(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062761
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】耐火二層管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 9/133 20060101AFI20220414BHJP
B28B 1/24 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
F16L9/133
B28B1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170878
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000187194
【氏名又は名称】昭和電工建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】上野 和也
(72)【発明者】
【氏名】江花 豊
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 修
(72)【発明者】
【氏名】塩川 直哉
【テーマコード(参考)】
3H111
4G052
【Fターム(参考)】
3H111AA01
3H111BA07
3H111BA15
3H111CA52
3H111CB03
3H111CB04
3H111CB14
3H111CB23
3H111CB29
3H111DA11
3H111EA03
3H111EA17
4G052BC03
(57)【要約】
【課題】耐火二層管の耐火層の亀裂を抑制できる耐火二層管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る耐火二層管1は、合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層3が形成された耐火二層管であって、前記水硬性材料の耐火層3の表面に凸部3Aを有し、前記凸部3Aが、前記水硬性材料の耐火層を形成する際に用いられる、金型の分割面に対応する位置に形成されると共に、前記合成樹脂管の一の受け口部4から他の受け口部5に向かって、前記合成樹脂管の軸線に沿って、かつ稜線状に連続して形成されている、
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層が形成された耐火二層管であって、
前記水硬性材料の耐火層の表面に凸部を有し、
前記凸部が、
前記水硬性材料の耐火層を形成する際に用いられる、金型の分割面に対応する位置に形成されると共に、
前記合成樹脂管の一の受け口部から他の受け口部に向かって、前記合成樹脂管の軸線に沿って、かつ稜線状に連続して形成されている、
ことを特徴とする耐火二層管。
【請求項2】
前記凸部は、耐火層の外周表面の相対向する位置に、対になって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の耐火二層管。
【請求項3】
前記凸部のテーパの角度は、2度以上63度以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐火二層管。
【請求項4】
前記合成樹脂管の外周表面と耐火層との間に、テープ緩衝材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の耐火二層管。
【請求項5】
合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層を形成する耐火二層管の製造方法であって、
合成樹脂管の外周表面に水硬性材料の耐火層を形成する金型の分割面に、
前記合成樹脂管の一の受け口部から他の受け口部に向かって、前記合成樹脂管の軸線に沿って、かつ稜線状に連続して形成された、水硬性材料からなる凸部を形成するための凹部が形成され、
前記金型内に合成樹脂管を収容し、合成樹脂管の外周表面に水硬性材料を注入することにより、
合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層を形成すると共に、前記耐火層の表面に前記凸部が形成されることを特徴とする耐火二層管の製造方法。
【請求項6】
前記凹部は、相対向する位置に対になって形成された凹部であることを特徴とする請求項5に記載の耐火二層管の製造方法。
