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特開2022-62823ファイバー状培養骨格筋及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062823
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】ファイバー状培養骨格筋及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20220414BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20220414BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220414BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20220414BHJP
   A23J 1/00 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C12N5/077
A61L27/24
A61L27/38 100
A23L13/00 A
A23J1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020170965
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 有亮
【テーマコード(参考)】
4B042
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B042AC10
4B042AD36
4B042AK10
4B042AK20
4B042AP23
4B042AP30
4B065AA91X
4B065AC20
4B065BB25
4B065BB37
4B065BC32
4B065BC33
4B065BC34
4B065BC37
4B065BC46
4B065CA41
4B065CA44
4C081AB18
4C081CD122
4C081CD34
4C081DA04
4C081DA12
4C081DA13
4C081DC12
4C081EA02
(57)【要約】
【課題】収縮性に優れ長繊維の培養骨格筋及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シリンジ内の筋芽細胞又は筋原細胞を含むゲル化剤溶液を、ゲル化する温度のノズルから押し出し、ノズルを通過する際にゲル化剤溶液をゲル化させ、ファイバー状ゲルを押し出すゲル化工程と、ファイバー状ゲルの両端を固定具にて固定しながら、培養溶液にてファイバー状ゲル内の筋芽細胞又は筋原細胞を培養する培養工程と、を有する。得られるファイバー状培養骨格筋は、平均繊維径の標準偏差が10μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバー状培養骨格筋の製造方法であって、
シリンジ内の筋芽細胞又は筋原細胞を含むゲル化剤溶液を、ゲル化する温度のノズルから押し出し、前記ノズルを通過する際に前記ゲル化剤溶液をゲル化させ、ファイバー状ゲルを押し出すゲル化工程と、
前記ファイバー状ゲルの両端を固定具にて固定しながら、培養溶液にて前記ファイバー状ゲル内の前記筋芽細胞又は筋原細胞を培養する培養工程と、
を有することを特徴とするファイバー状培養骨格筋の製造方法。
【請求項2】
ファイバー状培養骨格筋の製造方法であって、
シリンジ内の筋芽細胞を含むコラーゲン溶液を、37℃~40℃のノズルから押し出し、前記ノズルを通過する際に前記コラーゲン溶液をゲル化させ、ファイバー状コラーゲンを押し出すゲル化工程と、
前記ファイバー状コラーゲンの両端を固定具にて固定しながら、培養溶液にて前記ファイバー状コラーゲン内の前記筋芽細胞を培養する培養工程と、
を有することを特徴とする請求項1記載のファイバー状培養骨格筋の製造方法。
【請求項3】
前記筋芽細胞は骨格筋芽細胞であることを特徴とする請求項1又は2に記載のファイバー状培養骨格筋の製造方法。
【請求項4】
前記固定具はクリップであり、該クリップにて前記ファイバー状ゲルの両端を把持することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のファイバー状培養骨格筋の製造方法。
【請求項5】
前記培養工程では、ウシ胎児血清を含む培養溶液で前記筋芽細胞を増殖させた後、前記ウシ胎児血清を含む培養溶液を破棄してウマ血清を含む培養溶液に変更し、該ウマ血清を含む培養溶液で前記筋芽細胞を筋管細胞に分化させることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載のファイバー状培養骨格筋の製造方法。
【請求項6】
ファイバー状培養骨格筋の製造方法であって、
シリンジ内の筋芽細胞又は筋原細胞を含むカルシウム反応性のゲル化剤溶液を、ノズルからカルシウムを含有する溶液中に押し出し、前記カルシウム反応性のゲル化剤溶液をゲル化させ、ファイバー状ゲルを押し出すゲル化工程と、
