IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-溶接組立箱形断面部材 図1
  • 特開-溶接組立箱形断面部材 図2
  • 特開-溶接組立箱形断面部材 図3
  • 特開-溶接組立箱形断面部材 図4
  • 特開-溶接組立箱形断面部材 図5
  • 特開-溶接組立箱形断面部材 図6
  • 特開-溶接組立箱形断面部材 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062812
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】溶接組立箱形断面部材
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/06 20060101AFI20220414BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20220414BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
E04C3/06
B23K9/00 501B
E04B1/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170950
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】荒木田 椋太
(72)【発明者】
【氏名】梅田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】難波 隆行
【テーマコード(参考)】
2E163
4E081
【Fターム(参考)】
2E163FA02
2E163FB07
2E163FB09
4E081YB03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い耐力および剛性が要求される場合にも、角溶接に要する工数が抑えられ、短期間で製作することが可能な、溶接組立箱形断面部材を提供する。
【解決手段】複数の鋼板を、矩形状断面となるように組み合わせた状態で溶接して形成される溶接組立箱形断面部材1において、互いに対向する一対の面に配置される第一の鋼板11の板厚tおよび降伏強度σy1、ならびに、互いに対向する他の一対の面に配置される第二の鋼板12の板厚tおよび降伏強度σy2が、t>tおよびσy1<σy2の関係を満たすようにするとともに、矩形状断面の角部において、第一の鋼板が第二の鋼板を挟み込む形式で角溶接13を施し、角溶接の溶接金属の引張強度を、第一の鋼板の引張強度以上、かつ第二の鋼板の引張強度以下とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼板を、矩形状断面となるように組み合わせた状態で溶接して形成される溶接組立箱形断面部材において、
互いに対向する一対の面に配置される第一の鋼板の板厚tおよび降伏強度σy1、ならびに、互いに対向する他の一対の面に配置される第二の鋼板の板厚tおよび降伏強度σy2が、t>tおよびσy1<σy2の関係を満たし、
前記矩形状断面の角部において、前記第一の鋼板が前記第二の鋼板を挟み込む形式で角溶接が施され、
前記角溶接の溶接金属の引張強度が、前記第一の鋼板の引張強度以上、かつ前記第二の鋼板の引張強度以下であること
を特徴とする溶接組立箱形断面部材。
【請求項2】
前記角溶接の開先深さが70mm以下であること
を特徴とする請求項1に記載の溶接組立箱形断面部材。
【請求項3】
前記第一の鋼板の板厚中心間距離Dc2、板厚tおよび降伏強度σy1、ならびに、前記第二の鋼板の板厚中心間距離Dc1、板厚tおよび降伏強度σy2が、下記(1)式の関係を満たすこと
を特徴とする請求項1または2に記載の溶接組立箱形断面部材。
