(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062429
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】鋼配管の溶接方法および間接冷却装置
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20220413BHJP
B23K 9/028 20060101ALI20220413BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220413BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
B23K31/00 J
B23K9/028 B
C22C38/00 302Z
C22C38/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170438
(22)【出願日】2020-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広田 守
(72)【発明者】
【氏名】尾花 健
(72)【発明者】
【氏名】石嵜 貴大
(72)【発明者】
【氏名】永田 純也
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄太
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081AA08
4E081BA03
4E081BA19
4E081BA27
4E081CA11
4E081DA12
4E081DA41
4E081DA69
4E081EA37
4E081FA01
4E081FA17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶接する対象の溶接施工配管に直接冷却水を噴霧あるいは通水する必要がなく、かつ溶接熱影響部の粒界におけるクロム炭化物やσ相の生成を抑制することができる、鋼配管の溶接方法を提供する。
【解決手段】冷却用液体5を保持することが可能な密閉容器6と、送液用配管21を通じて密閉容器6に冷却用液体を供給する供給装置9と、密閉容器6から送液用配管22を通じて排出された冷却用液体5を冷却する冷却装置7と、を用いて、供給装置9と密閉容器6と冷却装置7との間で、冷却用液体5が循環するように構成し、溶接する対象である溶接施工配管2に溶接を行う際に、密閉容器6を溶接施工配管の内面に密着させて、供給装置9から密閉容器6に冷却用液体を供給して、溶接施工配管を冷却する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼配管から成る溶接施工配管を冷却用液体で冷却しながら、前記溶接施工配管に対して溶接を行う、溶接方法であって、
前記冷却用液体を保持することが可能な密閉容器と、
送液用配管を通じて、前記密閉容器に前記冷却用液体を供給する供給装置と、
前記密閉容器から送液用配管を通じて排出された前記冷却用液体を冷却する冷却装置と、を用いて、
前記供給装置と前記密閉容器と前記冷却装置との間で、前記冷却用液体が循環するように構成し、
溶接する対象である溶接施工配管に溶接を行う際に、前記密閉容器を前記溶接施工配管の内面に密着させて、前記供給装置から前記密閉容器に前記冷却用液体を供給して、前記溶接施工配管を冷却する
ことを特徴とする鋼配管の溶接方法。
【請求項2】
前記冷却用液体が水であり、前記冷却装置が前記冷却用液体を冷却することにより、前記密閉容器内の前記冷却用液体の温度を100℃未満に制御することを特徴とする請求項1に記載の鋼配管の溶接方法。
【請求項3】
前記溶接施工配管に、オーステナイトステンレス鋼、または、オーステナイト・フェライトステンレス鋼を用いることを特徴とする請求項1に記載の鋼配管の溶接方法。
【請求項4】
前記オーステナイト・フェライトステンレス鋼は、C:0.04質量%以下、Si:0.1質量%以上1.0質量%以下、Mn:2.5質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.02質量%以下、Cr:20質量%以上33質量%以下、Ni:1.0質量%以上9.5質量%以下、N:0.05質量%以上0.6質量%以下、Mo:1.0質量%以上5.0質量%以下、残部がFeおよび不可避的不純物であるオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項3に記載の鋼配管の溶接方法。
【請求項5】
冷却用液体を保持することが可能な密閉容器と、
前記密閉容器に接続された2本の送液用配管と、
前記2本の送液用配管の一方の送液用配管に接続され、前記一方の送液用配管を通じて、前記密閉容器に前記冷却用液体を供給する供給装置と、
前記2本の送液用配管の他方の送液用配管に接続され、前記密閉容器から前記他方の送液用配管を通じて排出された前記冷却用液体を冷却する冷却装置と、を備え、
前記供給装置と前記密閉容器と前記冷却装置との間で、前記冷却用液体を循環させることが可能な構成とされ、
