(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063215
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】土壌微生物活性化装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20060101AFI20220414BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20220414BHJP
【FI】
C02F1/00 Z
C12N1/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120118
(22)【出願日】2021-07-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2020171443
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】317008067
【氏名又は名称】一般社団法人カクイチ研究所
(71)【出願人】
【識別番号】309015352
【氏名又は名称】株式会社カクイチ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100144130
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 実
(72)【発明者】
【氏名】田中 一明
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BB34
(57)【要約】
【課題】土壌微生物を活性化させる水を製造できる土壌微生物活性化装置を提供する。
【解決手段】土壌微生物活性化装置1は、水を通すための管状体2の面状の内壁4に、螺旋状に突設させた螺旋突条5が設けられているものである。水を循環させる循環路の経路内に、螺旋突条5を有する管状体2、循環ポンプ7及び貯水タンク8が設けられていている土壌微生物活性化装置1aとしてもよい。管状体2を、コイル状又はつづら折り状の形状としてもよい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌微生物を活性化させる水を製造するための装置である土壌微生物活性化装置であって、水を通すための管状体の面状の内壁に、螺旋状に突設させた螺旋突条が設けられていることを特徴とする土壌微生物活性化装置。
【請求項2】
前記螺旋突条は、前記内壁から前記管状体の中心までの距離を超えない高さで前記内壁に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の土壌微生物活性化装置。
【請求項3】
前記螺旋突条は、前記内壁から前記管状体の中心までの距離の1/3以上の高さで前記内壁に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の土壌微生物活性化装置。
【請求項4】
前記螺旋突条のピッチPは、前記管状体の穴の最大径Dに対して、2≦P/D≦20であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の土壌微生物活性化装置。
【請求項5】
水を循環させる循環路の経路内に、前記螺旋突条を有する前記管状体、循環ポンプ及び貯水タンクが設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の土壌微生物活性化装置。
【請求項6】
前記管状体の中を通る水が高所から低所に向かって流れるように、前記管状体が配置されていることを特徴とする請求項5に記載の土壌微生物活性化装置。
【請求項7】
前記管状体が、コイル状又はつづら折り状の形状で設けられていることを特徴とする請求項5から6のいずれかに記載の土壌微生物活性化装置。
【請求項8】
前記管状体が、前記貯水タンク内に設けられていることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の土壌微生物活性化装置。
【請求項9】
前記管状体が、容器内に設けられていることを特徴とする請求項5から8のいずれかにに記載の土壌微生物活性化装置。
【請求項10】
前記循環ポンプは、チューブポンプ又はベーンポンプであることを特徴とする請求項5から9のいずれかに記載の土壌微生物活性化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌微生物を活性化させる水を製造するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土壌微生物とは、土壌中に生息する微生物の総称である。土壌微生物は、生物遺体を分解し、自然界における物質循環に重要な役割を果たしている。
