(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022062951
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】清掃方法、清掃装置、制御装置、コンピュータプログラム及び処理方法
(51)【国際特許分類】
A47L 1/02 20060101AFI20220414BHJP
B08B 11/04 20060101ALI20220414BHJP
B08B 1/00 20060101ALI20220414BHJP
B25J 9/16 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
A47L1/02
B08B11/04
B08B1/00
B25J9/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171171
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健志
【テーマコード(参考)】
3B116
3C707
【Fターム(参考)】
3B116AA01
3B116AA31
3B116AB51
3B116BA03
3B116BA08
3B116BA31
3B116CD43
3C707BS13
3C707FS01
3C707FS06
3C707JS07
3C707KV01
3C707LS01
3C707LS08
3C707LT01
(57)【要約】
【課題】窓の隅々まで清掃することが可能となる清掃方法、清掃装置、制御装置及びコンピュータプログラムを提供すること。
【解決手段】柔軟性を備えた駆動機構を有するロボットアームに保持される清掃部材を、窓枠及び窓を備える窓体の表面に倣わせながら、前記窓枠のエッジを探索する、又は、前記窓枠のエッジに接触する、ステップを含む清掃方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を備えた駆動機構を有するロボットアームに保持される清掃部材を、窓枠及び窓を備える窓体の表面に倣わせながら、前記窓枠のエッジを探索する、又は、前記窓枠のエッジに接触する、ステップを含む清掃方法。
【請求項2】
前記ロボットアームは、複数の駆動軸を有し、
前記複数の駆動軸は、前記柔軟性を備えた駆動機構として、直列弾性アクチュエータをそれぞれ備える請求項1に記載の清掃方法。
【請求項3】
前記ステップは、
前記清掃部材を、前記窓体の表面の法線方向及び平行方向に倣わせることを含む、
請求項1又は2に記載の清掃方法。
【請求項4】
前記ステップは、
前記窓の表面に倣わせながら前記清掃部材を前記窓の表面の法線方向を軸として回転させて前記窓枠のエッジに接触することを含む、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の清掃方法。
【請求項5】
前記ステップは、
前記清掃部材が前記窓体の表面を略一定範囲の力で押圧しながら、前記窓体の表面に倣わせることを含む、
請求項1乃至4の何れか一項に記載の清掃方法。
【請求項6】
前記清掃部材は、ブレード、又は、ウエスを備える、
請求項1乃至5の何れか一項に記載の清掃方法。
【請求項7】
柔軟性を備える駆動機構と、清掃部材を保持可能な保持機構とを備えるロボットアームと、
前記ロボットアームを制御する制御装置であって、
前記ロボットアームに保持される前記清掃部材を、窓枠及び窓を備える窓体の表面に倣わせながら、前記窓枠のエッジを探索する、又は、前記窓枠のエッジに接触するステップを実行可能に構成される制御装置と、
を備える清掃装置。
【請求項8】
柔軟性を備える駆動機構と、清掃部材を保持可能な保持機構とを備えるロボットアームを制御する制御装置であって、
前記ロボットアームに保持される前記清掃部材を、窓枠及び窓を備える窓体の表面に倣わせながら、前記窓枠のエッジを探索する、又は、前記窓枠のエッジに接触するステップを実行可能に構成される、
制御装置。
【請求項9】
コンピュータに、
柔軟性を備える駆動機構と、清掃部材を保持可能な保持機構とを備えるロボットアームに保持される前記清掃部材を、窓枠及び窓を備える窓体の表面に倣わせながら、前記窓枠のエッジを探索する、又は、前記窓枠のエッジに接触するステップを、
前記ロボットアームに動作させるための制御命令を生成させる、
コンピュータプログラム。
【請求項10】
柔軟性を備えた駆動機構を有するロボットアームに保持される部材を、枠体に囲繞される対象物の表面又は前記枠体の表面に倣わせて、前記枠体のエッジを探索する、又は、前記部材を前記枠体のエッジに対して位置合わせする、ステップと、
前記部材を用いて前記対象物の表面に処理を施すステップと、
を含む処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清掃方法、清掃装置、制御装置、コンピュータプログラム及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物等に設けられた窓を自動的に清掃する清掃装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、建築物の上部から垂下されたロープによって昇降されるゴンドラに着脱可能に装着された清掃装置が記載されている。この清掃装置は、清掃部材(スクイジーと呼ばれる場合もある。)を水平方向に移動させるための移動アーム機構と、スクイジーを揺動させるためのスクイジー揺動駆動手段を備える。このため、装置本体が清掃壁面に対して前後左右に傾いている場合でも、スクイジーをその傾きに対応させることが可能となる。直交座標系における始点と終点を指示することにより、この清掃装置を自動運転することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、風雨等の影響によりゴンドラが揺れてしまうと、清掃装置と窓との相対的な位置関係が変動してしまう。このため、窓の形状及び大きさに基づいて予め定められた一定の軌道のとおりに清掃部材を動かしても、窓の隅々まで清掃することができない場合があることが判明した。
【0006】
又、窓の種類によっては、窓の開閉のためのロック機構等が設けられていることがある。このようなロック機構等に清掃部材がぶつかってしまうと、清掃装置の動作異常を引き起こしたり、窓のエッジまで清掃部材が届かないといった問題も生じ得る。このようなロック機構等の構造や取付位置は、窓の種類に応じて様々であるため、個別に対応することも難しい。
【0007】
更に、上述したような窓を清掃する場合の他、フレームなどの枠体に囲まれる対象物の表面にシートを貼り付ける等の処理を施す場合においても、上記したのと同様の理由(即ち、対象物と装置との相対的な位置関係の変動等)により、枠体と対象物表面との境界に相当するエッジを探索することが困難であるため、対象物の表面全体に好適に処理を施すことが困難であった。
