(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063202
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】ステータコイルの検査方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20220414BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20220414BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035216
(22)【出願日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2020171122
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 英明
(72)【発明者】
【氏名】武田 嶺
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小坂 祐章
【テーマコード(参考)】
2G015
2G116
【Fターム(参考)】
2G015AA12
2G015BA02
2G015CA08
2G116BA01
2G116BA03
2G116BB09
2G116BD08
(57)【要約】
【課題】ステータコアに巻回された2相のステータコイルに適正に電圧を印加して、当該2相のステータコイルにおける部分放電の有無を精度よく判別可能とする。
【解決手段】本開示のステータコイルの検査方法は、ステータコアに巻回されると共にスター結線により結線された複数相のステータコイルを検査する方法であって、2相のステータコイルにパルス波電源またはインパルス電源であるパルス電源とインダクタとを並列に接続した状態で、パルス電源から2相のステータコイルにパルス電圧を印加し、2相のステータコイルを流れる電流に基づいて2相のステータコイルにおける部分放電の有無を判別するものである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアに巻回されると共にスター結線により結線された複数相のステータコイルを検査するステータコイルの検査方法であって、
2相の前記ステータコイルにパルス電源とインダクタとを並列に接続した状態で、前記パルス電源から前記2相の前記ステータコイルにパルス電圧を印加し、
前記2相の前記ステータコイルを流れる電流に基づいて前記2相の前記ステータコイルにおける部分放電の有無を判別する、
ステータコイルの検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載のステータコイルの検査方法において、
前記パルス電源に対してコンデンサを並列に接続した状態で、前記パルス電源から前記2相の前記ステータコイルにパルス電圧を印加するステータコイルの検査方法。
【請求項3】
請求項2に記載のステータコイルの検査方法において、
前記2相の前記ステータコイルに対して、前記インダクタおよび前記コンデンサとして機能するチョークコイルを前記パルス電源と並列に接続するステータコイルの検査方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項2に記載のステータコイルの検査方法において、
前記パルス電源は、前記ステータコイルに印加されるサージ電圧が所定電圧以上となる時間に合わせて定められたパルス幅でパルス信号を出力するパルス発生器と、インダクタンスが前記サージの立ち上がり時間に合わせて設定される可変インダクタとを含むパルス波電源であるステータコイルの検査方法。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一項に記載のステータコイルの検査方法において、
前記パルス電源は、前記2相の前記ステータコイルにインパルス電圧を印加するインパルス電源であるステータコイルの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステータコアに巻回された複数相のステータコイルを検査するステータコイルの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコイルの絶縁検査に用いられる電源装置として、直流電圧発生部と、直流電圧発生部の正極端子に一端が接続されるスイッチと、ステータの一方の被試験端子が接続される第1の接続端子と、ステータの他方の被試験端子が接続される第2の接続端子と、スイッチと第1の接続端子との間で設定値に応じてインダクタンス値を変更する可変インダクタと、直流電圧発生部の正極端子と負極端子との間に接続される容量素子と、第1の接続端子と第2の接続端子との間に接続される抵抗素子と、スイッチの開閉状態を切り替えるパルス信号を出力するパルス発生器とを含むパルス波電源装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この電源装置において、パルス発生器からのパルス信号のパルス幅は、試験電圧が所定電圧以上となる期間を示すピーク維持時間に合わせて設定され、可変インダクタの設定値は、試験電圧の立ち上がり時間に合わせて設定される。