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特開2022-63092ロボットアームの動作方法、ロボットシステム、教示方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063092
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】ロボットアームの動作方法、ロボットシステム、教示方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20220414BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171444
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健志
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS10
3C707CY31
3C707JS03
3C707JU17
3C707KS34
3C707LS01
3C707LS08
3C707LT07
3C707MT04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高精度な作業の自動化が可能なロボットアームの動作方法、ロボットシステム、教示方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】ロボットアームの動作方法は、柔軟性を有する駆動機構を備えたロボットアームに保持され、長手及び短手を有する被保持物を、対象物の表面に倣わせる倣い動作を実行させる。ロボットアームの動作方法は、ロボットアームによって被保持物を移動させる移動方向に対して、対象物の表面上において被保持物の長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、被保持物を対象物の表面に倣わせながら移動方向に移動させること、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する駆動機構を備えたロボットアームに保持され、長手及び短手を有する被保持物を、対象物の表面に倣わせる倣い動作を実行させる、ロボットアームの動作方法であって、
前記ロボットアームによって前記被保持物を移動させる移動方向に対して、前記対象物の表面上において前記被保持物の長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせながら移動方向に移動させる移動ステップ、
を含む、ロボットアームの動作方法。
【請求項2】
前記移動ステップの後に、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせながら、前記対象物の表面上において、前記被保持物の長手方向が前記対象物の枠外縁に沿った状態に前記被保持物の向きを変更するステップを含む、請求項1に記載の動作方法。
【請求項3】
前記被保持物の向きを変更するステップは、前記ロボットアームが予め教示された動作に従って行われる、請求項2に記載の動作方法。
【請求項4】
前記被保持物の向きを変更するステップは、前記被保持物が前記被保持物の移動方向に対向する前記対象物の枠外縁に倣わせることを含む、請求項2又は3に記載の動作方法。
【請求項5】
前記移動ステップの前に、前記ロボットアームに保持される前記被保持物を、前記対象物の表面に倣わせながら接触させるステップを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項6】
前記対象物の表面は、鉛直方向に延在する表面であり、
前記移動ステップにおいて、前記移動方向は、鉛直方向と交差する方向であり、前記傾斜状態は、前記移動方向に対して、前記対象物の表面上において前記被保持物の長手の下端が上端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた状態である、請求項1から5のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項7】
前記駆動機構は、直列弾性アクチュエータを備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項8】
前記倣い動作は、前記直列弾性アクチュエータの弾性体を弾性変形させながら、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせることを含む、請求項7に記載の動作方法。
【請求項9】
