(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062380
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】凍結保存用容器の監視方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/72 20060101AFI20220413BHJP
F25D 3/10 20060101ALN20220413BHJP
【FI】
G01N25/72 D
F25D3/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170350
(22)【出願日】2020-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】520391815
【氏名又は名称】水野 里志
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】水野 里志
【テーマコード(参考)】
2G040
3L044
【Fターム(参考)】
2G040AA05
2G040AB08
2G040BA17
2G040BA28
2G040CA02
2G040DA02
2G040DA12
2G040EA08
2G040HA03
2G040HA05
3L044AA04
3L044BA03
3L044CA04
3L044DB03
3L044HA06
3L044JA01
3L044KA01
3L044KA02
3L044KA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】凍結保存用容器の損傷を簡易な構成により早期に発見することができる凍結保存用容器の監視方法を提供する。
【解決手段】内側容器101および外側容器102の間が真空断熱されて構成される凍結保存用容器100を監視する方法であって、外側容器102の表面温度を温度センサ10により測定する測温ステップと、温度センサ10の測定に基づいて凍結保存用容器100の損傷の有無を判別する判別ステップとを備える凍結保存用容器の監視方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側容器および外側容器の間が真空断熱されて構成される凍結保存用容器を監視する方法であって、
前記外側容器の表面温度を温度センサにより測定する測温ステップと、
前記温度センサの測定に基づいて前記凍結保存用容器の損傷の有無を判別する判別ステップとを備える凍結保存用容器の監視方法。
【請求項2】
前記温度センサは、感温素子と、前記感温素子を凹部に収容して保持するセンサホルダとを備え、
前記センサホルダは、弾性変形可能に形成されて、前記凹部の周縁全体が前記外側容器に密着することにより、前記感温素子を前記外側容器に接触させる請求項1に記載の凍結保存用容器の監視方法。
【請求項3】
前記外側容器は、上部に形成された開口部に向けて縮径されるテーパ部を有しており、
前記測温ステップは、前記テーパ部の表面温度を前記温度センサにより測定する請求項1または2に記載の凍結保存用容器の監視方法。
【請求項4】
内側容器および外側容器の間が真空断熱されて構成される凍結保存用容器を監視するシステムであって、
前記外側容器の表面温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの測定に基づいて前記凍結保存用容器の損傷の有無を判別する判別装置とを備える凍結保存用容器の監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結保存用容器の損傷の有無を監視する凍結保存用容器の監視方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
人や動物の胚、精子、卵子、細胞等の試料を凍結保存する凍結保存用容器が従来から知られている。例えば、特許文献1に開示された容器は、周壁が二重壁の真空構造からなる断熱容器内に収納部が設けられており、収納部に収納された被収納物を断熱容器内に注入された液体窒素により冷却して、被収納物を凍結保存することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の凍結保存用容器は、断熱容器内の液体窒素の残量を目視確認することができる液面計を備えており、液体窒素の残量に応じて充填管から断熱容器内に液体窒素を補充することができる。
【0005】
ところが、凍結保存容器が破損して断熱容器内の液体窒素の残量が急激に低下すると、液体窒素を補充する前に、収納部の温度が胚などの凍結保存に必要な温度を超えて上昇するおそれがあり、被収納物が悪影響を受けるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、凍結保存用容器の損傷を簡易な構成により早期に発見することができる凍結保存用容器の監視方法およびシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、内側容器および外側容器の間が真空断熱されて構成される凍結保存用容器を監視する方法であって、前記外側容器の表面温度を温度センサにより測定する測温ステップと、前記温度センサの測定に基づいて前記凍結保存用容器の損傷の有無を判別する判別ステップとを備える凍結保存用容器の監視方法により達成される。
【0008】
この凍結保存用容器の監視方法において、前記温度センサは、感温素子と、前記感温素子を凹部に収容して保持するセンサホルダとを備えることが好ましく、前記センサホルダは、弾性変形可能に形成されて、前記凹部の周縁全体が前記外側容器に密着することにより、前記感温素子を前記外側容器に接触させることが好ましい。
【0009】
