(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063358
(43)【公開日】2022-04-21
(54)【発明の名称】造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/188 20170101AFI20220414BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20220414BHJP
【FI】
B29C64/188
B29C64/118
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027936
(22)【出願日】2022-02-25
(62)【分割の表示】P 2017216114の分割
【原出願日】2017-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】516262549
【氏名又は名称】エス.ラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】荒生 剛志
(72)【発明者】
【氏名】伊東 陽一
(72)【発明者】
【氏名】高井 篤
(72)【発明者】
【氏名】青木 大祐
(57)【要約】
【課題】造形材料層間の接着性を向上させるため、造形材料層の表面を粗面化した場合には、造形物の視認性が低下する。
【解決手段】三次元造形装置1のタップモジュール20は、形成された造形材料層を、加熱および加圧する。三次元造形装置1のヘッドモジュール10は、加熱および加圧された造形材料層にフィラメントを吐出して、造形材料層を積層させる。上記の加熱および加圧の処理により、造形材料層の層間の接着力が向上するので、造形物の積層方向の強度が向上する。また、この方法によると、加熱および加圧処理した造形材料層に、他の造形材料層が積層されるので、造形物の視認性に優れる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形材料を用いて造形材料層を形成し、該造形材料層を積層させて造形する造形装置であって、
前記造形材料を用いて形成された造形材料層を加圧する加圧手段と、
加圧された第1の造形材料層に、前記造形材料を吐出して第2の造形材料層を形成することで、前記第1の造形材料層に前記第2の造形材料層を積層させる吐出手段と、
前記加圧手段および前記吐出手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記吐出手段によって前記第2の造形材料層が1層形成されるごとに、前記加圧手段が前記第2の造形材料層を加圧することにより、前記第1の造形材料層および前記第2の造形材料層の密着性を向上させるように、前記吐出手段および前記加圧手段を制御する、造形装置。
【請求項2】
前記加圧手段は、前記造形材料層の断面を変形させるように加圧する、請求項1に記載の造形装置。
【請求項3】
前記加圧手段は、前記第1の造形材料層および前記第2の造形材料層を融合するように加圧する、請求項1に記載の造形装置。
【請求項4】
前記制御手段は、造形物表面の形状が平滑になるように前記加圧手段および前記吐出手段を制御する、請求項1乃至3のいずれかに記載の造形装置。
【請求項5】
造形材料を用いて造形材料層を形成し、該造形材料層を積層させて造形する造形装置であって、
前記造形材料を用いて形成された造形材料層を加熱および加圧する加圧手段と、
加熱および加圧された第1の造形材料層に、前記造形材料を吐出して第2の造形材料層を形成することで、前記第1の造形材料層に前記第2の造形材料層を積層させる吐出手段と、
前記加圧手段および前記吐出手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記吐出手段によって前記第2の造形材料層が1層形成されるごとに、前記加圧手段が前記第2の造形材料層を加熱および加圧することにより、前記第1の造形材料層および前記第2の造形材料層を溶融させるように、前記吐出手段および前記加圧手段を制御する、造形装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記加圧手段が前記第2の造形材料層を加熱および加圧することにより、前記第1の造形材料層を再溶融させ、前記第1の造形材料層および前記第2の造形材料層の境界部が混合するように、前記加圧手段を制御する、請求項5に記載の造形装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記第2の造形材料層が造形物の最表層である場合、前記加圧手段を動作させないように制御する、請求項5または6に記載の造形装置。
【請求項8】
造形材料を用いて造形材料層を形成し、該造形材料層を積層させて造形する造形装置であって、
