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特開2022-62764ダンパ評価システムおよびダンパ評価方法
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  • 特開-ダンパ評価システムおよびダンパ評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062764
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】ダンパ評価システムおよびダンパ評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20220414BHJP
【FI】
G01M7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170884
(22)【出願日】2020-10-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本建築学会2020年度大会,学術講演梗概集,建築デザイン発表梗概集2020,第533頁,一般社団法人日本建築学会,寄稿日 令和2年4月7日、発行日 令和2年7月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠太
(57)【要約】
【課題】検査装置の精度によらずダンパの性能を正確に評価できるダンパ評価システムおよびダンパ評価方法の提供を課題とする。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明の本実施の形態のダンパ評価システムは、ダンパDに振動を与える振動検査によって計測されるダンパDの変位X、速度Vおよび荷重Fを含む検査データを処理してダンパDを評価するダンパ評価システムであって、検査データを処理する処理装置1を備え、処理装置1は、ダンパDを表現する粘弾性モデルに計測された変位Xおよび速度Vを入力してダンパDの理想荷重Fiを求め、理想荷重Fiに基づいて評価指標を求める評価指標算出部1a1と、荷重Fに基づいて評価指標と同一次元の評価値を求める評価値算出部1a2と、評価指標と評価値とに基づいてダンパDを評価する評価部1a3とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパに振動を与える振動検査によって計測される前記ダンパの変位、速度および荷重を含む検査データを処理して前記ダンパを評価するダンパ評価システムであって、
前記検査データを処理する処理装置を備え、
前記処理装置は、
前記ダンパを表現する粘弾性モデルに計測された前記変位および速度を入力して前記ダンパの理想荷重を求め、前記理想荷重に基づいて評価指標を求める評価指標算出部と、
前記荷重に基づいて前記評価指標と同一次元の評価値を求める評価値算出部と、
前記評価指標と前記評価値とに基づいて前記ダンパを評価する評価部とを有する
ことを特徴とするダンパ評価システム。
【請求項2】
前記評価指標算出部は、前記理想荷重と前記速度とに基づいて前記ダンパの理想的な吸収エネルギを前記評価指標として求め、
前記評価値算出部は、前記荷重と前記速度とに基づいて前記ダンパの実際の吸収エネルギを前記評価値として求める
ことを特徴とする請求項1に記載のダンパ評価システム。
【請求項3】
前記評価指標算出部は、前記理想荷重と前記速度とに基づいて前記ダンパの理想的な等価減衰係数を前記評価指標として求め、
前記評価値算出部は、前記荷重と前記速度とに基づいて前記ダンパの実際の等価減衰係数を前記評価値として求める
ことを特徴とする請求項1に記載のダンパ評価システム。
【請求項4】
前記評価指標算出部は、前記粘弾性モデルをマクスウェルモデルとし、前記評価指標および前記評価値をCとし、前記ダンパの理想荷重および荷重をFとし、前記ダンパの速度をVとして、以下の式(12)を演算して前記評価指標を求める
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のダンパ検査データの誤差推定システム。
【数12】
【請求項5】
ダンパに振動を与える振動検査によって計測される前記ダンパの変位、速度および荷重を含む検査データを処理して前記ダンパを評価するダンパ評価方法であって、
前記ダンパを表現する粘弾性モデルに計測された前記変位および速度を入力して前記ダンパの理想荷重を求め、前記理想荷重に基づいて評価指標を求める評価指標算出過程と、
前記荷重に基づいて前記評価指標と同一次元の評価値を求める評価値算出過程と、
前記評価指標と前記評価値とに基づいて前記ダンパを評価する評価過程とを有する
