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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062493
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】マススペクトル処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20220413BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220413BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
G01N30/86 L
G01N27/62 C
G01N30/86 D
G01N30/86 E
G01N30/86 R
G01N30/72 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170540
(22)【出願日】2020-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 博一
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA13
2G041EA06
2G041GA03
2G041GA06
2G041HA01
2G041MA05
(57)【要約】
【課題】クロマトグラムに含まれる微小なピークをノイズから区別するための情報を生成する。
【解決手段】クロマトグラム168と共に、第1トレンドチャート170及び第2トレンドチャート172が表示される。第1トレンドチャート170は、複数のマススペクトルから求められる複数の第1代表値列に基づいて生成される。第2トレンドチャート172は、複数のマススペクトルから求められる複数の第2代表値列に基づいて生成される。第1トレンドチャート170及び第2トレンドチャート172に基づいて、マススペクトル安定期間が判定される。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間軸上に並ぶ複数のマススペクトルからなるマススペクトル列に基づいて、クロマトグラムを生成するクロマトグラム生成部と、
前記マススペクトル列を構成するマススペクトルごとに当該マススペクトルに含まれる複数の代表ピークを特定し、これにより複数の代表ピークの時間的変化が反映された複数のグラフからなるトレンドチャートを生成するチャート生成部と、
前記クロマトグラムと共に、前記トレンドチャートを表示し又は前記トレンドチャートから生成されるマススペクトル安定情報を表示する表示処理部と、
を含むことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のマススペクトル処理装置において、
前記チャート生成部は、
前記マススペクトルに含まれる複数の代表ピークを抽出する抽出部と、
前記複数の代表ピークに基づいて、前記マススペクトルの特徴量として、複数の代表値からなる代表値列を特定する特定部と、
前記複数のマススペクトルから求められた複数の代表値列に基づいて、前記複数のグラフとして、代表値列の時間的変化を表す複数のグラフを生成するグラフ生成部と、
を含む、ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項3】
請求項2記載のマススペクトル処理装置において、
前記抽出部は、前記複数の代表ピークとして、前記マススペクトルにおける上位k個(但しkは2以上の整数)のピークを抽出する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項4】
請求項3記載のマススペクトル処理装置において、
前記特定部は、前記代表値列として、前記上位k個のピークに対応するk個のm/zからなるm/z列を求め、
前記グラフ生成部は、保持時間軸とm/z軸とを有する座標系に対して、前記複数のマススペクトルから求められた複数のm/z列をプロットすることにより、k個のグラフを生成する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項5】
請求項3記載のマススペクトル処理装置において、
前記kは3以上であり、
前記上位k個のピークは、最上位ピーク及びk-1個の上位ピークにより構成され、
前記特定部は、前記代表値列として、前記最上位ピークの強度に対する前記k-1個の上位ピークの強度の比率からなる比率列を求め、
前記グラフ生成部は、保持時間軸と比率軸とを有する座標系に対して、前記複数のマススペクトルから求められた複数の比率列をプロットすることにより、k-1個のグラフを生成する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項6】
請求項1記載のマススペクトル処理装置において、
前記チャート生成部は、
前記マススペクトルに含まれる複数の第1代表ピークを抽出する第1抽出部と、
前記マススペクトルに含まれる複数の第2代表ピークを抽出する第2抽出部と、
前記複数の第1代表ピークに基づいて、前記マススペクトルの第1特徴量として、複数の第1代表値からなる第1代表値列を求める第1特定部と、
前記複数の第2代表ピークに基づいて、前記第1特徴量とは異なる前記マススペクトルの第2特徴量として、複数の第2代表値からなる第2代表値列を求める第2特定部と、
前記複数のマススペクトルから求められた複数の第1代表値列に基づいて、前記複数のグラフとして、第1代表値列の時間的変化を表す複数の第1グラフを生成する第1グラフ生成部と、
前記複数のマススペクトルから求められた複数の第2代表値列に基づいて、前記複数のグラフとして、第2代表値列の時間的変化を表す複数の第2グラフを生成する第2グラフ生成部と、
を含み、
前記複数の第1グラフにより第1トレンドチャートが生成され、前記複数の第2グラフにより第2トレンドチャートが生成される、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項7】
請求項1記載のマススペクトル処理装置において、
前記トレンドチャートの解析によりマススペクトル安定期間を判定するチャート解析部を含み、
前記クロマトグラムと共に、前記マススペクトル安定期間を示す前記マススペクトル安定情報が表示される、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項8】