(Dc1×t×σy1)/(Dc2×t×σy2)≧0.60 ……(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の鋼板を矩形に組み合わせて溶接して製作される溶接組立箱形断面部材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物の柱部材には、冷間ロール成形角形鋼管や冷間プレス成形角形鋼管等の角形鋼管や、複数の鋼板を矩形に組み合わせて溶接して製作される溶接組立箱形断面部材等、矩形状断面を有する中空の鋼部材が用いられることが多い。
【0003】
中低層建築物や高層建築物では、柱部材として、比較的安価な冷間ロール成形角形鋼管、冷間プレス成形角形鋼管が用いられることが多い。一方、超高層建築物では、柱部材に要求される剛性および耐力が非常に大きいため、大断面化・厚肉化・高強度化が可能な溶接組立箱形断面柱が用いられることが多い。
【0004】
ここで、溶接組立箱形断面部材は、冷間ロール成形角形鋼管や冷間プレス成形角形鋼管に比べて製作コストが高い。溶接組立箱形断面部材の製作コストが高い要因として、高強度化に伴い、溶接組立箱形断面部材を構成する鋼板自体のコストが高いことに加えて、溶接組立箱形断面部材の製作時の溶接施工管理等に多くの工数を要し、溶接組立箱形断面部材の製作に要する期間が長いことが挙げられる。
【0005】
特に、溶接組立箱形断面部材の肉厚が極厚である場合には、溶接組立箱形断面部材の角溶接の溶接深さが大きくなる。溶接組立箱形断面部材の角溶接は、CO溶接またはサブマージアーク溶接で行われることが多いが、いずれも、角溶接の溶接深さが大きくなると、溶接パス数が増え、溶接組立箱形断面部材の製作コストの上昇や製作期間の長期化の要因となる。
【0006】
また、多層サブマージアーク溶接の場合には、例えば非特許文献1および2に開示されるように、溶接金属が早期に低位破断して母材規格強度を下回ることを防ぐべく、パス間温度・保持時間や後熱温度・保持時間等の熱管理を行う必要がある。サブマージアーク溶接の場合、1パスで施工可能な溶接深さは、例えば非特許文献3に示されるように、60~70mm程度である。よって、肉厚が60~70mm以上の溶接組立箱形断面部材をサブマージアーク溶接で製作する場合には、角溶接が多層サブマージアーク溶接となり、上記の熱管理が必要となるため、溶接組立箱形断面部材の製作工期が急激に長期化する。
【0007】
溶接組立箱形断面部材の角溶接を、1パスのサブマージアーク溶接で行えるようにすべく、溶接組立箱形断面部材を構成する鋼板の板厚を小さくし、この板厚減少に起因する溶接組立箱形断面部材全体の耐力低下を補うように、鋼板の強度を高める方法も考えられる。
【0008】
しかし、この方法では、溶接組立箱形断面部材の耐力は確保できるが、溶接組立箱形断面部材の薄肉化によって部材全体の断面二次モーメントが減少するため、必要な曲げ剛性が確保されない問題が生じうる。また、溶接組立箱形断面部材を構成する鋼板の高強度化に合わせて、角溶接の溶接材料も高強度化する必要があるため、角溶接の施工性も低下しうる。
【0009】
溶接組立箱形断面部材の角溶接の問題に対して、特許文献1では、高強度鋼板と低強度鋼板とを組み合わせて溶接組立箱形断面部材を構成することで、低強度鋼板の強度よりも高い溶接金属強度(オーバーマッチ)を確保し、さらに低強度鋼板の板厚を高強度鋼板の板厚よりも小さくすることで、角溶接の溶接深さを小さくして溶接量を低減することが開示されている。
【0010】
しかし、特許文献1の溶接組立箱形断面部材は、構造物の外周部の側柱等、所定の方向性を持つ水平外力を受ける部材に適用されることを前提としている。特許文献1では、低強度鋼板の板厚を高強度鋼板の板厚よりも小さくすることは開示されているものの、低強度鋼板の板厚を高強度鋼板の板厚よりも大きくすることについては、特許文献1では全く考慮されておらず、このような形式の溶接組立箱形断面部材の性能についても全く検討されていない。
【0011】