溶接施工配管に対する溶接が行われる際に、前記密閉容器が前記溶接施工配管の内面に密着し、前記供給装置から前記密閉容器に前記冷却用液体が連続して供給され、前記密閉容器内の前記冷却用液体により前記溶接施工配管が間接的に冷却される
ことを特徴とする間接冷却装置。
【請求項6】
前記密閉容器は、厚さ0.1~10mmのゴム製であり伸縮性を有することを特徴とする請求項5に記載の間接冷却装置。
【請求項7】
前記冷却用液体が水であり、前記冷却装置が前記冷却用液体を冷却することにより、前記密閉容器内の前記冷却用液体の温度が100℃未満に制御されることを特徴とする請求項5に記載の間接冷却装置。
【請求項8】
前記2本の送液用配管は、巻回することにより、あるいは、折りたたむことにより、収納することが可能な構成である請求項5に記載の間接冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼配管から成る溶接施工配管を冷却しながら、溶接施工配管に対して溶接を行う、鋼配管の溶接方法に関する。また、本発明は、この溶接方法に用いられる間接冷却装置に関する。
本発明の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置は、特に、オーステナイトステンレス鋼およびオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼等のステンレス鋼からなる鋼配管の溶接に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
金属を溶接する方法としては、ガス溶接、アーク溶接、TIG溶接等がある。
それらの溶接は、溶接棒と母材を溶解させながら溶接するものである。
【0003】
一般的に、溶接棒の組成は、溶接する母材と同等あるいはわずかに合金成分が多い。
溶接棒が溶解した部分を溶接金属と称し、母材との近傍は溶接棒の組成が母材によって希釈された組成となる。
溶接金属よりもさらに母材側になると、母材は溶融することなく、溶接による熱影響のみを受ける部分であり、その部分は、溶接熱影響部と称される。
【0004】
溶接金属は、溶接棒の組成によって、母材より耐食性が高くなるようにされているのが一般的である。
【0005】
一方、溶接熱影響部は、成分は母材のままであり、溶接による熱影響を受けるため、耐食性は母材より高くなることはない。
したがって、溶接部の耐食性を考える上では、溶接熱影響部が重要である。
【0006】
特に、オーステナイトステンレス鋼は、使用される範囲が非常に広範囲で、それらの使用される環境では、耐食性が高いことを理由に、耐食性が低く安価な炭素鋼ではなく、耐食性が高く高価なステンレス鋼が選定されていることがほとんどである。
【0007】
さらに、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼は、汎用オーステナイトステンレス鋼であるSUS304やSUS316よりも耐食性が高いために、汎用オーステナイトステンレス鋼では対応が厳しい条件下で適用されることが多い。
【0008】
オーステナイトステンレス鋼の溶接熱影響部は、650℃前後で長く曝されると、鋭敏化と称される事象が生じる。鋭敏化は、溶接の熱影響により、粒界の炭素と粒界近傍のクロムが移動して、粒界にクロム炭化物が生じるものである。
鋭敏化が生じると、粒界近傍にクロム欠乏層が発生し、材料の機械的な強度および、耐粒界腐食性がともに低下する。
【0009】
溶接により鋭敏化した材料を、高温水中で使用すると、溶接による残留応力と高温水による腐食作用により、応力腐食割れが発生する。この対策として、材料中の炭素量を低くすることや、溶接後の熱処理で残留応力を低減する方法などが採用されている。
【0010】
一方、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼の溶接熱影響部は、900℃付近で長時間曝されると、鉄とクロムの化合物であるσ相やクロム窒化物が生じる。溶接熱影響部にσ相やクロム窒化物が生ずると、機械的強度や耐孔食性が低下する。この対策としては、溶接の入熱を極力低くすることや、パス間の温度を低くするように管理することで、溶接による熱影響を抑制する方法が採用されている。
【0011】
また、これらのオーステナイトステンレス鋼やオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼における、溶接熱影響部の耐食性や材料強度の低下を防ぐ方法の一つとして、突き合わせ溶接する溶接施工配管の内面に水冷水を通水あるいは噴霧しながら、溶接する手法がある(例えば、特許文献1等を参照)。
この手法によれば、溶接中に溶接施工配管の内面を連続冷却することで、特に溶接施工配管の内面の温度上昇を低く抑えることができる。さらには、溶接施工配管の内面は圧縮応力となることから、高温水中における応力腐食割れを抑制することが可能である、と考えられている。
【0012】
これらの水冷溶接は、溶接施工配管の内面の温度上昇抑制と冷却速度を向上させることによって達成され、溶接熱影響部の粒界におけるクロム炭化物やσ相の生成を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、溶接施工配管の内面に、直接水冷を噴霧あるいは通水するにあたっては、溶接施工配管に水を流すために開放部を塞ぎ、冷却水を入口から出口方向へと連続で流す必要がある。さらに、出口側では、冷却水を回収あるいは、排水処理する必要がある。
