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特開2022-62686アミノポリカルボン酸錯体粉末、添加材及びセラミック粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062686
(43)【公開日】2022-04-20
(54)【発明の名称】アミノポリカルボン酸錯体粉末、添加材及びセラミック粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/00 20060101AFI20220413BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20220413BHJP
   C07C 229/76 20060101ALI20220413BHJP
   C07C 229/26 20060101ALN20220413BHJP
【FI】
C07F5/00 D CSP
C01G23/00 C
C07C229/76
C07C229/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163941
(22)【出願日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020170784
(32)【優先日】2020-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592097244
【氏名又は名称】日本イットリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 健吾
(72)【発明者】
【氏名】永野 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】森中 宏幸
【テーマコード(参考)】
4G047
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB09
4G047CD03
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB84
4H006BS10
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB84
4H048VA20
4H048VA30
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】広範囲のpHで溶解し、粉体で固結しにくい水溶性化合物を提供すること。
【解決手段】本発明は、平均粒子径が1μm以上1000μm以下である希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末、及び、該希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を含み、セラミック粉末と混合するために用いられる、セラミック粉末の添加材を提供する。また本発明は、希土類化合物を含有するセラミック粉末の製造方法であって、前記希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末が水に溶解した水溶液とセラミック粉末とを混合した後に水分を除去することにより、セラミック粉末の粒子表面を希土類化合物で被覆する、セラミック粉末の製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μm以上1000μm以下である希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末。
【請求項2】
前記アミノポリカルボン酸錯体粉末1gをpH1の硝酸水溶液1Lと混合した場合に溶解し、且つ前記アミノポリカルボン酸錯体粉末1gをpH13のアンモニア水溶液1Lと混合した場合に溶解するものである、請求項1に記載の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末。
【請求項3】
嵩密度が0.5g/cm以上1.2g/cm以下である請求項1又は2に記載の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末。
【請求項4】
前記希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末がEDTA(エチレンジアミン四酢酸)錯体粉末である請求項1~3のいずれか1項に記載の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を含む、セラミック粉末と混合するために用いられる、セラミック粉末の添加材。
【請求項6】
セラミックコンデンサ用の誘電体からなる粉末と混合するために用いられる、請求項5に記載の添加材。
【請求項7】
ペロブスカイト構造を有する前記誘電体からなる粉末と混合するために用いられる、請求項6に記載の添加材。
【請求項8】
チタン酸バリウムの粉末と混合するために用いられる、請求項5~7のいずれか1項に記載の添加材。
【請求項9】
希土類化合物を含有するセラミック粉末の製造方法であって、
請求項1~4のいずれか1項に記載の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を水に溶解した水溶液とセラミック粉末とを混合した後に水分を除去することにより、セラミック粉末の粒子表面を希土類化合物で被覆する、セラミック粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノポリカルボン酸錯体粉末、添加材及びセラミック粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類化合物は添加材として頻繁に使用される。例えば、積層セラミックコンデンサにおいては、誘電体層の主原料であるチタン酸バリウム系セラミック粒子等のセラミック粒子の表面に希土類酸化物を均一に分散させることで絶縁抵抗不良の発生しない信頼性の高い積層セラミックコンデンサが得られることが知られている。(例えば、特許文献1)
