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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062630
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】船体被覆システム
(51)【国際特許分類】
   B63B 59/04 20060101AFI20220413BHJP
【FI】
B63B59/04 D
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170786
(22)【出願日】2020-10-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】520392591
【氏名又は名称】金子 仁
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 仁
(57)【要約】
【課題】大型船に搭載され、場所と時間を選ばず使用でき、船体に対する生物の付着を低減し、また、大型船の船体に付着している生物を駆除できる手段を提供する。
【解決手段】船体被覆システム1は、船体91の船首部分の上縁部から外側に張り出すように配置されている昇降機構11と、昇降機構11により巻き出し及び巻き上げの行われる複数のロープ12と、複数のロープ12により船体91の外側に吊り下ろされ、船体91の船首部分の一部を被覆するシート13を備える。複数のロープ12は、シート13の上下方向における異なる複数の位置の各々において、水平方向に間をあけてシート13に取り付けられている。シート13は、非使用時にはロープ12の巻き上げにより上下方向に折り畳まれた状態で引き上げられ、昇降機構11が備える収納箱に収納される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の上縁部から外側に張り出すように配置され、下面が開閉可能な箱状部材である収納箱と、
非使用時に上下方向に折り畳まれた状態で前記収納箱に収容され、使用時に前記収納箱から下降され上下方向に展開し船体の一部を被覆するシートと、
上下方向に展開された状態の前記シートの上下方向における複数の位置の各々において、水平方向に間をあけて前記シートに取り付けられている複数のロープと、
前記シートの上下方向における複数の位置の各々に応じて設けられ、対応する前記シートの上下方向における位置において水平方向に間をあけて前記シートに取り付けられている複数のロープに対し、巻き出し及び巻き上げを行う複数のリールと
を備え、
前記シートは、前記複数のリールによる前記複数のロープの巻き上げにより上昇され上下方向に折り畳まれ、前記複数のリールによる前記複数のロープの巻き出しにより上下方向に展開され下降される
船体被覆システム。
【請求項2】
前記シートの上下方向における複数の位置の各々に関し、当該位置において水平方向に間をあけて前記シートに取り付けられている複数のロープの各々の巻き出し及び巻き上げを行う複数のリールは、上から見て弧を描くように甲板上に水平方向に並べて配置され、
上から見て弧を描くように甲板上に水平方向に並べて配置されている複数のリールを自在継手を介して連結するシャフトと、
前記シャフトを回転させる駆動装置と
を備える請求項1に記載の船体被覆システム。
【請求項3】
上下方向に展開された状態の前記シートの右端及び左端の各々に取り付けられ、船首尾方向に引かれて、船体の船首部分又は船尾部分の一部を被覆している前記シートを船体に引き寄せるロープ
を備える請求項1又は2に記載の船体被覆システム。
【請求項4】
甲板上に船体の上縁部に沿って延伸するように設置された軌道と、
前記軌道の上を移動し、前記収納箱、前記シート、前記複数のロープ、及び、前記複数のリールを搬送する台車と
を備える請求項1に記載の船体被覆システム。
【請求項5】
前記シートに回転可能に取り付けられた磁石
を備える請求項1乃至4のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項6】
前記磁石は回転体の表面を外側が同一の極性となるように覆うように配置されている永久磁石である
請求項5に記載の船体被覆システム。
【請求項7】
前記シートに取り付けられた磁石と、
前記シートに取り付けられ、船体上で回転して、磁力により船体に引き寄せられる前記磁石を船体に沿って移動可能とする回転体と
を備える請求項1乃至4のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項8】
前記磁石は電磁石である
請求項5又は7に記載の船体被覆システム。
【請求項9】
上下方向に展開され下降されて船体の一部を被覆している状態の前記シートに囲まれる空間へ船舶の排出口から排出される液体を導く管
を備える請求項1乃至8のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項10】
甲板上に船体の上縁部に沿って延伸するように設置された軌道と、
前記軌道の上を移動する複数の台車と、
前記複数の台車の上に旋回可能に配置された複数のクレーンと、
前記複数のクレーンにより巻き出し及び巻き上げが行われる複数のロープの各々が取り付けられ船体の船底部分の一部を被覆するシートと
を備える船体被覆システム。
【請求項11】
船体の船底部分の一部を被覆する帯状のシートと、
前記シートの長手方向における一方の端部に取り付けられたロープに連結された無人潜水機と
を備える船体被覆システム。
【請求項12】
前記シートの船体に対向する側の面上に取り付けられた紫外線を発生する装置
を備える請求項1乃至11のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項13】
前記シートの船体に対向する側の面上に取り付けられた超音波を発生する装置
を備える請求項1乃至12のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項14】
請求項4に記載の船体被覆システムを第1の船体被覆システムとして備え、
請求項10に記載の船体被覆システムを第2の船体被覆システムとして備え、
前記第2の船体被覆システムが備える前記軌道の少なくとも一部が前記第1の船体被覆システムが備える前記軌道として用いられ、
前記第2の船体被覆システムが備える前記軌道の一部区間が複線となっている
システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に搭載され洋上を移動可能で、船体への生物の付着の低減及び船体に付着している生物の駆除を可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋を航行する船舶の船体には、フジツボ、スライム、プランクトン、細菌等の各種生物が付着する。フジツボのような目視容易な大きさの生物が船体に付着すると、船舶の航行時の抵抗が増加し、所定距離の航行に要する燃料量が増加し、燃料費用の増加及びCO2等の温室効果ガスやNOx等の有害なガスが大気中に排出され、望ましくない。
【0003】
船体に対する生物の付着を低減するための技術として、船体に防汚塗料で塗装を行う技術が広く用いられている。防汚塗料は生物に有害な化学物質を水中に徐々に溶かし出すことで、生物の付着を低減する。従って、防汚塗料の利用には化学物質による海水の汚染が伴う。
【0004】
また、防汚塗料による防汚は完全ではない。塗装の防汚性能ばかりでなく、造船所での塗装の施行時の塗装むら、塗装の計画以上の衰耗、塗装と水中浮遊物による接触による塗装損傷、航走中の船体形状による部分的な塗装剥がれ、塗装の太陽光での劣化、船体複雑部分の塗装施行の不完全さ、船舶の長期停泊などにより、船体には必ずフジツボ等の生物が付着する。
【0005】
また、遠距離を航行する船舶の船体に付着した生物は、船舶の移動先の港湾や海洋で剥がれ落ちたり、放卵したりすることで、移動先の港湾や海洋で繁殖する可能性がある。そのように船舶の移動に伴い長距離を移動した生物が繁殖すると、海洋における生態系が破壊される危険性があり、望ましくない。この問題は、細菌等の微生物に関しても生じ得る。
【0006】
上記のように、現状の塗装による防汚では船体に生物が付着し国境を越えて移動することから、世界中で、船体に付着した生物による環境問題の管理のため入港船の監視要員の増強が行われ、港湾や海洋環境保全のため行政予算が増大している。
【0007】
船体に付着している生物を駆除する防汚塗料以外の技術として、船体をシートで覆って遮光し、さらに船体とシートの間の海水中に薬剤等を投入することで、船体に付着している生物を死滅させる技術が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、船側に沿って複数の幕体をオーバーラップさせて垂らすことで船側を幕体で覆う生物汚損防止装置が記載されている。特許文献1に記載の生物汚損防止装置によれば、船側の海面下部分に複数設けられた排出口から船内で発生する排ガスが幕体と船側の間を通り、効率的に生物の付着の防止及び付着した生物の駆除ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭58-157895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の生物汚損防止装置(以下、「既出願システム」という)には、例えば以下の不都合がある。