前記造形材料を用いて形成された第1の造形材料層を加熱および加圧する加圧手段と、
前記加熱および加圧された前記第1の造形材料層に、前記造形材料を吐出して第2の造形材料層を形成することで、前記第1の造形材料層に前記第2の造形材料層を積層させる吐出手段と、
前記加圧手段及び前記吐出手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記加圧手段が、前記吐出手段の進行方向において先行し、既に形成された第1の造形材料層を加熱および加圧することで前記第1の造形材料層を再溶融させ、
前記吐出手段が、前記再溶融した前記第1の造形材料層に、前記造形材料を吐出して、前記第1の造形材料層に前記第2の造形材料層を積層させるように、前記加圧手段および前記吐出手段を制御する、造形装置。
【請求項9】
前記加圧手段は、前記第1の造形材料層の表面を粗面化する請求項8に記載の造形装置。
【請求項10】
前記加圧手段は、前記第2の造形材料層の上端よりも低い位置に配置される請求項8または9に記載の造形装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記加圧手段を制御することにより、前記第1の造形材料層と前記第2の造形材料層とを、境界部において混合させる、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項12】
前記加圧手段の加圧面をクリーニングするクリーニング部材を有する請求項1乃至11のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項13】
前記加圧手段を付勢する付勢手段を有する請求項1乃至12のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項14】
前記加圧手段は、磁性体によって形成されている、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の造形装置。
【請求項15】
吐出手段から吐出される造形材料を用いて造形材料層を形成し、制御手段によって前記吐出手段を制御することにより該造形材料層を積層させて造形物を造形する造形装置であって、
前記制御手段は、前記吐出手段が、前記造形材料を用いて形成された第1の造形材料層を加熱および加圧して溶融させるとともに、
前記加熱および加圧されて溶融した前記第1の造形材料層に、前記造形材料を吐出して第2の造形材料層を形成することで、前記第1の造形材料層に前記第2の造形材料層を積層させるように、前記吐出手段を制御する、造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型などを用いずに造形物を多品種少量生産するための装置として、3Dプリンタが普及しつつある。熱溶解積層法(以下、FDM(Fused Deposition Modeling)またはFFF(Fused Filament Fabrication)と略す)を用いる3Dプリンタは、近年低価格化が進んでおり、コンシューマ向けにも浸透している。三次元造形物の積層方向における強度の低下を防止するために、層の表面を粗面化して積層する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、造形ステージに向けて造形材料を吐出することによって、造形材料層を形成する吐出部と、吐出部により形成された造形材料層の表面を平滑化する平滑化部と、平滑化部により平滑化された造形材料層の少なくとも表面の硬化を進める硬化処理を行う硬化部と、硬化部の硬化処理により硬化の進んだ造形材料層の表面を粗面化する粗面化部とを備える三次元造形装置が開示されている。特許文献1によると、粗面化された造形材料層(N層目)の表面上に、次の造形材料層(N+1層目)が形成されるため、造形材料層(N層目)と造形材料層(N+1層目)との間における接触面積の増加や、造形材料層(N層目)の表面に造形材料層(N+1層目)を構成する造形材料が入り込むアンカー効果により、造形材料層間の密着力が向上するとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、造形材料層間の接着性を向上させるため、造形材料層の表面を粗面化した場合には、造形物の視認性が低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明の造形装置は、造形材料を用いて造形材料層を形成し、該造形材料層を積層させて造形する造形装置であって、前記造形材料を用いて形成された第1の造形材料層を加熱および加圧する加圧手段と、前記加熱および加圧された前記第1の造形材料層に、前記造形材料を吐出して第2の造形材料層を形成することで、前記第1の造形材料層に前記第2の造形材料層を積層させる吐出手段と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、造形材料層間の接着性を向上させつつ、造形物の視認性の低下を防ぐことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る三次元造形装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図1の三次元造形装置におけるヘッドモジュールの断面を示す模式図である。
