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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063193
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】ペメトレキセド含有液体組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20220414BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P35/00
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020180021
(22)【出願日】2020-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000169880
【氏名又は名称】高田製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】稲坂 翔麻
(72)【発明者】
【氏名】曽根 康平
(72)【発明者】
【氏名】三上 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真也
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC27
4C076DD38D
4C076DD50Z
4C076DD56S
4C076FF14
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA16
4C086NA03
4C086NA10
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】経時的な類縁物質の増加が抑制され、保存安定性に優れるペメトレキセド含有液体組成物の提供。
【解決手段】ペメトレキセド又は薬学的に許容されるその塩と、トロメタモールと、N-アセチル-L-システインとを含有することを特徴とするペメトレキセド含有液体組成物により解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペメトレキセド又は薬学的に許容されるその塩と、トロメタモールと、N-アセチル-L-システインとを含有することを特徴とするペメトレキセド含有液体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペメトレキセド含有液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ペメトレキセド(N-{4-[2-(2-アミノ-4-オキソ-4,7-ジヒドロ-1H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)エチル]ベンゾイル}-L-グルタミン酸)は、悪性胸膜中皮腫および非小細胞肺癌に対する治療薬として知られ、日本では、ペメトレキセドナトリウム水和物を含有する凍結乾燥製剤(アリムタ(登録商標)注射用100mg,同500mg)が販売されている。凍結乾燥製剤は、医療現場において生理食塩水等の溶媒に溶解されて患者に投与されるものであり、投与時の溶解作業に手間がかかる。よって、ペメトレキセド又はその塩を含有し、即時投与が可能な溶液形態の製剤の検討開発が進められている(たとえば特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015-050230号
【特許文献2】特表2016-518404号公報
【特許文献3】特表2016-500099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶液中でペメトレキセド又はその塩は酸化分解しやすく、そのため、経時的に類縁物質が増加しやすいという問題があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、経時的な類縁物質の増加が抑制され、保存安定性に優れるペメトレキセド含有液体組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が鋭意検討した結果、ペメトレキセド含有液体組成物にトロメタモールを添加することによって、pHの経時的な変化を抑制できることを見出した。そして、トロメタモールを添加したうえで、抗酸化作用を有する成分としてN-アセチル-L-システインを添加することによって、特定の類縁物質の増加が抑制され、保存安定性に優れるペメトレキセド含有液体組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1]ペメトレキセド又は薬学的に許容されるその塩と、トロメタモールと、N-アセチル-L-システインとを含有することを特徴とするペメトレキセド含有液体組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、経時的な類縁物質の増加が抑制され、保存安定性に優れるペメトレキセド含有液体組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のペメトレキセド含有液体組成物(以下、「液体組成物」ともいう。)は、ペメトレキセドまたは薬学的に許容されるその塩と、トロメタモールと、N-アセチル-L-システインとを含有する。
ペメトレキセドの薬学的に許容される塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩(トリメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、モノエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩)、ピリジニウム塩、置換ピリジニウム塩等が挙げられる。なかでも、ナトリウム塩が好ましく、2ナトリウム塩が好ましい。
また、ペメトレキセドまたは薬学的に許容できる塩は、無水物、水和物、溶媒和物のいずれであってもよく、水和物としては、2.5水和物、7水和物等を使用できる。
液体組成物中のペメトレキセドまたは薬学的に許容される塩の含有量は適宜設定できる。
【0009】
本発明の液体組成物は、トロメタモール(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)を含有する。特にトロメタモールを添加することによって、液体組成物のpHの変化が経時的に抑制される傾向にあり、このことが液体組成物の保存安定性に寄与しているものと考えられる。
液体組成物には、後述するpH調節剤が必要に応じて別途添加されてもよい。
【0010】
