IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オハラの特許一覧

特開2022-62816光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062816
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/17 20060101AFI20220414BHJP
   C03C 3/19 20060101ALI20220414BHJP
   C03C 3/247 20060101ALI20220414BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C03C3/17
C03C3/19
C03C3/247
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170956
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】荻野 道子
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB09
4G062DA01
4G062DB03
4G062DB04
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DD06
4G062DD07
4G062DE01
4G062DE02
4G062DE03
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA02
4G062EA10
4G062EB01
4G062EB02
4G062EB03
4G062EC01
4G062EC02
4G062EC03
4G062ED01
4G062ED02
4G062ED03
4G062EE01
4G062EE02
4G062EE03
4G062EF01
4G062EF02
4G062EF03
4G062EG01
4G062EG02
4G062EG03
4G062EG04
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GB01
4G062GB02
4G062GB03
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE02
4G062GE03
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ04
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM02
4G062NN01
4G062NN33
(57)【要約】
【課題】相対屈折率の温度係数が0以上の値をとり、温度変化による結像特性への影響の補正に寄与できる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供する。
【解決手段】酸化物基準の質量%で、P成分を55.0~85.0%、Al成分を3.0~30.0%、B成分を10.0%以下、含有し、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が0×10-6以上であり、(a)又は(b)のどちらかを満たす光学ガラス。(a)MgO成分を含有する場合は、質量比MgO/(CaO+SrO+BaO)が0.10以上である。(b)MgO成分を含有しない場合は、質量和CaO+SrO+BaOが1.0%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、
成分を55.0~85.0%、
Al成分を3.0~30.0%、
成分を10.0%以下、
含有し、
相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が0×10-6以上であり、
(a)又は(b)のどちらかを満たす光学ガラス。
(a)MgO成分を含有する場合は、質量比MgO/(CaO+SrO+BaO)が0.10以上である。
(b)MgO成分を含有しない場合は、質量和CaO+SrO+BaOが1.0%以上である。
【請求項2】
酸化物基準の質量%で、
成分を55.0~85.0%、
Al成分を3.0~30.0%、
成分を10.0%以下、
F成分を0超~10%以下、
含有し、
相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が0×10-6以上であり、
(a)又は(b)のどちらかを満たす光学ガラス。
(a)MgO成分を含有する場合は、質量比MgO/(CaO+SrO+BaO)が0.10以上である。
(b)MgO成分を含有しない場合は、質量和CaO+SrO+BaOが1.0%以上である。
【請求項3】
Sb成分及び/又はS成分を含む請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
Al成分とZnO成分の合計含有量に対するP成分とMgO成分の合計含有量の質量比(P+MgO)/(Al+ZnO)が2.50~9.00である請求項1~3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
質量比Al/(SiO+B+P)が0超である請求項1~4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
JOGIS12-2012「光学ガラスの泡の測定方法」に基づく等級が、1~3級である請求項1~5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野では、光学系で用いられるレンズやプリズム等の光学素子の枚数を削減し、光学系全体を軽量化及び小型化する要求が強まっている。
【0003】
他方で、車載カメラ等の車載用光学機器に組み込まれる光学素子や、プロジェクタ、コピー機、レーザプリンタ及び放送用機材等のような多くの熱を発生する光学機器に組み込まれる光学素子では、より高温の環境での使用が増えている。このような高温の環境では、光学系を構成する光学素子の使用時の温度が大きく変動し易く、その温度が100℃以上に達する場合も多い。このとき、温度変動による光学系の結像特性等への悪影響が無視出来ないほど大きくなるため、温度変動によっても結像特性等に影響が生じ難い光学系を構成することが求められている。
【0004】
温度変動による結像性能等への影響が生じ難い光学系を構成するにあたっては、温度が上昇したときに屈折率が低くなり、相対屈折率の温度係数がマイナスとなるガラスから構成される光学素子と、温度が高くなったときに屈折率が高くなり、相対屈折率の温度係数がプラスとなるガラスから構成される光学素子を併用することが、温度変化による結像特性等への影響を補正できる点で好ましい。
【0005】
ここで、相対屈折率の温度係数に着目して開発されたガラスとしては、例えば特許文献1、2に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-132510号公報