請求項1記載のマススペクトル処理装置において、
前記トレンドチャートに基づいて判定されたマススペクトル安定期間に応じて、前記クロマトグラムに含まれるピークに対する処理を実行する処理部を含む、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項9】
時間軸上に並ぶ複数のマススペクトルからなるマススペクトル列に基づいて、マススペクトルごとに当該マススペクトルに含まれる複数の代表ピークからなる代表ピーク列を特定する工程と、
前記複数のマススペクトルから特定された複数の代表ピーク列に基づいて、複数の代表ピークの時間的変化が反映された複数のグラフからなるトレンドチャートを生成する工程と、
を含むことを特徴とするマススペクトル処理方法。
【請求項10】
情報処理装置において実行されるプログラムであって、
時間軸上に並ぶ複数のマススペクトルからなるマススペクトル列に基づいて、マススペクトルごとに当該マススペクトルに含まれる複数の代表ピークからなる代表ピーク列を特定する機能と、
前記複数のマススペクトルから特定された複数の代表ピーク列に基づいて、複数の代表ピークの時間的変化が反映された複数のグラフからなるトレンドチャートを生成する機能と、
を含むことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マススペクトル処理装置及び方法に関し、特に、マススペクトル列に基づいてクロマトグラムを生成するマススペクトル処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析システムは、例えば、クロマトグラフ、質量分析装置及びマススペクトル処理装置により構成される。クロマトグラムにおいて、試料から時間的に分離された複数の成分が取り出され、それらが質量分析装置へ順次送られる。質量分析装置においては、導入される複数の成分に対して質量分析が繰り返し実行される。マススペクトル処理装置は、質量分析の結果に基づいて時間軸上に並ぶ複数のマススペクトルからなるマススペクトル列を生成し、マススペクトル列に基づいてクロマトグラムを生成する。クロマトグラムに含まれる複数のピークがクロマトグラフで分離、抽出された複数の成分に対応する。個々のピークの解析により、具体的には、個々のピークに対応するマススペクトルの解析により、各成分が定性分析あるいは定量分析される。
【0003】
なお、特許文献1には、クロマトグラム上にピークトップ位置を示すマークを表示する技術が開示されている。特許文献2には、クロマトグラムに含まれるピークがノイズに相当するか否かを判断する技術が開示されている。特許文献1及び特許文献2には、クロマトグラム評価用のグラフ又はチャートを生成することについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6273785号公報
【特許文献2】特開2005-221276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料から抽出された各成分のマススペクトルを特定するために、クロマトグラムに含まれる個々のピークが自動的に検出されあるいは目視により特定される。ピークの自動検出に際して、微小なピークまで検出しようとすると、ノイズまでが検出されてしまう。ノイズを避けてピーク検出を行おうとすると、微小なピークを見逃してしまう。一方、クロマトグラムにおいて、特にそれ全体が一画面内に表示された場合において、目視によりピーク、特に微小ピークを特定することは困難である。自動的なピーク検出や目視によるピーク特定を支援する技術の実現が求められている。
【0006】
本発明の目的は、クロマトグラムに含まれるピークを検出又は特定し易くすることにある。あるいは、本発明の目的は、クロマトグラムに含まれる微小なピークをノイズから区別するための情報を簡易な構成で生成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るマススペクトル処理装置は、時間軸上に並ぶ複数のマススペクトルからなるマススペクトル列に基づいて、クロマトグラムを生成するクロマトグラム生成部と、前記マススペクトル列を構成するマススペクトルごとに当該マススペクトルに含まれる複数の代表ピークを特定し、これにより複数の代表ピークの時間的変化が反映された複数のグラフからなるトレンドチャートを生成するチャート生成部と、前記クロマトグラムと共に、前記トレンドチャートを表示し又は前記トレンドチャートから生成されるマススペクトル安定情報を表示する表示処理部と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係るマススペクトル処理方法は、時間軸上に並ぶ複数のマススペクトルからなるマススペクトル列に基づいて、マススペクトルごとに当該マススペクトルに含まれる複数の代表ピークからなる代表ピーク列を特定する工程と、前記複数のマススペクトルから特定された複数の代表ピーク列に基づいて、複数の代表ピークの時間的変化が反映された複数のグラフからなるトレンドチャートを生成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クロマトグラムに含まれるピークを検出又は特定し易くなる。あるいは、本発明によれば、クロマトグラムに含まれる微小なピークをノイズから区別するための情報を簡易な構成で生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る質量分析システムを示すブロック図である。
図2】第1トレンドチャートの生成を説明するための図である。
図3】マススペクトルにおける複数の代表ピークを示す図である。
図4】第1トレンドチャートの第1例を示す図である。
図5】第1トレンドチャートの第2例を示す図である。
図6】第2トレンドチャートの生成を説明するための図である。
図7】第2トレンドチャートの第1例を示す図である。
図8】第2トレンドチャートの第2例を示す図である。
図9】第2トレンドチャートの第3例を示す図である。
図10】スペクトル安定期間の判定方法を示す図である。
図11】第1トレンドチャートの第3例を示す図である。
図12】第1表示例を示す図である。
図13】第2表示例を示す図である。
図14】拡大表示を説明するための図である。
図15】類似関係が判定された場合における表示例を示す図である。
図16】類似関係の判定方法を示す図である。
図17】主抽出位置の補正を説明するための図である。
