(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062580
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】紫外光照射装置及び紫外光照射装置の使用方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20220413BHJP
【FI】
A61L2/10
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170693
(22)【出願日】2020-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB06
4C058EE29
4C058KK02
4C058KK21
4C058KK28
(57)【要約】
【課題】微生物を効果的に不活化できる紫外光照射装置、及び当該紫外光照射装置の使用方法を提供する。
【解決手段】紫外光照射装置は、主たる発光波長が190nm~235nmである紫外光を放射する光源と、前記光源を収容する筐体と、前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、前記紫外光を拡散させる拡散部材と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる発光波長が190nm~235nmである紫外光を放射する光源と、
前記光源を収容する筐体と、
前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、
前記紫外光を拡散させる拡散部材と、
を備えることを特徴とする、微生物を不活化させるための紫外光照射装置。
【請求項2】
190nm~230nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~300nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の紫外光照射装置。
【請求項3】
前記光学フィルタ及び前記拡散部材が前記取出し部に配置され、
前記光学フィルタは、前記光源と前記拡散部材との間に位置することを特徴とする、請求項2に記載の紫外光照射装置。
【請求項4】
前記筐体内に、前記光源より放射された光を反射させる反射部材をさらに備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の紫外光照射装置。
【請求項5】
前記拡散部材は、石英ガラス、フッ素系樹脂、ポリエチレン又はPETを主とする材料で構成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の紫外光照射装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の紫外光照射装置を、出射される紫外光の少なくとも一部が有人空間に向けて照射されるように配置し、前記紫外光照射装置に前記紫外光を照射させる、紫外光照射装置の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光照射装置及び紫外光照射装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、真菌及びウイルス等の微生物は、波長260nm付近に最も高い吸収特性を示すことが知られている。そのため、微生物の存在する物体表面や空間に向けて、波長254nm付近に高い発光スペクトルを示す紫外光を照射し、微生物を不活化させる技術が、従来から知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、紫外光を出射する殺菌ランプを調理場等に取り付けて、調理場の殺菌を行うことが記載されている。また、特許文献2には、室内に浮遊する細菌やウイルスに紫外光を照射して殺菌することが記載されている。
【0004】
加えて、特許文献1や特許文献2に記載の紫外光照射装置は、人体に有害な紫外光を使用している。そのため、紫外光が人体に向かわないように、出射する紫外光に指向性を持たせるなどの対策をとっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63-187221号公報
【特許文献2】特開2017-018442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、細菌、真菌及びウイルス等の微生物は、特に、人体の表面(例えば、皮膚や髪の毛)や、人が頻繁に接触する物体表面(例えば、家具や事務機器)、又は人体近傍の空間に多い。