前記ファイバー状ゲルの両端を固定具にて固定しながら、培養溶液にて前記ファイバー状ゲル内の前記筋芽細胞又は筋原細胞を培養する培養工程と、
を有することを特徴とする、ファイバー状培養骨格筋の製造方法。
【請求項7】
前記カルシウム反応性のゲル化剤は、アルギン酸ナトリウム、又は、LMペクチンの何れかであることを特徴とする、請求項6記載のファイバー状培養骨格筋の製造方法。
【請求項8】
前記カルシウムを含有する溶液におけるカルシウム源は、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、第二リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、又は、炭酸カルシウムであることを特徴とする、請求項6又は7に記載のファイバー状培養骨格筋の製造方法。
【請求項9】
筋原線維及びゲルを包含するファイバー状培養骨格筋であって、
平均繊維径の標準偏差が10μm以下であることを特徴とするファイバー状培養骨格筋。
【請求項10】
前記ゲルはコラーゲンゲルであることを特徴とする請求項9に記載のファイバー状培養骨格筋。
【請求項11】
150μN~200μNの収縮力を有することを特徴とする請求項9又は10に記載のファイバー状培養骨格筋。
【請求項12】
請求項9乃至11の何れか1項に記載のファイバー状培養骨格筋を複数本束ねたことを特徴とする、ファイバー状培養骨格筋の結束体。
【請求項13】
ファイバー状培養骨格筋の結束体の製造方法であって、
下記(a)ゲル化工程及び(b)培養工程を有するファイバー状培養骨格筋の作製工程と、
(a)シリンジ内の筋芽細胞又は筋原細胞を含むコラーゲン溶液を、ゲル化する温度のノズルから押し出し、前記ノズルを通過する際に前記ゲル化剤溶液をゲル化させ、ファイバー状コラーゲンを押し出すゲル化工程;
(b)前記ファイバー状コラーゲンの両端を固定具にて固定しながら、培養溶液にて前記ファイバー状コラーゲン内の前記筋芽細胞又は筋原細胞を培養する培養工程;
作製されたファイバー状培養骨格筋を複数束ねる束ね工程と、
を有することを特徴とする、ファイバー状培養骨格筋の結束体の製造方法。
【請求項14】
前記束ね工程の後、各々のファイバー状培養骨格筋の間に筋芽細胞又は筋原細胞を播種し、培養溶液にて培養する工程と、
を有することを特徴とする請求項13に記載のファイバー状培養骨格筋の結束体の製造方法。
【請求項15】
請求項9乃至11の何れか1項に記載のファイバー状培養骨格筋を有することを特徴とするバイオアクチュエーター。
【請求項16】
請求項9乃至11の何れか1項に記載のファイバー状培養骨格筋を有することを特徴とする培養食肉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収縮性に優れ且つ長繊維のファイバー状培養骨格筋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞移植等の再生医療技術を用いた自己組織の再建が注目されている。大きく欠損した組織の場合、in vitroで生体細胞を細胞足場材料であるスキャフォールドに播種し、培養を行うことで生体組織を形成して生体内に移植する、あるいは生体細胞をスキャフォールドに播種し、生体内に埋入して生体内で生体組織の再生を誘導する、といった組織工学的手法が採られる(非特許文献1,2)。
【0003】
骨格筋は力の発揮等、主として力学的な仕事をする器官であり、損傷の程度が小さい場合は組織としての再生は可能であるが、損傷の程度が大きい場合は再生が困難であるため、コラーゲンをスキャフォールド材料として利用し筋芽細胞を培養することで骨格筋の再建を図ろうとする手法がある(非特許文献3)。筋芽細胞が互いに融合して多核筋管を形成し、その後成長する事で筋線維が再生される。組織工学的に培養骨格筋を構築するためには、骨格筋の発生過程と同様に筋芽細胞から組織構築する必要がある。
【0004】
骨格筋組織は一軸方向に配向した筋線維の束で成り立っており、筋線維内には筋原線維が多数存在している。即ち、増殖した筋芽細胞は互いに融合することで多核の筋管細胞へと分化し、さらに成熟すると細く長い形態をとるようになる(非特許文献4,5)。
【0005】
また骨格筋は、軽量且つフレキシブルで生体と同じレスポンスを有し、更には化学エネルギーのATPを直接的に機械エネルギーに変換するために高効率的であるため人工的なアクチュエータでは得ることのできない優れた特性を有する。筋芽細胞に一方向への周期的な機械刺激を負荷しながら培養することにより、収縮力を有する培養骨格筋の製造方法が開示されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】C.You, X.Wang, Y.Zheng, C.Han, Three types of dermalgrafts in rats: the importance of mechanical property and structural design. Biomed Eng Online 2013; 12: 125.