図18】2つの副抽出位置の補正を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(1)実施形態の概要
実施形態に係るマススペクトル処理装置は、クロマトグラム生成部、チャート生成部、及び、表示処理部を有する。クロマトグラム生成部は、時間軸上に並ぶ複数のマススペクトルからなるマススペクトル列に基づいて、クロマトグラムを生成する。チャート生成部は、マススペクトル列を構成するマススペクトルごとに当該マススペクトルに含まれる複数の代表ピークを特定し、これにより複数の代表ピークの時間的変化が反映された複数のグラフからなるトレンドチャートを生成する。表示処理部は、クロマトグラムと共に、トレンドチャートを表示し又はトレンドチャートから生成されるマススペクトル安定情報を表示する。
【0013】
上記構成によれば、マススペクトルの時間的変化が代表ピーク列の時間的変化として捉えられる。代表ピーク列の時間的変化がトレンドチャートとして表示され、あるいは、トレンドチャートから生成されるマススペクトル安定情報が表示される。トレンドチャートの生成に当たって、各マススペクトルそれ全体が参照されるのではなく、各マススペクトルを代表する複数の代表ピークが参照されるので、ノイズの影響を受け難くなり、また計算量を削減できる。
【0014】
実施形態においては、複数の代表ピークとして、高い強度をもった複数のピークが選ばれる。トレンドチャートは、複数のグラフにより構成され、それはマススペクトルの時間的変化の傾向又はパターンを示すものである。複数のグラフの状態(例えば、密集、偏移、安定、変化等)から、個々の時刻におけるマススペクトルの状態を推認することが可能となる。
【0015】
実施形態において、チャート生成部は、抽出部、特定部、及び、グラフ生成部を有する。抽出部は、マススペクトルに含まれる複数の代表ピークを抽出する。特定部は、複数の代表ピークに基づいて、マススペクトルの特徴量として、複数の代表値からなる代表値列を求める。グラフ生成部は、複数のマススペクトルから求められた複数の代表値列に基づいて、代表値列の時間的変化を表す複数のグラフを生成する。
【0016】
実施形態において、抽出部は、複数の代表ピークとして、マススペクトルにおける上位k個(但しkは2以上の整数)のピークを抽出する。kが小さ過ぎると、マススペクトルの特徴量抽出が不十分となる。kが大き過ぎると、演算量が増大してしまう。状況に応じてkの値を定めるのが望ましい。ここで、kは後述するM及びNに相当するパラメータである。なお、k=1とする変形例も考えられる。
【0017】
実施形態において、特定部は、代表値列として、上位k個のピークに対応するk個のm/zからなるm/z列を求める。グラフ生成部は、保持時間軸とm/z軸とを有する座標系に対して、複数のマススペクトルから求められた複数のm/z列をプロットすることにより、k個のトレンドグラフを生成する。この構成によれば、k個のm/zの時間変化がk個のグラフとして表現される。
【0018】
実施形態において、kは3以上である。上位k個のピークは、最上位ピーク及びk-1個の上位ピークにより構成される。特定部は、代表値列として、最上位ピークの強度に対するk-1個の上位ピークの強度の比率からなる比率列を求める。グラフ生成部は、保持時間軸と比率軸とを有する座標系に対して、複数のマススペクトルから求められた複数の比率列をプロットすることにより、k-1個のグラフを生成する。この構成によれば、最上位ピークと上位k個のピークの強度関係の時間的変化を表示し得る。なお、k=2とする変形例も考えられる。
【0019】
実施形態において、チャート生成部は、第1抽出部、第2抽出部、第1特定部、第2特定部、第1グラフ生成部、及び、第2グラフ生成部を有する。第1抽出部は、マススペクトルに含まれる複数の第1代表ピークを抽出する。第2抽出部は、マススペクトルに含まれる複数の第2代表ピークを抽出する。第1特定部は、複数の第1代表ピークに基づいて、マススペクトルの第1特徴量として、複数の第1代表値からなる第1代表値列を求める。第2特定部は、複数の第2代表ピークに基づいて、第1特徴量とは異なるマススペクトルの第2特徴量として、複数の第2代表値からなる第2代表値列を求める。第1グラフ生成部は、複数のマススペクトルから求められた複数の第1代表値列に基づいて、第1代表値列の時間的変化を表す複数の第1グラフを生成する。第2グラフ生成部は、複数のマススペクトルから求められた複数の第2代表値列に基づいて、第2代表値列の時間的変化を表す複数の第2グラフを生成する。複数の第1グラフにより第1トレンドチャートが生成される。複数の第2グラフにより第2トレンドチャートが生成される。
【0020】
上記構成によれば、第1トレンドチャート及び第2トレンドチャートの両者を考慮して各時刻におけるマススペクトルの状態を評価し得る。複数の第1代表ピークと複数の第2代表ピークとが同一であってもよい。
【0021】
実施形態に係るマススペクトル処理装置は、トレンドチャートの解析によりマススペクトル安定期間を判定するチャート解析部を含む。クロマトグラムと共に、マススペクトル安定期間を示すマススペクトル安定情報が表示される。マススペクトル安定情報の参照により、解析対象となるマススペクトルを選定し易くなる。
【0022】
実施形態に係るマススペクトル処理装置は、トレンドチャートに基づいて特定されたマススペクトル安定期間に応じて、クロマトグラムに含まれるピークに対する処理を実行する処理部を含む。その処理には、ピーク頂点の特定、ピーク前後のピーク外側位置の特定、ピークに含まれる複数のサブピークの分離、複数のサンプルから得られた複数のクロマトグラムの比較、等が含まれる。
【0023】
実施形態に係るマススペクトル処理方法は、特定工程、及び、生成工程を有する。特定工程では、時間軸上に並ぶ複数のマススペクトルからなるマススペクトル列に基づいて、マススペクトルごとに当該マススペクトルに含まれる複数の代表ピークからなる代表ピーク列が特定される。生成工程では、複数のマススペクトルから特定された複数の代表ピーク列に基づいて、複数の代表ピークの時間的変化が反映された複数のグラフからなるトレンドチャートが生成される。
【0024】
上記マススペクトル処理方法は、ハードウエアの機能として又はソフトウエアの機能として実現され得る。後者の場合、マススペクトル処理方法を実行するプログラムが、ネットワークを介して又は可搬型記憶媒体を介して、情報処理装置にインストールされる。情報処理装置の概念には、コンピュータ、質量分析装置、及び、質量分析システムが含まれる。
