(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063371
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】皮膚光老化改善剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220415BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220415BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220415BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220415BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220415BHJP
【FI】
C12N5/071
G01N33/50 Q
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/68
G01N33/50 P
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171605
(22)【出願日】2020-10-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)掲載年月日 令和2年9月10日 (2)掲載アドレス http://ifscc2020.com/scientific_program.html
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 奈緒美
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB01
2G045CB09
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
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2G045FB03
4B063QA01
4B063QQ02
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4B065BB19
4B065CA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光老化皮膚の線維芽細胞の挙動を模倣した光老化細胞モデル、および光老化に伴う線維芽細胞機能の変化を抑制することにより、光老化皮膚の諸症状を予防および改善することができる素材のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を有する光老化細胞モデル、及び、ニトロ化培養支持基質上に線維芽細胞を播種し培養する工程、または、ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を混合し培養する工程とを含有する光老化細胞モデルの製造方法を提供する。
【効果】本光老化細胞モデルを用いることにより、ヒトや動物実験を必要とせずに光老化皮膚の中の細胞機能を評価し光老化メカニズムの解明研究を行うことができ、さらには皮膚の硬度の増加、皮膚弾力性の低下の抑制、およびそれらに伴うシワ、たるみの形成、ハリの低下等の光老化の諸症状を予防改善する素材の開発が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロ化培養支持基質と、線維芽細胞を有する光老化細胞モデル。
【請求項2】
A)次のいずれかの工程
A)-1 : ニトロ化培養支持基質上に線維芽細胞を播種する工程
A)-2 : ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を混合する工程
B)A)を培養する工程
を含有する光老化細胞モデルの製造方法。
【請求項3】
光老化の予防および/又は改善剤をスクリーニングする方法であって、
A)ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を培養する工程、
B)被験物質又は対照物質を添加し培養する工程
C)線維芽細胞の細胞活性及び/又は線維芽細胞の遺伝子発現量或いはタンパク質発現量を測定する工程、
D)被験物質添加群の細胞活性及び/又は遺伝子発現量或いはタンパク質発現量が、被験物質無添加群或いは対照物質添加群と比較して変化した被験物質を選択する工程、
を含んでなる方法。
【請求項4】
前記光老化の症状が、シワ、たるみの形成、ハリ低下、皮膚の硬化、弾力性の低下の少なくとも一つである請求項3に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記培養支持基質が、細胞外基質タンパク質である請求項3又は請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記培養支持基質が、エラスチンを含むものである請求項3乃至請求項5いずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記細胞活性が、細胞増殖である請求項3乃至請求項6いずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記遺伝子発現量或いはタンパク質発現量が、細胞外基質の遺伝子発現量或いはタンパク質発現量である請求項3乃至請求項7いずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記培養支持基質が、コラーゲンを含むものであり、かつ細胞活性がコラーゲン収縮作用である請求項3乃至請求項8いずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光老化皮膚を模倣した光老化細胞モデル、およびこれを用いた光老化改善予防剤等のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、加齢に伴い老化して硬度が増加、弾力性を喪失し、ハリの低下やシワ、たるみ等の変化を生じる。特に顔面など慢性的な紫外線の影響を受けやすい部位では、顕著にシワやたるみが形成する。これら紫外線暴露部で起こる皮膚老化は特に光老化と呼ばれ、この防止および改善は皮膚外用剤研究者にとって、最も大きな課題の一つである。
【0003】
