(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063245
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】フィルム引張要素
(51)【国際特許分類】
A61C 5/90 20170101AFI20220414BHJP
【FI】
A61C5/90
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021164703
(22)【出願日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】20200962.7
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】596032878
【氏名又は名称】イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】マルクス リヒテンシュタイガー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター ポコルニー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ミュラー
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052FF07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】患者の口腔内の歯科処置を実施するためのフィルム引張要素を提供する。
【解決手段】フィルム引張要素10は、前庭リング16と口唇リング14を備えていて、それらの間および場合によってそれらを超えて、それらのリングによって引張して保持されるフィルム12が、特に実質的にリング形状あるいは管状に延在し、その際フィルムとリングが弾力的に変形可能である。フィルム12が前記口唇リング14と前庭リング16の間の軌道内の少なくとも一領域内に半径方向内側に向かって延在するネッキング18を備え、少なくとも前記領域内においてフィルムが無圧力かつそのフィルムの内面と外面の間で一体式に形成され、特に付着物および/または挿入物を有さない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前庭リング(16)と口唇リング(14)を備えていて、それらの間および場合によってそれらを超えて、それらのリング(14,16)によって引張して保持されるフィルム(12)が延在し、その際前記フィルムとリングが弾力的に変形可能である、特に患者の口腔内の歯科処置を実施するためのフィルム引張要素であって、前記フィルム(12)が前記口唇リング(14)と前庭リング(16)の間の軌道内の少なくとも一領域内に半径方向内側に向かって延在するネッキング(18)を備え、少なくとも前記領域内において前記フィルム(12)が無圧力かつそのフィルムの内面(36)と外面(38)の間で一体式に形成され、特に付着物および/または挿入物を有さないことを特徴とするフィルム引張要素。
【請求項2】
フィルム(12)が口唇リング(14)と前庭リング(16)の間の領域内で実質的に一定、すなわち偏差が±20%以内の厚み、特に一定の厚みを有し、および/またはフィルム(12)がネッキング(18)上でリング(14,16)上よりも小さな直径を有することを特徴とする請求項1に記載のフィルム引張要素。
【請求項3】
ネッキング(18)の領域がリング形状あるいは部分リング形状であることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム引張要素。
【請求項4】
ネッキング(18)の領域が前庭リング(16)と口唇リング(14)の間の距離の99%未満でかつ30%超にわたって延在することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項5】
ネッキング(18)の深さ(34)が、特に半径方向内側に向かって見て、フィルム(12)の周囲に沿って異なることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項6】
ネッキング(18)の深さ(34)が頬に対応する位置で最も大きくなることを特徴とする請求項5に記載のフィルム引張要素。
【請求項7】
ネッキング(18)の深さ(34)が口の中央に対応して、すなわち矢上面とその周囲の、所定の位置で最も大きくなることを特徴とする請求項5に記載のフィルム引張要素。
【請求項8】
ネッキング(18)がフィルム(12)を半径方向内側に向かって無圧力で塑形し、および/またはネッキングの最も大きな深さ(34)の位置がリング(14,16)間の中央にあるか、または中央から口唇リング(14)に向かって偏倚することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項9】