これにより、絶縁検査に際し、ステータコイルに対して実際のサージ電圧に近い立ち上がり時間で試験電圧を印加することができるので、ステータコイルの絶縁性の検査精度を向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ステータコアに巻回された複数相のステータコイルの絶縁検査に際しては、2相のステータコイルにおける部分放電、すなわち2相のステータコイルの各々における部分放電や2相のステータコイル間における部分放電の有無を判別するために、電源装置から2相のステータコイル(両端)に印加される試験電圧をある程度高くして当該2相のステータコイルの両端間におけるコイル線材間の電位差を充分に確保することが必要となる。しかしながら、試験電圧を高くし過ぎると、絶縁性が充分に確保されているコイル線材間で部分放電が発生してしまうこともあり、絶縁検査の精度が悪化してしまう。
【0005】
そこで、本開示は、ステータコアに巻回された2相のステータコイルに適正に電圧を印加して、当該2相のステータコイルにおける部分放電の有無を精度よく判別可能とすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のステータコイルの検査方法は、ステータコアに巻回されると共にスター結線により結線された複数相のステータコイルを検査するステータコイルの検査方法であって、2相の前記ステータコイルにパルス電源とインダクタとを並列に接続した状態で、前記パルス電源から前記2相の前記ステータコイルにパルス電圧を印加し、前記2相の前記ステータコイルを流れる電流に基づいて前記2相の前記ステータコイルにおける部分放電の有無を判別するものである。
【0007】
本発明者らは、パルス電源を用いてスター結線により結線された複数のステータコイルのうちの1相における部分放電や2相のステータコイル間における部分放電の有無を精度よく判別すべく鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、パルス電源から2相のステータコイルにパルス電圧を印加する際に当該2相のステータコイルにパルス電源とインダクタとを並列に接続することが、ステータコイルの絶縁検査に極めて有用であることを見出した。すなわち、2相のステータコイルにパルス電源とインダクタとを並列に接続すれば、当該2相のステータコイルとインダクタとを含む並列回路のインダクタンスおよびインピーダンスが小さくなる。そして、当該並列回路のインダクタンスおよびインピーダンスを小さくなると、2相のステータコイルに印加される電流値が大きくなる。これにより、パルス電圧のオフ時に中性点付近で発生する逆起電力が大きくなるので、2相のステータコイルの中性点側におけるコイル線材間の電位差を大きくすることが可能となる。従って、本開示の検査方法によれば、2相のステータコイルの両端側におけるコイル線材間の電位差と、2相のステータコイルの中性点側におけるコイル線材間の電位差との差を小さくすることができる。この結果、電圧値を高くし過ぎることなく2相のステータコイルに対してパルス電圧を適正に印加して、当該2相のステータコイルにおける部分放電の有無を精度よく判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示のステータコイルの検査方法が適用される電動機のステータを示す概略構成図である。
【
図3】
図1のステータに含まれるステータコイルを示す模式図である。
【
図4】本開示のステータコイルの検査方法の実施状態を示す概略構成図である。
【
図5】本開示のステータコイルの検査方法において用いられるインダクタンスコイルの特性を示す図表である。
【
図6】ステータコイルの絶縁検査時における互いに近接した単位コイル間の電位差を例示する図表である。
【
図7】本開示の変形態様に係るステータコイルの検査方法の実施状態を示す概略構成図である。
【
図8】ステータコイルの絶縁検査時における互いに近接した単位コイル間の電位差を例示する図表である。
【
図9】本開示の他の変形態様に係るステータコイルの検査方法の実施状態を示す概略構成図である。
【
図10】本開示のステータコイルの検査方法が適用される他のステータを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示のステータコイルの検査方法が適用される電動機のステータ1を示す概略構成図であり、