皮膚の支持組織である真皮は、膠原線維(コラーゲン線維)、弾性線維(エラスチン線維やミクロフィブリル)、糖タンパク質(ラミニン、フィブロネクチンなど)、プロテオグリカン(バーシカンなど)、グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸)等の細胞外基質が主となり構成される。膠原線維は皮膚の強度、弾性線維は皮膚の弾力性、糖タンパク質は細胞や細胞外基質の結合、プロテオグリカンやグリコサミノグリカンは皮膚の水分保持や柔軟性に寄与する。また、真皮には細胞外基質の他に細胞成分として線維芽細胞が存在し、細胞外基質やその分解酵素(コラゲナーゼ、エラスターゼ、マトリックスメタロプロテアーゼ等)を産生する。線維芽細胞は細胞膜に存在するインテグリン等の接着分子を介して足場となる細胞外基質に接着し生存するが、一方でこのとき細胞外基質からは細胞の増殖や分化、形質発現を制御するシグナルが伝えられている。このように細胞外基質は、物理的な支持体として皮膚組織や細胞を支えるだけでなく、細胞機能を直接制御する制御因子としての役割も担っている。
【0004】
光老化皮膚の真皮では、コラーゲン線維の減少や、エラスチン線維の異常沈着(線維肥厚や無定形塊蓄積など)、プロテオグリカンの蓄積等、細胞外基質の構成に異常が生じていることが知られている。加えて、線維芽細胞の活性も変化していることが知られており、例えば、細胞増殖の低下、コラーゲン線維の収縮能の低下、細胞外基質成分の産生機能が変化している。細胞外基質の産生機能の変化としては、特にエラスチン線維の前駆体のトロポエラスチンの産生および細胞外基質の分解酵素の産生が増加する(非特許文献1)。このような線維芽細胞機能の変化は、真皮の主たる細胞外基質の構成に異常をもたらし、さらに組織の修復力を低下させる。その結果、皮膚の硬度の増加や弾力性の低下が引き起こされ、結果的にハリの低下やシワ、たるみ等に繋がる(非特許文献2、3)。
【0005】
従来、光老化皮膚に存在する細胞の機能を研究する場合や、また光老化の諸症状を予防および改善する素材を探索する場合、例えば培養細胞に紫外線を照射する又は酸化障害を惹起する試薬を添加するなど、細胞に直接外部刺激を加えてその挙動変化を検討する方法が広く用いられてきた。或いは、該当する症状を有する動物・臨床検体から細胞を単離し、直接それらの挙動を検討する方法が用いられてきた。しかしながら、前者の試験は簡便だが、外部から与える刺激や試薬の種類、濃度、頻度の設定が非常に難しく、結果しばしば細胞の挙動が培養細胞と実際の生体反応とでは異なることがあるという課題があった。また、後者の試験では該当する症状を有するヒトや動物の生体組織が必要となるため、容易には実施できないという課題があった。そのため、光老化皮膚の細胞機能の評価や光老化の予防改善剤の探索のため、容易かつ簡便に光老化皮膚の細胞の挙動を模倣することができる方法が求められていた。
【0006】
一方でタンパク質のニトロ化は、生体内で発生した活性窒素種によって生じるタンパク質翻訳後修飾のひとつであり、タンパク質を構成する芳香族アミノ酸のチロシン、トリプトファンの残基中のベンゼン環にニトロ基が付与されたものである。ニトロ化反応はアミノ酸中のベンゼン環が、活性窒素種により形成されるニトロニウムイオン(NO2+)や二酸化窒素ラジカルなどと求電子置換反応をおこすことで生じる(非特許文献4)。生体内に存在する多くのタンパク質中のトリプトファンの含有率はチロシンのそれよりもはるかに小さく、タンパク質のニトロ化反応は主にチロシン残基に生じると考えられている(非特許文献5)。タンパク質にニトロ化が生じると、酵素やチロシンキナーゼ型受容体の機能低下を引き起こすことで、細胞機能に影響を及ぼすことが知られる(非特許文献6)。また、ニトロ化タンパク質は加齢に伴う数々の疾患(動脈硬化や脳虚血疾患など)で蓄積することが知られており、これらの疾患に関与することが報告されている(非特許文献7)。またニトロ化タンパク質は皮膚中に存在することが知られており、特に角層中に存在するニトロ化タンパク質量は皮膚色と関連する(特許文献1)。しかしながら、真皮中のニトロ化タンパク質が真皮の細胞に及ぼす影響、および光老化皮膚症状への関与については明らかではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Matrix Biology Plus、June 2020
【非特許文献2】Exp. Dermatol.、2019、28(8):914-921
【非特許文献3】Exp. Dermatol.、2019、28(8):981-984
【非特許文献4】Chem. Res. Toxicol.、2009、22(5):894-898
【非特許文献5】Front. Chem.、2016、3:70
【非特許文献6】Diabetes、2008、57(4):889-98
【非特許文献7】Science、2000、290(5493):985-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、光老化皮膚の線維芽細胞の挙動を模倣した、真皮の光老化細胞モデルおよびその製造方法を提供することを課題とする。更には、光老化に伴う線維芽細胞機能の変化を抑制することにより、光老化皮膚の諸症状を予防および/又は改善することができる素材のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、容易かつ簡便に光老化皮膚の線維芽細胞の挙動を模倣する方法について鋭意検討の結果、紫外線等の外的刺激が線維芽細胞に直接与える影響に着目するのではなく、細胞周囲に存在し細胞生存の足場となる細胞外基質から線維芽細胞に伝わるシグナルに着目するという発想に至った。つまり光老化により生じた真皮の細胞外基質の異常は、線維芽細胞にも異常なシグナルを伝達している可能性があるという考えから着想した。
【0011】
そこで本発明者は光老化部皮膚での細胞外基質に生じる異常を探索したところ、光老化部皮膚の細胞外基質タンパク質にはニトロ化修飾が生じていることを見出した。さらに検討した結果、特にエラスチン線維にニトロ化修飾が生じていることを見出した。
【0012】
更に発明者は、細胞外基質タンパク質をニトロ化処理すると、それを足場とする線維芽細胞の細胞機能が変化し、例えば細胞増殖の低下、コラーゲン収縮力の低下、細胞外基質の産生が変化し特にエラスチンの前駆体であるトロポエラスチンの産生が亢進することを見出した。これらの細胞機能の変化は光老化皮膚中の線維芽細胞の特徴と同様であるため、本知見から細胞の支持基質がニトロ化修飾を受けると、ニトロ化した支持基質からこれを足場とする真皮線維芽細胞にシグナルが伝達され、光老化皮膚同様に細胞機能が変化することを突き止めた。この細胞機能の変化が、光老化皮膚のエラスチンの異常沈着や真皮の物性変化を引き起こすことで、光老化の進行に繋がると考えられた。
【0013】
以上の新知見から、ニトロ化した細胞外基質タンパク質を培養支持基質に用いることで、光老化皮膚中の線維芽細胞の挙動を模倣した光老化細胞モデルを構築することが可能と判断した。またこの光老化細胞モデルを用いることで、皮膚の硬化および皮膚弾力性の低下、それに伴うシワ、たるみの形成、ハリの低下等を予防又は改善することができる素材を評価及び/又は選択することができると確信し、本発明に至った。
【0014】