【特許文献2】特開2019-182680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載されたガラスは、相対屈折率の温度係数に着目したリン酸系ガラスに関するものであり、相対屈折率の温度係数がマイナスとなるガラスについて記載されているものの、相対屈折率の温度係数が0以上のガラスについては記載されていない。 具体的には、特許文献1に記載されたフツリン酸ガラスの相対屈折率の温度係数は-2.3~-3.8にとどまり、特許文献2に記載されたP-Nb系のガラスの相対屈折率の温度係数は-7.37~-1.11にとどまる。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、相対屈折率の温度係数が0以上の値をとり、温度変化による結像特性への影響の補正に寄与できる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、酸化物基準の質量%で、P成分を55.0~85.0%、Al成分を3.0~30.0%、B成分を10.0%以下、含有し、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が0×10-6以上であり、(a)MgO成分を含有する場合は、質量比MgO/(CaO+SrO+BaO)が0.10以上、又は(b)MgO成分を含有しない場合は、質量和CaO+SrO+BaOが1.0%以上、のどちらかを満たす光学ガラスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)酸化物基準の質量%で、
成分を55.0~85.0%、
Al成分を3.0~30.0%、
成分を10.0%以下、
含有し、
相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が0×10-6以上であり、
(a)又は(b)のどちらかを満たす光学ガラス。
(a)MgO成分を含有する場合は、質量比MgO/(CaO+SrO+BaO)が0.10以上である。
(b)MgO成分を含有しない場合は、質量和CaO+SrO+BaOが1.0%以上である。
【0011】
(2) 酸化物基準の質量%で、
成分を55.0~85.0%、
Al成分を3.0~30.0%、
成分を10.0%以下、
F成分を0超~10%以下、
含有し、
相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が0×10-6以上であり、
(a)又は(b)のどちらかを満たす光学ガラス。
(a)MgO成分を含有する場合は、質量比MgO/(CaO+SrO+BaO)が0.10以上である。
(b)MgO成分を含有しない場合は、質量和CaO+SrO+BaOが1.0%以上である。
【0012】
(3)Sb成分及び/又はS成分を含む(1)又は(2)に記載の光学ガラス。
【0013】
(4)Al成分とZnO成分の合計含有量に対するP成分とMgO成分の合計含有量の質量比(P+MgO)/(Al+ZnO)が2.50~9.00である(1)~(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0014】
(5)質量比Al/(SiO+B+P)が0超である(1)~(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(6) JOGIS12-2012「光学ガラスの泡の測定方法」に基づく等級が、1~3級である(1)~(5)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0016】
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【0017】
(8)(1)~(6)のいずれかに記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、温度変化による結像特性への影響の補正に寄与できる光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所について、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0020】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算組成の全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量数を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0021】
<必須成分、任意成分について>
成分は、ガラス形成酸化物として本発明の必須成分である。特に、P成分を55.0%以上含有することで、ガラスの安定性を高められながら、比重を低減することができる。従って、P成分の含有量は、好ましくは55.0%以上、より好ましくは58.0%以上、さらに好ましくは59.0%以上、最も好ましくは60.0%以上を下限とする。
一方で、P成分の含有量を85.0%以下にすることで、ガラスの失透を低減することができる。従って、P成分の含有量は、好ましくは85.0%以下、より好ましくは82.0%以下、さらに好ましくは80.0%以下、最も好ましくは78.0%以下を上限とする。
【0022】
Al成分は、相対屈折率の温度係数を高める本発明の必須成分である。そのため、Al成分の含有量は、好ましくは3.0%以上、より好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは6.0%以上、さらに好ましくは7.0%以上、最も好ましくは7.5%以上を下限とする。
一方で、Al成分の含有量を30.0%以下にすることで、過剰な含有による耐失透性の悪化を抑えられる。従って、Al成分の含有量は、好ましくは30.0%以下、より好ましくは27.0%以下、さらに好ましくは25.0%以下、最も好ましくは23.0%以下を上限とする。
【0023】
F成分は、0%超含有する場合に、分散を小さくしながら脱泡効果を得られる任意成分である。特に本発明のガラスはP成分とAl成分を多量に含んでいるため、熔融中に泡が残りやすい。そのため、F成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上、最も好ましくは1.0%以上を下限とする。
一方で、F成分の含有量を10.0%以下にすることで、F成分による相対屈折率の温度係数の低下を抑えることができる。従って、F成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.5%以下を上限とする。
【0024】
MgO成分は、0%超含有する場合に、低温熔融性を向上させつつ相対屈折率の温度係数を高める本発明の任意成分である。MgO成分は、後述するRO成分の中で相対屈折率の温度係数を高める作用が最も大きい。
そのため、MgO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.5%以上、最も好ましくは2.0%以上を下限とする。
一方で、MgO成分の含有量を12.0%以下にすることで、MgO成分の過剰な含有による耐失透性の低下を抑えられる。従って、MgO成分の含有量は、好ましくは12.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、最も好ましくは6.0%以下を上限とする。