また、特許文献1に開示される溶接組立箱形断面部材には、次のような問題がある。すなわち、鋼板は一般に、強度が上昇するにつれて一様伸びや破断伸び、靭性が低下する傾向があるため、高強度鋼板では低強度鋼板に比べて、同じ変形量に対して早期に亀裂や破断が生じうる。特許文献1の溶接組立箱形断面部材が曲げ力を受けて亀裂を生じ耐力を喪失するとき、まず引張側の高強度鋼板のうち最も大きな応力が生じる角部分に延性亀裂が発生し、この延性亀裂が脆性亀裂に遷移して、最終的に引張側の高強度鋼板全面が破断する。よって、特許文献1に開示されるように、高強度鋼板が低強度鋼板を挟み込む形式の溶接組立箱形断面部材では、高強度鋼板の角部分が早期に破断して、溶接組立箱形断面部材が十分な耐力や変形能力を発揮できない問題が生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2017-179723号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】湯田ら著、「極厚ボックス角継手(SA440)への多層盛サブマージアーク溶接の検討 その1 試験概要及び事前試験結果」、日本建築学会大会学術講演梗概集、2014年9月、pp.1045-1046
【非特許文献2】湯田ら著、「極厚ボックス角継手(SA440)への多層盛サブマージアーク溶接の検討 その2 事前試験の考察と本試験結果」、日本建築学会大会学術講演梗概集、2014年9月、pp.1047-1048
【非特許文献3】石井匠ら著、「溶接組立箱形断面柱の高能率溶接法に関する研究 その4.板厚70mm角継手サブマージアーク溶接試験(1)」、日本建築学会大会学術講演梗概集、2014年9月、pp.1043-1044
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高い耐力および剛性が要求される場合にも、角溶接に要する工数が抑えられ、短期間で製作することが可能な、溶接組立箱形断面部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の溶接組立箱形断面部材は、以下の特徴を有する。
【0016】
[1] 複数の鋼板を、矩形状断面となるように組み合わせた状態で溶接して形成される溶接組立箱形断面部材において、互いに対向する一対の面に配置される第一の鋼板の板厚tおよび降伏強度σy1、ならびに、互いに対向する他の一対の面に配置される第二の鋼板の板厚tおよび降伏強度σy2が、t>tおよびσy1<σy2の関係を満たし、前記矩形状断面の角部において、前記第一の鋼板が前記第二の鋼板を挟み込む形式で角溶接が施され、前記角溶接の溶接金属の引張強度が、前記第一の鋼板の引張強度以上、かつ前記第二の鋼板の引張強度以下であることを特徴とする溶接組立箱形断面部材。
【0017】
[2] 前記角溶接の開先深さが70mm以下であることを特徴とする[1]に記載の溶接組立箱形断面部材。
【0018】
[3] 前記第一の鋼板の板厚中心間距離Dc2、板厚tおよび降伏強度σy1、ならびに、前記第二の鋼板の板厚中心間距離Dc1、板厚tおよび降伏強度σy2が、下記(1)式の関係を満たすことを特徴とする[1]または[2]に記載の溶接組立箱形断面部材。
【0019】
(Dc1×t×σy1)/(Dc2×t×σy2)≧0.60 ……(1)
【発明の効果】
【0020】
本発明の溶接組立箱形断面部材によれば、第一の鋼板の板厚tおよび第二の鋼板の板厚tがt>tの関係を満たすとともに、第一の鋼板が第二の鋼板を挟み込む形式で角溶接が施されることにより、角溶接の開先深さを小さくすることができ、溶接組立箱形断面部材の角溶接を、少ないパス数で行うことができる。よって、多層サブマージアーク溶接を行う場合に必要な、パス間温度・保持時間や後熱温度・保持時間等の熱管理が減り、溶接組立箱形断面部材の製作コストや製作期間を大幅に抑えることができる。
【0021】
また、第一の鋼板の降伏強度σy1および第二の鋼板の降伏強度σy2がσy1<σy2の関係を満たすことにより、角溶接の開先深さを小さくすべく第二の鋼板の板厚tを第一の鋼板の板厚tよりも小さくすることによる耐力低下分が、第二の鋼板の降伏強度σy2を第一の鋼板の降伏強度σy1よりも大きくすることで補われ、溶接組立箱形断面部材全体の耐力を確保することができる。
