(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063199
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】粉砕・撹拌・混合・混練機部材
(51)【国際特許分類】
C22C 29/10 20060101AFI20220414BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20220414BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20220414BHJP
B22F 7/00 20060101ALI20220414BHJP
C02F 1/00 20060101ALI20220414BHJP
B01F 27/00 20220101ALI20220414BHJP
【FI】
C22C29/10
C22C1/05 G
B22F5/00 F
B22F7/00 F
C02F1/00 J
B01F7/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020114
(22)【出願日】2021-02-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020171069
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真島 克弥
(72)【発明者】
【氏名】黒木 史哉
(72)【発明者】
【氏名】上野 修司
(72)【発明者】
【氏名】田中 敬章
(72)【発明者】
【氏名】皆川 泰範
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 景太
【テーマコード(参考)】
4G078
4K018
【Fターム(参考)】
4G078AA09
4G078BA01
4G078BA07
4G078DA01
4G078DA09
4K018AB02
4K018AB03
4K018AB07
4K018AC01
4K018AD04
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA09
4K018BB04
4K018BC11
4K018BC12
4K018BC13
4K018CA02
4K018CA08
4K018CA11
4K018CA23
4K018DA21
4K018DA32
4K018DA33
4K018EA11
4K018KA14
4K018KA18
4K018KA19
4K018KA42
4K018KA62
(57)【要約】
【課題】軽量で、耐衝撃性、耐摩耗性に優れ、さらに磁性を有する粉砕・撹拌・混合・混練機部材を提供して、これら部材を長寿命化する。
【解決手段】元素ごとの質量比が、Ti:20~45%、Mo:5~35%、W:6~30%、C:5~15%、Co:10~50%、CoとNi合計で25超~50%となるように原料を配合し、それらを混合して混合粉を得、この混合粉をプレス成形してプレス体を得、このプレス体を焼結して得られるサーメットから成る、粉砕・撹拌・混合・混練機部材である。このサーメットは、TiCNを主成分とするコア相2と、コア相の周囲を覆うように存在し、(Ti,Mo,W)(C,N)を主成分とするリム相3と、金属相4の3相を有し、断面組織観察でのコア相とリム相から成る硬質相の平均粒径が3μm未満であり、SEM観察により、WC相およびMo
2C相を観察することができない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素ごとの質量比が、
Ti:20~45%
Mo:5~35%
W:6~30%
C:5~15%
Co:10~50%
CoとNi合計で25超~50%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、
それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ、
混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、
プレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップを経て得られるサーメットから成る、粉砕・撹拌・混合・混練機部材であって、
TiCNを主成分とするコア相と、コア相の周囲を覆うように存在し、(Ti,Mo,W)(C,N)を主成分とするリム相と、金属相の3相を有し、
断面組織観察でのコア相とリム相から成る硬質相の平均粒径が3μm未満であり、
SEM観察により、WC相およびMo2C相を観察することができない、サーメットから成る、粉砕・撹拌・混合・混練機部材。