本発明では、培養細胞の足場となる培養支持基質にニトロ化処理を行い、これとともに線維芽細胞を培養する光老化細胞モデルを作製することで上記課題を解決した。更には、この光老化細胞モデルを用いることで、ニトロ化培養支持基質より伝達されたシグナルを受けて変化した線維芽細胞の細胞増殖、コラーゲンゲル収縮、遺伝子或いはタンパク質発現量を指標とすることで、上記課題を解決した。
【0015】
本発明は、以下の光老化細胞モデルおよびその製造方法およびスクリーニング方法を提供するものである。すなわち、
〔1〕ニトロ化培養支持基質と、線維芽細胞を有する光老化細胞モデル。
〔2〕
A)次のいずれかの工程
A)-1 : ニトロ化培養支持基質上に線維芽細胞を播種する工程
A)-2 : ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を混合する工程
B)A)を培養する工程
を含有する光老化細胞モデルの製造方法。
〔3〕
光老化の予防および/又は改善剤をスクリーニングする方法であって、
A)ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を培養する工程、
B)被験物質又は対照物質を添加し培養する工程
C)線維芽細胞の細胞活性及び/又は線維芽細胞の遺伝子発現量或いはタンパク質発現量を測定する工程、
D)被験物質添加群の細胞活性及び/又は遺伝子発現量或いはタンパク質発現量が、被験物質無添加群或いは対照物質添加群と比較して変化した被験物質を選択する工程、
を含んでなる方法。
〔4〕前記光老化の症状が、シワ、たるみの形成、ハリ低下、皮膚の硬化、弾力性の低下の少なくとも一つである〔3〕に記載のスクリーニング方法。
〔5〕前記培養支持基質が、細胞外基質タンパク質である〔3〕又は〔4〕に記載のスクリーニング方法。
〔6〕前記培養支持基質が、エラスチンを含むものである〔3〕乃至〔5〕いずれか1項に記載のスクリーニング方法。
〔7〕前記細胞活性が、細胞増殖である〔3〕乃至〔6〕いずれか1項に記載のスクリーニング方法。
〔8〕前記遺伝子発現量或いはタンパク質発現量が、細胞外基質の遺伝子発現量或いはタンパク質発現量である〔3〕乃至〔7〕いずれか1項に記載のスクリーニング方法。
〔9〕前記培養支持基質が、コラーゲンを含むものであり、かつ細胞活性がコラーゲン収縮作用である〔3〕乃至〔8〕いずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、光老化皮膚中の線維芽細胞の挙動を模倣した光老化細胞モデルおよびその製造方法が提供される。さらに本発明によって、皮膚の硬度の増加、皮膚弾力性の低下の抑制、およびそれらに伴うシワ形成、たるみ形成、ハリ低下等の光老化症状を予防および/又は改善する新たな素材のスクリーニング方法が提供される。本発明を用いることで、ヒトや動物実験を必要とせず簡便に光老化皮膚の中の細胞機能を評価し光老化メカニズムの解明研究を行うことができ、さらには光老化の諸症状を予防改善する素材の開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は光老化部(露光部)および自然老化部(非露光部)皮膚切片中の細胞核、ニトロチロシン、エラスチン線維、これらの重ね合わせ像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で用いる培養支持基質は、特に限定されない。培養支持基質として一般に用いられるものを使用できるが、真皮の細胞外基質タンパク質を用いることが好ましい。例えば膠原線維成分としてはコラーゲン、弾性線維成分としてはエラスチンのほか、ミクロフィブリル構成成分であるフィブリリンやファイブリン等、糖タンパク質としてはラミニン、フィブロネクチン等、プロテオグリカンとしてはバーシカンやアグリカン等を用いることができる。これらは天然物でも人工的に作製したものでも良く、天然物としてはヒトやサル、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、サメ、サケ等の脊椎動物から抽出されたものの他、クラゲやタコ、アワビ等の無脊椎動物から抽出されたものを用いることができる。人工的に作製したものとしては、上記生物の細胞を単離し培養したものから抽出した細胞外基質タンパク質、或いは上記生物の細胞外基質タンパク質の遺伝子を大腸菌や酵母等の微生物細胞にトランスフェクションし産生させたリコンビナントタンパク質、或いは大腸菌やコムギ胚芽、培養細胞など抽出液中の酵素を用いた無細胞系にて産生されたタンパク質を用いることもできる。細胞外基質タンパク質の抽出方法は特に限定されなく、公知の方法を用いることができる。抽出した細胞外基質タンパク質をそのまま用いても良く、加水分解や変性処理、架橋処理を行ったもの、又は人為的に固形状或いは線維状組成物、ゲル状組成物に造形したものを用いることも出来る。培養支持基質には上記細胞外基質タンパク質が1種類以上含まれていれば良く、単一タンパク質として用いても良いし、複数混合して用いても良い。なお市販品としては、Cellmatrx TypeI-A(新田ゼラチン)、エラスチンファイバーシート(細胞外基質研究所)、Matrigel(Corning社)を好適に用いることができるが、この限りではない。
【0019】
本発明で用いるエラスチンは、特に限定されないが、例えばトロポエラスチンタンパク質或いはエラスチンタンパク質が挙げられる。これらは天然物でも人工的に作製したものでも良く、天然物としては、ヒト、ラット、ウシ、ウサギ、サケ等を含む脊椎動物から抽出されたものを用いることができ、人工的に作製したものとしては、上記生物由来のトロポエラスチン遺伝子を大腸菌や酵母等の微生物細胞にトランスフェクションし産生させた、或いは大腸菌やコムギ胚芽、加えて培養細胞などの抽出液中の酵素を用いた無細胞系にて産生させたものを用いることができる。エラスチンはタンパク質として存在する状態でも良いし、複数のエラスチンが架橋して構成された線維状又はゲル状の構造物であっても良く、例えば上記生物から回収される弾性線維やエラウニン線維等の弾性系線維のほか、人工的に架橋操作を行い線維状構造物に成形した状態或いはゲル状構造物に成形した状態であってもよい。更に、これらのタンパク質或いは線維状或いはゲル状のエラスチンはそのまま用いることも出来るし、加水分解や酵素分解等の操作を加えて断片化した状態のものを用いても良く、変性処理を行った状態のものを用いても良い。
【0020】
