(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062418
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】プレキャスト版の連結構造及び当該連結構造を備えたハーフプレキャストコンクリート版
(51)【国際特許分類】
E04B 5/02 20060101AFI20220413BHJP
E04B 1/16 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
E04B5/02 R
E04B1/16 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170420
(22)【出願日】2020-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000230010
【氏名又は名称】ジオスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 哲憲
(72)【発明者】
【氏名】中谷 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】小山 直人
(57)【要約】
【課題】複数のプレキャスト版を接合させて構成される連結構造において、接合箇所でのせん断補強効果及び界面のせん断ずれ耐力の向上と、施工性の向上を両立する。
【解決手段】プレキャスト版の内部には第1鉄筋群と第1鉄筋群に交差する方向に伸びる第2鉄筋群が埋設され、互いに隣接するプレキャスト版の端部に切欠部が形成され、切欠部によって隣接するプレキャスト版同士の接合部に溝部が構成され、溝部には上部構造の一部として溝埋めコンクリート部が現場打ちコンクリートにより打設され、上部構造は溝埋めコンクリート部とその上方に位置する本体コンクリート部と、から構成され、第1鉄筋群の端部は溝部に向けて突出しプレキャスト版の部材内部方向に向かってフック状に折り返された形状を有し、溝部において、プレキャスト版の内部と、溝埋めコンクリート部及び本体コンクリート部とに跨るように配置されるせん断補強筋群が設けられる。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレキャスト版からなる下部構造と、現場打ちコンクリート部からなる上部構造と、を備えたハーフプレキャストコンクリート版において複数の前記プレキャスト版同士を結合させてなるプレキャスト版の連結構造であって、
前記プレキャスト版の内部には第1鉄筋群と当該第1鉄筋群に交差する方向に伸びる第2鉄筋群が埋設され、
互いに隣接する前記プレキャスト版の少なくとも一方には、その端部に切欠部が形成され、当該切欠部によって隣接する前記プレキャスト版同士の接合部に溝部が構成され、
前記溝部には前記上部構造の一部として溝埋めコンクリート部が現場打ちコンクリートにより打設され、
前記上部構造は前記溝埋めコンクリート部とその上方に位置する本体コンクリート部と、から構成され、
前記第1鉄筋群の端部は前記溝部に向けて突出し前記プレキャスト版の部材内部方向に向かってフック状に折り返された形状を有し、
前記プレキャスト版には、前記溝部において、当該プレキャスト版の内部と、前記溝埋めコンクリート部及び前記本体コンクリート部とに跨るように配置されるせん断補強筋群が設けられることを特徴とする、プレキャスト版の連結構造。
【請求項2】
上部構造としての前記現場打ちコンクリート部は、その内部に第3鉄筋群と当該第3鉄筋群に交差する方向に伸びる第4鉄筋群が埋設されて構成され、
前記せん断補強筋群の一方の端部は前記プレキャスト版の内部において前記第1鉄筋群と前記第2鉄筋群の一方又は両方に係留され、
前記せん断補強筋群の他方の端部は前記第3鉄筋群と前記第4鉄筋群の一方又は両方に係留されることを特徴とする、請求項1に記載のプレキャスト版の連結構造。
【請求項3】
前記せん断補強筋群は、前記プレキャスト版において平面視で前記切欠部を含む当該プレキャスト版全体に連続して設けられる波型鉄筋であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプレキャスト版の連結構造。
【請求項4】
前記せん断補強筋群は、その両端が互いに向き合う方向に折り返された、断面視で略C型形状の複数の鉄筋からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプレキャスト版の連結構造。
