またはそのフラグメントは、配列番号209、229、239、249または269を
含む、HCVRを含む。
【0054】
一実施形態では、本発明は、配列番号40、50、60、70、80、90、100、
110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、
210、220、230、240、250、260、270、280および290からな
る群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)または少なくとも80%、少なくとも90
%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有す
るその実質的に相同な配列を含む、抗体または抗体の抗原結合フラグメントを含む。別の
実施形態では、抗体または抗体の抗原結合部分は、配列番号80、100、110、13
0、190、200、210、220、230、240、250、270または280か
らなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、LCVRを含む。さらに別の実施形態で
は、抗体またはそのフラグメントは、配列番号210、230、240、250または2
70を含む、LCVRを含む。
【0055】
一実施形態では、本発明は、配列番号39、49、59、69、79、89、99、1
09、119、129、139、149、159、169、179、189、199、2
09、219、229、239、249、259、269、279および289のうちの
1つまたは複数からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)または少なくとも8
0%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99
%の配列同一性を有するその相同な配列を含む抗体または抗原結合フラグメントを含む、
組成物を含む。別の実施形態では、組成物は、配列番号79、99、109、129、1
89、199、209、219、229、239、249、269および279からなる
群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む、抗体またはその抗原結合フラグ
メントを含む。さらに別の実施形態では、組成物は、配列番号209、229、239、
249または269を含むHCVRを含む、抗体またはそのフラグメントを含む。
【0056】
一実施形態では、本発明は、配列番号40、50、60、70、80、90、100、
110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、
210、220、230、240、250、260、270、280および290からな
る群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)または少なくとも80%、少なくとも90
%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有す
るその相同な配列を含む抗体または抗体の抗原結合フラグメントを含む、組成物を含む。
別の実施形態では、組成物は、配列番号80、100、110、130、190、200
、210、220、230、240、250、270または280からなる群より選択さ
れるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、抗体または抗体の抗原結合部分を含む。さら
に別の実施形態では、組成物は、配列番号210、230、240、250または270
を含むLCVRを含む、抗体またはそのフラグメントを含む。
【0057】
一実施形態では、本発明は、本明細書に提供されるB抗体(抗B型)またはフラグメン
トと、配列番号19および29のうちの1つまたは複数からなる群より選択される重鎖可
変領域(HCVR)または少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少
なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその相同な配列を含む抗
体または抗原結合フラグメントとを含む、組成物を含む。
【0058】
一実施形態では、本発明は、本明細書に提供されるB抗体またはフラグメントを含む組
成物を含み、抗体または抗体の抗原結合フラグメントは、配列番号20および30からな
る群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)または少なくとも80%、少なくとも90
%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有す
るその相同な配列を含む。
【0059】
より具体的な実施形態では、組成物は、少なくとも1つのB抗体と、少なくとも1つま
たは少なくとも2つのA抗体とを含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、HC可変領域およびLC可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
または抗原結合フラグメントが提供され、ここでは、HCVRは、配列番号31/32/
33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;8
1/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/113
;121/122/123;131/132/133;141/142/143;151
/152/153;161/162/163;171/172/173;181/182
/183;191/192/193;201/202/203;211/212/213
;221/222/223;231/232/233;241/242/243;251
/252/253;261/262/263;271/272/273および281/2
82/283のいずれかから選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配
列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその
高度に相同な変異体を含み、LCVRは、配列番号34/35/36;44/45/46
;54/55/56;64/65/66;74/75/76;84/85/86;104
/105/106;114/115/16;124/125/126;134/135/
136;144/145/146;154/155/156;164/165/166;
174/175/176;184/185/186;194/195/196;204/
205/206;214/215/216;224/225/226;234/235/
236;244/245/246;254/255/256;264/265/266;
274/275/276;および284/285/286のいずれかから選択されるLC
DR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン
配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、血清中半減期を延ばすFc改変を含む、抗体または抗原結合
フラグメントが提供される。このような改変はXencor Xtend(商標)抗体工
学技術(Xencor社、メルボルン、オーストラリア)に開示されている。いくつかの
態様では、Fc改変を含む抗体またはフラグメントは、配列番号297、17、2737
、47、57、67、77、87、97、107、117、127、137、147、1
57、167、177、187、197、207、217、227、237、247、2
57、267、277または287と80%超、90%超、95%超または99%超の配
列同一性を有するアミノ酸配列を示す。
【0062】
いくつかの実施形態では、理論に束縛されるものではないが、吸入製剤ではモデルFa
bが効果的であるため、scFvである抗原結合フラグメントが提供される。このような
改変された抗体は自然界には存在しない。いくつかの実施形態では、配列番号31/32
/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;
81/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/11
3;121/122/123;131/132/133;141/142/143;15
1/152/153;161/162/163;171/172/173;181/18
2/183;191/192/193;201/202/203;211/212/21
3;221/222/223;231/232/233;241/242/243;25
1/252/253;261/262/263;271/272/273および281/
282/283のいずれかから選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸
配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むそ
の高度に相同な変異体を含む、改変された抗体または結合フラグメントが提供される。
【0063】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体およびフラグメントを発現させる
ためのコドン最適化核酸が提供される。いくつかの実施形態では、このような非天然の核
酸を用いて発現レベルを上昇させる。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される組
換え抗体およびフラグメントの作製にコドン最適化核酸分子を用いる。
【0064】
いくつかの実施形態では、HC可変領域およびLC可変領域のアミノ酸配列を含む抗体
または抗原結合フラグメントが提供され、ここでは、HCVRは、配列番号31/32/
33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;8
1/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/113
;121/122/123;131/132/133;141/142/143;151
/152/153;161/162/163;171/172/173;181/182
/183;191/192/193;201/202/203;211/212/213
;221/222/223;231/232/233;241/242/243;251
/252/253;261/262/263;271/272/273および281/2
82/283のいずれかから選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配
列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその
高度に相同な変異体を含み、LCVRは、配列番号34/35/36;44/45/46
;54/55/56;64/65/66;74/75/76;84/85/86;104
/105/106;114/115/16;124/125/126;134/135/
136;144/145/146;154/155/156;164/165/166;
174/175/176;184/185/186;194/195/196;204/
205/206;214/215/216;224/225/226;234/235/
236;244/245/246;254/255/256;264/265/266;
274/275/276;および284/285/286のいずれかから選択されるLC
DR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン
配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、血清中半減期を延ばすFc改変を含む、抗体または抗原結合
フラグメントが提供される。このような改変はXencor Xtend(商標)抗体工
学技術(Xencor社、メルボルン、オーストラリア)に開示されている。いくつかの
態様では、Fc改変を含む抗体またはフラグメントは、配列番号297、17、27,3
7、47、57、67、77、87、97、107、117、127、137、147、
157、167、177、187、197、207、217、227、237、247、
257、267、277または287と80%超、90%超、95%超または99%超の
配列同一性を有するアミノ酸配列を示す。
【0066】
いくつかの実施形態では、配列番号31/32/33;41/42/43;51/52
/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/93;
101/102/103;111/112/113;121/122/123;131/
132/133;141/142/143;151/152/153;161/162/
163;171/172/173;181/182/183;191/192/193;
201/202/203;211/212/213;221/222/223;231/
232/233;241/242/243;251/252/253;261/262/
263;271/272/273および281/282/283のいずれかから選択され
るHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRド
メイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む、改変され
た抗体または結合フラグメントが提供される。
【0067】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体およびフラグメントを発現させる
ためのコドン最適化核酸が提供される。いくつかの実施形態では、このような非天然の核
酸を用いて発現レベルを上昇させる。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される組
換え抗体およびフラグメントの作製にコドン最適化核酸分子を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスを重要なクレードのグループに分けた当該技術分野で公知の分類(Suzuki,Y.ら,Mol.Biol.Evol.(2002)19:501-509を改変)を示す図である。
【
図2】インフルエンザBの2つのクレードであるヤマガタおよびビクトリアに含まれる代表的な株(Dreyfus、C.ら,Science(2012)337:1343-1348を描図)を示す図である。代表的なヤマガタクレードには、ミシシッピ/04/2008;フロリダ/4/2006;吉林/20/2003;ヒューストン/B60/1997;ハルビン/7/1994;およびナッシュビル/45/1991がある。代表的なビクトリアクレードには、マレーシア/2506/2004;ミシシッピ/07/2008;ブリスベン/60/2008;およびオハイオ/01/2005がある。
【
図3】数種類の抗インフルエンザB mAbおよび2種類の抗インフルエンザA mAbのインフルエンザAおよびインフルエンザB株に対する反応性を表す組換えHAのELISAデータを記載した表7を示す図である。組換えHAのELISAは3連で実施したものであり、バックグランドに対する平均反応倍数(相対蛍光単位)が示されている。
図3から、抗B mAbのTRL809、TRL812、TRL813;TRL832、TRL841、TRL842、TRL845、TRL846、TRL847、TRL848、TRL849、TRL854およびTRL856がそれぞれ、ヤマガタクレードのB/フロリダ/06、B/マサチューセッツ/12およびB/ウィスコンシン/10ならびにビクトリアクレードのB/ブリスベン/08、B/マレーシア/04およびB/ビクトリア/87を含めた両系統のインフルエンザBウイルスに対して広い交差反応性を示すことがわかる。抗インフルエンザA mAbのCF401(mAb53)およびCF402(mAb579)は、インフルエンザAのH1(A/カリフォルニア/09)およびH3(A/シドニー/97)亜型のメンバーに対して反応性を示すが、インフルエンザB株に対しては反応性を示さない。
【
図4】代表的な株であるB/ヤマガタ/16/1988およびB/ビクトリア/2/1987に対する抗インフルエンザB抗体TRL845、TRL848、TRL849、TRL854、TRL832およびTRL809の中和IC50のデータを記載した表8を示す図である。
【
図5A】マウスにおける抗インフルエンザB抗体5A7のin vivo活性を、10×LD50のB/フロリダ(ヤマガタ系統)に感染させたマウスに5A7を鼻腔内(IN)投与した場合と腹腔内(IP)投与した場合のパーセント体重として示した図である。感染から24時間後(24hpi)にマウスをIN経路またはIP経路のいずれかによりmAbで治療し、疾患重症度の指標として連日体重を測定し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染後14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットする。体重減少が30%を超えるマウスは安楽死させた。INが1mg/kgで体重減少を完全に防ぐのに対し、IP経路による1mg/kgでは体重がいくぶん減少している。IN経路で投与すると、IP経路よりも効果が増大することがわかる。
【
図5B】マウスにおける抗インフルエンザB抗体5A7のin vivo活性を、10×LD50のB/マレーシア(ビクトリア系統)に感染させ5A7をIN投与した場合とIPした場合のパーセント体重として示した図である。24hpiにマウスをIN経路またはIP経路のいずれかによりmAbで治療し、疾患重症度の指標として体重を連日測定した。体重減少が30%を超えるマウスは安楽死させた。INが1mg/kgで体重減少を完全に防ぐのに対し、IP経路による1mg/kgでは体重がいくぶん減少している。IN経路で投与すると、IP経路よりも効果が増大することがわかる。
【
図6A】
図6A~
図6Dは、感染後第1日にIN経路により1mg/kgを投与し、感染から最大14日目までの体重を評価したマウスモデルにおける10×LD50(50%の致死率をもたらす投与量)のウイルスに対する本発明の抗インフルエンザB mAbのin vivo活性を示す図であり、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染後14日間、マウスの体重をモニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットする。
図6Aは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL845、TRL847、TRL848、TRL849および5A7が、ビクトリアクレードを代表するB/マレーシア/2506/04に感染したマウスを疾患から防御することを示す図である。
【
図6B】IN経路による1mg/kgのmAb TRL845、TRL847、TRL848、TRL849および5A7が、ヤマガタクレードを代表するB/フロリダ/04/2006に感染したマウスを疾患から防御することを示す図である。
【
図6C】IN経路による1mg/kgのmAb TRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847および5A7が、ビクトリアクレードを代表するB/マレーシア/2506/04に感染したマウスを疾患から防御することを示す図である。
【
図6D】IN経路による1mg/kgのmAb TRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847および5A7が、ヤマガタクレードを代表するB/フロリダ/04/2006に感染したマウスを疾患から防御することを示す図である。
【
図7A】
図7A~7Dは、3種類の抗インフルエンザmAbを共投与しても抗B mAbの効率に干渉しないことを示す図である。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
図7A~
図7Dは、全体として、カクテルがあらゆる季節性インフルエンザ亜型の代表的な株(H1N1、H3N2およびBの両系統)に対して、カクテルに含まれる他のmabによる干渉を受けずに、予想されるレベルの防御をもたらすことを示す図である。
図7Aは、10×LD50のH1N1に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示す図である。
【
図7B】10×LD50のH3N2に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示す図である。
【
図7C】10×LD50のB/ヤマガタ系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示す図である。
【
図7D】10×LD50のB/ビクトリア系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示す図である。
【
図8】PEPSCAN社により作成されたB/Lee/1940/HAタンパク質(配列番号291)のCLIPS(商標)ペプチドアレイを示す図である(上パネル)。B/Lee/1940/HAタンパク質の影を付けた領域は、ペプチドアレイの作成に用いたaa_15-65(配列番号292)、aa_300-359(配列番号293)およびaa_362-481(配列番号294)の残基に対応している。表9(下パネル)は、mAb5A7エピトープ1-aa_333-338(配列番号304)、エピトープ2-aa_342-346(配列番号305)およびエピトープ3-aa_457-463(配列番号306);mAb TRL845エピトープ-aa_455-463(配列番号307);TRL848エピトープ1-aa_64-71(配列番号308);エピトープ2-aa_336-348(配列番号309);エピトープ3-aa_424-428(配列番号310);mAb849エピトープ1-aa_317-323(配列番号311)、エピトープ2-aa_344-349312)、エピトープ3-aa_378-383(配列番号313);mAb854エピトープ1-aa_457-463(配列番号314)を示している。右下の図には、HAのストーク上にその領域が濃灰色で示されている。
【
図9】HAタンパク質のストークに沿ったPEPSCAN(商標)解析によるエピトープマッピングを示す図である。影を付けた領域は、各mAbが結合するエピトープを表している。mAbのTRL848、TRL845、TRL854およびTRL849は、HAのストークに沿って部分的に重複する不連続エピトープを認識する。公開されている配列に由来する対照mAb5A7では、ほぼ同じであるが固有のエピトープが得られた。
【
図10A】
図10A~
図10Fは、mAbのTRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の融解曲線アッセイを示す図である。各mAbは高い熱安定性を示した。
図10Aは、TRL845の融解曲線を示す図であり、2つの融解温度(Tm1、Tm2)がそれぞれ58.3℃および68.7℃にみられる。
【
図10B】
図10Aおよび
図10C~10Fにそれぞれ示されるmAbのTRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の融解温度(Tm)を記載した表10を示す図である。
【
図10C】TRL847の融解曲線を示す図であり、融解温度(Tm1)は70.3℃である。
【
図10D】TRL848の融解曲線を示す図であり、融解温度(Tm1)は70.1℃である。
【
図10E】TRL849の融解曲線を示す図であり、2つの融解温度が(Tm1、Tm2)それぞれ70℃および81.8℃にみられる。
【
図10F】TRL854の融解曲線を示す図であり、2つの融解温度(Tm1、Tm2)が59.7℃および68.9℃にみられる。
【
図11A】同じ用量でのIN投与およびIP投与を示す図であり、Mab INの方がIPで投与した同じMabよりも効力が10~100倍高いことを示している。マウスに10×LD50のH1インフルエンザウイルス(A/プエルトリコ/8/1934)を接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgのCA6261MabでINまたはIPにより治療し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。データから、中和抗体のIN送達により、全身送達に比してその治療効果が大幅に増大したことがわかる。
【
図11B】抗体MAb53(TRL053)のIN投与およびIP投与のH1ウイルスに対する治療効果の評価を示す図である。マウスに10×LD50のH1インフルエンザウイルスのA/プエルトリコ/8/1934(PR8)を接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの中和抗体TRL053(MAb53)をINまたはIP投与して治療し、対照にはPBS治療マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与したTRL053の方がIP投与よりも高い効果を示した。TRL053は、IPでは用量10mg/kgでのみ多少効果がみられた。IN用量は10mg/kgおよび1mg/kgで効果がみられた。
【
図12A】同じ用量でのINとIPとの比較を示す図であり、Mab CA8020 INの方がIPで投与した同じMabよりも効力が10~100倍高いことを示している。マウスに10×LD50のH3インフルエンザウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの中和CA8020 Mabを用いてINまたはIPで治療し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
【
図12B】抗体MAb579(TRL579)のIN投与およびIP投与のH3ウイルスに対する治療効果の評価を示す図である。マウスに10×LD50のVic/11 H3ウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの抗体TRL579をINまたはIP投与して治療した。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターした。TRL579はIPまたはINで効果を示すが、IN投与したTRL579の方がIP投与よりも高い効果を示した。TRL579は、IPでは用量10mg/kgでのみ多少効果がみられた。この試験のINは、用量10mg/kgおよび1mg/kgで効果がみられた。
【
図13】ウイルス感染の3日または4日前の予防的IN投与およびIP投与を示す図である。3×LD50のH1インフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/1934(PR8と表す)による攻撃の3日または4日前に抗体CA6261をINまたはIPで投与した。感染の3日前(-3dpi)または感染の4日前(-4dpi)にCA6261抗体をIN(0.1mg/kg)またはIP(0.1mg/kgおよび1mg/kg)で投与し、H1インフルエンザウイルスで攻撃した。対照をウイルス未感染および未治療とした。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
図13は、感染の最大4日前(-4dpi)のIN投与(0.1mg/kgで評価した)では、マウスがウイルス攻撃から防御されたことを示している。感染3日または4日前に同じ用量(0.1mg/kg)でIP投与した場合、効果は全くみられなかった。感染の3日または4日前のIP投与で効果がみられたのは1mg/kgであった。IN(0.1mg/kg)投与とIP(1mg/kg)投与とを比較したところ、-3dpiおよび-4dpiともに、IPの10分の1のIN用量でIPよりも高い効果がみられた。
【
図14】ウイルス感染の5日、6日または7日前の予防的IN投与およびIP投与を示す図である。3×LD50のH1インフルエンザウイルスPR8による攻撃の5日、6日または7日前に抗体CA6261をIP(1mg/kg)またはIN(1mg/kg)で投与した。対照をTamiflu(10mg/kgで1日2回、5日間の経口投与)投与、未治療およびウイルス未感染とした。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。いずれの場合も、Tamifluよりも抗体の方が高い効果が認められた。
【
図15】より高い投与量である10×LD50のウイルス攻撃によるウイルス感染の5日、6日または7日前に実施した予防的IN投与およびIP投与を示す図である。10×LD50のH1インフルエンザウイルスPR8による攻撃の5日、6日または7日前に抗体CA6261をIP(1mg/kg)またはIN(1mg/kg)で投与した。対照をTamiflu(10mg/kgで1日2回、5日間の経口投与)投与、未治療およびウイルス未感染とした。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。この試験では、抗体を(鼻腔内投与により)気道に投与したマウスのみがウイルス攻撃後もすべて生存していた。ウイルス攻撃の5日、6日または7日前に1mg/kgの抗体を投与して治療したマウスは十分に防御されず、感染症により死亡した。Tamifluには防御効果が全く認められなかった。ウイルス感染の5日前または6日前のいずれかに0.1mg/kgの抗体を鼻腔内投与して治療したマウスは、ウイルス攻撃後も未感染の対照マウスとほぼ同程度に生存した。
【
図16】モノクローナル抗インフルエンザB抗体の赤血球凝集抑制、in vitroでのB/ビクトリアおよびB/ヤマガタ系統の中和、予測結合部位(頭部、茎部)およびin vivoでの効果の評価を記載した表11を示す図である。in vivoの結果は、10×LD50のウイルスを接種し、24hpiに示されるTRL抗体を1mg/kgでIN投与した動物の初期体重に対するパーセントを評価した3つの異なる試験を各場合についてまとめたものである。動物の体重は14日間観察したものであり、観察された最も少ない体重が示されている。抗体TRL809、TRL832、TRL846、TRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の結果が示されている。TRL809、TRL832、TRL846、TRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854はそれぞれ、in vivoでの効果の評価する期間全体を通じて動物の初期体重の少なくとも95%を維持する効果を示した。TRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854は、in vivoでの効果の評価する期間全体を通じて動物の初期体重の少なくとも96%を維持する効果を示した。TRL846は従来のin vitroアッセイで中和効果を示さなかったが、放出抑制作用は示し、したがって、中和抗体であると考えられる。
【
図17】B抗体の等電点およびB/フロリダ(ヤマガタ系統)およびB/マレーシア(ビクトリア系統)インフルエンザウイルス株に対する親和性(nMで表したK
D)に関する特徴付けを記載した表12を示す図である。B抗体のインフルエンザウイルスに対する親和性を評価し、相対的効果の指標の一側面とした。B/マレーシアに対するTRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の親和性はそれぞれ、各場合ともサブnM(1.0nM未満)であった(データ不掲載)。
【
図18】B/フロリダ(ヤマガタ系統)ウイルスを投与し24hpiに様々なインフルエンザB抗体を投与した動物有効性試験を示す図である。いずれの抗体も、10×LD50のウイルスを投与した24hpiに1mg/kgでIN投与した。被験抗体をTRL845、TRL847、TRL848、TRL849、5A7およびCA8033とした。PBS投与個体およびウイルス未感染個体を対照とした。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与した抗インフルエンザB抗体は、投与量10×LD50のヤマガタ系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。
【
図19】B/フロリダ(ヤマガタ系統)ウイルスを投与し24hpiに様々なインフルエンザB抗体を投与した動物有効性試験を示す図である。いずれの抗体も、10×LD50のウイルスを投与した24hpiに1mg/kgでIN投与した。被験抗体をTRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847、5A7、TRL809およびTRL848とした。PBS投与個体およびウイルス未感染個体を対照とした。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与した抗インフルエンザB抗体は、投与量10×LD50のヤマガタ系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。
【
図20】B/マレーシア(ビクトリア系統)ウイルスを投与し24hpiに様々なインフルエンザB抗体を投与した動物有効性試験を示す図である。いずれの抗体も、10×LD50のウイルスを投与した24hpiに1mg/kgでIN投与した。被験抗体をTRL845、TRL847、TRL848、TRL849、5A7およびCA8033とした。PBS投与個体およびウイルス未感染個体を対照とした。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与した抗インフルエンザB抗体は、投与量10×LD50のビクトリア系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。
【
図21】B/マレーシア(ビクトリア系統)ウイルスを投与し24hpiに様々なインフルエンザB抗体を投与した動物有効性試験を示す図である。いずれの抗体も、10×LD50のウイルスを投与した24hpiに1mg/kgでIN投与した。被験抗体をTRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847、5A7、TRL809およびTRL848とした。PBS投与個体およびウイルス未感染個体を対照とした。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与した抗インフルエンザB抗体は、投与量10×LD50のビクトリア系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。
【
図22A】ビクトリア系統ウイルスのB/マレーシア(
図22A)およびヤマガタ系統ウイルスのB/フロリダ(
図22B)を用いた動物試験での抗インフルエンザB抗体の効果の評価を示す図である。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24hpiに1mg/kg用量の抗体によりIN治療した。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。被験抗体は、図に示されるように、TRL809、TRL832、抗体5A7およびTRL579とした。TRL579は抗H3抗体であり、これを陰性対照とした。TRL809およびTRL832は、ウイルス結合を阻止することによりインフルエンザを中和する。IN投与した抗インフルエンザB抗体TRL809、TRL832および5A7は、投与量10×LD50のビクトリア系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重はほぼ100%維持された。
【
図22B】ビクトリア系統ウイルスのB/マレーシア(
図22A)およびヤマガタ系統ウイルスのB/フロリダ(
図22B)を用いた動物試験での抗インフルエンザB抗体の効果の評価を示す図である。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24hpiに1mg/kg用量の抗体によりIN治療した。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。被験抗体は、図に示されるように、TRL809、TRL832、抗体5A7およびTRL579とした。TRL579は抗H3抗体であり、これを陰性対照とした。TRL809およびTRL832は、ウイルス結合を阻止することによりインフルエンザを中和する。IN投与した抗インフルエンザB抗体TRL809、TRL832および5A7は、投与量10×LD50のビクトリア系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重はほぼ100%維持された。
【
図23】インフルエンザAまたはインフルエンザBウイルスに対する抗体TRL053、TRL579および5A7の組合せのIN投与を用いて抗ウイルス効果を評価した動物試験を示す図である。動物にH1ウイルスのPR8、H3ウイルスのビクトリア/11、インフルエンザBウイルスのB/マレーシアまたはインフルエンザBウイルスのB/フロリダのいずれかを感染させた後、未治療のまま放置するか、3種類の抗体のカクテルで治療した。各抗体を1mg/kgの用量で含ませ、総抗体量を3mg/kgとした。カクテル治療個体には、図のように、10×LD50のウイルスを投与して24hpiに組合せ抗体を投与した。対照としてウイルス未感染個体が図示されている。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
図23から、10×LD50のウイルスによる感染から24時間後に単回混合用量として投与した抗体カクテルが、H1ウイルス、H3ウイルス、B/ヤマガタ系統ウイルスおよびB/ビクトリア系統ウイルスのそれぞれまたはいずれかによる感染に対して効果を示したという証拠が得られる。
【
図24】感染から4日後に1mg/kgのCF-401の単回投与で治療した場合、100%のマウスが致死量のH1N1による攻撃後も生存した動物試験を示す図である。標準治療のTamifluを投与しても防御作用は示さないが、CF-401 mAb療法に加えると、さらに体重減少が抑えられる。第4~8日に1日2回、10mg/kgのTamifluを経口投与した。データは、標準治療(Tamiflu)にmAb療法を加えると、遅い時点で投与しても効果が得られることがわかる。
【
図25】CA6261抗体のモデル抗体フラグメントFabのH1ウイルスに対する治療効果をIN投与とIP投与とで比較した結果を示す図である。マウスに10×LD50のH1インフルエンザウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの中和CA6261 FabをINまたはIPで投与し、対照にはPBS治療マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与したFab CA6261抗体はいずれの用量でも、いずれのIP投与したいずれの用量よりも高い効果を示した。中和FabをIP投与した場合、最高用量の10mg/kgでも検出可能な効果はみられなかった。
【発明を実施するための形態】
【0069】
(詳細な説明)
生命を脅かす季節性および流行性のインフルエンザ感染症は依然として重大な疾患であ
り、米国だけでも40,000人がこれにより死亡している。季節性ワクチンを用いるこ
とができてもインフルエンザを根絶するには至っておらず、重要な臨床的課題となってい
る。実際に使用されているインフルエンザの承認薬はTamiflu(登録商標)1つの
みであるが、インフルエンザには、Tamiflu(登録商標)をはじめとするノイラミ
ニダーゼ阻害剤に対する耐性を発達させる傾向が強いことが明らかにされている。さらに
、Tamiflu(登録商標)は、症状発現から48時間後に投与すると実質的に効果が
失われることがわかっている。
【0070】
インフルエンザを標的とする抗体がワクチンに代わるものとして感染症の治療または予
防に迅速に効果を発揮し得るのに対し、ワクチンは通常、有効な抗ウイルス活性を誘導す
るのに数週間を要する。特に魅力的なものとして、赤血球凝集素ストークと呼ばれる領域
のインフルエンザ表面の主要なタンパク質である赤血球凝集素に反応性を示すモノクロー
ナル抗体があり、赤血球凝集素は遺伝的に安定であり、季節による変化がほとんどない、
または全くみられない。
【0071】
既に特徴が明らかにされ、インフルエンザの治療用抗体として開発中の抗体が、ウイル
スの保存されたエピトープに基づくものを含め多数存在する。一部の交差反応性抗体は、
ワクチン接種または自然感染時に最も堅固な中和抗体を生じさせる赤血球凝集素(HA)
糖タンパク質を標的とする。HAは、ウイルス感染に極めて重要な成分である2つのサブ
ユニット、HA1およびHA2を含む。MAb CR6261はよく特徴付けられた抗体
であり、第1群内のH1ウイルスおよびその他の亜型(H5)と結合すると考えられ、H
A2サブユニットと結合する(Throsby Mら(2008)PL0S ONE 3
:e3942;Eckert DCら(2009)Science 324:246-2
51;Friesen RHEら(2010)PLoS ONE 5(2):e1906
;米国特許第8,192,927号)。MAb CR8020は、第2群ウイルスである
H3ウイルスおよび別の亜型(H7)ウイルス両方のHA2の膜近位ドメイン領域と結合
すると考えられている(Eckert DCら(2011)Science 333:8
43-850)。スイスの研究者による抗体FI6v3は、第1群(H1)および第2群
(H3)両方のウイルスに存在するエピトープと結合することができると考えられている
が、FI6の効果が少ないことがマウスで明らかにされている(Corti Dら(20
11)Science 333:850-856)。Paleseらは、様々な赤血球凝
集素を有するマウスに連続予防接種を用いて、H3インフルエンザウイルスに対して広範
な防御作用を示すモノクローナル抗体を報告している(Wang TTら(2010)P
LoS Pathog 6(2):e1000796;米国特許出願公開第201100
27270号)。この方法を用いて、広域反応性を示すと考えられるH1抗体が単離され
ている(Tan GSら(2012)J Virol 86(11):6179-618
8)。
【0072】
HAに対するモノクローナル抗体によるインフルエンザの治療的処置は用量依存性であ
るほか、感染後に時間が経過してから投与する場合には用量を高くする必要がある。広域
反応性のHA特異的抗体をIPまたはIVで実施する典型的な治療的投与では、致命的攻
撃から防御するのに2mg/kg~50mg/kgの範囲の用量を必要とする。感染後に
時間が経過してから同じ効果を得るには、10mg/kgを超える範囲の投与が必要とな
る。北米の平均的な成人は約80.7kgであり、10mg/kgで投与する場合、抗体
を807mg必要とすることになる。Crucell Holland BVにより現在
実施されているインフルエンザモノクローナル抗体CR6261およびCR8020を対
象とする2件の第1相試験では、1mg/kgから50mg/kgまで漸増する単回用量
での安全性および耐容性が評価されている(それぞれ試験NCT01406418および
NCT01756950;clinical trials.gov)。マウスでは、死
に至らないようにするために上記の抗体を15mg/kg必要とする(Friesen,
RHEら(2010)PLoS ONE 5(2):e1906);Ekiert DC
ら(2011)Science 333:843-850)。これらのIPまたはIV投
与量に基づけば、ヒト(約70kg)の体重に基づき単一抗体が患者1人当たり1グラム
前後必要となる。複数のインフルエンザ亜型を対象とするいかなる治療法でも、流行中の
インフルエンザの3つの異なる亜型(インフルエンザA H3、インフルエンザA H1
およびインフルエンザB)を治療するには2つ以上の抗体が必要とされることによりこの