図2は、ステータ1を示す平面図である。これらの図面に示すステータ1は、図示しないロータと共に、例えば電気自動車やハイブリッド車両の走行駆動源あるいは発電機として用いられる三相交流電動機(回転電機)を構成する。本実施形態のステータ1は、環状のステータコア2と、ステータコイル3u(U相コイル)と、ステータコイル3v(V相コイル)と、ステータコイル3w(W相コイル)とを含む。
【0011】
ステータ1のステータコア2は、例えばプレス加工により略円環状に形成された電磁鋼板2p(
図2参照)を複数積層してカシメにより積層方向に連結することにより形成される。ただし、ステータコア2は、例えば強磁性粉体を加圧成形すると共に焼結させることより環状に形成されてもよい。
図2に示すように、ステータコア2は、ロータが配置される中心孔2oと、環状の外周部(ヨーク部)から軸心(
図1における一点鎖線参照)に向けて径方向に延在すると共に周方向に一定の間隔をおいて隣り合う複数のティース部2tと、互いに隣り合うティース部2tの間に形成された複数(本実施形態では、例えば48個)のスロット2sとを含む。複数のスロット2sは、それぞれステータコア2の径方向に延在すると共に一定の間隔をおいて周方向に並び、中心孔2oで開口する。また、各スロット2s内には、図示しないインシュレータ(絶縁紙)が配置される。
【0012】
ステータコイル3u,3v,3wは、それぞれ複数のセグメントコイル(コイル線材)4を電気的に接合することにより形成され、本実施形態では、シングルスター結線(1Y結線)により互いに結線される。また、ステータコイル3u,3v,3wは、それぞれステータコア2の対応する軸方向端面から外側に突出する2つの環状のコイルエンド部3a,3bを有する。セグメントコイル4は、例えばエナメル樹脂等からなる絶縁被膜が表面に成膜された平角線を略U字状に曲げ加工することにより形成された電気導体であり、1対(2つ)の脚部40を有する。また、セグメントコイル4の各脚部40の先端部41では、絶縁被膜が除去されて導電体が露出している。各セグメントコイル4の2つの脚部40は、それぞれステータコア2の互いに異なるスロット2sに挿通され、ステータコア2の一方の端面(
図1における上端面)から突出した各セグメントコイル4の脚部40には、図示しない曲げ加工装置を用いた曲げ加工が施される。
【0013】
本実施形態において、複数のセグメントコイル4は、例えば6つの脚部40が複数のスロット2sの各々で径方向に隣り合うようにステータコア2に組み付けられる。以下、ステータコア2の最外周側で周方向に隣り合う複数の脚部40(先端部41)の層を「第1層」といい、径方向内側の層を順番に「第2層」、「第3層」、…といい、最内周側で周方向に隣り合う複数の脚部40の層を「第6層」という。また、本実施形態において、例えばステータコア2の外周側から奇数番目(奇数層上)の脚部40は、周方向における一側に倒されながらステータコア2の軸心周りに捻られ、偶数番目(偶数層上)の脚部40は、周方向における他側に倒されながらステータコア2の軸心周りに捻られる。更に、各脚部40の先端部41は、ステータコア2の軸方向に延在するように曲げられる。これにより、周方向に隣り合う複数のセグメントコイル4の先端部41の層が径方向に複数(本実施形態では、例えば6層)形成される。すなわち、本実施形態では、6つの先端部41が2つずつ近接するようにステータコア2の径方向に配列される。
【0014】
曲げ加工の完了後、各セグメントコイル4の先端部41は、図示しないクランプ装置によりクランプされた状態で、ステータコア2の径方向に隣り合う対応する他のセグメントコイル4の先端部41に溶接(本実施形態では、TIG溶接)により電気的に接合される。本実施形態では、例えば第1層の先端部41と第2層の先端部41とが接合され、第3層の先端部41と第4層の先端部41とが接合され、第5層の先端部41と第6層の先端部41とが接合される。これにより、複数のステータコイル3u,3v,3wがステータコア2に対して分布巻きにより巻回される。
【0015】
また、本実施形態において、U相のステータコイル3uは、
図3に示すように、直列に接続される複数(本実施形態では、16個)の単位コイルU
i(ただし、i=1,2,…,16である。)を含む。各単位コイルU
iは、例えば4つまたは5つのスロット2sを間においた2つのスロット2s(j番目およびj+5番目またはj+6番目のスロット2s)から突出する脚部40の対応する先端部41同士を電気的に接合することにより形成される。また、単位コイルU
9,U
10,…,U
16は、対応する単位コイルU
1,U
2,…,U
8に対して1スロットだけ周方向にずらしてステータコア2に巻回される。
【0016】
