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特開2022-62914ウイルス不活化方法、ウイルス不活化装置、当該ウイルス不活化装置を備える送風装置
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  • 特開-ウイルス不活化方法、ウイルス不活化装置、当該ウイルス不活化装置を備える送風装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062914
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】ウイルス不活化方法、ウイルス不活化装置、当該ウイルス不活化装置を備える送風装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20220414BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
A61L9/01 E
A61L9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171111
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 愛
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180CA10
4C180DD01
4C180EA54X
4C180EB06Y
4C180GG07
4C180HH05
4C180HH11
4C180LL20
(57)【要約】
【課題】空気中に存在するウイルスや物に付着したウイルスを処理対象としてウイルスを不活化する。
【解決手段】ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物に光照射して水酸化ラジカルを生成し、生成した水酸化ラジカルにより処理対象に含まれるウイルスを不活化する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物に光照射して水酸化ラジカルを生成する工程と、生成した水酸化ラジカルにより処理対象に含まれるウイルスを不活化する工程とを含むウイルス不活化方法。
【請求項2】
植物由来廃棄物は、ワイン生産における廃棄物であることを特徴とする請求項1記載のウイルス不活化方法。
【請求項3】
ワイン生産における廃棄物は、ブドウ圧搾処理後の圧搾粕及び/又は澱であることを特徴とする請求項2記載のウイルス不活化方法。
【請求項4】
上記植物由来廃棄物又はその抽出物に対する光照射を10~1000mW/cm2を2~30秒とすることを特徴とする請求項1記載のウイルス不活化方法。
【請求項5】
植物由来廃棄物又はその抽出物を含む溶液を噴霧し、霧状の溶液に対して光照射することを特徴とする請求項1のウイルス不活化方法。
【請求項6】
ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物を備え、当該植物由来廃棄物又はその抽出物から水酸化ラジカルを生成するラジカル生成部と、
当該ラジカル生成部の上記植物由来廃棄物又はその抽出物に対して光照射する光照射部とを備え、
光照射部から当該ラジカル生成部の上記植物由来廃棄物又はその抽出物に対して光照射することで水酸化ラジカルを生成し、生成した水酸化ラジカルにより処理対象に含まれるウイルスを不活化するウイルス不活化装置。
【請求項7】
植物由来廃棄物は、ワイン生産における廃棄物であることを特徴とする請求項6記載のウイルス不活化装置。
【請求項8】
ワイン生産における廃棄物は、ブドウ圧搾処理後の圧搾粕及び/又は澱であることを特徴とする請求項7記載のウイルス不活化装置。
【請求項9】
上記光照射部は、植物由来廃棄物又はその抽出物に対する光照射を10~1000mW/cm2を2~30秒とすることを特徴とする請求項6記載のウイルス不活化装置。
【請求項10】
上記ラジカル生成部は、植物由来廃棄物又はその抽出物を含む溶液を噴霧する噴霧装置を備え、
上記光照射部は、当該噴霧装置から噴霧された霧状の溶液に対して光照射することを特徴とする請求項6記載のウイルス不活化装置。
【請求項11】
吸気口と排気口とを備える通風路と、請求項6乃至10いずれか一項記載のウイルス不活化装置とを備え、上記ウイルス不活化装置にて発生した水酸化ラジカルに接触した空気を上記通風路における排気口から排気することを特徴とする通風装置。
【請求項12】