【0025】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る質量分析システムの全体構成がブロック図として示されている。図示された質量分析システム10は、測定部12、及び、情報処理装置14を有する。質量分析システム10は、いわゆる、GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)である。具体的には、情報処理装置14は、コンピュータ等により構成され、それはマススペクトル処理装置として機能する。測定部12は、ガスクロマトグラフ(GC)16、及び、質量分析装置18により構成される。質量分析装置18の前段に、他の前処理部が設けられてもよい。
【0026】
GC16は、試料に含まれる複数の成分を時間的に分離するカラムを有している。すなわち、カラムにより、試料から複数の成分が取り出される。分離された複数の成分が質量分析装置18中のイオン源20に順次送られる。
【0027】
質量分析装置18は、イオン源20、質量分析器22、及び、検出器24により構成される。イオン源20は、例えば、EI法(電子イオン化法)に従うイオン源である。他のイオン源が用いられてもよい。
【0028】
質量分析器22は、イオン源20から出た各イオンの質量電荷比(m/z)を分析する部分である。質量分析器22として、飛行時間型質量分析器や四重極型質量分析器等を利用し得る。検出器24において個々のイオンが検出される。検出器24から出力された検出信号26は、図示されていない信号処理回路に送られる。検出信号26は、m/zごとのイオン強度を示す信号である。
【0029】
次に、情報処理装置14について説明する。情報処理装置14は、プロセッサ(例えばCPU)、表示器42、及び、入力器44を有する。図1においては、プロセッサが実現する複数の機能が複数のブロックとして表現されている。
【0030】
スペクトル生成部28は、質量分析装置18から順次出力される検出信号に基づいてマススペクトルを生成する。スペクトル生成部28により、保持時間軸上において並ぶ複数のマススペクトルからなるマススペクトル列が生成される。図示の構成例では、マススペクトル列が記憶部30に記憶されている。記憶部30は、メモリにより構成される。
【0031】
TICC(トータルイオンカレントクロマトグラム)生成部34は、マススペクトルごとに、マススペクトルを積算してTIC(トータルイオンカレント)を演算し、TICの時間的変化を表したグラフとして、TICCを生成する。TICCを表すデータが表示処理部32に送られている。
【0032】
第1トレンドチャート生成部36は、マススペクトル列に基づいて第1トレンドチャートを生成するモジュールである。第1トレンドチャートは、横軸としての保持時間軸、及び、縦軸としてのm/z軸を有し、マススペクトルの時間的変化を複数の第1代表値(具体的にはマススペクトルを代表する複数のm/z)の時間的変化として表現した複数の第1グラフの集合体である。第1トレンドチャートからマススペクトル安定期間を自動的に検出し又は目視で特定することが可能となる。各マススペクトルを代表する複数のm/zは第1特徴量と言い得る。第1トレンドチャートについては後に詳述する。
【0033】
第2トレンドチャート生成部38は、マススペクトル列に基づいて第2トレンドチャートを生成するモジュールである。第2トレンドチャートは、横軸としての保持時間軸、及び、縦軸としての比率軸を有し、マススペクトルの時間的変化を第2代表値列(具体的にはマススペクトルの状態を示す複数の比率であり、その詳細については後述する。)の時間的変化として表現した複数の第2グラフの集合体である。第2トレンドチャートからマススペクトル安定期間を自動的に検出し又は目視で特定することが可能となる。個々のマススペクトルごとに特定される複数の比率は、第1特徴量とは異なる第2特徴量と言い得る。第2トレンドチャートについては後に詳述する。
【0034】
表示処理部32は、表示器42に表示される画像を生成するものである。その画像には、クロマトグラム、第1トレンドチャート、第2トレンドチャート、スペクトル安定情報、等が含まれる。表示器42には、必要に応じて、マススペクトルや条件設定欄が表示される。
【0035】
表示処理部32は、チャート解析部40を有する。チャート解析部40は、第1トレンドチャート及び第2トレンドチャートに基づいて、マススペクトル安定期間を判定する。また、チャート解析部40は、類似ピーク検索機能、等を有する。表示処理部32には、クロマトグラムを解析するクロマトグラム解析部も含まれる。クロマトグラム解析部は、クロマトグラムにおけるピークをノイズと区別しながら検出する機能を備える。その際には、マススペクトル安定期間が参照される。入力器44を利用して、マススペクトル安定期間の判定条件を設定し得る。
【0036】
図2には、第1トレンドチャート生成アルゴリズムが示されている。マススペクトル列を構成する個々のマススペクトル50から、強度順で、上位M個のピークが特定される(符号52-1から符号52-mを参照)。上位M個のピークは、M個の代表ピークと言い得る。ここで、Mは2以上の整数であり、例えば、Mは5である。その場合、1番目に大きな強度を有する第1ピークから5番目に大きな強度を有する第5ピークまでの5つのピークが特定される。それらはピーク列を構成する。そのピーク列は、代表ピーク列と言い得る。強度順で上位からM個のピークを参照することにより、マススペクトル全体を参照する場合に比べて、ノイズの影響を受け難く、また計算量を削減できる。
【0037】
続いて、第1ピークから第Mピークに対応するM個のm/zが特定され、それが第1座標系54にプロットされる(符号56-1から符号56-mを参照)。M個のm/zは、第1ピークに対応するm/z、第2ピークに対応するm/z、・・・、第Mピークに対応するm/zである。それらはそれぞれ代表値であり、それら全体はマススペクトルの特徴量又は特徴ベクトルと言い得る。第1座標系54は、横軸としての保持時間軸、及び、縦軸としてのm/z軸を有する。マススペクトル生成タイミングごとに、M個のm/zを表すM個の点がプロットされる。各点の属性情報として、順位(ピーク強度順位)が管理される。
【0038】
今回のマススペクトル及び前回のマススペクトルに対応する2つの点列の間が、M個の直線で連結される(符号58-1から符号58-mを参照)。その場合、同じ順位に対応付けられた2つの点ごとに、2つの点が連結される。
【0039】