【0022】
また、溶接組立箱形断面部材の耐力を高めるべく、溶接組立箱形断面部材を構成する全ての鋼板を、同じ板厚としつつ一様に高強度化すると、溶接組立箱形断面部材の耐力は確保できても、必要な曲げ剛性が確保されない問題が生じうる。これに対し、本発明の溶接組立箱形断面部材では、第一の鋼板の板厚tおよび降伏強度σy1、ならびに、第二の鋼板の板厚tおよび降伏強度σy2が、t>tおよびσy1<σy2の関係を同時に満たすことにより、溶接組立箱形断面部材の曲げ剛性を確保することができる。
【0023】
また、第一の鋼板の降伏強度σy1および第二の鋼板の降伏強度σy2がσy1<σy2の関係を満たすとともに、第一の鋼板が第二の鋼板を挟み込む形式で角溶接が施されることにより、溶接組立箱形断面部材の角部分が、第二の鋼板よりも降伏強度が小さい、すなわち、第二の鋼板よりも延性に富む、第一の鋼板で構成されることとなる。よって、溶接組立箱形断面部材が曲げ力を受けた際に、溶接組立箱形断面部材の角部分における亀裂の発生を遅らせることができ、溶接組立箱形断面部材を構成する全ての鋼板を一様に高強度化する場合よりも、溶接組立箱形断面部材の曲げ変形性能が向上する。
【0024】
また、本発明の溶接組立箱形断面部材では、角溶接の溶接金属の引張強度が、第一の鋼板の引張強度以上、かつ第二の鋼板の引張強度以下であるので、角溶接の溶接金属の引張強度が第一の鋼板の引張強度を上回るオーバーマッチ接手となり、角溶接部分における破壊の先行を避けることができる。なお、第一の鋼板の引張強度が、角溶接の溶接金属の引張強度よりも小さいため、角溶接の溶接金属の引張強度を第二の鋼板の引張強度より高くする必要はない。本発明の溶接組立箱形断面部材では、角溶接の溶接金属の引張強度が、第二の鋼板の引張強度以下であるので、溶接組立箱形断面部材の耐力を高めるべく第二の鋼板を高強度化しても、角溶接の溶接材料は第二の鋼板に合わせて高強度化する必要がなく、溶接施工管理が容易となる。
【0025】
このように、溶接組立箱形断面部材の大断面化・厚肉化・高強度化を行う場合にも、角溶接を少ないパス数で行うことができ、角溶接に要する工数が抑えられて溶接組立箱形断面部材の製作コストや製作期間が抑えられるとともに、溶接組立箱形断面部材に高い耐力および剛性を備えることができる。
【0026】
また、本発明の溶接組立箱形断面部材では、前記角溶接の開先深さを70mm以下とすることにより、溶接組立箱形断面部材の角溶接を、1パスのサブマージアーク溶接で行うことができる。
【0027】
さらに、本発明の溶接組立箱形断面部材では、互いに対向する前記第一の鋼板の板厚中心間距離Dc2、板厚tおよび降伏強度σy1、ならびに、互いに対向する前記第二の鋼板の板厚中心間距離Dc1、板厚tおよび降伏強度σy2を、上記(1)式の関係を満たすようにし、第一の鋼板の降伏耐力と第二の鋼板の降伏耐力との比の数値範囲を制限することにより、溶接組立箱形断面部材の耐力を確実に確保することができる。
【0028】
具体的には後述するが、図2に示すように、本発明の溶接組立箱形断面部材が軸力作用下で曲げ力を受ける場合について、有限要素法による数値解析を行ったところ、第一の鋼板の降伏耐力に対する第二の鋼板の降伏耐力の比、または第二の鋼板の降伏耐力に対する第一の鋼板の降伏耐力の比が0.6程度よりも小さい場合には、曲げ力を受ける時にウェブ側となる鋼板の塑性化が十分に進行する前に、溶接組立箱形断面部材全体の剛性が早期に低下しうることが確認された。すなわち、溶接組立箱形断面部材の有限要素解析モデルの0.2%オフセット耐力値の計算値が、全塑性耐力の計算値に対し、相対的に小さくなる傾向が確認された。そこで、上記のとおり、第一の鋼板の降伏耐力と第二の鋼板の降伏耐力との比の数値範囲を制限することで、溶接組立箱形断面部材が、曲げ変形量が少ない時点で早期に曲げ耐力が低下することを防ぎ、溶接組立箱形断面部材の耐力を確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の溶接組立箱形断面部材の例を示す断面図である。