【0003】
土壌微生物の種類と効果は多岐に渡り、糸状菌、放線菌、細菌などの分類だけでなく、植物の生育に必要なタンパク質を分解する菌、デンプンを分解する菌、セルロースを分解する菌、リグニンを分解する菌など、植物に供給する栄養分別に分類することもできる。例えば、動物の糞や死骸、枯れた植物に含まれる分解しやすいデンプンや糖、タンパク質は、細菌や糸状菌などが分解する。次に分解しにくいセルロースをセルロース分解菌が分解・増殖、難分解性のリグニンを分解する微生物の存在もあるから、細かく分解は続く。このとき、エサがなくなり増殖できなくなった微生物達は胞子を出したりして休眠状態に入るか、死滅するが、この死滅した微生物を食べる微生物もいる。
【0004】
土壌微生物を活性化させること、すなわち土壌微生物の育成を促進し増殖させることは、土壌環境の向上につながり、特に植物栽培を行う農地にとって有用である。土壌微生物を活性化させるために、発酵肥料が用いられたり、土壌改質剤(例えば、特許文献1)が用いられたりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、土壌微生物の活性化について鋭意研究を行っているなか、従来にないアプローチをとることで土壌微生物を活性化できることを見出した。
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、土壌微生物を活性化させる水を製造できる土壌微生物活性化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された土壌微生物活性化装置は、土壌微生物を活性化させる水を製造するための装置である土壌微生物活性化装置であって、水を通すための管状体の面状の内壁に、螺旋状に突設させた螺旋突条が設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載された土壌微生物活性化装置は、請求項1に記載のものであり、前記螺旋突条は、前記内壁から前記管状体の中心までの距離を超えない高さで前記内壁に設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載された土壌微生物活性化装置は、請求項1または2に記載のものであり、前記螺旋突条は、前記内壁から前記管状体の中心までの距離の1/3以上の高さで前記内壁に設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載された土壌微生物活性化装置は、請求項1から3のいずれかに記載のものであり、前記螺旋突条のピッチPは、前記管状体の穴の最大径Dに対して、2≦P/D≦20であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載された土壌微生物活性化装置は、請求項1から4のいずれかに記載のものであり、水を循環させる循環路の経路内に、前記螺旋突条を有する前記管状体、循環ポンプ及び貯水タンクが設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載された土壌微生物活性化装置は、請求項5に記載のものであり、前記管状体の中を通る水が高所から低所に向かって流れるように、前記管状体が配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載された土壌微生物活性化装置は、請求項5から6のいずれかに記載のものであり、前記管状体が、コイル状又はつづら折り状の形状で設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載された土壌微生物活性化装置は、請求項5から7のいずれかに記載のものであり、前記管状体が、前記貯水タンク内に設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載された土壌微生物活性化装置は、請求項5から8のいずれかに記載のものであり、前記管状体が、容器内に設けられていることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載された土壌微生物活性化装置は、請求項5から9のいずれかに記載のものであり、前記循環ポンプは、チューブポンプ又はベーンポンプであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の土壌微生物活性化装置によれば、水を通すための管状体の面状の内壁に、螺旋状に突設させた螺旋突条が設けられていることで、土壌微生物を活性化させる水を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を適用する土壌微生物活性化装置の斜視図である。