上記ウイルス不活化装置におけるラジカル生成部は、着脱自在に配設されていることを特徴とする請求項11記載の通風装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、空気中に存在するウイルスや衣服に付着したウイルスを処理対象とするウイルス不活化方法、ウイルス不活化装置、当該ウイルス不活化装置を備える送風装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスに起因する疾患は、単なる健康被害の問題だけではなく経済的な問題として世界全体に大きな影響を与えている。例えば、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスなどは人に対して感染し、発熱、悪寒、下痢、頭痛、喉の痛み、関節・筋肉の痛み、咳、鼻水といった様々な症状を引き起こす。また、鳥インフルエンザや豚インフルエンザなど、家畜動物に対して感染するウイルスは、人への感染事例もあることから、罹患した家畜動物を殺処分する必要があるため経済的ダメージを引き起こす。
【0003】
特許文献1には、水を静電霧化することでラジカルを含む帯電微粒子水を生成し、帯電微粒子水がアンモニア、アセトアルデヒド、酢酸のうち少なくとも一つと反応し、当該アンモニア、アセトアルデヒド、酢酸のうち少なくとも一つを分解し、空気中の浮遊菌を除去する技術が開示されている。なお、特許文献1の技術は、特許文献2に開示された電微粒子水による臭気成分の分解方法、及び臭気成分の分解装置に基づいている。
【0004】
ところで、非特許文献1には、ワイン生産における廃棄物抽出物に対する光照射によって活性酸素種を生成し、生成した活性酸素種により細菌や真菌を殺菌する技術が開示されている。非特許文献1では、ワイン生産における廃棄物として、白ブドウ搾りかす、白ワイン澱を使用し、両方の場合で活性酸素種の生成及び抗菌活性が確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-119883号公報
【特許文献2】特許第5764752号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biocontrol Sci, 21(2):113-121, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ワイン生産等の食品加工における廃棄物といった植物由来廃棄物を用いてウイルスを不活性化するといった技術は知られておらず、植物由来廃棄物を有効に利用できるシステムが待望されていた。そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、ワイン生産における廃棄物といった植物由来廃棄物を有効に活用し、空気中に存在するウイルスや物に付着したウイルスを処理対象とするウイルス不活化方法、ウイルス不活化装置、当該ウイルス不活化装置を備える送風装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために本発明者らが鋭意検討した結果、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物に光照射することで、ウイルスに対する不活効果を示す活性酸素種を生成できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下を包含する。
(1)ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物に光照射して水酸化ラジカルを生成する工程と、生成した水酸化ラジカルにより処理対象に含まれるウイルスを不活化する工程とを含むウイルス不活化方法。
(2)植物由来廃棄物は、ワイン生産における廃棄物であることを特徴とする(1)記載のウイルス不活化方法。
(3)ワイン生産における廃棄物は、ブドウ圧搾処理後の圧搾粕及び/又は澱であることを特徴とする(2)記載のウイルス不活化方法。
(4)上記植物由来廃棄物又はその抽出物に対する光照射を10~1000mW/cm2を2~30秒とすることを特徴とする(1)記載のウイルス不活化方法。
(5)植物由来廃棄物又はその抽出物を含む溶液を噴霧し、霧状の溶液に対して光照射することを特徴とする(1)のウイルス不活化方法。
(6)ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物を備え、当該植物由来廃棄物又はその抽出物から水酸化ラジカルを生成するラジカル生成部と、
当該ラジカル生成部の上記植物由来廃棄物又はその抽出物に対して光照射する光照射部とを備え、