図2】本発明の溶接組立箱形断面部材の複数の例の0.2%オフセット耐力の分布を示すグラフである。
図3】本発明の溶接組立箱形断面部材の断面二次モーメントの例を示すグラフである。
図4】本発明の溶接組立箱形断面部材の全塑性耐力の例を示すグラフである。
図5】本発明の溶接組立箱形断面部材の角溶接の例を示す図である。
図6】本発明の溶接組立箱形断面部材の曲げモーメント-変形角関係の例を示すグラフである。
図7】本発明の溶接組立箱形断面部材の拡張骨格曲線の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の溶接組立箱形断面部材の実施の形態について説明する。
【0031】
図1に示すように、本実施の形態の溶接組立箱形断面部材1は、4枚の鋼板11、12を、矩形状断面となるように組み合わせた状態で溶接して形成されている。これら4枚の鋼板11、12のうち、互いに対向する一対の面に配置される第一の鋼板11の板厚tは、互いに対向する他の一対の面に配置される第二の鋼板12の板厚tよりも、大きく設定されている。また、第一の鋼板11の降伏強度σy1は、第二の鋼板の降伏強度σy2よりも、小さく設定されている。
【0032】
そして、溶接組立箱形断面部材1の矩形状断面の角部において、第一の鋼板11が第二の鋼板12を挟み込む形式で、角溶接13が施されている。角溶接13の溶接金属の引張強度は、第一の鋼板11の引張強度以上、かつ第二の鋼板12の引張強度以下に設定されている。また、角溶接13の開先深さは、70mm以下に設定されている。
【0033】
さらに、本実施の形態の溶接組立箱形断面部材1では、上記第一の鋼板11の板厚中心間距離Dc2、板厚tおよび降伏強度σy1、ならびに、上記第二の鋼板12の板厚中心間距離Dc1、板厚tおよび降伏強度σy2は、下記(1)式の関係を満たすように設定されている。
【0034】
(Dc1×t×σy1)/(Dc2×t×σy2)≧0.60 ……(1)
以下では、Dc1、Dc2をそれぞれ、第一の鋼板11の有効幅、第二の鋼板12の有効幅という。
【0035】
上記式(1)の関係は、本発明の溶接組立箱形断面部材1の複数の例について、曲げ加力を受ける場合の0.2%オフセット耐力値を数値解析することにより、規定されたものである。
【0036】
具体的には、本発明の溶接組立箱形断面部材1の例(断面サイズ:600mm×600mm、長さ:3000mm、第一の鋼板の板厚t:40mm、第二の鋼板の板厚t:60mm)が曲げ加力を受ける場合について、第一の鋼板および第二の鋼板の降伏強度σy1、σy2、曲げ加力方向、軸力比nをパラメータとして変化させ、有限要素法を用いて数値解析することにより、0.2%オフセット耐力値M0.2%を計算した。
【0037】
第一の鋼板および第二の鋼板の降伏強度の組合せ(σy1、σy2)は、σy1<σy2の関係を満たすように、(325N/mm、440N/mm)、(325N/mm、630N/mm)、(440N/mm、630N/mm)の3種類とした。曲げ加力方向は、図1に示す載荷方向A(曲げ力を受ける時に、第一の鋼板11がウェブ側となり、第二の鋼板12がフランジ側となる方向)と、載荷方向B(曲げ力を受ける時に、第二の鋼板12がウェブ側となり、第一の鋼板11がフランジ側となる方向)の2種類とした。軸力比nは、0.0、0.3、0.6の3種類とした。
【0038】
一方、溶接組立箱形断面部材の全塑性耐力Mは、下記(2)式または(3)式のように計算される。
【0039】
軸力比n≦1/(1+r)のとき
【0040】
【数1】
【0041】
軸力比n>1/(1+r)のとき
【0042】
【数2】
【0043】