量はさらに増大し、したがって、各抗体を約1グラムと仮定すると、合計3グラム前後の
抗体が必要になると考えられる。抗体がこれほど大量になると、コストが法外に高くなる
ほか、投与も困難であり、インフルエンザの治療用抗体を開発するうえで大きな障害とな
る。
【0073】
本発明者らは、効果を著明に保持し、場合によっては改善しながらも、抗体の量を大幅
に10倍超減らす解決法をつきとめた。本発明者らは、抗体を鼻腔内に、またはより一般
的には吸入により送達することで、効果がIVまたはIP経路に比して著明かつ有意に改
善されることを発見した。米国特許出願第61/782,661号および国際出願PCT
/US2014/27939号(参照により本明細書に組み込まれる)にはインフルエン
ザモノクローナル抗体の有効な経気道投与が記載されている。
【0074】
受け入れられている既知のインフルエンザマウスモデルを用いて、中和抗体の鼻腔内(
IN)送達により、治療効果を腹腔内(IP)または静脈内(IV)到達経路に比して大
幅に10倍超増大させることができるのは注目すべきことである。IVまたはIP経路の
代わりにINで投与すると、同用量の10分の1未満の量を用いて同等の効果を得ること
ができる。インフルエンザの治療に現在用いられている治療デザインは、標準治療として
静脈内送達を用いるものである(ClinicalTrials.gov識別番号:NC
T01390025、NCT01756950、NCT01406418)。抗体の中和
特性を利用することが可能であるかどうかは明らかにされていないため、当該分野ではこ
の送達方法が標準治療となっている。抗体治療薬に関する研究の大部分はIVまたはIP
送達を用いるものであり、インフルエンザに中和抗体をIN送達することで効果がIVま
たはIP送達に比して改善されることを明らかにすることはできない。
【0075】
これまでに報告されているIN送達では、ポリクローナル血清ガンマグロブリンIVI
Gまたは抗体のIgAクラス(IgA抗体は生得的に肺によくみられる)が評価されてい
る(Akerfeldt Sら(1973)Biochem Pharmacol 22
:2911-2917;Ramisse Fら(1998)Clin Exp Immm
unol 111:583-587;Ye Jら(2010)Clin Vaccine
Immunol 17(9):1363)。あるグループは、抗体(C179)の腹水
調製物をIN経路により試験し、防御的IN送達(攻撃前)でもIPと差がないことを記
載している(Sakabe Sら(2010)Antiviral Res 88(3)
:249-255)。C179は、2009年に大流行したH1N1ウイルスに対する中
和活性は低いが、マウスを感染から防御することが報告されている。
【0076】
これとは対照的に、本発明者らは、重要なこととして、投与様式に関係なく、効果の増
大が単に交差反応性抗インフルエンザ抗体を伴うだけではないことを発見した。一般に、
INで投与すると中和作用を示さない抗体は、インフルエンザに対して効果を示さない。
本発明者らの知る限り、これまで、標的とするウイルスのエピトープまたはタンパク質に
関係なく、この効果をin vitro中和活性を示す抗体に対してより広範に適用する
ことが可能であることを明らかにした研究はない。さらに、中和作用を示す株特異的抗体
をINで投与しても効果の増大がみられることから、抗体がHAに対して交差反応性であ
る必要はない。本発明者らは、投与経路に応じて同等の効果を得るのに必要な抗体の量を
大幅に減らすには、中和抗体(単に交差反応性の抗HA抗体であるだけではない)が不可
欠であることを発見した。実際、本発明者らは、中和作用を示さない交差反応性抗HA抗
体を用いると、逆のことが起こることを発見した。このような交差反応性非中和抗HA抗
体を治療に用いると、鼻腔内投与によりマウスを治療する際に治療効果が著明に減少する
が、IPまたはIV経路により投与すると、これらの抗体が相当な効果を示す。
【0077】
理論に束縛されるものではないが、この現象の背後にあると考えられる機序は、鼻腔内
送達では、気道粘膜内のIgG抗体のレベルが抗体の抗原結合部位の中和能を利用するこ
とができる程度に達するのに対し、抗体のIVまたはIP送達はFcに依存することにあ
る。気道内では、阻害機序は抗体の中和特性に依存し、Fc依存性の作用は著しく制限さ
れる。IPまたはIVによりIgG抗体を投与すると、気道内のこの空間に到達する抗体
の量が少なくなり、抗体の中和作用を利用することができない。例えば、IPまたはIV
により中和抗体を投与する場合、観察される治療効果は、主として抗体エフェクター機能
に起因するものである。本発明者らは、INではなくIPまたはIVで投与しても、中和
抗体または非中和抗体の効果のレベルに差がないことを発見した。この作用が中和に依存
することをさらに説明すると、M2タンパク質に対する抗体はin vitroの中和作
用を示さず、Fc仲介性の作用を示すことしかできない。M2イオンチャネル(HAより
も遺伝的に保存された分子)に対する抗体を用いたこれまでの研究は、前臨床的モデルで
有望であることを明らかにし、第I相試験が終了している(Theraclone社のT
CN-032;NCT01390025、NCT01719874;Grandea A
Gら(2010)Proc Natl Acad Sci USA 107(28):1
2658-12663)。M2タンパク質に対する抗体はウイルスを中和することはでき
ないが、エフェクター機能を介した治療効果が十分に確認されている(Wang,R.ら
(2008)Antiviral research 80:168-177;Gran
dea,A.G.,3rdら(2010)Proc Natl Acad Sci US
A 107(28):12658-12663)。本発明者らは、中和抗体および非中和
抗体はともに、IPまたはIVで投与すると、主としてM2標的化抗体と同様のエフェク
ター機能を介して機能するものと考える。M2タンパク質はHAよりもはるかに量が少な
いほか、表面から突出していない。HAに対する抗体はウイルスを中和することが可能で
あり、なおも効果が改善される可能性を秘めている。したがって、通常、HAに対する抗
体の方が抗M2抗体よりも治療効果が高い。それでも、中和作用を示さなくてもHAを標
的とする抗体は、IPで投与しても中和抗体と同レベルの効果を示す可能性があり、この
送達経路では、INで投与したときに利用することが可能な強力な作用を利用できないこ
とが示唆される。さらに、IPではなくINで中和Fabを送達すると治療効果が得られ
る。INで投与した非中和Fabは治療効果を示さない。以上をまとめると、このような
効果の増大を示すのはINで投与した中和抗体のみである。この観察結果を拡張すると、
肺送達による効果の増大というこの現象は、他のインフルエンザタンパク質(例えば、ノ
イラミニダーゼ)を標的とする中和抗体および他の呼吸器病原体に対する中和抗体(例え
ば、RSVに対するパリビズマブ)に起こり得る。この効果の増大または効果の増大のレ
ベルは、呼吸器病原体のこのサブセットの肺尖部における複製生活環に依存するものと思
われ、この場合、肺尖の空間隙では、これらのウイルスが上記の抗体の中和能による影響
を受けやすい。INおよびIP/IV経路による抗体の送達はともに、それぞれが異なる
方法で効果を発揮し得るため、両経路を組み合わせて用いれば、中和抗体の最大の治療能
を利用することが可能である。この方法は、IN経路を介した中和活性の増大およびIP
/IV経路によるFc依存性活性の増大を利用することにより、最大の効果を可能にする
ものである。
【0078】
本発明の実施例では、既知の抗体および新たに単離された抗体を含めた中和抗体の低用
量での鼻腔内効果を示す。例示的な抗体として、抗体CR6261、CR8020、CR
9114、5A7、mAb53(TRL053)、mAb579(TRL579)、TR
L845、TRL846、TRL847、TRL848、TRL849、TRL854、
TRL809およびTRL832を含めた多数の異なる既知の抗体で鼻腔内効果が得られ
る。前臨床試験を含め、例えばCR6261およびCR8020などの試験が多数実施さ
れているものの、このような活性および効果はこれまでに明らかにされていない。本明細
書では、既知の抗体および新たに単離された抗体を含めた多数の異なる抗体を評価し、経
気道投与で効果が得られる。
【0079】
本発明は、インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対して効果を示し、有
害な相互作用を伴わず著明な製剤化効率で製造および投与することができる、新規で独自
の抗体の組合せに関する。本発明による組合せの抗体は、インフルエンザAウイルスの亜
型H1、H3、H5のほか、インフルエンザBのヤマガタ系統およびビクトリア系統を含
めた、互いに異なるが、いずれも臨床的に重要な亜型に対するものである。したがって、
本発明は全般的には、適用可能な抗体の組合せおよびカクテルを提供し、ここでは、重要
な流行中のインフルエンザウイルスを中和することができる抗体の独自の組合せまたはカ
クテルを、経気道投与ならびに鼻腔内などの気道から、または肺もしくは気管支粘膜への
送達により本発明の抗体の組合せまたはカクテルを投与することによるインフルエンザウ
イルス、インフルエンザによる感染および/または伝染の治療または予防のための方法お
よび組成物に用いることができる。本発明の抗体の組合せまたはカクテルの独自で有用な
効果により、投与または使用前にインフルエンザウイルスまたは亜型の臨床評価も特異的
診断も実施する必要がない。抗体フラグメント、誘導体または変異体が企図される。本明
細書では、Fabを含めた抗体フラグメントで本開示に従って効果が得られることが示さ
れる。本開示の実施形態の一態様では、抗体のFabフラグメントは、経気道経路(例え
ば、鼻腔内または吸入による)で投与すると活性および効果を示し、IPまたはIVで投
与すると無効である。
図25に示されるように、吸入製剤にはモデルFabがin vi
voで効果を示す。いくつかの実施形態では、scFvである抗原結合フラグメントが提
供される。
【0080】
いくつかの実施形態では、インフルエンザに対する受動免疫に用いる抗体、抗原結合フ
ラグメント、組成物および方法が提供される。いくつかの実施形態では、インフルエンザ
ウイルスの治療または予防のための抗体の組合せ、組成物および方法が提供される。いく
つかの態様では、インフルエンザAおよびBに対するモノクローナル抗体を含み、鼻腔内
または吸入投与などの経気道投与を含めた投与により全身に、または呼吸気道に直接投与
するのに適した組成物が提供される。抗体(1つまたは複数)の経気道投与または抗体の
鼻腔内もしくは吸入投与と腹腔内もしくは静脈内投与の組合せにより治療または予防する
ための組成物および方法が提供される。
【0081】
最近、赤血球凝集素(HA)分子内に保存されたエピトープが発見された。多種多様な
インフルエンザAウイルス亜型を認識し中和することが可能なヒトモノクローナル抗体(
MAb)の単離および特徴付けに関する報告がいくつかある。これらの多くは、ワクチン
接種または自然感染時に最も堅固な中和抗体を生じさせる赤血球凝集素(HA)糖タンパ
ク質を標的とするものである。HAは、ウイルス感染に極めて重要な成分である2つのサ
ブユニット、HA1およびHA2を含む。HA1は宿主細胞の受容体シアル酸との結合に
関与し、HA2はウイルスとエンドソーム膜との融合を仲介する。
【0082】
現在用いられている抗体療法の用量は、米国で臨床承認されている20を超えるモノク
ローナル抗体を含めた多数の組換え抗体に関するこれまでの研究および臨床経験に基づき
十分に確立されており、1用量当たり数mg/kgである(Newsome BWおよび
Ernstoff MS(2008)Br J Clin Pharmacol 66(
1):6-19)。例えば、結腸直腸癌に承認されている抗EGFR完全ヒト抗体のパニ
ツムマブは、2週間ごとに6mg/kgを1~1.5時間にわたって静脈内に投与する。
ヒトの平均体重70kgを用いれば、この量は1用量当たり420mgの抗体となる。
【0083】
モノクローナル抗体でこれまでにインフルエンザに臨床承認されているものはない。動
物を対象にインフルエンザ抗体を用いた試験の報告では、これらの抗体を治療または予防
目的で静脈内または腹腔内に投与する場合、その有効量の範囲には、1mg/kgから最
大100mg/kgまでの範囲を必要とすることが明らかにされている。数種類のこれら
の抗体(CR6261、CR8020、TCN-032)を用いた米国での第I相臨床試
験では、安全性および耐容性の試験に2mg/kgから最大50mg/kgまで用量を漸
増させて用いている(clinicaltrials.gov;NCT01390025
、NCT01406418、NCT01756950)。その後、これらの抗体を用いた
第IIa相試験が第I相の最大用量(例えば、30mg/kgまたは50mg/kg)で
実施されている。これほど大量の原料は、この新たな抗体治療薬の系列を開発するうえで
大きな障害となる。特に、この範囲で全身投与するとなると、原料のコストが相当高くな
るほか、注入に関わる時間的、空間的および人員的コストが必然的に伴う。したがって、
抗体を用いたインフルエンザの治療法または予防法が実現可能な選択肢となるには、効果
を増大させ、かつ/または必要な原料の量を削減することが必要になるのは避けられない
。
【0084】
インフルエンザBはインフルエンザAよりもいくぶん頻度は低いが、重大な健康問題で
あることに変わりはない。インフルエンザBウイルスは一般に、B/ビクトリア/2/8
7様およびB/ヤマガタ/16/88様の2つの系統に分類される。インフルエンザBウ
イルスは、塩基性1-F2(PB1-F2)と呼ばれるタンパク質は存在しないが、イン
フルエンザAには存在しない糖タンパク質B(NB)などのほかのタンパク質が存在する
点でインフルエンザAウイルスとは異なる。ほかにも相違点がいくつかある。しかし、イ
ンフルエンザB株のHAタンパク質は、一部のインフルエンザAのHAが互い相同である
ように、これらと相同である。
【0085】
インフルエンザウイルスの赤血球凝集素タンパク質(HA)は、インフルエンザ株の間
で不均一性の高い球状の頭部ドメインおよび細胞内への侵入に必要な融合部位を含むスト
ーク領域を有する。HAはウイルスエンベロープ上に三量体で存在する。未切断型の赤血
球凝集素タンパク質(HA0)がトリプシンによりHA1部分とHA2部分に切断されて
活性化すると、融合部位が毒性を示すようになる。2つの切断された部位は、ジスルフィ
ド結合を用いて結合したままであるが、宿主細胞のエンドソーム区画の低pH環境内では
立体構造変化を受けてウイルスと宿主細胞膜の融合を引き起こす。
【0086】
切断部位には、インフルエンザAおよびB両方の様々な株に共通するコンセンサス配列
が含まれている。未切断の赤血球凝集素タンパク質三量体(HA0)は不活性型と呼ばれ
るのに対し、赤血球凝集素タンパク質がHA1部分とHA2部分に切断されると、活性化
型であると言われる。
【0087】
Bianchi,E.ら,J.Virol.(2005)79:7380-7388に
は、この切断部位のコンセンサス配列に基づく「汎用」インフルエンザBワクチンが記載
されており、ここでは、この部位を含むペプチドを髄膜炎菌(Neisseria me
ningitidis)の外膜タンパク質複合体をコンジュゲートすると、マウスに抗体
を生じさせることができたとしている。このほか、コンセンサス配列と結合すると思われ
るモノクローナル抗体(mAb)が記載された。さらに、マウスで抗血清の受動移入に成
功するのが観察されている。その他の先行技術のワクチン、例えばインフルエンザのM2
および/またはHAタンパク質に由来するペプチドを含む国際公開第2004/0804
03号に記載されているワクチンなどは、株間で効果が低いか、効果がみられない抗体を
誘導する。
【0088】
当該技術分野で記載されている抗体で、HAストーク領域と結合するものとしては、C
rucell社が開発した抗体、例えば国際公開第2008/028946号(‘946
);Throsby,M.ら,PLoS One(2008)3:e3942;Ekie
rt,D.C.ら,Science(2011)333:843 850;およびSui
,J.ら,Nat.Struct.Mol.Biol.(2009)16:265-27
3に記載されているCR6261およびCR8020などが挙げられる。上記のPCT公
開‘946によれば、これらの抗体はH5N1だけでなく、H2、H6、H9およびH1
とも結合する。このほか、Grandea,A.G.ら,PNAS USA(2010)
107:12658-12663により記載されているように、保存されたM2E抗原に
対するmAbが開発されている。M2Eはウイルスにコードされているタンパク質であり
、感染細胞の表面に出現し、アマンタジンおよびリマンタジンの標的でもある。これらの
抗ウイルス剤に対しては薬物耐性が広まっており、このことは、この標的が不可欠な機能
を果たさないことを示唆している。
【0089】
ほかにも、Lanzavecchiaのグループ:Corti,D.ら,Scienc
e(2011)333:850-856には、インフルエンザAの第1群および第2群両
方の株と結合して中和する先行技術の抗体が記載されているが、その効力は本明細書に記
載されるものほど高くはない。さらに、インフルエンザAおよびB両方のストーク領域に
対して免疫反応性を示すmAbがDreyfus,C.ら,Science(2012)
337:1343-1348に記載されているが、検出可能な中和能は持たない。同著者
らは、HAの頭部基と結合するmAbを2つ記載しており、そのうち一方は、インフルエ
ンザBの2つのクレードの株に対する親和性および効力に大きなばらつきがみられ、他方
は親和性が約1nMである。これらの結果から、インフルエンザBの広域中和mAbを得
ることが困難であることが確認される。
【0090】
参照により本明細書に組み込まれるPCT出願公開第2011/160083号には、
ヒト細胞に由来し、受動ワクチンに有用なモノクローナル抗体が記載されている。この抗
体は、インフルエンザウイルス第1群のクレードH1との結合に高い親和性を示し、その
一部の抗体はほかにも、同じく第1群のH9ならびに/あるいは第2群のH7および/ま
たは第1群のH2に対して高い親和性を示す。開示されている抗体には、推測ではあるが
コンセンサス切断領域にある、不活性化三量体型のみと結合するものもあれば、既に切断
されている活性化赤血球凝集素タンパク質と結合することができるものもある。
【0091】
参照により本明細書に組み込まれるPCT公開第2013/086052号には、この
コンセンサス領域にあるエピトープと結合し、第1群のH1、H2、H5、H6、H8、
H9、H11、H13およびH16ならびに第2群のH3およびH7を含めた第1群およ
び第2群両方の多数のインフルエンザAウイルスと結合する、二重特異性抗体を含む一群
の抗体が開示されている。さらに、最近公開されたYasugi,M.ら,PLoS P
athogens(2013)9(e1003150としてオンラインで公開されている
)の1~12ページには、インフルエンザBウイルスを中和するヒトmAb、特に、感染
から72時間後にマウスに投与しても治療効果が認められるとされる、5A7と命名され
たmAbが記載されている。5A7のKDは被験株に対してのみ5nMであると報告され
ており、エピトープは高度に保存されたC末端ストーク領域内にあることが特定されてお
り;報告された効力は、インフルエンザBのいずれの株に対しても同程度であった。この
結果から、インフルエンザBに対する高親和性(サブnM)mAbを得ることが困難であ
ることが確認される。
【0092】
いくつかの実施形態では、予防にも治療にも有用な抗体またはこれに類似した結合部分
が提供される。したがって、これらは、対象のウイルスによる感染からの防御のほか、既
にインフルエンザBに曝露または感染した対象の治療に使用され得る。最終的に最も関心
のある対象はヒト対象であり、ヒト対象に使用するには、従来の天然抗体またはその免疫
反応性フラグメントであるヒト型またはヒト化型の結合部分が好ましい。しかし、相補性
決定領域(CDR)によって表されるしかるべき結合特性を含む抗体は、実験動物を対象
とする試験に用いる場合、非ヒト特性を保持し得る。のちの実施例の試験はマウスを対象
に実施されるものであるが、その試験に用いる抗体は、ヒトである可変領域および定常領
域をともに含むものである。
【0093】
定義
本開示では、当業者の技能範囲内に収まる従来の分子生物学、微生物学および組換えD
NAの技術を用い得る。このような技術は文献で十分に説明されている。例えば、Sam
brookら,“Molecular Cloning:A Laboratory M
anual”(1989);“Current Protocols in Molec
ular Biology” Volumes I-III[Ausubel,R.M.
編(1994)];“Cell Biology:A Laboratory Hand
book” 第I~III巻[J.E.Celis編(1994))];“Curren
t Protocols in Immunology” Volumes I-III
[Coligan,J.E.ら編(1994)];“Oligonucleotide
Synthesis”(M.J.Gait編,1984);“Nucleic Acid
Hybridization”[B.D.HamesおよびS.J.Higgins編
(1985)];“Transcription And Translation”[
B.D.HamesおよびS.J.Higgins編(1984)];“Animal
Cell Culture”[R.I.Freshney編(1986)];“Immo
bilized Cells And Enzymes”[IRL Press,(19
86)];B.Perbal,“A Practical Guide To Mole
cular Cloning”(1984)を参照されたい。
【0094】
したがって、以下に挙げる用語が記載されている場合、文脈上明らかに別の意味に解す
る必要がない限り、それらは以下に記載する定義を有するものとする。
【0095】
本明細書で使用される「抗体」または「結合部分」という用語は、抗体、その免疫反応
性フラグメントまたは抗原結合フラグメントのほかにも、単一特異性モノクローナル抗体
、多重特異性抗体、例えば二特異性モノクローナル抗体もしくは三特異性モノクローナル
抗体など、単離モノクローナル抗体、組換えモノクローナル抗体および単離ヒトもしくは
ヒト化モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを指す。2つの免疫グロブリ
ン重鎖と2つの免疫グロブリン軽鎖とを含む分子のほか、「フラグメント」が重複して記
載される場合でも、従来の抗体の免疫反応性フラグメントまたは抗原結合フラグメントを
含む。したがって、抗体には、Fabフラグメント、実質的に可変領域のみを含むFv一
本鎖抗体、二重特異性または三重特異性抗体および依然として免疫特異性を保持している
その様々なフラグメント型のほか、より従来的な天然の抗体の可変領域の活性に近いアミ
ノ酸配列もしくは改変アミノ酸配列(すなわち、擬似ペプチド)を含むことにより「天然
の」抗体の活性を模倣するタンパク質が含まれる。したがって、この用語は、天然である
か、全部または一部が組換えによるものまたは別の方法で改変したものなど合成であるか
を問わず、免疫グロブリン結合ドメインを含むあらゆるポリペプチドを含め、抗体フラグ
メント、抗体の誘導体、機能的同等物および相同体を包含する。したがって、免疫グロブ
リン結合ドメインまたは別のポリペプチドと融合した同等物を含むキメラ分子が含まれる
。キメラ抗体のクローニングおよび発現については、欧州特許出願公開第0120694
(A)号および同第0125023(A)号ならびに米国特許第4,816,397号お
よび同第4,816,567号に記載されている。
【0096】
「抗体」という用語はほかにも、天然であるか、一部または全部が合成により作製され
たものであるかを問わず、免疫グロブリンを含む。この用語はこのほか、抗体結合ドメイ
ンであるか、これと相同である結合ドメインを有するあらゆるポリペプチドまたはタンパ
ク質を包含する。ほかにも、CDR移植抗体がこの用語により企図される。「抗体」とは
、特異的エピトープを結合する、抗体およびそのフラグメントを含めた任意の免疫グロブ
リンのことである。この用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体およびキメラ
抗体を包含し、最後に挙げたキメラ抗体については、米国特許第4,816,397号お
よび同第4,816,567号にさらに詳細に記載されている。「抗体(1つまたは複数
)」という用語は、一般に4本の完全長ポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖および2本の
軽(L)鎖を含む野生型免疫グロブリン(Ig)分子またはこれと同等のIg相同体(例
えば、重鎖のみを含むラクダナノボディ)を含み;Ig分子の不可欠なエピトープ結合特
性を保持する完全長のその機能的変異体、変異体または誘導体を含むほか、二重特異性抗
体、二特異性抗体、多重特異性抗体および二重可変ドメイン抗体を含み;免疫グロブリン
分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY
)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およ
びIgA2)のものであり得る。好ましい抗体はIgGクラスのものである。
【0097】
「抗体結合部位」とは、重鎖および軽鎖の可変領域および超可変領域からなり、抗原と
特異的に結合する、抗体分子の構造的部分のことである。
【0098】
本明細書において様々な文法形態で使用される「抗体分子」という語句は、インタクト
な免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分をともに企図す
る。
【0099】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集
団、すなわち、集団を構成する個々の抗体が同一であり、かつ/または同じエピトープ(
1つまたは複数)と結合する集団から得られる抗体を指すが、例えば、天然の変異を含ん
でいる、あるいはモノクローナル抗体調製物を作製する過程で生じる可能性のある変異体
は除外され、このような変異体は一般に、存在量が少ない。モノクローナル抗体とは、特
定の抗原に対して免疫反応を示し得る抗体結合部位を1種類有する抗体のことである。し
たがって、モノクローナル抗体は通常、それが免疫反応を示す任意の抗原に対して単一の
結合親和性を示す。ポリクローナル抗体調製物には通常、様々な決定基(エピトープ)に
対する様々な抗体が含まれているが、これとは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各
モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。しかし、モノクローナ
ル抗体が異なる抗原に対してそれぞれ特異的な複数の抗体結合部位を有する抗体分子を含
む場合、それは例えば二重特異性(キメラ)モノクローナル抗体ように、多特異性を示し
得る。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られるという
抗体の性質を表すものであり、任意の特定の方法によって抗体を作製する必要があるもの
として解釈されるべきではない。例えば、本開示に従って用いるモノクローナル抗体は、
特に限定されないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法およ
びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含むトランスジェニック動物を用いる
方法を含めた様々な技術によって作製され得るものであり、本明細書に記載には、上記の
方法をはじめとするモノクローナル抗体を作製するための例示的方法が記載される。
【0100】
「免疫反応性フラグメント」、「結合フラグメント」および「抗体フラグメント」と同
義的に使用される「抗原結合フラグメント」は、抗原と特異的に結合して複合体を形成す
るポリペプチドまたは糖タンパク質であって、酵素的に得られるか、合成であるか、組換
えにより「改変された」ものであるポリペプチドまたは糖タンパク質を指す。「抗体フラ
グメント」は、インタクト抗体の一部分を含み、インタクト抗体が結合する抗原と結合す
る、インタクト抗体以外の分子を指す。「改変された」抗体フラグメントの例としては、
特に限定されないが、Fv、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ
;線状抗体;一本鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体フラグメントから作製さ
れる多重特異性抗体が挙げられる。さらに、抗体フラグメントは、VHドメインの特徴、
すなわち、VLドメインとともに機能的抗原結合部位を構築して完全長抗体の抗原結合特
性をもたらすことが可能であるという特徴またはVLドメインの特徴、すなわち、VHド
メインとともに機能的抗原結合部位を構築して完全長抗体の抗原結合特性をもたらすこと
が可能であるという特徴を有する、一本鎖ポリペプチドを含む。「抗体フラグメント」は
、(i)可変軽鎖(VL)ドメイン、可変重鎖(VH)ドメイン、定常軽鎖(CL)ドメ
インおよび定常重鎖1(CH1)ドメインからなる一価フラグメントであるFabフラグ
メント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメ
ントを含む二価フラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(iii)VHドメイ
ンおよびCH1ドメインからなるFab(Fd)フラグメントの重鎖部分;(iv)抗体
の単腕のVLドメインおよびVHドメインからなる可変フラグメント(Fv)フラグメン
ト;(v)単一の可変ドメインを含むドメイン抗体(dAb)フラグメント(Ward,
E.S.ら,Nature 341,544-546(1989));(vi)ラクダ抗
体;(vii)単離された相補性決定領域(CDR);(viii)VHドメインとVL
ドメインがペプチドリンカーにより連結され、この2つのドメインが会合して抗原結合部
位を形成することが可能な一本鎖Fvフラグメント(Birdら,Science,24
2,423-426,1988;Hustonら,PNAS USA,85,5879-
5883,1988);(ix)VHドメインとVLドメインが単一のポリペプチド鎖上
に発現するが、同じ鎖上のこの2つのドメインの間で対形成ができない程度に短いリンカ
ーが用いられており、これらのドメインを別の鎖の相補的ドメインと対形成させて、2つ
の抗原結合部位が生じるようにした二価の二重特異性抗体である、ダイアボディ(国際公
開第94/13804号;P.Holligerら,Proc.Natl.Acad.S
ci.USA 90 6444-6448,(1993));ならびに(x)相補的軽鎖
ポリペプチドとともに1対の抗原結合領域を形成する1対の縦列Fvセグメント(VH-
CH1-VH-CH1)を含む、線状抗体(xi)多価抗体フラグメント(scFv二量
体、三量体および/または四量体(PowerおよびHudson,J Immunol
.Methods 242:193-204 9(2000));(xii)定常免疫グ
ロブリンドメインのCH3またはCH4と融合し、定常CH3ドメインまたはCH4ドメ
インが二量体形成ドメインとしての役割を果たすscFvからなる二価分子である、ミニ
ボディ(Olafsen Tら(2004)Prot Eng Des Sel 17(
4):315-323;Hollinger PおよびHudson PJ(2005)
Nature Biotech 23(9):1126-1136);ならびに(xii
i)単独の、あるいは任意に組み合わせた、重鎖および/または軽鎖のその他の非完全長
部分あるいはその突然変異体、変異体または誘導体を含めた完全長ではないポリペプチド
鎖を少なくとも1つ含む分子を含む。一本鎖Fab(scFAb)は既知であり、米国特
許出願公開第20070274985号などに記載されている。
【0101】
抗原結合フラグメントは、Fabフラグメント;F(ab’)2フラグメント;Fdフ
ラグメント;Fvフラグメント;一本鎖Fv(scFv)分子;dAbフラグメント;お
よび抗体の超可変領域(CDR)を模倣するアミノ酸残基からなる最小限の認識単位を含
む。その他の改変された分子、例えばダイアボディ、トライアボディ、テトラボディおよ
びミニボディも、本明細書で使用される「抗原結合フラグメント」という語句に包含され
る。
【0102】
最初に本明細書に記載され、新規なポリペプチド実体以外を構成する抗体以外で、本明
細書で組み合わせて使用および言及される抗体には、報告されている周知のアミノ酸配列
を有する抗体が含まれ得るほか、既知であるか、公開されているアミノ酸配列に対する改
変を有し、標的の中和または認識および結合活性を含めた実質的に同じ活性を保持するか
示す、抗体、タンパク質、ポリペプチドが含まれる。したがって、実質的に同じであるか
、変化した活性を示すタンパク質も同様に企図される。上記の改変は、例えば部位特異的
変異誘発により得られる改変など、意図的なものであって、あるいは、複合体またはその
命名されたサブユニットを産生する宿主の変異により得られる改変など、偶発的なもので
あってもよい。抗体は、本明細書に具体的に記載されるタンパク質のほかにも、具体的に
開示される抗体または公に報告されている抗体と少なくとも80%、少なくとも90%、
少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するなど
のあらゆる実質的に相同な類似体および対立遺伝子変異体をその範囲内に含むものとする
。
【0103】
本明細書に記載されるアミノ酸残基は「L」異性体型であるのが好ましい。しかし、ポ
リペプチドにより免疫グロブリン結合の所望の機能的特性が保持される限り、任意のL-
アミノ酸残基を「D」異性体型の残基に置換したものであってもよい。NH2は、ポリペ
プチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を指す。COOHは、ポリペプチドのカルボ
キシ末端に存在する遊離カルボキシ基を指す。標準的なポリペプチド命名法(J.Bio
l.Chem.,243:3552-59(1969))に従うにあたり、アミノ酸残基
の略記を下の対応表1に示す。
【0104】
【0105】
本明細書では、アミノ酸残基配列がいずれも、左方向および右方向が従来のアミノ末端
からカルボキシ末端に向かう方向になっている式により表されていることに留意するべき
である。表1は、本明細書においていずれか一方で記載され得る3文字および1文字の表
記を関連付けるために提供するものである。
【0106】
以下に挙げるのは、アミノ酸の様々なグループ分けの例である:非極性R基を有するア
ミノ酸:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、ト
リプトファン、メチオニン;非荷電極性R基を有するアミノ酸:グリシン、セリン、トレ
オニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン;荷電極性R基を有する(p
H6.0で負に帯電する)アミノ酸:アスパラギン酸、グルタミン酸;塩基性アミノ酸(
pH6.0で正に帯電する):リジン、アルギニン、ヒスチジン(pH6.0のとき);
別のグループ分けには、フェニル基を有するアミノ酸があり得る:フェニルアラニン、ト
リプトファン、チロシン。
【0107】
また別のグループ分けには分子量(すなわち、R基の大きさ)によるものがあり得る:
【表3】
【0108】
特に好ましい保存的アミノ酸置換は:
-正電荷が維持され得るようなArgとLysの間の相互置換;
-負電荷が維持され得るようなGluとAspの間の相互置換;
-遊離-OHが維持され得るようなSerとThrの間の相互置換;および
-遊離NH2が維持され得るようなGlnとAsnの間の相互置換
である。
【0109】
ほかにも、アミノ酸置換を導入して、特有の好ましい特性を有するアミノ酸で置換し得
る。例えば、Cysを別のCysとのジスルフィド架橋が可能な部位として導入し得る。
Hisを特有の「触媒的」部位に導入し得る(すなわち、Hisは酸または塩基として作
用することが可能であり、生化学的触媒作用に最もよくみられるアミノ酸である)。タン
パク質の構造にベータターンを導入する特有の平面構造を有するという理由から、Pro
を導入し得る。
【0110】
2つのアミノ酸配列は、アミノ酸残基の少なくとも約70%(好ましくは、少なくとも
約80%、より具体的な実施形態では、少なくとも約90または約95%、少なくとも約
98%または少なくとも約99%の配列同一性)が同一であるか、保存的置換であるとき
、「実質的に」相同である。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の保存的アミノ酸
置換を有する実質的に相同な配列が提供される。
【0111】
本開示の実施形態に使用する抗体またはその活性なフラグメントの調製および/または
作製には、本開示に従って使用される抗体をコードする核酸を使用し得る。本明細書で提
供または使用される抗体の発現または単離には、このような核酸を含むベクターを使用し
得る。
【0112】
「レプリコン」とは、in vivoでDNA複製の自律単位として機能する、すなわ
ち、それ自体の制御下で複製が可能な任意の遺伝要素(例えば、プラスミド、染色体、ウ
イルス)のことである。
【0113】
「ベクター」とは、別のDNAセグメントを結合させて、その結合させたセグメントを
複製させ得るプラスミド、ファージまたはコスミドなどのレプリコンのことである。
【0114】
「DNA分子」は、一本鎖型または二本鎖へリックスのいずれかのポリマー型のデオキ
シリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミンまたはシトシン)を指す。この用語は
、分子の一次構造および二次構造のみを指すものであり、それを何らかの特定の三次形態
に限定するものではない。したがって、この用語は、特に直線状DNA分子(例えば、制
限酵素断片)、ウイルス、プラスミドおよび染色体にみられる二本鎖DNAを含む。特定
の二本鎖DNA分子の構造について述べる際には、DNAの非転写鎖(すなわち、mRN
Aと相同な配列を有する鎖)の5’から3’に向かう方向で表した配列のみを示すという
通常の慣例配列に従って、本明細書に配列が記載され得る。
【0115】
「複製起点」は、DNA合成に関与するDNA配列を指す。
【0116】
DNA「コード配列」とは、しかるべき制御配列の制御下に置いたときにin viv
oでポリペプチドに転写および翻訳される二本鎖DNA配列のことである。コード配列の
境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシル)末端の翻訳停止コ
ドンによって定められる。コード配列としては、特に限定されないが、原核配列、真核m
RNAのcDNA、真核(例えば、哺乳動物)DNAのゲノムDNA配列のほか、場合に
よっては合成DNA配列を挙げ得る。ポリアデニル化シグナルおよび転写終止配列は通常
、コード配列の3’側に位置する。
【0117】
転写制御配列および翻訳制御配列とは、宿主細胞内でコード配列の配列を生じさせるD
NA制御配列、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネ
ーターなどのことである。
【0118】
「プロモーター配列」または「プロモーター」とは、細胞内でRNAポリメラーゼと結
合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始させることが可能なDNA調節領域の
ことである。本開示の実施形態を定義する目的には、プロモーター配列は、3’末端に転
写開始部位が結合し、バックグランドを上回る検出可能なレベルの転写を惹起するのに必
要な最小限の数の塩基または要素が含まれるよう上流(5’方向)まで延びている。プロ
モーター配列内には、転写開始部位(ヌクレアーゼS1を用いるマッピングにより好都よ
く定められる)のほかにも、RNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメイン(
コンセンサス配列)が存在する。真核プロモーターには、必ずというわけではないが、「
TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスが含まれていることが多い。原核プロモー
ターには、-10コンセンサス配列および-35コンセンサス配列に加え、シャイン・ダ
ルガーノ配列が含まれている。
【0119】
「発現制御配列」とは、ある形態の制御配列であり、別のDNA配列の転写および翻訳
を制御および調節するDNA配列のことである。RNAポリメラーゼがコード配列をmR
NAに転写し、次いでこのmRNAがそのコード配列によってコードされるタンパク質に
翻訳される場合、そのコード配列は細胞内で転写制御配列および翻訳制御配列の「制御下
」にある。
【0120】
外来DNAまたは異種DNAが細胞内に導入された場合、その細胞は「形質転換」され
たことになる。形質転換DNAは、細胞のゲノムを構成する染色体DNAの中に組み込ま
れ(共有結合し)ても、組み込まれなくてもよい。例えば、原核生物、酵母および哺乳動
物細胞では、形質転換DNAはプラスミドなどのエピソーム要素上に維持され得る。真核
細胞に関して、安定に形質転換された細胞とは、形質転換DNAが、染色体複製を介して
娘細胞に遺伝するよう染色体の中に組み込まれている細胞のことである。この安定性は、
その真核細胞から、形質転換DNAを含む娘細胞の集団からなる細胞系またはクローンを
確立することが可能であることによって示される。「クローン」とは、単一の細胞または
共通の祖先から有糸分裂によって生じた細胞集団のことである。「細胞系」とは、in
vitroで何世代にもわたって安定に増殖することが可能な初代細胞のクローンのこと
である。
【0121】
2つのDNA配列において、DNA配列の定めされた長さにわたってヌクレオチドの少
なくとも約75%(好ましくは、少なくとも約80%、最も好ましくは約90%または9
5%)が一致する場合、両DNA配列は「実質的に相同」である。実質的に相同な配列は
、配列データバンクで入手可能な標準的なソフトウェアを用いて配列を比較するか、例え
ばその特定の系に対して定めたストリンジェントな条件下で、サザンハイブリダイゼーシ
ョン実験を実施することにより、特定することができる。しかるべきハイブリダイゼーシ
ョン条件を定めることは当業者の技能の範囲内にある。例えば、Maniatisら,上
記;DNA Cloning,第I巻および第II巻,上記;Nucleic Acid
Hybridization,上記を参照されたい。
【0122】
本開示の範囲内にはほかにも、本開示の抗体または本開示で使用する抗体をコードする
DNA配列であって、元のコード配列または既知のコード配列と同じアミノ酸配列を有す
る抗体、ポリペプチドまたはその活性なフラグメントをコードするが、元のコード配列ま
たは既知のコード配列の縮重であるDNA配列が含まれることを理解するべきである。「
~の縮重である」は、特定のアミノ酸を指定するのに異なる3文字コドンが使用されるこ
とを意味する。特定のアミノ酸をコードするのに以下のコドンを互換的に使用し得ること
が当該技術分野で周知である:
【表4】
【0123】
上記のコドンはRNA配列に対するものであることを理解するべきである。DNAに対
応するコドンは、UをTに置き換えたものである。
【0124】
抗体または活性なフラグメントをコードする配列に変異を生じさせて、特定のコドンを
異なるアミノ酸をコードするコドンに変化させることができる。このような変異は一般に
、可能な最小限のヌクレオチドを変化させることによって生じさせる。この種の置換変異
は、得られるタンパク質のアミノ酸を「非保存的」方法で(すなわち、特定の大きさまた
は特徴を有する異なるアミノ酸のグループに属するアミノ酸から別のグループに属するア
ミノ酸にコドンを変化させることによって)あるいは「保存的」方法で(すなわち、ある