光照射部から当該ラジカル生成部の上記植物由来廃棄物又はその抽出物に対して光照射することで水酸化ラジカルを生成し、生成した水酸化ラジカルにより処理対象に含まれるウイルスを不活化するウイルス不活化装置。
(7)植物由来廃棄物は、ワイン生産における廃棄物であることを特徴とする(6)記載のウイルス不活化装置。
(8)ワイン生産における廃棄物は、ブドウ圧搾処理後の圧搾粕及び/又は澱であることを特徴とする(7)記載のウイルス不活化装置。
(9)上記光照射部は、植物由来廃棄物又はその抽出物に対する光照射を10~1000mW/cm2を2~30秒とすることを特徴とする(6)記載のウイルス不活化装置。
(10)上記ラジカル生成部は、植物由来廃棄物又はその抽出物を含む溶液を噴霧する噴霧装置を備え、
上記光照射部は、当該噴霧装置から噴霧された霧状の溶液に対して光照射することを特徴とする(6)記載のウイルス不活化装置。
(11)吸気口と排気口とを備える通風路と、上記(6)~(10)いずれかに記載のウイルス不活化装置とを備え、上記ウイルス不活化装置にて発生した水酸化ラジカルに接触した空気を上記通風路における排気口から排気することを特徴とする通風装置。
(12)上記ウイルス不活化装置におけるラジカル生成部は、着脱自在に配設されていることを特徴とする(11)記載の通風装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るウイルス不活化方法によれば、簡便な手順により空気中に存在するウイルスや物に付着したウイルスを効果的に不活化することができる。また、本発明に係るウイルス不活化装置は、空気中のウイルスや物に付着したウイルスを簡便な構成により効果的に不活化することができる。さらに本発明に係る通風装置は、ウイルス不活化装置を備えることによって、存在するウイルスを不活化した状態の空気を排気口から供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用したウイルス不活化装置の概略構成図である。
図2】本発明を適用したウイルス不活化装置の他の例として示す概略構成図である。
図3】本発明を適用した通風装置の概略構成図である。
図4】本発明を適用した通風装置の他の例として示す概略構成図である。
図5】本発明を適用した通風装置の更に他の例として示す概略構成図である。
図6】本発明を適用したウイルス不活化装置を備える除染装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明に係るウイルス不活化方法は、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物に対して光を照射することによって生じる水酸化ラジカルを利用するものである。ここで、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物とは、例えば、ポリフェノールを含有する植物に対して圧搾処理した後の残査成分(圧搾粕)、ポリフェノールを含有する植物を蒸留処理した後の残査成分及びポリフェノールを含有する植物を溶媒抽出処理した後の残査成分を挙げることができる。
【0014】
ここでポリフェノールとしては、カテキン類(カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等);カテキン類重合体;フラボノール類(ケルセチン、ミリセチン、ケンフェロール等)及びその配糖体;フラボン類(アビゲニン、クリシン、ルテオリン等);イソフラボン類(ダイゼイン、ゲニステイン等)及びその配糖体;フラバノン類(ナリンゲニン、へスペレチン等)及びその配糖体;アントシアニジン類(シアニジン、デルフィニジン、ペラルゴニジン等)及びその配糖体;カルコン類;クルクミン類;リグナン類;クマリン類;フェニルカルボン酸類等を挙げることができる。
【0015】
ポリフェノールを含有する植物としては、特に限定されないが、ブドウ、ムラサキイモ、ブルーベリー、ビルベリー、マルベリー、ブラックベリー、ハスカップ、カシス等のアントシアニンを含有する植物、緑茶、紅茶、ウーロン茶等のカテキンを含む植物、カカオ等のカカオポリフェノールを含む植物、タデ科のダッタンソバ及びソバ等のルチンを含む植物、ウコン等のクルクミンを含む植物、オランダビユ、ダイズ、もやし、ヤエナリもやし、葛根、ムラサキツメクサ及びムラサキツメクサもやし等のマメ科植物のイソフラボンを含む植物、コーヒー等のクロロゲン酸類(コーヒーポリフェノール)を含む植物、フェルラ酸、タンニン、エラグ酸、リグナン或いはクマリンといったその他のポリフェノールを含有する植物を挙げることができる。
【0016】