【0011】
(1)既出願システムによる場合、船体を外部水から遮断して防汚するためには、船体の全周に1周連続して幕体を配置する必要がある。そうでなければ、幕体が無いところから新海水とともに生物が侵入し、船体へ付着する。既出願システムは、幕体を引き上げるモータ部が船側上部に取り付けられた係止部に引っかけられた状態で動作するため、船体に取り付けられる係止部や船体外板の係止部が取り付けられる部分の強度等の制約を受け、生物汚損防止装置を長大にできない。さらに、船舶が航行する場合、幕体へ風圧や波による力が加わり、係止部等が損傷する危険性がある。
【0012】
(2)既出願システムは、船体の周囲全体を覆う大がかりなシステムである。既出願システムを大型船に適用する場合、多数のモータ部と長大な幕体が必要になる。また、連続した長大な幕体を一同に制御する必要があるが、その制御は容易ではない。また、長大な幕体を駆動するには大きな動力が必要となるため、その駆動に船の動力を利用する場合、船の動力機関を大きくする必要がある。従って、既出願システムは大型船には不向きである。
【0013】
(3)既出願システムのモータ部は船体の係止部に引っかけられている。従って、既出願システムを搭載した船舶が港を離れ、洋上航行を行うと、航海中、強風や青波等の波浪により、モータ部および幕体が脱落する危険性がある。モータ部が脱落した場合、船体が損傷を受ける危険性がある。また、幕体が脱落した場合、幕体により運航が阻害される危険性がある。
【0014】
(4)既出願システムを大型船に適用する場合、モータ部及び幕体が外気に暴露されているので船舶が航走すると船舶の風圧抵抗が増す。また、既出願システムにおいては、係止部に引っかけられているモータ部及び幕体が航海中の船体動揺により動揺し、船体と接触し、船体を損傷させる危険性がある。特に、幕体が動揺すると、幕体の硬い骨材や骨材ガイド部材が船体に当たり、船体塗装に損傷を与える。さらに、幕体は互いにオーバーラップしているので、船の振動や動揺、風等によりオーバーラップの状態が崩れ、それらが絡み合う危険性がある。
【0015】
(5)既出願システムでは、モータ部及び幕体が外気に暴露されているので、甲板上に打ちつけられる波や風により、モータ部及び幕体が容易に劣化する。
【0016】
(6)昨今、船底掃除・駆除が禁止されている港湾が増加している。また、港湾での船底掃除・駆除は船の稼働率を下げるため、稼働率向上のために洋上での船底掃除・駆除に対するニーズが高まっている。既述のように、既出願システムは港を離れた洋上を航行しながら使用はできないので、このニーズに応えられない。なお、生物は、洋上を航海中にも付着する。既出願システムは洋上での使用はできないので、仕向け港までの航海中に付着した生物は付着したまま、仕向け港に持ち込まれ、生物が移動してしまう。近年、生物を着けた船舶は入港を拒否される場合があるが、既出願システムでは対応できない。
【0017】
(7)既出願システムにおいて、幕体は重力により垂直に垂れ下がる。従って、既出願システムの幕体により、船体の船側部はフラットな上側部分は隙間なく覆われるが、湾曲した下側部分には幕体との間に大きな隙間が生じ生物が駆除されない。また、船体の船首部および船尾部は、甲板から船底に向かって細くなっているため、既出願システムの幕体との間に大きな隙間が生じ生物が駆除されない。特に、プロペラ、舵、船尾船底の船体付加物等の配置されている部分では幕体と船体の隙間が大きくなり、その隙間の海水中で生物が生き続けてしまう。また、既出願システムの幕体では船底を覆うことはできない。なお、船底に付着した生物は幕体と船体の隙間を通じて幕体に覆われている他の部分にも移動し、付着する。
【0018】
(8)既出願システムの幕体は、そもそも船体と密着はしていないので、船体と幕体との間の海水に一部の生物は生存し続け、船体に付着する。特に、気象条件が悪い場合、船体および幕体は激しく動揺し、船体と幕体の間に新しい海水が侵入する。また、船は貨物の配置により傾斜し、船側が斜めになる場合がある。その場合、一方の舷では幕体と船体の隙間が拡がり、生物を含んだ新海水が拡がった隙間に入り込み、生物付着の原因となる。
【0019】
(9)既出願システムは、運航を阻害する危険性がある。例えば、津波、低気圧等の発生に伴い緊急離散を行わなければならない時に、船体の全周を覆っている幕体を速やかに除去ができず、緊急離散ができない危険性がある。また、幕体が波、風に煽られて、船体運航に支障を与える危険性がある。
【0020】
上記の事情に鑑み、本発明は、大型船に搭載可能であり、安全に格納され、場所と時間を選ばず使用できる、船体に付着している生物を駆除できる手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、船体の上縁部から外側に張り出すように配置され、下面が開閉可能な箱状部材である収納箱と、非使用時に上下方向に折り畳まれた状態で前記収納箱に収容され、使用時に前記収納箱から下降され上下方向に展開し船体の一部を被覆するシートと、上下方向に展開された状態の前記シートの上下方向における複数の位置の各々において、水平方向に間をあけて前記シートに取り付けられている複数のロープと、前記シートの上下方向における複数の位置の各々に応じて設けられ、対応する前記シートの上下方向における位置において水平方向に間をあけて前記シートに取り付けられている複数のロープに対し、巻き出し及び巻き上げを行う複数のリールとを備え、前記シートは、前記複数のリールによる前記複数のロープの巻き上げにより上昇され上下方向に折り畳まれ、前記複数のリールによる前記複数のロープの巻き出しにより上下方向に展開され下降される船体被覆システムを第1の態様として提案する。
【0022】
第1の態様に係る船体被覆システムによれば、船舶の大小にかかわらず、任意の場所と時間において、当該船舶の船体に対する生物の付着の低減と、当該船舶の船体に付着している生物の駆除を行うことができる。
【0023】
第1の態様に係る船体被覆システムにおいて、前記シートの上下方向における複数の位置の各々に関し、当該位置において水平方向に間をあけて前記シートに取り付けられている複数のロープの各々の巻き出し及び巻き上げを行う複数のリールは、上から見て弧を描くように甲板上に水平方向に並べて配置され、上から見て弧を描くように甲板上に水平方向に並べて配置されている複数のリールを自在継手を介して連結するシャフトと、前記シャフトを回転させる駆動装置とを備える、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0024】
第2の態様に係る船体被覆システムによれば、船体のうち船首部分や船尾部分のような上から見て弧を描くように湾曲している部分における生物の付着の低減または付着している生物の駆除を行うことができる。
【0025】
第1又は第2の態様に係る船体被覆システムにおいて、上下方向に展開された状態の前記シートの右端及び左端の各々に取り付けられ、船首尾方向に引かれて、船体の船首部分又は船尾部分の一部を被覆している前記シートを船体に引き寄せるロープを備える、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0026】
第3の態様に係る船体被覆システムによれば、シートと船体の間の空間を狭めることで、船体に対する生物の付着の低減または付着している生物の駆除を効率的に行うことができる。
【0027】
第1の態様に係る船体被覆システムにおいて、甲板上に船体の上縁部に沿って延伸するように設置された軌道と、前記軌道の上を移動し、前記収納箱、前記シート、前記複数のロープ、及び、前記複数のリールを搬送する台車とを備える、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0028】
第4の態様に係る船体被覆システムによれば、船体の水平方向における異なる領域を順次、シートで被覆することで、シートより広い船体の領域に対し、生物の付着の低減または付着している生物の駆除を行うことができる。
【0029】
第1乃至第4のいずれかの態様に係る船体被覆システムにおいて、前記シートに回転可能に取り付けられた磁石を備える、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0030】
第5の態様に係る船体被覆システムによれば、磁力によりシートが船体に引き寄せられ、シートと船体の間の空間が狭まるので、船体に対する生物の付着の低減または付着している生物の駆除が効率的に行われる。
【0031】
第5の態様に係る船体被覆システムにおいて、前記磁石は回転体の表面を外側が同一の極性となるように覆うように配置されている永久磁石である、という構成が第6の態様として採用されてもよい。
【0032】
第6の態様に係る船体被覆システムによれば、複数の磁石どうしが引き合わず、シートの展開を阻害しない。
【0033】
第1乃至第4のいずれかの態様に係る船体被覆システムにおいて、前記シートに取り付けられた磁石と、前記シートに取り付けられ、船体上で回転して、磁力により船体に引き寄せられる前記磁石を船体に沿って移動可能とする回転体とを備える、という構成が第7の態様として採用されてもよい。
