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  • 特開-セラミックス成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063147
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】セラミックス成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/00 20060101AFI20220414BHJP
   C04B 35/626 20060101ALI20220414BHJP
   C04B 35/63 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
B28B1/00 B
B28B1/00 G
C04B35/626 350
C04B35/63 160
C04B35/63 030
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171538
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000143330
【氏名又は名称】株式会社香蘭社
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】竹下 昌章
(72)【発明者】
【氏名】中田 明香
(72)【発明者】
【氏名】坂本 蓮
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 弘道
(72)【発明者】
【氏名】矢田 光徳
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルミン酸カルシウム及びケイ酸カルシウムの少なくとも一方を含むカルシウム化合物含有粉体を含むスラリーを用いて自硬性の鋳込み成形を行う工程で、スラリーの流動性を維持し、鋳型への注型作業を容易にしつつ、脱型及び脱型後のセラミックス成形体の取扱いが可能な保形性を有するセラミックス成形体を得ることができるセラミックス成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス成形体の製造方法は、セラミックス粉体と、分散剤と、分散媒と、イオン吸着性無機多孔質体と、アルミン酸カルシウム及びケイ酸カルシウムの少なくとも一方を含むカルシウム化合物含有粉体を含むスラリーを、前記スラリーの温度を一定の温度に維持しながら撹拌するスラリー撹拌工程と、前記スラリーを鋳型に注入した後、前記スラリーを加熱して硬化させ、鋳込み成形する鋳込み成形工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉体と、分散剤と、分散媒と、イオン吸着性無機多孔質体と、アルミン酸カルシウム及びケイ酸カルシウムの少なくとも一方を含むカルシウム化合物含有粉体を含むスラリーを、前記スラリーの温度を一定の温度に維持しながら撹拌するスラリー撹拌工程と、
前記スラリーを鋳型に注入した後、前記スラリーを加熱して硬化させ、鋳込み成形する鋳込み成形工程と、
を含むセラミックス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記イオン吸着性無機多孔質体が、シリカゲル、メソポーラスシリカ、モレキュラシーブ、ゼオライト及びアルミナゲルからなる群から選択される1種以上の成分を含む請求項1のセラミックス成形体の製造方法。
【請求項3】
前記カルシウム化合物含有粉体が、アルミン酸カルシウム粉体、アルミナセメント、ポルトランドセメント、シリカセメント、高炉セメント及びフライアッシュセメントからなる群から選択される1種以上の成分を含む請求項1又は2に記載のセラミックス成形体の製造方法。
【請求項4】
前記スラリー撹拌工程において、前記スラリーの温度が、0℃~20℃である請求項1~3の何れか一項に記載のセラミックス成形体の製造方法。
【請求項5】
前記鋳込み成形工程においてスラリーを硬化させる温度が、前記スラリー撹拌工程において前記スラリーを撹拌する温度より10℃以上高い請求項1~4の何れか一項に記載のセラミックス成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス成形体を製造する方法として、セラミックス粉体と分散媒を含むスラリーを多孔質体の吸水性鋳型に流し込み、吸水性鋳型の吸水作用によってセラミックス粉体を吸水性鋳型の表面に着肉させて、セラミックス成形体を製造する鋳込み成形方法が用いられている。作製したセラミックス成形体は吸水性鋳型から取り外し、所定の形状に加工した後、焼成することによって焼結体となり、必要に応じて焼結体を仕上げ加工することによって、陶磁器やファインセラミックス製品が得られる。
【0003】
鋳込み成形方法を用いてセラミックス成形体を製造する方法として、例えば、特許文献1には、アルミナセメントを粘結剤とし、天然又は合成ウオラストナイトを0.3~11%含む混合物に水を加えて、混練した後、型枠に流し込んで成形硬化する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、長石系原料20~60重量%、ケイ石20~60重量%及びアルミナセメント10~50重量%からなる混合粉末を所望形状に成形した後、10~50℃の温度で水和反応を行い、乾燥することで、成形体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56-104780号公報