前記外側容器が、上部に形成された開口部に向けて縮径されるテーパ部を有する場合、前記測温ステップは、前記テーパ部の表面温度を前記温度センサにより測定することが好ましい。
【0010】
また、本発明の前記目的は、内側容器および外側容器の間が真空断熱されて構成される凍結保存用容器を監視するシステムであって、前記外側容器の表面温度を測定する温度センサと、前記温度センサの測定に基づいて前記凍結保存用容器の損傷の有無を判別する判別装置とを備える凍結保存用容器の監視システムにより達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、凍結保存用容器の損傷を簡易な構成により早期に発見することができる凍結保存用容器の監視方法およびシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る凍結保存用容器監視システムの概略構成図である。
【
図2】
図1に示す凍結保存用容器監視システムのブロック図である。
【
図3】
図1に示す凍結保存用容器監視システムの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る凍結保存用容器監視システムの概略構成図である。
図1に示す本実施形態の凍結保存用容器監視システム1は、凍結保存用容器100の破損の有無を監視するシステムである。凍結保存用容器100は、内側容器101および外側容器102を備える二重容器であり、内側容器101と外側容器102との間隙103が真空排気弁105を介して真空排気されることにより真空断熱された公知の構成である。外側容器102には、内側容器101の上部に形成された開口部101aを覆う蓋体104が着脱可能に装着されている。外側容器102の上部は、開口部101aに向けて縮径されるテーパ部102aを有している。内側容器101の内部には、胚、精子、卵子、細胞等の試料を収容して液体窒素により凍結保存することができ、必要時に蓋体104を開けて内側容器101への液体窒素の供給等を行うことができる。
【0014】
図2は、
図1に示す凍結保存用容器監視システム1のブロック図である。
図1および
図2に示すように、凍結保存用容器監視システム1は、温度センサ10、子機20、親機50および判別装置60を主な構成要素として備えている。
【0015】
温度センサ10は、サーミスタ等の感温素子を備えており、凍結保存用容器100の外側容器102の外表面に取り付けられて、外側容器102の表面温度を測定する。温度センサ10は、配線30を介して子機20に接続されており、温度センサ10の測定温度信号が子機20に向けて出力される。
【0016】
子機20は、温度センサ10のアナログ信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換する信号処理部21と、デジタル化された測定温度信号を親機50に向けて無線送信する送受信部22とが、電池(図示せず)と共に筐体内に収容されて構成されている。子機20は、取付ベルト41を備える収容ケース40に収容可能であり、取付ベルト41を凍結保存用容器100に巻き付けて両端部同士を面ファスナ等で着脱可能に取り付けることで、子機20を凍結保存用容器100に固定することができる。
【0017】
このように、温度センサ10および子機20は、凍結保存用容器100の側面に固定することができ、更に子機20から親機50への信号送信は無線で行われるため、凍結保存用容器100に対する試料の出し入れ、液体窒素の補充、清掃等の作業性を良好に維持することができる。温度センサ10および子機20は、取扱性を良好にするため、本実施形態のように別体として有線または無線により接続することが好ましいが、両者が一体化された構成であってもよい。
【0018】
親機50は、子機20から無線送信された測定温度信号を受信する送受信部51と、受信した測定温度信号を判別装置60に送信する制御部52とを備えている。複数の凍結保存用容器100を監視する場合、親機50は、複数の子機20のそれぞれから測定温度信号を受信することが可能であり、制御部52は、子機20の識別IDが付加された測定温度信号を判別装置60に送信する。子機20から親機50への無線送信は、例えば920MHz帯のマルチホップ通信を使用することができる。
【0019】
判別装置60は、制御部61、記憶部62および警報出力部63を備えている。判別装置60は、例えば汎用のパーソナルコンピュータ等により構成することができるが、親機50が一体化された専用装置として構成することもできる。
【0020】
制御部61は、子機20から受信した測定温度信号に受信時刻を付加して子機20ごとの時系列データとして記憶部62に記憶し、予め設定された基準温度信号との比較により凍結保存用容器100の損傷の有無を判別する。制御部61は、測定温度が基準温度よりも低くなると凍結保存用容器100が損傷したと判断し、警報出力部63を作動させて警報を出力する。基準温度は、凍結保存用容器100の周囲の気温等を考慮して適宜設定することができる。凍結保存用容器100の損傷の有無は、測定温度信号の時系列変化の速度に基づき判別することも可能であり、具体的には、測定温度の低下速度が基準速度よりも速い状態が一定時間継続した場合に凍結保存用容器100の損傷を判断するように構成してもよい。
【0021】
警報出力部63は、電子メールの送受信機能を有しており、警報出力時には、インターネット等のネットワーク110を介して、予め登録されたスマートフォン111やパーソナルコンピュータ112等の作業者の端末機器にアラーム情報を送信する。警報出力部63は、周囲の作業者にフラッシュ光や警報音などで警報を知らせる警報装置であってもよく、あるいは、これらを適宜併用してもよい。なお、警報出力部63は、子機20と親機50との通信が何らかの原因で一定時間途絶えた場合にも、電子メールで通知する。
【0022】
図3は、