【請求項7】
前記金型内に合成樹脂管を収容し、合成樹脂管の外周表面に水硬性材料を注入することにより、合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層を形成すると共に、凸部を形成した後、
前記水硬性材料の硬化を促進させる蒸気養生工程が実行され、
続いて、前記水硬性材料を硬化させる乾燥工程が実行される、
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の耐火二層管の製造方法。
【請求項8】
前記凸部のテーパの角度は、2度以上63度以下であることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の耐火二層管の製造方法。
【請求項9】
合成樹脂管の表面にテープ緩衝材を形成し、
前記金型内に、テープ緩衝材を形成した合成樹脂管を収容し、合成樹脂管の外周表面に水硬性材料を注入することにより、
合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層を形成すると共に、前記耐火層の表面に前記凸部が形成されることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれか1項に記載の耐火二層管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐火二層管およびその製造方法に関し、特に、合成樹脂管の外周に被覆された耐火層の亀裂を抑制した耐火二層管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐火性がない材料で形成された管に耐火性を付与するため、その表面を耐火性材料で被覆した、耐火二層管が知られている。
一般的な耐火二層管は、ポリ塩化ビニル管等の合成樹脂管の外周を、耐火性を有する水硬性材料等(以下、「モルタル」ともいう)で被覆している。
【0003】
ポリ塩化ビニル管等の合成樹脂管は、金属管に比べて軽量であり、また耐薬品性、耐衝撃性等にも優れていることから、排水管、換気管等に使用されている。
しかしながら、前記合成樹脂管は耐火性に劣り燃焼するため、火災時には前記合成樹脂管を介して、延焼等を起こす虞があった。
そのため、建築材としては、合成樹脂管の外周をモルタルで被覆し、耐火性を付与した耐火二層管が使用されている。
【0004】
しかしながら、この耐火二層管にあっては、合成樹脂管の外周に被覆されたモルタルに亀裂が生じ、その亀裂が大きい場合には、所定の耐火性を発揮し得ない虞があった。
この問題を解決するために、合成樹脂管とモルタルの間に紙や樹脂や繊維等のテープないしシール状の緩衝材層を設け、亀裂を抑制する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記したように、特許文献1のような合成樹脂管とモルタルの間に、紙や樹脂や繊維等のテープないしシール状の緩衝材層を設ける技術を採用した場合であっても、モルタルに亀裂が生じることがあり、特に気温が高い夏に亀裂が発生することがあった。
【0007】
また、特許文献1のように合成樹脂管とモルタルの間に、紙や樹脂や繊維等のテープないしシール状の緩衝材層を設ける技術は、手間と費用がかかるという課題があった。この手間を省くため、テープ巻き機を用いた自動化も考えられるが、テープ巻き機の装置の費用が嵩むこと、またテープ巻き機を導入しても無人化は困難であった。
このように、合成樹脂管とモルタルの間に紙や樹脂や繊維等のテープないしシール状の緩衝材層を設ける技術は、単純に部品点数の増加だけではなく、製造上の大きな負担となっていた。
【0008】
そこで、本発明者らは、合成樹脂管とモルタルの間に紙や樹脂や繊維等のテープないしシール状の緩衝材層を設ける技術以外に、耐火二層管のモルタルの亀裂の発生を抑制できる技術を鋭意研究した。
【0009】
この研究によって、本発明者らは、合成樹脂管にモルタルを形成した際に、モルタルの合わせ目(以下、ウェルド部ともいう)の接合が不十分であるために、かかる部分の強度が他の部分に比べて弱くなり、その後の亀裂に繋がることを知見した。
このモルタルのウェルド部とは、金型内でモルタルの流れが合流して融着した部分である。一般的には、このウェルド部は、モルタルを注入する金型の注入口側と対向する側であって、金型の分割面に沿う合成樹脂管の外周表面に現れる。
【0010】
