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特開2022-62444刺身の製造方法、及び刺身の風味向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062444
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】刺身の製造方法、及び刺身の風味向上方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20220413BHJP
【FI】
A23L17/00 B
A23L17/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170458
(22)【出願日】2020-10-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年5月21日、東京都中央区銀座7-3-8 Ginza 7th Place 6F「銀座 結絆」にて、発明を公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】520391974
【氏名又は名称】太田 清五郎
(71)【出願人】
【識別番号】520392971
【氏名又は名称】小林 和紀
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】太田 清五郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 和紀
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG12
4B042AH01
4B042AK11
4B042AK14
4B042AK17
4B042AP03
4B042AP18
4B042AP21
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、魚本来の風味を有する刺身の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、切り身魚に対して湯通しする湯通し工程と、前記湯通し工程後、前記切り身魚及びだし氷を接触させる氷締め工程と、を含み、前記だし氷が、前記切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び/又は、昆布だしの凍結物である、刺身の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り身魚に対して湯通しする湯通し工程と、
前記湯通し工程後、前記切り身魚及びだし氷を接触させる氷締め工程と、を含み、
前記だし氷が、前記切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び/又は、昆布だしの凍結物である、
刺身の製造方法。
【請求項2】
前記湯通し工程が、前記切り身魚と同種の魚類に由来するだし、昆布だし、又はこれらの混合物を用いて行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記切り身魚が、タイ、オニカサゴ、又はハモである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
切り身魚に対して湯通しする湯通し工程と、
前記湯通し工程後、前記切り身魚及びだし氷を接触させる氷締め工程と、を含み、
前記だし氷は、前記切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び/又は、昆布だしの凍結物である、
刺身の風味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺身の製造方法、及び刺身の風味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚を用いた料理は各種知られるが、新鮮な切り身魚を用いた刺身は、魚の風味を楽しむことができる料理として消費者に広く受け入れられている。
【0003】
刺身の調理方法の1つとして、「松皮造り」が知られる(例えば、非特許文献1)。松皮造りとは、切り身魚の皮を取り除かずに湯通しした後、氷で冷やすこと(氷締め)で刺身にする方法である。この方法によれば、魚の臭みや余分な脂を除くことができ、さらには魚の皮が柔らかくなり食感が良好となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「釣魚のおいしい料理法:アイデア家庭料理から本格和食まで多彩なレシピ満載」、株式会社 地球丸、1997年5月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討の結果、従来の松皮造りによれば、調理過程において魚本来の風味が失われてしまっている可能性が見出された。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、魚本来の風味を有する刺身の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、松皮造りとして知られる調理方法において、従来の氷(水のみを凍らせたもの)の代わりに、所定のだし氷を用いて切り身魚を冷やすことで上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 切り身魚に対して湯通しする湯通し工程と、
前記湯通し工程後、前記切り身魚及びだし氷を接触させる氷締め工程と、を含み、
前記だし氷が、前記切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び/又は、昆布だしの凍結物である、
刺身の製造方法。
【0009】
(2) 前記湯通し工程が、前記切り身魚と同種の魚類に由来するだし、昆布だし、又はこれらの混合物を用いて行われる、(1)に記載の製造方法。
【0010】
(3) 前記切り身魚が、タイ、オニカサゴ、又はハモである、(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0011】