【請求項5】
前記プレキャスト版において、前記切欠部の下方に埋設された第2鉄筋同士の間隔は、当該切欠部が設けられていない部分に埋設された第2鉄筋同士の間隔に比べ狭く構成されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のプレキャスト版の連結構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のプレキャスト版の連結構造で連結された複数のプレキャスト版を下部構造とし、上部構造として現場打ちコンクリート部を備えることを特徴とする、ハーフプレキャストコンクリート版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト版の連結構造及び当該連結構造を備えたハーフプレキャストコンクリート版に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造等の鉄筋を有するコンクリート複合構造物や建築物において、複数のコンクリート部材を連結させ、版部材や壁部材を構成することが知られている。その際、複数のコンクリート部材の打継面(境界部)においては、設計上、せん断破壊を防止するための手段を講じる必要がある。また、近年では、施工性や工期短縮化といった観点から、工場などで予め製作された部材を現場に搬入し、既設部材に組み付けるといったいわゆるプレキャストコンクリート部材(単にプレキャスト部材とも呼称される)を用い、現場打ちコンクリートと組み合わせて版部材や壁部材を構成する技術が一般的となっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、橋梁構造物をプレキャストコンクリート床版を用いて構築する技術が開示され、上面からトラス筋の上部が突出したプレキャストコンクリート床版を用いる点が記載されている。また、例えば、特許文献2には、隣接するハーフプレキャスト床版同士をループ型継手筋を用いて接合させる接合構造が開示され、ループ型継手筋のループ内部に補強筋を組み付ける構成が開示されている。また、例えば、特許文献3には、合成桁を構築するにあたりハーフプレキャストコンクリート部同士をフック状の鉄筋をループ状に重ね合わせ、ループ内部に複数の鉄筋を挿通させて連結させる点が開示されており、そのような構成を用いて合成桁を構築する技術が開示されている。
【0004】
このような特許文献1~3などに開示された技術によれば、プレキャストコンクリート部材同士を簡単かつ効率的に接合させるといったことが可能となり、橋梁や桁といった構造物を容易に構築することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-252015号公報
【特許文献2】特開2000-282610号公報
【特許文献3】特開2010-101072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1~3には、ループ型継手筋といった継手部を用いてプレキャスト部材同士を接合させることや、現場打ちコンクリートとの組み合わせにおいて強度等を向上させるべくプレキャスト部材の主要部分上部にトラス筋などを突出させて配筋し強固な構造体とする旨は開示されている。しかしながら、プレキャスト部材同士を接合させる際に、その接合箇所である継手部では特に耐力や靭性を担保することが求められるにも関わらず、十分な配筋構成が開示されているとは言えない。即ち、一般的に複数のコンクリート部材(例えば現場打ちコンクリートとプレキャスト部材)を接合させて床部材や壁部材を構成する場合に、せん断補強効果を担保することが求められるが、複数のコンクリート部材を接合させる際に、接合箇所やその近傍におけるせん断補強効果や界面のせん断ずれ耐力の向上を図る技術については従来考えられていない。
【0007】