このウェルド部の接合が不十分となる原因については定かではないが、本発明者らは、その原因について次のように考える。
前記モルタルのウェルド部が、金型の分割面の位置に対応する部分であるところから、モルタルで被覆された合成樹脂管を取出すために金型が開かれた際、金型表面とモルタルが密着しているために、金型からモルタルに対して引張力が作用する。
そして、ウェルド部に金型の開く方向(ウェルド部を分離する方向)に引張力が作用すると、ウェルド部の接合が弱められ、接合が不十分になる。即ち、金型の分割面の位置に対応するモルタル部分(耐火層部分)の接合が不十分になり、その後の加熱により、亀裂が発生する。
尚、前記モルタルは金型内では硬化しないため、モルタルが未硬化の状態で、金型からモルタルで被覆された合成樹脂管が取出される。そのため、モルタルのウェルド部の接合が、より不十分になる。
【0011】
このように、本発明者らは、モルタルのウェルド部の接合が不十分であり、かかる部分に亀裂が生じること知見し、前記引張力を抑制することにより、耐火二層管のモルタルの亀裂の発生を抑制できることを想到し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、上記状況のもとなされたものであり、耐火二層管の耐火層の亀裂を抑制できる耐火二層管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明に係る耐火二層管は、合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層が形成された耐火二層管であって、前記水硬性材料の耐火層の表面に凸部を有し、前記凸部が、前記水硬性材料の耐火層を形成する際に用いられる、金型の分割面に対応する位置に形成されると共に、前記合成樹脂管の一の受け口部から他の受け口部に向かって、前記合成樹脂管の軸線に沿って、かつ稜線状に連続して形成されている、ことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る耐火二層管にあって、耐火層の表面に凸部が形成されている。この凸部は、前記水硬性材料の耐火層を形成する際に用いられる金型の分割面に対応する位置に形成される。更に、この凸部は、前記合成樹脂管の一の受け口部から他の受け口部に向かって、前記合成樹脂管の軸線に沿って、かつ稜線状に連続して形成される。
【0015】
このように、本発明に係る耐火二層管では、耐火層の表面における、金型の分割面に対応する位置に凸部が形成される。
これは、金型の分割面に凹部が形成された結果、耐火層の表面に凸部が形成されるものである。即ち、金型の分割面に凹部が形成されることにより、金型からモルタルに対して作用する引張力が弱められ、モルタルのウェルド部の接合強度が維持される。
したがって、耐火層の表面における、金型の分割面に対応する位置に凸部が形成されたた、本発明に係る耐火二層管にあっては、ウェルド部の接合強度が維持されるため、かかる部分の亀裂が抑制される。
【0016】
また、前記凸部は前記合成樹脂管の一の受け口部から他の受け口部に向かって、前記合成樹脂管の軸線に沿って、かつ稜線状に連続して形成されているため、耐火二層管の長手方向の全ての領域において、耐火層の亀裂を抑制することができる。
しかも、前記凸部は耐火層と同じ水硬性材料で形成されるため、安価に、かつ容易に形成することができる。
【0017】
ここで、前記凸部は、耐火層の外周表面の相対向する位置に、対になって形成されていることが望ましい。また、前記凸部のテーパの角度は、2度以上63度以下であることが望ましい。また、前記合成樹脂管の外周表面と耐火層との間に、テープ緩衝材が設けられていても良い。
【0018】
上記目的を達成するためになされた本発明に係る耐火二層管の製造方法は、合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層を形成する耐火二層管の製造方法であって、合成樹脂管の外周表面に水硬性材料の耐火層を形成する金型の分割面に、前記合成樹脂管の一の受け口部から他の受け口部に向かって、前記合成樹脂管の軸線に沿って、かつ稜線状に連続して形成された、水硬性材料からなる凸部を形成するための凹部が形成され、前記金型内に合成樹脂管を収容し、合成樹脂管の外周表面に水硬性材料を注入することにより、合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層を形成すると共に、前記耐火層の表面に前記凸部が形成されることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る耐火二層管の製造方法にあっては、合成樹脂管の外周表面に水硬性材料の耐火層を形成する金型の分割面に、前記合成樹脂管の一の受け口部から他の受け口部に向かって、前記合成樹脂管の軸線に沿って、かつ稜線状に連続して形成された、水硬性材料からなる凸部を形成するための凹部が形成されている。
