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特開2022-62370構造物のリフトアップ工法およびその装置構成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062370
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】構造物のリフトアップ工法およびその装置構成
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/35 20060101AFI20220413BHJP
【FI】
E04B1/35 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170334
(22)【出願日】2020-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】川添 俊之
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リフトアップ途中の宙吊り状態で、時々刻々と高さが変わる屋根架構等に作用する地震等水平力を、無理なく地盤に伝達し、リフトアップ途中における側架構への荷重負担を軽減することができる構造物のリフトアップ工法を提供する。
【解決手段】屋根架構1が吊り材3、3、…とジャッキ4、4、…にて引き上げられている途中において、時々刻々と変化する屋根架構1の高さに合わせて、ウインチ5、5、…による巻取りによって、ワイヤーロープ6、6に導入される張力が適度に保持される。ウインチ5と傾斜ワイヤーロープ6との組合せが、立面視で右傾斜および左傾斜に、1つの側架構2に対して少なくとも1対設置されており、側架構2の構面に平行方向に屋根架構1に作用した地震等水平力は、どちらかのワイヤーロープ6が引張りブレースの役目を果たし、側架構2に伝達される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)柱列から成る側架構が、相対面するように、一定距離を置いて組立てられる。
2)相対面する前記側架構に挟まれた場所にて、屋根や床の様な屋根架構等が、それらの最終設置場所よりも低い高さにて組立てられる。
3)前記屋根架構等を引き上げる吊り材が、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の吊り点とを結んで取付けられる。
4)前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の側縁部との間に掛け渡されたワイヤーロープが、立面視において、右傾斜および左傾斜で、1つの側架構に対して少なくとも1以上の対を含む構成にて配設される。
5)前記ワイヤーロープはウインチに接続されており、前記屋根架構等が引き上げられる時、その高さに応じて、前記ウインチにより巻き取られることにより前記ワイヤーロープに所定の張力が導入される。
以上の手順を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法。
【請求項2】
1)柱列から成る側架構が、相対面するように、一定距離を置いて組立てられる。
2)相対面する前記側架構に挟まれた場所にて、屋根や床の様な屋根架構等が、それらの最終設置場所よりも低い高さにて組立てられる。
3)前記屋根架構等を引き上げる吊り材が、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の吊り点とを結んで取付けられる。
4)前記屋根架構等の側縁部近傍と、前記屋根架構等の下方床面に設置された床上ウインチとの間に下部ワイヤーロープが掛け渡され、巻取り可能に接続される。
5)前記床上ウインチと前記下部ワイヤーロープの組合せが、1つの側架構2に対して少なくとも1以上の対を含む構成にて配設され、対となる各組の前記下部ワイヤーロープの軸方向は、平面視において、前記側架構構面に対する角度が、0度~90度の範囲で概ね線対称となるように設定される。
6)前記屋根架構等が引き上げられる時、その高さに応じて、前記床上ウインチにより巻き取られることにより、前記下部ワイヤーロープに所定の張力が導入される。