【0007】
人体に有害な紫外光を照射することの危険性から、従来の紫外光照射装置では、人体の表面、人が頻繁に接触する物体表面、及び人体近傍の空間など、微生物を最も不活化させるべき肝心の場所に向けて、紫外光を照射することができなかった。よって、従来の紫外光照射装置は、微生物の不活化に限界があった。
【0008】
本発明は、人体に対する安全性を確保しつつ、微生物を効果的に不活化できる紫外光照射装置、及び当該紫外光照射装置の使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
紫外光は全ての波長帯域において人体に対する有害性を示すわけではない。240nm以上のUVC波はヒト細胞に対する有害性が報告されているが、それよりも波長帯が短い紫外光は、ヒト細胞に対する貫通力が小さくなるため、人体に対する有害性が極めて低くなる。そこで、本発明者は、人体に対する有害性を抑制しつつ、微生物を不活化するため、主たる発光波長が190nm~235nmの紫外光を使用することに着眼した。
【0010】
本発明の紫外光照射装置は、
主たる発光波長が190nm~235nmである紫外光を放射する光源と、
前記光源を収容する筐体と、
前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、
前記紫外光を拡散させる拡散部材と、を備える。
【0011】
この紫外光照射装置は、人体に対して有害とされる240nm以上の波長帯域の紫外光が抑制されているため、拡散部材を使用して紫外光の配光角を拡大できる。その結果、微生物を不活化させたい場所(人体の表面、人が頻繁に接触する物体表面、人体近傍の空間、または人が不在の空間を含む)に対して、広範囲にムラなく(ムラを小さく)紫外光を照射できる。よって、人体に対する安全性を確保しつつ、微生物を効果的に不活化できる。
【0012】
本明細書において、微生物とは、原核生物である細菌類、及び真核生物であるカビ等の真菌類など細胞構造を有する原生生物全般と、細胞構造を有しないゲノムとしてDNA又はRNAの核酸を有するウイルスと、を含むものである。
【0013】
本明細書において、不活化とは、原生生物の場合、細胞内のDNAもしくは酵素(タンパク質)又は細胞膜を破壊すること等により死滅させること、又は細胞の増殖機能を取り除くことのいずれかを指す。不活化とは、ウイルスの場合、DNA又はRNAを破壊することにより、細胞への感染力を失わせることを指す。
【0014】
本明細書において「主たる発光波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。例えばKrCl、KrBr、ArFを含む発光ガスが封入されているエキシマランプなどのように、半値幅が極めて狭く、且つ、特定の波長においてのみ光強度を示す光源においては、通常は、相対強度が最も高い波長(主たるピーク波長)をもって、主たる発光波長として構わない。
【0015】
前記紫外光照射装置は、190nm以上かつ230nm以下の波長帯域の紫外光を透過し、240nm~300nmの波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタをさらに備えても構わない。人体に対して影響を及ぼすおそれのある、240nm~300nmの波長帯域の紫外光を透過させないことで、人体に対する安全性が向上する。
【0016】
前記光学フィルタ及び前記拡散部材が前記取出し部に配置され、前記光学フィルタは、前記光源と前記拡散部材との間に位置しても構わない。
【0017】
前記紫外光照射装置は、前記筐体内に、前記光源より放射された光を反射させる反射部材をさらに備えても構わない。これにより、紫外光照射装置から出射される光の照度を高める。
【0018】
前記拡散部材は、石英ガラス、フッ素系樹脂、ポリエチレン又はPETを主とする材料で構成されていても構わない。
【0019】
本発明の紫外光照射装置の使用方法は、前記紫外光照射装置を、出射される紫外光の少なくとも一部が有人空間に向けて照射されるように配置し、前記紫外光照射装置に前記紫外光を照射させる。
【発明の効果】
【0020】
微生物を効果的に不活化できる紫外光照射装置、及び当該紫外光照射装置の使用方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】紫外光照射装置の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図2】紫外光照射装置の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図3】紫外光照射装置から光源と電極ブロックのみを取り出して示す斜視図である。
