(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063030
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物、動的架橋型樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、並びに押出成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20220414BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20220414BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220414BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20220414BHJP
B29C 48/395 20190101ALI20220414BHJP
B29C 48/30 20190101ALI20220414BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L27/12
C08L83/04
C08J3/24 Z CES
B29C48/395
B29C48/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171325
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】三井 崇
(72)【発明者】
【氏名】真貝 美智子
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌男
【テーマコード(参考)】
4F070
4F207
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AC56
4F070AC79
4F070AC92
4F070AE08
4F070AE09
4F070AE30
4F070GA05
4F070GA06
4F070GB02
4F070GB08
4F207AA03
4F207AA04A
4F207AA16
4F207AA18
4F207AA45
4F207KA01
4F207KA17
4F207KM20
4J002AC014
4J002AC034
4J002AC084
4J002BB032
4J002BB042
4J002BB061
4J002BB122
4J002BB142
4J002BB154
4J002BD143
4J002BD153
4J002BF031
4J002BP014
4J002BP024
4J002CP035
4J002EK046
4J002EK056
4J002EK066
4J002EK086
4J002FD146
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】押出成形時にダイ出口周囲に樹脂カス(目やに)が発生することを抑制できる、樹脂組成物、動的架橋型樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、並びに押出成形品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】エチレン/酢酸ビニル共重合体と、αオレフィン重合体と、フッ素ゴムと、架橋剤と、を含む、樹脂組成物。前記樹脂組成物において、前記エチレン/酢酸ビニル共重合体の100質量部に対して、前記αオレフィン重合体の含有量が15~65質量部であり、前記架橋剤の含有量が1~8質量部であることが好ましい。前記樹脂組成物において、前記エチレン/酢酸ビニル共重合体、前記αオレフィン重合体、前記フッ素ゴム、及び前記架橋剤の総質量に対する、前記フッ素ゴムの含有量が0.01~1質量%であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン/酢酸ビニル共重合体と、αオレフィン重合体と、フッ素ゴムと、架橋剤と、を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン/酢酸ビニル共重合体の100質量部に対して、
前記αオレフィン重合体の含有量が15~65質量部であり、
前記架橋剤の含有量が1~8質量部である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン/酢酸ビニル共重合体、前記αオレフィン重合体、前記フッ素ゴム、及び前記架橋剤の総質量に対する、
前記フッ素ゴムの含有量が0.01~1質量%である、
請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の樹脂組成物によって形成され、前記エチレン/酢酸ビニル共重合体及び前記αオレフィン重合体のうち少なくとも一部が動的架橋した、動的架橋型樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の動的架橋型樹脂組成物と、
