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特開2022-62536接合構造及び接合方法並びにケース及び樹脂部材の製造方法
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  • 特開-接合構造及び接合方法並びにケース及び樹脂部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062536
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】接合構造及び接合方法並びにケース及び樹脂部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 85/86 20060101AFI20220413BHJP
   F16J 15/14 20060101ALI20220413BHJP
   C23C 14/20 20060101ALI20220413BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
B65D85/86 100
F16J15/14 D
C23C14/20
C23C14/34 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170616
(22)【出願日】2020-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098420
【弁理士】
【氏名又は名称】加古 宗男
(72)【発明者】
【氏名】森 清貴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
【テーマコード(参考)】
3E096
4K029
【Fターム(参考)】
3E096BA08
3E096BB08
3E096CA02
3E096CB03
3E096DA17
3E096EA06X
3E096FA01
3E096FA22
3E096GA01
4K029AA11
4K029AA26
4K029BA03
4K029BA26
4K029BB03
4K029CA05
4K029DA03
4K029DC34
4K029DC35
4K029DC39
4K029EA01
4K029EA08
4K029HA05
(57)【要約】
【課題】樹脂部材と金属部材とをシール材を介して接合する構造を改良する。
【解決手段】樹脂部材(12,14)の接合面(12a,14a)と金属部材(11)の接合面(11a,13a)とをシール材(17)を介して接合する接合構造において、前記樹脂部材の接合面の少なくとも一部には、膜厚0.05μm以上1μm以下(より好ましくは膜厚0.05μm以上0,2μm以下)の金属膜(15,16)がスパッタリングにより形成されている。金属膜を成膜するスパッタリング工程において、金属膜の成膜温度を30℃以上150℃以下に設定する。シール材としては、液状ガスケット(FIPG)を用いれば良い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部材の接合面と金属部材の接合面とをシール材を介して接合する接合構造において、
前記樹脂部材の接合面の少なくとも一部には、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜がスパッタリングにより形成されていることを特徴とする接合構造。
【請求項2】
前記金属膜の膜厚は、0.05μm以上0.2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記シール材は、液状ガスケットであることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項4】
樹脂部材の接合面と、金属部材の接合面とをシール材を介して接合するケースにおいて、
前記樹脂部材は、電子ユニットを収容するためにケース状に形成され、その開口縁部全周に亘って連続して接合面が形成され、
前記樹脂部材の接合面の全周に亘って膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜がスパッタリングにより連続して形成されていることを特徴とするケース。
【請求項5】
樹脂部材の接合面と金属部材の接合面とをシール材を介して接合する接合方法において、
前記樹脂部材の接合面の少なくとも一部に、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜をスパッタリングにより形成するスパッタリング工程と、
その後、前記樹脂部材の接合面と前記金属部材の接合面とをシール材を介して接合する接合工程と
を含むことを特徴とする接合方法。
【請求項6】
前記スパッタリング工程において、前記金属膜の膜厚を0.05μm以上0.2μm以下に形成することを特徴とする請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
前記スパッタリング工程において、前記金属膜の成膜温度を30℃以上150℃以下にすることを特徴とする請求項5又は6に記載の接合方法。
【請求項8】
前記接合工程において、前記シール材として液状ガスケットを使用することを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の接合方法。
【請求項9】
金属部材とシール材を介して接合するための接合面を有する樹脂部材の製造方法において、