【0008】
そこで本発明は、窓の隅々まで清掃することが可能となる清掃方法、清掃装置、制御装置及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。また、好適に対象物の表面に処理を施すことが可能となる処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、柔軟性を備えた駆動機構を有するロボットアームに保持される清掃部材を、窓枠及び窓を備える窓体の表面に倣わせながら、前記窓枠のエッジを探索する、又は、前記窓枠のエッジに接触する、ステップを含む清掃方法を提供する。
【0010】
ここで、「柔軟性を備えた」とは、弾性、粘性又は弾性及び粘性を備えていることをいう。弾性とは、応力を加えると変形し、応力を除去すると元に戻る性質をいい、弾性変形のしやすさを示す可撓性という言葉で表現される場合もある。粘性とは、流体の流動速度を一様化する応力を生じさせる性質をいう。柔軟性を備えた駆動機構は、柔軟性を付与するための、例えば、磁性流体、機械ばね、空気ばね、磁力ばね及びベーンモータの何れか一つを少なくとも備えてもよい。
【0011】
又、「清掃部材を」「窓体の表面に倣わせる」とは、清掃部材を窓体の表面に接触させながら、清掃部材を窓体の表面に対して相対的に移動させることをいう。相対的に移動させることは、並進移動に限られず、相対的に回転移動させることを含む。
【0012】
又、「窓体の表面」は、窓枠の表面と、窓枠によって囲まれる窓の表面を含む。
【0013】
更に、「エッジ」とは、窓枠などの枠体と、窓等の枠体に囲繞される対象物表面との境界に相当する領域をいう。
【0014】
前記ロボットアームは、複数の駆動軸を有し、前記複数の駆動軸は、前記柔軟性を備えた駆動機構として、直列弾性アクチュエータをそれぞれ備えてもよい。
【0015】
直列弾性アクチュエータ(Series Elastic Actuator)は、例えば、モータと、ばね等の弾性体とを備える。モータから出力されるトルクは、弾性体を介して、剛性を有するリンクに伝達される。このため、ロボットアームによる対象物を組付け部位に接触させて倣わせることを容易に実現することが可能になる。直列弾性アクチュエータが備える弾性体が弾性変形するように、清掃部材を窓体の表面に倣わせることが好ましい。
【0016】
更に、前記ステップは、前記清掃部材を、前記窓体の表面の法線方向及び平行方向に倣わせることを含んでもよい。
【0017】
加えて、前記ステップは、前記窓の表面に倣わせながら前記清掃部材を前記窓の表面の法線方向を軸として回転させて前記窓枠のエッジに接触することを含んでもよい。
【0018】
又、前記ステップは、前記清掃部材が前記窓体の表面を略一定範囲の力で押圧しながら、前記窓体の表面に倣わせることを含んでもよい。
【0019】
なお、前記清掃部材は、ブレード、又は、ウエスを備えてもよい。
【0020】
本開示は、柔軟性を備える駆動機構と、清掃部材を保持可能な保持機構とを備えるロボットアームと、前記ロボットアームを制御する制御装置を備える清掃装置を提供する。制御装置は、前記ロボットアームに保持される前記清掃部材を、窓枠及び窓を備える窓体の表面に倣わせながら、前記窓枠のエッジを探索する、又は、前記窓枠のエッジに接触するステップを実行可能に構成される。
【0021】
本開示は、柔軟性を備える駆動機構と、清掃部材を保持可能な保持機構とを備えるロボットアームを制御する制御装置を提供する。この制御装置は、前記ロボットアームに保持される前記清掃部材を、窓枠及び窓を備える窓体の表面に倣わせながら、前記窓枠のエッジを探索する、又は、前記窓枠のエッジに接触するステップを実行可能に構成される。
【0022】
本開示は、コンピュータに、柔軟性を備える駆動機構と、清掃部材を保持可能な保持機構とを備えるロボットアームに保持される前記清掃部材を、窓枠及び窓を備える窓体の表面に倣わせながら、前記窓枠のエッジを探索する、又は、前記窓枠のエッジに接触するステップを、前記ロボットアームに動作させるための制御命令を生成させる、コンピュータプログラムを提供する。
【0023】
本開示は、柔軟性を備えた駆動機構を有するロボットアームに保持される部材を、枠体に囲繞される対象物の表面又は前記枠体の表面に倣わせて、前記枠体のエッジを探索する、又は、前記部材を前記枠体のエッジに対して位置合わせする、ステップと、前記部材を用いて前記対象物の表面に処理を施すステップとを含む処理方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】窓を清掃する様子を模式的に示す平面図である。
【
図4】窓を清掃する様子を模式的に示す断面図である。
【
図6】倣い動作中の速度制御方法を示すグラフである。
【
図7】窓表面の揺らぎに対するブレードの位置を説明する模式的な断面図である。
【
図8】窓枠が傾いたときのブレードの動きを模式的に示す平面図である。
【
図10】窓枠の表面に倣い当てしてエッジを探索する一例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。
【0026】
[第1実施形態]
第1実施形態は、窓ガラス等の表面を倣い当てすることによりエッジを探索する窓ガラス等の清掃方法について説明する。
図1は、ロボットシステム100(「清掃装置」の一例)の機能ブロック図を示している。
図2A及び
図2Bは、本実施形態に係るロボットアーム20の外観を示している。
【0027】
ロボットシステム100は、ロボットアーム20と、ロボットアーム20を制御する制御装置10とを備えている。本実施形態に係るロボットシステム100は、清掃部材を保持し、清掃部材を窓ガラスの表面に倣わせながら、窓枠FのエッジEを探索することが可能に構成されている。
【0028】
ロボットアーム20は、例えば、垂直多関節ロボットであり、ゴンドラ等に固定されるベース20Bと、複数のリンク20Lと、各リンク20Lを接続するジョイント20Jと、ジョイント20Jにおいてリンク20Lを回転駆動するための複数の直列弾性アクチュエータ20Dとを備える。本実施形態に係るロボットアーム20は、7軸の垂直多関節ロボットであり、
図2A及び
図2Bに示されるように、リンク20Lを伸ばすことによって、ベース20Bを動かすことなく、先端のリンク20Lに保持されるブレードBを左右に大きく動かすことが可能に構成される。但し、ロボットアームは、本実施形態に限られるものではなく、例えば、水平多関節型ロボット装置、パラレルリンク型ロボット装置であってもよい。
【0029】
リンク20Lは、剛性を有する部材から構成されており、例えば、ベース20Bに対して回動可能に取り付けられた胴部に相当するリンク20Lと、胴部に対して回動可能に取り付けられた上腕部に相当するリンク20Lと、上腕部に対して回動可能に取り付けられた前腕部に相当するリンク20Lと、前腕部に対して回動可能に取り付けられた手先部に相当するリンク20L等を含む複数のリンク20Lを備える。