【特許文献2】特開平11-268952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2には、セラミックス粉体とアルミナセメントを含む混合物に水を添加すると、セラミックス粉体が凝集することについては記載されていない。
【0007】
アルミナセメントは、アルミナ(Al23)とカルシア(CaO)とからなるアルミン酸カルシウムを含んでいるため、セラミックス粉体とアルミナセメントと水を混合してスラリーにすると、アルミン酸カルシウムに含まれるCa2+とAl3+が溶出するため、スラリー中のセラミックス粉体が凝集し易くなる傾向にある。また、Ca2+とAl3+が溶出し水和反応が起こることで、スラリー中の水分が奪われるため、スラリーが急激に増粘して流動性が急速に低下し、固化し易くなる傾向にある。そのため、スラリーがセラミックス粉体以外にアルミナセメントと水を含む場合には、スラリー中のセラミックス粉体が凝集してスラリーが増粘し、スラリーを鋳込み成形し難くなるという問題があった。
【0008】
また、スラリー中にセラミックス粉体の凝集を抑えるために凝集遅延剤を添加すると、セラミックス粉体の硬化速度が遅くなるため、成形体の保形性が十分高くならないという問題があった。
【0009】
本発明の一態様は、アルミン酸カルシウム及びケイ酸カルシウムの少なくとも一方を含むカルシウム化合物含有粉体を含むスラリーを用いて自硬性の鋳込み成形を行う工程で、スラリーの流動性を維持し、鋳型への注型作業を容易にしつつ、脱型及び脱型後のセラミックス成形体の取扱いが可能な保形性を有するセラミックス成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るセラミックス成形体の製造方法の一態様は、セラミックス粉体と、分散剤と、分散媒と、イオン吸着性無機多孔質体と、アルミン酸カルシウム及びケイ酸カルシウムの少なくとも一方を含むカルシウム化合物含有粉体を含むスラリーを、前記スラリーの温度を一定の温度に維持しながら撹拌するスラリー撹拌工程と、前記スラリーを鋳型に注入した後、前記スラリーを加熱して硬化させ、鋳込み成形する鋳込み成形工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るセラミックス成形体の製造方法の一態様は、アルミン酸カルシウム及びケイ酸カルシウムの少なくとも一方を含むカルシウム化合物含有粉体を含むスラリーを用いて自硬性の鋳込み成形を行う工程で、スラリーの流動性を維持し、鋳型への注型作業を容易にしつつ、脱型及び脱型後のセラミックス成形体の取扱いが可能な保形性を有するセラミックス成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1-1及び1-2の、一定のせん断応力を加え続けて昇温した場合の時間と粘度との関係を示す図である。
図2】実施例1-1の、20℃で静置した時の時間とセラミックス成形体の降伏値との関係を図2に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲を示すチルダ「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
<セラミックス成形体の製造方法>
本発明の実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法について説明する。本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、セラミックス粉体、分散媒、分散剤、イオン吸着性無機多孔質体及びカルシウム化合物含有粉体を含むスラリーを鋳込み成形方法を用いてセラミックス成形体を製造する方法であり、スラリー撹拌工程と、鋳込み成形工程とを含む。
【0015】
(スラリー撹拌工程)
セラミックス粉体、分散媒、分散剤、イオン吸着性無機多孔質体及びカルシウム化合物含有粉体を含むスラリーを、スラリーの温度を一定の温度に維持しながら撹拌する(スラリー撹拌工程)。
【0016】
まず、セラミックス粉体と分散媒と分散剤とを混合して、セラミックス粉体が均一に分散した、流動性を有するスラリーを作製する。
【0017】
セラミックス粉体は、一般陶磁器、工業用陶磁器、衛生陶磁器、耐火物、ファインセラミックス等に使用されるセラミックス粉体を使用することができる。セラミックス粉体としては、例えば、アルミナ、アルミノケイ酸塩鉱物、ジルコニア、シリカ、チタニア、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミニウム等の粉末を使用することができる。これらは一種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
セラミックス粉体の含有量は、特に限定されるものでなく、適宜設定可能であり、スラリー中の質量%が高いほど、得られるセラミックス成形体の保形性が向上すると共に、乾燥収縮及び焼成収縮の低減効果がある。
【0019】
分散媒は、水単独、又は水と相溶性を有するアルコール類、グリコール類等の1種以上を水と混ぜた分散媒を使用することができる。
【0020】