また、コンクリート複合構造物や建築物を構築する場合に、施工性向上や工期短縮化を図るためプレキャスト部材と現場打ちコンクリートを組み合わせることが一般的である。その際、複数のコンクリート部材の接合箇所などにおいて施工性の向上と、耐力や靭性の向上の両立が望まれている。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、現場打ちコンクリートとプレキャスト部材を組み合わせて構築される複合構造物等に用いられ、複数のプレキャスト版を接合させて構成される連結構造において、接合箇所(継手部)でのせん断補強効果及び界面のせん断ずれ耐力の向上と、施工性の向上を両立することが可能なプレキャスト版の連結構造及び当該連結構造を備えたハーフプレキャストコンクリート版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、複数のプレキャスト版からなる下部構造と、現場打ちコンクリート部からなる上部構造と、を備えたハーフプレキャストコンクリート版において複数の前記プレキャスト版同士を結合させてなるプレキャスト版の連結構造であって、前記プレキャスト版の内部には第1鉄筋群と当該第1鉄筋群に交差する方向に伸びる第2鉄筋群が埋設され、互いに隣接する前記プレキャスト版の少なくとも一方には、その端部に切欠部が形成され、当該切欠部によって隣接する前記プレキャスト版同士の接合部に溝部が構成され、前記溝部には前記上部構造の一部として溝埋めコンクリート部が現場打ちコンクリートにより打設され、前記上部構造は前記溝埋めコンクリート部とその上方に位置する本体コンクリート部と、から構成され、前記第1鉄筋群の端部は前記溝部に向けて突出し前記プレキャスト版の部材内部方向に向かってフック状に折り返された形状を有し、前記プレキャスト版には、前記溝部において、当該プレキャスト版の内部と、前記溝埋めコンクリート部及び前記本体コンクリート部とに跨るように配置されるせん断補強筋群が設けられることを特徴とする、プレキャスト版の連結構造が提供される。
【0010】
上部構造としての前記現場打ちコンクリート部は、その内部に第3鉄筋群と当該第3鉄筋群に交差する方向に伸びる第4鉄筋群が埋設されて構成され、前記せん断補強筋群の一方の端部は前記プレキャスト版の内部において前記第1鉄筋群と前記第2鉄筋群の一方又は両方に係留され、前記せん断補強筋群の他方の端部は前記第3鉄筋群と前記第4鉄筋群の一方又は両方に係留されても良い。
【0011】
前記せん断補強筋群は、前記プレキャスト版において平面視で前記切欠部を含む当該プレキャスト版全体に連続して設けられる波型鉄筋であっても良い。
【0012】
前記せん断補強筋群は、その両端が互いに向き合う方向に折り返された、断面視で略C型形状の複数の鉄筋からなる構成でも良い。
【0013】
前記プレキャスト版において、前記切欠部の下方に埋設された第2鉄筋同士の間隔は、当該切欠部が設けられていない部分に埋設された第2鉄筋同士の間隔に比べ狭く構成されても良い。
【0014】
また、別の観点からの本発明によれば、上記記載のプレキャスト版の連結構造で連結された複数のプレキャスト版を下部構造とし、上部構造として現場打ちコンクリート部を備えることを特徴とする、ハーフプレキャストコンクリート版が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、現場打ちコンクリートとプレキャスト部材を組み合わせて構築される複合構造物等に用いられ、複数のプレキャスト版を接合させて構成される連結構造において、接合箇所(継手部)でのせん断補強効果及び界面のせん断ずれ耐力の向上と、施工性の向上を両立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係るプレキャスト版の連結構造を示す概略説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図9】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図10】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図11】本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図12】対向する第1鉄筋群同士の位置関係の一例を示す概略説明図である。
【