そのため、大量の使用済みの冷却水を処理するか、あるいは回収した冷却水を循環させるための複雑な設備を設ける必要が生じる。
【0015】
さらに、既に運用されている原子力発電プラントや、廃炉作業中の原子力プラント等においては、放射性物質を含む排水の処理の問題もあり、溶接施工配管の内面に直接水冷する方法の実施が難しいことが考えられる。
【0016】
本発明の目的は、溶接する対象の溶接施工配管に直接冷却水を噴霧あるいは通水する必要がなく、かつ溶接熱影響部の粒界におけるクロム炭化物やσ相の生成を抑制することができる、鋼配管の溶接方法および間接冷却装置を提供するものである。
【0017】
また、本発明の上記の目的およびその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面によって、明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の鋼配管の溶接方法は、鋼配管から成る溶接施工配管を冷却しながら、溶接施工配管に対して溶接を行う、溶接方法である。
また、本発明の鋼配管の溶接方法は、冷却用液体を保持することが可能な密閉容器と、送液用配管を通じて、密閉容器に冷却用液体を供給する供給装置と、密閉容器から送液用配管を通じて排出された冷却用液体を冷却する冷却装置と、を用いて、供給装置と密閉容器と冷却装置との間で、冷却用液体が循環するように構成する。
そして、本発明の鋼配管の溶接方法は、溶接する対象である溶接施工配管に溶接を行う際に、密閉容器を溶接施工配管の内面に密着させて、供給装置から密閉容器に冷却用液体を供給して、溶接施工配管を冷却する。
【0019】
本発明の間接冷却装置は、冷却用液体を保持することが可能な密閉容器と、密閉容器に接続された2本の送液用配管と、2本の送液用配管の一方の送液用配管に接続され、一方の送液用配管を通じて密閉容器に冷却用液体を供給する供給装置と、2本の送液用配管の他方の送液用配管に接続され、密閉容器から他方の送液用配管を通じて排出された冷却用液体を冷却する冷却装置と、を備え、供給装置と密閉容器と冷却装置との間で、冷却用液体を循環させることが可能な構成とされる。
また、本発明の間接冷却装置は、溶接施工配管に対する溶接が行われる際に、密閉容器が溶接施工配管の内面に密着し、供給装置から密閉容器に冷却用液体が連続して供給され、密閉容器内の冷却用液体により溶接施工配管が間接的に冷却される。
【発明の効果】
【0020】
上述の本発明の鋼配管の溶接方法や間接冷却装置によれば、密閉容器内の冷却用液体により溶接施工配管の内面を冷却することにより、溶接後の鋼配管の溶接熱影響部等の特性を向上することができる。
例えば、オーステナイトステンレス鋼の溶接熱影響部における耐粒界腐食性の低下を抑制できる。
さらに、溶接施工配管の内側の歪が圧縮応力となることから、高温水中の応力腐食割れが抑制できる。
また例えば、オーステナイト・フェライトステンレス鋼の溶接熱影響部におけるσ相や窒化物の生成を抑制することができ、機械的強度および耐孔食性の低下を防ぐことができる。
【0021】
そして、密閉容器を通じた間接的な冷却方法により、従来の冷却水で溶接施工配管を直接冷却する直接水冷溶接と比較して、溶接施工配管の密閉および排水処理が不要となる。さらに、直接溶接施工配管に冷却用液体が接しないことにより冷却用液体を自由に選定することができる。
これらのことから、従来の直接水冷溶接と比較して、より簡便に直接水冷溶接と同様の効果を得ることができる。
【0022】
なお、上記以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1の間接水冷溶接方法および間接水冷装置を説明する図である。
【
図2】実施例2の間接水冷溶接方法および間接水冷装置において、冷却水容器を設置する前の溶接施工配管の状態を示す図である。
【
図3】実施例2の間接水冷溶接方法および間接水冷装置において、冷却水容器を溶接施工配管内に設置した状態を示す図である。
【
図4】実施例3の間接水冷溶接方法および間接水冷装置において、冷却水容器に接続された送液用配管が収納された状態を示す図である。
【
図5】実施例3の間接水冷溶接方法および間接水冷装置において、冷却水容器を溶接施工配管内に設置した状態を示す図である。
【
図6】空冷しながら溶接した場合のエッチング後の断面を示す写真である。
【
図7】本発明の間接水冷溶接した場合のエッチング後の断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態および実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態および実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
本発明の鋼配管の溶接方法は、鋼配管から成る溶接施工配管を冷却しながら、溶接施工配管に対して溶接を行う、溶接方法である。
また、本発明の鋼配管の溶接方法は、冷却用液体を保持することが可能な密閉容器と、送液用配管を通じて、密閉容器に冷却用液体を供給する供給装置と、密閉容器から送液用配管を通じて排出された冷却用液体を冷却する冷却装置と、を用いて、供給装置と密閉容器と冷却装置との間で、冷却用液体が循環するように構成する。