分散媒は、スラリー中に50質量%以下含まれていることが好ましく、5質量%~40質量%含まれていることがより好ましく、5質量%~30質量%含まれていることがさらに好ましい。分散媒の含有量が50質量%以下であれば、スラリーの流動性を維持することができるため、鋳込み成形を確実に行うことができ、スラリーを硬化して得られるセラミックス成形体の密度を高くすることができる。また、セラミックス成形体の乾燥時における収縮率を低下させることができるため、乾燥時の亀裂及び歪みを極力抑えることができる。さらに、セラミックス成形体の焼結時における収縮率の増大を抑制することができるため、焼結体に気孔が残存することを抑制することができ、良好な焼結体を得ることができる。分散媒の含有量がスラリー中に5質量%以上であれば、スラリーは十分な粘度を有することができる。
【0021】
分散剤としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ポリリン酸塩系等の無機系分散剤;ポリカルボン酸系、フタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、アルキルスルホン酸系等の有機系分散剤等を用いることができる。
【0022】
セラミックス粉体、分散媒及び分散剤の混合方法としては、これらを混合できればよく、ボールミル等により粉砕混合する方法、攪拌機により混合する方法等を用いることができる。
【0023】
スラリーは、一定の温度に維持しながら撹拌する。なお、一定の温度とは、所定の温度に対して±2℃程度の温度変化を許容した温度である。
【0024】
スラリーの温度は、0℃~20℃が好ましく、0℃~10℃がより好ましい。スラリーの温度が0℃~20℃であれば、アルミナセメントの溶出及び水和反応の速度を遅くできるため、スラリーの増粘が起き難くなる。
【0025】
次に、スラリーを一定の温度に維持して撹拌した状態で、スラリーにイオン吸着性無機多孔質体とカルシウム化合物含有粉体とを添加する。そして、スラリーに含まれる、セラミックス粉体、イオン吸着性無機多孔質体及びカルシウム化合物含有粉体が均一に分散するまで、スラリーを一定の温度に維持しながら撹拌して混合し、脱泡する。
【0026】
イオン吸着性無機多孔質体は、主原料の素材特性を損なわない組成を有し、水中でイオンを発生しない無機系素材であることが好ましい。イオン吸着性無機多孔質体としては、例えば、シリカゲル、メソポーラスシリカ、モレキュラシーブ、アルミナゲル、ゼオライト等を用いることができる。
【0027】
イオン吸着性無機多孔質粉体の含有量は、種類によってイオン吸着能力と、スラリー中のアルミン酸カルシウムからのイオン溶出速度が異なるため、イオン吸着性無機多孔質粉体の種類、アルミン酸カルシウムからのイオン溶出速度等に応じて適宜調整する。イオン吸着性無機多孔質体の含有量が必要以上に多くなると、セラミックス成形体の降伏値が十分に高くならない可能性がある。イオン吸着性無機多孔質体に吸着されたイオンは鋳込み成形時に温度が高くなると、吸着されたイオンの一部が放出され、残存するアルミン酸カルシウムの溶出と共にスラリーを急激に凝集固化させることに寄与する。
【0028】
なお、降伏値は、セラミックス成形体に一定以上の外力を加えた場合、急激に流れを生じて弾性変形から流動変形に移る限界の応力値であり、セラミックス成形体の硬化強度に対応する値である。得られるセラミックス成形体の降伏値は、例えば、コーンプレート式粘度粘弾性測定装置等を用いて測定できる。
【0029】
イオン吸着性無機多孔質体は、例えば、平均粒径が0.01μm~50μmの大きさに微細に粉砕した粉砕物とすることが好ましい。なお、平均粒径は、有効径による体積平均粒径をいい、平均粒子径は、例えば、レーザ回折・散乱法又は動的光散乱法等によって測定することができる。
【0030】
カルシウム化合物含有粉体は、アルミン酸カルシウム及びケイ酸カルシウムの少なくとも一方を主成分として含む粉体であり、カルシウム化合物含有粉体としては、CaO・Al23、CaO・2Al23、12CaO・7Al23等のアルミン酸カルシウム、アルミン酸カルシウムを含むアルミナセメント、ポルトランドセメント、その他のセメント等が挙げられる。
【0031】
カルシウム化合物含有粉体の含有量は、スラリーに対して、2質量%~20質量%が好ましく、5質量%~15質量%がより好ましい。カルシウム化合物含有粉体の添加量が2質量%以上であれば、アルミン酸カルシウムの水和反応によるスラリーの脱水率を高くし、脱型時の成形体の降伏値を高めることができる。カルシウム化合物含有粉体の添加量が20質量%以下であれば、主原料の特性を維持することができる。
【0032】
また、カルシウム化合物含有粉体は、酸化亜鉛やグルコン酸等の凝結遅延剤を含んでもよい。
【0033】
スラリーに、イオン吸着性無機多孔質体と、カルシウム化合物含有粉体とを添加して、撹拌混合する時のスラリーの温度は、上述と同様、一定に維持し、0℃~20℃が好ましく、5℃~15℃がより好ましい。
【0034】
(鋳込み成形工程)
次に、得られたスラリーを鋳型に注入した後、スラリーを加熱して硬化させ、鋳込み成形する(鋳込み成形工程)。
【0035】
得られたスラリーを鋳型に流し込んだ後、スラリーを加熱してスラリーの温度を高くすることによって、スラリーは硬化して、鋳型に対応した形状を有する硬化体であるセラミックス成形体となる。
【0036】