前記被保持物は、清掃部材である、請求項1から8のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項10】
前記清掃部材は、洗剤噴霧器を有する、請求項9に記載の動作方法。
【請求項11】
前記清掃部材は、前記洗剤噴霧器から噴霧された洗剤を受けるガーターをさらに有する、請求項10に記載の動作方法。
【請求項12】
前記被保持物は、シート貼り部材である、請求項1から8のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項13】
前記被保持物は、ブレード状である、請求項1から12のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項14】
前記被保持物は、前記対象物と接触する弾性部材を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項15】
柔軟性を有する駆動機構と、長手及び短手を有する被保持物を保持するロボットアームと、前記ロボットアームを制御する制御装置とを含むロボットシステムに、前記被保持物を対象物の表面に倣わせる倣い動作を教示する方法であって、
前記ロボットアームによって前記被保持物を移動させる移動方向に対して、前記対象物の表面上において前記被保持物の長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせながら移動方向に移動させる移動ステップ、
を前記ロボットシステムに実行させるための教示を行う教示方法。
【請求項16】
柔軟性を有する駆動機構と、長手及び短手を有する被保持物を保持するロボットアームと、前記ロボットアームを制御する制御装置とを含み、対象物の表面に倣わせる倣い動作を実行するロボットシステムであって、
前記制御装置は、
前記ロボットアームによって前記被保持物を移動させる移動方向に対して、前記対象物の表面上において前記被保持物の長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせながら移動方向に移動させる移動ステップ、
を実行するように構成される、ロボットシステム。
【請求項17】
ロボットアームの動作方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記動作方法は、
柔軟性を有する駆動機構を備えたロボットアームに保持され、長手及び短手を有する被保持物を、対象物の表面に倣わせる倣い動作を実行させ、
前記ロボットアームによって前記被保持物を移動させる移動方向に対して、前記対象物の表面上において前記被保持物の長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせながら移動方向に移動させること、を含む、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームの動作方法、ロボットシステム、教示方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットアームなどの装置にツールを保持させ、何らかの作業を行わせることが知られている。
【0003】
特許文献1には、建物面に沿って移動する移動体と、移動体に設けられて建物面に沿う方向に動作する作動機と、作動機に保持される被保持物である清掃ヘッドとを備え、建物面の清掃面を対象物として、当該清掃ヘッドを清掃移動させる清掃装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-3838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術において、装置に保持された被保持物を、対象物の表面を移動させると、急峻で局所的な接触摩擦により発生する被保持物の振動により、装置に正確な作業を行わせることが困難である場合があった。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的の一つは、より高精度な作業の自動化が可能なロボットアームの動作方法、ロボットシステム、教示方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るロボットアームの動作方法は、柔軟性を有する駆動機構を備えたロボットアームに保持され、長手及び短手を有する被保持物を、対象物の表面に倣わせる倣い動作を実行させる、ロボットアームの動作方法であって、前記ロボットアームによって前記被保持物を移動させる移動方向に対して、前記対象物の表面上において前記被保持物の長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせながら移動方向に移動させる移動ステップ、を含む。