アミノ酸のグループに属し特定の大きさまたは特徴を有するアミノ酸から同じグループに
属するアミノ酸にコドンを変化させることによって)変化させるよう生じさせることがで
きる。一般に、上記の保存的変化の方が、得られるタンパク質の構造および機能にもたら
す変化が少ない。非保存的変化の方が、得られるタンパク質の構造、活性または機能が変
化する可能性が高い。特定の実施形態には、アミノ酸配列中に、得られるタンパク質の活
性または結合特性をあまり変化させない1個、2個、3個、4個、5個、6個または7個
のアミノ酸残基の保存的変化または置換を含む配列が含まれることが考慮される。
【0125】
上記のように、抗体、ポリペプチドまたはその活性なフラグメントをコードするDNA
配列は、クローニングするのではなく、合成により調製することができる。DNA配列は
、抗体またはフラグメントのアミノ酸配列に対するしかるべきコドンを用いて設計するこ
とができる。一般に、配列を発現に使用する場合、意図する宿主に好ましいコドンを選択
する。標準的な方法により調製された重複するオリゴヌクレオチドから完全な配列を組立
て、これを完全なコード配列に組み立てる。例えば、Edge,Nature,292:
756(1981);Nambairら,Science,223:1299(1984
);Jayら,J.Biol.Chem.,259:6311(1984)を参照された
い。合成DNA配列により、類似体または「ムテイン」を発現する遺伝子を都合に合わせ
て構築することが可能である。あるいは、天然の遺伝子またはcDNAの部位特異的変異
誘発により、ムテインをコードするDNAを作製することができるほか、従来のポリペプ
チド合成を用いてムテインを直接作製することができる。
【0126】
DNA構築物の「異種」領域とは、識別可能なDNAのセグメントであって、これより
大きいDNA分子の中にあり、天然ではその大きい分子と一緒にはみられないセグメント
のことである。したがって、異種領域が哺乳動物遺伝子をコードする場合、その遺伝子に
は通常、入手源生物のゲノム内で哺乳動物のゲノムDNAに隣接していないDNAが隣接
している。異種コード配列のまた別の例には、コード配列自体が天然にはみられない構築
物(例えば、ゲノムコード配列にイントロンが含まれているcDNAまたは天然の遺伝子
と異なるコドンを有する合成配列)がある。対立遺伝子変異または自然に起こる変異事象
から本明細書で定義されるDNAの異種領域が生じることはない。
【0127】
発現制御配列がDNA配列の転写および翻訳を制御および調節している場合、そのDN
A配列は発現制御配列と「作動可能に連結されている」。「作動可能に連結されている」
という用語には、発現するDNA配列の前にしかるべき開始シグナル(例えば、ATG)
を有することのほか、発現制御配列の制御下でのDNA配列の発現およびそのDNA配列
によってコードされる所望の産物の産生を可能にする正確なリーディングフレームを維持
していることが含まれる。組換えDNA分子に挿入しようとする遺伝子にしかるべき開始
シグナルが含まれていない場合、その遺伝子の前にこのような開始シグナルを挿入するこ
とができる。
【0128】
「標準的ハイブリダイゼーション条件」という用語は、ハイブリダイゼーションおよび
洗浄の両方について5×SSCおよび65℃に実質的に等しい塩および温度条件を指す。
しかし、当業者であれば、このような「標準的ハイブリダイゼーション条件」が緩衝液中
のナトリウムおよびマグネシウムの濃度、ヌクレオチド配列の長さおよび濃度、ミスマッ
チのパーセント、ホルムアミドのパーセントなどを含めた具体的な条件に左右されること
が理解されよう。「標準的ハイブリダイゼーション条件」を決定するうえではほかにも、
ハイブリダイズする2つの配列がRNA-RNAであるのか、DNA-DNAであるのか
、RNA-DNAであるのかが重要となる。このような標準的ハイブリダイゼーション条
件は、ハイブリダイゼーションを通常、予測されるTmまたは決定されたTmよりも10
~20℃低くし、必要に応じて洗浄のストリンジェンシーを高くするという周知の原則に
従い当業者によって決定される。
【0129】
抗体およびフラグメントの「結合親和性」という用語は、当該技術分野で公知の様々な
方法により求めることが可能なKD(抗体とその抗原との間の平衡解離定数)として本明
細書に記載されるものである。いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合フラグメン
トは、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルスまたはそれに由来するHA
タンパク質、例えば組換えHAタンパク質などに対して以下のような結合親和性を示す。
一実施形態では、結合親和性は約5×10-8M~約5×10-12Mであり、いくつか
の実施形態では、結合親和性は約5×10-9M~約5×10-11Mであり、いくつか
の実施形態では、結合親和性は約3×10-9M~約5×10-11Mであり、いくつか
の実施形態では、結合親和性は約5×10-10M~約5×10-11Mである。いくつ
かの実施形態では、組換えHAタンパク質に対して10nM未満、3nM未満もしくは1
nM未満またはこれより強いKDを示す抗体および抗原結合フラグメントが提供される。
いくつかの実施形態では、10nM~0.1pMのKDを示す抗体およびフラグメントが
提供される。いくつかの実施形態では、3nM~1pMのKDを示す抗体およびフラグメ
ントが提供される。本明細書で使用される「~より強い」という用語は、親和性が高くま
たは強くなるほどKD値が低くなることから、言及されるKD値またはそれより小さい値
(それより低いKD値)を表す。いくつかの実施形態では、例えばマイクロアレイまたは
流動システムの使用により、例えばABCAM(登録商標)(Landryら,2012
,Assay and Drug Dev Technol 10(3),250-25
9を参照されたい)もしくはBIACORE(登録商標)(すなわち、表面プラズモン共
鳴)により斜入射反射率差(OI-RD)を決定すること、あるいは競合結合アッセイに
よりKDを測定する。
【0130】
抗体の仲介によるウイルスの中和は、本明細書では、当該技術分野で定義されている、
または受け入れられている通りに定義されるものであり、本明細書で言及および使用され
るものは、様々な従来の中和アッセイまたは認められている中和アッセイで試験すること
ができる。中和アッセイの例としては、培養細胞に対するウイルスの細胞変性効果(CP
E)の阻害に基づく従来の中和アッセイが挙げられる。例えば、インフルエンザに感染さ
せたMDCK細胞におけるCPEを軽減または阻止することにより、インフルエンザ中和
を試験し得る。ウイルスと中和剤を予め混合してから細胞に加え、次いでウイルス侵入の
阻止を測定し得る。赤血球凝集素阻害(HI)はin vitroで試験され得るもので
あり、ウイルスが赤血球と結合する能力の阻止を検出することができる。例示的な既知の
受け入れられている中和アッセイについては、WHO Manual on Anima
l Influenza(who/cds/csr/ncs/2002.5,48~54
ページ)に記載されている。シアル酸受容体結合部位を遮断する抗体は、ウイルスが細胞
との結合するのを中和して感染を阻止する。逆に、Tamiflu(登録商標)などのノ
イラミニダーゼ阻害剤の場合のように、中和アッセイにより、ウイルス放出の阻止を検出
することもある。最近、ウイルス放出を妨げることによって同様に機能する中和抗体が同
定されており、このような中和の例としては、インフルエンザBウイルスに対するCR9
114抗体(Dreyfusら(2012)Science 337:1343-134
8)が挙げられる。このほか、マイクロタイタープレートとELISAを併用して感染細
胞中のウイルス核タンパク質(NP)を検出するマイクロ中和アッセイが用いられている
。ウイルスタンパク質を測定する定量的PCRアッセイが記載されている(Dreyfu
s Cら(2012)Emerging Inf Diseases 19(10:16
85-1687)。いくつかの実施形態では、別の従来のin vitro中和アッセイ
では中和抗体であるようにはみえないが、放出阻害による中和作用を示し、したがってI
N投与により効果を示す抗体またはフラグメントが提供される。したがって、本明細書で
定義される「中和」抗体は、従来のin vitro中和アッセイで中和作用を示す抗体
および/または放出阻害を示す抗体を指す。したがって、放出阻害剤は、インフルエンザ
感染の伝播を抑制することから、その用語の1つの意味として、中和作用を示すものであ
る。
【0131】
「非中和」抗体は、ウイルスとは結合し得るが、認められている中和アッセイまたは従
来の評価法においてウイルスもウイルス複製も阻害しない。ウイルスとの結合は、ウイル
スと細胞、細胞受容体または細胞標的との効果的な相互作用を妨げることによりウイルス
を阻害し得る。非中和抗体はウイルスの保存されたタンパク質またはタンパク質上のエピ
トープと結合し得る。例えば、臨床試験段階のM2抗体であるTCN-032は、広範囲
のインフルエンザAウイルスと結合することができるが、従来の中和アッセイにおいて中
和作用を示さない。同じようにして、HAと結合し中和作用を示さない抗体を同定するこ
とができる。
【0132】
本明細書で使用される「Fabフラグメント」は、軽鎖(CL)のVLドメインおよび
定常ドメインを含む軽鎖フラグメントと、重鎖のVHドメインおよび第一定常ドメイン(
CH1)とを含む、抗体フラグメントを指す。抗体分子のFab部分およびF(ab’)
2部分は、周知の方法による実質的にインタクトの抗体分子上でのそれぞれパパインおよ
びペプシンのタンパク質分解反応により調製されるか、合成または組換えにより調製され
得る。このほか、Fab’抗体分子部分が周知であり、2つの重鎖部分を連結しているジ
スルフィド結合をメルカプトエタノールなどで還元し、生じたタンパク質メルカプタンを
ヨードアセトアミドなどの試薬でアルキル化することにより、F(ab’)2部分から作
製され得る。
【0133】
本明細書の「Fcドメイン」という用語は、定常領域の少なくとも一部分を含む免疫グ
ロブリン重鎖のC末端領域を定義するのに用いられる。例えば、天然の抗体では、Fcド
メインは、IgG、IgAおよびIgDアイソタイプでは抗体の2つの重鎖の第二および
第三定常ドメインに由来する2つの同一のタンパク質フラグメントからなり;IgMおよ
びIgEのFcドメインは、各ポリペプチド鎖に3つの重鎖定常ドメイン(CHドメイン
2~4)を含んでいる。
【0134】
例示的な抗体分子には、インタクトの免疫グロブリン分子、実質的にインタクトの免疫
グロブリン分子および免疫グロブリン分子のパラトープを含む部分があり、免疫グロブリ
ン分子のパラトープを含む部分としては、当該技術分野でFab、Fab’、F(ab’
)2およびF(v)として知られる部分が挙げられ、これらの部分は本明細書に記載され
る治療法に使用するのに好ましい。
【0135】
本開示に教示される特定の場合には、ある程度のレベルまたは量の中和活性が必要とさ
れるほか、特に鼻腔内または吸入投与に使用するのに必要な抗体の特徴。したがって、本
開示に従って鼻腔内に使用する任意のフラグメント、変異体、誘導体、合成物または抗体
部分は、標的ウイルスまたは病原体、一態様ではインフルエンザウイルスに対する中和能
および活性を保持している必要がある。一方、腹腔内または静脈内を含めた代替的全身経
路で投与する抗体は、標的ウイルスまたは病原体、一態様ではインフルエンザウイルスと
結合するか、これを認識するものでなければならないが、中和作用は必要とされない。し
たがって、一例として、中和作用を保持している抗体(1つまたは複数)のFabフラグ
メントを鼻腔内に用い得る。鼻腔内投与での効果および中和作用を得るのに、Fcにより
仲介されるエフェクター機能は必要とされな。逆に、全身送達される抗体は、エフェクタ
ー機能によりその効果を仲介する作用が大きい。
【0136】
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原の一部分または全体と特異的に結合しこれと
相補的である領域を含む、抗原結合分子の一部分を指す。抗原が大きい場合、抗原結合分
子はエピトープと呼ばれる抗原の特定の部分とのみ結合し得る。抗原結合ドメインは、例
えば1つまたは複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)によってもたらさ
れ得る。好ましくは、抗原結合ドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域
(VH)とを含む。
【0137】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗体と抗原との結合に関与する抗
体重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然の抗体の重鎖と軽鎖の可変ドメイン(それぞれ
VHとVL)は一般に、ほぼ同じ構造をもち、各ドメインが4つの保存されたフレームワ
ーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)とを含む(例えば、Kindtら,Ku
by Immunology,第6版,W.H.Freeman and Co.,91
ページ(2007)を参照されたい)。抗原結合特異性を付与するには、単一のVHまた
はVLドメインで十分であると思われる。さらに、特定の抗原と結合する抗体のVHまた
はVLドメインを用いて、それぞれ相補的なVLまたはVHドメインのライブラリーをス
クリーニングし、その抗原と結合する抗体を単離し得る。例えば、Portolanoら
,J.Immunol.150:880-887(1993);Clarksonら,N
ature 352:624-628(1991)を参照されたい。
【0138】
本明細書で使用される「抗体の抗原結合部位」という用語は、抗原結合に関与する抗体
のアミノ酸残基を指す。抗体の抗原結合部分は、「相補性決定領域」または「CDR」に
由来するアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」または「FR」領域とは、本明細書で
定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン領域のことである。したがって、抗体の軽
鎖および重鎖可変ドメインは、N末端からC末端に向かってドメインFR1、CDR1、
FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。特に重鎖のCDR3は、抗原
結合に最も寄与する領域であり、抗体の特性を定義する。抗体は、その重鎖および軽鎖C
DRによるアミノ酸配列で十分に定義され得るものであり、特に、その重鎖可変領域CD
R1、CDR2およびCDR3の配列ならびにその軽鎖可変領域CDR1、CDR2およ
びCDR3の配列により記載され、特徴付けられ得る。抗体は、重鎖および軽鎖を含む抗
体またはフラグメントとして定義され得る、または特徴付けられ得るものであり、ここで
は、重鎖可変領域は特有のCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含み、軽鎖可変領
域は特有のCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む。抗体のCDRおよびFR領
域は、当業者に利用可能で既知の標準的な方法および分析により決定され得る。したがっ
て、CDRおよびFR領域は、Kabatら,Sequences of Protei
ns of Immunological Interest,第5版,Public
Health Service,National Institutes of He
alth,ベセスダ、メリーランド州.(1991)の標準的定義またはInterna
tional ImmunoGeneTics information system
(IMGT)(imgt.org;LeFranc,M-P(1999)Nucl Ac
ids Res 27:209-212;LeFranc,M-P(2005)Nucl
Acids Res 33:D539-D579)に従って決定され得る。
【0139】
「実質的に記載される通りである」は、本開示の抗体の可変領域配列および/または特
にCDR配列が、本明細書に添付される配列表に明記される配列と同一であるか、高度に
相同であることを意味する。配列表にXaaが記載される場合、それ天然に存在する任意
のアミノ酸残基を表す。
【0140】
「高度に相同である」は、可変領域配列および/またはCDR配列内に少数の置換のみ
、好ましくは1~8個、好ましくは1~5個、好ましくは1~4個または1~3個または
1個もしくは2個の置換が施され得ることを企図するものである。この用語は実質的に、
特に本発明の抗体の特異性および/または活性に実質的にまたは大幅に影響を及ぼさない
保存的アミノ酸置換を含むことを表す。CDR領域配列に対する保存的アミノ酸置換が企
図される。例示的なCDR置換および変異体が企図され、本明細書に記載される。いくつ
かの態様では、CDR配列が保持されるようCDR外部の可変領域配列に置換を施し得る
。したがって、CDR配列が維持され、可変領域配列の残りに部分が置換され得るように
、可変領域配列の変化または代替的な非相同可変領域もしくは化粧張り(veneere
d)可変領域の配列を導入または利用し得る。
【0141】
「エピトープ」という用語は、抗体と特異的に結合することが可能な任意のポリペプチ
ド決定基を含む。ある特定の実施形態では、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホ
スホリルまたはスルホニルなどの化学的に活性な表面分子のグループを含み、ある特定の
実施形態では、特有の三次元構造的特徴および/または特有の荷電的特徴を有し得る。エ
ピトープとは、抗体が結合する抗原の領域のことである。
【0142】
ハイブリドーマをはじめとする手段および方法によりモノクローナル抗体を作製する方
法および方法論は周知である。病原体、ウイルスまたはインフルエンザのペプチドに対し
て作製したモノクローナル抗体のパネルを様々な特性、すなわち、中和作用、アイソタイ
プ、エピトープ、親和性などについてスクリーニングすることができる。特に対象となる
のは、ウイルスまたはそのサブユニットの活性を中和するモノクローナル抗体である。こ
のようなモノクローナルは、中和活性アッセイで容易に特定することができる。このほか
、効果的な結合および/または中和に、あるいは天然ウイルスまたは組換えウイルスの免
疫アフィニティー精製を所望するか目的とする場合には、高親和性抗体が有用である。
【0143】
本開示の実施形態を実施するのに有用なモノクローナル抗体は、しかるべき抗原特異性
の抗体分子を分泌するハイブリドーマを含有する栄養培地を含むモノクローナルハイブリ
ドーマ培養を開始することにより作製することができる。ハイブリドーマが培地中に抗体
分子を分泌するのに十分な条件下でそのような期間の間、培養を維持する。次いで、抗体
を含有する培地を収集する。次いで、周知の技術により抗体分子をさらに単離することが
できる。
【0144】
上記の組成物を調製するのに有用な培地は当該技術分野で周知であるとともに、市販さ
れており、合成培地、近交系マウスなどがこれに含まれる。例示的な合成培地には、4.
5gm/lグルコース、20mmグルタミンおよび20%ウシ胎仔血清を添加したダルベ
ッコの最小必須培地(DMEM;Dulbeccoら,Virol.8:396(195
9))がある。例示的な近交系マウス系統にはBalb/cがある。
【0145】
このほか、モノクローナル抗ウイルス抗体の作製方法が当該技術分野で周知である。N
imanら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80:4949-495
3(1983)を参照されたい。通常、モノクローナル抗体を作製するための免疫原とし
て、ウイルス、ウイルスタンパク質またはペプチド類似体を単独で、または免疫担体とコ
ンジュゲートして用いる。ウイルス、タンパク質またはペプチド類似体に対して免疫反応
を示す抗体を産生する能力についてハイブリドーマをスクリーニングする。
【0146】
抗体はほかにも、二重特異性または多重特異性、例えば、抗体の一方の結合ドメインが
本発明に使用するウイルス中和抗体であり、他方の結合ドメインが異なる特異性、例えば
、細胞の頂端膜側に結合する特異性、気道上皮細胞と結合する特異性などを有する、二重
特異性または多重特異性であり得る。本発明の二重特異性抗体は、抗体の一方の結合ドメ
インが、そのフラグメントを含めた本発明に使用する中和剤であり、他方の結合ドメイン
が、代替の中和抗体または非中和抗体を含めた異なる抗ウイルス特異的抗体のものを含め
た異なる抗体またはそのフラグメントである、二重特異性抗体を含む。他方の結合ドメイ
ンは、肺上皮特異的抗体、肺胞マクロファージ特異的抗体、ニューロン特異的抗体または
グリア細胞特異的抗体のように、特定の細胞型を認識するか、これを標的とする抗体であ
り得る。本発明の二重特異性抗体では、本発明の抗体の一方の結合ドメインを、他方の結
合ドメインあるいは特定の細胞受容体を認識し、かつ/または特定の方法で細胞を調節す
る分子、例えば免疫調節薬(例えば、インターロイキン(1つまたは複数))、成長調節
物質、サイトカイン、毒素(例えば、リシン)、抗有糸分裂剤、アポトーシス剤または因
子と組み合わせ得る。したがって、本発明の抗体は、感染症、炎症などの適応症において
、薬剤、標識、その他の分子もしくは化合物または抗体を方向付けるか標的化するのに用
いられ得る。
【0147】
本発明に使用する二重特異性抗体は、少なくとも2つのFabフラグメントを含み得る
ものであり、1つの例では、第二のFabフラグメントの重鎖および軽鎖可変領域または
定常領域のいずれかが変化している。可変領域または定常領域のいずれかが交換されてい
ることから、前記第二のFabフラグメントは、「交差Fabフラグメント」、「xFa
bフラグメント」または「乗換えFabフラグメント」とも呼ばれる。このような二重特
異性抗体については米国特許出願公開第2013006011号に記載されている。
【0148】
特定のさらなる態様では、中和抗体を抗体のIPまたはIV投与と組み合わせて、また
は逐次的にIN投与することにより、ウイルス感染症の治療および/または予防の効果的
で増強された相乗作用手段がもたらされる。IPまたはIVを含め全身に投与する抗体は
中和性であっても非中和性であってもよく、したがって、IN投与する抗体と同じ抗体で
あっても、あるいは改変抗体または異なる抗体であってもよい。したがって、中和抗体で
ある鼻腔内送達用の抗体は、それと組み合わせて使用し別の手段、特にIPまたはIV送
達を含めた全身送達で送達する抗体とは異なる抗体であり得る。
【0149】
本開示は、鼻腔内での効果を増大させるのに中和抗体のFc機能およびFc部分、ひい
てはエフェクター機能が必要とされないことを示すものである。したがって、抗体および
FabフラグメントなどのフラグメントまたはFcを欠くかエフェクター機能を欠く抗体
は鼻腔内で効果を示す。これに対し、抗体(中和抗体または非中和抗体)のFabフラグ
メントまたはFcを欠くかエフェクター機能を欠く抗体は、IPまたはIVでは効果がみ
られない。
【0150】
いくつかの実施形態では、免疫複合体または抗体融合タンパク質であって、本発明に使
用する抗体、抗体分子またはそのフラグメントが他の分子または薬剤をコンジュゲートま
たは結合している免疫複合体または抗体融合タンパク質が提供され、このようなものとし
てはさらに、特に限定されないが、化学切断剤、毒素、免疫調節薬、サイトカイン、細胞
毒性薬、化学療法剤、抗ウイルス剤、抗菌剤または抗菌ペプチド、細胞壁および/または
細胞膜破壊剤あるいは薬物とコンジュゲートした上記のような抗体、分子またはフラグメ
ントが挙げられる。一態様では、免疫複合体または抗体融合体は、抗ウイルス剤、特に抗
インフルエンザ剤とコンジュゲートした抗体、分子またはフラグメントを含み得る。抗イ
ンフルエンザ剤はノイラミニダーゼ阻害剤であり得る。抗インフルエンザ剤はTamif
luおよびRelenzaから選択され得る。抗インフルエンザ剤は、アマンタジンまた
はリマンタジンなどのM2阻害剤であり得る。抗インフルエンザ剤はウイルス複製阻害剤
であり得る。
【0151】
本発明の抗体を含めた抗体、そのフラグメントおよび組成物が治療および予防に有用な
「対象(1つまたは複数)」には、ヒトに加え、インフルエンザによる感染に感受性の任
意の対象が含まれる。したがって、ウシ、ブタ、ヒツジなどの様々な哺乳動物のほか、ウ
マおよび家庭用ペットならびにアザラシを含めたその他の哺乳動物対象に、上記の結合部
分の予防的および治療的使用による利益がもたらされる。いくつかの場合には、対象種に
適合させた抗体を使用する。さらに、インフルエンザは鳥類種に感染することが知られて
おり、鳥類種にも、同じく対象種に適合させ得る本発明の抗体を含有する組成物による利
益がもたらされる。
【0152】
抗体またはフラグメントの「治療有効量」または「有効量」とは、任意の医学的治療に
適用可能な妥当な利益/リスク比で治療対象に治療効果をもたらす所定の量のことである
。治療効果は客観的なもの(すなわち、何らかの試験またはマーカーにより測定可能なも
の)であっても主観的なもの(すなわち、対象が効果の兆候を示すか、効果を感じる、ま
たは医師が変化を観察する)であってもよい。組成物中の各抗体の有効量は、約0.00
1mg/kg~約100mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.
05mg/Kg~約1mg/kgの範囲であり得る。本明細書で企図される効果には、必
要に応じて医学的な治療処置および/または予防処置の両方が含まれる。治療効果および
/または予防効果を得るために本開示に従って投与する具体的な抗体またはフラグメント
の量は、当然のことながら、個々の事例を取り巻く状況、例えば、投与する化合物、投与
経路、他の有効成分の共投与、治療対象となる状態、使用する具体的な組成物、患者の年
齢、体重、全般的健康状態、性別および食事;使用する化合物の投与時間、投与経路およ
び排泄速度ならびに治療期間を含めた状況によって決まる。投与する有効量は、医師が上
記の関連する状況を考慮に入れ、妥当な医学的判断を行使することにより決定され得る。
「治療有効量」は、医師をはじめとする臨床医が追求する対象の生物学的または医学的応
答を誘発する薬物、化合物、抗菌剤、抗体または医薬品の量を意味する。特にウイルス感
染およびウイルスの増殖に関しては、「有効量」という用語は、ウイルスの複製もしくは
発症の量もしくは程度の生物学的に意義のある減少および/または対象の病状(発熱、関
節痛、不快感)の長さの減少または感染者の体重減少の抑制をもたらす化合物または薬剤
の有効量を含むものとする。「治療有効量」という語句は、本明細書では、ウイルス負荷
、ウイルス複製、ウイルス伝染またはその他の病理の特徴、例えば、ウイルスの存在およ
び活性に付随し得る発熱または白血球数の増加を軽減、好ましくは予防するのに十分な量
を意味するのに使用される。
【0153】
ある特定の実施形態では、対象に治療薬を投与することに関連する「有効量」は、以下
の効果を1つ、2つ、3つ、4つまたはそれ以上得るのに十分な治療薬の量を指す:(i
)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付
随する症状の重症度の軽減もしくは改善;(ii)インフルエンザウイルス感染症、イン
フルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付随する症状の持続期間の短縮;(iii
)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付
随する症状の進行の予防;(iv)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイ
ルスによる疾患もしくはそれに付随する症状の消退;(v)インフルエンザウイルス感染
症、インフルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付随する症状の発現もしくは発症
の予防;(vi)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイルスによる疾患も
しくはそれに付随する症状の再発の予防;(vii)ある細胞から別の細胞、ある組織か
ら別の組織もしくはある臓器から別の臓器へのインフルエンザウイルスの伝播の抑制もし
くは予防;(viii)ある対象から別の対象へのインフルエンザウイルスの伝播/伝染
の予防もしくは抑制;(ix)インフルエンザウイルス感染症もしくはインフルエンザウ
イルスによる疾患を原因とする臓器不全の軽減;(x)対象の入院の抑制;(xi)入院
期間の短縮;(xii)インフルエンザウイルス感染症もしくはそれを原因とする疾患を
有する対象の生存率の増大;(xiii)インフルエンザウイルス感染症もしくはそれを
原因とする疾患の除去;(xiv)インフルエンザウイルス複製の阻害もしくは抑制;(
xv)インフルエンザウイルスと宿主細胞(1つまたは複数)との結合もしくは融合の阻
害もしくは抑制;(xvi)インフルエンザウイルスの宿主細胞(1つまたは複数)内へ
の侵入の阻害もしくは抑制;(xvii)インフルエンザウイルスゲノム複製の阻害もし
くは抑制;(xviii)インフルエンザウイルスタンパク質合成の阻害もしくは抑制;
(xix)インフルエンザウイルス粒子組立ての阻害もしくは抑制;(xx)宿主細胞(
1つまたは複数)からのインフルエンザウイルス粒子放出の阻害もしくは抑制;(xxi
)インフルエンザウイルス力価の低下;(xxii)インフルエンザウイルス感染症また
はインフルエンザウイルスによる疾患に付随する症状の数の減少;(xxiii)別の治
療法の予防効果もしくは治療効果(1つまたは複数)の増強、改善、補強、補完もしくは
増大;(xxiv)インフルエンザウイルス感染症による二次感染の発症もしくは進行の
予防;(xxv)インフルエンザウイルス感染症に続発する細菌性肺炎の発症の予防もし
くは疾患重症度の軽減;および/または(xxvi)サイトカイン、ケモカイン、補体、
細胞応答などを含めたインフルエンザに対する免疫応答の変化。いくつかの実施形態では
、治療薬の「有効量」は、インフルエンザウイルス感染症またはそれを原因とする疾患に
有益な効果をもたらすが、それを治癒するものではない。ある特定の実施形態では、治療
薬の「有効量」は、予防効果および/または治療効果を示す治療薬の量に達するよう複数
回用量の治療薬を特定の頻度で投与することを包含し得る。別の状況では、治療薬の「有
効量」は、単回用量の治療薬を特定の頻度で投与することを包含し得る。
【0154】
特にインフルエンザによる感染症、疾患または曝露を含めたウイルス感染症に付随する
「症状(1つまたは複数)」としては、特に限定されないが、100°F(約37.8℃
)以上の発熱、熱感、咳および/または咽喉痛、鼻汁または鼻詰まり、頭痛および/また
は身体痛、悪寒、倦怠感、全身脱力、嘔気、嘔吐および/または下痢、関節と筋肉および
/または眼球周囲の鈍痛および疼痛を挙げ得る。
【0155】
「予防すること」または「予防」という用語は、疾患発症前に疾患の原因となる物質に
曝露し得るか、疾患の素因を有し得る対象が疾患または障害に罹患するか、これを発現す
るリスクを低下させること(すなわち、疾患の少なくとも1つの臨床症状が発現しないよ
うにすること)を指す。
【0156】
「予防法」という用語は、「予防」という用語に関連し包含され、疾患の治療または治
癒ではなく予防を目的とする手段または方法を指す。任意の疾患もしくは感染症を「治療
すること」または任意の疾患もしくは感染症の「治療」という用語は、一実施形態では、
疾患または感染症を改善すること(すなわち、疾患または感染病原体もしくはウイルスの
増殖を停止させることあるいはその少なくとも1つの臨床症状の発現、範囲または重症度
を減少させること)を指す。別の実施形態では、「治療すること」または「治療」は、対
象により識別不可能であり得る少なくとも1つの物理パラメータを改善することを指す。
さらに別の実施形態では、「治療すること」または「治療」は、疾患または感染症を物理
的な点(例えば、識別可能な症状の安定化)、生理的な点(例えば、物理パラメータの安
定化)またはその両方の点で調節することを指す。さらなる実施形態では、「治療するこ
と」または「治療」は、疾患の進行、疾患の伝染の速度を低下させることまたは感染を抑
制することに関連する。
【0157】
本明細書で使用される「pg」はピコグラム、「ng」はナノグラム、「ug」または
「μg」はマイクログラム、「mg」はミリグラム、「ul」または「μl」はマイクロ
リットル、「ml」はミリリットル、「l」はリットルをそれぞれ意味する。
【0158】
予防法および治療法に用いる方法は従来のものであり、一般に周知のものである。抗体
をはじめとする結合部分は通常、注射により投与されるが、このほか経口ワクチンでも効
果があることがわかっている。投与のレベルおよび投与のタイミングは容易に最適化され
、当業者の技能の範囲内にある。代替法では、抗体をin situで生じさせる組換え
物質を投与し得る。現在、動物対象の細胞、例えばリンパ球または筋細胞などで抗体遺伝
子を発現させる技術が利用可能である(例えば、Johnson,P.R.ら,Natu
re Medicine(2009)15:901-907を参照されたい)。このよう
なin situでの抗体産生により、薬剤の製造コストの削減が可能になり、投与が簡
便になる。このような方法による本発明の抗体の投与は、本発明のまた別の態様である。
【0159】
有用な抗体を分泌するヒト細胞(または任意の指定種由来の細胞)は、特に米国特許第
7,413,868号(その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載され
ているCellSpot(商標)法を用いて特定することができる。簡潔に述べれば、こ
の方法は、ヒト(またはその他の)対象から得られた個々の細胞を、粒子標識による標識
を利用するハイスループットなアッセイおよび顕微鏡観察でスクリーニングすることが可
能なものである。ある例示的な実施形態では、分泌された抗体をある表面に吸着または結
合させた後、それぞれ識別できる粒子標識と結合させた所望の抗原で表面を処理すること
により、単一の細胞であっても、それが分泌する抗体を分析することができる。そこで、
顕微鏡を用いて細胞のフットプリントを識別することができる。この技術を用いて、数百
万個の細胞を所望の抗体の分泌についてスクリーニングすることが可能であり、株間にわ
たる受動的インフルエンザ予防接種に望ましい本明細書の抗体などのまれな抗体であって
も回収することができる。ヒト対象には少なくとも一部のインフルエンザ株に対する抗体
が既に存在し、また本発明の方法により得られる抗体は保存された配列と結合することか
ら、これらの抗体は新たな株およびヒト集団が既に経験した株に対処するという目的にか
なうものである。
【0160】
適切な抗体を入手する方法は、CellSpot(商標)技術に限定されず、またヒト
対象にも限定されない。適切な抗体を産生する細胞は様々な手段によって特定することが
可能であり、その細胞は、マウスをはじめとするげっ歯類などの実験動物の細胞であって
もよい。このような抗体をコードする核酸配列を単離し、非ヒト細胞によって産生される
キメラ型およびヒト化型の抗体を含めた様々な型の抗体を産生させることができる。さら
に、組換えによって産生される抗体またはフラグメントとしては、一本鎖抗体またはその
FabもしくはFab2領域が挙げられる。このほか、ヒト化免疫系を有するXenoM
ouse(登録商標)などの宿主を用いてヒト抗体を入手してもよい。適切な結合特性を
スクリーニングするための抗体を作製する手段は当該技術分野で周知である。
【0161】
所望の結合パターンを有するRNAアプタマーを構築する手段も同様に、当該技術分野
で公知である。
【0162】
上記のように、抗体をはじめとする結合部分は、活性化型、不活性化型またはその両方
の赤血球凝集素タンパク質と結合し得る。このタンパク質の切断部位は株間で比較的保存
されているため、エピトープがこの切断部位であるのが有利な場合もあるが、結合部分は
三量体および活性化型の両方と結合するのが好ましい。
【0163】
インフルエンザAおよびインフルエンザBの様々な株の切断部位が知られている。例え
ば、上に引用したBianchiらの論文では、数種類のこのような株の切断部位周辺の
配列が表2に示されている:
【表5】
【0164】
表に示されるように、切断部位上流のアルギニン残基から始まる厳密な一致がみられ、
したがって、本発明の被験ペプチドに含まれる好ましいコンセンサス配列は、配列RGI
/L/F FGAIAGFLE(配列番号57)を有するものである。この配列の一部分
のみを被験ペプチドに用いることも可能である。
【0165】
上記のように、所望の抗体を分泌する細胞が特定されれば、それをコードするヌクレオ
チド配列を回収し、組換えにより大規模に所望の抗体を産生することは容易である。これ
によりほかにも、抗体が例えば、一本鎖抗体として、つまりその可変領域のみで、または
二重特異性抗体として産生され得るように、抗体を操作することが可能になる。
【0166】
回収した核酸は、のちの組換え産生用に物理的に保管および復元してもよく、かつ/ま
たは、のちにしかるべき核酸を合成できるように抗体のコード配列に関する配列情報を回
収し保管してもよい。コード配列に含まれる情報ならびに迅速な合成およびクローニング
技術を既知の組換え産生法とともに用いれば、大流行をはじめとする緊急事態が発生した
際に必要な抗体を迅速に作製することが可能である。
【0167】
参考までに、重鎖および軽鎖はともに、そのヒト定常領域の配列が既に記載されており
、本明細書に配列番号33~35として記載する。上で言及した国際公開第2011/1
60083号および同第2013/086052号では、アミノ酸配列および対応するヌ
クレオチドコード配列が決定された可変領域を有し様々なインフルエンザ株のHAタンパ
ク質と様々な親和度で結合する様々なモノクローナル抗体が復元されている。これらの抗
体にはmAb53およびmAb579が含まれる。mAb53はH1と特定の親和性で結
合し;さらに、mAb53はH5、H7およびH9と強く結合する。mAb579はH3
およびH7と結合する。その親和性は低ナノモルないしナノモル未満の範囲内にある。H
EK293細胞の表面に発現するHAを用いて天然のHAの三量体に対する反応性を検証
した。フローサイトメトリーにより抗体結合を測定した。エモリー大学のS.Gallo
wayおよびD.SteinhauerからHAをコードするプラスミドの提供を受け、
細胞表面に提示された様々なクレードの三量体が本発明のmAbによって認識された。
【0168】
現在、2つの別個の抗体の抗原特異性ドメインを組み込んだ単一抗体様分子(二重特異
性抗体)を作製する技術が多数存在する。したがって、第1群および第2群それぞれに対
して広域反応性を示す個々の抗体またはインフルエンザB結合と組み合わせた両グループ
のうちの一方のグループの抗体のFabドメインを用いて、極めて広域な株との反応性を
有する単一抗体を構築することができる。適切な技術がMacrogenics社(ロッ
クビル、メリーランド州ロックビル、メリーランド州)、Micromet社(ベセスダ
、メリーランド州)およびMerrimac社(ケンブリッジ、マサチューセッツ州ケン
ブリッジ、マサチューセッツ州)により記載されている(例えば、Orcutt,K.D
.ら,“A modular IgG scFv bispecific antibo
dy topology,” Protein Eng Des Sel.(2010)
23:221-228;Fitzgerald,J.ら,“Rational engi
neering of antibody therapeutics targeti
ng multiple oncogene pathways,” MAbs.(20
11)1:3(3);およびBaeuerle,P.A.ら,“Bispecific
T cell engaging antibodies for cancer th
erapy,” Cancer Res.(2009)69:4941-4944を参照
されたい)。
【0169】
したがって、二重特異性抗体を構築することにより、複数の種類の赤血球凝集素タンパ
ク質と結合する抗体をはじめとする結合部分を得ることが特に有用である。特に有用な組
合せは、mAb53(H1、H5およびH9)とmAb579(H3およびH7)の結合
特異性を組み合わせるものである。
【0170】
mAb53はHA0とは高い親和性で結合するが、HA1とは結合せず、相補的なHA
2フラグメントと結合することが示唆され、実際にその結合が確認された。mAb53は
、ウエスタンブロット法による試験ではHA0と結合しないことから、優勢なエピトープ
が少なくとも部分的には立体構造的であるものと考えられる。
【0171】
mAb53およびmAb579が示した様々な株のインフルエンザAの赤血球凝集素タ
ンパク質に対するKDおよびIC50を表3および表4に記載する。
【0172】
【0173】
上記の値はMDCK単層マイクロ中和アッセイで得られたものである。
【0174】
本発明は、インフルエンザBを認識するmAbを含めた上記の抗体、例えばmAb53
およびmAb579を補完する特異性を有する複数の新規なmAbを提供する。これらの
追加のmAbを用いることにより、広範囲にわたるインフルエンザ株に効果を示す受動的
ワクチンを調製し、したがって、治療前に感染病原体の株を正確に決定または診断する必
要性を軽減する機会がもたらされる。
【0175】
実際にmAbである本開示のこれらの結合部分に関して、よく知られているように、そ
の特異性は実質的に、軽鎖および重鎖の可変領域に存在する相補性決定領域(CDR)に
よって決まる。重鎖CDRによる影響の方が重要であることがわかっており、軽鎖の特性
の方が柔軟性が高い。したがって、mAbまたはフラグメントの全体的な特異性は通常、
重鎖のCDRの性質によって決まるのに対し、軽鎖に存在するCDRは、抗体の特異性を
実質的に同じにしたまま、より多くの変化を受ける。
【0176】
本開示は、二重特異性抗体そのものに加え、ウイルス感染を中和する構築物に重鎖のみ
を使用することを企図し;このような抗体も二重特異性であり得る。当該技術分野では、
いくつかの立場では特異性の大部分が重鎖可変領域によって付与されることがわかってい
るため、本明細書では、ワクチンの有効成分として重鎖のみで成功を収めている。あるい
は、しかるべき特異性の重鎖を様々な形態の軽鎖と結合させて、ウイルスを中和する親和
性または能力を増大させてもよい。
【0177】
上記のように、本発明の結合部分の結合の特異性は、ほとんどが重鎖のCDRによって
定義されるが、加えて軽鎖のCDRによっても補完される。したがって、本発明の結合部
分は、3つの重鎖CDRおよび任意選択で、それに適合する3つの軽鎖CDRを含み得る
。本発明はほかにも、実際にこれらのCDRを含む結合部分と同じエピトープと結合する
結合部分を含む。したがって、例えば、同じ結合特異性を有する、すなわち、実際にCD
Rを含む結合部分が結合するのと同じエピトープと結合するアプタマーも含まれる。結合
親和性は、フレームワークでのCDRの配置の仕方によっても決まるため、本発明の結合
部分は、3つの重要なCDRを含む重鎖の可変領域全体のほかにも、任意選択で、軽鎖に
関連する3つのCDRを含み、問題の重鎖を補完する、軽鎖可変領域全体を含み得る。こ
のことは、単一のエピトープに対して免疫特異性を示す結合部分のほか、2つの別個のエ
ピトープと結合することができる二重特異性抗体または結合実体についてもあてはまる。
【0178】
したがって、親和性が適切な抗体の可変領域に由来する結合部分では、重要なアミノ酸
配列はフレームワークに配置されるCDR配列であり、このフレームワークは、必ずしも
特異性に影響を及ぼすことも、許容されないレベルまで親和性を低下させることもなく、
変化し得る。これらのCDRの定義は、当該技術分野で公知の方法により遂行される。具
体的には、重要なCDRを同定するのに最もよく用いられる方法に、Wu,T.T.ら,
J.Exp.Med.(1970)132:211-250およびKabat,E.A.