【
図3】
図1の三次元造形装置におけるタップモジュールの断面を示す模式図である。
【
図4】一実施形態に係る三次元造形装置のハードウェア構成図である。
【
図5】一実施形態に係る造形処理を示すフロー図である。
【
図6】一実施形態におけるタップノズルの動作を模式的に説明する図である。
【
図7】一実施形態において最表層を形成する動作を模式的に説明する図である。
【
図8】一実施形態においてタップノズルにより層を加圧する動作を示す模式図である。
【0008】
【
図9】一実施形態においてタップノズルにより層を加圧する動作を示す模式図である。
【
図10】一実施形態において加熱プレートにより下層を加熱しながら吐出ノズルにより層を形成する動作を示す模式図である。
【
図11】一実施形態において加熱プレートにより下層を加熱しながら吐出ノズルにより層を形成する動作を示す模式図である。
【
図12】一実施形態に係る三次元造形装置の構成を示す模式図である。
【
図13】実施例および比較例における造形物の形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
<<<全体構成>>>
以下、本発明の一実施形態として、熱溶解積層法(FDM)により三次元造形物を造形する三次元造形装置について説明する。なお、本発明は、造形手段により造形するものであれば、熱溶解積層法(FDM)の三次元造形装置に限定されるものではなく、他の造形方法の三次元造形装置にも適用可能である。
【0011】
図1は、一実施形態に係る三次元造形装置の構成を示す模式図である。
図2は、
図1の三次元造形装置におけるヘッドモジュールの断面を示す模式図である。
図3は、
図1の三次元造形装置におけるタップモジュールの断面を示す模式図である。三次元造形装置1は、射出成形では金型が複雑になる、あるいは、成形できないような三次元造形物を造形することができる。
【0012】
図1において、三次元造形装置1における筐体2の内部は、三次元造形物Mを造形するための処理空間となっている。筐体2の内部には載置台としての造形テーブル3が設けられており、造形テーブル3上に三次元造形物Mが造形される。
【0013】
造形には、熱可塑性樹脂をマトリックスとした樹脂組成物からなる長尺のフィラメントFが用いられる。フィラメントFは、細長いワイヤー形状の固体材料であり、巻き回された状態で三次元造形装置1における筐体2の外部のリール4にセットされている。リール4は、フィラメントFの駆動手段であるエクストルーダ11の回転に引っ張られることで、大きく抵抗力を働かせることなく自転する。
【0014】
筐体2の内部の造形テーブル3の上方には、造形材料吐出部材としてのヘッドモジュール10(造形ヘッド)が設けられている。フィラメントFは、エクストルーダ11によって引っ張られることで、三次元造形装置1のヘッドモジュール10へ供給される。
【0015】
図2に示すように、ヘッドモジュール10は、冷却ブロック12、加熱ブロック15、吐出ノズル18、および他の部品によってモジュール化されている。加熱ブロック15は、ヒータなどの熱源16と、温度制御するための熱電対17と、を有し、移送路を介して、ヘッドモジュール10に供給されたフィラメントFを加熱溶融させて、溶融状態あるいは半溶融状態のフィラメントFMを吐出ノズル18に供給する。
【0016】
冷却ブロック12は、加熱ブロック15の上部に設けられる。冷却ブロック12は、冷却源13を有し、フィラメントを冷却する。これにより、冷却ブロック12は、溶融したフィラメントFMのヘッドモジュール10内の上部への逆流、フィラメントを押し出す抵抗の増大、あるいは、フィラメントの固化による移送路内での詰まりを防ぐ。加熱ブロック15と冷却ブロック12との間には、フィラメントガイド14が設けられている。
【0017】
図1及び
図2に示すように、ヘッドモジュール10の下端部に、造形材料であるフィラメントFを吐出する吐出ノズル18が設けられている。吐出ノズル18は、加熱ブロック15から供給された溶融状態あるいは半溶融のフィラメントFMを造形テーブル3上に線状に押し出すようにして吐出する。吐出されたフィラメントFMは、冷却固化されて所定の形状の層が形成される。さらに、吐出ノズル18は、形成した層に、溶融状態あるいは半溶融状態のフィラメントFMを、線状に押し出すようにして吐出する操作を繰り返すことで、新たな層を積み上げて積層させる。これにより、三次元造形物が得られる。
【0018】