以上の手順を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法。
【請求項3】
1)柱列から成る側架構が、相対面するように、一定距離を置いて組立てられる。
2)相対面する前記側架構に挟まれた場所にて、屋根や床の様な屋根架構等が、それらの最終設置場所よりも低い高さにて組立てられる。
3)前記屋根架構等を引き上げる吊り材が、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の吊り点とを結んで取付けられる。
4)前記屋根架構等の上部および下部に、請求項1および2記載のワイヤーロープが配設される。
以上の手順を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法。
【請求項4】
請求項1記載の構造物のリフトアップ工法に用いる装置構成であって、
1)屋根架構等を引き上げるための吊り材が、側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の吊り点とを結んで取付けられており、楊重手段に繋がっている。
2)ワイヤーロープが、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の側縁部とに掛け渡され、立面視において、右傾斜および左傾斜で、1つの側架構2に対して少なくとも1以上の対を含む構成にて配設されている。
3)前記屋根架構等が引き上げられる時に、前記ワイヤーロープを巻取り、所定の張力を導入するためのウインチが設置されている。
以上の要素を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法に用いる装置構成。
【請求項5】
請求項2記載の構造物のリフトアップ工法に用いる装置構成であって、
1)屋根架構等を引き上げるための吊り材が、側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の吊り点とを結んで取付けられており、楊重手段に繋がっている。
2)前記屋根架構等の側縁部近傍と、前記屋根架構等の下方床面との間に掛け渡された下部ワイヤーロープであって、前記下部ワイヤーロープは、前記床面に設置された床上ウインチに巻取り可能に接続されており、前記屋根架構等が引き上げられる時、その高さに応じて、前記床上ウインチにより所定の張力が導入される。
3)前記床上ウインチと前記下部ワイヤーロープの組合せが、1つの側架構2に対して少なくとも1以上の対を含む構成にて配設され、対となる各組の前記下部ワイヤーロープの軸方向は、平面視において、前記側架構構面に対する角度が、0度~90度の範囲で概ね線対称となるように設定されている。
以上の要素を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法に用いる装置構成。
【請求項6】
請求項3記載の構造物のリフトアップ工法に用いる装置構成であって、
1)屋根架構等を引き上げるための吊り材が、側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の吊り点とを結んで取付けられており、楊重手段に繋がっている。
2)ワイヤーロープが、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の側縁部とに掛け渡され、立面視において、右傾斜および左傾斜で、1つの側架構2に対して少なくとも1以上の対を含む構成にて配設されている。
3)前記屋根架構等が引き上げられる時に、前記ワイヤーロープに所定の張力を導入するためのウインチが設置されている。
4)前記屋根架構等の側縁部近傍と、前記屋根架構等の下方床面との間に掛け渡された下部ワイヤーロープであって、前記下部ワイヤーロープは、前記床面に設置された床上ウインチに接続されており、前記屋根架構等が引き上げられる時、その高さに応じて、前記床上ウインチにより所定の張力が導入される。
5)前記床上ウインチと前記下部ワイヤーロープの組合せが、1つの側架構2に対して少なくとも1以上の対を含む構成にて配設され、対となる各組の前記下部ワイヤーロープの軸方向は、平面視において、前記側架構構面に対する角度が、0度~90度の範囲で概ね線対称となるように設定されている。