【0034】
第7の態様に係る船体被覆システムによれば、磁力によりシートが船体に引き寄せられ、シートと船体の間の空間が狭まるので、船体に対する生物の付着の低減または付着している生物の駆除が効率的に行われる。
【0035】
第5又は第7の態様に係る船体被覆システムにおいて、前記磁石は電磁石である、という構成が第8の態様として採用されてもよい。
【0036】
第8の態様に係る船体被覆システムによれば、シートの展開前に磁力を発しないようにすることで、シートの展開が阻害されないようにできる。
【0037】
第1乃至第8のいずれかの態様に係る船体被覆システムにおいて、上下方向に展開され下降されて船体の一部を被覆している状態の前記シートに囲まれる空間へ船舶の排出口から排出される液体を導く管を備える、という構成が第9の態様として採用されてもよい。
【0038】
第9の態様に係る船体被覆システムによれば、シートと船体の間の空間が正圧となり、生物の侵入が阻害される。
【0039】
また、本発明は、甲板上に船体の上縁部に沿って延伸するように設置された軌道と、前記軌道の上を移動する複数の台車と、前記複数の台車の上に旋回可能に配置された複数のクレーンと、前記複数のクレーンにより巻き出し及び巻き上げが行われる複数のロープの各々が取り付けられ船体の船底部分の一部を被覆するシートとを備える船体被覆システムを第10の態様として提案する。
【0040】
第10の態様に係る船体被覆システムによれば、シートを船体の外側で吊り下ろし、船底より深い位置に達したシートを船底の下に移動させ、船底の下で広げたシートを上昇させることで、船体の船底部分の一部をシートで被覆できる。その結果、船体の船底部分における生物の付着の低減または付着している生物の駆除が行われる。
【0041】
また、本発明は、船体の船底部分の一部を被覆する帯状のシートと、前記シートの長手方向における一方の端部に取り付けられたロープに連結された無人潜水機とを備える船体被覆システムを第11の態様として提案する。
【0042】
第11の態様に係る船体被覆システムによれば、ロープを介してシートに連結された無人潜水機を甲板から船体の右舷(又は左舷)に沿って水中に降下させ、無人潜水機を船底の下を通って左舷側(又は右舷側)に移動させた後、水面に浮上させ、無人潜水機を船体の左舷(又は右舷)に沿って甲板まで引き上げることで、シートを右舷から船底を通って左舷に至るように配置し、船体の船底部分の一部をシートで被覆できる。その結果、船体の船底部分における生物の付着の低減または付着している生物の駆除が行われる。
【0043】
第1乃至第11のいずれかの態様に係る船体被覆システムにおいて、前記シートの船体に対向する側の面上に取り付けられた紫外線を発生する装置を備える、という構成が第12の態様として採用されてもよい。
【0044】
第12の態様に係る船体被覆システムによれば、紫外線により生物の駆除が促進される。
【0045】
第1乃至第12のいずれかの態様に係る船体被覆システムにおいて、前記シートの船体に対向する側の面上に取り付けられた超音波を発生する装置を備える、という構成が第13の態様として採用されてもよい。
【0046】
第13の態様に係る船体被覆システムによれば、超音波により船体に対する生物の付着が損害される。
【0047】
また、本発明は、第4の態様に係る船体被覆システムを第1の船体被覆システムとして備え、第10の態様に係る船体被覆システムを第2の船体被覆システムとして備え、前記第2の船体被覆システムが備える前記軌道の少なくとも一部が前記第1の船体被覆システムが備える前記軌道として用いられ、前記第2の船体被覆システムが備える前記軌道の一部区間が複線となっているシステムを第14の態様として提案する。
【0048】
第14の態様に係るシステムによれば、船体の船側部分と船底部分を同時にシートで被覆することで、それらの領域における生物の付着の低減または付着している生物の駆除を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】第1実施形態に係る船体被覆システムの全体構成を示した図。
図2】第1実施形態に係る昇降機構を上から見た図。
図3】第1実施形態に係るシートの構成を示した図。
図4A】第1実施形態に係る昇降機構によりシートが昇降される様子を示した図。
図4B】第1実施形態に係る昇降機構によりシートが昇降される様子を示した図。
図4C】第1実施形態に係る昇降機構によりシートが昇降される様子を示した図。
図4D】第1実施形態に係る昇降機構によりシートが昇降される様子を示した図。
図4E】第1実施形態に係る昇降機構によりシートが昇降される様子を示した図。
図5】第1実施形態に係るシートで被覆された船体を正面から見た図。
図6】第1実施形態に係るシートで被覆された船体を正面から見た図。
図7】第2実施形態に係る船体被覆システムの全体構成を示した図。
図8】第2実施形態に係る船体被覆システムが配置された船舶を上から見た図。
図9】第2実施形態に係る昇降機構を上から見た図。
図10】第2実施形態に係る昇降機構を側方から見た図。
図11】第3実施形態に係る船体被覆システムの全体構成を示した図。
図12】第3実施形態に係るシートがプロペラ及び舵を覆っている状態を船尾側から見た図。
図13】第3実施形態に係るシートがプロペラ及び舵を覆っている状態を船尾側から見た図。
図14】第3実施形態に係る船体被覆システムの一変形例を示した図。
図15】第4実施形態に係る船体被覆システムの全体構成を示した図。
図16】第4実施形態に係る船体被覆システムが配置された船舶を上から見た図。
図17】第4実施形態に係る昇降機構を上から見た図。
図18】第4実施形態に係る昇降機構を側方から見た図。
図19】第4実施形態に係る船体被覆システムにより船底部分をシートで被覆する手順を説明するための図。
図20】第4実施形態に係る船体被覆システムにより船底部分をシートで被覆する手順を説明するための図。
図21】第4実施形態に係る船体被覆システムにより船底部分をシートで被覆する手順を説明するための図。
図22】第4実施形態に係る船体被覆システムにより船底部分をシートで被覆する手順を説明するための図。
図23】第4実施形態に係る船体被覆システムにより船底部分をシートで被覆する手順を説明するための図。
図24】第4実施形態に係る船体被覆システムにより船底部分をシートで被覆する手順を説明するための図。
図25】第4実施形態に係る船体被覆システムにより船底部分をシートで被覆する手順を説明するための図。
図26】第4実施形態に係る船体被覆システムにより船底部分をシートで被覆する手順を説明するための図。
図27】第4実施形態に係る船体被覆システムにより船底部分をシートで被覆する手順を説明するための図。
図28】第4実施形態に係る船体被覆システムの一変形例を示した図。
図29】一変形例に係る船体被覆システムが配置された船舶を上から見た図。
図30】一変形例に係るコロ磁石を示した図。
図31】一変形例に係る磁石と回転体を示した図。
図32】一変形例に係る磁石と回転体を示した図。
図33】一変形例に係る船体被覆システムの構成と動作を示した図。
図34】一変形例に係る船体被覆システムの構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0050】
[第1実施形態]
以下に、本発明の第1実施形態に係る船体被覆システム1を説明する。図1は、船体被覆システム1の全体構成を示した図である。船体被覆システム1は、船舶9の船体91のうち船首部分をシートで被覆することにより、船体91の船首部分に対する生物の付着の低減及び付着している生物の駆除を行うシステムである。
【0051】
船体被覆システム1は、船体91の上縁部に配置されている昇降機構11と、昇降機構11から巻き出され、又、昇降機構11により巻き上げられる複数のロープ12と、ロープ12を介して昇降機構11により昇降されるシート13を備える。
【0052】
図2は、昇降機構11を上から見た図である。昇降機構11は、複数の支持枠111、支持枠111の下側に取り付けられた複数の収納箱112、支持枠111の内側に取り付けられた複数のシーブ113、シーブ113の各々に応じて設けられた複数のリール114、リール114を回転させる駆動力を発生する複数のモータ115(駆動装置の一例)、モータ115の駆動力をリール114に伝達する複数のシャフト116、シャフト116の回転を補助する複数の軸受117を備える。
【0053】
支持枠111は、船体91の船首部分の上縁部から外側に張り出すように船体91に取り付けられている矩形のフレームと、そのフレームに囲まれる空間の上面を塞ぐように設けられた開閉可能な蓋を備える構造物である。ただし、図2においては、支持枠111の内側に配置されているシーブ113等を示すために、支持枠111が備える蓋は省略されている。複数の支持枠111は互いに間をあけて配置されている。
【0054】
収納箱112は、隣り合う2つの支持枠111に架け渡されるように、それらの支持枠111の下面に取り付けられている箱状部材である。収納箱112は、シート13を挟んで船体91の外側に配置され非使用状態のシート13を前方外側から覆う前面壁部と、前面壁部の下端に回動可能に取り付けられ非使用状態のシート13を下方外側から覆う下面蓋部と、上面のうち支持枠111に覆われていない部分を塞ぐように設けられた上面壁部を備える。ただし、図2においては、収納箱112の内側に収容されるシート13等を示すために、収納箱112が備える上面壁部は省略されている。