【0025】
CaO成分は、0%超含有する場合に、低温熔融性を向上させつつ相対屈折率の温度係数を高める本発明の任意成分である。従って、CaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1.0%以上を下限とする。
一方で、CaO成分の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率や分散の上昇を抑えられる。従って、CaO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、さらに好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0026】
SrO成分は、0%超含有する場合に、低温熔融性を向上させつつ相対屈折率の温度係数を高める本発明の任意成分である。従って、SrO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1.0%以上を下限とする。
一方で、SrO成分の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率や分散の上昇を抑えられる。従って、SrO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、さらに好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0027】
BaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの安定性を高めつつ相対屈折率の温度係数を高める本発明の任意成分である。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1.0%以上を下限とする。
一方で、BaO成分の含有量を15.0%以下にすることで、屈折率や分散の上昇を抑えられる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.0%以下、さらに好ましくは11.0%以下、最も好ましくは9.0%以下を上限とする。
【0028】
LiO成分は、0%超含有する場合に、低温熔融性を向上させる任意成分である。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上、最も好ましくは0.5%以上を下限とする。
一方で、LiO成分の含有量を10.0%以下にすることで、LiO成分の過剰な含有によるガラスの失透を抑えられる。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.5%以下を上限とする。
【0029】
NaO成分は、0%超含有する場合に、低温熔融性を向上させる任意成分である。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1.0%以上を下限とする。
一方で、NaO成分の含有量を15.0%以下にすることで、NaO成分の過剰な含有によるガラスの失透を抑えられる。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは7.0%以下、最も好ましくは5.5%以下を上限とする。
【0030】
O成分は、0%超含有する場合に、低温熔融性を向上させる任意成分である。従って、KO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1.0%以上を下限とする。
一方で、KO成分の含有量を15.0%以下にすることで、KO成分の過剰な含有によるガラスの失透を抑えられる。従って、KO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下、最も好ましくは5.5%以下を上限とする。
【0031】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、相対屈折率の温度係数を高める任意成分である。ZnO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上、さらに好ましくは1.0%以上、最も好ましくは1.5%以上を下限とする。
一方で、ZnO成分の含有量を10.0%以下にすることで過剰な含有による分散の上昇や耐失透性の低下を抑えられる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、さらに好ましくは7.5%以下、さらに好ましくは5.5%以下、最も好ましくは3.5%以下を上限とする。
【0032】
成分は、0%超含有する場合に、安定なガラス形成を促す任意成分である。
一方で、B成分は、過剰に含有するとガラスの失透を招く。従って、B成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0033】
SiO成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの粘度を良好にすることができるガラス形成酸化物成分である。
一方で、SiO成分は、過剰に含有するとガラスの失透を招く。特に、本発明においてSiO成分はB成分よりも失透を招きやすい特徴がある。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0034】

La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分は、0%超含有する場合に、高屈折率を得られる任意成分である。
特に、La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分のそれぞれの含有量を15.0%以下にすることで、アッベ数の減少を抑えられ、失透を低減でき、且つ着色を低減できる。従って、La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分のそれぞれの含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、最も好ましくは5.0%以下を上限とする。
【0035】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。TiO成分の含有量が10.0%を超えると、所望の屈折率にすることが困難になるため、TiO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.0%未満を上限とする。
【0036】
Ta成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。Ta成分の含有量が10.0%を超えると、所望の屈折率にすることが困難になるため、Ta成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.0%未満を上限とする。材料コストを低減させる観点で、Ta成分を含有しなくてもよい。
【0037】