【
図2】本発明を適用する土壌微生物活性化装置の側面図(a)及び断面図(b)である。
【
図3】本発明を適用する別の土壌微生物活性化装置の構成を示す模式図である。
【
図4】本発明を適用するさらに別の土壌微生物活性化装置の構成を示す模式図である。
【
図5】実施例及び比較例の環境DNA測定試験1の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例及び比較例のコマツナ栽培試験の結果を示すグラフである。
【
図7】コマツナ栽培試験で栽培したコマツナの成分を示すグラフである。
【
図8】環境DNA測定試験2に使用した管状体2(実施例)の断面図である。
【
図9】螺旋突条のピッチPおよび螺旋突条高さhを変更した実施例、及び比較例の環境DNA測定試験2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
図1に、本発明を適用する土壌微生物活性化装置1の斜視図を示す。この土壌微生物活性化装置1は、土壌微生物を活性化させる水を製造するための装置であって、水を通すための管状体2の面状の内壁4に、螺旋状に突設させた螺旋突条5が設けられているものである。以下、具体的に説明する。
【0022】
管状体2は、管路である。管状体2の長さは任意であり特に限定は無いが、長い方が水の通る距離が長くなるため好ましい。管状体2は、真っすぐな形状であってもよいし、後述するようにコイル状やつづら折り状の形状であってもよいし、不定形であってもよい。
【0023】
管状体2の穴3の横断面形状は、円形に形成されている。穴3の横断面形状は、楕円形、多角形であってもよい。
【0024】
管状体2の内壁4は、凹凸の少ない面状に形成されている。この内壁4に、螺旋状に突設させた螺旋突条5が設けられている。この例では、螺旋突条5は、管状体2の一端から他端まで連続的に設けられている。なお、螺旋突条5は、管状体2の一端から他端まで断続的に設けられていてもよいし、部分的に設けられていてもよい。螺旋突条5の旋回方向は、同図に示すように、右手巻きであってもよいし、逆の左手巻きであってもよい。また、螺旋突条5の旋回方向を途中で反転させてもよいし、旋回方向の反転を繰り返しても良い。螺旋突条5は、同図に示すように、1条だけ設けてもよいし、複数条設けてもよい。
【0025】
管状体2の材質に限定は無く、樹脂、金属、木材、ガラス、陶器など任意の材質を用いることができる。螺旋突条5の材質に限定は無く、樹脂、金属、木材、ガラス、陶器など任意の材質を用いることができる。管状体2及び螺旋突条5が、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。管状体2及び螺旋突条5が同じ材質で一体的に形成されていると、製造しやすいため好ましい。樹脂を素材とする場合、押出成形、射出成形などで形成すればよい。管状体2及び螺旋突条5が柔軟性を有して管状体2を巻いたり自在に曲げたりすることができものであってもよいし、管状体2及び螺旋突条5が強硬性を有して変形しないものであってもよい。
【0026】
図2(a)に土壌微生物活性化装置1の側面図を示し、
図2(b)に土壌微生物活性化装置1の横断面図を示す。
【0027】
内壁4からの螺旋突条5の高さhに限定は無いが、
図2(b)に示すように、螺旋突条5は、内壁4から管状体2の中心Cまでの距離rを超えない高さで内壁4に設けられていることが好ましい。これにより管状体2の中心に管状空隙K(
図8参照)が形成される。管状空隙Kとは、管状体2の端部から端部までの間で、螺旋突条5が形成されていない中心C付近に生じる仮想的な筒状の空間である。
図8に示した破線内が管状空隙Kである。管状体2を真っすぐにして端から覗いたときに、管状空隙Kに螺旋突条5が侵入しないため、螺旋突条5で視界が遮られることなく、管状空隙Kを通して管状体2の反対側が視認できる。
【0028】
管状体2の穴3が円形である場合、内壁4から管状体2の中心Cまでの距離rは、穴3の半径である。
このことは下式で表される。
螺旋突条5の高さh < 内壁4から中心Cまでの距離r
【0029】
螺旋突条5の高さhが内壁4から中心Cまでの距離r以上になると、螺旋突条5による水流への影響が強くなり、水は螺旋状の渦になって流れる。一方、螺旋突条5の高さhが内壁4から管状体2の中心Cまでの距離rを超えない高さで形成されていると、管状体2の内壁4近くの水は螺旋突条5によってガイドされて螺旋状の渦になり、穴3の中心C付近の水は螺旋突条5によってガイドされずに層流のように真っすぐ進もうとする。このため、管状体2の中で螺旋状の渦の水流と直進しようとする水流が作用し合って、水の捻りや螺旋回転、乱流が適度に生じる。このような動きをした水が、土壌微生物に好影響をもたらすのではないかと考えている。