特に、ポリフェノールを含有する植物としては、アントシアニンを含む植物、特にアントシアニンを含む果実を使用することが好ましい。アントシアニンを含む果実のなかでは特に、ブドウが好ましい。すなわち、本発明においてポリフェノールを含む植物由来廃棄物としては、ブドウを使用して得られた廃棄物を利用することが好ましい。ブドウが果汁飲料やワインの原料として利用される場合、アントシアニンを含有する果皮や等が廃棄物となる。なお、ワイン生産における廃棄物には、除梗した後の果梗や種子等が混在していてもよい。また、ワイン生産においては、タンクの底に沈殿した澱が廃棄物となる。
【0017】
本発明においては、特に限定されないが、ワイン生産における廃棄物を使用することが好ましい。すなわち、ポリフェノールを含有する植物由来廃棄物としては、ブドウ圧搾処理後の圧搾粕及び/又は澱を使用することが好ましい。
【0018】
また、本発明において、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物の抽出物とは、ポリフェノールを含有する植物に対して圧搾処理した後の残査成分(圧搾粕)、ポリフェノールを含有する植物を蒸留処理した後の残査成分及びポリフェノールを含有する植物を溶媒抽出処理した後の残査成分等を溶媒に浸漬し、当該残査成分に含まれるポリフェノールを抽出した溶液を挙げることができる。ポリフェノール成分を抽出する溶媒としては、水や含水有機溶媒を挙げることができる。例えは、ワイン生産において生じたブドウ圧搾処理後の圧搾粕やワインタンクの底に沈殿した澱を適当な溶媒に浸漬し、当該圧搾粕や澱に含まれるポリフェノール成分を抽出した溶液を使用することができる。
【0019】
なお、特に限定されないが、ワイン生産において使用されるブドウ品種としては、例えば、シャルドネ、セミヨン、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、ミュラー・トゥルガウ、マスカット、ヴェルデレ、甲州、トラミナー、デラウェア、ナイアガラなどの白ワイン用ブドウ品種が挙げられる。また、赤ワイン用ぶどう品種としては、例えば、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロ、ピノ・ノワール、シラー、アリカント、ネビオロ、マスカット・ベリーA、ブラック・クィーンなどが挙げられる。
【0020】
また、本発明では、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物として上述したブドウ由来の廃棄物に限定されず、例えば、ライム、レモン、グレープフルーツ、夏みかん、いよかん、温州ミカン、ポンカン等のミカン科カンキツ属(ミカン属);ナガキンカン、マルキンカンン等のミカン科キンカン属;ぶどう等のブドウ科ブドウ属;ブルーベリー、コケモモ等のツツジ科スノキ属;リンゴ等のバラ科リンゴ属、柿等のカキノキ科カキ属に属する植物由来の廃棄物を使用することもできる。
【0021】
さらに、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物としては、1種類の植物由来の廃棄物でも良いし、2種以上の植物由来の廃棄物を利用しても良い。例えば、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物としては、ブドウの圧搾粕と、抽出処理後のコーヒー豆とを組み合わせて使用することもできる。
【0022】
本発明に係るウイルス不活化方法では、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物に対して光を照射することによって生じる水酸化ラジカルをウイルスに対して作用させ、ウイルスを不活化する。ここで、ウイルスを不活化するとは、ウイルスの感染又は増殖能力を除去又は低下させる効果を意味する。また、処理対象のウイルスとしては、特に限定されないが、エンベロープ型及び非エンベロープ型の両者を含む。処理対象のウイルスは、二本鎖DNAウイルス、一本鎖DNAウイルス、二本鎖RNAウイルス、一本鎖(+)RNAウイルス、一本鎖(-)RNAウイルス、及び逆転写ウイルスのいずれであってもよい。不活化され得るウイルスとしては、例えば、カリシウイルス科、オルトミクソウイルス科、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科などに属するウイルスが挙げられる。カリシウイルス科に属するウイルスとしては、ノロウイルス属、サポウイルス属、ラゴウイルス属、ネボウイルス属及びベシウイルス属に属するウイルスが挙げられる。オルソミクソウイルス科に属するウイルスとしては、A型インフルエンザウイルス属、B型インフルエンザウイルス属、C型インフルエンザウイルス属、トゴトウイルス属及びアイサウイルス属に属するウイルスが挙げられる。