本発明の液体組成物は、抗酸化剤としてN-アセチル-L-システインを含有する。トロメタモールを添加したうえで、抗酸化剤としてN-アセチル-L-システインを添加することによって、特定の類縁物質の増加が抑制され、保存安定性に優れる液体組成物を提供することが可能となる。
【0011】
本発明の液体組成物は、トロメタモールおよびN-アセチル-L-システイン以外の1種以上の添加物を含有してもよい。添加物としては、たとえば等張化剤、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤(抗酸化剤を含む)、有機酸またはその無水物、キレート剤が挙げられ、医薬分野において使用可能な添加剤であれば、いずれも使用できる。
【0012】
等張化剤としては、たとえば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール、ブドウ糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール等のうち1種以上を使用できるが、マンニトールを使用することが好ましい。
【0013】
本発明の液体組成物は、塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調節剤をさらに含んでもよい。
【0014】
緩衝剤としては、たとえば酸と酸の塩との組み合わせからなるものを使用できる。酸としてはたとえば、リン酸、クエン酸、酢酸、炭酸、酒石酸等が挙げられ、酸の塩としてはたとえば、これらの酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の塩またはそれらの溶媒和物が使用できる。緩衝剤としては、これらの組合せの1種以上を使用できる。
【0015】
安定化剤(抗酸化剤を含む)としては、たとえばL-システイン塩酸塩水和物、アスコルビン酸、アセチルトリプトファンナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、L-アルギニン、乾燥亜硫酸ナトリウム、グリシン、グルコン酸マグネシウム、L-グルタミン酸ナトリウム、L-グルタミン酸 L-リジン、サリチル酸ナトリウム、L-ヒスチジン、ピロ亜硫酸カリウム、酢酸ナトリウム水和物等のうちの1種以上を使用できるが、L-システイン塩酸塩水和物を使用することが好ましく、L-システイン塩酸塩水和物と酢酸ナトリウム水和物を併用することがより好ましい。
【0016】
有機酸またはその無水物としては、マレイン酸等の酸やその無水物の1種以上を使用できるが、マレイン酸および無水マレイン酸を使用することが好ましい。
【0017】
キレート剤としては、たとえば、エチレンジアミン、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物、エデト酸四ナトリウム、エデト酸四ナトリウム四水塩等のうちの1種以上を使用できる。
【0018】
本発明の液体組成物は、溶媒として、たとえば注射用水、生理食塩水、エタノール等のような水性溶媒や、オレイン酸、ゴマ油等のような非水性溶媒を1種以上使用できる。
【0019】
本発明の液体組成物は、液体組成物を製造する通常の方法で製造できる。たとえば、ペメトレキセドまたは薬学的に許容されるその塩と、トロメタモールと、N-アセチル-L-システインと、必要に応じて添加される他の添加物を溶媒に溶解または懸濁することにより製造できる。必要に応じて、溶解の際に熱等を加えてもよいし、適宜滅菌を施してもよい。
本発明の液体組成物を凍結乾燥してもよい。
また、本発明の液体組成物は、凍結乾燥物を溶媒に溶解または懸濁して得られた液体組成物であってもよい。
【0020】
本発明の液体組成物は、通常、液体医薬品の収容に適した容器に充填され、提供される。このような容器としては、たとえば、バイアル、バッグ、アンプル、シリンジ等が挙げられ、容器の材質としては、シリコート処理(SiO薄膜形成)、サルファー処理、シリコーンコート処理、ファイアブラスト処理等の表面処理が必要に応じて施されたガラス、樹脂等が挙げられる。ペメトレキセドまたは薬学的に許容されるその塩は酸化分解されやすいため、容器内を窒素等の不活性ガスで満たすことが好ましい。
本発明の液体組成物は、公知の方法によって投与することができる。非経口投与が好ましく、静脈投与がより好ましい。
【実施例0021】
以下、例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
なお、各例におけるpHの値は、室温で測定した値である。
[参考例]
下記表1の処方に従い、例Aおよび例Bの液体組成物を製造した。
具体的には、適量の注射用水にペメトレキセドナトリウム2.5水和物と、それ以外の添加物を加えて攪拌溶解し、注射用水を加えて全量を4mLとした。この際、液体組成物の初期のpHが8.5~9.0となるように調整した。
製造した各液体組成物について、ガラス容器に充填した状態(容器内は窒素置換)で表1に示す条件で保存し、保存前(初期)のpHと保存後のpHを比較した。なお、例Aと例Bにおいて、塩酸の添加量は同量とした。
【0022】
【表1】
【0023】
表1に示すように、トロメタモールを使用してpHを調整した例Aの液体組成物は、水酸化ナトリウムを使用した例Bの液体組成物に比べて、液体組成物のpHの変化が経時的に抑制されることが明らかとなった。
【0024】
[実施例1~2,比較例1~3]
下記表2の処方に従い、各例の液体組成物を製造した。pHの調整には、塩酸の他、表1に示したように、液体組成物のpHの経時的な変化を抑制する効果に優れるトロメタモールを使用した。
具体的には、適量の注射用水にペメトレキセドナトリウム2.5水和物と、それ以外の添加物を加えて攪拌溶解し、注射用水を加えて全量を4mLとした。この際、液体組成物の初期のpHが9.0になるように調整した。
製造した各液体組成物について、ガラス容器に充填した状態(容器内は窒素置換)で表2に示す条件で保存し、保存前(初期)の類縁物質量と保存後の類縁物質量を比較して保存安定性を評価した。また、pHについても、測定を行った。なお、各例において、塩酸の添加量は同量とした。
【0025】
[保存安定性]
25℃および40℃で3ヶ月保存した後と、保存前(初期)における各液体組成物中の類縁物質量を、液体クロマトグラフィーを用いた自動分析法によって測定し比較した。表2に示した類縁物質量は、ペメトレキセドナトリウム2.5水和物由来のピーク面積に対する、類縁物質によるピーク面積の割合を百分率で示したものである。なお、ここで類縁物質量とは、下記化学式(I)および化学式(II)で示される化合物の合計である。
【0026】
【0027】
【表2】
【0028】
表2に示すように、トロメタモールとN-アセチル-L-システインを添加した液体組成物は、25℃および40℃のいずれの条件においても、pHの変化がほとんど認められないとともに、3ヶ月後の類縁物質量の増加が抑制されており、保存安定性に優れていた。