V相のステータコイル3vは、
図3に示すように、直列に接続される複数(本実施形態では、16個)の単位コイルV
i(ただし、i=1,2,…,16である。)を含む。V相の各単位コイルV
iも、例えば4つまたは5つのスロット2sを間においた2つのスロット2sから突出する脚部40の対応する先端部41同士を電気的に接合することにより形成される。また、V相の単位コイルV
1,V
2,…,V
8は、それぞれU相の対応する単位コイルU
9,U
10,…,U
16に対して単位コイルU
1,U
2,…,U
8とは反対側に1スロットだけ周方向にずらしてステータコア2に巻回される。更に、V相の単位コイルV
9,V
10,…,V
16は、それぞれ対応する単位コイルV
1,V
2,…,V
8に対して単位コイルU
9,U
10,…,U
16とは反対側に1スロットだけ周方向にずらしてステータコア2に巻回される。
【0017】
W相のステータコイル3wは、
図3に示すように、直列に接続される複数(本実施形態では、16個)の単位コイルW
i(ただし、i=1,2,…,16である。)を含む。W相の各単位コイルW
iも、例えば4つまたは5つのスロット2sを間においた2つのスロット2sから突出する脚部40の対応する先端部41同士を電気的に接合することによりそれぞれ形成される。また、W相の単位コイルW
1,W
2,…,W
8は、それぞれV相の対応する単位コイルV
9,V
10,…,V
16に対して単位コイルV
1,V
2,…,V
8とは反対側に1スロットだけ周方向にずらしてステータコア2に巻回される。更に、W相の単位コイルW
9,W
10,…,W
16は、それぞれ対応する単位コイルW
1,W
2,…,W
8に対して単位コイルV
9,V
10,…,V
16とは反対側に1スロットだけ周方向にずらしてステータコア2に巻回される。
【0018】
ステータコア2のスロット2sに挿通された多数のセグメントコイル4のうち、3つのセグメントコイル4の一方の脚部40は、他のセグメントコイル4に接合されず、
図1および
図2に示すように、引出線Lu,LvまたはLwとして利用される。引出線Luは、U相のステータコイル3uの単位コイルU
1に含まれるものであり、引出線Lvは、V相のステータコイル3vの単位コイルV
1に含まれるものであり、引出線Lwは、W相のステータコイル3wの単位コイルW
1に含まれるものである。更に、ステータコイル3uの引出線Luとは反対側の端部を形成する脚部40、ステータコイル3vの引出線Lvとは反対側の端部を形成する脚部40、およびステータコイル3wの引出線Lwとは反対側の端部を形成する脚部40は、互いに接合され、それにより中性点NP(
図3参照)が形成される。
【0019】
ステータコイル3uの引出線Luは、
図2に示すように、U相端子5uに電気的に接合されたU相動力線6uの先端部に電気的に接合される。また、ステータコイル3vの引出線Lvは、V相端子5vに電気的に接合されたV相動力線6vの先端部に電気的に接合される。更に、ステータコイル3wの引出線Lwは、W相端子5wに電気的に接合されたW相動力線6wの先端部に電気的に接合される。U相端子5u、V相端子5vおよびW相端子5wは、三相交流電動機のハウジングにステータ1が組み付けられた際に当該ハウジングに設置された図示しない端子台に固定され、図示しない電力線を介してインバータ(図示省略)に接続される。
【0020】
更に、ステータコア2には、
図1中上側(リード側)のコイルエンド部3a側から
図1中下側のコイルエンド部3b側に向けてワニス等の樹脂(熱硬化性樹脂)が塗布される。当該樹脂が硬化することで、各セグメントコイル4や図示しないインシュレータがステータコア2に固定される。また、セグメントコイル4の先端部41同士の接合部や引出線Lu-Lwと動力線6u-6wとの接合部といった導電体の露出部には、絶縁用の粉体が塗布される。
【0021】
続いて、上述のステータ1のステータコイル3u,3v,3wの絶縁検査について説明する。
【0022】
ステータコイル3u,3v,3wの絶縁検査には、
図4に示すパルス電源装置50が使用される。パルス電源装置50は、上記特許文献1に記載されたものと同様の構成を有するものでパルス波電源であり、直流電源、正極ケーブルを介して直流電源の正極端子に接続される第1接続端子、負極ケーブルを介して直流電源の負極端子に接続される第2接続端子、半導体スイッチ、可変インダクタ、容量素子、抵抗素子およびパルス発生器等(何れも図示省略)を含む。パルス電源装置50のパルス発生器は、半導体スイッチの開閉状態を切り替えるためのパルス信号を出力するものであり、当該パルス信号のパルス幅は、インバータ(スイッチング素子)のスイッチングによりステータ1に印加されるサージ電圧がピーク値の例えば85-90%以上に維持されるピーク維持時間に合わせて設定される。また、可変インダクタのインダクタンスは、当該サージ電圧の立ち上がり時間(例えば、数十nsec)に合わせて設定される。これにより、ステータコイル3u,3v等に対してパルス電源装置50から実際のサージ電圧に近い立ち上がり時間でパルス電圧を印加することが可能となる。