本発明で用いるコラーゲンは、特に限定されないが、例えばI型コラーゲン或いはIII型コラーゲンが挙げられる。これらは天然物でも人工的に作製したものでも良く、天然物としては、ヒト、ラット、ウシ、ウサギ、サケ等を含む脊椎動物から抽出されたものを用いることができ、人工的に作製したものとしては、上記生物由来のコラーゲン合成遺伝子、例えばCOL1A1遺伝子やCOL3A1遺伝子などを大腸菌や酵母等の微生物細胞にトランスフェクションし産生させた、或いは大腸菌やコムギ胚芽、加えて培養細胞などの抽出液中の酵素を用いた無細胞系にて産生させたものを用いることができる。コラーゲンはタンパク質として存在する状態でも良いし、複数のコラーゲンが架橋して構成された線維状又はゲル状の構造物であっても良く、例えば上記生物から回収される膠原線維のほか、人工的に架橋操作を行い線維状構造物に成形した状態或いはゲル状構造物に成形した状態であってもよい。更に、これらのタンパク質或いは線維状のコラーゲンはそのまま用いることも出来るし、加水分解や酵素分解等の操作を加えて断片化した状態のものを用いても良く、変性処理を行った状態のものを用いても良い。
【0021】
本発明のニトロ化培養支持基質は、培養支持基質とニトロ化試薬を混合して反応させて作製したものを用いるほか、既にニトロ化された培養支持基質を用いることができる。例えばニトロチロシンやジニトロチロシン、ニトロトリプトファン、ニトロフェニルアラニン、ジニトロフェニルアラニン、ニトロシステイン等を含む培養支持基質は、既にニトロ化された培養支持基質として用いることができる。なお前述の新知見より、光老化部皮膚中に存在する細胞外基質、特にエラスチンは、ニトロ化修飾を受けている可能性が高い。そのため、長期間紫外線を浴びたヒトや動物の光老化皮膚から抽出した培養支持基質、或いはヒトや動物の細胞に紫外線を照射し培養したうえで抽出した培養支持基質を、既にニトロ化された培養支持基質として用いても良い。
【0022】
培養支持基質をニトロ化するために用いるニトロ化試薬としては、公知のものを用いることができ、例えばペルオキシナイトライト等の活性窒素種を直接用いるほか、試験系中に活性窒素種を発生させることができる化合物群を混合して用いても良い。例えば、一酸化窒素とスーパーオキシドアニオンを混合する、又はミエロペルオキシダーゼ(MPO)とNaNO2、過酸化水素等と混合することによる。加えて、ニトロニウムイオンを発生させるテトラニトロメタン(TNM)や硝酸などの試薬等を用いることもできる。このほか、塩化ニトロイルやニトロソペルオキシカルボキシレート、またアジ化ナトリウムおよびカタラーゼ等の試薬を用いることもできる。ニトロ化反応自体は公知の手法を用いることができる。上記試薬の利用により、培養支持基質である細胞外基質タンパク質中に含まれるチロシンやトリプトファン、フェニルアラニン、システイン残基にニトロ基が導入され、ニトロチロシンやジニトロチロシン、ニトロトリプトファン、ニトロフェニルアラニン、ジニトロフェニルアラニン、ニトロシステイン等を含む培養支持基質が形成される。また本発明では、培養支持基質とニトロ化試薬を混合する順番やタイミングは問わず、両者が試験系中で共存するタイミングがあればよい。
【0023】
本発明で用いる線維芽細胞は、ヒト又は動物由来であれば特に制限されず、例えばヒトやサル、マウス等の哺乳類由来の線維芽細胞を好適に用いることができる。線維芽細胞はヒト又は動物組織から単離しても良く、又はすでに単離された市販品を用いても良い。細胞培養培地には、用いる線維芽細胞に適切な培地を選択するのが良く、例えば10%牛胎児血清(FBS)を加えたダルベッコMEM(D-MEM)が挙げられる。
【0024】
本発明の光老化細胞モデルは、ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞をその構造内に含むものであれば良く、例えばニトロ化培養支持基質の基質層表面上に線維芽細胞を備えた構造、或いはニトロ化培養支持基質の基質層中に線維芽細胞が内包された構造を形成するもの等が挙げられる。
【0025】
本発明の光老化細胞モデルは、以下の方法により作製することが出来る。例えば、培養容器内に予めニトロ化培養支持基質の基質層を作製したのち、ニトロ化培養支持基質の基質層上に線維芽細胞を播種し培養する。或いは、ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を予め混合したのちに培養容器に添加し、線維芽細胞を内包するニトロ化培養支持基質を作製しこれを培養する。培養容器には特に制限はないが、細胞培養用プレートやシャーレの他、チャンバースライドやトランスウェル等の支持膜体のあるものを用いることができる。
【0026】
本発明の光老化細胞モデルの製造方法の一態様では、
A)次のいずれかの工程
A)-1 : ニトロ化培養支持基質上に線維芽細胞を播種する工程
A)-2 : ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を混合する工程
B)A)を培養する工程
を含む。
【0027】
ニトロ化培養支持基質の基質層は、培養容器内にニトロ化培養支持基質を添加することで作製できる。例えば、培養支持基質およびニトロ化試薬を混合したものを培養容器に添加して作製するほか、培養容器内で培養支持基質およびニトロ化試薬を混合し反応させて作製しても良い。或いは、培養容器内に既にニトロ化された培養支持基質を添加することで作製することもできる。
【0028】
ニトロ化培養支持基質の基質層上に線維芽細胞を播種する工程では、任意の密度に希釈された線維芽細胞をニトロ化培養支持基質の基質層上に滴下すればよい。線維芽細胞の密度は特に制限がなく、例えば一般的な培養を行う際の播種密度を用いることができる。
【0029】
ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を混合する工程では、任意の密度に希釈された線維芽細胞とニトロ化培養支持基質を混合すればよい。線維芽細胞の密度は特に制限がなく、例えば一般的な培養を行う際の播種密度を用いることができる。
【0030】
培養は、一般的に線維芽細胞を培養する場合と同様に行えば良く、ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を含む構造物をインキュベートし、線維芽細胞をニトロ化培養支持基質に定着させればよい。培養条件も一般的に線維芽細胞を培養する場合と同様で良く、例えば37℃、5%CO2の加湿条件下で数時間から数日間、長い場合には30日間程度である。なお必要に応じて線維芽細胞を継代することもでき、一般的に線維芽細胞を培養する場合と同様に行えば良い。
【0031】
光老化細胞モデルの保存および輸送には、特に制限がない。線維芽細胞が生存できる条件で保存および輸送すればよく、一般的な細胞の保存および輸送条件又は本モデルに用いる線維芽細胞の生存に適した条件であればよい。
【0032】
本発明のスクリーニング方法は、一態様として、
ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を培養する工程、
被験物質又は対照物質を添加し培養する工程
線維芽細胞の細胞活性及び/又は線維芽細胞の遺伝子或いはタンパク質発現量を測定する工程、
被験物質添加群の細胞活性及び/又は遺伝子或いはタンパク質発現量が、対照物質添加群と比較して変化した被験物質を選択する工程、
を含む。
【0033】
ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を培養する工程では、ニトロ化培養支持基質の基質層上に線維芽細胞を播種し培養する、或いはニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を混合したものを培養する。培養容器には特に制限はないが、細胞培養用プレートやシャーレの他、チャンバースライドやトランスウェル等の支持膜体のあるものを用いることができる。
【0034】
本発明のスクリーニング方法で用いる被験物質は、特に制限はない。動植物由来エキス、菌類の培養物、又はこれらの酵素等処理物、化合物又はその誘導体等であっても被検物質として用いることができ、液状の他、気体状、粉末状、ジェル状等であっても差し支えない。
【0035】
被験物質は、ニトロ化培養支持基質と線維芽細胞を含む構造物に任意の濃度および分量を添加することができる。また被験物質添加後の培養条件は一般的に線維芽細胞を培養する場合と同様で良く、例えば37℃、5%CO2の加湿条件下で数時間から数日間、長い場合には30日間程度である。
【0036】
本発明のスクリーニング方法では、線維芽細胞の細胞活性及び/又は遺伝子発現量或いはタンパク質発現量を指標とする。
【0037】
線維芽細胞の細胞活性を指標とする際、特に限定されないが、例えば線維芽細胞の細胞増殖および/又はコラ-ゲンゲルの収縮力を細胞活性の指標として用いることができる。線維芽細胞の細胞増殖を細胞活性の指標とする場合は、例えば、被験物質の存在により、ニトロ化した培養支持基質と培養した線維芽細胞の細胞増殖を、無添加群よりも増加させることができる場合、効果ありと判定することができる。被験物質の無添加に対して好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、線維芽細胞の細胞増殖を増加させる物質を選択すればよい。
【0038】
線維芽細胞のコラ-ゲンゲルの収縮力を細胞活性の指標とする場合は、例えば培養支持基質にはコラーゲンゲルを用い、被験物質の存在により、ニトロ化したコラーゲンゲルと培養した線維芽細胞によるコラーゲンゲル収縮が無添加群よりも増加し、コラーゲンゲルがより収縮した形状にすることができる場合、効果ありと判定することができる。被験物質の無添加に対して、好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上コラーゲンゲルの収縮を増加させる物質を選択すればよい。
【0039】
線維芽細胞の遺伝子発現量或いはタンパク質発現量を指標とする際、特に限定されないが、例えば線維芽細胞が産生する細胞外基質タンパク質、或いは細胞外基質タンパク質架橋酵素、或いは細胞外基質分解酵素、或いは細胞外基質分解酵素の阻害因子、等の遺伝子発現量或いはタンパク質発現量を用いることができる。細胞外基質タンパク質としては、例えば、コラーゲン、トロポエラスチン、フィブリリン、ファイブリン、EMILIN、バーシカン、フィブロネクチン、ラミニン、Podocan、Fibromodulin等が挙げられる。細胞外基質タンパク質架橋酵素としては、リシルオキシダーゼやトランスグルタミナーゼ等が挙げられる。細胞外基質分解酵素としては、例えばマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)、エラスターゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ等が挙げられる。細胞外基質分解酵素の阻害因子としては、例えばTissue inhibitor of metalloproteinase(TIMP)やエラフィン等が挙げられる。
被験物質の存在により、ニトロ化した培養支持基質と培養した線維芽細胞の遺伝子発現量或いはタンパク質発現量を、無添加群よりも増加或いは減少させることができる場合、効果ありと判定することができる。被験物質の無添加に対して好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、線維芽細胞の細胞増殖を増加或いは減少させる物質を選択すればよい。光老化皮膚において発現量の増加が報告されている遺伝子或いはタンパク質は、被験物質の無添加に対して減少させる物質を選択し、光老化皮膚において発現量の減少が報告されている遺伝子或いはタンパク質は、被験物質の無添加に対して増加させる物質を選択すればよい。光老化皮膚において発現量の増加が報告されているものとしては、例えばトロポエラスチン、フィブリリン、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)、エラスターゼ、エラフィン等が挙げられ、光老化皮膚において発現量の減少が報告されているものとしては、例えばコラーゲン、Podocan、Fibromodulin、リシルオキシダーゼ等が挙げられる。
【0040】
線維芽細胞の細胞増殖は、任意の方法で測定することができる。例えば、細胞数を直接カウントする方法、又は細胞核を染色して細胞数をカウントする方法、BrdU等を用いて細胞のDNA合成を測定する方法、WSTやMTT等の代謝還元色素を用いて細胞の代謝活性を測定する方法、ルミノアッセイにて細胞内ATPを測定する方法等、公知の方法を用いて細胞増殖を測定することができる。
【0041】
線維芽細胞によるコラーゲンの収縮は、公知の方法で測定することができる。例えば、線維芽細胞とゲル状コラーゲンの共存によりゲル状コラーゲンが収縮するため、収縮前後のゲル状コラーゲンの体積や表面積を直接或いは画像撮影により計測する、或いは目視によるスコア付けを行うことで、コラーゲンの収縮を評価することが可能である。
【0042】
線維芽細胞の当該遺伝子、或いはそれにより変換されるタンパク質の発現量は任意の方法を用いて測定した結果を用いることができる。例えば、当該遺伝子の配列に特異的に結合する配列を有するDNA断片をプライマーとして用い、アガロース電気泳動やリアルタイムPCR法にて定量的な検出を行うことができる。なお、前述した種々の因子をコードする遺伝子配列はそれぞれ公開されており、当業者は適宜プライマーを設計してPCRに供することができる。そのほか、遺伝子チップ、アレイ等の固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法等の公知の方法を用いて測定することもできる。また、線維芽細胞で産生される当該タンパク質の発現量は、ウエスタンブロッティング法やELISA法、放射免疫測定(Radioimmunoassy)法、免疫染色法、質量分析法等の常法で定量的に測定した結果を用いてもよい。また、当該タンパク質の代謝産物を測定することで、間接的に当該タンパク質量を測定することもできる。
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0044】