(4) 切り身魚に対して湯通しする湯通し工程と、
前記湯通し工程後、前記切り身魚及びだし氷を接触させる氷締め工程と、を含み、
前記だし氷は、前記切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び/又は、昆布だしの凍結物である、
刺身の風味向上方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、魚本来の風味を有する刺身の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0014】
<刺身の製造方法>
本発明の刺身の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、切り身魚に対して湯通しする湯通し工程と、該湯通し工程後、該切り身魚及びだし氷を接触させる氷締め工程と、を含み、かつ、該だし氷が、上記切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び/又は、昆布だしの凍結物である。
【0015】
本発明の製造方法は、「松皮造り」として知られる刺身の製造方法と同様の工程を有するが、氷締め工程に用いる氷が、水のみを凍らせた氷ではなく、上記だし氷である点で従来の松皮造りとは異なる。
【0016】
本発明者らの検討の結果、松皮造りにおいて、切り身魚に対して湯通しや氷締めする際、魚の臭みや余分な脂だけではなく、魚が有する風味も除かれてしまい、魚本来の風味が損なわれてしまうことがわかった。
【0017】
そこで、本発明者らがさらに検討した結果、湯通し工程後、氷締めに用いる氷として、切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び/又は、昆布だしの凍結物を用いると、湯通し工程において熱湯等で湯通しすることで生じ得る水っぽさを防いだり、氷締め工程で風味が失われるのを抑制したりすることができ、魚本来の風味を強く感じる刺身が得られることがわかった。
【0018】
本発明において「魚本来の風味」とは、用いる切り身魚の種類等に応じて異なり、魚特有の味わい(旨味及びコク等)や、食感等を意味する。
【0019】
以下、本発明の製造方法の詳細を説明する。
【0020】
(切り身魚)
切り身魚としては、刺身として供され得る、任意の魚の可食部位を用いることができる。
【0021】
切り身魚の大きさや形状等は特に限定されず、後述する湯通しや氷締めがしやすい任意の条件を採用できる。
【0022】
切り身魚は、身(筋肉)を含んでいればよい。切り身魚には、皮や骨が付いていてもよく、付いていなくともよい。
【0023】
切り身魚に用いる魚の種類としては特に限定されないが、例えば、タイ、オニカサゴ、ハモ、ヒラメ、カレイ、クエ、スズキ、イサキ、カマス、太刀魚、ノドグロ、アナゴ、メジナ、コチ等が挙げられる。
上記のうち、本発明の効果が得られやすいという観点から、タイ、オニカサゴ、ハモが特に好ましい。
【0024】
切り身魚は、湯通し工程に供する前に、塩等をふっておいてもよい。
【0025】
(湯通し工程)
湯通し工程とは、切り身魚と、熱した液体とを接触させる工程である。この工程により、切り身魚の少なくとも表面を加熱する。
熱した液体は、食品の湯通しに用いられる任意の液体であり得るが、通常、熱湯や、熱しただし等である。
【0026】
湯通し工程に用いる液体(熱湯、熱しただし等)の温度は特に限定されないが、通常、80~100℃である。
【0027】
本発明において「熱湯」とは熱した水を意味する。熱湯は、通常、水のみを含むが、塩分、酒等が少量(例えば、液体全体に対して20質量%以下)含まれていてもよい。
【0028】
本発明において「だし」は、切り身魚の風味を損なわない任意の食品に由来するものが用いられ、溶液(汁)の形態である。このようなだしとしては、例えば、切り身魚と同種の魚類に由来するだし、昆布だし、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
だしの製造方法については特に限定されず、だしを取ろうとする食品(魚類、昆布等)の種類や大きさ、得ようとするだしの濃さや風味等に応じて適宜設定できる。
だしの好ましい製造方法としては、実施例に記載された方法が挙げられる。
【0030】
本発明において「切り身魚と同種の魚類に由来するだし」とは、本発明の製造方法に供される切り身魚と由来が同種である魚類から得られただしを意味する。このようなだしは、「共だし」とも呼ばれる。
例えば、本発明の製造方法に供される切り身魚が「オニカサゴ」である場合、「切り身魚と同種の魚類に由来するだし」とは、オニカサゴのだしを意味する。
【0031】
本発明において「昆布だし」とは、通常知られる方法で昆布から得られるだしを意味する。昆布だしの作製方法は、水出し法、及び煮出し法のいずれであってもよい。
【0032】
昆布だしの由来である昆布の種類としては、飲食品に用いられるものであれば特に限定されず、その産地も特に限定されない。
例えば、昆布だしの由来である昆布の例としては、利尻昆布、日高昆布、真昆布、羅臼昆布等が挙げられる。
【0033】
本発明においては、切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び昆布だしの混合物を用いてもよい。このような混合物は、(1)切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び昆布だしをそれぞれ個別に調製した後にこれらを所望の割合で混合する方法、(2)切り身魚と同種の魚類、及び昆布を一緒に煮出してだしを得る方法等によって作製できる。
【0034】
湯通し工程においては、魚本来の風味を有する刺身が得られやすいという観点から、切り身魚と同種の魚類に由来するだし、昆布だし、又はこれらの混合物を用いて湯通しすることが好ましい。
【0035】
湯通し工程の時間は、特に限定されないが、通常5~15秒以内である。
【0036】