本実施形態では、ヘッドモジュール10に2つの吐出ノズルが設けられている。第一の吐出ノズルは、三次元造形物を構成するモデル材のフィラメントを溶融して吐出し、第二の吐出ノズルは、サポート材のフィラメントを溶融して吐出する。なお、
図1において、第一の吐出ノズルの奥側に第二の吐出ノズルが配置されている。なお、吐出ノズルの数は2個に限らず任意である。
【0019】
第二の吐出ノズルから吐出されるサポート材は、通常、三次元造形物を構成するモデル材のフィラメントとは異なる材料である。サポート材により形成されるサポート部は、最終的にはモデル材により形成されるモデル部から除去される。サポート材のフィラメントおよびモデル材のフィラメントは、それぞれ、加熱ブロック15にて溶融され、それぞれの吐出ノズル18から押し出されるように吐出されて、層状に順次積層される。
【0020】
タップモジュール20は、造形された三次元造形物Mを、加熱および加圧するタップノズル28と、タップノズル28を加熱する加熱ブロック25と、加熱ブロック25からの熱伝導を防ぐための冷却ブロック22と、を備える。タップノズル28は、モータ等の動力により、三次元造形物Mを垂直上方から繰り返しタップするタップ動作により、上記の加熱および加圧処理を実行する。加熱ブロック25は、ヒータなどの熱源26と、タップノズルの温度を制御するための熱電対27と、を有する。冷却ブロック22は、冷却源23を有する。加熱ブロック25と冷却ブロック22との間には、ガイド24が設けられている。
【0021】
ヘッドモジュール10およびタップモジュール20は、装置左右方向(
図1中の左右方向=X軸方向)に延びるX軸駆動軸31(X軸方向)に対し、連結部材を介して、スライド移動可能に保持されている。ヘッドモジュール10は、X軸駆動モータ32の駆動力により、装置左右方向(X軸方向)へ移動することができる。ヘッドモジュール10は、加熱ブロック25によって加熱されて高温になる。同様に、タップモジュール20は、加熱ブロック15によって加熱されて高温になる。その熱がX軸駆動モータ32に伝わるのを低減するため、フィラメントガイド14等を含めた移送路またはガイド24を低熱伝導性のものとするのが好ましい。
【0022】
X軸駆動モータ32は、装置前後方向(
図1中の奥行方向=Y軸方向)に延びるY軸駆動軸(Y軸方向)に沿ってスライド移動可能に保持されている。X軸駆動軸31およびX軸駆動モータ32がY軸駆動モータ33の駆動力によってY軸方向に沿って移動することにより、ヘッドモジュール10およびタップモジュール20はY軸方向に移動する。
【0023】
一方、造形テーブル3は、Z軸駆動軸34、及び、ガイド軸35に通され、装置上下方向(
図1中の上下方向=Z軸方向)に延びるZ軸駆動軸34に沿って移動可能に保持されている。造形テーブル3は、Z軸駆動モータ36の駆動力により、装置上下方向(Z軸方向)へ移動する。造形テーブル3には、積載された造形物を加熱するための加熱部が設けられていてもよい。
【0024】
フィラメントの溶融吐出を経時で続けると、吐出ノズル18周辺部およびタップノズル28の加圧面が溶融した樹脂で汚れることがある。これに対して、三次元造形装置1に設けられたクリーニングブラシ37により、吐出ノズル18周辺部およびタップノズル28の加圧面に対し定期的にクリーニング動作を行うことで、吐出ノズル18の先端およびタップノズル28の加圧面に樹脂が固着することを防ぐことができる。好ましくは、クリーニング動作は、固着防止の観点から、樹脂の温度が下がりきらないうちに実行されることが好ましい。この場合、クリーニングブラシ37は、耐熱性樹脂などの耐熱性部材からなることが好ましい。クリーニング動作時に生じる研磨粉については、三次元造形装置1に設けられたダストボックス38に集積させて、定期的に捨ててもよいし、あるいは吸引路を設けて、外部へ排出させてもよい。
【0025】
図4は、一実施形態に係る三次元造形装置のハードウェア構成図である。三次元造形装置1は、CPU(CentralProcessingUnit)あるいは回路などによって構築される制御部100を有する。制御部100は、
図4に示すように各部と電気的に接続されている。
【0026】
三次元造形装置1には、ヘッドモジュール10のX軸方向位置を検知するX軸座標検知機構が設けられている。X軸座標検知機構の検知結果は、制御部100に送られる。制御部100は、その検知結果に基づいてX軸駆動モータ32の駆動を制御して、ヘッドモジュール10およびタップモジュール20を目標のX軸方向位置へ移動させる。
【0027】
三次元造形装置1には、ヘッドモジュール10のY軸方向位置を検知するY軸座標検知機構が設けられている。Y軸座標検知機構の検知結果は、制御部100に送られる。制御部100は、その検知結果に基づいてY軸駆動モータ33の駆動を制御して、ヘッドモジュール10およびタップモジュール20を目標のY軸方向位置へ移動させる。