【0030】
ロボットアーム20の先端のリンク20Lには、清掃部材を保持するための保持機構が設けられている。保持機構は、例えば、清掃部材をねじによって固定するための雌ねじが形成された雌ねじ部から構成される。但し、清掃部材を保持するための保持機構は、様々な構成を採用することが可能であり、例えば、清掃部材を保持するための複数の吸着パッドと制御装置から送信される制御信号に基づいて吸着パッドに負圧を発生させるアクチュエータを備えるものや、或いは、金属等の磁性体材料から構成される清掃部材を磁力により保持するための磁場を電磁的に発生させるためのコイルを備えるものであってもよい。また、先端のリンク20Lに、アクチュエータによって開閉する一対の可動プレート(グリッパと呼ばれる場合もある。)を備えるエンドエフェクタを更に取り付け、可動プレート等によって、清掃部材を挟持可能な保持機構を採用することも可能である。
【0031】
本実施形態に係るロボットアーム20は、複数のリンク20Lをそれぞれ回転駆動するための複数の直列弾性アクチュエータ20D(「柔軟性を備えた駆動機構」の一例、
図1)を備えている。
【0032】
直列弾性アクチュエータ20Dは、SEA(Serial Elastic Actuators)とも呼ばれる、知られた駆動機構であり、例えば、欧州特許第2,890,528号には、SEAの一例が記載されている。直列弾性アクチュエータ20Dは、駆動部20DAと、駆動部20DAに接続される弾性体20DEとから構成される。駆動部20DAは、例えば、サーボモータから構成される。弾性体20DEは、例えば、機械ばねから構成される。直列弾性アクチュエータ20Dにおいて駆動部20DAから出力される動力は、弾性体20DEを介して、出力側のリンク20L(但し、先端のリンク20Lの場合、清掃部材を含む。)に伝達し、これを回動させる。
【0033】
更に、直列弾性アクチュエータ20Dは、負荷の大きさを取得するためのセンサと、弾性体20DEの変位量を取得するためのセンサと、サーボモータの変位量を取得するためのセンサを含む複数のセンサを備えている。
【0034】
負荷の大きさは、例えば、駆動部20DAを構成するサーボモータに流れる電流量を取得する電流センサから取得することが可能である。
【0035】
弾性体20DEの変位量は、弾性体20DEの両端の変位量(回転角度)を取得するために弾性体20DEの両端にそれぞれ設けられた光学的センサ、弾性体20DEに磁石等を取り付けこの磁石等から発生する磁場を検出する磁気センサ、又は、弾性体20DEに設けられた歪センサ等から取得することが可能である。弾性体20DEの変位量及び弾性体20DEの弾性定数に基づいて発生するトルクを取得することも可能となる。
【0036】
上記と同様に、サーボモータの変位量は、エンコーダ等の光学的センサ、ホール素子等の磁気センサ、又は、歪センサ等から取得することが可能である。
【0037】
以上のような構成の下、柔軟性を備えた駆動機構に相当する直列弾性アクチュエータ20Dによって駆動される部分の慣性、質量及び長さ、外力並びに弾性体20DEである機械ばねの弾性率をパラメータとする運動方程式が成立する。このため、制御装置10は、機械ばねの弾性率及び変位量等に基づいて、インピーダンスを制御するメカニカル・コンプライアンス制御を行うように構成される。
【0038】
なお、直列弾性アクチュエータ20Dは、駆動部20DAであるサーボモータの駆動軸に接続され、動力を機械ばね等の弾性体20DEに伝達するギヤを備えていてもよい。更に、直列弾性アクチュエータ20Dは、粘性に基づいて衝撃を緩和させるダンパ機構及び動力の伝達をスイッチするためのクラッチ機構を備えてもよい。粘性を有するダンパ機構等の粘性体を付与する場合、又は、ギヤの歯車間の摩擦等から生じる減衰を加味する場合、運動方程式には、粘性定数がパラメータとして加えられた運動方程式が成立する。
【0039】
例えば、サーボモータの駆動軸にギヤが接続され、ギヤの出力軸に弾性体を介して負荷(下流側のリンク等)が接続される直列弾性アクチュエータ20Dの場合、ギヤの出力軸に生じるトルクは、サーボモータに流れる電流及びギヤ比に比例し、このトルクが、ギヤの出力軸の角加速度に慣性を乗じた値と、ギヤの出力軸の角加速度にギヤの粘性を乗じた値と、弾性体の変位量に弾性率を乗じた値との和と等しくなる運動方程式が成立する。この運動方程式に基づいて、直列弾性アクチュエータ20Dの伝達関数を導くことにより、インピーダンスを制御するメカニカル・コンプライアンス制御が可能となる。
【0040】
以上のような構成により、ロボットアーム20の複数のリンク20Lを回動させることが可能になるため、リンク20Lの先端に取り付けられる清掃部材の位置及び姿勢を自由に変化させることが可能となる。なお、本開示における位置を示す情報は、合理的に必要と考えられる場合、姿勢を示す情報を含む場合がある。更にロボットアーム20は、窓枠F等を画像認識するための撮像装置20C及び使用者と情報の授受を行うためのディスプレイ20DIを含む入出力手段を備えてもよい。更にロボットアーム20は、弾性を有さない駆動部によって駆動される知られたリンクを一部に備えてもよい。
【0041】
図3は、ロボットアーム20を用いて窓Gを清掃する様子を模式的に示す平面図である。
図4は、ロボットアーム20を用いて窓Gを清掃する様子を模式的に示す断面図である。
【0042】
これら図面に示されるように、清掃対象物である窓体Wは、窓枠Fと、窓枠Fに嵌め込まれることにより支持されるガラス製の窓Gを備える。窓Gは、例えば、矩形状に形成される。窓枠Fは、窓Gを囲むように、鉛直方向に延伸する2つの平行な枠F1及び枠F2と、枠F1及び枠F2の上端部及び下端部を接続する垂直方向に延伸する2つの平行な枠F3及び枠F4を備える。
【0043】
清掃部材は、窓Gの表面上の塵等の除去に好適な知られた構成のものを使用することが可能であり、例えば、先端のリンク20Lに固定するための複数の雄ねじが貫通するための貫通孔が形成された支持部と、窓の表面を清掃する板状の弾性体からなるブレードBとを備える。但し清掃部材は、これに限られるものでなく、窓Gの表面を清掃するための布体(「ウエス」の一例)、又は、清掃ブラシを備えていてもよい。更に、清掃部材は、洗浄液を含ませた布体(「ウエス」の一例)及びこの布体により窓Gに塗布された洗浄液を拭き取る板状の弾性体(「ブレードB」の一例)とから構成されてもよい。
【0044】
制御装置10は、ロボットアーム20を制御する。上述したように、制御装置10は、従来の位置制御ではなく、直列弾性アクチュエータ20Dを利用したメカニカル・コンプライアンス制御に基づいてロボットアーム20を制御する。このため、窓枠Fの窓Gとの境界に相当するエッジEとロボットアーム20との相対的な位置関係が変動したとしても、エッジEを探索し、傾斜するエッジEに清掃部材を接触させることが可能である。以下詳述する。