そして、本発明の鋼配管の溶接方法は、溶接する対象である溶接施工配管に溶接を行う際に、密閉容器を溶接施工配管の内面に密着させて、供給装置から密閉容器に冷却用液体を供給して、溶接施工配管を冷却する。
【0026】
上記の鋼配管の溶接方法において、さらに、冷却用液体が水であり、冷却装置が冷却用液体を冷却することにより、密閉容器内の冷却用液体の温度を100℃未満に制御する構成が可能である。
【0027】
上記の鋼配管の溶接方法において、さらに、溶接施工配管に、オーステナイトステンレス鋼、または、オーステナイト・フェライトステンレス鋼を用いた構成が可能である。
【0028】
上記の鋼配管の溶接方法において、さらに、オーステナイト・フェライトステンレス鋼が、C:0.04質量%以下、Si:0.1質量%以上1.0質量%以下、Mn:2.5質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.02質量%以下、Cr:20質量%以上33質量%以下、Ni:1.0質量%以上9.5質量%以下、N:0.05質量%以上0.6質量%以下、Mo:1.0質量%以上5.0質量%以下、残部がFeおよび不可避的不純物であるオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼である構成が可能である。
【0029】
本発明の間接冷却装置は、冷却用液体を保持することが可能な密閉容器と、密閉容器に接続された2本の送液用配管と、2本の送液用配管の一方の送液用配管に接続され、一方の送液用配管を通じて密閉容器に冷却用液体を供給する供給装置と、2本の送液用配管の他方の送液用配管に接続され、密閉容器から他方の送液用配管を通じて排出された冷却用液体を冷却する冷却装置と、を備え、供給装置と密閉容器と冷却装置との間で、冷却用液体を循環させることが可能な構成とされる。
また、本発明の間接冷却装置は、溶接施工配管に対する溶接が行われる際に、密閉容器が溶接施工配管の内面に密着し、供給装置から密閉容器に冷却用液体が連続して供給され、密閉容器内の冷却用液体により溶接施工配管が間接的に冷却される。
【0030】
上記の間接冷却装置において、密閉容器が、厚さ0.1~10mmのゴム製であり伸縮性を有する構成が可能である。
【0031】
上記の間接冷却装置において、冷却用液体が水であり、冷却装置が冷却用液体を冷却することにより、密閉容器内の冷却用液体の温度が100℃未満に制御される構成が可能である。
【0032】
上記の間接冷却装置において、2本の送液用配管が、巻回することにより、あるいは、折りたたむことにより、収納することができる構成が可能である。
【0033】
上記の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置は、溶接を行う対象の溶接施工配管が、オーステナイトステンレス鋼、または、オーステナイト・フェライトステンレス鋼である場合に適用して好適である。
溶接施工配管に、オーステナイトステンレス鋼、または、オーステナイト・フェライトステンレス鋼を用いた場合、前述したように、安価な炭素鋼を使用した場合と比較して、耐食性を向上できる。
そして、上記の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置は、オーステナイトステンレス鋼(一相のステンレス鋼)にも、オーステナイト・フェライトステンレス鋼(二相のステンレス鋼)にも、どちらにも適用可能である。
オーステナイトステンレス鋼に適用した場合には、オーステナイトステンレス鋼の溶接熱影響部における耐粒界腐食性の低下を抑制できる。
オーステナイト・フェライトステンレス鋼に適用した場合には、オーステナイト・フェライトステンレス鋼の溶接熱影響部におけるσ相や窒化物の生成が抑制されることで、機械的強度および耐孔食性の低下を防ぐことができる。
【0034】
オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼として、より好ましくは、C:0.04質量%以下、Si:0.1質量%以上1.0質量%以下、Mn:2.5質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.02質量%以下、Cr:20質量%以上33質量%以下、Ni:1.0質量%以上9.5質量%以下、N:0.05質量%以上0.6質量%以下、Mo:1.0質量%以上5.0質量%以下、残部がFeおよび不可避的不純物であるオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼を用いる。
【0035】
上記の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置において、密閉容器は、冷却用液体を保持する。
密閉容器として、好ましくは、伸縮性を有する材料で構成された密閉容器を用いる。
このように伸縮性を有する材料で密閉容器を構成することにより、冷却用液体が密閉容器に供給されることに伴って、密閉容器が膨張し、溶接施工配管の内面に密閉容器が接触する。
密閉容器の具体的な材料としては、例えば、ゴム等を用いることができる。
