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▶ 松本 卓也の特許一覧

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  • 特開-骨再生材料及びその製造方法 図1
  • 特開-骨再生材料及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062654
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】骨再生材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/24 20060101AFI20220413BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220413BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20220413BHJP
【FI】
A61L27/24
A61L27/36 410
A61L27/36 312
A61L27/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020179245
(22)【出願日】2020-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】520419061
【氏名又は名称】松本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】ハラ サトシ エミリオ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081CD12
4C081DA12
(57)【要約】
【課題】短期間で製造可能であって、低コストな骨再生材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】細胞膜断片を主原料とする骨再生材料の製造方法において、細胞膜断片を石灰化する石灰化工程を有することとする。石灰化工程は、細胞膜断片をβグリセロフォスフェートを含む組織・細胞培養培地で48時間以上培養する工程とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞膜断片を主原料とする骨再生材料の製造方法において、
前記細胞膜断片を石灰化する石灰化工程を有する骨再生材料の製造方法。
【請求項2】
前記石灰化工程は、前記細胞膜断片をβグリセロフォスフェートを含む組織・細胞培養培地で48時間以上培養する工程である請求項1に記載の骨再生材料の製造方法。
【請求項3】
前記細胞膜断片が、培養した軟骨細胞を粉砕処理することで断片化された細胞膜断片である請求項1または請求項2に記載の骨再生材料の製造方法。
【請求項4】
細胞膜断片を石灰化して成る骨再生材料。
【請求項5】
請求項4の骨再生材料を含有したコラーゲンゲルである骨再生材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨再生材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療の実現化に向けた研究が盛んになっている。特に、骨組織は他の組織と比較して実用化が早く進んでいる組織であり、様々な手法での骨再生が提案されている。
【0003】
具体的には、以下の方法、あるいはこれらを組み合わせた方法が提案されている。
(1)ハイドロキシアパタイトなどの生体親和性材料(バイオセラミックス)を使った方法。
(2)骨髄間葉系幹細胞・骨芽細胞・iPS細胞などの細胞を使った方法。
(3)塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)や骨形成タンパク質(BMPs)などの増殖因子またはペプチドを使った方法。
【0004】
しかしながら、例えば、ハイドロキシアパタイトなどの生体親和性材料を用いる方法では、生体に埋入した材料が生体組織に対して能動的に働くものではないため、組織再生に時間がかかるという問題が知られている。
【0005】
また、骨髄間葉系幹細胞・骨芽細胞・iPS細胞などの細胞を使った方法では、自己細胞を増殖して使用する必要があるため、必要量の細胞数を準備するために多大な時間とコストがかかるという問題が知られている。しかも、細胞移植を行うにあたり、当該細胞の質を管理することは重要であるものの、これらの管理の方法の標準化だけでなく、細胞移植に関する仕組みの整備も不十分である。
【0006】
増殖因子またはペプチドを使った方法は、厚生労働省による使用の認可が進められているものの、現時点においては骨組織増生を正確に制御できないという問題がある。また、製品価格も高く、さらなる改善が必要である。
【0007】
本発明者らは、このような現状において、生体内(マウス大腿骨骨端部)における初期石灰化部位の系統的解析により、細胞膜断片が骨形成の核となることを見出し、報告した(例えば、非特許文献1参照。)。すなわち、細胞膜断片が骨再生材料となり得るのではないかと考えた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hara ES,et al.,ACS Biomater Sci Eng,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、細胞膜断片のみを骨再生材料として使用した場合、想定していた骨再生が生じないことがあった。具体的にはマウスの頭蓋骨に孔を空けることで骨欠損を生じさせ、この骨欠損部分に細胞膜断片を移植してみたが、骨再生が認められなかった。
【0010】
本発明者らは、このような現状を鑑みて再検討を行った結果、細胞膜断片を石灰化しておくことが重要であることを見出し、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の骨再生材料の製造方法では、細胞膜断片を主原料とする骨再生材料の製造方法において、細胞膜断片を石灰化する石灰化工程を有することとした。
【0012】
さらに、本発明の骨再生材料の製造方法では、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)石灰化工程は、培養後回収し作製した細胞膜断片をグルタミンを含有した組織培養培地で48時間以上培養する工程であること。
(2)細胞膜断片が、培養した軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞を粉砕処理することで断片化された細胞膜断片であること。
【0013】
また、本発明の骨再生材料は、細胞膜断片を石灰化して成る骨再生材料である。
【0014】
本発明によれば、石灰化した細胞膜断片から成る骨再生材料とすることで、短期間で製造可能な骨再生材料を提供することができる。したがって、より低コストの骨再生材料とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る骨再生材料によって骨再生が誘発されることを示した写真である。
図2】細胞膜断片をもとに石灰化誘導し作製した骨再生材料
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の骨再生材料及びその製造方法は、細胞膜断片を石灰化して成る骨再生材料及びその製造方法である。
【0017】
ここで、細胞膜断片は、培養した軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞を粉砕処理することで断片化された細胞膜断片が好適である。
【0018】
より具体的には、軟骨細胞株として既知であるATDC5細胞、骨芽細胞株として既知であるMC3T3-E1細胞、線維芽細胞株として既知であるNIH3T3細胞を用い、これら細胞を細胞培養して増殖させた後、トリプシン処理して回収し、遠心分離によって細胞のみを分離する。分離された細胞に対して超音波破砕装置によって細胞膜の破砕処理を行って細胞膜断片を生成し、超高速遠心分離によって細胞膜断片のみを回収することで、目的とする細胞膜断片を製造している。
【0019】
このようにして得られた細胞膜断片を、組織・細胞培養培地、具体的にはα-MEM+10mM β-グリセロフォスフェートで48時間以上培養することで、細胞膜断片に石灰化が誘導されていることを確認した。
【0020】
一方、骨芽細胞株であるMC3T3-E1細胞を用いて、組織培養培地で培養したが、石灰化が確認されるのに2~3週間を要し、軟骨細胞から成る細胞膜断片の方が高生産性であることが確認できた。
【0021】
さらに、石灰化が生じた細胞膜断片を骨再生材料として、マウスの頭蓋骨に孔を空けることで形成した骨欠損部分に移植してみたところ、図1に示すように、頭蓋骨欠損の再生が誘発されることを確認した。
図1
図2