【非特許文献2】B.Perniconi,D.Coletti,P.Aulino, A.Costa, P.Aprile, L.Santacroce, et al., Muscle acellular scaffold as a biomaterial:effects on C2C12 cell differentiation and interaction with the murine host environment. Front Physiol 2014; 5: 354
【非特許文献3】T.Nakamura, S.Takagi, K.Yamasaki, T.Fujisato,Development and evaluation of a removable tissue-engineered muscle with artificial tendons. J Biosci Bioeng 2017 ; 123(2):265-271.
【非特許文献4】AD.Bach, JP.Beier, J.Stern-Staeter, RE.Horch, Skeletal muscle tissue engineering. J Cell Mol Med 2004; 8(4): 413-422.
【非特許文献5】J.Stern-Straeter, F.Riedel, K.Hormann, UR.Goessler,Advances in skeletal muscle tissue engineering. In Vivo.2007; 21(3): 435-444
【非特許文献6】赤土和也,山崎健一,中尾誠,寺田堂彦,藤里俊哉,筒井博司:骨格筋培養のための機械刺激負荷に関する研究,生体医工学,47(2):231-236,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の培養骨格筋では収縮性が十分ではなく、しかも短繊維のものしか得られなかったため、再生医療技術における組織修復は限定されたものである。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、収縮性に優れ長繊維の培養骨格筋及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる培養骨格筋の製造方法は、シリンジ内の筋芽細胞又は筋原細胞を含むゲル化剤溶液を、ゲル化する温度のノズルから押し出し、前記ノズルを通過する際に前記ゲル化剤溶液をゲル化させ、ファイバー状ゲルを押し出すゲル化工程と、前記ファイバー状ゲルの両端を固定具にて固定しながら、培養溶液にて前記ファイバー状ゲル内の前記筋芽細胞又は筋原細胞を培養する培養工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる培養骨格筋は、筋原線維及びゲルを包含するファイバー状培養骨格筋であって、平均繊維径の標準偏差が10μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、収縮性に優れ長繊維の培養骨格筋が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】筋芽細胞を含むコラーゲン溶液をシリンジのノズルから培養溶液中にファイバー状コラーゲンとして押し出すゲル化工程を説明する図である。
図2】筋芽細胞を含むアルギン酸ナトリウム溶液をシリンジのノズルから塩化カルシウム溶液中に押し出すゲル化工程を説明する図である。
図3】シリンジのノズルから溶液内に押出されたファイバー状コラーゲンの写真図であり、そのうち(a)は平面図であり、(b)は拡大された平面図であり、(c)及び(d)はファイバー状コラーゲンの拡大図である。
図4】培養前におけるファイバー状コラーゲンの拡大写真図であり、そのうち(a)は所定部位の写真図であり、(b)は別の部位の写真図である。
図5】増殖培地で2日間培養した後のファイバー状コラーゲンの拡大写真図であり、そのうち(a)及び(b)は100倍拡大写真図であり、(c)及び(d)は200倍拡大写真図である。
図6】増殖培地で2日間培養し次に分化培地で2日間培養した後のファイバー状コラーゲンの拡大写真図であり、そのうち(a)及び(b)は100倍拡大写真図であり、(c)及び(d)は200倍拡大写真図である。
図7】増殖培地で2日間培養し次に分化培地で12日間培養した合計14日培養後のファイバー状コラーゲンの拡大写真図であり、そのうち(a)及び(b)は100倍拡大写真図であり、(c)及び(d)は200倍拡大写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