ら.(1983)の著書「Sequence of Proteins of Immu
nological Interest」,Bethesda National In
stitute of Health,323ページに開示されているKabatの方法
がある。これとほぼ同じもので、よく用いられる別の方法には、Chothia,C.ら
,J.Mol.Biol.(1987)196:901-917およびChothia,
C.ら,Nature(1989)342:877-883に公開されているChoth
iaの方法がある。また別の変法がAbhinandan,K.R.ら,Mol.Imm
unol.(2008)45:3832-3839により提唱されている。本発明は、こ
れらの方法のいずれかにより定義されるCDRを含む。
【0179】
いずれの方法も、様々な研究者によっていくつかの基準が一様に定められており;した
がって、本明細書および特許請求の範囲で明示されるCDRの変化はわずかであり得るこ
とが理解される。得られる可変領域がその結合能を保持する限り、CDRの正確な位置は
重要なことではなく、特許請求の範囲で明示されるこれらの領域は、受け入れられている
任意の方法によって同定されるCDRを含むものと解釈されるべきである。
【0180】
本発明の抗体をはじめとする結合部分は、標準的な方法および製剤を用いて、受動的ワ
クチンとして投与することができる。このようなワクチンは通常、注射、通常は筋肉内ま
た皮下への注射により投与されるが、静脈内を含めた他の投与様式も決して除外されない
。適切に設計することにより、ワクチンを経口投与してもよい。例えば、上記のように、
開発中の技術は、mAbをヒトの筋肉またはリンパ球内でin situで産生させるこ
とが可能になることを期待させるものであり、本発明の抗体も、この産生方法に適してい
る。
【0181】
製剤化に関しては、典型的な受動的抗体ワクチン製剤用補形剤を使用し、また、結合部
分をリポソーム、ミセル、ナノ粒子などの担体により投与してもよい。本発明の範囲内に
含まれ方法で特に対象となるのは、ACS Nano.のAnselmo,A.C.らに
記載され、2013年に10.1021/NN404853Zとしてオンラインで公開さ
れているように、mAbから作製したナノ粒子の吸着作用により結合部分を赤血球に付着
させるものである。この技術によれば、担体粒子もしくは薬剤またはその両方を赤血球上
に吸着させることにより、肺に優先的に送達され、したがって、肝臓および脾臓での処理
による半減期の短縮が防止され、肺中の濃度が高められる。この技術は受動的インフルエ
ンザワクチンに特に適しており、結合部分を赤血球に付着させる様々な方法を用いること
ができる。しかし、この論文によれば、必要なのは単純な吸着のみである。これ以外にも
、吸入により送達するエアゾール製品など、mAbの肺への分配を増大させる方法を用い
て、受動的ワクチンの効力を増大させることができる。
【0182】
いくつかの実施形態では、本発明は、第1群および第2群インフルエンザAウイルスな
らびにインフルエンザBウイルスに対する抗体を同時に、または組み合わせて投与するこ
とによる、インフルエンザウイルスおよびインフルエンザウイルス感染症に効果を示す治
療および予防のための方法および手段を提供する。本発明では、広範囲の第1群インフル
エンザAウイルスに対する抗体または活性なフラグメントと、広範囲の第2群インフルエ
ンザAウイルスに対する抗体または活性なフラグメントと、広範囲のインフルエンザBウ
イルスに対する抗体または活性なフラグメントとを含む、広域中和抗体の組合せを投与す
る。
【0183】
いくつかの実施形態では、インフルエンザAおよびインフルエンザBの両方に対して効
果を示す抗体を含み、複数の株に広域反応性を示す、受動的ワクチン、抗体組成物または
抗体の組合せが提供される。これにより、単回用量で効果のある抗インフルエンザ剤が提
供され、初期症状が発現したとき、またはインフルエンザに曝露した後に投与することが
可能になる。ほかにも、抗体または抗体混合物を投与する前に感染ウイルスを詳細に特徴
付ける必要性が回避される。インフルエンザ株を決定する診断には、利用可能な臨床検査
施設が必要であり、通常、最低12~24時間の作業時間を要するため、しかるべき方向
性の治療法を選択する前にインフルエンザ株を決定する必要がある場合、治療に好ましく
ない遅れが生じる。インフルエンザAおよびインフルエンザB株に対して広域反応性を示
す組成物があれば、治療前に株の予備診断を実施する必要がなくなる。
【0184】
いくつかの実施形態では、抗体の組合せまたは組み合わせた抗体の組成物を、鼻腔内ま
たは吸入投与を含め、呼吸気道または気道に直接投与することによる、インフルエンザウ
イルスに有効な治療および予防のための新規な方法および手段が提供される。本発明は、
吸入(IH)による送達ならびに/あるいは鼻腔内(IN)への送達および投与などの気
道送達を含めた中和抗体または抗体の組合せの呼吸気道への直接送達が、同じ量の同じ抗
体または抗体の組合せの全身投与(IVまたはIP)よりも優れ、効果が高く、低い用量
で効果が得られることを示すものである。ウイルスに曝露または感染する前または場合に
よっては後に抗体をINまたはIH送達する治療法または予防法で効果が得られる。
【0185】
いくつかの実施形態では、哺乳動物のウイルス感染症の治療または予防に効果のある経
気道投与用の組成物、特に吸入組成物または鼻腔内組成物、特に抗体の組合せの組成物で
あって、広範囲の第1群インフルエンザAウイルスに対する抗体または活性なフラグメン
トと、広範囲の第2群インフルエンザAウイルスに対する抗体または活性なフラグメント
と、広範囲のインフルエンザBウイルスに対する抗体または活性なフラグメントとを含む
、組成物が提供される。第一の態様では、本発明は、ウイルス中和モノクローナル抗体の
組合せを単一単位用量で含み、哺乳動物のインフルエンザウイルス感染症の治療または予
防に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物であって、各抗体が1mg/kg以下の投
与量で用量に含まれる、組成物を提供する。本発明は、中和モノクローナル抗体の組合せ
を単一単位用量で含み、哺乳動物のインフルエンザウイルス感染症の治療または予防に効
果のある吸入組成物または鼻腔内組成物であって、各抗体が10mg/kg以下の有効量
で投与される、組成物を提供する。本発明は、インフルエンザ中和モノクローナル抗体の
組合せをそれぞれ1mg/kg未満の単一単位用量で含み、哺乳動物のインフルエンザウ
イルスの治療または予防に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物を提供する。本発明
は、インフルエンザ中和モノクローナル抗体の組合せをそれぞれ0.5mg/kg未満の
単一単位用量で含み、哺乳動物のインフルエンザウイルスの治療または予防に効果のある
吸入組成物または鼻腔内組成物を提供する。本発明は、抗体の組合せを含み、哺乳動物の
インフルエンザウイルスの治療または予防に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物で
あって、各抗体が0.1mg/kg未満の用量で投与される、組成物を提供する。
【0186】
さらなる態様では、本発明は、流行中のインフルエンザウイルス株に対するインフルエ
ンザ中和抗体の組合せを含み、哺乳動物のインフルエンザウイルスの治療、予防または伝
染の抑制に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物を提供する。一態様では、本発明は
、流行中のインフルエンザウイルス株に対するインフルエンザ中和抗体の組合せからなる
、特にインフルエンザA抗H1抗体と、インフルエンザA抗H3抗体と、抗インフルエン
ザB抗体とからなる、鼻腔内投与用の組成物を提供する。一態様では、組成物は、特に限
定されないがH2、H5およびH7株を含めた他のインフルエンザ株に対して効果を示す
、または一層高い効果を示すインフルエンザA抗体を含む。
【0187】
組成物は、使用およびインフルエンザウイルスの治療または予防に適しており、適用可
能なものである。特定の態様では、組成物はインフルエンザウイルスの伝染の抑制に適し
ている。
【0188】
特定の実施形態では、抗体Mab53(TRL053)、抗体Mab579(TRL5
79)、その抗体フラグメントまたはこれらに基づく二重特異性抗体と、TRL847、
TRL845、TRL849、TRL848、TRL846、TRL854、TRL80
9およびTRL832から選択されるインフルエンザBウイルスに対する1つまたは複数
のインフルエンザ抗体とを含む抗体の組合せを含む、組成物が提供される。
【0189】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2
/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号1
4、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)
を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)
配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(
HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配
列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミ
ノ酸配列を含む、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)インフルエンザ
B、特にヤマガタ系統および/またはビクトリア系統に対する1つまたは複数のインフル
エンザウイルス中和抗体とを含み、抗体またはそのフラグメントが、重鎖相補性決定領域
1(HCDR1)と重鎖相補性決定領域2(HCDR2)と重鎖相補性決定領域3(HC
DR3)とを含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のC
DRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む、抗
体またはそのフラグメントから選択され、HCDR1/HCDR2/HCDR3が、配列
番号31/32/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71
/72/73;81/82/83;91/92/93;101/102/103;111
/112/113;121/122/123;131/132/133;141/142
/143;151/152/153;161/162/163;171/172/173
;181/182/183;191/192/193;201/202/203;211
/212/213;221/222/223;231/232/233;241/242
/243;251/252/253;261/262/263;271/272/273
および281/282/283からなる群より選択され、前記変異体および前記抗体が、
インフルエンザウイルスと結合し、これを阻害する特性を有する、医薬組成物が提供され
る。
【0190】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2
/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号1
4、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)
を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)
配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(
HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配
列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミ
ノ酸配列を含む、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)インフルエンザ
B、特にヤマガタ系統および/またはビクトリア系統に対する1つまたは複数のインフル
エンザウイルス中和抗体とを含み、抗体またはそのフラグメントが、重鎖アミノ酸配列お
よび軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複
数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含
む、抗体またはそのフラグメントから選択され、LCDR1/LCDR2/LCDR3が
、配列番号34/35/36;44/45/46;54/55/56;64/65/66
;74/75/76;84/85/86;104/105/106;114/115/1
6;124/125/126;134/135/136;144/145/146;15
4/155/156;164/165/166;174/175/176;184/18
5/186;194/195/196;204/205/206;214/215/21
6;224/225/226;234/235/236;244/245/246;25
4/255/256;264/265/266;274/275/276;および284
/285/286からなる群より選択され、前記変異体が、インフルエンザウイルスと結
合し、これを阻害することが可能である、医薬組成物が提供される。
【0191】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2
/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号1
4、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)
を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)
配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(
HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配
列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミ
ノ酸配列を含む、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)インフルエンザ
B、特にヤマガタ系統および/またはビクトリア系統に対する1つまたは複数のインフル
エンザウイルス中和抗体またはフラグメントとを含み、抗体またはフラグメントが、重鎖
および軽鎖CDR配列を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列または1つもしく
は複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体
を含む、抗体またはそのフラグメントから選択され、HCDR1/HCDR2/HCDR
3/LCDR1/LCDR2/LCDR3が、配列番号31/32/33/34/35/
36;41/42/43/44/45/46;51/52/53/54/55/56;6
1/62/63/64/65/66;71/72/73/74/75/76;81/82
/83/84/85/86;91/92/93/94/95/96;101/102/1
03/104/105/106;111/112/113/114/115/116;1
21/122/123/124/125/126;131/132/133/134/1
35/136;141/142/143/144/145/146;151/152/1
53/154/155/156;161/162/163/164/165/166;1
71/172/173/174/175/176;181/182/183/184/1
85/186;191/192/193/194/195/196;201/202/2
03/204/205/206;211/212/213/214/215/216;2
21/222/223/224/225/226;231/232/233/234/2
35/236;241/242/243/244/245/246;251/252/2
53/254/255/256;261/262/263/264/265/266;2
71/272/273/274/275/276;および281/282/283/28
4/285/286からなる群より選択され、前記変異体が、インフルエンザウイルスと
結合し、これを阻害することが可能である、組成物が提供される。
【0192】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2
/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号1
4、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)
を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)
配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(
HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配
列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミ
ノ酸配列を含む、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)インフルエンザ
B、特にヤマガタ系統および/またはビクトリア系統に対する1つまたは複数のインフル
エンザウイルス中和抗体またはフラグメントとを含み、抗体またはそのフラグメントが、
39/40、49/50、59/60、69/70、79/80、89/90、99/1
00、109/110、119/120、129/130、139/140、149/1
50、159/160、169/170、179/180、189/190、199/2
00、209/210、219/220、229/230、239/240、249/2
50、259/260、269/270、279/280および289/290からなる
群より選択されるHCVR/LCVR配列対を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸
配列を含む、抗体またはそのフラグメントから選択される、医薬組成物が提供される。
【0193】
いくつかの実施形態では、IN送達などの気道に有用な中和抗体と、非中和抗体とを組
み合わせ得る。本願は、IN投与と、IPまたはIV投与を含めた別の投与経路とを組み
合わせて、全体および組合せとして効果を増大させることができることを示すものである
。本明細書に記載されるように、抗体のIN投与とIP投与を組み合わせることにより、
INまたはIP単独の場合に比して相乗的な活性および効果が増大する。代替的な、また
は別の投与方法または治療法を提供することに加え、本発明は、抗体を介した治療および
予防に対する増強された組合せ法を提供し、この方法では、最大の効果を得るべく、経肺
投与と全身投与とを組み合わせる。
【0194】
いくつかの実施形態では、経肺投与により抗体を投与する代替的手段により、用量低下
、用量を減らした製剤および効果的な広域抗インフルエンザ抗体組合せ組成物が可能にな
る。
【0195】
いくつかの実施形態では、インフルエンザウイルスを中和し、インフルエンザウイルス
に効果を示す結合分子、特にヒトモノクローナル抗体またはそのフラグメントの組合せ、
ここでは、組合せは第1群インフルエンザAウイルス、第2群インフルエンザAウイルス
およびインフルエンザBウイルスに効果を示す。抗体の組合せは、インフルエンザAおよ
びインフルエンザBウイルスに対する治療または予防に効果があり、したがって、重要な
流行中のあらゆるインフルエンザウイルスに対して単一の組成物または用量で効果を示す
薬剤となる。
【0196】
本発明は、組み合わせることによりインフルエンザAおよびインフルエンザBの治療ま
たは予防に効果のあるインフルエンザモノクローナル抗体またはそのフラグメントの組合
せを含むか、これよりなる組成物を提供する。
【0197】
組合せ組成物は、特徴付けも定義もされていないインフルエンザ感染症に投与しても効
果が認められ得る。本発明の特定の態様では、組合せ組成物を、鼻腔内または吸入投与に
よる投与を含め、気道に直接投与する。特に、抗体の組合せまたはカクテルを単回用量で
投与するか、各抗体の複数回投与または連続投与で投与することができる。したがって、
抗体のカクテルは、単一の特異的に選択した抗体が、定義されている標的インフルエンザ
に効果を示すのと同じように、任意の未知または未定義のインフルエンザウイルスに効果
を示す。例えば、カクテルの投与は、単一の特異的抗H1ウイルス抗体の場合と同じよう
に、所与の第1群H1ウイルスに効果を示す。
【0198】
いくつかの実施形態では、組み合わせた抗体は、組み合わせることで効果が得られるよ
うな、特に適用可能かつ有用になるような特定の特徴および側面を有する。特定の態様で
は、本発明の組合せの各抗体はいずれも、インフルエンザウイルスに対して有意な結合お
よび親和性を示す。
【0199】
いくつかの実施形態では、組合せの抗体を他の抗体と共製剤化、混合または逐次投与し
て、RSV、PAIVまたはMPVなどの病原体を含めた広範囲のインフルエンザ様疾患
を治療し得る。
【0200】
いくつかの実施形態では、効果のある組合せの各抗体は、複数のインフルエンザ株に対
してnM以下の親和性を示す。このことは、他の既知または既存の抗体に比して異なる、
特に有用かつ適用可能であるという側面である。例えば、Mab53およびMab579
は、それぞれ様々なH1(およびH5)またはH3(およびH7)株に対してnM以下の
親和性を示し、CR6261およびCR8020(国際公開第2013/086052号
)に比して有意に高い結合親和性を示す。本発明の組合せの抗インフルエンザB抗体も同
様に、ヤマガタおよびビクトリアの両クレードのインフルエンザB株n対してnM以下の
結合親和性を示す。
【0201】
いくつかの実施形態では、本開示の組合せ態様の抗体は、等電点(pI)を含めた生物
物理学的特性がほぼ同じになるよう設計および選択される。いくつかの実施形態では、組
成物に組み合わせるために選択される抗体は、それぞれが互いに±2pIポイント以内、
±1.5pIポイント以内、±1.0pIポイントまたは±0.5pIポイント以内のp
Iを示す。
【0202】
いくつかの実施形態では、本開示の組合せ態様の抗体は、強固な熱安定性などの生物物
理学的特性がほぼ同じになるよう設計および選択される。いくつかの態様では、融解曲線
アッセイを50℃以上、55℃以上、60℃以上、65℃以上または70℃以上のPBS
で実施したときに第一の融解温度(Tm1)を示す抗体が提供される。
【0203】
いくつかの実施形態では、抗体は、ほぼ同じか同等の定常領域配列とともに設計および
発現されるのが好ましく、また、ヒトIgG1、IgG2、IgG2、IgG3またはI
gG4から選択される同じIgGであるのが好ましい。このほか、循環血中半減期を延ば
すための改変Fc配列が当該技術分野で公知である。
【0204】
いくつかの実施形態では、ヒトIgG1定常領域アミノ酸配列を含む抗インフルエンザ
B抗体が提供される。いくつかの実施形態では、配列番号297のヒトIgG1定常領域
アミノ酸配列を含む抗インフルエンザB抗体が提供される。いくつかの実施形態では、配
列番号295のヒト軽鎖カッパ定常領域または配列番号296ヒト軽鎖ラムダ定常領域を
含む抗インフルエンザB抗体が提供される。
【0205】
いくつかの実施形態では、配列番号297のヒトIgG1定常領域を含む抗インフルエ
ンザB抗体を含む、抗体組成物が提供される。いくつかの実施形態では、配列番号295
のヒト軽鎖カッパ定常領域または配列番号296のヒト軽鎖ラムダ定常領域を含む抗イン
フルエンザB抗体を含む、抗体組成物が提供される。
【0206】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の抗インフルエンザA抗体と1つまたは複数
の抗インフルエンザB抗体との組合せを含む、組成物が提供される。いくつかの態様では
、組合せの抗体は、抗体凝集が少ないか全くみられない特性、分子間結合が存在しない特
性および/または競合結合がみられない特性から選択される1つまたは複数の特性を示す
。これらの態様は、本開示の組合せの抗体で示され例示される。
【0207】
本発明は、中和抗体(1つまたは複数)の鼻腔内または吸入投与などによる気道または
呼吸気道への本発明の抗体カクテルの投与によるインフルエンザウイルス感染症に効果の
ある治療および予防のための新規な方法、プロトコルおよび手段の特定に関する。インフ
ルエンザウイルス中和抗体の鼻腔内または吸入投与は、ウイルスを治療的または予防的に
治療または予防するのに、IP投与などの別の投与手段よりも高い効果を示す。吸入なら
びに/あるいは鼻腔内送達および投与は、同じ量の同じ抗体または抗体の組合せの全身投
与(IVまたはIP)よりも優れ、効果が高く、低い用量で効果がみられる。ウイルスに
曝露または感染する前または場合によっては後に抗体(1つまたは複数)をIN送達する
治療法または予防法で効果が得られる。
【0208】
肺用量の抗体と全身用量の抗体とを組み合わせる方法またはプロトコルは、インフルエ
ンザウイルスの治療または予防に特に効果がある。このような方法またはプロトコルには
、1つまたは複数の鼻腔内または吸入用量の抗体と、1つまたは複数のIPまたはIV用
量の抗体とを組み合わせるものが含まれる。鼻腔内または吸入用量は、IPまたはIV用
量の前または後に投与しても、IPまたはIV用量と同時にまたは逐次的に投与してもよ
い。1つまたは複数の鼻腔内、吸入、IPまたはIV用量(1つまたは複数)を投与し得
る。鼻腔内投与する抗体はFcまたはエフェクター機能を欠く抗体フラグメント、例えば
Fabなどであり得るのに対し、IP投与する抗体はエフェクター機能または増強された
エフェクター機能を有し得る。
【0209】
本開示では、ウイルス、特にインフルエンザウイルスに対する効果を増大させるため、
中和抗体を気道または呼吸気道に投与する。気道または呼吸気道への投与は、任意の認め
られている手段または既知の手段によるものであり得、吸入投与または鼻腔内投与を含み
得る。効果を増大させるためには、上気道および下気道のうちの1つまたは複数に抗体を
送達し、鼻腔、鼻口部、副鼻腔、咽喉、咽頭、喉頭、気管、気管支および肺を含み得る。
【0210】
「吸入」は、特に抗体もしくはその活性なフラグメントまたはそれを含む組成物を含め
た薬剤または化合物の摂取または投与との関連において、組成物中に含まれるものを含め
たその薬剤、化合物、抗体、フラグメントが呼吸気道の全体または一部分に送達される摂
取を指す。呼吸気道は上気道および/または下気道を含み得る。上気道は、鼻口部、鼻腔
、副鼻腔、喉頭、気管を含む。下気道は、肺、気道(気管支および細気管支)および気嚢
(肺胞)を含む。吸入は、鼻口部もしくは口腔から実施しても、気管内投与のように下気
道への直接投与により実施してもよい。したがって、吸入は、鼻口部のみまたは鼻口部主
体の吸入、鼻腔内吸入、口腔からの吸入、経口吸入、気管内吸入、気管内注入を含み得る
。したがって、吸入は、薬物、薬剤、組成物、抗体、ラグメントが、もっぱら、特異的に
または優先的に上気道および/または下気道を含めた呼吸気道に、または呼吸気道内に到
達または沈着する、任意の投与手段を提供および企図するものである。
【0211】
本明細書で使用される「鼻腔内」という用語は、特に限定されないが、鼻口もしくは鼻
腔構造の内部に、またはこれを経由して投与または実施される投与あるいは例えば吸入に
よる、気道送達を含む。本明細書で使用され、実施例で実施形態として例示される鼻腔内
という用語は、特に、薬物、薬剤、抗体、フラグメント、組成物が呼吸気道に送達をはじ
めとする方法で投与され、呼吸気道内または呼吸気道への沈着をはじめとする方法で呼吸
気道に分配される他の投与手段が除外されるように、鼻口部または鼻腔から直接、特異的
にまたはもっぱら投与することに限定されるものでもなければ、これに限定されることを
示唆するものでもないことが意図される。
【0212】
呼吸気道または気道(1つまたは複数)に投与または送達するための装置は、当該技術
分野および臨床または医療の現場では知られ認められており、本発明の方法、プロトコル
および組成物に適用可能である。装置としては、定量吸入器、定量噴霧ポンプ、手動バル
ブ噴霧器、小容量または大容量噴霧器、超音波噴霧器および乾燥粉末吸入器が挙げられる
。
【0213】
本明細書に開示される実施形態は、特に呼吸気道を標的とする、呼吸気道に感染する、
または呼吸気道を冒す病因体または病原体の治療または予防に適用および使用される。こ
れらのウイルスは、肺尖部での複製を示すことにより、肺送達したmAbまたはそのフラ
グメントにより中和に感受性になると考えられ、このため、全身送達に比して効果が改善
されると考えられる。したがって、本発明の実施形態は、呼吸器感染症、特に呼吸器ウイ
ルスおよび呼吸器疾患の原因となる、またはこれと因果関係にある病因体の治療または予
防に適用および使用される。よくみられるウイルス性呼吸器疾患は、ほぼ同じ特色を有し
上気道を冒す様々なウイルスによって引き起こされる疾患である。関与するウイルスとし
ては、インフルエンザウイルス、呼吸器多核体ウイルス(RSV)、パラインフルエンザ
ウイルスおよび呼吸器アデノウイルスを挙げ得る。パラインフルエンザウイルスは、乳幼
児のクループの主要な原因となり、気管支炎、肺炎および細気管支炎を引き起こし得る。
アデノウイルスは、主として呼吸気道、消化管および眼球の結膜に侵入する。アデノウイ
ルスは、咽頭炎から肺炎、結膜炎および下痢に至る様々な疾患を引き起こし得る。症状は
ウイルスに曝露してから1~10日後に現れ得る。
【0214】
状態(癌、炎症状態、抗ウイルス剤、抗感染症剤)の治療または軽減のための抗体の臨
床投与にはこれまで、もっぱら全身投与、一般にはIV投与が用いられてきたが、これに
は大量かつコストのかかる量の抗体、医療従事者の補助および相当な投与時間(典型的な
IV投与では2時間)が必要とされる。特にこれらの抗体を扱った特許または出願では、
鼻腔内などの他の投与手段に言及することもあるが、鼻腔内投与は、良くても同等の代替
手段とみなされるか、全く無視されるか、追求されないかのいずれかであり、その理由と
しては、鼻腔内投与はIPまたはIV投与経路に比べて、理解が進んでおらず、魅力的で
はない、または効果が少ないと考えられており、免疫系の発動が間接的なものである、ま
たはあまり直接的なものではないと考えられていることが推測される。しかし、本発明お
よび本明細書に記載される注目すべき研究では、特に中和抗体には、鼻腔内投与の方が実
際には好ましく効果の高い代替手段であることが示されている。特に、最初に病原体が侵
襲または曝露する部位または位置で作用し得る中和抗体は、別の投与様式よりも効果が高
くなる。したがって、インフルエンザを標的とする中和抗体は、経肺経路で投与した場合
、全身経路と比較して、部分的には様々な作用機序を介してもたらされる効果に劇的な差
がみられる。
【0215】
経気道投与は、低用量で効果があり、低用量、低コストであり、したがって、診断検査
による確定を必要としない治療を実施する唯一の機会を提供する。医師がこの低用量のカ
クテルを、例えば乾燥粉末吸入器もしくは噴霧器として、またはその他の気道送達法によ
り投与するには、インフルエンザの季節に症状を認めれば十分である。この診断を必要と
しない標準治療は現在、TamifluおよびRelenzaで実施されているが、費用
のかかる静脈内抗体療法には不可能であり、実際的ではなく、コスト的に不可能であると
思われる。診断を実施した後、高用量の抗体の投与を静脈内経路などの全身経路または経
気道のいずれかで実施し得るほか、カクテルまたはインフルエンザの型に特異的な単独の
特異的抗体として構成し得る。
【0216】
したがって、本発明では、抗体の肺送達により、IVまたはIP経路などの全身経路に
比して著明で有意な効果の改善が得られる。さらに、中和作用を示す抗体により、鼻腔内
効果の増大が示される。中和抗体、特に、受け入れられている、または既知の中和アッセ
イまたはウイルス阻止アッセイを用いてもインフルエンザウイルスの直接的な阻害または
阻止を示さない抗体を鼻腔内に送達すると、全身またはIP投与に比して効果の低下がみ
られる。本研究は、受け入れられている既知のインフルエンザマウスモデルを用いて、中
和抗体の鼻腔内(IN)送達が治療および予防効果を腹腔内(IP)または静脈内(IV
)送達経路に比して10倍超、劇的に増大させ得ることを示す。IVまたはIP経路の代
わりにINで投与する場合、同じ用量の10分の1未満の用量を用いて同程度の効果を得
ることができる。鼻腔内などの気道に投与された中和抗体は、治療効果を数桁、具体的に
は10~100倍または少なくとも10~100倍、劇的に増大させ得る。鼻腔内に投与
された中和抗体は、ほぼ同じ条件下で同じ抗体を腹腔内(IP)投与する場合の少なくと
も10倍、少なくとも50倍、10倍超、50倍超、100倍超、最大100倍、治療効
果を増大させ得る。中和抗体の鼻腔内投与は、特にインフルエンザ感染症を含めた感染症
の治療または予防のための新規で予想外の方法をもたらす。IN投与は現在、効率的に実
施され、他の投与形態と組み合わせて、治療および予防のためのより効果的でよりコスト
の低い方法をもたらし得る。IN投与を含めた経気道投与により、任意の予想されるイン
フルエンザウイルスに対して単回用量の抗体の組合せまたはカクテルの効果を発揮させる
ことが可能となる。
【0217】
組成物
本開示では、インフルエンザに使用して効果が得られる抗体組合せ組成物が提供される
。抗体組合せ組成物は、鼻腔内などの気道に直接投与する場合、低用量で効果が得られる
。組成物は特に、抗体、特に中和抗体、特にモノクローナル抗体またはその活性なフラグ
メント、特に抗ウイルス抗体、特にインフルエンザの組合せを含む。中和抗体(1つまた
は複数)は、異なる型またはグループのインフルエンザを中和する抗体と組み合わせると
、2つ以上の型または亜型のインフルエンザを中和し得る。本発明の組成物は特に、流行
中のインフルエンザウイルス株に対するインフルエンザ中和抗体の組合せを含む。組成物
(1つまたは複数)は特に、流行中のインフルエンザウイルス株に対するインフルエンザ
中和抗体、特に抗インフルエンザAおよび抗インフルエンザB抗体の組合せを含む。組成
物(1つまたは複数)は特に、インフルエンザ中和抗体の組合せを含み、その組合せは、
全体としてしかるべき重要な流行中のインフルエンザウイルス株に対するものであり、特
に、全体としてインフルエンザAのH1およびH3亜型ならびにヤマガタ系統およびビク
トリア系統のインフルエンザBに対するものである。組成物(1つまたは複数)は、イン
フルエンザウイルスAおよびBが組合せまたは抗体によって中和される限り、3つ以上の
中和抗体を含むものであってもよい。
【0218】
組成物(1つまたは複数)は特に、流行中のインフルエンザウイルス株に対するインフ
ルエンザ中和抗体、特にインフルエンザA抗H1抗体、インフルエンザA抗H3抗体およ
び抗インフルエンザB抗体の組合せを含み得る。組成物(1つまたは複数)は、インフル
エンザH5株およびH7株に効果を示す、または一層高い効果を示すインフルエンザA抗
体を含み得る。インフルエンザ抗体は株に特異的、非特異的または汎特異的なものであり
得、H1亜型および/またはH3亜型および/またはH5および/またはH7をはじめと
するインフルエンザA株の系統または亜型を含めたインフルエンザAを中和し得るもので
あり、かつ/あるいはヤマガタ系統および/またはビクトリア系統を含めたインフルエン
ザBを中和し得るものである。組成物は、IVまたはIPなどの別の投与組成物として、
抗体の同一の成分、異なる成分また追加の成分を有し得る。
【0219】
いくつかの実施形態では、中和抗体またはFabフラグメントを含めたそのフラグメン
トを含む組成物が提供される。本発明の組成物は、インフルエンザウイルス中和抗体、特
に、第1群抗体TRL053/Mab53、第2群抗体TRL579/Mab579なら
びにTRL847、TRL845、TRL849、TRL848、TRL846、TRL
854、TRL809およびTRL832から選択されるB抗体、そのフラグメント、そ
の合成または組換え誘導体、そのヒト化型またはキメラ型、ならびにその重鎖および軽鎖
CDRを有する抗体の組合せを含み得る。
【0220】
ウイルス中和抗体は特に、中和が可能な抗体フラグメントであり得る。一態様では、抗