【0030】
螺旋突条5は、内壁4から管状体2の中心Cまでの距離の1/3以上の高さで内壁4に設けられていることが好ましい。
つまり、下式になる。
内壁4から中心Cまでの距離r×1/3 ≦ 螺旋突条5の高さh
【0031】
螺旋突条5の高さhが低すぎると、螺旋突条5による水流への影響が弱くなり、螺旋状の渦が生じにくくなるため、螺旋突条5の高さhは距離rの1/3以上であることが好ましい。
【0032】
上記の条件を合わせると、好ましい範囲は下式になる。
距離r×1/3 ≦ 螺旋突条5の高さh < 距離r
【0033】
なお、管状空隙K(
図8参照)が小さすぎると、中心C付近の層流のように真っすぐ進もうとする水流の作用が小さくなってしまう。ピッチPなどの他の影響にもよるが、螺旋突条5の高さhは、内壁4から中心Cまでの距離rの9/10以下であることが好ましく、距離rの4/5以下であることがより好ましく、距離rの3/4以下であることがさらにより好ましく、距離rの2/3以下であることが最も好ましい。
これらを、下に行くほど好ましくなる順で示すと下式になる。
距離r×1/3 ≦ 螺旋突条5の高さh ≦ 距離r×9/10
距離r×1/3 ≦ 螺旋突条5の高さh ≦ 距離r×4/5
距離r×1/3 ≦ 螺旋突条5の高さh ≦ 距離r×3/4
距離r×1/3 ≦ 螺旋突条5の高さh ≦ 距離r×2/3
【0034】
なお、螺旋突条5の高さhは一定であっても不定であってもよい。螺旋突条5の高さhは、必要性に応じて適宜決めればよい。
【0035】
螺旋突条の幅Wに限定はなく、水の流量に極端に影響を及ぼさない幅であればよい。
【0036】
図2(a)中に、螺旋突条5の先端の位置を突条先端Tとして示す。同図中に、螺旋突条5の内壁4に接する基部の位置を突条基Fとして示す。
【0037】
螺旋突条の回転ピッチPに限定は無いが、管状体2の穴3の最大径Dに対して、P/D≦20であることが好ましい。穴3が円形である場合、管状体2の内壁4の最大径Dは、穴3の直径である。
【0038】
ピッチPが最大径Dに対して長すぎると、螺旋突条5による水流への影響が弱くなり、螺旋状の渦の水流が生じにくくなるためである。また、螺旋突条5による水流への影響が強くなりすぎないように、2≦P/Dであることが好ましい。
上記の条件を合わせると、好ましい範囲は下式になる。
2≦ P/D ≦20
【0039】
次に、この土壌微生物活性化装置1の使用方法について説明する。
【0040】
管状体2の一端を、例えば、水道の蛇口やポンプなど、任意の水源に接続する。水源から流れ出る水は、管状体2を通る際に螺旋突条5の影響を受け、管状体2の他端から流れ出る。管状体2を通った水(以下、処理水という)を、土壌微生物を活性化させたい土壌に与える。処理水の土壌への与え方は任意であり、土壌微生物活性化装置1で土壌に散水してもよいし、滴加するようにしてもよい。土壌微生物活性化装置1を土壌中に埋設して、土壌中に滲み出させてもよい。重要なのは、土壌微生物が増殖しやすい水分量になるように処理水を与えることである。処理水を与える量は少なすぎても多すぎてもいけない。
【0041】
このような方法で土壌微生物を活性化できることは今まで知られていなかったので信じ難いかもしれない。しかしながら、土壌微生物活性化装置1を通した水(処理水)を土壌に与えるだけで、水道水のような通常の水(通常水)を与える場合と比較して、土壌微生物を活性化させることができるのである。
【0042】
次に、本発明を適用する別の土壌微生物活性化装置1aについて説明する。なお、既に説明した構成と同様の構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0043】
図3に、土壌微生物活性化装置1aを示す。土壌微生物活性化装置1aは、水を循環させる循環路の経路内に、螺旋突条5を有する管状体2、循環ポンプ7及び貯水タンク8が設けられているものである。つまり、この土壌微生物活性化装置1aは、前述した土壌微生物活性化装置1と、循環ポンプ7及び貯水タンク8とを組み合わせたものである。以下、具体的に説明する。
【0044】
管状体2の一端(図の上部側)は管路12の他端に接続され、管路12の一端は循環ポンプ7の送出口72に接続されている。管状体2の他端(図の下部側)は、貯水タンク8内に挿入されている。管路11の一端(吸入口)は貯水タンク8内に挿入されており、管路11の他端が循環ポンプ7の吸入口71に接続されている。このように水の循環路を形成することで、管状体2に水を何度も通すことができる。
【0045】
管状体2を配置する向きに限定は無いが、管状体2の中を通る水が高所から低所に向かって流れるように、管状体2が配置されていることが好ましい。水が管状体2の中を重力に逆らわずに流れることで、水に不必要な力が加わることを防止できるためと考えている。言い換えると、水が重力方向に流れるように、つまり、流れる水にとって管状体2内に上り坂となる部分が無いような向き(角度、形状)で管状体2を配置することが好ましいといえる。