前記エチレン/酢酸ビニル共重合体、前記αオレフィン重合体、及び前記フッ素ゴム以外の熱可塑性エラストマーと、を含む、樹脂組成物。
【請求項6】
さらにシリコーン化合物を含む、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項4に記載の動的架橋型樹脂組成物、又は請求項5若しくは請求項6に記載の樹脂組成物によって形成された、押出成形品。
【請求項8】
請求項1~3の何れか一項に記載の樹脂組成物を混練しながら、前記樹脂組成物に含まれる前記エチレン/酢酸ビニル共重合体及び前記αオレフィン重合体の少なくとも一部を架橋させることにより動的架橋型樹脂組成物を得ることと、
前記動的架橋型樹脂組成物に、前記エチレン/酢酸ビニル共重合体、前記αオレフィン重合体、及び前記フッ素ゴム以外の熱可塑性エラストマーと、シリコーン化合物と、を混練することにより樹脂組成物を得ることと、を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法によって得た樹脂組成物を、ダイが備えられた押出成形機にかけて押出成形品を得ることを含む、押出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、動的架橋型樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、並びに押出成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ゴム部材或いは樹脂部材の表層材の原料として動的架橋型の熱可塑性エラストマー(Thermo-plastic Vulcanizates;略称:TPV)を含有する樹脂組成物が使用されている。樹脂部材の摺動性を高める観点からシリコーンオイル等のシリコーン化合物を樹脂組成物に添加して使用されることがある。例えば、特許文献1には、動的架橋型のオレフィン系熱可塑性エラストマーにシリコーン化合物が高含有量で添加された摺動材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、エチレン/酢酸ビニル共重合体とαオレフィン重合体のTPVを用いて樹脂部材を押出成形したところ、ダイの出口周囲に、樹脂カス(目やに)が発生し、樹脂カスが成形品に混入したり、付着したりする問題に直面した。
【0005】
本発明は、押出成形時にダイ出口周囲に樹脂カス(目やに)が発生することを抑制できる、樹脂組成物、動的架橋型樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、並びに押出成形品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] エチレン/酢酸ビニル共重合体と、αオレフィン重合体と、フッ素ゴムと、架橋剤と、を含む、樹脂組成物。
[2] 前記エチレン/酢酸ビニル共重合体の100質量部に対して、前記αオレフィン重合体の含有量が15~65質量部であり、前記架橋剤の含有量が1~8質量部である、
[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記エチレン/酢酸ビニル共重合体、前記αオレフィン重合体、前記フッ素ゴム、及び前記架橋剤の総質量に対する、前記フッ素ゴムの含有量が0.01~1質量%である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] [1]~[3]の何れか一項に記載の樹脂組成物によって形成され、前記エチレン/酢酸ビニル共重合体及び前記αオレフィン重合体のうち少なくとも一部が動的架橋した、動的架橋型樹脂組成物。
[5] [4]に記載の動的架橋型樹脂組成物と、前記エチレン/酢酸ビニル共重合体、前記αオレフィン重合体、及び前記フッ素ゴム以外の熱可塑性エラストマーと、を含む、樹脂組成物。
[6] さらにシリコーン化合物を含む、[5]に記載の樹脂組成物。
[7] [4]に記載の動的架橋型樹脂組成物、又は[5]若しくは[6]に記載の樹脂組成物によって形成された、押出成形品。
[8] [1]~[3]の何れか一項に記載の樹脂組成物を混練しながら、前記樹脂組成物に含まれる前記エチレン/酢酸ビニル共重合体及び前記αオレフィン重合体の少なくとも一部を架橋させることにより動的架橋型樹脂組成物を得ることと、前記動的架橋型樹脂組成物に、前記エチレン/酢酸ビニル共重合体、前記αオレフィン重合体、及び前記フッ素ゴム以外の熱可塑性エラストマーと、シリコーン化合物と、を混練することにより樹脂組成物を得ることと、を含む、樹脂組成物の製造方法。
[9] [8]に記載の製造方法によって得た樹脂組成物を、ダイが備えられた押出成形機にかけて押出成形品を得ることを含む、押出成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の動的架橋型樹脂組成物及び樹脂組成物によれば、押出成形時にダイ出口周囲に目やにが発生することを抑制できるので、成形品に目やにが混入したり、付着したりすることを防ぎ、高品質の押出成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例の樹脂組成物が押出成形機のダイから押し出される様子を示す写真。