ことを特徴とするダンパ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパ評価システムおよびダンパ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンパの性能の評価する場合、ダンパに振動を与えてダンパが製品仕様に適合する性能を有しているか否かを評価することがある。ダンパに振動を与える検査装置は、コントローラと、コントローラからの入力に応じてダンパへ振動を与える加振器とを備え、ダンパに正弦波の振動を与えてダンパの変位、速度および荷重を計測する。詳細には、検査装置は、コントローラから操作量を指示する入力が与えられると加振器がダンパに検査条件通りの正弦波振動を与え、各種センサによって変位、速度および荷重を計測する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-032261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような検査装置でダンパを検査して計測されたダンパの変位、速度および荷重といった検査データは、検査オペレータのダンパの評価に供され、検査データから求めた等価減衰係数の値が製品合格基準を満たしているか否かでダンパの性能が評価される。
【0005】
具体的には、現状におけるダンパ評価システムおよびダンパ評価方法では、評価しようとするダンパの設計値から以下の式(1)を利用して等価減衰係数の理論値を予め求めておき、実際にダンパに正弦波振動を与えた際のダンパの変位、速度およびダンパが出力する荷重の実測値から求めた等価減衰係数と、前述の等価減衰係数の理論値との乖離から検査したダンパの性能を評価する。
【0006】
【数1】
式(1)は、ダッシュポッドとばねとを直列に接続したマクスウェルモデルで表現されるダンパに正弦波振動を与えた場合においてダンパの設計値を用いて等価減衰係数Ceqを得る式となっており、式(1)中で、fは検査装置がダンパへ与える正弦波振動の周波数、Cはマクスウェルモデルにおけるダッシュポッドの減衰係数の設計値、Kはマクスウェルモデルのばねのばね定数をそれぞれ示している。式(1)から理解できるように、等価減衰係数Ceqを求めるには、正弦波振動の周波数の値を式(1)入力する必要がある。
【0007】
ところが、検査装置はフィードバック制御されて検査条件に従った理想的な正弦波振動をダンパに与えようとするが、ノイズや外乱等によって理想的な正弦波振動をダンパへ与えられない。等価減衰係数Ceqは、マクスウェルモデルのダンパに理想的な正弦波振動を与えることを前提にして算出される理論値であるが、実際にダンパに与えられる振動は理想的な正弦波でないことから、等価減衰係数Ceqを基準として当該等価減衰係数Ceqと実測値から算出された等価減衰係数とを比較しても、ダンパの性能を正確に評価することができない。
【0008】
そこで、本発明は、検査装置の精度によらずダンパの性能を正確に評価できるダンパ評価システムおよびダンパ評価方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明におけるダンパ評価システムは、ダンパに振動を与える振動検査によって計測されるダンパの変位、速度および荷重を含む検査データを処理してダンパを評価するダンパ評価システムであって、検査データを処理する処理装置を備え、処理装置は、ダンパを表現する粘弾性モデルに計測された変位および速度を入力してダンパの理想荷重を求め、理想荷重に基づいて評価指標を求める評価指標算出部と、荷重に基づいて評価指標と同一次元の評価値を求める評価値算出部と、評価指標と評価値とに基づいてダンパを評価する評価部とを備えている。また、本実施の形態のダンパ評価方法は、ダンパに振動を与える振動検査によって計測されるダンパの変位、速度および荷重を含む検査データを処理してダンパを評価するダンパ評価方法であって、ダンパを表現する粘弾性モデルに計測された変位および速度を入力してダンパの理想荷重を求め、理想荷重に基づいて評価指標を求める評価指標算出過程と、荷重に基づいて評価指標と同一次元の評価値を求める評価値算出過程と、評価指標と評価値とに基づいてダンパを評価する評価過程とを備えている。
【0010】
このように構成されたダンパ評価システムおよびダンパ評価方法では、実際に検査装置からダンパに与えられた振動と同じ振動を粘弾性モデルで表現されたダンパに入力して評価指標を求めるので、検査装置が与えた正弦波振動の周波数を利用せずに評価指標を求め得る。よって、検査装置がダンパへ与える振動の波形に乱れがあっても、この乱れに全く影響されずに正確な評価指標を求め得る。また、このように構成されたダンパ評価システムおよびダンパ評価方法では、粘弾性モデルで表現されたダンパへ検査対象である実物のダンパに与える振動を疑似的に与えて理想荷重を得て、理想荷重を用いて評価指標を得るとともに計測される荷重を用いて評価指標と同一次元の評価値を得て、評価指標と評価値とに基づいてダンパの性能を評価するので、設計値で定義づけられたダンパに対して実際の製品のダンパがどの程度性能的に乖離しているかを正確に把握できる。
【0011】
また、ダンパ評価システムおよびダンパ評価方法によれば、ダンパが減衰係数が伸縮する速度に応じて変化するバイリニア特性を備えていても、従来のダンパの性能評価では困難であった等価減衰係数や吸収エネルギを評価指標として用いることができるようになり、ダンパの吸収エネルギの観点に立った有用な性能評価を行える。
【0012】
さらに、ダンパ評価システムおよびダンパ評価方法を用いることによって、検査装置の可搬性を向上させてダンパが設置された現場にてダンパの検査が可能となる。
【0013】
また、評価指標算出部が理想荷重と速度とに基づいてダンパの理想的な吸収エネルギを評価指標として求め、評価値算出部が荷重と速度とに基づいてダンパの実際の吸収エネルギを評価値として求めるように、ダンパ評価システムを構成してもよい。このように構成されたダンパ評価システムによれば、ダンパの吸収ネエネルギで性能評価をすることでダンパの振動を減衰させる性能に着目した評価を行うことができ非常に有用な性能評価を行える。
