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特開2022-62165ヒト多能性幹細胞から視床下部ニューロンへの分化誘導
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062165
(43)【公開日】2022-04-19
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞から視床下部ニューロンへの分化誘導
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220412BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20220412BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0735
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014885
(22)【出願日】2022-02-02
(62)【分割の表示】P 2017562850の分割
【原出願日】2017-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2016010940
(32)【優先日】2016-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「ヒトiPS細胞を用いた視床下部-下垂体ホルモン産生細胞の分化誘導法と移植方法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須賀 英隆
(72)【発明者】
【氏名】小川 晃一郎
(72)【発明者】
【氏名】笠井 貴敏
(72)【発明者】
【氏名】有馬 寛
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒト多能性幹細胞から視床下部ニューロンへと効率よく分化誘導する方法を提供する。また、ヒト多能性幹細胞から視床下部組織と下垂体組織が一体化した細胞構造体を構築する方法を提供する。
【解決手段】ヒト多能性幹細胞の凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養するステップと、当該ステップで形成された細胞凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養するステップと、当該ステップで得られた細胞凝集塊を、下垂体及び視床下部の同時誘導に適した培地中で浮遊培養するステップを含む方法によって、視床下部組織と下垂体組織を含む細胞構造体を得る。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(i)~(iii)を含む、視床下部組織と下垂体組織を含む細胞構造体の製造方法:
(i)ヒト多能性幹細胞の凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養するステップ、
(ii)ステップ(i)で形成された細胞凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養するステップ、
(iii)ステップ(ii)で得られた細胞凝集塊を、下垂体及び視床下部の同時誘導に適した培地中で浮遊培養するステップ。
【請求項2】
ステップ(ii)及び(iii)を高酸素分圧条件下で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(ii)とステップ(iii)の間に以下のステップ(a)を行い、ステップ(iii)ではステップ(a)で得られた細胞凝集塊を浮遊培養する、請求項1又は2に記載の製造方法:
(a)ステップ(ii)で得られた細胞凝集塊を、Shhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養するステップ。
【請求項4】
ステップ(a)を高酸素分圧条件下で行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記浮遊培養をフィーダー細胞の非存在下で行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
ステップ(i)における前記凝集塊が、分散させたヒト多能性幹細胞の浮遊培養によって形成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質がBMP4である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
Shhシグナル経路作用物質がSAGである、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(iii)の下垂体及び視床下部の同時誘導に適した培地が、ステップ(ii)に用いる培地と、毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3(NT-3)、ウシ胎児血清、N2 サプリメント、B27 サプリメント及びLM22A-4 から選ばれる少なくとも1種を含む培地との混合培地であり、且つ、該混合培地が血清代替物を含む培地である、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法で得られる、視床下部組織と下垂体組織を含む細胞構造体。
【請求項11】
次の特徴(ア)~(エ)を有する視床下部組織と下垂体組織を含む細胞構造体:
(ア)視床下部組織は、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)陽性である、
(イ)背側視床下部組織は、バゾプレシンニューロン(AVP)陽性、Rx 陽性、Pax6 陽性及びNkx2.1陰性である、
(ウ)腹側視床下部組織は、メラニン凝集ホルモンニューロン(MCH)陽性、Rx 陽性、Pax6 陰性及びNkx2.1 陽性である、及び
(エ)下垂体組織は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)陽性である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト多能性幹細胞を視床下部ニューロンへ分化する技術及びその応用に関する。本出願は、2016年1月22日に出願された日本国特許出願第2016-10940号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
視床下部は、成長・思春期・代謝・ストレス対応・生殖・授乳保育・免疫など、ヒトの体の恒常性を保つための中枢である。特に最近は、糖尿病など生活習慣病の増加に伴う食欲コントロールへの関心が高まっているが、食欲中枢も視床下部に存在する。他にも、視床下部ホルモンの一つであるオキシトシンは、従来から言われてきた射乳・子宮収縮効果以外にも、信頼関係や愛情に関係するとの報告が増えてきており、ヒトの生活に深く関わるホルモンと判明してきた。
【0003】
視床下部が異常を来すと正常なホルモン分泌が行われず、中枢性尿崩症等の疾患、摂食障害、睡眠障害などが引き起こされる。視床下部の異常によるホルモン分泌不全に対してはホルモン補充療法が行われている。しかし、ホルモン補充療法には限界があり、十分な効果が得られないことも多い。本来、ホルモンの分泌量は環境の変化に対応して調節される。このような生体が備える調節機構を、外部からの補充によって再現することは事実上、不可能といえる。
【0004】
視床下部は脳の深部にあり、また小さな領域であることから、実際の組織を取り出して研究に用いることは困難であった。一方、ES細胞等の多能性幹細胞から視床下部ニューロンを作製することが試みられている。例えば、2008年にWatayaらは、SFEBq法を開発し、マウスES細胞から視床下部AVP産生細胞を分化誘導する手法を確立した(非特許文献1)。SFEBq法では血清や成長因子を含まないgfCDM培地を使用し、非接着性のプレート内で細胞を凝集させて3次元浮遊培養を行い、神経組織へと分化させる。2015年には、Merkleらが3次元浮遊培養及び2次元平面培養の2種類の方法を用い、ヒトES細胞及びiPS細胞から視床下部ニューロンの分化誘導に成功した(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wataya T. et al., Minimization of exogenous signals in ES cell culture induces rostral hypothalamic differentiation. Proc Natl Acad Sci USA 105(33): 11796-11801 (2008).
【非特許文献2】Merkle FT et al., Generation of neuropeptidergic hypothalamic neurons from human pluripotent stem cells. Development. 2015 Feb 15;142(4):633-43.
【非特許文献3】Ozone C et al., Functional anterior pituitary generated in self-organizing culture of human embryonic stem cells. Nat Commun. 2016 Jan 14;7:10351.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、多能性幹細胞を視床下部ニューロンへと分化誘導することが試みられている。しかしながら、Watayaらの方法では、ヒトES細胞ではうまく分化しなかった。また、Merkleらの方法では、3次元培養ではAVP分化効率が非常に悪く(分化効率0.2%程度)、2次元培養ではAVPニューロンの分化に成功していない。
【0007】
ヒト多能性幹細胞(ES細胞やiPS細胞)を視床下部ニューロンへと分化誘導する方法、換言すれば視床下部組織を構築する方法を確立できれば、視床下部の障害に対する治療法の開発が大きく前進する。例えば、中枢性尿崩症患者から樹立された疾患特異的iPS細胞を用いた病態解析や治療法の開発が可能となる。また、移植医療への適用も期待できる。
【0008】
一方、視床下部と下垂体は、本来は機能的に不可分なものであることから、視床下部と下垂体が機能的に一体化した構造体は、視床下部及び/又は下垂体を標的とした創薬スクリーニング等に極めて有効なツールである。また、当該構造体は視床下部及び/又は下垂体の機能不全に対する移植材料としても有用性が高い。
【0009】
以上の背景の下、本発明は、ヒト多能性幹細胞を視床下部ニューロンへと効率よく分化誘導する方法の提供を第1の課題とする。また、ヒト多能性幹細胞から視床下部組織と下垂体組織が一体化した細胞構造体を構築する方法の提供を第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を重ねた。まず、Merkleらの方法は、必ずしも発生の順に沿った分化法ではなく、彼らの結果から推測するに、視床下部のなかでも腹側へ分化しているものと考えられた。一般にAVPニューロンは視床下部背側において認められる。そこで本発明者らは発生の各段階を順に再現する分化条件を検索し最適化することで、視床下部内の誘導位置を更に精密に制御し、結果として背側視床下部のAVPニューロンを得られるようにしようと考えた。各分化ステップのマーカーとして、視床下部初期マーカーであるRx(retina and anterior neural fold homeobox)、次に背側マーカーであるPax6(paired box 6)、そしてAVPのBona fideマーカーであるOtp(orthopedia homeobox)とBrn2(POU3F2、POU class 3 homeobox 2等としても知られる)、最後にAVPを設定した。
【0011】
まず、Watayaらの方法(非特許文献1)に倣って、成長因子を含まない化学合成培地(growth-factor-free Chemica11y Defined Medium; gfCDM)のみを使用して分化を試みたところ、細胞がうまく凝集塊を形成しなかった。栄養不足が原因と考え、血清代替物KSRを培地に少量添加したところ、凝集塊はできたが、終脳へと位置情報がずれてしまった。そこで、BMP4シグナルを加えたところ、視床下部マーカーであるRxと背側マーカーであるPax6が共陽性になったが、網膜マーカーChx10も陽性となり、神経網膜になっていることが判明した。そこで、腹側化因子のShh(Sonic hedgehog)シグナル(ShhアゴニストであるSAG)を加えたところ、視床下部前駆細胞へと分化させることが可能になった。
【0012】
更なる検討の結果、KSR濃度、BMP4シグナルとShhシグナル(SAG)の濃度を調整し、また、別の腹側化シグナルであるAkt阻害剤の少量の添加の有無により、背側視床下部と腹側視床下部の作り分けに成功した。即ち、背側視床下部誘導条件と、腹側視床下部誘導条件が見出された。背側視床下部誘導条件にて浮遊培養を継続した結果、OtpとBrn2の発現を確認し、培養100日目でAVPの発現を確認したが、その数はわずかであった。そこで、神経発生に有利とされる分散培養を組み入れたところ、培養150日目でAVPニューロンの出現を確認した。また、このAVPニューロンが実際にAVPホルモンを分泌することを確認した。さらに、AVPニューロンが刺激試験において良好な反応性を示した。
【0013】
背側視床下部誘導条件又は腹側視床下部誘導条件で培養すると、AVPニューロン以外の視床下部ニューロンも分化誘導できることが確認された。腹側視床下部条件で培養を継続した場合は、背側視床下部誘導条件よりも高率にMCHニューロン等の腹側視床下部ニューロンが認められた。
【0014】
一方、視床下部ニューロン成熟条件(分散培養用の培地の使用)を組み合わせるとともに、各段階の条件を調整することによって、一つの細胞塊から視床下部と下垂体の双方を分化・成熟させることに成功した。
【0015】
以上のように、今回の検討の結果、Merkleらの方法と比較して、より高率に視床下部ニューロン(例えばAVPニューロン)へ分化誘導することが可能になった。また、視床下部の背側と腹側とを正確に作り分けることが可能になった結果、分化誘導そのものをより精密にコントロールできるようになった。AVPニューロンのみならず、愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンを産生するニューロンや、食欲に関連する複数の視床下部ホルモン産生ニューロンも分化誘導可能になった。更には、視床下部と下垂体が機能的に一体化した構造体の構築にも成功した。
以下の発明は、主として上記の成果に基づく。
[1]以下のステップ(1)及び(2)を含む、視床下部組織を含む細胞構造体の製造方法:
(1)ヒト多能性幹細胞の凝集塊を、低濃度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及び低濃度のShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養するステップ、
(2)ステップ(1)で得られた細胞凝集塊を、低濃度のShhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養するステップ。