図13】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図14】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図15】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図16】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図17】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図18】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図19】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図20】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図21】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図22】本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版の構築方法を示す概略説明図である。
【
図23】せん断補強筋群30の形状に関する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。また、本明細書では、説明のために鉄筋構造や配筋構成について、一部図示を省略する場合や、あるいは、通常は可視されない部材内部の鉄筋等を図示する場合がある。
【0018】
(本発明の実施の形態に係るプレキャスト版の連結構造)
図1は、本発明の実施の形態に係るプレキャスト版の連結構造1(以下、単に連結構造1とも記載)を示す概略説明図であり、連結構造1の上面俯瞰図である。
図1に示すように、連結構造1は、複数配置(例えば四方4か所に配置)された基台5と、それら基台5同士を連結させるように設けられる梁部材6に囲まれた空間において、複数のプレキャスト版10を組み合わせて構成される。即ち、連結構造1は、隣接するプレキャスト版10同士が結合することで構成される構造体である。
【0019】
本実施の形態においては、プレキャスト版10は、連結構造1の端部を構成する第1のプレキャスト版10aと、中央部を構成する第2のプレキャスト版10bと、の2種類であり、それらを組み合わせることで連結構造1が構成される。これら第1のプレキャスト版10aと第2のプレキャスト版10bとは、断面形状が異なっても良い。例えば、第1のプレキャスト版10aには、少なくとも一方の部材幅方向端部に切欠部12が設けられても良い。本実施の形態では、第1のプレキャスト版10aにおいて、切欠部12の上面高さが他の部分の上面高さに比べ低くなるようにいわゆる上面切欠き部として切欠部12が形成されている。即ち、この切欠部12が設けられることにより、隣接するプレキャスト版10同士を結合させた際に、その接合部には溝部が形成される。なお、本明細書では、プレキャスト版10が平面視で矩形である場合に、「部材幅方向」を短辺に平行な方向とし、「部材長手方向」を長辺に平行な方向とする。
【0020】
図2は、第1のプレキャスト版10aの概略説明図であり、第1のプレキャスト版10aの上面俯瞰図である。
図2に示すように、第1のプレキャスト版10aの内部には、部材幅方向と平行に伸びる第1鉄筋群20と、当該第1鉄筋群20と交差・直交し部材長手方向と平行に伸びる第2鉄筋群24と、が埋設されている。第1鉄筋群20の部材幅方向の一方の端部は、切欠部12に突出し、部材内部方向に向かってフック状(U字状)に折り返された形状を有している。また、第1鉄筋群20の部材幅方向の他方の端部も同様に突出しており、フック状に折り返された形状を有していても良い。
【0021】
ここで、第1鉄筋群20の構成においては、イモ継手とならないよう、
図2のように突出長さの異なる鉄筋を交互に配置することで、隣接するプレキャスト版10同士の接合部をより確実に剛構造としても良い。また、第2鉄筋群24の構成においては、
図2に示すように、第2鉄筋群24を構成する複数の鉄筋の間隔を場所に応じて変えても良い。例えば、第1のプレキャスト版10aにおいて、切欠部12の下方に埋設された第2鉄筋群24の鉄筋同士の間隔を、切欠部12が設けられていない部分に埋設された鉄筋同士の間隔に比べて狭い構成としても良い。
【0022】
また、第1のプレキャスト版10aには、下端が部材内部の第2鉄筋群24に係留され、上端が第1のプレキャスト版10aの上面から露出するように上方に向けて突出するせん断補強筋群30が設けられる。このせん断補強筋群30は少なくとも切欠部12の上面に設けられ、第1のプレキャスト版10aの上面全体にわたって設けられても良い。本実施の形態においては、せん断補強筋群30が、第1のプレキャスト版10a全体にわたり、下部構造としての連結構造1と上部構造としての現場打ちコンクリートに跨って設けられる部材幅方向に伸びる波型鉄筋であるものとして図示・説明している。ここで、せん断補強筋群30の下端は第1鉄筋群20と第2鉄筋群24の一方又は両方に係留されても良い。