ここで、Dcf、Nyfはそれぞれ、第一の鋼板と第二の鋼板のうち、曲げ力を受ける時にフランジ側となる鋼板の有効幅、垂直降伏耐力であり、Dcw、Nywはそれぞれ、第一の鋼板と第二の鋼板のうち、曲げ力を受ける時にウェブ側となる鋼板の有効幅、垂直降伏耐力である。また、rは、フランジ側の鋼板の垂直降伏耐力Nyfとウェブ側の鋼板の垂直降伏耐力Nywの比(r=Nyf/Nyw)である。
【0044】
図2に、上記数値解析により計算された0.2%オフセット耐力値M0.2%(全塑性耐力Mに対する相対値)の分布を、r(フランジ側の鋼板の垂直降伏耐力Nyfとウェブ側の鋼板の垂直降伏耐力Nyw)との関係として、図2に示す。
【0045】
図2をみると、rが0.6より小さい領域では、M0.2%/Mの値が0.5程度の小さい値となる解析結果が存在しており、曲げ力を受ける時にウェブ側となる鋼板の塑性化が十分に進行する前に、溶接組立箱形断面部材全体の剛性が早期に低下することがわかる。
【0046】
そこで、r(フランジ側の垂直降伏耐力Nyfとウェブ側の鋼板の垂直降伏耐力Nywの比)が0.6以上となるように、すなわち、上記式(1)に規定されるとおり、(Dc1×t×σy1)/(Dc2×t×σy2)が、0.6以上となるようにすることで、溶接組立箱形断面部材が、曲げ変形量が少ない時点で早期に曲げ耐力が低下することを防ぎ、溶接組立箱形断面部材の剛性を確実に確保することができることがわかる。
【0047】
次に、本発明の溶接組立箱形断面部材の耐力および剛性について、第一の鋼板と第二の鋼板の板厚、降伏強度が等しい溶接組立箱形断面部材の耐力および剛性との対比を行い、本発明の効果を検証した。
【0048】
具体的には、サイズが800mm×800mmの溶接組立箱形断面部材について、断面二次モーメントおよび全塑性耐力を計算し、耐力および剛性の大きさを確認した。表1に、本計算で用いた、本発明例および比較例1、2の溶接組立箱形断面部材の各鋼板の板厚および降伏強度の値を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
比較例1の第一の鋼板、第二の鋼板の板厚はそれぞれ、本発明例の第一の鋼板11の板厚tに等しい値とし、比較例1の第一の鋼板、第二の鋼板の降伏強度もそれぞれ、本発明例の第一の鋼板11の降伏強度σy1に等しい値とした。
【0051】
また、比較例2の第一の鋼板、第二の鋼板の板厚はそれぞれ、本発明例の第二の鋼板12の板厚tに等しい値とし、比較例2の第一の鋼板、第二の鋼板の降伏強度もそれぞれ、本発明例の第二の鋼板12の降伏強度σy2に等しい値とした。
【0052】
上記の計算条件で、本発明例および比較例1、2の溶接組立箱形断面部材の断面二次モーメントを計算するとともに、上記式(2)、(3)により本発明例および比較例1、2の溶接組立箱形断面部材の全塑性耐力Mを計算した。
【0053】
まず、比較例1では、鋼板(第一の鋼板および第二の鋼板)の有効幅Dcf、Dcwは720mm、垂直降伏耐力Nyf、Nywは18720kN、r(=Nyf/Nyw)は1.000、断面二次モーメントは4.03×10cm、全塑性耐力M(軸力比0のとき)は20218kN・mと算出される。
【0054】
また、比較例2では、鋼板(第一の鋼板および第二の鋼板)の有効幅Dcf、Dcwは745mm、垂直降伏耐力Nyf、Nywは18092kN、r(=Nyf/Nyw)は1.000、断面二次モーメントは3.04×10cm、全塑性耐力M(軸力比0のとき)は20147kN・mと算出される。
【0055】
これに対し、本発明例(載荷方向A)では、第一の鋼板11と第二の鋼板12のうち、曲げ力を受ける時にウェブ側となる鋼板の有効幅Dcw(=Dc1)、垂直降伏耐力Nyw(=Dc1×t×σy1)はそれぞれ、745mm、19370kNであり、フランジ側となる鋼板の有効幅Dcf(=Dc2)、垂直降伏耐力Nyf(=Dc2×t×σy2)はそれぞれ、720mm、17424kNであり、r(=Nyf/Nyw)は0.900、断面二次モーメントは3.81×10cmであり、全塑性耐力Mは、軸力比0のとき、20196kN・mと算出される。
【0056】