【
図2】比較例の樹脂組成物が押出成形機のダイから押し出される様子を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪樹脂組成物(1)≫
本発明の第一態様は、エチレン/酢酸ビニル共重合体である成分(A)と、αオレフィン重合体である成分(B)と、フッ素ゴムである成分(C)と、架橋剤である成分(D)と、を含む樹脂組成物である。
【0010】
以下、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【0011】
<EVA;成分(A)>
本態様の樹脂組成物における成分(A)の含有量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の総質量に対して、例えば、50~90質量%が好ましく、60~80質量%がより好ましく、65~75質量%がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、ShoreA硬度が低く、伸び率に優れた樹脂組成物が得られる。
【0012】
成分(A)における酢酸ビニル単位の含有比率は、成分(A)の総質量に対して、例えば1~90質量%とすることができ、10~80質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましく、25~45質量%がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、ShoreA硬度が低く、伸び率に優れた樹脂組成物が得られる。
【0013】
成分(A)であるEVAは部分的にけん化された部分けん化物であってもよい。
【0014】
成分(A)の190℃、2.16kgでのメルトフローレート(MFR)は、特に制限されず、例えば、1~60g/10分が好ましく、1~40g/10分がより好ましく、1~20g/10分がさらに好ましい。ここで成分(A)のMFRは、JIS K7210に準拠して測定された値である。
上記好適な範囲であると、ShoreA硬度が低く、伸び率に優れた樹脂組成物が得られる。
本態様の樹脂組成物に含まれる成分(A)は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0015】
<αオレフィン共重合体;成分(B)>
本態様の樹脂組成物における成分(B)の含有量は、成分(A)の100質量部に対して、例えば、15~65質量部が好ましく、25~55質量部がより好ましく、35~45質量部がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、ShoreA硬度が低く、伸び率に優れた樹脂組成物が得られる。
【0016】
成分(B)としては、例えば、プロピレンホモポリマー、エチレンホモポリマー等のαオレフィンの単独重合体であってもよいし、αオレフィン以外の他のモノマーとの共重合体を用いてもよい。ここで、前記他のモノマーとしては、酢酸ビニル及びフッ素含有モノマー以外であれば特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルアルコール、不飽和カルボン酸、ビニルエステル、スチレン等が挙げられる。
本発明に係る樹脂組成物の押出成形時の目やにの発生を充分に抑制する観点から、成分(B)は、αオレフィン単独重合体であることが好ましく、プロピレンホモポリマーがより好ましい。
本態様の樹脂組成物に含まれる成分(B)は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0017】
<フッ素ゴム;成分(C)>
本態様の樹脂組成物における成分(C)の含有量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の総質量に対して、例えば、0.01~1質量%が好ましく、0.05~0.5質量%がより好ましく、0.1~0.3質量%がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、押出成形時にダイ出口で目やにが発生することを充分に抑制することができる。
【0018】
成分(C)としては、例えば、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム、TFE/プロピレン系フッ素ゴム、TFE/プロピレン/VdF系フッ素ゴム、エチレン/HFP系フッ素ゴム、エチレン/HFP/VdF系フッ素ゴム、エチレン/HFP/TFE系フッ素ゴム、VdF/TFE/パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)系フッ素ゴム、VdF/CTFE系フッ素ゴム等が挙げられる。