【0028】
三次元造形装置1には、造形テーブル3のZ軸方向位置を検知するZ軸座標検知機構が設けられている。Z軸座標検知機構の検知結果は、制御部100に送られる。制御部100は、その検知結果に基づいてZ軸駆動モータ36の駆動を制御して、造形テーブル3を目標のZ軸方向位置へ移動させる。
【0029】
制御部100は、このようにしてヘッドモジュール10、タップモジュール20、および造形テーブル3の移動制御を行うことにより、ヘッドモジュール10、タップモジュール20、および造形テーブル3の相対的な三次元位置を、目標の三次元位置に移動させる。
【0030】
さらに、制御部100は、エクストルーダ11、吐出ノズル18、タップノズル28、およびクリーニングブラシ37の各駆動部に制御信号を送信することで、これらの駆動を制御する。
【0031】
<<処理および動作>>
続いて、一実施形態における三次元造形装置1の処理および動作について説明する。
図5は、一実施形態に係る造形処理を示すフロー図である。
【0032】
三次元造形装置1の制御部100は、立体モデルのデータの入力を受け付ける。立体モデルのデータは、立体モデルを所定間隔でスライスしたときの層ごとの画像データによって構築される。
【0033】
三次元造形装置1の制御部100は、X軸駆動モータ32またはY軸駆動モータ33を駆動してヘッドモジュール10をX軸またはY軸方向に移動させる。ヘッドモジュール10が移動している間に、制御部100は、入力された立体モデルのデータのうち、造形が完了していない最下層の画像データに基づいて、吐出ノズル18から造形テーブル3へ溶融状態または半溶融状態のフィラメントFMを吐出させる。これにより、三次元造形装置1は、造形テーブル3上に画像データに基づいた形状の層を形成する(ステップS11)。
【0034】
三次元造形装置1の制御部100は、ヘッドモジュール10がX軸またはY軸方向に移動している間に、タップノズル28を駆動して、形成した層の表面をタップさせる(ステップS12)。タップさせる領域は特に限定されないが、上記の画像データが示す画像の領域における任意の画素の領域が例示される。なお、任意の画素の領域とは、画像データが示す画像のうち外周部が除かれた領域であってもよい。
【0035】
ステップS12において、タップノズル28の温度は、吐出材料の溶融温度以上に制御される。この状態で、タップノズル28を、層の表面の垂直上方から押し当てることで、押し当てた層だけでなく、この層より下の層に対しても、熱と圧力を加える。これにより、押し当てた層だけでなく、下の層が溶解して、層の境界部が混合するので、層間の界面の密着力が向上する。
【0036】
三次元造形装置1の制御部100は、ステップS11で形成された層が、最表層の一つ下の層であるか判断する(ステップS13)。最表層とは、造形処理において、さらに別の層が積層されない層、すなわち、立体モデルのデータのうち、積層方向(Z軸)の座標が最も大きい画像データに基づいて形成される層を示す。ステップS13でNOと判断された場合、三次元造形装置1の制御部100は、最表層の一つ下の層が形成されるまで、層形成の処理(ステップS11)とタップの処理(ステップS12)と、を繰り返す。これにより、一層形成されるごとに、形成された層の表面がタップされる。
【0037】
図6は、一実施形態におけるタップノズルの動作を模式的に説明する図である。一実施形態によると、
図5に示すように、フィラメントを吐出後、造形物の所定の箇所に、タップ動作を行うことで、タップされた層とその下層、下層と更にその下層との層間の密着性が向上し、造形物の積層間強度が向上する。
【0038】
ステップS13でYESと判断された場合、三次元造形装置1の制御部100は、ヘッドモジュール10がX軸またはY軸方向に移動している間に、立体モデルのデータのうち最表層の画像データを用いて、吐出ノズル18から造形テーブル3へ溶融状態または半溶融状態のフィラメントFMを吐出させる(ステップS14)。これにより、造形物に対し最表層の画像データに基づいた形状の層が積層される。
【0039】
最表層の形成が完了した後、三次元造形装置1は、最表層に対するタップ動作を実行せずに処理を終了する。
図7は、一実施形態において最表層を形成する動作を模式的に説明する図である。一実施形態によると、
図7に示すように、最表層から一つ下の層のタップ動作後、ヘッドモジュール10は、
図7の白抜き矢印方向に移動しながら、タップ動作によって凹んだ部分を、最表層により埋めるように、フィラメントFMを吐出する。この動作により、三次元造形物Mの表面の形状が平滑になり、視認性が向上する。
【0040】
<<<実施形態の変形例A>>>
続いて、実施形態の変形例Aについて上記の実施形態と異なる点を説明する。
図8は、一実施形態においてタップノズル28により層を加圧する動作を示す模式図である。
【0041】