【0055】
また、複数の収納箱112のうち、船体91の右舷側の末端に位置する収納箱112と船体91の左舷側の末端に位置する収納箱112は、その端面を塞ぐ端面壁部を備える。互いに隣り合う2つの収納箱112は、湾曲した船体91の上縁部に沿った方向(水平方向)において連通している。
【0056】
上記の構造を備える複数の収納箱112は、全体として、船体91の船首部分の外側に保持される非使用状態のシート13を内部に収容し、下面が開閉可能な箱体を構成している。
【0057】
本実施形態において、支持枠111の各々には、船体91から外側に延伸する方向に間をあけて並べて配置された3つのシーブ113が、その延伸する方向と実質的に垂直な水平方向の軸周りに回転可能に取り付けられている。以下、これらの3つのシーブ113を互いに区別する場合、船体91に近い方から順に、A系のシーブ113、B系のシーブ113、C系のシーブ113と呼ぶ。
【0058】
既述のように、シーブ113の各々には、対応するリール114が設けられている。互いに対応するシーブ113とリール114には1本のロープ12が架け渡されている。すなわち、一端がシート13に連結されているロープ12の他端がリール114に連結されており、シート13とリール114の間に配置されているシーブ113がロープ12の延伸する方向を変更する役割を果たす。その結果、リール114により概ね水平方向に巻き上げ、又は、巻き出しの行われるロープ12により、シート13が鉛直方向に昇降される。
【0059】
以下、A系のシーブ113に対応するリール114をA系のリール114、B系のシーブ113に対応するリール114をB系のリール114、C系のシーブ113に対応するリール114をC系のリール114、と呼ぶ。
【0060】
シャフト116は、A系、B系、C系の各々に関し、互いに隣り合う2つのリール114に、自在継手(ユニバーサルジョイント)を介して連結されている。
【0061】
A系のリール114を介して連結されている複数のシャフト116(以下、A系のシャフト116と呼ぶ)は、一方の末端部に連結されたモータ115(以下、A系のモータ115と呼ぶ)の駆動力により回転する。同様に、B系のリール114を介して連結されている複数のシャフト116(以下、B系のシャフト116と呼ぶ)は、一方の末端部に連結されたモータ115(以下、B系のモータ115と呼ぶ)の駆動力により回転し、C系のリール114を介して連結されている複数のシャフト116(以下、C系のシャフト116と呼ぶ)は、一方の末端部に連結されたモータ115(以下、C系のモータ115と呼ぶ)の駆動力により回転する。
【0062】
3つのモータ115の動作は、図示せぬ制御装置により制御される。なお、以下の説明において、モータ115が回転軸を時計回りに回転させると、リール114がロープ12を巻き出し、モータ115が回転軸を反時計回りに回転させると、リール114がロープ12を巻き上げるものとする。
【0063】
図3は、シート13の構成を示した図である。図3(A)はシート13を内側正面から見た図であり、図3(B)はシート13を側方から見た図である。なお、シート13の内側とは、シート13が船体91を被覆した状態において船体91に対向する側を意味する。
【0064】
シート13は、シート状部材であるシート本体131と、シート本体131の下端に取り付けられた複数のコロ磁石132と、シート本体131の内側面上に間をあけて取り付けられた複数のコロ磁石133と、シート本体131の内側面上に間をあけて取り付けられた複数の紫外線発生装置134と、シート本体131の内側面上に間をあけて取り付けられた複数の超音波発生装置135を備える。
【0065】
コロ磁石132とコロ磁石133は、シート本体131の面に沿った水平方向の軸周りに回転可能にシート本体131に取り付けられた円筒形状の電磁石である。コロ磁石132とコロ磁石133は、図示せぬ制御装置の制御下で、磁力を発するON状態と、磁力を発しないOFF状態の間で切り替わることができる。
【0066】
コロ磁石132は錘の役割を果たし、ロープ12がリール114から巻き出される際、重量によりシート本体131の展開を助ける。そのため、コロ磁石132はコロ磁石133と比較し重量が重いことが望ましい。
【0067】
コロ磁石132とコロ磁石133は、ロープ12の巻き出しに伴いシート本体131が降ろされる際、下方にあるものから順次、ON状態となって磁力を発し、主に鉄でできている船体91の外側面に接触しながら回転することで、下降するシート本体131を船体91の外側面に沿わせる役割を果たす。
【0068】
紫外線発生装置134は、船体91を被覆した状態のシート本体131と船体91との間の海水で満たされた空間内に紫外線を照射することで、その空間内に存在する生物を駆除する役割を果たす。
【0069】
紫外線発生装置134が発生する紫外線の効果を高めるために、シート本体131の内側面上には、紫外線を反射する素材が貼られている。なお、シート本体131の内側面上に紫外線を反射する素材が貼られている代わりに、紫外線を反射する塗料が塗布されていてもよい。
【0070】
超音波発生装置135は、船体91を被覆した状態のシート本体131と、シート本体131と船体91との間の空間を満たす海水とに超音波振動を発生させることで、その海水内の生物の船体91の表面に対する付着を阻害する役割を果たす。また、超音波発生装置135は、シート本体131を振動させることで、シート本体131に対する生物の付着を阻害する役割も果たす。
【0071】
図4A図4E(以下、これらを図4と総称する)は、昇降機構11によりシート13が昇降される様子を示した図である。図4Aは、シート13が収納箱112に収納されている状態(シート13の非使用状態)を示している。図4Aの状態において、支持枠111の上面の蓋と、収納箱112の下面の蓋は閉じられている。図4Aの状態において、シート13は収納箱112に収納され、風浪から保護されている。従って、風浪によるシート13の劣化及び損傷が低減される。
【0072】
図4Aに示されるように、A系のリール114により巻き出し及び巻き上げが行われる複数のロープ12は、シート13が上下方向に展開した状態における上から約4/5の位置において、水平方向に間をあけてシート13に取り付けられている。また、B系のリール114により巻き出し及び巻き上げが行われる複数のロープ12は、シート13が上下方向に展開した状態における上から約2/5の位置において、水平方向に間をあけてシート13に取り付けられている。また、C系のリール114により巻き出し及び巻き上げが行われる複数のロープ12は、シート13が上下方向に展開した状態における上端の位置において、水平方向に間をあけてシート13に取り付けられている。
【0073】
図4Bは、シート13の下降に先立ち、支持枠111の上面の蓋と、収納箱112の下面の蓋が開かれ、コロ磁石132がON状態となった状態を示している。支持枠111の上面の蓋が開かれることにより、ロープ12が自由に移動可能となる。また、収納箱112の下面の蓋が開かれることにより、シート13が下降可能となる。また、コロ磁石132がON状態となることで、磁力によりコロ磁石132が船体91側に引き寄せられ、船体91の表面に接する。
【0074】
図4Cは、A系のモータ115が軸を時計回りに回転させて、シート13の下側の約2/5の部分が下方に展開した状態を示している。図4Cの状態において、コロ磁石133のうちシート本体131の下側の約2/5の部分に取り付けられているコロ磁石133がON状態となり、船体91の表面に接している。
【0075】
図4Dは、図4Cの状態から、A系及びB系のモータ115が軸を時計回りに回転させて、シート13の全体が下方に展開した状態を示している。図4Dの状態において、コロ磁石133のうちシート本体131の下側の約4/5の部分に取り付けられているコロ磁石133がON状態となり、船体91の表面に接している。
【0076】
図4Eは、図4Dの状態から、A系、B系及びC系のモータ115が軸を時計回りに回転させて、全体が下方に展開した状態のシート13を下方に降ろした状態を示している。図4Eの状態において、コロ磁石133の全てがON状態となり、船体91の表面に接している。
【0077】
図5は、図4Eの状態のシート13で船首部分の水面の少し上から水中に至る領域を被覆された船体91を正面から見た図である。図6は、図5の状態から、A系、B系及びC系のモータ115が軸を時計回りに回転させて、シート13をさらに下方に降ろした状態を示している。シート13は、例えば図5の位置で所定時間、維持された後、図6の位置に移動され、その後、その位置で所定時間、維持される。その結果、船体91の船首部分に対する生物の付着の低減及び付着している生物の駆除が行われる。
【0078】
使用を終えたシート13は、図4図6を用いて説明したシートの下降の手順の逆の手順で上昇され、収納箱112に収納される。
【0079】
[第2実施形態]