図1に示す凍結保存用容器監視システムが備える温度センサ10の断面図であり、
図3(a)は凍結保存用容器に取り付ける前の状態、
図3(b)は凍結保存用容器に取り付けた後の状態を、それぞれ示している。
図3(a)に示すように、温度センサ10は、感温素子11と、感温素子11を保持するセンサホルダ13とを備えている。感温素子11は、チップ状の素子であり、フレキシブル基板12に実装されている。感温素子11は、本実施形態においてはバンドギャップ温度センサを使用しているが、サーミスタ等の他の温度センサを使用してもよい。センサホルダ13は、スポンジやゴム、合成樹脂等の弾性材料からなるブロック状の部材であり、凍結保存用容器に当接する当接面に形成された凹部13aに、感温素子11およびフレキシブル基板12が収容されて保持されている。
【0023】
センサホルダ13の当接面は、平坦状に形成されており、凹部13aを取り囲むように凹部13aの周縁全体に粘着層13bが形成されている。粘着層13bは剥離紙(図示せず)で覆われており、使用時に剥離紙を剥離して、
図1および
図3(b)に示すように凍結保存用容器のテーパ部102aに粘着層13bを貼り付けることにより、センサホルダ13がテーパ部102aに沿って弾性変形して湾曲し、センサホルダ13の凹部13aの周縁全体がテーパ部102aに密着する。
【0024】
図3(a)に示すように、感温素子11は、感温部11aが凹部13aの開口よりも外方に突出するように配置されており、
図3(b)に示すように、センサホルダ13の粘着層13bをテーパ部102aに接着すると、弾性変形したセンサホルダ13から感温素子11が押圧力を受けて、感温部11aがテーパ部102aに密着する。これにより、テーパ部102aの表面温度を正確に測定することができる。
【0025】
次に、上記の構成を備える凍結保存用容器監視システム1を用いた凍結保存用容器の監視方法を説明する。まず、監視対象となる凍結保存用容器100に温度センサ10を取り付けて、外側容器102の表面温度をリアルタイムに測定する(測温ステップ)。監視対象となる凍結保存用容器100が複数存在する場合には、温度センサ10および子機20を複数用意し、各凍結保存用容器100に温度センサ10を取り付けて、それぞれの外側容器102の表面温度を測定する。
【0026】
温度センサ10の測定温度信号は、子機20および親機50を介して判別装置60に送信される。判別装置60は、上記のとおり、測定温度信号に基づく凍結保存用容器100の損傷の有無の判別をリアルタイムに行う(判別ステップ)。判別装置60は、凍結保存用容器100が損傷したと判断すると、警報出力部63から警報の出力を行い、損傷の発生を作業者等に知らせる。
【0027】
凍結保存用容器100が損傷して内側容器101と外側容器102との真空断熱が破壊されると、内側容器101に収容された液体窒素の液量の低下が顕著になる前に、外側容器102の表面温度が低下する。本発明の凍結保存用容器の監視方法は、この原理を応用したものであり、凍結保存用容器の損傷を早期に発見して、その後の対処に十分な時間をかけることができる。例えば、本発明者が、容量10リットルの凍結保存用容器で真空破壊が生じた場合を想定してシミュレーションを行ったところ、本発明の凍結保存用容器の監視方法は、液体窒素の液面や重量を監視する従来の方法(液体窒素の残量が6割を下回った時に損傷を判断する方法)と比較して、損傷を1~2時間程度早く発見することが可能であった。
【0028】
凍結保存用容器100に対する温度センサ10の取付位置は、外側容器102の表面であれば特に限定されず、いずれの箇所に対しても容易に後付けが可能であると共に、作業性を損なうことなく監視を行うことができる。但し、真空破壊時における外側容器102の外表面の温度低下は、損傷箇所に拘らず外側容器102の上部で顕著であることから、外側容器102の上部に温度センサ10を取り付けることが好ましい。特に、凍結保存用容器100が、上部の開口部101aに向けて縮径されるテーパ部102aを有する場合には、温度センサ10をテーパ部102aに取り付けることで、凍結保存用容器の破損を早期に発見できるだけでなく、温度センサ10をその自重も利用して外側容器102に密着させることができるため、温度センサ10の取付状態を長期間良好に維持することができる。
【0029】
また、温度センサ10は、
図3(b)に示すように、感温素子11がテーパ部102aに密着するように構成することで、外側容器102の表面の温度変化を迅速且つ正確に測定することができ、凍結保存用容器の破損をより早期に発見することができる。
図4は、損傷により実際に真空破壊が生じた凍結保存用容器のテーパ部102aにセンサ本体10を取り付けて、テーパ部102aの表面温度を測定した結果を示しており、実施例1は、
図3(b)に示すように感温素子11がテーパ部102aに密着した状態での測定結果、実施例2は、
図3(b)に示すセンサホルダ13の凹部13aを深くして感温素子11とテーパ部102aとの間に隙間が形成された状態での測定結果を、それぞれ示している。14時4分に液体窒素の注入により試験を開始したところ、実施例1および2のいずれも早期に温度低下が検出されているが、実施例1の方がより早期に温度低下が検出された。実施例1については、基準温度を20℃に設定することにより、試験開始から6分後の14時10分に警報が出力された。上記の試験と同じ容量10リットルの凍結保存用容器が破損すると、内部の液体窒素が満杯状態から空になるまでの時間が約8時間であるため、上記の試験結果は、液体窒素の残量を検出する方法と比較して、損傷が生じた場合の早期発見が可能になることを示唆している。
【符号の説明】
【0030】
1 凍結保存用容器監視システム
10 温度センサ
11 感温素子
13 センサホルダ
20 子機
50 親機
60 判別装置
100 凍結保存用容器
101 内側容器
102 外側容器
102a テーパ部