【0014】
また、評価指標算出部が理想荷重と速度とに基づいてダンパの理想的な等価減衰係数を評価指標として求め、評価値算出部が荷重と速度とに基づいてダンパの実際の等価減衰係数を評価値として求めるように、ダンパ評価システムを構成してもよい。このように構成されたダンパ評価システムによれば、吸収エネルギから求められる等価減衰係数を用いてダンパの性能評価をすることでダンパの振動を減衰させる性能とダンパの減衰係数の双方に着目した評価を行うことができ非常に有用な性能評価を行える。
【0015】
そして、ダンパ評価システムは、評価指標算出部が粘弾性モデルをマクスウェルモデルとし、評価指標および評価値をCとし、ダンパDの理想荷重および荷重をFとし、ダンパDの速度をVとして、以下の式(2)を演算して評価指標および評価値を求めてもよい。
【0016】
【数2】
このように構成された本実施の形態のダンパ評価システムによれば、等価減衰係数を求める式(2)にパラメータとして周波数が含まれていないので、検査装置がダンパに与える振動に検査条件の正弦波振動以外の振動を与えても、正確に等価減衰係数を求め得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明のダンパ評価システムおよびダンパ評価方法によれば、検査装置の精度によらずダンパの性能を正確に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施の形態におけるダンパ評価システムの構成図である。
図2】検査装置の側面図である。
図3】処理装置の構成図である。
図4】マクスウェルモデルで表現されたダンパの構成図である。
図5】処理装置における処理手順の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態におけるダンパ評価システムは、検査データを処理する処理装置1を備え、ダンパDに振動を与える検査装置Tによって得られた検査データを処理してダンパを評価する。
【0020】
検査装置Tは、図2に示すように、ダンパDに対して振動を与える振動検査装置とされている。ダンパDは、シリンダ5と、シリンダ5内に出入りするロッド6とを備えたテレスコピック型のダンパとされており、シリンダ5に対してロッド6が軸方向に変位する伸縮時に減衰力を発揮する。
【0021】
検査装置Tは、図2に示すように、コントローラCTLと、加振器VMと、ダンパDの荷重F、伸縮における速度Vおよび伸縮における変位Xを検知するセンサ2とを備えている。加振器VMは、架台10と、架台10に設けられて図2中左右方向へ移動可能であってダンパDの一端を保持する保持部11と、架台10に設けられてダンパDの他端に接続されてダンパDに振動を与えるアクチュエータ13とを備えている。
【0022】
アクチュエータ13は、シリンダ11aと、シリンダ11a内に移動自在に挿入されてシリンダ11a内を図示しない伸側室と圧側室とに区画する図外のピストンと、シリンダ11a内に移動自在に挿入されて前記ピストンに連結されるロッド11bと、図外のポンプから供給される圧油を前記伸側室と前記圧側室とに選択的に送り込むサーボ弁11cとを備えている。
【0023】
サーボ弁11cは、詳細には図示はしないが、中空なハウジングと、ハウジング内に移動自在に挿入されるスプールと、スプールを駆動するソレノイドと、スプールを中立位置に位置決めするばねと、外部からの入力を受け取ってソレノイドを駆動する駆動回路とを備えている。ソレノイドは、駆動回路から供給される電流量に応じてスプールに与える推力を変更でき、スプールの位置を調節できる。そして、サーボ弁11cは、スプールの位置に応じて、前記伸側室へ圧油を供給するポジションと、前記圧側室へ圧油を供給するポジションと、両者への圧油の供給を遮断するポジションとに切り替わり、前記伸側室或いは前記圧側室へ圧油を供給するポジションではソレノイドへ供給される電流量に応じて流量を調節する。
【0024】
本実施の形態では、サーボ弁11cは、入力として電流指令Iを受けとるとソレノイドの推力を調整して、スプールのハウジングに対する位置を調節して、前記伸側室と前記圧側室のうち入力が指示する室に対して入力が指示する流量の圧油を供給する。アクチュエータ13は、伸側室と圧側室のうちサーボ弁11cから圧油の供給を受けた室を拡大させるとともに圧油の供給のない室を縮小させて、伸縮駆動する。このように、加振器VMは、コントローラCTLから入力を受けるとアクチュエータ13を伸縮駆動させてダンパDの一端を加振して、ダンパDに振動を与える。なお、駆動回路は、ソレノイドに流れる電流を検知する電流センサを備えており、電流センサで検知する電流をフィードバックして、コントローラCTLから入力される電流指令I通りにソレノイドへ電流を与える。なお、駆動回路は、サーボ弁11c側ではなく、コントローラCTLに内包されていてもよい。
【0025】