【0008】
本発明の一実施形態に係る教示方法は、柔軟性を有する駆動機構と、長手及び短手を有する被保持物を保持するロボットアームと、前記ロボットアームを制御する制御装置とを含むロボットシステムに、前記被保持物を対象物の表面に倣わせる倣い動作を教示する方法であって、前記ロボットアームによって前記被保持物を移動させる移動方向に対して、前記対象物の表面上において前記被保持物の長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせながら移動方向に移動させること、を前記ロボットシステムに実行させる。
【0009】
本発明の一実施形態に係るロボットシステムは、柔軟性を有する駆動機構と、長手及び短手を有する被保持物を保持するロボットアームと、前記ロボットアームを制御する制御装置とを含み、対象物の表面に倣わせる倣い動作を実行するロボットシステムであって、前記制御装置は、前記ロボットアームによって前記被保持物を移動させる移動方向に対して、前記対象物の表面上において前記被保持物の長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせながら移動方向に移動させること、を実行するように構成される。
【0010】
本発明の一実施形態に係るプログラムは、ロボットアームの動作方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記動作方法は、柔軟性を有する駆動機構を備えたロボットアームに保持され、長手及び短手を有する被保持物を、対象物の表面に倣わせる倣い動作を実行させ、前記ロボットアームによって前記被保持物を移動させる移動方向に対して、前記対象物の表面上において前記被保持物の長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、前記被保持物を前記対象物の表面に倣わせながら移動方向に移動させること、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より高精度な作業を自動化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るロボットシステムの機能ブロックを示す図である。
図2】ロボットアームを側面から見た模式図である。
図3】ロボットアームを上面から見た模式図である。
図4】ロボットアームの動作方法の一例を示す図である。
図5】ロボットアームの動作方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、発明の実施形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0014】
図1から図3を参照して、本実施形態に係るロボットシステムの構成を説明する。図1は本実施形態に係るロボットシステムの機能ブロックを示す図である。図2及び図3は、対象物を保持するロボットシステムのロボットアームを模式的に示す図である。
【0015】
図1に示すように、ロボットシステム100は、ロボットアーム20と、ロボットアーム20を制御する制御装置10と、表示装置60と、入力装置62とを備えている。本実施形態に係るロボットシステム100は、例えば、清掃部材などの被保持物を保持し、当該被保持物を対象物の表面に倣わせる倣い動作を実行する。本実施形態において対象物とは、ビル等の建造物に設けられた窓、任意の場所に設置されたパネルなど、平面形状の部位を有するものである。
【0016】
ロボットアーム20は、被保持物を保持し、これを対象物に向かって接近させた後、被保持物を対象物に接触させて倣わせる倣い動作を含む動作を実行する。図1から図3に示すように、ロボットアーム20は、例えば、垂直多関節ロボットであり、ベース(図示しない)と、複数のリンク20Lと、複数のジョイント20Jと、一又は複数の駆動部30と、一又は複数の直列弾性アクチュエータ40と、圧力検出部50とを備える。ロボットアーム20は、少なくとも一つのジョイント20Jを介して被保持物Wを保持している。ロボットアーム20は、垂直多関節ロボットに限られることはなく、例えば、水平多関節型ロボット装置、パラレルリンク型ロボット装置であってもよい。
【0017】
リンク20Lは、剛性を有する部材から構成されており、例えば、ベースに対して回動可能に取り付けられた胴部に相当するリンク20Lと、胴部に対して回動可能に取り付けられた下腕部に相当するリンク20Lと、下腕部に対して回動可能に取り付けられた上腕部に相当するリンク20Lと、上腕部に対して回動可能に取り付けられた手首部に相当するリンク20L(図示しない)とを備える。
