(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063145
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/32 20060101AFI20220414BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220414BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20220414BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20220414BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20220414BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20220414BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220414BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
B05D1/32 B
B05D7/24 301A
B05D3/02 Z
B05D3/00 D
B05D3/12 E
C09D5/03
C09J7/38
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171534
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000192844
【氏名又は名称】神東塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 翔太
(72)【発明者】
【氏名】本田 弘
【テーマコード(参考)】
4D075
4J004
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA09
4D075AB01
4D075AD05
4D075BB20Z
4D075BB23X
4D075BB28Z
4D075BB33Z
4D075BB35Z
4D075BB36Z
4D075BB37Z
4D075BB91Z
4D075BB93Z
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB02
4D075EA02
4D075EA43
4D075EB33
4D075EC11
4J004AA05
4J004AA10
4J004AA18
4J004AB01
4J004CA04
4J004CA05
4J004CA06
4J004CA08
4J004CB01
4J004CB02
4J004CB03
4J004CC02
4J004FA04
4J038DD001
4J038KA08
4J038PA02
(57)【要約】
【課題】 安全な環境での作業を可能とし、塗膜の品質低下を抑制する塗装方法を提供する。
【解決手段】 マスキング工程で、被塗装物に、少なくとも引張ひずみが100%以上または引張破壊応力が60MPa以上であるマスキング材を貼り付ける。塗布工程で、マスキング材が貼り付けられた被塗装物の表面に粉体塗料を付着させ、焼付工程で、粉体塗料を加熱して焼き付ける。除去工程で、粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度で被塗装物からマスキング材を除去する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物に、少なくとも引張ひずみが100%以上または引張破壊応力が60MPa以上であるマスキング材を貼り付けるマスキング工程と、
マスキング材が貼り付けられた被塗装物の表面に粉体塗料を付着させる塗布工程と、
被塗装物に付着した粉体塗料を加熱して焼き付ける焼付工程と、
粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度の被塗装物からマスキング材を除去する除去工程と、を含むことを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
除去工程では、被塗装物の温度が、40℃以下となったときに被塗装物からマスキング材を除去することを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】