WO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。WO成分の含有量が10.0%を超えると、所望の屈折率にすることが困難になるため、WO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.0%未満を上限とする。
【0038】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び分散を高められる任意成分である。ZrO成分の含有量が10.0%を超えると、所望の屈折率及びアッベ数にすることが困難になるため、ZrO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.0%未満を上限とする。
【0039】
Nb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び分散を高められる任意成分である。Nb成分の含有量が10.0%を超えると、所望の屈折率及びアッベ数にすることが困難になるため、Nb成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.0%未満を上限とする。
【0040】
Bi成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高められ、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。Bi成分の含有量が10.0%を超えると、所望の屈折率にすることが困難になるため、Bi成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.0%未満を上限とする。
【0041】
TeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。TeO成分の含有量が10.0%を超えると、所望の屈折率にすることが困難になるため、TeO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.0%未満を上限とする。材料コストを低減させる観点で、TeO成分を含有しなくてもよい。
【0042】
Sb成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。特に、本発明のガラスにおいてはSb成分を含有すると脱泡効果だけではなく、坩堝から浸食した白金の結晶であるフシを改善することができる。フシは泡と同様にガラスの内部品質を悪化させるため、特に車載用途やプロジェクタ用途の光学素子に用いる際に問題となる。
他方で、Sb成分の含有量を1.0%以下にすることで、可視光領域の短波長領域における透過率の低下や、ガラスのソラリゼーション、内部品質の低下を抑えられる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.7%未満、さらに好ましくは0.4%以下としてもよい。
【0043】
硫黄(以下、Sという)成分は、0ppm超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。S成分は、例えば硫酸塩成分をガラス原料として添加することにより含有させることが好ましい。硫酸塩成分は、例えば、硫酸リチウム水和物(LiSO・HO)、硫酸ソーダ(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸カルシウム水和物(CaSO・1/2HO)、硫酸ストロンチウム(SrSO)、硫酸亜鉛水和物(ZnSO・7HO)、硫酸ランタン水和物(La(SO・9HO)のうちから選ばれる1種である。
S成分の含有量は、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは20ppm以上を下限とする。
他方で、S成分の含有量を300ppm以下にすることで、S成分を過剰に含有した際の合金化や着色を防ぐことができる。従ってS成分の含有量は、好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下を上限とする。
【0044】
Sb成分とS成分はそれぞれ単独で含有しても脱泡効果を得られるが、併せて含有してもよい。特に、本発明のガラスにおいてはSb成分及び/又はS成分を含有すると脱泡効果だけではなく、坩堝から浸食した白金の結晶であるフシを改善することができる。フシは泡と同様にガラスの内部品質を悪化させるため、車載用途やプロジェクター用途の光学素子に用いる際に問題となる。
Sb成分とS成分を併せて含有した場合は、Sb成分の含有量は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下、最も好ましくは0.1%以下とする。他方で、S成分の含有量は、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは20ppm以上を下限とし、好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下を上限とする。
【0045】
RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和は、0%超とする場合に、低温熔融性を向上させながら、分散を低くする効果がある。従って、RnO成分の含有量の和は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは2.0%以上、最も好ましくは2.5%以上を下限とする。
一方で、RnO成分の含有量の和は、過剰に含有すると耐失透性を悪化させてしまう場合があるため、15.0%以下が好ましい。従って、RnO成分の含有量の和は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、最も好ましくは9.0%以下を上限とする。
【0046】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和は、0%超とする場合に、低温熔融性を向上させることができる。従って、RO成分の含有量の和は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.5%以上、最も好ましくは2.0%以上を下限とする。
一方で、RO成分の含有量の和は、ガラスの安定性の低下を抑えるために、20.0%以下が好ましい。
従って、RO成分の質量和は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは18.0%以下、さらに好ましくは16.0%以下、最も好ましくは15.5%以下を上限とする。
【0047】
Ln成分(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)の含有量の和は、0%超とする場合に、高屈折率を得られる任意成分である。従って、Ln成分の含有量の和は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下、最も好ましくは1.5%以下を上限とする。
【0048】