また、コロナウイルス科はレトウイルス亜科及びオルトコロナウイルス亜科が含まれる。コロナウイルス科のレトロウイルス亜科に属するウイルスとしては、アルファレトウイルス属に属するウイルスが挙げられる。コロナウイルス科のオルトコロナウイルス亜科に属するウイルスとしては、アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属、デルタコロナウイルス属、ガンマコロナウイルス属に属するウイルスが挙げられる。さらに、ヘルペスウイルス科に属するウイルスとしては、単純ウイルス属、バリセロウイルス属、リンフォクリプトウイルス属、サイトメガロウイルス属、ロゼオロウイルス属及びラディノウイルス属に属するウイルスが挙げられる。
【0023】
ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物に対して照射する光は、360nm~830nmの可視光の波長範囲から任意に決定することができる。より高いエネルギーを与えるため、より短波長の可視光を使用することが好ましい。例えば、360~450nmの可視光とすることができ、360~400nmの可視光とすることが好ましく360~380nmの可視光とすることがより好ましい。
【0024】
また、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物に対して照射する光は、当該廃棄物又はその抽出物から水酸化ラジカルを生じうる程度の放射照度及び照射時間とすれば良い。一例として、放射照度10~1000[mW/cm2]を2~30[秒]とすることができ、放射照度50~100[mW/cm2]を2~30[秒]とすることが好ましく、放射照度50~100[mW/cm2]を2~15[秒]とすることがより好ましい。また、放射照度100[mW/cm2]を15~30[秒]とすることもできるし、放射照度50[mW/cm2]を2~6[秒]とすることもできる。光の照射条件をこの範囲とすることで、ウイルスの不活化に十分な水酸化ラジカルを速やかに生成することができる。
【0025】
以上のように、本発明に係るウイルス不活化方法によれば、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物に対して光を照射することで水酸化ラジカルを生じさせ、これによりウイルスを不活化する。ウイルスの不活化は、例えば、TCID50(Median tissue culture infectious dose, 50%感染量)法やプラーク法により定量的に評価することができる。本発明に係るウイルス不活化方法によれば、TCID50法でウイルス量(感染力のあるウイルス量)を測定したときに未処理のウイルスと比較して統計的に有意に減少させることができ、また具体的に、ウイルス量を少なくとも10%減少させることができ、ウイルス量を少なくとも20%減少させることができ、ウイルス量を少なくとも30%減少させることができ、ウイルス量を少なくとも40%減少させることができ、ウイルス量を少なくとも50%減少させることができ、ウイルス量を少なくとも60%減少させることができ、ウイルス量を少なくとも70%減少させることができ、ウイルス量を少なくとも80%減少させることができ、或いはウイルス量を少なくとも90%減少させることができる。
【0026】
以上で説明した本発明に係るウイルス不活化方法は、例えば図1に示すようなウイルス不活化装置1として実現することができる。図1に示すウイルス不活化装置1は、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物を備える廃棄物等保持部2(ラジカル生成部)と、廃棄物等保持部2に保持された植物由来廃棄物又はその抽出物に対して所定の波長及び放射照度の光を照射する光照射部3とを備えている。
【0027】
ウイルス不活化装置1において廃棄物等保持部2は、上述した植物由来廃棄物を枠内に充填したものや、当該植物由来廃棄物の抽出物を含侵させた不織布や織布とすることができる。また、ウイルス不活化装置1において廃棄物等保持部2は、着脱自在に配設されていることが好ましい。
【0028】
このように構成されたウイルス不活化装置1では、光照射部3から所定の波長及び放射照度の光を廃棄物等保持部2に照射する。これにより、廃棄物等保持部2と光照射部3との間の空間4に、植物由来廃棄物又はその抽出物に含まれるポリフェノール成分から水酸化ラジカルが発生する。したがって、この空間4にウイルスを含む気体を導入することによって、空間4にてウイルスを不活化することができる。
【0029】