フィルム(12)が、口唇リング(14)と前庭リング(16)を介した断面で見て、無緊張の状態において一種の懸垂線の形式で延在するか、またはフィルム(12)が、フィルム引張要素(10)の軸(40)と平行な縦断面で見て、実質的に一種のV字(20)の形式で延在することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項10】
フィルム(12)を射出成形方法、プレス方法、ディップ成形方法、あるいは吹込み成形方法によって製造することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項11】
フィルム(12)が口唇リング(14)と前庭リング(16)の間で、フィルムの周囲に沿って見て、異なった厚みを有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項12】
フィルム(12)のネッキング(18)がフィルム(12)の最大厚の少なくとも5倍、特に少なくとも10倍、最も好適には少なくとも15倍である最大の深さ(34)を有することを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項13】
フィルム(12)がネッキング(18)上でフィルムの周囲に沿って見て異なる厚み、すなわち壁厚を有することを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項14】
フィルム(12)が、特に有限要素法による計算を考慮して決定される、網構造を有することを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載のフィルム引張要素。
【請求項15】
網の目が網の格子に比べて小さな壁厚を有することを特徴とする請求項14に記載のフィルム引張要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、請求項1前文に記載のフィルム引張要素に関する。
【背景技術】
【0002】
その種のフィルム引張要素は、10年以上前からオプトラゲートの商品名で、患者の口腔内の歯科治療に際して患者の口内への自由なアクセスを可能にするために有効に使用されている。フィルム引張要素は、前庭リングと口唇リングから形成され、それらの間にフィルムが延在する。その要素においてフィルムは両方のリングに対して摺動可能に取り付けられ、弾力性である。アレルギー反応を防止するために、フィルムがラテックス不使用で形成される。
【0003】
さらに、特許文献1により、フィルムに弾力性ベルトが内蔵されたフィルム引張要素が知られている。その弾力性ベルトがフィルムを二重化し、従ってその部分でフィルムと引張要素の組み合わせがその他のフィルム部分、すなわちフィルム単体の部分に比べてより大きな引張力を有する。半径方向内側を指向するフィルムに対する弾力性ベルトの引張によって(弾力性ベルトとフィルムのいずれにも)収縮が生じ、従って半径方向外側を指向する口唇に対する圧力が低下する。
【0004】
前記の実施形態は、上記文献に記載されている他の実施形態と比べて、製造に際して比較的複雑で高コストであるという難点を有する。加えて、弾力性ベルトがフィルムおよびバンド内で恒久的な圧力として作用する。貯蔵期間中に前記の収縮作用が減衰して機能を喪失することがあり得る。
【0005】
弾力性ベルトのフィルムへの統合は、例えば周回式の溶接によって可能である。しかしながら、半径方向内側に指向する締付け圧力がひだの形成につながり、そのため二重化した弾力性ベルトによる解決方式は普及しておらず、むしろ前述した特許文献に開示されている他の実施形態が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3666221号(A1)明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、フィルム引張要素の装着性能を改善する、請求項1の前文に記載のフィルム引張要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題は、本発明に従って請求項1によって解決される。従属請求項によって好適な追加構成が定義される。
【0009】
意外なことに、一方でフィルム自体が半径方向内側に向かって延在するネッキングを備え、他方でフィルムを無圧力に形成、すなわちフィルム内のネッキングが無圧力で自律的に発生し、フィルムを肉厚にする弾力性ベルトを使用して圧力を生成する必要が無いようにする、本発明に係る手段の組み合わせによって、ひだは形成されず、それにもかかわらず半径方向外側を指向する圧力が口唇に作用することが無いという利点が達成される。
【0010】
意外なことに、材料の節約を可能にするという利点も達成される。フィルムは、それの延長にわたって均一な材料厚を有することができ、そのため前述した特許文献1の
図6に示された実施形態や、さらにフィルム引張要素をリングのうち一方の上に保持した際に前庭リングと口唇リングの間に円錐台形状にフィルムが延在する前記オプトラゲートの典型的な解決方式と比べても、材料の節約が達成される。
【0011】