質量比(P+MgO)/(Al+ZnO)は、所望の範囲とする場合に、相対屈折率の温度係数を高めつつ比重を低減することができる。従って、質量比(P+MgO)/(Al+ZnO)は、好ましくは2.50以上、より好ましくは2.60以上、さらに好ましくは2.80以上、さらに好ましくは2.90以上、最も好ましくは3.00以上を下限とする。
一方で、質量比(P+MgO)/(Al+ZnO)は、好ましくは9.00以下、より好ましくは8.80以下、さらに好ましくは8.50以下、さらに好ましくは8.30以下、最も好ましくは8.00以下を上限とする。
【0049】
MgO成分を含有する場合は、質量比MgO/(CaO+SrO+BaO)を、0超とすることで相対屈折率の温度係数を高めながら比重を小さくすることができる。従って、質量比MgO/(CaO+SrO+BaO)は、好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.13以上、最も好ましくは0.15以上を下限とする。
【0050】
MgO成分を含有しない場合は、質量和CaO+SrO+BaOを、1.0%以上とすることで、相対屈折率の温度係数を高めることができる。本発明において、RO成分の中では原子番号が小さいほど、相対屈折率の温度係数を高める効果が大きいため、CaO成分、SrO成分、BaO成分はMgO成分に比べて相対屈折率の温度係数を高める効果が小さい傾向にある。従って、質量和CaO+SrO+BaOは、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上、最も好ましくは4.0%以上を下限とする。
一方で、質量和CaO+SrO+BaOは、比重が大きくなってしまうため、15.0%以下が好ましい。従って、質量和CaO+SrO+BaOは、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.0%以下、さらに好ましくは11.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、最も好ましくは9.0%以下を上限とする。
【0051】
質量和KaO+NaOは15.0%以下とすることで、相対屈折率の温度係数を高めることができる。従って、質量和KaO+NaOは、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは9.0%以下、最も好ましくは8.0%以下を上限とする。
【0052】
質量比(P+BaO)/(B+MgO)は、8.0以上とする場合に、ガラスの安定性を高めることができる。従って、質量比(P+BaO)/(B+MgO)は、好ましくは8.0以上、より好ましくは10.0以上、さらに好ましくは11.0以上、さらに好ましくは12.0以上、最も好ましくは13.0以上を下限とする。
【0053】
質量比Al/RnOは、0.5以上とする場合に、ガラス化後のRnO成分の溶出を抑え、相対屈折率の温度係数を高めることができる。従って、質量比Al/RnOは、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上、最も好ましくは1.0以上を下限とする。
一方で、質量比Al/RnOを無限大とすることで、Alの過剰添加による耐失透性の悪化を抑制することができる。従って、質量比Al/RnOは、好ましくは無限大、より好ましくは15.0以下、より好ましくは13.0以下、さらに好ましくは10.0以下、最も好ましくは7.0以下を上限とする。
【0054】
質量比RO/(SiO+B+P+RnO)は、所望の範囲とする場合に、相対屈折率の温度係数を上昇させつつ熔融性を高めることができる。従って、質量比RO/(SiO+B+P+RnO)は、好ましくは0超、より好ましくは0.01以上、最も好ましくは0.02以上を下限とする。
一方で、質量比RO/(SiO+B+P+RnO)は、好ましくは0.90以下、より好ましくは0.70以下、さらに好ましくは0.50以下、最も好ましくは0.30以下を上限とする。
【0055】
Al成分は相対屈折率の温度係数を向上させるために、含有させる必要がある成分であるが、網目形成酸化物であるSiO成分、B成分、P成分との比率によっては、ガラスの熔融性やガラスの安定性に影響を及ぼすことがある。
質量比Al/(SiO+B+P)は、0超とする場合に、相対屈折率の温度係数を向上させつつガラスの安定性を高めることができる。従って、質量比Al/(SiO+B+P)は、好ましくは0超、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.08以上、最も好ましくは0.10超を下限とする。
一方で、質量比Al/(SiO+B+P)を1.0以下とすることで、Al成分による影響を抑えながら、ガラスの熔融性やガラスの安定性を高められる。従って、質量比Al/(SiO+B+P)は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下、最も好ましくは0.3以下を上限とする。
【0056】
本発明において、以下の成分を合計して98.0%以上、99.0%以上、99.5%以上、99.8%以上の順に含有していることが好ましい。
成分、SiO成分、B成分、Al成分、MgO成分、CaO成分、SrO成分、BaO成分、LiO成分、NaO成分、KO成分、La成分、Y成分、Gd成分、Yb成分、TiO成分、Nb成分、WO成分、Bi成分、ZnO成分、ZrO成分、Ta成分、Sb成分、F成分。
【0057】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0058】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、Cu、Nd、Er、Cs、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含有しないことが好ましい。
【0059】
なお、本明細書における「実質的に含有しない」とは、好ましくは含有量を0.1%未満にすることであり、より好ましくは不可避不純物を除いて含有しないことである。ここで、不可避不純物として含まれる成分の含有量は、例えば0.01%未満や0.001%未満であるが、これに限定されない。
【0060】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0061】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0062】
<物性>
本発明の光学ガラスの物性について説明する。
本発明の光学ガラスは、低屈折率及び高アッベ数(低分散)を有することが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.45000以上、より好ましくは1.47000以上、さらに好ましくは1.49000以上、さらに好ましくは1.49500以上、さらに好ましくは1.50000以上、最も好ましくは1.50500以上を下限とする。この屈折率(n)は、好ましくは1.55000以下、より好ましくは1.54500以下、さらに好ましくは1.54000以下、さらに好ましくは1.53500以下、さらに好ましくは1.53000以下、最も好ましくは1.52500以下を上限とする。