本発明者は、筋芽細胞又は筋原細胞を含むゲル化剤溶液をファイバー状に押し出し(ゲル化工程)、その後、ファイバー状ゲルの両端を固定しながら筋芽細胞又は筋原細胞を培養することで(培養工程)、収縮性に優れ且つ長繊維の培養骨格筋が得られることを新知見として見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。本明細書において培養骨格筋の収縮性が優れるとは、培養骨格筋の収縮力が高く且つ応力作用時のレスポンス速度が速いことを意味する。
【0015】
筋原細胞は、筋芽細胞に分化する能力を有する細胞であり、例えば多能性幹細胞であり、多能性幹細胞には、胚性幹細胞(embrionic stem cell:ES細胞)、胚性癌腫細胞(embrionic carcinoma cell:EC細胞)、栄養芽幹細胞(trophoblast stem cell:TS細胞)、エビブラスト幹細胞(epiblast stem cell:EpiS細胞)、胚性生殖細胞(embrionic germ cell:EG細胞)、多能性生殖細胞(multipotent germline stem cell:mGS細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)などが含まれる。
【0016】
培養工程において、筋芽細胞を培養するとは、筋芽細胞を増殖させ、増殖した筋芽細胞を筋管細胞へ分化させることを意味する。培養工程において、筋原細胞を培養するとは、筋原細胞を筋芽細胞へ分化させ、分化した筋芽細胞を増殖させ、増殖した筋芽細胞を筋管細胞へ分化させることを意味する。
【0017】
ゲル化剤溶液はゲル化する温度になるとゲル化する溶液であり、例えばコラーゲン溶液である。そのため、本発明は、シリンジ内の筋芽細胞を含むコラーゲン溶液を、37℃~40℃のノズルから培養溶液中に押し出し、ノズルを通過する際にコラーゲン溶液をゲル化させ、ファイバー状コラーゲンを押し出すゲル化工程と、ファイバー状コラーゲンの両端を固定具にて固定しながら、培養溶液にてファイバー状コラーゲン内記筋芽細胞を培養する培養工程と、を有する培養骨格筋の製造方法である。
【0018】
まず筋芽細胞を含むコラーゲン溶液を調製しシリンジ内に充填する。シリンジには該シリンジ内部と連通するノズルが備え付けられている。シリンジは、コラーゲンを溶液状態を維持するため低温条件下に保たれている。コラーゲンは、特に限定されるものではないが、例えばI型コラーゲン、III型コラーゲン、I型コラーゲンとIII型コラーゲンとの混合物等が挙げられ、好ましくはI型コラーゲンである。筋芽細胞は、特に限定されないが、例えば骨格筋筋芽細胞、平滑筋芽細胞等が挙げられ、特に骨格筋筋芽細胞であることが好ましい。また、筋芽細胞はヒト由来であってよく、ヒト以外の動物、例えば、マウス由来であってもよい。骨格筋芽細胞は骨格筋から任意の既知の方法により単離することもできるし、商業的に入手することもできる。骨格筋芽細胞は、限定されずに、例えば、CD56、α7インテグリン、ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、MyoD、Myf5、Myf6、ミオゲニン、デスミン、PAX3等のマーカーにより同定することができる。特定の態様において、骨格筋芽細胞はCD56陽性である。コラーゲン溶液における筋芽細胞の濃度は、適切に培養できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば1.0×10 cells/mL~1.0×10 cells/mLであり、好ましくは1.0×10 cells/mL~1.0×10 cells/mLである。
【0019】
次にゲル化工程では、シリンジ内の筋芽細胞を含むコラーゲン溶液を、37℃~40℃のノズルから培養溶液中に押し出し、ノズルを通過する際にコラーゲン溶液をゲル化させ、培養溶液中にファイバー状コラーゲンを押し出す(図1)。コラーゲン溶液は低温下から温度が上がるとゲル化するため、ノズルは37℃~40℃に設定されている。シリンジのノズルの長さは、ノズル通過時にコラーゲン溶液をゲル化させるものであれば特に限定されるものではなく、例えば0.5mm~3.0cmである。シリンジのノズルからコラーゲン溶液を押し出すことで、ノズルからの排出時にはゲル化され、培養溶液中にファイバー状コラーゲンが押し出される。