【0023】
パルス電源装置50の第1接続端子は、例えばステータコイル3uまたは3vの引出線LuまたはLvに接続され、第2接続端子は、例えばステータコイル3vまたは3wの引出線LvまたはLwに接続される。また、絶縁検査に際して、引出線Lu,Lv間、引出線Lv,Lw間および引出線Lu,Lw間の電位差が電圧計51により検出され、ステータコイル3uおよび3vを流れる電流の値と、ステータコイル3vおよび3wを流れる電流の値と、ステータコイル3uおよび3wを流れる電流の値とが電流計52により検出される。電圧計51および電流計52の検出値は、オシロスコープ53に与えられ、当該オシロスコープ53により2相のステータコイル3u,3v間、3v,3w間および3u,3w間における部分放電の有無を判別するための電流波形や電圧波形が測定される。なお、本実施形態では、更に、第1および第2接続端子を引出線Luと引出線LvおよびLwとの間、引出線Lvと引出線LuおよびLwとの間、並びに引出線Lwと引出線LuおよびLvとの間に接続して上記電流波形や電圧波形が測定される(
図4中二点鎖線参照)。
【0024】
更に、ステータコイル3u,3v,3wの絶縁検査に際しては、
図4に示すように、インダクタンスコイル(調整コイル)10が2相のステータコイル3u-3v、3v-3wあるいは3u-3wに対してパルス電源装置50と並列に接続される。すなわち、インダクタンスコイル10の一端は、例えばステータコイル3uまたは3vの引出線LuまたはLvに接続され、インダクタンスコイル10の他端は、例えばステータコイル3vまたは3wの引出線LvまたはLwに接続される。本実施形態において、インダクタンスコイル10は、
図5に示すように、比較的小さいインダクタンスLと、当該インダクタンスLの大きさに概ね反比例する静電容量Cを有するチョークコイルである。
【0025】
パルス電源装置50およびインダクタンスコイル10を用いたステータコイル3u,3v,3wの絶縁検査に際して、ステータコア2は、図示しない治具等より回転不能に保持される。更に、パルス電源装置50の第1接続端子およびインダクタンスコイル10の一端が例えばU相のステータコイル3uの引出線Luに接続され、パルス電源装置50の第2接続端子およびインダクタンスコイル10の他端が例えばV相のステータコイル3vの引出線Lvに接続される。インダクタンスコイル10およびパルス電源装置50が例えばU相およびV相のステータコイル3u,3vに接続されると、検査プログラムがインストールされたコンピュータ55により当該ステータコイル3u,3vについての絶縁検査が実行される。
【0026】
絶縁検査に際し、コンピュータ55は、別途実験・解析を経て導出された引出線Lu,LvまたはLv,Lwに印加されるサージ電圧よりも高く定められた試験電圧V0のパルス電圧がU相およびV相のステータコイル3u,3vの引出線Lu,Lvに印加されるようにパルス電源装置50を制御する。更に、コンピュータ55は、電流計52の測定値に基づいてオシロスコープ53により測定される電流波形および電圧波形を取得し、電流波形を取得した後、パルス電源装置50から2相のステータコイル3u,3vへのパルス電圧の印加を停止させる。以後、かかる手順に従って、ステータコイル3v,3wおよびステータコイル3u,3wについての絶縁検査が実行され、それにより1つのステータ1についての絶縁検査が完了する。
【0027】
上述のように、本実施形態では、スター結線により結線された複数のステータコイル3u,3v,3wの絶縁検査に際して、複数のステータコイル3u,3v,3wうちの1相における部分放電や2相のステータコイル3u,3v等の間における部分放電の有無を精度よく判別すべく、2相のステータコイル3u,3v等にパルス電源装置50とインダクタンスコイル10とが並列に接続される。そして、2相のステータコイル3u,3v等にパルス電源装置50とインダクタンスコイル10とが並列に接続された状態で、当該パルス電源装置50から2相のステータコイル3u,3v等にパルス電圧が印加される。
【0028】
すなわち、2相のステータコイル3u,3v等にインダクタンスコイル10を並列に接続すれば、当該2相のステータコイル3u,3v等とインダクタンスコイル10とを含む並列回路のインダクタンスおよびインピーダンスが小さくなる。そして、当該並列回路のインダクタンスおよびインピーダンスを小さくなると、2相のステータコイル3u,3vに印加される電流値が大きくなるので、パルス電圧のオフ時に中性点NP付近で発生する逆起電力が大きくなる。特に、パルス波電源であるパルス電源装置50を用いた場合には、2相のステータコイル3u,3v等に印加される電圧の立ち上がり時間および立ち下がり時間をより短くすることができるので当該逆起電力をより大きくすることが可能となる。これにより、