<実験1>光老化部および自然老化部皮膚切片中のエラスチンおよびニトロチロシンの局在
以下の手順で、皮膚切片中のエラスチン、ニトロチロシンを検出した。
インフォームドコンセントを得た90代女性から得た光老化部皮膚(露光部、頬部)、自然老化部皮膚(非露光部、臀部)のホルマリン固定パラフィン包埋切片を作製し、一次抗体に抗ニトロチロシン抗体(Stressmarq社)、エラスチン抗体(Abcam社)、二次抗体にAlexaFluor(R)488標識抗マウス抗体(Abcam社)、AlexaFluor(R)594標識抗ウサギ抗体(Abcam社)を用いて免疫染色し、蛍光顕微鏡(キーエンス社)にて蛍光像を観察した(倍率10倍)。
【0045】
図1に示すように、露光部皮膚の真皮では非露光部の真皮よりもニトロチロシンが多く検出され、光老化部皮膚では真皮の細胞外基質にニトロチロシンが存在することが示された。また、露光部皮膚のニトロチロシンはエラスチンとほぼ同じ局在を示しており、光老化部皮膚にはニトロ化エラスチンが存在することが示唆された。
【0046】
<実験2>ニトロ化エラスチン線維上で培養した線維芽細胞の細胞増殖の変化
以下の手順でニトロ化処理したエラスチン線維上で培養した線維芽細胞の細胞増殖得率を測定した。
30φガラスシャーレ(アズワン社)にシリコン支持シート(細胞外基質研究所社)を敷き、その上にエラスチンファイバーシート(細胞外基質研究所社)を重ねた。さらにその上に、中心部を1.2mmの円形状にくり抜いたシリコン支持シートをエラスチンファイバーシートの周囲を押さえるように重ねた。ガラスシャーレに0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)を添加し、EtOHに溶解した10%テトラニトロメタン(TNM)溶液を0.1%の濃度になるよう添加した。室温にて20分間インキュベートした後、尿素水溶液を終濃度2Mになるよう添加し、反応を停止した。溶液を捨て、ガラスシャーレを攪拌しながらシートをPBS(-)にて数回洗浄した。ヒト成人由来真皮線維芽細胞を、10%FBSを加えたD-MEMに懸濁してガラスシャーレに2mLずつ播種し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で5日間培養した。培養終了後に培地を捨て、10%WST-8(Dojindo社)を含む10%FBSを加えたD-MEMをガラスチャーレに2mLずつ分注し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で培地色が変化するまでインキュベートした。培地を96well-plate(TrueLine社)に200μLずつ分注し、マイクロプレートリーダー(TECAN社)にて450nmの吸光度を測定し、数式1に従って細胞増殖を算出した。
【0047】
【0048】
表1に示すように、ニトロ化処理したエラスチンファイバー上で培養した線維芽細胞では、無処理のエラスチンファイバー上で培養したものに対して細胞増殖が大きく減少しており、ニトロ化処理したエラスチンを培養支持基質とする線維芽細胞は、細胞増殖が減少することが確認された。
【0049】
【0050】
<実験3>ニトロ化コラーゲンゲル上で培養した線維芽細胞のコラーゲン収縮作用
以下の手順で、ニトロ化処理したコラーゲンゲル上で培養した線維芽細胞によるコラーゲンの収縮作用を評価した。
CellMatrixI-A(新田ゼラチン社)、10倍濃度のPBS(-)、0.05N NaOHを氷冷し、8:1:1の割合で混合した。これを6well-plate(Corning社)に1.5mLずつ分注し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で30分間静置してコラーゲンゲルを作製した。EtOHに溶解した10%テトラニトロメタン(TNM)溶液をPBS(-)に0.1%の濃度になるよう添加し、6well-plateに2mLずつ分注した。室温にて15分間インキュベートした後、4M尿素水溶液を2mLずつ添加して混合し、反応を停止した。溶液を捨ててPBS(-)を添加したのち、プレートを数時間攪拌した。このPBS(-)による洗浄操作を数回繰り返した。ヒト成人由来真皮線維芽細胞を、10%FBSを加えたD-MEMに懸濁して6well-plateに3.5mLずつ播種し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で1日間培養した。培地を交換したのち、6well-plate中のコラーゲンゲルの外周を注射針でなぞり、コラーゲンゲルと容器の接着を解除した。37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件でさらに5日間培養しコラーゲンゲルを収縮させたのち、カメラでコラーゲンゲルの画像を撮影した。Image J(National Institutes of Health )を用いて画像からコラーゲンゲルの面積を算出し、数式2に従って線維芽細胞によるコラ-ゲン収縮を算出した。
【0051】
【0052】
表2に示すように、ニトロ化処理したコラーゲンゲル上で培養した線維芽細胞では、無処理のコラーゲンゲル上で培養したものに対して、コラーゲンゲルの収縮が減少しており、ニトロ化処理したコラーゲンゲルを培養支持基質とする線維芽細胞は、コラーゲンの収縮を減少させることが確認された。
【0053】
【0054】
<実験4>ニトロ化エラスチン線維上で培養した線維芽細胞の遺伝子発現量の変化
以下の手順で、ニトロ化処理したエラスチン線維上で培養した線維芽細胞の遺伝子発現量を測定した。
30φガラスシャーレにシリコン支持シートを敷き、その上にエラスチンファイバーシートを重ねた。さらにその上に、中心部を1.2mmの円形状にくり抜いたシリコン支持シートをエラスチンファイバーシートの周囲を押さえるように重ねた。0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)を添加し、Peroxynitrite(Dojindo社)を300μMになるよう滴下した。37℃で2日間インキュベートした後、PBS(-)にてエラスチンファイバーシートを数回洗浄した。ヒト成人由来真皮線維芽細胞を、10%FBSを加えたD-MEMに懸濁し、ガラスシャーレに播種し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で5日間培養した。Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience社)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa社)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、細胞外基質を構成するタンパク質であるI型コラーゲン、トロポエラスチン、フィブリリン-1、ファイブリン2、ファイブリン4、ファイブリン5、EMILIN、Versican、およびGAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ;ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を遺伝子特異的プライマー及びPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いてリアルタイムPCR(7500 Real Time PCR System、アプライドバイオシステムズ社)にて測定し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、ニトロ化エラスチンファイバーシート上で培養した線維芽細胞の遺伝子発現量の変化は、無処理のエラスチンファイバーシート上で培養した線維芽細胞のトロポエラスチンのCt値をGAPDHのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0055】