コントローラCTLは、検査装置TによるダンパDの検査にあたって、加振器VMにおけるアクチュエータ13を伸縮させる電流指令Iをアクチュエータ13へ与える。本実施の形態では、検査装置Tは、アクチュエータ13を駆動して検体であるダンパDへ繰り返し正弦波の振動を与える。そのため、コントローラCTLは、正弦波でアクチュエータ13が収縮するように電流指令Iをアクチュエータ13に与えるようになっている。なお、検査装置Tが検査時にダンパDに与える振動は、本実施の形態では、正弦波振動とされているが、正弦波振動に限定されず任意の波形に設定できる。よって、検査装置Tは、たとえば、加振器VMでダンパDを一度だけ伸長或いは収縮させるように振動を与えてもよい。
【0026】
つづいて、センサ2は、コントローラCTLから加振器VMに与えられる電流指令IによってダンパDに振動を与える検査中にダンパDの荷重F、速度Vおよび変位Xを検知する。このように、本実施の形態では、検査データはダンパDの荷重F、速度Vおよび変位Xを含んでいる。したがって、センサ2は、アクチュエータ13とダンパDとの間に設置されてアクチュエータ13がダンパDに与える荷重を検知するロードセル2aと、アクチュエータ13のロッド11bに装着されてダンパDの伸縮速度の速度を検知する速度センサ2bと、アクチュエータ13の伸縮変位を検知することでダンパDの変位Xを検知するストロークセンサ2cとを備えている。
【0027】
そして、センサ2は、所定のサンプリング周期で検知した荷重F、速度Vおよび変位Xを検知し、検査装置Tは、荷重F、速度Vおよび変位Xのデータ群をCSVファイルに一纏めにして、これを検査データとして検査オペレータが利用する図外の端末へ送信する。また、検査データは、処理装置1に入力される。検査データは、前記センサ2から直接に処理装置1に入力されてもよいし、前記端末や他の経路から処理装置1に入力されてもよい。なお、検査装置Tは、印刷装置を有していて、検査データの値や検査データをグラフ化して紙媒体へ印刷出力してもよい。なお、速度センサ2bは、ロッド11bの加速度を検知し、検知し加速度を積分することで検査装置Tの速度Vを検知するが、ストロークセンサ2cが検知した変位Xを微分して速度Vを検知するようにしてもよい。また、速度の検知に当たり、ロッド11bに設けた加速度センサで検知したダンパDの伸縮における加速度を処理装置1に入力して、処理装置1にて加速度を積分してロッド11bの速度Vを検知してもよい。
【0028】
処理装置1は、図3に示すように、コンピュータシステムであり、演算処理装置1aと、処理装置1の制御と処理に必要なプログラムを記憶するとともに演算処理装置1aが当該プログラムの実行に必要となる記憶領域を提供する記憶装置1bと、ロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cからの信号を受け取るインターフェース1cと、キーボードやマウスといった入力装置1dと、表示装置1eと、補助記憶装置1fと、印刷装置としてのプリンタ1gと、これら装置を互いに通信可能に接続するバス1hとを備えている。なお、処理装置1は、検査オペレータが利用する端末を兼ねてもよい。
【0029】
演算処理装置1aは、演算処理を行うCPU等であって、オペレーティングシステムおよび他のプログラムの実行によって処理装置1の各部の制御を行うとともに、ダンパDの検査データにおける速度Vおよび変位XからダンパDの理想荷重Fiを求めるとともに理想荷重Fiに基づいて評価指標となる理想的な等価減衰係数Ceqを求める処理、速度Vおよび荷重Fとに基づいて評価値としてのダンパDの実際の等価減衰係数Cexを求める処理、理想的な等価減衰係数Ceqと実際の等価減衰係数Cexとに基づいてダンパDを評価する処理を行う。記憶装置1bは、ROMおよびRAMを備える他、ハードディスクを備えている。インターフェース1cは、検査装置Tから入力されるアナログ信号を演算処理装置1aで読み取り可能なデジタル信号へ変換する。表示装置1eは、演算処理装置1aが処理したデータ等を表示する画面を備えており、たとえば、液晶ディスプレイ等である。補助記憶装置1fは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体と記憶媒体のドライブ装置とで構成されており、記憶媒体は、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等である。また、処理装置1は、ロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが検知した荷重F、速度Vおよび変位Xの値や、値をプロットしたグラフ、評価指標としての理想的な等価減衰係数Ceqx、評価値としての実際の等価減衰係数Cexおよび評価結果を表示装置1eの画面上に表示して閲覧を可能とするとともに、前記等価減衰係数Ceq,Cexを求めるためのアプリケーションプログラムを記憶装置1bに記憶している。
【0030】
そして、本実施の形態では、等価減衰係数Ceq,Cexを求めるプログラムおよびこれら等価減衰係数Ceq,Cexに基づいてダンパDを評価するためのプログラムを処理装置1の演算処理装置1aが実行して実行することで、ダンパDの理想的な等価減衰係数Cexを求める評価指標算出部1a1と、実際の等価減衰係数Cexを求める評価値算出部1a2と、理想的な等価減衰係数Cexと実際の等価減衰係数Cexとに基づいてダンパDを評価する評価部1a3とを実現している。
【0031】