【
図4】紫外光照射装置の、XY平面における断面模式図である。
【
図5】拡散部材による出射光の配光角の拡大作用について説明する図である。
【
図6】発光ガスにKrClが含まれるエキシマランプの発光スペクトルの一例である。
【
図7】光学フィルタの透過スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図8】光学フィルタに対する紫外光の入射角を説明するための模式的な図面である。
【
図9】拡散部材の作用を計測するための計測設備を模式的に示す図である。
【
図10A】光学フィルタを有しない紫外光照射装置における、回転角の変化に対する相対照度を表すグラフである。
【
図10B】光学フィルタを有する紫外光照射装置における、回転角の変化に対する相対照度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
紫外光照射装置の各実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0023】
以下において、各図面は、適宜、XYZ座標系を参照しながら説明される。XYZ座標系は、放射される紫外光の光軸上の光線が進行する方向を+X方向とし、X方向に直交する平面をYZ平面としている。なお、本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0024】
<第一実施形態>
[紫外光照射装置の概要]
図1、
図2及び
図3を参照しながら、本発明の紫外光照射装置の一実施形態を説明する。
図1及び
図2は、紫外光照射装置の外観を模式的に示す斜視図である。
図3は、紫外光照射装置から光源と電極ブロックのみを取り出して示す図である。
【0025】
本実施形態の紫外光照射装置10は、紫外光を放射するエキシマランプ3(
図2又は
図3参照)と、エキシマランプ3を収容する筐体2と、エキシマランプ3より放射された紫外光を、筐体2の外へ+X方向に取り出す取出し部4と、紫外光を拡散させる拡散部材5と、後述する光学フィルタ6と、を有する。
図1及び
図2において、矢印L1は、エキシマランプ3より出射する紫外光の光軸と、光軸上の光線の進行方向を示す。
【0026】
本実施形態において、筐体2は、中央に取出し部4である開口を有する第一枠2aと、開口を有さない第二枠2bと、から構成され、第二枠2bと第一枠2aとが嵌め合わされて、筐体2に囲まれた内部空間が形成される。この内部空間には、エキシマランプ3と、エキシマランプ3に電力を供給する二つの電極ブロック(9a,9b)とが配置されている。
【0027】
二つの電極ブロック(9a,9b)は、第二枠2bの内部空間に接する面に固定されている(
図2、
図3参照)。第二枠2bの外側に接する面には、二つの接続端子(8a,8b)が設けられる。二つの接続端子(8a,8b)は、それぞれ、第二枠2bを挟んで電極ブロック(9a,9b)と導通している。二つの接続端子(8a,8b)には、それぞれ、外部電源(不図示)より給電される給電線(7a,7b)が接続される。なお、二つの電極ブロック(9a,9b)は、導電性の材料(例えば、Al、Al合金、ステンレスなど)から構成される。
【0028】
[光源]
図3を参照しながら、エキシマランプ3の一実施形態を説明する。本実施形態では、エキシマランプ3として、Z方向に離間して配置された3本のエキシマランプ3(3a,3b,3c)を備える。二つの電極ブロック(9a,9b)は、それぞれのエキシマランプ3(3a,3b,3c)の発光管の外表面に接触する。これによりエキシマランプ3は給電され、点灯する。
【0029】
本実施形態において、エキシマランプ3は、発光管の内部にKrClを含む発光ガスが封入されたKrClエキシマランプを使用している。そのため、エキシマランプ3は、主たるピーク波長が190nm~230nmである紫外光を放射する。特に、KrClエキシマランプは、主たるピーク波長が222nm近傍の紫外光を出射する。
【0030】
エキシマランプ3は、KrClエキシマランプに限らない。例えば、発光管の内部にKrBrを含む発光ガスが封入された、KrBrエキシマランプを使用しても構わない。KrBrエキシマランプは、主たるピーク波長が207nm近傍の紫外光を出射する。
【0031】