マスキング工程と塗布工程との間において、
マスキング材が貼り付けられた被塗装物を、粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度で加熱する前加熱工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の塗装方法。
【請求項4】
マスキング材は、基材と粘着剤とを含むマスキングテープであり、
粘着剤が、シリコーン樹脂からなることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の塗装方法。
【請求項5】
基材の表面自由エネルギーが、20~24mJ/mm2であることを特徴とする請求項4記載の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被塗装物の表面を塗料によって塗装する場合に、塗装しない部分については、マスキング材で予めマスキングし、塗装後にマスキング材を除去すればよい。塗料として粉体塗料を用いた場合、加熱しなければ、塗料は被塗装物の表面に粉体状態で付着するので、マスキング材を容易に除去できる。しかし、塗料が硬化しないままマスキング材を除去すると、塗料がマスキング材とともに過剰に除去されてしまうなどの問題がある。
【0003】
特許文献1記載の粉体塗装方法では、粉体塗料の焼付け硬化を行う際に、粉体塗料が軟化を開始し、硬化が完了する前の状態で、マスキング材を除去し、その後に、粉体塗料の硬化を完了させている。粉体塗料の軟化が進んだ状態でマスキング材を除去するので、塗料は適切な量だけが除去される。マスキング材を塗料の硬化完了前に除去するので、除去した部分の塗膜の破断面がギザギザにならない(バリが発生しない)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の粉体塗装方法は、粉体塗料が軟化を開始し、硬化が完了する前の状態で、マスキング材を除去している。これは、被塗装物が高温の状態でマスキング材の除去作業を行うことを意味しており、危険な環境での作業を必要とするものである。高温環境での作業を避けるために、冷却後にマスキング材を除去しようとすると、塗料の硬化がすでに完了しているので、塗膜が割れてエッジ部分にバリが発生してしまう。
【0006】
本発明の目的は、安全な環境での作業を可能とし、塗膜の品質低下を抑制する塗装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の塗装方法は、
被塗装物に、少なくとも引張ひずみが100%以上または引張破壊応力が60MPa以上であるマスキング材を貼り付けるマスキング工程と、
マスキング材が貼り付けられた被塗装物の表面に粉体塗料を付着させる塗布工程と、
被塗装物に付着した粉体塗料を加熱して焼き付ける焼付工程と、
粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度の被塗装物からマスキング材を除去する除去工程と、を含む。
【0008】
また本発明の塗装方法は、除去工程において、被塗装物の温度が、40℃以下となったときに被塗装物からマスキング材を除去することを特徴とする。
【0009】
また本発明の塗装方法は、マスキング工程と塗布工程との間において、
マスキング材が貼り付けられた被塗装物を、粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度で加熱する前加熱工程をさらに含む。
【0010】
また本発明の塗装方法は、マスキング材が、基材と粘着剤とを含むマスキングテープであり、粘着剤が、シリコーン樹脂からなる。
【0011】
また本発明の塗装方法は、基材の表面自由エネルギーが、20~24mJ/mm2である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マスキング工程で、被塗装物に、少なくとも引張ひずみが100%以上または引張破壊応力が60MPa以上であるマスキング材を貼り付ける。塗布工程で、マスキング材が貼り付けられた被塗装物の表面に粉体塗料を付着させ、焼付工程で、粉体塗料を加熱して焼き付ける。除去工程で、粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度で被塗装物からマスキング材を除去する。上記のマスキング材を用いることで、焼き付け後にマスキング材を除去しても、塗膜のエッジ部分にバリが発生せず、塗膜の品質低下を抑制することができる。さらに、焼き付け後に被塗装物の温度が低下してからマスキング材を除去することで、高温環境を避けて、安全な環境での作業を可能とする。