【0045】
図1に示されるように、制御装置10は、ロボットアーム20の基準となる位置(例えば、手先位置に相当するリンク20Lのセンターポイント、又は、ブレードBのセンターポイント。以下、「基準位置」という。)の開始位置及びその時の姿勢を取得する開始位置取得部10Aと、目標位置及びその時の姿勢を取得する目標位置取得部10Bと、許容範囲取得部10Cと、開始位置と目標位置を結ぶ経路を取得する経路取得部10Dと、経路取得部10Dによって取得された経路に従って、各直列弾性アクチュエータ20Dの駆動部20DAに相当するサーボモータを制御するための制御命令及を取得する制御命令取得部10Eと、ブレードBを窓Gの表面に倣わせながら窓枠FのエッジEを探索し、検出するエッジ探索部10Fと、記憶部10Gとを備える。
【0046】
開始位置取得部10Aは、例えば、制御装置10に接続可能な教示装置50から入力された開始位置及びその時のロボットアーム20の姿勢を取得する。教示装置50は、現場で実際にロボットアーム20を動かしてその時の基準位置及び姿勢を開始位置として教示するオンラインティーチングに従う教示装置50でもよいし、コンピュータプログラムによって基準位置の位置及び姿勢を開始位置として教示する、テキスト型、シミュレータ型、エミュレータ型、又は、自動ティーチング型等のオフラインティーチングに従う教示装置50でもよい。
【0047】
目標位置取得部10Bは、例えば、開始位置と同様に、教示装置50から入力された目標位置及びその時の姿勢を取得する。目標位置取得部10Bは、複数の目標位置及びその時の姿勢を取得することが可能である。
【0048】
許容範囲取得部10Cは、基準位置の経路を基準として、ロボットアーム20の実際の基準位置が経路から離れることができる許容範囲を示す情報を取得する。例えば、ある目標位置にロボットアーム20の基準位置が到達した時の、直列弾性アクチュエータ20Dによって駆動されるリンク20Lの角度がαであるとき、そのリンク20Lの許容範囲を示す情報は、例えば、α±βという角度情報として取得される。βは、直列弾性アクチュエータ20Dの弾性体20DEの弾性率等に基づいて、弾性変形可能な範囲として予め設定可能な角度単位の情報である。複数方向に対して柔軟性を有するために、ロボットアーム20が複数の直列弾性アクチュエータ20Dを備える場合、許容範囲取得部10Cは、直列弾性アクチュエータ20Dに駆動される複数のリンク20Lごとに許容範囲を示す情報を取得することが可能である。
【0049】
なお、許容範囲を示す情報は、リンク20Lの角度が変動した結果、ロボットアーム20の別の部位である基準位置が取り得る所定領域を示す位置情報であってもよい。即ち、所定のリンク20Lの角度がα+βであるとき、βにリンク20Lの長さを乗じた距離だけそのリンク20Lの先端が変位するから、それに応じて、下流のロボットアーム20の部位も変位する。従って、許容範囲取得部10Cは、ロボットアーム20の他の部位を基準位置とし、この基準位置が取り得る所定領域を示す位置情報として取得してもよい。以下では、先端のリンク20Lによって保持されるブレードBのセンターポイントをロボットアーム20の基準位置とする場合を中心に説明する。許容範囲は、基準位置において少なくとも±5mm以上経路から離れることを許容するように構成されることが好ましい。
【0050】
許容範囲を示す情報は、記憶部10Gに格納されるコンピュータプログラム内において、予め、駆動機構が備える弾性又は粘性に基づく定数として定められることができる。従って、制御装置10の演算素子がコンピュータプログラムを読み出すことにより、許容範囲を示す情報が取得されるように構成されてもよい。或いは、制御装置10は、教示装置50から、許容範囲を示す情報を取得してもよい。
【0051】
経路取得部10Dは、開始位置と目標位置を接続する経路(計画軌跡)を演算処理等により取得する。
【0052】
制御命令取得部10Eは、基準位置を経路に従って移動させるための各モータを制御するための制御命令を演算処理等により取得し、ロボットアーム20に供給する。例えば、制御命令取得部10Eは、逆運動学演算(インバースキネマティクス)により、基準位置が経路上に位置するための各モータの回転角度を算出し、これに基づいて制御命令を生成して、記憶部10Gに格納することが可能である。
【0053】
エッジ探索部10Fは、窓枠FのエッジEを検出する。エッジEを検出するための手段の一例として、本実施形態におけるエッジ探索部10Fは、窓Gの表面を倣わせながらブレードBを移動させ、リンク20Lの加速度(又は角加速度)がゼロになった時、ブレードBがエッジEに沿って当接していると判断することにより、エッジEを検出するように構成されている。
【0054】
記憶部10Gは、各実施形態に示される各処理を実行するためのコンピュータプログラム(経路生成アルゴリズムを含む)及び必要なデータその他の情報を格納する。
【0055】
制御装置10のハードウェア構成に関し、制御装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)等のプロセッサである演算素子と、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性記憶素子と、NORフラッシュメモリ、NANDフラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive)等の不揮発性記憶素子と、これらを接続するバス等の通信手段を備えるコンピュータから構成することが可能である。不揮発性記憶素子は、非一時的(Non-transitory)に情報を記憶する記憶媒体である。揮発性記憶素子は、これらコンピュータプログラムの少なくとも一部及び演算処理結果等を一時的に記憶する。記憶部10Gは、これら記憶素子により構成される。また、記憶部10Gに格納されるコンピュータプログラムを演算素子が実行することにより、開始位置取得部10A、目標位置取得部10B、許容範囲取得部10C、経路取得部10D、制御命令取得部10E及びエッジ探索部10Fとして機能する。但し、これら演算素子、不揮発性記憶素子等の少なくとも一部は、インターネット等の通信ネットワークに接続された遠隔地に設置されていてもよい。例えば、演算素子は、通信ネットワークを介して、コンピュータプログラム又は必要なデータを取得するように構成されてもよい。
【0056】
制御装置10とロボットアーム20は、無線又は有線による通信手段によって情報の送受信が可能に構成されている。
【0057】
制御装置10には、ロボットシステム100に動作教示するための教示装置50が接続、又は、一体的に設けられてもよい。また、教示装置50は、ロボットアーム20に設けられてもよく、例えば、ディスプレイ20DIを含む入出力手段を教示装置50の一部として利用してもよい。