以上の処理の繰り返しにより、第1グラフから第MグラフまでのM個のグラフが生成される(符号60-1から符号60-mを参照)。個々のグラフは折れ線グラフである。折れ線グラフに代えて曲線グラフを採用してもよい。第1グラフ60-1は、第1順位に対応する複数の点を通るグラフであり、第2グラフ60-2は第2順位に対応する複数の点を通るグラフであり、・・・、第Mグラフ60-mは第M順位に対応するグラフである。それらのM個のグラフそれら全体として、第1トレンドチャート61が構成される。第1トレンドチャート61は、代表m/zトレンドチャートあるいは高強度ピーク位置トレンドチャートとも言い得る。Mの値は、自動的に設定され又はユーザーにより指定される。
【0040】
図3には、マススペクトルの一例が示されている。横軸はm/z軸であり、縦軸は強度軸である。マススペクトル62には、多数のピークが含まれる。図示の例では、多数のピークの内で、上位5個のピークが代表ピーク列として特定される(符号64-1から符号64-5を参照)。続いて、上位5個のピークに対応する5個のm/zが特定される(m/z-1からm/z-5を参照)。それらは第1代表値列であり、それら全体がマススペクトルの第1特徴量に相当する。
【0041】
図4の上段には、第1例に係るクロマトグラム66が示され、図4の下段には、第1例に係る第1トレンドチャート68が示されている。クロマトグラム66が有する保持時間軸のスケールと第1トレンドチャート68が有する保持時間軸のスケールは同一である。このことは、以下に説明する、複数の保持軸を示した図5図7-15、図17-18においても同様である。
【0042】
図4に示す例において、第1トレンドチャート68は、5つのグラフ68a,68b,68c,68d,68eにより構成される。保持時間軸に沿って、5つのグラフ68a,68b,68c,68d,68eは、交差したり平行に走行したりしている。符号72A,72B,72Cは、5つのグラフ68a,68b,68c,68d,68eにおいて、概ね平行に走行している3つの部分を示しており、それらはクロマトグラム66に含まれる3つのピーク70A,70B,70Cに対応している。
【0043】
すなわち、第1トレンドチャート68において、交差がない又は交差があまりない単調な部分は、マススペクトルが安定している期間であり、つまり成分が抽出されている期間であると考えられる。例えば、第1トレンドチャートにおいて、符号86で示す部分においては、5つのグラフ68a,68b,68c,68d,68eが不安定となっており、少なからずの交差箇所つまり頻繁な交差が生じている。そのような期間においては、マススペクトルの形態又は内容が不安定であることが推認され、そのような期間において、クロマトグラムにピークがあったとしても、それはノイズである可能性が高いと評価し得る。符号78,80,84で示す部分についても同様のことが言える。
【0044】
ちなみに、第1トレンドチャート68において、交差がまったく生じていない安定した期間73には、クロマトグラム66内のピーク70Aが含まれ、更にピーク70Aの後側(図4において右側)の裾部分も含まれる。その裾部分もピーク70Aの一部であると評価し得る。
【0045】
以上のように、第1トレンドチャートによれば、マススペクトルの時間的変化又は各時点での様子を分かり易く表現することが可能であり、その第1トレンドチャートを通じてマススペクトルが安定している期間を比較的に容易に特定することが可能である。これにより、化合物由来のピークであるか否かを判定することが可能となる。
【0046】
なお、第1トレンドチャート68において、部分72Bの両端部には、孤立した交差74,76が認められる。ユーザーにより又は自動的に設定された判定条件に従って、交差74,76を避けて安定期間が判定され、あるいは、それも含めて安定期間が判定される。
【0047】
図5には、第2例に係るクロマトグラム88及び第2例に係る第1トレンドチャート90が示されている。第1トレンドチャート90において、符号92,96で示す部分は安定しており、一方、符号100で示す部分は不安定である。クロマトグラム88においては、緩やかなピーク94,98が認められ、それらは符号92,96で示す部分に対応している。すなわち、第1トレンドチャート90に基づいて、クロマトグラム88に含まれる個々の山状部分について真のピークであるかノイズであるかを判別し得る。例えば、符号102で示す部分には複数の微小な山が認められるが、それに対応する部分100を参照すると、その部分100は不安定である。このことから、符号102で示す部分に含まれる複数の微小な山はノイズであるとみなせる。
【0048】
安定している部分92の長さとして、安定期間93を画定でき、安定期間93からピーク94の両端を特定し得る。例えば、ピークトップに相当する主抽出位置、及び、ピーク外側の2つのノイズ参照位置に相当する2つの副抽出位置を安定期間93から容易に特定し得る。
【0049】
図6には、第2トレンドチャート生成アルゴリズムが示されている。マススペクトル列を構成する個々のマススペクトル50から、強度順で、上位N個のピークが特定される(符号104-1から符号104-nを参照)。上位N個のピークは、N個の代表ピークと言い得る。ここで、Nは3以上の整数であり、例えば、Nは6である。その場合、1番目に大きな強度を有する第1ピークから6番目に大きな強度を有する第6ピークまでが特定される。そのピーク列は、代表ピーク列と言い得る。強度順で上位N個のピークを参照することにより、マススペクトル全体を参照する場合に比べて、ノイズの影響を受け難く、また計算量を削減できる。
【0050】
具体的には、N個のピークは、1番目に大きな強度を有する第1ピーク(最上位ピーク)、及び、2番目からN番目に大きなピークを有するN-1個の上位ピークからなる。最上位ピークの強度が基準強度とされる。N-1個の上位ピークの強度を基準強度で除することにより、N-1個の比率が演算され、N-1個の比率が第2座標系106にプロットされる(符号108-1から符号108-n-1を参照)。プロットされる各点に対しては、その属性情報として、比率の大きさの順位(比率順位)が対応付けられる。N-1個の比率はそれぞれ代表値であり、それら全部はマススペクトルの特徴量又は特徴ベクトルと言い得る。
【0051】
第2座標系106は、横軸としての保持時間軸、及び、縦軸としての比率軸を有する。マススペクトルごとにN-1個の点(点列)をプロットしていく過程の中で、隣り合う2つの点列がN-1個の線で連結される。その場合、比率の大きさ順で、同じ順位を有する2つの点ごとに、2つの点が相互に連結される(符号110-1から符号110-n-1を参照)。