【0018】
本実施形態に係るロボットアーム20は、リンク20L同士を接続する少なくとも一つのジョイント20J、及びリンク20Lと被保持物Wとを接続するジョイント20Jに設けられた直列弾性アクチュエータ40を備えている。例えば、直列弾性アクチュエータ40は、ロボットアーム20の全てのジョイント20Jに搭載されている。
【0019】
直列弾性アクチュエータ40(「柔軟性を備えた駆動機構」の一例)は、例えば、駆動部42と、駆動部42に接続される弾性体44とから構成される。駆動部42は、例えば、サーボモータから構成される。弾性体44は、例えば、機械ばね(例えば板状ばね)から構成される。板状ばねは高いねじり剛性を有するため、本実施形態における倣い動作に適している。直列弾性アクチュエータ40において駆動部42から出力される動力は、弾性体44を介して、出力側のリンク20Lに伝達し、これを回動させる。更に、本実施形態に係る直列弾性アクチュエータ40は、機械ばねの変位量を取得するためのセンサ(図示しない)を備えている。
【0020】
圧力検出部50は、ロボットアーム20による対象物を組付部位に接触させたときの接触圧力を検出する。圧力検出部50によって検出された接触圧力を実質的に一定に制御することによって対象物を組付部位に倣わせる倣い動作を行うことができる。
【0021】
以上のようなロボットアーム20の構成によれば、柔軟性を備えた駆動機構に相当する直列弾性アクチュエータ40によって駆動される部分の慣性、質量及び長さ、外力並びに弾性体44である機械ばねのばね定数をパラメータとする運動方程式が成立する。このため、制御装置10は、機械ばねのばね定数及び変位量に基づいて、インピーダンスを制御するメカニカル・コンプライアンス制御を行うように構成される。
【0022】
なお、直列弾性アクチュエータ40は、駆動部42であるサーボモータの駆動軸に接続され、動力を機械ばねに伝達するギヤを備えていてもよい。更に、直列弾性アクチュエータ40は、粘性に基づいて衝撃を緩和させるダンパ機構及び動力の伝達をスイッチするためのクラッチ機構を備えてもよい。粘性を有するダンパ機構等の粘性体を付与する場合、運動方程式には、粘性定数がパラメータとして加えられる。例えば、粘性定数にリンク角度の時間変化を乗じた値をトルクとして考慮された運動方程式が成立する。
【0023】
直列弾性アクチュエータ40によって駆動されるリンク20L以外のリンク20Lが存在する場合、このようなリンク20Lは、例えば、サーボモータから構成される駆動部30によって駆動される。駆動部30は、出力側のリンク20Lを駆動軸回りに回動させる。駆動部30は、リンク20Lに搭載されていてもよい。以上のような構成により、複数のリンク20Lを回動させることが可能になるため、リンク20Lの先端に相当するジョイント20Jの位置及び姿勢を変化させることが可能となる。
【0024】
図1に示すように、制御装置10は、制御命令取得部12と、倣い動作実行部14と、エラー検知部16と、判断部18とを備えている。制御命令取得部12は、ロボットアーム20の各駆動部30に相当するサーボモータ及び直列弾性アクチュエータ40のサーボモータを制御するための制御命令を取得する。この制御命令は、ロボットアーム20の基準となる位置(例えば、手先位置に相当するジョイント20Jのセンターポイント。以下、「基準位置」とも称する。)の開始位置及びその時の姿勢と、目標位置及びその時の姿勢と、目標位置を基準として目標位置からロボットアーム20の基準位置が離れることができる許容範囲と、開始位置と一つ又は複数の目標位置を結ぶ移動経路とを含む各種情報に基づいて生成される。後述するように、本実施形態に係るロボットアームの動作方法においては、ロボットアーム20によって保持される被保持物Wが対象物と接触した状態で被保持物Wを対象物の表面に倣って移動させるような経路を取得することが可能である。制御命令取得部12は、基準位置を経路に従って移動させるための各サーボモータを制御するための制御命令を演算処理等により取得する。例えば、制御命令取得部12は、逆運動学演算(インバースキネマティクス)により、基準位置が経路上に位置するための各サーボモータの回転角度を算出し、これに基づいて制御命令を生成する。
【0025】
倣い動作実行部14は、ロボットアーム20の直列弾性アクチュエータ40を弾性変形させることによって、ロボットアーム20が被保持物を対象物に接触させて倣わせる倣い動作を実行させる。倣い動作とは、被保持物を対象物に接触させながら、被保持物を対象物に対して相対的に移動させることをいう。ここで、相対的に移動させることは、並進移動に限られず、対象物に対して被保持物を相対的に回転移動させることを含む。倣い動作実行部14は、圧力検出部50によって検出される接触圧力が実質的に一定値又は所定範囲内となるように、直列弾性アクチュエータ40の弾性体44を弾性変形させるように構成されている。これにより、対象物又は組付部位に対して、かじりなどの損傷を抑制しつつ組付作業を実行することができる。