これらの中でも、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム、VdF/TFE/パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素ゴムであることが好ましい。
成分(C)であるフッ素ゴム中のフッ素原子の割合は、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
成分(C)であるフッ素ゴムには、過酸化物によって架橋可能な部位が導入されていてもよい。そのような部位としては、例えば、ヨウ素原子、臭素原子等が挙げられる。
本態様の樹脂組成物に含まれる成分(C)は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0019】
<架橋剤;成分(D)>
本態様の樹脂組成物における成分(D)の含有量は、成分(A)の100質量部に対して、例えば、1~8質量部が好ましく、1.5~6質量部がより好ましく、2~4質量部がさらに好ましい。
また、成分(D)の含有量は、前記樹脂組成物の総質量に対して、例えば、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、1~3質量%がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、成分(A)及び成分(B)の動的架橋を充分に行うことができる。
【0020】
成分(D)としては、成分(A)及び成分(B)の少なくとも一部を架橋して架橋体を形成できるものであれば特に制限されない。例えば、有機過酸化物、ヒドロシリル化剤(及びヒドロシリル化触媒)、フェノール樹脂硬化剤、イオウ、含イオウ化合物、有機多価アミン、金属酸化物等が挙げられる。なかでも、有機過酸化物を用いることが好ましい。有機過酸化物は、成分(A)及び成分(B)のメチル基やメチレン基等の炭化水素部分からの水素引き抜きに基づくラジカル架橋を起すことができる。
【0021】
有機過酸化物としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が好適である。
具体的には、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-3-メチルベンゾエイト、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサンが挙げられる。
本態様の樹脂組成物に含まれる成分(D)は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0022】
≪動的架橋型樹脂組成物≫
本発明の第二態様は、第一態様の樹脂組成物によって形成され、前記成分(A)であるエチレン/酢酸ビニル共重合体及び前記成分(B)であるαオレフィン重合体のうち少なくとも一部が動的架橋した、動的架橋型樹脂組成物である。
本態様の動的架橋型ゴム組成物において、成分(A)同士が架橋していてもよいし、成分(B)同士が架橋していてもよいし、成分(A)と成分(B)が架橋していてもよい。
【0023】
動的架橋した成分(A)と成分(B)の詳細な構造は未解明であるが、一般的に知られている動的架橋型エラストマーと同様の構造を有すると推測される。すなわち、成分(A)及び成分(B)の何れか一方がドメインを形成し、残る他方がマトリックスを形成し、前記マトリックス中に前記ドメインが分散された構造になっていると推測される。
動的架橋型樹脂組成物に含まれるフッ素ゴムである成分(C)の分布は未解明であるが、後述するゴム組成物が押出成形時にダイから排出される過程で、成分(C)がゴム組成物の表面に偏在することにより、ダイ出口とゴム組成物との摩擦が低減して目やにの発生が抑制されるというメカニズムが考えられる。このメカニズムが働くためには、成分(C)は動的架橋によりドメインに固定されているよりも、動的架橋型樹脂組成物及び樹脂組成物の表面に偏在可能な状態でマトリックス中に自由に分散している方が都合がよいと考えられる。
【0024】
[動的架橋の方法]
第一態様の樹脂組成物を動的架橋することによって、本態様の動的架橋型樹脂組成物を得る方法としては、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を原料として、これらを混錬しながら成分(A)及び成分(B)のうち少なくとも一部を架橋させられる方法であれば特に制限されず、公知のTPVを作製する動的架橋の方法を採用することができる。例えば、前記原料を二軸押出機で混錬しながら、必要に応じて加熱して、動的架橋させることができる。動的架橋により形成された動的架橋型組成物は、例えばペレットの形態で得ることができる。
【0025】
動的架橋の程度は、前記原料中の前記架橋剤の配合量によって制御することができる。架橋剤の配合量が前述の好適な範囲であれば、成分(A)及び成分(B)の一部が架橋体を形成し、残部がマトリックスを構成し、前記架橋体からなるドメインが前記マトリックス中に分散された動的架橋型組成物を容易に得ることができる。
【0026】