以下に、本発明の第2実施形態に係る船体被覆システム2を説明する。図7は、船体被覆システム2の全体構成を示した図である。船体被覆システム2は、船舶9の船体91のうち船側部分をシートで被覆することにより、船体91の船側部分に対する生物の付着の低減及び付着している生物の駆除を行うシステムである。
【0080】
図7には、船体91の左舷側に配置されている2つの船体被覆システム2が示されている。船首側に配置されている船体被覆システム2は、船体91のうち、スラスタ92(バウスラスタ、スターンスラスタ等)の配置されているトンネル部分を被覆するための船体被覆システム2である。一方、船尾側に配置されている船体被覆システム2は、船体91のうち、トンネル部分以外の比較的フラットな部分を被覆するための船体被覆システム2である。なお、トンネル部分以外の比較的フラットな部分を被覆するための船体被覆システム2が2以上設けられてもよい。
【0081】
船首側の船体被覆システム2が備えるシートは、船尾側の船体被覆システム2が備えるシートと比較し、鉛直方向に長く、水平方向に短い。その他の点に関しては、船首側の船体被覆システム2と船尾側の船体被覆システム2は共通の構成を備える。なお、船体91の右舷側にも同様に、複数の船体被覆システム2が配置されている。
【0082】
船体被覆システム2は、船体91の上縁部に配置されている昇降機構21と、昇降機構21から巻き出され、又、昇降機構21により巻き上げられる複数のロープ22と、ロープ22を介して昇降機構21により昇降されるシート23を備える。また、船体被覆システム2は、図7に図示されない構成部として、軌道24を備える。
【0083】
船体被覆システム2が備えるロープ22とシート23は、第1実施形態に係る船体被覆システム1が備えるロープ12とシート13と同様の構成部である。従って、ロープ22とシート23の説明は省略する。
【0084】
船体被覆システム2が備える昇降機構21は、船体被覆システム1が備える昇降機構11と比較し、船舶9の前後方向(船首尾方向)に移動可能である点が異なっている。図8は、船体被覆システム2が配置された船舶9を上から見た図である。船体91の甲板上には、左舷及び右舷の各々に関し、船側部分の上縁部に沿って船舶9の前後方向に延伸するように2本のレールで構成される軌道24が配置されている。昇降機構21は、軌道24の上を自走する。
【0085】
なお、図8は、右舷側の軌道24、左舷側の軌道24の各々が、複数(図8の例では2つ)の船体被覆システムの昇降機構21により共用される場合を示している。これに代えて、昇降機構21の各々に応じた軌道24が設けられてもよい。
【0086】
図9は、昇降機構21を上から見た図である。ただし、図9において、昇降機構21が備えるカバーは省略されている。昇降機構21は、台車211、台車211の甲板より外側に突出する部分の下側に取り付けられた収納箱212、台車211の甲板より外側に突出する部分に設けられた上下方向に貫通する複数の矩形の孔の中に取り付けられた複数のシーブ213、シーブ213の各々に応じて設けられた複数のリール214、リール214を回転させる駆動力を発生する複数のモータ215、モータ215の駆動力をリール214に伝達する複数のシャフト216、シャフト216の回転を補助する複数の軸受217を備える。
【0087】
昇降機構21が備えるシーブ213、リール214、モータ215、軸受217は、第1実施形態に係る昇降機構11が備えるシーブ113、リール114、モータ115、軸受117と同様の構成部である。従って、シーブ213、リール214、モータ215、軸受217の説明は省略する。
【0088】
収納箱212は、第1実施形態に係る昇降機構11が備える収納箱112と同様の役割を果たす構成部である。ただし、昇降機構11は全体として船首の形状に沿って湾曲するように配置された複数の収納箱112を備えるのに対し、昇降機構21は上から見た形状が矩形の収納箱212を1つのみ備える点が異なっている。また、収納箱212の上側は、台車211のカバーにより覆われるため、収納箱212は上面壁部を備えなくてよい。
【0089】
昇降機構21が備えるシャフト216は、第1実施形態に係る昇降機構11が備えるシャフト116と同様の役割を果たす構成部である。ただし、昇降機構11が備える複数のシャフト116は、リール114に自在継手を介して連結され、全体として船首の形状に沿って湾曲するように配置されているのに対し、昇降機構21が備える複数のシャフト216はリール214に自在継手を介さず直接連結され、全体として直線状に配置されている。
【0090】
図10は、昇降機構21を側方から見た図である。
【0091】
台車211は、シャーシ2111と、シャーシ2111の下面上に回転可能に取り付けられた複数の車輪2112と、車輪2112を回転させるモータ2113と、シャーシ2111を上から覆う開閉可能なカバー2114を備える。
【0092】
シャーシ2111には複数の矩形の孔が設けられている。これらの孔の内側には、既述のように、複数のシーブ213が回転可能に取り付けられている。シート23の非使用時において、リール214、モータ215、シャフト216、軸受217は、閉じられたカバー2114で覆われる。
【0093】
モータ2113の動作は、図示せぬ制御装置により制御される。車輪2112は、軌道24上で回転する。従って、台車211はモータ2113の運転により、軌道24上を自走できる。
【0094】
シート23が使用時に展開され下降される手順は、第1実施形態におけるシート13が使用時に展開され下降される手順(図4図6)と同様である。また、使用を終えたシート23が下降時と逆の手順で上昇され、収納箱212に収納される点も、第1実施形態と同様である。
【0095】
ただし、第1実施形態のシート13は鉛直方向にのみ移動可能であるのに対し、シート23は鉛直方向に加え、昇降機構21の移動により船舶9の前後方向(水平方向)に移動可能である。従って、船体91の船側部分の第1の領域をシート23で所定時間だけ被覆した後、シート23を鉛直方向又は前後方向に移動し、第1の領域と異なる第2の領域をシート23で所定時間だけ被覆する、という工程を繰り返すことで、シート23よりも広い船体91の船側部分の生物が付着する領域全体に関し、生物の付着の低減及び付着している生物の駆除が行われる。
【0096】
[第3実施形態]
以下に、本発明の第3実施形態に係る船体被覆システム3を説明する。図11は、船体被覆システム3の全体構成を示した図である。船体被覆システム3は、船舶9の船体91のうち船尾部分をシートで被覆することにより、船体91の船尾部分に対する生物の付着の低減及び付着している生物の駆除を行うシステムである。
【0097】
船体被覆システム3は、船体91の上縁部に配置されている昇降機構31と、昇降機構31から巻き出され、又、昇降機構31により巻き上げられる複数のロープ32と、ロープ32を介して昇降機構31により昇降されるシート33と、シート33の左端又は右端に一端が取り付けられた複数のロープ34を備える。
【0098】
船体被覆システム3が備える昇降機構31、ロープ32、シート33は、第1実施形態に係る船体被覆システム1が備える昇降機構11、ロープ12、シート13と同様の構成部である。従って、昇降機構31、ロープ32、シート33の説明は省略する。
【0099】
船体91の船尾部分には、プロペラ93及び舵94が配置される空間がある。舵94は平坦な形状で鉄製であるため、シート33が備える複数のコロ磁石の磁力によりシート33の本体は舵94に引き寄せられる。ただし、プロペラ93は平坦な形状ではないため、コロ磁石の磁力によりシート33の本体をプロペラ93に引き寄せることは困難である。
【0100】
従って、船体被覆システム3は、船尾部分を覆うように下降されたシート33を船首方向に引き寄せるためのロープ34を備えている。既述のように、ロープ34の一端はシート33の左端又は右端に取り付けられている。ロープ34の他端は、船舶9の甲板上の作業員の手に持たれる。作業員は、ロープ34を手に持った状態で船尾から船首の方向に移動しつつ、ロープ34を介してシート33を船首側に引き寄せる。図12は、プロペラ93及び舵94を覆うように下降された状態のシート33を船尾側から見た図である。図13は、ロープ34により船首方向に引き寄せられ状態のシート33を船尾側から見た図である。図13の状態のシート33に囲まれる空間は、図12の状態のシート33に囲まれる空間よりも狭い。そのため、図13の状態においては、図12の状態と比べ、より効率的に船体91の船尾部分に対する生物の付着の低減及び付着している生物の駆除が行われる。
【0101】
船尾付近に冷却水、バラスト水、ボイラー水等の液体を排出するために排出口が配置されている船舶9に船体被覆システム3が用いられる場合、排出口から、シート33により囲まれる空間へ船舶9から排水される液体を導く管を設けてもよい。図14は、そのような管35を備える船体被覆システム3を示した図である。管35からシート33に囲まれる空間へ液体が排出されることで、その空間が正圧となり、生物の進入が低減される。
【0102】
管35から排出される冷却水等に次亜塩素酸ナトリウムやオゾン等が含まれるようにしてもよい。この場合、次亜塩素酸ナトリウムやオゾン等により、シート33に囲まれる空間内の生物が駆除される。
【0103】
[第4実施形態]