エキシマランプ3(3a,3b,3c)の発光管の大きさは、管軸方向(Y方向)の長さが15mm以上、200mm以下であり、外径が2mm以上、16mm以下であるとよい。
【0032】
[拡散部材]
図4は、紫外光照射装置10の、XZ平面における断面模式図である。本実施形態の紫外光照射装置10では、取出し部4を構成する開口に、紫外光を拡散させる拡散部材5と光学フィルタ6とが配置されている。なお、「取出し部に配置」とは、拡散部材5又は光学フィルタ6が光取出し面に対して完全に一体化されて配置されている場合の他、拡散部材5又は光学フィルタ6が光取り出し面に対してX方向に微小な距離(例えば数mmから十数mm)だけ離間した位置に配置されている場合を含む。
【0033】
エキシマランプ3(3a,3b,3c)から放射された光は、光学フィルタ6において特定の波長帯域について遮断される。光学フィルタ6の詳細は後述する。光学フィルタ6から出射した光線束F1は拡散部材5で拡散され、光の拡がる角度、すなわち配光角、が大きくなる。
【0034】
図5を参照しながら、拡散部材5の作用である、出射光の配光角の拡大について説明する。
図5において、仮に拡散部材を有していない場合、紫外光照射装置10から紫外光の光線束F2が、光軸(矢印L1)を中心に配光角θ2で出射される。拡散部材5を有している場合、紫外光の光線束F1が配光角θ1で出射される。拡散部材5を有している場合の配光角θ1は、拡散部材を有していない場合の配光角θ2よりも大きくなる。配光角(θ1,θ2)は、光軸を中心に拡がる光線束(F1,F2)の、光軸から最も離れた最外側の対向する光線同士のなす角として定義される。なお、光線束(F1,F2)は、中心である光軸の回りに拡がっており、光軸L1上の光線の輝度に対して1/2以上の輝度を有する光線の束として定義される。
【0035】
紫外光照射装置10は、拡散部材5で出射光の配向角を拡大させることにより、広い範囲に亘って紫外光を照射できる。これにより、微生物を不活化させたい領域を、少数の紫外光照射装置でカバーできるようになり、コスト効果に優れる。
【0036】
次に、拡散部材5のもう一つの作用である、出射光のムラの抑制について説明する。ムラがない(又は、ムラが小さい)ことは、局所的に弱い光を受ける領域が減少するため、不活化効果の小さい領域が減少する。さらに、局所的に強い光を受ける領域が減少するため、より高いレベルでの安全性を確保しつつ、紫外光の照射量の上限の制約を受けにくくする。これについて以下に詳述する。
【0037】
人を含む環境に対する紫外光照射は、その照射量を抑えることが求められる場合がある。例えば、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)、又はJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)では、人体への1日(8時間)あたりの紫外光照射量が、波長ごとに許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)以下となるように、規定されている。
【0038】
上述したように、本発明で使用される出射光の波長は、人体に対する有害性が極めて低い波長であるが、さらに安全性を高めるためには、上述したTLVの規定を満たすように紫外光の照射量を設定することが望ましい。
【0039】
出射光のムラが大きいことは、局所的に強い光を受ける領域と局所的に弱い光を受ける領域との強度差が大きいことを表す。上述したTLVの規定を満たすように紫外光の照射量を設定する場合、局所的に強い光を受ける領域に合わせて設定することが望ましい。そうすると、紫外光照射量の上限の制約を受けやすくなる。
【0040】
反対に、出射光のムラが小さくなると、領域ごとの光の強度差が小さくなって、紫外光照射量の上限の制約を受けにくくなる。よって、紫外光照射装置10は、拡散部材5で出射光のムラを抑制することにより、より高いレベルでの安全性を確保しつつ、紫外光照射量の上限の制約を受けにくくする。
【0041】
さらに高いレベルでの安全性を確保するために、拡散部材5によって紫外光の局所的な最大照度(最も強度の高い光が照射される局所領域での照度)を抑制しても構わない。例えば、拡散部材5の光放射面における紫外光の局所的な最大照度を1mW/cm2以下に抑制するように、拡散部材の材質、厚み、形状等を選定又は調整してもよい。
【0042】
拡散部材5は、紫外光の照射によって微生物を不活化させる観点から、波長190nm~235nmの紫外光に対して透過性を示すものが用いられる。拡散部材5は、190nm~235nmを除く波長の紫外光の透過を抑制するものでも構わない。