鋳型の材質は、金属、プラスチックス、ゴム、石こう、木材、ワックス、砂等の、吸水性がある無しに関わらず全ての物質、又はこれらを組み合わせた材料を用いることができる。
【0037】
鋳型は、型取り、中子、NC切削、3Dプリンタ等の方法を用いて製造することができる。
【0038】
鋳込み方法としては、常圧鋳込み、圧力鋳込み、遠心鋳込み、射出成形等の方法を用いることができる。
【0039】
スラリーと鋳型の温度を制御して、スラリーを硬化させることが好ましい。
【0040】
スラリーの加熱温度は、適宜調整可能であり、例えば、20℃~50℃が好ましい。
【0041】
鋳型へ鋳込み後におけるスラリーの温度差は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。
【0042】
セラミックス成形体は、鋳型から取り出し、乾燥後に、焼成することにより、焼結体を得ることができる。なお、セラミックス成形体を鋳型から脱型した後、公知の加工方法を用いて、所定の形状に加工してもよい。
【0043】
脱型方法としては、割型、融解性型、崩壊性型、焼却型等を用いることができる。
【0044】
セラミックス成形体の乾燥方法は、特に限定されず、セラミックス成形体に割れ、反り等が生じない方法であればよい。
【0045】
セラミックス成形体の焼成方法は、特に限定されず、セラミックス成形体を焼成して焼結体に割れ、反り等が生じない方法であればよい。
【0046】
得られた焼結体を、必要に応じて、仕上げ加工することによって、陶磁器やファインセラミックス製品が得られる。
【0047】
ここで、従来の鋳込み成形方法のように、セラミックス成形体の製造方法において、スラリー撹拌工程の段階で、スラリーにイオン吸着性無機多孔質体を含めない場合、スラリーにカルシウム化合物含有粉体を混合すると、以下のような反応が進むことが考えられる。
【0048】
まず、スラリーにカルシウム化合物含有粉体を混合した直後から、直ちに反応の第一段階として、アルミン酸カルシウムからCa2+とAl3+が溶出する。カルシウム及びアルミニウムのイオン濃度は、常温で、例えば、1時間前後の初期時間内にピークに達する。カルシウム及びアルミニウムのイオンの増加によって、スラリー中のセラミックス粉体が凝集し、スラリーの粘度が上昇する。
【0049】
次に、Ca2+とAl3+の水和反応が進んで、無定形のCa水和物やAl水和物が生成するが、撹拌等のせん断応力が加えられことで、スラリーの粘度が低下する。
【0050】
しかし、反応の第2段階として、スラリーの温度が20℃以上では、下記の反応式(1)~(4)のように、スラリーの水分が一部奪われて、各種水和反応物を生成するため、スラリー中に含まれるセラミックス粉体が凝集して、スラリーの増粘及び固化が急速に進む。
スラリーの温度が21℃未満の場合:CaO・Al23+10HO → CaO・Al23・10H2O ・・・(1)
スラリーの温度が21℃~35℃の場合:2(CaO・Al23)+11HO → 2CaO・Al23・8H2O+Al23・3H2O ・・・(2)
スラリーの温度が35℃超える場合:3(CaO・Al23)+12HO → 3CaO・Al23・6H2O+2(Al23・3H2O) ・・・(3)
スラリーの温度が常温の場合:12CaO・7Al23+51HO → 6(2CaO・Al23・8H2O)+Al23・3H2O ・・・(4)
【0051】
そして、第3段階として、2CaO・Al23・8H2O、3CaO・Al23・6H2O、アルミナ水和物等への転移反応と共にこれらの水和物が連結して、さらにスラリーが硬化する。
【0052】
上記のような反応がスラリーにカルシウム化合物含有粉体を混合した直後から急激に起こるため、従来のスラリーでは、セラミックスの鋳込み成形を行う前に、スラリーを撹拌してスラリー内の成分を均一に混合しつつ脱泡するための時間を確保することができない。また、スラリーを常温以下の低温に冷却すれば、イオン溶出及び水和反応を低下させることができるが、低温でも反応は徐々に進むため、アルミン酸カルシウムの添加量が増えると、スラリーの粘度の制御は困難となる。
【0053】
本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法では、スラリー撹拌工程において、スラリー中にイオン吸着性無機多孔質体を含んでいる。そのため、上記の第1段階で、アルミン酸カルシウムから溶出するカルシウム及びアルミニウムのイオンを直ちにイオン吸着性無機多孔質体で吸着することで、スラリー中のイオン濃度の上昇を抑制することができると同時に、セラミックス粉体の凝集を遅延させることができる。そのため、本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法では、スラリー撹拌工程において、スラリー中に存在する、セラミックス粉体、分散媒、分散剤、イオン吸着性無機多孔質体及びカルシウム化合物含有粉体の混合から鋳型に注型するまでの比較的長い時間、スラリーは低粘度に維持することができる。
【0054】