また、ウイルス不活化装置1において廃棄物等保持部2を着脱自在とした場合には、水酸化ラジカルの発生量が低下した段階で廃棄物等保持部2を交換することができる。これにより、水酸化ラジカルの発生量の低下を防止し、ウイルスを含有する気体を永続的に処理することができる。
【0030】
一方、本発明を適用したウイルス不活化装置1は、図1に示した構成に限定されず、図2に示すように、廃棄物等保持部2に代えて、ポリフェノールを含む植物由来廃棄物又はその抽出物を噴霧する噴霧装置5を備えるものであっても良い。ウイルス不活化装置1において噴霧装置5は、植物由来廃棄物を含む溶液又は植物由来廃棄物の抽出溶液を充填したタンク6と、タンク6と管部材7を介して連結した噴霧ノズル8とを備える。なお、タンク6は、植物由来廃棄物を含む溶液又は植物由来廃棄物の抽出溶液を追加で充填することができる。
【0031】
このように構成されたウイルス不活化装置1では、植物由来廃棄物の抽出物を噴霧装置5から噴霧することができる。そして、ウイルス不活化装置1では、噴霧された植物由来廃棄物の抽出物に対して光照射部3から所定の波長及び放射照度の光を照射する。これにより、廃棄物等保持部2と光照射部3との間の空間4に噴霧された抽出物に含まれるポリフェノール成分から水酸化ラジカルが発生する。したがって、この空間4にウイルスを含む気体を導入することによって、空間4にてウイルスを不活化することができる。
【0032】
図2に示したウイルス不活化装置1によれば、植物由来廃棄物を含む溶液又は植物由来廃棄物の抽出溶液を噴霧装置5により噴霧するため、水酸化ラジカルを比較的に広い範囲(空間4)に発生することができ、広い範囲でウイルスを含む気体を処理することができる。なお、図2に示したウイルス不活化装置1では、植物由来廃棄物を含む溶液又は植物由来廃棄物の抽出溶液をタンク6に追加で充填することができるため、ウイルスを含有する気体を長期間に亘って処理することができる。
【0033】
以上のように本発明を適用したウイルス不活化装置1は、ポリフェノールを含有する植物由来廃棄物又はその抽出物から生じた水酸化ラジカルによって気体に含まれるウイルスを不活化することができる。このため、ウイルス不活化装置1を通風装置に適用することで、空気中のウイルスを不活性化することができる。例えば、図3に示すように、ウイルス不活化装置1を備える通風装置10は、周囲の空気を取り込む吸気口11と、処理後の空気を排出する排気口12とを備える通風路13の中途部にウイルス不活化装置1を配設した構成とすることができる。ここで通風装置10とは、装置の大きさ及びその他の構成部材等に何ら限定されず、通風路13に空気を通過させ、排気口12から空気を供給する如何なる装置も含まれる。通風装置10の例としては、所望の温度に設定した空気を供給する空気調節装置(エアーコンディショナー)、空気中の微粒子を除去する空気清浄機、ヘアードライヤー、乾燥機、装置内の空気を循環させる送風機等を挙げることができる。したがって、通風装置10は、図示しないが、空気を送風するための手段としてファンやモータ、温度調節装置(冷却装置やヒーター)、フィルター等を備えることができる。
【0034】
このように構成された通風装置10は、吸気口11から導入された空気がウイルス不活化装置1内で水酸化ラジカルに曝され、当該空気に含まれるウイルスを不活化することができる。このため、通風装置10は、ウイルスを不活化した空気を排気口12から供給することができる。より具体的には、図4に示すように、通風装置10は、図2に示したウイルス不活化装置1を備えることができる。この場合、空間4には、霧状の植物由来廃棄物の抽出物に対して所定の条件で光が照射されており、これにより生じた水酸化ラジカルが存在している。そして、吸気口11から導入された空気は、空間4において水酸化ラジカルに曝されることとなる。そして、ウイルスが不活化された空気は、排気口12から排出されることとなる。
【0035】
このとき、通風装置10は、図5に示すように、ウイルス不活化装置1と排気口12との間にフィルター14を備えることもできる。フィルター14は、例えば、上述した植物由来廃棄物を枠内に充填したものや、当該植物由来廃棄物の抽出物を含侵させた不織布や織布とすることができる。フィルター14が上述したポリフェノールを含有する植物由来廃棄物やその抽出物を含む場合、残留した水酸化ラジカルを消去することができる。
【0036】
ところで、上述したウイルス不活化装置1は、通風装置10に使用されるだけでなく、図6に示すように除染装置20に適用することができる。ここで、除染装置20とは、マスクや、医療用ゴーグル、医療従事者の衣服などウイルスによる汚染が考えられるあらゆる処理対象物21を除染するものである。除染装置20は、噴霧装置5と、空間4に噴霧された植物由来廃棄物の抽出溶液に対して光を照射する光照射部3とを有するウイルス不活化装置1と、処理対象物を載置する載置台22とを備えている。