【0046】
この例のように、真っすぐな形状の管状体2が直立状態で配置されていて、水が管状体2の上部(一端)から下部(他端)に向かって流れるように配置されていることが最も好ましいが、水が高所から低所に流れるようになっていれば管状体2の形状や向きに限定は無い。例えば、管状体2が斜めになるように配置されていてもよいし、管状体2が後述するコイル状又はつづら折り状で配置されていてもよいし、管状体2が不規則な形状で配置されていてもよい。なお、必要性に応じて、循環ポンプ7の圧送する水圧で、管状体2の中を通る水が低所から高所に向かって流れるように管状体2を配置してもよい。管状体2が水平状態になるように配置してもよい。
【0047】
この例では、管状体2及び螺旋突条5は可撓性を有する樹脂で形成されている。一例として、管状体2をアクリル製の硬質管21に挿入し、支持台91のクランプ92で把持して、管状体2(硬質管21)が直立状態になるように設けている。このように硬質管21に管状体2を挿入することで、可撓性を有する管状体2を真っすぐかつ直立状態に形状を保持することができる。必要性に応じて、管状体2を任意の形状で保持するようにしてもよい。
【0048】
循環ポンプ7は、水を循環させるためのポンプである。循環ポンプ7は、吸入口71から水を吸入し、送出口72から水を送出するものである。循環ポンプ7に限定は無いが、循環ポンプ7として、流体に強いひねりや回転を与えないチューブポンプ又はベーンポンプを用いることが好ましい。チューブポンプ、ベーンポンプは水を押し出すように送出するため、処理水を回転フィン等で過度にかき混ぜることなく循環させることができるため、処理水への影響を少なくできる。
【0049】
なお、循環ポンプ7として、非容積式ポンプ又は容積式ポンプを使用してもよい。非容積式ポンプの例として、渦巻ポンプ・タービンポンプなどの遠心ポンプや、軸流ポンプ・斜流ポンプなどのプロペラポンプや、カスケードポンプなどの粘性ポンプが挙げられる。容積式ポンプの例として、ピストンポンプ・プランジャーポンプ・ダイヤフラムポンプなどの往復動ポンプや、ギアポンプ・スクリューポンプなどの回転ポンプが挙げられる。上述したベーンポンプは容積式ポンプ(回転ポンプ)である。
【0050】
循環ポンプ7はコントローラ15で動作を制御可能である。循環ポンプ7の動作開始時間、動作終了時間、動作期間、休止期間、動作日などを任意に設定できる。
【0051】
貯水タンク8は、水を貯水するための容器である。貯水タンク8の容量、形状、材質等は任意である。
【0052】
管路11、管路12は、管内に螺旋突条の無い、通常の管路である。なお、管路11、管路12として、螺旋突条5付きの管状体2を用いてもよい。
【0053】
次に、土壌微生物活性化装置1aの動作について説明する。
【0054】
先ず、貯水タンク8に水を入れる。水は、水道水、農業用水、河川の水など任意の水を使用できる。続いて、コントローラ15を操作して、循環ポンプ7の動作を開始させる。
【0055】
循環ポンプ7が作動すると、貯水タンク8内の水が管路11を通って循環ポンプ7の吸入口71に吸い込まれ、送出口72から送出される。循環ポンプ7から送出された水は、管路12を通り、管状体2の一端から管状体2に入り、管状体2を通って、他端から貯水タンク8内に処理水が放出される。循環ポンプ7が作動している間、水はこの循環路を循環し続ける。
【0056】
水が循環することで、水(処理水)は管状体2を何回も通る。このため、1回だけ通る場合に比べて、管状体2(土壌微生物活性化装置1)の影響が大きくなる。水が管状体2を通る回数が多くなるほど、管状体2の影響はさらに大きくなる。管状体2を通る回数が増えるほど、処理水はより好ましいものになる。
【0057】
貯水タンク8内の処理水を土壌に与えることで、土壌微生物を活性化させることができる。
【0058】
次に、本発明を適用するさらに別の土壌微生物活性化装置1bについて説明する。なお、既に説明した構成と同様の構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0059】
図4に、土壌微生物活性化装置1bを示す。土壌微生物活性化装置1bは、水を循環させる循環路の経路内に、螺旋突条5を有する管状体2(土壌微生物活性化装置1)、循環ポンプ7及び貯水タンク8が設けられているものである。さらに、土壌微生物活性化装置1bは、管状体2が、コイル状又はつづら折り状の形状で設けられているものである。さらに、土壌微生物活性化装置1bは、管状体2の中を通る水が高所から低所に向かって流れるように、管状体2が配置されているものである。さらに、土壌微生物活性化装置1bは、管状体2が貯水タンク8内に設けられているものである。さらに、土壌微生物活性化装置1bは、管状体2が、容器23内に設けられているものである。以下、具体的に説明する。