以上の要素を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法に用いる装置構成。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の屋根架構等を建方するリフトアップ工法およびその装置構成に関する。
【背景技術】
【0002】
大展示ホールの屋根架構や床架構、あるいは航空機等の格納庫のような大梁間構造物の屋根架構(以下、屋根架構等と称す。)を建方する場合、支保工とクレーンを用いる在来工法では、建設現場の敷地条件により、クレーンに対して設置場所や作業高さに制約を受ける場合があり、その対策として、リフトアップ工法が採用されることがあった。
【0003】
屋根架構等のリフトアップの場合、地上に近い高さで屋根架構等をほぼ全部組立て、仕上げ材や設備も取付けてから、先行して建方された自立柱に沿うように、前記屋根架構等全体を一体的に引き上げるので、施工効率が良く、また、高所作業がほとんど無くなるため安全性も高い工法とされ、かつクレーン作業の最高高さをその建物高さと同程度に抑えることも可能である。
【0004】
但し、リフトアップ工法により引き上げられる途中の屋根架構等は、宙吊り状態なので、自立柱との一体化が完了するまで、時々刻々と高さの変わる屋根架構等に作用する地震や風による水平力(以下、地震等水平力と称す。)に対する対策が必要になる。
【0005】
従来、そのような地震等水平力に対する対策として、例えば、前記自立柱に沿わせた仮設の鉛直ガイドレールに屋根架構等の一部を接触させながら引き上げることで、地震等水平力を前記自立柱に伝達させる方法があった。
【0006】
その場合、特に張間方向(前記自立柱が片持ち状態である方向)の地震等水平力に対しては、前記自立柱は片持ち状態のまま、宙吊り状態の前記屋根架構等全体からの地震等水平力を全て負担して地盤に伝達しなければならないので、構造物の架構全体が完成した状態とは異なる部材応力分布となり、また大きな基礎反力が生じうるため、別途柱と基礎の補強が必要となることがあった。
【0007】
その補強方法として、例えば図9に図示のように、片持ち状態の自立柱10の柱列から成る側架構2の屋内側に鉛直のガイドレール10を設置し、屋外側に仮設方杖11を取付ける場合、その仮設方杖11のための仮設基礎12も設ける必要がありコストが余分にかかる。また、敷地が狭い場合には、その仮設基礎12を設けることができない場合もありうる。
【0008】
大梁間構造物の屋根架構等を建方するリフトアップ工法における、楊重物の揺れ問題に関する先行技術としては、例えば、特許文献1記載の発明がある。
【0009】
特許文献1記載の発明は、リフトアップ中の楊重物が風を受けて揺れる問題に対して、建築物の外壁面に近接して設置され、張力導入された鉛直のガイドワイヤーに、楊重物外周に設けられたスライド金物を篏合し、更に前記ガイドワイヤーを所定間隔で抱束する中間保持金具を建築物の前記外壁面に配設する工法が開示されている。
【0010】
この工法によれば、楊重物外周に設けられた前記スライド金物を前記ガイドワイヤーに篏合した状態にて、楊重物がリフトアップされるので、前記楊重物が宙吊り状態の時、風により前記楊重物が揺れた場合、前記ガイドワイヤーの上下に相隣接する前記中間保持金具を支点とする短い寸法の範囲で生じる前記ガイドワイヤーの水平たわみ以下に、前記楊重物の水平変位量が抑えられるとしている。
【0011】
鉛直に配設された前記ガイドワイヤーは、その上下端は上部定着金具と下部アンカー金具にて建物本体に定着され、一定の張力が導入されているので、ある程度までの風に対しては前記楊重物の揺れ(水平方向変位)を抑制できる。
【0012】
しかし、特許文献1に記載の通り、「導入可能な張力には限度があり」、一定以上の強風では前記楊重物のリフトアップを中止して、別途保留措置を施す必要がある。
【0013】
つまり、鉛直に配設された前記ガイドワイヤーが水平方向に引っ張られた時に生じる張力は、特許文献1の図9および水平力の式(1)から分かるように、前記ガイドワイヤーに作用する水平力Pに吊り合うために必要な張力増分ΔTは、前記水平力の式を変形して(符号は前記図9および式(1)による)、
ΔT=P/{(1/h1+1/h2)・δ}-T0 ・・・(1)