このフィルム引張要素は大量生産品である。従って、量産技術の観点から材料の節約が重要であり、それによって製造コストの著しい削減が可能になる。
【0012】
フィルムは周知の方式でリング状あるいは管状に口唇リングと前庭リングの間に延在する。好適な構成形態によれば、ネッキングが部分的に周回して設けられる。開いた口が実質的に楕円形を有することが知られている。この形状は、ネッキングを中央にすることによって考慮することができ、すなわち例えば、口内に挿入されたフィルム引張要素において上方および下方の四分円にわたって延在させ、側方の両方の四分円の領域にはネッキングを設けないようにする。それによって極めてスキャンし易い構造を実現することができ、患者の口の側方領域をスキャンすることも可能になる。
【0013】
フィルムの材料厚がフィルム全体にわたって均一であることが好適である。
【0014】
材料厚は例えば0.1mmないし1mmとすることができ、好適には0.3ないし0.4mmである。子供に提供するフィルム引張要素のフィルムの材料厚は、幾らか小さく、例えば0.2ないし0.3mmとすることが好適である。それによってフィルムの引張力が削減され、また意外なことにそのような本発明に係るフィルム引張要素の小さ目の構成においてもひだが全く発生しないか、せいぜい極僅かなひだしか発生しない。
【0015】
本発明によれば、ネッキングが形成される場所を必要に応じて広範囲に調節し得ることも極めて好適である。好適な構成形態によれば、口唇リングよりも前庭リングにより強く近接してネッキングが延在する。それによって、前庭リングを比較的小さな直径に形成することが可能になり、そのことも材料の節約につながる。その直径の縮小は例えば10ないし20%になり得る。
【0016】
別の構成形態によれば、ネッキングが口唇リングの近くに設けられる。
【0017】
フィルムが付着物および/または挿入物を有さないことによって、荷重された際のフィルムの引張力がそのフィルムの延伸全体にわたって一定である。そのことは長手方向、すなわち前庭リングと口唇リングの間の方向、ならびに接線方向、すなわち周回方向のいずれにも該当する。
【0018】
そのことは、導入された圧力が延伸全体にわたって均一に受容されることにつながる。従って、導入された半径方向内側に作用する圧力によってフィルムに均一に負荷がかかる。従って、追加的な弾力性ベルトをフィルムと局所的に結合する場合に比べて、単位面積当たりの負荷が顕著に小さくなる。
【0019】
そのため、好適な構成形態において実現される均一な厚みは、前述した周知の解決方式に比べて引裂き強度が高くなるという独自の利点を有する。この手段によっても製造コストの削減が可能になり、その理由は厚み増加を有する解決方式の場合は同じ重量で同じ大きさであっても本発明に係る解決方式に比べて引裂き強度が低くなるためである。
【0020】
例えば10%の材料厚の変動はフィルムの安定性に関して重大なものではないが、例えば長手方向におけるフィルムの長さの1/3にわたって延在する弾力性ベルトとして形成された顕著な厚み増加によってフィルムの残りの部分が脆弱化し;少なくとも例えば内蔵された弾力性挿入材によって厚み増加部の材料厚が残りの部分のフィルム厚の例えば3倍になると、フィルムの伸張が実質的に専ら前記残りの2/3の部分のみで発生する。
【0021】
すなわち、周知の解決方式のフィルム引張要素の引裂き強度はより大きな総重量にもかかわらず本発明に係るフィルム引張要素の引裂き強度の約2/3に留まる。
【0022】
ネッキングの深さは、必要応じて広範囲に調節することができる。深さがいわば楕円の軌道を有することもできる。従って第1の構成形態によれば、深さが口中央領域で最も大きくなり、側方領域で最も小さくなる。
【0023】
第2の構成形態によれば、前記の比率が逆になる。
【0024】
深さが接線方向に見て手前から変化しその際異なった深さの間で緩やかな移行部を有するように設け、フィルム引張要素を患者の口上あるいは口内に装着する際に装着感が最適になるようにフィルム引張要素を回転させることも可能である。従って、患者の口の形状は様々であるが、前記の手法によって患者固有の最適な調節を達成することができる。
【0025】
本発明に係るフィルム引張要素の製造は任意の方式で実施することができる。例えば、フィルムを射出成形によって製造することができ、その際射出成形金型が後の柔軟な状態におけるフィルムの無圧力の形態の構成を予成形する。リングを射出成形金型内に挿入して被覆成形することができる。
【0026】
それに代えて、ディップ成形あるいは吹込み成形も可能である。
【0027】
特別な場合は、フィルムがその周囲で見て異なった厚みを有するようにすることも可能であり、その際にも変動が20%を上回らないようにし、またここでも異なったフィルムの厚みの間に緩やかな移行部を設けることが好適である。
【0028】
上述したフィルムの極めて良好な引裂き強度のために重要なことは、フィルムが長手方向に見て均一な厚みを有することである。導入される最も大きな圧力は患者の口唇によって発生し、それがフィルムを長手方向に引張する。
【0029】
厚みの経移を長手方向において変化するように選択する必要がある場合は、変動ならびに相違を±20%に制限することも好適である。