【請求項2】
原料中のNの質量比が、0を超えて5%以下である、請求項1に記載のサーメットからなる粉砕・撹拌・混合・混練機部材。
【請求項3】
原料中のCとNの質量比が、C:N=7:3~10:0である請求項1または請求項2に記載のサーメットからなる粉砕・撹拌・混合・混練機部材。
【請求項4】
リム相が、相対的にMoとWが多い相と、相対的にTiが多い相の2相を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のサーメットからなる粉砕・撹拌・混合・混練機部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、耐摩耗性に優れたサーメットから成る、粉砕・撹拌・混合・混練機部材に関する。
【背景技術】
【0002】
耐衝撃性、耐摩耗性に優れたサーメットに関しては、様々な材料設計手法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、減圧窒素雰囲気中での一時焼結、HIP処理、減圧窒素雰囲気中での最終熱処理の3段階の焼結方法により、ポアおよび結合相プールを消滅させ、TiN/TiCの比が3/7~7/3でも高強度化したサーメットの製造方法が開示されている。このような炭窒化物系サーメットは、フライス切削などの切削工具用途に使用されている。
【0004】
特許文献2では、微細組織が、硬質相からなるコアと、靱性を有する周辺組織であるリムの2相構造であった従来のサーメットに対して、中心コアの周囲に靱性の優れるWCに富んだ第3相を形成することで、より高靱性化されたサーメットが開示されている。このサーメットは、従来のサーメットと比較して、耐摩耗性及び硬度を低下させることなく、曲げ強度および破壊靭性を向上させ、工作機械用工具としては勿論のこと、耐摩耗性および靱性を要する部品、部材として広く適用することができる。
【0005】
特許文献3では、窒化物量を増やすとともに、さらに硬質相粒径を比較的粗粒に制御し、さらに結合相を強化することによって、耐衝撃性、耐摩耗性、耐熱塑性変形性を高めたサーメットについて開示されている。その工夫により、断続的に激しい熱衝撃が加わる切削工具において、熱亀裂に起因する欠損による短寿命化という問題を解決している。
【0006】
特許文献4では、TiCを5~50%、Mo2C、TaC、VC、Cr3C2、NbC、ZrC、HfCの内1種ないしは2種以上を1~25%、NiとCoを合量で5~40%含み、かつ前記TiCの平均粒径を1.5~15μm、WC粒径を3~15μmとした熱間ガイドローラ用サーメットが開示されている。このサーメットは、粗大な硬質粒子により、熱間圧延の最大の問題であった表面亀裂の進展を抑制することができ、熱間ガイドローラの寿命を向上させている。
【0007】
特許文献5では、NiおよびCoを主成分とする結合相の格子定数を3.545Å以下に制御することにより、熱クラック耐性を向上させ、高速切削用工具の寿命を向上させることが開示されている。
【0008】
また近年、軽量な高機能樹脂材料の需要が高まり、その特性向上のためにガラス繊維や無機粉末などのフィラーを高充填した強化樹脂材料の製造が増加している。それに伴って、粉砕・撹拌・混合・混練機部材の激しい摩耗による生産効率の低下が問題となっている。精密電子部品用樹脂においては、部材の摩耗による金属コンタミが課題であり、磁選による除去だけでなく、抜本的対策として混入源である部材摩耗を抑える改善が求められている。
【0009】
粉砕・撹拌・混合・混練機部材として、その多くは窒化鋼が用いられているが、より耐摩耗性が求められる用途に対しては合金工具鋼、更に過酷な使用条件の場合は超硬合金が適することが知られている。
【0010】
特許文献6には、従来の合金工具鋼よりも耐摩耗性の高い超硬合金から成る複数枚のディスク構成部材を、放電プラズマ焼結加工により焼結接合することにより、複雑形状を有するニーディングディスクの研磨加工や切削加工を容易にし、耐摩耗性に優れたニーディングディスクの製造について開示されている。
【0011】
特許文献7では、超硬合金の分割体を軸方向に加圧焼結することにより、細長い形状のスクリューやシリンダーであっても、変形なしに構成することが可能となり、その工夫により、長期にわたって連続使用可能な超硬合金製の成形用部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61-003852号公報
【特許文献2】特開昭62-196352号公報
【特許文献3】特開昭63-109139号公報
【特許文献4】特開平2-66135号公報
【特許文献5】特開平7-112313号公報