また、密閉容器の厚さは、好ましくは、0.1~10mmの範囲内とする。
【0036】
上記の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置において、供給装置は、密閉容器に冷却用液体を供給する。
供給装置と密閉容器との間は、送液用配管により接続する。
供給装置として、具体的には、送水ポンプ等を用いることができる。
また、供給装置において、密閉容器への冷却用液体の供給量(流量)を制御することも可能である。
【0037】
上記の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置において、冷却装置は、密閉容器から送液用配管を通じて排出された冷却用液体を冷却する。
密閉容器と冷却装置との間は、送液用配管により接続する。
【0038】
上記の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置において、冷却用液体は、水、その他の液体(例えば、エチレングリコール等)を使用することができる。
冷却用液体は、冷却装置で冷却されることにより、温度が上がり過ぎないように制御される。そして、冷却装置は、冷却用液体が沸騰することがないように、所定の温度以下(冷却用液体が水である場合は、100℃以下)に制御することが望ましい。
【0039】
上記の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置において、供給装置と密閉容器と冷却装置との間で、冷却用液体を循環させることが可能な構成とする。
これにより、溶接施工配管の冷却に使用して、温度が上がった冷却用液体を、冷却装置で冷却して、その後、供給装置から密閉容器に供給することができ、冷却用液体を繰り返し使用することができる。
【0040】
また、冷却装置と供給装置との間に、送液用配管内の流量を調節する弁、冷却用液体を貯留させるタンク、等を設けてもよい。
弁を設けることにより、密閉容器から冷却装置への冷却用液体の流量を調整することができる。そして、供給装置(送水ポンプ等)の制御による密閉容器へ吸収される冷却用液体の流量と、弁の制御による密閉容器から排出される冷却用液体の流量とを調節することにより、これらの流量の差によって、密閉容器を膨張させることや収縮させることができる。
タンクを設けることにより、タンクの容量の分だけ、循環する冷却用液体の量を増やすことができる。また、タンクによって、上記の流量の差を大きく確保することができるので、より内径の太い溶接施工配管の内面に密閉容器を接触させることが可能になる。
【0041】
上記の間接冷却装置において、密閉容器に接続された2本の送液用配管が、巻回することにより収納される構成としては、例えば、巻き芯の周囲に2本の送液用配管を巻き付けて収納する構成が考えられる。
また、密閉容器に接続された2本の送液用配管が、折りたたむことにより収納される構成としては、例えば、2本の送液用配管を蛇腹状に折り畳み、筐体等に収納する構成が考えられる。
【0042】
上記の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置によれば、密閉容器に冷却用液体が供給されて密閉容器が膨張し、密閉容器が溶接施工配管の内面に密着するので、密閉容器内の冷却用液体によって溶接施工配管を冷却できる。
そして、溶接施工配管に対する溶接が行われる際に、密閉容器内の冷却用液体によって溶接施工配管を冷却できるので、溶接後の鋼配管の溶接熱影響部等の特性を向上することができる。
例えば、オーステナイトステンレス鋼の溶接熱影響部における耐粒界腐食性の低下を抑制できる。
さらに、溶接施工配管の内側の歪が圧縮応力となることから、高温水中の応力腐食割れが抑制できる。
また例えば、オーステナイト・フェライトステンレス鋼の溶接熱影響部におけるσ相や窒化物の生成を抑制することができ、機械的強度および耐孔食性の低下を防ぐことができる。
【0043】
また、上記の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置によれば、密閉容器を通じて間接的な冷却を行うので、従来の冷却水で溶接施工配管を直接冷却する直接水冷溶接と比較して、溶接施工配管の密閉や排水処理が不要となる。さらに、直接溶接施工配管に冷却用液体が接しないことにより冷却用液体を自由に選定することができる。
これらのことから、従来の直接水冷溶接と比較して、より簡便に直接水冷溶接と同様の効果を得ることができる。
【0044】
また特に、上記の間接冷却装置において、密閉容器に接続された2本の送液用配管が、巻回することにより、あるいは、折りたたむことにより、収納することができる構成とした場合には、間接冷却装置の小型化を図ることができる。そして、間接冷却装置の小型化により、間接冷却装置の可搬性を向上できるので、屋外等の現場において間接冷却装置を使用することが容易になる。
【0045】
なお、上記の間接冷却装置は、密閉容器を溶接施工配管内に配置して溶接施工配管を間接的に冷却するものであるので、ステンレス鋼製配管等の鋼配管に限らず、その他の金属製配管にも適用することが可能である。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0047】