図6に示すように、インダクタンスコイル10を用いた場合(
図6中実線参照)には、インダクタンスコイル10を用いない場合(
図6中破線参照)に比べて、2相のステータコイル3u,3v等の中性点NP側(
図6中右側の領域)で互いに近接した2つの単位コイル間(コイル線材としてのセグメントコイル4間)の電位差を大きくすることができる。
【0029】
また、インダクタンスコイル10は、そのインダクタンスLの大きさに概ね反比例する静電容量Cを有しており、パルス電源装置50に対して並列に接続されたコンデンサとしても機能する。従って、2相のステータコイル3u,3v等には、インダクタンスコイル10とステータコイル3u,3v等との合成静電容量Cp(上記並列回路の静電容量)と、パルス電源装置50の静電容量C0との分圧比に応じた上記試験電圧(電源電圧)V0よりも低い電圧Vpが印加されることになる。すなわち、2相のステータコイル3u,3v等に印加される電圧Vpは、Vp=V0×C0/(C0+Cp)となり、例えばC0:Cp=2:1である場合には、2相のステータコイル3u,3v等にはVp=2/3×C0のパルス電圧が印加されることになる。これにより、パルス電圧の電圧値すなわち試験電圧V0をある程度大きくしても、2相のステータコイル3u,3v等の両端側(引出線側、
図6における左側の領域)で互いに近接した2つの単位コイル間(コイル線材としてのセグメントコイル4間)の電位差が大きくなるのを抑制することが可能となる。
【0030】
従って、本実施形態では、2相のステータコイル3u,3v等の両端側で互いに近接した2つの単位コイル間の電位差と、2相のステータコイル3u,3v等の中性点NP側で互いに近接した2つの単位コイル間の電位差との差を小さくすることができる。すなわち、
図6に示すように、2相のステータコイル3u,3v等の両端間(引出線Lu,Lv間または引出線Lv,Lw間または引出線Lu,Lw間)の全域において互いに近接した2つの単位コイル間の電位差(
図6における実線参照)を充分に確保してサージ電圧に応じた電位差(
図6における一点鎖線参照)よりも高くすることができる。この結果、試験電圧V0を高くし過ぎることなく、2相のステータコイル3u,3v等に対してパルス電圧を適正に印加して、当該2相のステータコイル3u,3v等の一方および双方間における部分放電の有無を精度よく判別することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態において、インダクタンスコイル10としては、
図6からわかるように、5.0-60μHの範囲内のインダクタンスLと、0.04-0.40μFの範囲内の静電容量Cとを有するものが採用される。これにより、2相のステータコイル3u,3v等の両端側で互いに近接した2つの単位コイル間の電位差と、2相のステータコイル3u,3v等の中性点NP側で互いに近接した2つの単位コイル間の電位差との差をより小さくして、当該2相のステータコイル3u,3v等における部分放電の有無をより精度よく判別することが可能となる。
【0032】
より詳細には、2相のステータコイル3u,3v等(引出線Lu,Lv等)に印加される電圧を1500V程度にする場合には、インダクタンスコイル10として、5.0-17.5μHの範囲内のインダクタンスLと、0.14-0.40μFの範囲内の静電容量Cとを有するものが採用されるとよい。また、2相のステータコイル3u,3v等に印加される電圧を1600V程度にする場合には、インダクタンスコイル10として、7.5-23.5μHの範囲内のインダクタンスLと、0.11-0.32μFの範囲内の静電容量Cとを有するものが採用されるとよい。更に、2相のステータコイル3u,3v等に印加される電圧を1700V程度にする場合には、インダクタンスコイル10として、8.5-33.5μHの範囲内のインダクタンスLと、0.07-0.28μFの範囲内の静電容量Cとを有するものが採用されるとよい。
【0033】
また、2相のステータコイル3u,3v等に印加される電圧を1800V程度にする場合には、インダクタンスコイル10として、10.0-54.0μHの範囲内のインダクタンスLと、0.05-0.24μFの範囲内の静電容量Cとを有するものが採用されるとよい。更に、2相のステータコイル3u,3v等に印加される電圧を1900V程度にする場合には、インダクタンスコイル10として、12.0-37.5μHの範囲内のインダクタンスLと、0.07-0.20μFの範囲内の静電容量Cとを有するものが採用されるとよい。また、2相のステータコイル3u,3v等に印加される電圧を2000V程度にする場合には、インダクタンスコイル10として、14.0-60.0μHの範囲内のインダクタンスLと、0.04-0.17μFの範囲内の静電容量Cとを有するものが採用されるとよい。