以下、処理装置1における処理について詳しく説明する。まず、評価指標算出部1a1について詳細に説明する。評価指標算出部1a1は、ダンパDの理想的な等価減衰係数Ceqを評価指標として求める。この理想的な等価減衰係数Ceqを求めるにあたり、図4に示すように、ダンパDを表現する粘弾性モデルをマクスウェルモデルとして、このマクスウェルモデルで表現されたダンパDに検査装置Tで計測された速度Vと変位Xを入力して理想荷重Fiを求める。
【0032】
マクスウェルモデルでは、減衰係数Cのダッシュポッド20と、ばね定数Kのばね21とでダンパDが表現される。ダッシュポッド20は、ダンパDの変位によって減衰力を発揮する減衰要素を、ばね21は、ダンパD内の油およびダンパDを構成する部品の全体の剛性、つまり、装置剛性を表現している。
【0033】
マクスウェルモデルで表現されたダンパDの左端を不動端とし右端を自由端として、自由端に検査条件が指示する振動を与えることを考える。ダッシュポッド20の右端の変位をy1とし、ばね21の変位をy2とし、ばね21の右端の変位をxとすると、以下の式(3)が成り立つ。
【0034】
【数3】
また、また、ダッシュポッド20が出力する荷重Fdは、ばね21の変形による弾発力に等しいので、以下の式(4)が成り立つ。
【0035】
【数4】
以上の式(3)および式(4)から変位y1および変位y2を消去すれば、以下の式(5)で表現されるマクスウェルモデルの基本方程式が得られる。
【0036】
【数5】
ここで、マクスウェルモデルで表現されたダンパDが検査装置Tからの振動の入力で実際のダンパDと同様に動作した場合を考える。ダンパDに実際に検査装置Tが振動を与えて計測される変位Xは、マクスウェルモデルで表現されたダンパDにおけるばね21の右端の変位xに対応し、ダンパDに実際に検査装置Tが振動を与えて計測される速度Vは、マクスウェルモデルで表現されたダンパDにおけるばね21の右端の変位xの微分値dx/dtに対応している。また、ダンパDの減衰係数Cとばね定数Kは、設計値である。よって、マクスウェルモデルで表現されたダンパDの変位xが計測された変位Xであって、微分値dx/dtが計測された速度Vとなることを条件に、基本方程式を利用して解析すれば、変位Xと速度Vの振動をマクスウェルモデルで表現されたダンパDに与えた際に当該ダンパDが出力する荷重である理想荷重Fiを求め得る。なお、解析によってダッシュポッド20の変位y1を求めて式(4)に代入して、マクスウェルモデルで表現されたダンパDが出力する理想荷重Fiを求めてもよい。
【0037】
つづいて、評価指標算出部1a1は、前述のようにして求めた理想荷重Fiと速度Vとに基づいてダンパDの理想的な等価減衰係数Ceqを求める。マクスウェルモデルで表現されたダンパDが振動を吸収する際のエネルギである理想的な吸収エネルギEdは、ダンパDの理想荷重Fiと速度Vとを用いて、以下の式(6)で表せる。
【0038】
【数6】
他方、マクスウェルモデルで表現されたダンパDの理想的な等価減衰係数Ceqとすると、ダンパDの吸収エネルギEdは、以下の式(7)で表すことができる。
【0039】
【数7】
すると、式(6)および式(7)から下の式(8)が成り立つ。
【0040】
【数8】
以上より、マクスウェルモデルで表現されたダンパDの等価減衰係数Ceqは、以下の式(9)によって求めることができる。
【0041】
【数9】
式(9)を利用して等価減衰係数Ceqを求めるには、式(9)中のパラメータである理想荷重Fiと、変位の微分値dX/dt、つまり、ダンパDの伸縮における速度Vであることが分かる。
【0042】
検査装置Tで実際にダンパDに振動を入力して計測された変位Xおよび速度Vから解析によってマクスウェルモデルで表現されたダンパDの理想荷重Fiを求め、この理想荷重Fiと速度Vとを式(9)に代入すればマクスウェルモデルで表現されたダンパDの理想的な等価減衰係数Ceqを求めることができる。
【0043】
そこで、評価指標算出部1a1は、検査装置Tで同一のタイミングで計測された変位Xと速度Vとのデータを組として、組となる変位Xと速度VについてダンパDの理想荷重Fiを求める。検査装置Tが所定のサンプリング周期で変位Xと速度Vとを計測しているので、評価指標算出部1a1は、多数の組となる変位Xと速度Vとに対して、前記組の数と同じ数の理想荷重Fiを求める。なお、評価指標算出部1a1は、検査装置Tで得られた変位Xと速度Vの全部について理想荷重Fiを求めなくともよいが、等価減衰係数Ceqを求め得る程度の個数の理想荷重Fiを算出すればよい。
【0044】
そして、評価指標算出部1a1は、求めた理想荷重Fiと理想荷重Fiを求める際に使用した速度Vを組として、理想荷重Fiと速度Vとの組の値を順次代入してFi×Vの値を求めて加算するとともに、Vの値を求めて加算して、式(9)の分子と分母の値を算出して、理想的な等価減衰係数Ceqを求める。こうして得られた等価減衰係数Ceqは、設計値に基づいてマクスウェルモデルで表現されたダンパDに検査装置Tが振動を与えた際に当該ダンパDが出力する理想荷重Fiに基づいた理想的な等価減衰係数となる。よって、実際のダンパDが設計通りに減衰力を発揮すれば、実際のダンパDの等価減衰係数Cexは理想的な等価減衰係数Ceqと等しくなる筈であるから、理想的な等価減衰係数Ceqは実際のダンパDが設計通りの性能を発揮しているかを知るための評価指標となる。
【0045】