このように、本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、セラミックス粉体、分散媒、分散剤、イオン吸着性無機多孔質体、カルシウム化合物含有粉体を混合したスラリーを、スラリーの温度を一定の温度に維持しながら撹拌するスラリー撹拌工程と、スラリーを鋳型に注入した後、加熱して硬化させ、鋳込み成形する鋳込み成形工程とを含む。本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、スラリー撹拌工程において、セラミックス粉体の凝集を遅延させ、スラリーは低粘度に維持することができ、鋳込み成形工程において、スラリーの粘度を上昇させ、硬化させることができる。よって、本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法によれば、スラリーの作製から鋳型に注入するまでの過程において、スラリーの低粘度の維持と、スラリーの粘度を上昇させてスラリーを硬化させるタイミングを制御することができる。そのため、鋳込み成形前においてスラリーに含まれるセラミックス粉体の凝集を抑制できるため、高い保形性を有するセラミックス成形体を得ることができる。よって、本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、アルミン酸カルシウム及びケイ酸カルシウムの少なくとも一方を含むカルシウム化合物含有粉体を含むスラリーを用いて自硬性の鋳込み成形を行う鋳込み成形工程で、スラリーの流動性を維持し、鋳型への注型作業を容易にしつつ、脱型及び脱型後のセラミックス成形体の取扱いが可能な保形性を有するセラミックス成形体を得ることができる。
【0055】
なお、セラミックス成形体の保形性は、セラミックス成形体の降伏値を測定することで評価できる。
【0056】
なお、焼結体の強度は、例えば、3点曲げ強度等により求めることができる。
【0057】
本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、イオン吸着性無機多孔質体として、シリカゲル、メソポーラスシリカ、モレキュラシーブ、ゼオライト及びアルミナゲルからなる群から選択される1種以上の成分を含むことができる。これらは、スラリー撹拌工程においてスラリー中の溶出イオンを吸着させることができると共に、鋳込み工程においてイオン吸着性無機多孔質体に吸着した溶出イオンを排出することができる。そのため、スラリーの低粘度をより確実に維持することができると共に、セラミックス成形体の保形性を確実に高めることができる。
【0058】
本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、カルシウム化合物含有粉体として、アルミン酸カルシウム粉体、アルミナセメント、ポルトランドセメント、シリカセメント、高炉セメント及びフライアッシュセメントからなる群から選択される1種以上の成分を含むことができる。これらは、アルミン酸カルシウムを含むため、アルミン酸カルシウムによる水和反応を生じさせることができるため、スラリーの脱水率を高めることができる。よって、セラミックス成形体の降伏値を向上させることができ、セラミックス成形体の保形性を確実に高めることができる。
【0059】
本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、スラリー撹拌工程において、スラリーの温度を0℃~20℃とすることができる。セラミックス粉体、分散媒及び分散剤を含むスラリーに、イオン吸着性無機多孔質体とカルシウム化合物含有粉体とを混合する時の温度を常温以下の低温にすると、アルミン酸カルシウムからのイオン溶出反応を抑制して、セラミックス粉体の凝集を抑制すると共に、イオン吸着性無機多孔質体の吸着平衡値を大きくすることができる。また、セラミックス粉体、分散媒及び分散剤を含むスラリーに、イオン吸着性無機多孔質体とカルシウム化合物含有粉体とを混合する時の温度を常温以下の低温であれば、水和反応を抑制することができる。
【0060】
本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、スラリー撹拌工程において、スラリーの温度を0℃~20℃とし、スラリーを低温にすることによって、スラリーに含まれる、セラミックス粉体、イオン吸着性無機多孔質体及びカルシウム化合物含有粉体の混合から鋳型に注型するまでの比較的長い時間、スラリーを低粘度により確実に維持することができる。
【0061】
この低温でセラミックス粉体が均一に分散して安定したスラリーを型に鋳込んで温度を上昇させると、アルミン酸カルシウムからのイオン溶出速度が増大し、さらに、イオン吸着性無機多孔質体中に吸着されたイオンがスラリー中に排出されるため、スラリー中のイオン濃度が急上昇して、水和反応も速くなり、スラリーを急速に硬化させることができる。よって、本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、スラリーの作製から鋳型に注入するまでの過程において、スラリーの低粘度をより維持し易くすることができると共に、スラリーの粘度を上昇させてスラリーを硬化させるタイミングをより容易に制御することができる。
【0062】
本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法は、鋳込み成形工程においてスラリーを硬化させる温度を、スラリーの撹拌工程においてスラリーを撹拌する温度より10℃以上高くすることができる。これにより、鋳込み成形工程においてスラリーをより確実に硬化させて成形することができるため、セラミックス成形体を容易に製造することができる。
【0063】
以上のように、本実施形態に係るセラミックス成形体の製造方法を用いれば、上記のような特性を有するため、歩留まりが良く、信頼性の高いセラミックス成形体を製造することができる。