【0013】
また本発明によれば、除去工程では、被塗装物の温度が40℃以下となったときに、被塗装物からマスキング材を除去するので、さらに安全な環境での作業を可能とする。
【0014】
また本発明によれば、マスキング工程と塗布工程との間において、マスキング材が貼り付けられた被塗装物を、粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度で加熱する前加熱工程をさらに含むことができる。
【0015】
また本発明によれば、マスキング材は、基材と粘着剤とを含むマスキングテープであり、粘着剤が、シリコーン樹脂からなる。これにより、マスキングテープを除去したときに、被塗装物の表面に粘着剤が残らないので、粘着剤を除去する作業が不要となる。
【0016】
また本発明によれば、マスキングテープの基材の表面自由エネルギーが、20~24mJ/mm2である。このようなマスキングテープを用いると、基材表面に堆積した粉体塗料が硬化しても基材に密着せず、マスキングテープを容易に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1実施形態である塗装方法について説明する。第1実施形態の塗装方法は、
(1)マスキング工程
(2)塗布工程
(3)焼付工程
(4)除去工程
を含む。なお、粉体塗装方法において従来公知の工程を、これら4つの工程以外に含んでいてもよい。例えば、前処理工程や洗浄工程などの工程をさらに含んでもよい。
【0018】
本発明に用いられる被塗装物は、粉体塗料によって塗装可能であれば限定されない。被塗装物は、例えば、鋼板、アルミニウム、ステンレスなどの金属、タイル、ガラスなどのセラミックス、さらにはプラスチック、ゴム、紙類、木材などの素材や成型品であってもよい。
【0019】
(1)マスキング工程
マスキング工程では、被塗装物にマスキング材を貼り付ける。被塗装物の表面には、塗膜を形成しない領域が存在するため、当該領域にマスキング材を貼り付けておく。塗膜を形成しない領域とは、例えば、被塗装物が組み立て部品などの場合、他の部品と接合する領域や固定部材で固定するための孔部分などである。また、例えば、被塗装物が電子部品などの場合、接続端子などの導通部分などである。
【0020】
マスキング工程で用いられるマスキング材は、少なくとも引張ひずみが100%以上または引張破壊応力が60MPa以上である。マスキング材は、引張ひずみと引張破壊応力のいずれか一方が前記数値範囲を満足していればよく、引張ひずみと引張破壊応力の両方が前記数値範囲を満足していてもよい。ここで、引張ひずみおよび引張破壊応力は、いずれもJIS K7161で規定される引張特性である。
【0021】
マスキング材の引張ひずみは、100%以上であればよく、好ましくは100~300%であり、より好ましくは110~220%である。マスキング材の引張破壊応力は、60MPa以上であればよく、好ましくは60~100MPaであり、より好ましくは60~80MPaである。
【0022】
マスキング材としては、例えば、基材と粘着剤とを含むマスキングテープを使用することができる。マスキングテープの場合、引張ひずみおよび引張破壊応力は、基材に粘着剤が積層されたテープ状の形態で測定されたときの測定値である。
【0023】
マスキングテープの基材としては、例えば、合成樹脂材料をシート状またはフィルム状としたものを用いることができる。合成樹脂材料としては、例えば、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレ-ト)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などが挙げられる。また、基材としてガラスクロスを用いることができる。基材として、ガラスクロスと前記合成樹脂と組み合わせた繊維強化材料を用いることができる。また、マスキングテープの基材は、表面自由エネルギーが、20~24mJ/mm2であることが好ましい。
【0024】
マスキングテープの粘着剤としては、例えば、シリコーン樹脂系粘着剤、ゴム系粘着剤、水系粘着剤(エマルジョン系粘着剤)などを用いることができる。これらの中でも粘着剤は、シリコーン樹脂からなるシリコーン樹脂系粘着剤が好ましい。
【0025】
マスキングテープは、例えば、厚さが0.01~1mmのものを用いることができる。マスキングテープの幅および長さは、塗装物の表面において、塗膜を形成しない領域の形状に合わせて切断すればよい。