【0060】
容器23は、貯水タンク8とは別のものであり、内部に管状体2及び処理水の入る空間を有する容器である。容器23は、一例として、上部側に開口部を有する容器であり、例えばバケツのような有底筒状の容器である。この容器23の筒状の内壁に沿わせるように、コイル状の形状に巻かれた管状体2(土壌微生物活性化装置1)が設けられている。コイル状の管状体2の一端Aは容器23の上部に位置し、他端Bは容器23の下部(底)に位置するように配置されている。管状体2の一端Aは、循環ポンプ7の送出口72の下流側に接続されている。管状体2の他端Bは、開放端になっている。
【0061】
管状体2を貯水タンク8内に配置することで、装置の全体的な大きさをコンパクトにすることができる。
【0062】
貯水タンク8には、処理水を取り出しやすくするために、貯水タンク8の下部に出力管31が設けられている。出力管31は管路である。出力管31の途中に、開閉バルブ32が設けられている。
【0063】
次に、土壌微生物活性化装置1bの動作について説明する。
【0064】
貯水タンク8に入れられた水は、循環ポンプ7が作動すると、既に説明した土壌微生物活性化装置1aと同様に、循環ポンプ7、管路12、螺旋突条5を有する管状体2、貯水タンク8、管路11、循環ポンプ7の順に循環する。
【0065】
管状体2(土壌微生物活性化装置1)をコイル状に巻くことで、全長を長くすることができるため、管状体2及び螺旋突条5の影響を水に多く与えることができる。コイル状の管状体2の中を通る水が高所から低所に向かって流れるように、管状体2が配置されているため、水に無理な力が加わらない。
【0066】
管状体2を通った処理水は、他端Bから容器23内の底側に出力される。処理水は、同図中の矢印で示されるように、容器23の底側から上部開口を乗り越えて出て、他の貯水タンク8内の水と混ざり合い、管路11の吸入口(一端)から吸い込まれて循環する。このため、処理水が移動する貯水タンク8内の経路が長くなるため、全体的に処理水が均一化しやすくなる。
【0067】
貯水タンク8内に位置する管路11の吸入口は、容器23の上部開口の高さよりも低い位置(貯水タンク8の底側)に配置されていると、処理水が移動する経路が長くなるため、処理水がより均一化しやすくなり、好ましい。
【0068】
処理水が十分に循環した後、開閉バルブ32を開き、処理水を土壌に潅水することで、土壌微生物を活性化させることができる。
【0069】
開閉バルブ32として電磁バルブを用いて、開閉バルブ32の開閉動作をコンピュータ等で制御することで、土壌に与える処理水の量を自動的に制御するようにしてもよい。例えば、所定の時間間隔で所定量の処理水を与えてもよいし、土壌の水分量が所定閾値以下になったときに水分量が規定値になるように処理水を与えるようにしてもよい。
【0070】
なお、容器23の形状は任意である。容器23に開口部がある場合、開口部の位置は上部に限らず、側部(横)にあってもよく、下部にあってもよい。
【0071】
容器23を用いずに、コイル状の管状体2を貯水タンク8内に直接入れるように配置してもよい。この場合、貯水タンク8の内壁に沿わせて管状体2をコイル状に巻くように配置してもよい。また、微生物活性化装置1aのように、容器23を用いずにコイル状の管状体2を貯水タンク8の外部に配置してもよい。また、容器23に入れた管状体2を、貯水タンク8の外部に配置して、容器23と貯水タンク8とを管路で接続するようにしてもよい。
【0072】
また、コイル状の形状の管状体2について説明したが、つづら折り状の形状の管状体2を用いてもよい。つづら折り状にすることで、管状体2の全長を長くすることができる。
【実施例0073】
[環境DNA測定試験1]
実施例として、土壌微生物活性化装置1(
図1,2参照)を試作し、この土壌微生物活性化装置1を用いて土壌微生物活性化装置1aを試作した(
図3参照)。管状体2の長さ1m、管状体2の穴3の断面形状は円形、管状体2の内径D=15mm、管状体2の外径19mm、螺旋突条5の高さh=5.5mm、螺旋突条の幅W=3mm、螺旋突条5のピッチP=65mmである。管状体2及び螺旋突条5は軟質ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂製であり、押出成形で製造することで一体的に形成した。前述したように、管状体2を硬質管21に挿入して直立状態に保持した。
【0074】
循環ポンプ7としてチューブポンプを使用した。チューブポンプとして、ツカサ電工株式会社製の型名PT-EP1-1000-KA、24V、吐出量1L/分(流量固定)を使用した。