また、本発明例(載荷方向B)では、第一の鋼板と第二の鋼板のうち、曲げ力を受ける時にウェブ側となる鋼板の有効幅Dcw(=Dc2)、垂直降伏耐力Nyw(=Dc2×t×σy2)はそれぞれ、720mm、17424kNであり、フランジ側となる鋼板の有効幅Dcf(=Dc1)、垂直降伏耐力Nyf(=Dc1×t×σy1)はそれぞれ、745mm、19370kNであり、r(=Nyf/Nyw)は1.112、断面二次モーメントは3.32×10cmであり、全塑性耐力Mは、軸力比0のとき、20219kN・mと算出される。
【0057】
上記計算により得られた、比較例1、比較例2、本発明例(載荷方向A)、本発明例(載荷方向B)の断面二次モーメントを、図3に示す。また、上記計算により得られた、比較例1、比較例2、本発明例(載荷方向A)、本発明例(載荷方向B)の全塑性耐力Mを、図4に示す。
【0058】
図3において、比較例1(板厚80mm、降伏強度325N/mm)と、比較例2(板厚55mm、降伏強度440N/mm)とを対比してみると、鋼板の板厚が小さくなることにより、比較例2の溶接組立箱形断面部材の断面二次モーメントは、比較例1に対して約25%減少している。これに対し、比較例1と本発明例を対比してみると、第二の鋼板の板厚のみ小さくなることで、本発明例の溶接組立箱形断面部材の断面二次モーメントは、比較例1に対し、載荷方向Aでは約5.5%の減少、載荷方向Bでは約18%の減少に抑えられている。また、比較例2と本発明例を対比してみると、本発明例の溶接組立箱形断面部材の断面二次モーメントは、載荷方向に関わらず、比較例2を上回っている。このように、本発明の溶接組立箱形断面部材では、曲げ剛性を確実に確保することができることがわかる。
【0059】
また、図4をみると、本発明例の溶接組立箱形断面部材の全塑性耐力は、比較例1、2に対する差が、1%以内に収まっていることがわかる。
【0060】
また、比較例1では、溶接組立箱形断面部材を構成する全ての鋼板の板厚が80mmであり、70mmを超えているため、1パスのサブマージアーク溶接では、角溶接を完全溶込溶接とすることができない。これに対し、本発明例の溶接組立箱形断面部材では、第二の鋼板の板厚が55mmであり、70mm以下に収まっているため、1パスのサブマージアーク溶接で、角溶接を完全溶込溶接とすることができる。よって、多層サブマージアーク溶接を行う場合に必要な、パス間温度・保持時間や後熱温度・保持時間等の熱管理が減り、溶接組立箱形断面部材の製作コストや製作期間を大幅に抑えることができる。
【0061】
このように、本発明の溶接組立箱形断面部材1によれば、溶接組立箱形断面部材の大断面化・厚肉化・高強度化を行う場合にも、角溶接を少ないパス数で行うことができ、角溶接に要する工数が抑えられて溶接組立箱形断面部材の製作コストや製作期間が抑えられるとともに、溶接組立箱形断面部材に高い耐力および剛性を備えることができる。
【実施例0062】
本発明の溶接組立箱形断面部材について曲げ加力実験を行うとともに、第一の鋼板と第二の鋼板の板厚、降伏強度が等しい溶接組立箱形断面部材についても同様の曲げ加力実験を行い、両者を対比して、本発明の溶接組立箱形断面部材の効果を検証した。
【0063】
本曲げ加力実験では、サイズが200mm×200mmの溶接組立箱形断面部材4体(試験体1~4)の各々について、試験体の一端を固定し、軸力比0.2の一定圧縮軸力を作用させながら、試験体の他端をジャッキにより試験体の軸方向と垂直な方向に押し引きする、正負交番繰返し曲げ加力実験を行った。具体的には、全塑性時変形角θを基準として、変形角2θ、4θ、6θ、8θ、10θの各々を2サイクルずつ行って、変形角を増やしていく、正負交番繰返し加力を行った。
【0064】
試験体1、2は、本発明の溶接組立箱形断面部材の要件を満たす例であり、両者は互いに同じ形状であるが、試験体1については上記載荷方向A(曲げ力を受ける時に、第一の鋼板11がウェブ側となり、第二の鋼板12がフランジ側となる方向)で、試験体2については上記載荷方向B(曲げ力を受ける時に、第二の鋼板12がウェブ側となり、第一の鋼板11がフランジ側となる方向)で、曲げ加力実験を行った。