【0058】
教示装置50は、例えば、オンラインティーチングを行うための携帯型の教示ペンダントを備える。教示装置50は、制御装置10と同様に、演算素子、揮発性記憶素子、不揮発性記憶素子を備え、更に、ディスプレイを有する表示手段及び複数の操作キー並びにレバーを有する入力手段を備えている。入力手段は、ディスプレイを押圧して入力を行うタッチパネル式の入力手段から構成されてもよい。
【0059】
続いて、ロボットシステム100による清掃方法を説明する。
図5は、ロボットシステム100による清掃方法を示すフローチャートである。
【0060】
まず制御装置10の開始位置取得部10A、目標位置取得部10B及び許容範囲取得部10Cは、それぞれ、開始位置を示す情報、複数の目標位置を示す情報及び許容範囲を示す情報を取得する(ステップS51)。制御装置10は、これら情報を予め記憶する記憶部10Gから読み出すことにより取得してもよい。或いは制御装置10は、教示装置50からこれら情報を取得してもよい。更に制御装置10は、開始位置を示す情報及び目標位置を示す情報に基づいて経路を演算により取得する際に、目的物表面と基準位置との距離が許容範囲内となるような経路生成アルゴリズムを読み出し、これに基づいて経路を取得することにより、許容範囲を示す情報を取得してもよい。
【0061】
ここで、開始位置は、窓Gの表面にブレードBが接触し、窓Gの表面を押し付けるような位置に設定される。
【0062】
図4は、ブレードBが窓Gの表面と接触する場面における開始位置と実際の位置の相違を説明するための模式図である。なお、説明を簡明にするため、ブレードBを保持するロボットアーム20の先端のリンク20Lは、図から省略する。
【0063】
同図において、窓体Wが存在しない場合における、基準位置が開始位置と一致する時のブレードBの位置は、破線B1で示されている。一方で、窓体Wが存在する場合における、基準位置が開始位置と一致する時のブレードBの位置は、実線B2で示されている。
【0064】
破線B1で示されるように、開始位置は、先端のリンク20L(不図示)又はブレードBが窓Gと干渉するように設定される。しかしながら実際は、窓Gが存在するため、ブレードBが窓Gの表面と接触し窓Gの表面を押し付ける。このため、先端のリンク20L又はブレードBが窓Gと干渉することはない。変位量D1は、一、又は、複数の直列弾性アクチュエータ20Dの弾性体20DEが窓Gの法線方向に弾性変形した量に相当する。このとき、変位量D1及び弾性体20DEの弾性率に基づいて生じる力が、ブレードBから窓Gに作用する。このため変位量D1は、ブレードBが窓Gの表面上の塵等を除去して好適に窓Gを清掃することが可能な程度の力を発生するように設定される。一方で変位量D1が大きすぎると、ブレードBが窓Gを破損してしまう。このため、変位量D1は、そのような窓Gの破損が発生しないように設定される。
【0065】
目標位置は、エッジEにブレードBが接触し、窓枠Fの表面を押し付けるような位置に設定される。
【0066】
同じく
図4において、窓体Wが存在しない場合における、基準位置が第1目標位置と一致する時のブレードBの位置は、破線B3で示されている。一方で、窓体Wが存在する場合における、基準位置が第1目標位置と一致する時のブレードBの位置は、実線B4で示されている。
【0067】
破線B3で示されるように、第1目標位置は、先端のリンク20L(不図示)又はブレードBが窓枠Fの枠F1と干渉するように、平面視においてエッジEよりも外側に設定される。しかしながら実際は枠F1が存在するため、ブレードBが枠F1のエッジE及び窓Gの表面と接触しエッジE及び窓Gの表面を押し付ける。このため、先端のリンク20L又はブレードBが枠F1と干渉することはない。変位量D2は、一、又は、複数の直列弾性アクチュエータ20Dの弾性体20DEが弾性変形した量に相当する。このとき、変位量及び弾性率に基づいて生じる力が、ブレードBから窓枠F及び窓Gに作用する。このため変位量D1と同様に変位量D2の窓G表面の法線方向における分力は、弾性体20DEの弾性率を考慮して、ブレードBが窓Gの表面上の塵等を除去可能な力以上であって、かつ、窓Gが破損することがない範囲の力を生じさせるように設定され、例えば、変位量D1と略同一に設定される。
【0068】
なお、第1目標位置における先端のリンク20Lの姿勢は、窓G表面に対してやや鋭角(例えば、60度以上90度未満)をなすことが好ましい。このような姿勢を教示することによって容易にブレードBが枠F1を押し付けてブレードBをエッジEに沿って当接させることが可能となる。
【0069】
第1目標位置の次の目標位置である第2目標位置は、ブレードBの清掃経路に応じて決定される。例えば、
図3の矢印AR31及び矢印AR32で示されるようにジグザグにブレードBを進行させる場合、第2目標位置は、平面視において、反対側の枠F2の外側に設定される。
図4において、窓体Wが存在しない場合における基準位置が第2目標位置と一致する時のブレードBの位置は、破線B5で示されている。一方で、窓体Wが存在する場合における、基準位置が第2目標位置と一致する時の実際のブレードBの位置は、実線B6で示されている。破線B5で示されるように、第2目標位置は、先端のリンク20L(不図示)又はブレードBが窓枠Fの枠F2と干渉するように設定される。実際は、枠F2が存在するため、ブレードBが枠F2のエッジE及び窓Gの表面と接触しエッジE及び窓Gの表面を押し付ける。このため、先端のリンク20L又はブレードBが枠F2と干渉することはない。変位量D3は、変位量D2と同一でよい。
【0070】
なお、第2目標位置における先端のリンク20Lの姿勢は、窓G表面とやや鋭角(例えば、60度以上90度未満)をなすことが好ましい。このような姿勢を教示することによって、ブレードBを枠F2に押し付けることが可能となるため、容易にブレードBをエッジEに沿って当接させることが可能となる。
【0071】
以上のようにして、窓Gの表面全体が清掃されるように、複数の目標位置が設定される。
【0072】
次いで、制御装置10の経路取得部10Dは、開始位置及び複数の目標位置を接続する経路を取得する(ステップ52)。具体的には経路取得部10Dは、基準位置が経路上に存在する時のブレードBと窓Gの表面との変位量が許容範囲内となるような経路を、記憶部10Gから読み出した経路生成アルゴリズムに基づいて演算により取得する。
【0073】