【0030】
別の好適な構成形態によれば、網構造のフィルムが設けられる。そのことは、網の目が網の格子に比べて小さなフィルム厚を有するように実現することが極めて好適である。それによって本発明に係るフィルムによる密封が影響を受けることはなく、むしろ投入される重量に比べた強度が改善される。
【0031】
そのことは、有限要素法による計算を考慮して網構造を決定する場合に特に有効である。
【0032】
ネッキングの半径方向の深さは、必要に応じて広範囲に調節することができる。その深さは、標準型オプトラゲートフィルム引張要素、すなわち先行技術に係るフィルム引張要素に対しての直径縮小として算定される。
【0033】
フィルム引張要素は、少なくともそのフィルム引張要素が追加的な圧力および/または引張力を導入することなく口唇リング上あるいは前庭リング上で掛け付けて保持される場合に、円錐台形状に延在する。
【0034】
本発明に係るフィルム引張要素が追加的な圧力および/または引張力を導入することなく口唇リング上あるいは前庭リング上で掛け付けて保持される場合、フィルム引張要素は半径方向内側に向かって延在するネッキングを備えた形状を有する。
【0035】
ネッキングの深さは口唇リングの直径の5ないし35%とすることができ、特に約15%である。
【0036】
フィルムが一体式に延在することが極めて好適である。一体性は全ての方向、すなわち前庭リングと口唇リングの間の軸方向、接線方向、さらに厚みの方向も該当する。
【0037】
すなわちそのことは、フィルムがそれの半径方向内側を指向する内面と半径方向外側を指向する外面の間も同様に一体式であって、付着物および/または挿入物を含まないことを意味する。
【0038】
その一体性のためフィルム内部における圧力傾斜が防止あるいは抑制される。それによって引裂き強度が高められ、どの位置にも圧力突出は発生せず、むしろ導入された圧力が均一化される。
【0039】
本発明に係るネッキングは、凹部あるいはアーチ形窪みとして理解することもできる。重要なことは、軸に沿って見た直径の変化である。口唇リングを起点にしてフィルムの直径がまず縮小し、特に不連続の箇所が無くかつ最初は単調に低下する。
【0040】
ネッキングの最も深い領域でフィルムの直径が最小になる。そこに転換点が存在するが、そこにも不連続箇所は存在しない。その転換点から前庭リングまで直径が再び増加する。
【0041】
その他のフィルムの曲線形状も可能であるものの、懸垂線あるいは丸み付けられた先端を有するV型の構成が好適である。
【0042】
本発明のその他の詳細、特徴、ならびに利点は、添付図面を参照しながら後述する実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明に係るフィルム引張要素の一実施形態を概略的に示した三次元構成図である。
【
図2A】本発明に係るフィルム引張要素の一実施形態を示した断面図である。
【
図2B】本発明に係るフィルム引張要素の別の実施形態を示した断面図である。
【
図2C】本発明に係るフィルム引張要素のさらに別の実施形態を示した断面図である。
【
図3】本発明に係るフィルム引張要素のさらに別の実施形態を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1には、周知の方式によってフィルム12と口唇リング14と前庭リング16とからなるフィルム引張要素10が示されている。フィルム引張要素10は全体的にリング形状であり、基本的な構成は実質的に円形に相当するが、変更された実施形態においてその他のリング形状、例えば楕円形あるいは長円形を有することもできる。
【0045】
図示された実施形態において、周知の方式と同様に前庭リング16が口唇リング14より幾らか小さい直径を有する。
【0046】
本発明によれば、両方のリング14および16の間でフィルムにネッキングが設けられる。
【0047】
図示された実施例において、ネッキング18が対称に形成され、従ってネッキング18の最深の点が口唇リング14と前庭リング16の間の中央に存在する。
【0048】
図示された実施例において、ネッキング18がリング状に周回するように形成され、従ってリング形状のフィルム引張要素10の全ての方位においてそのフィルム引張要素の最小の直径がネッキング18の領域内に存在する。
【0049】
図1に示された実施例において、ネッキング18は実質的にV字型に延在する。ネッキング18のV字部20の最深点は半径22を有し、図示された実施例においてその半径はネッキング18の深さよりも小さいものとなる。
【0050】
図1に示されたフィルム引張要素10の位置および形状は、フィルム引張要素10が無圧力である場合を再現している。例えば、口唇リング14を支台の上に設置し、フィルム引張要素10を前庭リング16上で
図1に示された形態になるまで持ち上げた場合に、(極めて小さい自重を除いて)フィルム12は無圧力になる。その形態においてフィルム12はひだが無いかあるいはひだが殆ど無い状態になり、ネッキング18が特殊に予備成形されたフィルム12の形状を形成する。