樹脂を所定形状に成形して前記接合面を有する前記樹脂部材を形成する成形工程と、
その後、前記接合面の少なくとも一部に、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜をスパッタリングにより形成するスパッタリング工程と
を含むことを特徴とする樹脂部材の製造方法。
【請求項10】
前記成形工程において、前記樹脂部材内に電子ユニットを収容するために前記樹脂部材をケース状に成形して、その開口縁部全周に亘って連続して前記接合面を形成し、
前記スパッタリング工程において、前記金属膜を前記接合面の全周に亘って連続して形成することを特徴とする請求項9に記載の樹脂部材の製造方法。
【請求項11】
金属部材とシール材を介して接合するための接合面を有する樹脂部材の製造方法において、
前記接合面を有する所定形状に成形された前記樹脂部材を入手する工程と、
入手した前記樹脂部材の前記接合面の少なくとも一部に、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜をスパッタリングにより形成するスパッタリング工程と
を含むことを特徴とする樹脂部材の製造方法。
【請求項12】
前記スパッタリング工程において、前記金属膜の成膜温度を30℃以上150℃以下にすることを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の樹脂部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材と金属部材とをシール材を介して接合する接合構造及び接合方法並びにケース及び樹脂部材の製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1(特許第5278443号公報)には、エンジンの金属製のシリンダブロックおよびシリンダヘッドと樹脂製のタイミングチェーンカバーとを接合してシールする場合に、予めタイミングチェーンカバーの接合面に対しプラズマ処理を施した上で、このタイミングチェーンカバーの接合面に金属溶射膜を形成し、更に、この金属溶射膜の表面に対しプラズマ処理を施した上で、この金属溶射膜上にペースト状ガスケットを塗布して、タイミングチェーンカバーをシリンダブロックおよびシリンダヘッドに接合してシールすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5278443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の構造では、タイミングチェーンカバーの接合面に金属溶射膜を形成する前に、両者の接着力を高めるために、タイミングチェーンカバーの接合面にプラズマ処理を施し、更に、金属溶射膜を形成した後にも当該金属溶射膜の表面にプラズマ処理を施す必要がある。このため、工程数が増えて生産性が低下するだけでなく、プラズマ処理を施す装置も必要となり、設備コストも増えるという欠点がある。かといって、タイミングチェーンカバーの接合面にプラズマ処理を施さずに金属溶射膜を形成したり、金属溶射膜の表面にプラズマ処理を施さずにペースト状ガスケットを塗布すると、接着力が弱くなって剥離等の問題が発生しやすくなる。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、工程数の削減と設備コストの低減を可能にしながら樹脂部材と金属部材との接合力を強くできる接合構造及び接合方法並びにケース及び樹脂部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、樹脂部材の接合面と金属部材の接合面とをシール材を介して接合する接合構造において、前記樹脂部材の接合面の少なくとも一部には、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜がスパッタリングにより形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
この接合構造では、樹脂部材の接合面の少なくとも一部に、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜がスパッタリングにより形成されているため、樹脂部材の接合面に形成した金属膜がシール材を介して樹脂部材と金属部材との接合力を強くする役割を果たす。この場合、樹脂部材の接合面に形成する金属膜はスパッタリングにより形成するため、前記特許文献1の金属溶射膜とは異なり、樹脂部材の接合面にプラズマ処理を施さずに金属膜を形成しても、樹脂部材の接合面と金属膜との接着力を確保できる。しかも、スパッタリングにより高純度の金属膜を形成できるため、前記特許文献1の金属溶射膜とは異なり、金属膜の表面にプラズマ処理を施さずに金属膜の表面にシール材を塗布しても、金属膜に対するシール材の接着力を弱めることがなく、接着力を確保できる。更に、金属膜の膜厚を0.05μm以上1μm以下としているため、金属膜としての接着力増強の効果と樹脂部材の接合面からの金属膜の剥離防止の効果を確保できる。これは、金属膜の膜厚が0.05μm未満になると、金属膜の膜厚が薄くなり過ぎて金属膜としてのシール材との接着力の増強効果が不足するためであり、一方、金属膜の膜厚が1μmより厚くなると、金属膜の全応力(=内部応力×膜厚)が大きくなり過ぎて、樹脂部材と金属膜との熱膨張係数の差による金属膜の剥離等の問題が発生しやすくなるためである。
【0008】