ここで、T0:初期張力
1、h2:水平力Pの作用点から上下の中間保持金具までの距離
であるから、h1とh2およびT0が一定である時、作用した水平力Pに対して水平変位δを少なくしようとすればする程、張力増分ΔTは反比例(双曲線)的に増大するので、前記ガイドワイヤー両端部の定着力確保が難しくなり、導入できる初期張力は制限される。
【0014】
よって、屋根架構等のような楊重物に作用する強風や大きな地震水平力に対して、特許文献1記載の発明による方法では限界がある。そして、特許文献1には、従来の問題に対する解決手段についての開示はなく、また示唆する記述もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第3413502号公報
【特許文献2】特許第3939237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、構造物の屋根架構等を建方するリフトアップ工法において、リフトアップ途中の宙吊り状態で、時々刻々と高さが変わる前記屋根架構等に作用する地震等水平力を、無理なく地盤に伝達し、リフトアップ途中に前記屋根架構等を支える架構体への荷重負担を軽減する工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するための本発明の第1の手段は、
1)自立柱の柱列から成る架構(以下、側架構と称す。)が、相対面するように、一定距離を置いて組立てられる。
2)相対面する前記側架構に挟まれた場所にて、前記側架構間でリフトアップされる被楊重架構、例えば屋根や床の様な屋根架構等が、それらの最終設置場所よりも低い高さにて組立てられる。
3)前記屋根架構等を引き上げる吊り材が、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の吊り点とを結んで取付けられる。
4)前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の側縁部との間に掛け渡され、滑車にて折返されたワイヤーロープが、立面視において、右傾斜および左傾斜で、少なくとも1以上の対を含む構成にて配設される。
5)前記ワイヤーロープはウインチに接続されており、前記屋根架構等が引き上げられる時、その高さに応じて、前記ウインチにより巻き取られることにより前記ワイヤーロープに所定の張力が導入される。
以上の手順を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法である。
【0018】
また、前記本発明第1の手段に用いる装置の構成は、
1)屋根架構等を引き上げるための吊り材が、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の吊り点とを結んで取付けられており、油圧ジャッキやウインチ等の楊重手段に繋がっている。
2)滑車にて折返されたワイヤーロープが、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の側縁部とに掛け渡され、立面視において、右傾斜および左傾斜で、少なくとも1以上の対を含む構成にて配設されている。
3)前記屋根架構等が引き上げられる時、その高さに応じて、前記ワイヤーロープに所定の張力を導入するためのウインチが設置されている。
以上の要素を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法に用いる装置構成である。
【0019】
本発明第1の手段は、以上のようにワイヤーロープが配設されているので、前記屋根架構等が宙吊り状態の時、その高さに応じて、ウインチによる巻取りによって右傾斜および左傾斜に配設された前記ワイヤーロープに所定の張力が導入されるので、前記屋根架構等に地震等水平力が作用した場合、右傾斜もしくは左傾斜どちらかのワイヤーロープが引張りブレースの役目を果す。つまり、時々刻々と高さが変化する構面の水平抵抗要素である引張りブレースの長さが適宜調整される。
【0020】
よって、前記屋根架構等がリフトアップ途中であっても、前記側架構構面に平行する方向の地震等水平力が作用した場合、傾斜したワイヤーロープが引張りブレースとしての効果を発揮して、前記屋根架構等の揺れを抑え、前記屋根架構等からの水平力を前記側架構に伝達する。