[2]ステップ(2)を高酸素分圧条件下で行う、[1]に記載の製造方法。
[3]以下のステップ(3)を更に含む、[1]又は[2]に記載の製造方法:
(3)ステップ(2)で得られた細胞凝集塊を回収し、細胞凝集塊を構成する細胞を分散培養するステップ。
[4]ステップ(3)を高酸素分圧条件下で行う、[3]に記載の製造方法。
[5]ステップ(1)における前記骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質がBMP4であり、培地中のその濃度が0.1 nM~5.0 nMであり、
ステップ(1)及び(2)における前記Shhシグナル経路作用物質がSAGであり、培地中のその濃度が0.1μM~2.0μMであり、
前記ステップ(1)及び(2)によって背側視床下部組織への分化が誘導される、
[1]~[4]のいずれか一項に記載の製造方法。
[6]前記背側視床下部組織はバゾプレシンニューロン、オキシトシンニューロン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンニューロン、コルチコトロピン放出ホルモンニューロン及びニューロペプチドYニューロンからなる群より選択される一以上のニューロンを含む、[5]に記載の製造方法。
[7]ステップ(1)における前記骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質がBMP4であり、培地中のその濃度が0.1 nM~3.0 nMであり、
ステップ(1)及び(2)における前記Shhシグナル経路作用物質がSAGであり、培地中のその濃度が0.1μM~2.0μMであり、
前記培地がAkt阻害剤を更に含み、
前記ステップ(1)及び(2)によって腹側視床下部組織への分化が誘導される、[1]~[4]のいずれか一項に記載の製造方法。
[8]前記腹側視床下部組織はアグーチ関連タンパク質ニューロン、プロオピオメラノコルチンニューロン、メラニン凝集ホルモンニューロン及びOrexinニューロンからなる群より選択される一以上のニューロンを含む、[7]に記載の製造方法。
[9]前記浮遊培養をフィーダー細胞の非存在下で行う、[1]~[8]のいずれか一項に記載の製造方法。
[10]ステップ(1)における前記凝集塊が、分散させたヒト多能性幹細胞の浮遊培養によって形成される、[1]~[9]のいずれか一項に記載の製造方法。
[11]前記浮遊培養を無血清凝集浮遊培養法で行う、[10]に記載の製造方法。
[12]以下のステップ(i)~(iii)を含む、視床下部組織と下垂体組織を含む細胞構造体の製造方法:
(i)ヒト多能性幹細胞の凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養するステップ、
(ii)ステップ(i)で形成された細胞凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養するステップ、
(iii)ステップ(ii)で得られた細胞凝集塊を、下垂体及び視床下部の同時誘導に適した培地中で浮遊培養するステップ
[13]ステップ(ii)及び(iii)を高酸素分圧条件下で行う、[12]に記載の製造方法。
[14]ステップ(ii)とステップ(iii)の間に以下のステップ(a)を行い、ステップ(iii)ではステップ(a)で得られた細胞凝集塊を浮遊培養する、[12]又は[13]に記載の製造方法:
(a)ステップ(ii)で得られた細胞凝集塊を、Shhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養するステップ。
[15]ステップ(a)を高酸素分圧条件下で行う、[12]~[14]のいずれか一項に記載の製造方法。
[16]前記浮遊培養をフィーダー細胞の非存在下で行う、[12]~[15]のいずれか一項に記載の製造方法。
[17]ステップ(i)における前記凝集塊が、分散させたヒト多能性幹細胞の浮遊培養によって形成される、[12]~[16]のいずれか一項に記載の製造方法。
[18]骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質がBMP4である、[12]~[17]のいずれか一項に記載の製造方法。
[19]Shhシグナル経路作用物質がSAGである、[12]~[18]のいずれか一項に記載の製造方法。
[20][1]~[19]のいずれか一項に記載の製造方法で得られる細胞構造体。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】マウスES細胞のAVPニューロンへの分化(左)とヒトES細胞の培養結果(右)。マウスES細胞で有効な分化法をヒトES細胞に適用しても細胞塊は形成されなかった。AVP:緑。
図2】血清代替物KSRを低濃度で含有する培地を用いた分化。凝集塊は形成されたが(左)、終脳へと分化した(右)。Rx::Venus:緑、Bf1:赤、DAPI:青。
図3】血清代替物KSRを低濃度で含有し、且つBMP4シグナルを含有する培地を用いた分化。視床下部マーカーRxと背側マーカーPax6が共陽性になったが、網膜マーカーChx10も陽性になった。Rx::Venus:緑、Pax6:赤、Nkx2.1(NKX2-1 NK2 homeobox 1):白、DAPI:青、Chx10:赤。
図4】血清代替物KSRを低濃度で含有し、BMP4シグナルを含有し、且つShhシグナル(ShhアゴニストであるSAG)を含有する培地を用いた分化。視床下部前駆細胞へと分化させることが可能になった(左)。Rx::Venus:緑、Pax6:赤、Nkx2.1:白、DAPI:青。視床下部前駆細胞の分化効率は80%を超えた(右)。
図5】背側視床下部誘導条件での培養30日目の細胞構造体(左)と、腹側視床下部誘導条件での培養30日目の細胞構造体(右)。Rx::Venus:緑、Pax6:赤、Nkx2.1:白、DAPI:青。
図6】背側視床下部誘導条件での培養60日目の細胞構造体。Opt:赤、DAPI:青、Brn2:白。
図7】背側視床下部誘導条件(分散培養なし)での培養103日目の細胞構造体。AVP:赤、DAPI:青。
図8】背側視床下部誘導条件(分散培養あり)での培養150日目の細胞構造体。AVP:赤、DAPI:青。
図9】背側視床下部誘導条件(分散培養あり)で構築された細胞構造体の産生するAVPホルモンの測定結果(左)とKCl刺激試験の結果(右)。
図10】背側視床下部誘導条件(分散培養あり)での培養130~150日目の細胞構造体に認められた視床下部ニューロン(下)と、各視床下部ニューロンの生体での局在(上)。OXT:緑、TRH:赤、CRH:赤、NPY:赤、AgRP:赤、POMC:赤、MCH:赤、Orexin:緑。
図11】各視床下部ニューロンの分化効率の比較。神経細胞1,000個あたりの免疫染色陽性ニューロンの数で比較した。
図12】腹側視床下部誘導条件での培養150日目の細胞構造体。MCH:赤、DAPI:青。
図13】視床下部と下垂体の同時成熟条件での培養150日目の細胞構造体。DAPI:青、CRH:緑、ACTH:赤。
図14】背側視床下部誘導法の概略図。
図15】腹側視床下部誘導法の概略図。
図16】視床下部と下垂体の同時成熟法の概略図(前半)。
図17】視床下部と下垂体の同時成熟法の概略図(後半)。
図18】ヒトiPS細胞(201B7株)を分化させて得られた視床下部AVPニューロンの免疫染色像。AVP:緑、DAPI:青。
図19】視床下部と下垂体の同時成熟条件でヒトiPS細胞を培養して得られた構造体のACTH分泌能。* p<0.05、** p<0.01
図20】下垂体(前葉)と視床下部を分離し、下垂体(前葉)のみを培養した場合(A)と、下垂体(前葉)と視床下部を再度隣接させて培養した場合(B)のACTH分泌能の比較。培養150日目の培養液中のACTH濃度を測定した(右)。* p<0.05
図21】CRHによるACTH刺激試験の概要を示す模式図(右)と試験結果(左)。* p<0.05。中央は免疫染色像。DAPI:青、ACTH:緑、CRH-R1:赤。
図22】デキサメサゾンによるACTH抑制試験の概要を示す模式図(右)と試験結果(左)。* p<0.05
図23】CRH-R1阻害薬によるACTH抑制試験の概要を示す模式図(右)と試験結果(左と中央)。* p<0.05
図24】低グルコースによるACTH分泌試験、及び低グルコース+CRH-R1阻害薬負荷試験の概要を示す模式図(右)と試験結果(左と中央)。* p<0.05、** p<0.01
図25】既報の方法で分化誘導して得られた構造体の免疫染色像(左、中央)と、対応する模式図(右)。ACTH:赤、Lim3:緑、Rx:緑、AVP:赤。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.視床下部組織を含む細胞構造体の製造方法
本発明の第1の局面は、視床下部組織を含む細胞構造体を製造する方法に関する。視床下部は弓状核、室傍核、側室周囲核、視索上核、視索前核、背内側視床下部核、腹内側視床下部核、後核などから構成される。視床下部には神経細胞と内分泌細胞の両方の機能を合わせ持つ細胞群が存在する。視床下部をその位置関係から背側視床下部と腹側視床下部に大別することができる。背側視床下部と腹側視床下部には各々特徴的な神経細胞(視床下部ニューロン)が存在する。視床下部において主に背側寄りに局在を認める神経細胞にはバゾプレシン(AVP)ニューロン、オキシトシン(OXT)ニューロン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)ニューロン、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)ニューロン、ニューロペプチドY(NPY)ニューロン等があり、主に腹側寄りに局在を認める神経細胞にはアグーチ関連タンパク質(AgRP)ニューロン、プロオピオメラノコルチン(POMC)ニューロン、メラニン凝集ホルモン(MCH)ニューロン、Orexinニューロン等がある。
【0018】
本発明では、背側視床下部と腹側視床下部を総称する用語として視床下部組織を使用する。従って、特に言及のない限り、用語「視床下部組織」は、背側視床下部又は腹側視床下部、或いはこれらの両者を含む組織を意味する。
【0019】
本発明の製造方法では、以下のステップ(1)及び(2)を行う。
(1)ヒト多能性幹細胞の凝集塊を、低濃度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及び低濃度のShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養するステップ
(2)ステップ(1)で得られた細胞凝集塊を、Shhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養するステップ
【0020】
ステップ(1)
ステップ(1)では、まず、ヒト多能性幹細胞の凝集塊を用意する。「ヒト多能性幹細胞」とは、生体を構成するすべての細胞に分化しうる能力(分化多能性)と、細胞分裂を経て自己と同一の分化能を有する娘細胞を生み出す能力(自己複製能)とを併せ持つヒト細胞をいう。分化多能性は、評価対象の細胞を、ヌードマウスに移植し、三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)のそれぞれの細胞を含むテラトーマ形成の有無を試験することにより、評価することができる。
【0021】
多能性幹細胞として、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)等を挙げることができるが、分化多能性及び自己複製能を併せ持つ細胞である限り、これに限定されない。本発明においては、ES細胞又はiPS細胞が好適に用いられる。
【0022】
ES細胞は、例えば、着床以前の初期胚、当該初期胚を構成する内部細胞塊、単一割球等を培養することによって樹立することができる(Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press 1994);Thomson,J. A. et al.,Science, 282,1145-1147(1998))。初期胚として、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を用いてもよい(Wilmut et al.(Nature, 385, 810(1997))、Cibelli et al. (Science, 280, 1256(1998))、入谷明ら(蛋白質核酸酵素, 44, 892 (1999))、Baguisi et al. (Nature Biotechnology, 17, 456 (1999))、Wakayama et al. (Nature, 394, 369 (1998); Nature Genetics, 22, 127 (1999); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 14984 (1999))、Rideout III et al. (Nature Genetics, 24, 109 (2000)、Tachibana et al. (Human Embryonic Stem Cells Derived by Somatic Cell Nuclear Transfer, Cell (2013) in press)。初期座として、単為発生胚を用いてもよいKim et al. (Science, 315, 482-486 (2007))、Nakajima et al. (Stem Cells, 25, 983-985 (2007))、Kim et al. (Cell Stem Cell, 1, 346-352 (2007))、Revazova et al. (Cloning Stem Cells, 9, 432-449 (2007))、Revazova et al.(Cloning Stem Cells, 10, 11-24 (2008))。上掲の論文の他、ES細胞の作製についてはStrelchenko N., et al. Reprod Biomed Online. 9: 623-629, 2004;Klimanskaya I., et al. Nature 444: 481-485, 2006;Chung Y., et al. Cell Stem Cell 2: 113-117, 2008;Zhang X., et al Stem Cells 24: 2669-2676, 2006;Wassarman, P.M. et al. Methods in Enzymology, Vol.365, 2003等が参考になる。尚、ES細胞と体細胞の細胞融合によって得られる融合ES細胞も、本発明の方法に用いられる胚性幹細胞に含まれる。
【0023】
ES細胞の中には、保存機関から入手可能なもの、或いは市販されているものもある。例えば、ヒトES細胞については京都大学再生医科学研究所(例えばKhES-1、KhES-2及びKhES-3)、WiCell Research Institute、ESI BIOなどから入手可能である。
【0024】
EG細胞は、始原生殖細胞を、LIF、bFGF、SCFの存在下で培養すること等により樹立することができる(Matsui et al., Cell, 70, 841-847 (1992)、Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95 (23), 13726-13731 (1998)、Turnpenny et al., Stem Cells, 21(5), 598-609, (2003))。