【0037】
以上のように構成された除染装置20は、空間4に生じた水酸化ラジカルによって載置台22に載置された処理対象物21を除染することができる。すなわち、ウイルス不活化装置1は、空気中のウイルスを不活化するだけでなく、処理対象物に付着したウイルスも不活化することができる。このとき、噴霧された植物由来廃棄物の抽出溶液に含まれるポリフェノール成分は、水酸化ラジカルとは異なり抗酸化作用があるため、ポリフェノール成分の抗酸化作用に起因する機能性を処理対象物に付加することができる。
【実施例0038】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕
本実施例では、ポリフェノールに所定の条件で光照射することで過酸化水素を経て水酸化ラジカルを発生するという知見(Tsukada M, Nakashima T, Kamachi T, Niwano Y. Prooxidative potential of photo-irradiated aqueous extracts of grape pomace, a recyclable resource from winemaking. PLoS One, 11(6):e0158197, 2016)に基づき、このように発生した水酸化ラジカルによりウイルスの不活化が可能か検証した。
【0040】
<実験方法>
本実施例では、インフルエンザウイルス及びノロウイルスを処理対象とした。インフルエンザウイルスはMDCK細胞(イヌ腎細胞由来)、ノロウイルスはRAW264.7細胞(マウスマクロファージ由来)に感染させそれぞれ培養した。本実施例においてウイルス量は3×105/100μL/wellとした。
【0041】
ポリフェノール含有サンプルとウイルス液を1:10の割合で混合し、紫外光(405nm, 20W)を0、15、30及び120秒にて照射した後、TCID50法にてウイルスの減少量を定量した。なお、本実施例では、ポリフェノール含有サンプルは、ブドウ果皮水抽出エキス(ポリフェノール量;760μg/mL)と、柿蒂水抽出エキス(ポリフェノール量;390μg/mL)を用い、対照は抽出溶媒である水とした。
【0042】
<結果>
本実施例の結果、紫外光照射時間15秒で最も不活化効力を発揮し、インフルエンザウイルス及びノロウイルスそれぞれに対し、柿蔕水抽出エキスでTCID50/mL=104/mL(減少率としては99.9%)及びTCID50/mL=102/mL(減少率としては90%)となり、ブドウ果皮水抽出エキスでTCID50/mL=103/mL(減少率としては99%)及び TCID50/mL=102/mL(減少率としては90%)となった。
【0043】
この結果から、ポリフェノールの種類にかかわらず、光照射することによりウイルスに対する不活化効果を得ることが分かった。
【0044】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で使用したブドウ果皮水抽出エキス及び柿蒂水抽出エキスについて、光照射した際に発生する過酸化水素量を測定した。
【0045】
<実験方法>
実施例1でウイルス不活化試験の効果が得られた、ブドウ果皮水抽出エキス及び柿蒂水抽出エキスに対する光照射15秒、30秒照射の各条件について検証した。まず、各サンプルは原液濃度の5倍及び10倍稀釈品を用意し、光(402nm, 20W)を上記の時間にて照射した。照射後、一般的に過酸化水素量の測定に用いられる原理(キシリノールオレンジと第二鉄(過酸化物に依存する二価鉄イオンの酸化により生じる)の複合体の形成に基づいて定量)により過酸化水素量を定量した。検量線の標品には過酸化水素濃度10μM品の2倍希釈系列品を用いた。
【0046】
<結果>
測定結果を表1に示した。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、実施例1の結果として柿由来ポリフェノール含有エキスの方がブドウ由来ポリフェノール含有エキスよりも不活活性が高い傾向にあったが、本実施例の試験結果はこれを裏付ける結果となった。また、没食子酸(単品ポリフェノール)は長時間照射になると効力が減少する傾向にあるが、ポリフェノールが多種含有すると考えられる植物由来エキスを使用した場合には、長期間に亘って水酸化ラジカルの発生が可能であることが考察できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6