【0026】
エラー検知部16は、ロボットアーム20の動作中に圧力検出部50が検出した接触圧力の測定値に基づいてエラー情報を検知する。例えば、圧力検出部50が、倣い動作中の接触圧力の測定値がしきい値を超える場合、エラー検知部16は、被保持物又は対象物に何らかの欠陥があると判断してエラー情報を検知する。
【0027】
判断部18は、エラー検知部16が検知したエラー情報のエラー内容に基づいて、ロボットアーム20のエラー後の動作を判断する。具体的には、判断部18は、倣い動作中に初めて発生した第1エラー情報であれば、ロボットアーム20に保持させる被保持物を交換した後に再度の倣い動作を実行させる。他方で、被保持物を既に交換した後に発生した再度の倣い動作中に発生した第2エラー情報であれば、ロボットアーム20の動作を停止する。第1エラー情報であれば、被保持物に異物が付着している等の被保持物単体の異常である可能性が高いため、ロボットアーム20に再度の倣い動作を実行させることでエラー問題が解消する可能性がある。他方で、第2エラー情報であれば、被保持物の製造ロット単位又は組付部位自体の異常である可能性が高いため、被保持物を交換してもエラー問題が解消しない可能性が高い。したがって、このような場合、ロボットアーム20の動作を停止させる。なお、第2エラー情報は、エラー回数が2回目であることに限らず、3回目以降であってもよい。制御装置10の判断部18によって判断されたエラーの種類に応じた情報(特に第2エラー情報)は、表示装置60に表示することによってユーザに報知するようにしてもよい。
【0028】
ハードウェア構成に関し、制御装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)等のプロセッサである演算素子と、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性記憶素子と、NORフラッシュメモリ、NANDフラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive)等の不揮発性記憶素子と、これらを接続するバス等の通信手段を備えるコンピュータから構成することが可能である。不揮発性記憶素子には、例えば、本実施形態に示される各処理を実行するためのコンピュータプログラムが格納されている。揮発性記憶素子は、これらコンピュータプログラムの少なくとも一部及び演算処理結果等を一時的に記憶する。但し、これら演算素子、不揮発性記憶素子等の少なくとも一部は、インターネット等の通信ネットワークに接続された遠隔地に設置されていてもよい。例えば、演算素子は、通信ネットワークを介して、コンピュータプログラム又は必要なデータを取得するように構成されてもよい。
【0029】
制御装置10、ロボットアーム20、表示装置60及び入力装置62は、それぞれ無線又は有線による通信手段によって情報の送受信が可能に構成されている。なお、制御装置10には、ロボットシステム100に動作教示するための教示装置(図示しない)が接続されてもよい。教示装置は、現場で実際にロボットアーム20を動かしてその時の基準部分の位置及び姿勢を開始位置として教示するオンラインティーチングに従う教示装置でもよいし、コンピュータプログラムによって基準部分の位置及び姿勢を開始位置として教示する、テキスト型、シミュレータ型、エミュレータ型、又は、自動ティーチング型等のオフラインティーチングに従う教示装置でもよい。
【0030】
表示装置60及び入力装置62は、表示部及び入力部を備えるコンピュータであってもよいし、タッチパネル等のように一体として構成されていてもよい。
【0031】
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係るロボットアーム20の動作方法の一例として、被保持物Wを対象物Tの表面に倣わせながら移動させる方法の概要を説明する。図2及び図3は、ロボットアーム20によって被保持物Wを対象物Tの表面に倣わせながら移動させている様子を示す模式図である。各図において説明の便宜上、垂直方向(例えば、鉛直方向)をZ軸方向とし、水平方向をX軸方向及びY軸方向とする座標系を示している。すなわち、図2及び図3に示す例において、対象物Tの表面は、鉛直方向に延在する表面である。しかしながら、これに限定されず、対象物Tの表面は、他の方向、例えば、水平方向に延在していてもよい。