以下に、本発明の第4実施形態に係る船体被覆システム4を説明する。図15は、船体被覆システム4の全体構成を示した図である。船体被覆システム4は、船舶9の船体91のうち船底部分をシートで被覆することにより、船体91の船底部分に対する生物の付着の低減及び付着している生物の駆除を行うシステムである。
【0104】
船体被覆システム4は、船体91の上縁部に配置されている昇降機構41と、昇降機構41から巻き出され、又、昇降機構41により巻き上げられる複数のロープ42と、ロープ42を介して昇降機構41により昇降されるシート43を備える。また、船体被覆システム4は、図15に図示されない構成部として、軌道44とシート巻取ドラム45を備える。
【0105】
船体被覆システム4が備えるシート43は、船体被覆システム1が備えるシート13と異なり、コロ磁石132及びコロ磁石133は備えない。
【0106】
図16は、船体被覆システム4が配置された船舶9を上から見た図である。船体91の甲板上には、船体91の上縁部に沿って、左舷船尾から左舷船側に沿って左舷船首に至り、船首の左舷側から右舷側へと湾曲し、右舷船首から右舷船側に沿って右舷船尾に至るように、2本のレールで構成される軌道44が配置されている。以下、軌道44の左舷船尾側を上流側と呼び、右舷船尾側を下流側と呼ぶ。
【0107】
軌道44の上には、各々が自走する4つの昇降機構41が配置されている。以下、これらの昇降機構41は、図16に示すように、昇降機構41(1)~41(4)のように括弧内に付加される枝番号により互いに区別される。
【0108】
図17は、昇降機構41を上から見た図である。また、図18は、昇降機構41を側方から見た図である。昇降機構41は、軌道44上を自走するための構成部である台車411と、台車411の上に配置され鉛直方向の軸周りに回転可能な旋回台412と、旋回台412の上に配置されロープ42によりシート43の昇降を行うクレーン413を備える。
【0109】
台車411は、主な構成部として、シャーシ4111と、シャーシ4111の下面に回転可能に取り付けられた複数の車輪4112と、車輪4112を回転させるモータ4113を備える。モータ4113の運転は、図示せぬ制御装置により制御される。モータ4113の運転に伴い、台車411は軌道44上を自走する。
【0110】
旋回台412は、主な構成部として、旋回板4121と、シャーシ4111と旋回板4121の間に配置されシャーシ4111に固定されている旋回歯車4122と、旋回歯車4122と噛み合う歯車4123と、旋回板4121に固定され歯車4123を回転させるモータ4124を備える。モータ4124の運転は、図示せぬ制御装置より制御される。
【0111】
旋回板4121は、旋回歯車4122に対し鉛直方向の軸周りに自由に回転可能に取り付けられている。従って、モータ4124の運転に伴い、旋回板4121は鉛直方向の軸周りに旋回する。
【0112】
クレーン413は、主な構成部として、旋回板4121の上面に水平方向の軸周りに回転可能に取り付けられたブーム4131と、ブーム4131を水平方向の軸周りに移動させる油圧シリンダ4132と、ロープ42の巻き出し及び巻き上げを行うロープ巻取ドラム4133を備える。油圧シリンダ4132とロープ巻取ドラム4133の動作は、図示せぬ制御装置より制御される。
【0113】
上記の構成を備える昇降機構41は、クレーン413によりシート43を吊った状態で軌道44に沿って水平方向に移動できる。
【0114】
シート巻取ドラム45は、図16に示されるように、甲板上に配置されている。シート巻取ドラム45は、不使用時のシート43を巻き取って保管するための構成部である。シート巻取ドラム45の動作は、図示せぬ制御装置より制御される。
【0115】
以下に、4つの昇降機構41によりシート43で船体91の船底部分を被覆する手順を説明する。まず、シート43がシート巻取ドラム45に巻き取られている状態において、図19に示すように、昇降機構41(1)及び41(2)を左舷船首側に、また、昇降機構41(3)及び41(4)を左舷船尾側に移動させる。
【0116】
続いて、図20に示されるように、昇降機構41(2)のクレーン413から伸びるロープ42の先端をシート43の4隅の1つ(以下、シート43の左端上部とする)に取り付け、シート巻取ドラム45からシート43を巻き出しながら、巻き出されたシート43を昇降機構41(2)で吊り上げた状態で船首側へと引き延ばしてゆく。
【0117】
シート巻取ドラム45からシート43の全てが巻き出されると、図21に示されるように、シート巻取ドラム45側のシート43の2つの隅のうち、昇降機構41(2)に吊られている側と同じ側の隅(右端上部)に、昇降機構41(3)のクレーン413から伸びるロープ42を取り付ける。また、シート43の左端下部の隅に、昇降機構41(1)のクレーン413から伸びるロープ42を取り付け、シート43の右端下部の隅に、昇降機構41(4)のクレーン413から伸びるロープ42を取り付ける。
【0118】
続いて、図22に示されるように、4つの昇降機構41のブーム4131を船体91の左舷外側に旋回し、シート43を船体91の左舷外側で吊られた状態とする。
【0119】
続いて、図23に示されるように、4つの昇降機構41を軌道44の下流側へと移動させる。そして、図24に示されるように、昇降機構41(1)及び41(2)が右舷船首付近に達し、昇降機構41(3)及び41(4)が左舷船首付近に達して、シート43が船首前方に吊られた状態となると、4つの昇降機構41の移動をいったん停止する。
【0120】
続いて、図25に示されるように、4つの昇降機構41にロープ42を巻き出させて、シート43を船底の深さより下まで下降させる。
【0121】
続いて、図26に示されるように、4つの昇降機構41を船尾側へと移動する。すなわち、昇降機構41(1)と41(2)は、軌道44に沿って右舷船首付近から右舷船尾に向かい移動させる。一方、昇降機構41(3)と41(4)は、軌道44に沿って左舷船首付近から左舷船尾に向かい移動させる。
【0122】
シート43が船体91の船底の被覆したい領域の下方に達すると、4つの昇降機構41の移動をいったん停止する。その状態で、昇降機構41(2)と41(3)を船首側に少し移動させる(又は、ブーム4131を船首側に旋回させる)。また、昇降機構41(1)と41(4)を船尾側に少し移動させる(又は、ブーム4131を船尾側に旋回させる)。その結果、水中のシート43が前後方向に広げられる。その状態で、4つの昇降機構41にロープ42を巻き上げさせて、シート43を上昇させる。その結果、図27に示されるように、シート43が船体91の船底部分の一領域を下方から被覆した状態となる。
【0123】
シート43は、船体91の船底部分の第1の領域を所定時間だけ被覆した状態で維持された後、少し下降されて前後方向に移動され、再び上昇されて、第1の領域と異なる第2の領域を被覆した状態とされる。そのような工程が繰り返えされることで、シート43よりも広い船体91の船底部分の領域全体に関し、生物の付着の低減及び付着している生物の駆除が行われる。
【0124】
使用を終えたシート43は、図19図27を用いて説明した手順と逆の手順で水中から船上へと引き上げられ、シート巻取ドラム45により巻き取られる。
【0125】
また、シート43の回収において、上述した手順の逆の手順に従う方法に代えて、例えば、昇降機構41(1)と41(2)に連結されているロープ42をそれらの昇降機構41から離してシート43の右端を海中で落下させ、昇降機構41(3)と41(4)をシート巻取ドラム45の近くまで移動させ、昇降機構41(3)と41(4)に連結されていたロープ42をシート巻取ドラム45に連結して、シート43をシート巻取ドラム45に巻き取らせてもよい。
【0126】
[変形例]
上述した実施形態に係る船体被覆システムには、様々な変形が加えられてよい。以下にそれらの変形の例を示す。なお、以下の変形の例の2以上が適宜、組み合わされてもよい。
【0127】
(1)上述した船体被覆システムが備えるモータ等の動作は、制御装置により制御される。制御装置による制御は、例えば、プログラムに従い動作するコンピュータのプロセッサが出す指示に従い行われてもよいし、例えばマンマシンインタフェースを介して作業員等の人が制御装置に対し与える指示に従い行われてもよい。
【0128】
(2)上述した船体被覆システム1、船体被覆システム2、船体被覆システム3が備える収納箱の下面壁部、船体被覆システム1、3が備える支持枠の蓋、船体被覆システム2が備えるカバー2114を開閉する機構としては、例えばロープの巻き上げ及び巻き出しによる機構、油圧を用いた機構等のいずれが採用されてもよい。また、その開閉は、モータ等の装置により行われてもよいし、人手により行われてもよい。
【0129】
(3)上述した船体被覆システム1、船体被覆システム2、船体被覆システム3において、船舶9の喫水の変化に応じてシートの鉛直方向における位置が調整されてもよい。この調整は、コンピュータ等の装置により自動的に行われてもよいし、人手により行われてもよい。
【0130】
(4)上述した船体被覆システム3において、ロープ34は水中から船首方向に向かい斜め上に引かれる。そのため、シート33はロープ34により斜め上に引かれる。シート33は、船首に向かい、できるだけ水平方向に引かれることが望ましい。そこで、ロープ34の引く方向を変更するための仕組みが採用されてもよい。