このように、金型の分割面に凹部が形成されているため、モルタルが被覆された合成樹脂管を金型から取出すために金型を開いた際、金型からモルタルに対して作用する引張力を弱めることができ、モルタルのウェルド部の接合強度を維持することができる。
その結果、本発明に係る耐火二層管にあっては、モルタルのウェルド部において十分な接合強度を有しているため、かかる部分に生じる亀裂を抑制できる。
【0020】
また、前記凹部は、合成樹脂管の一の受け口部から他の受け口部に向かって、前記合成樹脂管の軸線に沿って、かつ稜線状に連続して形成されているため、耐火二層管の長手方向の全ての領域において、耐火層の亀裂を抑制することができる。
しかも、金型の分割面に凹部が形成することによって、耐火層の亀裂を抑制することができるため、安価に、かつ容易に耐火層の亀裂を抑制できる。
【0021】
ここで、前記凹部は、相対向する位置に対になって形成された凹部であることが望ましい。また、前記金型内に合成樹脂管を収容し、合成樹脂管の外周表面に水硬性材料を注入することにより、合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層を形成すると共に、凸部を形成した後、前記水硬性材料の硬化を促進させる蒸気養生工程が実行され、続いて、前記水硬性材料を硬化させる乾燥工程が実行される、ことが望ましい。
また、前記凸部のテーパの角度は、2度以上63度以下であることが望ましい。
【0022】
また、合成樹脂管の表面にテープ緩衝材を形成し、前記金型内に、テープ緩衝材を形成した合成樹脂管を収容し、合成樹脂管の外周表面に水硬性材料を注入することにより、合成樹脂管の外周表面に、水硬性材料の耐火層を形成すると共に、前記耐火層の表面に前記凸部を形成しても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、耐火二層管の耐火層の亀裂を抑制できる耐火二層管およびその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明にかかる耐火二層管の一実施形態を示す側面図である。
【
図3】
図3は、耐火二層管の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明にかかる耐火二層管の製造方法に用いる金型の例を示す上面図である。
【
図6】
図6は、金型に形成された凹部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。ただし、以下に説明する実施形態によって、本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる。
【0026】
まず、本発明にかかる耐火二層管の一実施形態について、
図1及び
図2に基づいて説明する。
図1は、耐火二層管の側面図であり、
図2は、
図1のI-I断面図である。
図1、
図2に示すように、この耐火二層管1は、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂で形成された合成樹脂管2の外周表面に耐火性を有する水硬性材料(モルタル)3の層を形成した二層構造を有している。
また、この耐火二層管1は、一方の受け口部4から他方の受け口部5へ湾曲した、L字形状(または1/4円弧形状ともいえる)の管である。
耐火二層管1は、この形状に限らず、例えば、二つの受け口部を直胴の管で繋いだものや、受け口部の数も二つに限らず、三つの受け口部をT字形状やY字形状の管で繋いだものであってもよい。また、耐火二層管1には、直管のみならず、継手管も含むものである。
【0027】
前記耐火層3の表面には、凸部3A,3Bが形成されている。この凸部3A,3Bは、前記合成樹脂管2の一の受け口部4から他の受け口部5に向かって、前記合成樹脂管の軸線Oに沿って、かつ稜線状に連続して形成された、耐火層3と同材料の水硬性材料からなる凸部である。
【0028】
前記凸部3A,3Bは、