本態様の動的架橋型樹脂組成物における動的架橋の程度は、当該組成物について熱キシレン還流による残分比率を測定することにより評価することができる。前記残分比率は、主として、動的架橋型樹脂組成物中の架橋体含有量や架橋度を反映している。つまり、前記残分比率が大きいほど、架橋体含有量が多く、架橋度が高いことを意味する。
前記残分比率は、動的架橋型樹脂組成物の総質量に対して、10~90質量%であることが好ましい。この範囲であると、より耐久性に優れた動的架橋型ゴム組成物が得られる。
【0027】
[熱キシレン還流による残分比率の測定方法]
動的架橋型樹脂組成物のサンプル約3gを秤量して正確な重量(W1)を得る。そのサンプルを円筒形ろ紙に入れ、ソックスレー抽出器にセットし、キシレンで6時間還流抽出を行う。抽出後、サンプルの入ったろ紙を取り出し、120℃のホットプレート上に5時間置いてキシレンを充分蒸発させ、放冷した後にサンプルの正確な重量(W2)を測定する。蒸発のための加熱時間は、キシレンが蒸発しサンプル重量が十分安定するような時間が確保されるように適宜調整される。例えば、加熱時間が5時間である場合、5時間加熱した時と、更に5時間(計10時間)加熱した時の「熱キシレン還流による残分比率%」の変化率が+5%~-8%の範囲であれば、5時間の加熱時間が適切であると判断される。変化率が大きい場合は、1回目に5時間加熱した時と比較して変化率が+5%~-8%の範囲になるように、加熱時間を延長する。熱キシレンに不溶なフィラー等の無機成分の重量をW3とすると、「熱キシレン還流による残分比率」は100×(W2-W3)/W1で求められる。
【0028】
≪樹脂組成物(2)≫
本発明の第三態様は、第二態様の動的架橋型樹脂組成物と、前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)以外の、熱可塑性エラストマーである成分(E)と、を含む、樹脂組成物である。
【0029】
<熱可塑性エラストマー;成分(E)>
本態様の樹脂組成物が成分(E)を含むことにより、樹脂組成物全体の特性を幅広く調整することができる。
本態様の樹脂組成物に含まれる成分(E)の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0030】
本態様の樹脂組成物における成分(E)の含有量は、動的架橋型樹脂組成物及び成分(E)の総質量に対して、例えば、5~95質量%とすることができ、20~90質量%が好ましく、40~85質量%がより好ましく、60~80質量%がさらに好ましい。
前記範囲であると、成分(E)のゴム(弾性)特性を活かしつつ、動的架橋型樹脂組成物による目やに抑制効果を充分に得ることができる。
【0031】
成分(E)としては、JIS K 6253で規定されるShoreA硬度が20~90のものが好ましく、25~70のものがより好ましく、30~50のものがさらに好ましい。
上記範囲のShoreA硬度であると、自動車用ゴム部材或いは樹脂部材の表層材としての耐久性と弾力性が得られやすい。
【0032】
具体的な成分(E)としては、例えば、共役ジエンを重合してなるオレフィン系ポリマー、共役ジエン重合体や共役ジエンの共重合体の不飽和結合を一部残した水添化物、αオレフィンと共役ジエンの共重合体、αオレフィンと非共役ジエンの共重合体、ジシクロペンタジエン系重合体等が挙げられる。
【0033】
成分(E)の具体例としては、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、スチレン・ブタジエン・スチレンゴム(SBS)、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム、スチレン・イソプレンゴム(SIR)、スチレン・イソプレンブロック共重合体(SIS)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(イソブチレン・イソプレンゴム)(IIR)、1,2-ポリブタジエン、及びこれらの水添化物等が挙げられる。
また、水添化されたゴム成分として、例えば、スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレン共重合体(SBBS)、スチレン・エチレン/ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、水添スチレン・ブタジエンゴム(HSBR)、スチレン・エチレン/プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン・(エチレン・エチレン/プロピレン)・スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン・エチレン・ブチレン・エチレンブロック共重合体(SEBC)、エチレン結晶・(エチレン・ブチレン)・エチレン結晶共重合体(CEBC)等が挙げられる。
【0034】
上記のうち、EPDM、EPM等のαオレフィンをモノマー単位として有するエラストマーが好ましい。
【0035】
<シリコーン化合物;成分(F)>
本態様の樹脂組成物には、シリコーン化合物である成分(F)が含まれていることが好ましい。前記成分(F)は前記成分(A)~(E)以外の化合物である。