【0020】
培養工程では、培養溶液中のファイバー状コラーゲンの両端を固定しながら、ファイバー状コラーゲン内の筋芽細胞を培養する。培養溶液は、細胞の生存を維持できるものであれば特に限定されず、細胞培養用の基礎培地をベースにしたものである。基礎培地は、特に限定されず、例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM等が挙げられる。
【0021】
培養溶液中には細胞成長促進剤を包含させることも可能である。前記細胞成長促進剤は、特に限定されるものではなく、例えば上皮成長因子(Epidermal growthfactor:EGF)、インスリン様成長因子(Insulin-like growth factor:IGF)、トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor:TGF)、神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular endothelial growth factor:VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage-colony stimulating factor:GM-CSF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor:PDGF)、エリスロポエチン(Erythropoietin:EPO)、トロンボポエチン(Thrombopoietin:TPO)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGFまたはFGF2)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor:HGF)が挙げられる。
【0022】
ファイバー状コラーゲンの両端は固定部材にて固定される。固定部材は特に限定されるものではなく例えばクリップ、ピン等が挙げられる。ファイバー状コラーゲンは直線状に固定されても良いし、また例えば円筒形部材に螺旋状に巻き付けるようにして固定されても良い。
【0023】
筋芽細胞は増殖後に分化を開始し、特徴的な現象である細胞融合を行う。即ち単核細胞である筋芽細胞が融合して多核細胞である筋管細胞へと分化する。培養工程における培養時間は、筋芽細胞が増殖し筋管細胞へ分化するまでの時間であれば特に限定されるものではなく、例えば12日間~16日間である。
【0024】
また、本発明は、筋芽細胞及びゲルを包含する培養骨格筋の製造方法であって、シリンジ内の筋芽細胞を含むカルシウム反応性のゲル化剤溶液を、シリンジのノズルからカルシウムを含有する溶液中に押し出し、カルシウム反応性のゲル化剤溶液をゲル化させ、ファイバー状ゲルを押し出すゲル化工程と、ファイバー状ゲルの両端を固定具にて固定しながら、培養溶液にてファイバー状ゲル内の前記筋芽細胞を培養する培養工程と、を有することを特徴とする培養骨格筋の製造方法である。
【0025】
カルシウム反応性のゲル化剤は、特に限定されるものではなく、例えばアルギン酸ナトリウム、又は、LMペクチンの何れかである。
【0026】
カルシウムを含有する溶液におけるカルシウム源は、特に限定されるものではなく、例えば乳酸カルシウム、塩化カルシウム、第二リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、又は、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0027】
例えば、図2に示されるように、ゲル化工程では、シリンジ内の筋芽細胞を含むアルギン酸ナトリウム溶液を、シリンジのノズルから塩化カルシウム溶液中に押し出し、アルギン酸ナトリウムをゲル化させ、ファイバー状のアルギン酸ゲルとして押し出す。その後の培養工程では、ファイバー状のアルギン酸ゲルの両端を固定具にて固定しながら、培養溶液にてファイバー状のアルギン酸ゲル内の前記筋芽細胞を培養する。
【0028】