【0025】
「誘導多能性幹細胞(iPS細胞)」とは、初期化因子の導入などにより体細胞(例えば線維芽細胞、皮膚細胞、リンパ球等)をリプログラミングすることによって作製される、分化多能性と自己複製能を有する細胞である。iPS細胞はES細胞に近い性質を示す。iPS細胞の作製に使用する体細胞は特に限定されず、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。iPS細胞は、これまでに報告された各種方法によって作製することができる。また、今後開発されるiPS細胞作製法を適用することも当然に想定される。
【0026】
iPS細胞作製法の最も基本的な手法は、転写因子であるOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Mycの4因子を、ウイルスを利用して細胞へ導入する方法である(Takahashi K, Yamanaka S: Cell 126 (4), 663-676, 2006; Takahashi, K, et al: Cell 131 (5), 861-72, 2007)。ヒトiPS細胞についてはOct4、Sox2、Lin28及びNonogの4因子の導入による樹立の報告がある(Yu J, et al: Science 318(5858), 1917-1920, 2007)。c-Mycを除く3因子(Nakagawa M, et al: Nat. Biotechnol. 26 (1), 101-106, 2008)、Oct3/4及びKlf4の2因子(Kim J B, et al: Nature 454 (7204), 646-650, 2008)、或いはOct3/4のみ(Kim J B, et al: Cell 136 (3), 411-419, 2009)の導入によるiPS細胞の樹立も報告されている。また、遺伝子の発現産物であるタンパク質を細胞に導入する手法(Zhou H, Wu S, Joo JY, et al: Cell Stem Cell 4, 381-384, 2009; Kim D, Kim CH, Moon JI, et al: Cell Stem Cell 4, 472-476, 2009)も報告されている。一方、ヒストンメチル基転移酵素G9aに対する阻害剤BIX-01294やヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(VPA)或いはBayK8644等を使用することによって作製効率の向上や導入する因子の低減などが可能であるとの報告もある(Huangfu D, et al: Nat. Biotechnol. 26 (7), 795-797, 2008; Huangfu D, et al: Nat. Biotechnol. 26 (11), 1269-1275, 2008; Silva J, et al: PLoS. Biol. 6 (10), e 253, 2008)。遺伝子導入法についても検討が進められ、レトロウイルスの他、レンチウイルス(Yu J, et al: Science 318(5858), 1917-1920, 2007)、アデノウイルス(Stadtfeld M, et al: Science 322 (5903), 945-949, 2008)、プラスミド(Okita K, et al: Science 322 (5903), 949-953, 2008)、トランスポゾンベクター(Woltjen K, Michael IP, Mohseni P, et al: Nature 458, 766-770, 2009; Kaji K, Norrby K, Pac a A, et al: Nature 458, 771-775, 2009; Yusa K, Rad R, Takeda J, et al: Nat Methods 6, 363-369, 2009)、或いはエピソーマルベクター(Yu J, Hu K, Smuga-Otto K, Tian S, et al: Science 324, 797-801, 2009)を遺伝子導入に利用した技術が開発されている。
【0027】
iPS細胞への形質転換、即ち初期化(リプログラミング)が生じた細胞はFbxo15、Nanog、Oct/4、Fgf-4、Esg-1及びCript等の多能性幹細胞マーカー(未分化マーカー)の発現などを指標として選択することができる。
【0028】
iPS細胞は、例えば、国立大学法人京都大学又は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターから提供を受けることもできる。
【0029】
ヒト多能性幹細胞は公知の方法により、生体外(in vitro)で維持することができる。臨床応用を視野に入れた場合等、安全性の高い細胞を提供することが望まれる場合には、多能性幹細胞を、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)を用いた無血清培養や、無フィーダー細胞培養により維持することが好ましい。血清を使用(又は併用)するのであれば、自己血清(即ちレシピエントの血清)を使用するとよい。
【0030】
ステップ(1)で使用する「ヒト多能性幹細胞の凝集塊」は、分散させたヒト多能性幹細胞を、培養器に対して非接着性の条件下で培養し(即ち、浮遊培養し)、複数のヒト多能性幹細胞を集合させて凝集塊を形成させることにより、得ることができる。
【0031】
この凝集塊形成に用いる培養器は特に限定されない。例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マイクロポア、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトル等を用いることができる。非接着性の条件下での培養を可能にするため、細胞非接着性の培養面を有する培養器を用いることが好ましい。該当する培養器としては、培養器の細胞非接着性になるように表面(培養面)処理したもの、細胞の接着性向上のための処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)が表面(培養面)に施されていないもの、を挙げることができる。
【0032】
凝集塊の形成に用いる培地は、哺乳動物細胞の培養に用いる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、Ham's F-12培地、RPMI1640培地、Fischer's培地、Neurobasal培地、及びこれらの混合培地など、哺乳動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。一態様において、IMDM培地及びHam's F-12培地の混合培地が用いられる。混合比は、容量比で、例えば、IMDM:Ham's F-12=O.8~1.2:1.2~0.8である。
【0033】
血清含有培地、無血清培地のいずれを使用することもできる。無血清培地とは、血清を含まない培地である。精製した血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)を含有する培地は、血清自体を含まない限りにおいて、無血清培地に該当する。未知の或いは意図しない成分の混入を回避するため等の観点から、無血清培地を用いることが好ましい。
【0034】
凝集塊の形成に用いる培地が血清代替物を含有していてもよい。血清代替物は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール又は3'チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを含有し得る。公知の方法(例えばW0 98/30679を参照)により血清代替物を調製することができる。市販の血清代替物を用いることもできる。市販の血清代替物の例として、KSR(Invitrogen社製)、Chemically-defined Lipid concentrated (Gibco社製)、Glutamax (Gibco社製)が挙げられる。
【0035】
凝集塊の形成に用いる培地は、ヒト多能性幹細胞から、目的の組織への分化誘導に悪影響を与えないことを条件に他の添加物を含むことができる。ここでの添加物として、例えば、インスリン、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL-グルタミン等)、還元剤(例えば2-メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d-ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)を挙げることができる。
【0036】
例えば、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の形成に際しては、まず、ヒト多能性幹細胞を継代培養から回収し、これを、単一細胞、又はこれに近い状態にまで分散する。ヒト多能性幹細胞の分散は、適切な細胞解離液を用いて行うことができる。細胞解離液としては、例えば、EDTA-トリプシン、コラゲナーゼIV、メタロプロテアーゼ等のタンパク分解酵素等を単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。細胞障害性が少ないものが好ましい。このような細胞解離液として、例えば、ディスパーゼ(エーディア)、TrypLE (Invitrogen)又はアキュターゼ(MILLIPORE)等の市販品が入手可能である。分散されたヒト多能性幹細胞は上記培地中に懸濁される。
【0037】
分散したヒト多能性幹細胞の懸濁液を培養器中に播き、分散したヒト多能性幹細胞を培養器に対して非接着性の条件下で培養することにより、複数のヒト多能性幹細胞が集合し凝集塊を形成する。この際、分散したヒト多能性幹細胞を比較的大きな培養器(例えば10cmディッシュ)に播種し、1つの培養コンパートメント中に複数のヒト多能性幹細胞の凝集塊を同時に形成させてもよいが、このようにすると凝集塊毎の大きさや、凝集塊に含まれるヒト多能性幹細胞の数に大きなばらつきが生じ得る。そして、このばらつきが原因となり、凝集塊間で分化の程度に差が生じ、結果として分化誘導効率が低下してしまう。そこで、分散したヒト多能性幹細胞を迅速に凝集させ、1つの培養コンパートメント中に1つの凝集塊を形成させることが好ましい。分散したヒト多能性幹細胞を迅速に凝集させる方法としては、例えば、以下の方法(1)及び(2)を挙げることができる。
(1)比較的小さな体積(例えば、1ml以下、500μl以下、200μl以下、100μl以下)の培養コンパートメント中に、分散したヒト多能性幹細胞を閉じ込め、コンパートメント中に1個の凝集塊を形成させる。好ましくは、分散したヒト多能性幹細胞を閉じ込めた後、培養コンパートメントを静置する。培養コンパートメントとしては、マルチウェルプレート(384ウェル、192ウェル、96ウェル、48ウェル、24ウェル等)、マイクロポア、チャンバースライド等におけるウェルや、チューブ、ハンギングドロップ法における培地の液滴等を挙げることができるが、これらに限定されない。コンパートメントに閉じ込められた、分散したヒト多能性幹細胞が重力の作用で1箇所に沈殿し、或いは細胞同士が接着することにより、1つのコンパートメントにつき1つの凝集塊が形成される。マルチウェルプレート、マイクロポア、チャンバースライド、チューブ等の底の形状は、分散したヒト多能性幹細胞が1箇所へ沈殿するのが容易となるようにU底又はV底であることが好ましい。
(2)分散したヒト多能性幹細胞を遠心チューブに入れて遠心し、1箇所にヒト多能性幹細胞を沈殿させる。チューブ中に1個の凝集塊が形成される。
【0038】
1つの培養コンパートメント中に播くヒト多能性幹細胞の数は、1つの培養コンパートメントにつき1つの凝集塊が形成され、且つ本発明の方法によって、該凝集塊において、ヒト多能性幹細胞から目的の組織(視床下部組織、視床下部と下垂体組織)への分化誘導が可能であれば特に限定されないが、1つの培養コンパートメントにつき、通常約1×103~約5×104個、好ましくは約1×103~約2×104個、より好ましくは約2×103~約1.2×104個のヒト多能性幹細胞を播く。そして、ヒト多能性幹細胞を迅速に凝集させることにより、1つの培養コンパートメントにつき、通常約1×103~約5×104個、好ましくは約1×103~約2×104個、より好ましくは約2×103~約1.2×104個のヒト多能性幹細胞からなる細胞凝集塊が1個形成される。
【0039】
凝集塊形成までの時間は、1つの培養コンパートメントにつき1つの凝集塊が形成され、且つ本発明の方法によって、該凝集塊において、ヒト多能性幹細胞から目的の組織への分化誘導が可能な範囲で適宜決定可能であるが、目的の組織への効率よい分化誘導のためには、この時聞は短いことが好ましい。好ましくは、24時間以内、より好ましくは12時間以内、さらに好ましくは6時間以内、最も好ましくは、2~3時間でヒト多能性幹細胞の凝集塊を形成させる。この凝集塊形成までの時間は、細胞を凝集させるための器具や条件(例えば遠心処理の条件)などの設定ないし調整によって当業者であれば適宜調節することが可能である。
【0040】
凝集塊形成時の培養温度、C02濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は特に限定されるものではないが、例えば約30~40℃、好ましくは約37℃である。また、C02濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約5%である。
【0041】
同一培養条件の培養コンパートメントを複数用意し、各培養コンパートメントにおいて1個のヒト多能性幹細胞の凝集塊を形成させることにより、質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団を得ることができる。ヒト多能性幹細胞の凝集塊が質的に均一であることは、凝集塊のサイズ及び細胞数、巨視的形態、組織染色解析による微視的形態及びその均一性、分化及び未分化マーカーの発現及びその均一性、分化マーカーの発現制御及びその同期性、分化効率の凝集塊間の再現性などに基づき評価することが可能である。一態様において、本発明の方法に用いる、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団は、凝集塊中に含まれるヒト多能性幹細胞の数が均一である。特定のパラメーターについて、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団が「均一」とは、凝集塊の集団全体のうちの90%以上の凝集塊が、当該凝集塊の集団における当該パラメーターの平均値±10%の範囲内、好ましくは、平均値±5%の範囲内であることを意味する。
【0042】
ステップ(1)では、ヒト多能性幹細胞の凝集塊を、低濃度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及び低濃度のShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養する。
【0043】