【0026】
マスキング工程では、被塗装物の表面において、塗膜を形成しない領域に、上記のマスキング材を貼り付ける。マスキングテープを用いれば、粘着剤を有しているので、容易に貼り付け作業を行うことができる。マスキング材の詳細については、後述する。
【0027】
(塗布工程)
塗布工程では、マスキング材が貼り付けられた被塗装物の表面(マスキング材表面を含む)に粉体塗料を付着させる。塗布工程で用いられる粉体塗料は、特に限定されず、要求される塗膜特性に応じて従来公知の粉体塗料から適宜選択すればよい。
【0028】
粉体塗料としては、例えば、有色粉体塗料またはクリア粉体塗料を用いることができる。有色粉体塗料は、有色顔料と、樹脂と、添加剤とを含む。クリア粉体塗料は、樹脂と、添加剤とを含む。樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂または光硬化型樹脂などを用いることができる。
【0029】
有色顔料としては、粉体塗料に用い得るものであれば特に限定されず、無機顔料であっても有機顔料であってもよく、天然顔料であるか合成顔料であるかは問わない。
【0030】
熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート-エチルアクリレート共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸-メチルメタクリレート共重合体、グリシジル(メタ)アクリレート-ポリメチル(メタ)アクリレート共重合体、ポリビニルブチラール、セルロースエステル、ポリアクリルアミド、飽和ポリエステル等があげられる。
【0031】
熱硬化型樹脂としては、熱硬化型ポリエステル樹脂、熱硬化型(メタ)アクリル樹脂または熱硬化型フッ素樹脂があげられる。熱硬化型ポリエステル樹脂は、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、酸無水基、イソシアネート基などの熱硬化反応性基を有するポリエステル樹脂である。熱硬化型フッ素樹脂としては、熱硬化反応性基を有するフッ素樹脂であり、熱硬化反応性基としてはカルボキシル基または水酸基があげられる。
【0032】
光硬化型樹脂としては、ラジカル重合型紫外線硬化型樹脂およびカチオン重合型紫外線硬化型樹脂があげられる。ラジカル重合型紫外線硬化型樹脂としては、紫外線(以下、UVという)照射により活性化したラジカル重合開始剤により高分子化または架橋反応を起こすものであればよく、不飽和ポリエステル、ウレタン、エポキシまたはシリコンで変性されたアクリレートなどがあげられる。
【0033】
添加剤としては、体質顔料、防錆剤、艶消し剤、ワックス類、表面調整剤またはレベリング剤、分散剤、安定剤、可塑剤、粘度調整剤、難燃剤、帯電剤、帯電防止剤などがあげられる。
【0034】
粉体塗料は、例えば、上記各成分を、溶融混練し、冷却固化した後、粉砕し、必要により、分級することにより得ることができる。
【0035】
塗布工程では、公知の粉体塗料の塗布方法、たとえば静電塗装方法、流動浸漬塗装方法などを採用できる。静電塗装方法によるときは、静電粉体塗装機の噴霧口から、帯電した粉体塗料を噴霧し、粉体塗料を被塗装物の塗装面に静電付着させて粉体塗料を塗布する。
【0036】
塗布工程における塗布量は、用いる粉体塗料と、必要とする塗膜厚さに基づいて適宜設定すればよい。焼き付け後の塗膜厚さは、特に限定されず、塗膜に求められる特性に応じて適宜設定すればよい。本実施形態では、例えば、焼き付け後の塗膜厚さが30~2000μmとなるように、塗布すればよい。
【0037】
(焼付工程)
焼付工程では、被塗装物の表面に付着した粉体塗料を加熱して焼き付けを行う。粉体塗料の加熱方法は、特に限定されない。例えば、被塗装物を熱風炉、遠赤外線炉等に収容して加熱すればよい。また、被塗装物を通電加熱、あるいは誘導加熱してもよい。
【0038】
焼付工程における粉体塗料の焼き付け温度は、用いた粉体塗料に応じて適宜設定すればよい。例えば、粉体塗料として、イノバックスPシリーズBUSグレーを用いた場合、焼き付け温度は、150~200℃とすることができる。焼き付けによって、粉体塗料が硬化し、被塗装物の表面に塗膜が形成される。
【0039】
(除去工程)