【特許文献6】特開平11-10709号公報
【特許文献7】特開2011-88410号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】河端,藤村,千徳「粉体および粉末冶金」第29巻第1号(1980),30-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に開示されるサーメットは、粉砕・撹拌・混合・混練機部材に適用した場合、金属相が比較的少ないことから、弾性変形による衝撃吸収が不十分となり、かつ素材自体の靱性も低いため、稼働中の部材同士の接触による衝撃で、破壊が起こるおそれがある。
【0015】
特許文献2に開示されるサーメットには、WC単独粒子が存在するため、硬質なWC粒子が破壊の起点となりやすく、耐衝撃性に劣ることが懸念される。そのため、前述のように、粉砕・撹拌・混合・混練機部材稼働中の部材接触により、割れが発生する可能性がある。さらに比重の高いWCが多く含まれるため、部材重量が重くなり、回転する装置部材への適用時には、軸ぶれの発生、駆動装置への負荷増大などが懸念される。
【0016】
特許文献3に開示されるサーメットは、切削工具への適用を目的としており、金属相量が少なく、更に金属相中にWC、Mo2Cの単独粒子が存在するため、粉砕・撹拌・混合・混練機部材として適用するためには、靭性および耐衝撃性が不十分であり使用することができない。
【0017】
特許文献4に開示されるサーメットは、熱クラック抑制の目的でWC粗粒粉を添加しているが、アブレシブ摩耗が発生する粉砕・撹拌・混合・混練機部材においては、WC粗粒粉の欠落により、体積減少量が増加し、部材の寿命が短くなるという問題がある。
【0018】
特許文献5に開示されるサーメットは、切削工具への適用を前提としているために、金属相量が少なく、耐衝撃性および靱性が不足しているため、粉砕・撹拌・混合・混練機部材としての用途には向いていない。
【0019】
特許文献6や特許文献7に開示されるニーディングディスク、および成形用部材は、耐摩耗性が高い超硬合金を使用しているために、部材の寿命を向上させることが可能となった。しかしながら、従来の粉砕・撹拌・混合・混練機は、鉄鋼材料製の部材装着を前提に設計されており、超硬合金製部材は、その高い比重に起因する駆動装置側への負荷増大、回転軸のたわみなどから、鉄鋼材料部材からの置換え用途としては適さないという未解決の問題がある。
【0020】
本発明は、上記の問題を解決するために成されたものであり、軽量で、耐衝撃性、耐摩耗性に優れ、さらに磁性を有する粉砕・撹拌・混合・混練機部材を提供して、これら部材を長寿命化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、元素ごとの質量比が、
Ti:20~45%
Mo:5~35%
W:6~30%
C:5~15%
Co:10~50%
CoとNi合計で25超~50%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ、混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、プレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップを経て得られ、TiCNを主成分とするコア相と、コア相の周囲を覆うように存在し、(Ti,Mo,W)(C,N)を主成分とするリム相と、金属相の3相を有し、断面組織観察でのコア相とリム相から成る硬質相の平均粒径が3μm未満であり、SEM観察により、WC相およびMo2C相を観察することができない、粉砕・撹拌・混合・混練機部材用のサーメットを提供することで、前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0022】
本発明において得られた、磁性を有し、軽量で耐摩耗性、耐衝撃性を大幅に向上させたサーメットにより、損耗の激しい粉砕・撹拌・混合・混練機部材を長寿命化させることが可能となった。
粉砕・撹拌・混合・混練機部材としては、具体的には、二軸押出機用のスクリューエレメントやバレル、ピンミル装置の粉砕ピン、混合撹拌機のパドル、ビーズミルなどの粉体処理装置部材などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の粉砕・撹拌・混合・混練機部材に用いるサーメットの断面組織の模式図。
【
図2】本発明の粉砕・撹拌・混合・混練機部材に用いる、リム相に相対的にMoとWを多く含む相を有するサーメットの断面組織の模式図。
【
図3】実施例1の粉砕・撹拌・混合・混練機部材に用いるサーメットのSEM観察像。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の粉砕・撹拌・混合・混練機部材は、以下の内容にて実施できる。