(実施例1)
図1は、実施例1の間接水冷溶接方法および間接水冷装置を説明する図である。
本実施例は、
図1に示すように、溶接施工配管2の軸方向と平行にサポート板3を突合せ溶接して溶接ビード4を形成させる溶接において、間接水冷装置1を使用した例である。
【0048】
図1に示す間接水冷装置1は、冷却水容器6、冷却装置7、タンク8、送水ポンプ9、保圧弁10、およびこれらの間を接続する送液用配管20,21,22,23,24を備える。
【0049】
タンク8は、冷却水5を保持する。
送水ポンプ9は、タンク8から、送液用配管20と送液用配管21を通じて冷却水容器6へ、冷却水5を供給する。
【0050】
冷却水容器6は、冷却水5を保持する。
冷却水容器6は、冷却水5の流入により膨張して、冷却水5の排出により収縮する。
冷却水容器6は、膨張と収縮が可能なように、伸縮性のある材料(ゴム等)によって構成する。特に、冷却水容器6に0.1~10mmの伸縮性を有するゴム製の素材を使用した場合には、十分な柔軟性と形状追従性が得られる。
冷却水容器6には、2本の送液用配管(送液用配管21と送液用配管22)が接続されている。
冷却水容器6は、送液用配管21,22との接続部を除いて密閉された、密閉容器となっている。
【0051】
冷却水容器6は、タンク8から送水ポンプ9を通じて供給された冷却水5によって膨張し、溶接施工配管2の管内面に接触する。これにより、冷却水容器6内の冷却水5で、溶接施工配管2を、冷却水溶液6を通じて間接的に冷却できるようになる。溶接施工配管2の冷却に使用された冷却水5は、冷却水容器6から送液用配管22を通じて冷却装置7に排出される。
【0052】
冷却装置7は、冷却水容器6から送られた冷却水5を冷却する。
冷却装置7は、強制空冷による冷却、ヒートポンプによる冷却、あるいは海水や河川水による熱交換による冷却、の各種の冷却方法を採用することが可能である。
【0053】
冷却装置7で冷却された冷却水5は、送液用配管23、保圧弁10、送液用配管24を通過して、タンク8に戻る。
図1に示す間接水冷装置1は、溶接施工配管2の冷却に使用される冷却水5が上述のように循環する、ループ状の構造を有する。
【0054】
溶接施工配管2には、好ましくは、オーステナイトステンレス鋼またはオーステナイト・フェライトステンレス鋼を使用する。
サポート板3には、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、その他の金属材料、のいずれかを使用する。
【0055】
本実施例では、
図1に示す間接水冷装置1によって、例えば以下に説明するように、溶接施工が行われる。
【0056】
まず、溶接施工を行う前に、送液用配管21および送液用配管22が伸ばされて、
図1に示すように、サポート板3を溶接施工配管2に溶接する位置の溶接施工配管2の内面に、冷却水容器6が設置される。
【0057】
溶接する位置に冷却水容器6を設置した後に、タンク8内の冷却水5が、送水ポンプ9によって、流量1~50L/minの範囲で冷却水容器6へ送られる。
そして、保圧弁10により冷却水容器6内の圧力がゲージ圧で0.1atm以上に高められ、冷却水容器6が内圧で膨張して、溶接施工配管2の内面に密着する。この状態で、送水ポンプ9によって、冷却水5が循環する。
【0058】
冷却水5が循環した後、サポート板3の溶接施工配管2への溶接を開始する。このとき、冷却水容器6内の冷却水5の温度が、溶接による熱によって上昇する。
温度が上昇した冷却水5は、送液用配管22により冷却装置7に入って冷却され、送液用配管23と保圧弁10と送液用配管24を通り、タンク8に戻る。
【0059】
冷却装置7により、タンク8内の冷却水5は、一定の温度に保つことが可能となる。
また、冷却水5の温度管理においては、冷却水容器6から送液用配管22を通じて排出されるときの冷却水5の温度が100℃を超えないように保って、冷却水5を冷却水容器6に送水する。
冷却水容器6は、冷却装置7によって温度が100℃を超えないように保たれている冷却水5と直接接する。これにより、ゴム等の素材で形成された冷却水容器6が溶融温度に達することはなく、冷却水容器6が破裂することを防ぐことができる。
【0060】
このようにして、冷却水容器6内の冷却水5で、溶接施工配管2を内面から冷却しながら、サポート板3を溶接施工配管2に溶接することができる。
【0061】
上述した本実施例によれば、冷却水容器6内の冷却水5により溶接施工配管2の内面を冷却することにより、溶接後の溶接施工配管2の溶接熱影響部等の特性を向上することができる。
例えば、オーステナイトステンレス鋼の溶接熱影響部における耐粒界腐食性の低下を抑制できる。
さらに、溶接施工配管2の内側の歪が圧縮応力となることから、高温水中の応力腐食割れが抑制できる。
また例えば、オーステナイト・フェライトステンレス鋼の溶接熱影響部におけるσ相や窒化物の生成を抑制することができ、機械的強度および耐孔食性の低下を防ぐことができる。
【0062】
そして、冷却水容器6を通じた間接的な冷却方法により、従来の冷却水で溶接施工配管を直接冷却する直接水冷溶接と比較して、溶接施工配管2の密閉および排水処理が不要となる。
これにより、従来の直接水冷溶接と比較して、より簡便に直接水冷溶接と同様の効果を得ることができる。
【0063】