【実施例0064】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
[セラミックス成形体の作製]
(実施例1-1)
磁器原料として天草陶土を準備した。アルミン酸カルシウム含有原料として化学分析値がAl23を80質量%、CaOを18質量%含む高純度アルミナセメント2種(α-Al23、CaO・Al23、CaO・2Al23、12CaO・7Al23を含むアルミナセメントAと、α-Al23、CaO・Al23及びCaO・2Al23を含むアルミナセメントB)と、シリカゲルとしてAタイプシリカゲル(フジシリカゲルAタイプ、富士シリシア化学社製、比表面積750m2/g)と、分散剤としてポリカルボン酸塩液剤とを準備した。なお、アルミナセメントAは、アルミナセメントBに比べて硬化速度が速いアルミナセメントである。
【0066】
準備した、天草陶土、分散剤及び水をボールミルで混合して、スラリーを作製した。その後、スラリーにシリカゲル及びアルミナセメントAを投入して混合した。その後、スラリーをミキサーで撹拌し、真空脱泡した。撹拌温度は、5℃とした。次に、内径10mmのプラスチックスパイプ製の非吸水性鋳型へ試験スラリーを流し込み、20℃で硬化させた後、非吸水性鋳型から脱型し、セラミックス成形体を得た。
【0067】
なお、作製したスラリーの粘度の継時変化は、コーンプレート式粘度粘弾性測定装置を用いて測定した。一定のせん断応力として撹拌を加え続けた場合の粘度継時変化の測定は、直径35mmのコーンプレート(傾斜度2°)を用い、せん断速度10(1/sec)で行った。スラリーとシリカゲル及びアルミナセメントAとの混合開始から3600秒(1時間)未満は、撹拌温度を5℃とし、3600秒以上は撹拌温度を20℃とした。一定のせん断応力を加え続けて昇温した場合の時間と粘度との関係を図1に示す。
【0068】
(実施例1-2~1-10及び比較例1-1~1-7)
実施例1-1において、表1に示すように、セラミックス成形体の組成と製造条件とを変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして行い、セラミックス成形体を作製した。なお、比較例1-5~比較例1-7では、スラリーの撹拌時に増粘し、注型が困難であり、セラミックス成形体は得られなかった。また、実施例1-2では、スラリーとシリカゲル及びアルミナセメントAとの混合開始から3600秒未満は、撹拌温度を5℃とし、3600秒以上は撹拌温度を30℃とした。なお、実施例1-2については、実施例1-1と同様、一定のせん断応力を加え続けて昇温した場合の時間と粘度との関係を図1に示す。
【0069】
[成形体の保形性の評価]
上記各実施例及び比較例で得られたセラミックス成形体の保形性を評価した。得られたセラミックス成形体の保形性として、降伏値を用いた。降伏値は、直径20mmの平板型プレートを用い周波数1MHzで振幅依存性を測定して得られた応力-歪曲線の変曲点から決定した。セラミックス成形体の保形性は、2時間後のセラミックス成形体の降伏値が4000Pa超えた場合は高いと評価し(表1中、「高」)、1000Pa~4000Paの場合は中程度と評価し(表1中、「中」)、1000Pa未満の場合は低いと評価した(表1中、「低」)。なお、実施例1-1については、20℃で静置した時の時間とセラミックス成形体の降伏値との関係を図2に示す。
【0070】
[焼結体の作製]
実施例1-1及び1-5、比較例1-1では、得られたセラミックス成形体を100℃で乾燥した後、電気炉を用いて大気中1300℃で1時間保持して焼結体を得た。
【0071】
(特性)
焼結体の特性として、3点曲げ強度と結晶組成を測定した。
【0072】
((3点曲げ強度))
φ10mm×100mmに成形した後に焼成した焼結体を、スパン40mm、クロスヘッドスピード0.5mm/秒として、焼結体の3点曲げ強度を測定した。
【0073】
((結晶組成))
焼結体の結晶組成は、X線回折測定装置を用いて、結晶相を同定することにより求めた。
【0074】
上記各実施例及び比較例における、セラミックス成形体の、組成、製造条件及び保形性と、焼結体の特性(3点曲げ強度及び結晶組成)とを表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1より、シリカゲルを0.4質量%添加しても、スラリーの温度を5℃として、アルミナセメントAを5質量%混合すれば、低粘度のスラリーが得られた。そして、硬化温度を30°にすると、粘度が急激に増加して硬化し、2時間以上静置すると、脱型に十分な降伏値を得ることができた(実施例1-1及び1-2参照)。
【0077】
また、実施例1-1では、焼結体の3点曲げ強度は、94MPaであった。焼結体をX線回折測定により結晶相を同定した結果、焼結体の結晶相には、天草陶土と同じα石英及びムライトの他に、アルミナセメントに含まれるαアルミナが含まれること確認された。
【0078】
シリカゲルを0.8質量%添加しても、スラリーの温度を20℃として、アルミナセメントAを5質量%混合すれば、低粘度のスラリーが得られた。そして、40℃に温度を昇温すると粘度が急激に増加して硬化し、2時間以上静置すると、脱型に十分な降伏値を得ることができた(実施例1-3参照)。
【0079】