なお、ダンパDを表現する粘弾性モデルは、マクスウェルモデルに限られず、ケルビン・フォークトモデルや標準線形固体モデルとしてもよく、その場合でも、基本方程式と吸収エネルギを求める式から等価減衰係数を求めることができる。ケルビン・フォークトモデルを利用する場合、基本方程式は、Fd=Kx+C(dx/dt)と書けるから、やはり、検査装置Tが計測した変位Xと速度Vを利用して理想荷重Fiを求めて、理想的な等価減衰係数Ceqを求めればよい。
【0046】
つづいて、評価値算出部1a2は、検査装置Tが振動を与えた際に計測されたダンパDの速度Vと荷重Fとに基づいてダンパDの実際の等価減衰係数Cexを求める。検査装置Tによって検査されたダンパDの実際の等価減衰係数Cexは、式(9)中の理想荷重Fiを実際に計測された荷重Fに置き換えた以下の式(10)を用いて演算される。
【0047】
【数10】
よって、評価値算出部1a2は、検査装置Tで同一のタイミングで計測された荷重Fと速度Vを組として、荷重Fと速度Vとの組の値を順次代入してF×Vの値を求めて加算するとともに、Vの値を求めて加算して、式(9)の分子と分母の値を算出して、等価減衰係数Cexを求める。こうして得られた等価減衰係数Cexは、検査装置Tが振動を与えた際に実際のダンパDが出力する荷重Fに基づいた実際の等価減衰係数となる。
【0048】
評価部1a3は、実際の等価減衰係数Cexが理想的な等価減衰係数Ceqを基準として、両者の乖離が等価減衰係数Ceqの±α%の範囲にあるか否かを調べてダンパDの性能が製品として適合するかどうかについて評価する。
【0049】
具体的には、評価部1a3は、αを10として、実際の等価減衰係数Cexが0.9・Ceq≦Cex≦1.1・Ceqを満たしている場合、ダンパDの性能が製品として適合すると評価し、そうでない場合、ダンパDの性能が製品として非適合であると評価する。なお、αの値は、任意に変更できる。
【0050】
処理装置1は、演算処理装置1aが処理した結果得られた理想的な等価減衰係数Ceq、ダンパDの実際の等価減衰係数CexおよびダンパDの評価結果であるダンパDが製品として適合と非適合の別を表示装置1eに表示させる。
【0051】
以上までのダンパ評価システムの処理を図5に示したフローチャートに即して説明する。検査装置Tに検体であるダンパDを取り付け、コントローラCTLから電流指令Iを繰り返し入力してアクチュエータ13を駆動し、ダンパDへ振動を与える(ステップST1)、ダンパDの荷重F、速度Vおよび変位Xをそれぞれロードセル2a,速度センサ2bおよびストロークセンサ2cで検知してダンパ検査データを得る(ステップST2)。得られた検査データは、検査装置Tから処理装置1の演算処理装置1aへ入力される。
【0052】
処理装置1は、ダンパDを表現するマクスウェルモデルにダンパ検査データ中の速度Vおよび変位Xの値を入力してシミュレーションを行って、マクスウェルモデルで表現されたダンパDの理想荷重Fiを求め、求めた理想荷重Fiと速度Vから評価指標としてマクスウェルモデルのダンパDの理想的な等価減衰係数Ceqを求める(ステップST3)。また、処理装置1は、検査装置Tで計測された荷重Fと速度Vとに基づいて評価値として実際のダンパDの等価減衰係数Cexを求める(ステップST4)。
【0053】
さらに、処理装置1は、理想的な等価減衰係数Ceqと実際の等価減衰係数Cexとを比較して、ダンパDの製品の性能について評価する(ステップST5)。そして、処理装置1は、演算処理装置1aが処理した結果得られた理想的な等価減衰係数Ceq、ダンパDの実際の等価減衰係数CexおよびダンパDの評価結果であるダンパDが製品として適合と非適合の別を表示装置1eに表示させる(ステップST6)。
【0054】
ダンパ評価システムは、以上のように動作して、ダンパDの性能を評価する。本実施の形態のダンパ評価システムでは、ダンパDを表現するマクスウェルモデル(粘弾性モデル)に検査装置TでダンパDに振動を与えた際に実際に計測される変位Xおよび速度Vを入力してダンパDの理想荷重Fiを求め、理想荷重Fiに基づいて理想的な等価減衰係数(評価指標)Ceqを求めている。つまり、本実施の形態のダンパ評価システムでは、検査される実際のダンパDと同じ振動をマクスウェルモデル(粘弾性モデル)で表現されたダンパDに入力した応答として理想荷重Fiを求めて等価減衰係数(評価指標)Ceqを算出している。
【0055】
したがって、本実施の形態のダンパ評価システムでは、実際に検査装置TからダンパDに与えられた振動と同じ振動をマクスウェルモデル(粘弾性モデル)で表現されたダンパDに入力して、等価減衰係数(評価指標)Ceqを求めることができ、マクスウェルモデル(粘弾性モデル)で表現されたダンパDの吸収エネルギEdを理想荷重Fiと速度Vとから求めることができる。マクスウェルモデル(粘弾性モデル)で表現されたダンパDの吸収エネルギEdは、検査装置Tが与えた正弦波振動の周波数を利用することなく、理想荷重Fiと速度Vのデータから求めることができるため、検査装置TがダンパDへ与える振動の波形に乱れがあっても、この乱れに全く影響されずに正確な等価減衰係数(評価指標)Ceqを求め得る。
【0056】
また、本実施の形態のダンパ評価システムでは、実際にダンパDに振動を与えた際に計測されたダンパDの荷重Fと速度Vとで実際の等価減衰係数(評価値)Cexを求めて、理想的な等価減衰係数(評価指標)Ceqと実際の等価減衰係数(評価値)Cexとを比較してダンパDの性能を評価している。
【0057】