(実施例2)
図2~
図3は、実施例2の間接水冷溶接方法および間接水冷装置を説明する図である。
本実施例は、
図1に示した実施例1と同じ間接水冷装置1を用いて、溶接施工配管の突き合わせ溶接を行う例である。
溶接施工配管の突き合わせ溶接においては、前述した特許文献1でも行っているように、溶接する2本の溶接施工配管の接合面側の先端部を加工して、最も内側のルートパスを1層目として溶接し、さらに、後続のパスを2層目以降として順次溶接していく。
【0064】
図2は、冷却水容器6を設置する前の溶接施工配管2の状態を示し、
図3は、冷却水容器6を溶接施工配管2内に設置した状態を示している。
本実施例では、
図2に示すように、左右2本の溶接施工配管2(2A,2B)を溶接して、溶接の1層目12を全周にわたって溶接する。
その後、
図3に示すように、間接水冷装置1の冷却水容器6内の冷却水5を用いて、溶接施工配管2の内面から冷却しながら、2層目以降の溶接を行う。
【0065】
本実施例では、実施例1と同じ間接水冷装置1によって、例えば以下に説明するように、溶接施工が行われる。
【0066】
まず、溶接する2本の溶接施工配管2(2A,2B)の溶接する側の先端部が、
図2に示すように、V開先11に加工される。
次に、
図2に示すように、V開先11の最も内側の部分を埋めるように、溶接の1層目12が全周にわたって溶接される。
【0067】
その後、間接水冷装置1の送液用配管21および送液用配管22が延ばされて、
図3に示すように、2つの溶接施工配管2を溶接する位置の溶接施工配管2の内面に、冷却水容器6が設置される。
【0068】
溶接する位置に冷却水容器6を設置した後に、タンク8内の冷却水5が、送水ポンプ9によって、流量1~50L/minの範囲で冷却水容器6へ送られる。
そして、保圧弁10により冷却水容器6内の圧力がゲージ圧で1atm以上に高められ、冷却水容器6が内圧で膨張して、溶接施工配管2の内面に密着する。この状態で、送水ポンプ9によって、冷却水5が循環する。
【0069】
冷却水5が循環した後、2つの溶接施工配管2に対して、2層目以上の溶接を行う。
溶接を開始すると、冷却水容器6内の冷却水5の温度が、溶接による熱によって上昇する。
温度が上昇した冷却水5は、送液用配管22により冷却装置7に入って冷却され、送液用配管23と保圧弁10と送液用配管24を通り、タンク8に戻る。
【0070】
冷却装置7により、タンク8内の冷却水5は、一定の温度に保つことが可能となる。
また、冷却水5の温度管理においては、冷却水容器6から送液用配管22を通じて排出されるときの冷却水5の温度が100℃を超えないように、冷却水5を冷却水容器6に送水する。
【0071】
このようにして、冷却水容器6内の冷却水5で、溶接施工配管2を内面から冷却しながら、サポート板3を溶接施工配管2に溶接することができる。
【0072】
上述した本実施例によれば、実施例1と同様に、冷却水容器6内の冷却水5により溶接施工配管2(2A,2B)の内面を冷却することにより、溶接後の溶接施工配管2(2A,2B)の溶接熱影響部等の特性を向上することができる。
また、実施例1と同様に、従来の冷却水で溶接施工配管を直接冷却する直接水冷溶接と比較して、溶接施工配管2の密閉および排水処理が不要となり、従来の直接水冷溶接と比較して、より簡便に直接水冷溶接と同様の効果を得ることができる。
【0073】
(実施例3)
図4~
図5は、実施例3の間接水冷溶接方法および間接水冷装置を説明する図である。
本実施例は、冷却水容器6に接続された送液用配管21,22が、巻き取られた状態で収納可能な構成とされた例である。
【0074】
図4は、冷却水容器6に接続された送液用配管21,22が収納された状態を示し、
図5は、冷却水容器6を溶接施工配管2内に設置した状態を示している。
本実施例では、
図4に示すように、送液用配管21,22が、巻き取って収納ドラム14に収納することが可能な構成とされる。
そして、これらの送液用配管21,22は、一方の端部が冷却水容器6に接続され、図示しないが
図1の間接水冷装置1と同様に、他方の端部が冷却装置7に接続される。
なお、
図4および
図5に示した部分以外の間接水冷装置の構成は、
図1に示した実施例1の間接水冷装置1と同様とする。
【0075】
冷却水容器6を使用しないときには、冷却水容器6に接続された送液用配管21,22が、
図4に示すように、収納ドラム14に巻き取られた状態で収納されており、冷却水容器6は収縮した状態で保護カバー13に収納されている。
保護カバー13は、収縮した状態の冷却水容器6を保護するものであり、冷却水容器6の送液用配管21,22との接続部以外を覆って保護している。
【0076】
溶接施工時には、
図5に示すように、送液用配管21,22を収納ドラム14から溶接施工配管2の溶接箇所まで延ばして、冷却水容器6に冷却水5を供給することで内部圧力が上昇すると、冷却水容器6が膨張して溶接施工配管2の内面に密着する。
【0077】
溶接施工が終了したら、冷却水容器6から冷却水5を排出することで冷却水容器6を収縮させる。
その後、送液用配管21,22を巻き取って、収納ドラム14に収納する。
【0078】
上述した本実施例によれば、実施例1と同様に、冷却水容器6内の冷却水5により溶接施工配管2の内面を冷却することにより、溶接後の溶接施工配管2の溶接熱影響部等の特性を向上することができる。