図2に示すように、耐火層3の外周表面の相対向する位置に、対になって形成されている。
この凸部は、後に詳述するが、金型に硬性材料を注入する金型の注入口側と相対向する側のウェルド部側に、少なくとも形成する必要がある。より好ましくは、上記したように、金型に水硬性材料を注入する金型の注入口側と、前記注入口側と相対向する側に、対になるように形成するのが良い。
【0029】
また、前記凸部3A,3Bは、
図2に示すように、合成樹脂管2の軸線Oと垂直な断面が、ほぼ三角形状の同一形状であり、かつ合成樹脂管2の軸線Oを含む同一平面F上に形成されている。このように、凸部3A,3Bが同一形状で相対向する位置に対になって、同一形状に形成されている。
尚、前記凸部3A,3Bの断面は三角形形状に限定されるものではなく、半円状、台形状であっても良い。
【0030】
前記凸部3A,3Bが形成される前記平面Fは、金型の分割面に対応する面である。即ち、前記凸部3A,3Bは、金型の分割面であるパーティングライン上に形成されている。
この凸部3A,3Bは、後に詳述するように、金型の分割面の凹部によって形成される。そのため、前記凹部によって、金型からモルタルに対して作用する引張力を弱めることができ、凸部3A,3Bの接合強度が維持される。
したがって、金型の分割面に対応する位置に凸部が形成された、本発明に係る耐火二層管にあっては、モルタルのウェルド部の接合強度が維持され、かかる部分の亀裂が抑制される。
【0031】
また、
図2に示すように、前記凸部の頂部の高さWと凸部の半分の幅の長さLの比をW:Lとすると、W:L=1:20~0.5に形成されている。W:L=1:20~0.5を通常の角度表示にするとおよそ2度から63度のテーパ角度である。
テーパ角度は0度を超えていれば、耐火層3の外周表面に凸部3A,3Bを形成することができるが、金型から耐火二層管を取り出す際の離型抵抗を小さくでき、耐火二層管(成型品)この変形を抑制するためには、テーパ角度は、およそ2度以上であることが好ましい。
【0032】
また、テーパ角度が63度を超える場合には、凸部3A,3Bが尖がった形状となり、凸部3A,3Bに欠け等が生じやすく、この欠けた部分から亀裂などが生じやすい。そのため、テーパ角度は63度以下が好ましい。好ましくは、テーパ角度は60度以下が良い。
特に好ましくは、W:L=1:10であり、通常の角度表示にするとおよそ5度から6度のテーパ角度である。この場合には、耐火二層管を取り出す際の離型抵抗を小さくし、耐火二層管(成型品)の変形を抑制し、凸部3A,3Bに欠け等が生じ難く、耐火層の亀裂をより抑制することができる。
【0033】
次に、本発明にかかる耐火二層管の製造方法の一実施形態について説明する。尚、
図3は、一般的な耐火二層管の製造方法の手順を示すフローチャートである。
まず、
図3に基づいて、一般的な耐火二層管の製造方法について説明する。図に示すように、耐火二層管1の製造方法では、水硬性材料(原料)の混合混練工程(ステップS1)と、合成樹脂管をセットする工程(ステップS2)と、金型を用いて合成樹脂管の外周面に耐火層を成型する金型成型工程(ステップS3)と、蒸気養生をする工程(ステップS4)と、乾燥工程(ステップS5)とを備えている。
【0034】
水硬性材料(原料)の混合混練工程(ステップS1)とは、セメント、骨材、繊維、成型助剤など添加剤等の原料に水を添加し、混合及び混練を行う工程である。
水硬性材料(原料)としては、耐火性があり、難燃性または不燃性の高温においても強度を失わない水硬性の物質、例えば、セメント類、石膏、粘土、珪藻土等が使用される。好ましくは、通常、耐火二層管に使用されているセメントを主体とするモルタル、また、これに短繊維を混入した繊維モルタル等が、実用性に優れているため使用される。
前記耐火水硬性材料で形成される耐火層3の厚さは、合成樹脂管2の径によって異なり、必要な強度、耐火性を有するように適宜設定される。
尚、混合及び混練は、既に知られている一般的な条件で、混合混練がなされる。
【0035】
次に、合成樹脂管2をセットする工程(ステップS2)が実施される。合成樹脂管2としては、例えば、塩化ビニル管等の合成樹脂管2が一般的に用いられる。
この合成樹脂管2をセットする工程(ステップS2)とは、耐火二層管1の内側層を担う合成樹脂管2を金型内にセットする工程である。
このとき、金型の内周面と合成樹脂管の外周面との間には隙間が形成され、この隙間内に、後に述べる水硬性材料(原料)が注入される。
【0036】