前述したように、理想的な等価減衰係数(評価指標)Ceqは、実際に検査装置TからダンパDに与えられた振動と同じ振動をマクスウェルモデル(粘弾性モデル)で表現されたダンパDに入力した応答である理想荷重Fiと速度Vとに基づいて求められる。これに対して、実際の等価減衰係数(評価指標)Cexは、検査装置TでダンパDに振動を与えた際に計測された荷重Fiと速度Vとに基づいて求められる。このように、理想的な等価減衰係数(評価指標)Ceqと実際の等価減衰係数(評価指標)Cexは、スマクスウェルモデル(粘弾性モデル)で表現されたダンパDと検査対象である実物のダンパDとに同じ振動が与えた条件で求められる。そして、本実施の形態のダンパ評価システムは、理想的な等価減衰係数(評価指標)Ceqと実際の等価減衰係数(評価値)Cexとを比較してダンパDの性能を評価するので、オペレータは、設計値で定義づけられたダンパDに対して実際の製品のダンパDがどの程度性能的に乖離しているかを正確に把握できる。
【0058】
なお、前述したところでは、評価指標を等価減衰係数Ceqとし、評価値を同一次元の等価減衰係数Cexとしていたが、式(8)と式(9)の分母は、速度Vの二乗の積分値であって同じ値となるため、式(8)の分子のマクスウェルモデルで表現されたダンパDの理想的な吸収エネルギEdを評価指標とし、式(9)の分子のダンパDの実際の吸収エネルギEを評価値としてもよい。この場合、実際のダンパDの吸収エネルギEが、(1-β)・Ed≦E≦(1+β)・Edを満たせば、ダンパDの性能は適合であると評価し、そうでなければ非適合であると評価すればよい。βの値は、1より小さい任意の値に設定される。
【0059】
また、評価指標をマクスウェルモデルで表現されたダンパDの理想荷重Fiとし、評価値を実際のダンパDが出力した荷重Fとしてもよい。この場合、実際のダンパDが出力した荷重Fが、(1-γ)・Fi≦F≦(1+γ)・Fiを満たせば、ダンパDの性能は適合であると評価し、そうでなければ非適合であると評価すればよい。γの値は、1より小さい任意の値に設定される。
【0060】
以上のように、本実施の形態のダンパ評価システムは、ダンパDに振動を与える振動検査によって計測されるダンパDの変位X、速度Vおよび荷重Fを含む検査データを処理してダンパDを評価するダンパ評価システムであって、検査データを処理する処理装置1を備え、処理装置1は、ダンパDを表現する粘弾性モデルに計測された変位Xおよび速度Vを入力してダンパDの理想荷重Fiを求め、理想荷重Fiに基づいて評価指標を求める評価指標算出部1a1と、荷重Fに基づいて評価指標と同一次元の評価値を求める評価値算出部1a2と、評価指標と評価値とに基づいてダンパDを評価する評価部1a3とを備えている。また、本実施の形態のダンパ評価方法は、ダンパDに振動を与える振動検査によって計測されるダンパDの変位X、速度Vおよび荷重Fを含む検査データを処理してダンパDを評価するダンパ評価方法であって、ダンパDを表現する粘弾性モデルに計測された変位Xおよび速度Vを入力してダンパDの理想荷重Fiを求め、理想荷重にFi基づいて評価指標を求める評価指標算出過程と、荷重Fに基づいて評価指標と同一次元の評価値を求める評価値算出過程と、評価指標と評価値とに基づいてダンパDを評価する評価過程とを備えている。
【0061】
このように構成されたダンパ評価システムおよびダンパ評価方法では、実際に検査装置TからダンパDに与えられた振動と同じ振動を粘弾性モデルで表現されたダンパDに入力して評価指標を求めるので、検査装置Tが与えた正弦波振動の周波数を利用せずに評価指標を求め得る。よって、検査装置TがダンパDへ与える振動の波形に乱れがあっても、この乱れに全く影響されずに正確な評価指標を求め得る。また、このように構成されたダンパ評価システムおよびダンパ評価方法では、粘弾性モデルで表現されたダンパDへ検査対象である実物のダンパDに与える振動を疑似的に与えて理想荷重Fiを得て、理想荷重Fiを用いて評価指標を得るとともに計測される荷重Fを用いて評価指標と同一次元の評価値を得て、評価指標と評価値とに基づいてダンパDの性能を評価するので、設計値で定義づけられたダンパDに対して実際の製品のダンパDがどの程度性能的に乖離しているかを正確に把握できる。以上より、本実施の形態のダンパ評価システムおよびダンパ評価方法によれば、検査装置の精度によらずダンパDの性能を正確に評価できる。
【0062】
従来のダンパDの性能の評価は、検査装置TがダンパDへ正弦波振動を与えることを前提にしており、等価減衰係数の算出に前記正弦波振動の周波数を用いる他にも、減衰係数の設計値の代入が必要である。ここで、ダンパDは、内部にリリーフ弁を備えて、伸縮速度がある一定の速度を超えるとリリーフ弁の開弁によって減衰係数が小さくなるバイリニア特性を持つものがある。このようにダンパDがバイリニアの特性を持つ場合、従来のダンパの性能評価では、リリーフ弁が開弁しないように検査装置TでダンパDに正弦波振動を与えるようにして、減衰係数が高い状態におけるダンパDの等価減衰係数と減衰係数が高い状態における設計上の等価減衰係数とを比較してダンパDの性能評価を行うようにしている。
【0063】