【0021】
この時、前記屋根架構等からの水平力は全て、前記屋根架構等の両側にある前記側架構の構面(柱列方向)全体で処理されるため、構造物の架構全体が完成した状態でなくても、側架構としての耐力には余力がある。但し、前記側架構(自立柱)が片持ち状態である方向については、前記側架構の脚部の踏ん張りで前記水平力に抵抗する必要があるので、従来の仮設方杖等による補強が必要になる場合もあり得る。
【0022】
また、本発明第2の手段は、
1)側架構が、相対面するように、一定距離を置いて組立てられる。
2)相対面する前記側架構に挟まれた場所にて、屋根架構等が、それらの最終設置場所よりも低い高さにて組立てられる。
3)前記屋根架構等を引き上げる吊り材が、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の複数の吊り点とを結んで取付けられる。
4)前記屋根架構等の側縁部近傍と、前記屋根架構等の下方床面に設置された床上ウインチとの間に、滑車にて折返されたワイヤーロープ(以下、下部ワイヤーロープと称す。)が、巻取り可能に掛け渡される。
5)前記床上ウインチと前記下部ワイヤーロープの組合せが、1つの側架構2に対して少なくとも1以上の対を含む構成にて配設され、対となる各組の前記下部ワイヤーロープの軸方向は、平面視において、前記屋根架構等の両側にある前記側架構構面に対する角度が、0度~90度の範囲で概ね線対称となるように設定される。
6)前記屋根架構等が引き上げられる時、その高さに応じて、前記床上ウインチにより巻き取られることにより、前記下部ワイヤーロープに所定の張力が導入される。
以上の手順を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法である。
【0023】
また、上記本発明第2の手段に用いる装置の構成は、
1)屋根架構等を引き上げるための吊り材が、前記側架構の頂部もしくは頂部付近と前記屋根架構等の吊り点とを結んで取付けられており、油圧ジャッキやウインチ等の楊重手段に繋がっている。
2)前記屋根架構等の側縁部近傍と、前記屋根架構等の下方床面との間に掛け渡された下部ワイヤーロープであって、前記下部ワイヤーロープは、前記床面に設置された床上ウインチに巻取り可能に接続されており、前記屋根架構等が引き上げられる時、その高さに応じて、前記床上ウインチにより所定の張力が導入される。
3)前記床上ウインチと前記下部ワイヤーロープの組合せが、1つの側架構2に対して少なくとも1以上の対を含む構成にて配設され、対となる各組の前記下部ワイヤーロープの軸方向は、平面視において、前記屋根架構等の両側にある前記側架構構面に対する角度が、0度~90度の範囲で概ね線対称となるように設定されている。
以上の要素を含むことを特徴とする、構造物のリフトアップ工法に用いる装置構成である。
【0024】
本発明第2の手段は、以上のようにワイヤーロープが配設されているので、前記屋根架構等が宙吊り状態の時、その高さに応じて、床上ウインチによる下部ワイヤーロープの巻取りによって、平面視において、概ね線対称で対を成す方向で右傾斜および左傾斜に配設された前記下部ワイヤーロープに所定の張力が導入され、前記屋根架構等に地震等水平力が作用した場合、右傾斜もしくは左傾斜どちらかの前記下部ワイヤーロープが引張りブレースの役目を果す。つまり、時々刻々と高さが変化する構面の水平抵抗要素である引張りブレースの長さが適宜調整される。
【0025】
特に、前記下部ワイヤーロープの配置が、平面視において、前記下部ワイヤーロープの前記側架構構面に対する角度が、0度~90度の範囲で概ね線対称で対を成す方向で設置されるので、複数の前記下部ワイヤーロープの軸が異なる方向を向いており、前記側架構(自立柱)が片持ち状態である方向に限らず、どの方向から地震等水平力が作用しても、どれかの下部ワイヤーロープが引張りブレースの効果を発揮し、前記地震等水平力は全て、前記床面に設置された床上ウインチを介して地盤に伝達されるので、前記側架構(自立柱)の負担は大幅に低減される。
【0026】
更にまた、引張りブレースとなった下部ワイヤーロープの線対称である反対側の下部ワイヤーロープは軸力が抜けるが、床上ウインチで適宜巻き取って張力を再導入することで、前記屋根架構等が浮き上がるのを抑制することもできる。