実施形態の変形例Aにおいて、タップノズル28における加圧面の反対方向側、すなわちタップノズル28の垂直上方には、タップノズル28を
図8の白抜き矢印方向に付勢する(勢いを付けること)バネ29が設けられている。バネ29は、タップノズル28を付勢することができる弾性材料、装置、または機構等の任意の付勢手段に置き換え可能である。実施形態の変形例Aによると、タップ動作において、
図8に示すように、タップノズル28をバネ29で垂直上方より付勢する事で、造形物を確実に加圧することができるので、造形物において、表層と下層、下層と更にその下層との層間の密着性が向上し、造形物の積層間強度が向上する。
【0042】
<<<実施形態の変形例B>>>
続いて、実施形態の変形例Bについて、実施形態の変形例Aと異なる点を説明する。
図9は、一実施形態においてタップノズル28により層を加圧する動作を示す模式図である。実施形態の変形例Bでは、上記の付勢手段として、バネ29に代えて電磁マグネット29´を用いる。
【0043】
実施形態の変形例Bでは、タップノズル28は磁性体であり、制御部100は、電磁マグネット29´のオンオフを切り替えることにより、タップノズル28を、
図9に示す白抜き矢印方向に往復移動させる。タップ時には、タップノズル28の垂直上方に配置された電磁マグネット29´をオフにする。磁力から解放されたタップノズル28は、自重で下方に落ちる事で、造形物を確実に加圧する。これにより、造形物において、表層と下層、下層と更にその下層の密着性が向上し、造形物の積層間強度が向上する。
【0044】
<<<実施形態の変形例C>>>
続いて、実施形態の変形例Cについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。
図10は、一実施形態において加熱プレートにより下層を加熱しながら吐出ノズルにより層を形成する動作を示す模式図である。
【0045】
実施形態の変形例Cでは、上記の実施形態におけるタップノズル28は、加熱プレート28´に置き換えられる。
図10において、加熱プレート28´の下端は、吐出ノズル18の下端よりも、1層分低くなるように配置されている。これにより、ヘッドモジュール10およびタップモジュール20を、
図10に示す白抜き矢印方向に走査しながら、フィラメントを吐出するときに、加熱プレート28´は、造形中の層の一つ下の層を再加熱する。これにより、造形中の層と、一つ下の層との温度差が小さくなり、造形中の層と、一つ下の層とが混ざり合うので、造形物の積層間強度が向上する。なお、加熱した層を冷却する方法としては、雰囲気温度を設定する方法、所定の時間放置する方法、もしくは、FANなどを利用する方法などが例示される。
【0046】
実施形態の変形例Cによると、層の表面に加熱プレート28´を物理的に押し当てて凸凹にしてから、次の層を積層させることで、吐出した材料と下の層の材料とが良く混ざることで、界面の密着力が向上する。また、実施形態の変形例Cによると、造形物の外形を崩さずに、選択的に層間を再溶融させ、硬化前に次の吐出を行うことで、界面の密着力を向上させることができる。
【0047】
<<<実施形態の変形例D>>>
続いて、実施形態の変形例Dについて、実施形態の変形例Cと異なる点を説明する。
図11は、一実施形態において加熱プレートにより下層を加熱しながら吐出ノズルにより層を形成する動作を示す模式図である。
【0048】
図11において、加熱プレート28´の下端は、吐出ノズル18による層の形成位置よりも低くなるように配置されている。吐出ノズル18による造形位置とは、吐出したフィラメントの着地位置であり、造形する一つ下の層の上端である。これにより、ヘッドモジュール10およびタップモジュール20を、
図11に示す白抜き矢印方向に走査しながら、走査しながら、フィラメントを吐出することで、加熱プレート28´は、造形中の層の一つ下の層を加圧し、再加熱する。加熱プレート28´は、意図的に、下の層に干渉する位置Iに配置されているので、下層を確実に加圧しながら加熱させることができる。これにより、造形している層と、一つ下の層との温度差が小さくなり、造形している層と、一つ下の層とが混ざり合うので、造形物の積層間強度が向上する。
【0049】
<<<実施形態の変形例E>>>
続いて、実施形態の変形例Dについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。
図12は、一実施形態に係る三次元造形装置の構成を示す模式図である。
【0050】
図12の三次元造形装置1には、タップモジュール20が設けられておらず、吐出ノズル18が吐出の機能に加え、タップモジュール20の機能を備える。吐出ノズル18により造形物を加圧する場合は、吐出ノズル18自体をZ軸方向に移動させず、造形するレイヤの設定を変更して、造形テーブル3を、Z軸方向に移動させる。
【0051】