【0043】
拡散部材5は、紫外光のみならず、可視光に対して拡散効果を有していてもよい。本発明に記載の紫外光照射装置10は、多様な場所や設備に適用が想定される。仮に、紫外光照射装置10の内部のエキシマランプ3や電極ブロック等が明瞭に識別されると、周囲の景観や設備外観を損なわせる虞がある。しかしながら、可視光に対して拡散効果を有する拡散部材を取出し部4に配置すると、紫外光照射装置10の内部のエキシマランプ3を視認できなくするか、鮮明に見えなくすることを可能にし、周囲の景観や設備外観と調和させつつ、微生物の不活化を行うことができる。
【0044】
拡散部材5の形状や厚みは特に限定されず、例えばフィルム状でも構わないし、板状でも構わない。拡散部材5は、例えば、紫外光を透過する母材の表面に微細な凹凸を設けること、又は、紫外光を透過する母材の内部に、空隙又は屈折率の異なる物質を混在させること、により形成される。微細な凹凸は、エッチング処理又はブラスト処理等により母材の表面を部分的に削り取って形成しても構わないし、母材の表面に樹脂等の粒を部分的に付加して(又は印刷して)形成しても構わない。
【0045】
拡散部材5の材質は、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンもしくはPET等の樹脂、又はPTFE、PFA、PVDFのようなフッ素系樹脂を主とする材料としても構わないし、石英ガラス等のガラスを主とする材料としても構わない。PTFEや石英ガラスは経年劣化を起こしにくい点で、拡散部材5の材質として特に優れている。
【0046】
[光学フィルタ]
光学フィルタ6は、特定の波長帯域の紫外光を遮断する、すなわち、実質的に透過しない、バンドパスフィルタとして機能する。例えば、KrClエキシマランプの場合、
図6に示すように、放射される紫外光のスペクトルには、ほぼ主たるピーク波長である222nm近傍に光出力が集中している一方で、人体に影響を及ぼすおそれのある、波長240nm以上かつ300nm以下の波長帯域の紫外光についても、わずかながら光出力が認められる。本実施形態では、取出し部4を構成する領域に光学フィルタ6を設けることで、240nm以上300nm以下の紫外光を実質的に透過しないようにする。これにより、紫外光照射装置の人体に対する安全性がさらに向上する。
【0047】
本明細書において、「紫外光を実質的に透過しない」とは、波長190nm~235nmの波長帯域におけるピーク波長の紫外線強度に対して、少なくとも5%以下の紫外線強度に抑制されることを意味する。本発明では、光学フィルタを用いることで240nm以上300nm以下の紫外光の強度が、ピーク波長の強度に対して5%以下に遮光される。なお、光学フィルタで遮光させたい波長帯域の光について、光学フィルタを透過した紫外光の強度が、ピーク波長の強度に対して2%以下まで抑制されると、さらに好ましい。
【0048】
ところで、光学フィルタ6には、屈折率の異なる複数の誘電体多層膜で構成されることがあるが、誘電体多層膜で構成されるフィルタは、紫外光の入射角に応じて、透過率が不可避的に変化してしまう。
【0049】
図7は、光学フィルタ6の透過スペクトルの一例を、紫外光が光学フィルタ6に対して入射するときの入射角別に示すグラフである。このグラフの例は、光学フィルタ6は、エキシマランプ3の発光ガスがKrClを含む場合、すなわち、エキシマランプ3が主たるピーク波長222nmの紫外光を発する場合を想定して設計されている。グラフ内の各曲線は、波長を異ならせながら、光学フィルタ6に対して入射した光の強度と、光学フィルタ6から出射された光の強度の比率をプロットして得られる。入射角は、
図8に示すように、光学フィルタ6の入射面に対する法線6Nと、光学フィルタ6の入射面に入射される紫外光L2との角度θ3で定義される。
【0050】
光学フィルタ6は、
図7のグラフから、入射角(角度θ3)の小さい光成分を透過しやすい一方で、入射角の大きい光成分を透過しにくいことがわかる。その結果、光学フィルタ6からの出射光は、光学フィルタ6への入射光に比べて、入射角の小さい光成分の比率が高まり、配光角が小さくなる。別の言い方をすれば、光学フィルタ6は、光の配光角を小さくする。
【0051】
このような事情から、上述した拡散部材5は、配光角を小さくする光学フィルタ6を使用する場合に、特に顕著な効果が得られる。つまり、光学フィルタ6を使用して配光角が小さくなった場合においても、拡散部材5を光学フィルタ6の後段に配置(つまり、光学フィルタ6を、エキシマランプ3と拡散部材5との間に配置)すると、紫外光照射装置10は、大きな配光角を得ることができる。ただし、紫外光照射装置10において、光学フィルタ6は必須の構成でない。