体フラグメントは、Fcを欠くものであり、かつ/またはエフェクター機能を欠くか、こ
れが低下したものである。抗体フラグメントは、Fab、Fab’およびF(ab’)2
から選択され得る。ウイルス中和抗体またはフラグメントは、組換えタンパク質に由来す
るもの、活性なフラグメントとして発現するものを含めた組換えにより発現するもの、あ
るいはその他の手段または方法、例えば中和抗体またはそのフラグメント(1つまたは複
数)をコードするDNAまたはRNAの送達などによる遺伝物質、DNAまたはDNAベ
クターの発現によるものを含めた気道または呼吸気道内に中和抗体またはフラグメント(
1つまたは複数)をもたらす手段または方法などにより誘導または生成されるものであり
得る。
【0221】
本発明の組成物は、薬学的に許容される補形剤、担体または希釈剤をさらに含み得る。
組成物は、経鼻または肺送達および鼻腔内または吸入投与に適したまたはふさわしい補形
剤、担体、希釈剤または添加剤を含み得る。組成物は、免疫応答および/または抗体の仲
介による細胞もしくは全身へ効果を刺激または増大するのに適したまたはふさわしい補形
剤、担体、希釈剤または添加剤を含み得る。組成物は、免疫応答の免疫学的メディエータ
ーまたは刺激因子を含み得る。
【0222】
本発明は、特にインフルエンザウイルスの伝染を治療、予防、抑制または阻害するため
の方法を提供する。本発明は、インフルエンザウイルスに曝露した、罹患した、または罹
患している哺乳動物のウイルス感染症を治療する方法であって、本発明で提供される抗体
の組合せを、鼻腔内(IN)投与または吸入などにより前記哺乳動物の気道に投与するこ
とを含む、方法を提供する。特定の態様では、組合せは、第1群抗体TRL053/Ma
b53、第2群抗体TRL579/Mab579ならびにTRL847、TRL845、
TRL849、TRL848、TRL846、TRL854、TRL809およびTRL
832から選択されるB抗体、そのフラグメント、その合成または組換え誘導体、そのヒ
ト化型またはキメラ型ならびにその重鎖および軽鎖CDRを有する抗体を含む。
【0223】
この方法の一態様では、組成物組合せ中のモノクローナル抗体はすべて、同じIgG亜
型に属するものであり、同一またはほぼ同一の定常領域配列を有する。特定の態様では、
組合せの抗体はすべてIgG1抗体である。
【0224】
この方法では、感染後、推定感染後、曝露後または臨床症状の発現後に抗体の組合せを
投与し得る。その一態様では、感染から8時間後までの間に抗体の組合せを投与し得る。
別法では、感染から24時間後までの間に抗体の組合せを投与する。さらなる別法では、
感染から48時間後までの間に抗体の組合せを投与する。またさらなる別法では、感染か
ら72時間後までの間に抗体の組合せを投与する。抗体の組合せは、感染から8時間後(
8hpi)、12hpi、18hpi、24hpi、36hpi、48hpi、72hp
i、感染から1日後、感染から2日後、感染から3日後、感染から4日後、感染から5日
後、感染から6日後、感染から7日後、感染から1週間後、感染から10日後、感染から
2週間後、感染から3週間後、感染から4週間後、感染から1か月後、感染から数か月後
までの間に、単回用量または複数回の逐次用量などで投与され得る。
【0225】
組合せに必要な抗体がいずれも投与時に確実に効果を発揮するように、抗体の組合せを
単回用量で、または3つの個別の用量で同時もしくはほぼ同時に投与する。
【0226】
いくつかの実施形態では、任意の比率の2種類、3種類、4種類、5種類、6種類、7
種類、8種類、9種類、10種類またはそれ以上の抗体の組合せを含む、組成物が提供さ
れる。いくつかの実施形態では、2~10種類もしくは3~5種類の抗体またはフラグメ
ントを重量当たりの基準で、組成物中の抗体またはフラグメントの総重量当たりそれぞれ
約10~80重量%;20~50重量%;25~40重量%含む、組成物が提供される。
特定の実施形態では、第一、第二および第三の抗体またはフラグメントを実質的に等しい
用量または比率で、組成物中の抗体またはフラグメントの総重量当たりそれぞれ約33重
量%±3重量%含む、組成物が提供される。特定の好ましい態様では、組合せの抗体を実
質的に等しい用量比、同じ投与量、1:1:1の重量比または等しい比率で投与する。
【0227】
いくつかの実施形態では、2~10種類の抗体を含み、組合せの各抗体の単回用量有効
量が、10mg/kg体重未満、5mg/kg体重未満、2mg/kg体重未満、1mg
/kg体重以下である、組成物が提供される。組合せの各抗体の単回用量は、1mg/k
g体重未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満、0.05mg/kg未満で
あり得る。複数回用量または抗体の組合せを投与し得る。初回用量を高くし、それ以降の
用量を低くする、あるいは初回用量を低くして、それ以降の用量を高くするなど、各組合
せの用量が同じであっても、用量が異なっていてもよい。1つもしくは複数の単回用量ま
たは任意の用量は、1mg/kg体重未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未
満、0.05mg/kg未満であり得る。初回用量は1mg/kgを超えてもよく、のち
のまたは次の用量はこれより低い用量であっても、1mg/kg未満であってもよい。
【0228】
抗体は、鼻腔内投与または吸入などにより複数回用量で気道に投与してよく、ここでは
、各組合せ用量中の各抗体は、1用量当たり1mg/kg未満である。このような態様で
は、推定感染時から、曝露してから、または臨床症状が発現してから最大72時間後以降
に、複数回用量を少なくとも2時間の間隔をあけて投与し得る。したがって、抗体用量を
数分、数時間または数日の間隔をあけて投与し得る。感染後、推定感染後または曝露後に
数時間または数日の間隔をあけて抗体用量を投与してもよい。感染後、推定感染後または
曝露後および最大2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、36時間、4
8時間または72時間後に抗体用量を投与してもよい。
【0229】
本発明の投与のプロトコルまたは方法は特に、特に抗体の吸入または鼻腔内投与による
、気道または呼吸気道への1回目の抗体投与と、吸入または鼻腔内経路によるものではな
い2回目または1つもしくは複数の追加の投与、例えばIPまたはIV投与(1つまたは
複数)などの全身送達とを組み合わせたものを含む。したがって、この方法は、追加でウ
イルス特異的モノクローナル抗体をIPまたはIVで投与することを含み得るものであり
、ここでは、追加で投与する抗体が中和抗体または非中和抗体である。この場合、初回用
量を本発明の抗体の組合せとともに投与し、次いで、臨床検査または診断検査で決定され
たものを含む感染ウイルスの亜型に対する単一の抗体を投与し得る。したがって、インフ
ルエンザウイルスの型に関係なく、抗体の組合せの初回用量が最初に効果を発揮する。ウ
イルスの型が決定された後、その組合せ、組合せの比率を変えたもの、単一の抗原に対す
る抗体の2回目または追加の用量(1つまたは複数)を投与する。2回目または追加の用
量(1つまたは複数)は、IHまたはINなどで気道に投与しても、全身投与してもよい
。追加でIPまたはIVなどにより全身投与する抗体は、INまたは吸入により投与する
抗体と同じ抗体であっても、INまたは吸入により投与する抗体と異なる抗体または操作
した抗体であってもよい。追加で例えばIPまたはIVにより投与する抗体は、INまた
は吸入により投与する抗体と同時に、逐次的にまたは後続して投与し得る。任意のこのよ
うな後続投与は、数時間後であってよく、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、1
2時間後または最大24時間後であり得る。後続投与は、数日後であってよく、1日後、
2日後または3日後であり得る。後続投与は数日後であってよく、最大7日後、1週間後
または数週間後であり得る。後続投与は、数時間後および/または数日後および/または
数週間後の単回投与または複数回投与であり得る。
【0230】
さらなる態様では、本発明は、インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対
する抗体の組合せを投与するためのプロトコルであって、本発明で提供される抗体の組合
せの鼻腔内または吸入用量などの1回目の気道用量を投与し、後続してまたは同時に、気
道にも呼吸気道にも投与せずに腹腔内または静脈内に投与し得る2回目の用量または1つ
もしくは複数の追加の用量を投与することを含み、2回目の用量または追加の用量(1つ
または複数)の抗体が、1回目の用量の組合せの抗体と同じ抗体または異なる抗体である
、プロトコルを提供する。2回目の用量また追加の用量(1つまたは複数)の抗体は、I
VまたはIPでより効果的または有効になるよう操作または改変された操作または改変抗
体である。一態様では、1回目の用量の抗体は、Fab抗体のようなエフェクター機能を
欠く抗体であり得、2回目の用量の抗体は、エフェクター機能有するか、Fcを有するか
、増強されたエフェクター機能を有するよう改変されたものであり得る。
【0231】
このプロトコルは、本発明の抗体の組合せの吸入または鼻腔内経路による複数回用量を
含み得るほか、同じ組合せ、組合せの1つまたは複数の抗体または別の抗体のIPまたは
IV経路による複数回用量を含み得る。プロトコルの一態様では、抗体を投与する対象ま
たは患者の疾患またはウイルス感染症の臨床症状などをモニターし、患者または対象およ
び感染症または疾患の状態に応じて、1つまたは複数の用量を変更、減少もしくは増大さ
せるか、投与間隔を短く、または一層長くし得る。
【0232】
プロトコルの一態様では、インフルエンザウイルスは、インフルエンザA、インフルエ
ンザBまたは未知もしくは未定義のインフルエンザウイルスであり得る。呼吸気道に投与
しない2回目の用量の抗体は、中和抗体であっても非中和抗体であってもよく、またエフ
ェクター機能または増強されたエフェクター機能を有し得る。
【0233】
プロトコルの一態様では、1回目の鼻腔内または吸入用量は、本発明の組合せの抗体を
それぞれ1mg/kg未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満含み得る。2
回目または追加のIPまたはIV用量は特に、1回目の鼻腔内または吸入用量よりも高い
用量で投与する。2回目または追加のIPまたはIV用量は特に、各抗体または任意の抗
体の量が1回目の鼻腔内または吸入用量の少なくとも10倍の用量で投与する。2回目ま
たは追加のIPまたはIV用量は、少なくとも1mg/kg、少なくとも5mg/kg、
少なくとも10mg/kg、少なくとも15mg/kgまたは10mg/kg超、20m
g/kg超もしくは50mg/kg超であり得る。
【0234】
プロトコルのさらなる態様では、1回目の鼻腔内または吸入用量は組合せの各抗体が1
mg/kg未満であり得、2回目のIPまたはIV用量は1回目の鼻腔内用量の少なくと
も10倍のmg/kg数であり得る。プロトコルのさらなる態様では、1回目の鼻腔内ま
たは吸入用量は組合せの各抗体が1mg/kg未満であり得、2回目のIPまたはIV用
量は1回目の鼻腔内用量の少なくとも50倍のmg/kg数であり得る。ほかの態様では
、1回目の鼻腔内または吸入用量は組合せの各抗体が0.5mg/kg未満であり得、2
回目のIPまたはIV用量は少なくとも5mg/kgであり得る。
【0235】
1回目の鼻腔内または吸入用量の組合せの各抗体の用量は10mg/kgまたは10m
g/kg未満であり得、推定感染後、曝露後または臨床症状の発現後24時間以内に投与
され得る。1回目の鼻腔内または吸入用量の組合せの各抗体の用量は10mg/kgまた
は10mg/kg未満であり得、推定感染後、曝露後または臨床症状の発現後48時間以
内に投与され得る。1回目の鼻腔内または吸入用量の組合せの各抗体の用量は10mg/
kgまたは10mg/kg未満であり得、推定感染後、曝露後または臨床症状の発現後7
2時間以内に投与され得る。
【0236】
本発明の別の態様は、呼吸器ウイルスの伝染を抑制する方法であって、インフルエンザ
ウイルスに曝露した対象、インフルエンザウイルスに曝露するリスクのある対象またはイ
ンフルエンザウイルス感染症の臨床徴候がみられる対象の気道に本発明の抗体の組合せを
鼻腔内投与または吸入により投与することを含み、各抗体を1mg/kg以下の単位用量
で投与する、方法である。組合せの各抗体の単位用量は10mg/kg未満または1mg
/kg未満であり得る。この方法の単位用量は、0.5mg/kg未満、0.1mg/k
g未満または0.05mg/kg未満であり得る。
【0237】
本発明は、抗体組合せ組成物または経肺投与に適するか、経肺投与用に選択した抗体、
特にインフルエンザ抗体、特にモノクローナルインフルエンザ抗体の組合せの組成物を提
供し、ここでは、抗体の組合せは、季節性亜型および大流行亜型からなる流行中のウイル
ス株に対する抗体を含むか、これよりなる。例えば、季節性インフルエンザと同じく流行
中の株は現在、インフルエンザB(ヤマガタ系統)、インフルエンザB(ビクトリア系統
)、インフルエンザA H1亜型およびインフルエンザA H3亜型であり、インフルエ
ンザB(ヤマガタ)、インフルエンザB(ビクトリア)、インフルエンザA H1亜型お
よびインフルエンザA H3亜型それぞれに対する抗体(1つまたは複数)を有するか含
む、本発明の組合せ組成物が提供される。本発明は、他の亜型、例えばH7亜型をカバー
する特異性を追加するためにカクテルに他の抗体を組み込むことを含む。
【0238】
いくつかの実施形態では、第1群抗体TRL053/Mab53、第2群抗体TRL5
79/Mab579ならびにTRL784、TRL794、TRL798、TRL799
、TRL809、TRL811、TRL812、TRL813、TRL823、TRL8
32、TRL833、TRL834、TRL835、TRL837、TRL839、TR
L841、TRL842、TRL845、TRL846、TRL847、TRL848、
TRL849、TRL851、TRL854、TRL856およびTRL858から選択
される1つまたは複数の抗インフルエンザB抗体、その免疫反応性フラグメント、その合
成または組換え誘導体、そのヒト化型またはキメラ型ならびにその重鎖および軽鎖CDR
を有する抗体の組合せを含む、組成物が提供される。
【0239】
いくつかの実施形態では、第1群抗体TRL053/Mab53、第2群抗体TRL5
79/Mab579ならびにTRL845、TRL846、TRL847、TRL848
、TRL849およびTRL854から選択されるB抗体またはそのフラグメント、その
合成または組換え誘導体、そのヒト型またはキメラ型ならびにその重鎖および軽鎖CDR
を有する抗体の組合せを含む、医薬組成物が提供される。
【0240】
いくつかの実施形態では、第1群抗体TRL053/Mab53、第2群抗体TRL5
79/Mab579ならびにTRL845、TRL847およびTRL849から選択さ
れるB抗体またはそのフラグメント、その合成または組換え誘導体、そのヒト化型または
キメラ型ならびにその重鎖および軽鎖CDRを有する抗体の組合せを含む、医薬組成物が
提供される。いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のCDRドメイ
ン配列HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14
、15、16のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖アミ
ノ酸配列を含む、抗体またはそのフラグメントと;(b)配列番号21、22、23のC
DRドメイン配列HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖アミノ酸配列および配
列番号24、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含
む軽鎖アミノ酸配列を含む、抗体またはそのフラグメントと;(c)重鎖CDRドメイン
配列HCDR1/HCDR2/HCDR3および軽鎖CDRドメイン配列LCDR1/L
CDR2/LCDR3をそれぞれ含み、HCDR1/HCDR2/HCDR3およびLC
DR1/LCDR2/LCDR3がそれぞれ:
(i)配列番号71、72、73および配列番号74、75、76;
(ii)配列番号91、92、93および配列番号94、95、96;
(iii)配列番号101、102、103および配列番号104、105、106;
(iv)配列番号121、122、123および配列番号124、125、126;
(v)配列番号181、182、183および配列番号184、185、186;
(vi)配列番号191、192、193および配列番号194、195、196;
(vii)配列番号201、202、203および配列番号204、205、206;
(viii)配列番号211、212、213および配列番号214、215、216;
(ix)配列番号221、222、223および配列番号224、225、226;
(x)配列番号231、232、233および配列番号234、235、236;
(xi)配列番号241、242、243および配列番号244、245、246;
(xii)配列番号261;262、263および配列番号264、265、266;な
らびに
(xiii)配列番号271、272、273および配列番号274、275、276
から選択される重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列を含む、抗体またはそのフラグ
メントとを含む、インフルエンザモノクローナル抗体またはそのフラグメントの組合せを
含む、抗インフルエンザ組成物が提供される。
【0241】
本発明は、1つもしくは複数のCDRドメイン配列に1~3個のアミノ酸置換を含むそ
の高度に相同な変異体を企図および例示し、ここでは、前記変異体は、インフルエンザウ
イルスと結合し、これを阻害することが可能であり、組成物は、第1群および第2群イン
フルエンザAウイルスならびにインフルエンザBウイルスに効果を示す。
【0242】
特定の実施形態では、(a)それぞれ配列番号11、12、13および配列番号14、
15、16の重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3および軽鎖CDR配列
LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;それぞれ
配列番号21、22、23および配列番号24、25、26のHCDR1/HCDR2/
HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグ
メントならびにそれぞれ配列番号201、202、203および配列番号204、205
、206のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCD
R3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;(b)それぞれ配列番号11、12、13
および配列番号14、15、16の重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3
および軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフ
ラグメント;それぞれ配列番号21、22、23および配列番号24、25、26のHC
DR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗
体もしくはそのフラグメントならびにそれぞれ配列番号221、222、223および配
列番号224、225、226のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1
/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;(c)それぞれ配列
番号11、12、13および配列番号14、15、16の重鎖CDR配列HCDR1/H
CDR2/HCDR3および軽鎖CDR配列を含む、抗体もしくはそのフラグメント;そ
れぞれ配列番号21、22、23および配列番号24、25、26のHCDR1/HCD
R2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはその
フラグメントならびにそれぞれ配列番号231、232、233および配列番号234、
235、236のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/
LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;(d)それぞれ配列番号11、12
、13および配列番号14、15、16の重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HC
DR3および軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくは
そのフラグメント;それぞれ配列番号21、22、23および配列番号24、25、26
のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含
む、抗体もしくはそのフラグメントならびにそれぞれ配列番号241、242、243お
よび配列番号244、245、246のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLC
DR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;または(e)
それぞれ配列番号11、12、13および配列番号14、15、16の重鎖CDR配列H
CDR1/HCDR2/HCDR3および軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LC
DR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;それぞれ配列番号21、22、23およ
び配列番号24、25、26のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/
LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメントならびにそれぞれ配列番
号261、262、263および配列番号264、265、266のHCDR1/HCD
R2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはその
フラグメントから選択される抗体の組合せを含む、組成物が提供される。
【0243】
いくつかの実施形態では、組合せの抗体は、2つ以上のインフルエンザ株または亜型、
例えば
図3に図示される株または亜型および本明細書に示される株または亜型などに対す
るものであり得る。抗体Mab53は、第1群および第2群のインフルエンザAの亜型H
1,H9,H7およびH5亜型に効果を示す。抗体Mab579は、亜型H3およびH7
に効果を示す。したがって、現在流行中のインフルエンザ株はH1、H3およびB型であ
るが、新たなインフルエンザの季節または単一のインフルエンザの季節に発生し出現し得
る亜型を含めた追加の株および亜型に効果を示す組合せを作製することが可能であり、本
明細書に提供される。
【0244】
組成物は特に、IPまたはIVなどの任意の別の剤形または投与形態よりも少ない抗体
の用量または量で製剤化されるか、これを含有し得る。したがって、本発明に有用な組成
物は、別の投与、特にIPまたはIV投与のための中和抗体組成物の5分の1、10分の
1、20分の1、50分の1、100分の1、10分の1未満、100分の1未満の中和
抗体を含み得る。
【0245】
いくつかの実施形態では、哺乳動物の体重に基づく1mg/kg未満の量で経肺投与、
特に鼻腔内投与することを目的とする用量の各抗体を含む、組成物が提供される。いくつ
かの実施形態では、ヒトの体重に基づき、合計10mg/kg未満、5mg/kg未満ま
たは1mg/kg未満の投与になる抗体を含む、組成物が提供される。本発明の組成物は
特に、マウス、イヌ、ウマ、ネコまたはヒトなどの臨床的に重要な哺乳動物を含めた哺乳
動物の体重に基づく1mg/kg未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満、
0.05mg/kg未満、0.01mg/kg未満、0.005mg/kg未満、0.0
025mg/kg未満、0.001mg/kg未満の量で投与する、特に鼻腔内投与する
ことを目的とする用量の抗体を含み得る。いくつかの実施形態では、治療有効量は、約1
00mg/kg、50mg/kg、10mg/kg、3mg/kg、1mg/kgまたは
1mg/kgから選択される。いくつかの態様では、有効な予防量または曝露後の予防量
は、約1mg/kg、0.1mg/kgまたは約0.01mg/kgから選択される。
【0246】
当業者は、動物モデルでの効果に基づき、臨床反応および生理反応、ウイルス負荷およ
びウイルス伝染率を考慮することなどにより、ヒトを含めた哺乳動物に適する有効な用量
を決定することができる。したがって、本発明および投与パラメータは、本明細書に提供
される具体例にも例示される具体的用量にも限定されない。本発明は、効果の観点および
臨床的に発現するインフルエンザウイルス感染症を含めたウイルス感染症の作用を軽減、
制限または阻止する点で、吸入または鼻腔内投与が好ましい代替法であることを示す。中
和抗体の吸入または鼻腔内投与により、IPまたはIVを含めた他の投与経路に比して効
果の改善および増大がもたらされ、これは、期待も予測もされなかったことであると思わ
れる。肺送達による効果の増大により、複数のmAbをカクテルに組み込むことが実現可
能性になり、あらゆるインフルエンザの型/亜型に対するカクテルの開発が可能になる。
INまたは吸入経路による投与の量およびタイミングは、当業者によってさらに評価およ
び決定され得る。本明細書に提供される試験は、INまたは吸入投与が、IPまたはIV
よりも低い用量でそれを上回る効果を示すほか、感染から数日後に実施してもなお効果を
保持し得ることを示す。
【0247】
本明細書でマウスモデルを対象に適用され示される用量および用量範囲は、必要に応じ
、当該技術分野で当業者または臨床もしくは医療の専門家により公知のパラメータを用い
て、変換または適用され得るものである。したがって、マウスのmg/kg投与量から、
ヒトをはじめとする動物に対するこれと同等の、または適度に同等の投与量を推定するこ
とができる。例えば、実験用マウスの平均重量が20gであるのに対して、ヒトの平均重
量は70kgである。
【0248】
動物用量をヒト用量に変換することは臨床研究で慣例的に実施されていることであり、
当業者であれば、このように変換した用量がヒトでも上手くいくことが強く予想されるで
あろう。種間での調整およびヒトでの薬物動態パラメータの予測については既に記載され
ている(例えば、Mahmoodら(2003)J Clin Pharmacol 4
3:692-697;Mordenti(1986)Journal of Pharm
aceutical Sciences,75:1028-1040)。例えば、治療レ
ベルは毒性と並行することが多く、このため、動物での最小有効量をヒトでの最小有効量
に変換するのに、動物毒性からヒト毒性への変換に適用される変換係数が良く用いられる
。さらに、FDAは、動物(マウス)用量からヒト用量への変換に用いられる係数を含め
、治療薬の臨床試験における最大安全開始用量を推定するための変換係数を記載した「G
uidance for Industry」提供している(例えば、ある場合には、マ
ウス用量に0.08を乗じる)。
【0249】
「薬学的に許容される」という語句は、生理学的に許容され、ヒトに投与してもアレル
ギー反応またはこれに類する例えば急性胃蠕動、眩暈などの有害反応を通常引き起こさな
い、分子的実体および組成物を指す。
【0250】
本発明は、本発明の治療法の実施に有用な治療用組成物をさらに企図する。対象とする
治療用組成物は、薬学的に許容される補形剤(担体)と、有効成分の1つまたは複数の抗
体またはその活性なフラグメント、特に本明細書に記載される中和抗体、そのポリペプチ
ド類似体またはそのフラグメントとを混合物の形で含む。好ましい実施形態では、組成物
は、標的細胞内または対象もしくは患者においてウイルス、特にインフルエンザウイルス
を中和することが可能な抗体またはフラグメントを含む。
【0251】
抗体、ポリペプチド、類似体または活性なフラグメントを有効成分として含有する治療
用組成物の調製については、当該技術分野で十分に理解されている。このような組成物は
通常、液体剤または懸濁剤として投与するために調製されるが、投与前に液体に溶解また
は懸濁させるのに適した固体形態を調製してもよい。このほか、調製物を乳化することが
できる。多くの場合、活性な治療成分を薬学的に許容され有効成分と適合性のある補形剤
と混合する。適切な補形剤には、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロー
ル、エタノールなどおよびその組合せがある。さらに、必要に応じて、有効成分の効果を
増大させる湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤などの補助物質を少量含有の補助物質を組成物に
含ませてもよい。
【0252】
抗体、ポリペプチド、類似体または活性なフラグメントは、中和された薬学的に許容さ
れる塩の形態で治療用組成物に製剤化し得る。薬学的に許容される塩としては、酸付加塩
(ポリペプチドまたは抗体分子の遊離アミノ基と形成される)および無機酸、例えば塩酸
もしくはリン酸などまたは有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などと形
成される塩が挙げられる。ほかにも、遊離カルボキシル基から形成される塩を、無機塩基
、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムま
たは水酸化第二鉄などおよび有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、
2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導することができる。
【0253】
治療用の抗体、ポリペプチド、類似体または活性なフラグメントを含有する組成物は、
例えば単位用量の投与など、従来の方法で投与される。本発明の治療用組成物と関連して
使用される「単位用量」という用語は、ヒトへの単位投与として適切な物理的に分離され
た単位であって、それぞれが、所望の治療効果が得られるよう計算された所定量の活性物
質を、必要な希釈剤、すなわち、担体または賦形剤とともに含有する単位を指す。
【0254】
いくつかの実施形態では、担体は、経肺投与に適した当該技術分野で公知の任意のから
選択される。いくつかの実施形態では、担体は、例えばCsabaら、Adv Drug
Deliv Rev.2009、61(2):140-157(参照により本明細書に
組み込まれる)に開示されている担体のような鼻腔内投与に適した担体から選択される。
いくつかの実施形態では、担体は、ナノ粒子系またはマイクロ粒子系である。いくつかの
実施形態では、担体は、分解性デンプン、可溶性デンプン、ポリスチレン、デキストラン
、キトサン、微結晶性セルロース(MCC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)
、ヒドロキシプロピルメチセルロース(hydroxypropylmethycell
ulose)(HPMC)、カルボマー、Carbopol(登録商標)974P、マル
トデキストランワックス様トウモロコシデンプン、アルギン酸塩、Sephadex(登
録商標)、ポリ(ビニルアルコール)、ゼラチンポリマー、親水性ポリエチレングリコー
ルコーティング剤でコートしたポリ乳酸ナノ粒子(PEG-PLAナノ粒子)(Vila
ら,J Aerosol Med 2004;17(2):174-185);低分子量
キトサンナノ粒子(Vilaら,Eur J Pharm Biopharm 2004
Jan;67(1):123-131);ポリアクリル酸ポリマー系粒子(Zaman
ら,Curr Drug Deliv 2010 Apr;7(2):118-124)
のうちの1つまたは複数から選択されるか、これを含むものである。いくつかの実施形態
では、担体はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。鼻腔内送達システムについては、
Ozsoyら,Molecules 2009,14,3754-3779(参照により
本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0255】
いくつかの実施形態では、前記ナノ粒子をAnselmoら,ACSNano 201
3,オンライン公開10.1021/nn404853zの技術による赤血球への吸着に
より、肝臓および脾臓を回避しながら肺に送達する。この方法では、ナノ粒子(例えば、
例えば直径200nmまたは500の球状ナノ粒子)を例えば、最大100/1までの様
々な粒子/RBC比でインキュベートすることによりRBCに付着させる。
【0256】
いくつかの実施形態では、補形剤を用いずに、あるいは有効成分(1つまたは複数)の
効力に影響を及ぼさず肺に毒性を示さない補形剤を用いて安定化することができる溶液、
粉末または懸濁液に抗体またはフラグメントの効力および活性を製剤化する。抗体は酸化
または加水分解条件で変性させ得る。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメント
を溶液中で安定化させるためのキレート化剤または錯化剤、例えばカフェイン、デキスト
ランもしくはシクロデキストランまたは本明細書に提供されるその他のものなどを用いて
、鼻噴霧剤または注射により抗体を送達するための水性製剤を得る。このような補形剤お
よびエアゾールまたは噴霧組成物のさらなる詳細は、例えば、国際公開第2005/02
5506号;Maillet,A.ら,2008 Phar,Res.25(6):13
18-1326;Hatcha,Jら,Am.J.Respir.Cell.Mol.B
iol.2012 47(5):709-717(いずれも参照により組み込まれる)に
みることができる。
【0257】
一部の安定剤は、局所炎症を引き起こすか、急性毒性を示すため、肺送達に適合性がな
い。いくつかの実施形態では、有効成分の溶液の分解をさらに抑制するため、使用直前に
特殊な開封器具で開封し、ガラスの破片をろ過して除去し、注入器または噴霧塗布具に移
さなければならない暗色ガラス製バイアルに抗体またはフラグメント製剤を密封する。
【0258】
他の実施形態では、二相性の自動注入装置形式などで有効成分の粉末と注射用液とを混
合する(ガラス製バイアル、シリンジまたはブリスター包装(Pozen MT300な
ど)内で粉末部分と液体とを混合する)ことにより、使用直前に有効成分の溶液を調製す
ることができる。ジェット噴霧または超音波噴霧による肺送達のための溶液を作製するの
にこのような即時製剤法を試みることが可能である。しかし、水溶液から吸入エアゾール
剤を作製するのに用いられる既知の噴霧化工程ではいずれも、有効成分が効力および活性
に即時の様々な変化を引き起こすのに十分な熱および酸素濃度に曝される。安定な製剤を
入手またはエアゾール化する際にはこのような困難が内在するため、有効成分は肺吸入に
よる投与に適するものとはならなかった。また別のエアゾール送達方法では加圧噴霧式定
量吸入器(pMDI)を使用し、この方法では、ハロカーボン噴射剤により抗体またはフ
ラグメントの溶液または懸濁液に小さい開口部を通過させて、噴射剤滴内に抗体またはフ
ラグメントからなる微細で吸入可能なミストを生じさせる。安定なpMDI製剤を作製す
るには、抗体またはフラグメントが、噴射剤およびpMDIバルブ装置内で安定であり、
かつこれらと物理化学的に適合性のある溶液または微粒子懸濁液を形成することができな
ければならない。経鼻または注射液剤について上に記載した溶液安定性および肺毒性の問
題は、pMDI製剤にも同様に当てはまり、これに噴射剤の適合の必要性が加わることに
より、肺に適合することが受け入れられている水またはアルコールなどの試薬の使用が不
可能になる。懸濁剤では、約5.8ミクロン(肺深部まで浸透するのに必要な空気力学的
質量中位径)未満の微粒子が必要とされ、その粒子は懸濁液中で安定なものでなければな
らない。このような粒子は、噴射剤に分散させ得る粉末を得るための破砕、微粒化、粉砕
などの摩滅工程または噴霧乾燥、溶液沈殿もしくは凍結乾燥などの多相沈殿工程により、