【0051】
フィルム引張要素10は、例えば射出成形方法によって製造することができる。口唇リング14と前庭リング16を射出成形金型内に挿入し、フィルム12の材料によって被覆成形することが好適である。フィルム12の材料は周知の方式で弾力性かつ比較的軟質で、一方リング14および16は硬質の樹脂材料から形成される。
【0052】
射出成形金型は、フィルム12の厚みがリング14および16を起点にして連続性で、緩やかな移行部で先細りになるように形成される。先細りの領域は少なく保持され、例えば略各リング14,16の厚みに相当することができる。この解決方式によって、少ない材料消費で耐負荷性の観点から最適なフィルム12の構造が可能になる。
【0053】
標準型オプトラゲートフィルム引張要素は、
図1の描写でネッキング18を備えない円錐形の構造を有していた。
【0054】
本発明に係るフィルム引張要素10の耐負荷性は少なくとも同程度に良好である。しかしながら、材料消費は幾らか少なく、ネッキング18の深さに応じて約10ないし20%少なくなる。ネッキング18の領域の直径縮小のため、より少ない材料しか必要としない。
【0055】
前述した特許文献によって周知の弾力性ベルトを設けたフィルム引張要素10と比較すると、弾力性ベルトを使用せず、むしろフィルム12がリング14および16の間の延伸全体にわたって(前述した先細り部分24を除いて)一定かつ均一な厚みを有することによって著しく材料消費が少なくなる。
【0056】
意外なことに、中央に設けられた好適にはV字型のネッキング18によって、装着感が極めて良好な患者の口唇への適応が達成され、唇への圧力が削減されるとともに許容性が向上する。
【0057】
従って意外なことに、中央半径22によって非対称に設けられた弾力性ベルトに比べて著しい改善を達成することができる。
【0058】
本発明の重要な利点は、適宜な工具構成、例えば射出成形金型の構成によって、ネッキングを中央、あるいは逆に中央外に設けることもでき、すなわち例えば部分的にいずれかのリングに近づけて、または必要に応じて異なるV字の深さを有するようにし得る点である。ネッキングが部分的に存在するようにすることもできる。
【0059】
フィルム12の厚みが両方のリング14と16の間の延伸全体にわたって実質的に均一であるため、導入される圧力が均等に配分される。従って本発明によれば、より大きな材料消費を伴う弾力性ベルトの解決方式に比べても、意外なほど耐負荷性が改善される。
【0060】
誤解が無いように説明すると、
図1に追加的に描かれている線、例えば線30および32はフィルム引張要素10の形状を強調するための純粋な輪郭線であり、実際のフィルム引張要素10には存在しない。むしろ、実際にフィルム12は、リング14と16の間で、さらにフィルムのリング形状に沿っても、平滑で付着物や継ぎ目を備えずに延在する。
【0061】
図2Aおよび
図2Bには、異なった形態のフィルム引張要素10が断面図で示されている。
【0062】
図2Aには、実質的にV字型のネッキング18を備えてリング14と16の間に延在するフィルム12を有してなるフィルム引張要素10が示されている。V字部20の最深点は、図示された実施例においてリング14と16の間の中央に存在する。ネッキング18の深さ34は、図示された実施例においてフィルム12の厚みの15倍以上である。「厚み」と言う概念は、フィルム12の半径方向内側を指向する内面36と半径方向外側を指向する外面38との間の距離を意味する。その厚みの内部でフィルム12は単一の材料からなり均質に延在する。
【0063】
図示された実施例において、フィルム12の厚みは、場合によって存在する先細り部24および26を除いて、リング14と16の間で一定である。しかしながら、
図2Aの実施例においては先細り部24および26は存在せず;むしろこの実施例においては、フィルム12がリングに接続して実質的に同じ厚みでそこから延在するように、リング14および16が平滑化される。
【0064】
それに対して
図1および
図2Bの実施形態においては、いずれもリング14および16の厚みがフィルム12の厚みより大きくなり、そのため先細り部24および26を設けることが好適である。
【0065】
図2Aの実施例においてフィルム12の厚みは0.4mmである。
【0066】
フィルム引張要素10の大きさおよび形状に合わせて調整した任意の他のフィルム厚も可能であることが理解され、例えば小児の口腔用の小さなフィルム引張要素のための0.1mmから、より大きな負荷あるいはフィルム引張要素10を同様に適用することができるより大きな口上での使用に対応する1mmのフィルム厚まで可能である。
【0067】
図2Aに示されるように、リング14および16の長さは、フィルム12の方向のフィルム引張要素10の延伸に沿っての方が半径方向よりも大きくなる。この形状は、軸方向の湾曲に対する安定性の向上につながるが、それでもなお特に前庭リング16の領域における患者の口の形状に対する良好な適合性を有する。
【0068】