【0025】
まず、元素ごとの質量比が、
Ti:20~45%
Mo:5~35%
W:6~30%
C:5~15%
Co:10~50%
CoとNi合計で25超~50%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とする。
例えば、Tiの化合物としてはTiC、TiN、TiCN、(Ti,Mo)(C,N)、(Ti,W)(C,N)のような炭化物、窒化物、炭窒化物、複合炭窒化物のいずれの形態であっても構わない。Mo、W、Co、Niについても同様である。
そして、それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得、その混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得、そのプレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結することで、サーメットからなる粉砕・撹拌・混合・混練機部材を得る。このサーメットは、コア相とリム相と金属相の3相を有するが、具体的な各相の設計を以下に説明する。なお、以下の説明において元素ごとの質量比は、いずれも原料段階のものである。
【0026】
(コア相・リム相の設計)
Cが5~15%であることにより、焼結性が改善し微細なコア相とリム相から成る硬質相を形成する。Cが5%未満であると、十分な体積のコア相およびリム相が生成されず耐摩耗性が低下する。一方、Cを15%より多く添加した場合には、遊離炭素相が発生し、機械的特性(強度・硬さ・耐衝撃性)が大幅に低下する。
Nを添加する場合は、0を超え5%以内の範囲で任意に添加することができる。Nを添加することで、リム相の厚みが小さくなる傾向となり、耐摩耗性および耐衝撃性が向上する。また、Nを5%以下にすることで、焼結中に発生する窒素ガスによる合金中の気孔残存を抑制でき、機械的特性の向上を図ることができる。
さらに、C:N=7:3~10:0であることが望ましい。C:N比率をこの範囲にすることで、金属相と、コア相とリム相から成る硬質相との良い濡れ性が保て、緻密性が向上する。
Moは5~35%、Wは6~30%、の範囲で混合する。コア相を形成するTiCNと、金属相を形成するCo、Niとの濡れ性は悪いが、Mo2CやWCを添加することにより生成されるリム相により、コア相とリム相から成る硬質相の濡れ性を改善することができる。これにより材料の焼結性が上がり、機械的特性を向上させることができる。
また、Wを添加することでその耐摩耗性をさらに向上させることができる。これは、コア相とリム相から成る硬質相がW原子により固溶強化され、アブレシブ摩耗時の硬質相の破壊が起こりにくくなるためである。
MoとWを合わせて35%以下にすることで、WとCo、MoとCo、またはWとMoとCoの合金を形成しなくなり、耐衝撃性が向上する。
【0027】
(金属相の設計)
CoとNiは合計で25超~50%である。この範囲よりも金属量が少ない場合には、耐衝撃性が不十分となる。多い場合には耐摩耗性が低下し、粉砕・撹拌・混合・混練機部材の損耗が激しくなる。
また、Coは10~50%とする。Niよりも優れた機械的特性(硬さ、耐摩耗性)を持つCoをこの範囲にすることで、粉砕・撹拌・混合・混練機部材の機械的特性を向上させ、長寿命化することができる。
さらに、10%以上のCoを含むサーメットは、磁選に必要とされる十分な磁性を有する。磁選は粉砕・撹拌・混合・混練機装置において、部材のチッピングなどによる材料中の異物検出時に使用される。
【0028】
本発明の粉砕・撹拌・混合・混練機部材は、一例として以下の製造方法で製造できる。
(製造方法)
本発明の粉砕・撹拌・混合・混練機部材を製造する場合には、次のステップ(工程)を含む。
すなわち、元素ごとの質量比が、
Ti:20~45%
Mo:5~35%
W:6~30%
C:5~15%
Co:10~50%
CoとNi合計で25超~50%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップと、
混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップと、
プレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップである。
湿式混合の場合には、溶媒としてエタノールのような揮発性溶剤を使用し、スラリーは、真空静置乾燥、あるいは噴霧乾燥などにより乾燥させる。このとき、原料混合後のコア相およびリム相を形成する粒子の粒径は、0.6μm以下とすることが望ましい。