除去工程では、粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度の被塗装物からマスキング材を除去する。焼付工程後、例えば放冷することで、被塗装物の温度が低下する。作業環境として十分に温度が低下した状態で、マスキング材を除去する。従来、焼き付け後に、放冷によって被塗装物の温度が低下した状態では、塗膜が硬化しており、マスキング材を除去しようとすると、塗膜が割れて、塗膜のエッジ部分にバリが発生する。また、塗膜の強度が高いと、マスキング材が断裂して除去することができない。エッジ部分のバリは、塗膜の品質を低下させる。バリを除去する場合には、研磨工程などが必要となる。本発明では、マスキング材として、前述のとおり、少なくとも引張ひずみが100%以上または引張破壊応力が60MPa以上のものを使用することで、塗膜硬化後に除去しても、塗膜のエッジ部分にバリが発生せず、塗膜の品質低下を抑制することができる。さらに、焼き付け後、被塗装物の温度が十分に低下したときにマスキング材を除去するので、安全な環境での作業が可能となる。塗膜厚さが、100μm以上の厚膜と呼ばれる厚さの塗膜であっても、上記マスキング材を使用すれば、塗膜硬化後にマスキング材を除去することができる。
【0040】
引張ひずみが100%以上のマスキング材は、伸び易いマスキング材である。このようなマスキング材を用いると、マスキング材を剥離するために引張力を加えたときに、マスキング材が伸びながら被塗装物表面から剥離する。このとき、マスキング材の表面上に堆積した粉体塗料が硬化した部分と塗膜との間が徐々に分離する。これにより、焼き付け後であっても、マスキング材を除去することができ、塗膜のエッジ部分にバリが発生しない。
【0041】
引張破壊応力が60MPa以上のマスキング材は、強度が高いマスキング材である。このようなマスキング材を用いると、マスキング材を剥離するために大きな引張力を加えることができ、マスキング材を被塗装物表面から短時間で剥離することができる。短時間の剥離によって、マスキング材の表面上に堆積した粉体塗料が硬化した部分と塗膜との間には、大きな力が短時間に加わるので、焼き付け後であっても、マスキング材を除去することができ、塗膜のエッジ部分にバリが発生しない。
【0042】
また、マスキングテープの基材としては、表面自由エネルギーが、20~24mJ/mm2である基材が好ましい。このような基材は、表面に堆積した粉体塗料が硬化しても基材に密着せず、基材表面から容易に剥落するので、マスキングテープを容易に除去することができる。
【0043】
また、マスキングテープの粘着剤としては、シリコーン樹脂系粘着剤が好ましい。シリコーン樹脂系粘着剤を用いた場合、焼き付け後にマスキングテープを除去したとき、被塗装物の表面に粘着剤が残らないので、粘着剤を除去する作業が不要となる。
【0044】
除去工程では、被塗装物の温度が40℃以下となったときに、被塗装物からマスキング材を除去する。これにより、さらに安全な環境での除去作業が可能となる。被塗装部の冷却は、放冷でもよく、ファンを用いた空冷などであってもよい。例えば、低温やけどでは、接触する物体の温度が50℃であれば、2~3分間の接触で、44℃であれば、3~4時間の接触で皮膚は損傷を受けるとされている。被塗装物の温度が40℃以下であれば、短時間の作業で問題は無く、長時間の作業であっても低温やけどなどによる皮膚への損傷を防止することができる。
【0045】
次に、本発明の第2実施形態である塗装方法について説明する。第2実施形態の塗装方法は、第1実施形態のマスキング工程と塗布工程との間において、マスキング材が貼り付けられた被塗装物を、粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度で加熱する前加熱工程をさらに含む。
【0046】
前加熱工程は、プレヒート工程とも呼ばれる工程で、予め被塗装物を加熱しておき、塗布工程では、加熱された被塗装物に粉体塗料を付着させる。塗布工程で、粉体塗料が被塗装物に付着すると、被塗装物の熱によって粉体塗料が加熱溶融する。その後、第1実施形態と同様に、焼付工程および除去工程を行う。
【0047】
前加熱工程における被塗装物の加熱温度は、粉体塗料の焼き付け温度よりも低い温度であればよく、用いた粉体塗料に応じて適宜決定すればよい。例えば、粉体塗料として、イノバックスPシリーズBUSグレーを用いた場合、前加熱の加熱温度は、100~150℃とすることができる。
【実施例0048】
次に、本発明について実施例および比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実験例1)
被塗装物:鉄製板材