【0065】
試験体1、2では、第一の鋼板11に、板厚19mmの建築構造用550N/mm2級TMCP鋼材(以下では、鋼材Aという)を用い、第二の鋼板12には、板厚12mmの建築構造用低降伏比780N/mm級高張力厚鋼板(以下では、鋼材Bという)を用いた。また、角溶接は、図5(a)に示す形状のレ型開先に対し、日本工業規格JISZ3312「軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ」に規定される記号YGW18相当の溶接ワイヤ(以下では、溶接ワイヤ1という)を用いてCO溶接を施し、完全溶込溶接を形成した。
【0066】
比較用の試験体3では、各鋼板(第一の鋼板および第二の鋼板)に、板厚19mm、550N/mm2級の上記鋼材Aを用いた。また、角溶接は、図5(b)に示す形状のレ型開先に対し、上記溶接ワイヤ1を用いてCO溶接を施し、完全溶込溶接を形成した。
【0067】
また、比較用の他の試験体4では、各鋼板(第一の鋼板および第二の鋼板)に、板厚12mm、780N/mm級の上記鋼材Bを用いた。また、角溶接は、図5(c)に示す形状のレ型開先に対し、日本工業規格JISZ3312に規定される記号G78A2UCN4M4T相当の溶接ワイヤ(以下では、溶接ワイヤ2という)を用いてCO溶接を施し、完全溶込溶接を形成した。
【0068】
表2に、試験体1~4の溶接組立箱形断面部材を構成する各鋼板および角溶接の諸元を示す。
【0069】
【表2】
【0070】
図5(b)に示すとおり、試験体3では、角溶接を完全溶込溶接とするには、5層7パスのCO溶接を施す必要があった。これに対し、本発明の溶接組立箱形断面部材の要件を満たす試験体1、2では、図5(a)に示すとおり、試験体3よりも少ないパス数、具体的には3層4パスのCO溶接で、完全溶込溶接を形成できた。
【0071】
また、試験体4では、角溶接をオーバーマッチ溶接とするために、すなわち、溶接金属の引張強度が、各鋼板(第一の鋼板11および第二の鋼板12)を構成する780N/mm2の鋼材Bの引張強度よりも大きくなるように、高強度の記号G78A2UCN4M4T相当の溶接ワイヤ2を用いる必要があった。これに対し、本発明の溶接組立箱形断面部材の要件を満たす試験体1、2では、角溶接をオーバーマッチ溶接とするには、溶接金属の引張強度が、第一の鋼板11を構成する550N/mm2の鋼材Aの引張強度より大きければ足りるので、記号G78A2UCN4M4Tよりも低強度の記号YGW18相当の溶接ワイヤ1を用いれば良い。
【0072】
このように、本発明の溶接組立箱形断面部材の要件を満たす試験体1、2では、比較的に低強度の溶接材料を用いて、少ないパス数の溶接により、角溶接を形成できることがわかる。
【0073】
図6(a)~図6(d)に、試験体1~4に対し曲げ加力実験を行うことで得られた、曲げモーメント(全塑性耐力Mに対する相対値)-変形角(全塑性時変形角θに対する相対値)関係を示す。また、図7に、試験体1~4の拡張骨格曲線を示す。図6(a)~(d)および図7(a)~(d)の各グラフ中、Mは、上記(2)、(3)式により計算される全塑性耐力である。
【0074】
図6(a)~(d)および図7(a)~(d)をみると、本発明の溶接組立箱形断面部材の要件を満たす試験体1、2では、第一の鋼板と第二の鋼板の全てを高強度小板厚とする試験体4と同様に、少ないパス数での角溶接を可能としつつ、試験体4よりもはるかに大きな塑性変形能力が発揮されることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
1 溶接組立箱形断面部材
11 第一の鋼板
12 第二の鋼板
13 角溶接
第一の鋼板の板厚
第二の鋼板の板厚
σy1 第一の鋼板の降伏強度
σy2 第二の鋼板の降伏強度
c1 第一の鋼板の有効幅
c2 第二の鋼板の有効幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7