【0023】
また、
図1に示した第2のプレキャスト版10bにおいても、第1のプレキャスト版10aと同様に、第1鉄筋群20、第2鉄筋群24、せん断補強筋群30がそれぞれ設けられても良い。
【0024】
ここで、各鉄筋群を構成する鉄筋の数や配置構成は任意に設計されるが、後述するように、連結構造1を下部構造とし、現場打ちコンクリートからなる上部構造と組み合わせることでハーフプレキャストコンクリート版を構築する場合に、その耐力や靭性の維持向上を図るといった観点から、各鉄筋は等間隔に配置され、その本数は部材の寸法に応じた所定数以上の数に設計することが好ましい。
【0025】
図1のように構成される連結構造1を下部構造とし、上部構造としての現場打ちコンクリートを施工することで、例えば建築物として用いられる版部材や壁部材であるハーフプレキャストコンクリート版が構築される。その際、プレキャスト版10と後述する現場打ちコンクリート部55との界面において、プレキャスト版10の表面に目荒らし処理(粗面処理)を施すことで、両者の間の吸着力の向上を図っても良い。
以下では、連結構造1を下部構造とし、上部構造としての現場打ちコンクリートを施工し、本実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版50を構築する方法について説明する。
【0026】
(ハーフプレキャストコンクリート版の構成及びその構築方法)
図3~
図12は、本発明の実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版50の構築方法を示す概略説明図である。先ず、
図3に示すように、基台5が四方の4か所に配置される。基台5は既設でも良く、あるいは、現場にて施工されても良い。次いで、
図4に示すように、各基台5同士を連結させるように複数の梁部材6が配置される。梁部材6の上面には、当該梁部材6と連結構造1とを接合させるための配筋群7が設けられても良い。なお、梁部材6は現場で打設・施工されても良く、あるいは、プレキャスト部材を用いても良い。
【0027】
続いて、
図5に示すように、梁部材6に四方を囲まれた空間において、その両側端部に第1のプレキャスト版10aが配置される。この時、第1のプレキャスト版10aの第1鉄筋群20及び第2鉄筋群24と、梁部材6上面の配筋群7とは、干渉しない状態で同じ高さレベルに配置される。
【0028】
次いで、
図6に示すように、梁部材6に四方を囲まれた空間において、両側の第1のプレキャスト版10a同士に挟まれる位置に第2のプレキャスト版10bが配置される。この時、平面視において第1のプレキャスト版10aの第1鉄筋群20と、第2のプレキャスト版10bの第1鉄筋群20と、が重なり合う箇所(即ち、切欠部12)では、それぞれの第1鉄筋群20同士が互いに干渉しない状態で同じ高さレベルに位置するように配置される。また、その際、フック状に折り返された形状を有する第1鉄筋群20の端部同士が、いわゆる重ね継手を構成するような位置関係とすることが好ましい。
【0029】
図12は、対向する第1鉄筋群20同士の位置関係の一例を示す概略説明図であり、切欠部12の一部を拡大した概略図である。
図12に示すように、第1鉄筋群20が突出長さの異なる鉄筋を交互に配置した構成である場合に、対向する第1鉄筋群20同士の端部が重なることでいわゆる重ね継手を構成しても良い。
図12に図示したような鉄筋構成とすることで、隣り合う重ね継手同士の位置をずらしているため、応力集中を避けることができ、且つ、重ね継手による強固な剛構造を実現させることができる。
【0030】
続いて、
図7に示すように、切欠部12及び連結構造1の周囲(基台5及び梁部材6の上部)に第1の現場打ちコンクリート部41が打設される。この時、せん断補強筋群30の上端や配筋群7の上端は第1の現場打ちコンクリート部41に全て埋設されることはなく、その上面から上方に突出した状態とされる。この第1の現場打ちコンクリート部41は、後述する上部構造としての現場打ちコンクリート部55の一部であり、切欠部12が形成されることで構成された溝部を埋める溝埋めコンクリート部として打設される。
【0031】
そして、
図8に示すように、連結構造1の上部において、プレキャスト版10の部材幅方向に沿う方向に伸びる第3鉄筋群43が配置される。また、