このようにセラミック粒子の回りに希土類化合物を均一に分散させるために、溶媒中で希土類化合物とセラミック粒子をメディアによって分散させる。
希土類化合物の中には水溶性を示す化合物を用いることがある。例えば、特許文献2ではセラミック粒子の表面に希土類化合物を分散させる用途において、ジスプロシウムのクエン酸錯体を用いている。特許文献3では同様の用途において酢酸イットリウム4水和物等を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2015/040881号のパンフレット
【特許文献2】特開2007-204315号公報
【特許文献3】特開2013-163614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
希土類化合物を添加材として用いる場合、主原料や他の添加材が分散し易いpHで溶解することが求められる。そのため、広範囲のpHで溶解することが求められる。
また、希土類元素の水溶性化合物を水溶液として提供すると、体積が増えて輸送でコストがかかる。一方で、粉体で提供すると固結して生産加工ラインで閉塞やハンドリングトラブルを起こすため、粉体で固結しにくい水溶性化合物の提供が求められる。
【0005】
本発明者は鋭意検討したところ、特定粒径の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末は、固結しにくく、広範囲のpHで溶解することが判った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記知見に基づくものであり、平均粒子径が1μm以上1000μm以下である希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を提供するものである。
【0007】
また本発明は、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を含み、セラミック粉末と混合するために用いられる、セラミック粉末の添加材を提供するものである。
【0008】
また本発明は、希土類化合物を含有するセラミック粉末の製造方法であって、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末が水に溶解した水溶液とセラミック粉末とを混合した後に水分を除去することにより、セラミック粉末の粒子表面を希土類化合物で被覆する、セラミック粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉末によれば幅広いpHで溶解するため、特定のpHにおいて高分散状態にある主原料スラリーに対して、希土類元素を溶解させることができ、効率よく希土類化合物と主原料を混合させることができる。また、希土類元素を粉状で提供しても固結せずに生産加工ラインで閉塞やハンドリングトラブルを低減させることができる。
また本発明によれば、セラミック粉末中の希土類化合物の分散性を効果的に向上でき、積層セラミックコンデンサに好適なセラミック粉末を提供できる添加材、及びセラミック粉末の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で得られたチタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末の外観を示すSEM像である。
図2図1で得られたSEM像のDy元素マッピング図である。
図3図1で得られたSEM像のTi元素マッピング図である。
図4図1で得られたSEM像のBa元素マッピング図である。
図5】比較例1で得られたチタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末の外観を示すSEM像である。
図6図5で得られたSEM像のDy元素マッピング図である。
図7図5で得られたSEM像のTi元素マッピング図である。
図8図5で得られたSEM像のBa元素マッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明は希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末に関する。アミノポリカルボン酸錯体粉末におけるアミノポリカルボン酸錯体とは、希土類元素である中心金属原子に対し、配位子としてアミノポリカルボン酸又はその塩が配位した錯体を指す。アミノポリカルボン酸とは、分子中にアミノ基と複数のカルボキシ基を有するキレート剤の総称である。アミノポリカルボン酸としては、具体的にはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、(HEDTA(ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、TTHA(トリエチレンテトラミン六酢酸)などのアミノポリ酢酸;ヒドロキシイミノジコハク酸等のアミノポリコハク酸が挙げられる。またアミノポリカルボン酸の塩としてはアミノポリカルボン酸における複数のカルボキシ基の一部が、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の希土類元素以外のカチオンとの塩であるものを指す。アミノポリカルボン酸としては入手容易性の点でアミノポリ酢酸が好ましく、その中でも特に一般的に使用されているという点でEDTAが最も好ましい。アミノポリカルボン酸がEDTAの場合、通常、希土類元素の中心元素に対しEDTA配位子はモル比1:1で配位している。
【0012】
希土類元素としては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が挙げられ、Y、Dy、Gd、Tb、Ho、Erが大気に対する耐食性及びセラミック粉末との反応性の点で好ましく、Dyが最も好ましい。