経路は、開始位置及び目標位置と同様に、基準位置が経路上に存在する時に先端のリンク20L(不図示)又はブレードBが窓Gと干渉するように設定される。このような経路により、ブレードBを窓Gの表面に倣わせることが可能になる。但し、変位量が大きすぎると、少なくとも一つの直列弾性アクチュエータ20Dの損傷を招く可能性がある。又、弾性体20DEの弾性変形の範囲内であっても、上述したように変位量が大きすぎると、ブレードBが窓Gの表面を押し付ける力が大きくなりすぎるため、円滑な移動が困難になったり、窓Gを破損する可能性がある。一方で、変位量が小さすぎると、十分な力でブレードBを窓Gに押し付けることができなくなるため、窓Gの表面上の塵等を十分に取り除けなくなる。このため、許容範囲は、上述した問題を抑制するように、実験等を通じて予め取得することが可能である。従って、基準位置が経路上に存在する時のブレードBと窓Gの表面との変位量が許容範囲内となるような経路が経路取得部10Dによって取得される。変位量が許容範囲内となるような経路を取得することにより、略一定の力でブレードBを窓Gに押し付けることが可能となる。
【0074】
なお、倣い当て動作中において、先端のリンク20Lを窓Gの表面に対して傾けることが好ましい。このような構成とすることにより、窓Gの表面の法線方向のみならず平行方向においても、ブレードBを窓Gに倣い当てすることが可能となる。特に、エッジE付近では、ブレードBをエッジEに向かって押し付けることにより、エッジE付近に蓄積した塵等を除去することが可能となる。
【0075】
例えば、ブレードBがエッジE付近に近づいたときに、先端のリンク20Lを後傾させる姿勢を取らせることにより、窓Gの中心側から外側の窓枠Fに向かって、ブレードBをエッジEに向かって押し付けることが可能となる。
【0076】
このような姿勢は、例えば、教示装置50を用いることにより、ロボットシステム100に教示することが可能である。そのような姿勢の一例として、
図2Aには、先端のリンク20Lをやや後傾させる姿勢を取らせることにより、先行するブレードBをエッジEが設けられる外側に向かって押し出している様子が示される。
【0077】
なお、
図3においてブレードBは、紙面右から左に移動する時に、窓Gの表面を清掃する。このため、矢印AR32で例示される紙面左から紙面右への移動時に、ブレードBは、必ずしも、窓Gの表面を清掃する必要がない。このため、紙面左から右に移動するときの変位量を変位量D1、変位量D2及び変位量D3よりも小さくし、ブレードBが窓Gを相対的に弱い力で押し付けながら、高速で移動可能に構成してもよいし、ブレードBを窓Gの表面から離間させて移動させてもよい。ブレードBを窓Gの表面から離間させて移動させる際には、次の接触動作を実施しやすいように姿勢を変化させても良い。ここでの姿勢変化は、手先を360度回転させる動作、逆関節になるような動作、特異姿勢(ロボットアーム20が伸び切って制御が困難となる姿勢)を回避するような動作、等の各種動作に基づく姿勢変化を含む。さらに、清掃残しを回避する等の目的で、ブレードBを上下動させてもよいし、左右方向と上下方向の移動の組み合わせやS字軌道での移動を行うことも可能である。特に、清掃対象物が特殊形状を有する場合(例えば、窓枠が正方形ではなく台形であったり、端部が丸形状であったりする場合)においては、端部の清掃を補完するために、S字軌道や円弧軌道での移動を実現させる移動手段が有効である。
【0078】
又、ブレードBの経路は、窓Gの形状、大きさ、複数の窓の配列、ゴンドラの移動経路等を考慮して多様に設定することが可能である。例えば、
図4において、開始位置から第1目標位置に紙面左方向にブレードBを移動させた時点で、開始位置よりも紙面右側の領域はブレードBによって清掃されない。このため、ブレードBを第1目標位置から第2目標位置に並進移動させることにより、開始位置よりも紙面右側の領域を清掃するようにしてもよい。或いは、
図3に示されるようにジグザグにブレードBを移動させた後、清掃されていない開始位置付近の領域を最後に清掃するようにブレードBを移動させて、開始位置と最後の目標位置が概ね同じ位置となるようにして清掃効率の向上を図ってもよい。
【0079】
続いて制御命令取得部10Eは、経路情報に基づいて、直列弾性アクチュエータ20Dへの制御命令を取得する(ステップS53)。なお、一連の動作を実現するための制御命令が予め記憶部10Gに格納されている場合、制御装置10は、記憶部10Gから制御命令を読み出すことにより、これら情報を取得してもよい。
【0080】
次いでロボットアーム20は、制御装置10から受け取った制御命令に基づいて各リンク20Lを駆動する。まずロボットアーム20は、開始位置に移動する。この動作により
図4の実線B2で示されるように、ブレードBは、窓Gの表面に押し付けられる(ステップS54)。
【0081】
その後、ロボットアーム20は、ブレードBを目標位置に移動させる動作を繰り返す(ステップS55~ステップS61)。
【0082】
まずロボットアーム20は、ブレードBが窓Gの表面に押し付けた状態を維持しながらブレードBを第1目標位置に向かって移動させることにより、ブレードBを窓Gの表面に対して倣わせる(ステップS56)。
【0083】
具体的には、
図4において破線B1で示される開始位置(より正確には、基準位置が開始位置に存在するときのブレードBの位置。以下同様)から、破線B3で示される第1目標位置に向かって、実際には、実線B2で示される位置から、実線B4で示される位置に向かって、ブレードBを窓Gの表面に接触させたまま移動させる。実線と破線との変位量(経路と実際の基準位置との変位量)は、許容範囲内に存在する。このとき、直列弾性アクチュエータ20Dの弾性体20DEは、変位量に応じて弾性変形する。
【0084】
このような並進移動を伴う倣い動作を行っている間に、制御装置10は、変位量が許容範囲内に収まり、かつ、ブレードBが窓Gの表面を略一定若しくは一定範囲の力(例えば、中心値±30%以内)で押し付けるように制御する。変位量が許容範囲内に収まらせるために、制御装置10は、許容範囲を超える変位が生じたか否かを周期的に判断する(ステップS57)。
【0085】
制御装置10が許容範囲を超える変位が生じたと判断した場合(NO)、制御装置10は、ロボットアーム20の移動速度を減速させるような制御命令を生成し、ロボットアーム20の駆動部に送出することにより減速させる(ステップS58)。
図6は、倣い動作中に許容範囲を超えた場合の減速動作について説明するためのグラフである。この図は、横軸を時間とし、縦軸を直列弾性アクチュエータ20Dによって駆動されるリンク20Lの角度とするグラフである。このグラフにおいて、対象となるリンク20Lは、時刻t11における角度α1を開始位置(又は第1の目標位置)とし、時刻t2における角度α2を第1の目標位置(又は第2の目標位置)とし、時間と共に角度が増加する角度変化となる経路P(計画軌跡)が設定されているとする。また、このリンク20Lの経路を基準とする許容範囲は、リンク20Lの角度を中心とする±β1である。更に、このグラフにおいて、実際の角度変化は、実線Aで示される。
【0086】