【0052】
以上の処理の繰り返しにより、第1グラフから第N-1グラフまでのN-1個のグラフが生成される(符号112-1から符号112-n-1を参照)。個々のグラフは折れ線グラフである。折れ線グラフに代えて曲線グラフを採用してもよい。
【0053】
具体的には、第1グラフ112-1は、第1順位に対応する複数の点を通るグラフであり、第2グラフ112-2は第2順位に対応する複数の点を通るグラフであり、・・・、第N-1グラフ112-n-1は第N-1順位に対応するグラフである。それらのN-1個のグラフにより第2トレンドチャート114が構成される。第2トレンドチャート114は、比率トレンドチャート、強度関係トレンドチャート、又は、I(Identification ion)/Q(Quantification ion)チャート、とも言い得る。Nの値は、自動的に設定され又はユーザーにより指定される。
【0054】
図7の上段には、図4に示したクロマトグラム66が示され、図4の下段には、第1例に係る第2トレンドチャート116が示されている。
【0055】
第2トレンドチャート116は、図示の例において、5つのグラフ116a,116b,116c,116d,116eにより構成される。保持時間軸に沿って、5つのグラフ116a,116b,116c,116d,116eが上下に並んで走行している。符号118A,118B,118Cは、5つのグラフ116a,116b,116c,116d,116eにおいて概ね平行に走行している安定な部分を示している。特に、それらの部分118A,118B,118Cにおいては、5つのグラフ116a,116b,116c,116d,116eのそれぞれが単調であり、それらの中心又は重心が下方にシフトしている。それらの部分118A,118B,118Cは、クロマトグラム66に含まれる3つのピーク70A,70B,70Cに対応している。
【0056】
すなわち、第2トレンドチャート116において、単調な部分つまり安定している部分は、マススペクトルが安定していることを示しており、つまり成分が抽出されている期間に相当すると考えられる。例えば、第2トレンドチャート116において、符号122、124で示す部分は不安定であり、それは、マススペクトルの形態が安定していないことを示している。そのような期間において、クロマトグラムにピークが含まれていたとしても、それはノイズである可能性が高い。
【0057】
第2トレンドチャート116においては、複数のグラフ116a,116b,116c,116d,116eの相互間の接触の可能性はあるものの、それらの交差は生じないので、その内容を観察し易いという利点を得られる。
【0058】
図8の上段には、図5に示したクロマトグラム102が示されており、図8の下段には、第2例に係る第2トレンドチャート124が示されている。第2トレンドチャート124には、下側に偏移した単調な部分126,128が含まれる。それらの部分126,128は、クロマトグラム102に含まれるピーク94,98に対応している。例えば、5つのグラフ116a,116b,116c,116d,116eのばらつきや平均レベル等から、単調な部分126,128が決定されてもよい。
【0059】
図9の上段には、保持時間(測定時間)の全体にわたるクロマトグラム132が示されている。図9の下段には、第3例に係る第2トレンドチャート134が示されている。それも保持時間の全体に対応している。
【0060】
第2トレンドチャート134は、10本のグラフにより構成されており、つまり上記Nは11である。第2トレンドチャート134において、Nの値を大きくしていくと、グラフ集合体の下縁が下方に下がっていく。具体的には、Nの値を大きくしていくと、N-1番目のピークの強度が基準強度に対してより小さくなり、N-1番目のピークから演算された比率が0により近付いていく。
【0061】
第2トレンドチャート134において、複数の谷138が存在しており、それらはクロマトグラム132に含まれる複数のピーク136に対応している。例えば、クロマトグラム132において、第2トレンドチャート134における谷139に対応する位置には明確なピークが認められないが、クロマトグラム132に対する横軸方向及び縦軸方向の拡大により、谷139に対応するピークを発見できる可能性が高い。
【0062】
以上のように、第2トレンドチャートによれば、マススペクトルの時間的変化又は各時点での様子を分かり易く表現することが可能であり、第2トレンドチャートを通じてマススペクトルが安定している期間を比較的に容易に特定することが可能である。これにより、クロマトグラムに含まれる各ピークが化合物に由来するものであるか否かを容易に判定することが可能である。
【0063】
図10には、マススペクトルの安定を判定するためのアルゴリズムが示されている。スペクトル列140に基づいて第1トレンドチャート142が生成され、また、スペクトル列140に基づいて第2トレンドチャート144が生成される。第1トレンドチャート142の内で、第1安定判定条件146を満たす部分が第1安定期間として判定される。同様に、第2トレンドチャート144の内で、第2安定判定条件148を満たす部分が第2安定期間として判定される。総合判定150では、第1安定期間及び第2安定期間に基づいて、最終的な安定期間が判断される。その場合には、AND条件が適用されてもよいし、OR条件が適用されてもよい。なお、一方の安定期間のみを採用してもよい。
【0064】
第1安定判定条件に関し、例えば、保持時間軸上で並ぶk個のマススペクトルにわたって上位M個のm/zの並びが同一である場合に、安定を判定してもよい。マススペクトルが安定していても、強度がほぼ等しい2つの代表ピーク間で、それらの順位が入れ替わる可能性もある。それを考慮し、上位M個のm/z中の所定割合数で一致が認められた場合に、安定を判定してもよい。あるいは、並び(順列)の一致ではなく、組み合わせの一致に基づいて、安定を判定してもよい。上記kについて上限を設定してもよい。一致回数が上限に達した場合には安定判定を終了させることにより、同じ成分が出続けているような場合にそれを判定対象から除外し得る。
【0065】
図11の上段には第3例に係るクロマトグラム152が示され、図11の下段には第3例に係る第1トレンドチャート154が示されている。クロマトグラム152にはピーク156が含まれる。第1トレンドチャート154において、ピーク156に対応する部分は区間164である。区間164内の中央において、孤立した交差162が生じている。第1判定条件を厳しく設定した場合、交差162が生じた時点において安定が判定されず、分離した2つの区間158,160がそれぞれ安定期間であると判定される。その場合、ピーク156の全体を1つのピーク範囲内であると判断できなくなる。そこで、例えば、第1判定条件として、組み合わせの一致を求めることが考えられる。その場合、交差162があっても、安定を判定し続けることが可能となる。結果として、区間164それ全体を安定期間として定めることが可能となる。