具体的には、制御部100は、Z軸駆動モータ36の駆動を制御することで、吐出ノズル18をX軸またはY軸方向に移動させながら、造形テーブル3をZ軸駆動軸34方向に移動することで、三次元造形物Mと吐出ノズル18との高さ方向(Z軸方向)の相対的な距離を変更してタップ動作を行う。
【0052】
このとき、タップ動作によって発生した吐出ノズル18の汚れは、クリーニングブラシ37によるクリーニング動作により除去される。実施形態の変形例Eによると、三次元造形装置1の構成部品を低減することが可能であり、コストダウンまたは装置のサイズダウンの点で有効である。また、タップモジュール20が設けられていない、既存の装置においても、ハード構成を変更することなく、本実施形態の処理を実行可能である。
【実施例0053】
以下、実施例および比較例では、三次元造形装置1により、タップノズル28の表面からの押し込み量(タップ深さ)を変えて、造形物を作製し、造形物の最大引張強度を測定する。なお、造形物の最大引張強度の測定に際してはオートグラフAGS-5kNX(島津製作所製)を用いた。
【0054】
図13は、実施例および比較例における造形物の形状を示す。造形物は、ASTMD 638-02 a Type-Vに準拠している。三次元造形装置1により、造形テーブル3に対して造形材料を垂直上方Sに積層し、
図13に示すような、長辺方向に層が積層されてなる引張試験片を造形した。オートグラフに、引張試験片における積層下面と積層上面をチャックして200mm/minで方向T1,T2に引っ張ることで、造形物の最大引張強度プロファイルを得た。
【0055】
(比較例1)
比較例では、三次元造形装置1を用いて、タップの動作(ステップS12)を実行せずに、引張試験片を造形する。比較例1では、造形材料であるフィラメントとして、熱で溶解する樹脂を用いる。ヘッドモジュール10の導入部にはφ12のSUS304製の対となるローラを用いた。ヘッドモジュール10の移送路の寸法形状は断面が円の棒状とする。先端の吐出ノズル18は真鍮で作製し、先端の開口径を0.5mmとした。移送路となる部分はφ2.5mmの空洞となるようにした。冷却ブロック22はSUS304製とし、水冷管を通しておき、チラーに接続した。チラーの設定温度は10℃とした。加熱ブロック25も冷却ブロック22と同様にSUS304製とした。加熱ブロック25には、熱源26となるカートリッジヒータを通しておき、フィラメントと対称となる側に熱電対27を配置し、温度制御を行った。カートリッジヒータの設定温度は樹脂の溶融温度以上とした。造形時の吐出ノズル18の走査速度を10mm/secとして、
図13に示すような引張試験片を造形した。加えて、造形テーブル3は、テーブルに吐出材料が固着できる温度範囲に設定した。造形物の積層方向の解像度としてのZ軸方向の1層厚みは0.25mmとした。
【0056】
(比較例2)
比較例2では、造形材料であるフィラメントとして、熱で溶解する樹脂を用いる。ヘッドモジュール10の導入部にはφ12のSUS304製の対となるローラを用いた。ヘッドモジュール10の移送路の寸法形状は断面が円の棒状とする。先端の吐出ノズル18は真鍮で作製し、先端の開口径を0.5mmとした。移送路となる部分はφ2.5mmの空洞となるようにした。冷却ブロック22はSUS304製とし、水冷管を通しておき、チラーに接続した。チラーの設定温度は10℃とした。加熱ブロック25も冷却ブロック22と同様にSUS304製とした。加熱ブロック25には、熱源26となるカートリッジヒータを通しておき、フィラメントと対称となる側に熱電対27を配置し、温度制御を行った。カートリッジヒータの設定温度は樹脂の溶融温度以上とした。造形時の吐出ノズル18の走査速度を50mm/secとして、
図13に示すような引張試験片を造形した。加えて、造形テーブル3は、テーブルに吐出材料が固着できる温度範囲に設定した。造形物の積層方向の解像度としてのZ軸方向の1層厚みは0.25mmとした。
【0057】
(実施例1)
実施例1においては、タップモジュール20が、
図1に示すように、ヘッドモジュール10に対し正面から見て左側に配置された比較例1と同様の構成の三次元造形装置1を用いて、比較例1と同様の設定(利用する画像データ、温度、走査速度)で造形し引張試験片を造形した。最表層の造形後を除き1層造形ごとに、形成した層の中心の所定の箇所を、タップノズル28によりタップした。また、造形CAM(Computer Aided Manufacturing)ソフトを用いた制御により、タップノズル28によるタップ深さを0.1mmとした。
【0058】
(実施例2)
実施例2においては、タップモジュール20が、
図1に示すように、ヘッドモジュール10に対し正面から見て左側に配置された比較例2と同様の構成の三次元造形装置1を用いて、比較例2と同様の設定(利用する画像データ、温度、走査速度)で造形し引張試験片を造形した。最表層の造形後を除き1層造形ごとに、形成した層の中心の所定の箇所を、タップノズル28によりタップした。また、造形CAMソフトを用いた制御により、タップノズル28によるタップ深さを0.1mmとした。