これに対して、本実施の形態のダンパ評価システムおよびダンパ評価方法では、評価指標の算出に当たって粘弾性モデルに実際のダンパDに与えた変位Xと速度Vとを入力して理想荷重Fiを求めるようにしているので、粘弾性モデルにおいてダッシュポッド20の速度によって減衰係数が切り換わるようにモデル化しておけば、解析によって理想荷重Fiを求めることができる。理想荷重Fiを評価指標としてもよいし、理想荷重Fiが求まれば理想荷重Fiと計測された速度Vとに基づいてダンパDの理想的な吸収エネルギEdを求めることができるので、吸収エネルギEd或いは等価減衰係数Ceqを評価指標としてもよい。このように、本実施の形態のダンパ評価システムおよびダンパ評価方法によれば、ダンパDが伸縮する速度Vに応じて減衰係数が変化するバイリニア特性を備えていても、従来のダンパの性能評価では困難であった等価減衰係数Ceq,Cexや吸収エネルギE,Edを評価指標として用いることができるようになり、ダンパDの吸収エネルギE,Edの観点に立った有用な性能評価を行える。等価減衰係数Ceq,Cexは、吸収エネルギE,Edから求まる値であるから、ダンパDの吸収エネルギE,Edの観点に立った値であることは理解できよう。なお、本実施の形態のダンパ評価システムおよびダンパ評価方法では、ダンパDが伸縮速度に応じて二段階以上の多段階に減衰係数が変化する場合も、同様にダンパDの吸収エネルギE,Edの観点に立った有用な性能評価を行える。
【0064】
また、等価減衰係数(評価指標)Ceqを求めるのに周波数を用いないので、検査装置TがダンパDへ与える振動は、正弦波振動でなくともよいことになり、検査装置Tは、ダンパDへ自由に振動を与えて変位X、速度Vおよび荷重Fを含む検査データを計測すればよい。よって、たとえば、検査装置Tは、単に一度ダンパDを伸長或いは収縮させる振動を与えるだけでもよくなるので、ダンパDに正弦波振動を与えるだけの加振器VMを備えていなくともよくなる。地震時に建築物の振動を抑制する用途で使用される大型なダンパDを検体とした検査装置Tでは、ダンパDに正弦波振動を与えるには大型な加振器VMを備えている必要があるが、このような大型なダンパDへ一度だけ伸長或いは収縮する振動を与えるだけでよい場合、検査装置Tに正弦波振動を与える加振器VMよりも小型な加振器を利用できるようになる。以上より、本実施の形態のダンパ評価システムおよびダンパ評価方法を用いることによって、検査装置Tを小型化して可搬可能とでき、大型なダンパDが実際に使用されている現場へ検査装置Tを搬送して、現場でダンパDの性能検査を行うことができる。従前では、前述の理由によって検査装置Tが大型で運搬が困難であったため、出荷済みのダンパDの性能検査を行うには検査装置Tが設置された工場にダンパDを持ち込んで検査するしかなかったが、検査装置Tの可搬性が向上することでダンパDが設置された現場でダンパDの検査が可能となるのである。
【0065】
さらに、本実施の形態のダンパ評価システムでは、評価指標算出部1a1が理想荷重Fiと速度Vとに基づいてダンパDの理想的な吸収エネルギEdを評価指標として求め、評価値算出部1a2が荷重Fと速度Vとに基づいてダンパDの実際の吸収エネルギEを評価値として求めてもよい。このようにダンパ評価システムが理想的な吸収エネルギEdと実際の吸収エネルギEとに基づいてダンパDの性能を評価するので、吸収エネルギE,Edの観点からダンパDの性能を評価できる。ダンパDは、減衰力を発揮して振動を減衰させて振動エネルギを熱エネルギに変換するため、吸収エネルギE,Edで性能評価をすることでダンパDの振動を減衰させる性能に着目した評価を行うことができ非常に有用な性能評価を行える。
【0066】
また、本実施の形態のダンパ評価システムでは、評価指標算出部1a1が理想荷重Fiと速度Vとに基づいてダンパDの理想的な等価減衰係数Ceqを評価指標として求め、評価値算出部1a2が荷重Fと速度Vとに基づいてダンパDの実際の等価減衰係数Cexを評価値として求めてもよい。このようにダンパ評価システムが理想的な等価減衰係数Ceqと実際の等価減衰係数Cexとに基づいてダンパDの性能を評価するので、吸収エネルギE,Edの観点からダンパDの性能を評価できる。ダンパDは、吸収エネルギE,Edから求められる等価減衰係数Ceq,Cexを用いて性能評価をすることでダンパDの振動を減衰させる性能とダンパDの減衰係数の双方に着目した評価を行うことができ非常に有用な性能評価を行える。
【0067】
そして、本実施の形態のダンパ評価システムでは、評価指標算出部1a1が粘弾性モデルをマクスウェルモデルとし、評価指標および評価値をCとし、ダンパDの理想荷重および荷重をFとし、ダンパDの速度をVとして、以下の式(11)を演算して評価指標および評価値を求めてもよい。
【0068】
【数11】
このように構成された本実施の形態のダンパ評価システムによれば、等価減衰係数Ceqを求める式(11)にパラメータとして周波数が含まれていないので、検査装置TがダンパDに与える振動に検査条件の正弦波振動以外の振動を与えても、正確に等価減衰係数Ceq,Cexを求め得る。
【0069】
なお、本実施の形態では、検査装置Tにて速度Vを計測しているが、検査装置Tから変位X或いはダンパDの加速度のデータを入手して、ダンパ評価システム側で変位Xを微分処理するか或いは加速度を積分処理して速度Vを得てもよい。
【0070】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1・・・処理装置、1a1・・・評価指標算出部、1a2・・・評価値算出部、1a3・・・評価部
図1
図2
図3
図4
図5