【0034】
図7は、パルス波電源であるパルス電源装置50に代えて、インパルス電源であるパルス電源装置50Bを用いたステータコイル3u,3v,3wの絶縁検査の実施状態を示す概略構成図である。
図7に示すパルス電源装置50Bは、直流電源50p、コンデンサ50c、スイッチ(ギャップ)50s、放電抵抗50r
0、制動抵抗50r
sおよびインダクタ50iを含む。パルス電源装置50Bは、直流電源50pによりコンデンサ50cを充電すると共に、スイッチ50sを介してコンデンサ50cとステータコイル3u,3v等とを電気的に接続して当該コンデンサ50cに蓄えられた電荷を瞬時に放電することによりステータコイル3u,3v等にインパルス電圧を印加するものである。ただし、パルス電源装置50Bの構成は、インダクタ50iの代わりに、コンデンサ50cに対して放電抵抗50r
0と並列に接続されるコンデンサを含むものであってもよい。
【0035】
かかるパルス電源装置50Bを用いた絶縁検査に際しても、
図7に示すように、インダクタンスコイル(調整コイル)10が2相のステータコイル3u-3v、3v-3wあるいは3u-3wに対してパルス電源装置50Bと並列に接続される。更に、パルス電源装置50Bは、別途実験・解析を経て導出されたサージ電圧よりも高く定められた試験電圧V0のインパルス電圧をU相およびV相のステータコイル3u,3v等の引出線Lu,Lv等に印加するようにコンピュータ55により制御される。
【0036】
インパルス電源であるパルス電源装置50Bを用いた場合も、2相のステータコイル3u,3v等には、インダクタンスコイル10とステータコイル3u,3v等との合成静電容量Cpと、パルス電源装置50Bの静電容量C0との分圧比に応じた上記試験電圧(電源電圧)V0よりも低い電圧Vpが印加されることになる。また、パルス電源装置50Bからステータコイル3u,3v等へのインパルス電圧の印加が開始されると、インダクタンスコイル10のコンデンサ成分(浮遊容量)に電荷が蓄積されていき、その分だけパルス電源装置50Bからステータコイル3u,3v等に供給される電荷が目減りする。これにより、試験電圧V0をある程度大きくしても、2相のステータコイル3u,3v等の両端側(引出線側)で互いに近接した2つの単位コイル間(コイル線材としてのセグメントコイル4間)の電位差が大きくなるのを抑制することが可能となる。
【0037】
更に、パルス電源装置50Bからステータコイル3u,3v等へのインパルス電圧の印加開始後、引出線Lu,Lv等の間の電圧が例えば300V程度まで低下すると、インダクタンスコイル10のコンデンサ成分に蓄えられた電荷が放電されてステータコイル3u,3v等に付加的に印加される。これにより、
図8において実線で示すように、2相のステータコイル3u,3v等の中性点NP側(
図8中右側の領域)で互いに近接した2つの単位コイル間(コイル線材としてのセグメントコイル4間)の電位差が小さくなるのを抑制することができる。
【0038】
従って、パルス電源装置50Bを用いた絶縁検査に際しても、上記パルス電源装置50を用いた絶縁検査(
図8における破線参照)と同様に、2相のステータコイル3u,3v等の両端側で互いに近接した2つの単位コイル間の電位差と、2相のステータコイル3u,3v等の中性点NP側で互いに近接した2つの単位コイル間の電位差との差を小さくすることができる。この結果、インパルス電源であるパルス電源装置50Bを用いた絶縁検査によっても、試験電圧V0を高くし過ぎることなく、2相のステータコイル3u,3v等に対してパルス電圧を適正に印加して、当該2相のステータコイル3u,3v等の一方および双方間における部分放電の有無を精度よく判別することが可能となる。
【0039】
更に、上記パルス電源装置50B(インパルス電源)を用いた場合(
図8における実線参照)も、上記パルス電源装置50(パルス波電源)を用いた場合(
図8における破線参照)と同様に、2相のステータコイル3u,3v等の両端間でコイル線材間の電位差をステータ1の絶縁体で覆われた導体間に生じたピンホール等の表面に沿って生じる沿面放電を生じさせる電位差(
図8における二点鎖線参照)よりも大きくすることができる。これにより、パルス電源装置50Bを用いた絶縁検査によれば、ステータ1における沿面放電の有無を精度よく判別することが可能となる。また、パルス電源装置50B(インパルス電源)と共に用いられるインダクタンスコイル10としては、パルス電源装置50(パルス波電源)と共に用いられるものと同様に、5.0-60μHの範囲内のインダクタンスLと、0.04-0.40μFの範囲内の静電容量Cとを有するものが採用されるとよい。