【0066】
図10に示した第2安定判定条件に関し、比率列についての評価値、例えば、相対標準偏差に基づいて、判定を判定してもよい。その場合、注目しているマススペクトルから得られた比率列に加えて、その前後に存在する所定個のマススペクトルから得られた所定個の比率列を参照し、それらの比率列から評価値を求めてもよい。順位ごとに評価値を演算し、複数の評価値を総合考慮して、安定を判定してもよい。第1判定条件及び第2判定条件として様々な条件を採用し得る。
【0067】
第1トレンドチャート及び第2トレンドチャートの一方又は両方に基づいて、自動ピーク検出条件を自動的に設定し、あるいは、自動ピーク検出結果を事後的に評価してもよい。例えば、マススペクトルが安定していない期間をピークサーチ条件から除外してもよい。換言すれば、マススペクトルが安定している期間内において微小ピークの探索を行ってもよい。また、自動ピーク検出によって検出されたピークが安定期間内に属するか否かによって、検出されたピークを、化合物に由来するピークかノイズに相当するピークかを識別してもよい。
【0068】
図12には、第1表示例が示されている。画面166上には、クロマトグラム168、第1トレンドチャート170及び第2トレンドチャート172が表示されている。それらに含まれる3つの保持時間軸は互いに平行であり、3つの保持時間軸上のスケールは同一である。クロマトグラム168上には3つのマーカー174A,174B,174Cが表示されている。3つのマーカー174A,174B,174Cは、総合判定の結果、導き出された3つの安定期間を示すものである。各マーカー174A,174B,174Cは、着色エリアであり、あるいは、ボックス状の図形である。
【0069】
第1トレンドチャート170上には、3つのマーカー176A,176B,176Cが表示されている。3つのマーカー176A,176B,176Cは、第1判定条件により導き出された3つの安定期間を示すものである。各マーカー176A,176B,176Cは、着色エリアであり、あるいは、ボックス状の図形である。
【0070】
第2トレンドチャート172上にも、3つのマーカー178A,178B,178Cが表示されている。3つのマーカー178A,178B,178Cは、第2判定条件により導き出された3つの安定期間を示すものである。各マーカー178A,178B,178Cは、着色エリアであり、あるいは、ボックス状の図形である。個々のマーカーの表示態様としては様々なものを採用し得る。
【0071】
クロマトグラム168の解析に際して、3つのマーカー174A,174B,174Cを参照することにより、各ピークが化合物に由来するピークであるのか否かを容易に評価することが可能である。その際、第1トレンドチャート170の内容及び第2トレンドチャート172の内容を参照してもよいし、また、それらに重畳表示されたマーカー176A,176B,176C,178A,178B,178Cを参照してもよい。
【0072】
なお、クロマトグラム168、及び、安定情報としてのマーカー174A,174B,174Cだけを表示してもよい。
【0073】
図13には、第2表示例が示されている。画面180内には、クロマトグラム182、第1トレンドチャート184及び第2トレンドチャート186に加えて、第1判定条件設定欄190及び第2判定条件設定欄192が含まれる。第1判定条件設定欄190を利用して第1判定条件がユーザーにより設定される。第2判定条件設定欄192を利用して第2判定条件がユーザーにより設定される。
【0074】
更に、画面180内に、マススペクトル188が表示されてもよい。その場合に、指定された時相のマススペクトルが表示されてもよいし、ノイズ成分除去後のマススペクトルが表示されてもよい。例えば、ピーク内の主抽出位置に対応するマススペクトルをAと表現し、ピーク両外側の2つの副抽出位置(2つのノイズ成分位置)に対応する2つのマススペクトルをB及びCと表現した場合、(A-(B+C)/2)で算出されるマススペクトルがノイズ成分除去後のマススペクトルとされる。
【0075】
図14の上段には、保持時間全体に対応するクロマトグラム194が示されている。図14の下段には、クロマトグラム194の一部196の拡大表示が示されている。拡大された一部198において、個々のピーク200-206ごとに安定期間が特定されている。例えば、ピーク200についての安定期間の始期が符号210で示され、その終期が符号212で示されている。各安定期間内に対して、縦軸方向に個別的に拡大率208が定められている。例えば、符号206で示す部分の強度は、クロマトグラム194を参照すればわかるように、非常に小さいが、縦軸方向の拡大率を大きくすることにより、その形態を認識することが可能となっている。安定期間内に属するピークは仮にその強度が小さいものであっても化合物由来のピークである可能性が高い。
【0076】
なお、複数の安定期間の間に非安定期間(ノイズ期間)が存在する場合、非安定期間を除外して複数の安定期間を連結して表示してもよい。その場合においては、保持時間軸上において省略した期間を特定する情報を付加した方がよい。
【0077】
実施形態に係るトレンドチャートの利用形態として様々なものが考えられる。その内で幾つかを以下に説明する。
【0078】
例えば、図15及び図16に示されるように、トレンドチャートに基づいて、クロマトグラムに含まれる複数のピーク間での類似関係(又は同一関係)を判定してもよい。図15の上段には、クロマトグラム214が示され、図15の下段には、第1トレンドチャート216が示されている。図示の例では、第1トレンドチャート216において、安定期間218を代表するm/z列と、安定期間220を代表するm/z列とが一致している(符号222を参照)。クロマトグラム214においては、2つの安定期間を示すマーカー218A,220Aが表示されている。マーカー218A、220Aに対応付けて、それらの近傍に、同一内容を有する2つのラベル226,228が表示される。
【0079】
2つのm/z列の一致(符号222を参照)に従って、同一ラベルを付与する処理が実施される(符号224を参照)。これにより、ユーザーにおいて、2つのピーク間でのマススペクトルの類似性を認識することが可能となる。例えば、上記表示内容から異性体関係を特定し得る。