【0027】
本発明の第3手段は、第1手段と第2手段を組合わせた場合である。前記屋根架構の上下に前記ワイヤーロープおよび前記下部ワイヤーロープが配設されているので、前記側架構構面に平行する方向の地震等水平力が作用した場合に、どれかの前記ワイヤーロープおよび前記下部ワイヤーロープの両方が共に引張りブレースとして働くので、前記側架構の負担が、本発明第1の手段のみの場合よりも軽減される。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、以上のような手段によるので、構造物の屋根架構等を建方するリフトアップ工法において、次のような効果が得られる。
(1)屋根架構等のリフトアップ途中に、宙吊り状態の前記屋根架構に地震等水平力が作用した場合、前記屋根架構等の上部および/または下部のワイヤーロープが引張りブレースの役目を果たし、側架構(自立柱)の負担が軽減されるので、その部材や基礎の補強の必要が無くなる。
(2)特に側架構(自立柱)が片持ち状態である張間方向の地震等水平力に対して、自立柱に対する従来のような方杖補強やその方杖用の仮設基礎設置が不要となり、そのための費用が発生しない。
(3)ウインチによるワイヤーロープ巻取りで長さ調整と張力導入が適宜可能であることから、引張りブレース構面を連続的に形成できるので、屋根架構等のリフトアップに伴って時々刻々と高さが変化する構面における水平抵抗要素の確保が、柔軟かつ容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1実施例を説明する屋根架構リフトアップ途中の張間方向断面図であって、図(a)は、図2のイ-イ矢視図を、図(b)は、同じく図2のロ-ロ矢視図を示す。
図2図1(a)または(b)のハ-ハ矢視図である。
図3】本発明の第2実施例を説明する屋根架構リフトアップ途中の張間方向の断面図であって、図4のイ-イ矢視図である。
図4図3のハ-ハ矢視図である。
図5】本発明の第2実施例の見下げ(図屋根架構の表示を省略)であって、図4のニ-ニ矢視図である。
図6】本発明の第3実施例を説明する屋根架構リフトアップ途中の張間方向の断面図であって、図7のロ-ロ矢視図である。
図7図6のハ-ハ矢視図である。
図8】本発明の第3実施例の見下げ(図屋根架構の表示を省略)であって、図7のニ-ニ矢視図である。
図9】従来のリフトアップ工法の一例を示す屋根架構リフトアップ途中の張間方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の第1実施例を図1および図2を参照して説明する。図1は、屋根架構1のリフトアップ途中の張間方向断面図であって、図1(a)は、屋根架構1が、その吊り点に取付けられた吊り材3、3と、自立柱の柱列で構成される側架構2、2の頂部に設置されたジャッキ4、4にて引き上げられる様子を示し、図1のハ-ハ矢視に対応する図2のイ-イ矢視図である。
【0031】
図1(b)は、図1のハ-ハ矢視に対応する図2のロ-ロ矢視図であって、図2に図示のように、側架構2頂部に設けられたウインチ5、5と、そのウインチ5、5と屋根架構1の側端部との間に掛け渡された傾斜したワイヤーロープ6とを組合せた装置が設置されており、ワイヤーロープ6は複数の滑車7、7、…にて折返されている。ワイヤーロープ6、6の傾斜方向は、立面視において右傾斜および左傾斜で、ウインチ5、5と傾斜したワイヤーロープ6とが組合されて、1つの側架構2に対して少なくとも1対(本実施例では1対のみ)が設けられている。
【0032】
第1実施例は、以上のような構成なので、屋根架構1が吊り材3、3、…とジャッキ4、4、…にて引き上げられている途中において、時々刻々と変化する屋根架構1の高さに合わせて、ウインチ5、5、…による巻取りによってワイヤーロープ6、6の長さが調整され、ワイヤーロープ6、6に導入される張力が適度に保持される。
【0033】
ウインチ5、5と傾斜したワイヤーロープ6との組合せは、1つの側架構2に対して少なくとも1対あるので、側架構2の構面に平行方向(桁行方向)に地震等水平力が作用しても、どちらかの傾斜したワイヤーロープ6が引張りブレースの役目を果たし、屋根架構1に作用した地震等水平力は側架構2に確実に伝達される。側架構2の構面(桁行)方向は、通常、構造的に余力があるので、側架構2に伝達された力は問題なく地盤に伝達される。