また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは63.00以上、より好ましくは64.00以上、さらに好ましくは65.00以上、さらに好ましくは65.50以上、さらに好ましくは66.00以上、最も好ましくは66.50以上を下限とする。このアッベ数(ν)は、好ましくは75.00以下を上限とするが、好ましくは73.00以下、より好ましくは71.00以下、さらに好ましくは70.50以下、最も好ましくは70.00以下を上限とする。
このような屈折率及びアッベ数を有する本発明の光学ガラスは光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができるため、光学設計の自由度を広げることができる。
【0063】
本発明の光学ガラスは、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が0×10-6以上であることが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)は、好ましくは0×10-6以上、より好ましくは0.5×10-6以上、さらに好ましくは1.0×10-6以上を下限とする。
また、本発明の光学ガラスの相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)の上限は特に規定されないが、好ましくは10.0×10-6以下、より好ましくは7.0×10-6以下、さらに好ましくは5.0×10-6以下、さらに好ましくは4.5×10-6以下としてもよい。
このような相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)を有する本発明の光学ガラスは温度変動によっても結像特性等に影響が生じ難い光学系を構成することが可能であるため、車載用途やプロジェクタ用途の光学素子に好適に用いることができる。
なお、本発明においては、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)について、「相対屈折率」と記載している箇所がある。
【0064】
本発明の光学ガラスは、ガラス中の泡が少ないことが好ましい。特に、JOGIS12-2012「光学ガラスの泡の測定方法」に準じたガラスにおける泡の断面積における等級は、好ましくは1~3級、より好ましくは1~2級であることが好ましい。
これにより、内部品質の良いガラスを得ることができ、泡によって生じる散乱光の影響による映像の乱れを防ぐことができる。
【0065】
本発明の光学ガラスは、比重が小さいことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの比重は、好ましくは3.50以下、より好ましくは3.30以下、さらに好ましくは3.10以下、最も好ましくは3.00以下を上限とする。
このような低比重の光学ガラスは光学設計上有用であり、特に光学系の軽量化を図ることができるため、光学設計の自由度を広げることができる。
【0066】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス原料の熔解難易度や熔融規模に応じて公知のガラスの製造方法に従って作製すればよい。
【0067】
[ガラスの成形]
本発明のガラスは、公知の方法によって、熔解成形することが可能である。なお、ガラス熔融体を成形する手段は限定されない。
【0068】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製したり、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。 なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【実施例0069】
本発明のガラスの実施例及び比較例の組成、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)、比重、泡の断面積における等級を表1~表2に示す。比較例はWO2018/211861の実施例44である。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
本発明のガラスの実施例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、石英坩堝または白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100~1400℃の温度範囲で1~5時間熔解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000~1300℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0071】
実施例のガラスの屈折率(n)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(ν)は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(n)、C線(656.27nm)に対する屈折率(n)の値を用いて、アッベ数(ν)=[(n-1)/(n-n)]の式から算出した。
【0072】
実施例のガラスの相対屈折率は、JIS B 7072-2:2020に規定される干渉法に準じて波長589.29nmの光についての、40~60℃における相対屈折率の温度係数の値を測定した。
【0073】
実施例のガラス中の比重は、JISZ8807:2012の液中ひょう量法による密度及び比重の測定方法に基づいて行った。
【0074】
実施例のガラス中の泡の測定は、日本光学硝子工業会規格JOGIS12-2012「光学ガラスの泡の測定方法」に基づいて行った。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が0×10-6以上であった。
【0078】
また、実施例の光学ガラスは、いずれも比重が3.5以下であった。
【0079】
また、実施例の光学ガラスは、安定なガラスを形成しており、ガラス作製時において失透が起こり難いものであった。
【0080】
従って、実施例の光学ガラスは、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が0×10-6以上であり、泡が少なく、比重の小さい光学ガラスであった。このことから、本発明の実施例の光学ガラスは、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が高く、内部品質がよいため、車載カメラやプロジェクタ用途で好適に用いることができることが推察される。
【0081】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、ガラスブロックを形成し、このガラスブロックに対して研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。その結果、安定的に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0082】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。