この場合、金属膜の膜厚を0.05μm以上0.2μm以下にすれば、金属膜の全応力を適度に小さくすることができるため、樹脂部材と金属膜との熱膨張係数の差による金属膜の剥離等の問題を効果的に回避できる。
【0009】
更に、シール材として液状ガスケット(FIPG)を用いれば、接着力と共にシール性も十分に確保できる。
【0010】
この場合、金属膜は、樹脂部材の接合面の一部のみに形成しても良いが、例えば、樹脂部材が電子ユニットを収容するためにケース状に形成されている場合には、その開口縁部全周に亘って連続して接合面を形成し、その接合面の全周に亘って連続して金属膜を形成するようにしても良い。このようにすれば、電子ユニットを収容した樹脂部材と金属部材との間のシール性も十分に確保できる。
【0011】
また、金属膜を成膜するスパッタリング工程において、金属膜の成膜温度を30℃以上150℃以下に設定すると良い。金属膜の成膜温度を150℃以下に設定することで、金属膜の膜厚を1μm以下に形成しやすくなると共に、熱応力を小さくすることができ、金属膜の剥離等の問題をより効果的に回避できる。また、金属膜の成膜温度を30℃以上にすることで、成膜不良を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の一実施例における金属ケースと樹脂蓋体とを接合した状態を示す縦断面図である。
図2図2は金属ケースから樹脂蓋体と樹脂キャップを取り外した状態(スパッタリング工程前の状態)を示す外観斜視図である。
図3図3はスパッタリングで金属膜を形成した樹脂蓋体を示す外観斜視図である。
図4図4はスパッタリングで金属膜を形成した樹脂キャップを示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を電子ユニット収容ケース10に適用して具体化した一実施例を説明する。
図1及び図2に示すように、本実施例の電子ユニット収容ケース10は、例えば車載電装品であるパワーコントロールユニット等の電子ユニット(図示せず)を収容するためにケース状に形成された金属部材である金属ケース11と、この金属ケース11の上面開口部に被せられる樹脂部材である樹脂蓋体12と、金属ケース11の側面に形成された配線用、ドレイン用等の貫通孔13に被せられる樹脂部材である樹脂キャップ14等の部品から構成されている。
【0014】
ここで、金属ケース11は、例えば、アルミニウム、SUS、鉄、銅等の金属で形成されている。一方、樹脂蓋体12と樹脂キャップ14は、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプロピレン、ポリアミド等の樹脂で所定形状に成形されている。この金属ケース11と樹脂蓋体12や、金属ケース11と樹脂キャップ14は、温度差が生じた際にも両者を密着させることができるように線膨張係数が近い材料で形成すると良い。
【0015】
次に、金属ケース11に対して樹脂蓋体12と樹脂キャップ14を接合する構造を説明する。
図2に示すように、金属ケース11の上面開口縁部全周に亘って連続して接合面11aが平面の四角枠状に形成されていると共に、金属ケース11の側面の貫通孔13の開口縁部全周に亘って連続して接合面13aが円環状に形成されている。
【0016】
一方、図3に示すように、樹脂蓋体12の接合側の面(下面)には、金属ケース11の接合面11aと同じ形状の接合面12aが形成されている。図4に示すように、樹脂キャップ14の接合側の面には、金属ケース11の貫通孔13の周囲の接合面13aと同じ形状の接合面14aが形成されている。
【0017】
そして、樹脂蓋体12の接合面12aと樹脂キャップ14の接合面14aには、それぞれ接合面12a,14aの全周に亘って連続して膜厚0.05μm以上1μm以下(より好ましくは膜厚0.05μm以上0,2μm以下)の金属膜15,16がスパッタリングにより形成されている。金属膜15,16の幅W(図3図4参照)は、接合面12a,14aの幅と同一であっても良いし、それよりも少し狭くても良い。金属膜15,16は、例えば、アルミニウム、SUS等の金属で形成されている。
【0018】
金属ケース11に対して樹脂蓋体12と樹脂キャップ14を接合するシール材17としては、シリコン系の液状ガスケット(Formed In Place Gasket:FIPG)が使用されている。このシール材17(液状ガスケット)は、樹脂蓋体12と樹脂キャップ14の接合面12a,14aに形成した金属膜15,16の表面に塗布した後に弾性を有する状態で固まって接着力を発揮する。従って、樹脂蓋体12と樹脂キャップ14の接合面12a,14aに形成した金属膜15,16の表面にシール材17を塗布した後に、そのシール材17が固まる前に、金属ケース11の接合面11a,13aに樹脂蓋体12と樹脂キャップ14を被せて、金属膜15,16表面のシール材17を金属ケース11の接合面11a,13aに十分に密着させた状態にしてシール材17を固まらせることで、樹脂蓋体12と樹脂キャップ14を金属ケース11に接合して金属ケース11の開口部と貫通孔13をシールするものである。樹脂蓋体12と樹脂キャップ14の接合面12a,14aは、平面であっても良いし、シール材17との接着強度を高めるために、細かな段差や凹凸のある非平面であっても良い。
【0019】
金属膜15,16を成膜するスパッタリング工程では、例えば、マグネトロンスパッタリング法、2極スパッタリング法、DC(直流)スパッタリング法、RF(高周波)スパッタリング法、反応性スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等のいずれかの方法を使用すれば良い。