【0013】
本発明で用いる希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末は、平均粒子径が1μm以上1000μm以下であることが好ましい。希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末の平均粒子径はレーザ回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D50)を指す。
【0014】
希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末は、平均粒子径(D50)が1μm以上であることで、大気中に前記粉末を放置しても固結しがたい。粒径が小さすぎると作製することが困難になるため作製の容易性という観点からは、平均粒子径が10μm以上がよい。平均粒子径を10μm以上とすることで、製造に高速撹拌機のような装置が不要である又は歩留まりを上げるための加工が不要でありコストがかからない点でより好ましい。なお具体的な加工方法としては、ビーズミル粉砕、ジェットミル解砕、篩分けがある。また、セラミック粉末中の希土類化合物の分散性の観点から、平均粒子径は1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。平均粒子径(D50)はレーザ回折・散乱式粒度分布測定法により測定された小粒径側から体積基準の積算50%の粒径であり、具体的には後述する実施例に記載の測定方法で測定できる。
アミノポリカルボン酸錯体粉末の平均粒子径を1μm以上1000μm以下とすることは実施例に記載の作製方法のほか、ビーズミル粉砕、ジェットミル解砕、篩分け等の加工手段により実現できる。
【0015】
本発明の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末は、嵩密度が特定範囲であることが好ましい。具体的には嵩密度は、0.5g/cm以上であることが固結対策の点で有利である。この観点から嵩密度は0.6g/cm以上であることがより好ましく、0.7g/cm以上であることが更に好ましい。また嵩密度は、1.2g/cm以下であることが輸送や作業中の粉砕の対策という点で有利である。この観点から嵩密度は1.1g/cm以下であることが更に好ましい。希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末の嵩密度は、具体的には後述する実施例に記載の測定方法で測定できる。
【0016】
本発明の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末は、比表面積が特定範囲であることが好ましい。具体的には比表面積は、0.5m/g以上であることが溶解性の点で有利である。また比表面積は、5m/g以下であることが固結予防の点で有利である。この観点から希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末は、比表面積が1m/g以上4m/g以下であることが好ましく、2m/g以上3.5m/g以下であることがより好ましい。比表面積は後述する実施例に記載の測定方法で測定できる。
【0017】
前記の嵩密度及び比表面積は実施例に記載の作製方法のほか、ビーズミル粉砕、ジェットミル解砕、篩分等の加工、作製条件(攪拌条件や析出温度)の調整等により実現できる。
【0018】
本発明の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末は水に溶解させて水溶液としたときに、幅広いpH域で沈殿物を生成せず、安定である。具体的には、水に可溶であり、且つ濃度1g/Lの水溶液にしたときに、該水溶液が25℃で1.0以上13.0以下の範囲のpH域において、アミノポリカルボン酸錯体に由来する沈殿物を前記水溶液中に生じさせないものであることが好ましい。具体的には、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合した場合に溶解し、且つ希土類アミノポリカルボン酸錯体粉末1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液1Lと混合した場合に溶解するものである。そして、25℃で24時間静置したときに目視にて沈殿が生じないことである。このように幅広いpHにおいて水溶性の状態が安定であることは、本発明の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体を後述するようにセラミック粉末と混合したときに、各セラミック粒子の表面に均一に希土類化合物を付着させることができるため好ましい。ここでいう希土類化合物とは、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体やその焼成により生じる希土類元素の酸化物を指す。
【0019】
本発明において、水に可溶であるとは、25℃の水100mlに1g以上溶解する性質を指すことが好ましい。
【0020】
更に、本発明は、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を含む、セラミック粉末と混合するために用いられる、セラミック粉末の添加材を提供する。本明細書において希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末が「セラミック粉末と混合するために用いられる」という意味は、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を粉末の状態のままセラミック粉末と混合することを要するのではなく、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を水などの溶媒に溶解させてセラミック粉末に混合する場合を含む。
【0021】