凝集塊を「浮遊培養する」とは、凝集塊を、培地中において、培養器に対して非接着性の条件下で培養することをいう。浮遊培養に用いられる培地は、低濃度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及び低濃度のShhシグナル経路作用物質を含む。骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質の作用により、ヒト多能性幹細胞の視床下部への分化が誘導される。
【0044】
浮遊培養に用いる培養器は特に限定されない。例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マイクロポア、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトル等を用いることができる。非接着性の条件下での培養を可能にするため、細胞非接着性の培養面を有する培養器を用いることが好ましい。該当する培養器としては、培養器の細胞非接着性になるように表面(培養面)処理したもの、細胞の接着性向上のための処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)が表面(培養面)に施されていないもの、を挙げることができる。
【0045】
浮遊培養に用いる培養器として、酸素透過性のものを用いても良い。酸素透過性の培養器を用いることにより、細胞凝集塊への酸素の供給が向上し、細胞凝集塊の長期間の維持培養に寄与しうる。
【0046】
細胞凝集塊の浮遊培養に際しては、細胞凝集塊の培養器に対する非接着状態を維持できる限り、細胞凝集塊を静置培養してもよいし、旋回培養や振とう培養により凝集塊を意識的に動かしてもよい。但し、本発明においては、旋回培養や振とう培養により凝集塊を意識的に動かす必要はない。即ち、一態様において、本発明の製造方法における浮遊培養は、静置培養により行われる。静置培養とは、凝集塊を意識的に移動させない状態で培養する培養法のことをいう。例えば、局所的な培地温度の変化に伴って培地が対流し、その流れによって凝集塊が移動することがあるが、意識的に凝集塊を移動させていないことから、この様な場合も静置培養に該当する。浮遊培養の全期間を通じて静置培養を実施してもよいし、一部の期間のみ静置培養を実施してもよい。好ましい態様において、浮遊培養の全期間を通じて、静置培養を行う。静置培養は特別の装置が不要であること、細胞塊のダメージも少ないことが期待されること、培養液の量も少なくできることなど、多くの利点を有する。
【0047】
フィーダー細胞の存在下/非存在下いずれの条件で細胞凝集塊の浮遊培養を行ってもよいが、未決定因子の混入を回避する観点からフィーダー細胞の非存在下で細胞凝集塊の浮遊培養を行うのが好ましい。
【0048】
細胞凝集塊の浮遊培養における培養温度、C02濃度、02濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30~40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約5%である。02濃度は、例えば約20%である。
【0049】
本発明において、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質は、骨形成因子と受容体との結合によってシグナルが伝達される経路を活性化する物質を意味する。骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の例としてはBMP2、BMP4、BMP7、GDF5などが挙げられる。好ましくは、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてBMP4を用いる。以下、主にBMP4について記載するが、本発明において使用される骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質はBMP4に限定されない。BMP4は公知のサイトカインであり、そのアミノ酸配列も公知である。本発明に用いるBMP4は哺乳動物のBMP4である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブ夕、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類を挙げることができる。BMP4は、好ましくは、げっ歯類(マウス、ラット等)又は霊長類(ヒト等)のBMP4であり、最も好ましくはヒトBMP4である。ヒトBMP4とは、ヒトが生体内で天然に発現するBMP4のアミノ酸配列を有するBMP4のことを意味する。ヒトBMP4の代表的なアミノ酸配列としては、NCBIのアクセッション番号で、NP_001193.2(2013年6月15日更新)、NP_570911.2(2013年6月15日更新)、NP_570912.2(2013年6月15日更新)、これらのアミノ酸配列のそれぞれからN末端シグナル配列(1-24)を除いたアミノ酸配列(成熟型ヒトBMP4アミノ酸配列)を例示することができる。
【0050】
本発明におけるShhシグナル経路作用物質は、Shhにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り、特に限定されない。Shhシグナル経路作用物質としては、例えば、Hedgehogファミリーに属する蛋白(例えば、Shh)、Shh受容体、Shh受容体アゴニスト、Purmorphamine、Smoothened Agonist (SAG) (3-Chloro-N-[trans-4-(methylamino)cyclohexyl]-N-[[3-(4-pyridinyl)phenyl]methyl]-benzo[b]thiophene-2-carboxamide)及びHh-Ag1.5(3-chloro-4,7-difluoro-N-(4-(methylamino)cyclohexyl)-N-(3(pyridin-4-yl)benzyl)benzo[b]thiophene-2-carboxamide)を挙げることができる。特にSAGが好ましい。
【0051】
骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質とShhシグナル経路作用物質の好ましい組合せは、BMP4及びSAGの組合せである。
【0052】
本発明では、視床下部組織への分化を誘導するために、低濃度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及び低濃度のShhシグナル経路作用物質を含有する培地を使用する。一態様(以下、「第1態様」と呼ぶ)では背側視床下部組織への分化を誘導する。この態様において、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてBMP4を用いる場合の「低濃度」とは、例えば0.1 nM~5.0 nM、好ましくは0.5 nM~4.0 nM、更に好ましくは1.0 nM~3.0 nMである。骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度は、ステップ(1)の全ての期聞に亘り一定でなくてもよい。例えば、浮遊培養の開始から3日間~8日間(具体例は6日間)は培地に骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を添加せず、その後、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を培地へ添加してもよい。また、培養途中で骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度を低減させてもよい。例えば、浮遊培養の開始から3日間~8日間(具体例は6日間)は培地に骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を添加せず、その後の6日間~12日間(具体例は9日間)は、培地中の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度が比較的高い条件(例えばBMP4を1.0 nM~3.0 nM含む培地を使用する)とし、続く1日間~5日間(具体例は3日間)は、培地中の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度が低下した条件(例えばBMP4を0.5 nM~1.5 nM含む培地を使用する)で培養する。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0053】
一方、第1態様において、Shhシグナル経路作用物質としてSAGを用いる場合の「低濃度」とは、例えば0.1μM~2.0μM、好ましくは0.2μM~1.5μM、更に好ましくは0.3μM~1.0μMである。Shhシグナル経路作用物質の濃度は、ステップ(1)の全ての期間に亘り一定でなくてもよい。例えば、浮遊培養の開始から3日間~8日間(具体例は6日間)は培地にShhシグナル経路作用物質を添加せず、その後、Shhシグナル経路作用物質を培地へ添加してもよい。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0054】
別の一態様(以下、「第2態様」と呼ぶ)では腹側視床下部への分化を誘導する。この態様において、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてBMP4を用いる場合の「低濃度」とは、例えば0.1 nM~3.0 nM、好ましくは0.3 nM~2.0 nM、更に好ましくは0.5 nM~1.5 nMである。骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度は、ステップ(1)の全ての期聞に亘り一定でなくてもよい。例えば、浮遊培養の開始から3日間~8日間(具体例は6日間)は培地に骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を添加せず、その後、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を培地へ添加してもよい。また、培養途中で骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度を低減させてもよい。例えば、浮遊培養の開始から3日間~8日間(具体例は6日間)は培地に骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を添加せず、その後の6日間~12日間(具体例は9日間)は、培地中の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度が比較的高い条件(例えばBMP4を0.5 nM~1.5 nM含む培地を使用する)とし、続く1日間~5日間(具体例は3日間)は、培地中の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度が低下した条件(例えばBMP4を0.25 nM~0.75 nM含む培地を使用する)で培養する。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0055】
一方、第2態様において、Shhシグナル経路作用物質としてSAGを用いる場合の「低濃度」とは、例えば0.1μM~2.0μM、好ましくは0.2μM~1.5μM、更に好ましくは0.3μM~1.0μMである。Shhシグナル経路作用物質の濃度は、ステップ(1)の全ての期間に亘り一定でなくてもよい。例えば、浮遊培養の開始から3日間~8日間(具体例は6日間)は培地にShhシグナル経路作用物質を添加せず、その後、Shhシグナル経路作用物質を培地へ添加してもよい。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0056】
BMP4以外の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を使用する場合に採用すべき濃度、即ち「低濃度」の範囲は、使用する物質の特性とBMP4の特性の相違(特に活性の相違)を考慮すれば、当業者であれば上記濃度範囲に準じて設定することができる。また、設定した濃度範囲が適切であるか否かは、後述の実施例に準じた予備実験によって確認することができる。SAG以外のShhシグナル経路作用物質を使用する場合も同様である。このように、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質についての「低濃度」は、当業者であれば特段の困難を伴うことなく認識且つ理解できる。
【0057】
第2態様に使用する培地には、低濃度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質と低濃度のShhシグナル経路作用物質に加え、Akt阻害剤を含有させることが好ましい。Akt阻害剤は腹側化シグナルとして作用し、腹側視床下部への効率的な分化を促す。Akt阻害剤として、Akt inhibitor VIII(1,3-Dihydro-1-(1-((4-(6-phenyl-1H-imidazo[4,5-g]quinoxalin-7-yl)phenyl)methyl)-4-piperidinyl)-2H-benzimidazol-2-one、例えばCalbiochem社が提供する)を用いることができる。Akt阻害剤の濃度は、使用するAkt阻害剤によっても変動し得るが、例えばAkt inhibitor VIIIを使用した場合には、例えば0.1μM~2.0μM、好ましくは0.2μM~1.5μM、更に好ましくは0.3μM~1.0μMである。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0058】
ステップ(1)に用いる培地は、分散により誘導されるヒト多能性幹細胞の細胞死を抑制するために、Rho-associated coiled-coilキナーゼ(ROCK)阻害剤を培養開始時から添加することが好ましい(特開2008-99662号公報を参照)。ROCK阻害剤を培養開始から例えば15日以内、好ましくは10日以内、より好ましくは6日以内添加する。ROCK阻害剤としては、Y-27632((+)-(R)-trans-4-(1-aminoethyl)-N-(4-pyridyl)cyclohexanecarboxamide dihydrochloride)等を挙げることができる。ROCK阻害剤は、分散により誘導されるヒト多能性幹細胞の細胞死を抑制し得る濃度で使用される。例えば、Y-27632を用いる場合には、例えば約O.1~200μM、好ましくは約2~50μMの濃度とする。ROCK阻害剤の濃度を添加期間内で変動させてもよく、例えば添加期間の後半で濃度を半減させることができる。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0059】
浮遊培養に用いる培地は、哺乳動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、G1asgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、Ham's F-12培地、RPMI1640培地、Fischer's培地、Neurobasal培地及びこれらの混合培地など、哺乳動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。一態様において、IMDM培地及びHam's F-12培地の混合培地が用いられる。混合比は、容量比で、例えば、IMDM:Ham's F-12=O.8~1.2:1.2~0.8である。