図2Bには、本発明に係るフィルム引張要素10の変更された実施形態が示されている。この実施形態によれば、フィルム12がネッキング18を備えて一種の懸垂線のように湾曲してリング14と16の間に延在する。リング14と16は、断面において実質的に円形の形状と1.2mmの厚みを有する。幾らか強調して示されたフィルム12の厚みは、この実施形態において0.3mmである。ここでも、リング14と16の間のフィルム12の延伸全体にわたって厚みが一定であって付着物および挿入物を備えない。
【0069】
図2Bには、追加的にフィルム引張要素10の仮想の軸40が示されている。その軸は、図示されていなくても、他のフィルム引張要素10の実施形態においても存在する。その軸は、半径方向の延伸あるいは半径方向の「指向性」がどの方向に想定されているかを明らかにする。
【0070】
図2Bの実施例において、ネッキング18の深さ34がフィルム12の厚みの30倍である。
【0071】
ここではネッキング18の最深位置がリング14と16の間の中央に延在するものの、前庭リング16の方向あるいは口唇リング14の方向に幾らか偏倚させることも、本発明の精神から逸脱することなく可能であることが理解される。
【0072】
変更された実施形態において、ネッキング18が頬に対応して所定の位置でより強度になる。
【0073】
別の実施形態によれば、ネッキング18の深さ34が口腔中央に対応して所定の位置でより大きくなる。従ってネッキングは、患者の矢上面の領域で最も強度になる。
【0074】
ここではネッキング18がフィルム12のリング状の軌道全体(すなわち周囲方向あるいは接線方向)にわたって一定の深さ34を有するものの、別の実施形態においてはネッキング18の深さ34がリング状輪郭にわたって変化する。ネッキング18は半リング状に延在することもできる。
【0075】
ネッキング18の領域は、必ずしも前庭リング16と口唇リング14の間の距離全体にわたって延在する必要は無く;ネッキング18を例えば小さな軸方向の幅を有して中央に設けることも可能である。
【0076】
図2Cには、本発明に係るフィルム引張要素10の別の実施形態が示されている。この実施形態によれば、まず第1にネッキング18が著しく深くなっている。深さ34は、口唇リング14と前庭リング16の間の距離の半分より大きい。それに対して、
図2Aと
図2Bの実施形態においては深さ34が口唇リング14と前庭リング16の間の距離の約15%に過ぎない。
【0077】
本発明によれば、例えば射出成形金型を適宜に形成することによって、深さ34を必要に応じて広範囲に調節することができる。本発明によれば、深さ34を口唇リング14と前庭リング16の間の距離の8%ないし80%にし得ることが好適である。
【0078】
他方、
図2Cの実施形態において、ネッキングはそれの重心が顕著に前庭リング16よりも口唇リング14の近くに位置する。口唇リング14は前庭リング16よりも大きい。従って、フィルム12の直径が口唇リング14を起点にして大きく縮小し、例えば口唇リング14と前庭リング16の間の距離の1/4以内で口唇リング14の直径の半分まで低下する。
【0079】
この急激な直径縮小によってフィルム材料が大幅に節約される。
【0080】
【0081】
図1に関して上述したように、フィルム12が無圧力で図示された形状を有することが好適である。従って、ネッキング18によってフィルム12がいわば無圧力で半径方向内側に向かって塑形あるいは予成形される。
【0082】
射出成形方法に代えて、本発明に係るフィルム引張要素10をプレス方法、ディップ成形方法、あるいはガラス成形方法によって製造することもできる。
【0083】
本発明に係るフィルムをシリコン材料から製造する場合、リングを先にプレス金型内に挿入して被覆成形することができる。
【0084】
フィルム12が周囲方向に見て異なった厚みを有することができる。前記の異なった厚みはネッキング18の異なった深さ34に対応する。
【0085】
軸40と平行な方向において、フィルム12の厚みは口唇リング14と前庭リング16の間で、場合によって存在する先細り部24と26を除いて、常に一定の厚みであることが勿論好適である。
【0086】
別の変更された実施形態よれば、フィルム12が網構造を有する。その構造は有限要素法によって計算することが好適であり、材料節約をさらに最適化するよう作用する。網の目の領域においてフィルム12の厚みは例えば僅か0.1mm、網の格子の領域においては0.3mmとなる。
【0087】
図3には、
図1の実施形態から幾らか変更されたフィルム引張要素10の実施形態が別の視野で示されている。他の図面と同一あるいは相当する構成要素は同一の参照符号を付して示される。
【0088】
図3の実施形態によれば、前庭リング16と口唇リング14が図示された側面図において湾曲し、その際前庭リング16が口唇リング14より幾らか強く湾曲する。
【0089】
この実施形態によれば、
図1と同様に先細り部26と24が設けられる。リング14および16はフィルム12の材料によって被覆成形される。
【0090】
湾曲した形状のため前庭リング16をより容易に患者の口内に挿入することができ、また容易に患者の口に相当する所要の楕円形状になる。
【外国語明細書】