前記合成樹脂管2をセットする工程(ステップS2)に続いて、金型成型をする工程(ステップS3)が実施される。
金型成型をする工程(ステップS3)では、前記したように、合成樹脂管2と金型との間の隙間に、ステップS1で混合及び混練を行った水硬性材料(耐火層原料)を圧入する。合成樹脂管2と金型との間の隙間に圧入された水硬性材料(耐火層の原料)は、耐火層として、合成樹脂管2を被覆する。
【0037】
ところで、合成樹脂管2を被覆する水硬性材料(耐火層の原料)の金型成型では、通常の樹脂成型とは異なり、金型の内部で水硬性材料(耐火層の原料)の硬化は行われない。
例えば、モルタルは水硬性材料であり、金型に圧入する前に水を添加しているが、金型内で水を蒸発させることは困難である。そこで、水硬性材料(耐火層の原料)の硬化が未完了の状態で型から取り出し、水硬性材料(耐火層の原料)を乾燥させる。
【0038】
この乾燥において、被覆された合成樹脂管2を金型から取り出し、合成樹脂管2を被覆する水硬性材料(耐火層原料)を自然乾燥させてもよいが、早期に十分な強度の硬化を発現させるために、乾燥工程(ステップS5)の前に蒸気養生をする工程(ステップS4)が行われる。
この蒸気養生は、常圧下で高温蒸気を用いて行われる。そして、蒸気養生をする工程(ステップS4)を行い、乾燥工程(ステップS5)実施の後に、通常の検査が行われ、耐火二層管1が完成する。
【0039】
上記したように、耐火二層管の製造方法では、水硬性材料(耐火層原料)、例えばモルタルが十分に硬化しない状態で金型から取り出すことが行われる。
既に述べたように、製造時(金型を開く際、また金型から耐火二層管を取り出す際)に、耐火層に余計な外力(引張力)が加わることによって、モルタル(耐火層)のウェルド部の接合強度が弱められることにより、耐火層の亀裂が生じる。
ここで、耐火層3の外周表面に凸部3A,3Bを形成する(金型に凹部を形成する)ことにより、金型を開く際、あるいはまた金型から耐火二層管を取り出す際の離型抵抗を小さくでき、モルタルの接合強度を弱めるのを抑制できる。その結果、耐火層の亀裂の発生確率を低めることができる。
【0040】
本発明の実施形態に係る耐火二層管の製造方法では、既に述べたように、一方の受け口部から他方の受け口部へかけて、長手方向に稜線状の凸部を形成する点に特徴があり、しかも、製造時(金型を開く際、あるいはまた金型から耐火二層管を取り出す際)に、耐火層に余計な外力(引張力)を加えることなく、耐火二層管を製作できる点に特徴がある。
【0041】
図4は、耐火二層管の製造方法に用いる金型の例を示す上面図であり、
図5は、
図4のII-II断面図であり、
図6は、金型に形成された凹部の拡大図である。また、
図4および
図5は、対として用いる金型の一方のみを図示している。
【0042】
図5に示すように、金型10にはキャビティ10Aが形成されており、このキャビティ10A内の図中の破線位置に合成樹脂管2がセットされる。そして、この合成樹脂管2と金型10との間の隙間Sに、注入口11から水硬性材料(耐火層原料)を圧入する。
この金型10によって、合成樹脂管2と金型10との間の隙間Sに圧入された水硬性材料(耐火層原料)、例えばモルタルは、耐火二層管1の外側層として合成樹脂管2を被覆して、所定の形状に成型される。
【0043】
注入口11の反対側の側面は、ウェルド部12と呼ばれている。注入口11から圧入された水硬性材料(耐火層原料)は、合成樹脂管2と金型10との間の隙間を左右に分かれて進行しウェルド部12にて合流することになる。
金型10には、このウェルド部12と、注入口11のある側(つまりウェルド部12の反対側、以下これを注入口側13という)に凹部14が設けられている。このように、凹部14がウェルド部12と注入口側13に形成されているので、稜線状の凸部3A,3Bは、外周表面の対向位置に対になって形成される。
この凹部14は、耐火二層管1の一方の受け口部から他方の受け口部へかけて、長手方向に、稜線状の凸部3A,3Bを形成するためのものである。
【0044】
図5に示すように、この凹部14は金型10の接合面のエッジ部分に形成されている。
したがって、この凹部14によって形成される稜線状の凸部3A,3Bは、同一平面上(金型の分割面上)に形成される。即ち、稜線状の凸部3A,3Bは、金型のパーティングライン上に形成される。
【0045】
また、既に、耐火二層管1の凸部3A,3Bで述べたが、