例えば、積層セラミックコンデンサの技術分野においては、誘電体層の主原料であるチタン酸バリウム等のセラミック粒子の表面に希土類元素の酸化物を均一に分散させることで絶縁抵抗不良の発生しない信頼性の高い積層セラミックコンデンサが得られることが知られている。
上述した通り、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末(特に特定粒径の希土類元素のアミノカルボン酸錯体粉末)は、固結しにくく水に溶解させたときに粗大粒子が水溶液中に残存しにくい。また前記の希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末は、幅広いpH範囲で析出しにくく、水溶性が高い。従って希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を水に溶解させた水溶液とセラミック粉末とを混合すると、セラミック粒子の表面に均一に希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体を付着させることができる。希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体が粒子表面に均一に付着したセラミック粉末を焼成することでセラミック粒子の表面に均一に希土類元素の酸化物が付着した希土類酸化物含有セラミック粉末が得られる。得られた希土類酸化物含有セラミック粉末を積層セラミックコンデンサ材料として用いることで、絶縁抵抗不良が抑制された信頼性の高い積層セラミックコンデンサが得られる。なお、ここでいう「均一に付着」するとは、粒子ごとにおける付着厚さの違いや付着量の違い、付着位置の偏在が抑制された状態をいう。
【0022】
これに対し、従来の希土類成分は、積層セラミックコンデンサ用のセラミック粉末中に希土類化合物を高い分散性で分散させる観点から十分なものではなかった。
例えば、特許文献1(再表2015-040881号公報)では、ボールミルやビーズミルといった分散メディアを用いる分散機を用い、溶媒中でセラミック粉末中に希土類元素の酸化物を分散させている。しかし、希土類元素の酸化物のような溶媒に不溶な化合物は、これをセラミック粒子の表面に均一に付着させるために、長時間分散メディアを用いてセラミック粒子を分散させると、セラミック粒子が粉砕や摩耗されることで本来の性能が低下することがある。一方で、分散メディアを用いても短時間しか分散させないと、希土類化合物の粗大粒子が残る懸念がある(後述する比較例1を参照)。
また例えば、溶媒中でセラミック粉末と混合させる希土類成分として、希土類元素の酸化物の代わりに、希土類元素のクエン酸錯体等の有機酸錯体を用いることも行われている特許文献2(特開2007-204315号公報)及び特許文献3(特開2013-163614号公報)。しかし希土類元素の有機酸錯体はセラミック粒子の表面に均一に付着させやすいものの、析出を防ぐためにpH調整をしなければならないか、固結しないように十分管理する必要がある(後述する比較例2及び3を参照)。
【0023】
希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体が、セラミック粉末と混合するために用いられる場合、セラミック粉末としては一次粒子径が0.05μm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒子径が0.05μm以上であることで、セラミック粉末の凝集が抑制され、セラミック粉末にアミノポリカルボン酸錯体を分散させやすい利点がある。また、セラミック粉末の一次粒子径が1.0μm以下であることで、希土類化合物のセラミック粉末への分散性を向上させる本発明の技術的意義が大きなものとなる利点がある。この観点から、セラミック粉末は一次粒子径が0.05μm以上1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることが更に好ましい。一次粒子径は、BET法より測定された比表面積s(m/g)から求めた粒径である。一次粒子径d(μm)はd=6/(ρs)である(ρは真密度(cm/g))。なおセラミック粉末のBET比表面積の測定方法は、実施例において後述するアミノカルボン酸錯体粉末等の希土類化合物の比表面積の測定方法と同様である。
【0024】
更に上述した通り、セラミックコンデンサの信頼性向上効果が得られる点でセラミック粉末はセラミックコンデンサ用の誘電体からなる粉末であることが好ましい。セラミックコンデンサ用の誘電体からなる粉末としては、ペロブスカイト構造を有することが強誘電性を有する点で好ましい。ペロブスカイト構造を有するセラミックコンデンサ用の誘電体からなる粉末としては、チタン酸バリウムが挙げられる。セラミックコンデンサの信頼性向上のために、チタン酸バリウムにSr、Ca等をドープした誘電体を用いてもよい。
【0025】
本発明の添加材の性状としては、粉末状、フレーク状、塊状が挙げられ、上述した希土類元素のアミノカルボン酸粉末の固結しがたい特性を生かし、流通性の点から、粉末状であることが好ましい。
上述したセラミック粉末中への希土類化合物の分散性向上を図ることができる限度において、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末以外の成分を含有していてもよい。本発明の添加材の固形分中、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末が占める割合は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが最も好ましく、50質量%以上であってもよい。固形分とは溶媒を除く成分合計を指す。
【0026】
以下、希土類化合物を含有するセラミック粉末の製造方法を説明する。本発明のセラミック粉末の製造方法は、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を水に溶解した水溶液とセラミック粉末とを混合した後に水分を除去することにより、セラミック粉末の粒子表面を希土類化合物で被覆するものである。