【0020】
スパッタリングを行う前に、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)以外の部分は、マスキングして、接合面12a(14a)のみに金属膜15(16)が成膜されるようにする。マスキングに使用する部材は、耐熱性があり、真空にも耐え得る材質のテープやプレートを用いると良く、例えば、カプトン(登録商標)粘着テープを用いると良い。スパッタリングは、溶射に比べて小さい面積にも金属膜15(16)を成膜することができる利点がある。
【0021】
また、スパッタリング中に、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)の表面最高温度(成膜温度)を測定するために、色が変化する温度が異なる複数枚の温度測定シールを接合面12a(14a)の複数箇所に貼り付けて、複数枚の温度測定シールのうちの色が変化したシールにより温度を測定する。この際、複数枚の温度測定シールは、色が変化する温度が所定温度(例えば10℃)ずつ異なるようにすれば良い。この成膜温度の測定は、生産開始前のテスト生産の段階で行って、スパッタリング装置の運転条件を成膜温度が適正温度範囲である30℃~150℃の範囲内に収まるように調整して実際の生産を開始するようにすれば良い。
【0022】
例えば、膜厚が0.2μmの金属膜15(16)を成膜する場合には、スパッタリング装置の電力が10kWで、成膜時間が14秒、接合面12a(14a)の表面温度が50℃~60℃となるようにすれば良い。スパッタリングにより、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)に膜厚0.05μm以上の金属膜15(16)を容易に成膜することができる。
【0023】
また、金属膜15(16)の膜厚が厚くなり過ぎると、金属膜15(16)の全応力が大きくなり過ぎて樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)から金属膜15(16)が剥離しやすくなるため、金属膜15(16)の膜厚を1μm以下にすると良い。これにより、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)から金属膜15(16)が剥離し難くなる。
【0024】
参考までに、金属膜15(16)の全応力は、下記の[1]式で算出されることから明らかなように、膜厚に比例して大きくなり、全応力が大きいほど、金属膜15(16)が剥離しやすくなるという性質がある。
【0025】
全応力=内部応力×膜厚 ……[1]
内部応力=熱応力+真応力 ……[2]
ここで、真応力は樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)にかかる応力であり、スパッタリングと溶射とは同じ大きさである。
【0026】
熱応力は次の[3]式で算出される。
熱応力=Ef・Δα・ΔT/(1-vf) ……[3]
ここで、Efは金属膜15(16)のヤング率である。
【0027】
Δαは金属膜15(16)と樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の熱膨張係数の差である。従って、熱応力を小さくするためには、金属膜15(16)と樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)は、両者の熱膨張係数の差が小さい材料で形成すれば良い。
【0028】
ΔTは成膜温度と室温の温度差である。スパッタリングは溶射に比べて成膜温度が低いため、スパッタリングは溶射に比べてΔTが小さい。溶射の成膜温度は最高300℃であるのに対し、スパッタリングの成膜温度は30℃~150℃である。
【0029】
vfは金属膜15(16)のポアソン比である。スパッタリングで用いる金属と溶射で用いる金属が同じであれば、vfはスパッタリングと溶射で同じ大きさである。
【0030】
従って、上記[1]式で算出される金属膜15(16)の全応力を適正範囲内に収めて金属膜15(16)が剥離し難くするためには、金属膜15(16)と樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)は、両者の熱膨張係数の差が小さい材料で形成することが好ましく、且つ、金属膜15(16)の膜厚を0.05μm以上1μm以下にすると共に、成膜温度を30℃以上150℃以下にすることが好ましい。
【0031】
以上説明した電子ユニット収容ケース10を製造する場合、樹脂を所定形状に成形して接合面12a(14a)を有する樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)を形成する成形工程と、その後、前記接合面12a(14a)の少なくとも一部に、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜15(16)をスパッタリングにより形成するスパッタリング工程とを自社の工場で行うようにしても良いし、他社で成形した樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)を購入等により入手して、自社で、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)の少なくとも一部に、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜15(16)を形成するスパッタリング工程のみを行うようにしても良い。