マスキング材:表1に示す各種テープ
粉体塗料:ポリエステル粉体塗料(商品名:イノバックスPシリーズ 神東塗料株式会社製)
鉄製板材表面に、表1に示す各種テープを貼り付け、120℃で前加熱(プレヒート)を行い、テープが貼り付けられた被塗装物の表面に粉体塗料を塗布した。その後、180℃で20分間、焼き付けを行い、鉄製板材の温度が40℃まで低下した時点でテープを除去した。焼き付け後の塗膜厚みは、100μmであった。
【0050】
【表1】
表1中、PTFEは、ポリテトラフルオロエチレンを表し、PETは、ポリエチレンテレフタレートを表し、PVCは、ポリ塩化ビニルを表す。
【0051】
評価は、以下のとおり目視により行なった。結果は、表2に示す。
・基材表面の塗膜状態(評価1)
マスキング材を除去するときに、基材表面の塗膜を観察した。
◎:基材表面から塗膜が容易に外れた。
○:基材表面に塗膜が密着していた。
×:基材表面に塗膜が固着していた。
【0052】
・マスキング材の除去しやすさ(評価2)
除去するときのマスキング材の状態を観察した。
◎:基材が破断することなく除去できた。
○:基材が伸びたが、破断することなく除去できた。
×:基材が破断することなく除去できたが、塗膜端面にギザギザが残った。または、基材が破断して除去できなかった。
【0053】
・粘着剤残り(評価3)
マスキング材を除去したのち、鉄製板材表面に残った粘着剤を観察した。
◎:粘着剤が残らなかった。
○:粘着剤がわずかに残った。
△:粘着剤が残った。
×:マスキング材が除去できなかった。
【0054】
【0055】
評価2の結果から次のことがわかった。テープの引張ひずみが100%以上の実施例2~4,6は、被塗装物が40℃という安全な環境での作業を可能とし、テープ除去時に基材は伸びたがテープを除去することができた。塗膜の硬化後であっても塗膜の破断面にバリが発生せず、塗膜の品質低下を抑制することができた。引張破壊応力が60MPa以上の実施例5,8,10,11は、被塗装物が40℃という安全な環境での作業を可能とし、テープ除去時には基材が伸びることなく容易にテープを除去することができた。塗膜の硬化後であっても塗膜の破断面にバリが発生せず、塗膜の品質低下を抑制することができた。引張ひずみが100%以上かつ引張破壊応力が60MPa以上の実施例1,6,7,9は、被塗装物が40℃という安全な環境での作業を可能とし、テープ除去時に基材は伸びたがテープを除去することができた。塗膜の硬化後であっても塗膜の破断面にバリが発生せず、塗膜の品質低下を抑制することができた。
【0056】
また、評価1の結果から、基材の表面自由エネルギーが、20~24mJ/mm2である実施例1~8は、基材表面から塗膜が容易に外れたので、さらに作業性が向上することがわかった。また、評価3の結果から、粘着剤が、シリコーン樹脂からなる実施例1~5,9~11は、鉄製板材表面に粘着剤が残らず、粘着剤を除去する作業が不要であることがわかった。
【0057】
また、比較例1~4は、テープの引張ひずみが100%未満かつ引張破壊応力が60MPa未満であった。比較例1,3,4は、基材が破断して除去できなかった。比較例2は、基材が破断することなく除去できたが、塗膜端面にギザギザが残った。
【0058】
(実験例2)
前加熱を行わないこと以外は、実験例1と同様にした。結果を表3に示す。
【表3】
【0059】
前加熱を行わない場合であっても、前加熱を行う場合と同じ結果が得られた。すなわち、本発明は、前加熱の有無に関係無く効果が得られることがわかった。
【0060】
(実験例3)
鉄製板材の温度が80℃まで低下した時点でテープを除去したこと以外は、実験例2と同様にした。結果を表4に示す。
【表4】
【0061】
鉄製板材の温度が80℃まで低下した場合であっても、40℃まで低下した場合と同じ結果が得られた。すなわち、本発明は、鉄製板材の温度が、焼き付け温度よりも低い温度で効果が得られることがわかった。
【0062】
(実験例4)
粉体塗料として、エポキシ/ポリエステル粉体塗料(商品名:イノバックスHシリーズ 神東塗料株式会社製)を用いたこと以外は、実験例1と同様にした。結果を表5に示す。
【表5】
【0063】
(実験例5)
粉体塗料として、エポキシ粉体塗料(商品名:イノバックスEシリーズ 神東塗料株式会社製)を用いたこと以外は、実験例1と同様にした。結果を表6に示す。
【表6】
【0064】
樹脂の種類が異なる粉体塗料を用いた場合であっても同じ結果が得られた。すなわち、本発明は、粉体塗料の種類に関係無く効果が得られることがわかった。