このグラフに示されるように、時刻t11において、リンク20Lの角度が経路Pを基準とする許容範囲外の角度になると、上述したように、制御装置10は、リンク20Lの回転速度及びブレードBの移動速度を減少させて、リンク20Lの角度が許容範囲内に収まるように制御する。一方で、時刻t11から時刻t2までの間、リンク20Lの角度が許容範囲内に収まっているため、制御装置10は、実線Aを経路Pに近づけるための制御を行わず、略一定の力でブレードBを窓Gに押し付けるように制御する。
【0087】
このような倣い動作を行うことにより、窓Gとロボットアーム20との相対的位置関係が変動しても、ブレードBを追従させることが可能になる。
【0088】
図7は、窓Gの表面の揺らぎに対してブレードBが追従することを説明する模式的な断面図である。なお、ブレードBの一例として、図示されるように先端が細くなるブレードBを用いた場合を示している。
図7(A)は、ロボットアーム20と窓Gが共に静止しているときの窓Gとこれに接触するブレードBを示している。このとき窓Gの表面は、基準面P1上に存在する。また、ブレードBの端部は、基準面P1上に位置している。
【0089】
図7(B)は、風雨等の影響により窓G又はロボットアーム20を運ぶゴンドラが揺れて、ロボットアーム20に対して窓Gが遠のいてしまった場合を示している。このとき、比較例におけるブレードCの端部は、基準面P1上に位置するように制御されているため、窓Gの表面に接触することができない。従って、窓Gの表面を好適に清掃することができない。一方で、本実施形態に係るブレードBは、柔軟性を備えた駆動機構を有するロボットアーム20を備えているから、窓Gの後退に追従して前進する。特に、制御装置10は、変位量が許容範囲内で、ブレードBが窓Gの表面を略一定の力で押し付けるように制御するから、窓Gの後退量に応じてブレードBが前進するようにロボットアーム20を制御することが可能となる。
【0090】
図7(C)は、ロボットアーム20に対して窓Gが近づいてしまった場合を示している。このとき、比較例におけるブレードCの端部は、基準面P1上に位置するように制御されているため、窓Gと干渉する。ここで比較例におけるロボットアームが弾性を有さないリンクから構成されていると、ブレードCによって窓Gは破損してしまう可能性がある。また、比較例におけるロボットアームの手先に弾性体が挿入されている場合、窓Gの移動量に応じて、弾性体の圧縮量に基づく弾性力が発生するため、ブレードCが窓Gを押し付ける力を制御することができない。このため、窓Gを好適に清掃することが困難である。
【0091】
一方で、本実施形態に係るブレードBは、柔軟性を備えた駆動機構を有するロボットアーム20を備えているから、窓Gの前進に追従して後退する。特に、制御装置10は、変位量が許容範囲内で、ブレードBが窓Gの表面を略一定の力で押し付けるように制御するから、窓Gの前進量に応じてブレードBが後退するようにロボットアーム20を制御することが可能となる。
【0092】
制御装置10は、ブレードBが第1目標位置に近づくと、窓枠FのエッジEの探索を開始する。具体的には、制御装置10のエッジ探索部10Fは、一、又は、複数のリンク20L(例えば、先端のリンク20L)の加速度(又は角加速度)がゼロになったか否かをリンク20Lに設けられたセンサから取得する情報に基づいて判断し(ステップS59)、リンク20Lの加速度(又は角加速度)がゼロになった時(YES)に、ブレードBがエッジEに沿って当接していると判断することにより、エッジEを検出する(ステップS60)ように構成されている。
【0093】
図8は、窓枠Fが傾いたときのブレードBの動きを模式的に示す平面図である。但し、説明を簡明にするため、窓枠Fの傾斜を誇張している。この図に示されるように、窓枠Fが傾いた場合、まずブレードBの端部が窓枠Fに接触する。ここで
図4に示されるとおり第1目標位置は平面視において窓枠Fの外側に位置するため、ロボットアーム20は、ブレードBを更に窓枠Fの外側に向かって進行させようとする。ここで先端のリンク20Lは、柔軟性を有する駆動機構を備えているため、軸回りに回転することが可能である。従って、ロボットアーム20は、窓枠Fに接触するブレードBの端部を支点として、矢印AR8方向にブレードBを回転させ、その結果、ブレードBをエッジEに沿って当接させることが可能となる。上述したように、このとき先端のリンク20Lを窓Gの表面に対してわずかに鋭角(例えば、60度以上90度未満)となるように傾けることによって、ブレードBを窓枠Fに押し付けることが可能となる。
【0094】
ブレードBがエッジEと略平行となるように、ブレードBがエッジEに沿って当接すると、ブレードBはそれ以上動けなくなるため、全てのロボットアーム20のリンク20Lの角加速度はゼロとなる。従って、制御装置10は、エッジEを検出し、第1目標位置に到達したと判断する。
【0095】
その後、ロボットアーム20は、ブレードBを第2目標位置に到達させるために、ステップS56~ステップS60を繰り返す。
【0096】
以後は、同様の動作を繰り返し、ブレードBを最後の目標位置に到達させることにより、窓Gの表面全体を清掃することが可能となる。
【0097】
以上述べたように、本実施形態に係る清掃方法よれば、窓のエッジまで清掃部材を届かせることが可能となるから、窓の隅々まで清掃することが可能となる清掃方法及び清掃装置を提供することが可能となる。
【0098】
なお、上述したように、ブレードBの経路は、窓Gの形状、大きさ、清掃すべき他の窓との位置関係等を考慮して多様に設定することが可能である。例えば、
図9には、ブレードBを異なる経路で移動させる例を示している。この図に示される場合、ブレードBをエッジEと平行となるように接触させた後、ブレードBの端部をエッジEに押し付けたまま、この端部を支点としてブレードBの他端を回転させることにより、ブレードBの端部をエッジEに接触させたまま、回転移動させてブレードBを倣わせることが可能になる。
【0099】
又、許容範囲取得部10Cは、目標位置に関する許容範囲を示す情報を取得し、エッジEの探索に活用してもよい。例えば、ロボットアーム20の所定のリンク20Lの目標位置における角度が
図6に示されるようにα2であるとき、α2±β1をそのリンク20Lの目標位置についての許容範囲を示す情報として取得し、実際にそのリンク20Lの角度がα2±β1の範囲に存在することを、目標位置に到達したと判断する一つの条件として設定してもよい。同様に他の複数のリンク20Lについて、それぞれ目標位置についての許容範囲を示す情報を取得し、各リンク20Lがそれぞれ許容範囲内に到達したときに、ブレードBは、目標位置に到達したと判断し、次の目標位置に移動するように構成してもよい。
【0100】