【0075】
比較例として、土壌微生物活性化装置1aから管状体2(土壌微生物活性化装置1)を無くした装置を試作した。
図3に示す管路12の他端部を貯水タンク8に挿入するように配置した装置である。他の条件は土壌微生物活性化装置1aと同様である。
【0076】
土壌微生物の総量の確認試験を、一般社団法人SOFIX農業推進機構(滋賀県草津市野路東1丁目1-1 立命館大学びわこ・草津キャンパス テクノコンプレクス内)に依頼した。試験に使用する土壌は、一般社団法人SOFIX農業推進機構で使用されている標準土壌を用いた。
【0077】
試験方法は、実施例の土壌微生物活性化装置1aの循環ポンプ7を稼働時間15分、インターバル(休止期間)75分を繰り返すように作動させ、貯水タンク8内に処理水が貯水されている状態にしておく。比較例の土壌微生物活性化装置1を有しない装置の循環ポンプを同条件で作動させ、貯水タンク8内に通常の水(以下、通常水という)が貯水されている状態にしておく。処理水、通常水どちらも、最初に貯水タンク8に入れる水は、同じ水道水を使用した。
【0078】
実施例として、標準土壌200gに対して、含水率20~30%を維持するように処理水を添加した。比較例も同様に通常水を添加した。1週間ごとに、標準土壌中に含まれる環境DNA(eDNA)の量を測定した。環境DNAとは、サンプル中に含まれる生物由来のDNAである。環境DNAの量が多いほど、土壌微生物の量が多いといえる。
【0079】
試験開始日は、令和元年4月1日であり、実施例、比較例ともに屋内の同じ場所、同じ期間、同一環境下で試験を行った。
【0080】
試験結果を
図5に示す。最初は実施例、比較例ともに環境DNAはほぼ同数であった。一週間後に環境DNAは実施例、比較例いずれも増加したが、実施例の方が比較例の約2倍の量まで増加した。2~4週間後でも実施例の方が比較例の約2倍の量であった。この結果から、処理水のほうが通常水よりも土壌微生物を活性化させる作用があるといえる。一般社団法人SOFIX農業推進機構では、再現性試験を実施して試験結果が正しいことを確認している。
【0081】
なぜ処理水の方が通常水よりも土壌微生物を活性化できるのか、その理論は分かっていない。しかしながら、測定データは、処理水が土壌微生物を活性化できることを示している。
【0082】
なお、3~4週間後の環境DNAの量が、2週間後の量よりも減少傾向にあるのは、土壌微生物が土壌中の栄養分を分解してしまい、栄養分が少なくなってしまったためと考えられる。
【0083】
[コマツナ栽培試験]
実施例として処理水でコマツナの栽培試験を行った。比較例として通常水でコマツナの栽培試験を行った。栽培試験は、一般社団法人SOFIX農業推進機構に依頼した。試験に使用する土壌は、一般社団法人SOFIX農業推進機構で使用されている標準土壌を用いた。
【0084】
実施例、比較例ともに環境DNA測定試験と同様に、処理水、通常水を製造した。
【0085】
ワグネルポット(1/5000a)に実施例、比較例ともに3株ずつコマツナを定植した。含水率が30%になるように、実施例では処理水を、比較例では通常水を、2日に1回潅水した。栽培期間は1か月とした。
【0086】
図6に、試験結果を示す。実施例の方が、比較例よりも、葉の長さ、根の長さ、葉の重量、根の重量いずれも値が大きくなった。つまり、実施例の方が、比較例よりも成長が促進されているといえる。この結果は、土壌微生物が活性化したためではないかと推測される。
【0087】
上記の栽培試験で栽培したコマツナの成分を測定した。測定結果を
図7に示す。同図には、通常水の値を100としたときの相対値を示している。
【0088】
炭素、窒素、リン、カリウム、カルシウムは、いずれも実施例の方が比較例よりも、値が大きくなった。この結果は、土壌微生物が活性化したためではないかと推測される。
【0089】
[環境DNA測定試験2]
実施例として、螺旋突条5のピッチPのみを変更して製造した3種、およびピッチPと螺旋突条の高さhを変更して製造した1種、計4種の管状体2を用いて、4種の土壌微生物活性化装置1aを試作した。その循環ポンプ7には、チューブポンプであるウェルコ社製の型名WP3K-NF13*24B11-WT130-BSRを使用した。このチューブポンプは、最大吐出量が8L/分の物であり、流量計を用いて5L/分に調整して使用した。連続運転で処理を行った。
【0090】
4種の管状体2の螺旋突条5のピッチP、螺旋突条の高さh以外の寸法や材質等の条件は環境DNA測定試験1と同様である。また、土壌微生物活性化装置1aの循環ポンプ7以外の条件は、環境DNA測定試験1と同様である。
【0091】
比較例として、土壌微生物活性化装置1aの管状体2に替えて、螺旋突条の無い管状体を用いた装置を試作した。比較例の管状体として、一般的な内面平滑の透明チューブを流用した。比較例の管状体の他の条件は管状体2と同様である。