原末の抗体またはフラグメントから作製される。これらの工程は多くの場合、熱相互作用
または化学相互作用により抗体またはフラグメントの物理化学的特性を直接変化させる。
有効成分の中には不安定なものもあることから、これらの工程は噴射剤に再分散させ得る
粉末を作製するのに適していないことが明らかにされており、また粉末が最初から分散性
である場合、粒子の大きさが経時的に増大するか、製剤に曝されたときに化学組成が経時
的に変化する。この不安定性は、効力、活性の変化を引き起こしたか、あるいは粒子径を
3.0ミクロン超に増大させ、pMDI懸濁液剤法を有効成分のエアゾールの送達に適さ
ないものにする。吸入可能なエアゾール剤を作製するほかの方法として、乾燥粉末剤吸入
器を用いるものがあり、この方法では、抗体またはフラグメントの粉末製剤を使用者の呼
吸により分散させて肺に吸入する。pMDI懸濁液剤法について上に記載した難点が、安
定な乾燥粉末製剤の作製にも同じく当てはまる。当該技術分野には、有効成分の吸入に適
した製剤がないことは明らかである。本開示には、肺エアゾールまたは経鼻噴霧吸入によ
り乾燥粉末剤および噴射懸濁剤を投与するための有効成分またはその薬学的に許容される
塩の新規で安定な製剤が記載される。このような製剤は、特に限定されないが片頭痛を含
めた様々な病的状態および病態の治療に使用され得る。さらに、有効成分またはその薬学
的に許容される塩の新規な製剤の作製方法も記載される。
【0259】
吸入により投与される活性成分が局所作用あるいは全身作用を示すためには、それが肺
深部まで浸透しなければならない。これを達成するために、活性な抗体またはフラグメン
トの粒子は、直径が約0.5~5.8μmの空気力学的粒子径中央値(MMAD)を超え
てはならない。結晶化の段階でこの最適な大きさの範囲の粒子が得られることはまれであ
り、0.5~5.8μmの範囲内に収まる粒子を作製するには第二の工程が必要となる。
このような第二の工程としては、特に限定されないが、ジェット粉砕、微粒子化および機
械的破砕による摩滅、溶液沈殿、噴霧乾燥、凍結乾燥などの多相沈殿が挙げられる。この
ような第二の工程は、活性な抗体もしくはフラグメントの効力および活性を直接低下させ
得る大きな熱勾配および機械的勾配を用いるか、のちの処理または保管時に粒子の大きさ
、形状または化学を変化させる形態的不完全性または化学的不安定性をもたらすものであ
る。これらの第二の工程ではほかにも、粒子に相当量の自由エネルギーが付与され、一般
に粒子の表面に保存される。粒子によって保存されたこの自由エネルギーから粒子を凝集
させる付着力が生じ、この保存された自由エネルギーが減少する。
【0260】
凝集過程は極めて広範囲にわたり得るため、吸入可能な活性な抗体またはフラグメント
粒子はもはや粒子製剤の形で存在しないか、付着相互作用が極めて強いため、もはや粒子
製剤から作製することはできない。この過程は、吸入送達の場合、粒子が吸入装置による
送達に適した形態で保管されなければならないことから悪化する。粒子は比較的長期間保
管されるため、保管期間中に凝集過程が増大し得る。粒子の凝集が吸入器装置による粒子
の再分散に干渉するため、肺送達および経鼻送達に必要とされる吸入可能な粒子を作製す
ることができない。さらに、担体および/または補形剤の使用など、凝集作用を克服する
のに用いられる薬学上慣例的な方法のほとんどは、これらの物質の肺毒性というプロファ
イルが望ましいものではないため、吸入用の医薬形態に用いることはできない。
【0261】
本開示には、経肺エアゾール吸入または経鼻噴霧吸入により乾燥粉末剤および噴射懸濁
剤液を投与するための有効成分またはその薬学的に許容される塩の新規で安定な製剤(本
明細書ではDHEと呼ぶ)が記載される。一実施形態では、DHEをメシル酸塩として使
用する。DHE粉末は超臨界流体工程を用いて作製される。超臨界流体工程には、吸入送
達用のDHE粒子を製造するうえで大きな利点がある。重要なのは、超臨界流体工程によ
り、所望の大きさの吸入可能な粒子が単一の段階で製造され、粒子径を小さくする第二の
工程が不要になるということである。したがって、超臨界流体工程を用いて製造される吸
入可能な粒子は表面自由エネルギーが小さくなるため、付着力が低下し、凝集が軽減され
る。製造された粒子はほかにも、均一なサイズ分布を示す。さらに、製造された粒子は表
面が滑らかであるほか、同じく凝集が軽減される傾向のある再現可能な結晶構造を有する
。このような超臨界流体工程としては、急速膨張法(RES)、溶液強化拡散法(SED
S)、ガス-貧溶媒法(GAS)、超臨界貧溶媒法(SAS)、ガス飽和溶液からの沈殿
(PGSS)、圧縮貧溶媒を用いる沈殿(PCA)、エアゾール溶媒抽出法(ASES)
または上記工程の任意の組合せを挙げ得る。超臨界流体工程それぞれの基礎となる技術は
当該技術分野で周知であり、本開示では繰り返さないことにする。ある特定の実施形態で
は、用いる超臨界流体工程は、Palakodatyらにより米国特許出願第20030
109421号に記載されているSEDS法である。超臨界流体工程では、予め乾燥粉末
吸入器(DPI)形式に計り取ることにより直接使用することが可能な乾燥粒子が製造さ
れるか、あるいは、定量吸入器(MDI)形式であれば、粒子を薬学的に許容される噴射
剤などの懸濁媒質に直接懸濁/分散させ得る。製造された粒子は、用いる超臨界流体工程
および用いる条件に応じて、結晶質になり得るか、非晶質になり得る(例えば、SEDS
法では非晶質粒子の製造が可能である)。上に述べたように、製造された粒子は、従来の
方法によって製造された粒子よりも優れた特性を有し、そのような特性としては、特に限
定されないが、滑らかで均一な表面、低いエネルギー、分布均一な粒子サイズ分布および
高い純度が挙げられる。これらの特徴は、DPI形式またはMDI形式のいずれかで使用
する場合に、粒子の物理化学的安定性を増大させ、粒子の分散を促進する。粒子径は、エ
アゾール粒子を投与したときにDHE粒子が肺の中に吸入される程度であるべきである。
一実施形態では、粒子サイズ分布は20ミクロン未満である。別の実施形態では、粒子サ
イズ分布の範囲は、カスケードインパクタによる測定で約0.050ミクロン~10.0
00ミクロンのMMADであり;また別の実施形態では、粒子サイズ分布の範囲は、カス
ケードインパクタによる測定で好ましくは約0.400~3.000ミクロンのMMAD
である。上に述べた超臨界流体工程では、これらの範囲の下限に収まる粒子径が得られる
。DPI形式では、当該技術分野で公知のように、DHE粒子を静電気的に、低温測定に
より、または従来の方法で計り取って剤形にする。DHE粒子は、単独で(未希釈で)ま
たは1つもしくは複数の薬学的に許容される補形剤、例えば、特に限定されないがラクト
ース、マンノース、マルトースなどを含めた担体または分散粉末など、または界面活性剤
などとともに使用し得る。ある好ましい製剤では、DHE粒子を補形剤を加えずに使用す
る。当該技術分野でよく用いられている便利な剤形の1つにホイル製ブリスターパックが
ある。この実施形態では、DPIに使用するホイル製ブリスターパックに補形剤を加えず
にDHE粒子を計り取る。計り取る典型的な用量の範囲は、約0.050ミリグラム~2
.000ミリグラムまたは約0.250ミリグラム~0.500ミリグラムであり得る。
当該技術分野で公知のように、ブリスターパックが張り裂けて開封され、静電気的、空気
力学的もしくは機械的な力またはその任意の組合せによって吸気中に分散し得る。一実施
形態では、予め計り取った用量の25%超が吸入時に肺に送達され;別の実施形態では、
予め計り取った用量の50%超が吸入時に肺に送達され;また別の実施形態では、予め計
り取った用量の80%超が吸入時に肺に送達される。DPI形式の送達により得られる吸
入可能なDHE粒子の割合(米国薬局方の第601章に従って求められる)は25%~9
0%の範囲にあり、ブリスターパック内に残る粒子は、予め計り取った用量の5%または
予め計り取った用量~55%の範囲にある。MDI形式では、粒子を薬学的に許容される
噴射剤などの懸濁媒質に直接懸濁/分散させることができる。ある特定の実施形態では、
懸濁媒質は噴射剤である。噴射剤は、DHE粒子の溶媒としての役割を果たさないのが望
ましい。適切な噴射剤としては、C1~4ヒドロフルオロアルカン、例えば、特に限定さ
れないが、単独の、または任意に組み合わせた1,1,1,2-テトラフルオロエタン(
HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-n-プロパン(
HFA227)などが挙げられる。このほか、二酸化炭素ならびにペンタン、イソペンタ
ン、ブタン、イソブタン、プロパンおよびエタンなどのアルカンを噴射剤として使用する
か、上記のCヒドロフルオロアルカン噴射剤と混合することができる。混合する場合、噴
射剤は0~25%のこのような二酸化炭素と、0~50%のアルカンとを含有し得る。一
実施形態では、界面活性剤を用いずにDHE粒子分散液を得る。別の実施形態では、DH
E粒子分散液は、必要に応じて界面活性剤を含有してもよく、界面活性剤はDHEに対す
る質量比0.001~10で存在する。典型的な界面活性剤としては、オレイン酸、ステ
アリン酸、ミリスチン酸、アルキルエーテル、アルキルアリールエーテル、ソルビン酸お
よび抗体もしくはフラグメントを吸入による送達用に製剤化するのに当業者が使用するそ
の他の界面活性剤または上記界面活性剤の任意の組合せが挙げられる。具体的な界面活性
剤としては、特に限定されないが、ソルビタンモノオレアート(SPAN-80)および
ミリスチン酸イソプロピルが挙げられる。DHE粒子分散液はほかにも、界面活性剤を用
いる場合にそれを可溶化させる極性溶媒を少量含有し得る。適切な極性溶媒としては、C
2~6アルコールおよびポリオール、例えばエタノール、イソプロパノール、ポリプロピ
レングリコールなどおよび上記極性溶媒の任意の組合せが挙げられる。極性抗体またはフ
ラグメントは、噴射剤に対する質量比が0.0001%~4%の範囲になるよう添加し得
る。極性溶媒の量が4%を超えると、DHEと反応するか、DHEを可溶化し得る。ある
特定の実施形態では、極性抗体またはフラグメントは、噴射剤に対する質量比が0.00
01~1%になるよう使用されるエタノールである。薬学的に許容される噴射剤および界
面活性剤と平衡状態にある以外には、抗体またはフラグメントを含有する水もヒドロキシ
ルも追加でDHE粒子製剤に加えることは一切ない。噴射剤および界面活性剤(使用する
場合)は、抗体またはフラグメントを含有する水およびヒドロキシルが平衡状態点にある
ように、使用前に抗体またはフラグメントを含有するヒドロキシルの水に曝露され得る。
噴射剤/界面活性剤組成物に適するものである限り、標準的な定量バルブ(Neotec
hnics社製、Valois社製またはBespak社製など)およびキャニスタ(P
ressPart社製またはGemi社製など)を用いることができる。充填容積が2.
0ミリリットル~17ミリリットルのキャニスタを用いれば、1~数百回分の用量を投与
し得る。任意選択で、ロックアウト機構を有する用量カウンタを取り付けて、充填用量に
関係なく特定の用量に制限することができる。噴射剤懸濁液中のDHEの総質量は通常、
噴射剤100マイクロリットル当たりDHE0.100ミリグラム~2.000ミリグラ
ムの範囲になる。50~100マイクロリットルの範囲の用量の標準的なMDI定量バル
ブを用いれば、用量が作動1回当たり0.050マイクログラム~1.000マイクログ
ラムの範囲で定量される。吸入の協調を最大限にするため、好ましくは呼吸で作動させる
作動装置を用いることができるが、治療効果を得るのに不可欠であるというわけではない
。このようなMDIの吸入可能な割合は、定量された用量の25%~75%の範囲内に収
まるものと思われる(米国薬局方の第601章に従って求められる)。
【0262】
本明細書に記載されるように、ウイルス、特にインフルエンザウイルスの治療または予
防に有効かつ有用な鼻腔内投与用の中和抗体の単位用量は、別の投与に示される、または
必要とされる単位用量、例えばIPまたはIV投与に必要とされる単位用量などと比較し
て少なくなる。したがって、その一態様では、投与、特に鼻腔内投与のための抗体組成物
であって、単位用量が、別の投与に示される、または必要とされる単位用量、例えばIP
またはIV投与に必要とされる単位用量などよりも桁単位、具体的には数桁単位で少ない
抗体組成物が提供される。したがって、その一態様では、投与、特に鼻腔内投与のための
抗体組成物であって、単位用量が、少なくとも10分の1、10分の1、20分の1、2
5分の1、50分の1、少なくとも100分の1、100分の1、500分の1、最大1
000分の1である抗体組成物が提供される。したがって、特に、特に同じまたは同程度
の効果あるいは作用および/または活性を得るのに、IPまたはIV投与のための同じ単
位用量に比して組成物が少なくなる。効果を改善するため、IN単位用量とIPまたはI
V用量とを組み合わせてもよい。
【0263】
組成物は、投与製剤に適合する方法で、かつ治療有効量で投与する。投与するべき量は
、治療する対象、対象の免疫系が有効成分を利用する能力および所望のウイルスを抑制ま
たは中和する程度によって決まる。投与する必要のある有効成分の正確な量は、医師の判
断によって決められ、各個人に特有のものである。しかし、適切な投与では、鼻腔内投与
1回につき個人の体重1キログラム当たりの有効成分が約0.001~10ミリグラム、
好ましくは約0.005~約1ミリグラム、1未満、0.5未満、0.1未満、0.05
未満、0.01未満、より好ましくは1ミリグラム未満、0.5ミリグラム未満、0.1
ミリグラム未満の範囲内に収まり得る。初回投与および後続投与に適したレジメンも様々
である。あるレジメンでは、初回投与の後、1時間ないし数時間の間隔を空けて、のちの
注射をはじめとする投与により、後続用量(単一または複数の後続用量)を反復して投与
する。
【0264】
初回IN投与の後、これより高用量の抗体をIPまたはIVをはじめとする適切な経路
により投与し得る。本開示の一態様では、新規な投与方法またはパラメータが提供され、
ここでは、患者または対象の鼻腔内に中和抗体を投与し、これと同時に、これに次いで、
またはこの後に、IPまたはIV投与により中和抗体または非中和抗体を投与する。
【0265】
ほかの組合せ
本発明の実施形態の一態様では、特に抗体またはフラグメントが中和作用を示す、ウイ
ルス結合抗体またはその結合フラグメントと、薬剤または薬物とを組み合わせて、本明細
書に開示される実施形態に使用する、吸入または鼻腔内投与を含めた経呼吸気道または経
気道投与用の抗体-薬物または抗体-薬剤コンジュゲートを形成し得る。抗体またはフラ
グメントと組み合わせる、またはコンジュゲートする薬物または薬剤は、ウイルスを中和
する薬物または薬剤であり得る。
【0266】
あるいは、抗体または組合せを、特に経口抗インフルエンザ薬を含めた、抗ウイルス剤
、抗ウイルス治療薬、抗インフルエンザ薬または抗インフルエンザ剤とともに投与し得る
。抗インフルエンザ剤はノイラミニダーゼ阻害剤であり得る。抗インフルエンザ剤はTa
mifluおよびRelenzaから選択され得る。抗インフルエンザ剤は、アマンタジ
ンまたはリマンタジンなどのM2阻害剤であり得る。組み合わせるまた別の薬剤は、抗ウ
イルス治療薬、ウイルス複製阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、赤血球
凝集素阻害剤、気管支拡張薬(例えば、アルブテロール、レバルブテロール、サルメテロ
ール)または吸入副腎皮質ステロイド剤から選択され得る。抗ウイルス剤はウイルス結合
剤またはウイルス結合阻害剤であり得る。その一態様では、ウイルス結合阻害剤は、結合
により、かつより従来的な中和手段によらずにインフルエンザウイルスと結合し、インフ
ルエンザを阻害することが可能な抗体であり得る。TRL809およびTRL832は、
特に経気道投与によりカクテルと組み合わせて効果または相乗効果を増大させるのに適す
るまたは有効な例示的結合抗体となり得る。特に本明細書に開示される抗体カクテルと組
み合わせて、経気道投与により効果が得られるその他の薬剤としては、サーファクタント
または気道内層モジュレーター、例えばサーファクタントナノエマルションおよびカチオ
ン性気道内層モジュレーターなどを挙げ得る。このほか、気道炎症を調節または軽減する
薬剤を本発明の抗体カクテルと組み合わせると有効または有用であり得る。
【0267】
いくつかの実施形態では、治療用組成物、特に経肺組成物は、有効量の中和抗体または
そのフラグメントと、以下の有効成分:抗生物質、抗ウイルス剤、ステロイド剤、抗炎症
剤のうちの1つまたは複数とをさらに含み得る。特定の態様では、組成物は抗ウイルス治
療薬を含み得る。組成物は抗インフルエンザ剤を含み得る。いくつかの実施形態では、本
発明のmAb療法と、他の抗ウイルス治療、例えば、ノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、
オセルタミビル[Tamiflu(商標)]、ザナミビル[Relenza(商標)])
、RNAポリメラーゼ阻害剤(例えば、ファビピラビル、VX-787)、免疫調節薬(
例えば、吸入インターフェロンベータ1a)、宿主細胞標的化剤(例えば、Fludas
e(商標)、Radavirsen(商標))、イオンチャネル阻害剤(例えば、アマン
チジン)をはじめとする抗ウイルス薬のような抗ウイルス治療薬などとを組み合わせるこ
とによって効果を改善する方法および組成物が提供される。
【0268】
このような抗インフルエンザ剤はいずれも、本明細書に提供される組成物の一部として
混合する、または組み合わせるか、抗体またはその活性なフラグメントとともに、または
これとは別個に投与してもよい。抗インフルエンザ剤は、本発明の抗体もしくはそのフラ
グメントまたは吸入もしくは鼻腔内組成物と同じ手段または別の手段(吸入または経口(
例えば、丸剤)手段による投与)で投与し得る。したがって、本開示の抗体の組合せ(1
つまたは複数)および本発明の吸入または鼻腔内組成物は、抗インフルエンザ剤または抗
ウイルス剤、例えば、TamifluおよびRelenzaから選択される薬剤を含めた
ノイラミニダーゼ阻害剤などをさらに含み得るか、これと併用して、またはこれの後もし
くは前に逐次的に投与され得る。
【0269】
本明細書で使用される「pg」はピコグラム、「ng」はナノグラム、「ug」もしく
は「μg」はマイクログラム、「mg」はミリグラム、「ul」もしくは「μl」はマイ
クロリットル、「ml」はミリリットル、「l」はリットルをそれぞれ意味する。
【0270】
組成物は、当該技術分野ならびに医療分野および臨床現場で知られており、受け入れら
れている方法を用いて、鼻噴霧剤または吸入液剤もしくは懸濁剤に製剤化され得る。FD
Aは、fda.govで入手可能なGuidance for Industryの文書
を含め、このような噴霧剤、液剤および懸濁剤ならびに噴霧医薬品に関するガイドライン
および指針を提供している。Nasal Spray and Inhalation
Solution,Suspension and Spray Drug Produ
cts-Chemistry,Manufacturing and Controls
Documentationと題する例示的なJuly 2002 Guidance
for Industryの文書には、製剤の成分および組成物、その仕様、製造およ
び密閉容器システムに関する詳細が記載されている。
【0271】
鼻噴霧剤とは、通常は水ベースをベースとし、ほかにも添加剤を含有し得る、経鼻吸入
による使用を目的とした製剤中に溶解または懸濁した有効成分を含有する、医薬品のこと
である。鼻噴霧剤用の容器密閉システムには、定量、噴霧化および患者への製剤送達を引
き起こすための容器および全成分が含まれている。経鼻噴霧医薬品は、治療有効成分(原
薬)を添加剤(例えば、保存剤、粘度調整剤、乳化剤、緩衝剤)の溶液または混合物に溶
解または懸濁させて、定量された用量の有効成分を含有する噴霧剤を送達する非加圧ディ
スペンサに入れたものである。用量は、スプレーポンプによって計量され得るか、製造時
に予め計り取られたものであり得る。経鼻スプレーユニットは、単位投与用に設計されて
いるか、原薬を含有する製剤のスプレーを定量して何度も放出できるものであり得る。鼻
噴霧剤は、局所効果および/または全身効果を得るために鼻腔に適用される。
【0272】
吸入溶液および吸入懸濁液医薬品は通常、治療有効成分を含有し、ほかにも追加の添加
剤を含有し得る、水ベースの製剤である。水ベースの経口吸入液剤および懸濁剤は無菌で
なければならない(21 CFR 200.51)。吸入液剤および懸濁剤は、局所およ
び/または全身効果を得るために経口吸入により肺に送達することを目的とし、特殊な噴
霧器を使用しなければならないものである。吸入噴霧医薬品は、製剤と容器密閉システム
とからなる。製剤は通常、水をベースとし、噴射剤は一切含有しない。
【0273】
現在用いられている吸入噴霧医薬品用に設計された容器密閉システムには、機械的補助
もしくは電動補助および/または患者の吸入エネルギーを用いて噴霧煙を発生させる、予
め計量されたものおよび装置で計量されるものの両方が含まれる。予め計量されたものは
、のちに製造時または患者が使用する前に装置に挿入するある種のユニット(例えば、1
つまたは複数のブリスターをはじめとするくぼみ)に予め計量された用量または1回量を
含んでいる。典型的な装置計量ユニットは、患者が作動させると装置そのものから定量噴
霧剤として送達される複数回用量に十分な製剤の入ったリザーバーを有する。
【0274】
ほかにも、生体接着性ポリマー、マイクロスフェア、キトサンを使用することにより、
あるいは製剤の粘度を増大させることにより、鼻腔内での滞留時間を延長させ得る。この
ほか、薬物、補形剤、保存剤および/または吸収促進剤により鼻粘液線毛クリアランスを
刺激または抑制し、ひいては吸収部位への薬物送達に影響を及ぼすことができる。
【0275】
マイクロスフェア技術は、経鼻製品の設計に用いられている特殊なシステムの1つであ
る。マイクロスフェアは鼻粘膜との接触時間を延ばし、ひいては吸収または効果が促進し
得る。鼻に適用されるマイクロスフェアはこれまでに、デンプン、アルブミン、デキスト
ランおよびゼラチンなどの生体適合材料を用いて調製されている(Bjork E,Ed
man P(1990)Int J Pharm 62:187-192)。
【0276】
薬物の水溶解度は、溶液の経鼻薬物送達を制限する重要なパラメータとなり得る。従来
の溶媒または共溶媒、例えばグリコール、少量のアルコール、Transcutol(ジ
エチレングリコールモノエチルエーテル)、中鎖グリセリドおよびLabrasol(飽
和ポリグリコール化C8~C10グリセリド)を用いて薬物の溶解度を増大させることが
できる。その他の選択肢としては、生体適合性の可溶化剤および安定剤としての役割を果
たす界面活性剤またはHP-ベータ-シクロデキストリンなどのシクロデキストリンと、
脂溶性吸収促進剤との併用が挙げられる。このような場合、これらが鼻刺激性に及ぼす影
響を考慮に入れるべきである。
【0277】
ほとんどの経鼻製剤は水をベースとするものであり、微生物の増殖を抑えるために保存
剤を必要とする。経鼻製剤によく用いられる保存剤の一部として、パラベン、塩化ベンザ
ルコニウム、フェニルエチルアルコール、EDTAおよびベンゾイルアルコールがある。
水銀含有保存剤は線毛運動に対して迅速で不可逆的な効果を示すものであるが、経鼻シス
テムでの使用は推奨されない。
【0278】
薬物の酸化を防ぐため、少量の抗酸化剤が必要とされ得る。よく用いられる抗酸化剤に
は、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエンおよびト
コフェロールがある。抗酸化剤は通常、薬物吸収に影響を及ぼすことも、鼻刺激を引き起
こすこともないものである。抗酸化剤および保存剤と、薬物、添加剤、製造設備および包
装成分との化学的/物理学的相互作用を製剤開発プログラムの一環として考慮するべきで
ある。
【0279】
多くのアレルギー性疾患および慢性疾患は、粘膜の痂皮化および乾燥と関係がある場合
が多い。ほかにも、添加剤の中でも特定の保存剤/抗酸化剤は、特に大量に使用したとき
、鼻刺激を引き起こす可能性がある。脱水を防ぐには鼻腔内の水分が十分であることが不
可欠である。このため、特にゲルベースの経鼻製品では保湿剤を添加し得る。保湿剤は鼻
刺激を予防し、薬物吸収に影響を及ぼす可能性もない。一般的な例としては、グリセリン
、ソルビトールおよびマンニトールが挙げられる。
【0280】
送達システムの選択は、使用する薬物、意図する適応症、患者集団のほか、重要なもの
としてマーケティング嗜好性によって決まる。このような送達システムの一部としては、
点鼻剤、鼻噴霧剤、経鼻ゲル剤および経鼻粉末剤が挙げられる。
【0281】
いくつかの実施形態では、鼻腔内および吸入送達用の噴霧器により投与する組成物が提
供される。噴霧器とは、薬剤を呼吸気道内に吸入されるミストの形態で投与するのに使用
される薬物送達装置のことである。噴霧器は、mAbを口腔および鼻を通過させて鼻腔内
および吸入送達するのに使用することができ、mAbを上気道および/または下気道を送
達するのに有効な装置である。噴霧器は、酸素、圧縮空気または超音波の力を利用して医
薬溶液および懸濁液を分散させ、装置のマウスピースから直接吸入することが可能な微小
なエアゾール滴にするものである。エアゾールとは気体粒子と液体粒子の混合物のことで
あり、天然に存在するエアゾールの最も良い例が霧であり、これは、気化した水の微小な
粒子が周囲の温度の高い空気と混ざり、これが冷却および濃縮されて、空中に浮遊した目
に見える水滴が薄い雲のようになって形成されるものである。定量吸入器(MDI)とは
、通常は患者が吸入することにより、エアゾール化した薬物が短時間噴出して自己投与さ
れる形で特定量の薬剤を肺に送達する装置のことである。乾燥粉末吸入器には微粒子化し
た粉末が含まれており、この粉末は多くの場合、使用者自身の呼吸により肺に吸い込まれ
る粉末化した薬剤を入れるブリスターまたはゲルカプセルに1回投与量で充填されている
。超音波振動メッシュ技術(VMT)が生み出されたことにより、噴霧器市場に新たに大
きな技術革新がもたらされた。この技術は、レーザーで1000~7000個の孔を開け
たメッシュ/膜を液体リザーバーの上部で振動させ、その圧力で孔から極めて微小な液滴
のミストを噴出させるものである。この技術は、液体リザーバーの底部に振動圧電素子を
設けるよりも効率が高く、それにより治療時間も短縮される。利用可能なVMT噴霧器と
しては、Pari eFlow Respironics i-Neb、Omron M
icroAir、Beurer Nebulizer IH50およびAerogen
Aeronebが挙げられる。
【0282】
別の実施形態では、組成物を再構成用の凍結乾燥粉末または粘膜噴霧装置(MAD)に
より鼻腔内に投与する保存もしくは非保存無菌液体組成物として調製する。ルアーロック
を介して粘膜噴霧装置(MAD)を抗ウイルス組成物を含むシリンジに取り付ける。シリ
ンジのプランジャーを勢いよく押して、1用量当たり約0.01mL、0.05mL、0
.1mL、0.2mL、0.3mL、0.4mL、0.5mL、0.6mL、0.7mL
、0.8mL、0.9mLまたは1mLのミストを鼻腔内に迅速に生じさせる。いくつか
の場合には、片方の鼻孔に全量を投与するか、あるいは1用量につき1回または複数回の
噴霧で、全量を両方の鼻孔に分けてもよい。
【0283】
経鼻製剤のpHは、抗体を安定させるほか、鼻粘膜の刺激を防ぎ、抗体が吸収に最適な
形態で利用できるようにし、鼻道に病原菌が増殖するのを防ぎ、保存剤などの添加剤の機
能性を維持し、正常な生理的線毛運動を維持するうえで重要である。いくつかの実施形態
では、抗体カクテル、薬物または有効成分の物理化学的特性を考慮に入れたうえで、組成
物を4.5~8.2、5.2~7.9または4.5~6.5の範囲内のpHで調製する。
経鼻製剤は一般に、25~200μLの範囲の少ない体積で投与し、100μLが最もよ
く用いられる投与体積である。
【0284】
投与
再び述べれば、通常に妥当な範囲で予想される抗体の治療用量は、mg範囲のIVまた
はIP用量になるよう十分に確立されている。この用量は、多数の組換え抗体を用いたこ
れまでの研究および臨床経験に基づくものである。米国ではこれまでに、20を超えるモ
ノクローナル抗体が臨床的に承認されている(例えば、Newsome BWおよびEr
nstoff MS(2008)Br J Clin Pharmacol 66(1)
:6-19を参照されたい)。臨床的に承認され現在用いられている抗体はいずれも、m
g/kgの範囲でIPまたはIVで利用および投与されている。
【0285】
これまでに臨床的に承認されたインフルエンザモノクローナル抗体はない。現時点で進
行中または報告済みの試験はいずれも、標準法の静脈内送達を用いるものである。特に、
TheraClone Sciences社の抗体TCN-032は、1~40mg/k
gの範囲の単回用量漸増で評価された(NCT01390025、clinical t
rails.gov)。TCN-032抗体は、インフルエンザ基質タンパク質(M2)
のアミノ末端細胞外ドメイン(M2e)の保存されたエピトープと結合するヒト抗体であ
る(Grandea AGら(2010)PNAS USA 107(28):1265
8-12663;Epub 2010 Jul 1)。抗体CR6261およびCR80
20も同様に、用量を2mg/kgから50mg/kgまで2時間かけて漸増させてIV
投与する安全性および耐容性に関する試験で現在評価されている(それぞれ、Cruce
ll Holland BV臨床試験NCT01406418およびNCT017569
50)。
【0286】
インフルエンザワクチンは注射により投与する。インフルエンザワクチンの1つの例外
として、鼻腔内に投与するFluMist生インフルエンザワクチン(MedImmun
e社)がある。FluMistは、A/H1N1株、A/H3N2株およびB株の3種類
の生インフルエンザ株を組み合わせたものであり、単回用量の予め充填した鼻腔内噴霧器
で供給される懸濁液を用いて、0.2mlの用量で投与する。ウイルス株に加えて、各用
量にはグルタミン酸ナトリウム、加水分解ブタゼラチン、アルギニン、スクロース、リン
酸二カリウムおよびリン酸二水素カリウムも含まれており、保存剤は含まれていない(F
luMist Highlights of Prescribing Informa
tion,2012-2013 Formula,MedImmune,RAL-FLU
V12,Component No.:11294)。
【0287】
本開示は、特に呼吸経路を介して感染または伝染するウイルス、特にインフルエンザウ
イルスを含めたウイルスの治療および予防のための新規で効果のある抗体の組合せの投与
様式および抗体投与プロトコルを提供する。したがって、本開示は、任意の重要なまたは
流行中のインフルエンザウイルスを中和することが可能な抗体の組合せの経肺投与による
ウイルス感染症、特にインフルエンザウイルスの治療、予防または軽減を提供する。抗体
の組合せは、単回IN用量により投与してもよく、あるいは、複数の個々の用量で同時に
または実質的に同時に投与してもよい。次いで、追加の組合せまたは個々の用量を、それ
ぞれ数分、数時間または数日空けて投与し得る。
【0288】
特定の態様では、本開示は、流行中のインフルエンザ株に対する抗体の組合せの経肺投
与によるウイルス感染症、特にインフルエンザウイルスの治療、予防または軽減を提供す
る。したがって、本開示によれば、インフルエンザBおよび流行中のインフルエンザAウ
イルスに対する抗体の組合せ、特にその一態様では、抗インフルエンザB抗体、抗H1抗
体などの抗第1群インフルエンザA抗体および抗H3抗体などの抗第2群インフルエンザ
A抗体の組合せの経肺投与によるウイルス感染症、特にインフルエンザウイルスの治療、
予防または軽減が提供および達成される。本開示によれば、抗インフルエンザB抗体、抗
H1抗体などの抗第1群インフルエンザA抗体および抗H3抗体などの抗第2群インフル
エンザA抗体の組合せの鼻腔内投与が、インフルエンザBまたはインフルエンザAウイル
スによるインフルエンザ感染の予防に効果がある。抗体が入手可能なものであり、かつ2
つ以上のウイルス亜型または株に対して効果を示し、これらに対するものであることが本
明細書で試験され示される限り、本明細書に提供および企図される組合せは、ウイルス、
特に既知で流行中の株または亜型、出現しつつある株または亜型および未知で予想外の変
異型の株または亜型を含めたインフルエンザウイルスの多数の株および/または亜型に効
果を示す汎用カクテルまたは組合せとしての役割を果たす。
【0289】
本明細書に開示される実施形態で使用する抗体を鼻腔内に、または吸入により投与し、
これに次いで、またはこれとともに、同時投与、併用投与または逐次もしくは個別投与を
含め、別の抗体または同じ抗体の全身投与、特にIPまたはIV投与を実施し得る。した
がって、本明細書では、病原体、特にウイルス、具体的にはインフルエンザウイルスに対
する効果を増大させるために鼻腔内投与とIP(またはIV)投与とを組み合わせる、組
合せの投与プロトコルまたは投与方法が企図および提供される。実際、本明細書に記載さ
れる試験は、鼻腔内投与と別の投与(IPまたはIV)とを組み合わせた投与を用いると
、1例を用いることができるように、組み合わさった効果がINおよびIPともに相乗的
かつ低用量になることを示している。
【0290】
経気道投与は、低用量で効果があり、低用量、低コストであり、したがって、診断検査
による確定を必要としない治療を実施する唯一の機会を提供する。医師がこの低用量のカ
クテルを、例えば乾燥粉末吸入器もしくは噴霧器として、またはその他の気道送達法によ
り投与するには、インフルエンザの季節に症状を認めれば十分である。この診断を必要と
しない標準治療は現在、TamifluおよびRelenzaで実施されているが、費用
のかかる静脈内抗体療法には不可能であり、実際的ではなく、コスト的に不可能であると
思われる。診断を実施した後、高用量の抗体の投与を静脈内経路などの全身経路または経
気道のいずれかで実施し得るほか、カクテルまたはインフルエンザの型に特異的な単独の
特異的抗体として構成し得る。
【0291】
本開示は、呼吸器ウイルスに曝露した、同ウイルスに曝露するリスクのある、同ウイル
スに罹患した、同ウイルスによる臨床症状を呈している、または同ウイルスに罹患してい
る哺乳動物のウイルス感染症を治療または予防する方法であって、本明細書に提供される
抗体の組合せまたはカクテルを鼻腔内(IN)にまたは吸入により前記哺乳動物に投与す
ることを含む、方法を提供する。抗体のカクテルまたは組合せは、特に、すべてがIgG
抗体であり得る。
【0292】
感染後または推定感染後に抗体の組合せを投与することができる。その一態様では、感
染から8時間後(hpi)までの間に、2hpi、4hpi、6hpi、8hpiを含め
、抗体の組合せを投与することができる。別法では、感染から24時間後までの間に、4
hpi、8hpi、12hpi、18hpi、24hpiを含め、抗体の組合せを投与す
る。さらなる別法では、感染から48時間後までの間に、12hpi、24hpi、36
hpi、48hpiを含め、抗体を投与する。またさらなる別法では、感染から72時間
後までの間に、24hpi、36hpi、48hpi、60hpi、72hpiを含め、
抗体を投与する。感染もしくは推定感染から数日後または発熱、鈍痛、関節痛、嗜眠など
の臨床症状が認められた後に抗体を投与してもよい。感染から1日後、感染から2日後、
感染から3日後、感染から4日後、感染から5日後、感染から6日後、感染から7日後、
感染から10日後、感染から12日後、感染から14日後に抗体を投与してもよい。感染
または推定感染から1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、1か月後を含めた数週間
後に抗体を投与してもよい。
【0293】
感染前に、または伝染を抑制もしくは予防するために、または病状、疾患もしくは感染
の何らかの臨床徴候がみられる前に抗体の組合せを投与することができる。その一態様で
は、感染前または曝露もしくは曝露のリスクの可能性が考えられるか推定される前の数日
間に、予防として抗体を投与することができる。1日前、2日前、3日前、4日前、5日
前、6日前、7日前、1週間前、7日より前、1週間より前、最大9日前、最大10日前
に抗体の組合せを投与し得る。抗体を前に1回または複数回、数時間、数日または数週間
開けて、1つまたは複数の用量で投与してもよい。
【0294】
抗体の組合せは、単回用量を1回投与しても、複数の組合せ用量を反復して投与しても
よい。任意の好ましい態様では、組合せまたはカクテルの各抗体を同じ相対量で投与する
。各用量は単位またはmg/kgの量が同じであっても、量が異なっていてもよい。例え