【0052】
[使用方法]
本発明に係る紫外光照射装置の使用態様としては、出射される紫外光が有人空間に向けて照射されるように配置し、紫外光照射装置に紫外光を照射させることができる。有人空間とは、実際に人がいるか否かは問わず、人が立ち入ることのできる空間を意味する。有人空間には、例えば、住宅、事業所、学校、病院もしくは劇場などの建物内の空間、又は、例えば、自動車、バス、電車もしくは飛行機などの乗り物内の空間を含む。取出し部4が有人空間を向くように、紫外光照射装置10を、有人空間に面する天井、壁、柱又は床等に配置する。そして、紫外光照射装置10を点灯させて、有人空間に向けて紫外光を照射する。
【0053】
この使用方法は、従来のように、人体を避けて紫外光を照射する必要が無く、微生物を最も不活化させるべき肝心の場所である、人体の表面(皮膚等)、人が頻繁に接触する物体表面、又は人体近傍の空間を含む、有人空間全体にムラなく(ムラを小さく)紫外光を照射できる。そのため、微生物の不活化を効果的に行うことができる。
【0054】
上記紫外光照射装置を、蛍光灯やLED等の照明設備に内蔵させても構わない。照明設備に内蔵させる場合、紫外光照射装置で使用される上記拡散部材を、照明設備で使用される可視光用の拡散部材と共用しても構わない。
【0055】
以上で、紫外光照射装置及び紫外光照射装置を使用方法の実施形態を説明したが、本発明は上記した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態に種々の変更又は改良を加えることができる。
【0056】
例えば、光源としてエキシマランプ3を使用する例を説明したが、光源としてLD又はLEDで構成される固体光源を使用しても構わない。
【0057】
例えば、主たる発光波長が190nm~230nmである紫外光を放射する光源を使用しても構わない。主たる発光波長の上限が230nmである紫外光は、主たる発光波長の上限が235nmである紫外光よりも、人体に対する安全性がさらに高まる。
【0058】
例えば、主たる発光波長が200nm~230nmである紫外光を放射する光源を使用しても構わない。主たる発光波長の下限が200nmである紫外光は、主たる発光波長の下限が190nmである紫外光よりも、大気中の酸素を分解してオゾンを生成する能力が低い。オゾンの濃度が高い気体は人体に対する有害性を示すため、オゾンの発生を抑制することにより、人体に対する安全性がさらに高まる。
【0059】
例えば、光学フィルタとして、200nm~230nmの波長帯域の紫外光を透過し、240nm~300nmの波長帯域の紫外光に加えて、200nm未満の波長帯域の紫外光を実質的に透過しない光学フィルタを使用しても構わない。200nm未満の波長帯域の紫外光を実質的に透過させないようにすることで、オゾンの発生を抑制し、人体に対する安全性がさらに高まる。
【0060】
例えば、筐体2内に、光源により放射された光を反射させる反射部材を配置しても構わない。反射部材を配置することにより、光源から筐体2の内壁へ向かう光を少なくして、取出し部4へ向かう光を増やし、紫外光照射装置10から出射される光の照度を高める。
【0061】
反射部材の例として、電極ブロック(9a,9b)に、紫外光に対する反射性を示す材料を成膜するか、上記電極ブロック(9a,9b)自体を紫外光に対する反射性を示す材料で構成する。電極ブロック(9a,9b)の表面が反射性を示すと、電極ブロック(9a,9b)は、紫外光を取出し部4へ指向させる反射部材として機能する。また、電極ブロック(9a,9b)とは別体の、より多くの光を取出し部4へ指向させるための反射部材を設けても構わない。
【0062】
上記紫外光照射装置では、拡散部材5が光学フィルタ6に接するように示されているが、拡散部材5は光学フィルタ6と離間するように配置されていても構わない。また、拡散部材5又は光学フィルタ6は、取出し部4を構成する筐体2の開口に配置されるのみならず、筐体2の外側に位置するように配置しても構わない。
【実施例0063】
上記実施形態で示した紫外光照射装置10の実施例について、拡散部材を使用することによる配光角の拡大効果を確認した。紫外光照射装置10の詳細は後述する。
図9に、紫外光照射装置の配光角を計測するための計測設備40を示す。計測設備40は、紫外光照射装置10、紫外光照射装置10を載置するための回転ステージ30、及び照度計31を含む。なお、照度計31には、浜松ホトニクス社製 UV POWER METOR C8026を使用している。