【0059】
(実施例3)
実施例3においては、タップモジュール20が、
図1に示すように、ヘッドモジュール10に対し正面から見て左側に配置された比較例1と同様の構成の三次元造形装置1を用いて、比較例1と同様の設定(利用する画像データ、温度、走査速度)で造形し引張試験片を造形した。最表層の造形後を除き1層造形ごとに、形成した層の中心の所定の箇所を、タップノズル28によりタップした。また、造形CAMソフトを用いた制御により、タップノズル28によるタップ深さを0.25mmとした。
【0060】
(実施例4)
実施例4においては、タップモジュール20が、
図1に示すように、ヘッドモジュール10に対し正面から見て左側に配置された比較例1と同様の構成の三次元造形装置1を用いて、比較例1と同様の設定(利用する画像データ、温度、走査速度)で造形し引張試験片を造形した。最表層の造形後を除き1層造形ごとに、形成した層の中心の所定の箇所を、タップノズル28によりタップした。また、造形CAMソフトを用いた制御により、タップノズル28によるタップ深さを0.4mmとした。
【0061】
実施例1~4の何れにおいても比較例1,2を上回る最大引張強度を得ることができた。以上のことから、上記実施形態の構成の三次元造形装置1により、3次元造形物の積層方向の強度を高めることが可能となる。
【0062】
<<実施形態の主な効果>>
上記実施形態の三次元造形装置1(造形装置の一例)は、造形材料としてのフィラメントを用いて造形材料層を形成し、これを積層させて造形物を造形する。三次元造形装置1のタップモジュール20(加圧手段の一例)は、形成された造形材料層(第1の造形材料層の一例)を、加熱および加圧する。三次元造形装置1のヘッドモジュール10(吐出手段の一例)は、加熱および加圧された造形材料層にフィラメントを吐出して、造形材料層(第2の造形材料層の一例)を形成することで、造形材料層を積層させる。上記の加熱および加圧の処理により、造形材料層の層間の接着力が向上するので、造形物の積層方向の強度が向上する。また、この方法によると、加熱および加圧処理した造形材料層に、他の造形材料層が積層されるので、造形物の視認性に優れる。
【0063】
三次元造形装置1のタップモジュール20は、下層(第1の造形材料層の一例)に積層する上層(第2の造形材料層の一例)を加熱および加圧することで、下層および上層を溶融させる。これにより、下層と上層の接着性が向上する。
【0064】
実施形態の変形例Cによると、三次元造形装置1のタップモジュール20の加熱プレート28´は、下層を加熱および加圧することで下層を溶融させる。三次元造形装置1のヘッドモジュール10は、溶融した下層にフィラメントを吐出して、下層に上層を積層させる。これにより、下層と上層の接着性が向上する。
【0065】
実施形態の変形例Cによると、加熱プレート28´を下層に物理的に押し当てて加圧することで、下層の表面を粗面化する。これにより、上層を形成するときに、下層と上層の接触面積が大きくなるので、下層と上層の接着性が向上する。
【0066】
実施形態の変形例Cによると、加熱プレート28´は、下層の上端よりも低い位置に配置される。このように、加熱プレート28´を、意図的に下の層に干渉する位置に配置することで、下層を確実に加圧しながら加熱させることができる。
【0067】
三次元造形装置1は、上記の加熱および加圧により上層と下層とを溶融させ、これらの境界部において混合させる。これにより、下層と上層の接着性が向上する。
【0068】
三次元造形装置1は、タップノズル28の加圧面をクリーニングするクリーニングブラシ37(クリーニング部材の一例)を有する。この三次元造形装置1によると、タップ動作によりタップノズル28の加圧面に付着したフィラメントの一部が、クリーニングブラシ37により除去される。これにより、造形時の信頼性が向上する。
【0069】
実施形態の変形例Aにおいて、タップノズル28における加圧面の反対方向側には、タップノズル28を付勢するバネ29が設けられている。実施形態の変形例Aによると、タップ時に、タップノズル28をバネ29で垂直上方より付勢する事で、造形物を確実に加圧することができる。これにより、造形物において、表層と下層、下層と更にその下層との層間の密着性が向上し、造形物の積層間強度が向上する。
【0070】
実施形態の変形例Eにおいて、三次元造形装置1のヘッドモジュール10は、造形材料を用いて形成された第1の造形材料層を加熱および加圧し、加熱および加圧された前記第1の造形材料層に、造形材料を吐出して第2の造形材料層を形成することで、第1の造形材料層に前記第2の造形材料層を積層させる。実施形態の変形例Eによると、三次元造形装置1の構成部品を低減することが可能であり、コストダウンまたは装置のサイズダウンの点で有効である。