得られた微粒粉末に、成形バインダーとなる樹脂成分を混合し造粒を行う。造粒にはスプレードライを用いてもよい。
造粒した粉末は、金型プレス機、または静水圧プレス機により50~300MPaでプレス成形を行う。成形後、必要に応じて中間加工を入れてもよい。
焼結条件は、はじめに600~1000℃の真空またはガス雰囲気中で脱脂・仮焼結を行い、次に1300~1700℃の真空またはガス雰囲気中で本焼結を行う。仮焼結、本焼結は連続して行ってもよい。さらに、必要に応じて熱間水圧プレスを行う。
最後に、機械加工、あるいは電気加工により最終形状に仕上げ、目的とする粉砕・撹拌・混合・混練機部材を得る。
【0029】
(粉砕・撹拌・混合・混練機部材に用いるサーメットの組織)
本発明に用いるサーメットは、
図1にその断面組織1を模式的に示しているように、TiCNを主成分とするコア相2と、コア相2の周囲を覆うように存在し、(Ti,Mo,W)(C,N)を主成分とするリム相3と、金属相4の3相を有し、断面組織観察でのコア相とリム相から成る硬質相の平均粒径が3μm未満であり、サーメット中にはWC相およびMo
2C相は原則的に含まない。WC相およびMo
2C相がある場合は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察において、金属相中にコア相・リム相以外に明度の異なる粒子形状で存在する。判断がつかない場合にはEPMA(電子線マイクロアナライザ)やEDX(エネルギー分散型X線分析)、XRD(X線回折)による分析を行い、WC相およびMo
2C相の有無について総合的に判断する。イレギュラー的に観察される場合でも、1万倍の観察視野中に1μm以上の粒子が1個以下、同じく0.3μm以上の粒子が5個以下である。なお、本発明において「SEM観察により、WC相およびMo
2C相を観察することができない」とは、前述の1万倍の観察視野中に1μm以上の粒子が1個以下、同じく0.3μm以上の粒子が5個以下である場合も含むものとする。
上記の構成とすることで、耐衝撃性、耐摩耗性の高い材料が得られる。
このサーメットの組織はSEMによる断面観察で確認される。
【0030】
また、前記サーメットは以下の特徴を有する。
(コア相)
コア相は、TiCNを主成分とする硬質相であり、高い硬さを有する。
(リム相)
リム相はコア相の周囲を覆うように存在し、(Ti
,Mo,W)(C,N) を主成分とする。
図2に示すように、リム相には相対的にMo成分とW成分とが多い相と、相対的にTiが多い相の2相を有していてもよい。2相である場合には、リム相の硬さが向上し、より耐摩耗性が高くなる。
(粒径)
コア相とリム相から成る硬質相の平均粒径は3μm未満である。平均粒径は、サーメットの断面組織をSEM観察し、下記フルマンの式(数1)から算出することができる。
【数1】
(式1)中、d
mは平均粒径、πは円周率、N
Lは断面組織上の任意の直線によってヒットされる単位長さあたりの粒子数、N
Sは任意の単位面積内に含まれる粒子の数を表し、(式2)中、n
Lは断面組織上の任意の直線によってヒットされる粒子の数、Lは断面組織上の任意の直線の長さを表し、(式3)中、n
Sは任意の測定面積内に含まれる粒子の数、Sは任意の測定領域の面積を表す。
【0031】
コア相とリム相からなる硬質相の平均粒径を3μm未満にすることで、機械的特性と耐衝撃性が向上するため、粉砕・撹拌・混合・混練機稼働中の部材接触などによる衝撃が加わった際に破壊しにくい。特に、硬質相の平均粒径を1.5μm以下とすることで、さらに硬さが向上し、耐摩耗性も向上する。硬質相の平均粒径が3μm以上である場合には、アブレシブ摩耗時の粒子脱落の単位が大きくなることで耐摩耗性が著しく低下する。
【0032】
(比重)
本実施形態に係る粉砕・撹拌・混合・混練機部材は、比重9以下である。粉砕・撹拌・混合・混練機は、従来、鉄鋼材料製の部材装着を前提とした設計となっているため、部材の比重が9を超えると、回転軸のたわみの発生、駆動装置側への負荷増大などの原因となる。比重が8以下になると、鉄鋼材料と同等の扱いができ、さらに比重が7.5以下になると鉄鋼材料より軽くなり、装置設計の自由度を上げることができる。
【0033】
上記特徴を持つサーメットは、耐摩耗性、耐衝撃性が、超硬合金と同等に高い値でありながらも、比重が鉄鋼材料と同等であり、さらに磁性を有している。この材料を、粉砕・撹拌・混合・混練機部材として適用することで、部材同士の接触による破損や、使用時の部材の摩耗を抑制し、部材の長寿命化を達成できる。
【実施例0034】
まず、表1の実施例1に示す原料粉末を、エタノールを溶媒としてアトライター、またはボールミルにより粉砕混合した。得られたスラリーを真空中で乾燥させ、バインダーとなるパラフィンを混合したのちプレス成形によりプレス体を作製した。