表3に示すように、ニトロ化処理したエラスチンファイバー上で培養した線維芽細胞では、コントロールに対してI型コラーゲン(COL1A1)、フィブリリン-1(Fibrillin-1)、ファイブリン2(Fibulin-2)、ファイブリン4(Fibulin-4)、ファイブリン5(Fibulin-5)の遺伝子発現量にはほぼ変化がなかったが、トロポエラスチン(Tropoelastin)の遺伝子発現量は増加し、EMILIN、Versicanの遺伝子発現量は減少した。
【0056】
【0057】
上記の結果より、光老化部皮膚の真皮にはニトロ化タンパク質が多く含まれており、細胞外基質タンパク質、特にエラスチン線維にニトロ化修飾が生じていることを見出した。加えて、細胞の足場となる細胞外基質タンパク質がニトロ化された際、真皮の線維芽細胞には細胞増殖の低下およびコラーゲンゲル収縮の低下、また細胞外基質タンパク質の遺伝子発現量に変化が生じることを見出した。このような細胞機能の変化は光老化皮膚中の線維芽細胞の特徴と同様であるため、ニトロ化した培養支持基質を用いて線維芽細胞を培養することで光老化皮膚中の線維芽細胞の挙動を模倣できると考えられた。本発明の光老化細胞モデル、および皮膚の硬化および弾力性の低下、それに伴うシワの形成、たるみの形成、ハリの低下といった光老化の兆候を予防又は改善することができる物質を評価及び/又は選択する方法は、上記知見に基づくものである。
【0058】
<実施例1>ニトロ化フィブロネクチン上で線維芽細胞を培養する光老化細胞モデルの作製
ヒト血漿由来フィブロネクチン溶液(FUJIFILM社)をPBS(-)に溶解して10μg/mLの濃度に調製した。6well-plateに1mLずつ分注し、室温で3時間インキュベートした。溶液を除去し、PBS(-)で洗浄した。6well-plateにPBS(-)を2mL分注し、EtOHに溶解した10%テトラニトロメタン(TNM)溶液をPBS(-)に0.1%の濃度になるよう添加した。室温にて10分間インキュベートした後、4M尿素水溶液を2mLずつ添加して混合し、反応を停止した。溶液を捨ててPBS(-)を添加し、プレートを攪拌しながらPBS(-)で数回洗浄した。新生児包皮より単離したヒト真皮線維芽細胞を、10%FBSを加えたD-MEMで2.0×105cells/mLの密度になるよう懸濁した。線維芽細胞を6well-plateに2mLずつ播種し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で一晩培養した。培地を捨て、10%FBSを加えたD-MEMを1mL分注し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で7日間培養した。
【0059】
<実施例2>ニトロ化コラーゲンに線維芽細胞を内包した光老化細胞モデルの作製
CellMatrixI-A(新田ゼラチン社)、10倍濃度のPBS(-)、0.05N NaOHを氷冷し、8:1:1の割合で混合した。これにPeroxynitriteを1mMになるよう滴下し、氷冷下でよく混合した。マウス胎児線維芽細胞を、10%FBSを加えたD-MEMに2.0×105cells/mLの密度になるよう懸濁し、コラーゲン溶液に線維芽細胞懸濁液を1/5量添加し、よく転倒混和した。この細胞懸濁コラーゲンを12well-plateに2mLずつ播種し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で一晩培養し、ゲル状構造物を作製した。
【0060】
<実施例3>細胞増殖促進剤のスクリーニング方法
以下の手順で、ニトロ化エラスチンシート上で培養した線維芽細胞の細胞増殖促進剤のスクリーニングを行った。
<被験物質の調製>
複数の乾燥植物原体にそれぞれ10倍の重量の50%(v/v)エタノール水溶液を加えて室温で1週間抽出した。抽出物の乾燥残分に対して、エタノール、水を重量比で1:50:49となるように加えて希釈したものを被験物質とした。対照物質としては溶媒である50%エタノール溶液を用いた。
<細胞増殖試験>
ブタ由来水溶性エラスチンtype-A溶液(FUJIFILM社)をPBS(-)に溶解して100μg/mLの濃度に調製した。96well-plateに50μLずつ分注し、室温で3時間インキュベートした。溶液を除去し、PBS(-)で洗浄した。96well-plate(TrueLine社)に20mM Sodium acetate水溶液を100μL分注し、1M NaNO2、1mM FeCl3、3%過酸化水素を含む反応液を10μL添加して37℃で1日間インキュベートしたのち、溶液を捨ててPBS(-)で数回洗浄した。ヒト成人真皮線維芽細胞を、10%FBSを加えたD-MEMで5.0×104cells/mLの密度になるよう懸濁した。線維芽細胞を96well-plateに100μLずつ播種し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で1日間培養した。培地を新しいものに置換し、各被験物質又は対照物質を終濃度100ppmになるよう添加し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で3日間培養した。培養終了後に培地を捨て、10%WST-8(Dojindo社)を含む10%FBSを加えたD-MEMを96well-plateに200μLずつ分注し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で培地色が変化するまでインキュベートした。培地を96well-plateに200μLずつ分注し、マイクロプレートリーダー(TECAN社)にて450nmの吸光度を測定し、数式3に従って対照物質添加を100%としたときの各被験物質の細胞増殖(%)を算出し、細胞増殖が105%以上の被験物質を効果成分と判定した。
【0061】
【0062】