【0032】
前述のとおり、ロボットアーム20は、ベースに対して回動可能に取り付けられた胴部に相当するリンク20Lと、胴部に対して回動可能に取り付けられた下腕部に相当するリンク20Lと、下腕部に対して回動可能に取り付けられた上腕部に相当するリンク20Lと、上腕部に対して回動可能に取り付けられた手首部に相当するリンク20L(図示しない)と、ジョイント20Jを備えている。ジョイントJは、各リンク20Lを接続、又はリンク20Lと被保持物Wとを接続する。例えば、直列弾性アクチュエータ40は、各リンク20L同士を接続するジョイント20J、及びリンク20Lと被保持物Wとを接続するジョイント20Jに搭載されている。言い換えれば、X軸、Y軸及びZ軸の各並進力成分と、それら3軸のそれぞれの軸周りの回転力成分との6軸の全ての駆動機構が直列弾性アクチュエータ40を備えている。
【0033】
被保持物Wは、例えば、清掃部材、又はシート貼り部材である。清掃部材としての被保持物Wは、例えば、窓である対象物Tの表面を清掃するための部材である。シート貼り部材としての被保持物Wは、例えば、パネルである対象物Tの表面にシートを貼るための部材である(このとき、対象物Tは、パネル及びシートを含み、後述するロボットアーム20の動作により、被保持物Wがシートの表面を移動することとしてもよい)。被保持物Wは、長手及び短手を有する形状である。被保持物Wの形状は、例えば、ブレード状などの矩形である。また、被保持物Wにおいて、対象物Tと接触する部材は、スポンジ又はゴムなどの弾性体で形成されていてもよい。被保持物Wにおいて、対象物Tと接触する部材は、布体(例えば、ウエス)であってもよい。すなわち、被保持物Wは、弾性体又は布体を有していてもよい。被保持物Wが清掃部材であるとき、被保持物Wには、清掃用の洗剤を対象物Tに対して噴霧するように構成された洗剤噴霧器が設けられていてもよい。さらに、被保持物Wには、洗剤噴霧器から噴霧された洗剤を受けるように構成された部材(ガーター)が設けられていてもよい。
【0034】
ロボットアーム20は、被保持物Wを対象物Tの表面に倣わせながら方向D1に移動させる。このとき、ロボットアーム20は、例えば、被保持物Wを移動させる方向D1に対して、対象物Tの表面上において被保持物Wの長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、被保持物Wを移動させることができる。
【0035】
従来、被保持物Wのように長手及び短手を有する被保持物を対象物の表面に倣わせながら精度よく移動させることが困難であった。詳細には、対象物の表面に倣って被保持物を移動させると、急峻で局所的な接触摩擦により発生する被保持物の振動により、被保持物を精度よく移動させることが困難である場合があった。
【0036】
これに対して、本実施形態におけるロボットアーム20の動作方法によれば、被保持物Wは、直列弾性アクチュエータ40のような柔軟性を有する駆動機構を備えたロボットアーム20に保持されている。そのため、被保持物Wの移動時における急峻で局所的な接触摩擦により発生しうる被保持物Wの振動を低減することが可能である。また、本実施形態におけるロボットアーム20の動作方法によれば、被保持物Wを移動させる方向D1に対して、対象物Tの表面上において被保持物Wの長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、被保持物Wを移動させる。そのため、被保持物Wの移動時における急峻で局所的な接触摩擦の摩擦力を逃がすことができる。その結果、被保持物Wの振動の発生を低減することが可能である。すなわち、本実施形態によれば、より高精度な作業の自動化が可能なロボットアームの動作方法及びロボットシステムを実現可能である。
【0037】
また、傾斜状態において、被保持物Wの移動方向(方向D1)に対して垂直な方向と、被保持物Wの長手方向とがなす角は、例えば、30度(又は、30度±10度)である。このように角度を設定することにより、被保持物Wの振動の発生の低減と、移動時に被保持物Wが対象物Tに接する面積(例えば、被保持物Wが清掃部材であるときの清掃面積)の確保との両立を図ることができる。また、対象物Tの表面が、鉛直方向に延在する表面であるとき、方向D1は、鉛直方向と交差する方向であるが、これに限定されず、方向D1は、鉛直方向と平行であってもよい。
【0038】