【0060】
血清含有培地、無血清培地のいずれを使用することもできる。未知の或いは意図しない成分の混入を回避するため等の観点から、無血清培地を用いることが好ましい。
【0061】
浮遊培養に用いる培地が血清代替物を含有していてもよい。血清代替物は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール又は3'チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを含有し得る。公知の方法(例えば、W0 98/30679を参照)により血清代替物を調製することができる。市販の血清代替物を用いることもできる。市販の血清代替物の例として、KSR(Invitrogen社製)、Chemically-defined Lipid concentrated (Gibco社製)、Glutamax (Gibco社製)が挙げられる。
【0062】
細胞凝集塊の浮遊培養に用いられる培地は、ヒト多能性幹細胞から、目的の組織への分化誘導に悪影響を与えないことを条件に他の添加物を含むことができる。ここでの添加物として、例えば、インスリン、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL-グルタミン等)、還元剤(例えば2-メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d-ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等を挙げることができる。
【0063】
一態様において、浮遊培養に用いられる培地は、目的の組織への分化誘導に悪影響を与えないという観点から、本明細書において培地に含まれることが明記されたもの以外の成長因子を含まない化学合成培地(growth-factor-free Chemically Defined Medium; gfCDM)に、血清代替物(KSR等)を添加したものである。ここでの「成長因子」には、Fgf;BMP;Wnt、Noda1、Notch、Shh等のパターン形成因子、インスリン及びLipid-rich albuminが包含される。成長因子を含まない化学合成培地としては、例えば、Wataya et al,Proc Natl Acad Sci USA,105(33):11796-11801,2008に開示されたgfCDMを挙げることができる。
【0064】
ステップ(1)では、未分化細胞から視床下部への分化の初期の方向付けをする。ステップ(1)の初期方向付けの結果として、次のステップ(2)経過中に、背側又は腹側視床下部への分化が確実となる。例えば、ステップ(2)において背側視床下部へと分化誘導した場合、典型的には、培養開始30日後頃に背側視床下部ならではの性質(Pax6発現など)を示すようになる。(図5を参照)
【0065】
ステップ(1)の培養を行うことにより、将来的に視床下部になりうる細胞の凝集塊、即ち、視床下部前駆細胞の凝集塊を得ることができる。ステップ(1)は、例えば、培養中の細胞凝集塊のうち10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上の細胞凝集塊が視床下部前駆細胞を含むまで実施するとよい。視床下部前駆細胞は、例えば、RT-PCRや、視床下部前駆細胞のマーカー特異的抗体を用いた免疫組織化学により検出することができる。視床下部前駆細胞のマーカーとして好ましくはRxを用いる。培養期間は、使用する骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質の種類に応じて変動し得るが、例えば10~26日(具体例は18日間)である。
【0066】
好ましい一態様では、質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団を、低濃度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及び低濃度のShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養する。質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団を用いることにより、凝集塊間での分化の程度の差を最小限に留め、分化誘導効率を向上することができる。質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団の浮遊培養の例として、以下の態様(A)及び(B)を挙げることができる。
(A)複数の培養コンパートメントを用意し、1つの培養コンパートメントに1つのヒト多能性幹細胞の凝集塊が含まれるように、質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団を播く。(例えば、96ウェルプレートの各ウェルにヒト多能性幹細胞の凝集塊を1つずつ入れる。)そして、各培養コンパートメントにおいて、1つのヒト多能性幹細胞の凝集塊を低濃度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及び低濃度のShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養する。
(B)1つの培養コンパートメントに複数のヒト多能性幹細胞の凝集塊が含まれるように、質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団を1つの培養コンパートメントに播く。(例えば、10cmディッシュに、複数のヒト多能性幹細胞の凝集塊を入れる。)そして、当該コンパートメントにおいて、複数のヒト多能性幹細胞の凝集塊を低濃度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及び低濃度のShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養する。
【0067】
本発明の方法では(A)及び(B)のいずれの態様を採用することもできる。また、本発明の方法における培養の途中で態様を変更してもよい((A)の態様から(B)の態様への変更。或いは(B)の態様から(A)の態様への変更)。一態様では、ステップ(1)の培養に(A)の態様を採用し、ステップ(2)の培養に(B)の態様を採用する。
【0068】
ステップ(2)
ステップ(1)に続くステップ(2)では、ステップ(1)で得られた細胞凝集塊を、低濃度のShhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養する。このステップによって、視床下部組織への更なる分化が誘導される。特に言及しない培養条件(培養方法(好ましくは静置培養が採用される)、フィーダー細胞の使用の可能性(好ましくはフィーダー細胞非存在下で培養する)、使用可能な培養器、使用する基礎培地、Shhシグナル経路作用物質以外の添加物等)についてはステップ(1)と同様である。以下では、ステップ(2)に特徴的な培養条件を説明する。
【0069】
ステップ(2)は、好ましくは、高酸素分圧条件下で行われる。高酸素分圧条件下で浮遊培養することにより、細胞凝集塊内部への酸素の到達、及び細胞凝集塊の長期間の維持培養が達成され、視床下部組織への効率的な分化誘導が可能となる。
【0070】
高酸素分圧条件とは、空気中の酸素分圧(20%)を上回る酸素分圧条件を意味する。ステップ(2)における酸素分圧は、例えば30~60%、好ましくは35~60%、より好ましくは38~60%(具体例は40%)である。
【0071】
ステップ(2)の浮遊培養における培養温度、C02濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30~40℃、好ましくは約37℃である。C02濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約5%である。
【0072】
ステップ(2)に使用する培地は低濃度でShhシグナル経路作用物質を含む。第1態様(背側視床下部組織への分化を誘導する態様)において、Shhシグナル経路作用物質としてSAGを用いる場合の「低濃度」とは、例えば0.1μM~2.0μM、好ましくは0.2μM~1.5μM、更に好ましくは0.3μM~1.0μMである。第2態様(腹側視床下部組織への分化を誘導する態様)においても同様の濃度が採用される。本発明に必要な作用効果(即ち、背側視床下部組織又は腹側視床下部組織への分化誘導)が得られる限りにおいて、Shhシグナル経路作用物質の濃度は、ステップ(2)の全ての期聞に亘り一定でなくてもよい。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0073】
SAG以外のShhシグナル経路作用物質を使用する場合に採用すべき濃度、即ち「低濃度」の範囲は、使用する物質の特性とSAGの特性の相違(特に活性の相違)を考慮すれば、当業者であれば上記濃度範囲に準じて設定することができる。また、設定した濃度範囲が適切であるか否かは、後述の実施例に準じた予備実験によって確認することができる。このように、ステップ(2)においても、Shhシグナル経路作用物質についての「低濃度」は、当業者であれば特段の困難を伴うことなく認識且つ理解できる。
【0074】
ステップ(2)に使用する培地は、好ましくは、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を含有しない。換言すれば、ステップ(2)では、低濃度でShhシグナル経路作用物質を含有する一方で、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質は含有しない培地を使用することが好ましい。当該条件によれば、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の長期暴露による細胞凝集塊の嚢胞化や分化方向の変化(視床下部から神経網膜への分化方向の変化など)を避けられるという効果が得られる。
【0075】
第2態様でのステップ(2)に使用する培地には、低濃度のShhシグナル経路作用物質に加え、Akt阻害剤を含有させることが好ましい。Akt阻害剤は腹側化シグナルとして作用し、腹側視床下部への効率的な分化を促す。好ましいAkt阻害剤及びその使用濃度については、前記ステップ(1)の第2態様における例と同様のものが挙げられる。
【0076】
ステップ(2)の培養は、視床下部組織(背側視床下部又は腹側視床下部)への分化が更に誘導されるのに十分な期間実施される。視床下部組織への更なる誘導が生じたことは、視床下部組織特異的なマーカーの検出によって確認することができる。視床下部組織のマーカーとして好ましくはPax6及び/又はNkx2.1を用いる。Rxも併用するとよい。典型的には、背側視床下部組織は、Rx陽性、Pax6陽性且つNkx2.1陰性の組織であり、腹側視床下部組織は、Rx陽性、Pax6陰性且つNkx2.1陽性の組織である。
【0077】
背側視床下部組織(第1の態様の場合)へと分化が進んだことは、背側視床下部組織に特徴的な神経前駆細胞(例えばバゾプレシン(AVP)ニューロン前駆細胞、オキシトシン(OXT)ニューロン前駆細胞、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)ニューロン前駆細胞、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)ニューロン前駆細胞、ニューロペプチドY(NPY)ニューロン前駆細胞)が出現していることによって確認することができる。背側視床下部組織に特徴的な神経前駆細胞が認められた場合には、背側視床下部組織への分化誘導がより一層進んでいると判断できる。神経前駆細胞の出現の確認は、各々に特徴的なマーカーを利用すればよい。例えば、OtpとBrn2の発現が認められればAVPニューロン前駆細胞が出現していると判断できる。
【0078】
一方、腹側視床下部組織への更なる誘導が生じたこと(第2の態様の場合)は、腹側視床下部組織に特徴的な神経前駆細胞(例えばアグーチ関連タンパク質(AgRP)ニューロン前駆細胞、プロオピオメラノコルチン(POMC)ニューロン前駆細胞、メラニン凝集ホルモン(MCH)ニューロン前駆細胞、Orexinニューロン前駆細胞)が出現していることによって確認することができる。背側視床下部組織に特徴的な神経前駆細胞が認められた場合には、背側視床下部組織への分化誘導がより一層進んでいると判断できる。神経細胞の出現の確認は、各々に特徴的なマーカーを利用すればよい。
【0079】
ステップ(2)の培養期間は、使用するShhシグナル経路作用物質の種類に応じて変動し得るが、例えば20~100日、好ましくは30日~80日(具体例は30日間、40日間、50日間、60日間、70日間、80日間)である。
【0080】
ステップ(3)
本発明の製造方法では、好ましくは、ステップ(1)及び(2)に加えて以下のステップ(3)を行う。
(3)ステップ(2)で得られた細胞凝集塊を回収し、細胞凝集塊を構成する細胞を分散培養するステップ
【0081】
ステップ(3)によって視床下部組織への分化誘導が更に促され、また成熟化が生じる。言い換えれば、ステップ(3)は分化効率の更なる向上をもたらす。ステップ(3)の培養は、神経細胞の培養に有利とされる分散培養に相当する。ステップ(3)によって、浮遊培養という3次元的な培養から2次元的な培養へと切り換えられることになる。
【0082】
分散培養するにあたっては、まず、細胞凝集塊を回収し、細胞を解離(単一細胞化)させる。細胞の解離には、EDTA-トリプシン、コラゲナーゼIV、メタロプロテアーゼ等のタンパク分解酵素等を単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。細胞障害性が少ないものが好ましい。このような細胞解離液として、例えば、ディスパーゼ(エーディア)、TrypLE (Invitrogen)又はアキュターゼ(MILLIPORE)等の市販品が入手可能である。
【0083】
単一細胞化した細胞は分散培養に適した培養器に播種される。分散培養に用いる培養器は特に限定されない。例えば、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ等を用いることができる。培養面への細胞の接着性を高めるために、マトリゲル(BD)、ポリ-D-リジン、ポリ-L-リジン、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン、或いはこれらの中の二つ以上の組み合わせによってコーティング処理された培養器を用いるとよい。
【0084】
ステップ(3)は、好ましくは、高酸素分圧条件下で行われる。高酸素分圧条件下で平面培養することにより、神経細胞へ分化しやすくなる。
【0085】
高酸素分圧条件とは、空気中の酸素分圧(20%)を上回る酸素分圧条件を意味する。ステップ(3)における酸素分圧は、例えば30~60%、好ましくは35~60%、より好ましくは38~60%(具体例は40%)である。
【0086】
分散培養における培養温度、C02濃度、02濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30~40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約5%である。02濃度は、例えば約20%である。