更に、開始位置から第1目標位置に移動するとき、ブレードBの上端が枠F3を上方に押し付けるようにしてもよい。具体的には基準位置が経路上に存在するときにブレードBの上端が枠F3と干渉するように経路を設定することにより、ブレードBは、枠F3をブレードBの進行方向と垂直かつ窓Gの表面と平行な方向に押し付けながら、かつ、窓Gの表面の法線方向に押し付けながら並進移動する。従って、枠F3のエッジE周辺を好適に清掃することが可能になる。更にブレードBの弾性を利用して窓GをブレードBの進行方向と平行かつ窓Gの表面と平行な方向に押し付けながら移動させてもよい。
【0101】
加えて、窓の表面上に、窓の開閉のためのロック機構等の障害物が設けられていても、柔軟性を備えた駆動機構を有するロボットアームに保持される清掃部材を窓枠のエッジに押し付けたのと同様に、ロック機構等の障害物のエッジに押し付けることにより、障害物の周辺も清掃することが可能となる。
【0102】
[第2実施形態]
第1実施形態は、窓ガラス等の表面を倣い当てすることによりエッジを探索する窓ガラス等の清掃方法について説明した。第2実施形態に係る清掃方法は、窓枠Fの表面にブレードBを倣い当てさせることにより、エッジEを探索する。なお、第1実施形態と同様であることが当業者に理解できる点については、説明を省略する。
【0103】
図10は、このようなエッジEの探索方法を模式的に示す断面図である。なお、
図4と同様に説明を簡明にするため、ブレードBを保持するリンク20Lを図から省略する。
【0104】
まず、ロボットアーム20は、窓枠Fの枠F1の表面F1SにブレードBの端部を接触させる。
【0105】
次いで
図10(A)に示されるように、ロボットアーム20は、ブレードBの端部が枠F1の表面F1Sに接触した状態を維持したまま、ブレードBを窓枠Fに対して相対的に並進移動させることにより、ブレードBを窓枠Fに対して倣わせる。
図10(A)において破線B10は基準位置が経路と一致する時のブレードBの位置を示し、実線B11はその時の実際のブレードBの位置を示す。両者の変位量D10に応じた力でブレードBは表面F1Sを押し付けながら並進移動する。
【0106】
そして
図10(B)に示されるように、ブレードBの端部が枠F1の角部に到達すると、ロボットアーム20は、ブレードBの端部を表面F1Sよりも下方に入り込ませることにより、ブレードBの側面を枠F1の角部に接触させる。その後、ロボットアーム20は、枠F1の角部に接触しているブレードBの側面を支点として、ブレードBを枠F1に対して相対的に回転移動させることにより、ブレードBを窓枠Fの表面に対して倣わせる。
図10(B)において破線B12は回転移動中における基準位置が目標位置と一致する時のブレードBの位置を示し、実線B13はその時の実際のブレードBの位置を示す。両者の変位量D11に応じた力でブレードBは表面F1Sを押し付けながら回転移動する。変位量D11は、直列弾性アクチュエータ20Dの弾性体20DEが弾性変形した量に相当する。このとき、変位量及びばね定数に基づいた力が、ブレードBから窓枠Fに作用する。なお、変位量D11>変位量D10となるように、経路及び目標位置を定めることにより、回転移動時にブレードBから窓枠Fに作用する力を大きくし、ブレードBの回転移動の安定性を高めてもよい。
【0107】
その後、
図10(C)に示されるように、ロボットアーム20は、ブレードBが窓Gの表面と略平行になるまでブレードBを回転させる。このとき、ブレードBの側面を枠F1の角部に接触させて回転移動させたことから、ブレードBが窓Gの表面と略平行になったとき、ブレードBの側面を枠F1の内壁面に接触させることが可能になる。その後、ブレードBの側面を枠F1の内壁面に接触させた状態を維持したまま、ブレードBを窓Gに向かって並進移動させることにより、ブレードBをエッジEに当接させることが可能になる。
図10(C)において破線B14は並進移動中における基準位置が目標位置と一致する時のブレードBの位置を示し、実線B15はその時の実際のブレードBの位置を示す。両者の変位量D12に応じた力でブレードBの側面は枠F1の内壁面を押し付けながら並進移動する。
【0108】
以上のとおりであるから、本実施形態に係る清掃方法によれば、清掃部材を窓枠の表面に倣わせることによって、窓枠の表面に沿って清掃部材を移動させることが可能になるから、窓枠の窓との境界部分に相当するエッジ部分を探索し、清掃部材をエッジに接触させることが可能となる。なお、本発明における清掃部材のエッジへの接触とは、エッジと清掃部材を接触又は十分に近接させることを含む。
[第3実施形態]
【0109】
第1実施形態及び第2実施形態は、窓の清掃方法に関するものであった。しかしながら、本発明を適用することにより、枠体に囲繞される対象物の表面に処理を施す際に、枠体と対象物表面との境界に相当するエッジを精度良く探索することが可能になる。このため、対象物表面に処理を施す際に、本発明を適用することにより、対象物と処理を施す部材との相対的位置関係の変動による位置ずれ等の影響を抑制することが可能になる。
【0110】
即ち、第1実施形態乃至第2実施形態におけるブレードBを、対象物の表面に処理を施すための部材とし、この部材を、枠体又は対象物の表面に倣い当てすることにより、エッジを好適に検出した後に、部材を用いて対象物の表面に処理を施すことにより、対象物と処理を施す部材との相対的位置関係の変動による位置ずれ等の影響を抑制することが可能になる。
【0111】
部材は、例えば、インクジェットヘッドである。インクジェットヘッドをロボットアーム20に保持させ、インクジェットヘッドを枠体に倣い当てすることにより、枠体のエッジを探索し、インクジェットヘッドをエッジに対して位置合わせすることが可能になる。その後、インクジェットヘッドから対象物の表面に対してインクを塗布することにより、枠体のエッジを基準とする対象物の表面への処理が可能になる。
【0112】
又、部材は、例えば、対象物の表面にカッティングシートを貼り付けるためのブレードである。ブレードをロボットアーム20に保持させ、ブレードを枠体に倣い当てすることにより、枠体のエッジを探索し、ブレードをエッジに対して位置合わせすることが可能になる。その後、ブレードを用いて対象物の表面にカッティングシートを貼りつけることにより、枠体のエッジを基準とする対象物の表面への処理が可能になる。
【0113】
また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。たとえば、当業者の通常の創作能力の範囲内で、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態に追加することができる。また、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態の対応する構成要素と置換することができる。
【符号の説明】
【0114】
10.制御装置
20.ロボットアーム
20D.直列弾性アクチュエータ
20DA.駆動部
20DE.弾性体
20J.ジョイント
20L.リンク
50.教示装置
B.ブレード
E.エッジ
F.窓枠
G.窓
W.窓体