このプレス体を大気圧水素雰囲気下800℃で仮焼結を行い、更に真空雰囲気にて1400℃にて本焼結を行うことにより、本発明の粉砕・撹拌・混合・混練機部材に用いるサーメットを得た。
実施例1により得られたサーメットは、前述のフルマンの式により算出した平均粒径が1.12μmであった。
実施例2以降の実施例及び比較例は、1300~1500℃の範囲内で最も高い密度が得られる最低温度で焼結した。他の条件は実施例1と同条件である。
また、比較例6を除くすべての実施例および比較例において、コア相とリム相から成る硬質相の平均粒径は、1.5μm未満であった。
さらに、SEM観察によりサーメット断面組織の構成成分を観察したところ、すべての実施例において、Mo2C相およびWC相の存在は確認できなかった。また、すべての実施例においてリム相中に、相対的にMo成分とW成分とが多い相が存在した。
サーメット組織全体の元素組成比率は、原料組成との乖離が大きく、また原料組成と焼結後のサーメットの成分比率の決定係数が低く、正確に定量することができなかった。参考までに表3に実施例1のサーメットについて、EPMAおよびEDXによる定量分析結果を示すが、原料組成との乖離が確認できる。この理由として、各構成元素同士の固溶体形成による格子状態の変化が影響していることが考えられる。上記非特許文献1にあるように、過去の研究においてもサーメット材料の合金組成の定量化が困難なことが知られており、正確な定量は難しい。
このように本発明において、当該物をその構造または特性により直接特定することは不可能であるか、またはおよそ非実際的であり、本発明には、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在する。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
続いて作製したサーメットの機械特性の評価を、以下に示す測定方法により実施した。
*比重・・・アルキメデス法(規格:JIS Z 8807)
*硬さ・・・ビッカース硬さ試験(規格:JIS Z 2244)
*耐摩耗性・・・ラバーホイール試験(規格:ASTM G65)
*耐衝撃性・・・シャルピー衝撃試験(規格:JIS Z 2242)
*磁性・・・飽和磁化測定
【0039】
本発明の実施例および比較例におけるサーメットの特性を表4に示す。
【表4】
【0040】
全ての実施例において、比重は目標の9以下に抑えられており、耐摩耗性に関しても超硬合金(JIS分類:V40相当材)を上回り、優れた特性を示した。また耐衝撃性についても、従来のサーメットでは実現が難しかった6J/cm2以上を達成した。
【0041】
実施例2と実施例6は、実施例1と比較して特に高い耐摩耗性を示した。
実施例2では比較的Moの添加量が多く、さらにWを共添加させることで硬さが向上し、実施例1と金属量が同等であるにもかかわらず高い耐摩耗性を示した。
実施例6では、シャルピー衝撃値は10J/cm2に満たないものの、耐摩耗性が超硬合金(JIS分類:V40相当材)と比較して200%を超えた。これは金属量を必要最低限に抑えることで、非常に高い耐摩耗性が発現した例である。
【0042】
比較例1は、本発明よりもMoの添加量が多く、耐摩耗性については非常に高い値を示した。しかしながら、シャルピー衝撃値は低く、破壊の恐れがあるため、粉砕・撹拌・混合・混練機部材としては使用できない。
比較例2では、Wの添加量が過剰であるためにWC相を形成し、耐摩耗性が著しく低下した。
比較例3および比較例7では、金属相としてNiのみを使って作製した。この試料は、Mo、W、金属相量が範囲内であるにも関わらず、金属相がNiのみであることから、硬さ、耐摩耗性、磁性において低い値を示した。磁性の発現には、Coの添加が必須であるといえる。
比較例4のような、Mo、Wの添加量が少ない場合には、耐摩耗性は低い値を示した。
比較例5は、金属相量(CoとNiの合計)が24%と本発明の下限値よりも低い。主に工具用に用いられる一般的なサーメットと同様、耐摩耗性は高いが、破壊靭性や抗折力、シャルピー衝撃値は低い値となった。
比較例6は、実施例1と同じ原料を用い、十分に粉砕せずに作製した試料である。焼結後、コア相とリム相から成る硬質相の平均粒径は3μmを超えたため、硬さおよび耐衝撃性が低下した。
比較例8~10は、金属相量は範囲内であるにもかかわらず、硬さ、耐摩耗性といった機械的特性の高いCo量が不十分であるために、耐摩耗性が低下した。磁性についても、超硬材料に比べて低い値を示した。
【0043】
図3に、実施例1のサーメットのSEM観察像を示している。最も色の濃い部分がコア相であり、次に色の濃い部分がリム相であり、最も色の薄い部分が金属相である。