図6に示すように、前記凹部14の頂部の高さWと凹部14の半分の幅の長さLの比をW:Lとすると、W:L=1:20~0.5に形成されている。W:L=1:20~0.5を通常の角度表示にするとおよそ2度から63度のテーパ角度である。
凹部14のテーパ角度は0度を超えていれば、耐火層3の外周表面に凸部3A,3Bを形成することができる。しかしながら、凹部14の形成することにより、金型を開く際、あるいはまた金型から耐火二層管を取り出す際の離型抵抗を小さくでき、耐火二層管(成型品)この変形を抑制するには、おおよそ2度以上のテーパ角度が好ましい。
【0046】
また、凹部14のテーパ角度が63度を超える場合には、凸部3A,3Bが尖がった形状となり、凸部3A,3Bに欠け等が生じやすく、この欠けた部分から亀裂などが生じやすい。そのため、テーパ角度は63度以下が好ましい。好ましくは、テーパ角度は60度以下が良い。
【0047】
ここで、特に好ましくは、W:L=1:10に形成され、通常の角度表示にするとおよそ5度から6度のテーパ角度である場合には、金型を開く際、あるいはまた耐火二層管を取り出す際の離型抵抗を小さくし、耐火二層管(成型品)の接合強度を弱めることなく、凸部3A,3Bに欠け等が生じ難く、耐火層の亀裂をより抑制することができる。
【実施例0048】
<割れ強度実験>
次に、凸部を設けた耐火二層管の割れ強度の実験を行った。
割れ強度実験は、養生後4週間経過後に加熱炉で昇温させて、耐火層に亀裂が発生する温度を確認した。
ここで、耐火二層管の内管は塩化ビニル管であり、耐火層は水硬性材料で形成した。この水硬性材料は、セメント、無機質細骨材、有機質繊維、及び成形助剤等の添加剤等で構成されているものを用いた。
そして、金型内に塩化ビニル管を収容し、塩化ビニル管の外周表面に水硬性材料を注入することにより、塩化ビニル管の外周表面に、水硬性材料の耐火層を形成すると共に、凸部を形成した。その後、前記水硬性材料の硬化を促進させる蒸気養生を行い、続いて、前記水硬性材料を硬化させる乾燥工程を行った。
【0049】
このときの塩化ビニル管としては、外径178mmの継手管を用い、厚さ17mmの耐火層を形成した。また、
図1に示すように二つの凸部3A,3Bを形成した。そのW:Lは、W:L=1:10に形成した。尚、Wの長さ寸法は、1mm、Lの長さ寸法は10mmとした。
尚、養生後4週間経過後としたのは、耐火二層管はセメント製品であるので、完全に硬化が完了した段階で実験を行うためである。
【0050】
また、目標とする温度は60℃で1時間である。塩化ビニルが軟化しない最大温度が60℃であるので、この温度で1時間の耐久性があれば、実用上の問題が生じることはない。そのため、表1に示すように、45℃で、0.5時間、1時間、50℃で、0.5時間、1時間、55℃で、0.5時間、1時間、60℃で、0.5時間、1時間における亀裂の発生状態を確認した。
その結果を表1に示す。尚、表1中、「〇」は割れが発生せず、「×」は割れが発生、「-」は実験を行わなかったことを示している。
【0051】
実験に用いたサンプルは以下の3種類であり、各5本を用いた。
1.凸部あり、かつ、テープ緩衝材あり。
2.凸部あり、かつ、テープ緩衝材なし。
3.凸部なし、かつ、テープ緩衝材あり。
なお、テープ緩衝材とは、従来技術である塩化ビニルとモルタルとの間にテープ緩衝材を挿入したものである。
【0052】
【0053】
上記実験結果の表1から解るように、従来から用いられてきた技術である「3.凸部なし、かつ、テープ緩衝材あり」の場合、55℃程度でも亀裂が発生した。
一方、「1.凸部あり、かつ、テープ緩衝材あり」と「2.凸部あり、かつ、テープ緩衝材なし」では、60℃で1時間暴露させても亀裂が発生することはなかった。
このように、凸部を設ければ(金型に凹部を設ければ)、従来から用いられてきたテープ緩衝材を使うまでのなく、しかも、割れ強度が向上することを確認できた。
【0054】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態よって限定されるものではない。例えば、テープ緩衝材を用いるもであっても、本発明の凸部を有するものは、本発明の効果を得ることができ、本発明の範囲内のものである。
また本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択(部分的削除を含む)が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得る各種変形、修正が含まれる。