【0034】
図3乃至図5は、本発明の第2実施例である。図3は、屋根架構1のリフトアップ途中の張間方向断面図であり、図3のハ-ハ矢視に対応する図4のイ-イ矢視図である。
【0035】
図4に図示のように、屋根架構1の下方に、床面に設けられた床上ウインチ5a、5aと、それら床上ウインチ5a、5aと屋根架構1の側端部近傍との間に掛け渡され、立面視において傾斜した下部ワイヤーロープ6aと、を組合せた装置が1つの側架構2に対して少なくとも2組(本実施例では2組)設置されており、下部ワイヤーロープ6aは複数の滑車7、7、…にて折返されている。下部ワイヤーロープ6a、6aの傾斜方向は、立面視において、右傾斜および左傾斜で概ね線対称で対を成す方向で設置されている。
【0036】
図5は、図4のニ-ニ矢視図であり、床面に設けられた床上ウインチ5a、5aと、それら床上ウインチ5a、5aと屋根架構1の側端部近傍との間に掛け渡され傾斜した下部ワイヤーロープ6aと、を組合せた装置の平面配置を示すが、各組は、相互に概ね線対称の位置関係にある。平面視において、下部ワイヤーロープ6a、6a、…の軸方向は、側架構2、2の構面に対する角度θが0度~90度の範囲で任意に設定できる。
【0037】
これらの下部ワイヤーロープ6a、6a、…は、屋根架構1が吊り材3、3、…とジャッキ4、4、…にて引き上げられている途中において、時々刻々と変化する屋根架構1の高さに合わせて、床上ウインチ5a、5a、…による巻取りによって下部ワイヤーロープ6a、6a、…の長さが調整され、下部ワイヤーロープ6a、6a、…に導入される張力が適度に保持される。
【0038】
図4および図5から分かるように、下部ワイヤーロープ6a、6a、…の軸方向は、屋根架構1に対して、立面的にも平面的にも概ね線対称に傾斜しているので、地震力が張間方向と桁行方向のどちらから(もしくは両方向から同時に)作用しても、どれかの下部ワイヤーロープ6a、6a、…が引張りブレースの役割を果たし、屋根架構1に作用する地震等水平力について、側架構2、2への荷重負担が抑制される。
【0039】
即ち、下部ワイヤーロープ6a、6a、…の軸方向は、立面的にも平面的にも概ね線対称に傾斜していることが重要であり、構造物の形状や重量バランス等を考慮する必要があるが、下部ワイヤーロープ6a、6a、…の引張りブレース効果が、側架構2、2の構面直交方向(張間方向)により有効になるように、平面的に、側架構2、2の構面に対する角度θは概ね45度~70度程度を目安にしてもよい。
【0040】
特に、側架構2、2が片持ち状態である張間方向の地震力に対して、その地震力の水平成分は全て、引張り側となった下部ワイヤーロープ6a、6a、…から床上ウインチ5a、5a、…を介して地盤に伝達されるので、屋根架構1に作用する地震等水平力について、側架構2を構成する独立柱の片持ち方向(水平方向)への荷重負担が無くなる。
【0041】
また、第2実施例において、屋根架構1に作用した地震等水平力に対して抵抗しない側の下部ワイヤーロープ6a、6aは、屋根架構1の搖動を止めて引張りブレースとなった方の下部ワイヤーロープ6a、6aとは平面的に距離を置いて反対側の屋根架構1の部分に連結されているため、床上ウインチ5a、5a、…の巻取りによってその張力を導入することにより、屋根架構1の浮き上がりを抑制することも可能となる。
【0042】
図6および図7は、本発明の第3実施例であって、実施例1と2を組合わせた場合である。図6は、屋根架構1のリフトアップ途中の張間方向断面図であり、図6のハ-ハ矢視に対応する図7のロ-ロ矢視図である。
【0043】
図7に図示のように、側架構2頂部に設けられたウインチ5、5と、それらウインチ5、5と屋根架構1の側端部との間に掛け渡された傾斜したワイヤーロープ6とを組合せた装置が設置されており、ワイヤーロープ6は複数の滑車7、7、…にて折返されている。ワイヤーロープ6、6の傾斜方向は、立面視において右傾斜および左傾斜で、ウインチ5、5と傾斜したワイヤーロープ6とが組合されて、1つの側架構2に対して少なくとも1対(本実施例では1対のみ)が設けられている。
【0044】