【0064】
計測設備40は、回転ステージ30、回転ステージ30に載置された紫外光照射装置10、及び、紫外光照射装置10から距離d1:300(mm)離れた位置に配置された照度計31を含む。紫外光照射装置10の光軸L1上に照度計31が位置するように、紫外光照射装置10が照度計31に対向配置されるときの、回転ステージ30の位置を初期位置P0とする。回転ステージ30は、初期位置P0から、
図9に示す回転方向Rに回転させる。
図9では、初期位置P0の回転ステージ30及び紫外光照射装置10を点線で示し、回転方向Rに所定時間回転させた後の回転ステージ30及び紫外光照射装置10を実線で示す。
【0065】
紫外光照射装置10の光軸L1と、紫外光照射装置10から照度計31に入射する光線L3との間になす角θ4は、回転角を表す。回転角θ4が0度(deg)である初期位置P0から回転角θ4を大きくして(回転ステージ30を回転させて)、回転角θ4が80度(deg)になるまで、紫外光照射装置10から紫外光照射装置を照射しつつ照度計31で照度を測定した。
【0066】
実施例1では、上述の紫外光照射装置10から、光学フィルタ6を取り除いたものを使用した。比較例1では、上述の紫外光照射装置10から、光学フィルタ6と拡散部材5を取り除いたものを使用した。実施例1と比較例1との間で、拡散部材5の有無以外の紫外光照射装置10の構成に違いはない。実施例2では、上述の紫外光照射装置10と同じものを使用した。つまり、実施例2は、光学フィルタ6と拡散部材5を有する。比較例2では、上述の紫外光照射装置10から、拡散部材5を取り除いたものを使用した。なお、拡散部材5は、0.5mmの厚みを有し、表面に微小な凹凸のあるPTFEシートである。
【0067】
測定した照度結果に基づいて相対照度を求めた。相対照度は、任意の回転角における照度測定値を、回転角0度(deg)における照度測定値で除して求められる。つまり、相対照度とは、光軸方向に進行する光線の照度を1としたときの、任意の角度に進行する光線の照度の相対値である。回転角の変化に対する相対照度を表すグラフを、
図10A及び
図10Bに示した。
【0068】
光学フィルタ6を有していない紫外光照射装置について、
図10Aを参照すると、拡散部材5を有する実施例1は、拡散部材5のない比較例1に比べて、幅広い角度範囲に対して高い相対照度を示している。相対照度が0.50(回転角0度(光軸)における照度の半分の測定照度)となる回転角について、実施例1は、比較例1に対してΔr1(=約4度)分だけ大きい。配光角は、相対照度が0.50となる回転角の2倍で求められることを踏まえると、実施例1は、比較例1に対して配光角が約8度拡大しているといえる。これより、拡散部材5を設けることにより、配光角が拡大したことがわかる。
【0069】
光学フィルタ6を有している紫外光照射装置について、
図10Bを参照すると、拡散部材5を有する実施例2は、拡散部材5のない比較例2に比べて、幅広い角度範囲に対して高い相対照度を示している。相対照度が0.50となる回転角について、実施例2は、比較例2に対してΔr2(=約28度)大きい。配光角は、相対照度が0.50となる回転角の2倍で求められることを踏まえると、実施例2は、比較例2に対して配光角が約56度拡大しているといえる。これより、拡散部材5を設けることにより配光角が拡大したことがわかる。また、実施例1と実施例2とを比較すると、この配光角の拡大は、光学フィルタ6を有している場合に、特に顕著に表れることがわかる。
前記拡散部材は、石英ガラス、フッ素系樹脂、ポリエチレン又はPETを主とする材料で構成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の紫外光照射装置。
請求項1~5のいずれか一項に記載の紫外光照射装置を、出射される紫外光の少なくとも一部が有人空間に向けて照射されるように配置し、前記紫外光照射装置に前記紫外光を照射させる、紫外光照射装置の使用方法。
前記拡散部材は、石英ガラス、フッ素系樹脂、ポリエチレン又はPETを主とする材料で構成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の紫外光照射装置。
請求項1~5のいずれか一項に記載の紫外光照射装置を、出射される紫外光の少なくとも一部が有人空間に向けて照射されるように配置し、前記紫外光照射装置に前記紫外光を照射させる、紫外光照射装置の使用方法。