ば、初回用量が相対的に高くてもよく、例えば、特に限定されないが、約1mg/kg、
1mg/kg超、1mg/kg未満または投与する哺乳動物の最大耐量もしくは最大耐量
付近または最大耐量の半分などであってよい。その後の用量は、初回用量と同じであって
も、初回用量よりも少なくても多くてもよく、また、対象もしくは患者の反応もしくは応
答または臨床症状の軽減もしくは程度に応じて決まり得る。
【0295】
各用量または任意の用量が同じである、または異なる複数の用量を数時間、数分、数日
または数週間空けて投与し得る。そのタイミングは様々であってよく、応答および症状に
応じて短くしても長くしてもよい。投与を例えば、特に限定されるわけではないが、少な
くとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも2
4時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間空けて実施し得る。感染後または推定
感染後およびその最大2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、36時間
、48時間、72時間後、最大1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、1週間、2
週間、3週間、4週間、1か月またはそれ以上後に抗体の1つまたは複数の用量を投与し
得る。
【0296】
この方法は、ウイルス特異的モノクローナル抗体を追加でIPまたはIV投与すること
を含んでよく、ここでは、追加で投与する抗体は中和抗体または非中和抗体である。追加
でIPまたはIV投与する抗体は、INまたは吸入により投与する抗体と同じ抗体であっ
てもよい。追加でIPまたはIV投与する抗体は、INまたは吸入により投与する抗体と
同時に投与しても、逐次的に投与しても、その後に投与してもよい。このような後続投与
はいずれも、数時間後であってよく、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24
時間、36時間、48時間、72時間後またはそれ以上後であり得る。後続投与は数日後
であってもよく、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日後であり得る。後続投与は
数週間後であってもよく、1週間、2週間、3週間、4週間または5週間後であり得る。
【0297】
特に、初回のIN投与、IP投与、IV投与または組み合わせた投与の後にも体調がす
ぐれないか、感染症または病状の症状が引き続き認められる患者または対象には、吸入ま
たは鼻腔内投与を用いて応答または効果を高めてもよい。
【0298】
さらなる態様では、本開示は、インフルエンザウイルスに対するモノクローナル抗体の
カクテルまたは組合せを投与するためのプロトコルであって、鼻腔内にまたは吸入により
1回目の抗体の組合せの投与を実施し、次いで、または同時に、腹腔内もしくは静脈内に
、または再び鼻腔内にもしくは吸入により2回目の抗体投与を実施することを含み、2回
目の投与の抗体の組合せが、1回目の投与の抗体の組合せと同じまたは異なる抗体の組合
せである、プロトコルを提供する。2回目または任意の追加投与の抗体は、中和抗体であ
っても非中和抗体であってもよい。
【0299】
本明細書に開示される実施形態については、本発明の例示として記載される以下の非限
定的な実施例を参照することによりさらに理解が進むものと思われる。以下の実施例は、
好ましい実施形態または特定の実施形態をより十全に説明するために記載するものである
が、決してその広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0300】
抗体の構造
本発明のmAbの特定の重鎖および軽鎖アミノ酸配列を以下および添付の配列表に記載
する。
【0301】
TRL784
実施例
【0302】
本明細書に記載する実施例には以下の原料および方法を用いる。
【0303】
抗体:いくつかの場合には、以下に記載するように、ファージディスプレイを用いてM
abを単離した。MabCR8020およびCR6261は、それぞれ第2群ウイルスお
よび第1群ウイルスに対するよく特徴付けられた広域反応性抗体である(Throsby
Mら(2008)PL0S ONE 3:e3942;Eckert DCら(200
9)Science 324:246-251;Friesen RHEら(2010)
PLoS ONE 5(2):e1906;米国特許第8,192,927号;Ecke
rt DCら(2011)Science 333:843-850)。抗体CR911
4をIV投与すると、HA茎部にある保存されたエピトープと結合し、インフルエンザA
およびインフルエンザBウイルスによる致死的な攻撃から防御する(Dreyfus C
ら(2012)Science Exress 9 August 2012 10.1
126/science.1222908)。本発明者ら自らが可変領域を合成すること
によりこれらの中和抗体をクローニングし、マウスIgG2a発現ベクターにサブクロー
ニングした。CR8020の可変領域は、公開されている重鎖GI:339779688
および軽鎖GI:339832448を用いてクローニングした。CR6261の可変領
域は、公開されている重鎖GI:313742594および軽鎖GI:31374259
5を用いてクローニングした。CR9114の可変領域は、Genbankの配列重鎖ア
クセッション番号JX213639および軽鎖アクセッション番号JX213640を用
いてクローニングした。これらの研究に用いたCR6261、CR8020およびCR9
114抗体を、マウスIgG2aと融合したヒト可変領域を含むIgG発現ベクターにク
ローニングする。本明細書では、マウス抗体CR6261、CR8020およびCR91
14のキメラ抗体をそれぞれCA6261、CA8020およびCA9114と呼ぶ。M
ab5A7をIP投与すると、BウイルスHA上にある共通のエピトープと結合してウイ
ルスを中和し、致死的な攻撃からマウスを防御する(Yasugi Mら(2013)P
LoS Pathog 9(2):e1003150,doi:10.1371/jou
rnal.ppat.1003150)。
【0304】
ヒト抗体Mab53(TRL053とも表される)は米国特許出願公開第2012/0
020971号および国際公開第2011/160083号(それぞれ参照により本明細
書に組み込まれる)に記載されており、第1群および第2群のH1、H9、H7およびH
5亜型の中和に効果がある。
【0305】
抗体Mab579(TRL579とも表される)は国際公開第2013/086052
号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、H3およびH7の中和に効
果がある。
【0306】
抗体重鎖および軽鎖可変領域の配列を含めた公開されている配列、特に上記の抗体およ
び本明細書に例示する抗体の重鎖および軽鎖CDRドメイン(CDR1、CDR2および
CDR3)配列、特にCR6261、CR8020、CR9114、5A7、Mab53
およびMab579を含めた配列は、上に記載され参照により本明細書に組み込まれる参
考文献を含め、既知であって公に入手可能である。
【0307】
Fabの検証:Fabをコードするファージライセートを組換えHAに対するELIS
Aによりスクリーニングした。単一コロニーをいくつか選択して、2XYT/Cam/G
lc培地を含有する384ウェルプレートに移し、30℃で一晩増殖させた。Qpixを
用いて、低グルコースの2XYT/Camを含有する384ウェル発現プレートに384
ウェルプレートのTG1細胞を再現した。プレートを30℃、400rpmで2~4時間
増殖させた。0.5mM IPTGでFab発現を誘導し、22℃、400rpmで一晩
増殖させた。Benzonaseを含有するBEL緩衝液を用いて、Fab含有細胞を2
2℃、400rpmで1時間溶解させた。12.5%MPBSTを用いて、Fab含有ラ
イセートを400rmp、22℃で30分間ブロックした。HAでコートしたELISA
プレートにライセートを室温で1時間加えた。プレートをPBSTで5回洗浄した後、ア
ルカリホスファターゼとコンジュゲートした抗Fab IgGと室温で1時間インキュベ
ートした。プレートをTBSTで5回洗浄し、AutoPhos(Roche社、ニュー
ジャージー)を用いて発光させた。Infinite Pro F200を用いてプレー
トを読み取った。陽性のファージライセートの配列を決定し、さらに特徴付けるため、c
-mycおよびhisタグを含むFab発現構築物に固有のFabをサブクローニングし
た。
【0308】
Fab発現:Fab発現プラスミドをTG1F-細胞にエレクトロポレートし、LB/
Cam寒天プレートに播いた。プレートを37℃で一晩インキュベートした。2XYT/
Cam/Glc 5mlに単一コロニーを接種し、30℃、350rpmで一晩増殖させ
た。2XYT/Cam/low Glc 500mlに一晩培養物2mlを接種し、OD
600nmが0.5に達するまで30℃、180rpmで振盪した。IPTGを最終濃度
0.75mMで添加することによりFab発現を誘導した。培養物を30℃、160rp
mで一晩振盪した。培養物を5,000g、4℃で30分間、遠心分離した。細菌ペレッ
トを最低2時間、-80℃で凍結させた。細胞を溶解させ、0.22umフィルターでろ
過し、IMAC精製およびサイズ排除段階に供した。
【0309】
抗体のクローニングおよび発現:Fabをコードするファージの配列を決定し、それぞ
れの重鎖および軽鎖のIgG発現プラスミドにサブクローニングした。振盪フラスコ内の
Invitrogen 293F細胞またはInvitrogen 293Expi細胞
でIgGが産生された。細胞を重鎖および軽鎖の発現プラスミドでトランスフェクトした
。トランスフェクションから6日後、培養上清を回収し、プロテインAアフィニティーク
ロマトグラフィーおよび緩衝液交換段階を用いて精製した。
【0310】
マウスを用いた治療効果の試験:6~7週齢の雌BALB/cマウスを実験に用いた。
いずれのマウスも、実験開始前に少なくとも3日間、順化させ飼育した。ウイルス攻撃当
日およびその後連日2週間、マウスの体重を測定した。臨床エンドポイントおよび試験か
らの除外の基準として臨床スコアリングシステムを用いた。臨床徴候を以下のようにスコ
ア化した:背中を丸めた姿勢=3、立毛=3、拒食または拒飲=2、30%以上の体重減
少=10、神経症状=10。スコアが16以上に達した場合、試験から除外し安楽死させ
た。動物試験は承認された動物管理使用委員会(Institutional Anim
al Care and Use Committee)のプロトコルに従って実施した
。感染後、示される日数の時点でマウスの治療を実施した。最初にケタミン/キシラジン
混合物でマウスに麻酔をかけた後、マウス1匹当たり50ulのウイルス、Mabまたは
Fabを鼻腔内に投与した。体積100ulのMabまたはFabを腹膜内に投与した。
14日間の試験期間中、毎日、平均体重を求め、第0日の平均体重と比較して示した。
【0311】
ウイルス:Cottey、RoweおよびBender(Current Proto
cols in Immunology,2001)に従ってインフルエンザウイルス株
(A/カリフォルニア/7/09、A/ビクトリア/11、B/マレーシア/2506/
2004、B/フロリダ/04/2006を含む)をマウスに適応させた。マウス適応を
3回実施した後、孵化卵でウイルスを1回増殖させた。簡潔に述べれば、6~8週齢のマ
ウス3匹に麻酔をかけ、ウイルス20ulを鼻腔内に感染させた。感染から3日後、マウ
スを安楽死させ、肺を取り出した。肺を機械的にホモジナイズし、清澄化し、遠心分離し
て大きいデブリを除去した。ほかにも、肺ホモジネート20ulをナイーブマウスに3回
継代した。
【0312】
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ain isotype.J Virol 2002,76:1369-1378.
Mozdzanowska K,Feng J,Eid M,Zharikova D
,Gerhard W:Enhancement of neutralizing a
ctivity of influenza virus-specific anti
bodies by serum components.Virology 2006
,352:418-426.
【0313】
以下の実施例は、本発明を限定するのではなく、本発明を説明するために記載するもの
である。
【0314】
実施例1.モノクローナル抗体の親和性。
CellSpot(商標)技術を用いる一次スクリーニングは本質的に、ビーズと結合
した抗原の抗原-抗体相互作用が極めて弱い場合、その抗原が洗浄時に保持されないため
、高親和性mAbの発見に偏ったものである。クローン化mAbの親和性を測定するセン
サー機器をForteBio(商標)Octetとした。親和性をオン速度とオフ速度の
比として測定する場合、オフ速度が極めて小さくなると精度が低下する。より正確な推定
値を得るため、センサー表面に固定した抗原に様々な濃度の抗体を流した。一揃いのイン
フルエンザB mAbをこの方法で測定したKDとともに表5に示す。
【0315】
【0316】
Yasugiら(段落0008)により記載されているバイオセンサー(Biacor
e(商標))で測定した5A7のHAに対する親和性(KD)は約5nMである。本発明
のmAb TRL835は結合に関して5A7と競合するが、KDはmAb TRL83
5の方が強く、表に示されるように0.6nMである。
【0317】
実施例2.mAbによる組換えインフルエンザB HAとの結合。
ELISAにより抗体結合を判定した。384ウェルELISAプレートをpH7.4
のDPBS溶液中、1ウェル当たり20ngのrHAタンパク質でコートした。プレート
を4℃で一晩コートした後、0.01%Tween20(PBS-T)を含むPBSで2
回洗浄した。次いで、脱脂粉乳の5%PBS-T(M-PBS-T)溶液でプレートをブ
ロックし、PBS-Tで2回洗浄した。精製抗体をPBSで希釈し、1ウェル当たり20
ngを用いて各抗原をプローブした。プレートをPBS-Tで5回洗浄し、アルカリホス
ファターゼとコンジュゲートした二次抗体でプローブした。次いで、プレートをPBS-
Tで5回洗浄し、AttoPhos AP蛍光基質(Promega S1000)を用
いて発光させた。陰性対照ウェルのバックグラウンドシグナルから蛍光シグナルが発生し
始めるまでプレートを連続的に読み取った。
【0318】
特定のELISAアッセイの結果を
図3に示す。組換えHAのELISAデータは、複
数の抗インフルエンザB mAbおよび2種類の抗インフルエンザAのインフルエンザA
およびインフルエンザB株に対する反応性を示している。組換えHAのELISAは3連
で実施したものであり、バックグラウンドに対する平均反応倍数が示されている。
図3か
ら、抗B mAbのTRL809、TRL812、TRL813;TRL832、TRL
841、TRL842、TRL845、TRL846、TRL847、TRL848、T
RL849、TRL854およびTRL856がそれぞれ、ヤマガタクレードのB/フロ
リダ/06、B/マサチューセッツ/12およびB/ウィスコンシン/10ならびにビク
トリアクレードのB/ブリスベン/08、B/マレーシア/04およびB/ビクトリア/
87を含めた両系統のインフルエンザBウイルスに対して広い交差反応を示すことがわか
る。抗インフルエンザA mAbのCF401(=mAb53、TRL053)およびC
F402(=mAb579、TRL579)は、インフルエンザAのH1(A/カリフォ
ルニア/09)およびH3(A/シドニー/97)亜型のメンバーに対して反応性を示す
が、インフルエンザB株に対しては反応性を示さない。
【0319】
実施例3.mAbによるインフルエンザBウイルスの中和。
抗体を200PFUのウイルスと37℃で1時間インキュベートした。次いで、MDC
K細胞にこの混合物を37℃で1時間吸着させた。プラークアッセイを実施するためにM
DCK細胞をAvicel含有培地で覆った。2日間インキュベーションした後、プラー
クを判定した。特定された広域反応性インフルエンザB mAbは、ヤマガタおよびビク
トリアの両系統を高力価で中和することが可能である。12時間インキュベートした後、
細胞を固定し、感染細胞を検出する免疫蛍光法を実施した。データは記載しないが、対照
の抗B mAb5A7はヤマガタおよびマレーシア両系統の株の中和作用を示した。しか
し、
図4の表8に示されるように、本発明のmAbの方が力価が高かった。
【0320】
選択された抗インフルエンザB抗体の中和アッセイの結果を抗インフルエンザB抗体の
TRL845、TRL848、TRL849、TRL854、TRL832およびTRL
809に関して
図4に示す。IC50は、この特定の中和アッセイでウイルスを阻害する
濃度である。mAbはそれぞれ、ヤマガタ系統およびビクトリア系統それぞれの代表的な
メンバーを中和する。この実験には両系統の確定された株を用いたが、mAbは試験した
いずれのBウイルスも中和した。
【0321】
実施例4.マウスインフルエンザ感染症モデルでのin vivo効果。
別途明記する場合を除けば一般に、肺送達モデルを用いてmAbの効果増大を評価した
。マウスに10×LD50を感染させ、24hpiに鼻腔内経路を介した肺送達により1
mg/kgを投与して治療した。体重および生存率をモニターして相対的効果を評価した
。
【0322】
図6A~6Dは、感染後第1日にIN経路により1mg/kgを投与し、感染から最大
14日目までの体重を評価したマウスモデルにおける10×LD50のウイルスに対する
本発明の抗インフルエンザB mAbのin vivo活性を示しており、対照にはPB
S投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染後14日間、マウスの体重をモ
ニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
【0323】
図6Aは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL845、TRL847、TR
L848、TRL849および5A7が、ビクトリアクレードを代表するB/マレーシア
/2506/04に感染したマウスを疾患から防御することを示している。
【0324】
図6Bは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL845、TRL847、TR
L848、TRL849および5A7が、ヤマガタクレードを代表するB/フロリダ/0
4/2006に感染したマウスを疾患から防御することを示している。
【0325】
図6Cは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL849、TRL846、TR
L854、TRL856、TRL847および5A7が、ビクトリアクレードを代表する
B/マレーシア/2506/04に感染したマウスを疾患から防御することを示している
。
【0326】
図6Dは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL849、TRL846、TR
L854、TRL856、TRL847および5A7が、ヤマガタクレードを代表するB
/フロリダ/04/2006に感染したマウスを疾患から防御することを示している。
【0327】
実施例5.肺送達によるin vivo効果の増大。
別の送達方法による効果増大の可能性を評価するため、mAbのin vivo効果を
検討した。マウスに10×LD50を感染させ、24hpiに腹腔内投与による従来の全
身送達を用いて、10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgで治療し、鼻腔
内経路を介した肺送達により1.0mg/kgおよび0.1mg/kg投与したmAbと
比較した。次いで、両者の生存率および体重を比較した。生存率および体重減少(感染の
重症度の尺度)を用いて相対的活性を評価した。
図5Aおよび5Bには、肺送達による効
果増大を示す1つの例としてmAb5A7が示されている。
【0328】
図5Aは、マウスにおける抗インフルエンザB抗体5A7のin vivo活性を、1
0×LD50のB/フロリダ(ヤマガタ系統)に感染させたマウスに5A7を鼻腔内(I
N)投与した場合と腹腔内(IP)投与した場合のパーセント体重として示したものであ
る。24hpiにマウスをIN経路またはIP経路のいずれかによりmAbで治療し、疾
患重症度の指標として連日体重を測定し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感
染マウスを用いた。感染後14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重
に対するパーセントをプロットした。体重減少が30%を超えるマウスは安楽死させた。
INが1mg/kgで体重減少を完全に防ぐのに対し、IP経路による1mg/kgでは
体重がいくぶん減少している。IN経路で投与すると、IP経路よりも効率が増大するこ
とがわかる。
【0329】
図5Bは、マウスにおける抗インフルエンザB抗体5A7のin vivo活性を、1
0×LD50のB/マレーシア(ビクトリア系統)に感染させ5A7をIN投与した場合
とIPした場合のパーセント体重として示したものである。24hpiにマウスをIN経
路またはIP経路のいずれかによりmAbで治療し、疾患重症度の指標として体重を連日
測定した。体重減少が30%を超えるマウスは安楽死させた。INが1mg/kgで体重
減少を完全に防ぐのに対し、IP経路による1mg/kgでは体重がいくぶん減少してい
る。IN経路で投与すると、IP経路よりも効率が増大することがわかる。
【0330】
実施例6.in vivo効果は抗インフルエンザA群mAbの存在による影響を受け
ない。
鼻腔内投与を用いた気道への投与の効果をほかの代替的インフルエンザ抗体で評価した
。これまでに、第1群および第2群両方のインフルエンザAウイルスを中和して効果を示
すヒトモノクローナル抗体が単離されている。ヒト抗体Mab53(TRL053とも表
される)は米国特許出願公開第2012/0020971号および国際公開第2011/
160083号に記載されており、第1群および第2群のH1、H9、H7およびH5亜
型の中和に効果がある。抗体Mab579(TRL579とも表される)は国際公開第2
013/086052号に記載されており、H3およびH7の中和に効果がある。本明細
書に記載されるように、この2つのmAbを調製および最適化して抗H1 CF-401
(=mAb53、TRL053)、抗H3 CF-402(=mAb579、TRL57
9)を作製し、本試験に用いた。
【0331】
マウスモデルを用いて、Mab579およびMab53抗体のインフルエンザAウイル
ス感染症に対する治療効果を検討した。Mab579はH3インフルエンザに対して検討
し、Mab53はH1インフルエンザに対して検討した。IN投与とIP投与とを比較し
、INでは1mg/kg投与し、IPではその10倍の10mg/kg投与した。10×
LD50のH3インフルエンザウイルスVic11に対する治療効果の検討には、感染か
ら24時間後(24hpi)に抗体Mab579を投与した(データ不掲載および
図12
B)。10×LD50のH1インフルエンザウイルスCal09およびPR8に対する治
療効果の検討には、感染から24時間後(24hpi)に抗体Mab53を投与した(デ
ータ不掲載および
図11B)。同じ実験でIP投与を10倍の用量で実施しても、IN投
与の方がIP投与よりも高い効果が得られた。
【0332】
個々の抗B mAbならびにカクテル形式の同mAbと抗H1mAbおよび抗H3mA
bとの混合物ではともに、同程度の生存率および体重減少のデータが得られており、mA
bが互いの活性に干渉しないことが確認された。
【0333】
図7A~7Dは、3種類の抗インフルエンザmAbを共投与しても抗B mAbの効率
に干渉しないことを示している。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24h
piに抗H1 CF-401(=mAb53、TRL053)と、抗H3 CF-402
(=mAb579、TRL579)と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TR
L847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる
3mg/kgの3種mAbカクテルで治療し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス
未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初
期体重に対するパーセントをプロットした。
【0334】
図7A~7Dは全体として、カクテルがあらゆる季節性インフルエンザ亜型の代表的な
株(H1N1、H3N2およびBの両系統)に対して、カクテルに含まれる他のmabに
よる干渉を受けずに、予想されるレベルの防御をもたらすことを示している。
【0335】
図7Aは、10×LD50のH1N1に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401
と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847
(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/
kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0336】
図7Bは、10×LD50のH3N2に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401
と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847
(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/
kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0337】
図7Cは、10×LD50のB/ヤマガタ系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF
-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TR
L847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる
3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示し
ている。
【0338】
図7Dは、10×LD50のB/ビクトリア系統に感染させ、24hpiに抗H1 C
F-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B T
RL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからな
る3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示
している。
【0339】
実施例7.PepScan(商標)を用いた抗B mAbのエピトープマッピング。
Pepscan CLIPS(商標)技術を用いて、インフルエンザB赤血球凝集素の
ストーク領域のセグメントに対応する様々な直鎖状ペプチドおよび制約を受けたペプチド
を固定化したものを様々な抗B mAbとの結合に関してスコア化することにより、抗B
mAbのエピトープをマッピングした。ビクトリア系統およびヤマガタ系統の両方の前
駆体であることから、インフルエンザB株であるB Leeのストーク配列を選択した。
mAbと結合するペプチドをエピトープとみなす。被験mAbそれぞれについて、不連続
エピトープの固有のパターンを明らかにした。その結果を
図8および9にまとめる。
図8
は、B/Lee/1940/HAタンパク質(配列番号291)のPEPSCAN(商標
)により作成したペプチドアレイを示している(上パネル)。B/Lee/1940/H
Aタンパク質の影を付けた領域は、ペプチドアレイの作成に用いたaa_15-65(配
列番号292)、aa_300-359(配列番号293)およびaa_362-481
(配列番号294)の残基に対応している。表(下パネル)は、mAb5A7エピトープ
1-aa_333-338(配列番号304)、エピトープ2-aa_342-346(
配列番号305)およびエピトープ3-aa_457-463(配列番号306);mA
b TRL845エピトープaa_455-463(配列番号307);TRL848エ
ピトープ1-aa_64-71(配列番号308);エピトープ2-aa_336-34
8(配列番号309);エピトープ3-aa_424-428(配列番号310);mA
b849エピトープ1-aa_317-323(配列番号311)、エピトープ2-aa
_344-349312)、エピトープ3-aa_378-383(配列番号313);
mAb854エピトープ1-aa_457-463(配列番号314)を示している。右
下の図には、HAのストーク上にその領域が濃灰色で示されている。
【0340】
図9は、HAタンパク質のストークに沿ったPEPSCAN(商標)解析によるエピト
ープマッピングを示している。影を付けた領域は、各mAbが結合するエピトープを表し
ている。mAbのTRL848、TRL845、TRL854およびTRL849は、H
Aのストークに沿って部分的に重複する不連続エピトープを認識する。公開されている配
列に由来する対照mAb5A7では、ほぼ同じであるが固有のエピトープが得られた。
【0341】
実施例8.mAbのin vivo発現。
いくつかの実施形態では、本発明のmAbはin vivo発現を目的とするものであ
る。これまで、mAbの遺伝情報を宿主細胞内に導入してmAbをin situ産生さ
せる送達システムがいくつか記載されている。一実施形態では、David Balti
more研究室:Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 103(31):
11479-11484(2006)により記載されているように、表面に組織標的化抗
体と結合した膜融合タンパク質を含むレンチウイルス粒子内にコードDNAを封入する。
標的化抗体はCD20と結合して、例えば、ベクターをB細胞に優先的に送達し、抗体産
生を最適化する。あるいは、Johnson,P.R.ら,Nature Medici
ne(2009)15:901-906により記載されているように、AAVベクター(
アデノ随伴ウイルス)を用いる。その他の方法としては、コードmRNAをリポソームま
たは脂質粒子内に封入して細胞内に取り込ませる方法が挙げられる。
【0342】
実施例9.融解曲線アッセイ。
PBS中2ug/mLの濃度で、PCR StepOne Plus(商標)機器を1
.58℃/分で15℃から99℃に加熱し、連続的に蛍光を測定して、融解曲線アッセイ
を実施した。
図10A~10Fは、mAb TRL845、TRL847、TRL848
、TRL849およびTRL854の融解曲線アッセイを示している。各mAbは高い熱
安定性を示した。
図10AはTRL845の融解曲線を示しており、2つの融解温度(T
m1、Tm2)がそれぞれ58.3℃および68.7℃にみられる。
図10Bは、
図10
Aおよび
図10C~10Fにそれぞれ示されるmAb TRL845、TRL847、T
RL848、TRL849およびTRL854の融解温度(Tm)の表を示している。融
解温度が2つ(Tm1、Tm2)みられたのは、これらのmAbのFcドメインとFab
ドメインが別個に変性したことによるものと思われた。
図10CはTRL847の融解曲
線を示しており、融解温度(Tm1)は70.3℃である。
図10DはTRL848の融
解曲線を示しており、融解温度(Tm1)は70.1℃である。
図10EはTRL849
の融解曲線を示しており、2つの融解温度が(Tm1、Tm2)それぞれ70℃および8
1.8℃にみられる。
図10FはTRL854の融解曲線を示しており、2つの融解温度
(Tm1、Tm2)が59.7℃および68.9℃にみられる。配列番号17/18のH
C/LCアミノ酸配列を含む抗体TRL053および配列番号27/28のHC/LCア
ミノ酸配列を含むTRL597ではそれぞれ、表6に示す融解温度がみられた。
【0343】
【0344】
一部の抗体で融解温度が2つ(Tm1、Tm2)みられたのは、そのmAbのFcドメ
インとFabドメインが別個に変性したことによるものと思われた。したがって、特に本
明細書に提供される組合せおよび組成物に使用する抗体は安定なものであり、融解温度が
55℃を上回り、いくつかの場合には65℃を上回る。
【0345】
実施例10.抗インフルエンザmAbは経肺経路で送達すると防御作用を示す。
H1N1感染症の治療にCF-401(mAb053)とノイラミニダーゼ阻害剤オセ
ルタミビルとの組合せが及ぼす効果を検討するため、マウスを3×LD50のH1N1ウ
イルスで攻撃し、第4日目に、1mg/kgのmAb CF-401の単回鼻腔内投与、
10mg/kg、1日2回、4日間連日の経口オセルタミビル治療または両者の組合せで
治療した。
図24に示されるように、1mg/kgのCF-401の単回投与で治療した
場合、100%のマウスが攻撃後も生存した。標準治療のオセルタミビルは、感染からこ
れほど遅い時点で投与すると防御作用は示さない(生存率0%)が、CF-401 mA
b療法と組み合わせた場合、mAb療法単独に比してさらに体重減少が抑えられた。
図2
4に示される結果は、感染から4日後に1mg/kgのCF-401の単回投与で治療す
ると、100%のマウスが致死量のH1N1による攻撃後も生存するというものである。
標準治療のTamifluを投与しても防御作用は示さないが、CF-401 mAb療
法に加えると、追加で体重減少が抑えられる。Tamifluは、第4日から第8日まで
1日2回、10mg/kgで経口投与した。データは、標準治療(Tamiflu)にm
Ab療法を加えると、遅い時点で投与しても効果が得られることを示している。
【0346】
抗インフルエンザmAbは経肺経路で投与すると防御作用を示す。いくつかの実施形態
では、本発明のmAb療法と他の抗ウイルス治療薬、例えばノイラミニダーゼ阻害剤(例
えば、オセルタミビル[Tamiflu(商標)]、ザナミビル[Relenza(商標
)])、RNAポリメラーゼ阻害剤(例えば、ファビピラビル、VX-787)、免疫調
節薬(例えば、吸入インターフェロンベータ1a)、宿主細胞標的化剤(例えば、Flu
dase(商標)、Radavirsen(商標))、イオンチャネル阻害剤(例えば、
アマンチジン)をはじめとする抗ウイルス剤などとを組み合わせることにより、効果が改
善され得る。
【0347】
実施例11.中和抗体は鼻腔内投与で効果が得られる。
IP経路により投与した中和抗体および非中和抗体がともに致死性感染症の治療および
予防に同等の効果を示すことから、全身送達した抗体の治療効果は、単に中和能に依存す
るだけでない。中和抗体および非中和抗体をIP投与したところ、同等の効果が得られた
。このことから、全身送達では治療効果に大いに寄与するのかどうかという疑問が浮上す
る。非中和抗体をIV経路またはIP経路により送達したところ、効果に有意な差は認め
られなかった(データ不掲載)。
【0348】
これに対し、中和抗体をIN送達したとこと、その治療効果は全身送達に比して有意に
増大した(
図11A)。確立された非中和抗体は同様の治療効果増大を示さないことから
、この治療効果を高める作用は中和抗体に特有のものである。中和抗体をIN送達すると
、IP送達の場合とは異なり、非中和抗体に比して有意な治療利益が得られる。非中和抗
体がINで治療効果の改善を示さなかったことから、IN療法によるこの効果増大は抗体
の中和能と関係がある。INによる効果増大は認識範囲の広いH1ウイルスCA6261
に対する抗体(HA2サブユニットの短いαへリックスと結合するIgG2a抗体)によ
り示されている(
図11A)。本発明者らは、INが効果に及ぼす影響をさらに検証して
、別の交差防御抗体CR9114を評価し、それがINで極めて高い効果を示すことを明
らかにした(データ不掲載および
図24)。CR9114をIV投与すると、HA茎部の
保存されたエピトープと結合し、インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスによ
る致死性攻撃に対する防御作用を示す(Dreyfus Cら(2012)Scienc
e Express 9 August 2012 10.1126/science.