【0027】
希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末を水に溶解した水溶液とセラミック粉末とを混合する際には、水と希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末とセラミック粉末とを同時に容器に入れて混合してもよく、また、水と希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末とを混合して水溶液を得て、この水溶液をセラミック粉末とを混合してもよい。
【0028】
希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末は、セラミック粉末100molに対し、希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体における希土類元素が0.1mol以上10mol以下となるように混合することが、得られるセラミックコンデンサの信頼性向上の点で好ましく、1mol以上5mol以下となるように混合することがより好ましい。
【0029】
更に、水の使用量は、水、セラミック粉末と希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体粉末との合計量のうち、セラミック粉末の濃度が5質量%以上70質量%以下であることが均一に希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体をセラミック粉末に付着させる点及び粘度を下げて操作性を高める点で好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
得られたアミノポリカルボン酸錯体とセラミック粉末及び水の混合物から水分を除去し、粉末状とする。水分の除去には、乾燥及び/又は焼成を行うことが便宜的である。焼成の例としては、例えば500℃~1300℃で行うことができる。焼成雰囲気としては、例えば大気等の含酸素雰囲気が挙げられる。本条件の焼成では、セラミック粒子の表面を希土類酸化物で被覆することが可能になる。
【0031】
更に、セラミック粉末と希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体及びと水との混合はホモジナイザー、ミル(ビーズミル、ボールミル等)、ミキサー、グラインダー、ペイントシェーカなどでの機械的処理により行うことができる。特に分散メディアを用いた解砕処理が好ましい。スラリーに対する分散時間は好ましくは1分以上1時間以下であり、より好ましくは2分以上30分以下である。
【0032】
セラミック粉末と希土類元素のアミノポリカルボン酸錯体及び水との混合に分散メディアを用いる場合、分散メディアの材質としては、特に限定されないが、金属不純物の混入を抑制する観点から、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミック製のメディアが好ましく挙げられる。ここでいうジルコニアにはYSZやPSZ等の安定化ジルコニアを含む。
【0033】
分散時間短縮や分散性向上の点から、分散メディアの粒径としては0.015mm以上2mm以下が好ましく、0.08mm以上1mm以下がより好ましい。分散時間短縮や分散性向上の点から、スラリーと分散メディアとの体積比は前者:後者が1:0.1以上5以下であることが好ましく、0.5以上1以下であることがより好ましい。
【0034】
次いで本発明のアミノポリカルボン酸錯体粉末の好適な製造方法について説明する。
本発明のアミノポリカルボン酸錯体粉末は、希土類元素の水溶性塩とアミノポリカルボン酸とを水及びアルカリ存在下で混合することで製造できる。水溶性塩としては硝酸塩等が挙げられる。アミノポリカルボン酸錯体粉末は、当該工程において、析出した粉末をエタノールで洗浄後、相対湿度50%以下の大気雰囲気下で、30~80℃、5時間~24時間加熱して得られることが好ましい。このようなエタノール洗浄・乾燥過程を経ることで平均粒子径が1000μm以下の粒子を首尾よく製造できる。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0036】
〔実施例1〕(Dy-EDTA錯体粉末)
エチレンジアミン四酢酸0.44molを純水200mlに添加し、24質量%の苛性ソーダ150mlを加えて溶解した。この水溶液に硝酸ジスプロシウムn水和物0.44molを純水150mlに溶解した水溶液を添加し、室温にて2時間スターラーで100rpmで撹拌した。析出した固体をろ過した後、エタノール150mlで繰り返し3回洗浄し、相対湿度50%の大気雰囲気下で50℃で10時間乾燥することで135gのジスプロシウム-EDTA錯体粉末を得、これを1バッチとして、実験に必要なバッチ数だけサンプルを作成した。
得られたジスプロシウム-EDTA錯体粉末は下記方法で比表面積、嵩密度、平均粒子径を測定したところ、比表面積は3.2m/g、嵩密度は0.84g/cm、平均粒子径は29.3μmであった。
得られたジスプロシウム-EDTA錯体粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
得られたジスプロシウム-EDTA錯体20gを24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置したところ、ジスプロシウム-EDTA錯体は粉末状のままであり、目開き500μmの超音波篩で篩下率100%でふるうことができ、固結しなかった。平均粒子径は72時間放置前後でほとんど変化しなかった。
【0037】
(比表面積の測定方法)
マウンテック社製全自動比表面積計Macsorb model―1201を用いてBET1点法にて測定した。使用ガスは、窒素ヘリウム混合ガス(窒素30vol%)とした。測定の前処理としてガラスセルに粉末を入れ装置にセットし、セットしたガラスセルに窒素ガスを流通させて150℃で60分間乾燥させた。