更に、屋根架構1の下方にも、床面に設けられた床上ウインチ5a、5aと、それら床上ウインチ5a、5aと屋根架構1の側端部近傍との間に掛け渡された傾斜した下部ワイヤーロープ6aとを組合せた装置が、1つの側架構2に対して少なくとも2組(本実施例では2組)設置されており、下部ワイヤーロープ6aは複数の滑車7、7、…にて折返されている。下部ワイヤーロープ6a、6aの傾斜方向は、立面視で、概ね線対称で対を成す方向で、所定の角度範囲に設置されている。
【0045】
図8は、図7のニ-ニ矢視図であり、床面に設けられた床上ウインチ5a、5aと、それら床上ウインチ5a、5aと屋根架構1の側端部近傍との間に掛け渡され傾斜した下部ワイヤーロープ6aと、を組合せた装置の平面配置を示すが、各組は、相互に概ね線対称の位置関係にある。平面視において、下部ワイヤーロープ6a、6a、…の軸方向は、側架構2、2の構面に対する角度θが0度~90度の範囲で任意に設定できる。
【0046】
これらの下部ワイヤーロープ6a、6a、…は、屋根架構1が吊り材3、3、…とジャッキ4、4、…にて引き上げられている途中において、時々刻々と変化する屋根架構1の高さに合わせて、床上ウインチ5a、5a、…による巻取りによって下部ワイヤーロープ6a、6a、…の長さが調整され、下部ワイヤーロープ6a、6a、…に導入される張力が適度に保持される。
【0047】
図7および図8から分かるように、下部ワイヤーロープ6a、6a、…の軸方向は、屋根架構1に対して、立面的にも平面的にも概ね線対称に傾斜しているので、地震力が張間方向と桁行方向のどちらから(もしくは両方向から同時に)作用しても、どれかの下部ワイヤーロープ6a、6a、…が引張りブレースの役割を果たし、屋根架構1に作用する地震等水平力について、側架構2、2への荷重負担が抑制される。
【0048】
即ち、下部ワイヤーロープ6a、6a、…の軸方向は、立面的にも平面的にも概ね線対称に傾斜していることが重要であり、構造物の形状や重量バランス等を考慮する必要があるが、下部ワイヤーロープ6a、6a、…の引張りブレース効果が、側架構2、2の構面直交方向(張間方向)により有効になるように、平面的に、側架構2、2の構面に対する角度θは概ね45度~70度程度を目安にしてもよい。
【0049】
特に、側架構2、2が片持ち状態である張間方向の地震力に対しては、実施例2と同じく、その地震力の水平成分は全て、引張り側となった下部ワイヤーロープ6a、6a、…から床上ウインチ5a、5a、…を介して地盤に伝達されるので、屋根架構1に作用する地震等水平力について、側架構2を構成する独立柱の片持ち方向(水平方向)への荷重負担が無くなる。
【0050】
桁行方向の地震力に対しては、屋根架構1の上側および下側のワイヤーロープ(6、6a)のどれかが共に抵抗するので、側架構2の負担が半減される。
【0051】
また、第3実施例も第2実施例と同じく、屋根架構1に作用した地震等水平力に対して抵抗しない側の下部ワイヤーロープ6a、6a、…は、屋根架構1の搖動を止めて引張りブレースとなった方の下部ワイヤーロープ6a、6a、…とは平面的に距離を置いて反対側の屋根架構1の部分に連結されているため、床上ウインチ5a、5a、…の巻取りによってその張力を導入することにより、屋根架構1の浮き上がりを抑制することも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
リフトアップ工法は、高さ制限のある場所などで採用されることがあり、地上部付近で屋根架構等を組立てるので、高所作業が少なく施工効率の良い工法であるが、リフトアップ途中で宙吊り状態における屋根架構に対する地震等の外乱への対策が不可欠である。その課題に対し、本発明は、時々刻々と変化する屋根架構の高さ変化に柔軟に対応して、屋根架構の安定化を図り、かつ自立柱の柱列から成る側架構への負担も低減するリフトアップ工法であるので、リフトアップ工事において、施工性に加え、施工中の安全性向上にも大いに貢献できる。
【符号の説明】
【0053】
1:屋根架構
2:側架構
3:吊り材
4:ジャッキ
5:ウインチ
5a:床上ウインチ
6:ワイヤーロープ
6a:下部ワイヤーロープ
7:滑車
10:ガイドレール
11:仮設方杖
12:仮設基礎
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9