湯通し工程の方法は、松皮造りにおいて通常使用される方法を使用できるが、例えば、切り身魚の表面に熱湯又は熱しただしをかける方法、容器(鍋、ボウル等)に入れた熱湯又は熱しただしに切り身魚を浸したり、くぐらせたりする方法等が挙げられる。
【0037】
切り身魚に皮が付いている場合、皮目に熱湯又は熱しただしをかけることが好ましい。
【0038】
(氷締め工程)
氷締め工程とは、湯通し工程後の切り身魚の表面の一部又は全体を、だし氷と接触させる工程である。
【0039】
本発明において「だし氷」とは、切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び/又は、昆布だしの凍結物を意味する。
氷締め工程に用いられるだし氷は、切り身魚と同種の魚類に由来するだしの凍結物、昆布だしの凍結物、及び切り身魚と同種の魚類に由来するだし及び昆布だしの混合物の凍結物からなる群から選択される1種以上であり得る。
【0040】
だし氷の大きさや形状は特に限定されないが、切り身魚と接触させやすい任意の条件を採用できる。
例えば、だし氷は、1~3cm角に砕かれたものや、板状のものであってもよい。
【0041】
氷締め工程の時間は、特に限定されないが、通常、切り身魚の粗熱が取れるまで(例えば1分以内)の時間である。
【0042】
氷締め工程の方法は、松皮造りにおいて通常使用される方法を使用できるが、例えば、容器(バット等)に入れただし氷の上に切り身魚を置く方法、砕いただし氷の間に切り身魚を押し入れて沈める方法等が挙げられる。
【0043】
切り身魚に皮が付いている場合、皮目を下にしてだし氷に接触させることが好ましい。
【0044】
(その他の工程)
氷締め工程後、必要に応じて切り身魚の水分を拭き取ったり、食べやすい大きさに切ったりしてもよい。
上記工程を経た切り身魚を、刺身として喫食することができる。
【0045】
<刺身の風味向上方法>
本発明の刺身の風味向上方法(以下、「本発明の風味向上方法」ともいう。)は、切り身魚に対して湯通しする湯通し工程と、該湯通し工程後、該切り身魚及びだし氷を接触させる氷締め工程と、を含み、かつ、該だし氷が、上記切り身魚と同種の魚類に由来するだし、及び/又は、昆布だしの凍結物である。
【0046】
上記のとおり、本発明における湯通し工程及び氷締め工程を含む方法によれば、従来の刺身の風味を向上させることができる。
【0047】
本発明において「刺身の風味が向上する」とは、同種の魚類の切り身魚を用いた場合、氷による氷締めを行う従来の松皮造りから得られる刺身と比較して、魚本来の風味を強く感じることを意味する。
【実施例0048】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<氷締めされた刺身の作製-1>
以下の方法で、氷締めされたタイの刺身を作製し、その風味を評価した。
【0050】
(だしの準備)
水1Lに、だし昆布(利尻昆布)30gを入れ、冷蔵庫(約4℃)で1日保存した後だし昆布を除いて、水出しの昆布だしを作製した。
得られた昆布だしのうち半量を冷凍保存(約-20℃)し、昆布だし氷を得た。昆布だしの残りは冷蔵保存(約4℃)した。
【0051】
(実施例:タイに対するだし氷締め)
(1)タイを3枚におろして腹と背を柵取りし、皮目に数本の隠し包丁を入れ、切り身魚を抜き板(小さいまな板)に並べた。
(2)昆布だし氷を、3cm角程度になるまで砕き、ステンレス製角バットに並べた。
(3)冷蔵保存した昆布だしを沸騰させ、上記(1)の切り身魚の皮目に2~3回満遍なくかけた後、皮に火を入れた。
この工程は、本発明における「湯通し工程」に相当する。
(4)火を入れた切り身魚を、上記(2)の昆布だし氷の上に皮目を下にして、粗熱が取れるまで置いた。
この工程は、本発明における「氷締め工程」に相当する。
(5)布巾で切り身魚の水分をよく拭き取り、食べやすい大きさに切り、だし氷締めされた刺身(タイ)を得た。
【0052】
(比較例:タイに対する通常の氷締め)
比較例として、上記「(実施例:タイのだし氷締め)」の項の(4)において昆布だし氷の代わりに通常の氷(水のみを凍らせたもの)を使用した点以外は上記「(実施例:タイのだし氷締め)」の項と同様にして、通常の氷締めをされた刺身(タイ)を得た。
【0053】
(結果)
モニター96名に、だし氷締めされた刺身、及び通常の氷締めをされた刺身のそれぞれの風味を評価させた。
その結果、モニター全員が、だし氷締めされた刺身の方が魚本来の風味を強く感じさせると評価した。
【0054】
<氷締めされた刺身の作製-2>
以下の方法で、氷締めされたオニカサゴを作製し、その風味を評価した。
【0055】
(だしの準備)
オニカサゴを3枚におろした。次いで、鍋に水1L、酒100cc、オニカサゴの頭、骨、昆布20gを入れ、強火にかけた。
沸騰後、火を弱め、旨味が出るまで15~20分間アクを取りながら煮出し、だし(共だし)を作製した。
得られただしのうち半量を冷凍保存(約-20℃)し、共だし氷を得た。だしの残りは冷蔵保存(約4℃)した。
【0056】
(実施例:オニカサゴに対するだし氷締め)
(1)共だし氷を、数ミリ角程度になるまで砕き、ステンレス製ボウルに入れた。
(2)オニカサゴの身を厚め(約8mm)に切った。
(3)冷蔵保存しただしを約80℃まで熱し、上記(2)の切り身魚を、表面が薄く白色に変わるまで約3秒くぐらせた(しゃぶしゃぶした)。
この工程は、本発明における「湯通し工程」に相当する。
(4)しゃぶしゃぶした切り身魚を、粗熱が取れるまで、上記(1)の共だし氷の間に沈めた。
この工程は、本発明における「氷締め工程」に相当する。
(5)布巾で切り身魚の水分をよく拭き取り、だし氷締めされた刺身(オニカサゴ)を得た。
【0057】
(比較例:オニカサゴに対する通常の氷締め)
比較例として、上記「(実施例:オニカサゴのだし氷締め)」の項の(4)において共だし氷の代わりに通常の氷(水のみを凍らせたもの)を使用した点以外は上記「(実施例:オニカサゴのだし氷締め)」の項と同様にして、通常の氷締めをされた刺身(オニカサゴ)を得た。
【0058】
(結果)
モニター96名に、だし氷締めされた刺身、及び通常の氷締めをされた刺身のそれぞれの風味を評価させた。
その結果、モニター全員が、だし氷締めされた刺身の方が魚本来の風味を強く感じさせると評価した。