【0131】
例えば、図28に示すような電磁石ローラ36を用いる仕組みが採用されてもよい。電磁石ローラ36は、円筒形状の電磁石である。電磁石ローラ36は、内部にロープ34が通された状態で、ロープ34とは異なるロープ37により、船側部分の上端部から水中へと吊り下ろされる。ロープ37には電磁石ローラ36に電力を供給する電源ケーブルが内蔵されている。ロープ37は、例えば図示せぬドラムにより巻き出し、巻き上げが行われる。
【0132】
ドラムによりロープ37が巻き出され、電磁石ローラ36が、その中に通されたロープ34の一端とシート33が連結されている深さに達すると、電磁石ローラ36に電力が供給される。その結果、電磁石ローラ36は自ら発する磁力により船体91に引き寄せられ、船体91にくっつく。その状態で、ロープ34が甲板上から船首に向かい引かれると、電磁石ローラ36により方向が転換されたロープ34により、シート33が船首に向かい概ね水平方向に引かれることになる。
【0133】
(5)船体被覆システム1において、船体被覆システム3と同様に、シート13を船体91に引き寄せるロープが用いられてもよい。この場合、船体91の船首部分を被覆しているシート13の左端及び右端に取り付けられたロープを、甲板上の作業員等が船尾方向に引くことで、シート13が船体91の船首部分により密着することになる。
【0134】
(6)1つの船舶9に、船体被覆システム1、船体被覆システム2、船体被覆システム3、船体被覆システム4のうちの2以上が用いられてもよい。
【0135】
船体被覆システム2と船体被覆システム4が1つの船舶9に用いられる場合、船体被覆システム2と船体被覆システム4が同じ軌道を共用してもよい。
【0136】
図29は、船体被覆システム2と船体被覆システム4が1つの船舶9に用いられる場合において、船体被覆システム4の軌道44が、船体被覆システム2の軌道24の代わりとして用いられる状態を示した図である。仮に、昇降機構21及び昇降機構41が軌道44上しか移動できなければ、昇降機構21と昇降機構41の軌道44上の順序が固定されてしまう。従って、船体被覆システム2のシート23で船側部分を被覆し、同時に船体被覆システム4のシート43で船底部分を被覆する場合、それらの被覆領域の船首尾方向における位置が互いに制限されてしまう。
【0137】
上記の問題を解消するため、図29に示すように、軌道44に対し、迂回路を形成する軌道54が設けられてもよい。すなわち、軌道の一部区間を複線としてもよい。これにより、複数の昇降機構がすれ違うことができ、軌道44上における昇降機構の順序が変更可能となる。従って、船体被覆システム2のシート23で船側部分を被覆し、同時に船体被覆システム4のシート43で船底部分を被覆する場合、それらの被覆領域の船首尾方向における位置が互いに制限されることがない。
【0138】
(7)上述した船体被覆システムのシートは、船体を被覆した状態で水流等により動き、船体の表面に付着している生物を擦り落とす役割を果たす。この生物を擦り落とす役割の効率を高めるために、シートの内側表面上に、スポンジ、ブラシ、長繊維等の、シートと船体表面との間に生じる摩擦力を高める部材が取り付けられてもよい。
【0139】
(8)上述した船体被覆システム1、船体被覆システム2、船体被覆システム3において、シートには、シート本体を船体に引き寄せるための構成部として、磁力を発するコロ磁石(磁力発生装置)が採用されている。シート本体を船体に引き寄せる構成部として、コロ磁石に加えて、もしくは代えて、プロペラ等により推力を発する推力発生装置(スラスタ等)が採用されてもよい。
【0140】
(9)上述した船体被覆システムにおいては、船体に付着している生物の駆除及び船体に対する生物の付着の抑制のために、シートに紫外線発生装置と超音波発生装置が設けられている。これらに加えて、もしくは代えて、活性酸素を発生する装置、オゾンを発生する装置等の他の装置が用いられてもよい。
【0141】
(10)シートの内側面上に撮影装置が配置されてもよい。この撮影装置により撮影される船体91の画像により、作業員等は船体91に付着している生物の状態、船体91の塗装の状態、船体91の破損の状態等を視覚的に確認できる。
【0142】
(11)上述した実施形態において、シート13に取り付けられるコロ磁石132及びコロ磁石133は電磁石であるものとしたが、これらのコロ磁石に永久磁石が用いられてもよい。
【0143】
ただし、コロ磁石に永久磁石が用いられる場合、シート13が展開される前の状態において、複数のコロ磁石が互いに引き合ってしまうと、シート13の展開が阻害される。そのような不都合を回避するために、永久磁石を、回転体の表面を外側が同一の極性となるように覆うように配置した構成を備えるコロ磁石が採用されてもよい。
【0144】
図30は、この変形例に係るコロ磁石501を示した図である。コロ磁石501は、シート13に対し水平方向の軸周りに回転可能に取り付けられた円柱形状の回転体5011と、回転体5011の側面上に、外側が全てS極(又はN極)となるように配置された複数の永久磁石5012と、複数の永久磁石5012を覆うように配置されたスポンジ等の緩衝材5013を備える。
【0145】
(12)上述した実施形態において、シート13に取り付けられるコロ磁石132及びコロ磁石133は、シート13等に対し水平方向の軸周りに回転可能に取り付けられているものとしたが、これらのコロ磁石が、シート13等に沿った任意の方向の軸周りに回転可能に取り付けられていてもよい。この場合、シート13等の鉛直方向以外の方向に移動した場合も、コロ磁石がシート13等の移動の方向に回転し、船体91に沿ったシート13等の移動が妨げられない。
【0146】
(13)コロ磁石132及びコロ磁石133は、自ら回転する磁石である。これに代えて、シート13等に取り付けられる磁石は回転せずに、磁力により船体91に引き寄せられる磁石を船体91に沿って移動可能とする回転体を設けてもよい。
【0147】
図31は、この変形例に係る磁石と回転体を示した図である。図31に示される変形例において、シート13を挟んで、磁石601と1以上の回転体602がシート13に取り付けられている。磁石601は例えば電磁石である。回転体602は、シート13に対し、水平方向の軸周り(又は、シート13に沿った任意の方向の軸周り)に回転可能に取り付けられている。
【0148】
図32は、この変形例に係る磁石と回転体の、図31とは異なる配置の例を示した図である。図32に示される変形例においては、シート13と回転体602が磁石601を挟む位置関係となるように、シート13に対し磁石601と回転体602が取り付けられている。
【0149】
(14)船体被覆システム4に代えて、船体91の船底の一部をシートで覆うために、無人潜水機を用いた構成が採用されてもよい。
【0150】
図33は、この変形例に係る船体被覆システム7の構成と、その動作を示した図である。船体被覆システム7は、船底の一部を覆うための帯状のシート状部材であるシート73と、シート73の巻き取りと巻き出しを行うシート巻取ドラム71と、シート73の長手方向の一方の端部に取り付けられた複数のロープ72と、シート73の長手方向の他方の端部に取り付けられた複数のロープ74と、複数のロープ72に取り付けられた1台又は複数台の無人潜水機75を備える。
【0151】
以下、無人潜水機75は、船上の作業員による遠隔操作により水中を移動するものとする。従って、無人潜水機75には、船上の作業員により操作されるコントローラから制御信号を無人潜水機75に送信するための信号線が接続されているが、図33においては、その信号線の図示が省略されている。
【0152】
作業員は、シート巻取ドラム71からシート73を巻き出しながら、例えば船体91の右舷側の船側に沿って無人潜水機75を水中に降下させる(図33(A))。無人潜水機75が水中に達した後、作業員は無人潜水機75を遠隔操作しながら、船体91の船底野下を通って、船体91の左舷側へと移動させる(図33(B)及び(C))。
【0153】
作業員は、無人潜水機75を船体91の左舷側の水面上に浮上させた後、無人潜水機75を甲板上に吊り上げる(図33(D))。無人潜水機75の吊り上げにおいては、例えば、大型の釣り竿等が用いられるが、例えば、クレーン等の装置が用いられてもよい。
【0154】
作業員は、甲板上に吊り上げた無人潜水機75から複数のロープ72を取り外し、それらのロープ72を船首尾方向に拡げるように引っ張って、シート73を船首尾方向に拡げる。続いて、作業員は、それらのロープ72を、船体91の甲板の左舷側の手摺り等に結びつける。
【0155】
続いて,作業員は、シート巻取ドラム71によりシート73の巻き上げを行い、シート73を船体91の船底に密着させる(図33(E))。
【0156】
シート73による船底の被覆を終了する場合、作業員は、船体91の甲板の左舷側の手摺り等に結びつけていたロープ72を手摺り等から取り外した後、シート巻取ドラム71によりシート73の巻き上げを行う。
【0157】
シート巻取ドラム71を甲板上で船首尾方向に移動可能にすることで、シート73により、船底を、例えば船首側から船尾側へと順次被覆することができる。この場合、船体被覆システム7は、例えば、甲板上に船体の上縁部に沿って延伸するように設置された軌道と、その軌道の上を移動し、シート巻取ドラム71を搬送する台車を備えるように構成される。