【0087】
分散培養に用いる培地は、哺乳動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、G1asgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、Ham's F-12培地、RPMI1640培地、Fischer's培地、Neurobasal培地及びこれらの混合培地など、哺乳動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。一態様において、DMEM培地及びHam's F-12培地の混合培地(例えば、Sigma Aldrich社のDMEM/F-12 Catalog No.D6421)が用いられる。
【0088】
血清含有培地、無血清培地のいずれを使用することもできる。未知の或いは意図しない成分の混入を回避するため等の観点から、無血清培地を用いることが好ましい。
【0089】
好ましくは、神経細胞の増殖及び分化を促すために、毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3(NT-3)、ウシ胎児血清、N2サプリメント、B27サプリメント等を添加した培地を使用する。好ましい一態様では、N2サプリメントとB27サプリメントを添加した培地を使用する。培地中のN2サプリメントの含有量は、例えば、容量比で全体量の1%とする。同様に培地中のB27サプリメントの含有量は、例えば、容量比で全体量の2%とする。尚、N2サプリメントはGibco(製品名 N2 supplement(x100))等から入手することができ、B27サプリメントはGibco(製品名 B27 supplement(x100))等から入手することができる。また、BDNFはLM22A-4(BDNFアゴニストであるN1,N3,N5-Tris(2-hydroxyethyl)-1,3,5-benzenetricarboxamide(SIGMA-ALDRICHから入手可能))で代用が可能である。
【0090】
分散培養に用いられる培地が血清代替物及び/又は他の添加物を含有していてもよい。ここでの他の添加物として、例えば、インスリン、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL-グルタミン等)、還元剤(例えば2-メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d-ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等を挙げることができる。
【0091】
神経細胞の分散培養に関しては様々な報告があり(例えばWataya T. et al., Proc Natl Acad Sci USA 105(33): 11796-11801 (2008).)、それらを参考にして本発明の分散培養における条件を設定ないし調整することができる。
【0092】
ステップ(3)の培養は、視床下部神経細胞の分化・成熟に十分な期間実施される。視床下部神経細胞の十分な分化・成熟が生じたことは、第1態様(背側視床下部組織への分化を誘導する態様)の場合であれば、背側視床下部組織に局在が認められる神経細胞(例えば、AVPニューロン、OXTニューロン、TRHニューロン、CRHニューロン、NPYニューロン)の有無や存在率、当該神経細胞が産生するホルモンの有無や量によって確認することができる。例えば、AVPの産生が認められれば、機能的なAVPニューロンが出現しており、神経細胞の十分な分化・成熟が生じたと判断できる。背側視床下部組織に局在を認めるその他の神経細胞についても、各神経細胞が産生するホルモンを指標として、その分化・成熟の有無ないし程度を判断することができる。
【0093】
同様に、第2態様(腹側視床下部組織への分化を誘導する態様)の場合には、腹側視床下部組織に局在が認められる神経細胞(例えば、AgRPニューロン、POMCニューロン、MCHニューロン、Orexinニューロン)の有無や存在率、当該神経細胞が産生するホルモンの有無や量によって、神経細胞の十分な分化・成熟が生じたことを確認することができる。
【0094】
ステップ(3)の培養期間は、培養条件に応じて変動し得るが、例えば30~150日、好ましくは40日~110日(具体例は40日間、50日間、60日間、70日間、80日間、90日間、100日間、110日間)である。
【0095】
2.視床下部組織と下垂体組織を含む細胞構造体の製造方法
本発明の第2の局面は、視床下部組織と下垂体組織を含む細胞構造体(以下、「ハイブリッド型細胞構造体」とも呼ぶ)の製造方法に関する。本発明の製造方法では、以下のステップ(i)~(iii)を行う。尚、特に言及しない事項については、上記第1の局面と同様であり、対応する説明が援用される。
(i)ヒト多能性幹細胞の凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養するステップ
(ii)ステップ(i)で形成された細胞凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養するステップ
(iii)ステップ(ii)で得られた細胞凝集塊を、下垂体及び視床下部の同時誘導に適した培地中で浮遊培養するステップ
【0096】
ステップ(i)
ステップ(i)では、まず、本発明の第1の局面の場合と同様の手段でヒト多能性幹細胞の凝集塊を用意し、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養する。
【0097】
フィーダー細胞の存在下/非存在下いずれの条件で細胞凝集塊の浮遊培養を行ってもよいが、未決定因子の混入を回避する観点からフィーダー細胞の非存在下で細胞凝集塊の浮遊培養を行うのが好ましい。
【0098】
細胞凝集塊の浮遊培養における培養温度、C02濃度、02濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30~40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約5%である。02濃度は、例えば約20%である。
【0099】
骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてはBMP2、BMP4、BMP7、GDF5などを用いることができる。好ましくは、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてBMP4を用いる。一方、Shhシグナル経路作用物質としては、Hedgehogファミリーに属する蛋白(例えば、Shh)、Shh受容体、Shh受容体アゴニスト、Purmorphamine、Smoothened Agonist (SAG) (3-Chloro-N-[trans-4-(methylamino)cyclohexyl]-N-[[3-(4-pyridinyl)phenyl]methyl]-benzo[b]thiophene-2-carboxamide)を用いることができる。好ましくはSAGを用いる。骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質とShhシグナル経路作用物質の好ましい組合せは、BMP4及びSAGの組合せである。
【0100】
培地中の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度は、視床下部と下垂体への分化誘導が可能な範囲で、適宜設定することができるが、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてBMP4を用いる場合、その濃度は、例えば0.01~1000nM、好ましくは0.1~100nM、より好ましくは1~10nM(具体例は5nM)である。骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質は、ステップ(i)の全ての期聞に亘り一定でなくてもよい。例えば、浮遊培養の開始から3日間~8日間(具体例は6日間)は培地に骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を添加せず、その後、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を培地へ添加してもよい。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0101】
培地中のShhシグナル経路作用物質の濃度は、視床下部と下垂体への分化誘導が可能な範囲で、適宜設定することができるが、Shhシグナル経路作用物質としてSAGを用いる場合、その濃度は、例えば1nM~1000μM、好ましくは10nM~100μM、より好ましくは100nM~10μM(具体例は2μM)である。Shhシグナル経路作用物質の濃度は、ステップ(i)の全ての期間に亘り一定でなくてもよい。例えば、浮遊培養の開始から3日間~8日間(具体例は6日間)は培地にShhシグナル経路作用物質を添加せず、その後、Shhシグナル経路作用物質を培地へ添加してもよい。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0102】
ステップ(i)に用いる培地は、分散により誘導されるヒト多能性幹細胞の細胞死を抑制するために、Rho-associated coiled-coilキナーゼ(ROCK)阻害剤を培養開始時から添加することが好ましい(特開2008-99662号公報を参照)。ROCK阻害剤を培養開始から例えば15日以内、好ましくは10日以内、より好ましくは6日以内添加する。ROCK阻害剤としては、Y-27632((+)-(R)-trans-4-(1-aminoethyl)-N-(4-pyridyl)cyclohexanecarboxamide dihydrochloride)等を挙げることができる。ROCK阻害剤は、分散により誘導されるヒト多能性幹細胞の細胞死を抑制し得る濃度で使用される。例えば、Y-27632を用いる場合には、例えば約O.1~200μM、好ましくは約2~50μMの濃度とする。ROCK阻害剤の濃度を添加期間内で変動させてもよく、例えば添加期間の後半で濃度を半減させることができる。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0103】
使用可能な基礎培地、培地に含有させることが可能な物質等、特に言及しない事項は上記第1の局面のステップ(1)に準ずる。
【0104】
ステップ(i)の培養は、ヒト多能性幹細胞から視床下部神経上皮組織及び表皮外胚葉への分化が誘導されるのに十分な期間実施される。視床下部神経上皮組織及び表皮外胚葉への分化は、例えば、RT-PCRや、視床下部神経上皮組織や表皮外胚葉のマーカー特異的抗体を用いた免疫組織化学により検出することができる。例えば、培養中の細胞凝集塊のうち10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上の細胞凝集塊が視床下部神経上皮組織及び表皮外胚葉を含むまで実施される。培養期間は、使用する骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質の種類に応じて変動し得るが、例えば15~20日(具体例は18日間)である。
【0105】
視床下部神経上皮組織とは、視床下部マーカーを発現する神経上皮組織をいう。視床下部マーカーとしては、NKx2.1(腹側視床下部マーカー)、Pax6(背側視床下部マーカー)等が挙げられる。一態様において、腹側視床下部神経上皮組織は、Rx陽性、Chx10陰性、且つNkx2.1陽性の神経上皮組織である。一態様において、背側視床下部神経上皮組織は、Rx陽性、Chx10陰性、且つPax6陽性の神経上皮組織である。
【0106】
表皮外胚葉とは、胚発生において、胚の表層に形成される外胚葉細胞層である。表皮外胚葉マーカーとしては、pan-cytokeratinが挙げられる。表皮外胚葉は、一般的には、下垂体前葉、皮膚、口腔上皮、歯のエナメル質、皮膚腺等へ分化し得る。一態様において、表皮外胚葉は、E-cadherin陽性且つpan-cytokeratin陽性の細胞層である。
【0107】
好適には、ステップ(i)で得られる細胞凝集塊においては、視床下部神経上皮組織がその細胞凝集塊の内部を占めており、単層の表皮外胚葉の細胞がその細胞凝集塊の表面を構成する。表皮外胚葉は、その一部に肥厚した表皮プラコードを含んでいてもよい。
【0108】
好ましい一態様では、質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養する。質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団を用いることにより、凝集塊間での分化の程度の差を最小限に留め、分化誘導効率を向上することができる。質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団の浮遊培養の例として、以下の態様(A)及び(B)を挙げることができる。
(A)複数の培養コンパートメントを用意し、1つの培養コンパートメントに1つのヒト多能性幹細胞の凝集塊が含まれるように、質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団を播く。(例えば、96ウェルプレートの各ウェルにヒト多能性幹細胞の凝集塊を1つずつ入れる。)そして、各培養コンパートメントにおいて、1つのヒト多能性幹細胞の凝集塊を骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養する。
(B)1つの培養コンパートメントに複数のヒト多能性幹細胞の凝集塊が含まれるように、質的に均一な、ヒト多能性幹細胞の凝集塊の集団を1つの培養コンパートメントに播く。(例えば、10cmディッシュに、複数のヒト多能性幹細胞の凝集塊を入れる。)そして、当該コンパートメントにおいて、複数のヒト多能性幹細胞の凝集塊を骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で浮遊培養する。
【0109】
本発明の方法では(A)及び(B)のいずれの態様を採用することもできる。また、本発明の方法における培養の途中で態様を変更してもよい((A)の態様から(B)の態様への変更。或いは(B)の態様から(A)の態様への変更)。一態様では、ステップ(i)の培養に(A)の態様を採用し、ステップ(ii)の培養に(B)の態様を採用する。
【0110】
ステップ(ii)
ステップ(i)に続くステップ(ii)では、ステップ(i)で得られた細胞凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養する。このステップによって、視床下部及び下垂体への更なる分化が誘導される。特に言及しない培養条件(培養方法(好ましくは静置培養が採用される)、フィーダー細胞の使用の可能性(好ましくはフィーダー細胞非存在下で培養する)、使用可能な培養器、使用する基礎培地、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質以外の添加物等)についてはステップ(i)と同様である。以下では、ステップ(ii)に特徴的な培養条件を説明する。