本態様の樹脂組成に含まれる成分(F)は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0036】
本態様の樹脂組成物が含む第二態様の動的架橋型樹脂組成物は、前述したように、マトリックス中にドメインが分散した構造を有すると推測される。マトリックスとドメインの間には両者の物性の違いから微小な間隙が生じると考えられる。この間隙に成分(F)が入り込み、ドメインとともに成分(F)もマトリックス中に分散し、成分(F)のブリードアウトが抑制される。
【0037】
本態様の樹脂組成物における成分(F)の含有量は、前記成分(A)~(E)の合計を100質量部として、例えば、1~20質量部が好ましく、2~15質量部がより好ましく、3~10質量部がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、本態様の樹脂組成物の摺動性が良好となる。
【0038】
成分(F)としては、シリコーンオイル、シリコーンガム(ゴム)、シリコーン系共重合体等が挙げられる。
シリコーンオイル又はシリコーンガム(ゴム)としては、ジメチルシリコーン、ジフェニルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、及び5mol%以下のビニル基を有するそれらのシリコーン、ハイドロジェンポリシロキサン、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、フッ素変性、ポリエーテル変性、アミノ変性、アルコール変性、エポキシ変性、カルボキシ変性等の変性シリコーンオイルが挙げられる。なかでも、ビニル基含有量が1mol%未満で、数平均分子量が102~108の鎖状ジメチルポリシロキサン(ジメチルシリコーンオイル/ガム)、鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン、アルキレン基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルシリコーンオイルやガムが、耐久性の点で優れているため好ましい。
【0039】
前記シリコーン系共重合体は、上述のシリコーンオイル又はシリコーンガム(ゴム)と他の樹脂を共重合させたものである。シリコーン系共重合体としては、例えば、シリコーン-アクリル共重合体「シャリーヌ」(日信化学社製、商品名)、シリコーン-アクリル共重合体「X-22-8171」(信越化学工業社製、商品名)、ビニル基の含有量が0~1mol%含有のジメチル・ビニルポリシロキサンと、不飽和基の含有量が0~5重量%のEPDM、SBS、SISとの部分架橋物が挙げられる。また、これらを樹脂でマスターバッチ化したペレットである「X-22-2101」、「X-22-2147」(信越化学工業社製、商品名)、「BY27-001S」(東レ・ダウコーニング社製、商品名)や、樹脂と部分グラフト重合したペレットである「BY27-201」(東レ・ダウコーニング社製、商品名)なども挙げられる。
【0040】
成分(F)としては、シリコーンオイルと、シリコーンガムと、シリコーンを40質量%以上含むシリコーン共重合体とからなる群より選ばれる粘度10mPa・s以上のものが好ましい。このような成分(F)を用いることにより、耐久性が向上する。また、成形時や使用時の成分(F)のふき出しがなく外観が良くなる傾向にある。成分(F)の粘度は10~1011mPa・sであることが好ましく、102~107mPa・sであることがより好ましい。
10mPa・s以上の粘度を有する、シリコーンオイル、シリコーンガム及びシリコーン共重合体としては、分子量に換算して100~2000000程度、好ましくは4000~1500000程度のものが適用できる。
【0041】
成分(F)のなかでも、樹脂組成物の摺動性が向上することから、分子量1000~150000のシリコーンオイルが好ましい。
【0042】
[その他の添加剤]
本態様の樹脂組成物には、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、顔料、シリカ、カーボンブラック等の補強剤、酸化防止剤、耐候性向上剤、防徽剤、抗菌剤、難燃剤、パラフィン系等の軟化剤、加工助剤、滑剤、フッ素系等の潤滑剤等が挙げられる。これらの混錬を容易にする観点から、成分(E)又は成分(F)と同時に混練することが好ましい。
本態様の樹脂組成物において、成分(A)~(F)の合計を100質量部として、その他の添加剤の配合量は、例えば0.1~10質量部で配合することができる。
【0043】
<樹脂組成物の物性>
本態様の樹脂組成物の下記物性は、後述する実施例の通り、JIS規格に準拠して測定された値である。
【0044】
(ShoreA硬度)
本態様の樹脂組成物のShoreA硬度は、40~80が好ましく、50~75がより好ましく、60~70がさらに好ましい。
上記範囲であると、自動車用ゴム部材のうち特にドアとボディの間を気密するゴム部材の表層材として適したバランスの剛性、弾性及び気密性が得られる。
【0045】
(引張強度)