図4及び図5を参照して、本実施形態に係るロボットアーム20の動作の具体的なプロセスについて説明する。以下に説明するロボットアーム20の動作は、例えば、ロボットシステム100に対して予め教示された動作に応じて制御されてもよいし、倣い動作に応じて制御されてもよい。ロボットアーム20は、まず、被保持物Wを対象物Tに接近させるように移動させ、図4(A)に示されるように、被保持物Wを対象物Tの表面に接触させる(図5のS501)。被保持物Wの対象物Tの表面への接触は、所定の接触圧力となるように行われる。被保持物Wを対象物Tに接触させるとき、ロボットアーム20は、まず、被保持物Wの下面における長手の一端を対象物Tの表面に接触させ、対象物Tの表面に対して倣わせながら、被保持物Wの下面の全体が対象物Tの表面に接触させてもよい。このように倣い動作を行いながら被保持物Wを対象物Tに接触させることにより、被保持物W及び対象物Tの両者を損傷させることなく後述する被保持物Wの移動の動作を開始させることができる。こうしたロボットアーム20による被保持物Wの対象物Tへの接触は、制御装置10の制御命令取得部12が取得した制御命令に基づいて行われる。
【0039】
次に、図4(B)に示されるように、ロボットアーム20は、対象物Tの表面に倣わせながら方向D1へ被保持物Wの移動を開始する(図5のS502)。移動の開始後、ロボットアーム20は、被保持物Wの向きを変更する(図5のS503)。詳細には、ロボットアーム20は、被保持物Wの長手方向が対象物Tの枠(枠外縁)に沿っていた(平行であった)状態から、被保持物Wを移動させる方向D1に対して対象物Tの表面上において傾斜させた状態(傾斜状態)にする(図5のS503)。対象物Tが窓であるとき、対象物Tの枠とは、例えば、窓枠である。被保持物Wを傾斜状態にする制御は、例えば、ロボットシステム100に対して予め教示された動作に応じて行われる。ロボットアーム20は、傾斜状態で、被保持物Wを対象物Tの表面に倣わせながら方向D1に向かって移動させる。
【0040】
傾斜状態とは、より詳細には、被保持物Wの移動方向に対して、被保持物Wの長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた状態である。図4(B)に示す傾斜状態の例において、被保持物Wは、被保持物Wの長手の下端が上端よりも移動の後進位置となるように傾斜した状態である。他の例として、傾斜状態において、被保持物Wは、被保持物Wの長手の上端が下端よりも移動の後進位置となるように傾斜した状態であってもよい。
【0041】
その後、図4(C)に示されるように、ロボットアーム20は、対象物Tの表面に対して倣わせながら被保持物Wを方向D1に向かって移動させ、図4(D)に示されるように、対象物Tの表面上において被保持物Wを、上記傾斜状態から被保持物Wの長手方向が対象物Tの枠に沿った(枠に平行な)状態に変更する(図5のS503)。傾斜状態から被保持物Wの長手方向が対象物Tの枠に沿った(枠に平行な)状態にする制御は、例えば、ロボットシステム100に対して予め教示された動作に応じて、又は被保持物Wの対象物Tの枠に対する倣い動作に応じて行われる。被保持物Wの対象物Tの枠に対する当該倣い動作において、詳細には、まず、図4(C)に示されるように、被保持物Wが方向D1に向かって移動しているときに、被保持物Wの長手方向の一端が、移動方向に対向する対象物Tの枠に接触する。その後も被保持物Wが方向D1に向かって移動することにより、被保持物Wを対象物Tの枠に対して倣わせる。これにより、被保持物Wの長手方向の向きが変更され、図4(D)に示されるように、被保持物Wの長手方向が対象物Tの枠に沿った(枠に平行な)状態になる。
【0042】
その後、図4(D)及び図4(E)に示されるように、ロボットアーム20は、対象物Tの表面に対して倣わせながら被保持物Wを方向D2に向かって移動させるように制御される。すなわち、被保持物Wの移動の方向が変更される(図5のS504)。
【0043】
図4(F)に示されるように、被保持物Wの移動方向の変更後においても、ロボットアーム20は、被保持物Wを傾斜状態で移動させる。すなわち、ロボットアーム20は、被保持物Wの移動方向に対して、被保持物Wの長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた状態で被保持物Wを移動させる。
【0044】
その後もロボットアーム20は、作業の完了と判断されるまで予め教示された動作、又は倣い動作に従って被保持物Wを移動させ(図5のS505のNo)、作業の完了と判断されたとき(図5のS505のYes)、被保持物Wの移動を終了する。なお、図4(F)を参照して、ロボットアーム20によって、被保持物Wを対象物Tの表面に接触させ、傾斜状態で被保持物Wを移動させる制御について説明をしたが、被保持物Wは傾斜状態ではなくてもよい。すなわち、被保持物Wの移動方向に対して垂直な方向と、被保持物Wの長手方向とがなす角は、任意の角度とすることが可能である。また、ロボットアーム20は、対象物T上を対象物Tの表面に接触しない状態で被保持物Wを移動させることも可能である。また、この場合においても、被保持物Wの移動方向に対して垂直な方向と、被保持物Wの長手方向とがなす角は、任意の角度とすることが可能である。