【0158】
(15)上述した船体被覆システム4において、昇降機構41の数は4つであるものとしたが、昇降機構41の数は2以上(複数)であればいずれの数であってもよい。例えば、図34に示されるように、1台の昇降機構41により昇降されるロープ42に、三角形状の保持部材46を取り付け、保持部材46によって拡げられた状態のシート43の一端を保持させることで、2台の昇降機構41によって、船底の一部を覆うようにシート43を配置できるようにしてもよい。
【0159】
(16)上述した実施形態において示した船体被覆システムの構成部の数、形状、位置等は例示であって、適宜変更されてよい。例えば、船体被覆システム1~3において、シーブ、リール、モータ、シャフト等は、A系、B系、C系の3つの系に応じた個数が設けられているものとしたが、これらの系の数は3つに限れない。例えば、船体被覆システムが、A系、B系のように2つの系に応じたシーブ等を備えてもよいし、A系、B系、C系、D系のように4つの系に応じたシーブ等を備えてもよい。
【符号の説明】
【0160】
1…船体被覆システム、2…船体被覆システム、3…船体被覆システム、4…船体被覆システム、9…船舶、11…昇降機構、12…ロープ、13…シート、21…昇降機構、22…ロープ、23…シート、24…軌道、31…昇降機構、32…ロープ、33…シート、34…ロープ、35…管、36…電磁石ローラ、37…ロープ、41…昇降機構、42…ロープ、43…シート、44…軌道、45…シート巻取ドラム、46…保持部材、54…軌道、91…船体、92…スラスタ、93…プロペラ、94…舵、111…支持枠、112…収納箱、113…シーブ、114…リール、115…モータ、116…シャフト、117…軸受、131…シート本体、132…コロ磁石、133…コロ磁石、134…紫外線発生装置、135…超音波発生装置、211…台車、212…収納箱、213…シーブ、214…リール、215…モータ、216…シャフト、217…軸受、411…台車、412…旋回台、413…クレーン、501…コロ磁石、601…磁石、602…回転体、2111…シャーシ、2112…車輪、2113…モータ、2114…カバー、4111…シャーシ、4112…車輪、4113…モータ、4121…旋回板、4122…旋回歯車、4123…歯車、4124…モータ、4131…ブーム、4132…油圧シリンダ、4133…ロープ巻取ドラム、5011…回転体、5012…永久磁石、5013…緩衝材。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
【手続補正書】
【提出日】2020-12-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の上縁部から外側に張り出すように配置され、下面が開閉可能な箱状部材である収納箱と、
非使用時に上下方向に折り畳まれた状態で前記収納箱に収容され、使用時に前記収納箱から下降され上下方向に展開し船体の一部を被覆するシートと、
上下方向に展開された状態の前記シートの上下方向における複数の位置の各々において、水平方向に間をあけて前記シートに取り付けられている複数のロープと、
前記シートの上下方向における複数の位置の各々に応じて設けられ、対応する前記シートの上下方向における位置において水平方向に間をあけて前記シートに取り付けられている複数のロープに対し、巻き出し及び巻き上げを行う複数のリールと
を備え、
前記シートは、前記複数のリールによる前記複数のロープの巻き上げにより上昇され上下方向に折り畳まれ、前記複数のリールによる前記複数のロープの巻き出しにより上下方向に展開され下降される
船体被覆システム。
【請求項2】
前記シートの上下方向における複数の位置の各々に関し、当該位置において水平方向に間をあけて前記シートに取り付けられている複数のロープの各々の巻き出し及び巻き上げを行う複数のリールは、上から見て弧を描くように甲板上に水平方向に並べて配置され、
上から見て弧を描くように甲板上に水平方向に並べて配置されている複数のリールを自在継手を介して連結するシャフトと、
前記シャフトを回転させる駆動装置と
を備える請求項1に記載の船体被覆システム。
【請求項3】
上下方向に展開された状態の前記シートの右端及び左端の各々に取り付けられ、船首尾方向に引かれて、船体の船首部分又は船尾部分の一部を被覆している前記シートを船体に引き寄せるロープ
を備える請求項1又は2に記載の船体被覆システム。
【請求項4】
甲板上に船体の上縁部に沿って延伸するように設置された軌道と、
前記軌道の上を移動し、前記収納箱、前記シート、前記複数のロープ、及び、前記複数のリールを搬送する台車と
を備える請求項1に記載の船体被覆システム。
【請求項5】
前記シートに回転可能に取り付けられた磁石
を備える請求項1乃至4のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項6】
前記磁石は回転体の表面を外側が同一の極性となるように覆うように配置されている永久磁石である
請求項5に記載の船体被覆システム。
【請求項7】
前記シートに取り付けられた磁石と、
前記シートに取り付けられ、船体上で回転して、磁力により船体に引き寄せられる前記磁石を船体に沿って移動可能とする回転体と
を備える請求項1乃至4のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項8】
前記磁石は電磁石である
請求項5又は7に記載の船体被覆システム。
【請求項9】
上下方向に展開され下降されて船体の一部を被覆している状態の前記シートに囲まれる空間へ船舶の排出口から排出される液体を導く管
を備える請求項1乃至8のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項10】
前記シートの船体に対向する側の面上に取り付けられた紫外線を発生する装置
を備える請求項1乃至のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項11】
前記シートの船体に対向する側の面上に取り付けられた超音波を発生する装置
を備える請求項1乃至10のいずれか1項に記載の船体被覆システム。
【請求項12】
請求項4に記載の船体被覆システムを第1の船体被覆システムとして備え、
甲板上に船体の上縁部に沿って延伸するように設置された軌道と、前記軌道の上を移動する複数の台車と、前記複数の台車の上に旋回可能に配置された複数のクレーンと、前記複数のクレーンにより巻き出し及び巻き上げが行われる複数のロープの各々が取り付けられ船体の船底部分の一部を被覆するシートとを備える船体被覆システムを第2の船体被覆システムとして備え、
前記第2の船体被覆システムが備える前記軌道の少なくとも一部が前記第1の船体被覆システムが備える前記軌道として用いられ、
前記第2の船体被覆システムが備える前記軌道の一部区間が複線となっている
システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
第1乃至第のいずれかの態様に係る船体被覆システムにおいて、前記シートの船体に対向する側の面上に取り付けられた紫外線を発生する装置を備える、という構成が第10の態様として採用されてもよい。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
10の態様に係る船体被覆システムによれば、紫外線により生物の駆除が促進される。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
第1乃至第10のいずれかの態様に係る船体被覆システムにおいて、前記シートの船体に対向する側の面上に取り付けられた超音波を発生する装置を備える、という構成が第11の態様として採用されてもよい。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
11の態様に係る船体被覆システムによれば、超音波により船体に対する生物の付着が損害される。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0047】
また、本発明は、第4の態様に係る船体被覆システムを第1の船体被覆システムとして備え、甲板上に船体の上縁部に沿って延伸するように設置された軌道と、前記軌道の上を移動する複数の台車と、前記複数の台車の上に旋回可能に配置された複数のクレーンと、前記複数のクレーンにより巻き出し及び巻き上げが行われる複数のロープの各々が取り付けられ船体の船底部分の一部を被覆するシートとを備える船体被覆システムを第2の船体被覆システムとして備え、前記第2の船体被覆システムが備える前記軌道の少なくとも一部が前記第1の船体被覆システムが備える前記軌道として用いられ、前記第2の船体被覆システムが備える前記軌道の一部区間が複線となっているシステムを第12の態様として提案する。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
12の態様に係るシステムによれば、船体の船側部分と船底部分を同時にシートで被覆することで、それらの領域における生物の付着の低減または付着している生物の駆除を行うことができる。