図9に示すように、第3鉄筋群43と交差・直交し部材長手方向と平行に伸びる第4鉄筋群45が配置される。これら第3鉄筋群43及び第4鉄筋群45は、後述する第2の現場打ちコンクリート部49に埋設される。なお、鉄筋の配筋構成をより強固なものとする観点から、せん断補強筋群30の上端部は、これら第3鉄筋群43及び第4鉄筋群45の一方又は両方に係留されることが好ましい。
【0032】
次いで、
図10に示すように、梁部材6の上方において当該梁部材6に沿った方向に伸びる梁補強筋48が配置される。そして、
図11に示すように、連結構造1を覆うようにプレキャスト版10や第1の現場打ちコンクリート部41の上面全体に、本体コンクリート部として第2の現場打ちコンクリート部49が打設される。
図11には、(a)として第2の現場打ちコンクリート部49内部の配筋構成が可視できる説明図を示し、(b)として第2の現場打ちコンクリート部49内部の配筋構成が可視できない説明図を示している。
図11(b)のように、第2の現場打ちコンクリート部49の打設により、露出していた鉄筋は全てその内部に埋設されることになる。なお、本実施の形態に係る構築方法において、現場打ちコンクリートの打設は一般的な方法によって行われれば良く、図示していないが、適宜、型枠や部分型枠等を用いても良い。
【0033】
以上、
図3~
図11を参照して説明した構築方法により、
図11に示すようなハーフプレキャストコンクリート版50が構築される。本実施の形態に係るハーフプレキャストコンクリート版50は、下部構造としての連結構造1と、溝埋めコンクリート部である第1の現場打ちコンクリート部41、及び、本体コンクリート部である第2の現場打ちコンクリート部49からなる上部構造としての現場打ちコンクリート部55から構成される。
【0034】
なお、本実施の形態では、現場打ちコンクリート部55を施工するに際し、第1の現場打ちコンクリート部41の打設と第2の現場打ちコンクリート部49の打設を2段階に分けて実施する構成を採っている。但し、本発明において現場打ちコンクリート部の打設方法は特に限定されるものではなく、例えば、1段階で行っても良く、本実施の形態のように2段階で行っても良い。但し、本実施の形態のように2段階で行うことで、第1の現場打ちコンクリート部41の打設によって切欠部12や版周り(連結構造周囲)を剛結合とすることができ、その後の第2の現場打ちコンクリート部49の打設時に版構造を四辺固定版とし、安定的な施工を実現することができる。
【0035】
(作用効果)
本実施の形態に係る連結構造1及びそれを含むハーフプレキャストコンクリート版50によれば種々の作用効果が享受される。先ず、連結構造1を構成するにあたり、切欠部12が形成された第1のプレキャスト版10aを用い、当該切欠部12の上面を含むようにせん断補強筋群30を露出させて設けている。これにより、第1のプレキャスト版10aと第2のプレキャスト版10bを結合させて連結構造1を構築し、その連結構造1と現場打ちコンクリート部55を組み合わせてハーフプレキャストコンクリート版50を構築するに際し、連結構造1と現場打ちコンクリート部55との間のせん断補強効果や界面のせん断ずれ耐力の向上を図ることができる。特に、第1のプレキャスト版10aと第2のプレキャスト版10bとの接合箇所では、従来に比べ十分な耐力や靭性を担保することができる。
【0036】
また、配筋構造が煩雑であるような部材(本実施の形態におけるプレキャスト版10a、10b)についてはプレキャスト部材とし、その他の部材を現場打ちコンクリート部材とすることで、材料費の低減や工期の短縮が図られ、更には、施工時の作業効率や部材の運搬性を向上させることができる。即ち、施工性の向上と、耐力や靭性の向上を両立させてハーフプレキャストコンクリート版50を構築することが可能となる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0038】
(本発明の第1変形例)
上記実施の形態では、連結構造1が、両端の2枚の第1のプレキャスト版10aと中央の第2のプレキャスト版10bからなる構成について説明したが、本発明に係る連結構造1の構成はこれに限られるものではない。即ち、連結構造1は任意の数のプレキャスト版によって構成され、それらが結合されて構築されるものであり、プレキャスト版の数は限定されるものではない。そこで、ここでは本発明の第1変形例として3枚の第1のプレキャスト版10aと1枚の第2のプレキャスト版10bを組み合わせて連結構造1を構成し、ハーフプレキャストコンクリート版50を構築する場合を説明する。