また、実施例1と同様に、従来の冷却水で溶接施工配管を直接冷却する直接水冷溶接と比較して、溶接施工配管2の密閉および排水処理が不要となるので、従来の直接水冷溶接と比較して、より簡便に直接水冷溶接と同様の効果を得ることができる。
【0079】
また、本実施例によれば、特に、冷却水容器6に接続された送液用配管21,22が収納ドラム14に巻き取られることにより、収容することが可能な構成となっている。
これにより、間接冷却装置の小型化を図ることができる。
そして、間接冷却装置の小型化により、間接冷却装置の可搬性を向上できるので、屋外等の現場において間接冷却装置を使用することが容易になる。
【0080】
上述した各実施例では、冷却用液体として冷却水5を用い、密閉容器として冷却水容器6を用いて、間接冷却装置として間接水冷装置1を構成していた。
本発明では、直接溶接施工配管に冷却用液体が接しないことにより、冷却用液体を自由に選定することができる。
従って、冷却用液体として、水以外の液体(エチレングリコール等)を使用することも可能である。そして、密閉容器としては、その冷却用液体に対応した材料(使用する冷却用液体による劣化を生じない材料等)の容器を使用することが可能である。
【0081】
<実験>
ここで、実際に、溶接施工配管への溶接を行って、溶接後の溶接施工配管の特性を調べた。
【0082】
(従来の空冷溶接施工)
二相ステンレス鋼(S32750)からなる溶接施工配管に、オーステナイトステンレス鋼(SUS304)からなる鋼板をTIG溶接した。そして、TIG溶接の際に、空冷により、溶接施工配管を冷却した。
各溶接部は、TIG溶接により、4層で隅肉溶接した。
溶接後の溶接熱影響部を切断して、断面をエッチングした。
【0083】
エッチング後の断面の写真を、
図6に示す。
図6では、A断面とB断面の2か所の溶接熱影響部の断面を示している。A断面は、溶接前温度が10~275℃であった。B断面は、溶接前温度が235~403℃であった。
図6に示すように、従来の空冷溶接施工においては、溶接部から溶接施工配管の内面に向かった断面において、σ相が最大で0.56%形成されていた。
【0084】
(本発明の間接水冷溶接施工)
二相ステンレス鋼(S32750)からなる溶接施工配管に、オーステナイトステンレス鋼(SUS304)からなる鋼板をTIG溶接した。そして、TIG溶接の際に、
図1に示した間接水冷装置1と同様に、冷却水容器を溶接施工配管の内面に設置して、冷却水容器内の冷却水により溶接施工配管を冷却した。
各溶接部は、TIG溶接により、4層で隅肉溶接した。
溶接後の溶接熱影響部を切断して、断面をエッチングした。
【0085】
エッチング後の断面の写真を、
図7に示す。
図7では、A断面の1か所の溶接熱影響部の断面を示している。A断面の溶接前温度は、10~15℃であった。
図7に示すように、本発明の間接水冷冷溶接施工においては、σ相は形成されていない。
なお、本例でも
図6と同様にB断面が存在しているが、本例ではB断面の状態がA断面の状態と同様であったので、図示を省略した。
【0086】
さらに、上記の従来の空冷溶接施工および本発明の間接水冷溶接施工を行った、それぞれの試料について、溶接した後の溶接施工配管の溶接熱影響部の耐食性を比較する目的で、温度80℃の3.5%水溶液中で、孔食電位を測定した。また、母材の二相ステンレス鋼(S32750)についても、同様に孔食電位を測定した。
孔食電位は、電流密度が連続で100μA/cm2を上回る最も貴な電位であり、孔食電位が貴であるほど耐孔食性が高くなる。
母材の孔食電位の測定結果、および、それぞれの試料の溶接熱影響部(HAZ)の孔食電位の測定結果を、表1に示す。
【0087】
【0088】
表1より、母材(S32750)の孔食電位が952mV以上であるのに対して、従来の空冷溶接を行った場合の熱影響部(HAZ)では755mV、と約200mVほど孔食電位が低下しており、溶接によって耐孔食性が低化している。この空冷溶接材の孔食電位の低下は、空冷溶接材に耐食性を低下させるσ相が生じたためである。
これに対して、本発明の間接水冷溶接の熱影響部(HAZ)では、σ相が生成しておらず、孔食電位も母材と同等の924mVであり、耐孔食性の低下が生じていないことがわかる。
従って、本発明の間接水冷溶接によって、従来の空冷溶接を行った場合と比較して、熱影響部の特性を改善できる。
【0089】
なお、本発明は、上述した実施の形態および実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施の形態および実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
本発明の鋼配管の溶接方法および間接冷却装置は、溶接熱影響部の組織変化によって材料強度や耐食性が低下することを防ぐ必要性がある場合に特に有効である。さらに、水冷溶接が困難な野外では、小型化した間接水冷装置は有効である。
1:間接水冷装置、2:溶接施工配管、3:サポート板、4:溶接ビード、5:冷却水、 6:冷却水容器、7:冷却装置、8:タンク、9:送水ポンプ、10:保圧弁、11:V開先、12:溶接の1層目、13:保護カバー、14:収納ドラム、20~44:送液用配管