【0092】
実施例の4種の管状体2における螺旋突条5のピッチP、P/D、螺旋突条の高さh、管状空隙Kの直径Sは以下のとおりである。なお、管状体2の内径D=15mmである。
P=40mm、P/D≒2.7、h=5mm、S=5mm(P40と表記する)
P=70mm、P/D≒4.7、h=5mm、S=5mm(P70と表記する)
P=150mm、P/D=10、h=5mm、S=5mm(P150と表記する)
P=65mm、P/D≒4.3、h=6.5mm、S=2mm(P65と表記する)
比較例を、TBと表記する。
図8に、実施例に使用した管状体2の横断面図を示す。
図8(a)は、P40,P70,P150である。
図8(b)は、P65である。
【0093】
処理水の製造方法は、P40、P65、P70、P150、TBの各々を用いた土壌微生物活性化装置1aにて、試験期間中、循環ポンプ7を常時作動させて水を常時循環させ、貯水タンク8内に処理水が貯水されている状態にした。最初に貯水タンク8に入れる水は、水道水18lを使用した。水は、流速5m/minで循環させた。
【0094】
処理水を土壌に与え、土壌微生物の総量の変化を確認する環境DNA測定試験を行った。試験開始日は、令和3年2月1日であり、実施例、比較例ともに屋内の同じ場所、同じ期間、同一環境下で試験を行った。エア・コンディショナーで室温23℃に維持した。環境DNA測定試験2では、試験を自社で行い、環境DNAの量の測定を一般社団法人SOFIX農業推進機構に依頼した。実施例4種、比較例1種の各々の試験ポットには、同じ標準土壌から取り分けた3kgの標準土壌(培土)を入れた。
【0095】
試験方法は、P40、P65、P70、P150、TBの各々で製造した処理水を、各々の試験ポットの標準土壌に対して含水率30%を維持するように添加した。毎週 月、水、金曜日に試験ポットの重量を計測し、減量分の処理水をガラスシリンジで潅水した。週ごとに各試験ポットから60gの試験培土をサンプリングして、環境DNAを測定した。サンプリングする際に、試験ポット内の試験培土が不用意に撹拌されないよう注意した。
【0096】
試験結果を
図9に示す。最初は実施例4種、比較例ともに環境DNAは同数であった。一週間後、二週間後ともに、環境DNAは、実施例の方が比較例よりも多くなった。ピッチP40mm(P40)、ピッチP65mm(P65)よりも、ピッチP70mm(P70)、ピッチP150mm(P150)の方が、環境DNAの増加量が大きくなった。このことから、螺旋突条5のピッチPがある程度大きい方が、環境DNAの増加量が大きくなると考えられる。
【0097】
また、P65(h=6.5、S=2)とP70(h=5、S=5)の比較から管状体2の中心付近の管状空隙Kが小さくなると環境DNAの増加が低くなると考えられる。h=rの場合、管状空隙Kは0となる。つまり、管状空隙Kが大きいほうが好ましいと考えられる。
1・1a・1bは土壌微生物活性化装置、2は管状体、3は穴、4は内壁、5は螺旋突条、7は循環ポンプ、8は貯水タンク、11・12は管路、15はコントローラ、21は硬質管、23は容器、31は出力管、32は開閉バルブ、71は吸入口、72は送出口、91は支持台、92はクランプ、Aは管状体2の一端、Bは管状体2の他端、Cは管状体2の穴3の中心、Dは管状体2の穴3の最大径、Fは突条基、hは螺旋突条の高さ、Kは管状空隙、Pは螺旋突条のピッチ、rは内壁4から管状体2の中心Cまでの距離、Sは管状空隙の直径、Tは突条先端、Wは螺旋突条の幅である。
土壌微生物を活性化させる水を製造するための装置である土壌微生物活性化装置であって、水を通すための管状体の面状の内壁に、螺旋状に突設させた螺旋突条が設けられていて、
水を循環させる循環路の経路内に、前記螺旋突条を有する前記管状体、循環ポンプ及び貯水タンクが設けられており、
前記管状体が、コイル状又はつづら折り状の形状で設けられていることを特徴とする土壌微生物活性化装置。
前記螺旋突条は、前記内壁から前記管状体の中心までの距離の1/3以上の高さで前記内壁に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の土壌微生物活性化装置。
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された土壌微生物活性化装置は、土壌微生物を活性化させる水を製造するための装置である土壌微生物活性化装置であって、水を通すための管状体の面状の内壁に、螺旋状に突設させた螺旋突条が設けられていて、水を循環させる循環路の経路内に、前記螺旋突条を有する前記管状体、循環ポンプ及び貯水タンクが設けられており、前記管状体が、コイル状又はつづら折り状の形状で設けられていることを特徴とする。