【0039】
図13~
図22は、本発明の第1変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版50aの構築方法を示す概略説明図である。なお、
図13~
図22において、上記実施の形態と同じ機能構成を有する構成要素については同一の符号を付して図示し、その説明は省略する。
【0040】
図13~
図22(特に、
図15~
図18)に示すように、本変形例に係る連結構造1は、梁部材6に四方を囲まれた空間において、3枚の第1のプレキャスト版10aが配置され、その略中央部分に第2のプレキャスト版10bが配置されて構成される。なお、本変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版50aの構築方法、例えば、各プレキャスト版10同士の結合方法や、現場打ちコンクリート部55の施工方法等は上記実施の形態と同じであり、ここでは説明を省略する。
【0041】
本変形例に係るハーフプレキャストコンクリート版50aの構成では、任意の複数のプレキャスト版10を用いて連結構造1を構築することができるため、コンクリート複合構造物や建築物の寸法に応じたハーフプレキャストコンクリート版50aを施工性の向上と、耐力や靭性の向上を両立させて構築することが可能となる。
【0042】
(本発明の第2変形例)
また、本発明は、特に完成部材厚500~1000mmといった土木等に用いられるハーフプレキャストコンクリート版を構築する場合に有用である。そこで、例えば完成部材厚500mm程度のハーフプレキャストコンクリート版を構築する場合には、上記実施の形態で説明したせん断補強筋群30として波型鉄筋を用いれば良い。しかしながら、例えば完成部材厚1000mmといった厚みの大きいハーフプレキャストコンクリート版を構築する場合には、上記実施の形態のような波型鉄筋をせん断補強筋群30として用いると鉄筋が密となり製造が困難となる恐れがある。また、鉄筋量(鉄筋長)が増大化し、構造の煩雑化やコスト増加が懸念される。
【0043】
そこで、本発明の第2変形例として、プレキャスト版10に設けられるせん断補強筋群30を異なる形状の鉄筋とした場合について図示・説明する。
図23はせん断補強筋群30の形状に関する概略説明図であり、(a)は上記実施の形態に係るせん断補強筋群30の形状、(b)は第2変形例に係るせん断補強筋群30a(30)の形状、を示す概略断面図である。なお、
図23では、プレキャスト版10の切欠部12近傍を拡大して概略断面を図示している。
【0044】
図23(a)は上記実施の形態で説明した波型鉄筋であるせん断補強筋群30の断面形状である。このように、波型鉄筋はプレキャスト版10の幅方向全体にわたって伸びる一本の鉄筋からなる。このような鉄筋構成の場合、完成部材厚(ハーフプレキャストコンクリート版の全体の厚み)が厚くなると波型鉄筋の製造が困難になったり、鉄筋量が極めて増大化し、配筋構成が煩雑になりコスト増等が懸念される。
【0045】
そこで本変形例においては、
図23(b)に示すように、せん断補強筋群30a(30)として、その両端(上下端)が互いに突き合わされるように同一方向に向かって折り返された、断面視で略C型形状の鉄筋が複数設けられる構成を採っている。このせん断補強筋群30aは、フック状に折り返された両端部の一方(下端)が第2鉄筋群24に係留され、他方(上端)が第4鉄筋群45に係留されても良い。このような鉄筋構成を採ることで、上記実施の形態で説明した作用効果が享受され、更には、せん断補強筋群30a(30)の製造が容易となり、鉄筋量の低減が図られ、特に厚みの大きいハーフプレキャストコンクリート版を構築する場合に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、プレキャスト版の連結構造及び当該連結構造を備えたハーフプレキャストコンクリート版に適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1…連結構造
5…基台
6…梁部材
10a(10)…第1のプレキャスト版
10b(10)…第2のプレキャスト版
20…第1鉄筋群
24…第2鉄筋群
30、30a…せん断補強筋群
41…第1の現場打ちコンクリート部(溝埋めコンクリート部)
43…第3鉄筋群
45…第4鉄筋群
48…梁補強筋
49…第2の現場打ちコンクリート部(本体コンクリート部)
50…ハーフプレキャストコンクリート版
55…現場打ちコンクリート部