【0038】
(嵩密度の測定方法)
多機能型粉体物性測定器マルチテスターMT-1000型((株)セイシン企業製)を用いて、ふるいを通過させずに粉末を供給しなかったこと以外は取扱説明書の「7-2.静カサ密度(最疎充填カサ密度)の測定方法」に従って嵩密度を測定した。
【0039】
(平均粒子径の測定方法)
日機装株式会社製マイクロトラックMT3300EXIIにて測定した。測定の際には、分散媒としてエタノールを用い、マイクロトラックMT3300EXIIの試料循環器のチャンバーに試料を添加して、出力40W、300秒でMT3300EXIIに備え付けられている超音波で分散処理を行い、適正濃度であると装置が判定してからD50を測定した。
【0040】
(チタン酸バリウム粉末との分散性試験)
チタン酸バリウム粉末(一次粒子径0.1μm、共立マテリアル株式会社製BTHP-100)と純水を混合して10質量%のチタン酸バリウムスラリーを得た。このスラリーのpHは25℃で10.0であった。
前記チタン酸バリウムスラリー中のチタン酸バリウム100mol部に対して、前記ジスプロシウム-EDTA錯体粉末をDyとして4mol部と、φ0.1mmのYTZビ-ズ(株式会社ニッカト-製)との体積比がスラリー:YTZビ-ズ=1:2となるように容器に入れて、ペイントシェーカで3分間解砕した。得られたスラリーを120℃で乾燥した後、大気雰囲気下、1000℃で3時間焼成してチタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末を得た。
この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察した結果が図1図4である。図1図4において、Dy化合物(酸化ジスプロシウム)がチタン酸バリウムの回りに均一に分散して粗大粒子がないことが判る。
なお、本チタン酸バリウム粉末との混合試験は、乾燥後のジスプロシウム-EDTA錯体粉末ではなく、24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置した後、超音波篩前のジスプロシウム-EDTA錯体粉末を使用した。
【0041】
〔比較例1〕(酸化ジスプロシウム粉末)
酸化ジスプロシウム粉末(日本イットリウム(株)製)を準備した。準備した酸化ジスプロシウム粉末は比表面積が10m/g、平均粒子径が0.5μm、嵩密度0.5g/cmであった。
前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を、前記ジスプロシウム-EDTA錯体粉末に変えて前記酸化ジスプロシウム粉末を使用したこと以外は同様に実施して、チタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末を得た。
この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察した結果が図5図8である。図6において、Dy化合物(酸化ジスプロシウム)の粗大粒子が矢印部に特に存在していることが判る。
【0042】
〔実施例2〕(Y―EDTA錯体粉末)
実施例1において硝酸ジスプロシウムを硝酸イットリウムに変更した。その点以外は実施例1と同様としてY―EDTA錯体粉末を得た。得られた錯体粉末の比表面積は1.3m/g、嵩密度は0.88g/cm、平均粒子径は32.3μmであった。
得られたイットリウム-EDTA錯体粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
得られた錯体粉末を24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置したところ、粉末状のままであり、目開き500μmの超音波篩で篩下率100%でふるうことができ、固結しなかった。平均粒子径は72時間放置前後でほとんど変化しなかった。
また、前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を、前記ジスプロシウム-EDTA錯体粉末に変えてY-EDTA錯体粉末を使用したこと及びYとして4mol部使用したこと以外は実施例1と同様に実施して、チタン酸バリウム及び酸化イットリウムの混合粉末を得た。
この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察するとY化合物(酸化イットリウム)がチタン酸バリウムの回りに均一に分散して粗大粒子はなかった。
【0043】
〔実施例3〕(Ho―EDTA錯体粉末)
実施例1において硝酸ジスプロシウムを硝酸ホルミウムに変更した。その点以外は実施例1と同様としてHo―EDTA錯体粉末を得た。得られた錯体粉末の比表面積は1.0m/g、嵩密度は0.93g/cm、平均粒子径は27.5μmであった。
得られたホルミウム-EDTA錯体粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
得られた錯体粉末を24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置したところ、粉末状のままであり、目開き500μmの超音波篩で篩下率100%でふるうことができ、固結しなかった。平均粒子径は72時間放置前後でほとんど変化しなかった。
また、前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を、前記ジスプロシウム-EDTA錯体粉末に変えてHo-EDTA錯体粉末を使用したこと及びHoとして4mol部使用したこと以外は実施例1と同様に実施して、チタン酸バリウム及び酸化ホルミウムの混合粉末を得た。
この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察するとHo化合物(酸化ホルミウム)がチタン酸バリウムの回りに均一に分散して粗大粒子はなかった。
【0044】
〔実施例4〕(Yb―EDTA錯体粉末の製造)