本態様の樹脂組成物の引張強度(単位:MPa)は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。上限値は特に制限されず、例えば10以下が目安となる。
上記範囲であると、自動車用樹脂部材のうち特にドアとボディの間を気密するゴム部材の表層材として適したバランスの剛性、弾性及び気密性が得られる。
【0046】
(伸び率)
本態様の樹脂組成物の伸び率は、200%以上が好ましく、250%以上がより好ましく、300%以上がさらに好ましい。上限値は特に制限されず、例えば500%以下が目安となる。
上記範囲であると、自動車用ゴム部材のうち特にドアとボディの間を気密するゴム部材の表層材として適したバランスの剛性、弾性及び気密性が得られる。
【0047】
≪樹脂組成物の製造方法≫
本発明の第四態様は、第一態様の樹脂組成物(1)を混練しながら、前記成分(A)及び前記成分(B)の少なくとも一部を架橋させることにより、第二態様の動的架橋型樹脂組成物を得ることと、前記動的架橋型樹脂組成物に前記成分(E)と、前記成分(F)と、を混練することにより樹脂組成物(2)を得ることと、を含む、第三態様の樹脂組成物の製造方法である。
【0048】
前記樹脂組成物(1)から動的架橋型樹脂組成物を得る方法は前述した通りである。前記動的架橋型樹脂組成物と他の原料を混合する方法は特に制限されず、樹脂組成物を混錬する一般的な方法を採用できる。例えば、2軸押出機、1軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混錬機が挙げられる。混合により形成された樹脂組成物(2)は、例えばペレットの形態で得ることができる。
【0049】
≪押出成形品≫
本発明の第五態様は、第二態様の動的架橋型樹脂組成物、又は第三態様の樹脂組成物によって形成された、押出成形品である。
本態様の押出成形品は、耐久性や摺動性等に優れるので、自動車用ゴム部材或いは樹脂部材の表層材に好適であり、特にドアとボディの間を気密するゴム部材の表層材(摺動材)として好適である。
本態様の押出成形品は、自動車用ゴム部材以外の任意の成形品であってもよい。
【0050】
≪押出成形品の製造方法≫
本発明の第六態様は、第四態様の製造方法で得た樹脂組成物(2)を、ダイ(ダイス)が備えられた押出成形機にかけて押出成形品を得ることを含む、押出成形品の製造方法である。
押出成形の条件は、公知のエラストマー組成物の押出成形と同様でよい。
本態様にあっては、第三態様の樹脂組成物を原料として使用しているので、ダイから押し出される際の目やにの発生が抑制されている。
【実施例0051】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例だけに限定されるものではない。
【0052】
表1に記載の原材料の詳細は次の通りである。
「FKM」:ダイキン工業社製、2元系型フッ素ゴム(フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体)
「EVA」:ランクセス社製、エチレン/酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル比率40%)
「PP」:日本ポリプロ社製、ポリプロピレン
「架橋剤」:有機酸化物
「TPE」:JSR社製、熱可塑性エラストマー(具体名:オレフィン系熱可塑性エラストマー)、ShoreA硬度=35(15s)
「シリコーン」:信越化学工業社製、ジメチルシリコーン、分子量:2~8万
【0053】
<樹脂組成物の作製>
表1に記載の量(質量部)で、EVA、PP、架橋剤、及びFKMを二軸押出機に投入し、混錬しながら架橋させる動的架橋を行った。その後、表1に記載の量(質量部)のTPEを二軸押出機に投入して混錬しながら、二軸押出機の中間部から定量ポンプを使って、表1に記載の量(質量部)のシリコーンオイルを注入して混練することにより、目的の樹脂組成物(2)を得た後、続けてダイからストランド状に押し出した。
上記押し出しの際、ダイの出口周囲にストランドが擦れて樹脂のカス(目やに)発生するか否かを確認した。その結果を表1に示す。
なお、表中の空欄は、その材料を添加していないことを示す。
【0054】
上記の各例で得た樹脂組成物(2)について、ShoreA硬度、引張強度、伸び率をそれぞれ下記のJIS規格に準拠して測定した。その結果を表1に示す。
・硬度; JIS K 6253
・引張強度;JIS K 6251
・伸び; JIS K 6251
【0055】
【0056】
実施例1~7の樹脂組成物(2)はフッ素ゴムを含むので、ダイから押し出された際に目やにの発生がなかった(
図1の写真参照)。
比較例1の樹脂組成物はフッ素ゴムを含まないので、ダイから押し出された際に目やにが発生していた(
図2の写真参照)。
【0057】
以上の結果から、本発明の第三態様の樹脂組成物(2)は押出成形に適したものであることが明らかである。また、本発明の第一態様の樹脂組成物(1)及び第二態様の動的架橋型樹脂組成物は、第三態様の樹脂組成物(2)の原料として有用であることが分かる。