上述の手法により作成された本発明にかかる培養骨格筋は、筋原線維及びゲルを包含するファイバー状培養骨格筋である。筋原線維は、増殖した筋芽細胞が細胞融合を経て筋管細胞へ分化し更に筋管細胞から筋原繊維へ成長したものであるが、本発明にかかる培養骨格筋では筋芽細胞が一軸方向に配向性高く配向している。即ち、培養工程において筋芽細胞の増殖に伴いファイバーが収縮するが、ファイバー両端の固定により収縮に伴いファイバー径が細くなり、筋芽細胞が長手方向に配向することで収縮性に優れる培養骨格筋が得られる。筋芽細胞の形状指数と細胞の方向についての評価は下記のように行うことが可能である。即ち細胞の形状指数は輪郭を囲った際に得られた細胞の長軸と短軸の比を用いることで以下のように定義する。
【0029】
【数1】
【0030】
SIは形状指数であり、LL,LSはそれぞれ細胞を楕円近似した際の長軸長さと短軸長さである。SIが1に近づくにつれて、細胞が細長い形状をしていることになる。SIが低い細胞は円形状をしており、方向の評価が困難であるので、SIが0.2未満の細胞は評価の対象外とするのが好ましい。
【0031】
細胞の方向の評価は画像解析ソフトウェアを用いることが可能である。それぞれの細胞の輪郭を囲み、楕円近似したときの長軸方向を細胞の向きとする。単位面積あたりの筋芽細胞において、(一軸方向に配向している細胞数)/(総細胞数)を配向性と定義し、本発明にかかる培養骨格筋は、筋芽細胞が80.0%以上の配向性にて配向している。
【0032】
筋芽細胞が一軸方向に配向性高く配向しているため、本発明にかかる培養骨格筋の平均繊維径の標準偏差は10μm以下である。
【0033】
平均繊維径は、例えば、形状測定レーザーマイクロスコープを用いて撮影した画像から例えばn(測定サンプル数)=80としてソフトウェア計算により単糸径を測定して得られる。
【0034】
また本発明にかかるバイオアクチュエーターは、マイクロ人工腱を培養骨格筋の両端に装着したバイオアクチュエーターである。マイクロ人工腱は凸型形状の土台部と凹型形状のフタ部とから構成され、互いに組み合わせることで1つの人工腱を形成する。土台部とフタ部の内部にはそれぞれ円錐状の微小突起物が配置されており、それらを組み合わせた際にそれぞれの微小突起物にて培養骨格筋の端部を強固に挟み込む構造となっている。
【0035】
また本発明にかかる培養食肉は、本発明にかかる培養骨格筋を有する培養食肉である。本発明にかかる培養骨格筋は収縮性に優れるため、肉本来の食感を備えた培養食肉である。
【実施例0036】
(1)培養骨格筋の製造
1-1.筋芽細胞に濃縮培地(MEMハンクス培養液[10倍濃縮品],新田ゼラチン)を加え1.0×10cells/mLの細胞懸濁液に調製した。筋芽細胞にはマウス横紋筋由来株化細胞(C2C12細胞,European Collection of cell culture)を使用した。
【0037】
1-2.次に、氷冷下で、コラーゲン溶液(Cellmatrix Type I, 新田ゼラチン)、1-1の細胞懸濁液及び中和剤(再構成用緩衝液, 新田ゼラチン)を8:1:1で混合して細胞混合コラーゲン溶液を作製した。最終調整濃度は、コラーゲン 2.4 mg/ml(0.24 w/v%) , 細胞密度1.0×107 cells/mlであった。
【0038】
1-3.次に、1-2の細胞混合コラーゲン溶液を1mlシリンジに入れた。シリンジにはノズルとして先端を平坦に加工した21G注射針を取り付けた。
【0039】
1-4.次に、10% FBS及び1%抗生剤を含むHigh-glucose DMEM(シグマ)を25ml遠沈管に入れ、遠沈管を37℃に保温した滅菌水に入れた。
【0040】
1-5.次に、1-3の1mlシリンジをシリンジポンプに取付け、ノズル(21G注射針)を1-4の37℃に保温されている遠沈管内の溶液に2cmつけた状態でセットした。この時、シリンジ内の細胞混合コラーゲン溶液を低温維持するために保冷剤で冷却した。
【0041】
1-6.次に、シリンジポンプによりシリンジを押し込み(押し込み速度1.2mm/min(吐出量20.8μl/min))、細胞混合コラーゲン溶液を1-4の溶液内に押し出してファイバーを形成させた。コラーゲン溶液はシリンジのノズル(21G注射針)を通過した際にファイバー状コラーゲンとなった。1-4の溶液内に押出された直後のファイバー状コラーゲンの直径は384 ±40 μmであった。
【0042】
1-7.形成されたファイバーを回収した。図3(a)(b)(c)(d)に示されるように作製されたファイバー状コラーゲンの長さは126.0mmであり非常に長いものであった。このファイバー状コラーゲンを30mmに切り出しした。図4(a)(b)はファイバー状コラーゲンの形成後で培養前の拡大写真図である。
【0043】