【0080】
ラベルとして、番号、文字、記号、色相等の様々な表示要素を用い得る。最初からラベルセットを表示し続けると、ラベルセットが目障りとなるのであれば、所定条件が満たされた時点でラベルセットを一時的に表示してもよい。例えば、安定期間やピークがポインタによって指定され又は選択された場合に、ラベルセットが一時的に表示されるようにしてもよい。なお、2つのm/z列の間の類似関係又は同一関係の判定に際しては様々な条件を設定し得る。順序までを含む完全一致を求めてもよいし、順序を問わず組み合わせの一致を求めてもよい。m/z列の比較に加えて、比率列の比較を行ってもよい。
【0081】
図16を用いて具体的に説明する。第1トレンドチャート及び第2トレンドチャートに基づいて、符号230で示すように、複数の安定期間が判定される。それらの安定期間については、符号232で示すように、複数の安定期間を代表する複数のm/z列が特定される。符号234で示すように、複数のm/z列の中に類似関係を有するm/z列群が存在するか否かが調査される。類似関係を有するm/z列群が存在する場合、符号236で示すように、それらに対応する複数の安定期間又は複数のピークに対して同一内容を有する複数のラベルが付与される。
【0082】
類似関係の調査に際しては、複数の安定期間を代表する複数の比率列を考慮してもよい。例えば、複数のm/z列に基づく第1段階の調査で特定された複数の安定期間が、更に比率列の類似性の観点から、絞り込まれてもよい。図示の例では、符号238で示すように、第1段階の調査で特定された複数の安定期間を代表する複数の比率列が特定され、符号240で示すように、それらについて個別的に評価値が演算される。つまり評価値群が演算される。評価値群に基づいて、第1段階の調査で特定された複数の安定期間の内で、類似関係を認める複数の安定期間が判定される。つまり、第1段階の調査結果に対して第2段階の調査が適用される。類似関係が認められた複数の安定期間に対して同一内容を有する複数のラベルが付与される。それを参照することにより、クロマトグラム中に含まれる特定の複数のピークの相互関係を認識することが可能となる。
【0083】
上記評価値として、比較対象となった2つの比率列の間で相関係数を演算してもよい。その場合、相関係数が優良条件を満たす場合に類似を判定してもよい。また、上記評価値として、比較対象となった2つの比率列の間で順位ごとに差分を演算してもよい。その場合、各差分が閾値以下である場合に類似を判定してもよい。
【0084】
第1トレンドチャート(又は第2トレンドチャート)に基づいて、マススペクトル抽出位置が補正されてもよい。これについて以下に説明する。
【0085】
なお、ピークを代表するマススペクトルを抽出する位置を主抽出位置と表現し、ピークの両側に定められるノイズ成分を抽出する2つの抽出位置をそれぞれ副抽出位置と表現する。主抽出において上記マススペクトルAが抽出され、2つの副抽出位置において上記マススペクトルB,Cが抽出される。
【0086】
図17の上段には、クロマトグラム244が示されており、図17の下段には、第1トレンドチャート246が示されている。一般に、クロマトグラム244に含まれるピーク248のピークトップの位置252が主抽出位置として特定され、その位置252に基づいてマススペクトル列からマススペクトルAが抽出される。また、ピーク248についてはピーク期間250が特定され、その両端の位置254,256がそれぞれ副抽出位置とされる。2つの副抽出位置に基づいてマススペクトル列からマススペクトルB,Cが抽出される。以下のように、それらの位置252,254,256の内の一部又は全部が安定期間に基づいて補正され得る。
【0087】
具体的に説明すると、第1トレンドチャートに1つの安定期間のみが含まれる場合、安定期間内に主抽出位置が定められる。同様に、安定期間を避けて2つの副抽出位置が定められる。第1トレンドチャートに複数の安定期間が含まれる場合も基本的に同様である。
【0088】
例えば、図17中の第1トレンドチャート246においては、2つの安定期間258,260が判定されている。ピーク期間250と2つの安定期間258,260の重複期間が符号262,264で示されている。2つの安定期間258,260の内で、大きい方の安定期間260が優先され、その安定期間260の中で、最も大きなTICとなる位置265が特定され、その位置265が、補正された主抽出位置とされる。ピークトップの位置252ではなく、そこからシフトした位置265が主抽出位置とされる。
【0089】
2つの副抽出位置は、通常、位置254及び位置256であるが、それらが補正されてもよい。例えば、安定期間262の手前側(左側)の位置が第1の副抽出位置とされてもよいし、安定期間264の奥側(右側)の位置が第2の副抽出位置とされてもよい。
【0090】
図18に示す例では、クロマトグラム266において、ピーク期間が符号270で示されている。その両端の位置が符号274,276で示されている。第1トレンドチャート268において、安定期間が符号272で示されている。図示の例においては、安定期間272の手前側の位置274Aが第1の副抽出位置とされ、安定期間272の奥側の位置276Aが第2の副抽出位置とされる。
【0091】
クロマトグラムにおいて、複数のサブピークが重なって1つのピークとして見えている場合に、代表値列又は安定期間を利用して、複数のサブピークを分離してもよい。複数のサンプルから得られた複数のクロマトグラムを相互に比較する場合において、複数のトレンドチャートから求められる複数の代表値列を比較してもよい。その比較結果から、複数のクロマトグラム間において、同一性又は類似性を有する複数のピークが特定されてもよい。
【0092】
上記実施形態においては、代表ピークから求められるm/zを第1代表値とし、また、代表ピーク間の強度比を第2代表値としたが、代表ピークから求められる他の情報を代表値としてもよい。例えば、代表ピーク強度の時間的変化、代表ピーク間の面積比、等を代表値としてもよい。
【符号の説明】
【0093】
10 質量分析システム、12 測定部、14 情報処理装置、16 ガスクロマトグラフ、18 質量分析装置、28 スペクトル生成部、34 TICC生成部、36 第1トレンドチャート生成部、38 第2トレンドチャート生成部、40 チャート解析部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18