1222908)。
【0349】
本発明者らはこれまで、異なる抗体アイソタイプを有する抗体に関してIN効果に有意
差は認めていない。IP投与ではアイソタイプ間に差が認められており、エフェクター機
能が関連している可能性が示唆された。このほか、単一の中和抗体では、その標的である
H1またはH3ウイルスの複数の株に対する感染阻止効果が認められており、効果が株に
特異的なものでも、株が限定されるものでもないことが示された。したがって、インフル
エンザウイルスに対する中和抗体には、IN投与が実行可能でかつ一層効果的な代替法と
なる。
【0350】
実施例12.中和Fabは鼻腔内投与で効果が得られる。
Fcの除去がIPまたはIN投与した中和Fabおよび非中和Fabの治療効果を打ち
消すかどうかを評価する試験を実施した。
図25からわかるように、モデルFab(CA
6261抗体Fab)のIP投与は、10mg/kg以下でH1ウイルスに対する治療効
果が得られない。Fab IPで治療したマウスはいずれも、PBSで治療したマウスと
同じく感染症に屈した。これに対し、用量10mg/kgおよび1mg/kgの中和Fa
bでIN治療したマウスは、致死性感染症で死亡することはなかった(
図25)。IN投
与した用量はいずれも(0.1mg/kgでも)、IP投与したいずれの用量よりも高い
効果を示した。同じ実験でCA6261 FabをINとIPまたはIVとで比較しても
ほぼ同じ結果が観察され、この場合、Fab CA6261はIPまたはIVのいずれで
投与しても防御作用は示さなかったが、同じ用量(5mg/kg)をIN投与すると有意
な効果を示した(マウスの体重が95%以上で維持された)(データ不掲載)。以上のデ
ータから、中和抗体では、ウイルス感染症の阻止または治療にFabの鼻腔内投与が効果
を示すことがわかる。データはさらに、Fabが無効であったことから、全身Mab送達
で治療効果を得るにはFcエフェクター機能を必要とすることを示している。
【0351】
非中和抗体のモデルFabは、INまたはIPのいずれの経路で投与しても治療効果が
保持されなかった。H3ウイルスに感染させたマウスを例示的先行技術抗体CA8020
(中和抗体)および非中和抗体の精製FabのIN送達により治療した(データ不掲載)
。中和Fabは治療効果を発揮することができるのに対し、非中和Fabは致死性攻撃か
らマウスを防御することができない。非中和抗体の抗体フラグメント、特にFabは、I
N投与しても治療効果がみられない。
【0352】
実施例13.IN送達の方がIP送達よりも効力が10~100倍高い。
中和抗体の鼻腔内(IN)送達の方が腹腔内(IP)送達よりも効力が10~100倍
高い。マウスに10×LD50のPR8ウイルス(H1ウイルス)を感染させ、24hp
iに抗体で治療した(
図11A)。中和抗体CA6261を10倍連続希釈し、IN経路
またはIP経路のいずれかにより投与した(
図11A)。体重減少によって図示されるよ
うに、いずれの希釈でも、IN経路により治療したマウスの方が疾患重症度が低く、致死
性感染から100%防御された。これと比較して、IPで治療したマウスでは、最高用量
(10mg/kg)にのみ一時的な体重減少と致死性感染からの保護とがみられた。IP
で投与した場合、これより低い希釈ではいずれも、マウスは防御されなかった。これに対
し、用量0.1mg/kgでIN治療した場合、全個体に一時的な体重減少および生存が
みられた。IN送達により用量10mg/kgおよび1mg/kgで治療したマウスは、
感染後のいずれの時点でも検出可能な体重減少が抑制された。IP経路により投与した抗
体ではいずれの用量でも、ある程度の体重減少がみられ、感染後も生存したのは最高用量
10mg/kgで治療したマウスのみであった。
【0353】
本発明者らは、中和抗体の鼻腔内送達が同じようにH3ウイルスに対する治療効果を増
大させることを確認した。マウスにH3ウイルスを感染させ、24hpiに治療した(図
12A)。中和抗体CA8020を10倍連続希釈し、INまたはIPにより投与した。
H1ウイルスを用いた本発明者らの試験で観察されたように、IN経路により投与した抗
体はいずれの希釈でも、H3ウイルスに対する生存率が100%となり、IP経路により
投与した抗体よりも体重減少が少なかった。
【0354】
以上のデータをまとめると、INで送達して治療効果を増大させるには中和作用が不可
欠であることがわかる。さらに、中和抗体および非中和抗体ともに同レベルの効果が観察
されることから、全身送達した抗体の治療効果は中和作用に依存しない。この観察結果を
裏付けるように、中和FabをIP投与すると治療効果が打ち消されるが、中和Fabを
IN送達すると効果がみられる。IN投与した中和Fabは、IP投与と比較した効果の
改善が、その完全Mab対応物のIN送達とほぼ同じである。
【0355】
実施例14.IN抗体による予防試験
感染後に中和抗体を鼻腔内投与することにより著明な効果が得られたため、ウイルスに
よる感染を予防するために感染前に鼻腔内投与した場合の効果を評価する試験に着手した
。これらの試験は、鼻腔内投与が、個体がインフルエンザウイルスに曝露した場合に適用
可能であるかどうか、また、曝露した集団もしくは曝露するリスクのある集団内での伝染
を予防もしくは抑制するのに有効な方法であるのかどうか、または感染症もしくは疾患が
全般的により大きな健康上のリスクとなる患者に臨床的に有効な方法であるのかどうかを
評価し明らかにするためのものである。マウス動物モデルを対象に、インフルエンザウイ
ルス感染の数日前に実施する第1群(H1)抗体CA6261の投与を評価した。感染攻
撃の3日、4日、5日、6日および7日前のCA6261の投与を評価し、様々な用量の
IN投与とIP投与とを直接比較した。
【0356】
最初の試験では、抗体CA6261をINまたはIP投与し、次いで、投与量3×LD
50のH1 PR8ウイルスでマウスを攻撃した。
図13は、ウイルス感染の3日または
4日前に予防的にIN投与およびIP投与した試験を示している。3×LD50のPR8
で攻撃する3日または4日前に抗体CA6261をINまたはIPで投与した。CA62
61抗体はIN(0.1mg/kg)またはIP(0.1mg/kgおよび1mg/kg
)で投与した。感染の最大4日前(-4dpi)のIN投与(0.1mg/kgで評価し
た)では、マウスがウイルス攻撃から防御された。感染の3日または4日前に同じ用量(
0.1mg/kg)でIP投与した場合、効果は全くみられなかった。感染の3日または
4日前のIP投与で効果がみられたのは1mg/kgであった。IN(0.1mg/kg
)投与とIP(1mg/kg)投与とを比較したところ、-3dpiおよび-4dpiと
もに、IPの10分の1のIN用量でIPよりも高い効果がみられた。
【0357】
次いで、ウイルス感染の5日、6日および7日前での予防効果を評価した。10倍の用
量のIP用量をIN投与と比較した。3×LD50のH1インフルエンザウイルスPR8
で攻撃する5日前、6日前または7日前のいずれかに抗体CA6261をIP(1mg/
kg)またはIN(0.1mg/kg)で投与した(データ不掲載)。比較のため、ほか
にもTamiflu投与(10mg/kgで1日2回、5日間の経口投与)を評価した。
-5dpiに0.1mg/kgのIN投与で効果が示された。ウイルス攻撃の6日または
7日前に0.1mg/kgでIN投与したマウスでは死亡例がみられた。10倍用量(1
0mg/kg)のIPは攻撃5日、6日または7日前で効果がみられた。攻撃の5日前に
抗体を0.1mg/kgでIN投与した場合、少なくとも、攻撃の7日前に10倍の用量
1mg/kgでIP投与した場合と同等の効果みられた。
【0358】
次いで、さらに高い1mg/kgの用量のINをウイルス攻撃の5日、6日または7日
前で評価した。
図14は、3×LD50のウイルスPR8による攻撃の5日、6日または
7日前に抗体CA6261をIPまたはINで投与してIN投与とIP投与とを比較した
試験が示されている。抗体を1mg/kgでIN投与したところ、ウイルス攻撃の最大7
日前で効果がみられ、各場合とも、INの方が同じ量の抗体をIPで投与した場合よりも
高い効果が認められた。実際、IP投与の方がウイルス攻撃に近い時点で実施された場合
でも、いずれの時点(攻撃の5日、6日または7日前)でもIN投与の方がいずれのIP
投与よりも高い効果が認められた。いずれの場合も、Tamifluよりも抗体の方が高
い効果が認められた。
【0359】
以上の試験は、予防的防御にはIP投与よりもIN投与の方が優れていることを示して
いる。抗体を0.1mg/kgでIN投与すると、感染の最大5日前(-5dpi)で攻
撃(3×LD50)に対する防御がみられる。同じ用量0.1mg/kgをIPで投与す
ると、ウイルス感染の3日~7日前のいずれでも、(同じ投与量3×LD50のウイルス
に対する)マウスの防御がみられない。さらに高い用量で抗体をIN投与すると(1mg
/kgを評価した)、INで投与された抗体は、最大で少なくとも7日前に投与しても攻
撃に対する防御を示し得る。7日以上前のIN投与は評価していないが、効果があるもの
と思われる。
【0360】
感染後の反復投与でも効果が得られ、数時間(8時間、32時間、52時間)の間隔を
空けて複数回投与すれば、より低い用量で効果が得られる(データ不掲載)。同じように
、ウイルスに感染または曝露する前に反復投与しても、効果が認められることが予想され
、より低いIN用量での予防的投与が可能であると思われる。
【0361】
より高い投与量でのウイルス攻撃、具体的には10×LD50のH1ウイルスPR8に
よる攻撃の数日前にCA2621抗体を投与して、予防効果を評価した。10×LD50
のPR8 H1亜型ウイルスによる攻撃の3日または4日前、マウスに0.1mg/kg
のCA6261抗体をINまたはIPのいずれかで投与した(データ不掲載)。ウイルス
攻撃の3日または4日前に0.1mg/kgの抗体をIP投与しても全く効果はみられず
、IPで治療したマウスは、治療を実施しなかったマウスと同じくウイルス感染症に屈し
た。これに対し、高力価ウイルスによる攻撃の3日前または4日前のいずれかに0.1m
g/kgの抗体を鼻腔内に投与したマウスは感染から防御された。
【0362】
抗体を1mg/kgでINまたはIP投与して、高力価攻撃の5日、6日および7日前
の抗体投与を評価した(
図15)。この試験では、抗体を(鼻腔内投与により)気道に投
与したマウスのみがウイルス攻撃後もすべて生存していた。ウイルス攻撃の5日、6日ま
たは7日前に1mg/kgの抗体を投与して治療したマウスは十分に防御されず、感染症
により死亡した。Tamifluには防御効果が全く認められなかった。ウイルス感染の
5日前または6日前のいずれかに0.1mg/kgの抗体を鼻腔内投与して治療したマウ
スは、ウイルス攻撃後も未感染の対照マウスとほぼ同程度に生存した。
【0363】
したがって、抗インフルエンザ抗体の鼻腔内投与は、抗体感染の予防に効果のあるプロ
トコルおよび方法である。ウイルス感染の最大少なくとも7日前に鼻腔内投与したインフ
ルエンザ中和抗体は、ウイルス攻撃に対する防御作用を示した。最大少なくとも7日前に
鼻腔内投与することにより得られる防御作用は、ヒトがウイルスに曝露したときに常識的
に予想されるよりも高い高力価のウイルスでも示された。以上の試験で観察された防御の
レベルは、鼻腔内への抗体投与がヒト対象をウイルス攻撃から防御し、ウイルス伝染を阻
止または抑制するのに有効であることを示している。抗体の経肺投与は、全身投与が無効
である条件下およびそのような場合でも、防御作用を示す。
【0364】
実施例16.インフルエンザの治療または予防のための組合せ。
流行が予想されるあらゆるインフルエンザを単一の用量または用量の組合せで治療また
は予防することを可能にするためには、3種類の主要なインフルエンザ株(H1、H3お
よびB)と交差反応を示す抗体の組合せが望ましい。このような組合せがあれば、抗体ま
たは抗体混合物を投与する前に感染ウイルスを特徴付ける必要性を回避することが可能に
なる。インフルエンザ株を決定する診断には、利用可能な臨床検査施設が必要であり、通
常、最低12~24時間の作業時間を要するため、しかるべき方向性の治療法を選択する
前にインフルエンザ株を決定する必要がある場合、治療に好ましくない遅れが生じる。イ
ンフルエンザAおよびインフルエンザB株に対して広域反応性を示す組成物があれば、治
療前に株の予備診断を実施する必要がなくなる。さらに、抗体、特に中和抗体には、予防
にのみ作用し、効果を発揮するまでに通常数週間を要する予防接種では得られない即時の
治療効果がある。
【0365】
本発明者らは、インフルエンザA型およびB型をカバーする治療用のモノクローナル抗
体(mAb)の組合せを評価し特定しようとした。特に、適切で価値のある組合せとして
は、A型第1群、A型第2群およびインフルエンザBウイルスに効果を示す抗体が挙げら
れる。これにより、重要な流行中のインフルエンザに効果を示す組合せが得られ、ウイル
スの型の診断評価または評価を実施する前に、または実施せずに投与することができる。
治療用の組合せの基準としては、効果のある中和抗体であること;組み合わせて、重要な
流行中のインフルエンザウイルス、特にインフルエンザA H1およびH3ならびにイン
フルエンザBに対して効果を示す抗体であること;組み合わせて、インフルエンザAまた
はインフルエンザBのいずれかの攻撃に対して効果を示すこと;抗体間に顕著な相互作用
も競合もみられないこと;IP、IVおよびIN投与または気道経路による投与のほか、
全身投与でも効果のある抗体であることが挙げられる。カクテルに含まれるmAbは、容
易に共製剤化が可能なように生物物理学的特性に適合性があるのが好ましい。pI値が一
致するのが望ましいと思われる。治療用の組合せは、患者または対象のインフルエンザを
診断評価することも、特徴付けることも必要とせずに、任意の重要な流行中のインフルエ
ンザウイルスに対して効果を発揮する。ヒトモノクローナル抗体または少なくともヒト可
変領域を含む抗体、特に少なくとも重鎖および軽鎖にヒト相補性決定領域(CDR)を含
む抗体が好ましく、これを用いる。
【0366】
適切な抗インフルエンザA抗体を評価した。抗H1抗体TRL053(MAb53)は
、in vitroおよびin vivoでH1を含めた第1群インフルエンザウイルス
の中和に効果がある。TRL-053はヒト抗体ファージライブラリーから単離されたも
のであり、米国特許出願公開第2012/0020971号および国際公開第2011/
160083号に記載されており、第1群および第2群のH1、H9、H7およびH5亜
型の中和に効果がある。TRL053は、インフルエンザH1およびH5ウイルス株に対
してnMまたはサブnMの範囲の結合親和性Kdを示し、等電点(pI)が8.54であ
る。TRL053の重鎖および軽鎖可変領域のCDR配列については、上記の可変領域全
体のアミノ酸配列とともに添付の配列表に記載されている。TRL053のH1ウイルス
PR8に対する効果をin vivoで評価した(
図11B)。マウスに10×LD50
のH1インフルエンザウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgお
よび0.1mg/kgの抗体TRL053(MAb53)をINまたはIP投与して治療
した。感染から14日間、体重を連日モニターした。TRL053はIPまたはINで効
果を示すが、IN投与したTRL053の方がIPよりも高い効果を示した。TRL05
3は、IPでは用量10mg/kgでのみ多少効果がみられた。この試験のINは、用量
10mg/kgおよび1mg/kgで効果がみられた。
【0367】
抗H1抗体TRL579(MAb579)は、in vitroおよびin vivo
で第2群インフルエンザウイルスの中和に効果がある。TRL-579はヒト抗体ファー
ジライブラリーから単離されたものであり、国際公開第2013/086-52号に記載
されており、H3およびH7の中和に効果がある。TRL579は、インフルエンザH3
およびH7ウイルス株に対してnMまたはサブnMの範囲の結合親和性Kdを示し、等電
点(pI)は8.60である。TRL-579の重鎖および軽鎖可変領域のCDR配列に
ついては、上記の可変領域全体のアミノ酸配列とともに添付の配列表に記載されている。
TRL579のH3ウイルスVic/11に対する効果を評価した(
図12B)。動物に
10×LD50のウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび
0.1mg/kgの抗体TRL579をINまたはIP投与して治療した。感染から14
日間、体重を連日モニターした。TRL579はIPまたはINで効果を示すが、IN投
与したTRL579の方がIP投与よりも高い効果を示した。TRL579は、IPでは
用量10mg/kgでのみ多少効果がみられた。この試験のINは、用量10mg/kg
および1mg/kgで効果がみられた。
【0368】
効果のある組合せに適した抗B抗体を得るため、インフルエンザBに対する抗体を単離
した。高親和性結合抗体を特定するためのもので、2014年2月4日に出願された米国
特許出願第61/935,746号に最初に記載されたCellSpot(米国特許第7
,413,868号)を用いて、インフルエンザの赤血球凝集素タンパク質(HA)と結
合し、B/ヤマガタクレードおよびB/ビクトリアクレードのインフルエンザBウイルス
に効果を示すヒト抗体を特定した。B特異的抗体およびその配列、具体的には様々なB抗
体のモノクローナル抗体重鎖および軽鎖CDR配列が配列表に列挙されている。IMGT
基準(international ImMunoGeneTics database
imgt;Ehrenmann F.,Kaas Q.およびLefranc M.-
P.(2010)Nucleic Acids Res.,38,D301-307)に
よって決定された重鎖および軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3が示されている。
【0369】
同一の重鎖定常領域配列を有するB抗体を構築し単離した。定常領域をヒト細胞での発
現用にコドン最適化した。重鎖IgG1定常領域の配列は上に記載されている(配列番号
297)。カッパ軽鎖抗体(TRL845、846、847、809、849および85
4)の軽鎖定常領域は上に記載されている(配列番号295)。抗体TRL848および
832は以下に示すラムダ軽鎖定常領域を有する(配列番号296)。
【0370】
B抗体の重鎖および軽鎖可変領域の配列は上および添付の配列表に記載されている。
【0371】
実施例17.B抗体の特徴付け。
広範囲に効果を示す抗体の組合せに適したモノクローナル抗体を特定し特徴付けるため
、インフルエンザBに対するヒト抗体のインフルエンザBウイルスに対する効果を評価し
た。
図16に、赤血球凝集抑制、in vitroでの古典的中和および様々な抗B抗体
のin vivo投与を評価した評価試験の結果を表にまとめて示す。抗体はBウイルス
のヤマガタ系統およびビクトリア系統の両方に対して評価した。in vivoの結果は
、10×LD50のウイルスを接種し、24hpiに示されるTRL抗体を1mg/kg
でIN投与した動物の初期体重に対するパーセントを評価した3つの異なる試験を各場合
についてまとめたものである。動物の体重は14日間観察したものであり、観察された最
も少ない体重が示されている。TRL845、TRL847、TRL848、TRL84
9およびTRL854はそれぞれ、in vivoでの効果を評価する期間全体を通じて
動物の初期体重の少なくとも96%を維持する効果を示した。
【0372】
B抗体のインフルエンザウイルスに対する親和性を評価し、相対的効果の指標の一側面
とした。特定のデータを
図17に示す。抗体の等電点が記載されている。TRL053の
等電点(pI)は8.54であり、TRL579のpIは8.60である。B/フロリダ
(ヤマガタ系統)およびB/マレーシア(ビクトリア系統)インフルエンザウイルス株に
対する親和性を評価し、nMで表したK
Dを表にまとめた。B抗体は、B/フロリダ株に
対してnMまたはサブnMの親和性を示す。B/マレーシアに対するTRL845、TR
L847、TRL848、TRL849およびTRL854の親和性はそれぞれ、各場合
ともサブnM(1.0nM未満)であった(データ不掲載)。
【0373】
ヤマガタ系統およびビクトリア系統をそれぞれ代表するB/フロリダウイルスまたはB
/マレーシアウイルスに感染させた動物を対象にモノクローナルインフルエンザB抗体の
効果を検討した。10×LD50のウイルスを用いて、24hpiに1mg/kgでIN
投与することにより、抗体を評価した。B/フロリダウイルスに対する効果に関する結果
を
図18、
図19および
図22Bに示す。B/マレーシアウイルスに対する効果に関する
結果を
図20、
図21および
図22Aに記載する。IN投与した抗インフルエンザB抗体
は、投与量10×LD50のB系統ウイルスによる感染に対してともに効果を示し、抗体
で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。in viv
oでの効果および親和性試験に基づき、抗体TRL847、TRL845、TRL849
、TRL848、TRL84、TRL854のほかにもTRL809およびTRL832
が好ましい抗体として選択される。
【0374】
以上の試験から、特に、抗H1抗体および抗H3抗体と組み合わせて使用し、ヒト集団
の主要なインフルエンザ株に対して交差反応性で効果のある抗体の組合せを得るのに有効
なB抗体がいくつか得られる。抗H1抗体TRL53と、抗H3抗体TRL579と、抗
B抗体との組合せをカクテルとして検討した。B抗体5A7は先の実施例に記載されてお
り、24hpiにIPまたはIN投与によりB/フロリダまたはB/マレーシアを治療す
ると効果が得られる(
図5)。経肺投与の方が効果が高く、少なくとも1mg/kgまた
は0.1mg/kgで効果がみられるのに対し、全身送達で同等の効果を得るにはこれよ
り高い用量が必要である。
【0375】
実施例18.カクテル、組合せおよび組成物。
それぞれ10mg/kgの複数の抗体を組み合わせて投与すると、タンパク質抗体の投
与量は相当なものになり、特に疾患があるか疾患のリスクのある患者には、耐容性または
妥当性が十分ではない可能性がある。これよりも低い用量、具体的には1mg/kgの範
囲の抗体を含む抗体の組合せまたはカクテルであれば実現可能である。本明細書では、抗
体のIN投与が、予防として実施した場合でも、1mg/kg以下で効果が認められるこ
とを明らかにしている。第1群および第2群ウイルスに効果を示す抗インフルエンザA抗
体、特に抗H1および抗H3抗体と、抗Bインフルエンザ抗体とを含むカクテルが、単一
の用量または組合せで、ヒト集団で重要なあらゆるインフルエンザの株および型に対する
抗体の組合せとなる。それぞれ1mg/kgのTRL053、TRL579および5A7
からなり、抗体の総量が3mg/kgのカクテルについて、ウイルス感染症による体重減
少の抑制をin vivoで評価した。10×LD50のウイルスによる感染から24時
間後に、抗体カクテルを単回混合用量として投与した。カクテルは、H1ウイルス、H3
ウイルス、B/ヤマガタ系統ウイルスおよびB/ビクトリア系統ウイルスのそれぞれまた
はいずれかによる感染に対して効果を示した(
図23)。
【0376】
抗H1抗体TRL053と、抗H3抗体TRL579と、抗B TRL抗体との組合せ
を抗体カクテルとして評価した。これらの組合せは、重要なインフルエンザの型または株
に対して効果を示し、組み合わせても適合性があり効果が認められる抗体を含むものであ
る。これらの抗体は、同じサブタイプ骨格を用いて構築され、pIがほぼ同じで、相互作
用も競合もみられず、他の抗体(1つまたは複数)の存在下で干渉も濃度効果も生じずに
それぞれの標的インフルエンザウイルスを中和するものである。それぞれ1mg/kgの
TRL053、TRL579および各候補B TRL抗体からなり、総抗体量が3mg/
kgのカクテルを感染後に投与し、ウイルス感染症による体重減少の抑制をin viv
oで評価した。H1ウイルス、H3ウイルス、B/ヤマガタ系統ウイルスおよびB/ビク
トリア系統ウイルスのそれぞれまたはいずれかによる感染症に対して効果が認められた。
図7A~7Dに様々なカクテルのIN投与の試験結果を示す。抗体の組合せにより、H1
ウイルス、H3ウイルス、B/ヤマガタ系統ウイルスおよびB/ビクトリア系統ウイルス
による感染症に対して完全な防御がもたらされる。
図7A~7Dには、TRL053、T
RL579およびTRL845(c)(カクテル1)、TRL053、TRL579およ
びTRL847(カクテル2)ならびにTRL053、TRL579およびTRL849
(カクテル3)の3種類の例示的なカクテルの結果が示されている。
【0377】
図7A~7Dは、3種類の抗インフルエンザmAbの共投与しても抗B mAbの効率
に干渉しないことを示している。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24h
piに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテ
ル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)の
いずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療し、対照にはPBS治療マ
ウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニ
ターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
【0378】
図7A~7Dは全体として、カクテルがあらゆる季節性インフルエンザ亜型の代表的な
株(H1N1、H3N2およびBの両系統)に対して、カクテルに含まれる他のmabに
よる干渉を受けずに、予想されるレベルの防御をもたらすことを示している。
【0379】
図7Aは、10×LD50のH1N1に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401
と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847
(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/
kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0380】
図7Bは、10×LD50のH3N2に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401
と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847
(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/
kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0381】
図7Cは、10×LD50のB/ヤマガタ系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF
-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TR
L847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる
3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示し
ている。
【0382】
図7Dは、10×LD50のB/ビクトリア系統に感染させ、24hpiに抗H1 C
F-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B T
RL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからな
る3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示
す図である。
【0383】
データは、3種類の新規な独自の抗体を組み合わせるカクテル組成物が任意の重要な、
または流行中のウイルス株または型によるインフルエンザ感染症に対して効果があること
を示している。組合せ抗体は、第1群および第2群インフルエンザAウイルスのほか、イ
ンフルエンザBウイルスに対しても効果がある。単回用量で投与する抗体の組合せにより
、任意の攻撃に対する防御が得られる。単回用量の組合せが効果および耐容性を示し、コ
ストが極めて高くなるか過剰になる抗体用量を必要としないものになるよう、カクテルと
して鼻腔内投与などにより直接気道に投与する組合せに含まれる用量が低く抑えられる。
これまで、あらゆる重要なインフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対する抗
体の組合せを用いて、それぞれが約1mg/kg以下の用量範囲内にある抗体の組合せで
効果が得られたことはない。本明細書に記載および提供される抗体の組合せは、それ全体
であらゆる重要なインフルエンザウイルスを中和するものであり、特に組合せで効果を発
揮するよう設計される。各抗体は適合性のある生物物理学的特性を有する。組合せの抗体
は、互いに競合することも著しく干渉することもなく、それぞれが単独の場合と同じよう
に等しく活性を示す。各抗体は等電点がほぼ同じであり、細胞培養により同じように発現
する。本明細書の一態様では、各抗体は同じIgG骨格上に構築され、定常領域の配列が
同じであり、それぞれ同じ重鎖および軽鎖定常領域の配列またはこれに関連する配列とと
もに組換えにより発現される。
【0384】
本発明は、その趣旨またはそれに不可欠な特徴から逸脱することなく、他の形態で具現
化されるか、他の方法で実施され得る。したがって、本開示はあらゆる態様において、説
明するものであって、限定するものではないものとして解釈されるべきであり、本発明の
範囲は添付の「特許請求の範囲」によって示され、また、等価性の意味および範囲に含ま
れる変更はいずれも、それに包含されるものとする。
【0385】
本明細書全体を通じて様々な参考文献が引用され、いずれもその全体が参照により本明
細書に組み込まれる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-02-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻腔内投与または吸入投与のために製剤化され、インフルエンザウイルス感染症の治療または予防に有効である医薬組成物であって、
(a)配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、および配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、および配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する、第一の抗体またはその抗原結合フラグメント、
(b)配列番号21のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号22のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号23のアミノ酸配列を含むHCDR3を含むHCVRを含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号24のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号25のアミノ酸配列を含むLCDR2、配列番号26のアミノ酸配列を含むLCDR3を含むLCVRを含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する、第二の抗体またはその抗原結合フラグメント、および/または
(c)配列番号241のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号242のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号243のアミノ酸配列を含むHCDR3を含むHCVRを含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号244のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号245のアミノ酸配列を含むLCDR2、配列番号246のアミノ酸配列を含むLCDR3を含むLCVRを含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードそれぞれの1つまたは複数の株と結合する、第三の抗体またはその抗原結合フラグメント
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
それぞれの抗体またはその抗原結合フラグメントが、1mg/kg以下の投与量で製剤化されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
それぞれの抗体またはその抗原結合フラグメントが、0.5mg/kg以下の投与量で製剤化されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
それぞれの抗体またはその抗原結合フラグメントが、0.1mg/kg以下の投与量で製剤化されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記第一の抗体またはその抗原結合フラグメントが、配列番号19/20の重鎖可変領域/軽鎖可変領域(HCVR/LCVR)配列対を含み、
前記第二の抗体またはその抗原結合フラグメントが、配列番号29/30のHCVR/LCVR配列対を含み、
前記第三の抗体またはその抗原結合フラグメントが、配列番号249/250のHCVR/LCVR配列対を含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
噴霧器による送達のために製剤化されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
定量吸入器、定量噴霧ポンプ、手動バルブ噴霧器、小容量または大容量噴霧器、超音波振動メッシュ技術(VMT)噴霧器、超音波噴霧器、および乾燥粉末吸入器から選択される装置による送達のために製剤化されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記第一の抗体が、配列番号17/18の重鎖(HC)/軽鎖(LC)アミノ酸配列を含むTRL053/Mab53であり、
前記第二の抗体が、配列番号27/28のHC/LCアミノ酸配列を含むTRL579/Mab579であり、
前記第三の抗体が、配列番号247/248のHC/LCアミノ酸配列を含むTRL849である、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
経鼻送達または肺送達用の希釈剤および/または補形剤を含む薬学的に許容される担体をさらに含み、かつ/または免疫応答の免疫学的メディエーターおよび/または刺激因子をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
抗ウイルス治療薬、ウイルス複製阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、赤血球凝集素阻害剤、気管支拡張薬、免疫調節薬、および吸入副腎皮質ステロイド剤のうちの1つまたは複数をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントの1つまたは複数が、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、およびdAbから選択される抗体フラグメントである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
インフルエンザ感染症を治療または予防するための医薬組成物であって、
(a)配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、および配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、および配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する、第一の抗体またはその抗原結合フラグメント、
(b)配列番号21のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号22のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号23のアミノ酸配列を含むHCDR3を含むHCVRを含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号24のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号25のアミノ酸配列を含むLCDR2、配列番号26のアミノ酸配列を含むLCDR3を含むLCVRを含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する、第二の抗体またはその抗原結合フラグメント、および/または
(c)配列番号241のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号242のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号243のアミノ酸配列を含むHCDR3を含むHCVRを含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号244のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号245のアミノ酸配列を含むLCDR2、配列番号246のアミノ酸配列を含むLCDR3を含むLCVRを含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードそれぞれの1つまたは複数の株と結合する、第三の抗体またはその抗原結合フラグメント
を含み、鼻腔内(IN)にまたは吸入により投与される、医薬組成物。
【請求項13】
それぞれの抗体またはその抗原結合フラグメントが、1mg/kg以下の投与量で製剤化されている、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
それぞれの抗体またはその抗原結合フラグメントが、0.5mg/kg以下の投与量で製剤化されている、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
それぞれの抗体またはその抗原結合フラグメントが、0.1mg/kg以下の投与量で製剤化されている、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項16】
(i)感染から最大24時間後、(ii)感染から最大48時間後、および(iii)感染から最大72時間後からなる群より選択される期間に投与される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項17】
ウイルスに感染または曝露する前に1つまたは複数の用量で投与される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項18】
1用量当たり1mg/kg未満の複数回用量で鼻腔内投与または吸入投与され、前記複数回用量は少なくとも2時間の間隔をあけて投与され、ウイルスへの推定感染または曝露から最大72時間後に初回投与される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項19】
少なくとも1つのウイルス特異的モノクローナル抗体と組み合わせて投与され、前記少なくとも1つのウイルス特異的モノクローナル抗体は腹腔内(IP)または静脈内(IV)に投与され、前記少なくとも1つのウイルス特異的モノクローナル抗体が中和抗体または非中和抗体であり、鼻腔内投与または吸入投与される前記医薬組成物の前記抗体またはその抗原結合フラグメントの少なくとも1つと同じまたは異なる、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記少なくとも1つのウイルス特異的モノクローナル抗体が、非中和ウイルス特異的モノクローナル抗体である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記少なくとも1つのウイルス特異的モノクローナル抗体が、少なくとも5mg/kgの用量で投与され、鼻腔内投与または吸入投与される前記医薬組成物の前記抗体またはその抗原結合フラグメントのそれぞれが1mg/kg以下の用量で投与される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項22】
噴霧器によって投与される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項23】
定量吸入器、定量噴霧ポンプ、手動バルブ噴霧器、小容量または大容量噴霧器、超音波振動メッシュ技術(VMT)噴霧器、超音波噴霧器、および乾燥粉末吸入器から選択される装置によって投与される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項24】
呼吸器ウイルスに曝露するリスクのある、または呼吸器ウイルスの感染の臨床症状を示す対象のインフルエンザウイルスの伝染を阻害するための医薬組成物であって、
(a)配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、および配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、および配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する、第一の抗体またはその抗原結合フラグメント、
(b)配列番号21のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号22のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号23のアミノ酸配列を含むHCDR3を含むHCVRを含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号24のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号25のアミノ酸配列を含むLCDR2、配列番号26のアミノ酸配列を含むLCDR3を含むLCVRを含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する、第二の抗体またはその抗原結合フラグメント、および/または
(c)配列番号241のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号242のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号243のアミノ酸配列を含むHCDR3を含むHCVRを含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号244のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号245のアミノ酸配列を含むLCDR2、配列番号246のアミノ酸配列を含むLCDR3を含むLCVRを含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードそれぞれの1つまたは複数の株と結合する、第三の抗体またはその抗原結合フラグメント
を含み、鼻腔内にまたは吸入により投与される、医薬組成物。
【請求項25】
推定感染、曝露、または臨床症状の拡大から48時間以内に投与される、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
呼吸器ウイルスの推定感染、曝露、または臨床症状の拡大から24時間を超えて72時間以内に投与される、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
それぞれの抗体またはその抗原結合フラグメントが、1mg/kg以下の投与量で製剤化されている、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項28】
それぞれの抗体またはその抗原結合フラグメントが、0.5mg/kg以下の投与量で製剤化されている、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項29】
それぞれの抗体またはその抗原結合フラグメントが、0.1mg/kg以下の投与量で製剤化されている、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項30】
噴霧器によって投与される、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項31】
定量吸入器、定量噴霧ポンプ、手動バルブ噴霧器、小容量または大容量噴霧器、超音波振動メッシュ技術(VMT)噴霧器、超音波噴霧器、および乾燥粉末吸入器から選択される装置によって投与される、請求項24に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】