シリカゲルを0.2質量%添加し、スラリーの温度を5℃として、アルミナセメントBを混合すると、低粘度のスラリーが得られた。そして、硬化温度を20℃にしても、スラリーの粘度は殆ど変化しなかったが、硬化温度を30℃にすると、スラリーの粘度は急激に増加して硬化し、脱型に十分な降伏値を得ることができた(実施例1-4参照)。
【0080】
また、シリカゲルを0.15質量%添加しても、スラリーの温度を5℃として、アルミナセメントBを5質量%混合すれば、低粘度のスラリーが得られた。そして、硬化温度を20℃とすると、スラリーの粘度が急激に増加して硬化し、3時間以上静置すると、降伏値が8000Paになり、鋳込み成形を行うのに十分な降伏値を得ることができることが確認された(実施例1-5参照)。また、焼結体の3点曲げ強度は、98MPaであった。焼結体をX線回折測定により結晶相を同定した結果、焼結体の結晶相には、天草陶土単味と同じα石英及びムライトの他に、アルミナセメントに含まれるαアルミナ含まれることが確認された。
【0081】
また、シリカゲルの添加量を0.3質量%とすると、5℃でアルミナセメントBを5質量%混合して撹拌すれば、低粘度のスラリーが得られた。そして、20℃に温度を昇温しても粘度はそれほど増加せず、十分に硬化しなかった(実施例1-6参照)。
【0082】
シリカゲルを0.42質量%添加し、20℃でアルミナセメントBを5質量%混合すると、低粘度のスラリーが得られた。そして、スラリーは、1時間以上低粘性であったことが確認された。そして、硬化温度を40℃にすると、スラリーの粘度は急激に増加し、加熱時間とともに降伏値が増大し、1時間で降伏値が3500Pa以上になり、自硬性鋳込み成形を行うのに十分な降伏値を得ることが確認された(実施例1-7参照)。
【0083】
また、シリカゲルの添加量を0.45質量%とし、20℃でアルミナセメントBを5質量%混合すると、低粘度のスラリーが得られた。そして、スラリーは、1時間静置しても低粘度は維持されたことが確認された。そして、硬化温度を30℃にしても、スラリーの粘度は殆ど変化しなかったが、硬化温度を40℃にすると、スラリーの粘度は急激に増加して硬化し、脱型に十分な降伏値を得ることができた(実施例1-8及び1-9参照)。
【0084】
アルミナセメントBを10質量%、シリカゲルを0.5質量%とし、5℃で混合すると、一定せん断応力下では1時間以上安定して低粘度のスラリーが得られた。20℃に昇温しても粘度に変化はほとんどなかったが、30℃に昇温すると、スラリーの粘度が急激に増加した。降伏値は時間とともに増大し、3時間で降伏値12000Paになり、自硬性鋳込み成形が十分可能であることが確認された(実施例1-10参照)。
【0085】
シリカゲルを添加せず、20℃でアルミナセメントAを0.25質量%~0.75質量%混合すれば、低粘度のスラリーが得られ、硬化温度を20°にすると、粘度が急激に増加して硬化したが、脱型に十分な降伏値を得られなかった(比較例1-1~1-3参照)。また、アルミナセメントBの含有量を1.0質量%~5.0質量%とすると、低粘度のスラリーは得られなかった(比較例1-4~1-6参照)。さらに、比較例1-1において、焼結体の3点曲げ強度は、96MPaであった。焼結体をX線回折測定により結晶相を同定した結果、焼結体の結晶相には、天草陶土単味と同じα石英及びムライトが含まれることが確認された。
【0086】
よって、実施例1-1~1-10では、撹拌時の増粘現象は見られず、セラミックス成形体の保形性も高かった。一方、比較例1-1~1-7では、スラリーの撹拌時に増粘しなくても、得られるセラミックス成形体の保形性は十分ではないか、スラリーの撹拌時に増粘した。
【0087】
したがって、実施例1-1~1-10のセラミックの成形方法は、比較例1-1~1-7のセラミックの成形方法と異なり、天草陶土、分散剤、分散媒、シリカゲル及びアルミナセメントを混合したスラリーを5℃~20℃の低温に維持しながら撹拌し、スラリーを作製する。これにより、スラリーの流動性を維持し、鋳型への注型作業を容易にしつつ、脱型及び脱型後のセラミックス成形体の取扱いが可能な保形性を有する成形体を得ることができることが確認された。
【0088】
<実施例2>
[成形体の作製]
(実施例2-1)
高圧絶縁がいし等の工業用磁器向けに使用される磁器原料として、陶石、長石、珪石及びアルミナを含む配合陶土に、分散剤及び水を加えて、ボールミルにて24時間粉砕混合し、スラリー(水分20質量%)を作製した。
【0089】
配合陶土97.5質量%、アルミナセメント(実施例1のアルミナセメントA)2.5質量%となるように、スラリーを容器に秤量した。この容器内に、アルミナセメント、シリカゲルとしてAタイプシリカゲル(フジシリカゲルAタイプ、富士シリシア化学社製、比表面積750m2/g)0.15質量%を添加して混合し、スラリーを含む容器を撹拌装置にセットして10℃に冷却しながら30分間、強力攪拌混合した。その後、容器を減圧脱泡装置にセットし、減圧下で15分、スラリー中の残存泡を除去した。この間、スラリーの粘度の上昇は見られず、良好な流動性を維持した。200mm角×厚み20mmのキャビティを有するシリコーン樹脂製の無吸水性鋳型(二つ割り型)、及びφ110mm×60mmのキャビティを有するシリコーン樹脂製の無吸水性鋳型(二つ割り型)に、スラリーを常圧注型し、注型口を閉じた。その後、加熱乾燥器にて、40℃で30分間、加熱した後、鋳型を取り出し、室温まで冷却した。その後、鋳型を割って、硬化体であるセラミックス成形体を取り出した。
【0090】
(実施例2-2~2-5及び比較例2-1~2-3)