【0045】
以上のように本実施形態におけるロボットアーム20の動作方法によれば、被保持物Wは、直列弾性アクチュエータ40のような柔軟性を有する駆動機構を備えたロボットアーム20に保持されている。そのため、被保持物Wの移動時における急峻で局所的な接触摩擦により発生しうる被保持物Wの振動を低減することが可能である。また、本実施形態におけるロボットアーム20の動作方法によれば、被保持物Wを移動させる方向に対して、対象物Tの表面上において被保持物Wの長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、被保持物Wを移動させる。そのため、被保持物Wの移動時における急峻で局所的な接触摩擦の摩擦力を逃がすことができる。その結果、被保持物Wの振動の発生を低減することが可能である。すなわち、本実施形態によれば、より高精度な作業の自動化が可能なロボットアームの動作方法及びロボットシステムを実現可能である。
【0046】
本実施形態に係るロボットアーム20の動作方法の実行を制御するためのコンピュータプログラムは、ロボットアーム20によって被保持物Wを移動させる移動方向に対して、対象物Tの表面上において被保持物Wの長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、被保持物Wを対象物Tの表面に倣わせながら移動方向に移動させることを実行するためのプログラムを含む。このようなプログラムは、例えば、ロボットシステム100の制御装置10の不揮発性記憶素子に記憶されていてもよい。なお、本実施形態において、ロボットアーム20によって、被保持物Wを対象物Tの表面に接触させ、傾斜状態で被保持物Wを移動させる制御について説明をしたが、被保持物Wは傾斜状態ではなくてもよい。すなわち、被保持物Wの移動方向に対して垂直な方向と、被保持物Wの長手方向とがなす角は、任意の角度とすることが可能である。また、ロボットアーム20は、対象物T上を対象物Tの表面に接触しない状態で被保持物Wを移動させることも可能である。また、この場合においても、被保持物Wの移動方向に対して垂直な方向と、被保持物Wの長手方向とがなす角は、任意の角度とすることが可能である。
【0047】
制御装置10に接続される教示装置によって、本実施形態に係るロボットアーム20の動作方法を教示することもできる。すなわち、ロボットアーム20を用いて被保持物を対象物の表面に倣わせる倣い動作を実行するときに、ロボットアーム20によって被保持物Wを移動させる移動方向に対して、対象物Tの表面上において被保持物Wの長手の一端が他端よりも移動の後進位置となるよう傾斜させた傾斜状態で、被保持物Wを対象物Tの表面に倣わせながら移動方向に移動させることを、ロボットシステム100に実行させるための教示を教示装置によって行うことができる。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく種々に変形して適用することが可能である。上記実施形態及び変形例において説明したいずれかの態様は、当業者の理解に矛盾がない範囲で他の態様と組み合わせて適用することも可能である。
【0049】
また、柔軟性を備えた駆動機構として、直列弾性アクチュエータの他、様々な駆動機構を利用することが可能である。ここで、「柔軟性を備えた」とは、弾性、粘性又は弾性及び粘性を備えていることをいう。弾性とは、応力を加えると変形し、応力を除去すると元に戻る性質をいい、弾性変形のしやすさを示す可撓性という言葉で表現される場合もある。粘性とは、流体の流動速度を一様化する応力を生じさせる性質をいう。粘性、弾性を付与するために、磁性流体、機械ばね(板ばね、ねじりコイルばね)、空気ばね、磁力ばね、ベーンモータ、印加電圧に応じて粘性を調整可能な電機粘性流体を用いた可変ダンパ、等を用いてもよい。
【0050】
上記発明の実施形態を通じて説明された実施の態様は、用途に応じて適宜に組み合わせて、又は変更若しくは改良を加えて用いることができ、本発明は上述した実施形態の記載に限定されるものではない。そのような組み合わせ又は変更若しくは改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0051】
10…制御装置、20…ロボットアーム、30…駆動部、40…直列弾性アクチュエータ、W…被保持物、T…対象物
図1
図2
図3
図4
図5