被験物質を添加したときの線維芽細胞の細胞増殖が、対照物質を添加したときに対して105%以上であれば、被験物質にはニトロ化エラスチン上で培養した線維芽細胞の増殖促進作用が十分あると判断できる。この方法を用いて線維芽細胞の細胞増殖促進剤を選択することができ、本スクリーニング方法を用いることで、皮膚の硬化抑制剤、皮膚弾力性の低下抑制剤、シワ形成、たるみ形成、ハリ低下の予防改善剤等、光老化を予防又は改善する物質を選択することが可能である。
【0063】
<実施例4>トロポエラスチン遺伝子発現抑制剤のスクリーニング方法
以下の手順で、ニトロ化エラスチンシート上で培養した線維芽細胞のトロポエラスチン遺伝子発現抑制剤のスクリーニングを行った。
<被験物質の調製>
複数の乾燥植物原体にそれぞれ10倍の重量の水を加えて60℃、5時間加熱抽出した。抽出物の乾燥残分に対して水を重量比で1:99となるように加えて希釈したものを被験物質とした。対照物質としては溶媒である水を用いた。
<遺伝子発現量の測定>
24well-plateにシリコン支持シートを敷き、その上にエラスチンファイバーシートを密着させた。0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)を添加し、PeroxynitriteドナーのSIN-1(Dojindo社)を20mM HClで希釈して24well-plateに100μMになるよう滴下した。37℃で3日間インキュベートした後、PBS(-)にてエラスチンファイバーシートを数回洗浄した。ヒト真皮線維芽細胞を、10%FBSを加えたD-MEMに懸濁して24well-plateに播種し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で5日間培養した。培地を新しいものに置換し、各被験物質又は対照物質を終濃度100ppmになるよう添加し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で1日間培養した。Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience社)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa社)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、エラスチンの前駆体タンパク質であるトロポエラスチン、およびGAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ;ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を遺伝子特異的プライマー及びPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いてリアルタイムPCR(7500 Real Time PCR System、アプライドバイオシステムズ社)にて測定し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、被験物質添加によるトロポエラスチン遺伝子発現量の変化は、対照物質添加群のCt値をGAPDHのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。各被験物質添加群のトロポエラスチン遺伝子発現量が対照物質添加群に対して10%以上減少する被験物質を効果成分と判定した。
【0064】
光老化皮膚ではトロポエラスチンの発現量が増加することが知られており、また発明者らが得た知見により、ニトロ化エラスチン上で培養した線維芽細胞ではトロポエラスチンの遺伝子発現量が増加することが確認されているため、被験物質添加によりトロポエラスチンの遺伝子発現量を減少させるものを効果成分として選定した。被験物質を添加したときの線維芽細胞のトロポエラスチン遺伝子発現量が、対照物質を添加したときに対して10%以上減少していれば、被験物質にはニトロ化エラスチン上で培養した線維芽細胞のトロポエラスチン発現量の抑制作用が十分あると判断できる。この方法を用いてトロポエラスチン遺伝子の発現抑制剤を選択することができ、本スクリーニング方法を用いることで、皮膚の硬化抑制剤、皮膚弾力性の低下抑制剤、シワ形成、たるみ形成、ハリ低下の予防改善剤等、光老化を予防又は改善する物質を選択することが可能である。
【0065】
<実施例5>コラーゲン収縮促進剤のスクリーニング方法
以下の手順で、ニトロ化処理したコラーゲン内で培養した線維芽細胞のコラーゲン収縮促進剤のスクリーニングを行った。
<被験物質の調製>
複数の乾燥植物原体にそれぞれ10倍の重量の50%1,3-ブチレングリコールを加えて40℃、3日間抽出した。ろ液を被験物質とし、対照物質としては溶媒である50%1,3-ブチレングリコールを用いた。
<コラーゲン収縮の測定>
CellMatrixI-A(新田ゼラチン社)、10倍濃度のPBS(-)、0.05N NaOHを氷冷し、8:1:1の割合で混合した。これにPeroxynitriteを1mMになるよう滴下し、氷冷下でよく混合した。ヒト成人由来線維芽細胞を、10%FBSを加えたD-MEMに2.0×105cells/mLの密度になるよう懸濁し、コラーゲン溶液に線維芽細胞懸濁液を1/5量添加し、よく転倒混和した。さらに各被験物質又は対照物質を1%の終濃度になるよう添加し、さらに各被験物質又は対照物質を1%の終濃度になるよう添加し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で1日間培養し、ゲル状構造物を作製した。この細胞懸濁コラーゲンを12well-plateに2mLずつ播種し、37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件で一晩培養し、ゲル状構造物を作製した。12well-plate中のコラーゲンゲルの外周を注射針でなぞり、コラーゲンゲルと容器の接着を解除した。37℃、5%CO2/95%空気の加湿条件でさらに3日間培養しコラーゲンゲルを収縮させたのち、カメラでコラーゲンゲルの画像を撮影した。Image J(National Institutes of Health )を用いて画像からコラーゲンゲルの面積を算出し、数式4に従って対照物質添加を100%としたときの各被験物質のコラーゲン収縮(%)を算出し、コラーゲン収縮が105%以上の被験物質を効果成分と判定した。
【0066】
【0067】
被験物質を添加したときのコラーゲンの収縮が、対照物質を添加したときに対して105%以上であれば、被験物質には線維芽細胞によるニトロ化コラーゲンの収縮促進作用が十分あると判断できる。この方法を用いてコラーゲン収縮促進剤を選択することができ、本スクリーニング方法を用いることで、皮膚の硬化抑制剤、皮膚弾力性の低下抑制剤、シワ形成、たるみ形成、ハリ低下の予防改善剤等、光老化を予防又は改善する物質を選択することが可能である。