実施例2-1において、表2に示すように、セラミックス成形体の組成及び製造条件を変更したこと以外は、実施例2-1と同様にして行い、セラミックス成形体を作製した。なお、比較例2-2及び2-3では、スラリーの撹拌時に増粘し、注型が困難であり、成形体は得られなかった。
【0091】
[セラミックス成形体の保形性の評価]
上記各実施例及び比較例で得られたセラミックス成形体の保形性を評価した。実施例1と同様に、得られたセラミックス成形体の降伏値を求めた。
【0092】
[焼結体の作製]
実施例2-2では、得られた成形体を120℃で2時間、乾燥した後、トンネル焼成炉(1300℃、還元雰囲気)で焼成して焼結体を得た。
【0093】
(特性)
焼結体の特性として、実施例1と同様に、焼結体の3点曲げ強度を測定した。
【0094】
上記各実施例及び比較例における、セラミックス成形体の、組成、製造条件及び保形性と、焼結体の3点曲げ強度とを表2に示す。なお、表2中の、製造条件中の撹拌時の増粘の評価「小」とは、スラリーの増粘があったが使用に影響無い程度であったことを意味し、評価「大」とは、スラリーの増粘があり、使用に影響有る程度の大きい増粘であったことを意味する。
【0095】
【表2】
【0096】
実施例2-1~2-5では、撹拌時にスラリーの増粘現象は無いか殆ど見られず、セラミックス成形体の保形性も高かった。また、得られたセラミックス成形体に割れ、変形はなく、仕上げ加工に耐えるのに十分な保形性を有し、セラミックス成形体の仕上げ加工でも安心して取り扱えることが確認された。また、実施例2-2では、得られた焼結体に割れ、変形はなく、吸水性は0%であり、焼結体の3点曲げ強度は、120MPaであった。
【0097】
一方、比較例2-1~2-3では、撹拌時にスラリー増粘は無いか殆ど見られなくても、得られるセラミックス成形体の保形性は十分ではないか、スラリーの撹拌時の増粘が高かった。比較例2-1~2-3では、シリカゲルを添加しなかったため、撹拌温度を10℃以下にしても、混合開始直後に著しいスラリーの増粘現象が生じ攪拌及び脱泡が困難になり、スラリーが増粘することによりスラリーの注型が困難であったといえる。
【0098】
実施例2-1~2-5のセラミックの成形方法は、比較例2-1~2-3のセラミックの成形方法と異なり、配合陶土、分散剤、分散媒、シリカゲル及びアルミナセメントを混合したスラリーを5℃~20℃の低温に維持しながら撹拌し、スラリーを作製する。これにより、スラリーの流動性を維持し、鋳型への注型作業を容易にしつつ、脱型及び脱型後のセラミックス成形体の取扱いが可能な保形性を有するセラミックス成形体を得ることができることが確認された。
【0099】
<実施例3>
[成形体の作製]
(実施例3-1)
易焼結アルミナ粉末(平均粒子径0.5μm)に、分散剤及び水を加えて、ボールミルで分散混合し、スラリー(水分28質量%)を作製した。このスラリーを攪拌容器に入れた後、アルミナセメント及びシリカゲルを添加して、スラリー中の各成分の含有量が、易焼結アルミナ粉末92質量%、分散剤0.5質量%、水28質量%、シリカゲル0.2質量%及びアルミナセメント8質量%となるようにした。その後、スラリーを強力撹拌機で分散混合しながら5℃に保持した。さらに同温度の減圧下で、15分間、減圧脱泡を行った後、ポリアセタール樹脂製の2分割型(内径300mm、高さ50mm)にスラリーを注型し、50℃で加熱硬化した。その後、室温域まで冷却して脱型し、120℃で1時間乾燥した後、1550℃、2時間、電気炉で焼結して、焼結体を得た。得られた焼結体に割れ、変形は認めず、緻密化していた。
【0100】
(比較例3-1)
実施例3-1において、表3に示すように、セラミックス成形体の製造条件を変更したこと以外は、実施例3-1と同様にして行い、セラミックス成形体を作製したが、スラリーの撹拌時に増粘し、注型が困難であり、セラミックス成形体は得られなかった。
【0101】
[セラミックス成形体の保形性の評価]
実施例3-1で得られたセラミックス成形体の保形性を評価した。実施例1と同様に、得られたセラミックス成形体の降伏値を求めた。
【0102】
上記各実施例及び比較例における、セラミックス成形体の、組成、製造条件及び保形性を表3に示す。なお、表3中の、製造条件中の撹拌時の増粘の評価「大」とは、スラリーの増粘があり、使用に影響有る程度の大きい増粘であったことを意味する。
【0103】
【表3】
【0104】
実施例3-1では、撹拌時の増粘現象は無く、成形体の保形性も高かった。また、得られたセラミックス成形体に割れ、変形はなく、生仕上げ加工に耐える十分な保形性を有し、取り扱えることが確認された。一方、比較例3-1では、スラリーにアルミナセメント及びシリカゲルを添加後、25℃(室温域)で撹拌混合しても、スラリーの急激な増粘が生じ、撹拌混合自体が困難であった。
【0105】
実施例3-1のセラミックの成形方法は、比較例3-1のセラミックの成形方法と異なり、易焼結アルミナ粉末、分散剤、分散媒、シリカゲル及びアルミナセメントを混合したスラリーを5℃の低温に維持しながら撹拌することで、スラリーの流動性を維持し、鋳型への注型作業を容易にしつつ、かつ脱型及び脱型後のセラミックス成形体の取扱いが可能な保形性を有するセラミックス成形体を得ることができることが確認された。
【0106】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2