実施例1において硝酸ジスプロシウムを硝酸イッテルビウムに変更した。その点以外は実施例1と同様としてアミノポリカルボン酸錯体粉末を得た。得られた錯体粉末の比表面積は2.6m/g、嵩密度は0.99g/cm、平均粒子径は29.1μmであった。
得られたイッテルビウム-EDTA錯体粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
得られた錯体を24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置したところ、粉末状のままであり、目開き500μmの超音波篩で篩下率100%でふるうことができ、固結しなかった。平均粒子径は72時間放置前後でほとんど変化しなかった。
また、前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を、前記ジスプロシウム-EDTA錯体粉末に変えてYb-EDTA錯体粉末を使用したこと及びYbとして4mol部使用したこと以外は実施例1と同様に実施して、チタン酸バリウム及び酸化イッテルビウムの混合粉末を得た。
この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察するとYb化合物(酸化イッテルビウム)がチタン酸バリウムの回りに均一に分散して粗大粒子はなかった。
【0045】
〔比較例2〕(Dyのクエン酸錯体)
硝酸ジスプロシウム0.2mol及びクエン酸1水和物0.6molをエタノール550gに溶解した後、苛性ソーダ150mlを添加し2時間攪拌した。析出物をろ過してエタノール150ml繰り返し3回洗浄した後、大気雰囲気下で50℃で10時間乾燥させることでジスプロシウム-クエン酸錯体を得た。得られた錯体粉末の比表面積は0.4m/g、嵩密度は0.74g/cm、平均粒子径は78.6μmであった。
得られたジスプロシウム-クエン酸錯体1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
また、得られたジスプロシウム-クエン酸錯体を24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置した後は固結して大きな塊となり500μmの篩でふるっても2%しかふるえなかった。つまり、大気中では固結して一つの大きな塊となった。
したがって前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を実施することはできなかった。
【0046】
〔比較例3〕
酸化ジスプロシウム0.3mol(Dy元素として0.6mol)を90℃に加熱した濃度80質量%の酢酸水溶液172.2mlに溶解して冷却晶析することで酢酸ジスプロシウム粉末を得た。得られた酢酸ジスプロシウム粉末の比表面積は5.0m/g、嵩密度は1.0g/cm、平均粒子径は30.0μmであった。
得られた酢酸ジスプロシウム粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1L混合すると溶解したが、1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合しても溶解しなかった。pH1の硝酸水溶液1Lに溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。また、pH13の水溶液と混合したものは25℃で24時間静置しても溶解しなかった。
得られた酢酸ジスプロシウム粉末を24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置したところ、粉末状のままであり、目開き500μmの超音波篩で篩下率100%でふるうことができ、固結しなかった。平均粒子径は72時間放置前後でほとんど変化しなかった。
また、前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を、前記ジスプロシウム-EDTA錯体粉末に変えて酢酸ジスプロシウム粉末を使用したこと以外は実施例1と同様に実施して、チタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末を得た。この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察するとDy化合物(酸化ジスプロシウム)の粗大粒子が存在していた。
【0047】
〔実施例5〕
実施例1に記載のジスプロシウム‐EDTA錯体の作製方法において、スターラーで100rpmの撹拌ではなく、高速撹拌機で1000rpmで攪拌することで比表面積が4.1m/g、嵩密度は0.8g/cm、平均粒子径は8.3μmのジスプロシウム-EDTA錯体粉末を得た。
得られたジスプロシウム-EDTA錯体粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
この平均粒子径10μm未満のジスプロシウム‐EDTA錯体を実施例1と同様に24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置したが目開き500μmの超音波篩で篩下率100%でふるうことができ、固結しなかった。平均粒子径は72時間放置前後でほとんど変化しなかった。
得られたジスプロシウム-EDTA錯体粉末を、実施例1で得られた錯体粉末の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を行い、チタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末を得た。
この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察するとDy化合物(酸化ジスプロシウム)がチタン酸バリウムの回りに均一に分散して粗大粒子はなかった。
【0048】
〔実施例6〕
実施例1に記載のジスプロシウム‐EDTA錯体の作製方法において、スターラーで100rpmの撹拌ではなく、高速撹拌機で10000rpmで攪拌することで比表面積が4.8m/g、嵩密度は0.7g/cm、平均粒子径が1.0μmのジスプロシウム‐EDTA錯体を得た。