【0111】
ステップ(ii)は、好ましくは、高酸素分圧条件下で行われる。高酸素分圧条件下で浮遊培養することにより、細胞凝集塊内部への酸素の到達、及び細胞凝集塊の長期間の維持培養が達成され、視床下部組織及び下垂体組織への効率的な分化誘導が可能となる。
【0112】
高酸素分圧条件とは、空気中の酸素分圧(20%)を上回る酸素分圧条件を意味する。ステップ(ii)における酸素分圧は、例えば30~60%、好ましくは35~60%、より好ましくは38~60%(具体例は40%)である。
【0113】
ステップ(ii)の浮遊培養における培養温度、C02濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30~40℃、好ましくは約37℃である。C02濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約5%である。
【0114】
ステップ(ii)に使用する培地は骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質を含有する。培地中の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度は、視床下部と下垂体への分化誘導が可能な範囲で、適宜設定することができるが、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質としてBMP4を用いる場合、その濃度は、例えば0.01~1000nM、好ましくは0.1~100nM、より好ましくは1~10nM(具体例は5nM)である。培養途中で骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の濃度を低減させてもよい。例えば、ステップ(ii)の開始時に上述の濃度とし、2~4日毎に半分の濃度になるように、段階的に濃度を低減させることができる。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0115】
培地中のShhシグナル経路作用物質の濃度は、視床下部と下垂体への分化誘導が可能な範囲で、適宜設定することができるが、Shhシグナル経路作用物質としてSAGを用いる場合、その濃度は、例えば1nM~1000μM、好ましくは10nM~100μM、より好ましくは100nM~10μM(具体例は2μM)である。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0116】
一態様において、ステップ(ii)に用いる培地は、FGF2を含む。FGF2は、表皮外胚葉から下垂体プラコードへの分化を促進する。培地中における、FGF2の濃度は、通常1~1000ng/ml、好ましくは10~100ng/mlである。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0117】
FGF2は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)とも呼ばれる、公知のサイトカインであり、そのアミノ酸配列も公知である。本発明に用いるFGF2は、通常哺乳動物のFGF2である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブ夕、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類を挙げることができる。FGF2は、多くの哺乳動物の種間で交差反応性を有するので、本発明の目的を達成し得る限り、いずれの哺乳動物のFGF2を用いてもよいが、FGFは、好ましくは、げっ歯類(マウス、ラット等)又は霊長類(ヒト等)のFGF2であり、好ましくはヒトFGF2である。ヒトFGF2とは、ヒトが生体内で天然に発現するFGF2のアミノ酸配列を有することを意味する。ヒトFGF2の代表的なアミノ酸配列としては、NCBIのアクセッション番号で、NP_001997.5(2014年2月18日更新)等を例示することができる。
【0118】
ステップ(ii)の培養期間は、使用する骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びShhシグナル経路作用物質の種類に応じて変動し得るが、例えば6~20日、好ましくは10日~14日(具体例は12日間)である。
【0119】
ステップ(iii)
ステップ(ii)で得られた細胞凝集塊は更なる浮遊培養に供される。このステップの培養には、下垂体及び視床下部の同時誘導に適した培地が用いられる。換言すれば、培地組成を変更し、下垂体及び視床下部の同時誘導を促す。
【0120】
ステップ(iii)の培養では、好ましくは、Shhシグナル経路作用物質を含む培地を使用する。培地中のShhシグナル経路作用物質の濃度は、視床下部と下垂体への分化誘導が可能な範囲で、適宜設定することができるが、Shhシグナル経路作用物質としてSAGを用いる場合、その濃度は、例えば1nM~1000μM、好ましくは10nM~100μM、より好ましくは100nM~10μM(具体例は2μM)である。一方、好ましくは、上記ステップ(3)の分散培養に用いる培地の成分を含んだ培地(好ましくは、神経細胞の増殖及び分化を促す成分を含む)を用いる。例えば、上記ステップ(3)の分散培養に用いる培地と、上記ステップ(ii)の培養に用いる培地を容量比1:1で混合した培地を用いる。また、この混合培地に血清代替物(例えばKSR)を容量で20%程度加えるとよい。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0121】
ステップ(iii)の培養は、視床下部の成熟(視床下部神経細胞の分化・成熟)及び下垂体の成熟に十分な期間実施される。視床下部の十分な成熟が生じたことは、視床下部組織に局在が認められる神経細胞(例えば、AVPニューロン、OXTニューロン、TRHニューロン、CRHニューロン、NPYニューロン、AgRPニューロン、POMCニューロン、MCHニューロン、Orexinニューロン)の有無や存在率、当該神経細胞が産生するホルモンの有無や量によって確認することができる。他方、下垂体の十分な成熟が生じたことは、下垂体ホルモン産生細胞(成長ホルモン(GH)産生細胞、プロラクチン(PRL)産生細胞、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生細胞、甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生細胞、卵胞刺激ホルモン(FSH)産生細胞、黄体化ホルモン産生細胞、メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)産生細胞等)の有無や存在率、当該細胞が産生するホルモンの有無や量によって確認することができる。
【0122】
ステップ(iii)の培養期間は、培養条件に応じて変動し得るが、例えば50日~200日、好ましくは70日~150日(具体例は70日間、80日間、90日間、100日間、110日間、120日間)である。
【0123】
一態様では、ステップ(ii)とステップ(iii)の間に以下のステップ(a)を行う。
(a)ステップ(ii)で得られた細胞凝集塊を、Shhシグナル経路作用物質を含む培地中で更に浮遊培養するステップ
【0124】
この態様では、ステップ(a)で得られた細胞凝集塊がステップ(iii)の培養に供される。ステップ(a)によって、視床下部及び下垂体への効率的な分化が誘導される。特に言及しない培養条件(培養方法(好ましくは静置培養が採用される)、フィーダー細胞の使用の可能性(好ましくはフィーダー細胞非存在下で培養する)、使用可能な培養器、使用する基礎培地及びShhシグナル経路作用物質以外の添加物等)についてはステップ(ii)と同様である。以下では、ステップ(a)に特徴的な培養条件を説明する。
【0125】
ステップ(a)では、Shhシグナル経路作用物質を含む培地を使用する。培地中のShhシグナル経路作用物質の濃度は、視床下部と下垂体への分化誘導が可能な範囲で、適宜設定することができるが、Shhシグナル経路作用物質としてSAGを用いる場合、その濃度は、例えば1nM~1000μM、好ましくは10nM~100μM、より好ましくは100nM~10μM(具体例は2μM)である。尚、最適な濃度は予備実験を通して設定することができる。
【0126】
ステップ(a)に使用する培地は、好ましくは、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を含有しない。換言すれば、ステップ(a)では、Shhシグナル経路作用物質を含有する一方で、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質は含有しない培地を使用することが好ましい。当該条件によれば、骨形成因子シグナルの長期暴露による細胞塊の嚢胞化や分化方向の変化を避けられる、という効果が得られる。
【0127】
ステップ(a)に使用する培地は、好ましくは、血清代替物を含有する。培地中の血清代替物の濃度は、視床下部と下垂体への分化誘導が可能な範囲で、適宜設定することができるが、血清代替物としてKSRを用いる場合、その濃度は、例えば1%(v/v)~30%(v/v)、好ましくは5%(v/v)~~20%(v/v)(具体例は10%(v/v))である。
【0128】
ステップ(a)は、好ましくは、高酸素分圧条件下で行われる。高酸素分圧条件下で浮遊培養することにより、細胞凝集塊内部への酸素の到達、及び細胞凝集塊の長期間の維持培養が達成され、視床下部組織及び下垂体組織への効率的な分化誘導が可能となる。
【0129】
高酸素分圧条件とは、空気中の酸素分圧(20%)を上回る酸素分圧条件を意味する。ステップ(a)における酸素分圧は、例えば30~60%、好ましくは35~60%、より好ましくは38~60%(具体例は40%)である。
【0130】
ステップ(a)の培養期間は、培養条件に応じて変動し得るが、例えば10日~40日、好ましくは15日~30日(具体例は20日間、25日間)である。
【0131】
3.細胞構造体、細胞構造体を構成する細胞の用途
本発明の製造方法により得られた細胞構造体、即ち、背側若しくは腹側の視床下部組織を含む細胞構造体又はハイブリッド型細胞構造体、或いはその一部(細胞構造体を構成する組織又は細胞)は、例えば、移植医療に利用される。「細胞構造体の一部」は、メス等による裁断、タンパク質分解酵素やEDTA等による処理等によって調製することができる。移植医療などへの適用に先立って、調製した細胞を細胞表面マーカー、形態、分泌物質などを指標として精製ないし純化してもよい。
【0132】
視床下部組織を含む細胞構造体又はその一部を用いた移植医療では、視床下部の障害に起因する疾患、視床下部の障害を伴う疾患(本明細書では以上の二つの疾患をまとめて「視床下部疾患」と呼ぶ)が治療対象となる。他方、ハイブリッド型細胞構造体又はその一部を用いた移植医療では、視床下部及び/又は下垂体の障害に起因する疾患、視床下部及び/又は下垂体の障害を伴う疾患(本明細書では以上の二つの疾患をまとめて「視床下部下垂体疾患」と呼ぶ)が治療対象となる。ハイブリッド型細胞構造体は、機能的に不可分な視床下部組織と下垂体組織が複合体を形成していることから、視床下部と下垂体の両者に障害を認める病態の治療に特に好適である。
【0133】
本発明の細胞構造体又はその一部が適用可能な疾患を例示すると、中枢性尿崩症、視床下部性下垂体機能低下症、プラダー症候群、ローレンスムーンビードル症候群、視床下部性肥満、摂食障害、認知機能障害、睡眠障害、汎下垂体機能低下症、下垂体性小人症、副腎皮質機能低下症、部分的下垂体機能低下症、下垂体前葉ホルモン単独欠損症、外傷、放射線治療、切除術等による視床下部及び/又は下垂体の損傷である。
【0134】
本発明の細胞構造体又はその一部を移植医療に用いる場合の移植部位は、移植後に視床下部及び/又は下垂体としての機能を発揮する限り特に限定されないが、例えば、腎皮膜下、皮下、腹膜、大脳、視床下部、下垂体を挙げることができる。以上の説明から明らかな通り、本願は、本発明の細胞構造体又はそれを構成する細胞を患者に移植することを特徴とする、視床下部疾患又は視床下部下垂体疾患の治療法も提供する。
【0135】
移植医療においては、組織適合性抗原の違いによる拒絶がしばしば問題となるが、レシピエントの体細胞から樹立したヒト多能性幹細胞を用いて本発明の細胞構造体を製造することで当該問題を克服できる。そこで、本発明の好ましい態様では、本発明の方法におけるヒト多能性幹細胞として、レシピエントの体細胞から樹立したヒト多能性幹細胞(例えばiPS細胞)を用いることにする。当該態様によれば、自己の細胞から構築された細胞構造体又はその一部がレシピエントに移植されることになる。
【0136】
本発明の細胞構造体又はその一部は、薬物のスクリーニングや評価に使用することができる。詳しくは、視床下部疾患又は視床下部下垂体疾患の治療薬のスクリーニング、治療薬候補の有効性評価や毒性試験等に適用することができる。例えば、視床下部疾患又は視床下部下垂体疾患を罹患する患者からiPS細胞を作製し、当該iPS細胞から本発明の製造方法で細胞構造体を製造する。得られた細胞構造体又はその一部を被験物質の存在下で培養する(試験群)。コントロール群として、非存在下で培養する。そして、試験群とコントロール群の間で障害の程度を比較する。障害の程度を軽減する効果を認めた被験物質を治療薬の候補物質として選択する。被験物質としては様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。植物抽出液、細胞抽出液、培養上清などを被験物質として用いてもよい。また、既存の薬剤を被験物質としてもよい。2種類以上の被験物質を同時に添加することにより、被験物質間の相互作用、相乗作用などを調べることにしてもよい。
【実施例0137】
A.ヒトES細胞からの分化誘導
1.ヒトES細胞から視床下部への分化誘導法の検討
(1)既報の方法の適用
Watayaらは、マウスES細胞から視床下部ニューロンへ分化誘導する方法を確立した(Wataya T. et al., Proc Natl Acad Sci USA 105(33): 11796-11801 (2008).)。マウスES細胞を用いた場合には当該方法によってAVPニューロンへ分化することを確認した(図1左)。
【0138】
次に、当該方法がヒトES細胞にも適用可能であるか検討した。ヒトES細胞(KhES-1)を常法によりMEF上で維持培養したものを用いた。視床下部組織への分化誘導をモニターするために、視床下部神経のマーカーであるRxの遺伝子へVenus cDNAをノックインしたKhES-1を利用した。無血清浮遊凝集塊培養法(SFEBq法)によりヒトES細胞を分化させるため、Nakanoら(Cell Stem Cell. 2012 Jun 14;10(6):771-85.)の方法により、ヒトES細胞を酵素により単一細胞へ分散させた上、低細胞接着性のV底96穴プレート(住友ベークライト)を用いて再凝集させた。1穴につき10,000個の細胞を播種し、gfCDM分化培地で5%CO2下に37℃で培養した。播種日を分化培養0日として、0日目から3日目まで20μM Y-27632(ROCK阻害剤:分散時の細胞死抑制剤:Watanabeら(Nat Biotechnol. 2007 Jun;25(6):681-6. Epub 2007 May 27.))を添加し、培養3日目以降はY-27632を含まない分化培地で3日に1回の頻度で半量培地交換を行った。