1-8.35mmディッシュ内で、切り出ししたファイバーの両端をクリップで固定(固定間隔は14mm)し培養を開始した。ファイバーがディッシュに接着するのを防ぐためにシリコンシートをディッシュとファイバー間に設置した。
【0044】
1-9.培養は、37℃,5%CO2,95%大気,湿度100%の環境下、10% FBS及び1%抗生剤を含むHigh-glucose DMEM(シグマ)を使用して2日間行った。2日間培養により筋芽細胞が増殖した。図5(a)(b)(c)(d)は培養2日後の拡大写真図である。その後、培養液を分化培地(7%ウマ胎児血清及び1%抗生剤を含むHG-DMEM)に交換し12日間培養した。培地は2日間に1回の割合で交換した。図6(a)(b)(c)(d)は分化培地に交換してから2日間培養後の拡大写真図である。12日間の培養により筋芽細胞は筋管細胞へ分化し、筋管細胞は更に成熟して筋線維となり、多数の筋繊維がコラーゲンにより結びつけられた束状構造である培養骨格筋となった。14日間の培養後、即ち、増殖培地で2日間培養し分化培地で12日間培養した後のファイバー状コラーゲンの直径を測定すると175 ±13 μmであった。
【0045】
(2)培養骨格筋の収縮力測定
筋収縮作用測定装置(株式会社ニューロサイエンス)を使用し、平板電極間に培養骨格筋の長軸方向を挟み込むように取り付けた。長さを調節して静置した後、収縮力測定はパルス幅20msec、周波数0.5Hzで行い、入力印加電圧を0-50Vまで変化させて培養骨格筋に惹起された収縮力を測定した。収縮力は180μNであった。
【0046】
(3)培養骨格筋の画像観察
培養骨格筋の内部構造を観察するため、ヘマトキシリン-エオジン染色(HE染色)を行った。染色方法は10%中性緩衝ホルムアルデヒドで固定後、エタノールで脱水し、キシレンで置換後にパラフィンに包埋し、ミクロトームを用いて4μmの厚さに断面を作製した。図7(a)(b)(c)(d)は、14日の培養後の拡大写真図である。長軸方向の断面の光学顕微鏡写真図である。長軸方向への細胞の配向が見られた。
【0047】
(4)培養骨格筋の配向性
培養骨格筋内の筋芽細胞の配向性を観察した。筋芽細胞の形状指数と細胞の方向についての評価は下記のように行った。即ち細胞の形状指数は輪郭を囲った際に得られた細胞の長軸と短軸の比を用いることで以下のように定義した。
【0048】
【数2】
【0049】
SIは形状指数であり、LL,LSはそれぞれ細胞を楕円近似した際の長軸長さと短軸長さである。SIが低い細胞は円形状をしており、方向の評価が困難であるので、SIが0.2未満の細胞は評価の対象外とした。
【0050】
細胞の方向の評価は画像解析ソフトウェアを用いた。細胞の輪郭を囲み、楕円近似したときの長軸方向を細胞の向きとした。単位面積あたりの筋芽細胞において、(一軸方向に配向している細胞数)/(総細胞数)を配向性と定義し、本発明にかかる培養骨格筋は、筋芽細胞の配向性は92.0%であった。
【0051】
(5)培養骨格筋の標準偏差
筋芽細胞が一軸方向に配向性高く配向しているため、本発明にかかる培養骨格筋の平均繊維径の標準偏差は低いものと考えられる。平均繊維径は、例えば、形状測定レーザーマイクロスコープを用いて撮影した画像からn(測定サンプル数)=80として筋線維の断面を円近似することにより単糸径を測定して得た。本発明にかかる培養骨格筋の平均繊維径の標準偏差は0.05であった。
【0052】
(6)バイオアクチュエーターの製造
屈筋として培養骨格筋の両端にマイクロ人工腱を装着したバイオアクチュエーターを作製した。培養骨格筋の両端に無細胞生体由来組織を組み込み、更にマイクロ人工腱を装着することで生体の筋のようなバイオアクチュエーターを作製することができた。人工腱の中央には孔部が設けられており、バイオアクチュエーターシステムとの接続が可能であった。
【0053】
バイオアクチュエーターシステムを配置したシャーレに培養液(25mM HEPES, 10%ウシ胎児血清,抗生物質を含むHG-DMEM)を入れ、シャーレ中に対向にて電極を配置し、バイオアクチュエーターユニットに電気パルスを印加し、バイオアクチュエーターが駆動する様子を光学顕微鏡により観察した。印加電圧50V,パルス幅2msのパルス電圧を周波数0.5Hzで印加した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
バイオアクチュエーターとして利用できる。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7