この平均粒子径1.0μmのジスプロシウム-EDTA錯体粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
この平均粒子径1.0μmのジスプロシウム‐EDTA錯体を実施例1と同様に24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置したが目開き500μmの超音波篩で篩下率100%でふるうことができ、固結しなかった。平均粒子径は72時間放置前後でほとんど変化しなかった。
得られたジスプロシウム-EDTA錯体粉末を、実施例1で得られた錯体粉末の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を行い、チタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末を得た。
この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察するとDy化合物(酸化ジスプロシウム)がチタン酸バリウムの回りに均一に分散して粗大粒子はなかった。
【0049】
〔実施例7〕
実施例1に記載のジスプロシウム‐EDTA錯体の作製方法において、実施例1で実施しているエタノール洗浄に用いるエタノール量を150mlから20mlに変更して繰り返し3回洗浄し、相対湿度50%の大気雰囲気下で50℃で10時間乾燥することで、比表面積0.6m/g、嵩密度は1.1g/cm、平均粒子径800μmのジスプロシウム-EDTA錯体粉末を得た。
この平均粒子径800μmのジスプロシウム-EDTA錯体粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
このジスプロシウム‐EDTA錯体を実施例1と同様に大気中で、72時間放置したが、平均粒子径の変化はなく固結しなかった。平均粒子径は72時間放置前後でほとんど変化しなかった。
得られたジスプロシウム-EDTA錯体粉末を、実施例1で得られた錯体粉末の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を行い、チタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末を得た。
この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察するとDy化合物(酸化ジスプロシウム)がチタン酸バリウムの回りに均一に分散して粗大粒子はなかった。
【0050】
〔比較例4〕
実施例1に記載のジスプロシウム‐EDTA錯体の作製方法において、実施例1で実施しているエタノール150mlで繰り返し3回洗浄する工程をせず、相対湿度50%の大気雰囲気下で50℃で10時間乾燥した。乾燥凝集により平均粒子径1800μm、比表面積0.3m/g、嵩密度は1.3g/cmのジスプロシウム-EDTA錯体粉末を得た。
この平均粒子径1800μmのジスプロシウム-EDTA錯体粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
このジスプロシウム‐EDTA錯体を実施例1と同様に大気中で、72時間放置したが、平均粒子径の変化はなく固結しなかった。
得られたジスプロシウム-EDTA錯体粉末を、実施例1で得られた錯体粉末の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を行い、チタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末を得た。
この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察するとDy化合物(酸化ジスプロシウム)の粗大粒子が存在していた。
【0051】
〔比較例5〕
実施例1に記載のジスプロシウム‐EDTA錯体の作製方法において、スターラーで100rpmの撹拌ではなく、高速撹拌機で20000rpmで攪拌することで比表面積が5.3m/g、嵩密度は0.5g/cm、平均粒子径が0.5μmのジスプロシウム‐EDTA錯体を得た。
この平均粒子径0.5μmのジスプロシウム-EDTA錯体粉末は、1gを25℃でpH1の硝酸水溶液1Lと混合すると溶解し、且つ1gを25℃でpH13のアンモニア水溶液と混合すると溶解した。いずれの場合も溶解後の液を25℃で24時間静置しても沈殿が析出しなかった。
この平均粒子径0.5μmのジスプロシウム‐EDTA錯体を実施例1と同様に24℃、相対湿度78%の大気中で、72時間放置した後は固結して500μmの篩でふるっても30%しかふるえなかった。
得られたジスプロシウム-EDTA錯体粉末を、実施例1で得られた錯体粉末の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして前記チタン酸バリウム粉末との分散性試験を行い、チタン酸バリウム及び酸化ジスプロシウムの混合粉末を得た。この粉末を走査型オ-ジェ電子顕微鏡で観察するとDy化合物(酸化ジスプロシウム)の粗大粒子が存在していた。
【0052】
上記実施例及び比較例の測定・評価結果を下記表1にまとめた。なお、各実施例で得られた錯体粉末及び比較例で得られた各粉末について25℃の純水100mlに対し、1g以上溶解するか否かにより純水への溶解性を確認した結果を併せて表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
以上の通り、希土類アミノポリカルボン酸錯体の代表例である希土類EDTA錯体の粉末は、D50が1μm以上であれば固結せず、D50が1000μm以下であれば、セラミック粉末の代表例であるチタン酸バリウム粉末への分散性が良好であり、1~13という広いpH範囲で水溶液が沈殿を生成しないことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8