【0032】
また、金属ケース11を製造する工程及び/又は樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)と金属ケース11とをシール材17を介して接合する工程についても、自社で行っても良いし、他社で行っても良い。
【0033】
以上説明した本実施例によれば、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)と金属ケース11の接合面11a(13a)とをシール材17を介して接合する接合構造において、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)の少なくとも一部に、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜15(16)がスパッタリングにより形成されているため、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)に形成した金属膜15(16)がシール材17を介して樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)と金属ケース11との接合力を強くする役割を果たす。
【0034】
この場合、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)に形成する金属膜15(16)はスパッタリングにより形成するため、前記特許文献1の金属溶射膜とは異なり、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)にプラズマ処理を施さずに金属膜15(16)を形成しても、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)と金属膜15(16)との接着力を確保できる。しかも、スパッタリングにより高純度の金属膜15(16)を形成できるため、前記特許文献1の金属溶射膜とは異なり、金属膜15(16)の表面にプラズマ処理を施さずに金属膜15(16)の表面にシール材17を塗布しても、金属膜15(16)に対するシール材17の接着力を弱めることがなく、接着力を確保できる。
【0035】
更に、金属膜15(16)の膜厚を0.05μm以上1μm以下としているため、金属膜15(16)としての接着力増強の効果と樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)からの金属膜15(16)の剥離防止の効果を確保できる。これは、金属膜15(16)の膜厚が0.05μm未満になると、金属膜15(16)の膜厚が薄くなり過ぎて金属膜15(16)としてのシール材17との接着力の増強効果が不足するためであり、一方、金属膜15(16)の膜厚が1μmより厚くなると、金属膜15(16)の全応力が大きくなり過ぎて、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)と金属膜15(16)との熱膨張係数の差による金属膜15(16)の剥離等の問題が発生しやすくなるためである。
【0036】
この場合、金属膜15(16)の膜厚を0.2μm以下にすれば、金属膜15(16)の全応力を適度に小さくすることができるため、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)と金属膜15(16)との熱膨張係数の差による金属膜15(16)の剥離等の問題をより確実に回避できる。
【0037】
また、本実施例では、金属膜15(16)を成膜するスパッタリング工程において、金属膜15(16)の成膜温度を150℃以下に設定したので、金属膜15(16)の膜厚を1μm以下に形成しやすくなると共に、熱応力を小さくすることができ、金属膜15(16)の剥離等の問題をより確実に回避できる。
【0038】
尚、本実施例では、樹脂蓋体12(樹脂キャップ14)の接合面12a(14a)の全周に亘って連続して金属膜15(16)をスパッタリングにより形成するようにしたが、接合面12a(14a)に間欠的に金属膜をスパッタリングにより形成するようにしても良い。
【0039】
また、本実施例では、ケースを金属で形成し、それに被せる蓋(キャップ)を樹脂で形成したが、これとは反対に、ケースを樹脂で形成し、それに被せる蓋(キャップ)を金属で形成した構成としても良く、この場合には、樹脂ケースの接合面の少なくとも一部に、膜厚0.05μm以上1μm以下の金属膜をスパッタリングにより形成した後、樹脂ケースと金属蓋(金属キャップ)とをシール材を介して接合すれば良い。
【0040】
その他、本発明は、電子ユニットを収容するケースに限定されず、電子ユニット以外のものを収容するケースであっても良く、更に言えば、ケースに限定されず、ケース以外の形状であっても良い。要は、樹脂部材と金属部材とをシール材を介して接合する構造であれば、ケース以外の形状のものであっても本発明を適用して実施できる。
【符号の説明】
【0041】
10…電子ユニット収容ケース、11…金属ケース(金属部材)、11a…接合面、12…樹脂蓋体(樹脂部材)、12a…接合面、13…貫通孔、14…樹脂キャップ(樹脂部材)、14a…接合面、15,16…金属膜、17…シール材(液状ガスケット)
図1
図2
図3
図4