【0139】
結果を図1右に示す。培養3日目にて、細胞塊が形成されないことを確認した。即ち、gfCDM培地を用いてSFEBq法を施行したものの、細胞塊の形成が認められなかった。
【0140】
(2)培地中の成分の検討1(血清代替物の使用)
凝集塊が形成しなかった原因が栄養不足にあると考え、gfCDMに血清代替物KSRを少量添加し、その効果を検証した。具体的には、gfCDM培地に2%、5%、10%、20%のKSRを混合してSFEBq法を施行した。18日目以降は、培養時の酸素分圧を40%とした。組織の分化を蛍光抗体法で解析した。
【0141】
培養3日目において凝集塊はできた(図2左)が、培養30日目の細胞塊の内部は、Rxが発現せず、Bf1の広範な発現を認めた(図2右)。終脳の前駆細胞へ分化したものと考えられた。
【0142】
(3)培地中の成分の検討2(骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の使用)
終脳へと位置情報がずれた原因はKSRが含む種々の成長因子にあると考え、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を添加することにした。具体的には、以下の条件で分化誘導を試みた。SFEBq法施行後6日目より3.0 nM程度の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質を含む培地にて浮遊培養した。培養15日目の培地交換からは、骨形成因子シグナル伝達活性化物質を含まない培地を用いて半量の培地を交換することにした(従って、培養15日目以降は培地交換の度に骨形成因子シグナル伝達活性化物質の濃度が培地交換前の1/2になる)。培地交換の頻度は3日に1回である。
【0143】
BMP4シグナルを加えることによって、培養30日目において、視床下部マーカーであるRxと背側マーカーであるPax6が共陽性になった(図3左)。しかしながら、網膜マーカーChx10も陽性となり(図3右)、神経網膜になっていることが判明した。
【0144】
(4)培地中の成分の検討3(Shhシグナル経路作用物質の使用)
神経網膜への分化が誘導された原因が腹側化因子の不足にあると考え、腹側化因子のShhシグナル(ShhアゴニストであるSAG)を追加することにした。具体的には、以下の条件で分化誘導を試みた。SFEBq法施行後6日目より少量の骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(具体的例では1.5~2.0 nM)と少量のSAG(具体例では0.5 μM)を含む培地にて浮遊培養した。12日目より骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質のみ濃度を漸減し、SAGの濃度は維持した。Shhシグナルを加えることで、培養30日目においてRxとPax6が共陽性かつChx10陰性の細胞凝集塊を認め、視床下部前駆細胞へと分化させることが可能になった(図4左)。視床下部前駆細胞の分化効率は80%を超えた(図4右)。
【0145】
(5)背側視床下部又は腹側視床下部への選択的な分化
背側視床下部と腹側視床下部を作り分けることを目指し、更に検討した。骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質及びSAGの添加濃度と添加タイミング、Akt阻害剤の添加有無と濃度及びタイミングを検討した。背側視床下部条件としては、(4)の培養条件を採用した。一方、腹側視床下部への分化を促すために、BMP4の最終濃度を1.0 nMに変更した。加えて、Akt阻害剤を最終濃度0.5μMで培養開始6日目から添加した。
【0146】
背側視床下部条件では、Rx::Venus陽性細胞の大部分がPax6陽性を示した(図5左)。背側視床下部の前駆細胞に分化したものと考えられる。一方、腹側視床下部条件では、Rx::Venus陽性細胞の大部分がNkx2.1陽性を示した(図5右)。腹側視床下部の前駆細胞に分化したものと考えられる。
【0147】
以上の通り、KSR濃度、BMP4シグナルとShhシグナル(SAG)の濃度の調整、及び別の腹側化シグナルであるAkt阻害剤の少量の添加の有無により、背側視床下部と腹側視床下部を作り分けること、即ち、選択的に背側視床下部又は腹側視床下部へと分化させることに成功した。
【0148】
(6)背側視床下部誘導条件の最適化
背側視床下部誘導条件にて浮遊培養を継続した結果、培養60日目にはOtpとBrn2の発現(一般に、OtpとBrn2陽性の視床下部は、AVPニューロンの前駆状態にあると考えられる)を確認し(図6)、培養103日目でAVP陽性細胞を少数認めた(図7)。誘導効率の向上を目指し、神経発生に有利とされる分散培養を組み入れることにした。具体的には、以下の条件で分化誘導を試みた。細胞凝集塊を分散し、Laminin, Poly-D-Lysine, Matrigelにてコーティングしたガラス板上に2×104~40×104 cells/cm2で細胞を播種し、DFNB培地にNT3、BDNF、CNTF、FBSを添加した培地にて平面培養を行った。尚、3日に1回の頻度で培地交換を行った。
【0149】
上記条件で分化誘導した結果、培養150日目でAVPニューロンの出現を確認した(図8)。当該AVPニューロンの成熟度及び機能を検証するために、培養180日目の細胞をサンプルとして以下の手順でAVPホルモンの測定及び刺激試験を行った。まず、3日間細胞培養に用いた後の培地を回収し、RIA法にて培地中のAVPホルモン測定を行った。測定の結果、誘導されたAVPニューロンが実際にAVPホルモンを分泌していることが確認された(図9左)。また、塩化カリウム(0.1% 塩化カリウムを含む等張液で30分間培養)刺激にも良好に反応した(図9右)。
【0150】
(7)他の視床下部ニューロンの出現
上記条件((6)の欄)で分化誘導し、培養150日目に以下の方法でOXTニューロン、TRHニューロン、CRHニューロン、NPYニューロン、AgRPニューロン、POMCニューロン、MCHニューロン、及びOrexinニューロンを検出した。
【0151】
培養150日目に免疫染色を行い、AVPニューロン以外の視床下部ニューロン(OXTニューロン、TRHニューロン、CRHニューロン、NPYニューロン、AgRPニューロン、POMCニューロン、MCHニューロン、Orexinニューロン)が出現していることが確認された(図10)。検出結果から、各視床下部ニューロンの分化効率を比較した(図11)。AVPニューロンを効率的に誘導できている。
【0152】
一方、腹側視床下部誘導条件(図15)で培養した場合には、背側視床下部誘導条件よりも高率にMCHニューロン等の腹側視床下部ニューロンが認められた(図12)。
【0153】
2.視床下部と下垂体の同時成熟
視床下部と下垂体は、本来は機能的に不可分なものであることから、視床下部と下垂体が機能的に一体化した構造体は創薬スクリーニング等のツールとして、或いは移植材料として極めて有用である。そこで、視床下部と下垂体が機能的に一体化した構造体の構築を目指し、以下の検討を行った。Ozone Cらは、ヒトES細胞から下垂体への分化誘導方法を報告した(Functional anterior pituitary generated in self-organizing culture of human embryonic stem cells. Ozone C, Suga H, Eiraku M, Kadoshima T, Yonemura S, Takata N, Oiso Y, Tsuji T, Sasai Y. Nat Commun. 2016 Jan 14;7:10351. doi: 10.1038/ncomms10351.)。この方法を再現したところ、報告されている通り、初期の視床下部前駆細胞と下垂体原基とが同時誘導された。しかしながら、視床下部組織は培養途中で分化が停止し、視床下部ホルモンを発現するニューロンにまでは到達しない。そこで、培養前半は背側視床下部誘導条件に準じた条件(但し、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質とShhシグナル経路作用物質の濃度を高く設定した。また、培養18日目の培地交換からは、骨形成因子シグナル伝達活性化物質を含まない培地を用いて半量の培地を交換することにした)とし、培養後半については、使用する培地の組成を改良し、下垂体のみならず視床下部への分化にも適するようにした。具体的には、上記ステップ(ii)に用いる培地と分散培養に用いる培地を容量比1:1で混合し、血清代替物(例えばKSR)を20%加えたものとし(図17を参照)、浮遊培養を継続した。
【0154】
培養開始150日目で蛍光抗体法にて解析した結果、視床下部組織中にCRHニューロンが、下垂体組織中にACTHニューロンが存在することが判明した(図13)。即ち、一つの細胞塊から視床下部と下垂体の双方を分化・成熟させることに成功した。
【0155】
3.まとめ
以上の検討によって、背側視床下部への分化誘導条件と腹側視床下部への分化誘導条件が見出された。また、視床下部と下垂体を同時に成熟させることにより、視床下部と下垂体が機能的に一体化した構造体の構築を可能にする分化誘導条件も判明した。好適な分化誘導条件の具体例(概要)を図14(背側視床下部)、図15(腹側視床下部)、図16、17(視床下部と下垂体の同時成熟)に示す。
【0156】
ヒトES細胞を下垂体前葉に分化させることに成功したとの報告(Ozone C et al., Functional anterior pituitary generated in self-organizing culture of human embryonic stem cells. Nat Commun. 2016 Jan 14;7:10351.)があるが、そこに示された条件で分化誘導して得られた細胞塊の特性を蛍光抗体法で評価したところ、視床下部ニューロン(AVPニューロン等)は検出されず(図25)、最終分化した機能的なニューロンの出現には至っていなかった。従って、上記検討によって見出された新たな分化誘導条件は、機能的な視床下部ニューロンを含む構造体を構築できる点において、当該報告と一線を画する。
【0157】
B.ヒトiPS細胞からの分化誘導
上記検討によって見出された分化誘導条件がヒトiPS細胞から視床下部を誘導すること、及び視床下部と下垂体の同時成熟に有効であることを確認するため、以下の検証実験を行った。
【0158】
1.視床下部AVPニューロンの出現
ヒトES細胞を用いた検討によって見出された背側視床下部誘導条件(A.1.(6)の欄を参照)でヒトiPS細胞(201B7株)を培養した。その結果、AVPニューロンの出現が確認された(図18)。
【0159】
2.視床下部と下垂体の同時成熟
(1)下垂体の成熟化
視床下部と下垂体の同時成熟に有効であった条件(A.2.の欄を参照)でヒトiPS細胞(201B7株)を培養した。培養60日目には下垂体組織と視床下部組織が認められ、下垂体組織にはACTHニューロンが検出された。また、長期培養によって下垂体組織からのACTHの分泌量が増加し(図19)、培養時間の経過に伴って下垂体組織の成熟化が進んでいることが確認された。
【0160】
(2)視床下部と下垂体の隣接による効果
培養70日目に下垂体組織と視床下部組織を分離し、下垂体組織のみで培養を継続した場合(図20A)と下垂体組織と視床下部組織を再度隣接させて培養した場合(図20B)で組織の成熟化を比較評価した。培養150日目で培養液中のACTH濃度を測定したところ、下垂体組織と視床下部組織を再度隣接させて培養した場合のACTH濃度が有意に高かった(図20右)。この結果は、二つの組織を隣接した状態で培養することがその成熟化に極めて重要であることを示唆する。
【0161】
(3)下垂体組織の機能評価1
(1)の条件で培養して得られた下垂体組織の機能を評価するため、CRHを用いたACTH刺激試験(図21右)を行った。試験方法は既報(Ozone C et al., Functional anterior pituitary generated in self-organizing culture of human embryonic stem cells. Nat Commun. 2016 Jan 14;7:10351.)の方法に準じた(CRHは5μg/mlで添加)。試験の結果、CRHに反応してACTHが分泌すること、即ち、機能的なACTHニューロンが得られていることが示された(図21左)。尚、蛍光抗体法で解析し、ACTH陽性細胞がCRH-R1陽性であることも確認した(図21中央)。
【0162】
(4)下垂体組織の機能評価2
(1)の条件で培養して得られた下垂体組織の機能を更に評価するため、デキサメサゾンを用いたACTH抑制試験(図22右)を行った。CRH添加による刺激を行う際にデキサメサゾンを500ng/mlで添加し(試験群)、デキサメサゾンを添加しない場合(コンロール群)とACTH分泌量を比較した。試験の結果、デキサメサゾンによってACTHの分泌が抑制された(図22左)。即ち、ステロイドによるネガティブフィードバックが生ずる機能的な下垂体組織が形成されていることが確認された。
【0163】
(5)下垂体組織の機能評価3
(1)の条件で培養して得られた下垂体組織の機能を更に評価するため、CRH-R1阻害薬(Antalarmin、NBI2719)を用いたACTH抑制試験を行った(図23右)。CRH添加による刺激を行う際にCRH-R1阻害薬を10-5Mで添加し(試験群)、CRH-R1阻害薬を添加しない場合(コンロール群)とACTH分泌量を比較した。試験の結果、CRH-R1阻害薬によってACTHの分泌が抑制された(図23左と中央)。この結果は、ACTHニューロン(ACTH陽性細胞)がCRHニューロン(CRH陽性細胞)の制御を受けて機能していることを示唆する。
【0164】
(6)視床下部と下垂体が一体化した構造体の機能評価
同時成熟によって得られた構造体の低血糖ストレスへの反応性を評価した(図24右)。低グルコース刺激によるACTH分泌量の変化を調べた結果、低グルコース刺激に反応してACTH分泌量が増大し(図24左)、この反応性はCHRH-R1阻害薬によって減弱した(図24中央)。これらの結果は、同時成熟によって得られた構造体に含まれるACTHニューロン(ACTH陽性細胞)が視床下部の制御を受けて機能していることを示唆するとともに、視床下部と下垂体が機能的に一体化した構造体が形成されていることを裏づける。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明によれば、ヒト多能性幹細胞から視床下部組織を効率的に誘導することができる。本発明の方法で構築された細胞構造体は、例えば、視床下部の障害を標的とした創薬スクリーニング用のツールとして有用である。また、視床下部の障害に対する治療手段(移植材料)としての利用も期待される。一方、本発明は、視床下部組織と下垂体組織が機能的に一体化した細胞構造体をインビトロで構築することも可能にする。当該細胞構造体は視床下部及び/又は下垂体を標的とした創薬スクリーニング等に極めて有効なツールであり、また、移植材料としての適用も期待できる。
【0166】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
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