【0040】
更に、パルス電源装置50Bを用いたステータコイル3u,3v,3wの絶縁検査に際しては、
図7において二点鎖線で示すように、ステータ1の中心孔2o内にダミーロータ15が配置されてもよい。ダミーロータ15は、例えば円盤状に形成された電磁鋼板を複数積層して積層方向に連結するか、あるいは例えば強磁性粉体を加圧成形すると共に焼結させることより、ステータ1と共に用いられるロータと同径かつ同一高さの略円柱状に形成されたものである。また、ダミーロータ15からは、永久磁石が埋設されるスロットが省略されており、当該ダミーロータ15は着磁されていない状態で使用される。かかるダミーロータ15を用いることで、ステータコア2に磁束の経路が形成されてステータコイル3u,3v,3wのインダクタンスが大きくなることから、各単位コイルUi,Vi,Wiに電圧がかかりやすくなる。
【0041】
なお、
図4および
図7に関連した実施形態では、インダクタンスコイル10として、上述のような数値範囲内のインダクタンスLおよび静電容量Cを有するチョークコイルが採用されるが、これに限られるものではない。すなわち、インダクタンスコイル10の代わりに、上述のような数値範囲内のインダクタンスLおよび静電容量Cを有する他のインダクタが採用されてもよい。
【0042】
また、
図9に示すように、バルス電源装置50または50Bを用いたステータコイル3u,3v,3wの絶縁検査に際しては、上述のような数値範囲内のインダクタンスLを有するインダクタ11が2相のステータコイル3u,3v等に対してパルス電源装置50と並列に接続され、かつ当該パルス電源装置50に対して上述のような数値範囲内の静電容量Cを有するコンデンサ12が並列に接続された状態で、パルス電源装置50から2相のステータコイル3u,3v等にパルス電圧が印加されてもよい。
図9に示すようにしてステータコイル3u,3v,3wの絶縁検査を実行しても、試験電圧V0を高くし過ぎることなく、2相のステータコイル3u,3v等に対してパルス電圧を適正に印加して、当該2相のステータコイル3u,3v等に一方および双方間における部分放電の有無を精度よく判別することが可能となる。
【0043】
更に、上記ステータ1では、ステータコイル3u,3v,3wのコイルエンド部3aの導体の露出部に絶縁用の粉体が塗布されるが、これに限られるものではない。すなわち、
図9に示すステータ1Bのように、コイルエンド部3aの導体の露出部は、環状の樹脂モールド部7により覆われてもよい。
図9のステータ1Bにおいて、それぞれ対応するスロットから突出した複数の脚部40は、径方向に隣り合う2つの脚部40の先端部41がそれぞれステータコア2の軸心(図中、一点鎖線参照)に対して傾斜すると共に周方向に沿って互いに逆向きに延在するように倒される。更に、各先端部41は、ステータコア2の径方向に隣り合う対応する他のセグメントコイル4の先端部41にレーザー溶接により電気的に接合される。これにより、ステータ1Bでは、セグメントコイル4の先端部41同士の接合部を多数含むコイルエンド部3aの軸長を大幅に短縮化することができる。そして、かかるステータ1Bに上述のパルス電源装置50,50Bを用いた絶縁検査を施すことで、2相のステータコイル3u,3v等の一方および双方間における部分放電や樹脂モールド部7内における沿面放電の有無を精度よく判別することが可能となる。
【0044】
また、ステータ1,1Bにおいて、複数相のステータコイル3u,3v,3wの各々は、互いに異なるスロット2sに差し込まれる一対の脚部40を有すると共に対応する脚部40の先端部41同士が電気的に接合される複数のセグメントコイル4により形成されるが、これに限られるものではない。すなわち、ステータ1,1Bは、それぞれステータコア2に分布巻きにより巻回された巻線(コイル線材)により形成されると共にステータ結線により結線された複数相のステータコイルを含むものであってもよい。また、ステータ1,1Bは、2Y結線、3Y結線、あるいは4Y結線により互いに結線された複数相のステータコイルを含むものであってもよい。
【0045】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示の発明は、ステータの製造分野等において利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1,1B ステータ、2 ステータコア、3a,3b コイルエンド部、3u,3v,3w ステータコイル、4 セグメントコイル、40 脚部、41 先端部、10 インダクタンスコイル(チョークコイル)、11 インダクタ、12 コンデンサ、50,50B パルス電源装置(パルス電源)、51 電圧計、52 電流計、53 オシロスコープ、55 コンピュータ、U1-U16,V1-V16,W1-W16 単位コイル。